夏奈「なんだ、またタケルが来てるのか」春香「カ、カナ!」(184)

夏奈「ただいまー。ん?」

夏奈(この革靴は……)

タケル「聞いてくれるかい? 実はね、仕事でね……でもね……レイコさんがね……もうね……」

千秋「……」

夏奈「なんだ、またタケルが来てるのか。最近、来すぎだろ。いい加減出入り禁止にすればいいのに」

春香「カ、カナ!! あれを見たらわかるでしょ!!」

夏奈「いや、分かってるけどさ。チアキだってそろそろ爆発するんじゃないか?」

春香「いいじゃない。おじさんにはお世話になってるんだし」

タケル「それでね……ダメだって……レイコさんがね……だからね……オレね……」

千秋(お腹、すいたなぁ)

夏奈「チアキ、おつかれ」

千秋「カナ、おかえり。そろそろ交代の時間だと思っていた」

夏奈「そうか。宿題は済んだの?」

千秋「まだだ。タケルの話に耳を傾けていたからな」

夏奈「そうか、そうか。よし、もういいぞ、ゆっくり勉強しとけ」

千秋「うむ。では、そうさせてもらおう」

夏奈「よっこいしょ」

タケル「ふふ……でもね……オレもね……がんばってね……レイコさんにね……」

夏奈「……」

春香「チアキ、あとででいいから、夕飯作るの手伝ってくれる?」

千秋「はい、喜んでお手伝いします」

春香「ありがとう」

タケル「だけどね……レイコさんはね……オレのことをね……うぅ……」

夏奈「……」

春香「――はぁーい、おじさん。夕飯にしましょうか」

タケル「ハルカちゃん。ありがとう」

春香「いえいえ。やっぱり、食べないと元気も出ないと思いますから」

タケル「うん。そうだね。やっぱり、食べないとダメだよね」

春香「はいっ」

タケル「いただきます」

千秋「で、カナ。結局、タケルはどんな話を私たちに聞かせていたんだ?」

夏奈「さあ、よくわからん」

タケル「うまいっ。やっぱり、ハルカちゃんの料理は美味しいよ」

春香「ありがとうございます」

夏奈「なぁ、タケル。最近、家に来すぎだぞ」

タケル「え?」

夏奈「そろそろ訪問頻度を下げてくれないと、こちらとしても……」

春香「カ、カナ!!」

タケル「だって……だってね……レイコさんがね……オレをね……」

千秋「バカ野郎。なにをしている。余計にめんどくさいことになっただろうが」

タケル「聞こえてるよ、チアキちゃん」

夏奈「だって、事実なんだから仕方ないでしょー。タケルの不幸話を聞くぐらいなら、その辺の通行人の不幸話のほうが実りがあるよ!!」

タケル「とても心に響く辛辣さだね、カナちゃん」

春香「二人とも、おじさんの前でそんなこと言わないの。ご飯が美味しくなくなるでしょ」

タケル「ハルカちゃん、それフォローじゃないよね。止めを刺しにきてるよね」

千秋「とにかく、いつもご飯を食べたら帰るんだから、それまで藪を突くな」

夏奈「まぁ、そうだけど」

千秋「喉元過ぎれば熱さもタケルも忘れる。心配するな」

夏奈「そーだね」

タケル「忘れるんだ」

春香「ご、ごめんなさい、おじさん。おかわり、いります?」

タケル「うん。お願い」

夏奈「チアキ、またあとで話し合うからな」

千秋「分かっている。慌てるな」

タケル「美味しかったよ。今日はありがとう」

春香「いえいえ」

夏奈「今日も、の間違いだろ」

千秋「藪は突くな」

夏奈「はいはい。チアキー。こっちおいでー」

千秋「うむ」

タケル「……」

春香「あの、本気じゃないですか」

タケル「いいよ。オレ自身、最近本当によくお邪魔しているからね」

春香「そ、そんなことないですよ。おじさんならいつでも大歓迎ですから」

タケル「本当に?」

春香「……あはは」

タケル「……また、来るよ」

春香「は、はい。おやすみなさい」

タケル「おやすみ」

夏奈「ハルカ、本当に出入り禁止にしたらどうだい?」

春香「そんなこと言わないの。おじさん、あまりに上手く行ってないみたいだから、色んなことが」

夏奈「だから、ほぼ毎日来られたら困るでしょ、こっちだって」

春香「そうだけど……」

千秋「ハルカ姉さま。提案があります」

春香「どうしたの?」

千秋「流石に私たちの心労もピークですし、タケルの相手をいつまでもしているわけにはいきません。こっちだってやらねばならないこともありますし」

春香「そうよねぇ……」

千秋「援軍を呼びましょう」

春香「援軍?」

夏奈「チアキ姫、どこの国から援軍を引き連れてくるのですか?」

千秋「うむ。わらわの学び舎に使える家臣が――だれが、姫だ。バカ野郎っ」

春香「チアキ、えっと、もしかして……」

千秋「タケルの相手は内田たちにさせます」

夏奈「いいね。それでいこう。内田なら、大丈夫だろ」

別の日

タケル「こんにちは」

春香「あ、いらっしゃい。おじさん。どうぞどうぞ」

タケル「ごめんね。一昨日も来たのに」

春香「そんな、気にしないでください」

タケル「今日もね……仕事でね……」

春香「あー、えっと……」

内田「おー!! タケルおじさん!! こんにちはー!!」

タケル「え……?」

吉野「こんにちは」

冬馬「よー」

春香「チアキの友達が来てるんですけど、いいですか?」

タケル「構わないよ。賑やかなほうが嬉しいしね」

内田「ささ、こちらへ」

タケル「ありがとう」

タケル「あれ? チアキちゃんとカナちゃんは?」

冬馬「買い物だって行ってたぞ」

タケル「そうなんだ。オレのこと嫌いになったのかな?」

内田「そ、そんなことないと思いますっ!!」

タケル「本当に?」

内田「たぶん!!」

タケル「君の笑顔は全力で気持ちがいいね」

冬馬「なんか、カナからはとりあえずおじさんの話を聞いてろって言われたけど。どんな話してくれるんだ?」

タケル「聞いてくれるかい?」

内田「私たちでよければ!!」

タケル「ありがとう。実はね……今日もね……仕事でね……レイコさんがね……」

内田「あ、あれ……? 吉野ぉ。一気におじさんが落ち込んじゃったけど……」

吉野「大変だね」

冬馬「おーい。どうした?」

タケル「携帯電話もね……繋がらないしね……」

タケル「メールもね……返信がないしね……デートも……当日にね……キャンセルだしね……もうね……」

冬馬「これだっ」

