理樹「耳が気持ち悪い」(270)

真人「んあ?どうした、いきなり」

理樹「なんか耳の奥がムズムズするんだ。小指も入らないから、なんか気持ち悪くて」

真人「なんだよ、んじゃあ耳かきでもすりゃいいじゃねえか」

理樹「うん、そう思って探してるんだけど…」ゴソゴソ

真人「なんだよ、失くしちまったのか?しょうがねえなぁ理樹は」

理樹「真人持ってない?」

真人「俺は耳かきなんかしねえから持ってねえよ。筋肉があれば耳垢なんか溜まらねえからな」

理樹「いや、意味が分からないよ…」

真人「無いなら誰かに借りりゃあいいんじゃねえか?耳かきくらい誰か持ってるだろ」

理樹「ええ…?わざわざ耳かきを借りに行くのもなぁ…。例えば誰さ?」

真人「例えば…>>5とかどうだ?」

耳鼻科

真人「耳鼻科に借りに行くのはどうだ?」

理樹「…………」

真人「ん?どうした理樹」

理樹「え…いや…」

理樹(何か前にもこんな事あったような…)

真人「耳鼻科って、耳垢取ってくれって言ったら本当に取ってくれるらしいぜ」

真人「しかも、自分で耳かきするより何倍もスッキリするらしいぜ」

理樹「…………」

真人「ん?どうした理樹」

理樹「新しい耳かき買ってくるよ」

真人「待て待て待て!悪かったよ!」

理樹「えぇ…?」

真人「ほんの冗談だよ、そう起こるなよ理樹っちよぉ」

理樹「別に怒ってはないけどさ…。それに見つからないなら、どっちみち新しい耳かきは買わなきゃいけないし」

真人「新しいの買うなんて勿体ねえじゃねえかよ。もしそれで理樹が金欠になって俺に金を貸せなくなったら困るじゃねえか」

理樹「貸さないよ…」

真人「ここは、>>13に借りに行くべきだぜ」

にき

真人「ここは二木に借りに行くべきだぜ」

理樹「ええ!?なんで二木さん!?」

真人「そんなの決まってんだろ?」

真人「…………」

理樹「…………」

真人「…………?」

真人「なんで二木なんだ…」

理樹「僕が知るわけ無いよ!!」

真人「でも最近、お前と二木仲いいじゃねえか。多分大丈夫だろ?」

理樹「えぇぇ…」

理樹(…成り行きで寮会室の前に来てしまった)

