苗木「――ボクは君のことが好きだよ」 (199)
モノクマ「うぷぷぷ……このssの注意事項だよ以下のことがあるから注意してね」
モノクマ「>>1は初めてssを書いているから拙い文章だよ……遅筆で書き溜めもそんなにないから更新頻度は期待しないでね」
モノクマ「カップ要素があるし、処刑されちゃう人やコロシアイをしちゃう人、キャラ崩壊や矛盾もあるかも、ホモ展開は多分ないはずだよ……そもそも>>1がキャラを把握しきれていないよ……それと扇情的なエロやゾクゾクするようなグロはそこまで期待しないでね……きっと絶望的だから」
モノクマ「>>1は誰を殺すか決めかねているところがあるから途中で安価やコンマが入るかもね……まあ展開が進むまでに決まっていたらしないけど……」
モノクマ「間違いや口調のおかしなところは順次指摘してね……でも江ノ島盾子とモノクマだけはどうにもならないかも……キャラがブレ過ぎだと思うんです……」
モノクマ「ダンガンロンパ1が舞台だけど……ネタバレは気にしたら敗けだよね……」
モノクマ「以上ナリヨ……うぷぷぷぷ……とっても絶望的な注意事項でした……」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1391940813
[プロローグ]
ふとボクは目が覚めた。
腕の中で眠る彼女の身動ぎにくすぐられたのか、はたまた背中に感じる柔らかな感触に刺激されたのか。
それとも、汚れたクシャクシャなシーツが肌へとへばりつく触感、汗や液の交ざり合った濃密な残り香に不快感を感じたのかもしれない。
あの学園での生活とは違った意味で外に出ることのないボクたちの生活は、客観的に見ればとても健全なものとは言えない。
もしも、石丸君が現状を知ったならどんなことを言われるのだろうか。
思考はいつの間にかあいつによって引き起こされたあのコロシアイ学園生活での記憶へと飛んでいた。
「旦那様?」
気がつけば、いつの間に起きたのか、背後から声をかけられた。
抱いている彼女には心配そうに見らている。
何でもないよとボクは笑ってごまかしたけど。
当たり前のように、彼女には隠したつもりの憂いさえ看破されてしまったらしい。
そして、彼女はボクを気遣うように撫で始めた。
彼女の優しさを嬉しく思いながらも、生理現象というものはどうしようもないと悟ったんだ。
ボクの反応が伝わったのか、彼女にクスクス笑われてしまった。
ボクは気恥ずかしさのあまりにそっぽを向いた。
しかし、その先にはニヤニヤとしている悪魔の視線が待っており、ボクの真っ赤に染まった顔はどこにも逃げ場などなかった。
結局、ボクはちょっとだけ人より前向きなことだけが取り柄の一般的な男性であり、見目麗しい裸体の女性に興奮しないわけがない。
むしろ、興奮しない方がおかしいわけで、失礼なわけで、ボクは健全で、だからこそ、そう、夜明け近くまでそんなことを続けたって仕方がないに違いないんだ。
隣から聴こえて来る寝息を耳に、呼吸に合わせて少しだけ上下するシーツを見ていた。
ああ、先刻までの色っぽい声や触れ合う肌の温もり、一体感と充足感。快感と幸福。
絞り尽くされたボクは倦怠感に覆われながら、どうしてこんな日々を過ごすことになったのか。
そのきっかけとなったあの学園生活をボクは思い出さずにはいられなかった。
そう運命の分岐はあの日だったのだと思う。
プロローグは終了です。
本編前に……
地の文があることを注意事項に入れるのを忘れていました。すみません。
他にも忘れていないか、間違いがないか見直してくるので続きの投下はちょっと後に……
質問なんですが、最初の投稿だけはsageない方がいいですか?
[Chapter 01. 運命の分水嶺]
モノクマが動機のDVDを提供した日の夜、舞園さんがボクの部屋を訪ねてきた。
彼女の話では誰かが扉を何度も開けようとしたらしい。だから、怯える彼女にボクは提案したんだ。
苗木「じゃあさ……今晩はボクの部屋に泊まれば?そうすれば怖くないでしょ?」
舞園「え……!?」
苗木「校則では、『就寝は個室で』としか書かれてなかったよね?誰がどの個室で寝ろとまでは、書いてなかった訳だし……」
舞園「で、でも……1つの部屋で二人きりっていうのは……」
苗木「ごめん!気付かなかった!ホントだよ!気付かなかっただけなんだ!!決して、やましい気持ちとか、そういうのは……」
舞園「いえ…私も…嫌とかそういう訳じゃないんですけど」
ボクは決してやましい気持ちから提案したわけじゃないよ。だけど、少し、気まずい沈黙がボクと舞園さんの間にある。
彼女を安心させるためにもボクがなにか言わなくちゃ。
苗木舞園「「…………あの……!…………」」
二人して声がハモるなんてちょっとだけ照れくさいな。
舞園「苗木君から先に言ってもらっていいですか?」
苗木「うん……ボクは舞園さんがよければボクの部屋に泊まって欲しいかな。ボクはさっきも言ったけど決してやましい気持ちはないよ」
ボクは彼女に言ったことを守らなきゃいけない。ボクはそのために頑張ろう。
苗木「それに、舞園さんが安心して眠れるように、ボクは部屋の外で寝ずの番でもしておくから安心して」
舞園「そ…そんなことをしたら、もし何かあった時に苗木君が危ないじゃないですか」
苗木「そうかもしれないね。だから、護身用に持ってきた模擬刀を持っていくよ。わざわざ武器を持っている相手を進んで狙う危険は誰もおかさないと思うから」
舞園「苗木君……(私は)……」
苗木「それで、舞園さんは何を言おうとしたの?」
舞園「いえ、気にしないでください」
苗木「そう?それでボクの提案でいいかな?」
舞園「ダメですよ!苗木君に危ない真似をさせるわけにはいきません!だから、今夜は苗木君の部屋で一緒に寝ましょう」
苗木「じゃあ、ベッドは舞園さんが使ってよ。ボクは床で大丈夫だし、それかシャワールームで寝るから」
舞園「そんなところで眠ったら風邪を引いてしまいますよ。私が床で寝ますから。ここは苗木君の部屋なんですから」
苗木「いや、でも……」
舞園「でしたら……一緒にベッドで眠りませんか?」
ボクは今、国民的アイドルグループのセンターマイクを務める舞園さやかさんと同じ一つのベッドの上にいます。
もし彼女のファンに知られたらボクは殺されてしまうんじゃないかな。
明らかにボクとは違う良い匂いがします。
モノクマに閉じ込められてしまった状況で、化粧品や香水が満足に手にはいるとは思えないから……この香りは舞園さんの……止めよう…これ以上考えるのは危ない……とにかく、ボクは緊張しすぎて眠れそうにありません。
舞園「苗木君起きていますか?」
苗木「うん。起きてるよ」
舞園「少し眠れそうにないのでお話しをしませんか?」
苗木「そうだね。ボクもちょっと眠れそうにないから、そうしようか」
苗木舞園「「……」」
話をしようと思うと話題が浮かばない。
普通に話している時と違って、ボクと同じように舞園さんも緊張しているのかな。
舞園「苗木君……手を握ってもらっていいですか?」
苗木「いいけど……急にどうしたの?」
ボクはおそるおそる彼女の手を掴んだ。
ボクとそう変わらない大きさだけど、柔らかくてすべすべしている女の子の手だった。
いつまでも握っていたい。でも、どうしてだろうか。
舞園「ありがとうございます。苗木君の手、暖かいですね」
彼女の手はなぜか少し震えていたんだ。
舞園「苗木君。何も言わずに私の話を聞いてください」
舞園「ごめんなさい苗木君」
突然謝り出した舞園さんにボクは驚いて顔をまじまじと見つめた。
その顔は全部の感情を押し込めて隠してしまったような、そんな表情だった。
ボクには怯える彼女の手を握り、彼女が話を始めるのを待つことしかできなかった。
彼女に言われたこともあったけれど、なにかを決心した強い眼差しを覗いてしまったら、声を発することができなかった。
そして、舞園さんは語り出した。
舞園「私は酷い女なんです。自分のためになら何でもする醜い女です」
舞園「私は夢を叶える為に本当になんでもしてきました。アイドルになるために他人を蹴落とし、利用し、嘘をついて騙したり、イジメ紛いなことや酷いことをたくさんしてきました。あの業界ではそうしなければ生き残ることなんてできませんから」
舞園「そうして、私はアイドルとして成功しました。今のグループの皆とは仲も良くてとっても楽しいですし、これから先もずっと一緒に活動していきたいと思っています。だけど、あの……あのDVDにはそんな皆が倒れたまま動かない姿が映っていました」
舞園「とても偽物なんかには見えない、見間違えるはずなんてありません。だから、私はここから出なくちゃいけない、本当のことを知るために、出なくちゃいけないんです」
彼女は耐えるように、たんたんと述べていく。
だけど、彼女は気づいているんだろうか?
ボクの手を強く、強く握りしめていることを、ボクが痛いと感じるくらいに。
舞園「そう思って、私は人を殺すことに決めました。そう、私は桑田君を殺すことにしたんです。彼のミュージシャンになると言った発言が私には許せなかったから。それに、彼が私に向ける感情が分かっていましたので、話があると言えば簡単に呼び出せると思いました」
舞園「今夜、私が苗木君の部屋を訪れた本当の理由は部屋を交換してもらうつもりだったんですよ」
舞園「苗木君は優しいから、私が不安を感じていると言えば簡単に信じて、部屋を交換してくれると思ったんです」
舞園「部屋を交換した後で、部屋のネームプレートを入れ換えて、桑田君を呼び出し、不意を突いて殺そうと考えていました」
舞園「そのための凶器として厨房から包丁を持ってきています」
舞園「私がクロだと判明しないよう、苗木君に罪を被せようとしたんです」
舞園「あはは……幻滅しましたか?私は自分勝手で他人よりも自分の身が大切などうしようもない女なんですよ……」
ボクは……
舞園「苗木君……ごめんなさい。そして、ありがとうございます。こんな私を信じてくれて、味方だって言ってくれて。私は嘘つきです。苗木君を騙そうとしていました」
彼女の話はボクにとって衝撃的だった。
例えば金箔付きの模擬刀で殴られ骨折するような衝撃だ。
でも、舞園さんが自分で言うように酷い人なら、どうしてボクにこんな話をしたんだろうか。
何も言わず、なかったことにする方が良いはずなのに、そうすればこの事実は誰も知らないままだったはずだ。
考えろ、なぜ彼女はこんなことを語り出したのか。
普通、こんな話を聞かされたなら相手のことを信用しなくなる。ましてや殺人を強要されているこの状況ではなおさらだ。
そう、彼女には自らの行いを自供するメリットがあるとは思えない。
それでもあえて話した理由。
自暴自棄?いや、彼女は至って冷静に話している。決して感情的に振る舞ってはいない。
じゃあ、なんだ、いったい何が目的なんだ。
自分の醜い部分や行いをあえて口にするのはどうしてだ?これじゃあまるで……ボクに……嫌われようとしているみたいじゃないか!?それが目的!??もしそうだとしたなら、それはなぜだ?考えるんだ!!
[閃きアナグラム]
き・に・な・る・ひ・と
そういえば、ここで目覚めてから舞園さんのボクへの態度は、ボクが勘違いしてしまいそうになるほどだった。
それに、彼女は言っていたじゃないか。好きな人はいないけど気になる人はいるって。
もし、その気になる人がボクだったとしたら!?
彼女は人を殺そうとしたけど、思い止まることができたんだ。
だけど、彼女は自分の行いを許すことができなかったのだとしたら?全部黙っていることもできたのにボクに話したのは、自分を罰するためだろうか?
自分の一番知られたくない部分を、自分の一番知られたくない人に言って、その人に嫌われる。
アイドルグループの仲間は安否も分からず、おかしな状況に巻き込まれ、気になる人にも嫌われる。
それが目的?……いやいや、冷静になれ、自惚れにもほどが、そんなはずがないだろう!
そうだ、それは違うぞ!重要な所はそこじゃない!監視カメラだ!!
下手をすれば……いや、間違いなくモノクマはこの状況を見ているし、公表することだって可能なはずだ。そのための監視カメラ。
舞園さんは言ったじゃないか……包丁を準備したって、その映像は残っているし、もう護身用の武器はいらないとも言っていた発言の記録もある。
その二つの記録を比べて見れば、矛盾しているんだ。
言い訳は可能だろうけど疑いの目は避けられない。
何よりモノクマが猜疑の芽を育てようとしないはずがない。
あいつはただでさえ僕たちを閉じ込め、コロシアイをさせたがっている。
だから、いやらしく、えげつなく、どうしようもないほど疑われるように差し向けるはずだ。
そうなれば舞園さんは皆から疑われて孤立してしまうかもしれない。
舞園さんはそのことも分かっていてあえて話しをしているのか?何のために?
まさか……まさか……ボクのため!?
ボクは舞園さんが孤立しようとも絶対に彼女の味方だ。そうなれば、ボクもまた疑われて孤立するかもしれない。
そうなったとしてもボクはかまわない。
だけど、舞園さんはそうなって欲しくなかったんじゃないか。
だから、ボクに嫌われるように、離れていくように、あえて、自分の行いを話している!?
ボクはどうしたい?どうすべきだ?どうするんだ?
モノクマが暗躍するなら、舞園さんの孤立は避けられない!?
……何をしてもそれは避けられないのか……
モノクマよりも先んじて事実を公開する?
ダメだ、舞園さんは孤立する。何より殺されそうになっていた桑田くんはどうなる?モノクマの煽りを受ければなんらかの行動に移るかもしれない。
なにごともなかったように振る舞う?
無理だ、あのモノクマがなにもしないはずがないだろう。
舞園さんが望んでいるように彼女との距離をおく?
嫌だ、ボクがそんなことをしたくない。それに彼女との距離を開けたところで、なんの解決になるっていうんだ。疑心の種は蒔かれる。ボクは孤立しないかもしれないけど、それだけじゃないか。
……本当にどうしようもないのか?
……彼女は孤立するしかないのか?
……ボクたちは互いに疑い合うしかないのか?
以上で投稿終わります。
続きは数日以内に……
……ああ、あるじゃないか。あいつが嫌いな展開で馬鹿馬鹿しくて何もかも茶番劇にできる逆転の一手が!!
あいつがわざわざ、一度だけボクの目の前に現れて、ちょっと邪魔をしてくたのがその証拠じゃないか!
これならきっと誰も不幸にならない。
今もカメラ越しに見ているんだろモノクマ?
自分にとって都合のいい展開が起こっていて、場違いなほど能天気で明るい声で笑っているんだろ?
いや……でも、やっぱり……失敗すれば色々と立ち直れないかもしれないな……ははは……
それでも、前に進むしかない。当たって砕けろだ。ボクの唯一の取り柄はちょっとだけ人より前向きなことだろ!!
舞園「苗木君に言いましたよね。好きな人はいないけど、気になる人はいるって……あれも嘘なんですよ♪苗木君に思わせ振りな言動を取ったのも全部、ぜーんぶ演技、なにもかも嘘…「それは違うよ!」…」
苗木「舞園さんが桑田君を殺そうと思ったことやボクを利用しようとしたことは本当のことなんだろうけど、ボクへの態度全てが嘘だったってことはないよ」
舞園「そんなことどうして言えるんですか!嘘なんです!苗木君は騙されているんです!騙していた本人が嘘だと言っているんですよ!」
苗木「じゃあ、どうしてボクのことを覚えていたの?自分で言うのもなんだけど、ボクはなにもかも平均的で特に取り柄もない、背だって低いし、平凡で普通な男子学生だ。クラスだって違うし、毎日が忙しくて周りに人がいた舞園さんがどうしてボクのことを知っていたの?普通なら気にもとめないし覚えてなんていないよ」
舞園「それは……苗木君が一年生の時に鶴を逃がしたことが印象に残っていたからですよ!だから、苗木君のことを覚えていたんです!ただそれだけです!!なにもかも嘘だったんです!!!」
苗木「それなら、どうして舞園さんはボクが中学の時に『目も合わせなかった』ことを知っていたの?」
舞園「そ…それは……」
苗木「舞園さんはボクのことを気にかけていたんだ!だからこそ、ここで出会ってからボクに話しかけてきたし、一緒に行動をしていたんだ!!」
苗木「舞園さん……ボクは言ったよね。
何があってもボクは舞園さんの味方だって、どんなことをしてもここから出すって、ボクが舞園さんを守るって……ボクは……」
舞園「苗木君それ以上は言わないでください……もう…分かりましたから……」
舞園「……そうですね……苗木君の言っていることは概ね正解です……私の気になっていた人は苗木君でした……」
舞園「でも、それがどうしたって言うんですか?私が苗木君を利用しようとしたことも、桑田君を殺そうとしたことも事実ですよ……」
舞園「今だって、私がこんなことを言っているのは、苗木君の優しさにつけこもうとしているだけなんだと思いませんか?……」
ねぇ、舞園さん。君は気づいているのかな?
ボクの手が少しだけ汗ばんでしまっていることに……君の瞳がうっすらと潤んでいることに……ちょっと、その表情にボクが興奮しそうになっていることにね。
さあ、そろそろ始めようか。一世一代の大博打!!モノクマ、ボクたちはコロシアイなんてしない。互いに疑い合わない。皆でここから出るんだ!!
