ピザバイト俺「双海真美ちゃんか……」 (118)

プルルルル

俺「はいナムコピザ駅前店でございます」

俺「はい、では配達の注文でよろしいでしょうか」

俺「はい?……いえ、ハイタッチではなく配達です、はいたつ」

俺「それではご注文のほうを……」

俺「……では30分ほどでお届けいたします、ご注文ありがとうございます」

ブロロロロキイイ

ピンポーン

真美「はーい!」

俺「あ、おまたせしましたナムコピザでございます」

ガチャ

真美「もう来てくれたんだ、早いね兄ちゃん!」

俺「いえいえ、それでは商品のほうを……」

真美「あ、そこ置いといてよ! いくらだっけ?」

俺「1980円になります」

真美「ほいほーい!」

俺「ありがとうございました、それでは失礼します」

真美「あ、待ってよ兄ちゃん!」

俺「はい……?」

真美「あんね、真美、いま一人でお留守番でさ……チョー暇してるんだよねー」

俺「はあ……(真美ちゃんって言うのかこの子、よく見るとカワイイな)」

真美「だからさ、ちょっとだけ話し相手になってくれない?」

俺「……いやいや、僕はバイト中なんでそういうのは」

真美「いーじゃんいーじゃん、ちょっとくらいバレないって!」

俺(いいんだろうか……でもこの子ちょっとカワイイし、道に迷ったって言えばちょっとくらいは……)

俺「……わかりました、少しだけなら」

真美「やったー! あ、それと兄ちゃん敬語じゃなくていいんだよ? 絶対真美のほうが年下っしょ?」

俺「……う、うん、そうだね」

真美「ねえねえ、兄ちゃんっていくつなの? ハタチくらい?」

俺「ああ、えっと……いま21で、大学3年だよ」

真美「そっかー、じゃあお酒とか飲めるんだ」

俺「法的にはオッケーだけど、俺はあんまり好きじゃないかな……」

真美「ふーん……」

真美「あ、真美はね、今は12歳で、この春から中学生なんだ!」

俺「ってことは今年13歳になるのか」

真美「そだよ! 誕生日は5月22日だから覚えといてね!」

俺「……5月の22日ね、はい」

真美「はー、大学生っていいなー……真美もはやくオトナになりたいなー」

俺「……俺はむしろ中学生の頃に戻りたいよ」

真美「えー、なんで?」

俺「色々あったからね……あの頃の失敗がなければ、今頃は……」

真美「……よくわかんないけど、兄ちゃんも苦労してんだね」

真美「ところで兄ちゃん、時間大丈夫?」

俺「あっ……(やっべえ、もう10分も経つぞ……これ店長にどやされるパターンじゃん……)」

俺「ごめん、そろそろ戻らないとヤバイわ」

真美「えー、もう? ……でもまあ、しょうがないよね……お仕事だもんね」

俺「それじゃ、またピザ頼んでよ」

真美「うん……ねえ兄ちゃん、またピザ頼んだら来てくれる?」

俺「……次の金曜、5時からラストまでシフト入ってるから、その時間帯なら多分来れると思う」

真美「おっけー、そんじゃまた注文するね!」

俺「はいよ、じゃあまた!」

真美「お仕事がんばってね!」

ブロロロロ

俺(あ~俺なにやってんだろ……ちょっとあの子がカワイイからって……)

俺(……それにしてもやっべえなー、こりゃ店長がキレてないことを祈るしかねえな)