理樹「二木さん居るかな…」

理樹「…取り敢えず入ってみるか」

コンコン

理樹「失礼します」ガラッ

あーちゃん先輩「ん?直枝くん?」

理樹「あ、寮長さん。こんにちは」

あーちゃん先輩「こんにちはー。どしたの?また寮会の仕事手伝ってくれるの?」

理樹「あ、いえ…その、二木さんに用が…」

あーちゃん先輩「あぁ、かなちゃん?」

理樹「はい。居ますかね?」

あーちゃん先輩「ごめんねー。今ちょっと買い出し頼んじゃって居ないのよ。暫くしたら帰ってくると思うから、用事なら伝えておくわよ?」

理樹「あ、それなら待ってます」

あーちゃん先輩「そう?あ、それならちょっと手伝ってくれないかな~?もう手が疲れちゃって」

理樹「いいですよ。どうせ暇でしたし」

あーちゃん先輩「助かるわ~。じゃあ私ちょっと外の空気吸ってくるから、お願いしていい?」

理樹「はい、分かりました。ゆっくり体を休めて下さいね」

あーちゃん先輩「ありがと~直枝くん~。じゃあお願いね~」ガラガラ…

ピシャッ

理樹「…………」

理樹「さて…やるか…」

~~~

佳奈多「はぁ…あーちゃん先輩…こんなもの一体何に使うのかしら…?」

佳奈多(…特にこの…)

佳奈多「……深く考えるのは止めよう…」

ガラガラ

佳奈多「失礼します。あーちゃん先輩、今戻り…」

佳奈多「…………」

佳奈多「…な、なんで…」

理樹「くー…くー…」

佳奈多「なんで直枝がここで寝てるのよ……?」

佳奈多「え…?な、なんで…?しかも、あーちゃん先輩の机で…」

理樹「…んっ……」

佳奈多「…………」

理樹「……二木…さん…」

佳奈多「………ッ…?」

理樹「…………」

佳奈多「……な…なによ……」

理樹「……耳かき……」

佳奈多「…………」

佳奈多「……は…?」

理樹「くー…くー…」

佳奈多「……耳かき……?」

理樹「…………」

佳奈多「…………」

理樹「……う…ん…」

佳奈多「な、なによ…寝言で…私の名前なんて…」

佳奈多「…それに…耳かきって…何なのよ…」

理樹「…………」

佳奈多「……あぁっもう!」

佳奈多「ほら直枝!こんな所で何寝てるのよ!さっさと起きなさい!」ユサユサ

理樹「…んあっ…?」

佳奈多「んあ、じゃないわよ!ここをどこだと思ってるの!?」

理樹「え…?二木さん…?何でここに…?」

佳奈多「それはこっちの台詞よ。なんであなたがこんな所で寝ているの?」

理樹「…ん…?え…ここ…」

佳奈多「まだ寝ぼけてるの?」

理樹「…………」

理樹「…あっ!そうだ!」

佳奈多「えっ?な、何よ」

理樹「寮会の仕事を手伝ってる途中だったんだ…」

佳奈多「…………」

理樹「え…?どうしたの二木さん…?」

佳奈多「はぁ…休日まで寮会の手伝い?あなたも相当な暇人ね」

理樹「えぇぇ…」

佳奈多「…ここで寝るくらいなら寮会の仕事なんて手伝わなくてもいいじゃない。今日は休日なんだから」

理樹「ま、まぁ…そうなんだけど…」

理樹(あれ?僕は何で寮会の手伝いをしてるんだっけ…)

佳奈多「あとの仕事は私がやっておくわ。あなたはもう帰っていいわよ」

理樹「えっ、そ、そんな、いいよ。これは僕が頼まれた仕事だし…」

佳奈多「寝言まで言いながら寝てた人にやってもらったって、ミスだらけになって返って仕事が増えるだけよ」

理樹「えっ!?ね、寝言?ぼ、僕、何か言ってた?」

佳奈多「…………ッ」

理樹『……二木…さん…』

佳奈多「…………っ…」

理樹「ふ、二木さん?」

佳奈多「み、耳かきがどうこう…とか…」

理樹「み、耳かき?」

理樹「…………」

理樹「あっ!」

佳奈多「ッ!?な、何?」

理樹「そうだ!耳かきを借りにきたんだよ!」

佳奈多「は、はぁ?寮会に?」

理樹「二木さんに!」

佳奈多「はぁ!?」

理樹「…………」

理樹(…し、しまったぁ…)

理樹(大声で何を言ってるんだ僕は…)

理樹「ふ、二木さん…」

佳奈多「は…」

理樹「へ?」

佳奈多「早く仕事しなさーい!!」

理樹「は、はい!」バッ

佳奈多「…………」

佳奈多(…さっきの寝言って…や、やっぱり…)

すまん風呂

~~~

理樹「…………」カキカキ…

佳奈多「…………」カキカキ…

ガラッ

あーちゃん先輩「ただいまー!」

理樹「あっ寮長、お帰りなさい」

佳奈多「お帰りなさい、あーちゃん先輩」

あーちゃん先輩「おっ、かなちゃんも帰ってたんだ。ごめんね~急に買い出し頼んじゃって」

佳奈多「いえ。買い出しの品はそこに置いてありますので」

あーちゃん先輩「ありがと~。あと直枝くんもごめんね、あとは私がやるから帰っていいわよ?」

理樹「あ、いえ。あと少しなので終わらせてから帰ります」

あーちゃん先輩「そお?やっぱり直枝くん仕事が早いわね~。デスクワーク向いてるわよ」

佳奈多(途中、寝てたのに…)

