葉留佳「おーい、理樹くーん」
佳奈多「…………」
理樹「あっ、三枝さん。それに二木さんも」
葉留佳「奇遇だね~。今からお昼なんだけど、理樹くんも一緒しない?」
理樹「んー……ごめん。今日は真人と約束してるからさ」
葉留佳「そっか、それじゃダメだね。また今度誘うよー」
佳奈多「直枝理樹。この前のDVDは後で返すわ」
理樹「うん。じゃあね、二人とも」
葉留佳「またねー…………ん?」
葉留佳「……DVDって何デスカ?」
佳奈多「『ダイオウイカの謎』という、深海生物の生態に着目したドキュメンタリーよ」
葉留佳「いや、内容じゃなくて……理樹くんから借りたの?」
佳奈多「そうよ。深海の神秘が感じられて面白かったわ」
葉留佳「……お姉ちゃんって、理樹くんと仲良かったっけ?」
佳奈多「直枝と? 普通の知り合い程度よ。葉留佳がいなかったら知り合いですらなかったわね」
葉留佳「ふーん……」
――――
葉留佳「やっほー理樹くん!」
理樹「今日も二人でお昼? あの時からすっかり仲良くなったよね」
佳奈多「うるさい。あなたには関係ないわ」
葉留佳「もー、お姉ちゃんはこれだから……」
理樹「ところでアレの話なんだけどさ」
葉留佳「アレ?」
佳奈多「アレなら、次の土曜にあなたの部屋でどう?」
理樹「うん、いいよ。あっ、今日も真人待たせてるから、これで」
佳奈多「ええ」
葉留佳「…………」
葉留佳「『アレの話』ってナニ?」
佳奈多「……実は先週、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を借りたのだけど、まだ観てなくて」
葉留佳「お~。あれは名作だから絶対観るべきだよ!」
佳奈多「それで昨日、ふと彼がアクション物が好きだということを思い出して。一緒に観ようって提案したの」
葉留佳「……へぇ」
佳奈多「前回はケーキを持っていったから、今度はクッキーでも焼こうかしら」
葉留佳「あ、よく行くんだ」
佳奈多「それほどでもないわ。月2~3回くらいね」
葉留佳「…………」
理樹「ふぁぁ……」
葉留佳「おやおや理樹くん、なにやら眠そうですなぁ」
佳奈多「夜中の2時まで夜更かしするからよ」
理樹「えぇー? 二木さんのメールに付き合わされてあんな時間になったのに……全然眠くないの?」
佳奈多「私は慣れているもの。ねぇ葉留佳」
葉留佳「……うん」
理樹「お菓子を作ってきてくれるのは嬉しいけど、候補を挙げても全部却下されるしさ」
佳奈多「マフィンもケーキもドーナツも前に作ったでしょう。新鮮味が無いとダメなのよ。ねぇ葉留佳」
葉留佳「…………」
理樹「夜更かしなんて……朝弱いって知ってるでしょ?」
佳奈多「まったくね。あなたときたら全然起きないんだから……」
理樹「もう少し勢いよく起こしてよ。頭撫でられたくらいじゃ起きられないって」
佳奈多「あまり騒ぐと井ノ原真人まで起きてしまうでしょう?」
理樹「むしろ真人も起こしてあげてよ……ねぇ三枝さん」
葉留佳「そうですネ」
――――
葉留佳「~♪」
理樹「……だから、それはもういいって」
佳奈多「それでは私の気が済まないわ」
葉留佳「ん……二人とも、どったの?」
佳奈多「葉留佳……実はこの間、直枝の部屋で映画を観てたのだけど」
葉留佳「あー、言ってたね」
佳奈多「不覚にも、映画を観ている最中に寝てしまったのよ。ついウトウトして……」
葉留佳「あるある」
理樹「ガチガチのアクションだとねー。二木さんってラブコメの方が好きだから」
葉留佳「え、そうなんだ……」
佳奈多「だから、何かお詫びをしようと思っているの」
理樹「大げさだよ。そんなの気にしてないし……また一緒に観ればいいじゃないか」
佳奈多「でも……起きたらあなたに膝枕されていて、なんだか申し訳なくて」
理樹「する側とされる側がいつもと逆になっただけでしょ?」
佳奈多「それは、そうだけど……」
葉留佳「へー……」
理樹「うーん、どうしても?」
佳奈多「どうしてもよ。これは私のプライドの問題なの」
理樹「……それじゃあ、今度買い物に付き合ってよ。女の子にプレゼントしたい物があるんだ」