ブロロロロキイイイ

俺「ただいまーっす」

店長「おっ、俺君待ってたよ! 次の配達入ったから行ってくれる? 黒井町だけど」

俺「うーっす(よかった、今日はゴキゲンか……パチンコ勝ったんだろうな)」

金曜

バイト「はいナムコピザ駅前店でございますー、配達のご注文でよろしいですか? はい、はい……ご注文ありがとうございやしたー」

バイト「ふう……あれ、この住所って俺さんが行ってたとこっすよね?」

俺「どれ? ……ああ、双海さん」

バイト「なんかカワイイ子だったっていうじゃないっすか、確かに注文の声もカワイかったっすけど」

俺「そうそう、真美ちゃんね……律儀に注文してくれたんだな」

バイト「へえ、その子真美ちゃんっていうんすか」

俺「うん。じゃあその配達俺が行くから」

バイト「ウィーッス、楽しんできてくださいッス」

俺「あ、あのなぁ……」

ブロロロロキイイ

ガチャ

真美「兄ちゃん待ってたよー!」

俺「お、真美ちゃん……注文してくれてありがとうな」

真美「えへへ! 兄ちゃんも、ちゃんと約束通り来てくれてありがとね!」

俺「あはは……」

真美「あ、兄ちゃんもしかして照れてる?」

俺「そ、そんなことないよ……とりあえず商品渡すから受け取って」

真美「ほーい! いくらだっけ?」

俺「えーっと、2130円だね」

真美「にせんひゃくさんじゅう……30円あったっけなぁ……」

真美「あっ、今2000円しか……ちょっと今ないかも……」

俺「えっ?それは困ったなぁ……」

真美「えっと、あの……兄ちゃん?」

俺「うん?」

真美「その、もしよかったらなんだけど……30円分、真美が払うっていうか」

俺「あぁ、そうしてもらえるとありがたいんだけど」

真美「違うの。お金がないから、身体でっていうか……」

俺「……え?」

真美「ダメ、だよね……」

俺(その後もこうやって真美ちゃんと会話する日は続き、やがて春になった……)


