【ゴースト】タケル「アイドルと」小梅「仮面…ライダー…?」【デレマス】 (146)

※注意

・仮面ライダーゴーストとデレマス(アニメ)のクロスSSです。ゴースト寄り
・地の文有り

仮面ライダーゴーストのテレ朝公式サイト
http://www.tv-asahi.co.jp/ghost/


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1446301714

346プロダクション内、レッスンルーム。今そこで、トライアドプリムスの三人がボーカルレッスンを行っていた。

トレーナー「渋谷さん、そこは音の広がりを意識して」

レッスンルーム内のスピーカーからは、トライアドプリムスの曲である「Trancing Pulse」が流れている。

だが曲の途中で突然、ブツリ、という異音と共に音楽が途切れた。

トレーナー「あら?……そんな、まただわ」

奈緒「そんな……、また故障ですか」

仕方なく、マイクを手放す三人。彼女たちからマイクを受け取ったトレーナーは、機材の故障のためにレッスンを中止することに決めた。

トレーナー「ごめんなさい、みなさん。この後収録もあるのに…」

加蓮「いえ、大丈夫です」

一礼して、三人はレッスンルームを後にする。三人が出てから機材を調べていたトレーナーも、報告のためにレッスンルームを出て行った。

人のいなくなったレッスンルーム。
その中で、人の目には見えない異形の者が、先ほど奈緒や加蓮が手にしていたマイクを持ち上げ―――それと一体化した。

「はぁぁぁ…。さぁて、眼魂(アイコン)を探さないとな……」

右腕が巨大なマイクとなった、その不可視の怪物。

名を、「眼魔」と言った。

・眼魔アサルト
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蘭子「我が魂の、赴くままに!」

小梅「お、赴くままに…」

二人がいるのは346プロダクション内の撮影スタジオ。
PVのための撮影を終えたところだった。

P「神崎さん、白坂さん。お疲れさまです」

蘭子「フフッ、この程度造作もない」

小梅「お疲れさま、です…、プロデューサーさん…」

二人の調子を素早く見て問題が無いことを確認すると、プロデューサーは無数の付箋が貼られた黒い手帳を開いた。

P「ご報告が一点あります」

小梅「報告…?」

P「はい。お二人にはこの後、ボーカルレッスンの予定が入っていたのですが、機材の故障により、レッスンルームが使用出来なくなってしまいました」

蘭子「と言うことは…、研鑽の時は永劫の彼方か?」

P「ええと…、はい。今日のレッスンは取り止めとなります」

小梅「そうなんだ…。また、だね…機材の故障…」

P「はい。なのでお二人とも、今日は18時まで待機となります。すみません、私はこれから会議がありますので、これで」

一礼すると、プロデューサーは踵を返して二人の元を去った。

小梅「プロデューサーさんも、大変、だね…」

蘭子「うん。それにしても、最近機材の故障が多いよね?」

小梅「そう、だね…。何か、あったのかな…?」

それから少し時は進み、場所は346プロオフィスビルの会議室。
プロデューサーや今西部長などの前に、美城常務の姿があった。

常務「議題は以上だが、会議を終える前にもう一つ」

  「諸君も既に報告は受けていると思うが、ここ数日備品の不備が相次いでいる」

  「この三日でマイクが八つ、音響機器が三つ破損及び故障し使用不可になった」

  「使用できる機材には限りがある。各自、これ以上同じことを繰り返さないよう徹底するように」

会議が終わり、常務や他のプロデューサーが退出した会議室に、プロデューサーと今西は二人で残っていた。
椅子に座り、背もたれに体を預ける今西は、困り顔で頭を掻いた。

今西「はあ。どうしてこんなことになってしまったんだろうねぇ?」

P「私には分かりかねます。ただ、これほどの短期間で同様の事態が頻発する、となると…」

今西「人為的なものだという疑いが出てくる、か」

P「このようなことを行うメリットなど、誰にも無いと思うのですが」

今西「うーん…。ま、我々は探偵じゃない。深く考えるのはよそうじゃないか」

  「会議も終わったんだ、彼女たちの所へ戻った方がいいだろう」

P「そう…ですね。では、失礼します」

プロデューサーを見送りながら、今西はもう一度、頭を掻いた。

今西「誰かの仕業、か…。はて、そうだとすると一体誰が…」

彼は知らない。今まさに、彼の目の前にその「誰か」がいることを。

眼魔「フッ、ここにいるぞ。さぁ、そろそろヤツが動き出す頃合いだ」

その言葉を聞くことが出来た者は、眼魔以外にいなかった。

タケル「うえっくし!…何だよ、誰か噂してるのか?」


所は移り、陸堂市。山の中にそびえる立派な寺社「大天空寺」のさらに地下室。
父の遺した研究室で、いつものように「世界偉人録」を読んでいたタケルは、大きなくしゃみをした。

仙人「どうしたタケル。風邪でも引いたか?」

タケル「ううん、大丈夫だよおっちゃん」

椅子から立ち上がり、伸びをする。
人に噂されるとくしゃみが出る、なんて非科学的だとアカリなら言いそうだ。いや、言う。

・ゴーストの登場人物
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そんなことを考えながら、再び偉人録を開こうとした時だった。

御成「タ、タケル殿ぉー!眼魔の仕業と思しき事件の情報が!上へ来て下され!」

研究室の扉を開き、御成が無駄に暑苦しく大きな声で叫んだ。

タケル「…御成、そんなでっかい声出さなくても聞こえるから」

肩をすくめ偉人録を机に置くと、タケルは御成を追って研究室を出ようとする。
ドアに手をかけると、タケルは振り返って姿の見えない仙人に声をかけた。

タケル「おっちゃん、留守はよろしく」

仙人「うん、分かったー!いってらっしゃーい!」

事務所へ上がって来たタケルを、御成とシブヤ、そしてナリタの三人が待っていた。

御成「ではシブヤ、ナリタ。報告を」

御成に促され、ナリタが報告を始めた。

ナリタ「今回は結構街ン中よ。タケル、346プロダクションって知ってる?」

タケル「ああ、アイドル事務所だっけ?」

ナリタ「そそ。その本社で、眼魔のモノじゃないかって事件が起きてるみたい」

シブヤ「聞いた話では、ここ数日で原因不明の機材の破損が相次いでるそうだ」

ナリタ「なんでも、マイクや音響機器ばっかり壊れてるんだと」

シブヤ「誰が何の理由でやっているのか、そんなことをするメリットがあるのか」

御成「誰かがやっていることだとしても、人がやるようなことでしょうか」

タケル「うーん、確かに怪しい。でも、それだけだと偶然かもしれないよ?」

しかし、御成は断言する。

御成「いいえタケル殿。これは間違いなく眼魔の仕業に違いありません!」

タケル「なんで?」

ゴースト、眼魔の見えない御成が言うことだから信憑性に関しては疑わしいところがあるが、それにしたってここまで断言するのは珍しい。
とりあえず、聞いてみる必要があるようだ。

御成「少々お待ちを。ええと……、ああこれです、これ」

御成が取り出したのは一冊の雑誌。それも、芸能雑誌だ。

タケル「これがどうかしたの?」

御成「いいえ、本当に見てほしいのはこちらですよ、タケル殿」

御成が開いた雑誌の1ページ。そこにはある一人の少女が掲載されていた。

タケル「白坂小梅、13歳。霊感少女……霊感少女?」

金に染めた長めの前髪で右目を隠した小柄な少女。それだけなら目を引く格好、程度で済ませていただろう。

だが、「霊感少女」という肩書だけは見過ごせない。タケルの目は自然に文字を追っていた。

タケル「なるほど。幽霊が見えて、しかもいつも幽霊が一緒にいるような言動の子か」

御成「ええ。周囲の証言も、本当にゴーストが見えていると裏付けるようなものばかりです。となれば」

タケル「眼魂を持ってるかもしれないな」

眼魂。15個集めればどんな願いも叶えるという不思議な目玉。
しかし、それ以外にも眼魂そのものが持つ特別な能力が存在する。
それがゴーストや眼魔を認識できるようになる、いわゆる「第三の目」としての能力だ。

もしこの雑誌に載っている少女、白坂小梅が本当に幽霊の存在を認識しているのなら、眼魂を持っている可能性がある。

御成「そして、その少女はアイドルとして件の346プロダクションに所属しているのです」

タケル「人がやる意味が分からない機材の破損と、霊感少女。その繋がりにアイドルプロダクションか。確かに眼魔がいる可能性はぐっと上がったね」

御成「でしょう。さあタケル殿、これでご理解いただけたでしょうか?」

タケル「うん。そうなると、その子が心配だから早速行ってくるよ」

納得すると、早速タケルは346プロへと向かおうとした。
だがその背中にナリタの声がかかる。

ナリタ「あ、チョイ待ってタケル。よ、よければさ、サイン貰ってきてくんない?俺のイチオシは渋谷凛ちゃんね!」

タケル「うん、貰えたらね。それじゃあ、行ってくるよ」

背中に当たるナリタや御成の声を適当に流しながら、タケルは愛用のバイクにまたがり走り出した。
目指すは346プロダクション本社だ。

タケルが346プロへと走る頃、眼魔は徐々に小梅へと忍び寄っていた。

小梅「どうしたの……?」

蘭子「小梅ちゃん?」

スタジオのある別館からオフィスビルに戻る途中、渡り廊下の半ばで小梅が足を止めた。
蘭子の目の前で、小梅は誰もいない虚空に視線を固定して、時折相槌を打つように頷く。
「あの子」が小梅に何かを教えている、ということは蘭子にも分かった。

