咲「ノドカの牌」(342)

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昨日も立てたんですが、書きながら投稿してたら途中で落ちてしまって……見かけた方は申し訳なかったです。

できるだけ、さくさく進められたらな、と思います。では。

ダイジェスト

 ――優希の家・蔵にて。和、血塗られた麻雀卓を発見。

和「そ――」

 振り返ると、そこにはどこかの高校の制服を着た、儚げな少女が。

咲(これからよろしくね、原村さんっ!)

和「そんなオカルトありえません!!」

 ――江戸時代に最強と謳われた雀士・宮永咲に取り憑かれた和、運命の出会い。

和「私は原村和。小学四年です。あなたは?」

照「宮永照。年はあなたの二つ上かな。よろしくね」

 ――交錯する最強と最強。

健夜「大丈夫、別に、取って食べようってわけじゃないから。気楽に、いつも通りに打って」

和「は……はあ……」

 ――徐々に麻雀にのめりこんでいく和。

和(私……今の私じゃ……この人たちに勝てません……!!)

咲(そうだね……悔しいよね……自分の力で勝てないって)

 ――夏・ネット麻雀界、震撼。

憧「もうそれがヤバいのよ!! 『saki』ってやつ、普通にプロにも勝っちゃうの!! ぶっちゃけネットの中ではもう最強みたいなもんよ!!」

 ――和、院生に。

霞「あなたの口から言ってあげなさい」

和「合格しました」

シズ「やっほうううううう!!!」

憧「おめでとう、和!!」

玄「よかったねっ!!」

 ――若獅子戦、鏡に映る『魔』。

咲(あ……)

照「お姉ちゃん……!!!?」ガバッ

 ――翌年・プロ試験予選にて、和、バイクを乗り回す女に遭遇。

久「私は外来で受けに来た竹井久よ、よろしくぅ!」

 ――予選から本戦までの二週間、合宿。エトペンを抱いて打ち始める和。

大沼「気分がいいもんだよ。人が成長する様を間近で見るってのは」

 ――プロ試験本戦、繰り広げられる熱戦。

淡「次は……次は絶対負けない……!! 負けない……負けないもん……!!」

 ――プロ試験折り返し。福路の口から語られる、九年前のインターハイ。

美穂子「宮永咲。宮永照初段の……実の姉よ」

年齢(和小六年現在)
11:淡
12:和、優希、シズ、友香、莉子、はるる
13:憩
14:照、憧、南浦
15:智葉、すばら、まこ、龍門渕四天王、怜、竜華、セーラ
16:玄、いちご、胡桃

26:衣、小蒔、誠子、尭深、灼など
27:菫、宥、福路、豊音、シロ、哩、久など

31:戒能良子、久保
32:藤田

34:三尋木 咏
35:晴絵、理沙
37:健夜
40:ダヴァン

49:雅枝

71:トシ

??:霞、赤阪

<段位>
初段:照、憩、智葉、怜、竜華、セーラ
二段:小蒔
三段:誠子、尭深、灼、美幸、姫子
四段:塞、巴
五段:衣、宥、エイスリン
六段:
七段:福路・菫・シロ・初美・豊音・哩・洋榎
八段:
九段:晴絵、ダヴァン、霞、雅枝、赤阪など
タイトルホルダー:健夜(九冠)、トシ(五花)

和「そんなことがあったんですか……」

美穂子「幸いというかなんというか、宮永さんが亡くなる直前、最期の和了り牌をツモるとき、なぜか周囲一帯の電子機器が壊れてね、生中継がストップしたの」

美穂子「だから、宮永さんの突然死が公になることはなかった。
 事態を重く見た当時の日本麻雀院会長……石戸霞九段は、それ以上の放送を中止、インターハイの情報は最小限しかメディアに流さず、マスコミにも圧力をかけ、あの大会そのものをなかったことにした」

美穂子「同時に、石戸九段はその場にいた関係者全員に口止めをしたわ。そうして……宮永さんの優勝は取り消された。
 記録上は棄権扱いになって、宮永さんが全国大会に出場したことまでうやむやにされた」

美穂子「私たちは……それを黙認したのよ。みんな、共犯者。私たちは……宮永咲という偉大な選手を殺したも同然なの」

美穂子「しかも……宮永さんと直接対決した有力選手たちは、次々にプロに引き抜かれた。
 私もそう。石戸九段から直々に、プロに来ないかって誘われたの。自分の目の届くところに、あのときの関係者を置いておきたかったんでしょうね」

美穂子「せめてもの罪滅ぼしにね、私は、世界で最も強い雀士はと聞かれたとき、宮永咲と答えるようにしているわ。江戸時代の、だけどね。
 でも、そう答えるたび、私は彼女のことを思い出す。彼女を忘れないことが……私たちにできる唯一のことなのよ」

美穂子「私が言えるのはここまで。もし、あの決勝卓のことを詳しく知りたいなら、同卓した人に直接聞いてみるのがいいかもしれないわね。
 三人のうち二人は、あなたも知ってる人だから。天江五段と、神代二段よ」

和「もう一人は……?」

美穂子「もう一人は……まだプロにはなっていない。あの大会の直後に姿を消したの。
 消息不明……家庭の事情って噂は聞いたけど、たぶん、宮永さんのことがショックだったんだと思うわ。
 あの人は宮永さんをインターハイの舞台に連れてきた張本人で、同じ高校の、唯一の先輩だった」

和(それって……)

美穂子「たった二人しかいない無名の麻雀部で、その二人が二人ともインターハイの頂点に上り詰めた。
 宮永さん以外で、二年連続個人戦県一位だった私に、唯一県予選で競り勝った人よ。悪待ちが得意な……素敵な人だったわ」

和「先生は……その人のことが好きだったんですか……?」

美穂子「好き……憧れのようなものかも。それくらい、私にはないものばかりもっていて……カッコよかった。今でも、目を閉じればあの人の姿が瞼の裏に映るわ……」

和「え……もしかして……先生がいつも片目を閉じてるのって……」

美穂子「ふふ、目を閉じればっていうのは、あくまで比喩よ。まあ、けれど……確かにあの人がいなくなってから……この右目を開けたことはないわね」

美穂子「あの人がいなくなったと知って……先生、世界の半分くらいが失われたような気持ちになったわ。それこそ、片目で見るだけで十分な、寂しい世界……」

和「先生は……今でもその人のことを……」

美穂子「待っているわ。あれだけの実力を持っていた人だもの……麻雀を続けていれば、いつかどこかで会えるんじゃないか……って思ってる。
 それが、私がプロになった理由のほとんどよ。でなかったら、いくら石戸九段に言われようと、プロ試験なんて受けようともしなかったでしょうね」

和「その……たぶん、ですけど! もうすぐ会えると思いますよ!! その……先生の大好きな人に……!!」

美穂子「ありがとう、原村さん。嘘でも嬉しいわ」

和(う、嘘じゃないんですけど……!)

美穂子「でもね、あの人は私と同い年だから、あと数年でプロ試験を受ける年齢を超えてしまうの。
 残念だけれど……縁がなかったのかもなって……最近は少し諦め気味なのよ」

和「あ、諦めちゃダメですって! きっと戻ってきますよ!!」

美穂子「でも、同じ決勝卓にいた天江五段や神代二段は、再び牌を握れるようになるまで随分時間が掛かったのよ?
 彼女たちのような強い力と心を持った人でも、それくらい宮永さんの死はショックだったの。
 まして、唯一の先輩で、宮永さんの一番身近にいたあの人のショックは――あの人……ああ見えて繊細だったから――計り知れないわ。
 よほどのきっかけがなければ、また麻雀を打とうなんて思わないでしょうね。でも、それは責められないわ。仕方のないこと……」

和「きっと……大丈夫ですよ。高校生の頃は繊細だったのかもしれませんが、案外、年を取ったら図太くなってるかもしれません」

美穂子「まるで会ったことがあるみたいね」

和(現在進行形で戦ってますよ……状況証拠的には間違いなく久さんのことなんですが……。
 けど、苗字を言ったとき先生は知らないって……軽はずみなことを言ったら先生が傷つくことになるかもしれない……できれば、もう少し確信を持ちたい……)

美穂子「じゃあ、私は教室に戻るわね。原村さんはどうする? 打っていく?」

和「いえ、今日は優希の後輩に会いにきただけですから。明日からはまた試験ですし……これで失礼させていただきます」

美穂子「そう。じゃあ、試験、頑張ってね。原村さんがプロに上がってくるのを楽しみにしているわ」

和「ありがとうございます」ペコリ

 ――帰り

和「咲さん……咲さん……!!」

咲(なにかな……和ちゃん……)

和「どうして……黙ってたんですか……!! なんで言ってくれなかったんですか!?」

咲(だって……和ちゃんに会ったばかりの頃は忘れてて……最近になってちゃんと思い出したんだけど……。
 今は……和ちゃんが大事な時期……私のことで余計な心配はかけられない……)

和「何言ってるんですか……! 私にとって一番大事なのは……咲さんです。咲さんがいなかったら……私は麻雀を打ってなかったんです。
 咲さん以上に大事なことなんてありません!!」

咲(ありがとう……和ちゃん。じゃあ……一つだけ私の我儘を聞いてもらっていいかな……)

和「はい……なんでも言ってください」

咲(必ず……プロになって。それで、もっともっと強くなって。そして……一度だけでいい……私に……あの人と戦わせて)

和「小鍛治……九冠ですか?」

咲(うん。和ちゃんがあの人のいる高みに届くくらい強くなれば……きっと実現すると思うんだ)

和「……わかりました。絶対に、咲さんの願いは叶えます」

咲(ありがとう……)

和「咲さん……? どうかしましたか?」

咲(ううん。じゃあ、帰って一局打とうか。それで、明日からの試験も頑張ろう)

和「はい……!!」

 ――松実館

宥「あれ……玄ちゃん、まだ起きてたの……?」

玄「うん。明日……大事な半荘があるから……眠れなくて……」

宥「じゃあ、昔みたいに一緒に寝よっか……?」

玄「夏におねえちゃんと一緒に寝るのは……せめて湯たんぽなしならいいけど……」

宥「電気毛布は……?」

玄「電気毛布もちょっと……」

宥「じゃ、じゃあ……湯たんぽも電気毛布もいらないから……玄ちゃんをぎゅってしてていい……?」

玄「うん……それなら……いいよ……」

宥「わぁい……」

 ――

宥「ねえ、玄ちゃん」

玄「なに、おねえちゃん?」

宥「玄ちゃんなら、何があっても大丈夫。おねえちゃん、信じてるから」ギュウウ

玄「おねえちゃん…………ありがと。でも、暑いから少し離れて……」

宥「…………やだ……」ギュウウウウ

 ――プロ試験二十八日目・夜(112半荘目)

憧「組み合わせ表を見たときから、この半荘のことは覚悟してた。けど……手加減はなしだからね! みんな……全力で打つこと!!」

 新子憧:75勝36敗(四位)

シズ「言われなくてもっ!! プロ試験が始まったときから……一番楽しみにしてた対局がやっと来たんだ……!! 本気でやらないわけがないっ!!」

 高鴨穏乃:31勝80敗(十一位)

玄「穏乃ちゃんやる気満々だね……!! うん……私もいつも以上に張り切るよ!!」

 松実玄:90勝21敗(二位)

和「私はいつも通りに打つだけですけど……いつも通りに打って……勝たせてもらいます!!」

 原村和:84勝27敗(三位)

憧・シズ・玄・和「よろしくお願いしますっ!!」

 ――

憧(和……後半になるにつれて打牌が今まで以上に安定してきた。たぶん、最初の頃はまだペンギンに慣れてなかったんだ。顔が赤くなるのだって、対局の中盤からだったのに。
 今では……序盤からスーパーデジタルモード(私命名)に入れるようになった。和の成績……二位の玄との差を縮めて……同時に四位の私との差を広げつつある。
 ここで勝っておかないと……もう追いつけなくなる!!)タンッ

和(久さんのおかげで……リアルでもネット麻雀をしているときに近い感覚で打てるようになりました。けど……今日の相手は穏乃たち……家族みたいなものです。
 エトペンなしでも最初からリラックスして打てる気がします……絶対に……勝ちますよ……!!)ヒュン

シズ(憧さんや玄さんが強いのはもちろんだけど……和は本当に……本戦前に化けた。けど……私だってあの二週間……何もしていなかったわけじゃない。
 もうプロ合格はほぼ無理だけど……それはそれ……こうして四人みんなで……本気で遊べる……こんな一局はもうこれきりしかない……!!
 一応麻雀の先輩は私なんだし……今日は和にいいとこ見せるんだ……!!)タンッ

玄(みんな……すごい気迫……! 去年までは、憧ちゃんや穏乃ちゃんと三人で打っても……ここまで熱くなることはなかった。全部……和ちゃんのおかげかな。
 楽しい……とっても楽しいよ。和ちゃんが私たちの仲間になってくれて……本当によかった……!!)タンッ

シズ「そっ……それロンです!! 18000ッ!!」

玄「わ、わわわっ……!?」

憧(シズのダマッパネ……!!? まさか玄にブチ当てるとはね……やるじゃない!!)

和(驚きました……こんな序盤に……!!)

シズ「い……一本場ですっ!!」コロコロ

玄(あわわわわわ……!!!)

 ――オーラス・親:玄

憧(オーラスで三位のシズとの差は僅か……それに玄さんだってラスだけど、親だし大きいの喰らったら簡単にひっくり返る……速攻で流して終わらせる……!!)

和(トップですが……安心はできません。序盤の穏乃の一撃のように……玄さんや穏乃から一発逆転される可能性は十分にあります。
 ここは憧さんのアシストに回りたいところですが……残念ながら私は憧さんの下家……ここは自分で和了るしかありませんね)

穏乃(まだ勝負は終わってない……! 今の私に失うものはないんだ……このアドバンテージを生かして……喰らいつく……!!)

玄(お、落ち着いて、私。ここまで和了りはなかったけど……あの一撃以外は……振り込みもない。守って守ってここまで辿り着いたんだ。まだ、チャンスはある。
 よしっ!! この親で……稼ぐんだ……っ!!)スッ

  憧(ちょ……え……玄…………?)


                  和(玄さん…………?)






        シズ(え……ええ……?)











玄(…………………………あ……)サー

玄(わ……私ってば……なに親なのにツモろうとしてるんだろ……あはは……ちょっと気合入れすぎちゃったかな……?
 ないない……多牌なんて初心者じゃないんだから……ははは……)ソットモドシ

和(え……玄さん……今……牌を……ツモって……戻しました……?)

穏乃(なんの牌か見てなければ……ちょっと触れるだけならセーフ……ツモとは見なされない……。
 だけど……今の玄さんは……明らかに指が盲牌できる位置まで牌に触れてしまっていた……ように見える……)

憧(盲牌した牌を戻したんだとしたら……悪質だったり対局続行不可能な場合は満貫払い……そうじゃないなら和了り放棄だけど……。
 満貫払いなら玄はトビだし……和了り放棄じゃ形式テンパイすら認められない……どちらにせよ玄の負けは確定……)

玄(あ……憧ちゃん……なんでツモらないの……? わ……私……牌なんて見てないよ……? 盲牌だってしてないよ……? 本当だよ……?
 憧ちゃん…………? みんな…………? どうして私をそんな目で見るの………………?)ガタガタガタ

穏乃(このまま……私たちが何も見なかったことにして……対局を続けることはできる……けど……本当にそれでいいのかな……?)

和(玄さんには悪いですけれど……このまま穏乃と憧さんが黙って対局を続けようとしても……チョンボはチョンボである以上……私は玄さんの誤ツモを指摘します。
 それがルールだからです。しかし……)

憧(できることなら……自己申告してほしいのよね……!
 ねえ……玄……! お願いだから……チョンボしちゃったならチョンボしましたって言って……! どうして黙ってるのよ……玄……!!?)

玄(ど……どうしよう……私……

             ――牌は見てないんだから不正じゃない。

  ――触れてしまっただけ……チョンボじゃない。

           ――満貫払いはトビ確定。     ――和了り放棄も負け確定。

     ――私はズルなんてしてない。

                   ――どうしてこんなことに……?

