夜
どこかの駅
佳奈多(ホームから出たところで後ろから誰かに声をかけられた)
「…あれっ……二木さん…だよね?」
佳奈多(ナンパかと思って振り向いてみればそうでもなさそうだ)
佳奈多「…………直枝?」
居酒屋
佳奈多(仕事のストレスを発散したい気持ちもあり、再会を祝して直枝の提案で近くの居酒屋に入ることにした)
佳奈多(しかしそこはいかにも店主の趣味で始めたって感じで清潔さもあまりなくこじんまりとした店だった。他の客も常連らしいお爺さんお婆さんばかりで駅の近くというのが唯一の取り柄だ)
理樹「いやぁ、こんな偶然もあるんだねえ」
佳奈多「まったくよ。卒業してからもう2度と見ないかと思ったわ」
佳奈多(それにしても久しぶりに出会った直枝は少し顔つきが大人っぽくなっていた。身長も……伸びたのかしら?)
理樹「ははは、酷いな…一時期は一緒に暮らしてた事もあったのに」
佳奈多「ほんの一時期よ。今思うとなんで直枝と一緒に暮らす必要性なんか無かったのに」
理樹「いや、まあ…」
「生ビールお待たせしましたー」
佳奈多(今日はとことん飲もう。今日の上司に対するやり場のない怒りをちょうど目の前にいる男にぶつけるんだ)
佳奈多「ところで今日、別にわざわざ話すようなことでもないし私はあんまり気にしていないんだけど会社でこんなことがあったのよ」
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学校を卒業して数年後の話
…………………………………………………
佳奈多「それでそのじょーしがなんていっらとおもう!?」
理樹「え、えーと分からないな……」
佳奈多「『君のためだ』っていっらのよ!ふざけんらってはなしよ!」
理樹「そ、それはダメだよね……」
佳奈多「ぐすっ………あ、きれた…ごめんなさーい!ビール!もういっぽん!」
「お客さん。もう閉店の時間でして…」
理樹「だってさ…そろそろ行こっか二木さん。明日……というかもう今日だけど休日が二日酔いで潰れるよ?」
佳奈多「ええーーーー」
理樹「面倒くさいなぁもう」
朝
佳奈多「……頭が痛い……」
佳奈多(昨日は飲み過ぎたようだ。部屋のテーブルに『断じてなにもしてません。直枝』というメッセージと鍵の場所が書かれた紙が置いてあった)
佳奈多「…………なにも覚えてない……」
佳奈多(おそらく家の場所は酔っ払った私から聞き出したんだろう。なにか変なことを言ってなければいいけど……)
佳奈多「……袖が醤油くさいわね」
佳奈多(今日は一日安静にしておこう。どうせ普段やることといえば映画を観るか買い出しだけだし)
佳奈多「それにしても……わざわざ律儀にここまでするなんて直枝も馬鹿ね。……本当に馬鹿ね」
佳奈多(お陰で嫌な気持ちは無くなった気がする。こんなに何も考えず眠たくなったのはいつ以来だろうか…)
佳奈多(………………………)
佳奈多(……………)
佳奈多(……)
数日後
夜
駅
佳奈多「はぁぁ……」
佳奈多(人目もはばからず大きなため息を吐いた。それくらい精神に余裕がなかった)
佳奈多「……あと一ヶ月の辛抱よ。あの上司が人事異動すればあとは良い人ばかりだから…」
佳奈多(なんて気が遠くなる29日なんだろう。そう思っていると横から疲れた顔の直枝が通り過ぎた。良いタイミングだ)
佳奈多「直枝っ」
理樹「あっ、二木さん。また会ったね」
佳奈多「今晩も付き合いなさい」
理樹「ま、また!?」
佳奈多「はぁ……そういう訳であと4週間ちょっとなの」
理樹「ははは…地道に耐えるしかないねそれは」
佳奈多(今度は財布の事情もあるし抑えめにした。場所はこの間と同じ居酒屋。他人と毒を吐き合うのは驚くほど気持ち良い。これなら1週間に一度来ても良いくらいかもしれない。どうせ直枝も独身貴族だ)
理樹「そういえば二木さんってこれからどうするの?ずっと働くって訳にもいかないだろうし…」
佳奈多「どうせ同僚は誰も近づいて来ないわよ。その事情だけはあの頃とまるで変わらないわね」
理樹「まあ見た目は良くてもいつも怖いオーラ放ってるからね」
佳奈多「だ、誰が殺気を出してるですって!?」
佳奈多(み、み、見た目は良い!?)
