ひかげ「ただいまぁ」
一穂「お、ひかげ。帰ってきたか。おかえり。どうだったん?」
ひかげ「まぁまぁかなー」
一穂「そりゃ良かったねぇ」
ひかげ「れんげは?」
一穂「れんげは今遊びに行ってるよ」
ひかげ「ふーん」
れんげ「ただいまなのん」
一穂「噂をすれば、れんちょん。おかえり」
ひかげ「おかえり、れんげー。お姉ちゃんが帰ってきたぞー」
れんげ「……あなた、だれですか?」
ひかげ「はぁ!?」
れんげ「ここは宮内の家なので、どうぞお帰りになってくださいなのん」
ひかげ「いや!私!わたし!ひかげお姉ちゃんだから!!」
れんげ「全然、しらないのん。馴れ馴れしくしないでくださいん」
ひかげ「なんで!?」
れんげ「ねぇねぇ、この人だれなのん?」
一穂「あー……。もうすぐごはんだよー」
れんげ「あい」
ひかげ「ちょっと姉ちゃん!!れんげに何か言ってくれよ!!」
一穂「まぁ、れんげも難しいお年頃だからねぇ」
ひかげ「だからって他人扱いはおかしーじゃん!!」
一穂「そうだねぇ。れんちょん、ひかげ姉ちゃんのこと覚えてないの?」
れんげ「しらないのん。ウチのねぇねぇはねぇねぇだけなん。ひか姉とかしらないん」
ひかげ「ひか姉って言ってるぞ!おい!」
れんげ「あら。あなた、人の心に付け込むのがうまいのん。流行のメンタリストってやつなん?」
ひかげ「そんなんじゃねーよ!ただの姉だよ!!」
れんげ「勝手に血縁にされましてもこまりますん」
ひかげ「勝手に血縁から外されたほうが困るっつーの!」
一穂「はいはい。ケンカはだめだぞぉ。れんげも手を洗ってきな。すぐにごはんだから」
れんげ「あーい」
ひかげ「なんだよぉ。あの態度はぁ」
一穂「複雑なんじゃないかねぇ」
ひかげ「なにが?」
一穂「春から、あんたがいなくなるし」
ひかげ「いなくなるって、上京するだけじゃん」
一穂「だからじゃないかなー」
ひかげ「東京いくだけで他人扱いってなんだ、全く。それより、お腹すいたぁ」
一穂「すぐ用意するからねぇ」
れんげ「……あら」
ひかげ「なに?」
れんげ「ひか姉……ひかげさん、今日はウチで晩御飯たべてくのん?厚かましいのんな」
ひかげ「私の家でもあるっつーの!!実家だよ!!実家!!」
れんげ「何を勝手に生家にしてるん。図々しいにもほどがあるのん」
ひかげ「ガー!!」
一穂「はーい。そこまでー。今日のごはんだぞー。おたべー」
れんげ「わーい。いただきますん」
ひかげ「いただきます」
一穂「はい、どうぞ」
れんげ「今日もねぇねぇのごはんはおいしいのん」
一穂「それはどうも」
ひかげ「ねえ、れんげ。明日、買い物とかいかない?」
れんげ「……何故、ひかね……あなたと?」
ひかげ「いい加減にしろー!!こらぁー!!!」
れんげ「ねぇねぇ、この人こわいのん」
一穂「ひかげ、れんちょん、こわがってるから」
ひかげ「なんで私が注意を受ける側なんだよ!!れんげを注意しろー!!」
一穂「れんちょんもあまりひかげ姉ちゃんをからかわないようにねー」
れんげ「でも、この人とは初対面なのん。加えて、ウチは人見知り激しいのん」
ひかげ「うそつけよ!!めちゃくちゃ人懐っこいだろ!!」
れんげ「……あなたにウチの何がわかるん?」
ひかげ「わかるよ!!れんげの世話とか誰が一番してきたと思ってるんだ!!」
れんげ「駄菓子屋ー」
ひかげ「いや、確かに駄菓子屋もそうだけど……」
一穂「そういえば、昔れんちょんを学校につれていったときも楓に丸投げしたんだっけ?」
れんげ「ほら、いわんこっちゃないん」
ひかげ「あれは先生に言われたからで……。あー、もう、いいよ。一人で買い物いくから」
ひかげ「ごちそうさま!おいしゅうございました!」
一穂「あー、どうも」
ひかげ「ふんっ!」
れんげ「……」
一穂「……れんちょん、急にどうしたぁ?」
れんげ「え?ウチはいつも通りなのん」
一穂「うーん。そうかねぇ。ひかげ姉ちゃんが受験始めたぐらいから、なんか様子がおかしかったようにも思えるけど」
れんげ「ごちそうさまなのん」
一穂「はい、綺麗に食べてくれてありがとね」
れんげ「絵本よんでくるん」
一穂「また自作絵本?」
れんげ「ついに1巻ができのん!」
一穂「そりゃ、すごい。で、ひかげ姉ちゃんのことだけど……」
れんげ「うおぉ!今日、締め切り日なのん!!ねぇねぇ、その話はまた今度なん!!」
一穂「おーい、れんちょーん」
ひかげ(んだよー。れんげのやつー。折角、買い物誘ってやったのにさぁ)
一穂「ひかげ、いるー」
ひかげ「なに?」
一穂「入ってもいいかな?」
ひかげ「……」
一穂「いいともー!」
ひかげ「何もいってないじゃん!?」
一穂「長女特権」
ひかげ「……で、なに?」
一穂「れんげのことだけど、気にしないほうがいいよ。ちょっと拗ねてるだけみたいだし」
ひかげ「えー?なんで?」
一穂「やっぱりね、離れたくはないんだよ」
ひかげ「ホントにぃ?」
一穂「なんたって、自分の姉だしさ。寂しいだけなんだって」
ひかげ「……し、仕方ないなぁ、ちょっとれんげと話してきますか」
ひかげ「れんげー、なにしてるのー?」
れんげ「誰なのん?」
ひかげ「お姉ちゃんだ。何してたの?」
れんげ「他人である貴方に語るようなことはしていませんが」
ひかげ「……暇ならお風呂とか一緒にどう?最近、入ってなかったし」
れんげ「他人に肌を見せるのはダメな女だっていってたのん」
ひかげ「誰が?」
れんげ「なっつんが」
ひかげ「あのやろぉ。れんげに変なことおしえやがってぇ……。って、私とれんげは姉妹だから、肌を見せたって問題ないから」
れんげ「あなたのような姉をもった覚えはありませんが」
ひかげ「こら、れんげ。私が東京にいくのは勉強のためだって何度も説明したっしょ?」
れんげ「このみ姉は家から高校にかよってるん」
ひかげ「それも説明したはずだけど、私の学力に合わせただけで……」