 ――負けられないのに!!

            ――和ちゃんが追い上げてきてる。

   ――憧ちゃんにも追いつかれるかもしれない……。

       ――負けられない!!         ――今年こそプロに。

  ――万年院生一位。       ――また来年も院生。

      ――後輩に先を越される。

                         ――白星がほしい。

 ――みんななら黙って対局を続けてくれるはず……。

           ――どんなことをしてでも白星がほしい……!!)

玄「あ――あ……


           『玄、今年は安定してるね。羨ましいよー』

 『この調子で頑張ってくださいっ!!』



       『玄ちゃんなら、何があっても大丈夫。おねえちゃん、信じてるから』







  『こっちに――プロの世界に来なよ。玄にはその力があるんだから』











                     …………和了り放棄します……」

 ――終局

玄「……ありがとうございました」ダッ

和「く、玄さん……!!」

シズ「タ、タンマ……和! 追いかけてどうなるんだって……玄さんだって、私たちだってまだ混乱してる……そんな状態で話しても状況が悪化するだけだよ」

和「穏乃……」

シズ「玄さんも一人になりたいはずだよ……お互い辛いけど……今はそっとしておくのが一番だと思う」

和「……そうですね」

憧「玄……明日から立て直せればいいんだけど……ミスは誰にでもあるし、それに今回の場合、玄が親なのにツモろうとしたのは、ある種の運命だったっていうか……」

和「運命……? なんですかそのオカルト染みた言い回しは……」

憧「私にも……どういうことかはわからないよ。けど、玄がツモろうとした牌――私が最初にツモった牌なんだけど……見て、驚いた……」

シズ「ま、まさか……その牌……!!」

憧「うん。ドラだったのよ……」

和(玄さん……)

 ――プロ試験三十日目(120半荘)終了

和「あっ……玄さん……!」

玄「」ビクッ

和「玄さん……どうしちゃったんですか……! この間のことを気にしてるんですか? 何か言ってくれないと……わからないですよ……!!」

玄「ご、ごめん、和ちゃん……心配してくれてありがとう。けど……私、今日も先に帰るね……!! 憧ちゃんや穏乃ちゃんたちにもごめんって言っておいて……!」ダッ

和「玄さん……!!」

シズ「あっ……遅かった……!」

憧「和、玄はなんだって……?」

和「わかりません……ごめん、って。そればかりで」

憧「もう……わけわかんない! チョンボなんて誰にだってあることじゃない……!! しっかりしてよ……玄……!!」

シズ「玄さん……今日も四戦全敗でしたね。それに、憧さんはもう気付いてますよね。玄さん……あの日からドラが一枚も来なくなってる……」

和「そんなオカルト……!! たまたまですよっ!! ドラが玄さんに集まらなかったのは……たまたまですっ!!
 あれ!? 逆ですか!!? もう……私は何を言って……!!」

憧(玄……!! なにやってるのよ!!! 今年こそプロになるんじゃなかったの……!!?
 せっかくここまで勝ちを重ねてきたのに……この日のためにずっと頑張ってきたのに……たった一回のミスで全部台無しにするの……!? 今までの練習を全部裏切るつもりなの……!!
 玄……何を考えてんのか知らないけど……いつまでもそのまま逃げ続けるつもりなら……私……先行っちゃうからね……!!?)

 ――松実館

宥「く……玄ちゃん……どうしたの? 赤土さんも灼ちゃんも心配してるよ……? 憧ちゃんたちは聞いても教えてくれないし……この間なにがあったの……?」

玄「い……言いたくないの……ごめん……おねえちゃん!」

宥「玄ちゃん…………」

 ――

玄(おねえちゃん……みんな……心配かけてごめんなさい。けど……私……私なんて……もう心配してもらう価値もないんだ……)

玄(私は……私は最低だ……っ!!)

玄(あのとき……チョンボをしたって……それはわかってたはずなのに……すぐに自己申告しなきゃいけなかったのに……!!)

玄(なのに……私は誤魔化そうとした……みんななら見て見ぬフリをしてくれるって……そんなズルいことを考えてた……!!)

玄(私は……自分の勝ち星のために……友達を利用しようとしてたんだ……!!)

玄(私……最低だよ……こんな私に麻雀を打つ資格なんてない……麻雀は……これ限りでやめよう)

玄(このプロ試験が終わったら……赤土さんに頼んで破門にしてもらうんだ……もう……勝ち星も……ドラも要らない……何も……要らない……要らないよ……)

 ――プロ試験三十五日目・夕方休憩

憧「捕まえたっ!!」ガシッ

玄「あ……憧ちゃん……」

憧「さあ……今日こそ話してもらうわよ、玄。どうして私たちを避けてるのか! どうしてわざと負け続けてるのか……!!? 全部ねっ!!」

玄「は……話すことなんて……ないよ……」

憧「どうして!? 私たち友達でしょ!!?」

玄「…………そんな資格、私にはないよ。私は……憧ちゃんたちを裏切ろうとした……そんな最低なことをしといて……友達なんて……とても……」

憧「いやいや意味わかんないってば!!」

玄「とにかく……私はもう……麻雀やめるから……私の勝ち星はみんなにあげるから……それで憧ちゃんや和ちゃんはプロになっ――」

 パァァァァァァァン

玄「あ…………憧……ちゃん……?」ヒリヒリ

憧「…………勝ち星をあげるとか、そんなふざけたことを軽々しく言わないで。今の、シズに聞かれたらどうするつもりだったの?」

玄「あ……」

憧「シズは……どんな状況でも私たちに勝とうとしてた。たとえ成績が悪くて……プロになるのが絶望的でも……勝ち星を譲るとか、そんな寝ぼけたことは一度も言わなかったよ」

玄「ごめんなさい……」

憧「玄が何を考えてたって、何をしたって、それで麻雀をやめることになっちゃったって……それはまあいいよ。でも、今のは……友達を侮辱されたみたいで……いくら玄でも許せない……」

憧「そんでもってさ、いくら私だって……いくら許せないからって……友達でもなかったら、いきなり叩いたりなんかしないよ……?」

憧「玄……私は今も、これからもこれまでも、玄とは友達のつもりだからね? 和やシズもそうだよ。みんな、ずっと玄と友達でいたいって思ってるんだから」

憧「玄は……どうなの? 麻雀をやめたいなら止めはしない。それは玄の人生だから」

憧「でも、玄は……麻雀と一緒に私たちの友達までやめちゃうの? ねえ、玄……それっていくらなんでも寂し過ぎるでしょ……?」

憧「じゃあ……先に対局室に行ってるね。玄もすぐに戻ってきてよ!」タッタッタッ

玄「……憧……ちゃん…………」

 ――対局室

淡「あーやっと来たぁ……私を待たせるとかいい度胸だよねー?」

 大星淡:114勝25敗(一位)

和(玄さん……大丈夫でしょうか……?)

 原村和:103勝36敗(二位)

憧(最初で最後の上位陣の直接対決……玄……ここで負けたら一気に合格圏内から外れちゃうんだからね……!?
 わかってる!? しっかりして……立て直してよ……玄……!!)

 新子憧:97勝42敗(三位)

玄「お……遅くなってすいません……よろしくお願いします……」

 松実玄:90勝49敗(四位)

 ――東二局

淡「ツモッ!! 6000オールだよー!!」ゴッ

和(ダブリーからの暗カン……カン裏モロ乗りでただのダブリーが一瞬でインパチ……!? 偶然極まりないです……!!)

憧(このがきんちょ……!! 玄がドラを集めなくなった途端にこれとか……勘弁してほしいわっ!!)

淡「どっかの誰かさんが調子崩してるから助かるよ~! さあ、一本場行こうかっ!!」

玄「…………」

憧(玄、なんとか言い返したらどうなの……!?)

淡「大体さー、同じ門下の後輩に負けたくらいで落ち込むような、そんな枯れ枝みたいなメンタルでプロになろうってのが間違いなんだよ。
 ホント……なんでそんな人が院生一位なんてやってられたわけ……? あっ、そっか、私が入る前の院生って雑魚ばっかだったもね、あははっ!! ならしょうがないよねっ!!」

憧(こ、こいつ黙って聞いてれば……!!)

ここでは、一位と二位に白星、三位と四位に黒星がつきます。

12人で167回半荘をやって、白星が多い三人がプロ試験合格です。

白星なら勝ち、黒星なら負け、という解釈です。

また、167回中、同じ相手とは45回くらい打ちます。

その45回の合計順位を競い合って、個人対個人の結果とする、ような見方もあります。

ただ、試験で問われているのはあくまで連対率です。

淡「どいつもこいつも弱くって張り合いなさ過ぎなんだよ。そのくせ、みんな無駄にやる気だけはあってさー」

淡「そういうの見ててムカツクっていうか。実力ないくせに頑張ってんじゃねーよっていうか。虫唾が走る。
 プロっていうのはさ、選ばれた雀士だけがなれるものなんだから。雑魚は雑魚らしくアマで打ってればいんだよ。分不相応な夢を追っかけて熱くなるとか、見てて痛いんだよねー」

淡「昨日も、なんてったっけ、あの最下位争いしてるサル……あいつってば消化試合のくせしてトップの私を狙ってきて……ナメんなって感じ。すぐにやり返してやったけど」

淡「ま、でもしょうがないよねっ! あんなサルなんて、先輩も雑魚なら師匠も雑魚なんだもん。ダメダメ門下でヌルい麻雀打ってるやつが私に勝とうなんて百万年早いんだよっ!!」

玄「………………淡ちゃん……」

淡「なによ、本当の――」

玄「少し黙って……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「っ……はああぁ!? 雑魚を雑魚って言って何が悪いわけ!? 文句あるなら麻雀で言えばいいじゃん!!」

玄「聞こえなかった? 黙ってって言ったんだけど……!!」

淡「で……でも事実だもん……!!」

玄「そうだね、淡ちゃんの言う通り。私なんてダメでヌルい麻雀しか打てない、枯れ枝メンタルの雑魚だよ。だから……私のことはいくら悪く言っても構わない。
 けど……けどね……!! 私の大切な友達や先生を悪く言うのは……いくら淡ちゃんでも……許さないよ……!!!」

淡「ふんっ、許さないからなんだって言うの!!? 言っておくけど、玄さんが院生一位だったのは過去の話っ!! 最後の月の成績は私のほうが上だったんだから……!!」

玄「さっきから本当にうるさいよ……淡ちゃん。それともあれから……天邪鬼な淡ちゃんは私に黙らせてほしいのかな……!?」

淡「うっ……(なによなによ!! ドラが来なくなったドラ置き場が偉そうに……!!)」

玄「さあ……淡ちゃんの連荘だよ……早くサイコロを振って」

淡「言われなくてもっ!!」

 ――

玄「ロン……!」ゴッ

淡「え――!? そ、そんな……嘘……!!?」ゾッ

玄「……あれだけカンすれば狙われるよ、当たり前」

淡「けど……! 私がどの牌で暗槓するかなんて……わかるはずないっ!!」

玄「淡ちゃんのカンはドラになるんでしょ……? ドラが来なくなっても……私にはドラが見える……ドラが見えるなら……槓材が何かもわかる……」

淡「で、でも……暗槓を槍槓できる役は……!!」

玄「うん。一つしかない、よね」パララララ

淡「……っ!!!?」

玄「国士無双。32300だよ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「こ……こんなのって……!!!」

玄「さあ……次は私の親番だね……」

淡「い、いい気になるのは早いよっ!! これだから浮き沈みの激しいタイプは嫌だよねっ!! マグレで一発当てたからって調子に乗るなってのっ!!」

玄「淡ちゃんこそ、こんなマグレに振り込んだくらいで動揺するなんて……ちょっと精神的に未熟なんじゃない?」

淡「こ……の……!!!」

玄「淡ちゃん、淡ちゃんは強いから、私みたいな雑魚に負けることはないんだよね?」

淡「そうだよっ!! 負けるわけないじゃん!!!」

玄「じゃあ……私に負けたらさっきの言葉は撤回して。穏乃ちゃんは弱くなんかない。先生だって、他のみんなだって……私より強いよ。
 私はうちの門下のお荷物だから……そんな私を倒せないような淡ちゃんに……みんなを雑魚呼ばわりする資格はない……そうでしょ?」

淡「いいよっ!! もし玄さんが私に勝てたらね!! その代わり、玄さんが負けたら、みんなの前で頭下げてよねっ!!
 雑魚門下が調子に乗ってすいませんでしたって!! 大声で言ってもらうからっ!!!」

玄「きゃんきゃん騒がしいよ、淡ちゃん。まるで喧嘩に負けた犬みたい」

淡「~~~~~~~~~っ!!!!!」

 ――

憧(玄……よかった。なんとか持ち直せたみたい。ドラには……まだ拒否されてるみたいだけど……けど、別にドラだけが玄の麻雀じゃない……! 頑張って、玄……!!)

憧(っとっとっと……って、他人の心配してる場合か、私。起家でがきんちょのハネ満親っ被りして、今のところラスだってのに……)

憧(やっぱり……ハルエの言う通りだったな……私はまず……私自身がしっかりしなきゃ……!!)

 ――

晴絵「玄が連敗してる? へえ、そうなのか……」

憧「そうなのかって……冷たくない!? 今は大事なプロ試験中なんだよっ!? 院生の順位戦でちょっと調子を崩してるのとは違う!!」

晴絵「誰にだって勝てないときはある。絶望して牌を握れなくなることも、な。けど、連敗ってことは、玄はまだ戦いを完全にやめたわけじゃないんだろう?
 だったら大丈夫だよ。少なくとも、憧の出る幕じゃない」

憧「で、でも……私、玄のこと心配で……」

晴絵「心配、か。そんなことより、お前は自分の心配をしたらどうだ?
 玄が調子を崩したんなら、四位のお前は遠からず合格圏内に入るだろう。けど、玄が調子を取り戻したら、一体お前はどうするつもりなんだ?」

憧「そ、それは……玄や和やあのがきんちょに勝てば……」

晴絵「勝てるのか? 本当に? 現状だけ見れば、お前は四位、上位三人よりも僅かに下なんだぞ……?」

憧「それは……」

晴絵「憧……お前はいいやつだよ。
 年のわりにしっかりしてるし、周囲のこともよく見えてる。誰とでもすぐ仲良くなるし、目上の人に気配りもできる。感情的なようでいて、いざとなればスイッチの切り替えも上手い。
 純粋な麻雀の技術だって……うちの門下で一番センスがあるのは、お前だと思ってる。飲み込みは早いし、言ったことはちゃんと聞き入れて、応用までしてみせる。
 正直、お前ほど育て甲斐のある弟子はいないよ」

憧「ハルエ……」

晴絵「けど、だからって甘えるな」

憧「っ……!!!」

晴絵「私はな、憧。別に学校の先生じゃないんだ。聞き分けのいい子供を育てたいわけじゃない。色んなことに気を回せるしっかり者を世の中に送り出したいわけでもない」

晴絵「私がお前を弟子にしているのは……他でもない、麻雀のプロになってほしいからだ。その辺りを勘違いするな。お前はただ、今は、自分のことだけを考えろ。
 和だってあの二週間で化けたんだ。お前だって、そろそろ殻を破らなければ前に進めないぞ」

晴絵「いいか、憧、何度でも言うぞ……?」

晴絵「プロになれ。お前なら絶対になれる。穏乃にも、和にも、玄にも……宥や灼……それに私にも遠慮は要らない」

晴絵「今は自分のためだけに打て、憧。落ちていくやつに気を取られて脇目を振るな。ひたすら前だけを見て走るんだ。わかったな……?」

憧「…………はい……先生……」

 ――

憧(ハルエ……ハルエの言った通り……和は自分で道を切り開いて強くなった……玄だって自分の力で前に進み始めた……私も今のままじゃダメなんだ。
 ただのいい子や……上手い子じゃダメ……! プロに……プロになるためには……もっともっと強くならなきゃ……!!!)