あーちゃん先輩「じゃあ私はもう失礼してもいいかしら?あと仕事それだけだから」

理樹「はい、大丈夫ですよ。今日は休日なんですから寮長もゆっくり休んで下さい」

あーちゃん先輩「やーん、直枝くん優しいな~!惚れちゃうかも」

佳奈多「…………」イラッ

あーちゃん先輩「ん?かなちゃん、どうかした?」

佳奈多「なんでもありません。あと、かなちゃんはやめて下さい」キッ

あーちゃん先輩「おーこわ、くわばらくわばら。じゃあ直枝くん、かなちゃんの機嫌も良くないみたいだから今日はこれで失礼するわね~」

理樹「はい、お疲れ様でした」

あーちゃん先輩「戸締り宜しくね~。かなちゃんもあんまり無理しちゃ駄目よ~」ガラガラ

ピシャッ

佳奈多「…だから、かなちゃんは…」

~~~

理樹「……これで…よしっと…」

理樹「終わったー…」

佳奈多「…………」ジー

理樹「あれ、二木さん?二木さんも終わったの?」

佳奈多「…………」ボー

理樹「…二木さん?」

佳奈多「ッ!?」

佳奈多「え!?な、なに?直枝!?」

理樹「え、ど、どうしたのさ」

佳奈多「え…あ…いや…」

佳奈多「…な、なんでも…ないわよ…」

理樹「そ、そう…」

佳奈多(……夕方……に…ここって……その…この間…直枝と……)

理樹「二木さん?」

佳奈多「な、なによ!この変態!」

理樹「ええええっ!!?」

佳奈多「……ふ、ふん……」

理樹「何で変態…」

佳奈多「……最低よ……」

佳奈多「…最低」

理樹「えぇぇ…」

佳奈多「ふ、ふん!も、もう終わったんでしょ!?じゃあさっさと戸締りして帰るわよ!」

理樹「え、う、うん」

理樹(な、なんか二木さん顔が赤いような…)

佳奈多「…あ」

理樹「え?な、なに?」

佳奈多「…………」

理樹「………?」

佳奈多「…ふん…ちょっと待ってなさい…」

理樹「………??」

ゴソゴソ…

理樹(…?二木さん…何か探してる?)

佳奈多「あった…」

理樹「?」

佳奈多「はい、これ」

理樹「え…?何これ…」

佳奈多「見て分からないの?綿棒よ綿棒」

理樹「いや、それは分かるけどさ」

佳奈多「あなた、ここに耳かきを借りにきたんでしょう?」

理樹「え、あ、あぁ…そうだった…」

佳奈多「耳かきはさすがに無いけど…綿棒なら余ってるから」

理樹「えぇ…?」

佳奈多「綿棒は耳掃除だけじゃなくて、普通の掃除にも使えるのよ。だから掃除用にここにも常備してあるんだけど…まぁ滅多に使わないから、それあげるわ」

理樹「い、いいの?」

佳奈多「使わないものを置いておくより、よっぽど効率的よ。まぁいらないなら無理にとは言わないけど」

理樹「じゃ、じゃあ遠慮なく…」

佳奈多「……ふん……」

佳奈多「…じゃあ、帰りましょうか」

理樹「う、うん」

佳奈多「…………」

理樹「…………」

佳奈多「…………ッ」

理樹「二木さん?どうしたの?ドア…開けないの?」

佳奈多「……あぁもう!」

理樹「ええっ?」

佳奈多「何で私だけこんな気持ちにならなきゃいけないのよ!」

理樹「えっ!?ど、どういう…」

佳奈多「直枝!あなたは何も感じないの!?」

理樹「え?な、なにが…」

佳奈多「ここで!この間!これくらいの時間に…!」

理樹「……あ……」

佳奈多「…………ッ」

理樹「ご、ごめん…」

佳奈多「何で謝るのよ…」

理樹「え、い、いや…その…」

