春香「『天海春香より星井美希の方が可愛い』って」(83)

春香「今朝、電車の中で男子高校生達が言ってた」

美希「ふぅん」

春香「…………」

美希「…………」

春香「ねぇ、美希」

美希「何?」

春香「八つ当たりしていい?」

美希「理不尽なの」

春香「だってくやしいんだもん」

美希「ミキに言われても困るなって思うな」

春香「そりゃあさ、美希は私より美人だしスタイル良いから仕方ないのかもしれないけど」

美希「…………」

春香「…………」

美希「…………」

春香「……否定しないんだ?」

美希「えっ、否定してほしかったの?」

春香「…………」

美希「…………」

春香「つまり美希は、私より自分の方が美人でかつスタイルも良いって思ってるんだ」

美希「えっ、まあ……うん」

春香「……思ってるんだ」

美希「……うん」

春香「…………」

美希「…………」

春香「私ね」

美希「うん」

春香「美希のそういうところ好きだよ」

美希「ありがとうなの」

美希「でもね、ミキ、春香には春香の良さがあるなって思うな」

春香「はいきたー! 自分より明らかにルックスレベルの劣る友達に対する定番の慰めの言葉きたよこれ!」

美希「ミキ帰るの」スッ

春香「帰らないでぇ!」ガッシ

美希「離すの」

春香「悪かった! 悪かったから私を一人にしないで!」

美希「……もう。春香はお姉ちゃんなのに困ったちゃんなの」

春香「えへへぇ」

春香「で? 私の良さってどんなところ?」ハァハァ

美希「駄犬のように息を荒げるのはやめてほしいの」

春香「もう待てないよ……美希……はやくぅ」ハァハァ

美希「流石のミキもちょっと引くかな」

春香「あ、ご、ごめん」

美希「ふふっ。そうやって、すぐ調子に乗る割にすぐ素に戻るところとか」

春香「えっ、あっ……ああ、うん……」

美希「あとね、すごくよく周りを見てるところとかかな」

春香「そ……そうかな?」

美希「皆がわーって盛り上がってるときに、いまいち乗り切れてない人がいたら、すぐその人のところに行って話してあげるとことか」

春香「あー……それはあるかも」

美希「あとはまあ、全体的に面白いの」

春香「雑だね!?」

美希「だって、春香の良さなんて、いちいち言葉にしなくても皆とっくに知ってると思うの」

春香「うーん……そう言ってもらえるのは嬉しいけど」

美希「けど?」

春香「春香さん的には、もっとこう、アイドルとしての良さを皆に分かってもらいたいというか」

美希「アイドルとしての?」

春香「そうだよ。だって私、アイドルだもん」

美希「うーん……アイドルとしての春香か……」

春香「うん」

美希「……芸人枠?」

春香「だからあ!」

美希「違うの?」

春香「違うよ! 私、芸人じゃなくてアイドルだもん!」

美希「うん。だからアイドルの中の芸人枠かなって」

春香「芸人から離れて!」

美希「うーん……でも、アイドルとしての春香から芸人要素を取ったら、あんまり何も残らないの」

春香「それもう私がアイドルじゃなくて芸人そのものだって言ってる? 言ってるよね? よーし歯ァ食いしばれ星井」

美希「こういうノリが芸人っぽいの」

春香「はっ!」

春香「そうか……私はもう根っからの芸人気質なのか……」

美希「でも、そういうところも含めて春香の良さだって思うな」

春香「……アイドルとしての?」

美希「え? あ、ああ……うん。もちろんなの」

春香「美希、さっきから私がアイドルだってこと意識しなさすぎじゃない?」

美希「ごめんなさいなの」

春香「謝られると惨めになるよ! うわああああん!」

美希「よしよしなの」ナデナデ

春香「えへへぇ」

春香「ところで話は変わるんだけど」

美希「はいなの」

春香「この前うちのクラスの男子が、クラス内の女子の人気投票やってたんだけど」

美希「うん」

春香「……私、女子20人中で9位だったの……」

美希「おめでとうなの!」

春香「よーし歯ァ食いしばれ星井」

美希「なんでなの!?」

春香「だっておかしいじゃん! 私仮にもアイドルなんだよ!? 他の19人は一般人なんだよ!? なのに20人中9位て!」

美希「まあ、確かに春香のルックスなら5位以内には入ってもおかしくないの」

春香「…………」

美希「…………」

春香「……ねぇ、美希」

美希「何?」

春香「私、美希のそういうところ好きだよ」

美希「ありがとうなの」

美希「まあでもそれって、単に春香のクラスにアイドル並に可愛い子がいっぱいいたってだけなんじゃないの?」

春香「うーん……まあ確かに、1位のA子はすっごく可愛いしモデル体型だしその上性格も良くて気さくで話しかけやすいし」

美希「…………」

春香「2位のB美は黒髪ロングの似合う美人で背も高くて凛々しい感じで、でも結構抜けてるところもあってそこがまた親しみやすいというか」

美希「…………」

春香「3位のC代はちっちゃいけど元気いっぱいで小動物的な可愛さがあって、でも意外としっかり屋さんで」

美希「…………」

春香「それから4位の――……」

美希「あー……春香?」

春香「?」

美希「ミキ、そういうところも春香の良さなんだって思うよ」

春香「え? 私? 私はまだ出てきてないよ? だって9位だし……」

美希「……ふふっ」

