魔王「貴様、何者だ?」使者「シャララ~ラ♪」(25)

魔王城

魔王(…ふむ、西の砦で落石事故か……)

魔王(城から何人か人手を派遣せねばな、たしか書類がこの辺りに……)ガサゴソ

コンコンッ

側近「失礼します、先ほどの届いた報告書の確認が終わりました」ガチャリッ

魔王「おお、ご苦労だったな。もう今日は休んでよいぞ」

側近「何かお探しですか?」

魔王「ああ、人材派遣関係の書類をな……」

側近「…魔王様、そろそろお休みになられてはいかがですか?もう三日以上お眠りになっていませんよ?」

魔王「心配ならいらないぞ、頑丈なことが私の取り柄だからな」ガサゴソ

側近「しかし、魔王様は王なのですからそのような仕事は私どもに任せていただければ……」

魔王「長きに亘る人間との戦いで皆疲れておる、私だけ椅子に座っているわけにもいかぬだろう」

側近「……ほどほどにして下さいね」

魔王「なに、好きでやってることだ、疲れなど溜まらぬよ」

側近(あっ、よく見たら隈ができてる)

コンコンッ

兵士「失礼します!!」ガチャリッ

魔王「どうかしたか?」

兵士「魔王様との謁見を希望する使者が訪れたのですが……」

兵士「身元がよく分からなく、側近様の知恵をお借りしようと思いまして…」

側近「身元が分からない?どういうことですか?」

兵士「どこから来たのか言おうとしないのです、今他の兵士たちが取り調べをしているんですが…魔族か人間かも分からなく…」

側近「魔族か人間か分からない?」

兵士「見た目は人間なのですが…感じ取れる魔力がどこか異質なんです」

側近「……とりあえずその使者のところへ案内して下さい、この目で見なければ何とも言えません」

魔王「…私も行こう」

側近「な!?いけません!万が一のことがあったら……」

魔王「私が直接会いに行けば解決する問題だろ?それに少々興味もあるしな」

側近「……仕方ないですね」

兵士「いいんですか?」

側近「一度言い出したら梃子でも動きませんから、このお方は」

牢屋前

ハハハハハハハハッ! ゲラゲラゲラッ!