憧(和……今の私の目標は和だよ……! 実際……少しずつだけど……差を縮めることができてる……!!
 今まで……ハルエのところでは……玄たち先輩三人がちょっと特殊だから……完全デジタル派の雀士と打つ機会が少なかった……)

憧(けど……そこにあんたが現れた……!!
 和の打ち筋は私の理想に近い……ただ、私には和みたいな頭はないから……完全デジタルってわけにはいかないけど……それでも……参考になる部分はいっぱいある……!!)

憧(感謝するよ、和。和と打つたびに……私、自分が強くなってるのがわかる。もちろん……和の真似をしたって和に勝てるわけないってのも……わかってる!
 だから……そこは私らしく行くんだ……!!)

憧「チーッ!!」

憧(スピード勝負よ……和っ!! ダブリーを仕掛けてくるがきんちょにスピードと手数で勝り、完璧なまでの和了効率を誇る和だけど……こと速攻では――負けられないっ!!)

和(憧さんの打牌から……迷いが消えた……? 玄さんがやる気になってくれたからでしょうか……それとも、憧さんの中で何かが吹っ切れた……?)ヒュン

憧「ロンッ!! 3900ッ!!」

和(む……さすが鳴き麻雀を得意とする憧さんですね。時折見せるキレのある副露……真似できる気がしません……!!)

憧(っしゃあ!! これで三位浮上っ!! がきんちょが玄に気を取られている隙に……二位に滑り込んでやるっ!!)

 ――終局

淡「うううううううううううう…………!!!!!」ダッダッダッ

シズ「う、うわっ、大星さんっ!!?」

淡「あ……む……え…………ごめんなさい……」

シズ「え? ええ?」

淡「か、勘違いしないでよねっ!! 別にあんたのことを認めたわけじゃないんだから!! ただ……あんたの先輩は……そこそこやるなってだけで……」

シズ「よ、よくわからないけど、う、うん」

淡「じゃあね!! あ、あと……あんたたまにすごい粘り強いときあるから……あんま早打ちしないで、じっくり考えればもっと和了率上がるんじゃない!?
 知らないけどねっ!!!」ダッダッダッ

シズ「い……一体何が……?」

憧「おー、シズ。そっちも終わりー?」

シズ「憧さん……えっと、な、何があったんですか?」

憧「ああ、がきんちょね。玄を怒らして返り討ちにされたのよ。こりゃまた長いトイレタイムが始まりそうね~」

シズ「えっ……玄さんがって……それじゃあ!!」

憧「そういうこと。ね、玄?」

玄「え、えっと……ご心配をおかけしてすいませんでした」ペコリ

シズ「玄さん……!! よかった……本当によかったですっ!!」

憧「玄ったら、ドラなしでもけっこう打てるのよ。さすがは万年院生一位」

和「それは褒め言葉じゃないような……」

シズ「おっ、玄さんと……憧さんが勝ったんですか!?」

憧「そういうこと。ま、先輩の意地よね」

和「次は負けませんよ」

シズ「くー! いいなぁ!! 私も混ざりたいっ!!」

憧「あっ、確か、明日また私と和とシズが揃うわよね。じゃあそこで勝負よ、シズっ!」

シズ「望むところですっ!!」

 ワイワイ

玄「あ、あの……みんな……」

玄「その……本当に、ごめんなさい。心配もかけちゃったし……ずっと一緒に頑張ろうって言ってきたのに……年長の私が……こんなことになっちゃって……」

シズ「いいんですよ、玄さん。玄さんがまた勝ち始めたっ! それだけで十分ですっ!!」

玄「ありがとう……でも、お願い。言わせてほしいの。私ね……あのとき、心の中で……みんなを裏切ったの」

玄「チョンボして……チョンボしたっていう自覚もあったのに……みんななら見逃してくれるんじゃないかって……私……自分が勝つために……みんなとの仲を利用しようとした」

玄「本当に……ごめんなさい。許してほしいなんて言わない……けど……この先も……みんなさえよければ……私と友達でいてください……お願いします……」

シズ・和「玄さん……」

憧「あははっ!! 玄ったらバッカねー! そんなつまんないこと気にしてたのっ!?」

玄「えっ……憧ちゃん……?」

憧「私たちはさ、玄、友達でライバルなのよ? どんな手を使ってでも勝ちたいって思うのは、当然でしょ!!
 むしろ、友達だから負けてもいいとか……そういう甘っちょろいこと考えるやつのほうが、私はヤダっ!」

玄「憧ちゃん……」

憧「私たちは雀士だもん。本気で勝とうとしてるからこそ……友達を裏切ることもある。けど……それでいいじゃない。本当の友達なら……裏切られたくらいでとやかく言わない。
 それどころか、喜ぶべきよ! この人は、自分に本気で勝とうとして打ってるんだって……そのことを幸せに思うべきなの! それが私の思う友達よ!」

玄「そんな……だって、私はズルいこと考えて……」

憧「じゃあ、玄はどうなの!? 私だってあのときズルいこと考えてたよ? 玄がチョンボすれば私の勝ち星が増えるって、卑怯かもしれないけど内心ではラッキーとか思ってたよ?
 だって……私はプロになりたいもん。せっかく格上の玄に勝てるチャンスだったんだから……そりゃ喜んじゃうでしょ?
 ねえ、玄……玄はこんな私のこと、嫌いになる? 玄は、私が勝つためにズルいこと考えてたって知って……友達じゃなくなっちゃう?
 ねえ、どうなの……!!?」

玄「そんなことない……!! みんな……ずっと友達だよ……!!」

憧「なら、もういいじゃん。私らみんな、玄と同じ気持ちだよ」

シズ「そうですよっ、玄さん!! 私は玄さんのこと大好きですよっ!!」

和「玄さんのあれはミスですから。イカサマとは違います。あれくらいのことで玄さんを見限ったりはしません」

玄「みんな……あ……ありがとう……!!」ポロポロ

憧「おーおー、よしよし」ナデナデ

玄「わ……私……あれから……ドラに見放されて……!! それで……同じように……みんなにも見放されるんじゃないかって……恐くて……恐くて……!!!」

憧「そんなわけないでしょ。本当にバカねー、玄は」

玄「みんな……ごめんなさい……ありがとうございましたっ……!!」

憧「ま、でも、玄が私らやハルエや有姉や灼に迷惑かけたことに変わりはないわよね」

玄「そうだよね……」コテンテキイシガーン

憧「だから、玄は罰として、これからのプロ試験、最終日まで全力で打って……本気でプロを目指すことっ!! それで許してあげるわよっ!!」

玄「えっ……憧ちゃん……?」

憧「どうしたの? この罰じゃ納得いかない?
 ハルエと一日タメ口で話す罰とか、有姉の服を剥ぎ取る罰とか、灼の目の前でネクタイにケチをつける罰とかのほうがいい?」

玄「むりむりむりむり」ブルブルブルブル

憧「でしょ。だったら言うこと聞く」

玄「でも……それじゃあ憧ちゃんが……」

憧「私が、なに?」

玄「ううん。なんでもない。今のは聞かなかったことにして。そうだね……私、頑張るよ。図々しいかもしれないけど……やっぱり……プロになりたいから」

憧「上等。ただ、悪いけど、玄がぼやぼやしてる間も私たちは勝ち続けてきたからね。簡単にプロになれるだなんて思わないでよ?」

玄「うん、わかってる。改めて、みんな、明日からもよろしくお願いします」ペコリ

 松実玄:91勝49敗(四位)

シズ「こちらこそっ!!」

 高鴨穏乃:48勝92敗(十一位)

和「よろしくお願いします」

 原村和:103勝37敗(二位)

憧「よろしくねっ!!」

 新子憧:98勝42敗(三位)

 ――帰り

 ワイワイガヤガヤ

和「(あ……あれは……?)あ、すいません。皆さんは先に帰っていてください。お疲れ様です」タッタッタッ

憧・玄・シズ「お疲れ様~」

 ――日本麻雀院・駐車場

和「あ、あの……どうしたんですか……月なんか見上げて……」

久「なによ、私が感傷的になってたら変かしら? こう見えて、心はけっこうか弱い乙女なのよ」

和「何があったんですか……?」

久「決まってるじゃない。崖から手が離れちゃったの」

和「あ……」

久「和のお友達の……新子さんだっけ。あの子が今日、和に勝って……98勝。私は今71勝でね。対局はあと27半荘……どう足掻いても同着三位が限界」

 竹井久:71勝69敗(六位)

久「参ったわ。麻雀の腕にはそこそこ自信があったんだけどね。それでも……ちょっと遅過ぎたかしら。
 昔の後輩の影をネットに見つけて……プロになればその影の正体を掴むことができるかもしれないって思って、プロ試験を受けられるぎりぎりの年齢で挑戦してみたけれど……。
 こんなブランク明けの錆び付いた腕で越えられるほど、プロの壁は低くなかったってことよね。それはもちろん喜ばしいことだけれど……今はただ、自分の力のなさが口惜しいわ」

和「久さんは……弱くないと思います。むしろ、トップ合格してもおかしくないんじゃないかって……本戦前の合宿では思ってました」

久「受ける前は、私もそう思ってたわ。でも、ダメね。気楽に打てるネット麻雀や、みんなとわいわい打てる合宿と違って……ここでの勝負は真剣勝負。
 どうにも……ここ一番って場面になると……手が震えちゃって。うまくツモることができないの。
 残念だわ、試験中に一度はあなたに見せたかったのに。私の必殺技――ダイナミックツモ・ザ・スカイ牌を……」

和「そんなものは見たくありません。というか、ツモることができないってツモり方の話ですか。妙な曲芸をすると鹿倉さんが黙ってませんよ?」

久「冗談よ。とにかく、私はここまでってこと。ま、幸い教員免許があるから、再就職先はほどなく見つかると思うんだけどね」

和「そうですか……」

久「ああ……けど、なんだかむしゃくしゃするわね。和……あなた、ちょっと私の憂さ晴らしに付き合いなさいよっ!!」

和「え、い」

久「さあ行くわよっ!!!」ガシッ

和「いやあああああああああ!!!!」ズルズル

久「夜は車が少なくていいわねええええええええ!!!!!」

和「ひゃああああああああああああああああああ!!!!」

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

久「和あああああああ!! あなた本当に強くなったわよおおお!!!!」

和「えええええ? 何を言ってるですかああああああああ!!!?」

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

久「私みたいなアラサーはもう世代じゃないのよおおおおおお!!!」

和「だから聞こえませんってえええええええ!!!」

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
 
久「だああああかああああらああああああ!!!!!」

和「えええええええええええええええええ!!!!?」

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド






久「プロになるのはあなたに任せた!!!!」

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 ドドドドドドドドドドドドドドド

 ドドド 

 ドドキイイイイ

和「久……さん……?」

久「後輩のことは、もちろんあるけれど、それだけが私がプロになろうとした理由じゃない。麻雀からは……しばらく離れていたんだけどね、たまたまコンビニで麻雀雑誌を立ち読みして……驚いたわ」

久「九年前のインターハイ。そこで私と一緒に夏を過ごした選手たちの多くが……今はプロになって活躍していた。がつーんって来たわ。
 それで、思ったわけよ、私はこんなところで何を遊んでいるんだろうって」

久「確かにね、ちょっとだけ大変なことがあったの。でも、私以外のみんなは、それを乗り越えて、今でも麻雀を続けている。それを知った瞬間……涙が溢れてきた……」

久「私が、どれだけ麻雀を好きだったか。あの夏がどれだけ楽しい――夢のような夏だったか。私以外のみんなは……その夢の続きを今でも……必死に追っている。
 そこに……また混ざりたかったのよね……もう一回……私もあのお祭りに参加したいって思った……」

久「けど、現実はそう甘くない。私はプロになるには年を取り過ぎたわ。今はもう、和たち新しい子の時代なのよ。
 私みたいな行き遅れの旧世代は……遠くから見てるのがお似合い」

久「だから……和。プロになるのはあなたに任せた。私の夢は……あなたに預ける。明日からのプロ試験も……頑張ってね。あなたなら、きっと合格できると思うわ」

久「今日は付き合ってくれてありがとう。確か、和の家ってここでよかったわよね。それじゃ……ゆっくり休むといいわ。バイバイ……」

和「ま、待ってくださいっ!!!」

久「あら……どうしたの?」

和「その……久さん……九年前のインターハイに出たんですよね!?」

久「そうよ」

和「個人戦の決勝卓って……誰だったか覚えていますか……?」

久「四人のうち、一人はあなたの知らない人よ。私の後輩」

和「他の三人は……?」

久「天江五段と、神代二段。有名でしょ?」

和「残りの……一人は…………?」

久「ふふ、聞いて驚かないでね……なんと――この私よ」

和「そ、そんな人が……どうしてたった一回の失敗で諦めるんですか!!?」

久「仕方ないじゃない。私はもう忘れられた人間なの。今更になって表舞台に立とうって思ったのが間違いだったのよ。
 時代は変わる。今は、和たちの時代。私なんてお呼びじゃないのよ」

和「そんなことはありません……!! 久さんのことを……待ってる人だっていますっ!!!」

久「そんな人……」

和「バイク、出してくださいっ!! 久さんに……会わせたい人がいます……!!!」

久「ここは……?」

優希「あっれー!? のどちゃんじゃないか!!? どうしてここへ?」

和「優希!? と……」

まこ「おう、久し振りじゃのう、和。おっ、ちょっと見んうちにまた胸を肥やしよって」

和「染谷先輩まで。どうしたんですか?」

まこ「今日はここで小学生の地区大会があってのう。ちょうど今終わったとこで、わしはこいつの応援じゃ」

和「ということは、花田先輩も?」

優希「花田先輩はあっちでマホムロと話してるじぇ。呼んでくるか?」

和「あ、いえ……それよりも、先生は今どこにいますか?」

まこ「あぁ、先生なら……」

美穂子「優希ちゃーん、表彰式をするわよー。ロビーに集まって……って……原村さ…………ん?」

和「あ、先生。夜分にすいません。その……」

美穂子「……あ……あなたは…………!!!?」

久「……み…………美穂子……」

美穂子「上埜さあああああああああああん!!!!!!!」ガバァ

美穂子「上埜さんっ!!!? 今まで何をしていたんですか!!?
 ずっと心配していたんですよ!!! 連絡は取れないし、引っ越してしまうし……麻雀界でも話を聞かないしっ!!!!」ギュウウウウ

久「あは……ちょっと、家庭の事情とか、色々あって」

美穂子「でも……本当によかったです。生きていたんですね……!!! もう……二度と会えないと思っていました……!!!!」ギュウウウウ

久「大袈裟よ……まったく、美穂子は昔から、思い詰めると思考が極端になるわよね」

美穂子「上埜さんのことだけは特別なんですっ!!!」ギュウウウウ

久「ははは……で、でも、ちょっと周りの目をはばかってほしいというか、お子様たちの目が点になってるわよ……?」

美穂子「っ……!! 失礼しました……!!?」バッ

和(こんなに取り乱している福路先生は初めて見ました……)

優希(というか、先生の右目……)

まこ(オッドアイじゃったんか……)

美穂子「それで……上埜さん、どうしてここに?」

久「それは……えっと……」

和「先生、聞いてください。この久さん、今一緒にプロ試験を受けてるんですが……今日の結果でもう合格の可能性がほぼ消えてしまったんです。
 で、久さん、自分はもうプロになるのは諦めるとか言うんです。先生は、どう思いますか?」

美穂子「それは……そんなの……許しませんよっ!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久「あは……やっぱり……?」

美穂子「上埜さんはプロになるべきです。
 何年かかっても……絶対にです。弘世さんも、愛宕さんも、天江さんも神代さんも皆さん強いですが……私たちの世代は上埜久なくしては語れませんっ!!
 そんな上埜さんがなんですか……? たった一回の挑戦で諦めるんですか? まだ二十七じゃないですか。あと三回もプロ試験を受けられるのにっ!!」

久「い、いやでも……私ほら……ちょっと昔のトラウマがあって調子が出ないというか……」

美穂子「それなら、私と一緒に、ここの教室で子供たちと触れ合いましょう。きっと辛い思い出だって克服できるはずです。
 かつて、赤土九段も同じようにして苦難を乗り越えたと聞いたことがあります」

