女「甘えた相手は社会人」(64)
百合「女ちゃん、おはよう!」
平日の朝。
駅へと向かって歩く私に投げかけられる女性の声。
女「おはようございます」
もう何度も挨拶を交わしているのに、どうしても慣れない私。
――だって、緊張してしまうから。
百合「今朝はいい天気だね」
女「そうですね」
百合「それと――女ちゃんは今日も可愛いね」
女「や、やめて下さい///」
百合「ふふっ」
彼女は、少し前に私の近所へ引っ越してきた社会人2年目の百合さん。
短大卒だから、まだ21歳か22歳だけどすごくしっかりしている。
私は母親と二人暮らしで、しかも家では一人で居ることが多かったから、周りに甘えさせてくれる人がいなかった。
加えて消極的な性格だった私にとって、頼りになる彼女は何だか魅力的で、憧れで、お姉さんみたいな存在だった。
そして――私は彼女に小さな恋心を抱いているのに気付いた。
気付いたけれど……どうせ叶わないからとその気持ちを誤魔化すようにして毎日を過ごしていた。
今日も道端で会って一緒に駅へと歩く。
百合さんは、少し眠そうに何度もあくびを繰り返していた。
女「やっぱりお仕事って大変ですよね」
百合「うん……。すごく大変だよ。昨日、仕事のことを考えてたらあんまり眠れなかったんだ」
声のトーンが普段に比べて低くなる。
百合「私、短大卒でしょ?だから、同い年でまだ学生やってる子が多くてさ。羨ましくて仕方がない時があるんだ……」
うぅ……。
やっぱり朝から聞いちゃいけないことだったかな……?
百合「でもね――女ちゃんと会えるから、私頑張れるよ」
ちょっと冗談を交えて言ったのかと思ったけれど。
百合さんは私の目をじっと見つめて逸らさない。
女「え、えと///」
いつもみたいに顔は微笑んでいても、その眼差しが真剣だったから、本気で言ってくれているのかもって、そう思った。
なんだろう。
顔が熱い……。
すごく――ドキドキする。
そのまま、また多愛ない話が続いて。
けれども、会話の内容なんてほとんど耳に入らなかった。
『女ちゃんと会えるから、私頑張れるよ』
授業中も彼女の言葉が頭の中をグルグル回る。
自分にとって都合のいい解釈が浮かんでは、それを打ち消すことの繰り返し。
近所に住んでいるただの女子高生に、そんなこと言うかな。
特別な気持ちを抱いてくれているんじゃないかな。
――ううん、きっと考え過ぎ。
何気ない一言だったに違いないんだ。
でも、その時の……。
私の心を射抜くようなあの目がどうしても忘れられなかった。
次の日も彼女に会って。
また激しい鼓動が収まらなくて。
これまではどこか遠い存在だった「好き」という気持ちは、今になって私の心を急激に支配するようになっていった。
それから、百合さん相手にもっと緊張してしまって。
でも、恋してるって意識してからは、「もっと彼女の側に居たい」って考えて、毎朝の登校時間がすごく楽しみになった。
百合さんの気を引きたくて、自分なりに一生懸命積極的に話しかけたりした。
私はあまり話し上手じゃないから、前日にやりとりの内容を考えてみたり。
今日はあんな話をしたなと後で色々振り返っていたけれど、もっと面白いことが言えたらなと思って毎日へこんだ。
私はまだ百合さんの連絡先を知らなかったから、朝の登校時間が彼女とのすべてで。
「今さらアドレス聞くなんて……」と考えていたけど、ある時突然百合さんから「アドレス交換しよう?」と持ちかけられた。
嬉しさのあまり、その日は学校でずっとニヤニヤしてしまって友人から気持ち悪がられてしまった。
仕事の話をするのは良くないかなと思って、今まで敢えてその話題は出さなかった。
でも、好きな人のことはもっと知りたくて。
ある日思い切って聞いてみた。
女「そういえば、百合さんってどういうお仕事されているんですか?」
百合「私、栄養士やってるんだ」
女「栄養士……?」
名前は聞くけど、どんな仕事かあまりよく知らない。
百合「栄養士でも色々仕事はあって、私は主に社食の献立を考えてるの」
女「へえ~」
百合「栄養のバランスや、美味しさ、食材にかかるお金なんかを色々考慮してね。あと、食材の発注や在庫の管理、食器選びだったり何でもするんだよ」
女「そんなこともやるんですね」