内田「あー、それはだめぇー」

冬馬「よしっ。あがりっ!」

内田「あぁー、三連敗ぃ……」

吉野「内田はすぐに顔に出るもんね」

内田「顔に出てるの? ジョーカーの顔になってるのぉ?」

冬馬「そーだなぁ。もっとポーカーフェイスを練習したほうがいいと思うぞ」

内田「なにそれ? 食べ物?」

冬馬「違う。どんなときでも表情を変えないようにしろってことだ」

内田「えー? そんなのできるの?」

冬馬「吉野を見ろ。吉野の表情には喜怒哀楽の楽しかないだろ?」

吉野「そんなことないよ」

内田「なるほど! じゃあ、私はずっと喜怒哀楽の怒でいるよ!! ふんっ!! んっ!!! んんっ!!!」

冬馬「力んでるようにしか見えないぞ……」

内田「んんっ!? 負けたよ!? なんでぇー!?」

冬馬「いや、表情は分からなくなったけど、挙動がおかしいんだよ」

吉野「ジョーカーを取らそうとするから」

内田「だって、みんな取ってくれないんだもんっ!!」

タケル「聞いてる?」

内田「はい!!」

タケル「そう。そんなに元気よく返事をされるともう追及できないね」

冬馬「悪い。何も聞いてなかった。今日はババ抜きの調子が良くてさ」

タケル「そこまで正直に言われるとオレは頷くしかないね」

吉野「それで、レイコさんとは映画館に行ったあとの喫茶店で怒らせちゃったんですよね。やっぱり原因は映画の感想の不一致ですか?」

タケル「君はちゃんと聞いてくれてたんだね! すごいね、好きになりそうだよ!」

内田「あの、タケルおじさんもババ抜きどう?」

タケル「え?」

冬馬「そうだな。折角、おじさんもやろうぜ。気晴らしにはなるだろ」

吉野「それじゃあ、私が配るね」

冬馬「なぁー!! 負けたー!!」

タケル「よし。オレの勝ちだ」

冬馬「なんだよ! 子供相手に本気だすなよな!!」

内田「おじさん、つよーい。どうしてーわかっちゃうのー?」

タケル「ババ抜きは相手の目を見ることが大事なんだよ」

冬馬「目って?」

タケル「配り終えたときの目だよ。誰にジョーカーがあるのかを把握していれば、少なくとも負けることはないからね」

内田「すごーい!」パチパチ

タケル「いやぁ、それほどでも」

吉野「かっこいいですね」

タケル「いやぁ、ありがとう」

冬馬「手品師みたいだな」

内田「え!? おじさん、手品できるの!? やってやって!」

タケル「あ、えーと……。じゃあ、少しだけ」

吉野(できるんだ)

タケル「好きなカードを一枚引いてみて」

内田「はい。じゃあ、これ!」

タケル「それを良く見てね」

内田「ハートの2です」

タケル「言っちゃだめだよ?」

内田「あ! ごめんなさい……」

吉野「私が引いてもいいですか?」

タケル「いいよ。引いてみて」

吉野「これにします」

冬馬(スペードのエースか)

内田「ふむふむ」

タケル「それを戻して」

吉野「はい。……これでいいですか?」

タケル「うん。ありがとう。そして、カードの山をよく切って……。はい。これで君が引いたカードはどこにあるのか分からなくなった。で、この一番上に君の引いたカードがあったらびっくりするよね?」

吉野「はい。びっくりします」

タケル「さあ、見てみようか」ペラッ

冬馬「おぉ……!!」

タケル「ハートの4、かな?」

内田「あー……」

吉野「……」

冬馬(はっ!? 吉野が考えてる!! これが単なる失敗なのか、それとも失敗と見せかけて違うところにカードがあるパターンなのかを!!)

吉野「……はい。正解ですっ」

冬馬(吉野の判断はどうなる!?)

タケル「すごいでしょ?」

冬馬(やった!!)

内田「え? よし――」

吉野「なに? ハートの4だったよ?」

内田「あ、うん……そうだね……」

吉野「こういう手品、趣味でやってるんですか?」

タケル「そうだね。これぐらいの芸が出来たほうが受けると思ったんだ。デートのときとかね……そう……レイコさんにね……」

冬馬「なぁ、オレ、なんとなくこの人が彼女にフラれたのかわかった気がするんだけど」

内田「どういうこと?」

冬馬「相手にするの疲れたんじゃないか?」

内田「トウマ、それは酷いよ」

吉野「そうだね。おじさんもがんばってるし」

冬馬「そうはいってもよぉ。カナやチアキが音をあげたにもわかる。これは身が持たないだろ?」

内田「確かに吉野じゃないと、色々危ないと思うけど」

吉野「うーん……。あ、そうだ。おじさん、おじさん」

タケル「え? なにかな?」

吉野「こんな手品は知ってますか?」

タケル「どんなのかな?」

吉野「まず、一枚を引きます。ダイヤの2ですね? これをテーブルに伏せて置きます。さて、このカードはなんでしょう?」

タケル「え? ダイヤの2でしょ?」

吉野「でも、めくってみると……。はい、スペードのエースでしたー」

内田「うわぁ!! すごーい!!! えぇ!? なんでぇー!?」

タケル「オレのときよりも明らかに大きなリアクションだね!!」

内田「いや、だって!! これすごい!!」

冬馬「ど、どうやったんだ、吉野!?」

吉野「ないしょ」

タケル「あぁ……。でも、これはすごいよ。どこでこんな手品を?」

吉野「この間、内田に誘われて本屋さんに言ったときに、たまたま立ち読みしたページに書いてありました」

内田「えぇ!? あれ10分もいなかったよねぇ!?」

タケル「君、天才なの?」

吉野「タネが分かれば簡単ですから。あ、よかったら、おじさんの手品ネタの中に加えてください」

タケル「いいの?」

吉野「はい。別に私は手品を見せようなんて考えてませんから」

タケル「なら、教えてもらおうかな」

内田「吉野ぉ! 私にも!!」

冬馬「オ、オレにも教えてくれ!」

吉野「ダメだよ。これはタケルおじさんにだけだから」

タケル「――こうか」

吉野「そうですそうです。もう、大丈夫ですね」

タケル「なるほど、確かにわかると簡単だね」

吉野「これからはこっちの手品を披露したほうがいいと思います。新しいことをやっていきましょう」

タケル「そうだね。さっきの手品も3年前ぐらいに仕込んだものだし。そうするよ」

吉野「よかった」

冬馬(吉野。さりげなく、ダメなほうの手品を封印させたな。流石だ)