理樹(ここで…二木さんと…キ、キス…)

佳奈多「…………ッ」

理樹「だから二木さん…さっきから顔が赤…」

佳奈多「それ以上言ったら、死んでやるから」

理樹「ご、ごめん」

佳奈多「…………」

理樹「…………」

佳奈多「……はぁ……」

理樹「え?」

佳奈多「さっきから謝ってばかりね、直枝は」

理樹「そ、そうかな」

佳奈多「そうよ。お人好し過ぎるのが、あなたの長所であり短所ね」

理樹「むぅ……」

佳奈多「もう少し自己主張してもバチは当たらないわよ?」

理樹「自己主張…」

理樹「…………」

理樹「じゃ、じゃあさ…」

佳奈多「ん?」

理樹「こ、この綿棒で…」

理樹「二木さんに耳かきして欲しい」

佳奈多「え…?」

理樹「な、なーんてね、ご、ごめん、忘れて…」

佳奈多「また、そうしてすぐ謝る」

理樹「……うぅ……」

佳奈多「駄目なんて…言ってないじゃない…」

理樹「え…?」

佳奈多「…………」

理樹「…………」

佳奈多「……こっちに…来なさい…」

佳奈多「椅子を並べて…と…」

理樹「…………」

佳奈多「…これなら椅子の上に横になれるでしょ?そして頭は…わ、私の…膝…に…」

理樹「う、うん…分かった…」

佳奈多「…………」

理樹「…よっ…と…」

佳奈多「…………ッ」

理樹「あ、頭…乗せるよ」

佳奈多「いちいち言わなくてもいいわよ…馬鹿…」

理樹「う、うん」

佳奈多「馬鹿…」

佳奈多「…じゃあ…いくわよ…」

理樹「お、お願いします」

佳奈多「…………」ソーッ

カリッ…

理樹「…んん……」カリカリ…

佳奈多「…痛くない?」コリコリ…

理樹「うん。大丈夫…」グッグッ

佳奈多「そう……」グリグリ…

理樹「…二木さん…上手だね…」カリカリ

佳奈多「……ふん……」グリグリ

理樹(たまには綿棒もいいかも…)クリクリ…

佳奈多「…………」グリグリ

理樹(いつもと違った刺激が気持ちいい…)コリコリ…

佳奈多「…………」カリカリカリカリ…!

理樹「…………」グリグリグリグリ

佳奈多「……あっ……」カリカリ

理樹「…え?ど、どうし…」コリコリ

佳奈多「しっ!じっとしてなさい…!」クリックリッ

理樹「う、うん……」グリグリ…!

佳奈多「……よっ……」カリッ

理樹「…おっ…?」

佳奈多「ふぅ…取れたわ…」

理樹「え?な、なにが」

佳奈多「耳垢に決まってるじゃない。それ以外に何が出てくるのよ」

理樹「おっしゃる通りで…」

佳奈多「ふふっ…大きいのが取れると気持ちいいわね…」

理樹「そ、そう…」

佳奈多「見てみる?」

理樹「遠慮します…」

佳奈多「ふぅ…じゃあ続けるわよ」

理樹「うん…お願い」

カリッ

佳奈多「……んん……大体は…取れたかしら…?」グリグリ

理樹「うん、だいぶスッキリしたよ」クリックリッ

佳奈多「…………」カリカリ

理樹「…………」グリグリ

佳奈多「…じゃ…反対側…やりましょうか…」

理樹「うん、ありがとう」

佳奈多「えぇと、じゃあ席移動するからどいてくれる?」

理樹「え?わざわざ移動しなくても僕が体の向きを変えればいいだけじゃ…」

佳奈多「……最低ね……」

理樹「え…?」

理樹「……はっ!」

理樹(そ、そうか…体の向きを変えると僕の頭が二木さんのお腹に…)

佳奈多「……最低ね……」

理樹(に、二回言われた…)