理樹「えっ、あ、ごめん!つい!」
佳奈多「ついじゃないわよ……まったくもう」
佳奈多(落ち着きなさい佳奈多。今のはほんの社交辞令よ。人を貶す前に褒めてワンクッション置いたっていうアレよ。大丈夫大丈夫、よし)
佳奈多「ビ、ビールおかわり!」
アパート
理樹「それじゃもう僕は帰るよ?大丈夫だよね?」
佳奈多「うん……」
佳奈多(結局また飲み過ぎてしまった。また直枝に介抱されてしまった)
佳奈多「…というか……本当に手を出さないっていうのも逆にムカつくわね」
佳奈多(学生時代にたまに流れてた直枝がそっち系だったという噂も案外バカに出来ないかもしれない)
『そういえば二木さんってこれからどうするの?』
佳奈多「………………………」
佳奈多「ま、直枝も葉留佳も独り身だし焦る心配はないわよね………」
数週間後
居酒屋
佳奈多(いつの間にか金曜日にここで集合するのがお約束になっていた。それほどお互い悪い習慣だとは思っていないんだろう。流石にお酒は何回かに一度に控えてはいるけど)
理樹「それでとうとう恭介が結婚するんだよ!招待状来ちゃったし!」
佳奈多「ああ、それならあーちゃん先輩……この呼び方直すべきね…とにかく招待状なら私も貰ったわ」
理樹「いやぁ、あの恭介が……ねえ」
佳奈多「あなたも周りに良い感じの人はいないの?学生の頃は沢山いたのに」
理樹「リトルバスターズのみんなはまた別だよ!それに会社の人はだいたい既に他の人と……」
佳奈多「そ。まあ貴方に先を越されたら恥ずかしいわ」
理樹「失礼だなあ!」
佳奈多「ふふふっ!」
理樹「ふっ……あはは!」
佳奈多(……こんな日々がずっと続けばいいのに)
理樹「二木さん…今日は折り入って相談があるんだけど…」
佳奈多「どうしたのよ急に」
佳奈多(今日は店に入ってからずっと険しい顔をしていた。なにかあったのかしら)
理樹「僕……もしかしたら結婚するかもしれない!」
佳奈多「えっ?」
理樹「という訳なんだ!」
佳奈多(直枝が言うには部長とプライベートの付き合いをしていた時、ひょんな事からその娘さんと知り合う機会があったそうだ。そして今日、部長から仕事終わりに呼び出され、なんの話かと思ったら娘さんとのお見合い話が持ちかけられたということだ)
佳奈多「それってあなたがその女の人から惚れられたって事じゃないの?」
理樹「そ……そんな…!!」
佳奈多「いいんじゃない?上手くいけば逆玉の輿よ」
理樹「いやいやいや!そういう気持ちで人と付き合うのは良くないよ!」
佳奈多「今回はそのまま結婚だけどね」
理樹「どうすればいいのかな……僕はその人と全然会話らしい会話とかした事ないしどんな性格かも……!」
佳奈多「顔はどうだったのよ」
理樹「それは…凄く綺麗だった……かな」
佳奈多(直枝の頬は少し赤かった。ほんの少しだけ。いや、多分見間違いね)
佳奈多「それでいつやるの?」
理樹「オーケーなら来週の今日だってさ…」
佳奈多「そう…なら来週は会えないわね。残念」
理樹「そうだね………」
佳奈多「本当……残念ね」
佳奈多(最後の一言は小さすぎて直枝には聞き取れなかっただろう)
居酒屋
佳奈多(ここに来てから直枝は今日は別のところにいるって事を思い出した。今日は祝日で人もいつもより多い)
佳奈多「はあ………とりあえずビール」
「はい、お待ちください!」
佳奈多(きっと直枝は上手くやるだろう。そうでなくとも押しが弱いのは知っている。ずっと前からそういう所が変わってない)
佳奈多(いやでもあの結婚式の時の直枝は違ったかな。あの時は男らしかった……と思う)
佳奈多(でも尻には敷かれるタイプね。見るからにしっかりしてないし私みたいな人が引っ張ってあげないと将来子供にも馬鹿にされるかも)
佳奈多(…………今まで見てきた中じゃ悪くない男だったかな……)
佳奈多「多分、ここで飲むのも最後ね」
佳奈多(何故か鼻の方が少しジンと来た。今日は全てを忘れるって勢いでいこう。幸い今日はおろしてきたばかりだ)
佳奈多「よぅし!」
佳奈多(意気込んだその時だった)
「あっ、良かったー!やっぱりいた!」
佳奈多「………えっ……」
「いや~いなかったら1人で来るところだったよ…」
佳奈多「な、なんで……」
佳奈多(もう見る事はないと思ってた顔がすぐ近くに現れた)
理樹「うん。やっぱり面倒くさいから部長には悪いけどそのまま帰ってきちゃった。それよりここで二木さんと飲んでる方が僕らしくていいや」
佳奈多(…………………………)
佳奈多「……………はっ」
佳奈多「……あははっ!」
理樹「えっ!?な、なにさ!」
佳奈多「うふふ……馬鹿ね直枝!もう次の出会いなんてないかもしれないのに!」
理樹「そ、そんなの分からないだろ!」
佳奈多「…本当、馬鹿ね!」
理樹「に…二度も言わなくても……」
佳奈多(きっと今の私は満面の笑みだろう。どうやらこの居酒屋にはまだまだ厄介になることになりそうだ)
終わり(∵)ノシ
前作
理樹「朝起きたら腕に『誰も信用するな』と書かれてあった」
それじゃ次スレ建てたらまた連絡するわ
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