内田「ねーねー! よしのー!! 私にもおしえてよー!!」

吉野「また今度ね」

内田「えー!?」

タケル「まさか、こんなところで新しい手品を覚えることができるなんて、得した気分だよ。本当にありがとう」

吉野「いえ。生意気につまらないことを教えてしまってごめんなさい」

タケル「そんなことないよ。いやぁ、これでまたレイコさんを楽しませることができるかもしれない」

吉野「レイコさんに披露するときは、ハートのエースを使うとなんとなくロマンチックな気がしますね」

タケル「それいいね!」

内田「おじさん、元気になったみたい」

冬馬「そうだな。吉野のおかげだ」

内田「これなら、チアキも喜んでくれるよ! きっと!!」

冬馬「というか、文句なんか言わせるかよ。こっちは苦労したんだからな」

内田「そーだ! そーだ!」

タケル「いやぁ。なんか申し訳ないね。そうだ。教えてくれたお礼に……」

吉野「なんですか?」

タケル「これで好きなものを買ってくるといい」

吉野「い、いえ! そんな!! お金なんて!!」

内田「おぉ!? 1000円!?」

タケル「オレの気が済まないから。受け取ってよ」

吉野「いえ、そんなつもりなんてなかったですから。本当に」

タケル「いいのかい?」

吉野「はい。それは新しいトランプを買うときに使ったほうがいいですから」

冬馬(吉野……すげえ……)

タケル「今日はありがとう! なんだか元気が出てきたよ!!」

春香「おじさん、夕食はいいんですか?」

タケル「うん! 帰って手品の練習しなきゃいけないし!」

吉野「がんばってください」

タケル「ああ! がんばるよ!! それじゃあ!!」

春香「はい。またいつでも来てください」

タケル「うん!」

春香「――みんな、ありがとう」

内田「ううん! いいよ!」

冬馬「ハルカぁ、飯まだぁ?」

春香「もう少しで出来るから。待ってて」

吉野「ふぅ……」

冬馬「吉野、大丈夫か?」

吉野「ちょっと疲れちゃった」

冬馬「だよな……。おい、内田。オレたちの為に頑張ってくれた吉野を労うぞ」

千秋「ただいま帰りました、ハルカ姉さま」

春香「おかえりー。どうだった?」

夏奈「また、明日行ってくるつもりだ」

春香「そう」

千秋「お前ら、今日は悪かっ――」

内田「吉野、おつかれさまぁ。足を揉んであげるね」モミモミ

吉野「ありがとう。足は使ってないからマッサージの意味ないけど」

冬馬「肩はこってないか、吉野? オレ、こう見えても肩揉みは得意なんだぜ?」

吉野「肩はこってないよ。ありがとう、トウマ」

千秋「なにがあった? 吉野が女王様のように見えるぞ」

夏奈「千秋姫の対抗馬か」

千秋「姫っていうな」

冬馬「吉野が大活躍だったんだよ。カナも吉野を揉め」

夏奈「どこを揉めっていうんだ」

内田「でも、あの1000円はもったいなかったよねー」

夏奈「なるほど。吉野、よくやってくれたね!」

吉野「がんばりすぎました」

千秋「吉野。ありがとう。夕食は是非食べていってくれ」

夏奈「しかし、あれだね! これはもうタケル専属のホステスは吉野で決まりだ!!」

吉野「え?」

夏奈「バイト代はその都度、タケルから徴収していいからね。私が許可する!」

内田「えー!? タケルおじさんからお金もらえるの!? 私もホステスしたーい!!」

千秋「トウマの話を聞く限りでは、内田は戦力にならなかったみたいだが?」

内田「でも、笑顔は褒められたよ!! ね!? トウマ!」

冬馬「あ、ああ。そこしか褒めるところがなかったって感じだけどな」

内田「ほら、いけるよ。カナちゃん、私もホステスにしてみない? ねえねえ」

夏奈「ダメだね! 吉野レベルの接待能力がないと」

内田「えぇー!?」

夏奈「どう。吉野。悪い話じゃないと思うんだけど」

吉野「遠慮します」

千秋「――というわけで、吉野からはこれっきりにして欲しいと言われてしまった」

夏奈「カナちゃんの苦労がわかっただけでも勉強になったから、なんて言われたらもう説得は無理だと姉は判断した」

千秋「悪くない判断だ、カナ。あれ以上説得を続けていれば、私と吉野の間に大きな溝が出来てしまいかねない」

春香「おじさんもとっても喜んでたのに……」

夏奈「かといって、内田もダメだ。あいつは既に金に目がくらんでいたからな。あんな下心ではタケルを癒すことなんてできない」

千秋「それは同感だ。内田はダメだ。トウマもめんどくさいと言い残して帰ったし、私の人脈ではだれも召集できない」

夏奈「むー……」

千秋「カナ、マコちゃんはどうだ?」

夏奈「マコちゃん?」

千秋「ああ。少し可哀想だが、マコちゃんの愛らしさと男らしさはタケルを癒すのに十分だと思うんだが」

夏奈「だが、チアキ。マコちゃんだけでは負担が大きいだろう」

千秋「なら、ケイコもセットで」

夏奈「おお! よーし! 次はそれでいこう!!」

春香「カナ、チアキ。無理を言ったらダメよ?」

夏奈「分かってるって。無理強いはさせないから」

別の日

タケル「やぁ、ハルカちゃん」

春香「いらっしゃい、おじさん。今日は……えっと……」

タケル「手品ね……見せようとおもったんだけどね……そのまえにね……断られてね……デートね……うぅ……トランプも……かったのに……」

春香「ああ、あの……」

マコ「どうも、こんにちは!!!」

タケル「……君は?」

マコ「オレはマコちゃんです!!」

ケイコ「こ、こんにちは」

タケル「こんにちは。あれ? チアキちゃんとカナちゃんは?」

ケイコ「か、買い物に出かけたみたいです」

タケル「そう……。やっぱり、オレは避けられるんだね。いや……わかってたんだけどね……でもね……レイコさんにもね……」

マコ「か、鞄もちます!!」

ケイコ「コート、脱いでください。かけておきますから」

タケル「ありがとう……」

タケル「今日も仕事でね……レイコさんのね……電話がね……繋がらなくてね……」

マコ「ケイコさん、どうしたらいいですか?」

ケイコ「わ、私に言われても……」

タケル「うぅ……ぅぅ……手品……おぼえた……のに……」

マコ「あ……えっと……手品みたい!!」

タケル「え?」

マコ「オレ、おじさんの手品すごくみたい!!」

ケイコ(マコちゃん……)

マコ「是非とも見せてください!!! オレに!! オレだけに!!!」

タケル「……でも、つまらないかもしれないよ?」

マコ「そんなの見てみないと分かりませんから!!」

タケル「そうかな? なら……この前、教えてもらったやつから……」

マコ「わーい。たのしみだなー」

ケイコ(わ、私も頼まれたからにはがんばらないと……)