れんげ「とにかくウチは忙しいので、どうぞお帰りくださいなのん。夜道は危険ですので足元に注意してくださいん。おやすみなさいん」
ひかげ「あ、おい」
ひかげ「れんげのやつ、重症なんですけど」
一穂「お風呂も断られちゃったかぁ」
ひかげ「たまには洗ってやろうとおもったのに……」
一穂「仕方ないねぇ。先に入っちゃいな」
ひかげ「そうする。……姉ちゃん?」
一穂「んー?」
ひかげ「れんげのやつ、ずっとあの態度を貫くつもりなのかな?」
一穂「そんなことないって。今だけだよぉ。あの子は頭がいいし、ひかげのことは分かってるはずだから」
ひかげ「なら、いいんだけどさぁ」
一穂「嫌われてはないから」
ひかげ「別にそういうのは気にしてないけど」
一穂「ほら、お風呂はいつでも入れるよ」
ひかげ「一番風呂、いただきまーす」
一穂「よーく、あたたまるんだぞぉ」
ひかげ「はぁーい」
翌日
ひかげ「れんげー。私、買い物いくけどー?一緒にいかなーい?」
れんげ「なにゆえに?」
ひかげ「なにゆえにって、受験で忙しかったから遊べなかったっしょ?だから一緒に買い物どうかなって」
れんげ「ウチ、知らない人にはついていかない主義なのん」
ひかげ「そりゃご立派だ」
れんげ「どうぞ、ひか姉だけで行ってきてくださいん」
ひかげ「……ねえ、れんげ?」
れんげ「なんでしょうか?」
ひかげ「私、3月の中ごろには引っ越すんだけどさ」
れんげ「そりゃめでたい」
ひかげ「あと二ヶ月もないんだし、そういうのはなしでいこうよ」
れんげ「……」
ひかげ「だから、ほら一緒に買い物いこう」
れんげ「断固、おことわりん」
ひかげ「……」
楓「買い物なら電車のれよ。ここで帰るのはしれてるぞ?」
ひかげ「……れんげに嫌われたのん」
楓「昔からあたしにれんげの世話をさせてりゃ、そりゃ懐かれはしないだろ」
ひかげ「世話させてたって語弊があると思うけど!?」
楓「そうかぁ?」
ひかげ「確かに最初は駄菓子屋に頼んだこともあったけど、途中から駄菓子屋がれんげを持ち去ったじゃん」
楓「持ち去ってねえよ。それこそ語弊があるだろ」
ひかげ「駄菓子が私から妹をとったんだ!!責任とれこらぁ!!」
楓「あぁ?やんのか?」
ひかげ「やらないけど」
楓「暫く放っておけばどうだ?」
ひかげ「えぇー?もうすぐ引越しなんだけどなぁ」
楓「まだ時間があるだろ」
ひかげ「まだって私はまだ学校にいかなきゃいけないのに……」
>>29
楓「買い物なら電車のれよ。ここで帰るのはしれてるぞ?」→楓「買い物なら電車のれよ。ここで買えるのはしれてるぞ?」
楓「もう登校もしなくていいだろ?」
ひかげ「確かに行ってもあまり意味はないけどさ」
楓「れんげと遊ぶっていう理由なら先輩も休ませてくれるだろ」
ひかげ「それでいくか」
楓「マジでする気か」
卓「……」
楓「いらっしゃい」
ひかげ「そろそろ行く」
楓「どこ行くんだ?」
ひかげ「買い物。家にいても仕方ないし」
楓「小鞠や夏海はいいのか?」
ひかげ「あー、そっちにも顔出しとくか」
楓「しっかり別れの挨拶はしとけよ」
ひかげ「まだ顔合わせるし、帰ってこようと思えば週末にいつでも帰ってこれるし」
楓「金もったいないだろ、それ」
ひかげ「ういーっす」
小鞠「ひか姉、いらっしゃい」
夏海「おー、ひか姉じゃん。家を見に東京まで行ってたんでしょー?どうだったの?」
ひかげ「ききたい?」
夏海「うん!」
ひかげ「いやー。東京の家はいいよー。一つの家に沢山人が住んでるしねー」
夏海「流石、東京!」
ひかげ「しかも、駅もコンビニも病院も歩いていける距離にあるしー。いやー。住むならマジ東京だわ」
小鞠「やっぱり便利そうだねー」
ひかげ「まぁね。バスも5分おきにきちゃうし」
夏海「すげー!!」
小鞠「ひか姉、よかったね。ずっと東京で暮らしたいっていってたし」
ひかげ「小鞠も東京に興味あるならこいよ。お姉さんが世話してあげてもいいよ」
小鞠「東京にいけば、私もすぐに大人になれるかな?」
ひかげ「一日いればヨユーだね」
小鞠「一日で!?」
ひかげ「そのためには勉強をしっかりやらないといけないけどね」
小鞠「勉強かぁ……。英語がちょっと苦手だからなぁ」
ひかげ「あー、英語は必要だね。東京なんて外人だらけだし」
夏海「そうなん!?」
ひかげ「コンビニの店員も外国の人だから、英語できないと消しゴムすら買えないね」
夏海「なんだってー!!東京こえー!!!」
小鞠「マジ!?だったら、英語がんばらないと……」
ひかげ「ま、しっかりやりなよ」
小鞠「がんばろう!!」
夏海「あー、ウチはもう東京に興味なくなりましたけどね」
小鞠「勉強しろよ。中1になったら英語あるんだし」
夏海「べんきょうなんてしたくないしー。ウチ、ここの生活きにいってるしー」
ひかげ「そうだ。二人とも暇なら今から一緒に買い物でもどう?」
夏海「あー、ごめん。今日は用事があるから無理。また誘ってよ」
ひかげ「あーそーぼー」
このみ「ひかげちゃん、いらっしゃい。どうしたの?」
ひかげ「今、遊ぼうっていったじゃん」
このみ「んー。今、両親いなくて、お留守番してるから家の中でならいいよ」
ひかげ「家かぁ……」
このみ「なに、どこかに行きたかったの?」
ひかげ「ちょっと街まで行こうかなって」
このみ「お土産よろしくー」
ひかげ「いや、なんでだよ!東京土産は渡しただろ!?」
このみ「あれ、そうだっけ?」
ひかげ「大体、私は遊びにいったんじゃないんだけどなぁ」
このみ「で、どうする?あがる?」
ひかげ「……うん」
このみ「今、お茶いれるね」
ひかげ「おじゃましまーす」
このみ「それで、なにかあった?」
ひかげ「え?」
このみ「長い付き合いなんだし、ひかげちゃんの顔を見ただけで喜んでるのか悩んでるのはかわかるよ」
ひかげ「まぁ、みんなに悉く断れてちょっとショックは受けてるかな」
このみ「それだけー?」
ひかげ「……れんげがさぁ、私のこと嫌いになったみたいで」
このみ「またまたー」