ブロロロロキイイイ

真美「やっほ、兄ちゃん!」

俺「おまたせ、真美」

真美「なんかさ、最初の頃より来るの早くなってるよね?」

俺「まあ、ちょっと急いで来てるからね……」

真美「んっふっふ~、真美と喋る時間がそんなに大事?」

俺「……うるせーな、ピザ投げ捨ててやろうか」

真美「あーん、冗談だってば! お代は2680円だよね、はい!」

俺「ちょうど頂戴しやーす」

真美「ねえ兄ちゃん、今日がなんの日か知ってる?」

俺「今日は……5月22日か」

真美「そうそう!」

俺「……」

真美「……」

俺「……真美の誕生日だろ、知ってるよ」

真美「うあ! 覚えててくれたんだ!」

俺「当たり前だよ、覚えとくって言ったろ? 記憶力だけは自信があるからな、バイトでもほとんど道に迷わない」

真美「……えへへ! なーんか嬉しいな、こういうのって!」

俺「……これ」

真美「え、なに?」

俺「俺からのプレゼント、しょっぼいけど……サイドメニューのチキンナゲット」

真美「う、うわあ……あ、ありがとね……」

俺「うわあって言うなよ……俺だって今日になって思い出して必死だったんだよ」

真美「えー、記憶力がいいんじゃなかったのかなー?」

俺「うるせーな……投げ捨ててやろうか」

真美「わー! 冗談だってば、ホントにありがとね兄ちゃん!」

俺「いいよ全然、じゃあそろそろ店に戻るな」

真美「うん、また注文するね!」

俺「はいはい、よろしくな」

ブロロロロキイイ

俺「ただいまーっす」

バイト「ウイーッス、今日もお楽しみでしたね」

俺「お前いい加減そのノリやめろって……」

バイト「ウッヒヒ! でもいいじゃないッスか、毎週カワイ子ちゃんとお喋りできるなんていいご身分ッスよ」

俺「言っとくけど、別にあの子とはやましいことは無いからな」

バイト「まーソッスよね、確か中一でしたっけ? やることやってんなら俺さんとんでもないロリコンっすもんね」

俺「だろ? 俺はロリコンじゃないから」

バイト「どーッスかねえ……だって俺さん未だにカノジョもいないんッショ」

俺「そ、それは関係ねえだろ……」

バイト「……まあ俺さんはいいとしても、向こうはどう思ってんスかね?」

俺「……どういうことだよ」

バイト「いやね、中一の女の子が週一の頻度でピザ頼むなんてどう考えても普通じゃないじゃないッスか」

バイト「ピザっすよピザ、食い過ぎで太っちまうかもしんねーのにッスよ」

俺「いつも自分で全部食ってるわけじゃないし、体動かしてるから平気って言ってたけど……」

バイト「それでもっすよ! ピザなんて普通そんな頻度で頼むもんじゃねえでしょ、しかも女の子がッスよ」

俺「……確かに」

バイト「……ま、とにかくいっぺんよく考えてみたほうがいいんじゃないッスかね」

俺「…………」

ブロロロロキイイ

ガチャ

真美「にいちゃ……!」

バイト「ウィーッス、おまたせしやしたーナムコピザでぇーす」

真美(兄ちゃんじゃない……)

バイト「……商品のほうお渡ししてもいいッスかね?」

真美「あ、ああはい! えっとー、いくらだっけ?」

バイト「1480円になりやすー」

真美「はい、どうぞ……」

バイト「丁度頂戴しやすー、ありがとうございやしたー」

真美「……兄ちゃん、カゼでもひいてんのかな」

ブロロロロキイイ

バイト「ただいやーす」

俺「おかえり、悪いなわざわざ行ってもらって」

バイト「いやいや、お安いご用っすよ。ってかあの子ホントにカワイイっすね……アイドルでも通用するんじゃねえッスか」

俺「おお、お前もそう思う?」

バイト「そりゃもう、あんな子がピザの食い過ぎなんて下らねえことでダメになっちゃいけねえッスよね」

俺「……そうだな」

バイト「……どうスか俺さん、バイト終わりに飲みでも」

俺「ごめんな、今日はそういう気分じゃねえわ……気持ちはすごく嬉しい、ありがとうな」

バイト「……いえ」

俺(それから俺は、真美の家に配達に行くのを避けるようになった)

俺(もっとも俺は向こうの住所を知っているので、行こうと思えばいつでも行けたのだが、それもしなかった)

俺(それからというもの、彼女からの注文は目に見えて回数を減らしていった)

俺(そして数ヶ月が経過し、いつものようにバイトをしていたある日……)


バイト「チョッ、俺サン俺サン、これ見てくださいよ!」

俺「なんだよ、うるせえな……」

バイト「コレっすよ、この雑誌の子、どっかで……」

俺「ん……765プロ、竜宮小町? 芸能とかあんまり興味ないし、ぜんぜん知らないな」

バイト「よく見てくださいよ」

俺「……あれ、これって……真美?」

バイト「ソッスよ、これあの子じゃないッスか! スゲエっすよ、ホントにアイドルなんスね」

俺(なんだろ……真美にしてはなんか、違和感があるような)

バイト「あ、下に名前が書いてあるッスよ……水瀬伊織、三浦あずさ……双海亜美? 芸名ッスかね?」

俺「いや……なんか引っかかるなあ」

バイト「そういや、あの子こんな髪型でしたっけ? ビミョーに違かったと思うんスけど……」

プルルルル……

俺「……はい、ナムコピザ駅前店でございます」

俺(! なんてタイミングだ……)