~~~

理樹「…………」カリカリ…

佳奈多「…………」グリグリ…

理樹「…………」カリカリカリカリ…

佳奈多「…………」グリグリグリグリ…

理樹(…さっきから会話がない…)コリコリコリコリ…

理樹(別に気まずい訳じゃないけど…)クリックリッ

理樹(何か話題を振る方がいいかな…)グリグリ

理樹「あのさっ…」カリカリ

佳奈多「昔ね…」グリグリグリグリ

理樹「え?」クリックリックリックリッ

佳奈多「昔…一度だけ…葉留佳に耳かきをしてあげた事があるの」カリカリ

理樹「…え…?」コリコリ

佳奈多「私の…私たちの家の話は…葉留佳に聞いたでしょ?」グッグッ

理樹「……うん」グリグリ

佳奈多「……小学校の…低学年の時…」クリックリッ

佳奈多「本を読んだのよ」カリカリ

理樹「本…?」コリコリ

佳奈多「仲のいい…姉妹のお話…」グリグリ

佳奈多「…よしっ…取れた…」

理樹「んっ…あ、ありがとう」

佳奈多「…………」

理樹「…………」

佳奈多「…本の中での姉妹は…とっても仲が良くて…」

理樹「…………」

佳奈多「姉は…とっても世話焼きだった」

理樹「…………」

佳奈多「あるシーンで…姉が妹に耳掃除をするの」

佳奈多「膝枕をして…耳かきをしながら…姉妹は今日の出来事なんかを語り合うのよ」

佳奈多「何百ページある中の、たった数ページ…」

佳奈多「普通に読んでいたら、それほど気にもならず読み流してしまうような…些細な日常を描いただけのシーン…」

佳奈多「…だけど…私はそのシーンが好きだった」

佳奈多「いや…羨ましかった」

佳奈多「…本の中の…世話焼きで…お節介で…妹に愛される…」

佳奈多「…そんな…お姉ちゃんに…なりたかった…」

理樹「…………」

佳奈多「……あの日は叔父たちが、全員出てる日でね」

佳奈多「家には私と葉留佳と…あと数人の監視役が残っているだけだった」

理樹「…………」

佳奈多「監視役の行動は…毎日確認していたから、いつどこにどう動くかは完全に分かっていた」

佳奈多「…私たちに…目が向かない時間もね」

~~~

佳奈多『……今から一時間…監視役は休憩を取るはず…』

佳奈多『残る数名も…昼ご飯を食べている…』

佳奈多(チャンスは今しかない…!)

佳奈多(はるかは…!?)

タッタッタッ…

ガラッ

葉留佳『ッ!?』

佳奈多(居た…!)

佳奈多(……部屋の端で…うずくまって…)

葉留佳『な、なに…?』

佳奈多(あんなに…怯えて…)

葉留佳『なんですか…?』

佳奈多(あんな…目で…私を…)

葉留佳『…………』ビクビク

佳奈多『………ッ』

佳奈多(違うんだよ…)

佳奈多(今日は…意地悪しに来た訳じゃないの…)

佳奈多(こんなチャンス…二度とこないかも知れない…)

佳奈多(今日は…あの本みたいに…いいお姉ちゃんになるんだ…!)

佳奈多『……あ、あのね…はるか』

葉留佳『ヒッ……』ビクビク

佳奈多(怯えなくていいのよ…)

佳奈多(今日は…今日は…)

佳奈多『き、今日は…はるかに…してあげたい事があるの』

葉留佳『い、嫌だ…!』ビクビク

佳奈多『は、はるか…』

葉留佳『い、嫌です…!ごめんなさいぃ…!もう痛いのは嫌ぁ…!』ビクビク

佳奈多(違う!違うの!今日は意地悪しないの…!)

葉留佳『ごめんなさい…ごめんなさいぃぃ…!』ビクビク

佳奈多『ち、違うの…今日は…!』

佳奈多(言える…のかな…?)

佳奈多『今日はね…』

佳奈多(いつも意地悪ばかり言う私が…!)

佳奈多『は、はるかに…』

佳奈多(優しい言葉を…!)

佳奈多『い、いじわ…グッ!?』

佳奈多(噛んだ…!舌を…!)

佳奈多『い、痛っ…』

佳奈多(あぁ…そうなんだ…)

佳奈多『………くぅっ…!』

佳奈多(私は…優しい言葉は掛けられないんだ…)

佳奈多『……グゥ…ッ!』

佳奈多(もう私は…はるかに…意地悪な言葉以外…言えなくなってしまったんだ…)

佳奈多『…う…うぅ…あ、ああぁぁぁ…』

佳奈多(痛い……!)

佳奈多『あぁああぁあぁああ……ッ』

佳奈多(私は…あの本みたいな…優しい…お姉ちゃんには…)

葉留佳『大丈夫…?』

佳奈多『え…?』

葉留佳『…だ、大丈夫…?』ビクビク

佳奈多『はる…か…』

佳奈多(葉留佳は…こんなにも怯えながら…)

葉留佳『…ベロ…噛んじゃったの…?』

佳奈多(私の事を…心配…)

葉留佳『見せて…?』

佳奈多(なのに…私は…!)

佳奈多『あ…ああぁぁぁぁぁぁ…っ』

葉留佳『かなた…?』

佳奈多『うあああああああああああああぁ……っ』

佳奈多『ヒック…ごめんね…はるか…ヒィック…ごめん…ね…』

佳奈多(やっと…言えた…!謝れた…!)