ひかげ「ホントだって。昨日だって他人扱いされたし、今朝も一緒に買い物いこうって行っても断固おことわりんとか言われちゃったし」
このみ「れんげちゃんらしいね」
ひかげ「早めの反抗期かなぁ……」
このみ「早すぎるよ」
ひかげ「確かにさぁ、駄菓子屋が世話を焼いてくれたおかげで、れんげは私や姉ちゃんよりも駄菓子屋に懐いてるけど、用事もないのに私の誘いを断るようなことはなかったのに」
このみ「用事があったんじゃないの?」
ひかげ「ないって。朝からずっと縁側で寝転がってたし」
このみ「そうなんだ……」
ひかげ「もうすぐ引越しなのにさぁ……」
このみ「一穂さんには言ってみたの?」
ひかげ「姉ちゃんは気にするの一点張り。そんなこと言われても気になるっつーの」
このみ「ひかげちゃんが東京に行っちゃうから拗ねてるんじゃないの?」
ひかげ「姉ちゃんもそれは言ってたけどさぁ。本当に拗ねてるだけなら私の誘いを断ったりする?」
このみ「するんじゃない?」
ひかげ「はぁー?意味わっかんねぇ」
このみ「一緒にはいたくなんだよ」
ひかげ「だから、私は嫌われて……」
このみ「れんげちゃんはわかってるんじゃない?一緒にいるとお別れするときに辛くなるって」
ひかげ「……でも、すぐに帰ってこれるし」
このみ「電話で呼べば1時間以内に戻ってこれるの?」
ひかげ「それは無理だけど……週末とかには……」
このみ「毎週、戻ってくるの?」
ひかげ「そんなことは、できないけどさ……夏休みとか連休には……」
このみ「ほら、いつでも会えない」
ひかげ「でもさぁ、受験前っつーか、中2ぐらいのときから言ってたし。お姉ちゃんは東京にいくからねって。れんげもわかってるのんって言ってくれたんだけど」
このみ「ひかげちゃんが受験のために東京へ行ったり、家を見に行ったりするうちに実感が湧いてきたんだよ」
ひかげ「今更そんなこといわれても、困るなぁ」
このみ「今更もなにも、れんげちゃんはそうなの」
ひかげ「……私はどうしたらいい?」
このみ「そうだね。私がれんげちゃんの立場なら、出来るだけ構って欲しいかな」
ひかげ「それって無理にでも傍にいればいいってこと?」
このみ「まぁ、そうしてほしくないかられんげちゃんはひかげちゃんを拒絶してるんだろうけどね」
ひかげ「じゃあ、どうすりゃいいんだー!!」
このみ「ああ、ひかげちゃん」
ひかげ「私は受験が終わったら妹と遊びまくるつもりだったのにー!!!」
このみ「私の前で駄々捏ねられても……。あ、そうだ。それをれんげちゃんの前で言ってみたら?哀れに思って遊んでくれるかも」
ひかげ「妹の前でこんなかっこわるいことできるかぁー!!!ってか、哀れに思われたくもねーよ!!!」
このみ「だよねー」
ひかげ「あぁー……。かえろ」
このみ「帰るの?」
ひかげ「れんげともう少し話してみる」
このみ「それが一番かもね」
ひかげ「れんげもめんどくさいな……」
このみ「それだけれんげちゃんはひかげちゃんのことが好きなんだって」
ひかげ「そう……かなぁ……」
このみ「そうそう」
ひかげ「お茶、ごちそうさま」
このみ「いえいえ。ところでひかげちゃん、いつここを離れるの?」
ひかげ「3月中旬には引っ越す。向こうでもいろいろと手続きしなきゃいけなくてさ」
このみ「そっか、引越しも大変だね」
ひかげ「ホントに」
このみ「だけど、ひかげちゃんの夢だったもんね。都会で暮らすの」
ひかげ「うん……そうなんだけどさ……」
ひかげ「――ただいまぁ」
れんげ「おかえ……だれですか?」
ひかげ「もう、おかえりって言えよ」
れんげ「知らない人におかえりはおかしいのん」
ひかげ「飽くまでも私を他人扱いか」
れんげ「あなたとは血の繋がりとかないのん」
ひかげ「それなら私もれんげのことはもう妹とは思わない」
れんげ「……」
ひかげ「誰だよ、おめー?家から出て行けよ。お前みたいな妹、知らないんですけどー?」
れんげ「……」
ひかげ(ふふふ、押してだめなら引いてみろってね)
れんげ「……はい。でていきますん」
ひかげ「え!?」
れんげ「今日もいい天気なのん」
ひかげ「手ごわい……」
一穂「ただいまー。れんちょん、お留守番ありがとねぇ」
ひかげ「おかえりー」
一穂「あらあら、どちらさまですか?」
ひかげ「私だよ!!!ひかげですよ!!ひかげ!!!」
一穂「分かってるって。冗談だよ、冗談」
ひかげ「もう……姉ちゃんまで……」
一穂「買い物に行ったんじゃなかったの?」
ひかげ「電車が土砂崩れの影響で動いてなかった」
一穂「あらまぁ。それは大変だ。で、れんちょんは?」
ひかげ「さぁね。出て行った」
一穂「ひかげ、れんげのことわかってあげなよ」
ひかげ「私は分かってるって。れんげが強情なだけだし」
一穂「それはそうだねぇ」
ひかげ「もーれんげのことなんてしらねー」
一穂「そうかい」
ひかげ「すぅ……すぅ……れんげのばかやろぉ……」
一穂「ひかげ、ちょっと」
ひかげ「ん……?なにぃ?」
一穂「れんちょん、どこいったの?」
ひかげ「だから知らないって」
一穂「それは困ったね」
ひかげ「何が?」
一穂「もう夕方だけど、れんちょん帰ってこなくて」
ひかげ「越谷家か駄菓子屋のとこでしょ?」
一穂「いないみたいで」
ひかげ「え……。だ、だったら、その辺あるいてるんじゃないの?」
一穂「だといいんだけど……。もう5時過ぎてるしね……」
ひかげ「……ちょっと行ってくる」
一穂「私も車で探してみるよ」
ひかげ「うん」
楓「あー。ひまだなぁ」
ひかげ「駄菓子屋!!」
楓「おう。どうした?」
ひかげ「れんげはどこ!?」
楓「れんげ?一穂先輩にも言ったけど、こっちには来てないぞ?」
ひかげ「一度も!?」
楓「来てない」
ひかげ「……」
楓「なんだよ?」
ひかげ「れんげがいなくなったんだけど?」
楓「それは聞いた」
ひかげ「……ちょっと中を見せてもらうけど、いいよね」
楓「勝手にしろ」