苗木「ねえ、舞園さん。ボクは君の事が好きだよ」
舞園「ッッ!!」
舞園「……バ、バカなんですか……急に……言ったじゃないですか私は酷い女なんですよ……嘘つきですし……腹黒い性格をしていますし……」
苗木「確かに舞園さんはちょっと黒い性格かもしれないし、思い詰めたら間違った行動をしてしまうような危うさもあるかもしれない」
舞園「ええ、そうですよ。それに私はきっと自分のためにならまた苗木君を裏切りますよ」
苗木「だけど、ボクは君の笑顔を見ていると心が安らいで、なんでもできるような気がしてくるんだ!」
苗木「たとえこの先どんなことがあってもボクは舞園さんのことを嫌いになることはないよ!だって人よりちょっとだけ前向きなことがボクの唯一の取り柄だから……何があってもボクは前向きに考えていくと思うよ」
苗木「ボクは舞園さんのことが好きだ!舞園さんはボクのことをどう思っているの?」
舞園「…………アイドルは恋愛御法度なんです……普通の恋人同士がするように、二人でどこかへ出かけることはできません……手を繋いで歩くこと……キスやそれ以上のことだって……どこに人の目があるか分かりません……私は必死になって掴んだ夢を手離せません……私は苗木君に何もしてあげられない……それどころかきっと傷つけます……終いには捨ててしまうかもしれませんよ?」
苗木「構わないよ!それで舞園さんが笑っていられるなら」
舞園「……私はあの日から苗木君のことが気になっていました。だから私は知っています。苗木君が優しくて強い人だってことを……ずっと見ていたんです」
舞園「苗木君は気になる人じゃない、とっくに私の好きな人なんです」
舞園「だけど、苗木君はとても素敵な人ですから。この先、きっと苗木君の良さに気づいた何人もの人達が好意を向けてきます。私は苗木君に相応しくないんですよ……」
苗木「いや、それは違うと思うよ……ボクはモテないし……」
舞園「絶対です!間違いありません!エスパーですから分かるんです!!」
舞園「だから……私は怖いんですよね……私はきっと苗木君に何もしてあげられないから……いつか苗木君が私じゃない誰かを好きになることが……失ってしまうことが……」
苗木「ボクは舞園さんの笑顔を見ているだけで十分だよ。ただ、側にいて何も会話がなくても、二人でボーと同じ空間で、同じ時間を過ごしているだけで満足だよ」
舞園「……そうなったら……多分、私の方がその内に耐えられなくなって苗木君を襲っちゃうと思いますね」
苗木「ははは……ボクはそういった経験がないからお手柔にね」
舞園「もう、私だってありませんよ!だから……私が襲ってしまったら苗木君がその先をリードしてくださいね♪」
苗木「が、頑張るよ」
舞園「苗木君……本当に私でいいんですか?私は人を殺そうとした危ない女なんですよ……嘘つきだから苗木君が好きだと言うのも嘘かもしれませんよ?」
苗木「ボクは舞園さんを信じているよ。本当に舞園さんがどうしようもない人だったなら、ボクに自分が人を殺そうとしたなんてことをしゃべらないし、わざわざ自分からボクを騙していたなんて嘘をつく必要もないよね。それに、舞園さんも気づいたんじゃないかな?ボクの意図にも?だって舞園さんは」
「「エスパーですから!!」」
ボクも舞園さんもなにがおかしいのか声をあげてバカみたいに笑い合った。完全防音の部屋に響くボクたちの笑い声を、今もカメラ越しにモノクマは見ているのかな。
もしかしたら、この学園生活が始まって以来、心の底からこんなに笑ったのは初めてかもしれない。
モノクマにも今だけは感謝を述べても良いのかもしれないね。
舞園「はぁ……かないませんね……本当に好きですよ苗木君♪」
苗木「ボクも好きだよ舞園さん!」
舞園「ふふふ……明日から一緒に頑張りましょうね。ここから出るために……」
苗木「そうだね。頑張ろうね……」
ボクと舞園さんは同じベッドで一緒に眠りについた。
手を繋いだまま眠るのって恥ずかしいし、ちょっと不便だけど、ボクはとても幸せを感じていたんだ。
彼女の温もりを感じて、深く穏やかな眠りにボクは落ちていった。
--To Be Continue--
―幾つものモニターに学園内の映像が映るどこかの部屋―
??「うぷぷ……絶望的なんですけど……せっかく舞園が殺る気になってくれたのに苗木が防いでしまうとか……絶望的です……」
??「……マジ甘ったるい青春劇場とかあり得ないっての……舞園が桑田を殺してコロシアイ生活が本格的に始まると思ったのに……」
??「おれの予定が変わっちまったじゃねぇか……他の面子もすぐに動き出す気がねぇようだしよ……ちっ……まあまだ始まったばっかだ焦ることはねぇか……」
??「それに未遂でもアイドルが人を殺そうとしたしたことや恋愛劇を催したことには意味があります……」
??「暫く様子見……何もしない……処分予定品……あれ使う……?」
??「明日には舞園ちゃんが桑田ちゃんを殺そうとしちゃったことを公表するのもありかな?でもでも……証拠がないから決め手に欠けるかな?包丁は護身のためだって言われたらどうしようもないかな?それでも疑心暗鬼の種は蒔けちゃうかな?かなかなかな?」
??「ああ……でもだめかもしれないですよね……苗木がシリアスな雰囲気ぶち壊しで愛の告白なんてしちゃって、舞園のアバズレが受けちゃったんですから……動画を編集しても……あの二人が両想いの関係であることを暴露されてしまったら……私様の意見なんて……」
??「舞園がニブチンな苗木を振り向かせるためにとか……脈絡があろうがなかろうがそんなことを言われて……全員が疑いの目を向ける中でアツアツの関係を見せ続けられたらとか……」
??「いや?ん★そもそも独白の時の映像にはナエギンもマイゾンも映ってた?☆仲良く手を繋いでいるじゃ?ん★加工するのは簡単だけど?☆男の娘のチータンにはばれちゃいそうじゃ?ん★音声データだけじゃ足りないかな?☆」
??「クソッタレが!こんなんじゃ使えねぇえじゃねえかよぉ!しゃあねぇなぁ残姉を使うかぁ!?動くかわかんねぇえがぁオーガの方がぁましぃかあ!?」
??「……まあ……複雑な人間関係は殺人の動機になりやすいんですよね……妬み、嫉み、裏切り、憎しみ、恨み……痴情のもつれなんてよくあることですから……あぁぁあ…なぁぁぁんて絶望的なんでしょう……」
??「うんうん……そうナリヨ……慌てる必要はないナリヨ……手札は幾らでもあるナリ……ジャポニカ帳を埋めて余るほど準備は入念にしてきたじゃないナリカ……」
??「うぷぷぷぷ……絶望的?♪」
以上で投稿終わります。
次の更新は明日の夜に、少しだけおまけみたいなのを投稿します。
--オマケ--
Bad End ? 孤立の中の蠱毒なアイ
結局、ボクには舞園さんが孤立しないで済む方法なんて思いつかなかった。
ボクがどんなに意気込んでみたところで、ボク自身はなんの特別の才能もない平凡な男子学生だ。
希望ヶ峰学園に入学できたのだってたまたま幸運で選ばれただけの、その幸運だって本当は不運の間違いでしかない。
どれだけ前向きに考えても、どうにもならない現実は存在する。
あの日の夜、ボクは舞園さんと一緒のベッドで眠った。
翌日には動き出すだろうモノクマのこと、舞園さんのこと、これから先のことを思うとボクは強い不安にかられた。
一晩中、胃を握り締められるような痛みを感じて、まったく眠った気がしなかった。
後に舞園さんが語ってくれたことによると、ボクは何度も酷く魘されては、寝言に謝罪の言葉を述べていたそうだ。
翌日の朝、ボクたちが予想した通りにモノクマは盛大に彼女の凶行を暴露した。
舞園さんが人を殺そうとした事実はボクたちの間に大きな亀裂をもたらし、きっとこのときに絶妙なバランスでつりあっていた何かが壊れてしまったんだ。
それはまるで、ガラスグラスを床に落とし、歪で綺麗な破砕音を発てて散ってしまうみたいに。
分厚いと信じて歩いていた氷が本当は薄っぺらで、足下が唐突に崩れてしまったように。
そして、元に戻ることは決してなかった。
ボクたちは理不尽に閉じ込められ、意味の分からない状況に追い込まれ、皆がみんな、酷いストレスを感じながらも不安や不満をずっと押し込んでいた。
彼女の行いは決して赦されず、誰もが現状の惨状から目を背けるための捌け口に手を出した。
彼女の経歴、事実無根、有形無形、人格否定に始まって、ありとあらゆる誹謗中傷罵詈雑言、聞くに耐えない汚い言葉で罵り続けられる中で誰一人として彼女を庇おうなんてしなかった。
後にボクは思った。
誰かを殺せば、すぐに学級裁判が開かれる。
クロが判明すれば迅速に処刑が刊行される。
死んでしまうことに同情し、糾弾するだけの時間も与えられない。
このシステムはクロにとっては救済なのかもしれないと。
生きたまま罪を償わされる方が絶望的なのかもしれないと。
彼女は決して赦されず、赦されることを望もうともしなかった。
どんな言葉も甘んじて受け入れ、舞園さんは必死に耐えていた。唇を噛み、握られた手は変色し、少し肩を震わせて。
彼女は泣くことも、抗議の言葉を発することもなく、伏し目がちに聞いている。
きっと、泣き喚く方がすぐに終わったのだと思う。
あからさまに心が挫け、耐えられなくなった様を見れば、溜飲を下げるのは簡単だ。
目に見える分かりやすい反応の方が信じやすく、受け入れやすい。
ボクは、ボクは、声を出して否定したかった。彼女はそんな人じゃないって、否定したかった。
だけど、それは許されなかった。それは他でもない舞園さん自身が許そうとしなかった。
それでも耐えられず、ボクが声を出そうとする度に、まるでなにもかもお見通しだと言うのか、彼女は俯いた顔を少し上げてはボクの目を居抜いて機先を制し
てしまった。
彼女の瞳は濡れていて、口元には赤い滴が滲んで見えた。
その視線は今までに見たことがないほどの強い意思を感じずにはいられなかった。
結局、ボクは彼女の意思に負けたのだ。
なんてことはない。ボクの彼女を守ろうとした意思よりも、彼女のボクを守ろうとする意志の方が強かったんだ。
一方的な糾弾裁判は、興奮した裁判官が判決の鉄槌を振るい、愚かな弁護人が被告人の盾となったことで閉廷した。
真っ暗に染まっていく視界、遠くなっていく音、ボクの耳には心地好い音色の涙声と不快感を持つ能天気で明るい笑い声が残響していった。
当然のように彼女の行動は制限され、常に監視の目を向けられた。
ボクは彼女が望まないことが分かっていても、彼女の味方をし続けた。ボクは決めていたのだから。
彼女はそのことを心苦しく思っていて、ボクは何度も謝罪され、放っておいてと言われたけれど、ボクにそんなことはできなかった。
針の筵のような状況も、一人、二人と人が減っていく内に少しずつ弛められていった。
皮肉なことに、最初に殺人を企てた彼女はただの一度たりとて学級裁判のクロに疑われることはなかったんだ。
……15人の内で生き残っている人はもう片手で足りてしまう。
舞園さんの行動をきっかけに、すぐに最初の殺人が行われた。そして、堰が壊れてしまったかのように事件が次々と起きていった。
……不二崎クン……江ノ島さん……山田クン……桑田クン……石丸クン……大和田クン……霧切さん……葉隠クン……セレスさん……大神さん……
ある日、モノクマはボクたちにシンジツを話してから姿を現さなくなった。
朝日奈さんは大神さんが亡くなってから、ずっと部屋に閉じ籠ってしまっている。
食事の時などにすれ違う位しか接触の機会はない。
十神クンは十神家が滅んでしまったという事実に随分と落ち込んでいた。
最近、少し立ち直ったみたいだけど、人が変わったように高慢さがなくなった。
腐川さんにも優しくなり、彼女の書いた小説をよく読んでいるみたいだ。
腐川さんとジェノサイダーはとっても幸せそうに見える。
ボクと舞園さんが男女の関係になったのはいつ頃からだったろうか。
どちらから求めたのだろうか。
互いに好きとか愛しているだとか、そういった類いの言葉を伝えあったことは一度もない。
啄むようにキスをして、貪るように舌を絡め合う。
互いの想いを口にしないのは罪の証か、単なる自己満足の十字架か。
口から離れ、頬に、首に、項に 、胸、臍を過ぎ陰核へ、愛撫し口に含み、こねくり遊ぶ。
白い肌が薄紅に染まっていく。
荒い息づかいにボクも高まりを抑えられない。
触れ合い離れ、何度も何度も繰り返す。
律動は時にずらし 、拍子を変えて、浅く深くひいてはかえす。
どれだけ肌を重ね、どれだけ夜を越え、どれだけ求めあったのか、もう数えていない。
彼女にボクは溺れていく。
彼女はボクに堕ちてくる。
絶望の中でもボクと彼女は確かに小さな希望を見ていたんだ。
あの日々からどれだけの時が過ぎたのだろうか。それでも、ボクと舞園さんはいつも二人で一緒にいる。会話はない。
もう話題にするようなことは何もかも喋りきってしまったのだ。
お互いのことで知らないことはない。
隠し事をする間でなく、いまさら隠すようなことが何もない。
恥ずかしいことから格好悪いことまで、なにから何かまで赤裸々に語り尽くしてしまった。
彼女はボク自身さえ見たことのない場所を知っていたし、ボクも同じように彼女のことを知っている。
今までに嗅いだことのない臭いも、奏でたことのない音も、柔らかい部分や固い部分、どこが善くてどこが嫌なのか。
今ではただ二人、会話もなく、同じ空間、同じ時間、なにもしないでボーと過ごすのが日常となってしまっている。
ボクは一度も好意を口にしたことはないままだ。
閉鎖され、外とは情報の遮断された世界。
生存に対する危機は取り払われ、安心で快適な学園。
みんな、どことなく絶望していることを除けば、なんの問題もない。
例外はボクだろうか。
ボクは絶望的状況の中に希望を見ているのかもしれない。
たとえ、それが幻想という希望であっても、彼女がいれば閉じた世界にも幸せはいっぱいある。
ボクと腐川さん、いや、ボクとジェノサイダーは似ている。頭のネジが外れてしまっているという一点において。
朝日奈さんとの会話はない。
十神クンは小説を読むのに夢中だ。
腐川さんは幸せだろう。
ボクは舞園さんと一緒にいる。
ボクタチハシアワセナンダ……
今日もボクとマイゾノさんは一緒にいる。
マイゾノさんの部屋で二人で過ごしている。
ボクは思うのだけど女の子の部屋って特別な匂いや雰囲気があるような気がするよね。
舞園さんの部屋もそうだった。今だってかなり特別な臭いと雰囲気がある。
例えば、赤黒く染まり、カピカピになったシーツ。
こびりついて消えない、噎せ返るような錆びた鉄とゴミ集積所のような臭い。
並べられたホルマリン漬けの瓶容器。
壁には大きく引き伸ばされた神秘的な写真。
飛び交う黒い虫に、蠢く白い虫。
マイゾノさんは今日もベッドで眠っている。
そろそろ部屋の掃除を行うべきなのかもしれないけど、まだ、したくないな。
だって、舞園さんの匂いが消えてしまいそうだから。
ボクはカノジョの身体を拭いてあげる。しかたないよね。
マイゾノさんは自分から動いてくれないから。
ボクがお世話をしてあげないといけない。
マイゾノさんの濁った目、舞園さんの折れ曲がった手、焼け爛れ変色した足、マイゾノさんの開いたお腹、瓶詰めにされた生殖器、拡大写真に写されたボクと舞園さんの愛の結晶、皮膚から突き出ている白い骨、マイゾノさんの腐り始めた内臓、艶を喪った長い黒髪、白く冷たい肌、マイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノさんのマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノマイゾノ……
ゼンブ、全部、なにもかも……
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああさあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……舞園さんずっと一緒にいるよ。約束したからね。ボクはナニがあっても君の味方だよ……
………うぷぷぷ………キミガワルインダヨ………
…だから仕方ないよね…
……最愛の人を失う悲しみはグッと来るのが私にはよく分かるよ苗木……
……何も出来ない無力感…目の前で行われた拷問ショー…安堵した直後に知った絶望の真実……
………ぶひゃっひゃっひゃっひゃ……あーあ……苗木の絶望を見ていたらグショグショになっちゃった……
……好きでもない人と交わる絶望か……それで妊娠してお腹が大きくなったら……最後の学級裁判を始めようか………
モノクマ「うぷぷぷ……コロシアイ学園は閉校となりました……7人が殺され、6人のクロが処刑、1人が自殺、1人は発狂し、1人は絶望しました……学園長のボクとしては、生徒の中から三人も妊娠してしまう事態が発生するなんて驚愕だよ……さあ、次はどんな絶望が待っているのかな……ボクは楽しみでドキドキしちゃうな!!」
-次回予告-
モノクマ「次回はついにみんなのおまちかねの殺人事件が起きてしまうんだ!!誰が殺され、誰がクロで、誰がオシオキされちゃうのかな?安価やコンマはないよ」
モノクマ「もちろん霧切さんも登場するよ…霧切さんて本人は真面目なつもりなのに周りからは変態にしか見えないんじゃないかって…ボクは最近思ってしまったんだけど…違うのかな?…」
モノクマ「次回の更新はちょっと間が開いてしまうかも。次回予告は以上で終わり」
以上で投稿終わります
書き溜めもなくなったので次の更新は大分遅くなります。
いろいろと反省すべきところが見えましたので、次はもう少しがんばります。
オマケ的なBad Endは多分一区切りごとに何かしら書きます。
読んでいただきありがとうございます。
俺も生残り:苗木・江ノ島、妊娠:前園・腐川・江ノ島(苗木種)、自殺:大神だと思う
江ノ島の好きな奴って苗木じゃないしね
>>59で残りは苗木、江ノ島、朝比奈、十神、腐川
他殺7の黒6って事は、2人殺してる黒が1人いるってことで、たぶんこれって朝比奈じゃないか?
大神を自殺に追い込んだ二人がラブってて妊娠に切れてだと予想
だから>>59では自殺1の他殺5の黒5ではないかな
んで>>77の様に原作に近いと
桑田&前園、大和田&不二咲、霧切&戦刃、セレス&山田、石丸&葉隠?
桑田は前園を[ピーーー]動機もあるしさ、葉隠と石丸だけが浮くな
個人的には腐川が監禁逆レイプの末すでに十神を殺してて、なんかの拍子に3人に発見されて学級裁判でクロとして処刑。
舞園がなんらかの理由で朝日奈殺して、学級裁判で自分に投票して苗木にも自分に投票させて、クロとして拷問で処刑、とかかなと。
もしくは超序盤の方で舞園はすでに死んでて、苗木は死体相手にラブラブしてたとかだったら面白い。さすがに妊娠出来ないけど。
>>78
桑田は>>54ですでに死んでる(って表現だと思うぞ)
>>79
前園さんの言うとおり。
確認
確認
モノクマ「一応、Bad Endで疑問が多かった舞園さんについて少しだけ説明すると、舞園さんの死因は>>80が正解!彼女はクロとして処刑されたよ!殺しちゃった理由は朝日奈さんが>>78したからね(失敗)♪目の前でらーぶらーぶなんてゲロアマでムナクソなイライラだよね…うぷぷ。うぷぷぷ。うぷぷぷぷ…」
モノクマ「それと、>>54でちゃんと10人が死んでるし、>>59でも死んでるよ!>>1の表現が下手くそでごめんね」
モノクマ「舞園さんがクロになったのなら>>53の最後と矛盾するだろってつっこまれそうだけど…疑われてはいないよ!だって、最初から断定だからね!!」
[Chapter 02. 調和を打ち破る魔法の水]
あの夜から、幾日が過ぎた。
今日でこの学園に閉じ込められてから8日目になる。
あの日の翌日、ボクと舞園さんはとても緊張していた事をよく覚えている。
ボクが舞園さんに告白し、彼女がそれに応えてくれた事で、猜疑心の種は芽吹かずに済んだのだと思う。
それでも、どう考えても最低最悪な性格をしているモノクマなら、ボク達の想像を越えた手を打ってくるのではないかと警戒せずにはいられなかった。
舞園さんが桑田クンを殺そうとした事実を暴露する可能性は十分にあったはずなんだ。
その事実を公表すれば、短期的になら間違いなく舞園さんは疑われ、それを庇うボクも同様の目にあうはずなのだから。
そうなれば、疑心暗鬼から誰かが凶行に走るかもしれなかったろう。
だけど、現実には拍子抜けしてしまう程にモノクマは何もしてこなかった。
新しい動機の提供もなければ、ボク達を招集するような放送もかからない。
今まで通り、散発的に突然現れてはすぐにどこかへと消えてしまう。
あいつの変わらない態度、不気味な沈黙こそが恐ろしい。
ボク達の預かり知らぬ場所で今も良からぬ事態が進行中なのではないかと思ってしまうのは、単なる杞憂なのだろうか。
分からない事をこれ以上考えても仕方がないのかもしれない。
ボク達による調査が行き詰まりを迎えてしまった事と同じように。
そんな不安に駆られたからか、それともボクの悩みが原因か、今日は随分早くに目が冴えてしまった。
ボクは朝の時報が終わるとすぐに食堂へと足を運んだ。
ただ一人、みんなが朝食会に集まって来るのを待っていると、溌剌とした明快な声が聞こえた。
「グッモーニンッだ、苗木くん!僕が今日こそは一番だと思っていたのだが…まだまだ…気合いが足りんという事か…!だが、明日こそは僕が勝ってみせるッ!!」
「あはは…おはよう石丸クン…」
思わず苦笑が漏れてしまう。
石丸クンは朝から本当に元気だ。
こんな環境に置かれても、みんなを統率しようとするのは、さすがは超高校級の風紀委員と言ったところなのだろうか。
無茶苦茶なところもあるけれど、ボク達がバラバラにならずに済んでいるのはきっと彼のおかげではないかと思う。
「苗木くんどうかしたのかね?気のせいかもしれないが、少し元気がないように見えるぞ!悩み事があるなら僕が相談に乗ろうッ!!」
ボクと言う人間は考えている事が顔に書かれてでもいるのだろうか。
だけど、確かにこれは良い機会なのかもしれない。
ボクではすぐに解決出来ない悩み。
誰かに相談してみるのは良い事かもしれない。
「ありがとう石丸クン…そうだね……実は…」
「…苗木っちと石丸っち、おはようだべ…」
「苗木誠殿、石丸清多夏殿…早いですな」
「おはよう葉隠クン、山田クン…それに十神クンも」
ボクが口火を切るよりも早く、三人が入ってきた。
十神クンは無言で席に座り、二人も定位置となっている場所に腰を下ろした。
「ちょうど良い、僕一人では力不足だったかもしれない。苗木くん、悩みがあるなら言いたまえッ!僕らが力を合わせればどんな悩みもたちどころに解決するに違いないッ!!」
「おい、朝からなに騒いでんだ?」
「…苗木がどーしたん?」
石丸クンの大きな声が朝の静かな食堂に響いていく。
音響に刺激されたのか、少し不機嫌そうな大和田クンと欠伸をして眠そうな桑田クンが現れた。
「おお、大和田くんと桑田くんか、ちょうど良いところに来た!苗木くんが相談があるらしい。君達も協力してくれッ!!」
「苗木が?それにしても、今日は男ばっか早く集まってんな…」
石丸クンの言う通り、ボクにとっては都合が良いのかもしれない。
今、集まっているのが男子だけというのも悪くない。
女の子に聞かれても、別に問題はないのだけれど、少しカッコ悪いような気もする。
ボクも男の子だから、カッコ悪いよりはカッコ良くありたいと思うのは仕方がない。まあ、ちっぽけな自尊心だけどね。
「しゃあねえな…おい、苗木。言うなら早くしろ!」
大和田クンの声にせっつかれながらボクは口を開いた。
「えーと、出来れば女の子に聞かれたくないんだけど…ここじゃいつ来てもおかしくないから、今日の夜に僕の部屋で話すって事にしちゃダメかな?」
「下らん。お前如きの悩みで人の時間を煩わせようとするな。弁えろ」
十神クンに一刀両断されてしまった。
十神クンからすれば、ボクみたいな平均的な人間の話が聞こえるのも不快なのかもしれない。
「苗木誠殿の悩みですか…ふむ、女子には聞かれたくない悩みと言えば………」
「俺は行くとすっか。苗木っちの悩みを解決するために占ってやるよ、一回10万円のところをサービスで9万円にすんべ」
「チッ…乗り掛かった船だ…俺も行ってやっか!」
「なに?みんな行くの!?………オレも行くとすっか…」
「よし。では、苗木くんの部屋に夜の9時に集まる事としよう!苗木くんが聞かれたくないという事だから女子にはこの事は秘密とする!!」
少しだけ消沈してしまったボクだけど、みんながボクのために集まってくれる事が本当に嬉しい。
もっとも、ボクの悩みなんて、人から見たらやっぱり下らないものなのかもしれないけど。
「みんなありがとう!」
ボクが下げた頭を上げた時、気のせいだろうか。
今、食堂の入口近くで何かが動いたような気がしたのは。
誰も入って来ないところを見れば、多分ボクの勘違いだったんだろうけど。
白と黒、モノクロ色な大きな機械。
ガラスケースの中には幾つものカラフルなカプセルボールが入っている。
右下の排出口と丁度真ん中の辺りにある投入口。
忌々しいあいつの顔が意匠された普通よりもずっと大きなガチャガチャだった。
購買部に存在するこの機械の前で一人格闘するのが、ボクの新しい日課となる事が決まった。
出てくるのはガラクタばかりで、とてもここから脱出するのに役立ちそうな物はない。
ボクの横には、空のカプセルと取り出したばかりの品々が積まれていく。
ボクは突然の背後からの音で振り返った。
「あれ?苗木じゃん、こんなとこで何やってんの?」
「ああ、江ノ島さんか。一昨日、ボクがこのガチャガチャを「ガチャガチャじゃないよ!モノモノマシーンだよ!!」」
あいつはいつも通り唐突にボク達の目の前に現れた。
本当に、どこから出てくるのだろうか。
「もう、苗木クン。ボクがヌイグルミでも、ラジコンでもなくモノクマであるように、モノモノマシーンもガチャガチャでも、クルクルでも、カラカラでもなくモノモノマシーンなんだよ!」
「せっかくボクが連日素敵なプレゼントを補充して、モノクマメダルを至るところに隠してあげてるんだからさ、名前ぐらいしっかり覚えてよね!その内、新しい物も追加するから楽しみにしていてよ。それじゃ、またねー」
不愉快しか感じない声を残してモノクマは去っていった。
残されたボク達は何がなんだか良くわからなくなってくる。
あいつは、本当に何が目的なんだろうか。
「何だったのかな?」
「さあ?」
「それで、ボクが一昨日、えーと、このモノモノマシーンを回す係に任命されたでしょ?」
そう、ボクは先日からこの係に就任した。
理由はボクの役に立たない肩書きだ。
