伊織「卑怯者。意気地なし」 (27)
伊織「ちょっと、プロデューサー! 早くしなさいよ!」
P「ま、まってくれ。っていうかまだ時間はあるだろ?」
伊織「今日は私が主役なんだから私が行かなくちゃ始まらないでしょう!? 早くエスコートしなさい!」
P「わかった、わかったからそう慌てるなって。なぁネクタイ曲がってないか? 髪も寝癖とかなってないか?」
伊織「大丈夫、いつも通りのアホ面よ。大体なんであんたがそんな事気にしてるのよ」
P「いやだって、伊織のお父さんに会うんだろ? 失礼は出来ないじゃないか」
伊織「間違ってはないけど、変な言い方するのはやめなさい!」
P「えぇー……。まあいいか。それじゃあ行くぞ!」
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伊織「って! なんでそんな偉そうなのよ! あんたを待ってたんでしょ!」
P「お、そのフレーズいいな今度何かで使おう」
伊織「はぁ!?」
P「伊織!」
伊織「な、なによ?」
P「改めて、誕生日おめでとう。これ俺から」
伊織「あ、ありがとう……って、なんでこんなタイミングなのよ」
P「ははは、さりげなく渡そうかなって」
伊織「意味わかんない! ほんっと意味わかんないわ。……あけてもいい?」
P「急いでたんじゃないのか?」
伊織「私が主役なんだから、私の好きでいいのよ」
P「なんかさっきと言ってること違うよな?」
伊織「この伊織ちゃんの誕生日に、ダメプロデューサーはこんな小さい紙袋一つで一体何を贈ろうと言うのかしら?」
P「まったく、これじゃ全然さりげなくならないじゃないか」
伊織「これ……指輪?」
P「誇れるほどのセンスはないが、伊織に似合いそうなのを頑張って選んだんだ。素直に受け取って貰えれば嬉しい」
伊織「……あ、ありがとう」
P「だー! こういうのが照れくさくてイヤだったんだ! 行くぞ!」
伊織「ちょっ! なに手握ってるのよ!///」
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伊織「みんなー! じゃなくって、コホン」
伊織「お集まりのみなさま、今日はわたくし水瀬伊織の誕生日パーティーにご出席くださり、ありがとうございます」
パチパチパチパチパチ
伊織「ご存知の方もいらっしゃるかも知れませんが、わたくしは765プロ所属のアイドルとして活動しています」
伊織「今日はお集まりいただいた皆様を、わたくしの歌とパフォーマンスでおもてなししたいと思います」
伊織「それでは聞いて下さい。水瀬伊織で"ロイヤルストレートフラッシュ"!」
PETIT IDOLM@STER Twelve Seasons! Vol.9 水瀬伊織&いお 試聴版
ロイヤルストレートフラッシュ(歌:水瀬伊織)
http://www.youtube.com/watch?v=GBdQijzB2Y4
< 綺麗でしょ♪ みんながメロメロにな〜れ!! 私ロイヤルストレートフラッシュ
P「身内のパーティーでこのレベルのステージイベント。さすが水瀬グループ……」
社長「ハハッ。このホテルも水瀬の傘下だし、パーティーの類もお手の物と言ったところなのだろうね」
P「しかしライブ形式と違ってこういうちょっと落ち着いた雰囲気もいいですね。ディナーショー行けるか……?」
社長「本当に仕事熱心だねキミは」
伊織父「高木さん、Pさん、楽しんでおられますか?」
社長「これはこれは水瀬さん。ええ、とても楽しませていただいておりますよ」
P「水瀬さん! ご無沙汰してます。今日は私までご招待下さり、ありがとうございます」
伊織父「いえいえ礼を言うのはこちらの方です。今歌っている歌だって貴方のプロデュースの賜物です。それに」
P「?」
伊織父「見て下さい伊織があんなに楽しそうに歌っている。親としてこれほど嬉しいことはない」
P「そう言っていただけて、なんというか、ほっと胸をなで下ろすようです」
伊織父「まあ伊織の誕生日パーティーに貴方を呼ばないなど、到底考えられるものではありませんよ」
< 綺麗だよ☆ って言ってよニコニコをア・ゲ・ル かわいいじゃなくて
< 綺麗だよ☆ って言ったらドキドキをア・ゲ・ル キミにロイヤルストレートフラッシュ
伊織父「高木さん。うちの娘可愛いでしょう? あのステージで歌ってる子なんですけどね」
社長「いやいやうちのアイドルだって可愛いですよ? あのステージで歌ってる子なんですけどね」
伊織父・社長「はっはっはっ」
< ありがとうございましたっ!