~~~

葉留佳『耳掃除…?』

佳奈多『うん、してあげる』

葉留佳『いいの?』

佳奈多『今日は叔父様たちも居ないし…監視も今は居ないから大丈夫』

葉留佳『…そうなんだ』

葉留佳『…やはは…なんだか照れ臭いな』

佳奈多『そうかもね』

葉留佳『で、どうすればいいの?』

佳奈多『えぇっとね…まずは…私の膝に寝て?』

葉留佳『膝…ね』

葉留佳『よっと…』

佳奈多『…………』

葉留佳『これでいい?』

佳奈多『…………』

葉留佳『…ん?』

グサッ

葉留佳『いひゃいっ!?』

佳奈多『仰向けに寝て…どうやって耳掃除するっていうのよ』

葉留佳『はにゃが~(鼻が~)』

佳奈多『まったく…』

葉留佳『じゃあこう…かな?』

佳奈多『え、ちょっ何で顔をこっちに向けるのよ』

葉留佳『だって、かなたの方を向いていたいんだもん』

佳奈多『…………ッ』

葉留佳『やはは…』

佳奈多『し、仕方ないわね…』

佳奈多『じゃ、じゃあ始めるわよ…』

葉留佳『うん…』

佳奈多『…………ッ!』

佳奈多(……酷い……!)

葉留佳『ん?…どうしたの、かなた?』

佳奈多(耳の中が…泥でびっしり汚れて…)

葉留佳『…………』

佳奈多『さ、最初は濡らした綿棒でやるわね。その方が、取りやすくなるのよ…』

葉留佳『…………うん…』

佳奈多(かなたが…何をしたって言うのよ…!)

佳奈多『じゃあ入れるね?』

葉留佳『……うん……』

佳奈多(こんな泥…!)

>>214
かなたが×
はるかが◯

佳奈多『…………』ゴシゴシゴシゴシ…!

葉留佳『…………』ゴシゴシゴシゴシ…!

佳奈多『…………くっ…!』ゴシゴシゴシゴシ!

葉留佳『…………』ゴシゴシゴシゴシ

佳奈多(だいぶ…取れてきた…!)

葉留佳『…………ありがとう』

佳奈多「……え……?』

葉留佳『ありがとう…お姉ちゃん』

佳奈多『え…あ……あ……』

葉留佳『やはは…今日の朝も叔父さん達に怒られてしまいましたヨ』

佳奈多『はる…か…』

葉留佳『…………』

葉留佳『…汚いでしょ?』

佳奈多『…………ッ!』

葉留佳『無理しなくてもいいよ』

佳奈多『無理なんかッ!』

葉留佳『私は…お姉ちゃんが耳掃除してくれるって…言ってくれただけで嬉しかったから』

佳奈多『…………ッ』

葉留佳『お姉ちゃんが…私を好きでいてくれるって分かっただけで…嬉しかったから』

佳奈多『…………』

葉留佳『だから…私は我慢できるよ?』

佳奈多『…………』

葉留佳『これからも…ずっと…耐えていけるよ…?』

佳奈多『…………ヒック…』

葉留佳『…だから…お姉ちゃんは…無理しなくてもいいんだよ』

佳奈多『ヒグッ…うっ……うぅ…』

葉留佳『私のこと…嫌いにならないでくれたら…それでいいの…』

佳奈多『…うぁ…ヒック…ヒック…うわぁああ…』

葉留佳『やはは…お姉ちゃんは泣き虫さんデスネ…』

佳奈多『は…る…か…』

葉留佳『うん…なぁに?お姉ちゃん』

佳奈多『私…』

かなたさん!どこですか?

葉留佳『ッ!監視だ…!』

佳奈多『え…あ…!』

佳奈多(まだ…私…!)

葉留佳『かなた!早く私から離れて…!』

佳奈多『そ、そんな…!』

佳奈多(はるかは…あんなに私に優しい言葉を掛けてくれたのに…!)

葉留佳『かなたっ!早くいつもの様にして!』

佳奈多『あ、あう…!』

佳奈多(私は…まだ…!)

葉留佳『かなた!』

佳奈多(私はまだはるかに優しい言葉を…!!)