タケル「いいかい? この一番上のカードを見てみるよ? スペードのエースだね? これをテーブルの上に伏せて……」

タケル「ほら、ハートのエースになるんだ」

マコ「すごい!! これはすごい!! すごすぎる!!」

ケイコ(タネが見えていなければ……)

タケル「いやぁ。あれから自分なりにオリジナル要素も加えてみたんだけど、それがけっこうしっくりきてね」

マコ「もっと見せてください!!」

タケル「いいよ。じゃあ、この山の中から一枚引いてみて」

マコ「わかりました!! クラブの9です!!」

タケル「言ったら、ダメなんだよ」

ケイコ「マコちゃん」

マコ「あ、ご、ごめんなさい!! つい!!」

タケル「でも、この手品は受けがよくなかったからね……。もういいか」

ケイコ「あの、あなたのことはカナから聞いています。えっと、何があったのか詳しく話してみてくれませんか?」

タケル「え?」

ケイコ「話してすっきりすることもあると思うんです」

マコ「そうですね。話を聞いたほうがいいかもしれない。大丈夫です。オレの聞き上手は母親譲りですから」

タケル「――ここ最近の出来事は、こんなところだよ。だからね、僕はね……デートのね……約束を……」

ケイコ「ああ……」

マコ「すっきりするどころか、更に落ち込んじゃった」

タケル「ごめんね。こんなこと中学生の君たちに話しても仕方の無いことだっていうのは分かっているんだけどね」

ケイコ「はぁ……」

ケイコ(気まずい。聞いたのは間違いだった)

マコ「どうしよう。チアキに元気付けるように言われているのに……!! ハルカさんにもこの人のことを頼まれているのに……!!」

マコ「オレに……オレに何ができるんだ……!!」

ケイコ「マコちゃん。耳貸して」

マコ「はい! どーぞ!!」

ケイコ「(私たちじゃ的確なアドバイスなんて出来ないと思うの)」

マコ(ケイコさんの吐息がぁ……)ゾクゾクッ

ケイコ「(だからね、カナたちとは違う方法で癒してあげない?)」

マコ「(その方法って?)」

ケイコ「(えっと……少し恥ずかしいけど……)」

春香「――マコちゃん、ケイコちゃん。お茶でも……」

タケル「あぁー。きもちいいよぉ……」

マコ「そうですか!?」

ケイコ「んっ……んっ……」

春香「二人とも……」

マコ「あ、ハルカさん!! どうも!!」

ケイコ「ここは、どうですか?」

タケル「お願いしてもいいかな?」

ケイコ「はい」

春香「ごめんね、二人とも。こんなことまで……」

マコ「いえ!! これぐらいなら余裕です!! 父親譲りのサービス精神がオレに宿ってますから!!」

ケイコ「はい。気にしないでください」

タケル「あー。そこそこ」

ケイコ「凝ってますね」

春香(いたるところをマッサージしてもらって、おじさんも気持ちよさそう。二人にはきちんとお礼しておかないと)」

タケルと役員共の津田のギャップw

タケル「身も心も軽くなったよ。ありがとう」

マコ「それはよかったです!!」

ケイコ(疲れた……)

タケル「これ、少ないけど受け取ってくれるかい?」

マコ「え!? そんな!! いりません!!」

ケイコ「お気持ちは嬉しいですけど、受け取れません」

タケル「そうかい? カナちゃんやチアキちゃんなら遠慮なく受け取ってくれるんだけどね」

ケイコ(カナ……)

マコ「お金を貰ったら、お金のためにマッサージしたみたいになっちゃいますから!! オレはそんなつもりで腰とか足とか揉んだわけじゃないんで!!」

ケイコ「私も同じです」

タケル「そうか。分かったよ」

マコ「いえ!!」

ケイコ「少しでも元気が出てくれたら幸いですから。ね、マコちゃん?」

マコ「勿論です!!」

タケル(最近の中学生はこんなにもいい子がいるんだ……)

アッー!

タケル「今日はとてもよかったよ。背中に羽が生えたようだからね。飛んで帰っちゃおうかな、なんて。あははは」

春香「おじさん。では、お気をつけて」

タケル「うん! またね、ハルカちゃん!!」

ケイコ「ふぅ……」

マコ「あー!!!」

春香「大丈夫!?」

ケイコ「はい。ちょっと気を遣い過ぎただけです」

マコ「あぁ……疲れたぁ……」

春香「ごめんね、マコちゃん。ありがとう」ナデナデ

マコ「ハルカしゃぁん……いえ……」

ケイコ(マコちゃんってハルカさんのこと大好きだって聞いてたけど、この感じは……)

春香「ケイコちゃんも疲れたでしょ? 今、飲み物いれるから」

ケイコ「はい」

マコ「手伝います!! ハルカさん!!」

ケイコ(そういえばマコちゃんって、私と同じ学校に通ってるのよね。カナと仲よしみたいだけど、見たことない……)

春香「今日は本当にありがとうね。おじさんの相手は疲れるでしょう?」

マコ「ハルカさんはいつもあんなことを?」

春香「私は、その、料理作らなきゃいけないから、おじさんの相手は基本的はカナなの」

マコ「そうなんですか」

ケイコ「カナが私にお願いしに来たときとても真剣でしたから、それなりの覚悟はしてきたんですけど……。想像以上でした」

春香「そうなの。話がいつも途中でループしててね。いつも同じ話を聞かされちゃって」

マコ「大変そうですね。とっても」

ケイコ「あの、今日だけでいいって言ってましたけど、あの様子だとまた来るんじゃないですか?」

春香「きっと来ると思うわ。あまり上手くいってないみたいだから」

ケイコ「様々な問題がありそうですね……。でも、いい人なのはわかります」

春香「そうなの。おじさん、いい人なの。だから、私も無碍にはできなくてね」

ケイコ「大人の事情に口は挟めませんから」

春香「それもあるのよね。的確なアドバイスなんてもってのほかだから、話を聞くしかなくて」

マコ「聞いてスッキリしてくれたらいいのに、余計に落ち込んでたし……」

春香「そうだ! 二人にも訊いておきたいことがあったの」

夏奈「ただいまー。ケイコ、まだいるー?」

ケイコ「おかえり、カナ」

夏奈「ごめんよ、ケイコ。はい、これ。お詫びの品。ジュースだけど」

ケイコ「ありがとう。それで、どうだったの?」

夏奈「いや。ダメだった。ケイコにまで頼んだのにね」

ケイコ「カナ、良かったらまた来るけど」

夏奈「いいよ、いいよ。ケイコは塾とかあるんでしょ?」

ケイコ「そうだけど。今回ばかりは辛そうだし」

夏奈「流石は親友だね!!