小梅「え…?…うん、…うん、わかった…」

小梅の視線が元の高さに戻る。彼女はいつになく、真剣な顔をしていた。

蘭子「どうかしたの?」

小梅「う、うん…。今この建物の中に、とっても危険で強い幽霊がいる、って…」

蘭子「ゆ、幽霊!?」

小梅「注意して…、って言われても、どうすればいいのかな…」

蘭子「と、とりあえず、部屋に戻ろう?」

オフィスビルへのドアは目の前だ。これを開けて階をいくつか下れば、自分たちの「お城」に戻れる。そこなら安心できる、はず。
不安からか、蘭子は思わず小梅の手を取っていた。

小梅「そう、だね…」

蘭子に手を引かれ、小梅も歩き出そうとする。

だが。


「待てよ、白坂小梅」


小梅「……っ!」

後方から呼び止められ、小梅は振り向いた。振り向いてしまった。

ぼんやりとした存在の輪郭に、これまで感じたことのないほどハッキリとした力。

「あの子」や他の幽霊と一致する特徴を持ちながらも、そのどれとも比べ物にならないほどの存在感を持った「何か」。

眼魔「さぁ…、お前の持ってる『眼魂』、渡してもらおうか?」


眼魔が、姿を現した。

ユルセン「おおう!?眼魔の気配を感じるぞ!」

タケル「えっ!?」

走行中のタケルの隣で、ユルセンが声を上げた。

タケル「眼魔!?ひょっとして、この先!?」

ユルセン「そーだよ!ほれ急げ!眼魔に眼魂を盗られるぞ!」

タケル「うん!」

タケルの意志に応えるように、腰に一つ目のベルト「ゴーストドライバー」が出現した。
そして懐から取り出した黒いアイコン、「オレゴーストアイコン」のスイッチを押してドライバーに装填、カバーを閉じる。

『アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!』


タケル「変身!」


トリガーを引いて、押し込む。まばたきのように閉じた目が開かれ、アイコンの力が解放された。
タケルの姿は素体「トランジェント」となり、ドライバーから出現した黒とオレンジの「パーカーゴースト」を身に纏う。

『カイガン!オレ!』

『レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!』

タケル「飛ばすぞ!」

『オレ魂』への変身に合わせて姿を変えたバイク「マシンゴーストライカー」のハンドルを強く握り、
誰にも見えない『ゴースト』となったタケルは、346プロへと急ぐ。

・仮面ライダーゴースト オレ魂
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・マシンゴーストライカー
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小梅「ら、蘭子ちゃん、こっち…!」

蘭子「う、うん!」

眼魔「待てこのっ。チッ、浮遊霊ごときが邪魔をするか!」

眼魔に追われ、小梅は蘭子と共に逃げていた。
小梅以外の誰にも存在が認識できない眼魔から、小梅たちを守るために「あの子」が眼魔に立ち向かうが、力の差は歴然。
簡単に払いのけられてしまう。

蘭子「小梅ちゃんっ、どこへ行くのっ?」

小梅「と、とりあえず、外…!逃げなきゃ…!」

渡り廊下からオフィスビルへ、二人は階段を駆け下り外を目指す。

眼魔「逃がすかっ!」

その様子を見た眼魔が叫ぶ。しかし、それはただの叫び声の範疇に留まらなかった。

小梅「きゃっ…!」

眼魔はマイクと一体化している。その右腕のマイクを通した声は、大音量になって辺りにまき散らされる。
小梅以外には聞こえない声。しかし、窓ガラスは音波を受け止めてしまった。

蘭子「ま、窓が…!」

周辺の窓ガラスに、一斉にヒビが入った。眼魔を認識できない蘭子にも、そうした現象は「何か」が起こった証として認識出来てしまう。

蘭子「こ、小梅ちゃん…!」

小梅「と、止まっちゃダメ…!逃げなきゃ…!」

必死に走る二人。だが、小柄な小梅が必死に走っても、あまり遠くへは逃げられない。

眼魔「止まれっ!」

小梅「……っ!」

やがて二人は正門まで来てしまった。
必死に逃げたが、「あの子」は振り払われ、眼魔は撒けていない。
逃げ場のなくなった二人に、眼魔はゆっくりと歩み寄る。

眼魔「鬼ごっこは終わりだ。さぁ、お前の持っている眼魂を寄越せ!」

小梅「あ、あいこん…?何、それ…?」

眼魔「とぼけるなよ!俺が見えている事こそが、お前が眼魂を持っている事の証拠だ!」

小梅「し、知らない…。あなたは、『あの子』たちとは違うの…?」

蘭子「こ、小梅ちゃん……」

蘭子からすれば、小梅が姿の見えない誰かと会話しているのは特に珍しいことでもない。
しかし、そういう存在との会話で、これほど困惑している小梅を見るのは初めてのことだった。

小梅「わ、私は、あなたの欲しい物は多分、持ってないよ…?」

眼魔「……いいだろう、そこまで白を切るというのなら―――」

眼魔は、巨大な右腕を振り上げた。それをどこに振り下ろすかなど、態々言うまでもない。

小梅「……!」

末路を予想し、小梅は目を瞑る。

自分が「あの子」の仲間になってしまうんだ。

それが分かっていても、小梅にはどうすることも出来なかった。

しかし、ヒーローはギリギリのタイミングで到着した。


タケル「待てえええええーっ!!」


眼魔「ぐわぁっ!?」

タケルはゴーストライカーから勢いよく飛び出し、その勢いに任せて眼魔に跳び蹴りを食らわせ吹っ飛ばした。
右腕が小梅に振り下ろされることなく、眼魔は地面を転がる。

小梅「え……?」

恐る恐る、目を開ける。
その目の前には、黒いパーカーを纏った謎の人物が立っていた。

謎の人物は、怪物同様に存在の輪郭がぼんやりしているのに、強い力を感じる。

小梅「…あなたは、誰…?」

タケル「君が、白坂小梅ちゃんだよね?」

小梅「う、うん…」

タケル「俺は…ゴースト。『仮面ライダーゴースト』」

小梅「仮面…ライダー…?」

タケル「うん。君たちを守るために来たんだ」


アイドル。そして仮面ライダー。


その仮面越しに、二人の視線が交錯した。

眼魔「ぬぅぅ…!来たか、ゴーストハンター!」

タケル「!」

小梅「!」

眼魔が立ち上がり、タケルを睨む。タケルも戦闘態勢に入った。

タケル「でっかい右腕だ。あれはマイク?」

ユルセン「だな。あれで殴られたら多分、死ぬほど痛いぞ~」

タケル「分かってるよ!」

タケルの意志に応じドライバーから出現した「ガンガンセイバー」を握りしめ、タケルもまた眼魔を見据えた。

眼魔「貴様らの眼魂、いただくっ!!」

声を張り上げ、眼魔が駆け出した。

ユルセン「うるさいなこいつ!」

タケル「それは同意見!」

眼魔「ふぅんっ!!」

マイクと一体化している今、眼魔は巨大な右腕をそのまま突き出すだけで、破壊力抜群の拳を繰り出せる。

タケル「いよっ」

だが、タケルはそれを上半身を反らして回避した。胸板の上で、拳が鋭く風を切る。

眼魔「むっ」

タケル「そりゃぁっ」

そして、ゆらりと上半身を起こすとガンガンセイバーを横一文字に鋭く振るい、眼魔を斬り付ける。

眼魔「ぐあっ」

タケル「もういっちょ!」

怯んだ眼魔に、追撃の袈裟斬り。ガードも出来ず、眼魔はもろにダメージを受けた。

タケル「おぉりゃあっ!」

眼魔「どぉわぁぁっ!」

更に、眼魔の胴に鋭い突きを繰り出す。これもガードできずに、眼魔はまたしても吹っ飛ばされた。

タケル「よしっ。これくらい距離があれば、この子たちを巻き込まずに戦える」

ユルセン「ほー。お前も考えながら戦えるんだな。意外だよ」

タケル「意外ってなんだよ!俺でもそれくらい出来るって!」

眼魔や小梅・蘭子を尻目に、ぎゃあぎゃあ言い合うタケルとユルセン。
そんな一人と一体(?)の様子を見て、小梅の口からは自然と言葉が漏れていた。

小梅「す、凄い…。とっても、強いんだね…」

タケル「って、そうだよ!お前の相手してる場合じゃない!」

ユルセンとの会話に危うく気をとられかけたタケルだったが、小梅の声で目的を思い出し、会話を切り上げることに成功した。

タケル「アイツの相手は俺がする。小梅ちゃん、後ろの子と一緒に離れてて」

小梅「う、うん…。分かった…」

ユルセン「ほれほれ急げ急げ。さっさと離れないと、お前みたいなちっこいヤツはあの右腕が掠るだけでも死んじゃうぞ~」

小梅「そ、それはもう、分かってる、よ…」

タケル「お前は余計な事言うなって!…って、ユルセンのことも分かるんだ。やっぱり…」

眼魂のことについて聞きたくなるが、それは後、と気を引き締め直しタケルは後ろを振り返った。

タケル「さ、行って」

ユルセン「ほ~れ行った行った」

小梅「う、うん…。あの…、ありがとう…。行こう、蘭子ちゃん」

蘭子「え?…あ、う、うん」

目の前で繰り広げられた戦いも会話も知らないために、一人蚊帳の外に置かれていた蘭子だったが、小梅に促されて一緒に逃げ出した。

眼魔「チッ。ならばまずは、貴様を倒してからあのガキを追わせてもらおうか」

眼魔は、いくつかの眼魔アイコンを取り出しばらまく。アイコンはそのまま戦闘員である「眼魔コマンド」へと姿を変えた。
その数、おおよそ二十体ほど。

眼魔「行け!」

コマンドたちは眼魔に命令され、一斉にタケル目掛け突進する。

タケル「フッ!」

タケルは、ガンガンセイバー・ガンモードを連射しコマンドたちの数を減らす。だが倒しきれなかった数体がタケルを取り囲んだ。

タケル「いっくぜー!」

今度はナギナタモードへと変形させ、コマンド相手に刃を振るう。
ナギナタを振るう度に、コマンドたちが黒い体液を血のように散らし、あっさりと消滅する。一分もせずに、コマンドは全て消滅した。