ひかげ「おじゃまします!!れんげー!!でてこーい!!!おらぁ!!門限すぎてるぞー!!!」
楓「……なんで、バレたんだ?」
ひかげ「れんげぇー!!」
れんげ「ダレなのん?ウチは駄菓子屋の妹になったのん」
ひかげ「こっちこい!!こらぁ!!」
れんげ「だがしやー!たすけてなのーん!!」
ひかげ「手出し無用だからな!!」
楓「なんでここに居るってわかったんだよ?」
ひかげ「駄菓子屋が探してない時点でおかしいし、れんげが来るとしたらここぐらいしかないからね」
楓「そうか。れんげのことよくわかってんだな」
ひかげ「だって、私の妹だし」
れんげ「ウチは駄菓子屋の妹なのん!!ひか姉なんてしらない人なのん!!」
ひかげ「……」
れんげ「うぅー……!!」
ひかげ「わかった。もういいよ」
れんげ「え?」
ひかげ「駄菓子屋の妹になれば?もう疲れちゃったよ、あんたの相手するの」
れんげ「の、のぞむところなのん!!」
ひかげ「もうしらねー。駄菓子屋、面倒な妹だけどよくしてやって。って、もう結構前から妹みたいなもんだし、いいよね」
楓「おい、ひかげ。そういうのは冗談でも言うなよ」
ひかげ「冗談じゃないってば。ここまでされて腹が立たないわけないじゃん」
れんげ「……」
楓「でも……」
ひかげ「私は帰るから。あとのこと、よろしく」
楓「おいおい……。あたしを巻き込むなよ。姉妹ケンカに」
ひかげ「はぁ?れんげなんて私の妹じゃないし」
れんげ「も、もちろんなのん」
ひかげ「これですっきりしたね。私も心置きなく東京にいけるわー」
れんげ「……」
一穂「おー。やっぱりここにいたかー。さー、二人とも、かえろぉ。あったかいごはんが待ってるぞぉ」
ひかげ「姉ちゃん、れんげはここに残るってさ。駄菓子屋の妹になったみたいだから、私たちだけで帰ろうよ」
一穂「え?いやいや、ウチの可愛い妹なのに置いていけるわけ……」
ひかげ「れんげは駄菓子屋の妹になったんだもんな?」
一穂「れんちょん、そうなん?」
れんげ「そ、そうですが、なにか?」
ひかげ「ほらね。姉ちゃん、もう置いていこう。こんなやつ」
一穂「ひかげ……」
楓「れんげ、謝っとけ」
れんげ「あ……」
ひかげ「れんげなんて知らない」
れんげ「ひ……ひか姉なんて!!知らないのん!!!」
楓「おい!れんげ!!」
一穂「ひかげ。今のはちょっといただけないかなぁ」
ひかげ「もういいじゃん。れんげだって私と一緒にはいたくないみたいだし」
楓「本気で言ってないだろ?」
ひかげ「言ってるし!!ちょーホンキだし!!マジだし!!!れんげなんてマジしらねー妹だし!!!」
楓「目が泳いでるぞ?つか、知らない妹ってなんだよ?」
一穂「楓、れんちょんのこと少しの間頼める?」
楓「こういうことは早めに解決したほうがいいですよ」
一穂「ひかげもれんげも頭冷やす時間がいるから」
楓「それは同感ですね。とりあえず、れんげは預かります」
一穂「いやぁ、ほんとすまんねぇ」
楓「気にしないでください」
ひかげ「姉ちゃん、はやく」
楓「おい、ひかげ」
ひかげ「なに?」
楓「今のでれんげも引くに引けなくなったんだ。姉としてどうしてやるかは、わかってるだろうな?」
ひかげ「れんげが頭下げてくるまで、一緒に遊んでなんてやらねー」
楓「……いつでもこいよ」
ひかげ「もう一生こないね。私、もうすぐ東京デビューしちゃうし!インディーズレベルで!!」
楓「意味わかんねえよ」
一穂「楓、よろしくね」
れんげ「……かえったのん?」
楓「ああ。帰った」
れんげ「ふぅー。危ないところだったのん。これでウチは晴れて駄菓子屋の妹になったのんなー」
楓「れんげ?」
れんげ「なんなのん?」
楓「あたしはさ、確かにお前の世話をしたことがある。ミルクだって飲ませたし、遊び相手もしてやった。お前は覚えてないかもしれないけど、オムツだって替えた」
れんげ「……」
楓「でも、そんなのひかげに比べればたいした時間じゃない。あいつはお前の親が畑仕事に出るたびに、ずっとお前の相手をしてたんだぞ」
れんげ「駄菓子屋に頼んだこともあるのん」
楓「それでもだ。私なんかより、ひかげのほうが何十倍もお前の世話をしてる。一穂先輩は大学に行っていて、たまにしか帰ってこなかったからな」
れんげ「それぐらいしってるん。お母さんからきいてるのん」
楓「寂しかったと思うぞ」
れんげ「え……」
楓「ひかげだって、一穂先輩がいない間は寂しかったはずだ。ま、れんげの前は勿論、あたしの前で弱音を吐いたことは一度もなかったから、実際はどうだったかわかんねえけどな」
れんげ「そ、そんなの、しらないん」
ひかげ「あぁー、マジだりぃー」
一穂「なにか飲む?」
ひかげ「いらねー」
一穂「そうかい」
ひかげ「……姉ちゃん、私間違ってないっしょ?」
一穂「そう思うんなら、そこで寝転がってなよ」
ひかげ「そうするつもりだったけど」
一穂「ひかげは私が大学に行ってる間、寂しかった?」
ひかげ「……」
一穂「れんちょんはいないし、腹を割って話そう」
ひかげ「……寂しかったよ」
一穂「そう。ごめんねぇ。ひかげには苦労かけたよね」
ひかげ「母さんも父さんも姉ちゃんもいないときなんて……どうしたらいいのか……わかんなかったし……」
一穂「でも、れんちょんのことは見守ってくれてたもんねぇ。ありがとねぇ」
ひかげ「大事な妹を……放っておくなんてできるわけないし……」
一穂「一番甘えたかったのは、ひかげのはずなのにね」
ひかげ「姉ちゃん……」
一穂「おいで」
ひかげ「いいよ……はずかしい……」
一穂「誰も見てないよ」
ひかげ「……」
一穂「やれなかったこと、今やっといてあげる。もうすぐここを離れちゃうんだし」
ひかげ「いや、マジでいいから……」
一穂「遠慮すんなぁ」ギュッ
ひかげ「ねえ……ちゃん……」
一穂「れんちょんのこと、今まで守ってくれてありがとう。これからは自由にしていいよ」
ひかげ「うっ……くっ……」