誰がやっても、録な物が出てこないのだから、それでも何もしないよりはましなわけで、ボクがこの係を拝命されたというわけだ。
「ああ、思い出した、思い出した!そういえばそうだったっけ」
「だから、みんなが見つけたモノクマメダルを受け取って、回してるんだよ。一応、ボクは超高校級の幸運って事だからね……」
「朝、みんなが苗木君に何か渡していたのはメダルだったんだ…それで何か良い物は出たわけ?」
苗木君?気のせいかな。
江ノ島さんのボクへの普段の呼称は呼び捨てのはずだけど、単なる良い間違えなのか、それとも……
「…いや、役に立つものは何もないよ…銃みたいなのが出てきた時は驚いたけど、壊れているのか使えないみたいだし。食べ物も出てきたけど、食料は毎日補充されるから必要ないでしょ?」
「へー……おお…じゃあさ、いらないならあたしが何か貰っちゃっても大丈夫かな?」
「別に問題ないよ。最終的な処分もボクに一任されているし、欲しい物があるならどんどん持っていってよ」
本当に貰って行ってくれたら嬉しい。
ボクはみんなに何が出たかは報告するけど、誰も自分から出た品を持っていってくれない。
だから、ボクの部屋にが物溜まっていく事になる。
折を見て、個別に話題を振っては興味を引いてくれた物をあげているけど、減るよりも早く増えていく。
このペースだと、その内に部屋が占領されてしまうのではないかと危惧してしまう。
そうなる前に処分したいし、ここから脱出できたら幸いだけど、どうなるかは未だに分からない。棄てるのもなんだかもったいない。
「そんなにはいらないって…これだけ貰ってくね」
「それって何?」
「これはレーションだよ!レーションを知らないの?レーションは野戦食や携帯口糧と言って、劣悪な環境にも耐える輸送性と摂取カロリー量を至上目的としている食糧だよ。軍隊において兵糧は重大な問題の一つで、昔から色々な工夫がされてきたんだよ。有名なフランス人の皇帝が常温で長期間保存可能な食品として懸賞金を懸けて求めたこともあって、今から200年前の事だけどね。当初のレーションはあまり味に拘らなくて、同じような形態の食事しか出来なかったから、それが兵士の士気にも影響を与えてしまったそうだよ。だから、レーションの開発は今日に至るまで様々な工夫を凝らし発達してきたんだ。特に、各国のレーションを比較すれば文化的、地理的気候の影響が大いに反映されていてとても興味深いよ。私はいろんな国のレーションを食べてきたけど、とにかく高カロリーを追及した物、味に特化した物、メニューの豊富さと言ったように、色々な違いがあるんだよ。最近では、レーションは何も軍事的な一面ばかりでもなく、保存性の高さといった観点から分かるように災害備蓄食糧とも関わりがあって、最近じゃ本当に注目が高まっているとも言えるよね」
「江ノ島さんって本当に超高校級のギャルだよね?」
ボクは反射的に聞かずにはいられなかった。
江ノ島さんの事が実は良く分からない。
ここに閉じ込められる前、主にインターネット上で調べた事前情報によるイメージ像と実際に知った人物像が大きく食い違っている為かもしれない。
そのせいなのか、どこかチグハグな違和感をボクは感じている。
それが具体的に何なのかは良く分からない。
雑誌は画像編集ソフトを使っているとの談やまるで自分が体験してきたかのように話す話題。
今のように、超高校級のギャルとは疑いたくなるような知識と嗜好。
ボクには江ノ島さんが悪い人だとは思わないけど、どういう人物なのか未だに捉えきれないでいる。
「も、もちろんそうに決まってんじゃん!……最近はさ、ほら?ミリタリー系女子が流行りそうだからさぁ、わ、あたしも必死に勉強してんだよッ!」
「そうなんだ?」
「そうだってっーの!!」
「じゃあね、苗木!レーションありがとう。お礼に、あたしはアンタだけは殺さない事にしてあげる」
「えッ!?」
「じょ、冗談だってばぁ。もう、マジで本気になんかしてんじゃねーよ!」
本当に良く分からない。
江ノ島さんが殺さないと語った時の雰囲気は、冗談を言っているようには思えなかった。
ボクは嬉しそうに去っていく江ノ島さんの背を一人残された購買部から見送っていた。
モノモノマシーンから出た品を部屋に置いて、ボクは汚れた衣服を持ってランドリーへ向かった。
洗濯機に服を突っ込み、洗剤を入れてスイッチを入れる。
ドラムの中に水が溜まり泡立ちながら回転していく。
天井を見上げれば紐にかけられた衣服が何枚か干されている。
一体誰の物なんだろうか…あの黒いパンツは。
舞園さんと朝日奈さんはイメージに合わないから違うだろう。
大神さんでもない、サイズ的に無理だ。
腐川さんはシャワーどころか服まで…
セレスさんか、霧切さんだろうか。
ボクは考察に埋没し過ぎていたようで接近していた存在に気づけなかった。
「…あれぇ…苗木君…?」
慌てて振り返った先には外にはねた髪が特徴的な不二咲さんがいた。
小さな体躯の腕には服がいっぱい抱えられている。
「不二咲さんか、ここに来たって事は不二咲さんも洗濯だよね?」
「うん、そうだよぉ…」
不二咲さんはテキパキと洗濯機を作動させ終えるとボクに近づいてきた。
その表情はなぜか緊張しているようで、ボクも何を言われるのだろうと少し気構えてしまった。
「苗木君、聞いてもいいかなぁ?」
「何を?」
「苗木君って何を悩んでいるのぉ…?ごめんねぇ…実は、今朝の話を聞いちゃったんだ…もし、よかったら教えてくれないかなぁ?役にたたないかもしれないけどぉ……協力するよぉ……」
朝のあれはボクの勘違いではなく、不二咲さんだったのか。
「そっか、聞かれちゃったのか…」
「ごめんねぇ…」
彼女は伏し目がちになり、本当に申し訳なさそうにしていた。
そんな態度を見せられると話さないでいる方が悪い事をしているように思えてくる。
「良いよ気にしなくて…ボクってさ、希望ヶ峰学園に超高校級の幸運として入学する事になっていたのは知ってるよね?」
「うん、覚えているよぉ…」
「ボクは普通の中の普通なんだ。ボクの好きな物を知りたければランキング1位の物を調べればいい、大抵そうだから。これと言った特技や趣味だってない。入学する事を決めたのも卒業すれば成功が約束されているっていわれているからだしね…」
「ボクはみんなと違って特別な才能なんて何もない……そんなボクに何ができるのか、何かをしたいと思ってもボクには行うだけの力がない……例えば、苦しんでいる人がいても、それを本当の意味で理解する事も出来ない、想像は出来ても共感する事は無理、だから、きっと大切な事を見落としてしまう……ボクは平凡過ぎるからね…それが悩みなんだよ…多分ね。正直に言って、だからそれをどうすればいいのかも分からないんだ……何だかカッコ悪いでしょ?」
ボクは彼女が追い込まれていた事に気づけなかった。
兆候はあったはずなのに、ボクはその信号を見落としてしまっていたんだ。
彼女が自ら思い止まる事がなかったなら、いったいどうなっていたんだろうか。
想像するのさえ恐ろしい。
だから、ボクは悩んでいるのだろう。
不二咲さんはボクの吐露を聞いた。
体感的に長い沈黙がボクたちの間に生まれたように思う。
ドラムの回転する音だけが聞こえてくる。
真剣に考えてくれたのだろう、不二咲さんはボクの目を見つめ、脈絡のない問いを尋ねてきた。
「……苗木君から見て、私ってどういう風に見えるかなぁ?」
「不二咲さんを?」
「うん、正直に答えてくれないかなぁ?」
「不二咲さんはとても女の子らしい可愛い人だと思うよ…少し気弱で、おどおどしているところもあるけどね…超高校級のプログラマーなんて純粋にすごいと思う」
本当に、心からそう思う。
不二咲さんはボクとは違って特別な才能があるのだから。
気を悪くさせてしまったのか、不二咲さんは悲しそうな表情を浮かべていた。
「……でも、プログラマーなんてパソコンがなければなんの役にもたてないよ……私は非力だし、役立たずでみんなにも迷惑ばかりかけていると思う…」
「ボクは不二咲さんの才能はきっと役に立つって思うよ、どこかでパソコンが見つかるかもしれない。そしたら、不二咲さんは大活躍間違いなしだね」
「そうかなぁ?」
「うん、きっと。それに、こうやって話を聞いてもらうだけでボクは助かってるよ!」
誰かに話を聞いてもらう事で、少しだけ悩みが軽くなった気がする。
なんの解決も出来ていないけど、口に出して話をする事で、ボク自身も気づかない内に心の整理がされているのかもしれない。
「…ごめんねぇ…苗木君の悩みを聞いて励ます為に話しかけたつもりだったんだけど、あべこべになっちゃってぇ………本当にイヤになっちゃうなぁ……私って弱いなぁ…」
「そんな事を言えばボクだって弱いよ。不二咲さんを除いたら、女子も含めてボクが一番背が低いし、力だって……多分…勝てないよ…」
大神さんは比べること事態がおこがましい。
うん…ボクは間違いなく舞園さんに勝てないんじゃないかな。
本人がステージで飛んだり跳ねたりするから体力や力が意外とあるって言っていたよね。
朝日奈さんもスポーツ選手だし、霧切さんはかなり行動的に思える。
セレスさんと腐川さんにも勝てるだろうか。
本格的に身体を鍛えようかな。
「苗木君は強いよ…私よりもずっと……変わりたい…弱い自分を捨てて強い自分に…どうすればいいのかなぁ?」
「……前に進むしかないと思うよ。こんな状況だから、先の事は分からないけど、何かを変えるには待っているだけじゃダメなんだ…」
「絶対にそれを受け入れられないなら、何かを変えようとするなら、行動に移さないとダメなんだ……ボクはそうするよ……絶対にそれが嫌だったなら…」
そうだ、ボクは絶対に受け入れられなかった。
「苗木君は本当に強いね…行動に移すか…でも、失敗したらどうすればいいのかなぁ?」
「…多分、ボクだったら、失敗しても可能な限り前向きに考えると思うよ。人よりちょっとだけ前向きな事がボクの唯一の取り柄だからね。だから、どんなに怖くても、失敗を恐れずに進むしかないんじゃないかな?」
ボクの悩んでいる事もそうなのかな。
悩んでいるなら、失敗したのなら、それを反省して、次は同じ過ちを繰り返さないように考えるべきかもしれない。
今、不二咲さんは何を恐れているんだろう。
強くなりたいって言うけど、それはどういう意味なんだろうか。
「不二咲さんは一体何を怖がっているの?何をしようか迷っているの?それはボクには話せない事?もし可能ならボクが力になるよ!」
「ごめんなさい……今すぐには話せない………で、でも…後できっと話すよ……その時までには心の準備を整えておくから…………ねぇ、苗木君。私が失敗しても友達でいてくれる…?今と同じように話してくれるかなぁ…?」
変わろうとする結果、それを話す事で不二咲さんはボクと普通に話せなくなる可能性があるって考えているのかな?
「約束するよ、ボクは不二咲さんが何をするつもりかは分からないけど、ずっと友達でいるって!だから、心配しなくても大丈夫だよ!」
「…ありがとう」
そう言って不二咲さんは笑った。
咲き誇ろんだ表情はとても魅力的に見えた。
ボクと不二咲さんの真面目な話はスリープ状態へと移行し、洗濯が終わるまで会話を楽しんだ。
昼食も取り終え、新たに調査する場所もどこにもない。
ボクの役割も午前中に終え、洗濯も済んでいる。
桑田クン、大和田クン、江ノ島さん、葉隠クンは昼寝をすると言って自室に戻って行った。
石丸クンは巡回中。
山田クンはゴミの処分。
舞園さん、朝日奈さん、大神さん、不二咲さんの四人は厨房で調理中。
一週間も同じ空間で共同生活をしていれば、その人がどんな人物なのかはそれとなく察することが出来てくるというものだ。
今、食堂に残っている四人の事も。
ボクの座っている側にはセレスさんがいる。
セレスさんは丁寧な口調とは裏腹に、本性は随分と恐ろしい人だとボクは思う。
それを強く印象付けたのは、先日の山田クンに対する仕打ちであった事は間違いない。
まあ、本人は喜んでいるようだから問題はないのだろうけど。
「あら?…チッ…あのブタ…人が紅茶を飲みたい時に………仕方ありませんわね。苗木君、喉が渇きましたので紅茶を淹れてくださる?」
「ボク?」
「ええ、先日、わたくしが紅茶の淹れ方を教えて差し上げましたでしょ?まさか、覚えていないなんて事はありませんわよね?」
「あ、うん。だ、大丈夫だよ…」
もちろん、忘れちゃいない。
一通りの手順とセレスさんが拘るポイントはしっかりと覚えている。
「おい苗木、俺には珈琲だ。早くしろ」
ボクが紅茶を淹れる為に席を立つと、モノモノマシーン由来の品を分解するのを中断して、十神クンが珈琲の注文をした。
ボクはもちろんわかっている。
セレスさんとは違った意味で十神クンも怖い人だ。
ボクは自分がなんの才能もない事を、自分自身が一番良く理解しているつもりだ。
ボクは普通の中の平均的な平凡過ぎる人間であるのだから。
だから、十神クンのように特別の中でも特別な存在に、怯え、同時に羨ましく、憧れている一面がある事を自覚している。
特に、彼女との関係から、その一面を強く自覚するようになった。
「分かったよ十神クン」
ボク達のやり取りが聞こえていたのだろう。
「苗木君」
ペンとメモで推論の整理をしていたらしい霧切さんに声をかけられた。
今も手元と視線は止まらずに紙へと向けられている。
「ついでに私の分もお願いね」
霧切さんは自分の事を全く語らない。
単独行動も多く、どこかミステリアスな雰囲気がある。
交わした言葉も少なく、ボクは霧切さんの事を如何程もまだ理解できてはいないだろう。
ただ、霧切さんの行動の結果、一つの校則が先日追加された事からみても、とても能動的な人なのだと思う。
「霧切さんは紅茶と珈琲のどっちにするの?」
「珈琲よ」
今ので霧切さんが紅茶よりも珈琲を好んでいるらしい事が判明した。
「えーと…腐川さんも何か飲む?」
腐川さんはとても変わっている。
十神クンしか眼中にないようで、自分の事もどこか否定的に捉えているように思う。
たんに変というのでは、少し言葉が足りないかもしれない。
今も腐川さんは十神クンから離れたところから、ただじっと彼を見ている。
距離が離れているのは、十神クンに近づくなと言われた事を律儀に守っているからだ。
「あ、あたしの分も淹れてくれるの…?…あたしは白夜様と同じで…」
「みんな、ちょっと待っててね」
厨房では四人の女子が朝日奈さん主導の下でお菓子作りに精を出していた。
油の臭いと甘い匂いがボクの鼻を擽った。
「苗木か、どうした何か用か?」
「苗木、ドーナッツならまだ出来てないよ!いっぱい、いっぱい作ってるから楽しみにしていてよ!!」
「お腹が空いて待ちきれなかったのぉ?ごめんねぇ…」
「紅茶と珈琲ですか。全く、セレスさんも十神君も、飲みたいのなら自分で淹れればいいのに…」
うん。
ボクの行動も思考も、彼女には全てお見通しなのだろうか。
「ボクまだ何も言ってないんだけど?」
「エスパーですから」
「えっ、舞園ちゃんってエスパーだったの?」
「冗談です。ただの勘ですよ」
「なんだ、冗談なんだ…私ちょっとだけ信じちゃったよ…」
「実は本当なのかもしれませんよ?」
「もう、からかわないでよ」
舞園さんと朝日奈さんのやり取りを見ていると、ボクは自然と口許が緩んでくる。
思い詰めていた彼女が誰かと冗談を言えるくらいには余裕があるという事だから。
もっとも、ボク達の抱えている現状の問題は何一つとして解決されていないのだけれど。
「舞園さん達も飲む?よかったら淹れるよ」
「じゃあ、私は紅茶でお願いします」
「…珈琲でお願いしていいかなぁ…?」
「我は緑茶を頼んでもよいか?」
「さくらちゃんは緑茶にするんだ…私は紅茶で!」
湯が沸くまでの間に、ボクは色々と準備しなければならない。
セレスさんのロイヤルミルクティーの為にはミルクから煮立てなければいけないし、各容器をお湯で暖めておく必要がある。
十神クン達の珈琲の為には豆を粗挽いて、好みの濃さになるように調節しなければならない。
舞園さん達の好きな茶葉も忘れずに取り出しておかないと。
手際よく進めないといけないから、意外と大変だ。
「それじゃあ、ここに置いておくから」
「苗木君ありがとうございます」
「苗木、みんなにドーナッツはもうすぐ出来るって伝えておいて」
「分かったよ」
お盆に各ポットなどを乗せてボクは厨房を後にした。
「みんな、お待たせ。ドーナッツはもうすぐみたいだよ」
「苗木君、ありがとうございますわ。ちゃんと、ロイヤルミルクティーを作ってきたようですわね」
「苗木、遅いぞ」
「ご、ごめん十神クン」
「……霧切さん、珈琲持ってきたよ」
「苗木君、そこに置いといてくれる」
「腐川さんもどうぞ」
「ど、どうして…白夜様はあんたの淹れた珈琲を飲むのよ…羨ましいのよ……あたしが淹れてあげたら飲んでくれるかしら…?」
「五月蝿いぞ腐川。口を開くな黙っていろ!それと、お前臭うぞ。シャワーを浴びろ!服も洗濯しろ!」
腐川さんは十神クンに話しかけてもらえたからか、グヘヘとほころびながら口を押さえている。
ボクは皆に飲み物を配り終えると、元の席に戻った。
ボク自身は、今日は緑茶を飲む事にした。
時間をもて余したのか、セレスさんは優雅に紅茶の入ったカップを傾けながら、ボクへと話を振ってきた。
「それにしても、ただ待つだけでは暇ですわね。苗木君、暇潰しに賭けでもしませんか?」
「賭けって、突然何を言い出すのさセレスさん。それに何を賭けるの?」
「簡単ですわ。わたくし、苗木君に興味がありますの」
「きょ、興味って!?」
ボクはセレスさんの発言に戸惑い驚くばかりだ。
「勘違いしないでくださる。別に、苗木君に男性としての魅力など微塵も感じておりませんわ」
「そ、そう…」
面と向かってはっきり言われると、唖然としてしまって他の感情は停止してしまうらしい。
「ご存じの通り、わたくしは超高校級のギャンブラーです。そして、苗木君は超高校級の幸運として希望ヶ峰学園に入学するはずだった訳ではありませんか?」
「そうだね。こんな事に巻き込まれているのをみると幸運って言うより不運って感じだけど…」
「そうかもしれまんわね。ですが、幸運にしろ不運にしろ、あなたは何かしらの強い運を持っているのではないでしょうか?」
「そう…なのかな…?…自分じゃよくわからないけど……」
セレスさんが言うような運がボクには本当にあると言うのだろうか。
もし、あるとするなら、それは少なくとも幸運ではないはずだ。
もしボクが幸運であると言うのなら、こんな事態に巻き込まれるはずがなく、家族の安否が不明なままの状態が訪れるはずがないのだから。
でも、完全な不運であるとも思えない。
もしも、不運であるのならば、ボクの人生はもっと波乱万丈な事になっていたのではないだろうか。
少なくとも、ここに閉じ込められるまでの平穏な生活が送れていた事と矛盾しているように思う。
不運と言うのとはどこか違うのではないだろうか。
「あなたの自覚があるかどうかなど関係ありませんわ。わたくしがあなたの持つ運に興味があるという事が重要なのです。ですから、賭けをしませんか?」
「一体、何を賭けて?」
「苗木君の全てをですわよ。もちろん、わたくしも自分の全てを賭けますわ」
「……。ごめん…さすがに、それはちょっと…」
「そうですわね…まあ、急にこんな話をされても困りますか。でしたら、今は頭の片隅にでも置いておいてくださればよろしいですわ」
セレスさんはそう言って微笑んでいた。
だけど、ボクにはセレスさんを見ていて思ったんだ。
笑みを浮かべてはいるけれど、蛇のように狡猾で、獲物に気づかれる事なく近づき、一呑みにしようとするような、そんな獰猛な意思が隠れているような気がしてならなかった。
背中を這いずり回るような恐ろしさを拭い去ったのは不思議な調の声だった。
「苗木君、ご馳走さま。それにしても、意外よ。あなたの淹れた珈琲が美味しいなんて」
「そう?口に合ったならなによりだよ」
「ええ、本当に美味しかったわ」
「苗木、俺も認めてやろう。お前はその他大勢のとるに足らない人間だが、珈琲の淹れ方については一家言を知る人間のようだ」
「そうですわね。わたくしも上手に出来ていると思いますわよ。まるで、わたくしの好みを知っているかのように、丁度良い加減でしたわ」
まさか、この三人に誉められるなんて思いもしなかった。
意思が強く、気難しそうな、どこか隔絶していて、人を寄せ付けないところのある三人なのだから。
「そうね……苗木君、どこかで私と会ったことでもあったのかしら?」
「え?そんな事ないよ。ボクたちはここに来てから知り合ったばかりでしょ?少なくともボクには霧切さんと会った記憶はないよ」
「……そう…よね。ごめんなさい、おかしな事を聞いて……」
霧切さんは振り払うように、口を閉じた。
ボクが疑問を口開くよりも先に厨房から元気な声が登場した。
「ジャーーン!みんな、おまたせ!揚たての熱々のドーナッツだよ!!ドーナッツ、ドーナッツ、ドーナッツ、今回のはお好みでチョコやクリーム、チップをつけて食べてね!そのまま食べても美味しいよ!」
朝日奈さんたちの登場で聞きそびれてしまったけど、霧切さんはどうしてあんな事をボクに尋ねたんだろうか。
霧切さんも、ボク達がこの前知り合ったばかりだとはわかっているはずなのに。
ボクと舞園さんのような、ここに来る以前からの知り合い同士はいないのだから。
「苗木君?どうかしましたか?」
少しだけ上の空になっていた事がどうやら見抜かれてしまったらしい。
向かいに座った舞園さんは、本当にエスパーじゃないかと思ってしまう。
ただの勘と言うには、あまりにも人の思考を読み取り過ぎなんじゃないだろうか。それだけ、ボクが単純で分かりやすいだけなのかもしれないけど。
「うーんうん、何でもないよ。舞園さんたちが作ってくれたドーナッツ頂くね」
「はい。たくさんありますから、遠慮しないで食べてください。でも、夕飯も後で食べるんですからその事も考えてくださいね」
「うん、分かってるよ」
そう言えば、ここにはいない桑田クン達の分はあるのかな?朝日奈さんがすごい勢いでたくさん食べているけど…
「石丸君達の分は別にしてありますから、心配しなくても大丈夫ですよ」
彼女のお決まりとなった台詞を聴きながら、ボクは出来立てのドーナッツを頬張った。
朝日奈さんの言う通り、何も付けなくても、熱々で仄かに甘い生地は口の中からすぐに消えてしまった。
舞園さんの笑顔を見ながら食べられる食事は、ボクの不安を吹き飛ばし気力を充実させてくれる。
だけど、ボクに一体何が出来るのか。
彼女の為に何が出来るのか。
才能のないボクに、するべき事がわからない。
ここから出るための方策も思いつかず、みんなに比べて役立たずのボクはどうすればいいのだろうか。
以上で投稿終わります。
速報が復旧して良かった。
今回から会話文の名前表記を止めることにしました。
口調がおかしかったり、誰が誰か分からなかったらすみません。
日常編を後、一回か二回投下したら捜査編に入ります。
次回がいつになるかは、分かりません。
時計の針は夜九時を指そうとしている。
夕食を食べ終え、ボク達は各自で不自由な時間を過ごす。
娯楽のない閉ざされた空間での生活は思っている以上にキツいものがある。
共同生活を営む仲間は見ず知らずの人ばかりで、コロシアイを推奨されてさえいるんだ。
セレスさんが言ったように、裏切りこそが最大の敵だと誰もが感じている。
だけど、ボク達は信用を産み出す土壌がない状態から始まって、疑惑の種子が与えられた。
知らない人を本心から信用する事はできない。
ボクの相談事に集まってくれるのも、そんな事情が絡み合った結果なのかもしれない。
一室に七人も集まると広い部屋も狭く感じる。
秒針がチクタクと動き、九時となった。
「君達、時間厳守で集まってくれてなによりだッ!これから、第一回苗木誠相談会の開催を宣言するッ!!」
沈黙を破る石丸クンの号令によって、場の空気に変化がもたらされた。
「それにしても、意外だべ。興味ないような事を言っていた十神っちまで来るなんてさ」
「俺は苗木になど興味はない」
「はぁ!?それなら、何でテメーはここに来てんだよ?」
「喚くなプランクトン。そんな簡単な事も分からないのか?」
「いやさぁ、オレ達はオメーじゃないんだからわかる訳ないじゃん…」
意外にも十神クンが来てくれた事には驚いた。
しかも、彼が一番最初の訪問者だ。
彼が居ることには皆も驚き、疑問に思ったのだろう。
石丸クンの宣言までの探るような沈黙がその証じゃないかな。
自然と視線が集まり、疑問への解を求めてしまうのも当然の成り行きだった。
十神クンは不快感を隠さずに舌を打ち鳴らす。
「これだから愚民は面倒なんだよ。単純な話だ。俺達はここに閉じ込められ、黒幕の目的も正体も分からない。その上、現状では脱出の手掛かりも尽きている」
「確かに十神の言う通り、どうしようもなくマジでヤバイ状況だよな」
「ゆえにだ。閉塞感に耐えられず、"卒業"の為に誰かが行動を起こしたとしても不思議はないだろう」
そうだ。無いとは言い切れない。
ボクはその可能性をよく知っている。
「そんな中で苗木の話を聞かず、情報の非対称性が発生する事を傍観するのが得策ではないと判断しただけだ」
「つまり、十神白夜殿の考えは苗木誠殿の話を知っておきたいという事なのですか?」
「あーもう、面倒だメンドくせーなぁ!オイコラ、もっと分かりやすく話せよ!!」
「お前らが俺を理解しようとするなど無意味だ。そんな事よりも、苗木。時間の浪費だ、早く話せ」
十神クンに促されてボクが口を開こうとする寸前、
『ピンポーン』
と、来臨を告げる音が部屋に届いた。
「苗木はオレたち以外にも誰か呼んだわけ?」
「いや、ボクは呼んでいないよ」
「一体誰かね?こんな夜分に人の部屋を訪問してくるのは!?非常識ではないかッ!しかも、訪問してくるにも関わらず約束を取りつけていないとは、訪問者としての根性がなっておらんぞッ!!」
「おい、苗木!どの女か知らねーが、とっと出て対応してやれ」
ボクは立ち上がり、扉へと向かう。
開いたドアの先、薄暗い廊下には最も小柄な仲間がいた。
預かり知らない来訪者の正体は不二咲さんだった。
佇んでいる彼女の表情は、とても固くなっているように見えた。
ボクは入口の境を越え、外で対応する事にする。
部屋の中から様子を伺う好奇の視線にさらされては、きっと話しにくいはずだから。
扉を閉め、背後へと向きなおる。
「こんばんは、苗木君」
「こんばんは不二咲さん、どうしたのこんな夜に?ボクに何か用事でもあったの?」
「うん…苗木君にって言うのは少し違うんのかもしれないけどぉ…その、部屋の中に入れてもらっていいかなぁ?」
不二咲さんは今夜の事を知っているはずなのに、どういう事だろうか?