P「……伊織、綺麗だなぁ……」
伊織父「!!」
P「……ふぉあっ!?」
P「っすみません親御さんの前で……そんなに飲んでないだけどな……」
伊織父「娘を褒められて怒る親なんて居ませんよ。それに今のは本心からの言葉だと受け取ってもよさそうですし」
P「それはもう、嘘偽りのない本心ですよ!」
伊織父「高木さんや伊織からの信頼も厚く有能。どうです、貴方のの力を水瀬で試してみる気はありませんか?」
社長「おっと私の前で堂々と引き抜きの話は困りますなぁ。はっはっはっ」
伊織父「しかし伊織はこの青年を本当に信頼して、いや思いを寄せていると言っても過言ではないのかも知れない」
P「はい!?」
伊織父「伊織も今日で十六、法的には結婚できる年齢と言うことになる」
社長「なるほど」
伊織父「もし貴方にその気があるなら、そういう選択もあるという話ですね」
P「い、いやですよそんな冗談言って……社長もなるほどじゃないですよ……もう困ったなぁハハハ……」
伊織父「こんな事を冗談で言うと思いますか……?」
社長「……」
P「ぐっ……」
伊織父「……」
P「お……俺は"水瀬"とは結婚できません。今日改めて住む世界の違いを思い知った所です。
それに伊織さんはアイドルで私はプロデューサーです。私はそれを誇りに思っています……」
伊織父「……」
社長「……水瀬さん、それ以上うちのスタッフを苛めないで貰えますかな」
伊織父「ははっ、申し訳ない。伊織がよく彼の話をするものだからつい嫉妬してしまいました」
P「……え? はい?」
伊織父「先ほど、"こんな事を冗談で言うと思いますか"と貴方にいいましたね」
P「は、はい」
社長「……言うのだよ、この人は。冗談で」
P「はい。……はい!?」
社長「本当に人が悪い」
伊織父「高木さんだって私が冗談で言っていると解っていて黙っていたのでしょう?」
社長「なんのことですかなぁ」
P「うわ、なんか一気に酔いが覚めましたよ。変な汗も出てきました」
伊織父「ははっそれは申し訳ない。今日は部屋を用意してありますから、存分に飲んで潰れても大丈夫ですよ」
P「あー、もうそうさせていただきます……」
伊織父「それとこれだけは言っておきますが」
P「?」
伊織父「も・し・も、伊織を伴侶にと考えるのであれば、この私を倒してからにしなさい」
P「!?」
伊織父「伊織は誰にもわたさん! では、失礼します。高木さんもまた」
社長「ええ、またゆっくり食事でもしましょう」
P「……えぇーなんなんだ……」
社長「気に入られたんじゃないかね?」
P「水瀬さんにですか? それは光栄ですけど」
社長「それに先ほどの水瀬君のステージを見つめる君の目はプロデューサーのものともファンのものとも、
ましてや保護者のそれとも違ったようだが?」
P「またそういう……。アルコールが入った状態で、アイドルのステージを見るのが初めてだからですよきっと」
社長「ふむ? ならそういう事にしておこうか。くれぐれも変なスキャンダルなんかは勘弁してくれたまえよ」
P「大丈夫ですよ。大丈夫。あー、ワインよりビールが飲みたい……」
社長「週刊誌なんかにはばれないようにしてくれ給え」
P「だから社長!!」
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伊織「ありがとうございましたっ!」
パチパチパチパチパチパチ
新堂「お嬢様、こちらで汗をお拭きください」
伊織「ありがとう、新堂。ふぅー、いつもと場所もスタッフも観客もみんな違うと、こうも緊張するものなのね」
新堂「ご立派でしたよ。お飲み物はどうされますか?」
伊織「オレンジジュース頂戴。パパはプロデューサー達の所に?」
新堂「そのようですね。ステージから見えたのですか?」
伊織「ええ。大きなホールでもないから表情まで解るわよ」
伊織「せっかくだからちょっと挨拶してくるわ」
新堂「かしこまりました」
伊織「あ、そう言えば今日プレゼントに指輪を貰ったのよ」
新堂「ファンの方からでございますか?」
伊織「まぁ、そんなところね」
新堂「愛されておりますなぁ」
伊織「あ、愛!? そうなのかしら?」///
新堂「ええ。お嬢様は誰からも愛される素敵な女性でございます。もちろん私も愛しておりますよ」
伊織「ありがとう。私も新堂が大好きよ。じゃあ行ってくるわね」
新堂「はい。お飲み物はそちらにお持ちします」
伊織(プロデューサーと社長はあっちだったわね。居た居た)
伊織父「こんな事を冗談で言うと思いますか……?」
伊織(なんの話をしてるのかしら?)
伊織父「……」
P「俺は"水瀬"とは結婚できません」
伊織(!?)
P「今日改めて住む世界の違いを思い知った所です。それに……」
伊織(は!? 結婚? 誰と誰が? あ、十六になったら結婚できるんだ……)
伊織(あれ? でも今結婚できないってプロデューサーが、誰と? 水瀬? 私?)