タケル「よぉーし!後はお前だけ…、あれぇ?」

しかし、コマンドを全て倒した時、既に眼魔は姿を消していた。

・ガンガンセイバー
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タケル「いない…」

ユルセン「なぁにやってんだこのバカ!」

タケル「いやっ、俺戦ってたじゃん!お前が見とくべきだったんじゃないの!?」

ユルセン「……フンッ!」

痛いところを突かれ答えに困り、ユルセンはすぐに姿を消してしまった。

タケル「あっ、おい!…あーっもうっ!」

眼魔の気配を感じ取ることは出来ない。上手く逃げられてしまったようだ。

ため息を吐き、タケルは変身を解除した。

『オヤスミ』

タケル「…しょうがない。まずは小梅ちゃんだ」

離れたところにいる小梅と、再び目が合う。

この事件、簡単には片付かないかもしれない。


P「白坂さん!神崎さん!」

小梅「あ…、プロデューサーさん…」

タケルと眼魔の戦闘が終わってから五分ほど経って、蘭子から連絡を受けたプロデューサーが小梅たちの元へと急ぎやって来た。

P「神崎さんから、白坂さんが危ないという連絡を受けたのですが…」

小梅「う、うん…。タケルさんが、助けてくれなかったら、危なかった…」

プロデューサーは小梅、蘭子と視線を移動させた後、タケルに目を向けた。

P「こちらが、その方ですか?」

蘭子「その通り。彼の者こそは幽かなる戦士よ」

タケル「小梅ちゃんが言ってたプロデューサーって、あなたですか」

P「はい、私が彼女たちのプロデューサーです。あの、あなたは…」

タケル「あ、自己紹介しなきゃ。俺は不可思議現象研究所の天空寺タケルです。よろしく」

プロデューサーは左手で首の後ろを触ってから、タケルの差し出した名刺を受け取った。

P「よろしく、お願いします。それで、天空寺さんには詳しいお話をお願いしたいのですが、お時間はよろしいでしょうか」

タケル「大丈夫ですよ」

P「では私たちのプロジェクトの部屋へご案内します。白坂さん、神崎さんも同行をお願いします」

小梅「分かり…ました」

蘭子「うむ。我らが居城へと赴かん」

プロデューサー・小梅・蘭子の三人に引き連れられ、タケルは346プロのビルへ足を踏み入れた。

タケル「おお…。すっごく広い…、ん?」

P「どうかしましたか?」

タケルの視線はエントランスの一角に向いている。プロデューサーもその先を見るが、特別変わったものはない。蘭子も同様だ。

だが、小梅だけは違った。

小梅「あ…。タケルさんも、見えるの…?」

タケル「うん。あの侍の幽霊、良い笑顔だなぁ」

P「…あ」

蘭子「ひっ!ゆ、幽霊!?」

タケルと小梅の目には、笑顔の侍の姿が見えていた。ただし、その侍に脚は無い。

そしてプロデューサーは二人の言葉で、以前の幽霊騒動・ストーカー騒動まがいの時のことを思い出した。
確かあの時、小梅が指したのも、今タケルと小梅が見ている方向だった。

一方タケルは、侍の幽霊に懐から取り出した宮本武蔵の眼魂を見せていた。

小梅「あ、あれ…?お侍さん、急に、お辞儀したよ…?」

タケル「へぇ、幽霊でも英雄の魂を感じることって出来るんだな」

何が起きているのか、何が見えているのか分からないプロデューサーは、首の後ろを手で押さえた。

P「…ええと、天空寺さん」

タケル「あっ!す、すいません。幽霊が見えたから、テンション上がっちゃって」

P「こちらです」

タケル「…すいません」

侍の幽霊に見送られながら、タケルたちは再び歩き出した。

地下へ続く階段を下り、四人はシンデレラプロジェクトルームへとたどり着く。

P「すみませんが、中の皆さんに事情を説明しますので、天空寺さんは少しここで待っていただいてもよろしいでしょうか」

タケル「分かりました」

タケルが頷く。プロデューサーが扉を開けて部屋に入り、小梅と蘭子がそれに続いて中へと入っていく。
奥の方に幽霊がいそうな暗い通路に、タケル一人が残された。

そんなタケルの隣に、またしてもユルセンが現れた。

ユルセン「のんびりしてるなぁ。あいつが眼魂を持ってるなら、さっさと回収しちゃえよ」

タケル「そのことなんだけどさ」

ユルセン「うん?」

タケル「小梅ちゃん、眼魂は持ってないみたいだよ?」

ユルセン「そんなわけ―――」

タケル「あるんだよ。俺もちゃんと確認した」

ユルセン「じゃああの小娘は、本物の霊感で、変身したお前や眼魔が見えてるってことか?」

タケル「そうみたいだね」

ユルセン「へぇ…。人間にも変わり種がいるんだな」

タケルとしても、それは驚くべきことだった。御成が聞けばさらに羨ましがること間違いなしだ。

ユルセン「…ん?なら、お前があの小娘に関わる理由は無いだろ?さっさと次の眼魂を探しに行けばいいじゃないか」

タケル「お前、いくらなんでもそれは―――」

そこで扉が開き、部屋からプロデューサーが顔を出した。

P「…天空寺さん、どうかしましたか?」

タケル「ああいや、なんでも」

P「そう…ですか。どうぞ、中へお入りください」

プロデューサーに招かれ、タケルはプロジェクトルームへと入って行く。

そんなわけなので、オリジナルの眼魂とか英雄とか、そういうものは出ません。
ただ、今獲得している5個の眼魂は全部出ますので、しばらくお待ちください。

P「先ほどお話しした、天空寺さんです」

タケル「天空寺タケルです。どうも、よろしく」

部屋の中には小梅と蘭子を含め、十人の少女がいた。流石はアイドル、美少女ぞろいだ。

P「すみません。白坂さんと神崎さん以外は、少し席を外してもらってよろしいでしょうか」

「「「はーい」」」

P「ありがとうございます。では天空寺さん、そちらにおかけ下さい」

タケルとすれ違いに、八人が部屋を出ていく。

莉嘉「後でいっぱい、お話しよーね☆」

すれ違う莉嘉は、友達に話すような気軽さで、手まで振って出て行った。

タケル「え?あ、あぁうん」

P「…すいません」

タケル「いや、大丈夫ですよ」

笑って、タケルはソファに腰かけた。隣に小梅、タケルの対面にプロデューサー、プロデューサーの隣に蘭子が座る。

P「では、お話をお願いしたいのですが…」

小梅「あ…、じゃあ、私から話すね…」

小梅はプロデューサーに事のあらましを伝える。

右腕が巨大なマイクになっている自分以外には見えない怪物に襲われ、何かを寄越せと言われ身の危険を感じ逃げていたら、
今度は彼女の隣のタケルが変身した姿でやって来た。そしてタケルと怪物の戦いは、蘭子には全く見えていなかった。

蘭子「そ、そのようなことが…」

P「…………」

小梅の話す内容は、彼女との付き合いが短い者からすれば、その全てがまるで意味不明なことにしか聞こえないだろう。
タケルだって、自分が当事者でなければ到底信じられないような出来事だ。

しかし、プロデューサーは小梅の言葉の全てに耳を傾け、真剣に聞いていた。

小梅「こ、これが、私が見てたことの全部…」

P「なるほど。神崎さんの目には見えない怪物に襲われ、そこを同じく見えない状態の天空寺さんに助けられたのですね」

小梅「うん…。蘭子ちゃんも、これで何が起きてたか、分かったかな…?」

蘭子「う、うむ…。し、しかし、我に認識しえぬ不可視の異形とは…」

小梅「幽霊…、みたいなもの、なのかなぁ…?」

蘭子「ひっ!?」

タケル「それで、蘭子ちゃん。悪いけど、君からは何が起こってるように見えたのか、教えてくれないかな?」

蘭子「う、うむ…。と言っても、我の言の葉は果たして如何ほど力となるか…」

自信無さげではあったが、蘭子も自分が見たことをタケルたちに伝える。
以下は小梅による同時翻訳。

いつものように「あの子」と話していた小梅は、オフィスビルへ戻ろうとしたところを誰かに呼び止められたかのように振り向き、即座に逃げ出した。

その後は小梅に手を引かれるままに、外まで走った。その途中、突然小梅が耳を塞ぎ、それと同時に窓ガラスにヒビが入った。

やがて、正門前にたどり着いた小梅は逃げられなくなって立ち止まる。だが、誰かが現れて彼女を助けてくれたようで、自分たちを守ってくれたらしい。

蘭子「…そして、我の目の前に突如として彼の者が現れ出でた。…これでよいか?」

小梅「それで、目の前に突然タケルさんが現れた…。これで、いいですか…?」

タケル「ありがとう、蘭子ちゃん、小梅ちゃん」

やはり蘭子には何も見えなかったし、聞こえもしていなかったようだ。

P「それで、天空寺さんは怪物について、何か知っているのでしょうか」

タケル「うん。そいつは眼魔って言って…」

プロデューサーや小梅や蘭子に、眼魔について説明していく。

これもまた、空想か与太話だと思われてもおかしくない内容だが、プロデューサーは黙ってタケルの説明を聞き続けた。

タケル「眼魔は英雄や偉人の魂が宿る目玉、『眼魂』を集めてるんだ。今日小梅ちゃんを襲ったのも、その眼魂を狙ってのことだったんだと思う。でも」

小梅「わ、私、そんな物持ってない…」

蘭子「め、目玉…」

P「アイ、コン…。それは一体、どのようなものなのでしょうか」

タケル「こんな感じ」

そう言って、タケルは懐から黒いアイコンを取り出し、テーブルの上に置いた。

・ゴーストアイコン
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・オレゴーストアイコン
http://www.tv-asahi.co.jp/ghost/ghosteyecon/ore_ghosteyecon/