「ごめんね。今日は先約があるから…」
「うん、知ってるよ。だからこそ……"僕"は中に入らないといけないんだぁ……」
「"僕"?」
咄嗟に疑問が口から零れてしまった。
「お願いだよ。苗木君、僕も中に入れて。…僕は変わりたいんだぁ……変わらなくちゃいけないんだ……弱い自分から強い自分に、変わるんだ!」
決意が込められた強い意志が彼女の両目に見えた。
でも、それが何なのか皆目検討もつかない。
「どういう事なのか理由を聞いてもいいかな?」
「うん。僕って実は男の子なんだよ」
「!?」
それは、あまりにも衝撃的な告白だった。
舞園さんが自らの過ちを告白した事とは別種の驚愕だ。
ボクはぽかんと間抜けな表情を浮かべていたに違いない。
思考回路はショートし、再起動に幾らかの時間を要した。
フリーズ状態から復旧したボクは、上から下まで食い入るように何度も凝視した。
しかし、全くわからない。
目の前にいる不二咲さんは可愛い女の子にしか見えない。
「信じられないかな?こんな格好をしていたら…そうだよねぇ…」
目線を下げ、悲しそうな表情をされたら、ボクには疑うという選択を選ぶことは出来かなかった。
「不二咲"クン"がそう言うのなら、ボクは信じるよ」
「ありがとう…苗木君…詳しい事は中に入ってから話してもいいかなぁ…?」
ボクは不二咲クンを伴って部屋に入る。
一人じゃないことで注目が集まる。
「誰かと思えば不二咲っちだったんだべ」
「苗木、どうしてその女を入れたんだ?今日は男同士の話し合いじゃなかったのかよ」
「えーと、それが…」
集まる眼差しに、ボクはなんと答えれば良いのか分からない。
不二咲クンの方へと顔を向けるしかなかった。
「うん。"僕"の口から言うね。僕は男なんだ」
「「「「「「男ッ!?」」」」」」
皆はさっきのボクと同じ反応を示した。
当然そうなるよね。
どう見たって不二咲クンは男の子には見えないんだから。
それに、単純に容姿だけでなく、自然な仕草や雰囲気がとても女の子らしいんだ。
「うん、ありですな、ありですな、ありですな!小柄で可愛い少女の正体は男の娘!不二咲千尋タン、最高じゃないですか!!創作意欲が昂ってきますぞッ!!」
山田クンはものすごく興奮していた。
その反応はセレスさんに下僕扱いされている時よりも、悦に入っているように見える。
「俺は信じられないべ、不二咲っちが男なんてさ」
「オレもだ…正直言ってさ、まだオーガが男だって言われた方が信じられるんだけど?」
桑田クン、それは大神さんにとても失礼だと思うよ。
「そうだべ、そうだべ!男だって言うなら証拠を見せるべ!」
「脱いじゃう?脱いじゃうの?スカートの下に隠れたパンツを脱いで見せちゃうの?」
「不二咲っちのストリップ劇場だべ……金になりそうだな……」
山田クンと葉隠クンが不穏な空気を醸し出している。
普段なら止めに入るだろう石丸クンは未だに固まったまま動かない。
不二咲クンは困惑しながらも、言われるままにスカートへと手を伸ばしだした。
「下らん。苗木、この馬鹿共に教えてやれ」
十神クンの声でボクは性別を証明する簡単な方法を思い出した。
「そ、そうだよ!パンツなんて脱がなくても電子生徒手帳を見れば性別は判るはずだよ」
回される電子生徒手帳。
記録されている情報を見ることで、ボク達は本当に彼女が彼であるのだと理解した。
だからこそ当然として疑問が生まれる。
「ふ、不二咲くん?君は本当に男だったのか…何故だ!?どうして、男子たる者が女性の格好をしているのだ?おかしいではないかッ!!」
「石丸清多夏殿、それは偏見ではありませんか?僕の活動するそっちの業界では日常茶飯事な出来事ですよ」
「ブーデー!テメーの認識を一般常識みたいに言うんじゃねーよッ!!」
多分、この事実をもっともすんなりと受け入れているのは山田クンだ。
逆に石丸クンは一番納得が出来ていないように見える。
「でもよ、何で不二咲は女の格好をしてんだ?普通に考えれば変だろ?」
「決まっているだろう。そいつがそういった趣味の異常性癖の持ち主というだけの話だ」
皆が思うがままに口を開き、自分の考えを述べていく。
不二咲クンは所在なさげにうつ向いて話を聞いている。
「みんな、勝手な事を言わないで不二咲クンの話を聞こうよ。彼は部屋の中に入ったら説明するって言ったから!」
「苗木君…」
顔を上げた不二咲クンの目が少し潤んでいた。
彼が男性であると頭では分かっているのに、思わずドキリとしてしまった。
注目の中で不二咲クンは言葉を紡ぎ出す。
「今まで僕が男である事を黙っていてごめんねぇ……僕ってみんなからはどんな風に見えるのかな?こんな格好をしているし、やっぱり男には見えないかなぁ…?」
「僕は昔から、男のクセにって言われてきたんだ。ずっとずーと、小さい頃から。ボクは見た通り背も低くてね、力も弱くて……僕はそんな弱い自分が嫌いだった。男らしくない自分が嫌だった……」
「僕は弱いから、周囲から向けられる評価に耐えられなかった……だから、女性になりきる事で弱い自分を隠してしまう事にしたんだぁ。だって、僕が男だってバレさえしなければ、もう誰も僕を男のクセになんて言えないでしょ…?服から下着、口癖や趣味に至るまで徹底したよ……例えば、今日ドーナッツを作れたのも、お菓子作りが趣味なんてとっても女の子らしいと思わないかなぁ…?」
「でもね……どんなに、入れ込むように逃げたって、誰にも男のクセになんて言われなくなったって、僕が、僕自身が一番自分が弱い事を知っていた!男のクセにって思ってきたんだ!……僕は弱い、弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い!!」
「だけど……ここに閉じ込められて酷い状況に巻き込まれてしまった。僕は弱いから、皆の足を引っ張っているし、生き残る事は難しいと思う。だからね……強くなりたいって、変わろうって思ったんだ。それに、このまま共同生活を続けていればいつかはバレてしまって……みんなに軽蔑されたりするのが怖かった。だから、ボクは変わる事に決めたんだ!強い自分になるって、本当の自分に、男のクセになんて言われても平気でいられるくらいに、強く変わるんだッ!!」
不二咲クンの話に誰も口をはさむ事なんて出来なかった。
真剣に、自分のコンプレックスと向き合い変わろうとする彼は、ボクの目にはとても眩しく映って見える。
人が変わり、成長しようとする瞬間を目の当たりにしている。
身を切るように、涙を浮かべながらも前に進もうとする彼は、本当に格好良いと思ったんだ。
ボクは、多分、彼に嫉妬している。
強くなろうとする彼に、弱さを認め吹っ切って進もうとする彼に、ボクにはない強さを持つ不二咲千尋に嫉妬せずにはいられなかった。
「……どうしてだ?どうして、テメーは今まで必死に隠してきた秘密を暴露する気になったんだ!?これまで誰も気づかなかった!テメーはいつかバレるかもしれねーって言ったが、徹底して隠せばバレねー可能性は十分にあった筈だ!!」
大和田クンもボクと同じように強く思う所があるのかもしれない。
「きっかけは、多分、朝食会前にみんなの話を立ち聞いてしまったからだよぉ。苗木君の悩みを聞く為に女の子達には秘密で集まるなんて、なんだか男の友情って感じがするでしょ?僕はそう言う男らしいものに憧れていたんだぁ。男らしいものは僕が手にいれるのは難しいから……それでね、本当は男なのに僕だけがそこにいないのがイヤだったんだ。今日、苗木君と話して踏ん切りがついたよ。行動を起こさない限り何も変わらない、クヨクヨ考えずにやってみようって思ったんだ……」
不二咲クンはボクと話した事もファクターの一つだと言ったけど、ボクはそうは思わない。
彼は強い。
きっと、こんな状況に置かれなくとも、いつか自分一人で前に進んだに違いないはずだ。
「ねぇ、みんなはこんな僕を受け入れてくれるかなぁ…?認めてくれるかなぁ…?」
「不二咲クン、ボクは約束したよ!不二咲クンが男だって知って驚いたけど、ボクと不二咲クンは変わらずに友達のままだよ!」
嫉妬するくらい格好良い君とボクの方が友達でいてもいいのかな。
僕の方が弱い。そして、何の才能もない男だ。
でも、ボクだって強くなろうと思う。
ボクは君とは違うから、悩みを吹っ切って進む事はできないと思う。
それでも、悩み続けながらボクは前に進むんだ。
「僕も驚きましたけど、僕は不二咲千尋殿が男と知った事でより惹かれましたね。むしろ、単なる小柄で可愛い小動物的な女の子よりも、男の娘の方が最高です!むふふ…」
山田クンは最初から不二咲クンを受け入れている。
「不二咲っちは山田っちに気をつけた方がいいと俺の占いでは出たべ!俺の占いは三割当たる!!…まあ、俺は男が女の格好をしていたくらいじゃ大丈夫さ。それよりも、不二咲っちの着ている物が欲しいべ。女なら頼みにくいが男なら遠慮する必要もないからよ。コアなファンがいる不二咲っちの服ならきっとネットオークションで高値がつくに違いないべ!」
葉隠クンもある意味ぶれない。
言ってる事はアレだけど。
「不二咲はブーデーだけじゃなくて、葉隠にも気をつけなきゃ危ねーんじゃね?オレも驚きはしたけど…正直に言ってさぁ、不二咲みたいな小柄な子よりも舞園みたいな子がオレのタイプだし……消化すんのには時間がかかるかもしんねーけど、別に軽蔑とかはしねーよ」
桑田クンはすぐに受け入れるのは難しいみたいだ。
確かに、女の子だと思っていたら男の子だったなんて驚きだからね。
「不二咲くん、君がそんな悩みを抱えている事に気づきもしなかった僕を許してくれ、おかしいなどと言ってすまなかった。僕は自分が許せない…気が済むまで僕を殴ってくれッ!頼むから思いっきり殴ってくれッ!!」
石丸クンらしい答えだな。
「…オレは気にしねーよ。面食らったが、バカにはしねー、約束する。心配すんな、オレは男同士の約束は必ず守る。だから、テメーも気にすんな……」
大和田クンはやっぱり思う所があるのだろう。
普段の態度と違って、覇気がない。
「どうでもいいな。お前が男であろうが女であろうが俺になんの関係がある?実につまらん話だ」
十神クンは十神クンだね。
「うぷぷ、本当に十神クンの言う通りつまんない、陳腐な話だったよね。ボクは聞いててアクビが出ちゃったよ」
水をさすようにモノクマが現れた。
もう、こいつが突然現れるのには慣れてきている。
「テメーッ!何しに来やがった!?」
「うぷぷ…心配しなくても学園長としてさ、生徒の成長をお祝いしに来ただけだよ」
「つーかさ、お前の言う事なんて信じられるわけねーだろ…」
ボク達を閉じ込め、あんな映像を用意するモノクマを信じられるわけがない。
「酷いな……不二咲クンが自分から秘密を喋るなんて、ボクは思ってもいなかったんだ。だから、特別に素敵なプレゼントを用意したよ!!」
「プレゼントってなんだべ?一体何をくれるつもりなんだ?」
嫌な予感がする。
首筋がぞわりとする。
だけど、モノクマの楽しそうな声にボク達は従うしかないんだ。
モノクマの指示に従って、体育館からボクの部屋へとあるものを運んだ。
それは箱だった。
モノクマの顔がプリントされている白と黒の四角い箱。
膝位の高さがある正方形の箱が八つ。
見た目は同じでも軽い箱と重い箱の二種類。
箱を移動させたのはボクと不二咲クンの二人だけだ。
この人選はモノクマの嫌がらせに違いない。
当然 、ボクが重い箱を担当し、不二咲クンが軽い方だ。
何度か往復し、全てを運び終える頃には肩が張ってしまっていた。
「もう、苗木クンも不二咲クンも男のクセにひ弱なんだから。みんなを待たせるなんて申し訳ないと思わない?身体を鍛えたら?うぷぷ」
モノクマは実に忌々しい表情を浮かべている。
豊かな感情表現が可能な機械ってどうなっているんだろう。
「誰でもいいから、モノクマボックスを開けてみてよ!さあ、早く、速く!」
モノクマボックス…なんだか安直な名前だな。
そんなことをボクは思い浮かべていたのだけれど、何故か皆の視線が自然にボクへと集まっている。
おかしいな、動機のDVDやモノモノマシーンの件といい、いつの間にボクがこういう役割を担う事になっているんだろう。
まあ、別にいいんだけどね。
苦笑いを浮かべながら、ボクは箱を開ける。
「飲み物とスナック菓子?」
開けられた重い箱の中には飲料が、軽い箱の方には菓子類が敷き詰められていた。
そのどれにもモノクマの絵柄がプリントされていて、どこかで見たことあるような包装だった。
「そうなのです。ボク監修の下で製造されたスペシャルなドリンクと特性パッケージのスイーツなのです!お勧めはジュースの方だよ、とっても美味しく仕上がっているから飲んでよね」
モノクマが箱からジュースを取りだし、わざわざボク達一人一人へと手渡していく。
容器の中身は不気味な青色の液体だ。
まるでチャレンコフ放射光のようで、怪しすぎてとても口にしたくないんだけど。
「もーう、誰か飲んでよ!別に毒なんか入ってないからさ」
モノクマの催促に、十神クンが動いた。
封が開けられた瞬間、部屋全体に香りが拡散した。
今までに嗅いだ事のない、不思議な臭いだった。
それは決して不快な物じゃなく、むしろ、香りを嗅いだだけで脳が綺麗に洗われていくような気持ちがするような、そんな強烈な匂いだった。
ボク達の視線は十神クンが握っている容器から離すことができない。
彼が口をつけて傾けたとき、思わず声が漏れそうになっていた。
何人かが物欲しそうな声を漏らす。
ごくりごくりと彼の喉を通っていく。
ボクの口はいつの間にか唾液で溢れていた。
「これは……何だ?俺にも分からないものだと……」
十神クンの呟きによってボク達は正気に引き戻される。
先程までの自分を顧みて恐怖が生まれる。
同時に、手に握られているこれがなんなのかという疑問、好奇心が湧いてくる。
「うぷぷ。それはね、ボクが作らせた特別性のドリンクだよ。超高校級の才能を惜しげもなく注ぎ込んで完成したある意味究極のドリンクだね!その名も"ゼツボウスイ"!!」
ゼツボウスイ、絶望水だろうか。
不安を煽るような名前に、ボクは嫌な予感に呑まれていく。
モノクマはにやけながら説明を続けた。
「ゼツボウスイの原型は脳に与える効用に注目して開発された物なんだよ。それをボクが手を加える事で理想的な飲物になったんだ。ゼツボウスイは飲む事によってある種の高揚や開放感、多幸感などを与えてくれるよ。ある意味、ドラッグに近い、けれども依存性を極力排除した代物だね」
「でも、それって危ない薬と何が違うのぉ?」
「うぷぷ。依存性って主に二種類に分けられるんだけど、これは身体的依存性を排除したんだ。もっとも、精神的依存性はどうにもならなかったけどね。例えば、君達が何か美味しいものを食べたとして、また食べたいって思う事ない?ゼツボウスイを飲んで生まれる欲求はそれに似ていて、あの気分をもう一度味わいたいって思ってしまうところにあるんだ。もっとも、一度の摂取で依存症になる事は稀だから心配しなくても大丈夫だよ!」
モノクマはどこまで真実を語っているのか、知識が足りないボクには見抜けそうにない。
全てが事実なのだとして、どうしてモノクマはそんなものを用意したんだろうか。
「ゼツボウスイの注意点はお酒と同じで、飲み過ぎれば最悪死んじゃうからね。生命維持に関わる脳中枢機能を麻痺させ、心配停止に陥るよ」
「ひぃぃぃ、やぱりそれって毒じゃないですか!?」
「ゼツボウスイの成分は脳に働きかけ、ボクの望んだ効用を与えてくれるんだけど、それが強すぎなだけだって事だよ!まあ、一つだけ副作用として、翌日は気分に変調をきたすんだけどね……うぷぷぷ」
「気分に変調って、具体的にはどうなるんだよ?」
「飲めば分かるよ。とにかく、ゼツボウスイは用法正しく飲めば素敵な気分を味わえる夢の飲み物なんだってば!それに、味や臭いには随分と拘ったんだ。この芳醇な芳香、嗅いでいるだけでも魅了されてくるでしょ?味だって素晴らしいものなんだからね!そうでしょ十神クン?」
「忌々しいがヌイグルミが言うように、これは美味い…」
確かに、香りだけでボクは魅了されてしまっていた。
あれは蜜を求めて花に誘われる虫のように、ボク達は惹き付けていた。
だけど、ゼツボウスイという花は間違いなく食虫植物だ。
とても危険なものだとボクの感覚に警笛が鳴っている。
「十神が誉めるくらいマジで美味いのかよ…オレもちょっと飲んじゃおっかな…」
「待ちたまえ!!未成年の飲酒は法律で禁止されているぞッ!子供のアルコール摂取は影響がとても大きいのだよ!青少年の健全なる成長に悪影響だッ!!」
「じゃあ、俺は問題ないべ。俺は三ダブしてっから二十歳だしな。それに、これはお酒じゃないだろ?」
「で、でも、聞く限りだと麻薬に近い代物なんじゃないのぉ…?やめておいた方がいいと思うよぉ…」
「そうだね。モノクマが用意した物なんて手を出さない方がいいんじゃないかな?」
「苗木くんと不二咲くんの言う通りだッ!怪しげな飲み物など処分してしまった方がいいに違いない!そうだろ?」
「テメー、固い事言ってんじゃねーよ、飲みてーヤツは飲めばいいだろうが!こんなとこに閉じ込められてんだ、ちょっと気分が良くなるってんなら俺は飲むぞ!今の俺は飲みてー気分だからな」
意見はほぼ半分に分かれてしまった。
ボクと不二咲クンに石丸クンが飲む事に反対する。
一方で、桑田クンと大和田クンに葉隠クンは好奇心からか飲む方へと天秤が傾いている。
場の空気はとても流動的だった。
そんな流れを機敏に読んだのだろう。
「もーうオマエラは仕方ないヤツらだな。ボクは喧嘩させるためにプレゼントをあげたんじゃないんだよ?」
あいつに喋らせてはいけないと感じながらも、ボクには咄嗟に話を遮る妙案が思い浮かばなかった。
「じゃあ、こうしよっか。ゼツボウスイを飲まないヤツはこの間渡したDVDの内容を公表しちゃいまーす!オマエラ、時間は随分あったのに、どんなものが映っていたのか人に教えてないもんね」
モノクマの提案によって、ボク達の退路は塞がれてしまった。
そう、あの映像を視聴した日から何日も過ぎたのに、ボク達は互いに渡されたDVDの内容を教え合っていない。
ボクは舞園さんのDVDを見たけれど、他の人のは知らないのだ。
多分、それがボク達の間にある現在の信頼関係バロメーターの一つなんだと思う。
「うぷぷ、別に、飲まなくても良いんだからね?」
誰も、何も言えなくなってしまった。
この場合の沈黙は飲用する事への賛同に他ならなかった。
「あれ?みんな飲むんだ、つまんないの……それじゃあ、ボクは出てくから後はみんなで楽しんでよね!」
モノクマが退出し、ボク達の間に気まずい静寂が訪れた。
「もーうオマエラは仕方ないヤツらだな。ボクは喧嘩させるためにプレゼントをあげたんじゃないんだよ?」
あいつに喋らせてはいけないと感じながらも、ボクには咄嗟に話を遮る妙案が思い浮かばなかった。
「じゃあ、こうしよっか。ゼツボウスイを飲まないヤツはこの間渡したDVDの内容を公表しちゃいまーす!オマエラ、時間は随分あったのに、どんなものが映っていたのか人に教えてないもんね」
モノクマの提案によって、ボク達の退路は塞がれてしまった。
そう、あの映像を視聴した日から何日も過ぎたのに、ボク達は互いに渡されたDVDの内容を教え合っていない。
ボクは舞園さんのDVDを見たけれど、他の人のは知らないのだ。
多分、それがボク達の間にある現在の信頼関係バロメーターの一つなんだと思う。
「うぷぷ、別に、飲まなくても良いんだからね?」
誰も、何も言えなくなってしまった。
この場合の沈黙は飲用する事への賛同に他ならなかった。
「あれ?みんな飲むんだ、つまんないの……それじゃあ、ボクは出てくから後はみんなで楽しんでよね!」
モノクマが退出し、ボク達の間に気まずい静寂が訪れた。
連投すみません。
以上で投稿終ります。
次回は早いと思います。
結局、ボク達はみんなゼツボウスイを飲んだんだ!