久「えっと、でも就職とか……」

美穂子「私が養いますっ!!!」

久「」

和「い、いや、福路先生……それは……あの、久さん教育免許を持っているそうなんで……臨時講師とかそういう……」

まこ「む、教員免許じゃと? それは……高校の教師になることは可能なんか?」

久「まあ、別にそんなほいほいなれたら苦労はないけど、不可能ではないわよ」

優希「おっ、染谷先輩……これはついに見つけた感じかもしれないじょ……!?」

まこ「おお、そうじゃな。竹井久さん、じゃったか。その……清澄高校に就職することはできんのか!?」

久「えっ、どうして……?」

優希「染谷先輩たちは今年のインターミドルで全国優勝したんだじょっ!!
 でも、染谷先輩たちが進学する清澄高校に麻雀部はない……たとえあったとしても、ちゃんと麻雀の指導ができる顧問がいないと……さすがにインターハイで勝ち上がるのは難しいじぇ……!!」

まこ「ほういうわけで、ずっと麻雀の強い先生を探しとったんじゃ!! さすがに学校の顧問をプロに頼むわけにはいかんけえ……その点、まだプロになってない竹井さんなら大丈夫じゃ!!
 よう知らんが、竹井さんはインターハイの個人戦で決勝卓に着いたことがあるんじゃろ? ほんで、そこでなんか嫌なことがあった、と。
 じゃったら……わしらともう一回インターハイに出て……その過去を乗り越えたらええ!!」

美穂子「それは名案ですね。わかりました。上埜さんを麻雀部顧問に雇うよう、私からも学校にお願いしてみます。
 学校側だって、インターミドル王者の染谷さんたちを受け入れるのに、まともなコーチがほしいと思っているでしょうから、たぶん大丈夫でしょう」

優希「やったじぇ染谷先輩っ!! これで清澄高校麻雀部の誕生だじぇっ!!」

まこ「ほうじゃな。どうなることかと思ったが、竹井さんみたいな人に巡り会えるなんて……これは天が味方してくれてるとしか思えんのう!!」

久「いやいや、だから私は……」

和「引き受けたらいいじゃないですか、久さん。久さんだって、無職になるのは避けたいでしょう? (それに、これを断ると福路先生に囲われるコースですよ)」コソッ

久(た、確かに……!)コソッ

和「それに、以前久さんが言ってた私の守護霊さん? も、やったらいいよって言ってます」

咲(しばらく黙ってたけど、ここで喋り損ねたらすんごい仲間外れになる予感がしたよっ!!)

久「そうね……じゃあ、まあ、そういう方向で話を進めてもらってもいいかしら? 悪いわね……何からなにまで……」

美穂子「いいえ、全ては上埜さんにプロになってもらうためです」

久「えっと、どうしてもプロにならなきゃダメ……?」

美穂子「当然です」

久「何年掛かるかわからないわよ? そもそも、私がちゃんと昔のように打てるようになる保障がないし……」

美穂子「大丈夫です。私は上埜さんの力を信じてますから」

久「仮に、私が全盛期の力を取り戻したとして……高校の教師になってインターハイに出るんだったら……来年の夏はプロ試験なんて受けてられないわよね?
 そうすると……私がプロになるのは最長で三年後ってことになっちゃうけど……」

美穂子「上埜さんのプロ入りが三年伸びるくらい、なんともありません。私は九年間……ずっと上埜さんのことを待っていたんです。今更三年くらい……いくらでも待ちますよ」

久「なんか……ごめんなさいね」

美穂子「上埜さんが謝ることじゃありません。私は……上埜さんのことが好きですから。いくらでも待っています。心配しないでください。待つのは……慣れっこですから」

久「……ありがとう、少し、頑張れる気がしてきたわ」

美穂子「それはそうとして、上埜さんには高校麻雀部の顧問、うちの教室のお手伝いのほかに、当然ですが、プロ試験に向けての特訓をしてもらわないといけませんっ!」

久「えっ……?」

美穂子「まずは、私が指導麻雀をします。それから、高校の頃に上埜さんに敗れて借りを返したいと思っているプロを、片っ端から集めます」

久「あの、その……福路さん……?」

美穂子「私の指導はスパルタですよ?」ニコッ

久「ちょ」

美穂子「教え子のためなら平手打ちも辞さないですよ?」ニコッ

久「ま」

美穂子「『久ァァァァァ! なんだあの六筒切りはァァァァ!!!』とか言っちゃいますよ?」ニコッ

久「え」

美穂子「ふふふふふ……上埜さん上埜さん上埜さん上埜さん上埜さん上埜さんが帰ってきた上埜さんと特訓特訓二人きりで上埜さんと上埜さんと……」ウフフフフ

久(の、和……!! あなたとんでもない人に私を会わせたわね……!!! 何かあったら責任取ってよ!!!)コソッ

和(わ、私だってこれは予想外でしたよ!!!)コソッ

久(ああ……もう。けど、まあ……なんていうか……楽しくなってきたわ……!! いいわよ、やってやるわよ!!!
 和、すぐに追いつくから……先に行ってなさい!!! 遅くとも三年で……私もプロの世界に殴り込むわっ!!!)

和(ま……待ってますっ!!!)

久(よし、そうと決まれば和……)

和(なんですか……!?)

久(今日のところはズラかるわよっ!! これ以上私がここにいると、美穂子が興奮でおかしくなっちゃうわっ!!)

和(そうですねっ!!)

久「じゃ、私はこれで!!!」ダッ

和「私も明日があるので!!!」ダッ

美穂子「あっ……上埜さ」

 ドドドドドドドドドドドドドドド

美穂子「もう……ちょっとくらいゆっくりしていってもいいじゃないですか……いけずです……次は逃しませんよ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

優希(ふ、福路先生ってこんな恐い人だったのか……!?)

まこ(麻雀界のトップは全員狂ってるって噂もあるほどじゃしの……)

 ――プロ試験本戦・四十日目終了(160半荘目)

和「(ふう……今日も際どかったですね……)ありがとうございました」

 和:113勝47敗(二位)

南浦「(まさか南場で逆転されるとは思っていなかった。最後の和了りは想定外……この子もプロ試験中に腕を上げたか……)お疲れ様」

 南浦:92勝68敗(五位)

シズ「やったねっ、莉子!! すごいよ、まさか南浦さんに勝っちゃうなんて……!!」

 高鴨穏乃:45勝115敗(十一位)

莉子「自分でもびっくりです。時々だけど、こんな麻雀が打てるから……プロになるの……諦められないんですよね」

 安福莉子:38勝122敗(十二位)

シズ「諦めたら終わりだよ! 私ら、今年はまだまだだったけど……来年の今頃、再来年の今頃はきっともっと強くなってるっ! だから、一緒に頑張ろう!!」

莉子「うん……ありがとう、穏乃ちゃん」

憧「よっすー、シズ、和、お疲れっ!!」

 新子憧:104勝56敗(三位)

和「憧さん、勝ったんですか?」

憧「なんとかね。そういう和も勝ったみたいね。今日はこれで四戦全勝、っと。ちぇー、とうとう最後まで走りきったか。おめでとうっ!! これで和はプロ入り決定だねっ!!」

和「ありがとうございます。あとは、気になるのは玄さんですが……」

玄「わ、私もなんとか勝ったよ……」フラフラ

 松実玄:103勝57敗(四位)

シズ「玄さん、大丈夫ですかっ!?」

玄「ド……ドラがこないってこんなに大変なんだね。私と対局してたみんなはこんな苦労してたんだ……」

憧「とかなんとか言って、普段より調子いいくらいなんじゃない? もう四十日目で一勝差とかさー! ほっっんとありえないからっ!!」

和「あと……七半荘ですか。二人の直接対決は、まだ残っているんですか?」

憧「一応、明日の午後に一回。でも、あとはずっと別々よね。これ……勝ち星が並んだ場合ってどうなるんだっけ?」

シズ「トップ率順ですよ。それも同率だったら……次はポイント順です」

憧「トップ率とポイント……か。どっちも玄のほうが上よね、普通に。となると……私がプロになるにはこの一勝差を守りきるしかないってことか」

玄「憧ちゃん……」

憧「まったまたー。そんな顔しないの、玄。私たちは同じゴールを目指して細い一本道を歩いてんのよ。こういう衝突は、これから何度だって起こる。お互い、ベストを尽くしましょ」

玄「憧ちゃんは……やっぱり強いなぁ」

憧「まっ、そりゃ玄よりはねっ!! じゃ、私はもう少し検討やって帰るから、玄たちは先行ってて。また明日っ!!」

玄「うん。またね」タッタッタッ

和「お疲れ様でした」タッタッタッ

 ――帰り

和「あれ……シズ、来ませんね。置いてきて大丈夫だったでしょうか」

玄「穏乃ちゃんは、憧ちゃんと一緒にいるんだよ。だから、心配要らない。それより、和ちゃん」

和「はい、なんでしょう?」

玄「プロ入り、改めておめでとう。
 懐かしいなぁ……去年の春だっけ。和ちゃんが龍門渕さんたちと一緒に来て、初めて打って、ドラは私にしか集まらないって憧ちゃんが言ったら、和ちゃん、そんなオモチはありえませんって」

和「オカルトですよ」

玄「いーや、オモチだよ。和ちゃんのおもちは……衝撃的だった。これが小学五年生のおもちっ!!? ありえない!!! ってなったもん」

和「そういえば、会うなりセクハラしてきましたよね、玄さん……」

玄「だね。ま、ありえないのはおもちだけじゃなくて麻雀の成長振りもだけど。
 本当に……和ちゃんはすごいよ。私が何年も超えられなかった壁を、あっさり飛び越えた。本戦で何度も打ったけど……まるで羽が生えてるみたいだなって、思ってたよ」

和「私なんて、ただ……運がよかっただけです」

玄「運も実力のうち、それが麻雀でしょ?」

和「そう……ですね」

玄「私ね、このプロ試験が終わって、プロになれなかったら、一年間、旅に出ようと思ってるの」

和「えっ……!? その話、赤土さんには……?」

玄「まだ、してない。おねえちゃんにも話してない。和ちゃんに今ここで言ったのが初めて」

和「どうして私に……?」

玄「和ちゃんの真似だからだよ。和ちゃん、予選と本戦の間に……私たちから離れて、びっくりするくらい強くなって戻ってきた。
 私も……ずっとみんなとやってきたけど、一度くらいは一人になって……自分とちゃんと向き合ってみようって思ったの。本当に麻雀を続けたいのか。どうして麻雀を打つのか。なんで私は勝ちたいのか……。
 とりあえず、その辺りから始めないと、私、いつまでも変われない気がするんだ。
 それでね、自分に自信が持てるようになったら……きっとドラも帰ってきてくれると思う。で、つきましてはお願いがあるんだけど、和ちゃん」

和「……なんですか?」

玄「私が帰ってきたときに、和ちゃんと一局打たせてほしいの。
 和ちゃんと、憧ちゃんと、穏乃ちゃんと。私のせいで台無しになっちゃったあの一局を、もう一度打ちたいの。いいかな……?」

和「もちろんですよ。憧さんや穏乃だって、いいって言うに決まってます。待ってますよ、玄さん」

玄「はは、まあ、でも、あくまでプロになれなかったときの話だから。なっちゃえばいんだよね、なっちゃえば!」

和「最後まで、応援してます」

玄「ありがとう、和ちゃん……」

 ――日本麻雀院・ロビー

憧「いいの、シズ。和たち行っちゃったよ?」

シズ「それじゃ憧さんが一人になっちゃうじゃないですか」

憧「……シズ、あんたってやっぱ最高だわ。大好き」

シズ「小さい頃からの付き合いですから。憧さんのことは、大体わかります。私でよければ……なんなりと言ってください」

憧「あははっ、さすがシズ。じゃあ……お言葉に甘えようかな。シズ、少しの間でいいから、気をつけしてて……」

シズ「はい……」

憧「ふふ……相変わらずシズは細くって小さいなぁ……ホントに成長しないわねぇ……」ギュウウウ

シズ「そんなことないですよ、背だって伸びてますし、他の部位だって色々……そんなことより、憧さん」

憧「なに……?」

シズ「気をつけをしたままだと……その……憧さんの背中に手を回せないのですが……」

憧「そっか……じゃあ、気をつけ解除。自由にしていいよ……」

シズ「はい……」ギュッ

憧「ううっ……シズ……シズ……!! シズ……!!」ポロポロ

シズ「大丈夫ですよ。憧さんなら……きっと最後まで戦えます。最後まで……私が傍にいますから……」

憧「だって……シズ……!! 玄が……普通に戦ったら玄のほうが強いもん……私……やっとここまで来たのに……!! 嫌だよ……プロになりたいよ……!!」ポロポロ

シズ「なれます。きっとなれます。憧さんなら……大丈夫です……」

憧「むりむり……! 無理だよ……!! みんなわかってる……!! 玄がここから追い上げるんだって……きっとみんなそう思ってる……!!
 私が逃げ切ってプロになれるなんて……そんな風に思ってる人……どこにもいない……!! いるわけないよ……!!」

シズ「そんなことはありません……!!」

憧「あるわよ!! どうしてそんなことが言えるのっ!!?」

シズ「まず一人……ここにいます……っ!!!」

憧「っ……!!?」

シズ「私は、憧さんが今年プロになれるって思ってます! それで、玄さんは来年で、私もいつか必ずプロになりますっ!!
 そして……またみんなではしゃぎましょう……!! プロの舞台で……遊びましょうっ!!!!」

憧「……シズ……あんた……」

シズ「憧さん、先に行ってください。あと七半荘で……プロへの扉が開くんです。私の運……残ってる分は全部憧さんにあげます。
 だから……勝ってください……!!」

憧「……!!」

シズ「どうですか……元気、出ましたか……?」

憧「ありがと……震え……止まったわ……!!」

 ――プロ試験本戦・最終日・日本麻雀院・教官室

霞(今年のプロ試験も……これで終わりね)

霞(同じ門下の二人で……一勝差の三位争い……最後の二日間……この最終局まで……二人とも落とした星は一つだけ)

霞(一足先に最終局を白星で飾ったあの子は……今……どんな気持ちで待っているのかしら……)

 ――食堂

玄(憧ちゃん……最後は淡ちゃんと同卓してるんだっけか……随分と長引いてるみたいだけど……点数状況はどうなってるんだろう……)

玄(私……やっぱりズルいなぁ……後輩の負けを願ってるなんて……先輩失格だよね……)

玄(ああ……なんか緊張したら喉が渇いちゃった……お茶お茶……)コポコポ

 ザワ

玄(あ……)ビクッ

 ザワザワ

玄(ど……どうなったの……どっちが勝ったの……?)

 ザワザワザワザワザワザワザワザワ

玄(で……でも、もし憧ちゃんが負けたんだったら……誰かが私のところに来るよね……トップ率なら私のほうが上なんだから……誰かが……『合格おめでとう』って……)

 ザワザワ  ダッダッダッ      バァン

淡「………………」

玄「あ……淡ちゃん……?」

淡「138勝29敗」

玄「えっ……?」

淡「これが、今年のプロ試験トップ合格者……つまり私の成績なわけだけど」

玄「あ、淡ちゃん?」

淡「そんなトップ合格者の私に、唯一、順位で勝ち越した人がいる。その人と同卓すると……私は二位になってばっかりだった」

玄「え、え……?」

淡「けど、その人は、何があったんだか知らないけど、途中でちょっと調子を崩して……三位争いなんてダサいことをしてて……私的にはそれが悔しかった。
 私より強いくせに……なんで他の雑魚相手にもたついてるんだって……ムカムカして……ちょっと言い過ぎちゃったこともあったりなかったり……」

玄「あの……」

淡「松実玄っ!!!」

玄「は、はいっ!!!?」

淡「あんたのことは、私のライバル二号ってことにしとくからっ!! 光栄に思ってよねっ!! ライバル一号はあの宮永照で、あんたは二号なんだからっ!!」

玄「あ、ありがとう?」

淡「私……あんたとは、プロの世界で決着をつけたいって思ってる。だから……だから…………いつか絶対プロになってよねっ!!!」

玄「あ…………」

淡「あんたの後輩……最後の半荘……勝ったよ。手加減したつもりはなかった。けど、最後の最後で持っていかれた。
 雑魚にしては、よく頑張ってたんじゃないかな、知らないけど」

玄「そっ、か……わざわざありがとう、淡ちゃん」

淡「……勝ち逃げなんて許さないから。何年かかってもいい。私は……あんたを待ってる。じゃあ、それだけ……」タッタッタッ

玄「うん…………」

玄(……憧ちゃん……おめでとう……和ちゃん……淡ちゃん……おめでとう……)

玄(あれ……なんでだろう……みんなのこと……お祝いしなきゃいけないのに……)

玄(涙が……止まらないよ……!)ポロポロ

玄(ああ……悔しいなあ……!!)ポロポロ

玄(どうして……私じゃなかったんだろう……!!!)