百合「うん。ホントに忙しくて、事務所から現場にはほとんど行けないよ」
やっぱり大変そうだな。
でも、この話題で特に嫌な顔もされなくて良かった。
また一つ、百合さんのことが分かって嬉しい。
女「百合さんのお料理、食べてみたいです」
百合「今度、家に食べに来る?」
女「い、いいんですか?」
百合「もちろんだよ」
女「栄養士かぁ……。お料理上手そうですね」
百合「栄養士だから料理が上手とは限らないよ。調理が専門ってわけじゃないし。でも当然メニューの試作をするから、ある程度はできないとお話にならないけど」
彼女はそう言って笑う。
百合さんの手料理……楽しみだな。
約束まで時間が経つのがすごく遅く感じて、ようやく当日。
百合さんの部屋にお邪魔した私は、そわそわしながら料理が出来るのを待つ。
百合「おまたせ~」
女「わぁー」
机の上に並べられたご馳走。彩りが綺麗ですごく美味しそう。
百合「どうぞ、食べて食べて」
女「いただきます」
百合「♪」
うう、百合さんが目の前にいると緊張する……。
ちょっと居心地の悪さを感じながらも、ごちそうを口に運ぶ。
女「おいしい!」
百合「ふふ。よかった」
そういえば、温かい手料理って久しぶりに食べたな……。
お母さんはひとりで必死に私を育ててくれているから、忙しくてなかなか食事まで手が回らないのは知っているし、それを責めるつもりなんて全くない。
でも、やっぱり寂しかった。百合さんは、その寂しかった気持ちまでも埋めてくれて。
もっと……甘えてみたいな……。私だけが……彼女を独占できたらな……。
女「すごくおいしかったです。ごちそうさまでした」
百合「お粗末さまでした」
すっかり空になった食器を持って、百合さんがキッチンへ向かう。
女「あ、私も片付け手伝います」
百合「ん、じゃあ一緒にやろっか」
キッチンでそろって後片付け。
こうやって並んで作業をしていると、なんだかドキドキする。
どうしてかいつもより彼女の存在を意識してしまって。
百合「女ちゃん……」
百合さんがふと手を止めて私に呼びかける。
女「何ですか?」
横を見ると、彼女が私の目をじっと見つめてきて。
あの時の――私を魅了した眼差し。
女「あ///」
思わず目線を逸らす。
百合「ねえ、私の目を見て」
女「あ……ぅ……///」
百合「……ドキドキした?――ふふ。私もね、今すっごくドキドキしてる……」
女「ゆ、百合さん///」
顔が熱くて、自分でも赤くなってしまっているのが分かる。
百合「ふー……やっぱり緊張するな。あの――私ね……」
百合「女ちゃんが、好き」
女「えっ」
あまりに突然の告白。
嬉しいはずなのに……いきなり過ぎて、言葉がうまく紡げない。
女「え……そんな……え?」
百合「今まで結構アピールしてたつもりなんだけどなあ」
彼女が苦笑する。
それからちょっと真剣な顔をして。
百合「……大人になるとさ、色々世界が広がっていくんだけれど。それは全然いいことばっかりじゃない。見たくないものまで見えてきてしまうの。人の嫌な所とか、特にね」
彼女はそこで一呼吸置いて。
百合「でも、女ちゃんは私の周りの人間で一番綺麗な心の持ち主だなって気づいて。それで――惹かれていったんだ」
女「私、そんなに良い子じゃないです……。授業中に居眠りだってしますし。それに……百合さんに、もっと甘えたいなんて考えて……」
百合「くっ……ふふっ」
女「な、何か変なこと言いました!?」
百合「……そういう所、やっぱり可愛いな」
女「えっ///」
百合「もしも女ちゃんが仮に良い子じゃなかったとしても。私の心はとっくに奪われて、女ちゃんが気になって仕方がないの。もう取り返しがつかないくらいに」
女「ぅ……///」
百合「女ちゃんが好意を持ってくれているのにも薄々気付いてた。一緒に過ごしている時、本当はすっごくドキドキしてたんだよ?舞い上がってしまわないように、頑張って取り繕ってたんだけどね」
私も、ずっとドキドキしてた……。
えへへ……。二人とも一緒だったんだね。
百合「そういえば。まだ女ちゃんの返事、聞かせてもらってなかったね」
彼女が再び私の瞳を見つめてくる。
でも今は。
さっきみたいに恥ずかしがって目を逸らさないようにして。
女「私も――百合さんが好きです」
それ以来、百合さんは敬語じゃなくて、普通に話して欲しいと言ってきた。