佳奈多「え……それだけ? それくらいで良ければ、私は構わないけれど……」
葉留佳「ほほ~う、女の子って誰でしょうなぁ」
佳奈多「別に誰でもいいでしょう」
葉留佳「……お姉ちゃん、気にならないの?」
佳奈多「気になる理由が無いもの」
葉留佳「…………」
――――
佳奈多「絶対に許さないわ、直枝理樹……!」
葉留佳「お、おぉ? どうしたのさ、お姉ちゃん」
佳奈多「直枝ったら、こともあろうにこの私を謀ったのよ!」
葉留佳「え? 謀るって、理樹くんがそんなことするかなぁ……」
佳奈多「したのよ! この前、一緒に買い物に行った時――」
――
――――
佳奈多「それで理樹、結局プレゼントは誰に渡すの?」
理樹「あれ? 佳奈多さん、気にならないんじゃなかったの?」
佳奈多「好奇心ではないわよ。誰にあげるかで買う物も変わってくるでしょう?」
理樹「あっ、それもそうだね……でも、あまり言いたくないんだけど……」
佳奈多「そうでしょうね。ヒントを出しなさい、勝手に推理するから」
理樹「ひ、ヒントって……」
理樹「えっと、髪はピンクのロングで、身長は160くらいかな?」
佳奈多「…………」
理樹「で、割と身近な人……これ以上は言えない!」
佳奈多「……あなた、隠す気ある?」
理樹「え?」
佳奈多「葉留佳に渡したいならそう言えばいいじゃない。考えるまでも無かったわ」
理樹「……あはは」
理樹「このブローチは……ちょっと大きすぎるなぁ」
佳奈多「…………」
理樹「それじゃ、ネックレスはどうだろう」
佳奈多「ちょっと理樹。アクセサリを買うのはともかく、私相手に見立ててどうするのよ」
理樹「え? 何かまずかった?」
佳奈多「……確かに私と葉留佳は似ているから、あの子に似合う物は私も似合うかもしれないけど」
理樹「だよね。そうだ、ピアスとかどう?」
佳奈多「もう……あまり派手な物は引かれるわよ」
理樹「よし、これに決めた!」
佳奈多「ネックレスにしたのね。目立たないながらも丁寧な装飾が施されていて、私は好きよ」
理樹「お会計お願いします」
店員「こちら、19,800円になります」
理樹「……この辺が学生の限界だよね」
佳奈多「プレゼントは気持ちが大事、値段は二の次よ」
店員「プレゼント用にお包みしましょうか?」
理樹「いえ、付けていくのでこのままで」
店員「かしこまりました」
佳奈多「…………は? 付けていくって……」
理樹「佳奈多さん、あっち向いて」
グイッ
佳奈多「え? ちょ、ちょっと」
カチャカチャ...
理樹「はい。よく似合ってるよ、佳奈多さん」
佳奈多「…………」
佳奈多「どういうこと……?」
理樹「佳奈多さんにプレゼントだよ。いつも僕なんかに付き合ってくれるお礼かな」
佳奈多「……葉留佳へのプレゼントではなかったの?」
理樹「一言も『三枝さんに』なんて言ってないよ?」
佳奈多「身近な人って言ったじゃない!」
理樹「物理的に身近にいたのは佳奈多さんだけだよ?」
佳奈多「……私を騙したの? 最低ね……最低」
――――
――
佳奈多「ほら、直枝はとんでもない男でしょう」
葉留佳「ソーデスネ」
佳奈多「高いお金を払ってまで私を騙す意味があったのかしら。理解しがたいわ」
葉留佳「……あのう。ところで、いま首につけてるのって」
佳奈多「え? 見ての通りネックレスよ。貰ったのに使わないのも白状だもの」
葉留佳「いつから着けてるの?」
佳奈多「勿論、プレゼントされた日からだけど。さすがに校内では外してるわよ」
葉留佳「あ、そうですか……」
葉留佳「ところで、気になってたんだけどさ」
佳奈多「なにかしら?」
葉留佳「二人きりだと下の名前で呼びあってるの?」
佳奈多「ええ。葉留佳は直枝を『理樹くん』って呼ぶから、試しに呼んでみたら定着してしまって」
葉留佳「でも、普段は『直枝』と『二木さん』だよね?」
佳奈多「急に呼び方が変わったら皆驚くと思って、二人の時だけそうしてるのよ」
葉留佳「やはは……それはお心遣いドーモ……」
――――