ケイコ「親友?」

夏奈「なんでそこで首を傾げるんだー!!!」

千秋「マコちゃん。無茶なことを頼んで悪かったな」

マコ「気にするな、チアキ!! いつでもオレを頼っていいからな!!」

千秋「いや、マコちゃんに甘えるのは気が進まないからな。今日だけでいいよ」

マコ「そ、そう? オレとしてはハルカさんに頭を撫でてもらえるなら頑張れるんけど……」

ケイコ「マッサージぐらいしかできないけど、必要になったら言ってね」

マコ「また来るよ!!」

夏奈「マコちゃん、ちゃんとケイコを送り届けるんだぞ!」

マコ「任せろ!! オレがしっかりガードするから!!」

ケイコ(マコちゃんってどこと無く、男らしいなぁ……)

千秋「頼むぞ、マコちゃん」

マコ「ああ!! さぁ、行きましょう!!!」

ケイコ「うん。よろしくね」

夏奈「さてと……。ハルカ。次はハルカの番だからね」

春香「え?」

夏奈「私たちは手札を使い切った。でも、ハルカはまだ一枚も使ってないでしょ?」

春香「でも、考えたんだけど、マキやアツコじゃ……」

夏奈「アツコはともかく、マキちゃんは大丈夫でしょ」

春香「い、一応頼んでみるわ」

夏奈「頼むぞ。あとちょっとなんだから」

JKはアカン方向に行きそうでやばい

翌日 高校

春香「――っていうわけなんだけど」

マキ「お金が発生するならいいですよ?」

春香「やっぱり?」

アツコ「マキ、いいじゃない。そういうことなら協力してあげても」

マキ「でもね、あの吉野ちゃんがギブアップした相手だよ? 一筋縄でいくわけないでしょう?」

アツコ(マキの中であの子はどんな風に映っているんだろう……)

春香「でもね……」

速水「なになにー? みんな集まってどうかしたー?」

マキ「速水先輩。ほら、あれですよ。前に聞いたでしょ? ハルカの家に来るおじさんの話です」

速水「ああ。面倒なんだって?」

春香「そ、そんなことありません。ただ、その……」

速水「面倒なんでしょ?」

春香「……はい」

速水「うーん。でも、困ったねえ、その人にも。心の拠り所がハルカちゃんの家しかないっていうのは、同情せざるを得ないけど」

もうほさかに掘られたらええねん

保坂「南春香を困らせるのはこれか!この口か!」

タケル「アッー!」

速水「それで、今までどんなお持て成しをしてきたわけ?」

春香「チアキの友達はトランプで遊んだり、手品を教えたりして……。カナの友達はマッサージをしていました」

アツコ「みんな色んなことやってるんだ」

マキ「正直、それだけの接待をされても尚、癒されないってどれだけ心に傷があるんだろうね」

アツコ「付き合っている人に優しくされないとダメかもしれないね」

マキ「甘いね!! そんなの男が身勝手だね!! 女に優しくされるのを待っていてもダメ!!」

春香「おじさんはとても優しいんだけど」

マキ「優しすぎるのも、ダメ!!」

アツコ(なら、どうしたらいいんだろう……)

速水「マキは厳しいね」

マキ「厳しくないですよ。何事も適度がいいんですよ」

速水「適度ね……」

春香「あと少しでいいんですけどね……」

マキ「もう放っておいてもいいんじゃない?」

速水「……」

女の子で囲んであげるからタケルが南家を余計に逃げ場にするんだよ
保坂と藤岡達男性陣で囲んでやれ

>>82
アッー!

アツコ「マキ、そんなこと言ったら――」

速水「ハルカちゃん。私にいい考えがあるわ。のってみる?」

春香「ど、どんな方法ですか?」

速水「やっぱりに今までのお持て成しは所詮、女子供のお遊戯でしかなかったのよ」

マキ「まぁ、確かに女子供ですが」

速水「でも、私たちはもう立派な大人。法的には子供でも、体も知識も大人。そうでしょう?」

春香「は、はい……」

速水「そのおじさんもね、きっと子供を相手にしている感覚しかなかったのよ。互いに気を遣っていただけ。癒されるはずもないわけ」

春香「なるほど。確かに、おじさんは面倒見がいいから……」

速水「そうでしょう。無駄とは言わないけど、消耗戦をしただけでどちらも得はしなかったのよ」

アツコ「それで、どうするんですか?」

速水「マキ、大人の接待とはなにか分かる?」

マキ「お、大人の接待ですか? えーと……うーん……色気?」

速水「違う。酒気よ。大人を癒すにはそれなりの泡立つ黄金水と美味しいおつまみが必要になってくるものよ」

春香「はぁ……。まぁ、確かにおじさんが来るときには用意してますけど……」

速水「さぁ、ハルカちゃん。あとはわかるでしょう? 楽しくなるジュースと美味しいおつまみと、アツコ!! これさえあればどんなに傷ついた狼でもたちどころに回復するはず」