玄(今まで……私はいつも待つほうだったのに……!!!!)

玄(プロに……プロになりたかったよ…………!!!!!)

 ――松実玄:プロ試験本戦最終成績:109勝58敗(四位・不合格)

 ――小鍛治邸

健夜「そうですか……三位は一勝差。随分と接戦だったんですね。淡は楽勝とか余裕とか適当なことしか言わないので……」

霞『淡ちゃんらしいわね。それで、いかがかしら、自身の門下生と、同世代最大のライバルである晴絵ちゃん門下の有望株二人……こんなにそそる卓はないんじゃない……?』

健夜「そうですね、それに……五花戦が近いこの大事な時期に、熊倉さんを煩わせるわけにはいきませんし」

霞『あらあら……五花戦が近いのはどこかの誰かさんも同じだったはずだけれど……まあ、あなたがいいならいいわ。
 じゃあ、よろしくね。去年の郁乃ちゃんみたいに暴れちゃダメよ』

健夜「善処します」

霞『へえ……? 思ったよりも乗り気なのね。意外だわ。誰か目当ての子が……ああ……いたわね。あの子でしょ……あの胸の大きな、原村和ちゃん』

健夜「石戸さんが胸とか言うと皮肉にしか聞こえませんよ」

霞『ん……誤魔化したわね……?』

健夜「なんのことでしょう」

霞『ま、詮索はよしましょう。また詳しいことが決まったら連絡するわ』

健夜「はい。よろしくお願いします」

霞『楽しみにしてるわよ……では、失礼するわね』

健夜「失礼します……」

恒子「すこやん、新初段シリーズ受けたのかー? せっかくオフの日だったのに。スケジュール詰め込み過ぎだよ」

健夜「新初段シリーズはタイトルホルダーって慣例があるから……私、九冠だし」

恒子「強過ぎるっていうのも大変だ」

健夜「そうだね、対局って、基本、勝てば勝つほど増えるから」

恒子「すこやんってば滅多に負けないからね。あぁあー、赤土さんがもっと頑張ってくれればなー。すこやんの休みが増えるのに。
 そしたら、すこやんがもっと私と遊べるようになるのに」

健夜「あれ? それって結局私の休みにはならないんじゃ……?」

恒子「細かいことは気にしないっ!!
 で、ぶっちゃけたところどうなの? 今年の新初段に……気になる子がいるんでしょ。淡じゃないってことは……赤土さんの門下生か」

健夜「うん。二年前かな……ほら、こーこちゃんも覚えてるでしょ? まだプロになってなかった照と、誠子と尭深をトバした小学生のこと」

恒子「ああ、いたなーそんな子が。そっかそっか。もうプロになったのか。で、その子をどうするつもり? もしかして、すこやんお得意の若芽摘みか?」

健夜「そんなの得意にしてないよ!? 言いがかりだよ!!?」

恒子「冗談はさておき。すこやんが他の雀士と積極的に関わろうとするなんて珍しいよね。赤土さんと照……その子で三人目。なんか、特別な子なの?」

健夜「どうだろう。それを確かめたい。っていう感じかな」

恒子「ははっ、確かめるのはいいけれど、これ以上家族が増えるとさすがに引っ越しを考えなきゃいけなくなるぞ」

健夜「いや、照のときとは違うから、大丈夫」

恒子「けど、照絡みではあるんだよね?」

健夜「まあ……たぶん」

恒子「早いもんだなぁ、照がうちに来て九年か。すこやんもすっかりアラフォーが板について……」

健夜「あの頃は、よく、私がインターハイに出たのは二十年前だとか、冗談で言ってたけど……今は冗談にならないもんね。普通に事実だもんね」ズーン

恒子「けど、時が経っても変わらないことだってあるよ」

健夜「え、例えば……?」

恒子「二十年前も……九年前も今も……すこやんは最強」

健夜「年齢は関係ないよって? こーこちゃん、いいこと言うね」

恒子「私は今も昔もすこやんのファンだから。ハードスケジュールで、一緒に遊んでくれることが少なくなったって、すこやんが麻雀打ってるとこを見れるだけで満足」

健夜「ありがと。もうちょっとで……一段落するはずだから。そしたら、温泉とか行こうか」

恒子「いいねー!! 若返りの湯に入って、すこやん(17)とかになって帰ってこよーぜー!!」

健夜「おっ、十七歳か。そしたら、私の持ってる最年少記録を悉く塗り替えられるね」

恒子「うわっ、せっかく若返っても麻雀しかしないつもりだこの人。結婚相手探したりしなくていいの?」

健夜「え? だって、こーこちゃんがいるし」

恒子「わおっ!? そういうこと言うなよー! 照れるだろー!!」ガバァ

健夜「ちょ、え、こーこちゃんそんないきなり……!!!?」

恒子「よいではないかーよいではないかー!!!」

健夜「もうっ!! 年齢考えてよー!!」

 ――初段授与式・昇段式

憧「私たちの出番はあっという間だったわね。並んで写真取ったら、あとはカメラマンさんも記者さんもみんな昇段者のほうに行っちゃうんだもんなー」

和「まあ、どの世界でも新人の扱いなんてそんなものでしょう。実績のある方に話題が集まるのは当然のことです」

憧「宥姉も六段昇格で、灼も四段昇格。あとは、弘世さんがとうとう八段かぁ」

和「私たちも、一つ一つ階段を上っていきましょう」

憧「ま、中には一つ飛ばしで階段を上っていきそうなやつもいるけど……」

「続いては、新人賞の発表です。宮永照新二段、壇上へどうぞ」

照「はい」エイギョウスマイル

和(照さん……)

憧「うわ……いつ見てもあいつの笑顔だけは受け付けないわ。普段と違い過ぎ。
 ほら、和、あんなやつのスピーチなんて聞かなくてもいいでしょ。あっちにハルエたち集まってるよ。私たちも行こうっ!」

和「は、はい……」

憧「おーいっ!! 宥姉、灼、ハル――」

晴絵「おう……やっと来たか、二人とも」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和・憧「っ!」ビクッ

晴絵「ようこそ……プロの世界へ」ゴッ

憧・和「……よろしくお願いします」ペコリ

 ――自宅

和「ふう……プロになれたのはよかったですが、結局、照さんとはまともに話せませんでしたね。私、まだ避けられてるのでしょうか……」

咲(そんなことはないと思うよ。今日だって、向こうはかなり和ちゃんのこと意識してたっぽかったし。ただ、公の場だから、気軽に話しかけられなかっただけだって)

和「だといいんですが。それにしても、咲さん。まさかプロ入りして早々、咲さんの願いを叶えられるとは思ってもみませんでした」

咲(新初段シリーズ、か。去年は赤阪九段って人の大勝だったんだっけ)

和「憧さんから聞いた話だと、新初段シリーズで新初段が勝つケースは極めて稀だそうです。特に、小鍛治九冠と戦って生きて帰った新初段はいなかったとか……」

咲(じゃあ……今年はきっと歴史が変わるね)

和「咲さん……本気ですか……?」

咲(当たり前だよ。私は今、あの人と戦うために現世にいるようなものだしね。平安時代も、江戸時代も、それに九年前も、私はただ最強を証明するために打ってきた)

和「へえ……どの時代の相手が一番強かったですか?」

咲(たぶん現代じゃないかな。平安とか、楽勝過ぎてつまらなかったよ。ちょっと嶺上開花したらもう顔真っ青にしてさ)

 ――平安時代

末原「う、生まれてきてすいませんでしたあああああああ!!!!」

 ――

和「なんていうか、相手の方が不憫ですね……」

咲(そんなことないよ。弱ければ負ける、強ければ勝つ……それだけのこと)

和「咲さん……咲さんは、麻雀、楽しいですか?」

咲(楽しいよ、楽しいに決まってる)

和「そう……ですか」

和(咲さん……なんだか……ここのところずっと……思いつめているみたいです……強過ぎる人の気持ち……今の私にはわかりませんが……小鍛治九冠なら……或いは……)

 ――新初段シリーズ・日本麻雀院

和(憧さんと大星さんは……まだですか)

霞「あら、和ちゃん。おはよう」

和「霞先生……おはようございます」

霞「対局室はこっちよ。まだ入ったことなかったわよね。案内するわ」

和「ありがとうございます」

 ――幽玄の間

霞「毎年新初段シリーズはここで行われるの。たくさんの新初段たちが……ここからプロの道を歩き始めたわ」

和「霞先生もですか?」

霞「ふふふ……和ちゃん、世の中には知らないほうがいいこともあるわ」

和(この人本当にいくつなんだろう……)

霞「じゃ、ごゆっくり」

和「はい……(ごゆっくり……?)」

咲(和ちゃん……感じない?)

和(感じるとか感じないとか、そういうオカルトを前提に話さないでください)

咲(ま、扉を開ければわかることだけどね。もう……中にいるよ)

和(緊張しますね)

咲(卓を囲むのは二年振り……あのときは途中で和ちゃんが飛び出しちゃったから、まともに打つのはこれが初めてか。感慨深いよ)

和(じゃあ、行きましょう)

咲(そうだね)

和「……失礼します」

 ガラッ

和「っ……!!」ゾワッ

健夜「あなたが一番に来たか……おはよう。今日はよろしくね」ゴゴッ

和「よろしくお願いします(オカルトに疎い私でもわかる……すごいプレッシャー……これが世界最強の雀士……!!)」

咲()スッ

和(さ、咲さん……!)

健夜「どうしたの、原村さん。座らないの?」

和「あ、いや……その……(座りたくても座れないというか……)」

咲(……あれ?)

和(ど、どうしたんですか、咲さん?)

咲(和ちゃん……なんだかこれ、点棒がおかしいよ? 小鍛治さんのとこだけ1000点で……あとの三人は33000点……?)

和(ああ、それはハンデですよ。新初段とタイトルホルダーが普通に打つわけないじゃないですか)

咲(なっ……そんな大事なことなんで教えてくれなかったの!!!?)

和(えっ?)

咲(確かに私は小鍛治さんと打ちたいって言ったけど、別に打てればなんでもいいってわけじゃないんだよ!? 真剣勝負じゃないと意味がないんだよっ!!)

和(ええええ……そんな……私だってついこの間まで知りませんでしたし……)

咲(危なかったよ。和ちゃんのせいで、大事な一局が台無しになるところだった)

和(な、なんですかその言い方!?
 私だって……私にとっても小鍛治プロと打てる機会は大事なものだったんです。それを……咲さんが打ちたいっていうから……)

咲(ハンデを背負ってる人に勝ったって、なんの意味もないよ。私が興味あるのは、あくまで最高状態のこの人だから)

和()カチーン

和(…………本当に勝てるんですか?)

咲(は?)

和(咲さんの強さは、よく知っています。けど……小鍛治九冠だって、間違いなく強いです。案外、ハンデを背負ってても、小鍛治九冠が勝っちゃうんじゃないですか?)

咲(和ちゃん、それどういう意味かな)

和(言葉通りの意味です。咲さんは、ハンデがあったら小鍛治九冠に勝てるみたいに言ってますけど、私には、ちょっと信じられないです)

咲(ふうん……和ちゃん、これだけ一緒にいるのにまだ私の強さがわからないんだね。いいよ……わかった、そこまで言うなら、打つよ。
 ただし……私がハンデを背負ってね!!)

和(えっ……?)

咲(私の点数を、32000点、小鍛治さんにあげる。子の役満直撃分。それで勝てば文句ないでしょ?)

和(あ、いや、別にそういうことをしてほしかったわけじゃ……)

咲(なんだか燃えてきたよっ!!)ゴッ

和(き、聞こえてない……)

健夜「(ん……なんだか妙な気配を感じる……)あ、あの原村さ――」

 ドタドタッ ガラガラッ

淡「おっはよーございまーすっ!!!」

健夜「淡……扉は静かに開けなさい」

憧「(あ、小鍛治九冠……もう来てたんだ、早っ!)お、おはようございます!」

健夜「おはよう、新子さん。さあ、全員揃ったことだし、まだ対局開始までは時間があるけれど、場決めをしましょうか」

三人「はいっ!!」

 ――観戦室

晴絵「おっ、やってるやってる」ガラッ

シズ「あっ! 赤土先生!! それに宥さんと灼さんも!」

宥「来ちゃった……」

灼「まあ、来ないわけにはいかないよね」

南浦「(赤土門下の人たち……)あ、あの……」

晴絵「ん、君は確か……南浦さんか。どうした?」

南浦「松実さん……松実玄さんは、お元気ですか?」

晴絵「ああ、玄な。元気そうだぞ。この間、中国から手紙が届いた」

南浦「ちゅ……中国ですか……」

晴絵「言葉に慣れるのが大変だそうだ。麻雀そのものは、言葉が通じなくても打ててるみたいだけどな」

南浦「そうですか。まあ、元気ならよかったです」

晴絵「心配してくれてありがとう。何か、あいつに言いたいことがあれば伝えておくが」

南浦「いえ、会ったときに、自分で直接言います。お気遣いありがとうございます」

灼「ハルちゃん……玄のことも大事だけど、なんか和が大変なことになってるっぽい……」

晴絵「え?」

宥「これは……何があったの……?」

晴絵「シズ、東一局の配譜、あるか?」

シズ「どうぞどうぞ!」

晴絵「…………なんだ、これ? 小鍛治さんの先制リーチに……和が三連槓……?」

宥「嶺上開花和了り拒否……そのまま小鍛治九冠に放銃」

灼「カン裏モロ乗りで……小鍛治九冠はリーチドラ十二……数え役満。子だから32000……」

晴絵「わけがわからないぞ……和。というか……これじゃまるで……」

トシ「わざと放銃した……そんな風に見えるねぇ」

晴絵「うわっ!? 熊倉さん……なぜここに……!!?」

トシ「もちろん、注目の好カードだからだよ。去年よりよっぽど面白そうな卓じゃないか。特に……あの原村和」

晴絵「和が、なにか……?」

トシ「何か、とはね。あんた、あの子の近くにいて何も感じなかったのかい? 私はちらっと見ただけでビビビっとカンが働いたもんだけどねぇ」

晴絵「カン、ですか。非科学的ですね」

トシ「私のカンを甘く見てるうちは、いつまで経ってもタイトルを獲れないよ」

晴絵「ご忠告痛み入ります」

トシ「小鍛治も……あの子のことは気にかけているみたいだね。この新初段シリーズ、石戸九段の誘いに、二つ返事で承諾したそうだよ。
 私を煩わせるわけにはいかないから……とかなんとか言ってたそうだが」

晴絵「まあ、小鍛治さん……というか、小鍛治さんの門下の宮永照ですね。
 彼女と原村和は、以前、ちょっとした衝突をしてまして、そのときに小鍛治さんも一度和と卓を囲んでいます。それなりに気になってはいたはずですよ」

トシ「宮永家の生き残りとも因縁があるのかい。ますます面白いじゃないか、原村和」

晴絵「それで、さっき和がわざと放銃したとか、そんなことをおっしゃっていましたが、仮にそうだとして、なぜそんなことをしたんだと思います?」

トシ「決まってるだろ、ハンデをあげたのさ」

晴絵「は……? ハンデ? 和が、小鍛治さんにですか? そんなバカな」

トシ「私だってそう思うよ。けど、そうとしか見れないじゃないか。ただのリーのみにわざわざカンドラを加えて、嶺上開花を和了り拒否してまで差し込み。
 これで、小鍛治と原村和の点数がひっくり返った。対局が始まったときは小鍛治が背負っていたハンデを、今度は丸々原村和が負っている。あからさまじゃないか」

晴絵「しかし、小鍛治さん相手にハンデを背負って……一体何が狙いなんです」

トシ「もちろん、勝つことだろうね」

晴絵「ありえない」

トシ「私だってそう思うよ。小鍛治健夜は名実ともに世界最強の雀士だ。その小鍛治相手にハンデを背負って勝てる人間なんて……現世にはいないだろうね」

晴絵「現世にはって……過去にもそうそういないでしょう。未来にも現れるとは思えない。実際、それくらい強いです、あの人は」

トシ「しかし……『宮永咲』ならどうだろうねぇ?」

晴絵「……江戸時代の、ですか?」

トシ「まあどっちでもいいさ。ほら、あんたも噂くらいは聞いてるだろう? 最近……その宮永咲が化けて出たらしいんだよ。ネット麻雀の世界にね」

晴絵「まさか『saki』……」

トシ「そう。それがもし、本当に宮永咲の亡霊だとして、そいつがあの卓にいるとしたら……どうだい?」

晴絵「私は……それでも小鍛治さんが勝つと思いますよ。『saki』は確かに強いが……小鍛治さん相手にハンデを背負って勝とうというのは傲慢過ぎます」

トシ「おやおや、ハンデがなければ勝敗はわからない、とも言いたげだね」

晴絵「好きなように解釈してください。とにかく、私は小鍛治さんが負けるとは思えない」

トシ「まあ……本人もそう思ってるだろうね。モニター越しだとわかりにくいが……あの顔はたぶん……」

晴絵「ええ……怒ってますね……」

 ――対局室

健夜(和了れるから思わず和了っちゃったけど……まさかカン裏が三枚とも同じなんて……淡じゃあるまいし……今のを故意にやってのけたんだとしたら……)

健夜(私にハンデをくれた……ってことになるよね。自分がハンデをもらって打つのは嫌だから……そのハンデを私に押し付けた。
 しかも、この東二局、親になった途端に感じる……この禍々しい気配……)

咲(………………)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

健夜(ここから私に勝つつもりなんだね……? ハンデがあったら絶対に勝てる自信があるから……むしろハンデを背負って勝っちゃおうって……そういうことだよね……?)