この世にこんなに美味しい物があるなんて素晴らしいよね。
モノクマは最低だけど凄いヤツだよ。
こんな物を作ってしまうなんてさすがモノクマだよ!
鬱憤なんてどこかに飛んじゃったよ。
みんなも心から笑っているし、ゼツボウスイ様々だね。
ついつい手が伸びて、もう一箱が空っぽだし、あはははは。
「おい苗木、不二咲の話は無事に終わったわけだ。そろそろお前の悩みを打ち明けたらどうだ?」
「そう言えば、今夜集まったのってボクが発端だったね。楽しいから忘れちゃってたよ」
「うんうん。もう、誠君てばしかたないね。僕の決意表明みたいになっちゃてごめんね」
もう、何を言ってるんだチータンは。
「あの時の千尋クンは格好良くて、ボクは嫉妬しちゃったよ」
「誠君のおかげだよ」
「千尋クン自身の強さだよ」
ボクとチータンは何がおかしいのか、面白いのか、バカみたいに笑っている。
誰もが心から楽しそうに笑顔を浮かべていた。
「お前ら、仲が良いな。俺が命じてやる必要などないようだな」
「何を言ってるんだ!十神クンがいないとダメだよ。実はボクって十神クンに憧れてるんだから」
「そうだね。十神君はいつでも唯我独尊って感じだよね。人の態度なんて気にしない所は僕も見習いたいなぁ」
「僕の悩みも十神クンの手にかかればすぐに解決しちゃうんだろうね」
「分かっているじゃないか。この俺が聞いてやる以上は解決されたも同然だ!十神の名にかけて!!」
みなぎる自信、血筋から何かまで完璧な十神クンは流石だな。
「これがゼツボウスイの力ですか!?十神白夜殿が、十神白夜殿がデレましたぞ!!」
「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイに違いないんだべ!?明日はきっと誰か死ぬに違いない!今の俺の占いは十割当たる!!」
山田クンもデレとか何言ってるんだ。
十神クンは普段からごくごくごくごくたまに優しいような気もするよ。
錯覚かもしれないけどさ。
葉隠クンはついに覚醒してしまったんだね。
三割の時点でおかしいんだから、秘められた力が解放されたんだな。
「ボクの悩みなんて不二咲クンに比べたら大した事ないよ。実は、ボク先日ね、告白したんだ」
あれ。
何でみんな驚いた顔してるんだろ。
ボクが告白しただけなのに、変なの。
「おいおい、マジかよ?苗木、誰に告白しちゃったの?やっぱり舞園?俺が狙っているようなこと聞いたから焦って告白しちゃったの?」
そうそう、流石野球神の寵児桑田クンだね。
その通り、舞園さやかちゃんにだよ。
でも、教えてあげれないんだ。
その件についての僕の口の固さはベルリンの壁の如く、ディアブロの喉笛の様に、ビッグバンの爆発だ。
「いやいや桑田怜恩殿、僕はご主人様にじゃないかと思いますね。苗木誠殿はブタである僕を差し置いてご主人様と親しくしているじゃないですか?」
セレスティア・ルーデンベルクさんとはボクより山田クンの方が仲がいいと思うよ。
セレスさんてば山田クンがいない時はボクに紅茶を頼むけど、普段は山田クンに頼んでいるでしょ。
それに、彼女には男としては興味ないってはっきり言われたよ。
あはははは。
「それを言えば、江ノ島さんとも仲良く話していないかなぁ?」
チータンてば江ノ島さんは隠しているつもりで絶対ミリオタだよ。
レーションとかホームレスとか、新聞紙やダンボールの温かさとか語れるくらいのレベルだってば。
ギャルのイメージに合わないから公表できないのかな。
彼女の事は良くわからないよね。
「霧切じゃねーのか?あの女と普段から話しているヤツなんて苗木位しか見たことねーぞ」
霧切さんはミステリアスだよね。
いつも、手袋してるし、ボク達の誰も見つけられない物を発見するし、常に冷静だ。
まさか、監視カメラ全てに映らないように遮ってしまおうなんて普通しないよ。
あの時のモノクマの慌てようにボク達の溜飲は下がったよね。
わざわざ校則に"故意による監視カメラの遮断を禁じます"なんて追加されちゃったし。
彼女は珈琲党みたいだね。
霧切さんは本当に謎だね。
「馬鹿共が。苗木はどの女達とも基本的に分け隔てなく話している。ここ数日の内に態度が急変し、奥尾を出すようなヤツはいなかった。推測するだけ無駄な事だ」
流石は十神クンだ。
ボク達に興味のない素振りをしつつも、観察は怠っていなかったんだな。
「苗木ーーーッ!不純異性交友は許可されていないぞーーーッ!!」
「別に校則にそんな事は書かれて……」
「校則に書かれていなかろうとこの俺が許さんぞーーーッ!!」
あはははは。
石丸クンはテンション高いな。
「か、固い事言うなよ……てか、石丸おかしくなってね?」
「桑田っち、石丸っちは元々少しアレだった」
「苗木、お前の悩みは告白に失敗して振られたにも関わらず、今までと同じ女が態度で接してきているという事か?」
もう、十神クンは何を言ってるんだ。
失敗前提で進んでいるよ。
確かに、超高校級のみんなとボクは不釣り合いだからそう思われても仕方ないのかな?
「それは違うよ!相手もボクの事を好きだって言ってくれたんだから」
いやいや、みんな驚き過ぎでしょ。
何で、血走った目でボクを睨んでいる人の方が多いの?恐いよ。
助けて、チータンと十神クン!
「待て待て待って、苗木ちゃん。それのどこに悩みがある訳?自慢?もしかして自慢したかったのが悩み?」
あはは、自慢な訳ないじゃないか。
ボクの話をみんなが遮るから説明の途中なだけだよ。
「苗木でも成功してるのに……なあ、苗木、そのよ、告白成功のコツってヤツを俺に教えちゃくれねぇか……」
「大和田ーーーッ!不純異性交友はこの俺が認めんと言ってるだろがーーーッ!!」
「あん!?うるせぇーーーッ!テメーにそんな権利ねえだろがぁ?俺は告白十連敗中なんだよ!!切羽詰まってんだぞぉ!?」
「大和田っち心配すんな。次の告白は無事に成功するはずだべ。今の俺の占いは十割当たる気がする!!」
良かったね大和田クン。
世紀の大預言者葉隠康比呂のお墨付きだよ。
「誠君は誰かと付き合っているって事でいいのかなぁ?誰に告白したか教えてくれないかな?」
「千尋クンごめんね。相手が誰かは秘密だよ」
「そっか、秘密なんだね?」
どうしてかな。
チータンの笑顔が怖いと僕の超高校級の幸運が告げているよ。
まさか、今の会話だけで分かったって言うの?
チータン、君はいったい……
「どうしたの?誠君」
「千尋クン、ボクは負けないよ。君の友達としてボクも前に進むんだ!」
「おい苗木、交際しているという認識で良いのか?」
「うーん、それがボクにもそこのところがよくわからないんだよね。お互いに好きだとは伝えたんだけど、付き合ってとは言っていないし……」
「つまり、苗木の悩みは相手の女との関係に関する事か?」
十神クンの言う通り、悩みの原因の一部はそこから来てるよね。
「うん。それも、ちょっと悩んでる事の一つだよ」
「詳しく話せ。詳細が分からなければ指示を出せないだろう」
「そうだね。彼女にはボクにリードして欲しいって言われたんだけど、ボクは経験がないからよくわかんないんだ……」
「あれ?苗木誠殿、リードとかって事は相手は付き合っているつもりなのだと思いますが?それよりも、経験って、経験ってどういう意味?」
そりゃ、山田君。
経験って言ったら男女交際全般だよ。
男と女のアレとかだよ。
「ブーデーは鼻息荒げてんじゃねーよ!苗木、間違っても俺達付き合ってんのとか聞くなよな、そんな事言ってくる時点で相手は付き合ってると思ってっから、聞いたら面倒な事になるって」
「そうなの桑田クン?」
「ああ。俺は付き合ってないつもりだったのに、向こうは勘違いしていてさ…スゲー面倒な事になった俺が言うから間違いねーよ」
「そ、そうなんだ」
桑田クン、君のおかげで助かったよ。
多分、そのうちにその地雷を踏み抜いて大爆発だったね。
「苗木誠殿、経験って?もうどこまで行ったんですか?キス以上?セックス未満?それとも既にアブノーマルの領域へ?」
手を繋いだだけだよ。
彼女の手はすべすべして柔らかいんだよ!
流石は超高校級のアイドル。
動作の所作が、どれ一つとっても人を惹き付ける何かがあるんだよ!
寝顔や起きた時の仕草とかは、ボクの脈は不規則な変化を刻んでしまわずにはいられなかったんだから。
「ボク達は寝たけど……」
空気が凍った!?
どうして、みんな固まっちゃたの?
ボクにそんな能力はないはずなのに。
「苗木誠ーーーッ!き、君と言うヤツがそんなふしだらなヤツだと俺は思っていなかったぞーーーッ!!」
「可愛い顔した苗木っちが既に大人の階段を登っていたんだべ」
「マジかよ…俺は…苗木に負けたのか?」
「ま、待ってよ。ボクは一緒のベッドで眠ったけど何もしてないよ!」
本当だよ。
信じてよ。
ボクは何もしてないよ。
「いやいや、そんな状況になったら男なら夜の千本ノックをするって……恥ずかしいからって嘘吐くなよ苗木」
「本当だってば」
「苗木っちは真実を言っているべ。俺の占いは十割当たるに違いない!」
葉隠クン。
君は本当にアレだけど、君の占いは神がかってるよね!
「苗木、お前の悩みの解決には経験がない事が問題なのか?」
十神クン、ボクの悩みはそれじゃないよ!
どうして、そう思っちゃったの?
「まあ、皆まで言う必要はないさ。苗木っちの悩みは俺、十神っち、桑田っちの三人がいれば問題ないんだべ」
「何でその三人なのぉ?」
「経験済みだからさ。今の俺の占いは十割当たると信じている」
「つー事は、俺の武勇伝を話せばいい訳か」
「俺は世界を統べる十神の一族だからな。無論、姓技についても修めている」
「俺は占いやってからよ、女とやるなんて結構簡単だったんだべ。もっとも、占いにのめり込みすぎてる女ってヤツは地雷ばっかなんだけどな……」
「なんたることだーーーッ!俺の目の前に風紀を乱すヤツらがいるとは、けしからんぞーーーッ!!」
「三人とも、は、早く、詳しく、緻密に、情緒溢れるように話してください。僕のパトスが迸って止まらない!」
どんな時でもネタ探しを行おうとするなんて同人会のスターだね。
まあ、興奮している山田クンには申し訳ないんだけど、ボクの悩み違うから。
桑田クン、君の夜の千本ノック伝説は前に少し聞いたから!
十神クン、姓技っていったい何?
十神家に伝わる一子相伝の何かなの?
葉隠クン、君って人は……
「あのさ、十神クン達には悪いんだけど、ボクの悩みは違うからね」
「…面倒だ。苗木、お前の悩みとは何なんだ?回りくどいのはなしだ」
「ボクの悩みは平均的で平凡な事だよ。ボクは超高校級の幸運だけど、抽選に当たっただけだ。それも、現状を見れば幸運よりも不運とか薄運や非運、厄運の方がお似合いだ」
「そんなボクと違って、みんなはすごい才能を持っていて活躍している。才能のないボクには、想像する事は出来ても理解や共感する事は無理なんだっておもいしったんだ。だって、ボクには特別な所なんて何もないんだから。もし、胸を張って言えるものがあるとしたら、人よりも少しだけ前向きな事だけだよ」
「でも、ボクのそんな特徴も決して特別なものじゃない。多分、それは誰の中にでもあるものなんだ。何もないボクだけど、前に進むしかないって事は分かっているよ」
「だけど、ボクは千尋クンのように吹っ切って前には進めない。悩みながらにしか歩めない。何もかもを引き摺って行く人間だよ。そんなボクに何が出来るのかな?」
本当にボクに何が出来るって言うんだろ。
それがボクには分からない。
前に進むとは思っても具体的にどうれば良いのかが分からない。
「苗木。俺からすればお前は大多数の愚民の一人だ。側にいる事さえ不快、戦おうともせず、己の無知を恥じるだけで抜け出そうともしない愚図だ。お前は自己に陶酔し、安寧に身を任すだけの痴れ者なのか?そもそも、低次元の人間に高次元を理解するなど不可能だ。覚悟があるなら這い上がり、己を貫いてみせろ。その時は、お前を俺は認めてやろう」
「誠君は強い人だよ。僕に踏み出す勇気を与えてくれた。誠君の前向きな所は人に影響を与えられるだけの物で、何もないなんて事はないよ!僕はこれから強く変わる。モノクマにも言われちゃったけど、本当に非力だからね。トレーニングから始めるよ…誠君も一緒にやらないかなぁ?」
「一応、年長者としての助言だ。俺は自分がどうしようもない人間だと知ってる。胡散臭いし、オカルトは嫌いだが商売になるなら手も出す。信条なんてあってないもんさ。そんな俺からすれば苗木っちは真っ当な人間だ。自分を卑下する事なんてないべ。今の俺の占いは十割当たる。苗木っちの進む先で、苦難や選択を迫られる時が来る。だけど、最後まで諦めずに必死に前へと向かえば、自ずと道は開かれるはずだべ」
「苗木はさ、なんだかんだ言ってもさ、超高校級の幸運だよな。女子の中の誰かと付き合ってんだろ?舞園は言うまでもねーし、霧切やセレスとかは性格に難はあるけど美人だろ?江ノ島も雑誌と違って残念に感じたけど悪くはねーよ。朝日奈は良い胸してっし、オーガも頼りになるよな。腐川は十神しか眼中にねーから除外だしな。誰にせよ、どう考えても幸運だろ?」
「苗木誠殿はずるいんですよ。僕が言うのもなんですが、僕達ってみんな性格に癖がある人ばかりですよね。それなのに、その誰とでも気がねなく話て仲良くなっている。まるで、ギャルゲーの主人公のようで羨ましい…本当に卑怯です」
「テメーは俺にもビビらずに話しかけてくるし、パシリのように扱われても文句を言わねー。ただ単に、俺にビビって従ってるって感じじゃねーんだよな。俺は直ぐに頭に血が上って、声を張り上げて怒鳴るし、手も出ちまう。そんな俺とも普通に話してくれる苗木は良いやつだよ。そのよ、体育館で殴っちまって悪かったな……」
「苗木ーーーッ!人生には努力を費やすだけの価値があるんだッ!ただ、才能があるだけではダメなんだよ!悩みながらも前に進もうとする姿勢は正解だと思うぞッ!諦めず、直向きに、たゆまぬ努力をし続ければ天才を超えられるはずだッ!!そうだろ?」
ボクは……………
?モノクマとの密会劇場?
モノクマ「誰もが学園から脱出したいと望んでいて、手がかりを探しても見つからない。キミは見ず知らずの人間と親しい身近な人間ならどちらが大切かな?」
モノクマ「選択を迫られた時、すぐに行動へと移行した人が現れたのには期待したんだけどね。邪魔が入ってしまった」
モノクマ「しかも、邪魔者はボクの隠し札を一枚無効にしてくるしさ、ホント参っちゃうよ」
モノクマ「膠着状態から脱する為には変化が必要だ。だから、ボクは機会の提供を行っただけなんだ」
モノクマ「ボクの予想と現実は解離し始めている。それなら、変化に合わせた修正を加えなくちゃいけない。それには、現状の正しい認識と分析が必要不可欠なんだ」
モノクマ「だから、ボクは遠慮なく手札を使うし、必要なら切り捨てるよ」
モノクマ「うぷぷ。でも約束は守ってあげるよ。キミが約束を履行できたならね」
「………………」
モノクマ「うぷぷ。うんうん、まあ、頑張ってよ。期待はしてないけどさ」
以上です。
次回は明日も同時刻位に更新します。
エロティックな文が書きたいのに書けないです。
「目が覚めたならどけ」
どう言うことだろう。
どうして、ボクの目の前に十神クンがいるんだろう。
とてつもなく、不機嫌そうな顔をして、眉間に皺が寄っている。
つい、空想に逃げたくなるような状況だ。
「えっ?何で十神クンが?」
「ここは俺の部屋だ。苗木、覚えていないのか?」
分からない。
ボクは何故、パンツ一枚だけしか着ていないんだ。
何があったらボクごときが十神クンの腕に抱きついて眠る事案が発生したんだ。
全く何一つ覚えていない。
でも、十神クンが不機嫌になるのも当然だ。
僕みたいな凡人の中の凡人が側にいるんだから。
「僕の悩みを相談したところまでは覚えているけど、その先は霞がかかっているように、思い出せないよ…」
「そうか。覚えていないのなら無理に思い出さない方が良いこともある……」
あの十神クンが人を気遣うなんて、いったいボクはどんな醜態を晒してしまったんだ。
死んでお詫びをすべきだろうか。
でも、ボクみたいな塵芥が死んで赦されるなんて事ないよね。
「服を着たら不二咲を連れて出ていけ。俺は一日中部屋で寝る事にしたからな…これがゼツボウスイの副作用か…俺以外のヤツも今日は出てこれないかもな……」
よく見てみると、十神クンの顔色が悪いように見える。
今まで気づかなかったなんて、ボクはなんてマヌケなんだ。
それに、言われるまで千尋クンの存在にも気づかなかったし、本当にダメダメだ。
それにしても、何で千尋クンは下半身だけ晒け出して寝ているの?スッポンポンだよ。
パンツとスカートはどこに消えたの?