一穂「やりたいことやっておいで。誰にも文句なんていわせない。何かあっても姉ちゃんが守ってあげる」
ひかげ「うぅ……ねえちゃぁん……うぅぅ……わぁぁん……」
一穂「えらいね。ひかげはホントにいい子だよ」
一穂「よーしよし、ひかげはいい子だねー」
ひかげ「も、もういいから……」
一穂「あら、もういいの?照れなくてもいいのに」
ひかげ「もういいから!!マジで!!」
一穂「そうかい。残念だねぇ」
ひかげ「……れんげを迎えに行ってくる」
一穂「一緒に行こうか?外、暗いし」
ひかげ「いや、いいよ。私だけで」
一穂「でも、ひかげも大事な妹だしねぇ、万が一のことがあったら大変だし」
ひかげ「このみでも誘っていくから」
一穂「それならいいか。れんげのこと頼むよ」
ひかげ「うん。ホント、れんげは私が見てないとダメだからなー」
一穂「そうだね。ごはん、一緒にたべるぞぉ」
ひかげ「当然。もうすぐ揃って食べられる機会も減るんだし」
一穂「うんうん。そのとおりだ」
楓「何か飲むか?」
れんげ「……いらないん」
楓「どうした?元気ねえな」
れんげ「ひか姉はウチみたいなこと、なかったのん?」
楓「なかったな。年齢が違う所為もあっただろうけど」
れんげ「……ひか姉に酷いことしてたのん」
楓「……」
れんげ「ひか姉、ねぇねぇがいなくてもウチのこと見ててくれてたのん……」
楓「そうだな。それは間違いない」
れんげ「ウチ……サイテーなん……」
楓「そうかもな」
れんげ「ひか姉、絶対にゆるしてくれなのん……もう、ウチのこときらいに……」
楓「それは本人に聞けばいいんじゃないか?」
れんげ「え……?」
ひかげ「お、おい、いつまでいるつもりだよ、全く。早く来い。帰るぞ、れんげ」
れんげ「ひ、ひか姉……」
楓「もういいのか?」
ひかげ「悪かったね、駄菓子屋。こんなつまんないことに巻き込んじゃって」
楓「別に。れんげはお前と違っていい子だからな」
ひかげ「なんだとー!?」
このみ「まぁまぁ、ひかげちゃん。れんげちゃん、一緒に帰ろう」
れんげ「で、でも……ウチ……」
ひかげ「なにやってんだよぉ。こいっ」グイッ
れんげ「あ……あ……」
ひかげ「れんげは私がいないと、ほんとダメだなー。うん」
れんげ「ひか姉……」
このみ「れんげちゃんのこと、ありがとう」
楓「二人のこと頼むぞ」
このみ「私は本当に付き添いだから。なにもしないよー」
楓「それはそれで不安だな」
ひかげ「……」ギュッ
れんげ「……」
このみ「今日も星がきれいだねー」
ひかげ「……」
れんげ「あの……ひか姉……」
ひかげ「なに?」
れんげ「ごめんなさいん……」
ひかげ「……」
れんげ「ウチ……ひか姉……の、こと……なにも……しらなくて……ごめん、なさいん……」
ひかげ「……もういい」
れんげ「ごめん……な、さいん……ごめん……」
ひかげ「もういいから、泣くなよ。鬱陶しい」
れんげ「ごめ……な……さい……」
このみ「ひかげちゃん、酷いこといわないの。れんげちゃんも反省してるでしょ?」
ひかげ「だから、もういいっていってるんだけど?」
れんげ「うぐっ……」
ひかげ「れんげ、明日暇?」
れんげ「……あい」
ひかげ「一緒に遊ぶない?」
れんげ「一緒……に……?」
ひかげ「嫌なの?」
れんげ「あ、あそびたいん」
ひかげ「そっか。受験で遊べなかった分を取り戻すから覚悟しとけよ」
れんげ「あい!!」
ひかげ「まずは何からしようかなー」
れんげ「ひか姉、あれ、あれを教えて欲しいのん!!」
ひかげ「あれってなにさ?」
れんげ「こう、指でぴーってするのん!!」
ひかげ「あぁー。あれねー。いいよー。叩き込んでやる」
このみ「ふふっ……」
一穂「おかえりぃ」
れんげ「ねぇねぇ……」
一穂「ごはん、できてるよぉ」
れんげ「あい」
ひかげ「このみ、ありがとう。付き添ってくれて」
このみ「あれぐらいはねぇ。いつでも……って、ひかげちゃんはもう一人で大丈夫か」
ひかげ「まぁね」
このみ「れんげちゃんと仲良くね」
ひかげ「わかってるって」
このみ「それじゃ、おやすみ」
ひかげ「おやすみー」
れんげ「ひか姉、ひか姉。一緒にたべるん」
ひかげ「あぁ?お前、どこの家の妹だよ?」
れんげ「宮内ひかげの妹ですが!!なにか!?」
ひかげ「大正解だ、このやろー!!」
翌日
れんげ「すひぃー……すひぃー…」
ひかげ「全然、できてないなぁ。こうするんだって」
れんげ「どうするん!?」
ひかげ「ふっ」ピィィィ!!!
れんげ「すごいん!!ひか姉の指笛、いい音なん!!」
ひかげ「もう一回、やれってみろ」
れんげ「あい!!すひぃー……!!すひぃー……!!」
ひかげ「あー、才能ないな」
れんげ「なんですと!?」
ひかげ「いいか?こうして……」
れんげ「こうなのん?」
一穂「まだ指笛の練習してたのか。飽きないねぇ」
れんげ「ウチ、指笛マスターするん!!!」
ひかげ「私が東京に行くまでに極めたいってうるさいんだよねぇ」
別の日
ひかげ「れんげー、今日も練習するかー?」
れんげ「するんするん!!」
ひかげ「仕方ないなぁ」
一穂「ひかげー」
ひかげ「あ、ちょっと待ってて」
れんげ「あい。練習しとくのん!」
ひかげ「なに?」
一穂「これ、東京の学校から色々届いてるよ」
ひかげ「書類かぁ……」
一穂「今のうちにやっときな。郵送しなきゃいけないのもあるみたいだし」
ひかげ「あ、ああ……うん……」
れんげ「ひか姉!ひか姉!ちょっと鳴ったのん!!」
ひかげ「またまたー。じゃあ、やってみなよ」
れんげ「いくのん!!すひぃー……!!すひぃー……!!あら、おかしいのん」
ひかげ「……」
一穂「あら、どうしたの?まだ書類かいてないの?」
ひかげ「姉ちゃん……あの、かわりに……」
一穂「これぐらい自分で書かないと、この先苦労するよぉ?」
ひかげ「わかってるんだけどさぁ……」
一穂「郵送したら完璧に入学ってことだもんね」
ひかげ「……」