そのおかげもあってか、百合さんとは変に緊張せずに話すことが出来るようになった。
初めてのデート。
隣で歩く私に百合さんが「手を繋ごう?」と言ってくれた。
手を繋いで歩いている時、嬉しいのとドキドキするのとで彼女の問いかけに上手く答えられなくて。
すごく恥ずかしかったけど、そんな私を百合さんは「可愛い」って言ってくれた。
メールはほとんど毎日やりとりした。
お互い会社や学校がある平日は、あまり長くなってしまわないように気をつけながら。
つい明け方の4時まで長電話をしてしまった日の朝は、二人でフラフラになりながら駅まで向かって。それが何だか可笑しくて、途中からは笑い合っていつもの道を歩いていた。
お互い「もうやめよう」と約束するのに、それから何度も同じことを繰り返す私達。
でも、途中のコンビニで栄養ドリンクを買って一緒に飲んだりと、そんな些細な出来事が私にはとても幸せに感じられた。
県外のショッピングモールまで、デートに出かけた日の帰り。
夕方、少し暗くなってきた道を二人で歩く。
百合さんはわざわざ家まで送ってくれて。
百合「今日は楽しかったね」
女「うん」
家の前に着いた時、彼女はキョロキョロと周りを見渡した。
百合「女ちゃん……」
そして、私の肩を抱いて……
百合「――ちゅっ……」
女「っ!?」
不意打ち気味のキス。
百合「ん……」
女「ん……んっ……」
柔らかい唇が触れ合って、全身がとろけてしまいそうな感覚。
百合「……大好き」
ギュッと抱き締められる。
彼女の甘い香りとさっきのキスの感触。まるで酔ってしまったかのように、身体から力が抜けていくのを感じた。
百合「――また明日」
そう言って、百合さんは少し恥ずかしそうにしながら去っていった。
私は起きたことを理解するのに精一杯で、しばらくボーっとしていて。
我に返った後、初めてのキスが路上なんてちょっと破廉恥だとは思った。
でもその日の夜は、ベッドの中でひたすら彼女の唇の柔らかさを思い出しては布団をギュッと握りしめていた。
――こうやって、私と百合さんは徐々にお互いの距離を縮めていった。
ある日の放課後。
友「ああ、もう面倒!」
女「はは……。ぱっぱとやって早く終わらせよう?」
友と2人で居るところを先生に呼び止められ、雑用のお願い。
だから、今日は教室で居残って作業をしている。
先生にはすごく感謝されたから、悪い気はしないんだけど……。
友「実はね。私の従姉妹が今度結婚するんだ」
女「う、うん」
唐突な話題にちょっと驚く。
友「相手は私もよく知っている人でさ。すごく優しくて、頼りになって、しかもエリート社員なんだ~」
女「すごいね」
友「ああ。私も、素敵な人と結婚したいなー。女もそう思うでしょ?」
女「うーん……よく分かんない」
友「よく分かんないって……。あ!そうそう」
友が、何かを思い出したかのように手を叩く。
友「女、もしかして彼氏できた?」
女「っ!?」
友「最近何だか様子が変わったからさ~。で、どうなの?」
彼氏……か。
女「どう、なのかな……?」
友「え~?」
友はすごく不満そうだったけれど、私はそう言って質問をはぐらかした。
結局暗くなるまで学校で作業をして、普段よりも遅い帰りの電車。
女「あっ」
百合「すぅ……すぅ……」
座席に座って目を閉じている百合さんの姿。
いつもはもっと早くに学校を出ているから、帰りの電車で会ったことはなかったっけ。
百合「すぅ……すぅ……」
眠ったまま微動だにしない。
きっと、疲れてるんだ。お仕事、大変そうだから。
女「綺麗だな……」
思わず呟いた。
車内を見渡しても、彼女より綺麗な人は見つからない。
それに、思いやりがあって、しっかりしていて、料理も上手。
さっきの友の話が頭に浮かぶ。
――私が、彼女を独占していてもいいのかな……。
百合さんなら、もっと良い人と、結婚だって出来るはず。
結婚して、子供を産んで、幸せな家庭を築けるに違いない。
私が、百合さんの幸せを奪っているんじゃないかな。
私のせいで……。
こんなに好きなのに。側に居たら――恋人を不幸にさせてしまうなんて。
女「……」
駅に電車が到着しても、なんだか彼女を起こす気になれなくて。
逃げるように、私は電車から降りた。
次の日。
