美希「アイドルって、よくわかんない」 (53)


「まだわかんない事だらけだけど……少しずつで、いいよね?」

「ああ。一つずつやっていこう」

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アイドルってよくわかんない。
テレビや雑誌に載ってるアイドルはみんな可愛くてキラキラしてるのに、
ミキがやるのはよくわかんない事ばっかり!

ね。
アイドルってこんなにヘンなことばっかりなの?
ミキ、よくわかんないの。


「美希。音楽プロデューサーの方が見えたから一緒にご挨拶するぞ」

「えー。なんか最近そればっかりってカンジ……」


アイドルってよくわかんない。
たくさんカメラに写って、いっぱい雑誌にも載って、色んなテレビに出られるのかな、って思ってたのに。
テレビ局やスタジオに行ったら、知らないおじさんにやおばさんに会ってばっかり!

あんまり知らない人と会うの、苦手なんだけどな……。

知らない人にペコペコするのがアイドルなの?
ミキ、よくわかんないの。


アイドルってよくわかんない。
この前はレッスン。今日もレッスン。次もその次も、ずーっとレッスン。
毎回毎回おんなじことばっかり!!

歌とかダンスとかはミキも想像してたし、
表現力とか歌詞とか、やったことないレッスンやるのは楽しいよ。
でもヘトヘトになるまでやるのは想像してなかったの……。

こんなに疲れるのが、アイドルなの?
ミキ、ちょっと予想外ってカンジ……。


「ね。せんせい、どうだった?」

「そうさな……何となく美希がマイペースな訳がわかった気がする」

「ミキの自慢の先生だもん」


ね、先生。
先生はぷかぷかできるようになるまで、どんなことがあったの?

ミキね、今まで先生はラクばっかりでいいなーって思ってたんだ。
でも、今日プロデューサーの人に先生紹介したら、
「先生もラク出来るようになるまで色々あったんだ」って言ってたの。
あんまり考えたことなかったけど、そんな風に考えられるの、ちょっと面白いよね。

ミキは今アイドルやってるけど……トップになるまでにいろいろあるのかなあ。
でも先生もラクできてるし。きっとミキもだいじょぶ!

……だよね?


「お帰り美希。今日もお疲れさん」

「ただいまー。もーヘトヘトなの……」

「でも最後までやり切ったじゃないか。よく頑張ったな」


ミキのアイドルがちょっとだけ変わってきた。
少しずつステージでライブしたり、雑誌に載ったりするようになってきたの。
ファンの人たちとお話しすることも増えてきたよ。

でも、色々気を付けなきゃいけない事もあるみたい。
「来てよかった」とか、「また来たいな」って思ってもらうことが大切なんだって。
あとはちゃんと自分でリズムとれるようにしたり、サインとか書く時はみんな同じように書いたり……
よくわかんないけど、とにかくただ喜んでもらうだけじゃダメなんだって。

でもこんな風にファンの人と触れ合えるのっていいよね。
やってみる前は、あんまり考えたことなかったけど……。
アイドル、思ってたより楽しいかも。


「……なあ、美希。本気でアイドル、やってみないか」

「ホンキ?」

「ああ。美希だったら誰よりも輝く、凄いアイドルになれる!」

「俺も全力でサポートするから。だから―――」


ねえ、プロデューサーさん。
「ミキのホンキ」って、なんなのかな?

今日のお客さんは「一生懸命さが足りない」って言ってたみたいだし、
プロデューサーさんも「本気出せば凄いアイドルになれる」って言うし……。

でも一生懸命になってもホンキ出しても、ミキはミキでしょ?
同じミキなのにそんなこと言われても、あんまりピンとこないよね。

とりあえず次のレッスンはちょっとだけ頑張ってみるね。
けど……同じミキのまま変わるなんて、そんなことありえるのかな?
正直よくわかんないの。


この前インタビューした雑誌が今日発売してた。
この前雑誌のインタビューで「夢」についてこたえたやつ。

みんな見てくれたみたいで学校着くなり色々聞かれちゃった。先生もいたんだよ。
「もうちょっと真面目に答えなさい」とか、「ちょっと意外だな」とか。
でも「星井らしいな」って言う人もいたし。なんかバラバラ?
おまけに告白してくる男子も何時もより多くて、何だかちょっとくたびれちゃった……。

プロデューサーさんが教えてくれた「やさしい彼」、変じゃないと思うのにな。
よくわかんない事をちゃんと答えなさいって言われても、よくわかんないの。


「―――頑張れ美希!あと少し、あと一曲だから!」

「美希ならできる、一緒にやってきた俺が保証する!最後までここで見てるから!!」

「だから―――頑張れ、美希!!立って、やり切って帰ってこい!!!」


今日のミキ、ダメダメだった。
緊張して、全然笑えてなかったし、音程もバラバラだった。
何度も転んじゃったし、全然レッスン通りなんて行かないでボロボロだったのに。
なのにファンのみんなからの声……今まで一番大きかった。
プロデューサーさんも「よく頑張ったな」って、たくさん褒めてくれたの。