一穂「今更、地元の高校にいく気もないくせに、はよかけー」
ひかげ「……れんげ、指笛少しうまくなったんだよね」
一穂「それで?」
ひかげ「でも、きちんと鳴るまでは時間が……」
一穂「あんたのしたいことは、れんちょんに指笛教えることじゃないだろぉ」
ひかげ「うん……。なんか、やっと実感が湧いてきたよ。私、この家から出て行くんだって」
一穂「おそっ。れんちょんでももう少し早くそれぐらいはわかってたのに?」
ひかげ「そ、そんなこと言われなくてもわかってるって!!」
一穂「れんちょんのことは心配すんな。ウチがいるし、夏海と兄ちゃんだっている。少し頼りないけどこまちゃんもれんげのことは見てくれるよぉ」
ひかげ「書くか」
一穂「はよかけー」
ひかげ「かくって!!うっさいなぁ!!!」
一穂「ねえ、ひかげ?」
ひかげ「んー?」
一穂「ウチがいくなって行ったら、どうする?」
ひかげ「止められたら、この書類破るかもね」
一穂「あっはっはっは。そっか。なら、言わないでおこうかな」
ひかげ「姉ちゃん……」
一穂「私だってねぇ、離れたくはないよ。だからこうして、もどってきちゃったわけだしさ」
ひかげ「そうだったんだ」
一穂「ずっと一緒にいれるわけないのにね。ウチが一番甘えたがりだよ」
ひかげ「抱きしめてあげようか?」
一穂「一晩中離さない自信があるけど、いいのかね?」
ひかげ「それは困るなー。姉ちゃん、一度寝たら起きないし、いつまでが一晩なのかわからないじゃん」
一穂「そうだねぇー」
ひかげ「そうだよ」
一穂「……もう寝ようかな」
ひかげ「おう、寝ろ寝ろー」
一穂「ひかげっ」ギュッ
ひかげ「なにー?もー」
一穂「がんばって」
ひかげ「……ありがとう」
一穂「よし!これでウチはもう大丈夫だ!」
ひかげ「姉ちゃんは先生なんだから、夏海たちのこと守ってあげてよね」
一穂「まかせとけぇ。かず姉はみんなのお姉さんだからねぇ」
ひかげ「すごく不安だけど」
一穂「そういうなって。私も不安なんだから」
ひかげ「姉ちゃんが不安がってどうするんだよ!!しっかりしろよ!!」
別の日
れんげ「すひぃー!!すひぃー!!」
ひかげ「……鳴らないなぁ」
れんげ「たまになるのん!!」
ひかげ「じゃ、鳴らせてみろって」
れんげ「ならすのん!!!すひぃー!!!ぴぃー!!なった!なったのん!!おぉぉぉ!!!」
ひかげ「いや、おおお!!じゃねーよ。声にだすなよ」
一穂「ひかげ、荷造りは済んだのかなぁ?」
ひかげ「うん」
一穂「あとは出発の日を待つだけだね。その前に卒業式があるけど」
ひかげ「卒業式か……」
一穂「卒業生はあんただけだし、すぐに終わるよ」
ひかげ「……すぐには終わってほしくないな」
れんげ「ひか姉……」
一穂「さ、そろそろごはんの用意しようかね」
ひかげ「……」
れんげ「ひか姉」
ひかげ「んー?」
れんげ「卒業式、ウチもいくのん」
ひかげ「おー、こいこい。どうせ人いないしね」
れんげ「ひか姉!!がんばるのん!!」
ひかげ「え?」
れんげ「ひか姉!!ねぇねぇのことはウチが守るん!!だから、心配なんていらないのん!!」
ひかげ「そうだね。れんげがいれば安心かな」
れんげ「ひか姉!!ウチ、ひか姉がいなくなっても、もう絶対に我侭いわないのん!!」
ひかげ「がんばれよ」
れんげ「あい!!」
ひかげ「でも、会いたくなったらいつでも呼んでくれていいけどー」
れんげ「いいのん!?」
ひかげ「ただし、どうしてもれんげが私を呼びたいときだけだからね。いつでも戻ってはこれないから。金ないし」
数日後 旭丘分校
一穂「――卒業生、宮内ひかげ」
ひかげ「はいっ」
一穂「卒業、おめでとう」
ひかげ「どうも」
夏海「ひか姉ー!!いつでもかえってきていいからねー!!」
小鞠「ぐす……ひか姉ぇ……」
ひかげ「どうしたの?」
小鞠「いっちゃやだぁぁ……」
ひかげ「おいおい……」
このみ「小鞠ちゃん、私のときも似たようなこと言ってたよね」
夏海「ちょっと、姉ちゃん!!しっかりしてよ!!」
小鞠「うぇぇぇん……!!!」
ひかげ「よしよし」
卓「……」パチパチパチ
れんげ「ひか姉は愛されてるのんなー」
ひかげ「まぁ、そうかな」
このみ「調子いいんだから」
ひかげ「このみもわざわざ悪いね」
このみ「なんのこれしきだよ。ひかげちゃんの晴れ姿は見ておかないとね」
夏海「ひか姉ー!!これ!!」
ひかげ「なにこれ?」
夏海「ウチと姉ちゃんと兄ちゃんで作った卒業アルバム!!」
ひかげ「いつのまに……」
夏海「兄ちゃんが駄菓子屋に頼んでアルバムの素材とか集めてくれたんだー。ね、兄ちゃん?」
ひかげ「へぇー。やるじゃん。サンキュー」
卓「……」
小鞠「ひか姉ぇ……ぐすっ……ひか姉ぇ……」
夏海「明日、引越しだっけ?ウチも見送りにいくからね!」
ひかげ「あまり大所帯で来られても迷惑だけどね。明日ぐらいはいいか」
一穂「そろそろ帰ろうか」
小鞠「もう帰っちゃうのぉー!?」
れんげ「今日は大ご馳走なのん!!」
夏海「マジで!?ウチらも参加していいですか!?」
このみ「なっちゃん、ダメダメ。明日、ひかげちゃんは行っちゃうんだから」
夏海「あ、そっか。ごめん、れんちょん」
れんげ「いいのん。なっつん、明日は一緒にごはん食べるのん」
夏海「明日?……ああ、うん。それならウチにおいでよ。母ちゃんにも言っとくから」
れんげ「ありがとなのん」
小鞠「ひか姉、私も見送り、いくからね」
ひかげ「おー、好きにしろ」
一穂「それじゃ帰ろうか」
れんげ「あい!!」
ひかげ「はぁーい」
ひかげ(卒業しちゃったか……。今までありがとう)
ひかげ「――あぁー、もう食えねぇ」
れんげ「ひか姉、お腹ポンポンなのん」
ひかげ「触るなって。マジ苦しいんだから」
れんげ「……ひか姉、明日いくのん?」
ひかげ「いくよー」
れんげ「……」
ひかげ「一緒に寝るか?」
れんげ「その前に、一緒にお風呂はいりたいのん」
ひかげ「いいね。そうしようか」