ボクと千尋クンは身なりを整えて十神クンの部屋を後にした。
千尋クンの顔色も十神クンと同じようによろしくない。
「不二咲クン大丈夫?」
「誠君、どうして名字の方で呼ぶのぉ?夜は名前で呼んでくれていたのに…」
そりゃ、ボクなんかが超高校級のプログラマーである千尋クンを名前で呼ぶなんて失礼だからだよ。
でも、千尋クンが望むなら名前で呼ぶよ。
ボクのような路傍の石のために千尋クンが悲しんじゃいけないんだから。
「ごめんね。まだ慣れていないから言い間違えただけだよ。千尋クン」
「良かったぁ。嫌われちゃったのかと思って心配したよぉ」
ボクが人を嫌うなんて、消ゴムのカス未満の価値しかないのに許されるはずないじゃないか。
「すごいねゼツボウスイって。僕も今日は部屋で休んでいる事にするよ。誠君は大丈夫なの?」
「ボクも何だか随分と疲れているような気はするけど、そこまで深刻じゃないかな?」
「そっかぁ。僕が男だって事は明日の朝食会で女の子達に説明するね。誠君、本当にありがとう」
千尋クンを部屋に送り、ボクは自室へと足を向けた。
ちょうど、通路の先で扉が開いた。
石丸クンがボクなんかの部屋から出たところだった。
「石丸クン、おはよう」
「苗木くんか、おはよう。丁度良かった。君に会いに行こうとしていたところだったのだよ…」
石丸クンを煩わせずに済むなんて、ボクの役立たずな幸運が働いたのかな。
「そうなんだ。良いタイミングだったわけだね。それで、どんな用があったのかな?」
「済まない苗木くん。僕達は君の部屋を酷く汚してしまった。僕が責任をもって清掃をしておくので当分部屋に立ち入らないでくれないか?」
そんな、ボクのような人間以下の存在に気を遣うなんて、申し訳ないよ。
でも、石丸クンの好意を無下にしちゃ、それこそ切腹ものだよね。
「ボクの部屋だし手伝うよ」
「いや、君は見ない方がいい。本当に酷い惨状なのだよ。頼むから僕に任せてくれ。十神クン達はどうしているのだ?」
「彼らなら今日は部屋で一日中休むって言ってたよ」
石丸クンに直角で頭を下げられてしまったら、手伝うなんてもう言えないよ。
「そうか。そう思うと苗木くんは元気そうに見えるな?」
「多分、体質か何かじゃないのかな?」
「ふむ、そう言うものか。済まないが苗木くんは女性達に朝食会に行けない旨を伝えておいてくれないか?男子はおそらく君を除いてあまり動けそうにない……」
ボクのようなミジンコの部屋にまだみんないるのかな。
おっと、ミジンコに失礼だよね。
それにしても、ボクがそんな大役を担うなんて、荷が重すぎるけど、頑張らないといけないな。
「分かったけど、石丸クン大丈夫?」
「心配無用だ、根性で切り抜ける。掃除が完了したら伝えるが…苗木くん、朝食会に行く前にシャワーを浴びた方が良さそうだぞ。廊下に出たから気づいたのだが、酷く臭いがこびりついている」
「言われてみればそうかも。少し鼻が麻痺してたのかな?」
「多分、そうではないかね?ボクの部屋のシャワーを使うといい。鍵を渡しておこう。ちょっと待っていてくれたまえ、君の部屋から新品の服の替えを取ってくる」
流石は石丸クン、超高校級の風紀委員として身だしなみには厳しいね。
危うく女の子達に不快な思いをさせてしまうところだったよ。
しかも、わざわざ部屋の鍵を貸してくれたり、服を持ってきてくれるなんて、いくら感謝を述べても足りないよ。
ああ、最悪だ。
念入りに身体を洗っていたら朝食会の時間に遅れてしまった。
ボクはどれだけ愚図なんだろうか。
食堂には、既に女の子達が集合していた。
「みんな、遅れてごめん」
「苗木君おはようございます。何だか顔色が良くないようですけど、大丈夫ですか?」
「おはよう。うん、ちょっと疲れている気がするだけで大丈夫だよ」
「そうですか……」
舞園さんを心配させてしまうなんてボクは何をやっているんだ。
これだから、ボクは肥溜めの肥料にもなれないんだ。
「苗木、本当に遅いよ!十神とかが遅いのは分かるけどさ、男子の全員が遅刻ってどういう事?」
「うむ。それに、不二咲の姿も見当たらぬな」
「そうね。真面目な石丸君や不二咲さんが遅れているのは少し変じゃないかしら?」
「そうですわね。苗木君は男性の皆さんが遅れている理由をご存知ではありませんか?」
「実は、昨日の夜、男子全員と不二咲さんが集まって親睦会みたいなのを開いていたんだ」
「ふ、不潔よ…!あ、あんた達、よってたかって不二咲を襲ったのね……小柄で非力だから狙ったんでしょ…?朝まで溜まりに溜まった肉欲に身を任せて盛っていたから…だから、来れないんでしょ…?」
腐川さんは何を言ってるの。
千尋クンは男なんだから、そんな事があるはずないじゃないか。
だいたい、ボクなんかが誰かと性的な関係になるなんてボイジャー1号の電池がきれる位早いよ。
「真か苗木?」
「そんな事してないよ。腐川さん変な事言わないでよね。実は、その場にモノクマが現れて変な飲み「ゼツボウスイだよ!!」」
「苗木クンはどうして教えてあげた名称をちゃんと覚えてくれないのかな?温厚なボクでも怒っちゃうよ?」
モノクマごめんね。
でも、クマに過ぎないモノクマになんて気を遣う必要なんて皆無だよね。
モノクマはボク達を閉じ込めたボク以下の畜生なんだから。
「名前なんてどうでも良いでしょ、それよりゼツボウスイってなんな訳?」
「ゼツボウスイはボク特製のドリンクだよ、説明を何度もするのは手間だから詳しくは苗木クンに聞いてよね。簡単に言えば飲むと元気になれるよ。男子が来れないのはゼツボウスイの副作用だね……何で苗木クンは平気な顔で来てるの?昨日随分と飲んでた筈なのに……」
モノクマは不思議そうにボクを見ていた。
だけど、ボクなんかが知るわけないじゃないか。
あれを作ったのはモノクマのはずだろう。
「体質か何かじゃないの?」
「……ふーん。まあいっか。オマエラの中で欲しいヤツがいたらあげるよ!欲しい?」
「では、わたくしは頂いておく事にしますわ。少し興味がありますから」
「あたしも貰っておくよ」
「江ノ島さんとセレスなんとかさんの二人だけ?他はいらないの?」
セレスなんとかさんって、モノクマのクセにそんな態度を取るなんて生意気だよ。
セレスティア・ルーデンベルクはセレスさんがきっと必死に考えた至高の名前なんだから、ちゃんと呼ばないとダメじゃないか。
ボクにそう思わせるなんて、モノクマはどれだけ最低なポンコツなんだろう。
セレスさんはポーカーフェイスが上手だけど、きっと内心ではイラッて来てるはずだよ。
「あ、あんたが用意した飲み物なんて、飲むわけないでしょ…!」
「ちぇっ、つまんないの。後で二人の部屋に置いておくから飲んでね。他の人も欲しくなったら僕を呼んでよ。今日中ならあげるよ、明日以降はモノモノマシーンに加えておくから、欲しい人は頑張ってね!」
ボクはモノクマが去った後で、みんなに男子が来ない理由とゼツボウスイについてのモノクマが言った事を伝えた。
ボクなんかの下手な言葉で分かってもらえるか不安だったけれど、それは杞憂に終わった。
朝食を食べ終え、食器の片付けを済まし、ボクらは各自で自由な時間を過ごし始めた。
「苗木君、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ舞園さん」
舞園さんがボクなんかの体調を気にしてくれるなんて申し訳ないな。
納得してもらえないみたいで、何かを思案しているみたいだ。
「よーし、心配ですから今日は一日中ずっと苗木君と一緒にいる事にします。無理しないで、何か要望があったら言ってくださいね!」
彼女の決意は固そうだ。
ボクなんかの為に、舞園さんの時間を使わせてしまうなんて、ボクはどうしてこんなにも役立たずなんだろうか。
「ありがとう。じゃあ、早速一つ頼んでもいいかな?」
「はい。私に出来ることなら大丈夫ですよ」
「ボクの部屋、昨日の騒ぎで汚れているらしいんだ。掃除は石丸クンが責任をもって行うそうだから問題ないんだけど、ボクはモノモノマシーンを回さないといけないから。それで、出てきたものを一時的に置かせてもらってもいいかな?」
「ええ、それぐらいかまいませんよ。それじゃあ早速、向かう事にしましょう」
モノモノマシーンからは相変わらず使えるものが出てこない。
今日の戦利品は変なものばかりだ。
スリッパ、電話、こけし、甲冑、全くもって役に立つ気がしない。
ボクと舞園さんは苦笑を浮かべながら、購買部を後にし、彼女の部屋に向かった。
「苗木君が私の部屋に来るのって初めてですね」
「そう言えばそうだね。舞園さんがボクの部屋に来た事は何度かあったけど、逆は初めてだよね」
「もう、そんなに部屋をマジマジと見ないでください。少し恥ずかしいですから」
「ご、ごめん。でも、部屋の間取りとかはほとんど変わらないんだね」
そうだよね、ボクなんかが人の部屋をじっくりと観察しようとするなんて 、何をやっていたんだろう。
それにしても、どことなく雰囲気が違うように感じる。
やっぱり、女の子の部屋だからなのかな。
なんだか、良い香りがすると思うんだ。
「苗木君ッ!」
「えっ?もしかして声に出てた?」
「いえ、表情が少し、その、鼻の下が伸びていたと言えばいいんでしょうか…」
「うぅ、ごめんね」
「いったい何を考えていたんですか?」
「えっと、いや……」
「教えてくれないと許してあげませんよ」
「その、良い香りがすると思ったんだよ。女の子の、舞園さんの匂いがするって」
「そ、そうですか」
「う、うん。そうだよ」
ボクのせいで、気まずい空気を作ってしまった。
舞園さんは恥ずかしいのか頬がうっすらと朱色に染まっている。
ボクなんかのせいで、ボクごときのせいで。
「そう言えば、どうして昨日は親睦会を開いたんですか?不二咲さんを呼ぶなら、私達も呼んで欲しかったな」
「うーん、昨日のは男子だけで行う予定だったんだ。不二咲さんはボク達の会話を聞いてしまって参加する事にしたそうだよ」
そう、みんなは集まってくれて相談にのってくれたんだ。
もっとも、主役は千尋クンだったような気がする。
まあ、ボク程度の人間が主役を担えるわけがないから当然だ。
まさか、千尋クンが男なんて事実は思いもしなかったのだから。
「苗木君、何か私に隠していませんか?」
「あはは…明日の朝食会で分かると思うから、今は内緒じゃダメかな?」
「分かりました。楽しみにしても大丈夫ですか?」
「出来たら、あまり驚かないで欲しいな」
ボクなんかじゃボロを出してしまうかもしれないけど、千尋クンとの約束だ。
舞園さんに秘密を作らなければいけないなんて、ボクは最低最悪の卑劣漢だよね。
舞園さんは納得してくれたように見えるから大丈夫だと思うけど。
「苗木君達が男子会を開いたように、女子会を開こうって考えたんですけど、どう思いますか?」
「良いんじゃないかな。ボクも昨日はみんなの新しい一面を知る事が出来たし、こんな状況だからこそ仲を深める事は大切だと思うよ」
「そうですよね。後で、みなさんに聞いてみます」
「うん、それが良いよ」
「少し、気になったんですけど、ゼツボウスイって美味しかったですか?」
やっぱり、舞園さんも気にはなっているんだね。
「美味しいかったよ。でも、飲用するのはあまりおすすめしないかな」
「どうしてですか?」
「気分は良くなったはずなんだけど、ボクは飲みすぎたせいなのか記憶がちょっとあやふやになってるんだ」
「記憶が!?私聞いてませんよ!大丈夫なんですか?」
言えば、舞園さんは心配するから。
「大丈夫だと思う。だけど、十神クンに思い出せないなら忘れた方が良いって言われるくらいだから、何かしちゃったのかもしれない」
「セレスさんと江ノ島さんは大丈夫でしょうか?」
「心配だね。飲み過ぎると危ない事や翌日にかなり影響が残る事は伝えたから、思い止まってくれるかもしれないけど」
「私もちょっと興味があったんですけど、やっぱりモノクマさんに貰うのは遠慮しておく事にします」
「その方が良いと思うよ。朝と違って、ボク達の時はDVDの内容を公開する事をたてに半ば強制だったからね」
「そうだったんですか。でも、それならどうしてモノクマさんは朝はそうしなかったんでしょうか?」
「言われてみれば、何か意図や目的があったのかな?」
「可能性はあるかもしれませんね」
舞園さんがゼツボウスイを飲まなくて良かった。
ボクは舞園さんにはあの飲物を飲まないでいて欲しい。
あれ!?どうしてボクはそんな事を思ったんだ。
昨日のボクは、あれをあんなに…?あれ?あれれ?
何かがおかしいと、何がおかしいはずだ。
ボクの思考が何かに届こうとした。
頭の中の霞に切れ目が見えかけた。
だけど、馬鹿みたいな明るい声に遮られ、つかみ損ねた何かはどこか遠くへと離れていってしまった。
「オマエラ、ボクがいないからって酷くない?」
つかみ損ねた何か、それがボクなんかには分からない。
目の前の機械仕掛けの畜生が嫌いでしかたない。
「そんな嫌そうな顔されると傷ついちゃうよ…」
「いったい何のようだ?」
「まあ、オマエラがとっとと行動しなくて暇だから遊びに来ただけだよ」
「モノクマさんは普段から暇なんですか?」
舞園さんはこんな粗大ゴミにも敬称をつけるなんて優しすぎるよ。
もっと蔑んで、罵ってかまわないと思うんだ。
「うーん、ボクは割と忙しいよ。する事がなくなって怠けているオマエラよりはね。食料の搬入や監視カメラでの確認、やる事はいっぱいあるんだ。オマエラがコロシアイをしてくれる事が楽しみで楽しみで頑張ってるよ!」
「ボク達はコロシアイなんてしないよ!」
「うぷぷ、そうかな?オマエラは必ず殺って殺って殺り合うよ。舞園さんは桑田くんを早く殺してよ、中途半端に止めちゃって拍子抜けだよ。甘さを抜いたケーキだよ」
「私はもう誰かを殺そうなんてしませんよ」
「アイドルの仲間を見捨てちゃったの?苗木クンがそんなに良いの?夢より愛なの?」
「私は苗木君を信じる事にしたんです。みんなのことも…」
舞園さんがボクなんかを信じてくれるなんて、感激のあまり涙が出そうだよ。
「うぷぷ。うぷぷぷ……信じるね。ここから出る為に苗木クンを騙して、裏切って、利用しようとしたのに?キミから一番遠い言葉じゃないのかな?ねえ、苗木クンの事が好きって言うのも本当なのかな?ねえ、舞園さーん?」
「お前はッ!」
「じゃあ、苗木クンが怒るからボクは帰るね。苗木クンもあんまり舞園さんを信じない方が良いと思うよ。そんな怖い顔しないでよね。うぷぷ」
あの屑機械め、いったいなんなんだ。
「舞園さん、あいつが何て言おうとボクは信じてるよ」
「苗木君、ありがとう…」
ボクと舞園さんは昼食の為に、少し早い時間に食堂へと移動した。
時間が早く、半数が休んでいるためだろうか。
食堂は一人もおらず、閑散としていた。
昼食を舞園さんと一緒に作ろうとしたのだけど、止められてしまった。
ボクなんかの心配をする必要はない。
だけど、彼女の配慮を考慮しないことが出来るはずもなく、ボクは食堂で舞園さんを待つ事となった。
ボーとしていると声をかけられた。
「おい、苗木」
「大和田クンか、もう体は大丈夫?ボクに何か用かな?」
「あまり大丈夫じゃねーな。俺の用は兄弟からの伝言を伝えに来ただけだ」
「兄弟?」
大和田クンの身内がこの中にいたのだろうか。
苗字が違うって事は複雑な家庭の事情があるのかもしれない。
ボクなんかが聞いてしまったら迷惑に違いないよね。
「おうよ。石丸の事だ。俺と兄弟は熱い友情で結ばれてっからな、そう呼ぶ関係なんだよ」
「そうなんだ」
「それで、兄弟から言伝てだ。掃除が今日中に終わらねーから、今日は兄弟の部屋に泊まって欲しいそうだ」
石丸クンと大和田クンは仲良くなったんだね。
ブラザーか、アミーゴか、友よか、うんそういう意味での兄弟なら納得だ。
でも、ボクの部屋なんて汚くてもいいんだよ。
無理しなくても、ボクが掃除をすればいいだけなんだから。
石丸クンの部屋に泊まるのだって。
「そんなの悪いよ」
「テメーは気にすんじゃねえ。体が怠くて掃除が捗らねんだよ。それに、兄弟は俺の部屋に泊まっから心配はいらねーよ。じゃあな、苗木」
大和田クンは言いたい事だけを告げると、食堂から出ていってしまった。
その足取りは重く、無理をして来たのかもしれない。
申し訳ない気持ちでいっぱいになっていると、厨房から出てくる舞園さんの姿が見えた。
「お待たせしました。どうかしたんですか?」
「少しね。部屋の掃除が進まないみたいで、今日は石丸クンの部屋に泊まるように言われたんだ」
「問題があるんですか?」
「何だか、とても申し訳ない気がしてね」
本当に、何でみんなはボクなんかを気にしてくれるんだろうか。
「苗木君、本当に大丈夫ですか?今日の苗木君は少し変だと思います」
「そうかな?」
「ええ。後ろ向きと言えばいいんですかね?」
「ボク自身はいつも通りだと思うんだけど」
うん、いつも通りのはずだよね。
「決めました。今夜は私の部屋に泊まってください」
何を言ってるんだ舞園さんは、そんなのダメだよ。
ボクなんかを部屋に泊めるなんて何を考えているんだ。
「ダメです。心配なんです」
エスパーを発揮しないで、冗談で勘なんでしょ。
この提案も冗談でしょ。
「冗談じゃなく、本気です」
ニコニコしながらも目だけが笑ってないよ。
「苗木君?」
結局、ボクは押し切られる形で同意してしまった。
まあ、最初からボクになんて拒否権は存在しないのだから、当然だよね。
二人で昼食を食べていると、霧切さんに声をかけられた。
「苗木君、舞園さん、私も昼食を一緒にしてもいいかしら?」
「うん、もちろんいいよ」
「ええ、もちろんです」
霧切さんの方から尋ねてくるなんて珍しいな。
何かの用事でもあるのかな。
「「「…………」」」
何か話があると思ったんだけど、気のせいだったのか。
何か話題を振るべきなのかもしれないけど、ボクなんかのつまらない話じゃ迷惑だよね。
沈黙に堪えられなくなったのか、舞園さんが話題を振った。
「霧切さん、今度、苗木君達が男子会を開いたように女子会を行おうかと思うんですけど、どう思いますか?」
「ええ、良いと思うわ」
「いつが良いと思いますか?」
「おそらく、いつ開いても人は集まるはずよ。調査も行き詰まってしまって、暇をもて余しているはずだから」
「そうですね。じゃあ、明後日に開催しましょうか。私から皆さんに聞いておきますね」
「何か事前に準備する必要はあるかしら?」
「手作りのお菓子や飲物を用意しておいた方がよさそうですね」
「お菓子ならモノクマが用意したものならあると思うよ?」
「そうなんですか?」
「うん、言ってなかったけど、モノクマはゼツボウスイと一緒にスナック菓子もくれたんだ」
「苗木君、あなたは黒幕の用意したものを不用意に食べろと言うの?」
「そ、そうだよね。ごめん」
「今日はあなたも少しおかしいようね。いつもより気が回らないし、挙動不審よ」
ボクなんか短慮で浅はかでどうしようもないからね。
ボクみたいなのが話しかけようとするのが間違いだったんだ。
「霧切さんもおかしいと思いますか?」
「ええ、ゼツボウスイの副作用と考えるべきかしら…でも…」
「でも、何ですか?」
「そうね、あなた達になら話しても問題ないわね。そのかわり、私の質問にも正直に答えてもらえるかしら?」
「私に答えられるものでしたら」
「ボクは何を聞かれても大丈夫だよ」
もちろん、霧切さんの質問になら何でも答えるよ。
家族構成から、資産の貯蓄額、両親の年収に、ボクの各種個人情報、こまるの事。
口座の暗証番号やメールのIDにパスワード、何歳までおねしょをしていたのかだってね。
「私は朝食会後、ゼツボウスイを飲んだ人を調査したの。話を聞けたのは石丸君、大和田君、不二咲さん、山田君の四人だけだったけど…」
霧切さんはそんな事をしていたんだね。
「ゼツボウスイの飲用後は黒幕の言う通り、気分が高揚し、開放的な気分になれるのは本当みたいよ。四人から同様の回答を得られたから間違いないわ。苗木君もそうでしょ?」
「うん、とっても良い気分だったよ」
あんなに、美味しくて素晴らしい物はないよね。
気分も最高だったよ。
「その効果はかなり強いみたいね。飲用者は普段の言動からは考えられない反応を示したみたいだから」
「そうなんですか?」
「ええ、石丸君が顕著に変化したみたい。それに、かなり強いポジティブ効果も確認できたわ」
「どういうものなんですか?」
「これは葉隠君の話が分かりやすいわね。彼の占いの的中率は自称三割、実質二割という驚異的な数字なのは知っているでしょ?その占いの的中率がほぼ100%で当たるようになったそうよ」
「絶対に当たるんですか!?」
「いえ、彼が与太話や荒唐無稽な話もしていたらしいから、冗談か本気か審議不明なものを除いたものでの数字よ。それでも、恐ろしい的中率よね」
「モノクマさんは全部かはわかりませんが、本当の事を言っていたんですね」
「そうね。たとえ嘘は話していなくても、間違いなく真実の全てを語ってはいないわ」
「副作用ですよね?」
「その通りよ。主に確認できたのは二つ、三つ目は確信があまりないわ…」
「一つ目は精神の疲労ね。肉体的には疲れている気は全くしないそうだけど、精神はクタクタみたいね。だから、部屋に引きこもって休んでいるんでしょうね」
そうなんだ。
確かに、ボクも少し疲れている気はするけど、みんなは食事にさえ来ないよね。
「二つ目は強いネガティブ効果よ。山田君や不二咲さんの話では、彼らの才能である同人やプログラムの革新的で創造性に富んだものが全く思い浮かばなくなってしまっているとの事よ。もっとも、二人の才能が具体的だから分かるのだけど、苗木君の幸運にも意味があるのかしら?」
普段から全く働いていないから実感が全くないや。