いつもはちゃんとやってるのに怒られて、今日はボロボロなのに褒められてる。
なんかヘンだよね。あべこべってカンジ。

……ね、プロデューサーさん。
目を閉じると、今日のライブの景色が浮かんでくるの。
プロデューサーさんの声が聞こえて、たくさんの光がキラキラ踊って、心がふわふわしてる。

この気持ちはなんなのかな。


アイドルがどんどん変わってきた。

いっぱいお仕事が入ってきて、これまでよりも大きなステージやテレビに出られるようになってきたの。
それ自体はイヤじゃなくてイイことなんだけど、ちょっと忙しくて落ち着かない。
1日レッスンだけの日も少なくなって、今じゃ逆にそっちが恋しいってカンジ。

でも、変わってるのはアイドルだけじゃない。

学校だけじゃなくて、色んな場所で声かけられるようになったの。
週末は友達や家族と遊び行ったり買い物行ったりしてたのに、最近全然行けてない。
たまにお出かけしても、帽子とかメガネとかつけてなきゃダメになっちゃった。

ミキの周り、どんどん変わってきてる。
電車の窓から見た景色、一緒になって流れてくみたいに。

このまま流れて行ったら、ミキはどこに行っちゃうのかな。
ミキは……今、どこにいるのかな。


「ね。もしここでアイドル辞めるって言ったら……怒る?」

「怒らないけど……全力で止める」

「どうして?プロデューサーさんのお仕事、なくなるから?」

「……考えたことなかったなそれは。まあ確かにそうなるけど」

「でも美希はまだ、アイドル辞めるべきじゃない。ここで辞めたら……美希も俺も、後悔する気がしてさ」


プロデューサーさん、ごめんね。
今日のステージちゃんとできなくて。
ファンの人たち……あんまり楽しそうじゃなかったよね。
きっとミキのせい。ミキがちゃんとできてなかったから。
何話せばいいのか、とか。どう歌えばいいのか、とか。
やってるうちにわけわかんなくなっちゃって……全部、ぐちゃぐちゃになっちゃった。


今日のステージだけじゃない。
最近色々考えすぎちゃって、なにすればいいのかよくわかんなくなってる。
こんなの変だよね。あれこれ悩むなんて、ミキらしくない。
こういうめんどくさいこと、イヤなことだったはずなのに。

でも、考えないと不安になるの。
ミキがミキのことわかんなくなって、苦しくて、怖いの。


もし……。

もし、ここでアイドルをやめたら、きっとラクになれる。
でもミキ、こんなところでアイドル辞めたくない。

ミキは、どんなアイドルになればいいの?
ミキは、どんな気持ちで、ステージに立てばいいの?

助けてよ。
プロデューサーさん。


「美希、あぶねえ!!」

「えっ―――?」



プロデューサーさん。


どうして―――こんなミキのこと、助けたの。


「正直、自分でもよく分からない。気が付いたら身体が動いてた」

「死んじゃうかもしれなかったんだよ?ミキなんかのために」

「けどここで行かなきゃ美希がいなくなる。それだけは嫌だったんだ」

「だからさ、美希。自分のこと……『こんな』なんて、言わないでくれ」


アイドルってやっぱりよくわかんない。
いっぱい悩んだけど答えなんてまるでわからないし、全然スッキリできないもん。
でも考えないとずっとモヤモヤしたままで……ほんと、おかしいよね。

でも、一つだけ決めたことがある。
必ずトップアイドルになってみせる。どんなことがあっても、絶対に。
中途半端だけはしないから。どんなことだって、全力で頑張るから。

信じてくれた気持ちに応えたいの。
助けてよかったって、そう思ってもらえるように。

だからみてて。プロデューサー。
ミキから、目を離さないで。


「ね、プロデューサー」

「髪が短い女の子って、どう思う?」


「変わったね」「何かあったの?」
最近言われるのはそんな言葉ばっかり。
でも全然変わってないよ。変わったのは髪の毛だけで、中身は前のミキのまま。
変わったって言われてもよくわかんないの。
そんな簡単に変われないもん。

変われるかな。
見た目だけじゃなくてミキの中身も。
一生懸命な女の子に、トップアイドルになれるかな。

ううん。
変わりたいじゃなくて、変わらなきゃ。


「…………ごめん、美希」

「落ちたのは俺の判断ミスだ」


違う。
違うよ、プロデューサー。
落ちたのはミキのせい。ミキの頑張りが足りなかったから。

わかんない。
何で負けたの?何で勝てなかったの?
レッスンだってたくさんやったのに!本番だって、全力でやったのに!!
プロデューサーだって一番助けてくれたのに……!