側近「……笑い声?」

兵士「あ…あの馬鹿者ども!仕事中だってのに!!」

ガチャッ ギィィ

兵士「お前たち!!魔王様と側近様がわざわざいらっしゃって下さっているのに何をしているんだ!!」バンッ

使者「って、わけだったんですよー。笑っちゃうでしょう?」ヘラヘラ

兵士2「ギャハハハハハハ!!」

兵士3「ヒヒヒヒヒッ!!は、腹痛ぇ!!」

兵士「……は?」

兵士2「おっ!兵士も来たか!お前もコイツの話聞かせてもらえよ!スゲー笑えるぜ!」

兵士3「あー、こんなに笑ったのは久しぶりだ……」

側近「その方が例の使者の方ですか」

兵士2「そ、側近様!?」

魔王「確かに人間ではなさそうだな」

兵士3「ままま、魔王様!?」

兵士2・3「「見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありませんでした!!」」ズザッ

魔王「土下座などしなくてよい、顔を上げよ」

使者「これはこれはどうもこんにちは、お初にお目にかかります。私、使者という者でございます」ペコッ

側近「使者、と言いますけど貴方どこから来たんですか?」

使者「それは事情があって言えませんが…そちらの魔王様に用事があって来ました」ニコニコッ

魔王「用事?」

使者「はい、とても大事な用事でございます」ニコニコッ

魔王「何の用だ?」

使者「それは秘密ということで」ニコニコッ

側近「それで謁見が許されると思ったのですか?」

使者「まあ、なるようになるかと……」ニコニコッ

側近「身元と目的が話せないというのならしばらく牢に入っていただくことになりますが?」

使者「仕方ないですね、私は構いませんよ」ニコニコッ

側近「拷問を受けることになりますよ?」

使者「問題ないです」ニコニコッ

側近「……兵士、それでは早速拷問を開始して下さい。あとのことは任せましたよ」

兵士「ハッ!!」

側近「さあ、魔王様。戻りましょう」

魔王「うむ…」

魔王の部屋

魔王「お前はあいつのことをどう見る?」

側近「たしかに人間ではないようですが……魔物にしても気が触れているのではないかと思われます」

魔王「拷問を受けると言っても顔色一つ変えなかったからな」

側近「まあ、そのうち正体を白状するでしょう」

魔王「…そうだな」

数日後

側近「どうですか?あの使者の様子は?」

兵士「実は……大変申し訳にくいのですが拷問が一向に進まないのです…」

側近「何?」

兵士「誰が行ってもいつのまにかアイツの笑い話に聞き入ってしまい拷問が行えないのです…」

側近「何だって!?拷問一つこなせないなんて貴方たちはそれでも魔王城の兵士ですか!?」

兵士「申し訳ないです……それと最近では我々兵士以外の方も協力なさってくれているんですが…」

牢屋

使者「そこで言ってやったんですよ『お前はトマトか』ってね」ヘラヘラ

炎の四天王「ヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」ゴロゴロッ

水の四天王「アハハッハハハハ!!!」

風の四天王「ク…ク…ぶふぅっ!!ふははは!!あー、ダメだ!また笑っちまった!」

土の四天王「笑い過ぎて…ぷふっ!な、涙出てきた」フルフル

側近「」

兵士「もはや笑い話目的で来ているようなものです」

側近「……こうなったら私が行くしかありませんね」

兵士「大丈夫ですか?」

側近「私は…私の魔王様への忠誠心を信じます!」

………

アッハッハッハッ!!

数日後

魔王「……」スラスラッ

コンコンッ ガチャリッ

側近「お茶をお持ちしました」カチャッ

魔王「おお、ご苦労」

側近「……」

魔王「……」ズズッ

魔王「…そういえば」

側近「はい?」

魔王「あの使者はどうなったのだ?」

側近「ああ、使者さんですか。まだ牢屋にいますよ」

魔王「あいつが来てからよく笑い声を聞くようになったな」

側近「不快ですか?」

魔王「いや、皆が笑っていられるのは良いことだ。それに最近は皆の目も生き生きしているしな」

魔王「奴はどういうやつなのだ?」

側近「そうですね……一言で言えば愉快な方ですね」

魔王「ふむ」

側近「話術も巧みですし、聞いていて不快になることが一切ありませんし、なにより……」

魔王「なにより?」

側近「彼の話、というか彼の存在自体がなんとなく楽しい気分にさせているんだと思います」

魔王「? どういうこだ?」

側近「言葉では説明しづらいのですが…まるで昔からの友のような感覚を抱かせられるんですよ」

魔王「ほう……」

側近「もしよかったら会いに行かれては?」

魔王「初めは反対していたじゃないか」

側近「今は自信を持って大丈夫、と言えますから」

魔王「そうか、なら早速行ってみるとするか」

牢屋

ガチャッ ギィィ

使者「これはこれは魔王様、お久しぶりですね」ニコニコッ

魔王「城の者から聞いているが悪党ではないようだな。一体何が目的なのだ?」

使者「うーん……魔王様が約束をお守りになってくださるなら構いませんが…」

魔王「約束?」

使者「はい、簡単なことです」

魔王「何だ?」

使者「これから七日に一度は必ずお休みになっていただきたいのです」

魔王「……お前にとってそれに何の意味があるんだ?」

使者「約束してくれるならお話ししましょう」

魔王「……」

魔王「私は…魔族の皆が笑える日が来るのを望んでいる」

魔王「だから一日でも早く戦いを終わらせて平和な世を作りたいと思っている。だから……」

使者「あー、その問題なら大丈夫です。近々解決すると思いますから」

魔王「……何?」

使者「詳しくは教えられません、でも信じて下さい」

魔王「……」

魔王「側近が信頼している者の言葉だ、私も信じてみることにしよう」

使者「約束していただけますか?」

魔王「うむ」

使者「では私もお教えしましょう、私の目的、それはさっきの約束を魔王様と結ぶことでございます」

魔王「あれが目的だったのか?」

使者「はい」

魔王「さっぱり意味が分からぬが」

使者「私の使命は休日を必要としている人に休日を与えることなんです。それが存在理由で至上の喜びなんです」

魔王「ますます分からぬ、結局お前はどこよりの使者なのだ?」

使者「私は……


………

その後、しっかりと休むようになった魔王はよく笑うようになり。性格がどんどん穏やかになっていった。

更に後、同じように温厚になった人間の国の国王との間に平和協定が結ばれ長い戦争が終わった。

平和になった世の中で二人の明るい王様は一つの決め事をしたという。

『我々を平和に導いてくれた恩人の名を忘れぬように』

こうして人々が一番笑顔になれる休日は異世界でも『日曜日』と呼ばれている。

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