P「確かに、これは『目玉』のように見えますね」

タケル「これは俺のものだから少し違うんだけど、他にもいくつかあるよ」

更に赤、黄、緑、青のアイコンがテーブルの上に並んだ。

小梅「わぁ…、綺麗…」

アイコンにご満悦の小梅に対し、

蘭子「わ、我はこのようなものは好まんっ!」

蘭子は少し血の気の引いた顔で、拒絶反応を露わにしていた。

・ムサシゴーストアイコン
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・エジソンゴーストアイコン
http://www.tv-asahi.co.jp/ghost/ghosteyecon/edison_ghosteyecon/

・ロビンゴーストアイコン
http://www.tv-asahi.co.jp/ghost/ghosteyecon/robin_ghosteyecon/

・ニュートンゴーストアイコン
http://www.tv-asahi.co.jp/ghost/ghosteyecon/newton_ghosteyecon/

P「それで、どうして白坂さんが襲われたのでしょうか」

タケル「多分だけど、小梅ちゃんは『幽霊が見える』からだよ。プロデューサーさん、アイコンに触ってみて」

P「…?分かりました…」

タケルに促され、プロデューサーはテーブルの上のアイコンに触れる。

P「なっ!?こ、これは…!」

アイコンに触れたまま、プロデューサーは小梅の左肩の後ろ辺りを凝視していた。

蘭子「ど、どうした我が盟友よ!?」

プロデューサーは答えない。その口は、彼にしては珍しく呆然と開きっぱなしだった。
当然ながら、小梅はその視線の先に何がいるのかを知っていた。

小梅「あ…。プロデューサーさんも、『あの子』が、見えてるの…?」

P「にわかには、信じがたいことですが…」

「あの子」、即ち幽霊がいる。プロデューサーにも、薄ぼんやりとした何者かが見えていた。

タケル「プロデューサーさん、手を離してみて」

再びタケルに促され、アイコンから手を離す。それと同時に、今まで見えていた「あの子」の姿は見えなくなってしまった。

タケル「分かったでしょ?アイコンを持ってると、眼魔やゴーストみたいな、普通目には見えない存在がハッキリ見えるようになるんだ。

   「蘭子ちゃんも触ってみたら?」

蘭子「わ、我は遠慮する!断じて、断じて恐れているからなどではないぞっ!」

タケル「アハハ」

その言い方では怖いと言っているようなものだ。ともあれ、怖がる人間に無理やり触らせる必要もないので、タケルは並べたアイコンをしまった。

タケル「ともかくそんな感じで、小梅ちゃんは幽霊が見えるから眼魂を持ってるはずだ、って眼魔は判断したんだ。それが、小梅ちゃんが襲われた理由だよ」

P「…なるほど。お教えいただき、ありがとうございました。ですが、白坂さんはそのような物を持ってはいないのですね?」

小梅「う、うん…。目のアクセサリーとかは…好きだけど、タケルさんが見せてくれたのと、似たもの、とか、同じものは、持ってない…よ」

それを聞いて、プロデューサーは小さく息を吐いた。

P「でしたら、白坂さんが襲われることはもうないのでしょうか?」

タケル「ううん、きっと眼魔はもう一度来る」

P「な…。それは、何故…」

タケル「…言っても大丈夫かな、小梅ちゃん」

小梅「いい、よ…。ちゃんと、聞いておかなきゃいけない…と思うから…」

タケル「分かった、ありがとう。…それじゃ」

一呼吸おいて、タケルは自分の予想を口にした。

タケル「眼魔は、小梅ちゃんの口封じのためにもう一度来る」

P「…っ!口、封じ…」

蘭子「なぁ…っ」

タケル「眼魔は普通の人には勘付かれない。それをいいことに色んな悪事を働くんだ」

   「だけど、今回の眼魔は眼魂の回収が出来なかったのに、自分の姿だけ小梅ちゃんに見られてる。そのままだと動きづらい」

   「だから、唯一の目撃者の小梅ちゃんを口封じするために、もう一度現れるはずだ」

小梅「…やっぱり、そうなんだね…」

目を見開き硬直するプロデューサーと、スカートの裾をぎゅっと握る蘭子。対照的に、それは予想できていたのか、小梅に動揺は見られない。

タケル「驚かないんだ」

小梅「タケルさんが来る直前…、もう、そうしようとしてたから…」

タケル「でも、大丈夫。俺が絶対にそんなことはさせない。必ず眼魔を倒して、小梅ちゃんを守るよ」

P「…彼女も、大切な仲間です。どうか、よろしくお願いします」

蘭子「幽かなる戦士よ、我が友小梅を守りたまえ…」

プロデューサーは深々と頭を下げ、蘭子はじっとタケルの目を見つめる。

タケルは拳を固く握りしめた。

タケル「あ、そうだプロデューサーさん」

P「はい、何でしょうか」

タケル「せめて、プロデューサーさんにも眼魔が見えるようになった方がいいと思うんだ。だから、アイコンを貸すよ」

P「天空寺さんのものですが、よろしいのですか?」

タケル「うん。持ってて」

そう言って、タケルは再び懐からアイコンを取り出し、プロデューサーに差し出した。

プロデューサーがそれを受け取るのと同時に、ユルセンが再び姿を現した。

ユルセン「おいおい、渡しちゃっていいのかよ?そいつ、悪そうな顔してるじゃないか」

P「…………」

タケル「いいんだよ。俺は決めたんだ。それに」

ユルセン「それに?なんだ?」

タケルは、目の前のプロデューサーを見つめる。
逆三角形気味の目に、細い黒目。一見すれば、確かに鋭い目つきと強面のせいで、悪そうな顔に見えるかもしれない。

だが、タケルは彼のその目を、じっとのぞき込んだ。

その奥、外見に囚われず彼自身を見極めるために。

タケル「…少し怖い顔かもしれない。でも、プロデューサーさんの目はまっすぐだ。きっと、悪いことを考えるような人じゃないって、信じられる」

蘭子「うむ!我が友の面相は、漆黒の闇夜の覇者が如き禍々しさ。しかし、その本性は真に光を持つ、清らかなる魔法使いよ!」

ユルセン「はぁ?何だって?」

小梅「プロデューサーさんは、悪い人じゃない、って言ってるんだよ…。それは私も…、ううん、外のみんなも、同じだと思うから…」

ユルセン「ふーん。ま、お前がそれでいいなら好きにしな」

ユルセンが消えると、タケルはごめんなさい、とプロデューサーに頭を下げた。

タケル「あいつ、眼魂の回収が一番なところあるから、それで乗り気じゃなかったんだ。本当にごめんなさい」

改めて、タケルは頭を下げる。それを見て、プロデューサーは首の裏に触れようとしていた手を下ろした。

P「いえ、お気になさらず。大切なものをお貸しいただいている以上、天空寺さんの信頼に応えられるように、これは事が済み次第必ずお返しします」

タケル「それじゃあ…、改めてよろしく、プロデューサーさん」

タケルが右の手を差し出す。プロデューサーもまた、右の手を差し出し握手に応じた。

P「こちらこそ、よろしくお願いします、天空寺さん」



未央「タケル君かぁ…。じゃ、『タケちゃん』だね!よろしく、タケちゃん」

タケル「アハハッ、ありがとう未央ちゃん」

話を終えてプロジェクトメンバーを部屋に戻すと、すぐタケルを中心に輪が出来上がった。

莉嘉「ねーねー、タケルくんって何歳?お姉ちゃんと同じくらいに見えるけど☆」

タケル「つい最近、18になったばっかりだよ」

莉嘉「やっぱりー!お姉ちゃんもそれくらいなんだー!」

李衣菜「あれ、でも18になったばっかりって…。タケルさん、高校は?」

タケル「中学を卒業してから、実家を継ぐために修業してたんだ。だから進学はしてないよ」

などなど、眼魔のことなどしばし忘れて、雑談に花が咲く。


一度死んだが、仮の命を得て、眼魔との眼魂争奪戦を繰り広げるハードな人生(?)を送るタケルも、中身はまだ18の男子。

いつもは仙人のおっちゃんやら声がうるさい御成やらと毎日のように顔を突き合わせ、
女性との関わりがアカリ以外に薄いタケルが美少女たちに囲まれれば、自分の目的を忘れるのも、仕方がないことだったのかもしれない。

しばらくして、思い出したようにみくが尋ねる。

みく「タケルチャンも、お化けが見えるんでしょ?やっぱり生まれつきなのかにゃ?」

タケル「いや、むしろ見えるようになったのは最近なんだ。この目玉のおかげ」

再びアイコンを懐から取り出し、皆に見せる。

みりあ「あれ?キレイだけど、みんな同じ形だよね。どうして何個も持ってるの?」

タケル「実はこれ、こう見えても凄いんだよ。いっぱい集めると、どんな願いでも叶うんだ」

莉嘉「えー!?お願いが叶うの!?アタシもほしいー!」

タケル「アハハ。もしいっぱい集まったら、莉嘉ちゃんはどんなことをお願いする?」

莉嘉「うーん、そうだなー…。あっ、アタシ、お姉ちゃんと一緒にお仕事したいカモ!」

タケル「お姉さんも、アイドルなんだよね」

莉嘉「うん!ちょーイケてる、アタシの自慢のお姉ちゃん☆」

タケル「そっか…」

微笑ましい願い事を聞いて、自然と顔が綻ぶ。

タケル「でもさ莉嘉ちゃん。それって、なんでもできる物に願わなきゃ叶わないことかな?」

莉嘉「えっ?どーゆーこと?」

タケル「自分の力で叶えられる願いなら、自分で叶えてみるのが一番だよ、ってこと」

人間は生きているからこそ、自分の願いや夢を、自分で叶えることだってできる。
だから、どんな願いも叶えてくれるものに願うことなんて、自分に、人間にはどうしようもないことくらいの方がいい。