アツコ「なんで、わたし……」

マキ「つまり、アツコがドレスなんか着ちゃって、お酌するというわけですか?」

アツコ「えぇ……あの……」

速水「甘いわ、マキ。私たちにホステスが着るような衣服を用意できると思う?」

マキ「そうですね。ああいうの高そうですし」

速水「そこで高校生ならではの恰好をするのよ」

マキ「高校生ならではですか?」

速水「健全でありながらも適度な色気を放つ衣装……それは……」

マキ「それは……」

速水「体操着!! またはバレー部のユニフォームよ!!!」

マキ「まさにブルマ!!」

アツコ「えぇ!? あの!? えぇ?!」

速水「できるわね?」

アツコ「えぇ……でも……あの……そんな……面識がないひとのまえで……あのぉ……」

春香「ダメです!! そんなこと!!」

速水「ハルカちゃん。おじさんのことを癒してあげたいんでしょ?」

春香「いや、だからって……」

速水「アツコもハルカちゃんの力になってあげたいでしょ?」

アツコ「それは……そうですけど……」

春香「だからって体操着はダメです!!」

速水「なら、制服の下に体操着を着ておいて、盛り上がったところで制服を脱ぐっていうのは?」

アツコ「なんの意味が……」

マキ「でも、ハルカ。それぐらいのことをやるべきじゃないの? 時には劇薬も必要だと思うし」

春香「アツコにそんなことさせるなんてできるわけないでしょー!!」

速水「ハルカちゃん。でも、このままでは貴方の願いは叶わないかもしれないのよ? いいの?」

アツコ「あの……私の意志は……関係ないんですか……?」

春香「……アツコ?」

アツコ「えぇ……」

マキ「アツコ。これはアツコにしかできないことなんだよ?」

速水「よし。決定ね。おつまみは任せておいて。あと、ほどよく血行がよくなる飲み物も私が用意するから」

春香「あ、いえ! まだ正式に決まったわけじゃ!!」

速水「それじゃあ!! 日程が決まったらおしえてねー!!」

春香「あぁ……アツコ?」

アツコ「なに?」

春香「どうする?」

アツコ「……そ、それを……しないとダメだって……い、いうなら……わ、わたし……」

マキ「アツコ!?」

アツコ「が、がん……ばる……から……」

春香「本気にしないで。そんなことしなくていいから」

アツコ「で、でも……でも……」

マキ「こうなったらハルカも体操着になるっていうのは? もしくは競泳水着に……」

春香「マキ?」

マキ「わ、私はバレー部のユニフォームになるから!!」

春香「私が一番露出してるでしょー!!!」

別の日 南家

春香「それじゃあ、お願いね」

夏奈「ああ。今度は大丈夫だ。吉野やケイコにもアドバイスもらったからな」

千秋「行ってきます、ハルカ姉さま」

春香「行ってらっしゃい」

春香「……ふぅ」

アツコ「ハルカ……準備できたよ……」モジモジ

マキ「間違いないね!! 体操着だね!!」

春香「アツコ、いいのに」

アツコ「でも、二人も体操服だから……」

マキ「まぁ、別に特別いやらしいってわけでもないし」

アツコ「そうかな……」

春香「もうすぐ速水先輩が来るのよね。おじさんよりも先に来てくれると嬉しいんだけど」

マキ「そういえばおつまみを作ってもらうとか張り切ってたね」

アツコ「専属シェフがいるとかもいってたけど……もしかして……」

速水「おまたせー。まったー?」

春香「速水先輩。どうも」

速水「これ、火照っちゃう魔法水とー。こっちがおつまみね」

マキ「うわ、重箱ですか?」

速水「そうなの。ハルカちゃんのために必要だって言ったら気合はいちゃったみたいで」

春香「あの、誰がこんなに……」

速水「私の専属シェフ。ハルカちゃんとは永遠に交わらない人生を歩んでいるから、気にしなくていいわ」

春香「会えないってことですか?」

速水「会えないというより、会う度胸が向こうにないのよ」

春香「えぇ?」

マキ「うわ、なにこれ。すご。おつまみっていうより、フルコースみたいになってる」

アツコ(絶対に保坂先輩だ。あの人以外にこんなことをする人はいない)

速水「さー、準備をするのよ!! ホステスたちー!! お客さんはもうすぐくるわー!!」

アツコ「は、はい」

マキ「はぁーい」

タケル「お邪魔します」

春香「おじさん、こんにちは」

タケル「ハルカちゃん、どうして体操服なの?」

春香「ああ、えっと。今日は体操着の日なんで……」

タケル「そんな日があるんだね。知らなかったよ」

春香「とにかく、どうぞ。鞄とコートは私が」

タケル「うん、ありがとう」

マキ「いらっしゃいませー!!!」

タケル「うわ!?」

速水「一名様ごあんなーい」

タケル「え? これは……あの……?」

アツコ「お、おきゃくさま……はじめて……ですか……?」

タケル「ちょっと、ちょっと、待って!! これはなに!?」

速水「ようこそ、癒しの園『みなみけ』へ」

タケル「どういうこと!?」

春香「どうぞ、おじさん。今日は全て用意してますから」

タケル「え? あの……ハルカちゃん……?」

速水「マキ、とりあえず最初のあれを」

マキ「ジョッキですね!」

アツコ「……」モジモジ

タケル「だれか説明してくれないかな?」

春香「えっと……」

速水「まぁまぁ、お客さま。まずは心を解しましょう?」

タケル「君はなんだか場馴れしているね!!」

マキ「はい、お待たせしました」

タケル「君はアルバイト経験が豊富そうってだけでまだ可愛いね」

アツコ「あ……ぅ……」

タケル「顔が真っ赤だよ。恥ずかしいならやめたほうがいいよ」

春香「……」

タケル「ハルカちゃん、どうして何も言わないのかな。弱みでも握られているのかな?」

速水「私も飲んじゃおうかしらー。ドンペリいきます?」

タケル「ダメだよ。君、絶対に二十歳じゃないでしょ?」

マキ「ほら、アツコもいかないと」

アツコ「でも、これ以上近づくのは……ちょっと……」

速水「お客様、何でも特技があるとかないとか」

タケル「え? ああ。手品のことかな?」

速水「見せてもらえませんか?」

タケル「……」

マキ「どうしたんですか?」

春香「おじさん?」

タケル「レイコさんにね……見せたんだよ……手品……あの子に教えてもらった……とっておきのあれをね……でもね……タネが見えてるって……指摘されてね……場が白けちゃってね……」

速水「え……」

タケル「それでね……おもしろくないって……そのまま……またね……れんらくもね……とれなくてね……うぅ……」

アツコ「あ、あの……」

マキ「あー……どうしよう……」

タケル「もうね……どうしていいか……わからなくて……またハルカちゃんにね……めいわくかけて……うぅぅ……」

速水「ああ、あの! 飲みましょう! 飲みましょう!!」

マキ「そうですよ!! こんなときだからこそ飲まないと!!」

アツコ「こ、こっちのジュースは如何ですか!?」

春香「おじさん、ほら、このエビとか美味しそうですよ!! あーん、してくだいさい」

タケル「ありがとう。みんな。分かってるんだ。いつもオレを気遣ってくれているのは。うん。あれだけされたら、流石にね」

春香「おじさん……」

タケル「ハルカちゃん。オレがこんなだから、こんなことまでしてくれたんでしょ?」

春香「いえ……あの……。少しでもおじさんが元気を出してくれたらって……」

タケル「嬉しいよ。でも、無理はしなくていいから。お酒もわざわざ買ってくれたみたいだけど、こんなことしちゃダメだよ」

アツコ(この人、いい人だ)