健夜(原村さん……前に、照と対局した牌譜を見たことがある。誠子と尭深までをも同時にトバした一局)

健夜(それに……同じような打ち筋で、『saki』とかいうネット雀士の牌譜も見た……)

健夜(今の三連槓は……あのとき照をトバした雀士の……『saki』の打ち筋であるように見える。
 けど、原村さんの普段の打ち筋は私も知っている。こんな無茶苦茶な麻雀は打たない。なのに……時折見せる不可解な打牌。
 よくわからない。よくわからないけど……わかってることが一つだけある)

健夜(こいつは……この私を相手に、ハンデを背負って勝とうとしている)









健夜(     ナ     メ     ん     な     )

 ――

健夜(さて……今局、この中盤で原村さんから打ち出されたのは生牌のドラなわけだけど……)

健夜(それを鳴けば私はテンパイに取れる。遠からずドラ三で和了れるとは思う。けど……対面の原村さんから鳴くと……以降、原村さんがツモるはずだった牌が私に流れてくる……)

健夜(それに……赤土さんと新子さんのお姉さんと四人で打ったときの、あの一局)

健夜(私が原村さんの槓材を掴まされた一局……を思い出すまでもない、か)

健夜(大きな釣り針)

健夜(しかし、そうだとすれば、鳴かなければ鳴かないで、和了られることもまた事実……)

健夜(けど、狙いがわかっていれば逸らすことは容易い……)

健夜「チー」

咲(……!?)

健夜(こうされると……困るんでしょう?)タンッ

和「ロ……ロンです。2000……」

健夜(!!!?)

 ――観戦室

晴絵「こ、小鍛治さんが……!!?」

宥「振り込んだ……」

灼「新初段相手に……信じられない」

トシ「面白くなってきたねぇ」

シズ「うおおおおお和頑張れえええええ!!!!」

 ――対局室

健夜(ははっ……手を抜いたつもりはなかったんだけどな……まだ……侮る気持ちが残ってたか)

咲(完全に読まれていた……たまたま和了れたからいいけど……これくらいの罠じゃ出し抜けない……)

健夜(次は……こちらから仕掛けてみるか……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(相手は私と五分を張る雀士……敬意を持って全力で闘わないと……この人相手にこの点差をひっくり返すには……もっともっと深く罠を張らないとダメだ……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和(こ……この二人の板挟みなんて……プレッシャーだけで死んでしまいそうです……比較的そういうのに鈍感でよかった……)

和「い、一本場……」

 ――観戦室

シズ「あ、あれ……和……どうしたんだろ……?」

南浦「理牌は済んでいるのに……動かない?」

晴絵「おいおい……第一打で何分悩むつもりなんだ……」

宥「もう……五分以上経ちますね。いくら和ちゃんが第一打で悩むのがクセだといっても……これは……」

灼「……異常……」

 ――対局室

咲(迷うな……山や他家の手牌……見えてるところから全ての可能性を潰していくと……この二筒あたりが期待値が高そうだけれど……ただ……)

健夜(………………)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(ドラがさっきと一緒なんだよね……たぶん偶然じゃない……前局はドラを鳴かせて食おうとしたけど……今回は……その意趣返しを狙われてる気がするよ。
 どんなに目を凝らしても見えない闇……向こうは……きっとその闇の中に罠を張っている……たぶん罠そのものが発動するのはずっとずっと先のことだけど……この局面……迂闊に飛び込まないほうがいい、か)

 ――流局

和「ノーテンです」

健夜「……ノーテン」

憧・淡「テンパイ」

健夜(…………)

咲(…………この人……今わざとノーテンにした……テンパイだと……私がゼロ点になっちゃうから……!!!)

健夜(さあ……あなたも私と同じ苦渋をかみ締めればいい)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(この私を相手に……情けをかけた……!? こんな屈辱初めてだよ……!! 絶対に……後悔させてやる……!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和(な……なんだか異次元レベルの駆け引きが行われている感じがしますが……局面そのものは恐ろしく地味ですね……)

 ――観戦室

晴絵「膠着状態ですね」

トシ「そうだね。さっきから、原村のほうが何かを仕掛けているように見えるが、小鍛治が磐石で全て跳ね返されている」

晴絵「点差の枷が……響いてるということですか」

トシ「だろうね。高い手を狙う側は、多少の無理をしなければならない。だが、その無理を、小鍛治は一つも通さない」

晴絵「当たり前ですよ。小鍛治さんはそんな甘い人じゃない」

トシ「だが、小鍛治のほうも決して楽をしているわけではなさそうだね。ほんの僅かだけど、苛立ちが見える。ありゃ、思い通りの麻雀を打ってるやつの顔じゃない」

晴絵「小鍛治さんが苛立ってるって……タイトル戦でもなかなか見られないですよ……」

宥(わ、私たちには地味な麻雀が続いてるようにしか見えないけど……)

灼(う、うん。なんだかんだで、トップは憧から直撃を取った大星さんだし……小鍛治九冠と和にはあの東二局以降和了りがない……)

シズ(こ、これ……どうなっちゃうんだろう……)

 ――対局室・オーラス

咲(参ったな……こんなにハンデがきついなんて……想定外だよ)

健夜(参ったな……ハンデがあってよかったなんて……予想外だよ)

咲(もう……私にはこのオーラスしかない……ここで……取り返す……!!)

健夜(オーラス、ラス親か……どうしたもんかな……)

 ――終局

咲(くっ……!!!!)

和「……テンパイ」

淡・憧「ノーテン」

健夜「…………ノーテン」

咲(ええっ!!!? そんな――テンパイしてるはずなのに……ラス親続行しないの……!!?)

健夜(もっと続けたかった気持ちはあるけれど……これ以上はタイトル戦に響く……)

淡「わーいっ!! 私の勝ちー!! 先生、どうしたの、お腹でも痛かったの?」

健夜「う、うん。そんな感じ。そうだ、淡、たぶんロビーに記者さんたちがいるから、行ってくるといいよ」

淡「わかりましたー!!」ダッダッダッ

憧「騒がしいやつ……。あ、和、ハルエたちみんなで見に来るって話だったから、私先に観戦室行ってるね。和もすぐにおいでよ」ダッダッダッ

和(ふ、二人きりになってしまいましたね……)

健夜「じゃあ、原村さんもお疲れ様」

咲(ちょ、ちょっと待ってよ! 逃げるの!!? まだ勝負はついてないのに!!)

健夜「ああ、そうそう原村さん」

和「は、はい」

健夜「あなたとは、なんのハンデもなしに打ちたかったな」

和「っ!!?」

健夜「あなたが、どういうつもりであんなことをしたのかはわからない。けど、あなたの持つ『何か』は、私にも見えた気がする」

和「そ、それは……」

健夜「ひとまず、今日はこれくらいにして、私たちの決着はお預けにしよっか。原村さんがタイトル戦まで上り詰めてくるのを楽しみに待ってるよ」

和「あ、あ……ありがとうございます……」

健夜「で、原村さんがタイトル戦の挑戦者になったら、次こそはちゃんと五分の条件で打とうね」

咲(うん。いつか、必ず……!)

健夜「じゃあ、私はこれで……」

和「お、お疲れ様です……」ペコリ

 ――

和(咲さん……その、ごめんなさい。私、ついカッとなって。
 別に、咲さんに負けて欲しかったわけじゃなくて、その、私にとっては雲の上の人である小鍛治九冠を……ハンデがあったら絶対勝てるとか、興味ないとか……。
 そしたら、私みたいな弱い雀士なんて咲さんの目に映ってないんだろうなって思えてきて……それで……)

咲(いいよ、和ちゃん。私が悪かった。
 新初段シリーズ……和ちゃんにとって大切な一局だったのに……和ちゃんの気持ちも考えないで、自分勝手なことばっかり言って。ごめんなさい)

和(咲さん……)

咲(それに、和ちゃんのおかげで、すっごい収穫があったよ)

和(え……?)

咲(ハンデがあったとは言え……こんなに思い通りにならなかったのは久しぶり……いや、初めてじゃないかな)

和(さ、咲さん……?)

咲(小鍛治健夜さん……次は五分の条件で打とう……そう言ってたね)

和(そうですね……)

咲(やる気……出てきたよ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和(わ、私はもしかして……とんでもないことをしてしまったのでは……)

トシ「おやおや……弟子に負けておいて随分と楽しそうじゃないか。何かいいことでもあったのかい?」

健夜「熊倉さん、いらっしゃってたんですね。ええ……まあ、おっしゃる通りですよ。今、少し面白い打ち手と麻雀をしてきたところなんです」

トシ「そうか。あんたがそう言うんだから、そいつはよほどの雀士なんだろうね……」

健夜「正直、こんなにわくわくするのは初めてですよ。
 赤土さんと打つのも楽しいけれど、それとはまた種類が違うっていうか……彼女とは、純粋に、白黒はっきりつけたいって思えるんです」

トシ「そういう相手がいるってのは幸せなことだよ。特に、あんたみたいな強過ぎるやつにとってはね」

健夜「そうですね。私は……強い」

トシ「どうした……珍しく威勢がいいじゃないか」

健夜「つきましては、熊倉さん」

トシ「なんだい……?」

健夜「彼女を待つにあたって、私は私に相応しい称号を得ようと思います。私は……麻雀界の『Grandmaster』として、彼女と打ちたい」

トシ「ははっ、史上初の九冠に輝いておいて、これ以上どんな称号を手に入れようっていうんだよ」

健夜「惚けないでください、熊倉さん。あなたほどの人が、タイトルの総数を知らないはずがないでしょう?」

トシ「…………本気なのかい?」

健夜「はい。なので、熊倉さん。今のうちに身辺整理をしておいたほうがいいと思いますよ。私、ちょっとこの昂ぶりを抑えられそうにありませんから……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

トシ(原村和……とんでもないことをしてくれたよ……! わかってんのかい……!!? あんたが喧嘩を打った相手は……人の形をした鬼だよ……!!!)

 ――一ヵ月後

恒子『決まったァァァァァァァァ!!!! 麻雀界の幻のタイトル『天和』が……ついにこの人の手の中にィィィィィィィ!!!』

 ――

トシ「もう……何も言うことはないよ」

 ――

晴絵「正気か……小鍛治さん……!」

 ――

和「咲さん……小鍛治さんが……!!」

咲(うん。これくらいはやってもらわないと……)

 ――

恒子『グランドマスター・小鍛治健夜!!!! 前人未到の十冠を達成でええええす!!!』

 ――赤土門下

晴絵「小鍛治さん……まさか本当に十冠になるなんて……あの人ならとは思っていたが……未だに信じられない」

宥「熊倉さん……引退するかもしれないって噂が流れてますね」

灼「ここは、やっぱりハルちゃんが止めなきゃ。ハルちゃん、二ヵ月後には『七星』のタイトル戦が控えてるし」

晴絵「どーだかな。正直、今のあの人に敵う気がしないよ」

憧「ハルエ……」

晴絵「ま、やる前からうだうだ言ってても仕方ないよな。みんなはどうだ、最近勝ってるか?」

シズ「は、はいっ! 私、今月で院生順位が五位まで上がりましたっ!!」

晴絵「お、そりゃいい。その調子で頑張れよ、シズっ!!」

シズ「ありがとうございますっ!!」

晴絵「和と憧はどうだ?」

憧「私は勝ったり負けたりかなぁ。最終的にはなんとかプラスの成績で終わりたいけどねぇ」

和「私は……」

宥「あっ……見たよ、和ちゃん。明日の順位戦……とうとう初対局だよね」

灼「……宮永照……」

和「そ、そうなんです。今は、そのことしか考えられなくて……」

晴絵「去年、小学生の大会で打って以来か」

和「はい」

憧「和、私の代わりに一発ぶちかましてきてよねっ!!」

和「できる限りのことはします」

晴絵「持てる力を全部ぶつけてこい、和。結果を聞くのを楽しみにしてるぞ」

和「はい。ありがとうございます……」ペコリ

 ――自宅

和「咲さん……」

咲(ん……?)

和「いよいよ……明日です」

咲(そうだね)

和「私……どんな顔して打てばいいのでしょう」

咲(いつも通りでいいんだよ。いつも通り、顔を真っ赤にしてさ)

和「す、好きで真っ赤になってるわけじゃありません!!」

咲(あ、もしかすると、向こうも真っ赤になっちゃうかもしれないよね。前に『ふざけるな!』とか言われたときは、怒って真っ赤だったし)

和「も、もうあのときのようには行きませんよ!! そこそこいい勝負ができるんじゃないかと思ってます」

咲(だといいね。そしたら、今度は惚れ直して真っ赤になるかもね。なんだかんだで、照は和ちゃんのこと気になってるみたいだから)

和「せめて、失望させないくらいには打ち回したいものです……」

咲(なんにせよ、明日だね)

和「はい。明日です……」

 ――小鍛治邸

健夜「照、まだ起きてたの?」

照「先生……先生こそ、こんな夜遅くに帰ってくるなんて……」

健夜「ああ、取材だなんだって、色々やってたら遅くなっちゃった」

照「福与さんが心配してましたよ。どうかご自愛ください」

健夜「わかってるよ。それに、来週は温泉だしね。あとちょっとだけ頑張れば……」

照「先生……あの新初段シリーズから、前にも増して麻雀に熱が入っていますよね。何か、あったんですか?」

健夜「ああ、照、原村さんのことが気にあるの?」

照「い、いや、別に! 気になっているわけでは……」

健夜「いやいや、そこは気にしておきなさいって。彼女はあなたを追って、プロの世界に入ってきたんだから。上ばかり見ていると、足元を掬われるわよ?」

照「もちろん、ないがしろにしているわけではありません。今だって……原村和の牌譜を見ていたところです」

健夜「明日、だもんね」

照「はい」

健夜「勝てる?」

照「まだ、負けないとは思っています」

健夜「まだ、か。随分と評価しているのね、彼女のこと」

照「買い被りですかね」

健夜「それは自分の目で確かめてきなさい。さ、今日はもう眠ったほうがいい。私も寝るから」

照「はい。おやすみなさい」

 ――翌日・順位戦会場

和(照さん……なかなか来ませんね……)

咲(そうだね。もう対局の時間なのに)

 タッタッタッ

和(あ、照さん……!?)