俺「双海様ですね、配達のご注文でよろしいでしょうか? ……はい、はい、では30分ほどでお届けいたします、ご注文ありがとうございますー」

ブロロロロキイイ

ピンポーン

真美「はーい」

俺「俺だよオレオレ」

真美「……オレオレ詐欺? おひきとりくださーい」

俺「お、おまたせしましたナムコピザでございますぅー」

ガチャ

真美「あーっ、兄ちゃん久しぶりー!」

俺「ホントにな……とりあえず商品渡すぞ」

真美「うん! えーっと、1680円だよね? 80円あったっけ……」

俺「今日はちょっと聞きたいことがあって……」

真美「真美だって、聞きたいことだらけだよう! なんで今まで来てくれなかったのさー!」

俺「……あのさ真美、俺のことどう思ってる?」

真美「……えええ!? そ、それってどういう意味?」

俺「そのまんまだよ」

真美「に、兄ちゃんのことは……」

俺「……」

真美「……いっつもピザ持ってきてくれて、喋ってると面白くて、メガネで、いじりがいのある人……とかかな」

俺「そ、そうか……」

真美「最近ずっとあのチャライ金髪の人ばっかだったよね?」

俺「バイト君のことか……あいつ、ああ見えて案外イイ奴なんだよ」

真美「人は見かけによらないもんね」

俺「うんうん、その通りだよ……真美は賢いなあ」

真美「むううう、真美だってもう中学生なんだよ! そーやってすぐ子供扱いするんだから!」

俺「悪い悪い、ついからかいたくなるんだよ」

真美「……まあ、ナデナデされるのは悪い気はしないけどさ」

俺「フッ!」

真美「あー! 鼻で笑ったなー!」

俺「すっすまん、つい堪えきれなくて……」

俺「ところで……この雑誌に見覚えないか?」

真美「えー、どれどれ……!!」

俺「765プロ、竜宮小町……この子、双海亜美っていうんだってな」

真美「……」

俺「なあ、真美……俺になにか隠してたりしないか?」

真美「……べつに、隠してるつもりじゃなかったけどさ」

俺「この亜美って子、真美の双子の姉妹とかか?」

真美「よ、よくわかったね兄ちゃん……亜美はね、真美の双子の妹なんだ」

俺「ま、マジか……本当に双子だったとは……」

真美「なんとなく気づいてると思うけど……亜美も真美も、765プロでアイドルやってるんだ」

俺「でも、俺って芸能には疎いからな……765プロも竜宮小町も、初めて聞いたぞ」

真美「兄ちゃん、テレビとか見ないの? 竜宮は最近だとバラエティなんかにもけっこう頻繁に出てるよ」

俺「普段はニュースくらいしかまともに見ないんだよ……」

真美「そ、そっか……」

俺「まあ、なんというか、なかなかブレイクしてらっしゃるようで結構な話じゃないか」

真美「……そだね」

俺「待てよ、ってことは……真美もテレビとか出てるのか?」

真美「……真美はね、あんまり出れてないんだ」

俺「……」

真美「言い訳みたいになるかもだけどさ……竜宮にはプロデューサーがついてるの、律っちゃんっていうんだけどね……」

真美「でもね、真美たちにはついてなくって……自力でがんばって、お仕事もらわなきゃいけないんだ」

俺「……そりゃ厳しい話だなあ」

真美「でしょ? 特に真美とかやよいっち……高槻やよいっていって、真美の友達なんだけど」

真美「その子も中学生でさ、二人でいろいろ頑張るんだけど、いっつもダメダメで」

俺「じゃあ、いつも家に一人でいるのも真美だけ仕事がないせいか……」

真美「……そんなハッキリ言わないでよ、ホントのことだけどさ!」

俺「わ、悪い……デリカシーが足りなかった」

俺「待てよ、そのやよいって子はいつもどうしてるんだ?」

真美「時間があるときはスーパーのお手伝いとかやってるみたい、あと兄弟の世話も大変なんだって」

俺「へえ……(そりゃピザ食ってる余裕はねえわな……)」

真美「……で、兄ちゃん時間は大丈夫なの?」

俺「あっ、やっべえええ!! すっかり時間のこと忘れてた!」

俺「すまん真美、また来るよ」

真美「!! うん、絶対だよ! 待ってるかんね!」

俺「おう、じゃあな」

ブロロロロロ

俺(そっか~真美もアイドルだったのか……そりゃカワイイわけだなあ、うん)