百合「昨日、折角いつもより早く会社を出たのに、電車で寝過ごしちゃってね。目が覚めた時は流石に焦ったよ」
百合さんが笑いながら話す。
あれでいつもより早く帰れたなんて。
やっぱり、起こしてあげればよかったな……。
百合「女ちゃん、元気ないね。何かあった?」
女「ううん、何でもない……」
百合「あのさ!今度の土曜日、うちに泊まりに来ない?一緒にDVDでも観ようよ」
女「うん」
百合「ふふ、楽しみだね!」
初めてのお泊り。
本当は誘われて嬉しいはずなのに。
どうしても、私の心は曇りきったままだった。
土曜日の夕方に、彼女の部屋を訪ねる。
夕ごはんを食べさせてもらって、ちょっとまったりしてから、DVDを見始めた。
百合「これね、前から観たかったんだ。評判も良かったしね」
しばらく経って。
全然言葉を発しない、けれども映画に夢中になっているわけでもない私に違和感を覚えたのか、百合さんは画面を停止させて私に話しかけた。
百合「女ちゃん、やっぱりこの間から様子が変だよ……どうしたの?」
女「な、なんでもない……」
百合「女ちゃん、嘘ついてるの分かってるよ」
女「っ!?」
百合「ねぇ、それって私が絶対に解決できない悩みなの?」
女「そ、そうじゃないけど……」
むしろ百合さんだけが解決出来るんだけどね……。
百合「そっか。私が何とか出来るのに、女ちゃんが相談してくれないのは寂しいなー」
そういう言い回し、やめてよ……。
うぅ、大人ってなんだかずるい。
女「……これから言うこと、軽蔑しないって約束してくれる?」
百合「分かった」
女「……私ね。百合さんと一緒に居ちゃいけない気がする」
百合「えっ」
女「私と一緒だと、百合さんが不幸になってしまうから……」
百合「……どうしてそう思うの?」
彼女がそっと私に近づく。
女「だって。私よりも、ずっと良い人がいるし……。百合さんなら結婚して、子供だって作れるはずなのに。私がいたら、百合さんが幸せになれないんじゃないかって」
百合さんは私の話を真剣に聞いてくれて。
それから私に優しく語りかけてくれた。
百合「女ちゃんは……私のこと、好き?」
女「うん。大好き……」
百合「私も、女ちゃんのこと、大好き」
百合「大好きな人が私のことを好きでいてくれるのに。幸せじゃないわけがないよ」
女「っ……」
百合「私、今とっても幸せなの。そしてこれからも。女ちゃんが側に居てくれる限りずっと」
百合「言っていること、分かってくれる?」
そうだ。
私は、勝手に自分で決めつけて。
女「ごめんなさい……。馬鹿なこと、言っちゃったかな……」
百合「ううん。女ちゃんは、ちょっと不安になってしまっただけ。大丈夫……。私はこれからも女ちゃんのことが大好きだし、すごく幸せだよ。――だから、安心して?」
女「うん……」
百合「逆に。女ちゃんは、どうなのかなって」
女「え……」
私だって、百合さんと一緒に居たいよ。
百合「普通は、大人の女性が高校生の女の子と付き合うのはいけないことなんだよ」
女「で、でも!」
百合「相手の子に諦めてもらうのが『良い大人』で『常識』だから。さっきの女ちゃんが言ったみたいに、相手の『幸せ』を考えてあげるってことなんだよ」
女「そんな……」
百合「だけど、私にはそんなこと出来ないよ……。好きで好きで我慢出来ない、悪い大人だから……。幸せって、何なのかな」
女「百合さん……」
百合「あのね。お仕事もっと頑張ろうと思うんだ。管理栄養士の資格も取って。……いつか女ちゃんを養っていけるように」
女「え?」
百合「まだ少ないけど、貯金だってちゃんとしてるんだよ?だから、ここよりもっと良い所に、二人で暮らせたらなぁって」
彼女がそんな風に。
そこまで私のことを考えてくれているなんて思わなかった。
女「私、百合さんが世間で言う悪い大人だとしても構わない。ううん、こんなに私のことを想ってくれているのに、悪いなんて言わせない。……だから、ずっとずっと――側に居たいな」
百合「女ちゃん………」
女「私も、百合さんと一緒に居るのが一番の幸せだよ」
百合「嬉しい……」
百合さんは涙ぐんだ目で私を見つめてきて。
私も嬉しくて涙がこぼれ落ちた。
女「百合さん、大好きだよ」
憂鬱な気分が段々と晴れてきて。
私、今までよりも、もっと百合さんのことを好きになって、いいんだよね?