「三つ目は記憶と精神の錯乱ね。これが分かりにくいのだけれど、彼らは正常時の思考回路とは明らかに異なる状態におかれているように思える。そして、自分がおかしくなっている事に気づけていないのよ。しかも、表面的にはあまり変わっていないように見うけられて、疲れているだけだと言われれば、そうかもしれないと思ってしまう程度の差異。これも人によるのかもしれないけど、私が違和感から感じた想像だから本当かは分からないわ」
「いえ、多分ですが当たっていると思います。私は心配で朝食会から苗木君と一緒にいたのですが、普段との違いを感じていましたから」
ボクはいつも通りのはずなんだけどな。
「苗木君の場合は自己否定的で後ろ向きな思考をしています。特に、私達に対しては異常にへりくだっています。一方で、モノクマさんに対してだけは嫌悪感や敵意を全く隠そうとしていないんですよ。いつもの苗木君からは考えられません」
「舞園さんがそう言うのなら間違いないんでしょうね。問題はこの副作用が一時的なものか恒久的なものなのかと言う事ね……」
「きっとモノクマさんに聞くのが一番ですね」
「ボクの事を呼んだ?」
このポンコツ白黒熊はいつも突然現れて、なんなんだよ。
盗聴魔で覗き魔の変態め。
「モノクマさんは私達の話を聞いていましたよね?ゼツボウスイの副作用はいつまで続くんですか?」
「うぷぷ。残念ながら、明日の朝までには抜けるよ。個人差もあるだろうけど、苗木君は早い方じゃないかな?いまいち、効いてないみたいだからね……」
「あなたはどうしてあんな物を用意したのかしら?」
「苗木君達には強要したのに、私達にしなかったのは何故ですか?」
「どうして?何故か?全く、オマエラは人に聞けば答えが返ってくると信じてるゆとり共め!少しは自分で考えなよ!だいたい、ボクは人じゃなくてクマだから、モノクマだから教えてあげないクマ」
勝手な事ばかり言って、消えるなよ。
舞園さんと霧切さんの疑問に答えてからいなくなれよ、迷惑だろ。
「結局、副作用の効果が明日には切れる事しか分かりませんでしたね」
「そうね。でも、答えない事にも意味があるはずよ。黒幕があれを用意した事も、私達には任意で選ばせた事もね」
「そうですよね。それで、霧切さん。私達への質問てなんですか?」
「質問と言うよりも確認よ。あなた達は付き合っているのよね?」
「…ええ、その通りですよ」
「やっぱり…」
「どうして、霧切さんは分かったんですか?」
そうだよね。
ボク達はそんな素振りは一切していなかったはずなんだ。
あの十神クンも誰なのかはわからなかったみたいなのに、霧切さんはどうやって確信したんだろう。
「私はあの日から舞園さんを注意して観察していたのよ。DVDを視聴し、錯乱状態に陥ったあなたがおかしな行動に及ぶ可能性を考えたの。でも、翌日に姿を見せた時のあなたは、前日の事が嘘のように安定していた。私はその原因が何なのかと思案し、注意深く見ていたわ」
霧切さんがそんな事をしていたなんて全く気づかなかったよ。
「特に、殺人を決意した結果の安定なのか否かをね。あなたは表面を取り繕うのがとても上手で判別が難しかったわ。いったいどちらなのか、確信できた根拠の一つは厨房から消えた包丁が戻された事よ。あれは、あなたが持ち出したんでしょ?」
「ふふふ。ええ、その通りです。部屋で軽食を食べる時に使ったまま、戻すのを忘れてしまったんです」
「……そう」
「ですが、どうして私と苗木君の関係に気づけたんですか?私はかなり注意していたつもりだったんですよ」
「そうね。舞園さんと苗木君はここに閉じ込められる前からの知り合いだった。こんな状況では、それだけで他の人と比べて親密になるのも自然な事よね。親しくしていても不思議じゃないわ」
「ええ、その範囲から逸脱するような行動はしていないはずです」
「舞園さん、あなたは確かに注意していた。けれど、隠しきれてはいなかった。雰囲気、空気と言うべきかしら。あなた達の間にあるそれが違ったのよ」
「空気や雰囲気なんて不確かなもので確信したんですか?」
「まさか、そんなはずないでしょ。私は閉じ込められてから調査と観察を決して怠らなかったわ。あなたが苗木君と話す話題、目で追う回数に時間、スキンシップの頻度と内容、その他もろもろだって可能な限り記録していたの。それらから傾向の変化や回数の増加、統計的有意が十分に認められたわ。なんなら、レポートにまとめて調査結果として提示してもいいわよ?」
「「…………」」
「私を欺くには甘かったわね!!」
激しく降る熱水に身をさらす。
モクモクと昇る蒸気が温かさを示している。
ゼツボウスイの効果が抜けたようで、昨晩からのボクが如何におかしかったのか分かってしまった。
冷静になればなるほど、なんとも言えない恥ずかしさが込み上げてくる。
ボクの頬が上気しているのは、決してシャワーを浴びているからだけじゃないはずだ。
あの後、ボク達は三人で色々と話をした。
いや、正確には舞園さんと霧切さんの二人が主に喋っていたんだ。
ボクは明らかに、まともに話題に入りきれていなかった。
舞園さんは霧切さんに調査報告書形式でのレポートをもらう約束をしていた。
明後日に開く予定らしい女子会の打ち合わせ、好きな食べ物や飲み物について、舞園さんは色々と尋ねていたのだけれど、霧切さんはあまり自分の事を語ろうとはしなかった。
霧切さんについて判明した事は、やっぱり紅茶より珈琲の方が好きだという事と彼女の調査能力や観察眼が異様に優れているという二つだろうか。
霧切さんの超高校級の才能は何なのか、彼女は黙秘したままで未だに分からない。
ボクは熱気の残るシャワールームを後にした。
施錠付きの扉の外、彼女はベッドの上で仰向けになって天上を見つめている。
ボクに気づいた舞園さんは上半身を起こし、笑みを浮かべた。
「待たせちゃったみたいでごめんね」
「いえ、苗木君もお父さんと同じで、私と比べたらとても早いですよ」
「女の人と比べたら髪も短いし、洗うだけ洗ったらすぐに出るからね」
「時間が短いですから、ちゃんと洗っているのか心配になっちゃいます。じゃあ、次は私が浴びますね。逃げちゃダメですよ」
「あはは…」
釘を刺されてしまった。
ゼツボウスイの副作用も切れ、体調も悪くない。
ボクは石丸クンの部屋に泊まると言ったのだけれど、聞き入れてはもらえなかった。
逃亡防止の為に鍵も預かられてしまっている。
舞園さんが扉の奥へと消える直前に笑顔で言った。
「覗いちゃダメですよ?」
部屋の中でいつまで待っても、シャワールームからの施錠音が聞こえてこなかった。
心臓の早鐘と滴る水音がボクの中で重奏する。
明かりが消えたばかりの薄暗い部屋。
女の子の、彼女の香りが染み込んだベッドの上でボクと舞園さんは横になっている。
「苗木君とこうやって一緒に眠るのは二回目ですね」
「そうだね。ボクはドキドキしてなんだか緊張してるよ」
「私も心臓の鼓動が早くなってます」
暗くてよく見えない。
彼女の顔色までは窺えない。
芸術品のように整った綺麗なアイドルの瞳とボクのそれが重なりあう。
「今でも、ボクはこの現実が夢なんじゃないかって思うんだ。目が覚めたら全てが嘘で、まやかしだったってオチ」
不安と安心の混ざりあった現実が嘘なら、ボクの心は休まるだろうか。
「本当に、ここに閉じ込められているのが夢だったならって思います。でも、何もかも夢だったなら、苗木君とこんな風にもならなかったのかな?」
「そうかもしれないね。ボク達は希望ヶ峰学園で再開して、仲は良くなると思うけど、今みたいな関係になったのかは分からない」
「私は苗木君に自分の気持ちを告白する事はなかったと思います。きっと、アイドルという夢を直向きに追いかけていたはずですから」
そうだよね。
舞園さんにとってアイドルである事はとても大切な夢だ。
ボクはそんな舞園さんの友人として、ファンの一人として応援していたに違いない。
「でも、苗木君に振り向いてもらうように、気のあるような素振りはしたと思います。何もしないで、苗木君が誰かに取られてしまうのは嫌ですから」
「ボクがそんなにモテるはずないから、舞園さんは心配しすぎだよ」
「本気で言ってるんですか?」
「そうだけど?」
「江ノ島さん、セレスさん、不二咲さん、霧切さん、朝日奈さん」
「その五人がどうかしたの?」
「名前の言った順に苗木君への好感度が高い方です。ふふふ、大神さんと腐川さんは他に意中の方がいますから心配なさそうですけどね…」
待って、舞園さん。
君はいつから人の好感度が分かるようになったの。
エスパーは冗談のはずだよね。
「ちなみに、江ノ島さんは完全に苗木君の事が好きですよ。どうしてですか?」
「冗談だよね?」
「事実です。苗木君、浮気はダメですよ!」
ボクに浮気をする甲斐性なんてないし、するつもりもないよ。
「分かってます。だけど、苗木君にその気がなくても襲われるかもしれないじゃないですか?」
「普通、逆じゃない?」
「いえ、苗木君の場合はこれでいいはずです」
舞園さんの言う通りなのかな。
それは、ボクの男としての沽券に関わるような気がするよ。
「大丈夫ですよ。苗木君は男の方です」
あれ、ボクは声に出していないよね。
どうして会話が普通に成立しているの!?
ニコニコしていないで何か言ってよ。
「…ねえ、苗木君。私はあなたと一緒にいると安心します。会話がなくても、二人でいるだけで安らぎます」
「ボクもそうだよ」
「でもね、だからこそ、私はこんな事をしている場合じゃないって思っちゃうんですよね」
舞園さんはずっと頑張って来た人だ。
休むことなく、どんな時も夢を見続け、誰よりも前へと走り抜け、走り続けている人だ。
ここに自分の意思とは無関係に閉じ込められ、停滞を余儀なくされている。
だから…ボクと一緒にいる事で得られているという安心も…もしかしたら…
「舞園さんは怖いんだよね……頑張って掴んだ夢が失われることが」
「…はい。だから、あんな事を考えてしまったんだと思います」
手に入れてしまったからこそ、なくしたくないと思ってしまう。
今ならボクも少しだけ分かるかもしれない。
もちろん、彼女のそれと比較するには平凡なものだけど。
「今から考えれば、穴だらけで無茶苦茶な計画なんですよね。クロである事が誰にも知られてはいけないのに、苗木君には分かってしまう。私は苗木君に罪を被せ、苗木君ならそれを受け入れてくれるって自分勝手に信じていたんですよ」
もしも、本当に舞園さんが桑田クンを殺していたのなら、ボクはどうしたのだろう。
彼女のために罪を被ったのか、それとも…
「苗木君、本当にごめんなさい。謝って済む話じゃないことは分かっています。苗木君は優しい人だから、私を許してくれて、嫌いにならないで受け入れてまでくれる。私はその優しさに甘えているんですよね…」
「舞園さん、自分を責めすぎないでよ。ボクは気にしてないから。それに、本当に悪いのはモノクマだ。ボク達を閉じ込め、コロシアイを起こそうとしている。だから、悪いのは舞園さんじゃない」
舞園さんは一線を越えていない。
全ての元凶であるモノクマを操る黒幕こそが悪いんだ。
「苗木君、あんまり私を甘やかしちゃダメですよ。そうじゃないと、苗木君の事をどんどん好きになってしまうじゃないですか…」
やっぱり…舞園さんは…
「ボクは舞園さんがボクの事をますます好いてくれるなら嬉しいんだけど……でも、それが重荷になるなら…ボクのことなんて気にしないでね。何があってもボクは君を助けるから」
「苗木君はお人好し過ぎです。その内、誰かに騙されたり、庇ったりしてひどい目に遭う気がします。苗木君は私に遠慮しないでください。私は、苗木君になら、何をされたって……」
「舞園さん、ボクはこうして一緒にいるだけで十分幸せなんだよ。だから、別に遠慮なんかしてないよ」
「でも、男の人って…その、そう言う事をしたいと思うんじゃないんですか?」
「ボクは平均的な男だから興味がないわけじゃないし、二択で迫られればしたいって答えるよ」
「それなら……」
舞園さんは果断に決めていく。
夢も、希望ヶ峰学園の入学に”卒業”も、きっと何もかもをそうしてきた。
それは、すごい事だ。
ボクのように悩みながら過去を引き摺って前に進んでいくのとはまた違う。
一度、決心したのならそれだけを見て、見続けて努力をし続ける。
「ボクと舞園さんが知り合って三年以上だね。中学の時、ボクは舞園さんと目を合わせようとしなかった」
「そうですね。私はずっと見ていたのに…」
「ここで再会して、まともに言葉を交わし始めてからまだ十日も経っていないよ。ボク達の関係が変化したあの夜からなら五日だよ」
「数えてみると短いんですね。もっと長い時間が経っているように感じていました」
「一緒に生活しているからね。ボク達はお互いの事をまだまだ知らないよ。だから、もう少しだけゆっくり進んで行かない?」
「苗木君には私が急ぎすぎているように見えますか?」
「そうは思わないよ。舞園さんは必死に目標に向かって進み続ける人だから、少しだけ人よりも歩みが早いんだと思う。ただ、単純にボクよりもね」
「苗木君よりもですか」
「うん。実はボクって過去を忘れずに引き摺って前へと進むタイプなんだ」
「それって、前向きなのに、少しだけ後ろ向きですよ」
「そうだね。本当はね、昨夜にみんながボクの部屋に集まったのも、ボクの悩みを相談するって名目だったんだよ」
「苗木君、何か悩んでいたんですか?」
「少しね。なんだか格好悪いから、舞園さんに話せなかったんだ。気を悪くしたらごめんね」
「いえ、苗木君も男の子なんですね」
「そうだよ。女の子や好きな人には少しでも格好良く思われたいって感じる平均的な男だよ」
「悩みは無事に解決できたんですか?」
「どうだろう。これからのボクの頑張りによるみたいだ。覚醒した葉隠クンの占いじゃあね」
「じゃあ、努力し続ければ大丈夫ですね」
「うん。だから、早ければ明日から不二咲さんと一緒に体を鍛えるよ」
「どうして不二咲さんと?」
「約束したんだ。ボクは不二咲さんの友達だから、強くなりたいと願う友達と協力するのは当然だよ。不二咲さんはとっても格好良いんだ」
「可愛いじゃなくて格好良いなんですか?」
「そうだよ。ボクが嫉妬するくらい格好良いよ」
舞園さんは不思議そうな雰囲気を醸し出していた。
当然なのかもしれない。
千尋クンは見た目は可愛らしい人だから。
多分、口頭で説明しても伝わらないかもしれない。
「今のボクじゃ舞園さんのことを理解するのは難しいって思ってる」
「苗木君?」
「君はすごい人だから。想像は出来ても、本当に理解や共感を得るにはね、ボクじゃまだまだ役者不足なんだ。だから、努力するよ。ボクは十神クンに認められるほどにまで頑張るよ」
「一日で苗木君がすごいことを言い始めてます」
「あはは、そんなことないよ。口でなら誰にでも言える。行動を伴ってこそだよ」
「私に手伝えることはありますか?」
「舞園さんが笑顔で応援してくれるなら、安心して頑張れるかな」
「応援だけですか…」
「舞園さんはボクの助手なんだよね?」
「はい。だから、何でも頼ってください」
「本当にいろいろと迷惑をかけるかもしれないよ?」
「きっと、迷惑だなんて思いません。だから、遠慮しないでください」
「舞園さんもボクに遠慮しないでね」
「私は遠慮なんて……」
「本当に?無理をしていない?」
舞園さんは霧切さんが評したように、表面だけを見ていても本心がどうなのかは分かりにくい。
彼女は超高校級のアイドルだから。
人を魅了することに長けている。
ボクも虜になっている。
だからこそ……
「…人目の心配がなくて、二人だけの時はもっと甘えても良いですか?」
「うん。ボクでよければ、我儘だって、愚痴だって、何でも言ってよ。ボクは舞園さんの味方だから」
「抱き締めてもらえますか?」
「うん…」
布越しに感じる彼女は温かく、柔らかい。
抱きつかれた事はあっても、抱き締めるのは初めてだ。
艶やかな長い髪からは洗髪剤の香りがする。
同じものを使ったはずなのに、ボクとは違う臭い。
痺れるような感覚がボクの脳髄を刺激していく。
「もっと、強く抱き締めて……」
囁きに従い、彼女の背へと伸ばした腕に力を込める。
密着するボクと彼女。
安心と期待。
緊張と安らぎ。
嗅覚と触覚で感じている。
聴覚と視覚で受けている。
呼吸も、温もりも、匂いも、全神経が目と鼻の先にいる人へと使われている。
ボクの五月蝿いくらいの心音も、熱いと覚えるような体温も、何もかもを知られているのかもしれない。
潤んだ瞳と交差し、気づいた時には奪われていた。
短くも長い一瞬に思考は追いつかない。
充足と喪失を感じる離隔。
一瞬の隙、力の弱まったボクの抱擁から彼女は抜け出す。
理解した時、既に押し倒されていた。
ボクの上で微笑みを浮かべる彼女は蠱惑的だ。
「あはは、苗木君。ダメですよ油断したら。言ったじゃないですか。襲われるかもって…」
「冗談じゃなかったの?」
「ふふふ、我慢出来なくなりました」
「舞園さん?」
「あなたが私の事を知らなくても、私はあなたをずっと見てきた。心残りでした。後悔しても遅いと思っていたのに、もう一度だけ私にチャンスが訪れたんです。酷い状況なのに嬉しかった。あれを見るまでは、本当に……」
「私は決められないままあの夜、苗木君の部屋に行ったんです。あなたを利用するつもりで…それなのに、あなたは本当に私の身を案じて寝ずの番までするとか言いだして…あの時に天秤は傾いてしまった…」
「好きです。大好きなんです。だから…」
目を離せなかった。
近づいてくる彼女から、ボクはまばたきも忘れて魅入っていた。
唇に彼女のそれが押し当てられる。
先ほどの一瞬だけ触れ合うようなキスとは違う。
貪るように、啄むように、吸うように、奪われた。
一方的に情熱的な接吻だった。
ボクは呼吸も忘れていた。
失われていく酸素に脳が回らない。
彼女が離れた瞬間に大きく、大きく、呼吸をする。
そんな間は数舜で消え、再びボクは彼女に口を塞がれていた。
酸素を求める半開きの口に、舌が入ってくる。
ボクは驚きのあまり反射的に犯そうとする異物を噛んでしまった。
「痛いです……」
彼女は口許を手で押さえながら、咎めるような瞳は潤んでいた。
口内で鉄の味が広がっている。
ボクは手を伸ばしていた。
彼女の手を掴み、無理矢理にボクの方へと引き寄せる。
「苗木君?」
腕の中に捕らえて、強く、強く、抱きしめる。
思っている以上に舞園さんは華奢だ。
背はボクよりも高いけど、肩幅はボクの方が広い。
柔らかい胸の膨らみ、細い腕、きめ細かい肌、手入れの行き届いた髪。
非常に魅力的で、可憐な女性。
「あの苗木君、もしかして怒ってますか?」
少し、怯えたような表情を浮かべ、戸惑うように目が動いている。
そんな仕草でさえ、どうしようもないくらいに、堪らない。
不意討ちに、唇を奪うと驚愕に目が大きく開かれていた。
でも、すぐに彼女は受け入れる。
ボクは閉じられている口に舌でノックする。
僅かに開いた隙間へと差し込めば、熱烈な歓迎が待っていた。
血の味を感じながらも、ボクは絡めとる。
唾液が混ざり合っていく。
ボクも彼女も、ただただ相手を求めて舌を伸ばす。
痺れるように思考は麻痺していく。
本能的で原始的な欲求に身を任せ、ボクは彼女を蹂躙する。
気持ち良かった。
絡み合う粘膜と粘膜の接触が、求めるほどに深く応じてくれる人が、荒い息で上気して染まる彼女が。
乱れていた、興奮していた、悦んでいた。
トロンとした目がボクを求めていた。
切なそうにボクを見ている。
整わない呼吸でボクを誘う。
彼女もボクも望んでいた。
堪らない。
我慢できない。
衝動が止まらない。
情欲に従い食べてしまいたい。
柔らかそうな大きな胸。
吸い付きたい首元。
細くて長い指。
端整な顔。
何もかもを貪って、食い散らかして、味わい尽くしてしまいたい。
手を伸ばそうとしたとき、彼女の口元に赤い液体が見えた。
一瞬にして、ボクの中で欲望が鎮火していった。
彼女の頬へと手を伸ばし、口を開けさせる。
怪訝な顔でボクを見ていたけれど、気にする余裕がなかった。
興奮し我を忘れていたボクは愚か者だ。
思っていたよりも、彼女の舌は傷ついていた。
ボクも失念していたが、彼女も気にしなさすぎだ。
血の味に酔い、昂っていたんだ。
不快に感じるだろう味も、痛みも、脳内麻薬に感覚が狂っていたんだろうか。
むしろそれさえある種の快感だったのかもしれない。
「舞園さん、今夜はここまでにしよう」
有無を言わさぬボクの言葉に、舞園さんは愕然としていた。
「ここでお預けなんですか!?私の身体は疼いてしかたないんですが、あそこもビチャビチャですよ!苗木君はMと思わせてSなんですか?」
そんな事を言われたら、ボクのもギンギンで先走で濡れてるよ。
パンツの中はグッチョリだよ。
「私なら大丈夫です。むしろ、少し痛いくらいの方が気持ち良いみたいです。このまま続行して、私のヴァージン奪ってください。もしくは、私が苗木君を襲いますから」
舞園さんはMなのかな。
攻めたいのか攻められたいのかどっちなんだろ。
それにしても、アイドルがMとかSなんて叫んでいいんだろうか。
舞園さんって、正統派の清純アイドルのはずだよね。
「ダメだ。続きはまた今度にしようよ」
ボクの決意が固いことに、舞園さんは項垂れ、色めかしいため息を吐いた。
「…分かりました。そのかわり、今日よりも激しくしてください。遠慮なんかしないで、気を使わずに求めてください。私もそうしますから。後、今夜は私を抱き締めていてください」
「うん。分かったよ」
あの後、ボク達は念のために薬か何かがないかと保健室へと移動した。
モノクマに助力を願うのは釈然としなかったけど、無事に目的を果たせた。
それにしても、超高校級の保健委員が勧める特性の薬って…一晩で治療完了するって言っていたけど大丈夫なんだろうか。
既に、ボクの腕の中で舞園さんは眠っている。
均整の整った彼女の寝顔にボクの頬は自然と綻んでいく。
大切だと思う。
義務感にも似た強い想いがボクの中で熱を発する。
ボクは頬へと口づけをし、夢の中へと落ちていった。
?モノクマと密会劇場?