……ここで誰かのせいにしちゃダメ。落ちたのはミキだもん。
きっと今までテキトーにやってきたのがダメだったんだよね。
ミキがラクしてた間、受かった子はミキよりも頑張ってたはずだから。
もっともっとミキが頑張らなきゃダメだったの。

頑張らなきゃ。
プロデューサーのために。
トップアイドルになるために。


「美希。少し休もう?」

「大分頑張ってくれるのは嬉しいけど、このままじゃ倒れちまうぞ」


やらなきゃ。
やらなきゃ。
ミキには、休んでる暇なんてない。

頑張らなきゃ。
プロデューサーが見てる。


「行ってくるね、プロデューサー」

「ああ。……な、美希」

「なに?」

「一曲目終わったらさ、一回MC挟もう。ステージの上から周りを見て欲しいんだ」

「どうして?ミキ、もうそんなすぐ疲れないよ?」

「そこは心配してないけど……今美希に必要な物が、そこにあると思うんだ」


ね、プロデューサー。アイドルってすごいね。
胸がドキドキして、心がふわふわしてる。

ミキね、今日のステージ頑張らなきゃって思ってた。
今までサボってた分、一生懸命やらなきゃ……って、そればっかり考えてた。

でも、それだけじゃダメなんだよね。
ミキだけが頑張っても、ライブなんてできない。
ファンのみんなとバックの人たち、スタッフさんに……プロデューサーも。
みんなが集まって力を合わせれば、凄いステージが出来るんだね。

だってミキもみんなも、プロデューサーも、こんなにキラキラしてるから!

ミキね、もっとキラキラしたい!
もっとキラキラした世界をみてみたい!

きっとできるよね。
プロデューサーが見てくれるから。


「ね。プロデューサーはそう呼ばれるの、イヤ?」

「呼んでもらえること自体は嬉しいけど……でもいくらなんでも」

「ダメ?」

「う……」

「―――」

「……誰かに聞かれる事の無いようにしてくれよ」

「うんっ!ちゃんとふたりっきりの時だけにするから!」


は、に、い。
はにー。
ハニー!……あはっ☆

口にする度、何だか幸せな気持ちになっちゃう。
プロデューサーさん、プロデューサー。……ハニー。

ミキのこと見てくれて、信じてくれて、大切にしてくれた大好きな人。
初めてだからどうすればいいのかわかんないけど……この気持ちは、きっと本物だから。
ちゃんと伝えたいの。ミキのこころ、あの人に。

………でも。
ハニーと顔合わせたとき、ちゃんとハニーって呼べるかなぁ。
はにー、はにい、ハニー、はにー………。


「――――――」

「ハニー!今日のステージ、どうだった?」

「……正直、見とれてた。言葉が出ないくらい凄いライブだったよ」


ねね、ハニー。
ミキね、アイドル今、すっごく楽しい!
テレビのスタジオや小さなライブハウス、おおきなアリーナ、昼間の野外ライブや夜のフェス。
聞こえる音も大きさも全然違うけど、どのステージもみんなキラキラしてるの!

ステージだけじゃないよ。街とかクラスでミキが載ってる雑誌とか……。
ミキが出てるCMとか、歌が流れたりすると、みんな楽しそうに見てくれるの。

たくさんのキラキラに包まれてて……アイドルって凄いね!
これも全部ハニーのおかげなの!!


「それじゃハニー、いってくるね!」

「………」

「ハニー?」

「え。あ、ああ……ごめん。いってこい、美希」


ね、ハニー。
ミキ、最近ちょっと気になってることがあるの。
色々考えたんだけどわかんなくて……。

どうしてハニーは、そんな辛そうな顔してるの?

もしかして……ううん、きっとミキのせいなんだよね?
ミキ、ハニーのためならたくさん頑張るよ。
どんなレッスンも、どんなステージも、乗り越えてみせる。
そうしてここまでハニーとこれたんだもん。

今度は、ミキがハニーの力になりたいの。
だから……何か悩んでるなら、話してくれると、嬉しいな。


「どうしてミキのプロデューサー辞めちゃうの!?」

「美希は……凄いアイドルになったよ。俺の力なんて必要ない位に」

「それにもうトップアイドルなんだ。このままだと変な噂も立っちまう。だったら―――」

「ウソ」

「え」

「ハニー、嘘ついてるよね。だってその言葉、ハニーのホントじゃないもん」


ハニー。

ミキね、アイドルになって良かったって思ってるよ。
いっぱい考えてたくさん悩んだけど、嬉しい気持ちも、楽しい気持ちも、それ以上にあったから。
たくさんのファンの人たちに出会えて、たくさんのキラキラに出会えたから!