百合「女ちゃん、目を閉じて」
女「んっ……」
目を閉じると、唇に百合さんの唇が触れた。
これまで何度もキスをしてきたけれど。
今日は特にドキドキする……。
きっと、今までで一番百合さんのことが好きだと感じているから。
もっと彼女に触れたい。
もっと彼女に触れられたい。
百合「……DVD、観る?」
女「うん……///」
映画の続きが再生されたけど。
もう、百合さんが隣にいるっていうだけで落ち着かない。
部屋で2人きり――邪魔をする人なんて誰もいなかった。
百合「女ちゃんの手、冷たいね」
女「あ」
彼女の手が私の手にそっと重なる。
百合「温めてあげる」
さっきからドキドキしてたまらないのに。
これ以上触れられたら……。
百合「どう、かな?」
女「……気持ちいいね」
って。
私こんな返事するなんてっ。
百合「えへへ」
女「わっ///」
後ろから抱きかかえられて、全身が柔らかい感触で包まれる。
百合「可愛い……」
女「っ……///」
唇が耳に触れるぐらいの近さで囁かれる。
吐息がくすぐったくて、思わず身をよじった。
もうテレビの電源なんて、とっくに切られていた。
百合「女ちゃん……顔、真っ赤だよ……」
女「あ///」
今までに聞いたことのないような熱っぽい声。
私がどうして顔が赤いかなんて……百合さんは知っているんでしょ?
百合「んっ」
女「ひゃっ」
耳をつーっと舌が這っていく。
本当に……我慢できなくなるから……。
女「だ、だめ……」
百合「……嫌だった?」
女「……///」
嫌じゃない。
だって、さっきからずっと触れてもらいたいって考えていたんだもん。
それを必死で抑えているのに……。
大人って、やっぱりずるい。
女「あっ……///」
百合「女ちゃんの胸……柔らかいね……」
女「はぁ、はぁ……」
服越しにゆっくり胸を揉まれる。
もう隠せないほど吐息が乱れてしまって。
――うん。
もう私の負け。
降参する。
だから……。
優しくしてほしい、な。
女「百合さん……」
百合「ふふ、どうしたの?」
彼女が嬉しそうに聞き返してくる。
「どうしたの?」なんて白々しいよ。
全部、分かっているくせに……。
女「…………」
女「抱いて……」
消え入りそうな声でそう言うと、百合さんは私を一層強く抱きしめて、
百合「いっぱい……愛してあげる……」
女「あ……///」
百合「……シャワー、浴びよっか」
交互にシャワーを浴びて、ベッドの上に座る。
「まだ全部見せるのは恥ずかしいから」って、下着だけはつけさせてもらった。
百合「んっ……」
女「んっ……」
正面で抱き合って口づけを交わす。
今までのような短く触れ合うだけのものじゃなくて、お互いの唇の柔らかさを確かめ合うような長いキス。
キスが終わると彼女は私をギュッと抱き寄せて、耳元で、
百合「大好きだよ……」
って囁いてくれる。
愛されているのが嬉しくて。もっと愛を確かめたくて。
再びキスに没頭していく……。
女「んっ……ちゅっ……ふっ……」
我を忘れてしまいそうなほど気持ちのいいキス。
このまま溶けて百合さんと一つになれればいいのに……。
女「んっ!?」
彼女の舌が口の中に入ってくる。
こんなキス、経験があるわけじゃないけれど。私なりに一生懸命舌を絡ませる。
女「んむっ……んんっ」
百合「んっ、ふっ……」
百合さんの両手が私の身体をゆっくり撫で回す。
女(わ、わ)
ドラマや映画のラブシーンみたいに、手が私の身体を何度も往復していく。
身体がゾクゾクしてたまらない。
やっぱり彼女は大人で。これからするのは大人の行為なんだって改めて感じた。
女「んっ……んん……」
百合「んぅ……んっ……」