春香「?」

美希「……うん。やっぱり、ミキ的には765プロの顔は春香なんだって思うな」

春香「えぇっ!? な、何なのいきなり……。765プロの、顔?」

美希「うん」

春香「い、いやいや……それを言うなら、どう考えても美希でしょ。私なんかよりずっと可愛いし」

美希「まあ、それはそうなんだけど」

春香「あ、認めた? 認めましたね今? 私より自分の方がずっと可愛いって明確に認めましたね今? ねぇ星井さん?」

美希「もう、今日の春香はめんどくさいの」

春香「ごめんね」

美希「でも、そんな春香も好きだよ」ナデナデ

春香「えへへぇ」

美希「そりゃまあ、単純に可愛さだけで比べたら春香よりミキの方が可愛いって思うけど」

春香「ほーうそれは私に対する宣戦布告と受け取っていいんですね星井さん?」

美希「人の話は最後まで聞きなさいなの」ペチッ

春香「あうっ」

美希「そうじゃなくて、いやそれはそうなんだけど、それでもやっぱり、765プロの顔は春香なの」

春香「えー、そう言われてもなー。私より美希の方がずっとずぅっと可愛いしなー」

美希「すねないの」ペチッ

春香「あうっ」

美希「そうじゃなくて、765プロの真ん中で一番輝くのは春香なの。春香じゃなきゃダメなの」

春香「……私じゃなきゃ……ダメ?」

美希「そうなの」

美希「確かに、春香よりミキの方が可愛いの」

春香「まだ言うかこのやろう」

美希「最後まで」

春香「ごめんなさいなの」

美希「それから、歌も春香より千早さんの方が上手いの」

春香「そ、それについては……はい。仰る通りです」

美希「ダンスも、春香より響や真クンの方が上手なの」

春香「……はい。そうですね」

美希「スタイルも、春香より貴音やあずさの方がボンキュッボンッって感じなの」

春香「そこに自分を加えなかったのは美希なりの優しさだと私は評価するよ」

美希「それでも」

春香「……それでも?」

美希「やっぱり、765プロの真ん中で一番輝くのは春香なの」

春香「えー……」

美希「不満そうだね?」

春香「不満っていうか……説得力ないよ……」

美希「そう?」

春香「そうだよ! だって今の美希の話だと、私が皆に勝ってるところまったくないじゃん!」

美希「そうかな?」

春香「そうだよ! 美希の言う通り、私より美希の方がずっと可愛いし! 歌も千早ちゃんの方が上手いし!」

美希「…………」

春香「ダンスは響や真に勝てないし! スタイルも貴音さんやあずささんに負けてるし!」

美希「…………」

春香「やよいみたいにいつも笑顔で元気いっぱいじゃないし! 雪歩みたいにいざというときに勇気出せるワケでもないし!」

美希「…………」

春香「伊織みたいなリーダーシップもないし! 律子さんみたいにしっかりしてないし!」

美希「…………」

春香「亜美みたいにムードメーカーになれるわけでもないし! 真美みたいにさりげない気遣いとかできないし!」

美希「…………」

春香「……だから、こんな、何のとりえもない私なんかが、765プロの顔って言われても……説得力ないよ」

美希「……ふふっ」

春香「? ……何? 美希」

美希「……だからミキ、最初に言ったの。春香はすごくよく周りを見てる、って」

春香「え……?」

美希「春香は、誰よりもミキ達のことを……765プロの仲間達のことをよく見てるの」

春香「…………」

美希「それは、春香がきっと誰よりも、ミキ達のことが好きだから……だと思うの」

春香「! そ、それは……」

美希「それが春香の良いところなの。ミキ達のこと、誰よりも好きでいてくれるから……だから春香は、765プロの真ん中で一番輝くの」

春香「美希……」

美希「だから春香は、765プロの顔なの! あはっ☆」

春香「……美希……」

美希「……どう? まだ納得できない?」

春香「いや、まあ……そういうことなら……。確かに私、皆のこと、大好きだし……」

美希「……ふふっ。それから、忘れないでほしいんだけど……」

春香「え?」

美希「ミキも、他の皆も……そんな春香のことが、大好きなの!」

春香「! 美希……」

美希「あはっ。春香ったら泣きそうなの」

春香「うっ……こ、これは目にゴミが入ったんです!」

美希「ふふっ。まあそういうことにしといてあげるの」

春香「……まあでも、やっぱり私も、もうちょっと可愛くなりたいかな……美希みたいに、とまでは言わないけどさ」

美希「うーん……ミキ的には、春香は今のままでも十分可愛いって思うな」

春香「そう言ってもらえるのは嬉しいけど……所詮、クラスの中で9番だし……」

美希「うーん……ミキ的には、真ん中より上だから別にいいんじゃないかなって思うな」

春香「むぅ……ちなみに、美希のクラスではそういうのなかったの?」

美希「あったよ」

春香「え、ホント? ど、どうだったの?」

美希「なんかね、結局無効投票になっちゃったの」

春香「えっ、な……なんで?」

美希「クラスの男子が全員ミキに投票しちゃったから、順位が付けられなかったの」

春香「…………」

美希「…………」

春香「よーし歯ァ食いしばれ星井」

美希「理不尽なの!」








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