俺(亜美って子、妹なんだよな……? 今まで会ったことないけど、たまたま家にいなかっただけか)

俺(いないタイミングで注文してきてるとも考えられるな……あと、やよいって子も少し気になってきた)

俺(それに……プロデューサー、か)

ブロロロロロキイイイ

俺「ただいやーっす」

店長「ちょっと遅いじゃない俺くん、いつも迷ったりしないのに……」

俺「サーセンっす」

店長「配達入ってたけど、バイトくんに行ってもらったからね! 君はもう新人じゃないんだから、自覚をもって~~」

俺「サーセンっす」

数日後

バイト「はい、はい……ご注文ありやしたー」

バイト「俺さん俺さん、真美チャンから注文ッスよ」

俺「おっし、行くか」

バイト「楽しんできてくださいッス!」

俺「おう、ありがとな……あとこの前ごめんな、時間食っちゃってさ」

バイト「いいッスいいッス、二人のためならエンヤコラーッス!」

俺「なんだよそれ……」

ブロロロロキイイイ

ガチャ

真美「……よかった、兄ちゃんちゃんと来てくれたー」

俺「当たり前だろ、約束したじゃないか」

真美「えへへー、そだね! おーいやよいっちー、来たよー!」

俺(やよい……って、真美の友達だっけか、初対面だな)