 ガラッ

和「あ……え? あ、灼さん?」

灼「和、落ち着いて聞いてほしいんだけど……」

和「な、なんでしょう……」

灼「小鍛治さんが……倒れたらしいんだ」

和「え――」

 ――数日後・病院

健夜「はは……大袈裟大袈裟……ちょっと立ちくらみしただけなのに」

恒子「大袈裟じゃないよ……まったく……」

健夜「あっ、また負けちゃった。暇つぶしにやってみたけど、このネット麻雀? わりと面白いね、全然勝てないや」

恒子「入院しても麻雀とか……すこやんは本当に麻雀バカだな……」

健夜「そ、そんなこと言われても……」

 タッタッタッ ガラッ

和「あ、あの……」

恒子「おっ? 君は……」

健夜「原村さん……来てくれたの?」

和「あ、いや、その……心配で(咲さんが様子を見に行こうって聞かないから……)」

健夜「ありがとう。あ、そこにお見舞いのお菓子があるよ。よかったら、原村さん、どうぞ」

和「は、はい。ありがとうございます」

恒子「じゃ。私はちょっと先生のところ行ってくるから」

健夜「ごめんね、こーこちゃん」

健夜「原村さんも、ごめんなさい。私が倒れた日、照と対局があったんだよね?」

和「あ、それは……いいんです。小鍛治さんがご無事で何よりでした」

健夜「照には、大したことないから打ってきてって言ったんだけどね。たぶん、気が動転したままであなたと打つのが嫌だったんだと思う。
 それだけ、照もあなたとの対局を楽しみにしてたんだよ」

和「それは、嬉しい限りです」

健夜「あぁあ、それにしても、年齢には勝てないってこのことかな。十冠獲った直後に倒れるなんて。早く復帰して麻雀が打ちたいよ。
 まだそんなに経ってないけど、そろそろ禁断症状が出そう。牌に触りたい……今は、これで我慢してるんだけどね」

和「あ……パソコン……? 小鍛治さん、ネット麻雀やるんですか?」

健夜「うん。いい機会だから始めてみたの。原村さんは、今時の子だから、こういうのは慣れっこ?」

和「まあ、はい……ネット麻雀は、わりと得意なほうです」

健夜「そうなんだ。私は全然だよ。普段はもっと牌が見えてるのに。やっぱり、牌を握ってないとダメみたいだね」

和「あ、あの…………」

健夜「ん?」

和「私の知り合いに……とても麻雀の強い人がいます。
 その人は……わけあって人前には出れなくて……ネット麻雀しかしないんですが……どうしても小鍛治さんと打ちたいと言っていて……」

咲(和ちゃん……?)

和「その、もし小鍛治さんさえよければ……その人と打っていただけないでしょうか」

健夜「それって……『saki』のこと?」

和「ご、ご存知だったんですか……」

健夜「まあね。照が対局した牌譜を見せてもらったことがある。ぼちぼち強いみたいだよね」

咲(ぼちぼち……?)

健夜「いいよ。私も、この入院生活はけっこうストレス溜まるから。ネット麻雀でも、強い人と打つのは気晴らしになるよ」

和「あ、ありがとうございます」

咲(気晴らし……?)

健夜「でも、対局までには何日か待ってね。このパソコンがなかなか言うこと聞いてくれなくて。慣れるのに少し時間がかかりそうだから……」

咲(私は……本気で勝負がしたいのに……っ!!!)

和「あ、あの! 本気で打ってくださいね!?」

健夜「ん? もちろんだよ。ほら、私って手加減苦手だし」

和「その、ネット麻雀が苦手なら、断っていただいても全然構わないですから!」

健夜「いや、まあ、確かに慣れてはないって言ったけど。……もしかして、原村さん」

和「はい……」

健夜「私が負けるって思ってる?」

和「え? あ、いや、その……」

健夜「じゃあ、こうしよっか。私、その『saki』って人に負けたら、麻雀界を引退する」

和「えええええ!? そんな、困りますよっ!!!」

健夜「…………原村さん、本当に私が負けるかもしれないと思ってるんだね。その、『saki』に……」

和「ええっ!? それは……その……」

健夜「わかった。持ち時間やルールは、タイトル戦と同じにしよう。それで、卓を囲むあと二人だけど、私が選んでおくよ。
 できるだけ頑丈な人にするつもりだから、安心して」

和「小鍛治さん……」

健夜「これでいいでしょ? 半荘一回だけだけど、プロのタイトル戦と同じ条件で闘おう。それで、もし私が負けたら、私は麻雀界を引退する」

和「そ……」

健夜「ただし、私が勝った場合には、その『saki』って人の名前を教えて。いくらネット麻雀しか打たない人でも、それくらいはできるでしょ?」

和「ちょ、ちょっと待ってください小鍛治さん、私は別に――」

咲(和ちゃん……!!)

和(え……?)

咲(感謝するよ……!!!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和(咲さん……!!!?)

健夜「けどなぁ、このパソコンがなぁ。ねえ、原村さん。原村さんはネット麻雀が得意なんだよね? なんか、コツとかないの?」

和「え? いや……別に普通に打つだけですけど。
 そう言えば……私の知り合いの『saki』さんも、最初はうまく打てなかったんですが、
 なんでも、いつもは卓と牌を支配するのに使ってる力をパソコンにかける……と、うまくいくんだとか……」

健夜「ああ、なんだ。そういうことね。なるほど、このパソコンを支配下に置けばいいのか……!」

和(い、意味が通じるとは思ってなかった……!!)

健夜「じゃあ……ちょっとやってみようかな」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ボンッ プスプスプスプス

健夜「あはは、どうしよう。パソコン壊れちゃった……」

和(そんなオカルトありえません……!!!)

健夜「これはノートじゃダメかなぁ。こーこちゃんに言って最新のデスクトップを買ってきてもらうよ。勝負は二週間後くらいでいいかな?」

和「は、はい。小鍛治さんの都合のいい日に合わせます」

健夜「よろしくね。あ、あと……赤土さん」

和「え……?」

 ガラッ

晴絵「バレてましたか……」

健夜「話は聞いていたよね?」

晴絵「まあ、大体は。和が『saki』と知り合いだって言い出したときは、心臓が止まるかと思いましたけど」

健夜「赤土さんも、打ちたがってたでしょ。『saki』と」

晴絵「そうですね。もしよかったら……混ぜていただきたいところです」

健夜「これで、面子はあと一人だね」

晴絵「なら、石戸九段でいいんじゃないですか? あの人なら、何があっても大丈夫そうですし」

健夜「そうしよっか。じゃあ、決まりだね。原村さん、今言ったこと、『saki』さんにちゃんと伝えておいてね」

和「わかりました」

 ――帰り

晴絵「いやぁ、しかし驚いたな。和と『saki』が知り合いだったなんて、世間は狭い」

和「あんまり驚いているようには見えないですけど……」

晴絵「まあ、そりゃね。私の人生、小鍛治さんに驚かされっぱなしだから、ちょっとやそっとのことじゃ驚かないよ。たとえ、『saki』が和本人だとしても……」

和「そ――それはありえませんっ!!」

晴絵「おっ、図星かー? いいけどさ。『saki』の正体には、さほど興味はない。私はただ、その強さに興味があるだけだ」

和「このことは……皆さんには内緒ですよ。特に、憧さんとか、絶対いろいろ聞いてきそうですし」

晴絵「大丈夫だよ。あくまでプライベート。そういうことにしとく」

和「ありがとうございます」

晴絵「しかし、ネット麻雀か。私もかじってはいるけど、本腰を入れてやったことはないな。よし、じゃあ、和。今からちょっとネットカフェに行って特訓しよう!!」

和「あ、あの……赤土さんは、パソコンを壊したりしないです、よね?」

晴絵「おいおい、私はいたって普通の人間だぞ。そんな化け物みたいな真似ができてたまるか」

和「ですよね……」

 ――

憧「ねえ、この『legend』って、ハルエじゃない……?」

灼「うん。この打ち筋はハルちゃんで間違いない」

宥「じゃ、じゃあさ……こっちの『Grandmaster』って」

憧「絶対小鍛治さんでしょ」

灼「ハルちゃん、最近パソコンばっかりいじってて構ってくれないと思ったら……」

憧「一体どうなってんの? ハルエに聞けばわかるかな?」

灼「いや……私が聞いたときは何も言ってくれなかった。たぶん、なんか隠してる」

宥「ネット麻雀かぁ。そういえば、あの人覚えてる? 『saki』って人」

憧「もちろん覚えてるわよ。結局、あの宮永照と打ったきり、ネット界からは消えちゃったけど。『saki』……今頃、何してるのかなぁ……」

 ――

智葉「先生、ネットの中に小鍛治十冠と赤土九段がいます」

ダヴァン「what? 嘘デショ?」

智葉「嘘じゃありませんよ、ほら……」

 ――

誠子「げっ……先生ってば、大人しく入院してると思ったらこんなところで何してんですか……」

菫「ただの暇つぶしってわけじゃなさそうだが」

尭深「……まるでウォーミングアップ……」

淡「え? じゃあなに、先生は、誰かネット麻雀で対戦したい人がいて、その対局に向けて肩慣らしをしてるってこと?」

照(……まさか……)

 ――

霞「ネット麻雀、ねぇ。盲点だったわ……」

初美「先生、この『saki』ってやつ、牌譜見たですよー。間違いなく、九年前のあいつですねー」

巴「あのとき……姫様がその身を呈して祓ったように見えたのですが……勘違いでしたか。あのときの無理がたたって、姫様はずっと牌を握れなかったというのに……!」

小蒔「ごめんなさい……みんなの力を借りてたのに……取り逃がしていたなんて……」

はるる「」ポリポリ

霞「そろそろ……終わりにしなければならないようね。どういう方法を使ったのかわからないけれど……あの『魔物』が再び現世に蘇った。
 霧島神宮の総力を上げて……今度こそあの悪霊をこの世から葬り去るわよ……!!」ゴッ

 ――和・自宅・決戦前夜

和「咲さん、よかったんですか? 小鍛治さんや赤土さん、それに霞先生も、ここのところ毎日ネット麻雀をしていたようですが……」

咲(私は大丈夫。もう、できることは全てやってある。あとは、全力で打つだけ)

和「明日……ですか。今度こそ、本気の小鍛治さんと戦えるんですね」

咲(うん……あの人に勝てば……私の最強が証明される……!)

和「咲さん……あの、私、少し不安なんですが……」

咲(どうして? 大丈夫、私は負けないよ)

和「いえ、そうではなく。咲さん……咲さんって幽霊ですよね? きっと……何か未練があるんですよね?
 それが、もし麻雀で最強になることなら……咲さん、小鍛治さんに勝ってしまったあとはどうなるんですか……?」

咲(それは……私にもわからないよ……)

和「そんなっ!!?」

咲(でも……たぶんだけど、麻雀で最強になることは、私の未練じゃないような気がするんだ。
 何か……もっと大事なことがあって……今はもう思い出せないんだけど……麻雀で誰かに勝つことは、そのために必要な何かだったような気がするんだ。だから……)

和「だから……小鍛治さんに勝っても消えたりはしないはず、ですか? けれど……小鍛治さんに勝ってしまったら……もう咲さんの相手はこの世にいなくなってしまいます。
 そうなったら……消えないにしても……咲さんはずっと寂しいままで過ごすことになります……」

咲(寂しくなんか、ないよ。こうやって、和ちゃんが一緒にいてくれるから)

和「でも……!!」

咲(和ちゃん、勝ったあとのことは勝ってから考えよう)

和「咲さん……絶対、勝手にいなくなったりしないでくださいよ……?」

咲(うん。心配しないで。いなくなるときは、さようならって、ちゃんと言うから……)

和「約束ですよ。では、おやすみなさい……」

咲(おやすみ、和ちゃん……)

 ――『saki』vs『Grandmaster』当日

和「準備はいいですか、咲さん」

咲「うん。いつでも……」

 ――病院

健夜「照、あまり私の近くにいないほうがいいと思うよ。身の安全は保障できない」

照「自分の身は自分で守ります。もちろん、集中の妨げになるというのなら出ていきますが……しかし、先生を一人にしては、何かあったときに……」

健夜「ありがとう。ま、今の照なら観戦するくらいはできるかもね。危ないと思ったら、すぐに逃げること。わかった?」

照「はい」

 ――赤土邸

晴絵「なんだ、みんなして」

憧「なんだ、じゃないよ、水臭いっ!」

灼「そうだよ、ハルちゃん。小鍛治さんのとこの亦野さんたちに聞いたよ。ハルちゃん、今日『saki』と小鍛治さんと石戸九段と戦うって」

宥「何かあったらどうするつもりですか……まだ、玄ちゃんだって帰ってきてないのに……」

晴絵「大袈裟だなぁ、たかがネット麻雀だろう?」

憧「とか言って、ハルエ。既に顔が真っ青だよ。大丈夫?」

晴絵「ははっ……熊倉さんと五花を奪い合ったときも……ここまでじゃなかったんだがな……」

宥「私たちでよかったら……暖めますから」

灼「ハルちゃん、力になるよ」

晴絵「ありがとう、みんな。よし……じゃあ、魔物退治といきますか!!」

 ――

霞「さて……いよいよこの日が来たわね。姫様、初美、巴……それに春も。みんな覚悟は出来ているかしら?」

小蒔「先生……本当にやるんですか……相手はあの『魔物』……いくら先生でも……」

霞「もちろん、命を賭して祓いに行くわ」

小蒔「そんな……」

初美「姫様、先生は……ずっとこのときを待っていたんですよー」

巴「何があっても……最後まで見守りましょう」

小蒔「みんな……」

はるる「」カリカリ

 ――定刻

和「時間が……来ました……!!」

咲(始まったね……!!! 私は……小鍛治さんの対面……ラス親……!!!)

 ――

晴絵「私が起家か……こりゃ……最初から捨て身だなっ……!!」ゴッ

 ――東一局・親:晴絵

和「咲さん……立ち上がりはどうですか……?」

咲(上々だね……これなら苦もなく和了れそうだよ……! 新初段シリーズでハンデを背負ってたときとは違う……これが私の最速――!!)

和「あっ……槓材が……!?」

 ――カンッ!!

     ――ツモッ!!!

                   ――嶺上開花ッ!!!

咲(ひとまず先制……!!)

和(す、すごい……小鍛治さんや赤土さん、それに霞先生まで相手に回しているのに……まるで押されてる様子がない……!!
 これが……江戸時代の最強雀士……九年前のインターハイチャンピオン……宮永咲……!!)

咲(さあ……まだまだ行くよ……っ!!!)

照「先生……大丈夫なんですか?」

健夜「まあまあ……照。一発もらったくらいで焦っちゃダメ。力が拮抗していれば、半荘一回で和了れる数にはおのずと限度がある。
 今は……好きなように泳がせておくよ……」

照「あ……また『saki』が……」

 ――カンッ!!

     ――もいっこカンッ!!!

            ――ツモッ!!!






                     ――嶺上開花ッ!!! 