ガラッ

『かなたさん、こんな所にいらしたんですか?』

佳奈多『はるかは汚いね!努力しないから叔父様達に泥まみれにされるんだよ!』

~~~

理樹「…………」

佳奈多「…結局…」

佳奈多「本の中の…良いお姉ちゃんにはなれなかった」

理樹「…………」

佳奈多「…謝る以外…優しい言葉を掛けてあげることが出来なかった」

佳奈多「仲良く話すことも…葉留佳の話を聞いてあげることも…」

佳奈多「耳の泥を…全部落とすことも…出来なかった」

理樹「…………」

佳奈多「葉留佳は…あんなに私に気を使って…優しくしてくれたのに…」

佳奈多「私は…何も…出来なかった…」

佳奈多「意地悪な言葉は…あんなにスラスラと出てくるのにね」

佳奈多「…本当に…ひとでなしよね…」

佳奈多「最低よ……」

理樹「…………」

佳奈多「…本当に…最低……」

理樹「…………」

佳奈多「はぁ…なんでこんな話…」

理樹「それだけ、僕に心を開いてくれてる…ってこと…なのかな…?」

佳奈多「心を開く…ねぇ…」

佳奈多「…………」

佳奈多「……そう……かもね…」

理樹「……うん……」

理樹「…………」

理樹「…二木さんは…さっき…」

佳奈多「…ん…?」

理樹「何も出来なかったって言ったけど…」

理樹「そんな事は無いと思う」

佳奈多「…………」

理樹「だって、その時行動を起こしたのは二木さんじゃないか」

佳奈多「…………」

理樹「二木さんが葉留佳さんに耳掃除をしようと行動しなかったら、葉留佳さんは二木さんに優しく出来なかったはずだよ」

佳奈多「…………」

理樹「だから…その…」

佳奈多「…………」

理樹「二木さんは、何も出来なかったなんて事は…無いと思う」

佳奈多「……お人好しね…あなたは…」

佳奈多「本当に…お人好しで…馬鹿ね…直枝は…」

理樹「うん…それが僕だから」

佳奈多「…本当に…馬鹿ね…」

理樹「人は…」

理樹「孤独なんだ」

理樹「だから手を繋ぐんだよ」

佳奈多「…………」

理樹「でも、手を繋ぐには差し伸べる手が必要なんだ」

佳奈多「…………」

理樹「二木さんは…」

理樹「その時葉留佳さんに手を伸ばしたんだよ」

理樹「葉留佳さんの優しさは…二木さんが手を伸ばしたんだ結果なんだ」

理樹「だから…」

理樹「何も出来なかったなんて思っちゃ駄目だよ」

佳奈多「…………」

理樹「言葉に出来なくってもいいじゃないか」

理樹「人の心っていうのは…行動でも伝わるんだよ」

佳奈多「…………」

理樹「だから…」

ポタッ…

理樹(…頬に…)

理樹「…二木さ…」

佳奈多「顔をあげたら…死んでやるから…」

佳奈多「……ヒック……!」

理樹「…………」

佳奈多「…グスッ…それにしても…」

理樹「…うん…?」

佳奈多「語るわね直枝…」

理樹「え、そ、そうかな…」

佳奈多「…でも……」

佳奈多「……嫌いじゃないわよ…」

理樹「…………」

理樹「そ、そっか…」

佳奈多「……グスッ……直枝…」

理樹「な、何?」

佳奈多「か、顔をあげたら…死んでやるんだから…」

理樹「わ、分かってるよ」

佳奈多「…うん……」

理樹「…………?」

佳奈多「…………」

理樹(ん…?何か二木さんの顔が近づいてるような…)

チュッ…

理樹「ッ!?」

理樹(……頬に……)

佳奈多「……ありがとう……」

佳奈多「ふぅ…風紀委員辞める事にしておいて良かったわ…」

理樹「……そうだね」

佳奈多「…………」

理樹「…………」

佳奈多「……今度…」

理樹「……ん?」

佳奈多「葉留佳に聞いてみるわ」

理樹「…耳掃除のこと?」

佳奈多「うん…。それと…」

佳奈多「あの時…言えなかった分…優しい言葉をいっぱい掛けてあげたい」

理樹「うん、いいと思うよ」

佳奈多「ただ…一人じゃ…面と向かって…恥ずかしがらずに言えるか心配…だから…」

理樹「…………」

佳奈多「……その……」

理樹「うん、僕も…一緒に行くよ」

佳奈多「……ありがとう……」

理樹「でも、僕が居る方が余計に恥ずかしいんじゃない?」

佳奈多「そんな事…ないわよ…」

佳奈多「直枝なら…大丈夫…」



おわり

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