女「はぁ……はぁ……」
きっと百合さんなら。
こうやって身体を撫で回されて、私がもっといやらしい気持ちになっていくのなんて、手に取るように分かるんだろうな。
百合「愛してる……」
女「はぁ、はぁ」
ますます気持ちは昂ぶっていって。
やっぱり。
どう頑張っても、百合さんには勝てないよ……。
そのままキスと愛撫を繰り返された私は、すっかり脱力して百合さんにもたれかかってしまった。
百合「ふふ。気持ちよくて、力抜けちゃった?」
女「///」
百合「可愛いなぁ」
そう言って、私の身体を支えながら、なおもキスを続けていって。
両手が背中に伸び、ブラのホックを外す。
そして肩紐をずらして私の胸を直接揉みしだいた。
女「んっ……」
手に吸い付くかのように、動きに合わせて膨らみがゆっくりと形を変えていく。
女「ぁ……ふっ……」
胸なんて、他の誰にも触らせたことはないけれど。
百合さんになら、触られても構わない――ううん、もっと触って欲しい……。
女「はぁっ、はぁっ……ぁ……」
胸が百合さんの思うように。
私が彼女の為すがままになってるって考えるだけで、すごく興奮する。
女「あっ……」
揉むような手の動きが、胸の先端をさする動きに変わって。思わず声が漏れてしまった。
百合「可愛いよ」
耳元で囁かれる。
女「っ///」
百合「ふふ。女ちゃんは私だけのものだよ」
そう言って唇を合わせる。
女「んっ……んぅ」
胸を撫でられながらキスされて……。
頭がボーっとして、気持ちよくて、幸せな気持ち。
だって。
大好きな人に、こんなことされてるんだよ?
百合「女ちゃん……私もう我慢出来ないよ」
身体に重みが加わって、そっとベッドに押し倒された。
百合「んっ……んっ……」
女「んんっ」
覆いかぶさられて、何度もキスをされる。
彼女の身体の柔らかい感触が心地いい。
百合「好き……」
女「はぁ、はぁ、はぁ」
百合さんの唇が、私の唇から段々と下へ降りてきて、首筋へと向かう。
百合「ちゅっ……ん、ちゅっ」
女「はぁ、はぁ」
胸や脇腹や太ももをゆっくり愛撫されながら、首筋にキスをされる。
こんな風に気持ちよくされたら……。
私、もう百合さんのことしか考えられない……。
女「んっ」
彼女の唇が胸に来て、先端を吸われて舌で舐められる。
止まらない小さな喘ぎ声。
女「ぁ……んっ……」
片方の胸は舐められて、甘噛みされて。
もう片方はさっきみたいに手のひらでゆっくり愛撫されて。
甘い刺激と、ゾクゾクするような感覚に溺れてしまいそう。
女「はぁはぁ、んぅ、あっ……」
百合「ふふ」
女(あ……)
片方の空いている手で、私の手を握ってくれて。
――恋人つなぎのまま、胸を愛撫される。
女「あっ……ん……あっ……」
心も身体も繋がってるんだって思うと、すごくあったかい気持ち。
あったかい気持ちのまま、深い、深い快楽の渦に飲み込まれていく。
女「あっ、あっ……ふっ……んっ」
いつまでも、いつまでも、優しく愛撫してくれる。
女「はぁ、はぁ、んっ……あっ」
いっぱい、いっぱい、愛してくれる。
そんな百合さんが――本当に大好き……。
百合「ごめん。下着、汚しちゃう」
もう下着なんてとっくにドロドロになってしまっている。
百合さんは私の脚の間にゆっくりと膝を侵入させてきて。そのままぐりぐりと秘所に食い込ませてきた。
女「やぁっ、あぁっ……」
今までなかった箇所への快感で、ビクッと震える。
そのままギュッと抱き締められて、二人の身体が密着した。
百合「好き……」
女「んんっ……ぁ」
きっと……。
快感で腰が浮いているのも、はぁはぁと息をする度に胸が上下するのも、喘ぎ声も、全部全部百合さんに感じられてしまっている。