やよい「はっ初めまして! 高槻やよいでーっす!」

俺「あ、どうも、はじめまして……」

やよい「ふーん、この人が真美の……」

俺「……な、なんでしょう」

やよい「あっ……! ご、ごめんなさい! あんまりジロジロ見ちゃ、失礼ですよね……」

俺「真美と違って、礼儀正しそうないい子じゃないか」

やよい「えへへー、ありがとうございますっ!」

真美「むうー」

俺「やよいちゃん、スーパーでお手伝いしてるんだって? まだ中学生なのに感心だなあ」

やよい「そ、そんな! 大したことないですよう!」

俺「いやいや、俺が中学生のときはもっとアホで何も考えてなかったよ」

やよい「あう……わ、私も勉強はダメダメで……」

俺「そんなのどうにでもなるよ、まだ大人になるまで何年もあるんだからさ」

やよい「えへへ、確かにそうかもですねっ! うっうー! アイドルも勉強も頑張っちゃいまーっす!」

俺「やよいちゃんは元気があっていいなあ、ファンになっちゃうかも」

やよい「うわあー、ありがとうございますー!!」

真美「……」

俺「あ、ごめんな真美、俺もう行かないと」

真美「……そっか、じゃあまたね兄ちゃん」

俺「また注文してくれよな」

真美「やよいっち、ピザ一緒にたべよ!」

やよい「すっごくいい匂いだね、お腹がグルグル鳴っちゃうかも~!」

バタン

俺「……真美?」

俺「……って感じでさ、真美がちょっと素っ気ない気がしちゃって」

バイト「わかりやすいじゃないスか、嫉妬してんスよそりゃ」

俺「いやあ……でもさ、嫉妬ならやよいちゃんに矛先が向くかと思うんだが、そんな風じゃないんだよな……」

バイト「俺さんにデリカシーがないからッスよ」

俺「うっ……」

バイト「そりゃあ真美ちゃんだって、罪のないやよいちゃんにキレるほどガキじゃねえッスよ」

俺「で、でもあの時やよいちゃんと初対面だったし……ちょっと会話が弾んじゃっただけなんだけど……」

バイト「……なんつうか、ホントにデリカシーがないんスね、俺さん……そりゃモテねえッスわ」

俺「うぐぐ……痛いところを突いてくるなあ……」

バイト「ダメっすよ俺さん、ちゃんと真美ちゃんにフォロー入れとかないと」

俺「わかってるよ……今度注文があればな」

バイト「……もうなかったりして」

俺「縁起でもないこと言うなって」

バイト「わーってますよ、ジョーダンッスジョーダン!」

俺「ったく、本当に来なくなったらお前のせいだからな」

バイト「ヒエー、そりゃひでえッスよー! 実際には9割がた俺さんのせいじゃないッスか!」

俺「1割は認めるんだな……」

俺自宅

俺「ハァ、なんだかんだで遅くなっちまった」

俺「明日もバイト入ってるし、さっさと風呂入っとかないとな……」

俺「……その前にテレビでも見るか、ちょっとだけ」

ピッ

俺「……」

俺(確か、このニュース番組の裏で音楽番組があったはず……)

ピッ

俺「うおっ、でた……竜宮小町」

俺「この子が亜美か……ホント、真美にそっくりだな」

俺(765プロ、竜宮小町……映像で見たのはこれが初めてだ)

俺(身内がテレビに出て喋っているような、なんとなく不思議な気分だな)

俺(番組で紹介されているのは『SMOKY THRILL』……新曲のようだな、どんな曲だろう)



知らぬが~仏ほっとけな~い♪ くちびるポーカーフェイス♪

YO灯台~もと暗しDo you know?♪ 噂のFunky girl~♪

 

バイト「……鼻歌ッスか?」

俺「うおおおおお、声に出てた!? スマンスマン……!」

店長「俺くん、それ『SMOKY THRILL』じゃないの? 意外とミーハーなとこあるんじゃん」

俺「あ、あはは……」

バイト「え、相撲……なんスか?」

俺「『SMOKY THRILL』、例の竜宮小町の新曲だよ」

バイト「へえー、そうなんスね……あの竜宮小町の」

店長「二人ともテレビあんまり見ないのに、竜宮は知ってんのね……」

俺「あはは……ちょっと色々ありましてね……」

店長「……まあ、深くは詮索しないわ」

バイト「そういや今日は来ないっすね、彼女からの注文」

俺「そうだな……まあ、今までが多すぎたんだろ。あんだけピザ食って太らないのが不思議だわホント」

バイト「きっとその分すげえ練習してんでしょうね、レッスンっつーんスか? 相当やらねーと仕事とれねーんショ」

俺「……だろうな」

店長「あれ、俺くん彼女いたっけ?」

俺「い、いやいませんよ!」

バイト「アレっすよ、なんつうんスか……キープ?」

店長「俺くんも意外と隅に置けないねえ」

俺「ちょっと店長、そこのアホの言うこと真に受けちゃダメッスよ!」

俺(それから真美からの注文はバッタリと途切れた)

俺(俺の中では日に日に不安と自責の念が強まっていったが、同時に『これでいいんじゃないか』と考えている部分もあった)

俺(所詮俺はピザ屋のいちアルバイト、彼女は売れないアイドル……もともと軽々しく何度も会うような関係じゃない)

俺(そう理解してはいるが、しかし……俺は……)

ピンポーン

真美「……はーい」

俺「おまたせしましたーナムコピザですー」

真美「……注文してないんだけど」

俺「真美、俺だよ俺……わかるだろ?」

真美「オレオレ詐欺? おひきとりくださーい」

俺「違うって、俺だよ! お前に会いに来たんだよ!」

真美「……」

俺「俺、お前に会いたくてしょうがなかったんだ……やっと気づいたんだよ、自分の気持ちに!」

真美「……」

ガチャ

真美「……入っていいよ」

俺「真美……」

真美「あのさ、今日は時間あるんだよね?」

俺「ああ、今日はバイトも大学も休みだからな」

真美「……真美の部屋、2階だから。ついてきて」

俺「わ、わかった」

俺(ここが真美の部屋か……結構キレイにしてるんだな)