葉留佳「お姉ちゃん。バスターズの女子でパジャマパーティーやるんだけど、一緒に参加しない?」
佳奈多「パジャマパーティー? ダメよ」
葉留佳「えぇ~? そう固いこと言わずにさ!」
佳奈多「いえ……程々にすればやる分には構わないわよ。あまり束縛するのも良くないもの」
葉留佳「おぉ!? 鬼の風紀委員が丸くなって、はるちんは嬉しいですぜ~」
佳奈多「からかわないの。そうじゃなくて、用事があって参加できないってこと」
葉留佳「えっ……パジャマパーティーって夜だよ? 深夜に用事って……」
佳奈多「直枝の部屋に泊まりに行くの」
葉留佳「ふーん…………んー?」
葉留佳「と、泊まり? なんで?」
佳奈多「明日は休みだし、夜通し色々と語るのよ。目的はあなた達のパーティーと変わらないわ」
葉留佳「……理樹くんの部屋って、真人くんとの相部屋だよね?」
佳奈多「それが、井ノ原はその日に限って棗先輩の部屋に泊まりに行くらしいのよ」
葉留佳「それ追いやられ……」
佳奈多「大丈夫よ、私は風紀委員長だもの。風紀を乱すようなやましいことはしないわ」
葉留佳「もはや手遅れ感が漂っておりますが?」
佳奈多「あ、枕は持っていくわよ。枕が変わると寝られないの」
葉留佳「そこはどうでもいいです……さすがに布団は別ですよね、委員長」
佳奈多「一緒の布団で寝るわよ?」
葉留佳「おっとぉ~?」
佳奈多「だって、布団が1つだけだもの」
葉留佳「真人くんいないんだから、布団あるじゃん」
佳奈多「訂正するわ。私が入ることを許容できる布団が1つだけなの」
葉留佳「……だ、だからって男の子と同じ布団はマズくない? 理樹くんだって男の子だよ?」
佳奈多「見たら分かるわよ。意外と筋肉も付いているし」
葉留佳「そうなんだ……」
佳奈多「この間、お風呂で少し触らせてもらったのよ」
葉留佳「ふーん。でも言っといて何だけど、理樹くんなら変な気も起こさなさそうだよね」
佳奈多「でしょう?」
葉留佳「……ん? さっき、お風呂って言った?」
佳奈多「ええ」
葉留佳「りっ、りりりり理樹くんと一緒にお風呂入ってるの!?」
佳奈多「あ……かっ、勘違いしないで!」
葉留佳「ですよねー」
佳奈多「アザはできるだけタオルで隠してるわよ!」
葉留佳「そっちかー!」
佳奈多「……ねぇ、葉留佳」
葉留佳「なに? もうここまで来たらなんでも来いだよ……」
佳奈多「私と直枝の関係って、変なの?」
葉留佳「変だよ! 今まで我慢してきたけど、もう突っ込みどころ満載だったよ!」
佳奈多「そ、そう……?」
葉留佳「もうこの際だから聞く! 聞いちゃいますよ?」
佳奈多「え、ええ」
葉留佳「お姉ちゃん、実は理樹くんと付き合ってるよね?」
佳奈多「……よく言われるけど、付き合ってないわよ」
葉留佳「マジ……? キスとかしてないの?」
佳奈多「キスはしたけど……」
葉留佳「おやおや。はるちん、急に壁を殴りたくなってきましたよー」
佳奈多「キスと言っても、ラブロマンスを観ていて、その場の雰囲気でしただけで……」
葉留佳「おりゃっ」ゴン
葉留佳「……もう驚きを通り越して、羨ましいよ」
佳奈多「でも、別に好きではないわ」
葉留佳「頑固だね……」
佳奈多「ただ、一緒にいると気分がいいし、ずっと傍にいても嫌じゃないのよね」
葉留佳「それを好きだと言うんですヨ……」
佳奈多「あとは、ふと顔が近くなった時にキスしたくなるとか……いえ、結局するんだけど」
葉留佳「だーかーらー、それを付き合ってるって言うんですヨ!」ゴン
佳奈多「その壁を叩くのはおまじないの一種なの?」
佳奈多「あ……そろそろ約束の時間だわ。私はもう行くけど、ハメを外し過ぎないように気をつけなさい」
葉留佳「お姉ちゃんもね……まだ子供はダメだよ」
佳奈多「……??」
葉留佳「ううー……今日は傷だらけのマイハートを姉御に慰めてもらおうっと……」
葉留佳「ああー、彼氏が欲しいよー。はるちんもイチャイチャラブラブしたいよー」
終わり。
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