百合「大好きだよ」
耳元で何度も好きって囁かれて。
えっちなことをされてるっていう興奮と、愛されているっていう幸せが溢れてきて……どうしようもなく切なかった。
百合「もっと、可愛い所見せて」
そう言って、百合さんの舌が耳に入ってくる。
女「あぁんっ、やぁっ」
耳を舐められてビクってしてしまうのも、身体をよじらせてしまうのも。百合さんだけが知っている私の姿。
先生も、友達も、お母さんだって知らない、二人だけの秘密の姿。
百合「れろ……ちゅっ……ふふ、大好き」
女「はぁはぁ……あっ」
百合「だいすき」
女「ぁっ……んっ」
抱かれながら、何度も何度も愛の言葉を囁かれる。
私も、大好きだよ。
自然と涙が流れて、喘ぎにしゃくりあげる声が混ざってしまう。
女「んっ……グスッ……ぁ……ヒック」
百合「ご、ごめん!痛かった?」
女「ううん。ちがう……」
女「こんなにも、誰かに……一番大切な人に愛してもらえるんだって」
女「考えたら……な、泣けてきちゃって」
女「私、こんなに幸せでいいのかなって」
そう言うと、百合さんは私の顔に伝う涙を拭いて、頭を優しく撫でてくれる。
女「ん……///」
百合「そう感じてもらえて、私もすごく嬉しいよ」
百合「私だって、女ちゃんと同じ。こんなに私のことを愛してくれて……私の気持ちを一生懸命受け取ってもらえるのはとっても幸せ」
百合「女ちゃんと出会えて、ほんとうに良かった」
女「うん……グス……最高に、幸せ……」
百合「ふふ。とっても幸せ」
彼女が私の身体に手を這わせる。
百合「汗、かいちゃったね。私達こんなに必死で求め合ってるんだ……」
女「うん……///」
百合さんの手が上半身からゆっくりと降りてきて下着にかかる。
私に確認をとるためなのか、一瞬動きが止まったけれど。
「いいよ」って返事をする代わりに私はそっと腰を浮かせた。
百合「ちゅっ……んっ」
女「あっ……」
唇が耳から首筋、胸を通って下へと降りてくる。
百合「脚……ひらいて……」
脚を開くと、百合さんの顔が下半身に辿り着いて……。
女「あ、あ……///」
彼女が何をしようとしているのか、私にだって見当はつく。
「汚いから、だめ……」って言っても、百合さんは聞いてくれない。
百合「ちゅっ……んむっ」
女「んっ!」
びっくりするほど濡れてしまっている私の秘所。
そこに柔らかい舌が這っていって身体がゾクリと震える。
女「あっ、あっ!」
舌が動くのに合わせて、百合さんの手が太ももを愛撫していく。
もう恥ずかしいのなんて忘れて、ただ喘ぐしか出来ない。
女「ひゃっ、あっ、んんっ」
彼女の舌が時折一番敏感な場所に触れては、再びその周りを舐められる。
声や身体の震えが大きくなっていって。自身が段々と絶頂へ昇りつめていくのを嫌でも感じさせられた。
女「あぁっ!んっ、あんっ!」
突起を舌で集中的に責められて、ビクンと身体が跳ねる。
大好きな人の、とっても丁寧な前戯があったから。あまりにも大きな絶頂の波が襲ってきて。
女「あっ!やっ、んっ、あぁっ!」
きっと自分一人なら途中で止めてしまいそうな、耐えられないくらいの快感だけど。
百合さんが与えてくれるなら、私……。
女「あっ、あっ、あっ、んっ、あぁっ!」
女「っ~~~~~~~~~~~~~」
ガクガクと震えた後、ビクンと身体が跳ねて――頭の中が真っ白になった。
女「あっ、あっ」
女「やっ、も、だめっ、やぁっ!」
達してしまって、敏感になりすぎた秘所への愛撫を続ける百合さんの頭を、思わず手で押しのけてしまった。
女「はぁっ、はぁっ、あっ、はぁっ、はぁっ」