莉嘉「お姉ちゃんとの仕事…、アタシ、自分で叶えられるかな?」

きらり「莉嘉ちゃんなら、きっと出来るよぉ♪」

P「はい。城ヶ崎さんなら、きっと」

莉嘉「そっかぁ…。…そっか!」

未央「ほほう、タケちゃんはいいこと言いますなぁ」

場が盛り上がる。お互いに顔を見合わせ、自分たちの夢や願いを言い合っているようだ。

そんな中で、一人真面目な顔をして卯月が口を開いた。

卯月「それじゃあ…、タケルさんには何か、それに叶えてほしいお願いがあるんですか?」

タケル「……うん。自分じゃどうしようもないような、そんな願い」


例えば、生き返りたい、とか。


喉元まで出かかったその言葉を、タケルはぐっと飲み込む。

小梅「…………」

その様子に気付けたのは、小梅一人だけだった。

李衣菜「でも、今の私たちが叶えたい願いは、だいたい皆一緒だと思うから」

タケル「へえ、どんなこと?」

未央「おっ、よくぞ聞いてくれましたー♪それはねー」

「「「シンデレラの舞踏会!」」」

元気のいい声が重なり合って、コンクリ打ちっ放しの部屋に響いた。

美波「このシンデレラプロジェクトの存続がかかった、大事なステージなの」

みりあ「私たちだけじゃないんだよ!他にも、色んな人たちがいーっぱい出るんだー!」

みく「あのシンデレラガールズや、プロジェクトクローネ、ううんそれだけじゃない、もっと、もーっといっぱいのアイドルのみんなが参加してくれるにゃ!」

タケル「へえ……」

「シンデレラガールズ」や「プロジェクトクローネ」という単語には、いまいち聞き覚えが無い。

というのも、暇があれば偉人録を読んでいるタケルからすると、今をときめくアイドルよりも過去の英雄・偉人の方がはるかに簡単に名前が出てくるのだ。
ついでに過去の業績や活躍、その年号や生年月日から没日だって空で言える。

だが、正直今この場にいる少女たち以外のアイドルの名前はさっぱりだ。

推察して、みくが言った単語がユニットやここと同じアイドルプロジェクトの一つの名称ということくらいは分かった。

きらり「みんなでいーっぱい楽しんで、みーんなで!ハッピハピするにぃ☆」

タケル「そっか、それはいいね」

皆の目が、楽しそうに、キラキラと輝いていた。

卯月「…………」

未央「どしたのしまむー?」

卯月「あっ、いえ!私も、みんなと一緒に頑張ります!」

タケル「……?」

ただ、卯月にだけはその輝きを見ることが出来なかった。

だが気になって口を開くより先に、タケルの意識は李衣菜の言葉に流されていく。

李衣菜「タケルさんも、良かったら見に来てくださいよ!私の超ロックなステージ、魅せますから!」

みく「…フッ。初対面の人相手だから、わざわざ取り繕っちゃうにゃんて」

李衣菜「は…はぁ!?取り繕ってないし!そっちの方こそキャラ取り繕ってんじゃん!」

みく「にゃぁにをぉ!?李衣菜チャンにだけは言われたくないにゃ!」

二人の視線がぶつかり合い、火花を散らす。
タケルはどうしたものかと慌てて周りを見るも、みんな慣れ切っているのか、犬がじゃれ合うのを見るような、そんな面白がった目で見ていた。