新堂「お嬢様?」
伊織「っ! 新堂……」
新堂「どうか致しましたか。お顔色が優れないようですが……」
伊織「……ちょっと疲れたみたい。悪いんだけど部屋まで案内してくれる?」
新堂「はい、かしこまりました。お医者様をお呼びしますか?」
伊織「それはいいわ。少し休めば落ち着くと思うから」
新堂「左様で。ご無理はされませんように……」
伊織「ええ、ありがとう」
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伊織「ん……」
【01:18】
伊織「大分寝ちゃった……」
伊織「……」
伊織「ちょっと外に出てみようかしら……」
伊織「上着羽織ってきたけど、まだ夜は冷えるわね」
伊織「……誰も居ないわね……」
「伊織?」
伊織「キャ!?」
P「どうしたんだ、こんな時間に」
伊織「あんたこそどうしたのよ」
P「んー、あー、ちょっと思うところあってな。近くのバーで飲んでた」
伊織「へぇ。この伊織ちゃんの誕生日だっていうのに、一人で遊びほうけてたってわけね」
P「そんなつもりじゃないけどな」
伊織「……ねぇ」
P「なんだ?」
伊織「今日の私のステージ、どうだった?」
P「……よかったよ」
伊織「そう」
伊織「私は水瀬伊織。水瀬というそれなりに大きな家に生まれてた、水瀬の一人娘」
伊織「お兄様達と比べられるのがイヤで、水瀬じゃなく私自身を見て欲しくてアイドルになった。
最近はアイドル水瀬伊織としてみて貰えるようにもなってきた」
伊織「それが、何? 一番近くで私を見てきたはずのあんたが私を"水瀬"としてみるの?」
P「あれ、を、聞いて……」
伊織「もう一度聞くわ。今日の私のステージ、どうだった?」
P「……よかったよ」
伊織「今日のステージの私、どうだった?」
P「……綺麗だったよ」
伊織「他に何か言うことはないの?」
P「……」
伊織「あの指輪は、どういうつもり?」
P「……」
伊織「何か言いなさいよ」
P「……」
伊織「私は水瀬伊織。水瀬というそれなりに大きな家に生まれた、水瀬の一人娘」
伊織「お兄様達と比べられるのがイヤで、水瀬じゃなく私自身を見て欲しくてアイドルになった。
最近はアイドル水瀬伊織としてみて貰えるようにもなってきた」
伊織「それが、何? 一番近くで私を見てきたはずのあんたが私を"水瀬"としてみるの?」
P「あれ、を、聞いて……」
伊織「もう一度聞くわ。今日の私のステージ、どうだった?」
P「……よかったよ」
伊織「今日のステージの私、どうだった?」
P「……綺麗だったよ」
伊織「他に何か言うことはないの?」
P「……」
伊織「あの指輪は、どういうつもり?」
P「……」
伊織「何か言いなさいよ」
P「……」
伊織「好き」
P「ッ——」
伊織「って言いなさいよ」
P「……」
伊織「私の事、嫌い?」
P「……そんなことは……」
伊織「私はあんたなんて嫌い。大ッ嫌い」
P「……」
伊織「うそ。私はアナタの事が好き。誰よりも最初に、私の事を伊織としてみてくれた。そう思ったから」
伊織「気付いたら、アナタの側に居たいって思うようになってた」
伊織「アナタから見れば子どもかも知れない。でもいつか、大人になったら、そう思ってた」
伊織「……私が"水瀬"だから? "水瀬"じゃあ大人になってもだめなの?」
伊織「卑怯者。意気地なし」
P「——っ」
伊織「……もう水瀬なんてやだぁぁぁぁぁ」ボロボロ
P「——! ちが、違う! 違うんだ伊織!」
P「ごめん、済まん! 違う! 俺は伊織が、"水瀬伊織"が!」
P「でもやっぱり"水瀬"は大きくて、俺が伊織を好きになって、俺が幸せにしたいって、
でも出来ないかも知れないって、怖くて」
P「ごめん、伊織にそんなこと言わせるつもりは無かったんだ!」
P「遅いかも知れないけど言わせてくれ、俺は伊織が好きだ、愛してる。俺が伊織を幸せにしたい!」
P「都合のいいこと言ってるのは解ってる、でも、泣くのを……」
伊織「……バカ。せっかくの伊織ちゃんの誕生日なのに、なんであんたまで泣いてるのよ」
P「ごめん……」
伊織「絶対許さないんだから。あんたなんて大っ嫌い」
P「ごめん。情けないよな」
伊織「だから、一生をかけて償いなさい。あんたがプロポーズしてきたって簡単に受けてなんてあげないんだから」
P「……ああ」
伊織「だから、"水瀬"のままの伊織ちゃんを全力で愛しなさい。
そしたらいつか、"水瀬じゃない"伊織ちゃんになることもあるかも知れないわ」
P「——!」
伊織「ふんだ、せいぜい頑張りなさい!」
短いですが以上です。
ありがとうございました。
いおりん誕生日おめでとう。
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