でも、それはハニーが側に居てくれたからだよ。

ミキがテキトーだった時も、ダメダメだった時も、怖かった時も。
ミキのこと信じて、隣で見ていてくれたから。だからここまで来れたの。
ハニーが信じてくれた、トップアイドルに手が届くところまで来たんだよ。

だから―――


『プロデューサーをハニーと呼んでいるのは本当ですか!?』

『公私共々親しい中とお伺いしております、どうか一言!!』

「今は出ない方がいい。ここで待ってるんだ」

「……ねえ、ハニー」

「アイドルは……星井美希は、誰かを好きになっちゃダメなの?」

「―――それは」


だから……もしハニーがミキのこと信じてくれるなら、
これからもミキのこと、信じて欲しいの!
ミキとハニーならだいじょうぶ、どんなことでも乗り越えられるって!

ミキはミキだけど、ハニーがいなきゃ、ミキじゃなくなっちゃう。
ミキだけでもアイドルだけど、ハニーがいるから、星井美希なの。
ファンのみんなだけでも、スタッフの人だけでも、ミキの家族や友達だけでも、事務所のみんなだけでもダメ。
みんないるのが、星井美希だから!!


お願い、ハニー。ハニーの声を聞かせて。
ミキのために、ハニーのホントを隠さないで。


「……ごめん美希。俺が不甲斐ないせいで、こんなことになっちまって」

「正直、どうすればいいのか分からないんだ。このままでいるべきなのか、離れるべきなのか」

「けどここで終わるなんてできない。『星井美希は必ずトップアイドルになれる』、そう信じてここまでやってきたから」

「いや―――俺が必ず、美希をトップアイドルにしてみせる!」

「だから美希。もう一度……俺を信じてついて来て欲しい!!」


―――――――――



―――――――――


「ハニー」

「ん?」

「……実を言うとね、今日のステージ、ちょっと怖いんだ」

「マスコミの人たちいっぱいいたし、ファンの人たちも……どんな顔してるのかなって」

「そっか」

「ね。ハニーは怖くない?その……ミキたちのこれから、とか」

「さあな。わかんないよ」

「えー……。そこは『大丈夫』って言ってくれないの?」

「みたこともやったこともない事に挑むんだ。わかってたまるか」

「折角この前はカッコよかったのに台無しってカンジ……」


「俺だって不安だけど……でも、迷いはないよ」

「そうなの?」

「ああ。美希がいてくれるからな」

「それはミキも同じだよ。ハニーがいてくれるもん」

「あれだけ大見得切ったんだ。カッコ悪かろうがなんだろうが構わない」

「だから美希。何かあったら俺を頼ってくれ。今できる精一杯を美希に返すから」

「うん!だからハニーも、ミキから目を離さないでね?」


「それじゃ、ミキ行くね!」

「ああ。行ってこい、美希!」

「ここで待ってるから!背一杯やって……それで、やりきって戻ってこい!」

「はい!―――いってきます!」


―――――――――



―――――――――


アイドルって、よくわかんない。

ふわふわして、ドキドキして、キラキラしてるすてきなもの。
だけど時々大変で、辛い時も、へとへとになってクタクタになっちゃうもの。

テストみたいに答えもないし、レッスン見たいなお手本もない。
たくさん悩んで考えても、それが正解かどうか、やってみなきゃわからない。
だから……時々、ちょっと怖い。

けど、スポットライトの当たるステージでファンのみんなが待っていてくれるから。
ミキの声に、みんなが応えてくれるから。
たくさんのキラキラが、大きなキラキラになるから。

それから―――


「おかえり、美希!!」

「今日のステージも……最高に、キラキラしてたぞ!」


大切な人が、ミキの背中を支えてくれるから。

大好きな人が、「おかえりなさい」って、ミキを待っててくれるから


だから―――アイドルやっててよかったって、心から思えるの。


きっとわかんないこと、まだまだたくさんあると思う。

楽しいことも、嬉しいことも。大変なことも、辛いことも、いっぱい。

でも一緒ならきっと大丈夫。ずっとキラキラできるから。

そうだよね。ハニー。


おわり

以上でお終いです。ここまでありがとうございました。

たくさん悩んでつまづいて、でもひたむきに頑張る美希が好きです。
アイマスも長い間続いててたくさんお話しが続いているけれど、
これからも二人三脚で頑張る二人を応援したいなーと思います。

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