タケル「これ、誰が用意してくれたの?」

速水「私ですけど」

タケル「いくらだった? 払うよ」

速水「え!? いや、私は楽しめればそれでよかったから、お金とかは……!!」

タケル「ダメだ。こればっかりはね。年上がお金に関して迷惑をかけるなんて、持っての外だからね」

速水「ああ、そういうことなら……」

タケル「これだけあれば足りるかな? お釣りはいらないから」

速水「どうも……」

マキ「速水先輩!! それ貰いすぎじゃないですか!? 二人の諭吉先生は貰いすぎじゃないですか!?」

速水「うん」

タケル「いやぁ、この料理美味しいね。誰が作ったのかな。ハルカちゃんじゃないね」

アツコ「あの……」

タケル「なにかな?」

アツコ「貴方はとてもいい人ですよ。自信をもってください」

タケル「いい人だけじゃ、ダメなんだよ」

春香「そんなことないですよ!!」

マキ「私たちが応援してます!! 諦めるなー!!」

アツコ「がんばってください」

タケル「ありがとう……。今日はとてもいい日だよ……」

夏奈「これで、バッチリだな。チアキ」

千秋「うむ。なんとか間に合ったな」

夏奈「だが、これで喜んでくれるかどうかはわからないからな」

千秋「タケルの渡し方次第じゃないか」

夏奈「いいものを持っていても、タケルでは宝の持ち腐れになるかもしれないということか」

千秋「うむ。そのためにも吉野から聞いた大人の渡し方を伝授してやらないとな」

夏奈「ああ、その通りだ。これでもうタケルも我が家を利用する回数も減るだろ」

千秋「あんな気の毒なタケルを見るのは嫌だしな」

夏奈「そーそー。盆暮れ正月にきてさ、たまに外食につれていってくれるぐらいでいいんだよな」

千秋「その通りだ」

夏奈「――ただいまー」

千秋「ただいま戻りました」

夏奈「リビングが騒がしいな」

千秋「ハルカ姉さま?」

夏奈「おーい、ハル――」

タケル「すぅ……すぅ……」

春香「それでね……ナツキくんったら、わたしのむなもと……ばぁーっかりみて……どういうことよ?」

マキ「それは……それは……」

アツコ「おんなのてきだね……あははは……」

千秋「な、なんだ……これは……?」

夏奈「速水ぃ!! いるんだろ!! でてこぉーい!!!」

速水「なに?」

夏奈「なにじゃないよ!! なにしてるんだ!? なんだ、この惨状は!?」

千秋「ハルカ姉さま!! あの!! 服はどこにいったんですか!?」

春香「あーら、チアキぃ。おかえりぃ」

マキ「チアキちゃんもおいでぇー」

アツコ「いっしょにあそぼー」

千秋「まて、こら! やめろー!! はなせぇー!!」

速水「いやぁー。みんなジュースだと思って飲んじゃったみたいで。ま、私たちは私たちで、楽しいことをしよう……ぜ?」

夏奈「おぉぉーい!! はなせぇー!!!」

俺の服も消し飛んだ…

タケル「……ん? あれ、今、何時?」

夏奈「おはよう、タケル」

タケル「カナちゃん、おはよう……。朝じゃないよね?」

夏奈「夜の10時だ。もうみなみけは閉店だ。帰るといい」

タケル「そんな時間か。ごめんね。少し飲みすぎたみたいだ。帰るよ」

夏奈「待て。タケル」

タケル「どうしたの?」

夏奈「これ」

タケル「これは?」

夏奈「色々な人脈を使い、情報をかき集めて購入したものだ。あの可愛い彼女の誕生日にしっかり渡すんだ。いいな?」

タケル「カナちゃん……」

夏奈「大人な渡し方も伝授したかったが、その時間もない。だから、この紙に手順を書いておいた。吉野の案だからきちんとやれば間違いなく成功するはずだ」

タケル「でも……こんな……」

夏奈「今度来るときは、笑ったまま入って来い。いいな、約束だからな。お前のために色んなやつが協力してくれたんだ、失敗するなよ」

タケル「ありがとう。カナちゃん……。今度くるときは、みんなを温泉につれていくからね!」

春香「うぅん……きもちわるい……」

夏奈「ハルカ、起きたか。マキちゃんたちはリビングで寝てもらってるけど」

春香「ああ、うん。それで、おじさんには渡したの?」

夏奈「バッチリだ。タケルがしくじらない限りは今度の週末は温泉だよ、ハルカ」

春香「温泉? おじさんが言ったの?」

夏奈「連れて行ってくれるらしい。今から準備しておかないとね!!」

春香「そう……。よかったね、カナ。必死にお願いしてたものね」

夏奈「なんのことだ?」

春香「ケイコちゃんから聞いたわよ? すごく真剣にお願いされたって」

夏奈「な……!? ケイコめぇ!! 口が羽毛よりも軽い女だ!! 給食のときおかずを奪ってやるぅ!!」

千秋「それはいつものことだろー」

夏奈「千秋も起きたか」

千秋「お前が騒がしいから目が覚めた」

夏奈「きちんと渡しておいたから」

千秋「そうか。上手くいくといいな」

別の日

内田「カナちゃんが私のドーナツたべたぁー!!」

夏奈「わらしらないおー」

内田「かすかにモグモグしてるよ!!」

千秋「うるさいぞー」

内田「だってー!!」

アツコ「私のあげる」

内田「いいの? アツコさん……」

アツコ「うん。食べて」

内田「ありがとー!!!」

春香「ごめんね、アツコ」

アツコ「ううん。気にしないで」

夏奈「そーいえば、あれからタケルのやつどうなったんだ?」

春香「連絡ないのよね……。でも、連絡がないってことは、きっと上手くいってるってことだと思うし」

千秋「ハルカ姉さまの言うとおりです。今頃、デートとかしているんじゃないでしょうか」

内田「でも、温泉に連れて行ってくれるんでしょー? たのしみー」

夏奈「お前もいくのかよ」

内田「だめなのー!?」

千秋「うるさいっていってんだよー」

春香「アツコも一緒に行く?」

アツコ「ええ? そんな悪いよ」

春香「アツコだけじゃないの。実は、協力してくれたみんなを連れて行こうっておじさんが言っててね」

アツコ「そうなの?」

春香「うん。カナとチアキにはまだ秘密なんだけど」

アツコ「そうなんだ。サプライズ?」

春香「うん。笑顔で入っていきたいからって」

アツコ「上手くいったんだ。よかったね」

春香「アツコのおかげでもあるのよ?」

アツコ「私はなにもしてないよ」

春香「そんなことないって」

タケル「――みんな!! きたよ!!」

夏奈「おぉう!? タケル!! なんだよ!? いきなり入ってくるな!!」

内田「タケルおじさん、こんにちはー」

タケル「はい、こんにちは」

千秋「タケル。どうした? 喜色満面で」

タケル「今週末、温泉に行こう。オレに協力してくれたみんなを連れて行くつもりだから。呼んでおいてね」

夏奈「全員!? 全員だとぉ!?」

タケル「そうだよ。全員だよ!」

夏奈「きいたか、内田!!!」

内田「聞いたよ!! カナちゃん!!!」