俺「なんかすっげえいい匂いがする、ここでいつもピザ食ってるとは思えん」

真美「そりゃ、匂いには気をつけてるからね」

俺「そっか……」

真美「……」

俺「……なんかさ、色々ごめんな」

真美「……んっふっふー!」

俺「えっ」

真美「兄ちゃん、これで真美の気持ち分かった? 兄ちゃんが配達に来てくれないとき、真美はずっとそういう気分だったんだよ!」

俺「……あのさ、真美……それ言うためにずっと注文して来なかったのか?」

真美「そうだよ?」

俺「……」

俺「俺がこうやって来なかったらどうする気だったんだ……もう二度と会えないとこだろ……」

真美「んー、そんときはそんときかな! でも真美、兄ちゃんなら来てくれるって思ってたし!」

俺「俺が来たとしてもたまたま留守にしてたら?」

真美「だからー、そんときはそんとき!」

俺「……アホかお前」

真美「ちょ、ちょっとヒドいよ兄ちゃん! せっかく久しぶりに会ったのにさぁ……」

俺「てっきり、俺がやよいちゃんのことをチヤホヤしたせいで機嫌悪くしたのかと思ったぞ」

真美「それはー……ちょっとはあるけど、でもあんまり気にしてないよ!」

俺「なんだ、杞憂だったか……」

真美「それよりさ、兄ちゃん……今日はいっぱい時間あるんだよね?」

俺「ま、まあな」

真美「じゃあじゃあ、なんかして遊ぼうよ! 兄ちゃんの好きなことでいいよ!」

俺「それもいいけど……その前に、ちょっと俺から話したいことがあるんだ」

真美「えっ」

真美「そ、それってもしかして……ぷろぽーず、とか?」

俺「……」

真美「……!!」

俺「あのさ、俺……」

真美「う、うん」


俺「…………バイト辞めるんだ、今月一杯で」

真美「……えっ?」

俺「だから、辞める前に一度会っておきたいと思って……」

真美「な、なんで辞めちゃうの?」

俺「俺ももう大学4年だしさ、色々あんだよ……大人の事情ってやつ」

真美「そうなんだ……」

俺「……だから、これからはもう会えなくなるかもな」

真美「で、でもさ! 別にお仕事じゃなくても、こうやって休みの日に会ったりすれば……」

俺「それはできない」

真美「なんで!」

俺「……真美がアイドルだからだよ」

真美「……!!」

俺「こうやってどこの馬の骨とも分からない男と会ってるなんて、週刊誌にでもバレたら格好のネタだぞ」

真美「……」

俺「それに、ここは亜美の家でもあるだろ? 本当はこうやって訪ねてきてるのも危険なんだが……」

真美「そっか……」

俺「……真美?」

真美「だから兄ちゃん、携帯のアドレスとかも教えてくれなかったんだね……」

俺「……ごめんな」

真美「いいんだよ、真美のことを思ってくれてたんだからさ!」

真美「……でも、兄ちゃんともう会えなくなるなんて、やだなあ」

俺「俺も、同じ気持ちだよ」

真美「……」

俺「まあでも、今生の別れってわけじゃないから。またどこかで会えるよ、たぶん」

真美「……ホントに?」

俺「ああ、約束するよ。今まで俺が約束を破ったこと、なかったろ?」

真美「うん……真美、いつまででも待ってるかんね! 兄ちゃんのこと!」

俺「そんじゃ、俺はこのへんで」

真美「ええっ、もう行っちゃうの!? 早すぎだよ、ちょっとくらい遊んでってもいいっしょー?」

俺「そうもいかないよ、あんまり長居してるとマズいから」

真美「……」

俺「わかってくれるよな?」

真美「……うん」

俺「よしよし」

真美「それじゃあ……もう、言っちゃってもいいかな」


真美「ねえ、兄ちゃん……今までありがとうね、それと―――」



真美「―――大好きだよ!」

ここで終了でいいかな
俺がバイト中にしてた妄想にお付き合いくださりありがとうございました

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