女「ごめっ、はぁ、なさっ、んっ、はぁ、はぁ……」
女「はぁ……はぁ……はぁ……」
百合「そんな……私の方こそ、気付かなくてごめん」
百合さんは、私の行動を怒りもしないで、逆に謝ってきた。
百合「そっか……女ちゃん、いっちゃったんだね」
女「うん///」
百合「ごめんね。それなのに触られて辛かったでしょ」
女「ううん……、大丈夫、だよ」
大丈夫。
ちょっと、ビックリしちゃっただけ……。
その後。
今まで抑えられていた色んな感情が急に溢れ出てきて。
こぼれる涙と絶頂の余韻が落ち着くまで、百合さんは手を握ってずっと側に居てくれた。
女「……百合さん」
百合「なぁに?」
女「すごく、気持ちよかった///」
女「最高の……初体験だったよ」
女「……ありがとう」
百合「女ちゃん……」
何だか照れくさかったけれど。でも気持ちはしっかり伝えなきゃいけないから。
百合「ね、ちょっと待ってて」
そう言って百合さんはベッドから離れて部屋の外に出る。
しばらく待っていると、彼女はタオルと洗面器を持って入ってきた。
百合「疲れちゃったでしょ。でも今からシャワー浴びるのも面倒だし、すぐに眠れるように、これで身体を拭いてあげるね」
女「百合さん……」
百合さんがタオルで私の身体を綺麗に拭いてくれる。冷たくないように、温かいタオルで。
こんな気遣いがさらりと出来る彼女のことが、ますます好きだと感じる。
私にはもったいないくらいの良い人が、自分の恋人だなんて。
――私って、色々なものを貰ってばかりで、百合さんに何もしてあげられないんじゃないかな……。
女「私も、百合さんの身体を拭くよ」
百合「ん、じゃあお願いできるかな」
私の愛液が百合さんに付いてしまっているから、綺麗にしてあげなくちゃいけないのもあるけれど。
行為の最中、百合さんの秘所がぐっしょり濡れていたのを私は知っている。
女「ねぇ。百合さんは、気持ちよくなりたくないの?」
百合「うーん。当然、女ちゃんとしてる時はすごく興奮してるけどね」
女「///」
百合「私にとってセックスは相手をよろこばせてあげたいのが第一にあるから、自分が気持ちよくなることにそこまで固執してないなあ」
女「……私ばかり気持ちよくなって……ごめんなさい」
百合「そんなっ。全然構わないよ」
百合「私は、女ちゃんに甘えてもらうのが大好きだから」
百合「……もっと甘えてくれても、いいんだよ」
女「っ」
百合さんの言葉に思わずドキっとする。
百合「さ、このまま一緒に寝よ?」
グシャグシャになってしまったシーツを取り替えて、2人で裸のまま布団に潜り込んだ。
百合「こんなふうに二人で寝ると……事後って感じがするね」
女「も、もう///」
百合「――女ちゃん、大好きだよ……」
女「私も、百合さんが大好き……」
ゆっくりと口づけを交わして。
静かに「おやすみ」と囁き合う。
このまま百合さんにいつまでも甘えていたいけれど。
百合さんは「もっと甘えて」って言ってくれているけれど。
やっぱり、ずっとそのままではいけない。
楽しいことだけじゃない。苦しいことだって、私も受け止めるから。
だから私、今よりもしっかりした人になれるように、精一杯頑張るよ。
あなたの隣に私がいても、決して恥ずかしくなんてないくらいに……。
――でも。
女「百合さん……」
百合「なに?」
女「ギューってして?」
百合「ふふ。いいよ」
女「ん///」
今日のところは。
もう少しだけ甘えてしまっても、いいよね?
終わり
ここまで読んで下さってありがとうございました。
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