夏奈「マコちゃんと吉野が一緒だね!!!」

内田「こまったね!!」

千秋「よーし、流石タケルだ。ふとっぱらぁ」

春香「おじさん、ありがとうございます」

タケル「これぐらいはしないと、罰が当たるからね!」

週末 駅前

ケイコ「カナ、本当にいいの?」

夏奈「ああ! ケイコの貢献度を考えれば温泉でゆっくりして当然だ」

冬馬「いやぁー。なんか、悪いなぁ。何もしてないんだけど」

内田「だねー。でも、たのしみー」

吉野「マーコちゃんっ」

マコ「は、はいぃ……?」

吉野「女湯に入るの?」

マコ「も、もちろんですぅ……」

吉野「じゃあ、一緒に入ろうね?」

千秋「マコちゃんとは一度温泉に行ったが、そのときは一緒に入れなかっただよな。今度こそは一緒に入ろうな」

マコ「あぁぁ……あぁぁ……」

春香「マキ、速水先輩はやっぱり行かないって?」

マキ「速水先輩、なんかお金もらったからか知らないけど、凄く遠慮してたからね」

アツコ「うん。ちょっと無理そうだったよ。残念だけど」

タケル「みんな、集まったね!! それじゃあ、行こうか!!」

夏奈「おー!! 体がふやけるまで入るぞー!! 湯につかられる前に湯につかれー!!!」

千秋「勿論だ!! バカ野郎ー!!!」

ケイコ「お世話になります」

タケル「気にしなくていいよ。君があの指輪、オススメしてくれたんでしょ? レイコさん、とても気に入ってくれてさ」

ケイコ「たまたま、いいなって思っていたのがあったので。お役に立ててよかったです」

マキ「おじさん、その後は順調なんですかー?」

タケル「うん! もうね、怖いくらいだね!」

マキ「なるほど。では、向こうに着いたらその辺りも詳しくききましょうね、アツコ?」

アツコ「なんで……」

春香「おじさん、本当に良かったです」

タケル「ハルカちゃんたちのおかげで、立ち直れたんだ。いくら礼をしてもし尽くせないよ」

春香「そんなこと。おじさんの力ですよ」

吉野「マコちゃんはどこから洗うの? 足かな?」

マコ「く、くびからですぅ……」

温泉旅館

タケル「――やっとついたね。みんなはお風呂に行っておいで。オレはみんなが帰ってきてから行くから」

内田「はぁーい!! いこー!!」

冬馬「よっしゃー!! 一番乗りだぁ!!」

アツコ(あれ、トウマくんって女の子なんだ……)

マキ「アツコ、なにぼーっとしてるの? いこいこ!」

春香「マキ、慌てないの」

ケイコ「カナ、お風呂では手を繋いでてくれる?」

夏奈「ん? ああ、そうか。ケイコ、目が悪いもんな。よしきた」ギュッ

ケイコ「今じゃないんだけど……。まぁ、いいか」

千秋「マコちゃん! 私は長風呂だが、ついてこれるかい?」

吉野「マコちゃん、背中洗ってあげるね」

マコ「あのぉ……そのぉ……」

吉野「ふふ。たのしみー」

タケル(オレは恵まれているな。だからこそ、もう甘えるのはよそう。大人として情けないし、そんな部分があるからレイコさんに呆れられる。ハルカちゃんたちの見本にならないと……)

脱衣所

夏奈「さー、ケイコ! 服も剥いでやろう」

ケイコ「剥がなくていいから!!」

春香「効能は何があるのかしら?」

マキ「美肌と豊胸はありますか?」

アツコ「温泉に入って胸が大きくなったら怖いよ」

内田「トウマー! あれ! あれ!!」

冬馬「なんだ……げっ!?」

千秋「ほら、マコちゃん。何故恥ずかしがる」グイッ

吉野「オーエス、オーエス」グイッ

マコ「ひっぱらないでくれぇー!!!! やめてくれー!!!!」

内田「カナちゃん!! カナちゃん!!!」

夏奈「あー。マコちゃん問題か。大丈夫だ。まかせろ」

内田「はやくしてあげて!! もう脱衣所に片足が入っちゃってるから!!」

マコ「だめだぁー!!! オレはここにはいるわけにはぁー!!! あぁー!!!」

夏奈「ほら、チアキ、吉野。マコちゃんを解放してあげなさい」

千秋「何故だ?」

夏奈「マコちゃんは酷い電車酔いで、今ここで温泉に入ったら、酷いことになるんだよ。もうね、温泉が地獄絵図に変わるぐらいのことが起こる」

吉野「体調、悪かったの?」

マコ「あぁ、うん……実は……」

春香「なら、部屋に戻っておいたほうがいいわ」

マキ「温泉は逃げないからねー」

アツコ「また、あとでね」

吉野「ざんねんっ。もう少しだったのになぁ」

マコ「ひぐっ……!」

夏奈「マコちゃん。タケルの話し相手にでもなっているんだ」

マコ「わ、わかった! カナ、ありがとう!」

夏奈「いや、まぁ、誘った私も悪いからな」

千秋「マコちゃん、お大事に」

夏奈「さぁー!! 残りのみんなで温泉を堪能だぁー!!!」

タケル「ん?」

マコ「はぁ……はぁ……」

タケル「どうかしたの?」

マコ「いえ、おじさんの話相手になろうと思いまして」

タケル「そんなこと気にしなくてもいいよ。お風呂にいっといで」

マコ「いえ!! オレ、おじさんを一人にできませんから!!!」

タケル「そう。嬉しいよ」

マコ「そんな!! みんなで来てるのに、やっぱりみんなが楽しくないといけませんからぁ!!!」

タケル「うん! そうだね!」

マコ「はい!!」

タケル「実はね、あの子に教えてもらったプレゼントの渡し方を実践したんだよ。まずはね、クマのぬいぐるみを渡すんだ」

マコ「は、はい」

タケル「でもね、それは本当のプレゼントじゃなくて、実はぬいぐるみの背中に本当のプレゼントを貼り付けておくんだ」

マコ「はぁ……」

タケル「指輪を見たときのレイコさんはとても輝いていたよ。それでね、オレは――」

一週間後

内田「そういえば、この間の温泉いったときに撮った写真、できたの?」

千秋「うむ。大丈夫だぞー」

吉野「あのときは残念だったよねー。マコちゃん、温泉に入れなかったし」

千秋「電車で酔ったと本人は言ってたな。マコちゃんだけいい思い出とはいかなかったが」

内田「まぁ、まぁ、そのあとの卓球とかは楽しんでたし、いいんじゃないかな?」

吉野「でも、不思議だよね。連れて行こうとすると電車酔いが再発するんだもん」

千秋「あれは何だったんだろうなぁ」

内田(可哀相なマコちゃん……)

千秋「まぁ、マコちゃんにも――ん?」

タケル「……やぁ」

千秋「……なぜだ?」

タケル「よろこんでくれたんだ……だから……オレは……もう一度……同じ方法を……それだけで……それだけで……うぅ……」

千秋「バカ野郎」

吉野「また最初からだね」
                  おしまい。

>吉野「オーエス、オーエス」グイッ

>マコ「ひっぱらないでくれぇー!!!! やめてくれー!!!!」

ちんこ引っ張られてるかと思った…

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