李衣菜「むぅぅぅ~~~…!!」

みく「にゃにゃにゃぁ~~~…!!」

そして、二人は同時に口を開く。

「「アスタリスク、解散―――」」



突然、視界が黒一色に染まった。



「なんだ!?」

「うきゃーーーー!?」

「わぁっ、わわわ!」

「きゃっ」

「何々!?オバケ!?ユーレイ!?」

「皆さん、落ち着いてください!ただの停電です!」

「わっ、わわわ我が瞳を以ってしても見通せぬ闇の到来…!」

「みんな慌てないで!その場でじっとしましょう!」

「っていうか、なんで停電なんか…」

「ここに来てから初めてだね」

「私、ケータイの懐中電灯つけるねー」

「それがいいにゃあ」

光が生まれる。互いが互いを照らし合い、光は更に強くなっていく。
すぐに、互いの顔が何とか確認できるくらいにはなった。

P「皆さん、お怪我は有りませんか?」

卯月「び、びっくりしましたぁ…」

きらり「まだ心臓がドキドキしてるにぃ…」

蘭子「失われし光を求めて…!」

未央「らんらん、それゲームのサブタイトルみたい」

未央の言葉で、部屋の中に笑いが巻き起こる。幸い、混乱はすぐに収まった。

電気が復旧し、部屋に明かりが戻る。


そして、そこで皆が見た。


苦しげな表情で、地面から浮遊している小梅の姿を。


そしてさらに、タケルとプロデューサーにだけは、声が聞こえた。



眼魔「クックックックック。さあゴーストハンター、第二ラウンドと行こうじゃないか」

タケル「小梅ちゃん!」

P「白坂さん!」

タケルとプロデューサーの声が重なる。
二人の視線は、開いたドアの前で苦しげな表情を浮かべる小梅、そしてその「後ろ」に注がれていた。

小梅「うっ……」

未央「えっ、えっ?どうしたの?何か起きてるの?」

二人が放つ剣呑な空気を感じ取った未央。それに小梅の様子は明らかにおかしく、何が起きているのか確かめたかったのだ。

タケル「プロデューサーさん、ここは俺が」

タケルが一歩を踏み出し、皆を守るべく眼魔に相対する。

一方、未央の問いには答えず、プロデューサーは重々しい声で指示を出した。

P「…皆さん、天空寺さんの後ろへ移動してください。速やかに」

眼魔「ほう、貴様も俺が見えるか。…あぁなるほど、眼魂の力を感じるぞ。そいつに持たされたな?」

P「…早く!」

プロデューサーは眼魔の言葉に応じない。

彼の語気はいつになく強く、何かが起きていることを少女たちに理解させるには、それだけで十分だった。

美波「…みんな、プロデューサーさんの言う通りにしましょう」

美波に促され、全員がそろそろとタケルの後ろへと移動した。

タケルは眼魔を見据えたまま、更に一歩を踏み出す。

タケル「小梅ちゃんを離せ!」

眼魔「まさか、そんな簡単に返すとは思ってないだろうなぁ?」

タケル「一体何が目的だ!」

眼魔「おいおい、そんな言い方をしてもいいのか?ほら、このガキの命は俺が握ってるんだぞ?」

そう言うと、眼魔は左腕を少し締めた。当然、その内に抱えられている小梅の小さな体が締め付けられてしまう。

小梅「うぅっ……!」

P「白坂さん!クッ…」

眼魔「どうだぁ?もう少ぉし力を加えれば、こいつの身体はどうなるだろうなぁ。それくらい分かるだろ、ええオイ?」

タケル「ぐっ……!!」

タケルは自分の失敗を悔いる。
守るためにそばにいたのに、まんまと出し抜かれてしまった。さっきの停電も、混乱に乗じて接近するために起こしたに違いない。

そして今、小梅は眼魔の手中に落ち、人質となってしまった。
そうさせてしまったのは、他ならないタケル自身。

怒りと悔しさに震えそうになる自分を、タケルは必死で抑える。

タケル「…お前の目的は、何だ?」

眼魔「フッ、簡単だよ。お前が持っている眼魂、全部を寄越せ。そうすれば、このガキは返してやろう」

タケル「眼魂は…、眼魂は、お前たちなんかに渡せない!」

眼魔「ああっ!?」

タケル「ぐわっ!」

タケルを目標に放たれた、眼魔の声。それはまるで、大砲の弾が直撃したかのような衝撃を伴ってタケルを打つ。

タケル「っ、ぐ…!」

未央「タ、タケちゃん大丈夫!?」

美波「タケル君!」

コンクリの床に倒れ込むタケルを、眼魔が見下していた。

眼魔「状況が分かってねえのか?死なせたくなかったら眼魂を寄越せって言ってんだ!」

タケル「分かって、る……。でも……!」

自分の命も、誰の命も大切だ。それは小梅は勿論、この場にいる全員に同じことが言える。

だから、甦るために必要な眼魂は「自分の命」のために渡すわけにはいかないし、同時に眼魔から「皆の命」を守るためにも、渡すわけにはいかない。

タケルは再び立ち上がって、眼魔に対峙した。

眼魔「ハッ、このガキの命の価値なんざ眼魂とは比べ物にならねえってのに、わざわざ交換してやるって言ってんだ。大人しく寄越しゃあいいんだよ!」

タケル「…命の、価値…?」

眼魔「あぁそうだ。人間の命の価値なんざ、眼魂に比べりゃゴミと変わらねえ。だがな、そんなゴミでも、多少は―――」


タケル「ふざけるな!!」


眼魔「ッ!?な、何ィ…!?」

タケルの声に、眼魔は無意識に身を強ばらせていた。彼の迫力に気圧され、一瞬とは言えゴミ同然の人間相手に恐怖したのだ。

一度溢れると、タケルの怒りはもう収まらない。

タケル「命の価値を…!人間の命の価値をっ、お前なんかが勝手に決めるな!!」

P「て、天空寺さん…」

タケル「人の命の価値をゴミ扱いするなんて、俺は絶対に許さない!」

眼魔「黙れぇっ!」

再び眼魔が大声を張り上げた。しかし、タケルは素早く印を結んで目の紋章を描く。

今度はそれがバリアとなって、衝撃波と化した声が届くのを防いだ。

眼魔「チィッ…!」

タケルへの直接攻撃が無意味と悟った眼魔は、突然上体を仰け反らせた。

タケル「何だ…!?」

そして、右腕のマイクを頭部に近付ける。何をする気なのかは瞬時に理解できた。

タケルは即座に声を張り上げる。

タケル「みんな、耳を塞ぐんだ!」

「「えっ―――」」

困惑する少女たち。しかし、だからと言って眼魔は待ってくれない。



眼魔「―――――――」



眼魔のシャウトが、空気を震わせた。

李衣菜「あ、あうぅ……」

声が聞こえなくなるのと、李衣菜を始めとした数人が気を失うのは、同時の事だった。

タケル「うっく…、あぁっ!」


そして、眼魔と小梅の姿もなくなっていた。


みく「李衣菜チャン!?しっかりするにゃ!李衣菜チャン!」

未央「しまむー!ねぇしまむー!どうしちゃったの!?」

見るに、外傷やおかしなところはない。どうやら彼女たちは眠ってしまったらしい。

タケル「催眠音波…?アカリなら分かったかな…。クソッ、プロデューサーさんっ」

P「!」

タケル「俺はヤツを追う。小梅ちゃんは必ず助け出すから、ここでみんなと待ってて!」

P「し、しかし…!」

プロデューサーの返事も聞かずに、タケルは部屋の外へと駆け出して行った。

ほんの数分前までの賑やかさが嘘のように静まり返った部屋の中で、誰かが呆然と呟いた。


「ど、どういうこと…?一体…、何が起こってるの?」

タケル「なっ…!」

エントランスへ走り出たタケルを待っていたのは、眼魔コマンドの大群だった。十や二十は優に超えるほどのコマンドが、一斉にタケルを捉える。

タケル「周りの人は…!?」

社員、受付嬢、清掃業者など、様々な人物は皆一様に気を失っている。どうやら、先ほどの催眠音波は想像以上に広範囲に放たれていたようだ。

タケル「お前たちに時間をかけてるわけにはいかないんだ!」

ゴーストドライバーが出現する。懐から取り出したのは、赤いアイコン。

『アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!』


タケル「変身!」


『カイガン!ムサシ!』

『決闘!ズバッと!超剣豪!』

ゴーストドライバーから出現したガンガンセイバー・二刀流モードを構え、『ムサシ魂』となったタケルは、コマンドの大群へと突っ込んでいく。

・ゴースト ムサシ魂
http://www.tv-asahi.co.jp/ghost/rider/musashidamashii/

・眼魔コマンド
http://www.tv-asahi.co.jp/ghost/gamma/gamma_commando/

タケル「はっ!ふっ!でやっ!」

刀の一振りごとに、コマンドが消滅していく。だが、それを補って余りあるほど無数のコマンドが、続々とタケル一人を目掛けて迫ってくる。
負けはしないが、ただ時間が過ぎるのみで一向に前に進めない。

タケル「早くヤツに追い付かなきゃいけないのに…!クソッ!」

気が付けば、タケルの足は完全に止まっていた。

これ以上時間がかかると、小梅の身に何が起きるか分からない。
人質としての価値がある間はまだ生かしておくだろうが、それが無くなった時に眼魔は人間の命を躊躇いなく、
それこそゴミを捨てるかのような気軽さで奪う。

眼魂を持っていたタケルでさえそうなったのだ。小梅が無事でいられる確証は無い。

多少無理をしてでもここを突破しようと、タケルが両手の刀をもう一度握りしめ一歩踏み出そうとした、その時だった。

タケル「んっ!?」

視界の奥の方で、黒い液体が飛び散るのが見えた。コマンドが消滅している。

やがて見えた、タケルの加勢に駆け付けてくれたのは、思いもよらない存在だった。

タケル「あっ、さっきの侍の幽霊!」

名も知らない侍の幽霊が、手に持った刀でコマンドたちを斬り伏せていたのだ。
その幽霊と目が合う。先ほど見た時は良い笑顔だった彼の表情は、修羅の如き形相へと変貌していた。

タケル「助けてくれるの!?」

言葉はない。代わりに、その意思がタケルの内に流れ込んできた。


自分の存在を認めてくれる小梅を助けたい。だが自分では眼魔には敵わない。
だからせめて、眼魔を倒せるタケルの道を切り開く。
どうか、自分の代わりに小梅を助け出してほしい。そのために、この刀を振るおう。


タケル「…よし!行くぞムサシ!」

戦力は二倍、負担は二分の一。
大して知能の高くないコマンドたちは、大立ち回りを演じる侍の方をより危険な存在だと認識したようだ。大勢がそちらへと流れていく。

タケルも負けじと二刀を振るい、目の前のコマンドたちを散らしながら外へと駆ける。
振り返りはしない。だが、感謝を込めて叫ぶ。

タケル「ありがとう!小梅ちゃんは必ず助けるから!」

エントランスを出たタケルは、すぐに小梅と眼魔の姿を見つけることが出来た。

タケル「なっ…。こ、小梅ちゃん!大丈夫!?」

眼魔は、人間が落下すれば確実に命を落とすであろう高さから、タケルを見下ろしていた。その腕の中に、小梅の矮躯を抱えたまま。

タケル「ダメだ、高すぎる…!」

空中浮遊能力のあるオレ魂でも、眼魔と同じ高さまでは行けない。直接小梅を救い出すことは出来ないのだ。

眼魔「さて、さっきはどうも話を聞いてもらえなかったんでなぁ。これならどうだ?このガキの命は俺次第だってことが、よぉーっく分かるだろ?」

タケル「……!!」

眼魔「自分の命だけが惜しけりゃ、こんなガキなんざほっときゃあいい。だがなぁ、お前にそんなことできるわけないよなぁ、ゴーストハンター!」

小梅「タ、タケル、さん…っ」

小梅の小さな声は、さらに弱々しくなっていた。
変われるのなら変わりたい、とタケルは思う。しかし、彼には苦痛に耐える小梅の顔を見上げることしか出来ない。

眼魔「ほぅら、人間の命が大事なんだろう?さぁ選べ。自分の命のためにこのガキを見殺しにするか、このガキのためにお前の命を捨てるか!?」

タケル「っぐ……!!」

奥歯を強く強く噛みしめる。たとえ気休め程度でも、そうしなければ今すぐにでも駆け出して、全てをぶち壊してしまう、とタケルの理性は訴えていた。

だが、熱くなってしまった血は、そう簡単には冷めない。

タケル「ふざけるな!お前に眼魂なんて渡せるわけ―――」

眼魔「ハァッ!!」

タケル「ぐぁっ!」

再び、眼魔の声がタケルを打った。成す術もなく、タケルは地面を転がる。

眼魔「お前が眼魂を渡す気になるまで、ここからお前を痛めつけることも出来るんだ。分かるか?抵抗は無駄なんだよ!さっさと眼魂を寄越せぇ!!」

タケル「ぐぅぅっ…あっ…!!」

小梅「だ、ダメ…!タケルさんは…うっ…!」

眼魔「ッハハハハハ!ハッハッハッハッハッハッハ!!」

タケル「うっ…、ハァッ、ハァッ…」

声に打たれ続け、タケルはたまらず膝をついた。
地面に突き立てたガンガンセイバーに体重を預けていなければ、すぐにでも倒れ込んでしまいそうな痛みと倦怠感が、全身を覆う。

眼魂は渡せない。しかし、人質に取られた小梅を助け出すことも出来ない。


P「はっ、はっ…。白坂さん!天空寺さん!」



そこへ、後を追ってきたプロデューサーが加わった。

小梅「ぷ、プロデューサー、さん…」

タケル「来ちゃダメだっ、プロデューサーさん…!危険だから、中に戻って……」

思わぬ乱入者に、さすがの眼魔も彼が現れた意図を汲むのに若干手間取った。

眼魔「お前、何をしに来た?お前はこの場にいる価値が無い」

しかし、やがて何かを得心したように、声を発した。

眼魔「…あぁそうか!お前は、このガキの命を選んだんだな?だから、そこのゴーストハンターから眼魂を奪いに―――」

P「いいえ」

調子づいた眼魔の台詞を途中で遮って、プロデューサーはハッキリと否定を示した。

眼魔「……あぁ?」

P「……っ!」

異形の者が向ける本物の殺気に、思わず身体が竦む。

彼の人生は争い事と無関係だった。
仮にそんな経験があったとしても、この場においては少しも役に立たないだろう。

しかし。

P「……白坂さんを、返していただきたいのです」

『プロデューサー』として、アイドルを守る責務を果たさなければならない。

その使命感が、彼を何とか動かしていた。

眼魔「……はぁ。バカかお前はぁっ!」

P「っ!」

眼魔が声を張り上げる。それがどのような力を持つのか頭では分かっていても、咄嗟に動くことが出来ない。

しかし、タケルが眼魔とプロデューサーとの間に立ちはだかった。

タケル「危ないっ!ぐあっ!」

P「天空寺さん!?」

眼魔の攻撃から、身を挺してプロデューサーを庇ったタケル。しかし、よろめきはしたが今度は地面に膝をつかなかった。

P「な、何故私を…」

タケル「…いいって。それより、さ…」

タケルは、そちらを見ろとばかりに眼魔を仰いだ。

タケル「…やっぱり、来てくれてありがとう。小梅ちゃんを助ける作戦、思いついた」

P「本当ですか!?」

タケル「うん。だから、ここにいてほしい。その代わり、危険は絶対にないようにするから」

眼魔「何をごちゃごちゃ言ってんだ、お前らはぁぁぁぁーーーーっ!!」

しびれを切らした眼魔が大声で叫ぶ。それに対するタケルの行動は非常に素早かった。

タケル「フッ!」

トリガーを4回引くと、アイコンが顔の絵から技、目、ナンバーへと変わり、一周して再び顔の絵を写し出した。

『ダイカイガン!ムサシ!オオメダマ!』

空中に、巨大なアイコン型のエネルギー球『オオメダマ』が生まれた。
タケルは、先ほど声を防いだ時のように印を結んで目の紋章を描く。紋章は砂のように散って、オオメダマと一つになると、巨大な目の紋章へと変化した。