れんげ「……」
ひかげ「どうした?」
れんげ「なんでもないのん。おふっろー、おっふろー」
ひかげ「そうが。この際だし、姉ちゃんも誘おう」
れんげ「さそうーん!!ねぇねぇー!!!」
ひかげ「ねえちゃーん!!一緒に風呂いこー!!」
一穂「ひかげはもう少し大人になったほうがいいかもねぇ」
ひかげ「どこ見ていってんだぁ、こらぁ!!!」
れんげ「ひか姉は立派なねぇねぇなのん!!」
一穂「ま、そうかもね」
ひかげ「ったく、私は明日いくんだぞ!!もっと気持ちよく送り出そうとかおもわないかよ!?」
一穂「あっはっはっは。それだけ元気なら、なーにも心配しなくてよさそうだねぇ」
ひかげ「姉ちゃん、明日……」
一穂「いったげるよ」
ひかげ「仕事はいいの?」
一穂「妹を見送るぐらいの時間はあるさ」
ひかげ「そう……」
れんげ「……」
ひかげ「れんげ、どうしたの?」
れんげ「なんでもないん」
一穂「さぁ、お風呂から出たら。3人仲良く並んでねようかなぁ」
一穂「ひかげは真ん中ね」
ひかげ「えぇぇ……」
れんげ「真ん中なのん!!ひか姉はセンターガールなのん!!」
ひかげ「わかったわかった」
一穂「今日は眠れそうにないねぇ」
ひかげ「早く寝ろよ。結構、朝早いんだし」
れんげ「ひか姉……」
ひかげ「どうした?」
れんげ「……がんばってなのん。」
ひかげ「がんばるって」
一穂「すかー……すかー……」
ひかげ「も、もう寝てる……」
れんげ「ウチもねるん」
ひかげ「おやすみ、れんげ」
れんげ「おやすみなのん……」ギュッ
翌朝
ひかげ「……よし」
一穂「忘れ物はない?」
ひかげ「うん。何もない」
一穂「れんちょーん、もういくぞぉ」
ひかげ「れんげー?」
一穂「あれ、どうしたのかねぇ」
ひかげ「お姉ちゃん、いっちゃうぞー」
一穂「再発したかなぁ?」
ひかげ「えぇ?もう……」
一穂「まだ時間あるし、れんげをなんとか連れて来てくれる?」
ひかげ「私が?」
一穂「そのほうがいいと思うよ」
ひかげ「……最後の最後まで手間かけさせるんだから」
一穂「……」
ひかげ「おーい、れんげー」
れんげ「ひか姉……」
ひかげ「ほら、もう行かないとダメなんだよ。電車の時間があるし」
れんげ「……」
ひかげ「れんげ?」
れんげ「うぅっ……!!すぴぃー!!すぴぃー!!!」
ひかげ「おい……」
れんげ「すぴぃー!!!すぴぃー!!!」
ひかげ「結局、鳴らなかったなぁ」
れんげ「すぴぃー!!すぴぃー!!!」
ひかげ「れんげ……もうやめろって、それ、鳴らないから……」
れんげ「すぴぃ……す……」
ひかげ「……」
れんげ「うぅ……すぴぃー!!すぴぃー!!!」
ひかげ「れ、れんげ?どうした……んだよ……」
れんげ「すぴぃー!!」
ひかげ「れんげ、ほらもう行こう」
れんげ「ダメなのん!!」
ひかげ「なにが?」
れんげ「ウチ、こうしてないと……言っちゃうのん……!!」
ひかげ「言っちゃうって……?」
れんげ「すぴぃー!!すぴぃー!!」
ひかげ「……行こう。電車来ちゃうし」
れんげ「すぴぃー!!!すぴぃー!!!」
ひかげ「れんげっ」グイッ
れんげ「いかないでぇ!!」
ひかげ「な……」
れんげ「ひかねぇ……いかないでぇ……!!」
ひかげ「れんげ……」
れんげ「ひかねぇ……!!さびしいん……!!やっぱり……さびしいのん……!!」
ひかげ「……」
れんげ「これ……いうと……ひかねぇ……とうきょうに、いけないのん……だから……がまん、して……がまん……して……」
ひかげ「あのときの会話きいたのか?」
れんげ「すぴぃー!!すぴー!!」
ひかげ「もう言ったあとだろ。バカだな」
れんげ「ごめんなさいなのん……もうわがままいわないって……いったのに……ウチ……」
ひかげ「ありがとう……。でも、もう行くって決めたからさ。私は行くよ」
れんげ「すぴぃー!!!」
ひかげ「すぐ帰ってくる。まぁ、5月の連休は金がないから無理だけど、夏休みには絶対に帰ってくる」
れんげ「う……うん……」
ひかげ「ほら、泣くなよ。夏海に笑われてもいいのかよ」
れんげ「すぴぃー!!」
ひかげ「行くか」
れんげ「すぴぃー!!!すぴぃー!!」
ひかげ「はいはい。うるさいうるさい」
一穂「……お、きたねぇ」
ひかげ「まだ時間平気かな?」
一穂「ヨユーヨユー。父さんと母さんはもう先にいってるよぉ」
ひかげ「そう。それじゃ、姉ちゃん。安全運転でお願いね」
一穂「まかせなさい」
れんげ「すぴぃー!!すぴぃー!!」
ひかげ「ほら、いくよー。れんげー。靴はいて」
れんげ「すぴぃー!!」
ひかげ「いつまでやってるの?ほら、指笛はお終い」
れんげ「ひかねぇ……いかないでぇ……」
ひかげ「いくってば」
れんげ「うぅ……すぴぃー!!!」
ひかげ「あぁ、もう……。そうだ。れんげ、元気の出る言葉教えてあげる。……にゃんぱすー!ほら、言ってみ」
れんげ「にゃ、んぱすー……」
ひかげ「そうそう。もう一回。にゃんぱすー」
れんげ「にゃんぱすー……」
ひかげ「どう、元気でただろ?」
れんげ「にゃんぱすー!」
ひかげ「いい感じ、いい感じ」
一穂「なんじゃ、それ?」
ひかげ「私が作った魔法の言葉。意味不明すぎて元気でるっしょ」
一穂「おぉ。でるかもねぇ」
れんげ「にゃんぱすー!!」
ひかげ「いいか、れんげ?それさえ言っとけばいつでも元気でいられるからな」
れんげ「にゃんぱすー!!!」
ひかげ「うん……」
れんげ「にゃん、ぱすー!!!」
ひかげ「れんげ……体にはきをつけてね……」ギュッ
れんげ「にゃんぱすー!!!にゃんぱすぅ!!!」
ひかげ「うん、にゃんぱすー……」
一穂「もうみんな居るみたいだねぇ」
ひかげ「おー、ホントだ。マジでいるなぁー。恥ずかしくなってきた」
れんげ「なっつーん!!!」
夏海「れんちょーん!!遅かったなー!!なにしてたのさー!?」
小鞠「ひか姉……」
楓「ういーっす。遅かったな」
ひかげ「ちょっとね。駄菓子屋もきてくれたんだ。ちょっと意外」