「……」
モノクマ「約束?ああ、覚えてるよ。キミは既に教えてあるから知ってるでしょ?」
モノクマ「明日が本番の幕開けになるから、生き残れないと意味がないでしょ?」
モノクマ「うぷぷ。今夜はボクも興奮してなかなか眠れないかもね。明日が楽しみで仕方ないよ」
モノクマ「マジックカードの準備は万全、キミの為の処刑場もスタンバイ出来てるよ」
モノクマ「キミの最大の障害は誰になるのかな?」
「……」
モノクマ「ぼっちとかませになんとかさんは分かるけど、あいつも?」
「……」
モノクマ「ふーん。まあ、ボクは観戦してるだけだからね。せいぜい頑張りなよ…」
?モニター室?
「マジふざけんなし!中途半端なところで終わんなよ!そっからが本番だろ!私様の期待を返せーーーッ!!」
「あれだけ激しく長くチューしてんの見せつけられて、私様も興奮していたのに何で辞めんだよチクショーーーッ!!」
「絶望的です。私様はこの熱を一人で悶々とさせなきゃならないなんて絶望的…今、松田君を殺っちゃう前に犯しとけば良かったって思う自分がいます…うん、後悔するなんて絶望的!」
「…ぁ……ぅ………ぃッ…………フー。気分切り替えよっか。飽きちゃったしさ」
「明日が楽しみだよ…お姉ちゃんの処分と処理、学級裁判がようやく開ける!コロシアイ学園生活の本番だ!!」
「平和な日常は終演し、互いに疑い合うゼロサムゲームの始まり、始まり。悪いペースだけれど、種は仕込んだしね」
「幾つかの芽は潰えちまったのが痛すぎです…ですが、私様は絶望できます」
「うぷぷぷぷ」
「最後になるのかもしれないのに、熱いベーゼだけで満足するなんてさ、舞園もバカだね。まあ、苗木が萎えちまったからな……つまんない」
「約束はどうなる事やら…私様としてはどっちでもいいんだけどな。どっちの方が絶望的なんだろう…」
「やっぱ興奮して眠れない!!うぷぷぷ……」
以上で更新終ります。
日常編は終了です。
昨晩のことを思い出すと、顔が火照ってしまう。
ボクは自分のことを穏和な草食系だと思っていたのに、一皮剥けば肉食系の一面もあったみたいだ。
いや、男は狼とか、野獣だとか例えられるのはそういうことなんだろうか。
今日の舞園さんは肌の艶がいつもより若干だけ良いように見える。
昨日のこともあり、ボクが色眼鏡を掛けている可能性も否定はできない。
なんにせよ、舞園さんは今日も可愛いと思う。
どうやらモノクマに貰った薬は確かに効いたみたいで、痛みを感じているような素振りはない。
さすがは超高校級の保健委員が選定したものだと言えるのだろう。
ネットの掲示板に書かれていた情報では、確か名前は罪木蜜柑だったろうか。
いつか、ここから脱出して会えた時には、一言だけでもお礼を伝えたい。
昨晩のことを思い出すと、顔が火照ってしまう。
ボクは自分のことを穏和な草食系だと思っていたのに、一皮剥けば肉食系の一面もあったみたいだ。
いや、男は狼とか、野獣だとか例えられるのはそういうことなんだろうか。
今日の舞園さんは肌の艶がいつもより若干だけ良いように見える。
昨日のこともあり、ボクが色眼鏡を掛けている可能性も否定はできない。
なんにせよ、舞園さんは今日も可愛いと思う。
どうやらモノクマに貰った薬は確かに効いたみたいで、痛みを感じているような素振りはない。
さすがは超高校級の保健委員が選定したものだと言えるのだろう。
ネットの掲示板に書かれていた情報では、確か名前は罪木蜜柑だったろうか。
いつか、ここから脱出して会えた時には、一言だけでもお礼を伝えたい。
朝食会の集合時間は過ぎている。
まだ、来ていない人が何人かいる。
もっとも、最近では時間通りに集まることの方が珍しい気もするので、通常営業だと言えるだろう。
マイペースな人や時間にルーズな人が割りと多いような。
よく遅刻するのは桑田クン、十神クン、葉隠クン、セレスさんの四人だ。
意外な事に、超高校級のギャルである江ノ島さんや超高校級の暴走族である大和田クンが遅れたことはない。
「遅い。葉隠くんと桑田くん、そしてセレスくんも何をしているのだ。今日は待たせ過ぎではないか!」
「昨日、石丸達が私達を待たしたのに比べたらマシだよ」
「昨日は失礼した。申し訳ない」
筋の延びた姿勢の良いお辞儀だ。
朝日奈さんの指摘に石丸クンはばつの悪そうな表情を浮かべている。
「セレスは作朝のお主らと同じかもしれぬな」
「セレスさんもあれを飲んだのぉ?」
「うん。昨日の朝、セレスさんと江ノ島さんの二人が受け取っていたよ。江ノ島さんは元気なところを見ると飲んでないの?」
「あたし?あたしは後で飲もうと思って取ってあるんだよ。もう、モノモノマシーンからしか入手できないって話だしさ」
「そうなのですか?」
「昨日の朝にモノクマが言ってたよ。それにしても、三人とも遅いね。ちょっと心配だから、ボクが様子を見に行ってくるよ」
ボクだって学習している。
こういう場合、結局はボクが様子を伺いに行くことになる。
それなら、自分から動く方が建設的に違いないよね。
「でしたら、私も一緒に行きます。セレスさんの場合は女手があった方が良いかもしれません」
「それならば僕も行こう!もしかしたら人手が必要になるかもしれないだろうッ!」
舞園さんと石丸クンの二人と一緒に、ボクは食堂を出た。
『ピンポーン』
何度目かの呼び鈴で、ようやく扉が開いた。
部屋からはあの臭いが漂ってくる。
ボクは現れたセレスさんの姿に驚いてしまった。
顔色の悪さがゼツボウスイを飲んだ証であり、それだけなら動じたりはしなかっただろう。
セレスさんの特徴的な巻き毛はウィッグだったのか。
ホワイトブリムにイヤリングも着けていないセレスさんは素朴な感じの女の子に見えた。
普段の浮世離れした姿からは想像もできない。
「セレスさん大丈夫ですか?」
「誰かと思えば苗木君達でしたか。わたくしに何か用がありまして?」
「朝食会の時間になっても来なかったから見に来たんだよ。アレを飲んだんだね。セレスさん大丈夫…じゃないよね?」
「ええ、飲みましたわ。申し訳ないのですが、今日は休ませていただいてよろしいですか?」
「了解した。みんなには責任をもって伝えておくから休んでいたまえ!」
『ピンポーン』
呼び出しに桑田クンはすぐに出てきた。
眠そうに目を擦りながら応対している。
いかにも起きたばかりというような薄着でラフな格好だった。
「舞園ちゃんに苗木と石丸か。三人ともどうしたん?」
「君が朝食会に来ないから呼びに来たのだよ。いったいどうしたのだ?」
「あれ?もうそんな時間だったっけ?うわーマジじゃん。すぐに向かうから、ちょっち待っててよ」
単に寝坊だったみたいだ。
『ピンポーン』
どれだけ待っても応答がない。
「葉隠クン居ないのかな?幾ら呼び鈴を鳴らしても出て来ないなんて…」
「葉隠くん、いるなら返事をしたまえッ!」
「防音ですから声は聞こえないはずですよ」
「そうだった…むっ、なんということだ!扉に鍵がかかっているぞッ!」
石丸クンがドアの取っ手をガチャガチャするが、扉が開く様子はない。
「鍵が掛かっているって事は部屋の中にいないのかな?」
「他の場所にいるんでしょうか?」
「一度、食堂に戻ってみんなで葉隠クンを探した方がいいのかな?」
「もしかしたら、部屋の中で倒れているのかもしれない。大神くんを呼んで来てくれないか?きっと彼女なら扉を破れるはずだッ!」
「分かりました。私が呼びに行ってきます。二人は呼び出しを続けてみてください!」
舞園さんが駆け足で食堂に向かっていく。
残されたボクたちは葉隠クンの部屋のベルを何度も押した。
石丸クンが開かないかと幾度も取っ手を回すがどうにもならないようだ。
焦燥感が湧いてくる。
葉隠クンに何もなければいいんだけど。
「お待たせしました」
舞園さんは随分と急いでくれたみたいで、少し息を整えている。
「我に任せておけ。お主らは少し扉から離れていた方がよい」
大神さんだけでなく、霧切さんも一緒にいる。
ボクたちは指示に従い、距離をとる。
大神さんは腰を落とし、体重を乗せた力強い掌底を放った。
それは、体当たりに近いのかもしれない。
衝撃を受けた扉は金具が壊れ、部屋の中へと吹き飛んで行く。
大神さんの一撃によってドアには亀裂が入り、壁に衝突するとバラバラに砕けてしまった。
噎せ返るような空気だった。
心の奥底から狂わせるような香りだった。
特徴的な強い、強い、臭いだ。
部屋の中で倒れている。
散乱するアレが入ていったビンに囲われて俯せになっている。
ピクリとも動かない。
「葉隠クン!?」
無情に流れ出す無機質なアナウンス。
日常の閉幕を告げる放送。
死体の発見を知らせる凶報だった。
短いですが以上です。
今週中に二回更新します。
葉隠クンに駆け寄ろうとしたボクたちを霧切さんが呼び止めた。
現場の保全を提起する彼女は冷静で、人によっては冷淡だと捉えたかもしれない。
放送を聞いて、何人かが集まってくる。
代表して、霧切さんと十神クンが葉隠クンの死を確認した。
それ以上の調査を進める前に、モノクマが体育館へと集まるように呼び出しを行った。
どうするか少し揉めたが、霧切さんの黒幕に従うべきだとの意見を受け入れた。
どうして、なんでと、疑問が次々と思い浮かぶ。
だけど、悲しみや死に葛藤を続ける余裕も、猶予も、ボクたちにはなかったんだ。
「…以上でルールの説明も終わったし、校則にも追加しとくから、後は各自で自由に調べてよ。一定時間後に放送で呼び出すからさ」
モノクマは学級裁判の説明を終え、立ち去ろうとした。
それを江ノ島さんが呼び止めた。
「ちょっと待ちなさいよっ!」
「何かな江ノ島さん?質問?」
「学級裁判?クロが当てられなきゃ処刑?ふざけんなっ!何であたしが参加しなきゃなんねーんだよ!」
「学級裁判に参加しないですとっ!そんなこと言う人には罰が下るよ!!」
「は?罰…?そんなの知らねーよ!あたしは絶対に参加しねーからッ!」
江ノ島さんはモノクマの理不尽な命令に、恐れずに立ち向かった。
嫌な予感がする。
それは外れることなく適中してしまった。
「仕方ないな……召喚魔法を発動する!応えて!タルタロスの穴ッ!!」
モノクマの呼び掛けに従うように、江ノ島さんの姿は忽然と消えてしまった。
「え……?」
「何が……?」
「いったい……?」
疑念の声が聞こえる。
ボクは確かに目撃した。
あいつの言葉に応じて、江ノ島さんの足下に穴が開いたのを。
突然の事態に動けなかったのか、江ノ島さんは穴の中へと落ちていった。
悲鳴も一切あげずにいなくなった。
「うぷぷ。学級裁判に参加しないなんて認めるわけないじゃんか」
「彼女をどうしたの?」
「地下に落としたんだよ。学級裁判の会場は学園の下にあるんだ。一足先に放り込んであげたんだよ」
「彼女は無事なのね?」
「多分、大丈夫なんじゃないの?怪我したり、死んでたって自業自得でしょ?それに、事件の手がかりを得られないんだから罰になるよね」
モノクマの言葉に、ボクは想像してしまった。
江ノ島さんが傷ついている姿を、最悪な場合は……
「あの穴は彼女の立っていた場所だけが開閉可能なのかしら?」
「うぷぷ。そんなわけないよ。もちろん、至るところで可能だよ。証拠に霧切さんの足下も開けてあげようか?」
霧切さんは訝しんでいるように見えた。
その様子がモノクマの癪に障ってしまったのだろう。
「論より証拠だよね!開け!タルタロスの穴ッ!!」
疑念を浮かべる霧切さんを認めさせるためにか、あいつは二度目の言霊を放った。
「さ、さくらちゃん!?」
大神さんの足下に穴が開く。
落ちる前に跳ね、その着地点がまた開く。
幾度も繰り返される高速の動きにはついていけそうにない。
穴が開ききる前のほんの僅かな一瞬で床を蹴り、落下を防いで跳躍する超人的な反射と動作だった。
ボクの目にはまるで空中を蹴り飛んでいるようにしか見えない。
翔ぶように大神さんは体育館の隅にまで後退し、四足を使って壁に張り付いた。
彼女の真下には真っ黒な穴が待ち受けている。
「これは何のまねだ?」
「証拠を見せてあげただけだよ。霧切さんが疑いの目を向けてきたからね。それに、大神さんなら大丈夫だったでしょ?」
穴が閉ざされると、大神さんは軽やかに着地した。
戻ってくる大神さんを見ながら、モノクマは余興だったとばかりに笑っていた。
「ふざけないでッ!さくらちゃんは学級裁判に参加しないなんて言ってないのに、怪我したらどうするの!?」
「怖い目で見ないでよ…最初から学園長であるこのボクの言葉を信じてれば良かったじゃんか。まあ、そんな事はどうでもいっか。オマエラ素人さんじゃ限界があるから、クロ探しのヒントになるように死亡状況とかをまとめておいてあげたよ!ザ・モノクマファイル!!」
朝日奈さんの激昂を意にも介さず、話を進めていく。
どうしてあいつは死因などがわかるのか、その疑念が表情に出ていたのかもしれない。
「ボクは監視カメラで見てたから、死因なんて簡単に分かっちゃうよ!だから、学級裁判で公平なジャッジを下せるから心配いらないよ」
モノクマに十神クンが声をかけた。
「おい、ヌイグルミ」
「何かな十神クン?」
「聞いておきたいんだが、共犯者が存在した場合は、そいつもクロになるのか?」
「共犯しても問題はないよ。ただし、卒業できるのは実際に殺人を行った実行犯のクロ一人だけだからね。だから、共同正犯は認められないし、今回の事件にそんなのいないよ」
「共犯する事にメリットはないのか…」
「他に質問はないかな?」
「もう一つだが、死体発見時に流されたあのアナウンスはどういう条件で鳴る仕組みだ?」
「あれは、三人以上の人間が死体を発見したときに鳴るんだよ」
「三人以上…それって犯人は含まれるのかしら?」
「霧切さんは細かいな…含まれるときもあるし、ないときもある。そのあたりはボクの自由裁量、フレキシブルに対応するよ!」
事件に関する事柄だからだろう。
あいつは素直に質問に答えていった。
「もういいかな?じゃあ、捜査頑張ってね!次は学級裁判で会いましょう!」
モノクマが立ち去り、大神さんと大和田クンが見張りに選ばれた。
既に半分以上の仲間が体育館から出ていった。
「苗木君、私達も捜査を開始しましょう」
「そうだね。まずは、ファイルを確認してみようか」
モノクマが配布した死因などをまとめたというファイルをボクたちは開いた。
書かれている事実は二つ。
死因は急性中毒によって引き起こされた心肺の停止だ。
死亡時刻は昨日の朝方未明、夜時間の内とある。
それ以上の情報は記載されていない。
「もっと詳しく書いてあるのかと思ったけど、死因と大雑把な死亡時刻しか書かれてないね」
「ゼツボウスイの飲み過ぎによる事故死なんでしょうか?」
「まだ、断定は出来ないけど可能性はあるのかもしれない」
「判断は調査をしてからですね。私達も向かいましょう。まずは、葉隠君のところに…」
「そうだね。そう言えば、セレスさん達は調べに行かないの?」
未だに残っている三人にボクは声をかけた。
セレスさんは普段とは違う姿でここに来ている。
華美な装飾品を一切身に付けず、控えめな佇まい。
普段と比べれば服も少しはだけていた。
細い首にはネクタイも白い紐だって締められていない。
漂ってくるゼツボウスイの香りと気怠い表情には不健全な色香があった。
「セレス?ああ、わたくしのことでしたか。興味ないですわ。殺すとか脱出するとか、犯人なんてどうでもいいじゃありませんか。つまらないですわ…」
「誠君。セレスさんが心配だから、ここに残るよぉ」
「…あたしは白夜様について行きたかったけど、邪魔だから来るなって言われたから……」
「腐川さん、もしよかったら不二咲さんと一緒にセレスさんを見ていていただけませんか?何かあっても二人の方が対処しやすいですから」
「あ、あたしが…?……分かったわよ…見とけばいいんでしょ…」
ボクと舞園さんは連れ立って葉隠クンの部屋へと歩を進めた。
開け放たれた部屋の前に、大神さんと大和田クンが仁王像のように立っている。
ちょっと怖すぎる光景だ。
「苗木と舞園か。葉隠の遺体を調べに来たのか?今は霧切が調べておるぞ」
「霧切さんが?もしかして、後にした方がいいのかな?」
「気にする必要ねーよ。十神の野郎もとっとと調べ終えて出てったしよ」
「好きに調べるとよい。おかしな真似をすれば我らが取り押さえさせてもらうがな…」
そう言って、大神さんと大和田クンは険しい視線を舞園さんへと注いでいた。
どうして、彼女にそんな目を向けているのか、ボクには分からなかった。
空になったゼツボウスイのビンが幾つも転がっている。
強い臭いが立ち込める部屋だ。
「苗木君と舞園さんも来たのね」
「ええ。霧切さんは何か見つけましたか?」
舞園さんの質問に霧切さんは思案顔を浮かべる。
霧切さんの目にも見張り役の二人と同じ色が隠れ見えた。
どういうことなんだろうか。
「そうね。幾つかおかしな点を見つけたわ。全ての謎が解けたわけではないのだけれど、今の段階で言える事があるの。これは密室殺人事件。そして、舞園さんが最も怪しい容疑者の一人という事よ」
「霧切さん、それってどういう意味?」
「これを見れば分かるわよ」
霧切さんはボクと舞園さんを葉隠クンの遺体の側へと案内する。
発見時からずらされた彼の体。
その下には文字らしきものが残されていた。
意味が分からない。
理解できない。
そうじゃない。
ボクはただそこにある現実を受け入れることを拒絶しているだけなんだ。
「な、何で私の名前が!?どうして…?」
赤黒い、血で書き残された文字。
それは、掠れていて、滲んでいて、判別がつきにくい。
でも、確かにこう読めるのだ。
カタカナで書かれた『サヤカ』という字に。
「信じてください!私は葉隠君を殺してなんていない!私じゃないッ!!」
半ば、叫ぶように訴えかける。
「舞園さん落ち着いて、ボクは信じてるから!」
ボクはこれが何かの間違いだと信じている。
彼女が人を殺すはずがないと信じる。
ボクは、ボクは、ボクは…
それでも、迷走を始めかねないボクの思考を冷徹な調べが切り裂いた。
「……二人とも状況は分かったわね?舞園さん、私は苗木君と違ってあなたを疑っているわ。これを見れば他の人も同様に疑うはずよ」
感情の込められていない霧切さんの指摘に過熱されかけていた思考回路が冷えていく。
頭の隅々に至るまで荒ぶっていた波が急速に落ち着いていく。
「私は真実を知るために調べるわ。その過程であなたが犯人ではないと証明されれば良いわね。苗木君、舞園さんを信じるというのなら、頑張りなさい。私が間違わない保証はないのだから…それじゃあ健闘を祈るわ……」
霧切さんは去っていった。
不安気に舞園さんはボクを見ている。
「苗木君……」
「調べよう。事件の真相の手掛かりを!葉隠クンを殺した犯人が誰なのかを!」
このSSまとめへのコメント
、、、んん‼︎‼︎⁉︎⁇
うぷぷぷ、面白いよォ