眼魔「何っ!?この、小癪なぁっ!!」

眼魔が必死に声を張り上げるも、それらは全て紋章に阻まれて、タケルとプロデューサーには一向に届かない。

紋章のバリアで声を防ぎながら、タケルはゴーストアイコンを入れ替える。

『カイガン!ロビン・フッド!』

『ハロー!アロー!森で会おう!』

『ロビン魂』へとゴーストチェンジしたタケル。
その手元のガンガンセイバーが『コンドルデンワー』を先端に装着することで、クロスボウ型のアローモードへと変形した。

タケルは、その先端を眼魔の頭部にぴたりと合わせて、緑色の光の弦を引き絞る。

・ゴースト ロビン魂
http://www.tv-asahi.co.jp/ghost/rider/robindamashii/

・コンドルデンワー
http://www.tv-asahi.co.jp/ghost/ghostgadget/condordenwor/

眼魔「それで俺を撃つか!?やればいい、このガキを盾にするだけだ!」

P「どうする、おつもりなのですか…?」

タケル「小梅ちゃんに当てないように、アイツだけを撃つ」

P「ですが、そうなるとあの怪物は、白坂さんを手放してしまうのでは…?」

そうなれば、眼魔の力でもタケルの攻撃でもなく、地面に激突して、小梅は。

タケル「だから、プロデューサーさんが来てくれてよかったんだ」

P「私が、ですか…?この状況で、私に一体、何が出来るのでしょうか…」

タケルが答えを言う前に、紋章が徐々に砂のように崩れ始めた。限界が近いようだ。

頃合いと判断し、タケルは眼魔にも負けないほどの大声で叫んだ。

タケル「小梅ちゃん!お願いがあるんだっ、聞いてくれーーーっ!!」

その声は、しっかりと小梅の耳に届いたらしい。彼女が頷くのが見えた。

タケル「絶対に助けるっ!だから、絶対に動かないでほしい!!」

再び、小梅は頷いた。

紋章は既に消えかかっている。もう時間が無い。

タケル「プロデューサーさんにも、お願いがあるんだ」

P「私に出来ることでしたら、どのようなことでも…!」

タケル「それじゃあ、俺が合図したらアイコンを返してほしい。頼めるかな」

P「もちろんです…、っ!天空寺さん!」

プロデューサーが見ている前で、紋章は完全に消滅した。

だがタケルはまだエネルギーを溜めている。再び紋章を描くことは出来ない。

それを好機と見た眼魔が、声を張り上げた。

眼魔「バカめ!!最後の悪あがきも、無駄に終わったなぁ!!」


タケル「…無駄なもんかっ!俺は、俺を信じる!」

眼魔「喰らえぇぇっ!!!」

声の大砲が放たれる。それは打つ手の無いタケルを吹き飛ばす、はずだった。

だが、今のタケルには、もう少しだけ攻撃を凌げる秘策があった。

タケル「今だっ!」

P「なっ…!?」

突然、タケルの姿が増えた。一体が二体、三体、四体、五体、六体まで、続々と。

それら分身は、タケルの前に並んで盾となる。当然、音波はタケルに届かない。

タケル「小梅ちゃん!プロデューサーさん!もう一つ、お願いを聞いてほしいんだ!」

大きく息を吸い、タケルは渾身の大声を発した。



タケル「絶対に助ける!!だから、俺を信じてほしい!!」



小梅「うん…。お願い、タケルさん…!」


P「勿論です。どうか、白坂さんを…!」

眼魔「調子に乗るなよぉぉぉぉぉぉっ!!!」

最後の分身が消滅するのと、エネルギーのチャージが完了するのは、まったくの同時だった。

タケルの目が、ただ目指す的の一点だけを見据える射手の目が、眼魔を射抜く。



タケル「命……、燃やすぜ!!」



光の矢が放たれてから消滅するまでを見ることが出来たのは、タケル本人だけだった。

眼魔「――――――」

ただの人間である小梅とプロデューサーはもちろん、人間以上の力を持つ眼魔でさえも、光の矢の速さには少しも付いていけなかったのだ。



最初に、上半身が仰け反るのを感じた。そしてその次に、頭部に凄まじい痛みが走った。

眼魔「ぐぎゃぁっ―――」

光の矢が命中したことを悟るのは、腕の中から小梅の存在が無くなっていたことに気付いてからだ。

タケル「プロデューサーさんっ!」

矢を放つのとほぼ同時、結果も見ずにタケルはプロデューサーを呼んだ。

P「っ!」

プロデューサーは、先ほどのタケルの言葉通りに、アイコンを投げて返す。

手からアイコンが離れた瞬間、目の前のタケルの姿は嘘のように掻き消えてしまった。

宙を舞ったアイコンは、途中でピタリと止まり、そしてタケル同様に見えなくなった。

P「お願いしますっ、天空寺さん…!」

タケル「よしっ!」

タケルは、プロデューサーが投げ返した青いアイコンをしっかりとキャッチし、ドライバーにセットした。

『カイガン!ニュートン!』

『リンゴが落下!引き寄せまっか!』

両手が巨大な球体と化した『ニュートン魂』。タケルはその両手を空中の小梅目掛けて突き出した。

タケル「来いっ!」

ニュートンの偉大な発見、それは『万有引力』。そしてそれこそが、このニュートン魂の能力。

小梅を助け出すために、どうしても必要だったもの。

・ゴースト ニュートン魂
http://www.tv-asahi.co.jp/ghost/rider/newtondamashii/

P「な……」

プロデューサーは信じられないような光景を目の当たりにしていた。

落下していた小梅が、突然空中でその軌道を変えたのだ。まるで何かに引っ張り寄せられているかのように、こちらへと徐々に近づいてくる。

そんなことが出来るのは、一人しかいない。

P「天空寺、さん……」

引力、そして斥力。
その両方を器用に操って、落下の速度を殺しながら、徐々に小梅を引き寄せる。タケルにとっても中々骨の折れることだった。

タケル「ふぅ…。危険な目に会わせてごめんね、小梅ちゃん」

小梅「こ、怖かった…けど…。た、助けてくれて、あり、がとう…」

少し弱いが、小梅は笑ってみせた。そして、タケルに支えられ、ゆっくりと地面に降り立つ。


これで、小梅は完全に眼魔の手を脱した。もう心配事はない。後は眼魔を倒すだけだ。

小梅「も、もう、大丈夫だよ…」

タケル「分かった。離すよ?」

タケルは小梅に触れている手を離す。ふらつき転びそうになった彼女を、プロデューサーがしっかりと支えた。

P「白坂さん!ご無事ですか!?」

小梅「うん…、なんとか…」

タケル「プロデューサーさんと一緒に、そこで待ってて。アイツを倒す」

小梅「う、うん…。頑張って、ね…」

応援してくれる小梅。一方、プロデューサーは辺りをきょろきょろと見回していた。
小梅は彼のスーツの袖を引っ張ると、タケルを指さす。

小梅「タケルさんなら、そこ、だよ…」

P「すみません白坂さん。ありがとうございます」

小梅に軽く頭を下げると、彼はタケルの姿が見えないながらも向き合った。

P「ありがとうございました、天空寺さん。…頑張って、下さい」

タケル「ああ!」

二人に背を向けて、その視界に眼魔を収める。

空中の眼魔は、人と同じ形の左手で、被弾個所を押さえていた。

眼魔「がぁっ…、ぐぁぁっ!」

苦しみ、身をよじる眼魔。もうタケルの事すらどうでもよくなっているようだ。

こんな情けないヤツに散々やられてきたのかと思うと、怒りを通り越して呆れてくる。

タケル「そろそろ降りて来いっ!」

再び左手を空に向ける。強い引力に抗えずに、眼魔が猛スピードでこちらへ迫ってきた。

眼魔「や、やめろ!やめてくれ!」

タケル「おりゃあああーーーっ!」

右腕を引き絞り、右手から斥力を発生させながら勢いよく眼魔に突き出す。

タケルの手に衝撃はなかった。代わりに、そのほとんどが眼魔へと押し付けられる。

眼魔「ぐわあーーーっ!!」

思い切り殴り飛ばされ、眼魔が地面を転がる。
何とかよろよろと立ち上がったものの、足が酷くふらついていた。もうまともな攻撃すら出来ないようだ。

タケル「トドメだ!エジソン!」

『カイガン!エジソン!』

『エレキ!ヒラメキ!発明王!』

電気を操れる『エジソン魂』になったタケルは、ちょっとした仕返しに、と指先から放電して眼魔に電流を流した。

眼魔「ぐがががががががががががが!」

全身を激しく痙攣させ、煙を上げる。ついでに、全身が酷く痺れてしまったようだ。

眼魔「うあ……あぁ……」

・ゴースト エジソン魂
http://www.tv-asahi.co.jp/ghost/rider/edisondamashii/

タケル「よし!これで終わりだ!」

ガンガンセイバーのグリップ付近に刻まれた目のマークを、ドライバーと「アイコンタクト」させる。
ガンモードのガンガンセイバーにエネルギーが送られ、銃口の周りに目の紋章が浮かび上がった。

『ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!』

全身から放つ電気が、エネルギーと共に銃口に集まっていく。そして、それを眼魔に合わせたところで、何かがタケルの感覚に反応した。

タケル「ん…?」


そして、タケルが感じているのと同じものを、小梅もまた感じ取っていた。

小梅「あ、『あの子』が…」

P「え?」

小梅「『あの子』が、タケルさんの、力になりたい、って…」

その意思が、タケルの内に流れ込んでくる。


自分の大切な友達を危険な目に合わせた眼魔を、やっつけたい。
自分もタケルの力になりたい。


タケル「…分かった。一緒にやろう!」

タケルはそれを快諾した。ガンガンセイバーに『あの子』が憑りつき、その力を送る。

眼魔「あっ…!た、助けて…!許して…!」

眼魔の命乞いが耳に入る。だが、それを聞く気などタケルには微塵もない。


タケル「喰らえぇっ!」


『オメガシュート!』


エネルギー弾と一体化した『あの子』が、眼魔の土手っ腹に命中した。

そのまま高く高く、天へと押し上げていく。



眼魔「ぐあっ、あっあっ、ぐあああああああああああああっ!!」



やがて、耐えきれなくなった眼魔の身体は、空中で木っ端微塵に爆散した。



小梅「やったね、タケルさん…!」

P「天空寺さん…!」


主を失った眼魔眼魂が空中で砕け散る。

そして、その身に一体化させられていたマイクが、地面へ落下した。

・眼魔アイコン
http://www.tv-asahi.co.jp/ghost/gamma/gamma_eyecon/



未央「あっ、しぶりん!お帰りー!」

凛「ありがと…、あれ、何かあったの?」

シンデレラプロジェクトを離れ、トライアドプリムスの活動を終えて戻って来た凛が見たのは、
いつもとは少し雰囲気の違うプロジェクトのメンバーたちだった。

未央「いやぁー、ちょっと色々ありまして…。…聞きたい?」

凛「うん。聞かせてほしい」

常務「先ほど、このプロダクション敷地内で、不審な爆発があったのは知っているな」

P「はい」

常務「幸い空中で起こった爆発のため、ケガ人は出なかった。…が、その時、君と白坂小梅が外に、その場にいたのを数人が目撃している」

  「…何をしていた?」

常務の一室で、プロデューサーは事の説明を要求されていた。

どうも、その爆発に自分が関わっていると思われているようだ。
確かに、その状況だけ見れば何か関係があると思うのは至極当然だ、と思いながらプロデューサーは口を開いた。

P「先に断っておきたいのですが、よろしいでしょうか」

常務「何だ?」

P「…これから私がする話は、全て私どもの目の前で起きていたことです。ですが、きっとご理解はいただけないだろうと、そう思っています」

常務「…まあいい。話してみたまえ」


凛「ゆ、幽霊騒ぎ?また?」

未央「そう。そうなんだよしぶりん。しかも、何て言うかなぁ。幽霊より、もっと危ないやつだった…みたい」

みりあ「その悪いお化けにね、小梅ちゃん、危ない目にあわされちゃったの」

凛「えっ、小梅が?」

莉嘉「うん…。だけどねっ、タケルくんが小梅ちゃんを助けたんだよ!」

みく「タケルチャン、李衣菜チャンと一歳しか変わらないのに、結構しっかりしてたにゃ。お寺の息子さんだからかにゃ?」

李衣菜「何でそこで私を出すわけー!?…でも私、途中から気絶しちゃってて、何があったのか良く分かってないんだよね…」

凛「ちょ、ちょっと待って。その『タケル』って人は誰なの?」


常務「不可思議現象研究所、天空寺タケル…。その少年が、君たちを襲った怪物を撃破し、それがあの爆発だったと、君はそう言っているのだな?」

P「はい」

常務「…私は以前から、君の理想はおとぎ話のようだと言ってきた。しかし、今君が語った内容はおとぎ話ですらない、酷い妄想だとしか思えない」

P「…やはり、信じてはいただけないのですね」

常務「そんな話を、言葉だけで他人に信じさせられるなら、君はもう少しうまく世渡り出来ていたことだろう」

P「ですが、今お話ししたことに、嘘は決して有りません」

常務「……はあ。君、有給休暇はまだ残っているか?」

P「それは、どういう…」

常務「君も、君が倒れて企画が頓挫するのは好ましくないだろう。そうなる前に、休養をとるのも考えておきなさい」

P「…お気遣い、感謝します」

常務「…はぁ。…それで、その少年は今どこにいる?」

P「天空寺さん、でしょうか」

常務「…君の話を信じたわけではない。だが、もしその話が本当だった場合には、その少年は美城のアイドルを保護したことになる」

  「何かしら礼はしなければならないだろう」

P「お礼なら既に私が。それに、天空寺さんはもう、お帰りになりました」


凛「へぇ…。でも、言葉だけじゃ信じられないかな…。タケルって人のこととか」

美波「じゃあ、写真はどう?タケル君が帰る前に、みんなで撮ったの」

未央「そうそう、今見せてあげるよー♪タケちゃん、結構カッコよくて…アレ?」

凛「どうしたの?」

未央「あ、あれれー?おかしいなー?確かに、確かに撮ったはずだよー?」

卯月「あ、あれ?おかしいです、一緒に写真、撮ったんですよ!」

凛「二人ともどうしたの?写真、見せてよ……って、男の人は?」

きらり「あれあれぇ…?きらりたち、確かにタケルちゃんと写真いーっぱい、撮ったよね?」

蘭子「まさか、幽かなる戦士は闇へ消えてしまったというのか…!?」


時間は少し巻き戻る。

眼魔を無事撃破したタケルは、小梅・プロデューサーと共に、シンデレラプロジェクトのメンバーの待つプロジェクトルームへと戻った。

そして、事が済んで帰るだけになったタケルに莉嘉がせがみ、最後にみんなで写真を撮りまくったのだ。

ひとしきり記念撮影タイムが終わって、今度こそ帰るタケルを、小梅とプロデューサーが見送りに出る。

タケル「二人とも、見送りなんていいのに」

小梅「これくらいしか…、出来ること、ないから…」

P「本当に、何とお礼を言ったらいいものか…。もう少しお時間があれば、何かキチンとしたお礼が…」

タケル「いや、いいっていいって。プロデューサーさん、呼び出されてるのにわざわざ来てくれてありがとう」

タケルはひらひらと手を振った。


タケル「シンデレラの舞踏会、だっけ。みんなの目、キラキラしてたよ。だからきっと成功するはずだ。自信持って、プロデューサーさん」

P「…はい」

タケル「あ、でも…」

思い出したのは、卯月の瞳。彼女だけは、それが見られなかった。

タケル「卯月ちゃんだけ、そうじゃなかった…気がするんだ。何か、気を付けた方がいいのかもしれない」

P「島村さんがですか…?」

タケル「あーその、外から来たよそ者の意見だからさ、聞き流してくれていいよ!アハハ!」

P「いえ…、時にはそう言った視点も、必要なのかもしれません。お教えいただき、ありがとうございます」

タケル「真面目だね、プロデューサーさんは」

プロデューサーは、困ったような顔をして首の裏を手で押さえる。

そんな彼に、笑顔のタケルが何も言わずに右の手を差し出した。

プロデューサーもまた、固い笑みを浮かべてその手を握り返した。

P「天空寺さん。今日は、ありがとうございました。どうかお元気で」

タケル「…そっちも、お元気で」

タケルに一礼して、プロデューサーがビルへと戻っていく。

後には、タケルと小梅だけが残された。


小梅「あの…、タケル、さん…。聞いても、いい…?」

タケル「何?」

小梅「タケルさんは…、タケルさんはやっぱり、幽霊…、なんだよね…?」

タケル「…ばれちゃってたか。いつから気付いてたの?」

小梅「最初見た時、から…。『あの子』みたいに、少しぼやけてる…って…」

タケル「そっかぁ。驚くだろうから、みんなには秘密にしてくれると嬉しいな」

小梅「うん…。それで、あの目を集めてるのは…」

タケル「甦るため。それが、俺が眼魂に叶えてほしい願い」


小梅にだけは、包み隠さず全てを明らかにしていく。

今ここで姿を消しても、そんな自分でさえ認識してくれる相手がいる、という安心感からだろうか。

それはタケル自身にも良く分からなかった。



小梅「ねぇ、タケルさん…。もし、甦るのに失敗して、幽霊になっちゃったら…、私のところに、おいでよ…」

  「『あの子』も、タケルさんのこと…気に入ってる…から」

タケル「それは…。それは、嬉しいけど…」

幽霊になった時には、自分はきっと大天空寺や、アカリや御成の元からは離れられないだろう、とタケルは思っている。

しかしそれ以前に、その提案を断る理由が、タケルにはある。

小梅の話は、幽霊になってしまった時の話だ。


そして、それはきっとありえない。


絶対に、甦るから。



タケル「小梅ちゃん。俺は絶対に甦ってみせる。だからさ」



今度は仮面越しではなく、直接タケルと小梅の目が合った。



タケル「そうしたら、また会おうよ。今度はちゃんとした『俺』で、会いに行くから!」


小梅「…うん。また会おうね、タケルさん…!」



莉嘉「ホンモノだー!ホンモノの心霊写真だー!」

きらり「うきゃー!タケルちゃん、どこ行っちゃったのー!?」

凛「ちょ、ちょっとみんな落ち着いて…!」

てんやわんやのプロジェクトルーム。そこに、タケルを見送った小梅が戻って来た。

未央「あっ、小梅ちゃーん!タケちゃんは!?タケちゃんはどこ!?」

小梅「え…?」

卯月「た、タケルさんが、タケルさんが…!」


「「「写真からいなくなっちゃってる!」」」


一緒に写真を撮ったはずなのに、誰の写真にも、タケルの姿は写っていなかった。

まるで、最初からそこには誰もいなかったかのように。

莉嘉「ねえこれ、どういうことなの小梅ちゃん!?何か分からない!?」

小梅「…………えへへ…」


莉嘉のスマホに表示された写真を見て、小梅は微笑んだ。


タケルだけが写っていないはずの写真。

そこにはしっかりと、タケルの姿があった。


小梅にしか見えない、タケルの姿が。




小梅「タケルさんは…、ちゃんと、『ここ』にいるよ…」


おしまいです。

お付き合いいただいた方、本当にありがとうございました。

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