楓「アホか。友人の門出ぐらい祝わせろよ」
ひかげ「あ、ありがと」
このみ「ひかげちゃん、元気でね」
ひかげ「いや、まぁ、夏休みには帰ってくるし」
このみ「それでも!元気でね」
ひかげ「うん」
楓「そろそろ電車が来るな。急げよ」
ひかげ「そうか。もう、誰かさんの所為でお別れも満足にできないじゃん」
一穂「ひかげー、電車きたよぉ」
ひかげ「うん」
楓「ひかげ、帰ってくるときは連絡ぐらいしろよ」
ひかげ「するする。というか、姉ちゃんに連絡したら駄菓子屋にも伝わるでしょ」
楓「それもそうだな。そうだ。来年の正月は初日の出も見に行くか」
ひかげ「お、いいねー。そうしよう」
夏海「ひか姉ー!!帰ってきたらまた遊ぶぞー!!」
このみ「私ともあそぼうねー!!」
小鞠「うえぇぇぇぇん!!!ひか姉!!がんばってねぇー!!!がんばって……うぇぇぇぇん!!!」
夏海「姉ちゃん、泣くの禁止。れんちょんだって泣いてないのにさぁ」
小鞠「だってぇ……だってぇぇぇ……ひかねぇがぁ……!!」
ひかげ「小鞠、土産話には期待しててよ。いっぱい聞かせてあげるからさ」
小鞠「う……うん……うぇぇぇん!!!」
れんげ「ひか姉!!!いってらっしゃいなのーん!!!いってらっしゃいなのーん!!!いって……すぴぃー!!!」
ひかげ「行って来ます、れんげ。――みんな、ありがとー」
楓「行っちまったな」
夏海「少し寂しくなるかなぁ、駄菓子屋?」
楓「私は別に」
夏海「またまたー」
楓「うっせえ!!それより、れん――」
れんげ「……」
楓「……あいつ、ホントに春から小学生か?」
小鞠「えぐっ……えぐっ……れんげぇ……そろそろいこう?」
一穂「こまちゃん、こっちこっち」
小鞠「え?な、なんで?」
夏海「れんちょーん、向こうでまってるよー」
このみ「いこっか」
楓「そうだな」
れんげ「うぅ……う……」
れんげ「にゃん、ぱすー!!!にゃんぱすー!!!にゃん……ぱすー……!!にゃん、ぱすー!!!!」
ひかげ「はぁー……」
ひかげ(やっとゆっくりできなぁ)
ひかげ「ええと……入学案内でも読んどこうかな……」
ひかげ「……っ」
ひかげ「ぐっ……くそ……」
ひかげ「いっぱい、泣いたのになぁ……おかしなぁ……」
ひかげ「もういいじゃん……ないたよ……れんげの前でないたって……」
ひかげ「うっ……ないたじゃん……わたし……」
ひかげ「にゃんぱすー……にゃんぱすー……」
ひかげ「にゃん……あぁ、だめだ……全然、効き目ないし……」
ひかげ「れんげには悪いことしたなぁ……」
ひかげ「にゃんぱすー……」
ひかげ「あー……とまんねー……」
ひかげ「帰ったらいっぱい都会の話できるように……いろんなものみとくかな……」
ひかげ「れんげ、楽しみにしてろよ……」
楓「先輩は行かないんですか、夏見の家」
一穂「うん」
楓「れんげ、寂しがりませんか?」
一穂「れんちょんは大丈夫だよぉ。私なんかよりもしっかりしてるし」
楓「そうですね」
一穂「傷つくぞぉ。そういうの、傷つくぞぉ、楓ぇ」
楓「ひかげ、大丈夫ですよね」
一穂「ウチの妹だからねー。なんとかなるなる」
楓「……」
一穂「はぁー……」
楓「先輩、ハンカチありますけど」
一穂「……ありがと」
楓「レンタル料は……なしでいいです」
一穂「うん……ありがと……」
楓「ひかげの入学祝ってことで。安いですけど」
夏海「ひか姉の門出を祝ってかんぱーい!!!」
れんげ「かんぱいーん!!!」
小鞠「ひか姉いないのに」
このみ「いいんじゃない。こういうときぐらいは」
小鞠「そうかもしれないけど」
夏海「れんちょーん!何食べる?とったげる!!」
れんげ「ウチ!あれ!!あの巻き寿司を所望するん!!」
夏海「あいよー。巻き寿司ねー」
雪子「おかわりあるから、いっぱい食べていきないねー」
れんげ「あい!!」
夏海「れんちょん、どうぞ」
れんげ「ありがとなのん!」
夏海「れんちょん、今日泊まってく?」
れんげ「大丈夫なのん、なっつん。ねぇねぇもいるのん」
夏海「おう。そうだね。ごめんごめん」
一穂「……一条蛍さんか。新学期には間に合わないかぁ。うーん、ま、夏海がいるし、すぐに馴染めるかなぁ」
れんげ「ただいまなのーん!!」
一穂「おかえりぃ、れんちょん」
れんげ「おなかいっぱいなのーん」
一穂「また、たくさん食べてきたなぁ」
れんげ「水一滴ものめません」
一穂「お風呂はいる?」
れんげ「その前に練習してくるのん」
一穂「なんの練習?」
れんげ「指笛!」
一穂「そうかい。だったら練習してきなぁ」
れんげ「するん!!」
一穂「……」
一穂「れんちょんは強いね……」
一穂「ウチも見習わないと。さて、お風呂の準備、準備ー」
れんげ「すぴぃー!!!すぴぃー!!!」
一穂「……れんちょん。いつまでするの?」
れんげ「すぴぃー!!」
一穂「……」
れんげ「にゃんぱすー!!にゃんぱすー!!」
一穂「れんちょん。お風呂はいろー」ギュッ
れんげ「うぅ……」
一穂「大丈夫、大丈夫。にゃんぱすーっていっときな」
れんげ「にゃんぱすー……」
一穂「そうそう」
れんげ「ねぇねぇ……」
一穂「なぁに?」
れんげ「ウチ、ひか姉のこと大好きなのん。ねぇねぇのことも大好きなのん」
一穂「ウチもだよぉ。れんちょんもひかげもだーいすき」
れんげ「にゃんぱすー!!」
数週間後
れんげ「……」ピープー
「おーい!!」
れんげ「え?」
れんげ(ひかね――)
夏海「おーい!!れんちょーん!!」
れんげ「……」
夏海「はよー。一緒に学校いこー」
れんげ「ぴゅりゅんぴょすう」
夏海「……あんだって?」
れんげ「――にゃんぱすー」
夏海「どのみちわけわからん。どういう意味なの、それ?」
れんげ「にゃん、ぱすー」
夏海「……にゃんぱす。さ、行こう、れんちょん」
れんげ「にゃんぱすー」
おしまい。
このSSまとめへのコメント
原作のいろいろな伏線を回収しまくってて豪華なSSだ