健夜「これで二連荘……次に大きいのが来る、かな。わかりやすいね」

照「先生……」

健夜「さあ……反撃開始だよ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――東三局・親:霞

初美「こ、これ……どっちが優勢なんですかー?」

巴「今のところは『saki』が『Grandmaster』の上を行っているように見える……『legend』も先生も耐えるのに精一杯……この二人……次元が違い過ぎる」

霞「確かに……私や晴絵ちゃんには少々荷が重い部分があるわね。この二人の雀力は……もはや人間のそれを凌駕している」

小蒔「私には……純粋な雀力だけなら……『saki』のほうが『Grandmaster』に勝っているように見えます。しかし……」

霞「そう、麻雀は雀力だけで全てが決まるわけじゃない。『型』の相性にも……大きく左右される」

初美「先生なら『守備型』……レジェンドさんは『分析対応型』ですねー……それでもって……この『saki』ってやつは……」

巴「『万能型』……ですよね。どう見ても。和了能力も、場の支配力も……点数調整能力も……全てが桁違いに高い……」

霞「そう。宮永咲の恐ろしいところはまさにそこ。彼女はなんでもできる……『全能型』と言って差し支えないほどの力よ」

初美「対して……小鍛治十冠の型は……まあ、門下生のやつらを見れば一目瞭然ですけどー……」

小蒔「『超攻撃特化』……!!」

霞「そうね。あの子は……麻雀界史上最強の『槍』。嶺上使いの宮永咲にとって……健夜ちゃんは一番戦いにくい相手かもしれないわ……!!」

はるる「」カリカリカリカリカリカリ

和(さ、咲さん……序盤から畳み掛けていますね……!! しかし、小鍛治さんが大人しいのが不気味ですが……!!)

咲(よし……和ちゃん。助走はばっちり……そろそろ飛ぶよ……!!)

和「は、はいっ!!」

咲(行っくよ……カ――)

                       ――ロン

和(え?)

咲(なあっ……!!?)

   ――槍槓……16000……

咲(うぐっ……!!!?)ゲホッ

和「ええええ!? 咲さん!!? どうしたんですか!!?」

咲(や……槍が一本……お腹に刺さった……)

和「比喩ではなくっ!!!?」

咲(痛いなぁ……こんなに痛いのは久しぶりだよ……!!)

和(さ、咲さん……笑んだ口元から……血が……)ゾッ

咲(やってくれるね……!! いいよ……本気で打ってるのに倍満レベルのダメージを受けたのなんて何百年ぶりだろう……!! 楽しいよ……小鍛治さん……!!!
 もっと一緒に……麻雀楽しもうよ……!!!)ゴッ

 ――

照「これで……!!」

健夜「突き放したね。けど……まだ油断はできない」

照「あ……せ……先生、口から血が……!!?」

健夜「ああ……さっきちょっと唇噛んだからかな。まったく……一つ直撃を取るためにこんなに気張らないといけないなんて……大した化け物だね、この『saki』って人……!!」

照(せ、先生……なんて楽しそうに麻雀を打ってるんだ……!!!?)

 ――東四局・親:咲

灼「ハルちゃん!! しっかりして!!!」

晴絵「……っと、小鍛治さんの一撃の余波で意識が飛んだか。小鍛治さんあるあるだな。状況は?」

宥「幸い……まだ先生のツモは回ってきていません。小鍛治さんが一打目から鳴いて仕掛けてます……」

晴絵「『saki』に連荘をさせないつもりか……小鍛治さん……さては……その攻撃力を今度は全てスピードに回してるな……?」

憧「なんていうか……これ本当に麻雀なの……!?」

 ――

和「さ、咲さん……大丈夫なんですか……!?」

咲(ちょっと……苦しいね。さっきのは痛かった。ここは……仕方ない)

和「仕方ないって……!!」

咲(和ちゃん……和ちゃんにはわからないかもしれないけど、半荘には半荘で一つの流れがあるんだ。今は……下手に足掻くとかえって縛りがきつくなる……ここは我慢なんだよ)

 ――ツモ

和「あ……咲さんの親番が……あんなゴミ手で……!!」

咲(ゴミ手、か。あっちもあっちでなりふり構ってる場合じゃないって感じだね。さあ……小鍛治さん……いつまでそんな薄氷の上で胡坐をかいていられるかな……?
 こっちも……そろそろ回復してきたよ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――南一局・親:晴絵

照「先生……形勢はいかがですか?」

健夜「微妙だね……若干だけど、今は私のほうに分があるかな。
 『saki』……一発逆転を狙ってるようだけど……そちらが力を蓄えるというのなら……こっちにも考えがあるよ……!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

              ――ロンッ!!

 ――

晴絵「ぐあああああああああ!!!!?」ゴボッ

灼「ハルちゃあああああん!!!?」

宥「い……嫌あああああ!!!!」

憧(ハ……ハルエの点数が……ほとんどゼロ……ありえないでしょ!!!?)

 ――南二局・親:健夜

霞「暴れてるわね……健夜ちゃん。これは……次に狙われるのは私かしら……」

    ――ロンッ!!

霞「……ぐっ!」クラッ

小蒔「先生!!? 大丈夫ですか!!?」

初美「て……鉄壁の守備力を誇る先生が目に見えるほどのダメージを……!!! 信じられないですよー!!」

巴「これで『saki』はツモ和了りを封じられましたね……『Grandmaster』の完全一人浮き……これはもう決まりましたか……」

霞「まあ……対局の行方にはさほど興味はないけれどね……ただ……ここで片を付けられてはたまらない。もう少し……なんとかして……時間を稼がないと……!!」

はるる「」カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ

 ――南三局・親:霞

和「と……とりあえず小鍛治さんの親は流せましたが……」

咲(こんな絡め手で私を封殺するなんて……麻雀は四人でやるものだっていうのをよくわかってるね、小鍛治さん。
 これが十冠――『Grandmaster』の麻雀か……面白い……!!)

和「どうするんですか、咲さん。これでは……小鍛治さんから直撃を取る以外に活路がありません。しかし、当然、小鍛治さんは守りに入るでしょう」

咲(いや、それはない。今までの感じだと、小鍛治さんは超がつくほどの攻撃特化型。最後は……私の息の根を止めにくる。まさに、攻撃は最大の防御だね)

和「大丈夫なんですか……?」

咲(和ちゃん……私が何年麻雀やってると思ってるの? 千年だよ、千年。まあ、間が大分空いてるけど。四十年も生きてない小娘に私が負けるはずがない……!)

和(ですが……いくらラス親とは言えこの点数状況……ツモで連荘ができない以上、ラス親の旨味は消えたようなもの……。
 それに……なんなんでしょうか、さっきから……この悪寒は……!!)

 ――南三局二本場・親:霞

照「石戸九段……粘りますね」

健夜「何を考えてるのかはわからないけど、あんまり流局を続けられると困るんだよね……こっちは早く終わらせたいっていうのに……」

照「あっ――先生、危ないっ!!!」

健夜「え――」

    ――ロンッ!!

健夜「う……ぐっ……!!!?」ツー

照「せ、先生えええええ!!!?」

健夜(お……おかしい……!!? ここにきて……『saki』の力が膨れ上がっている……!? まさか……今までのは本気じゃなかった……!!!?
 そんなバカな……!!!!)

 ――南四局・親:咲

和「さ……咲さん……何をしたんですか……?」

咲(ふふ……ちょっと……靴と靴下を脱いだだけだよ……)

和「わかるように説明してくださいっ!!!」

咲(こんな風に熱くなるの久しぶりだから……弾みで思い出したの……私が……一番麻雀を打っていた頃のこと……)

和「え……それ……何年前の……?」

             ――森林限界を超えた高い山の上……。

咲(もちろん……千年前の……)

   ――そこに花が咲くこともある。

和「咲……さん……? どうして……泣いているんですか……?」








        ――お前もその花のように……強く――。

咲(思い……出しちゃったよ……)

 ――南四局・親:咲

霞「まずい……このままでは終わってしまうわ……!!
 なんとか、なんとか粘らないと……!!」

初美「はるるっ!!? まだ終わらないんですかー!?」

巴「お前だけが頼りなんだ、はるる!!!」

小蒔「春ちゃん、お願い……!!!」

はるる「」カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカ
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
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                           カリ
                カリ   カリ     
         カリ
             カリ
  カリ

はるる「…………見つけた」カリッ

初美「逆探知成功ですよー!!!!」

巴「はるる!! 『saki』の居場所は……!!?」

はるる「……長野県……」

小蒔「思っていたよりも近かったですね……!!」

霞「千年……長かったわ……!!!」

初美「……先生……!!」

巴「先生……!!!」

小蒔「先生…………」

霞「さあ……最終決戦と行きましょうか……宮永咲……!!!!」ゴッ

 ――南四局・親:咲

照「せ、先生……!!」

健夜「こんなに……手も足も出ないと思ったのは……生まれて初めてかも……これが……恐いって感覚なんだね……」

照(『saki』……なんて雀士……!!! 先生の全力を持ってしても……届かないなんて……化け物なんてレベルじゃない……神か……それとも神より上の何かなのか……!!?)

健夜「けど……恐怖よりも畏怖よりも……感動が今の私を支配してる……!!! こんな一局はきっともう二度とない……!!!
 この打ち手に敬意を表して……私も最後まで全力で打つ……!!!」

 ――

灼「ハルちゃん……これ以上はやめて……ハルちゃんの身体がもたないっ!!」

晴絵「とめるな……灼。私が貧弱なせいで……この美しい一局を台無しにするわけにはいかないんだ……!!」

宥「先生……わ……私たちの力を使ってください……!!」

憧「ハルエ……死んだら許さないからね……!!」

晴絵「うおおおおおおおおおおお!!!!」ゴッ

和「さ……咲さん!? どうしたんですか!!?」

 ――カンッ!!

咲(ううう……うううううう……!!!!)ポロポロ

         ――もいっこカンッ!!!

和「咲さん!!!」

    ――もいっこ……カンッ!!

咲(和ちゃん……私……思い出したよ……一番大切なこと……私の……大好きだった人……)

                         ――もいっこ……カン……!!!

和「え…………?」

咲(嶺上開花はね……その人に……教えてもらったんだ……)

   ――ツモ……

和「誰なんですか……その人……?」

             ――嶺上開花……

咲(私の……おねえ――)

                                    ピンポーン

 ピンポーン

                ピンポーン
    ピンポーン





 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

和「だ、誰ですか近所迷惑なっ!!」

咲(あっ……待って、和ちゃん……!!)

 ガチャッ

和「あなたは……!!!?」

咲(――!!!!!)ゾッ

はるる「……除霊……開始……!!!!」ピシッ

和「えっ……えええええ!!?」

咲(こ……これ……結界……!!!?)

初美「そういうことですよー……魔物『宮永咲』……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(き……!!? 霧島の……巫女か――!!!?)

巴「九年前のようにはいきませんよ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和「ちょ、ちょっとあなた方……!! 一体なんなんですか!!!? 何をしてるですか!!?」

小蒔「ごめんね……原村さん。あなたには悪いと思っているけれど……その『魔』だけは……見逃せないの……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和「待って……!!? 待ってください!! 魔!!? 除霊!!!!? 宮永咲!!!!? そんなオカルトありえません……!!!」

咲(の……和……ちゃん……)

霞「ふふふ……健夜ちゃんを倒すのに……随分力を使ったみたいねぇ……宮永咲……こんなに弱ってるあなたなんて……千年間見たことがなかったわ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和「霞先生まで!!!? これはなんの冗談ですか!!?」

咲(和……ちゃん……ごめんね……?)

和(さ、咲さんは黙っててください!!! この人たちは、今すぐ私が追い返しますから……!!!)

咲(いいの。それより……和ちゃん……和……ちゃん…………)

和「ここには誰もいませんから!!! 悪霊とか、宮永咲とか、まったくもって意味不明ですっ!!! 警察を呼びますよ!!! お引き取りください!!!」

咲(和ちゃん……私の声……聞こえて――)

霞「宮永咲……覚悟――!!!!!」ゴッ

和「え……








                ……咲さん……?


















                           …………………………え?」

和「いやあああああああああああああああああ!!!」

              巴「先生……ご立派な最後でした」

和「咲さあああああああああああああああああああん!!!!!!」

                              初美「ついに本懐を遂げたですか……」

和「返事を!!!! 返事をしてくださああああああい!!!!」

         小蒔「先生……ありがとうございました……」

和「咲さん……」

                      はるる「……」

和「咲さん……どうして……消えるときは……さようならって言ってくれるって……言ったじゃないですか……咲さん…………」



和「……嘘……つき…………」

 ――平安時代

咲「りんしゃんかいほう……?」

照「麻雀の役の名前だよ。山の上で花が咲く……って意味なんだ」

咲「咲く……? おんなじだ! 私の名前と!!」

照「そうだね、咲。森林限界を超えた高い山の上……そこに花が咲くこともある。お前もその花のように……強く――」

咲「えへへ、おねえちゃんくらい強くなれるかな……?」

照「うん。頑張れば、いつかきっとなれるよ」

 ――

末原「み、見たでっ!! あんた今、牌をすり替えたやろっ!!」

照「なっ……それは今あなたが――」

漫「う、うちも見ました!! 宮永照は確かに牌をすり替えてました……!!」

由子「のよー」

照「なっ…………!!?」

 ――

咲「えっ……おねえちゃんが……じ……さつ……?」

咲「麻雀で……ズルして負けたから……? そんな……そんなわけないっ!! だって、おねえちゃんはこの宮中で最強の……」

咲「…………わかったよ」

咲「その人のところに案内して。私が証明してみせる――おねえちゃんの最強を……!!」ゴッ

 ――

末原「生まれてきてすいませんでした」ガタガタ

漫(さ、三対一やったのに……うちらの負けやと……!?)

由子(のよー……)

咲「さあ……早く言ってよ。この世で最も麻雀が強いのは誰か」

末原「み、宮永殿ですっ!! 宮永咲殿ですっ!!」

咲「ははっ……違うでしょ? そうじゃないでしょ?」ゴッ

末原「ひいいいい!!!?」

咲「私は家族麻雀でおねえちゃんにだけは一回も勝てなかったんだよ。そんな私が最強なはずない。だから……最強は私じゃなくて……」

末原「て、照殿ですっ!!! 宮永照こそ!!! 古今東西最強の雀士!!!」

咲「あれれ? けど、おねえちゃんは麻雀に負けて死んじゃったみたいな噂があるみたいだけど……」

末原「そ、それは……」

咲「それは?」

末原「う、生まれてきてすいませんでしたあああああああ!!!!」

 ザシュッ ブシャアアアアアアア キャアアアアアア

漫「先輩いいいいいいい!!!?」

末原「す……漫ちゃんと由子は何もしてません……悪いのは……うちだけです……二人のことは……見逃してやってください…………」ガクッ

漫「うわあああああああああ!!!!?」

由子「だ、誰か医者なのよー!!!!!」

咲(ふん……くだらない。こんなくだらない連中のせいで……おねえちゃんは……)

咲(おねえちゃん……私……おねえちゃんが打てなかった分まで打つよ。打って打って打って……おねえちゃんの最強を証明するから!!)

咲(天国から見ててね、おねえちゃん。未来永劫……これからどんな雀士が生まれても……私が全部……)ゴッ

咲(倒す……っ!!!!)

 ――江戸時代

霞「いいですか? 『咲』という名は絶対につけてはなりません。
 我々霧島神宮の巫女が総出で封印した『魔』が解き放たれてしまいます。あの魔物……『宮永咲』だけは、絶対に蘇らせてはいけないのです」

霞「八百年前の封魔大戦……そこで、私の仲間は、私を除いて全員命を落としました。お願いです……どうか、『咲』という名前だけは……」

 ――

咲(ははっ……長かった……八百年も待ったよ……! これで……また麻雀が打てる……!!!)

?「あなたが……宮永咲……さん?」

咲(うん。そうだよ)

?「小さい頃に、お父様とお母様から聞きました。八百年前……始祖『宮永照』の妹君が悪霊となって……今も封印されていると」

咲(封印されていた、だね)

?「あ、あの、あなたは麻雀が恐ろしく強いと聞きました。それはもう……古今東西に敵はないと」

咲(ま、そうだね)

?「そ、それで、お願いがあるんですけど……」

咲(なに?)

?「私の身体……自由に使ってくれて構いません。私に力をください。私の身体で好きなだけ麻雀を打ってください!」

咲(何か……事情でもあるの?)

?「私……宮永家の面汚しなんです。いくら打っても勝てないんです。弱い雀士は宮永の家に必要ありません。このまま行けば……私は口減らしで殺されます。
 私が生き残るためには……麻雀で強くなるしかないんです。
 お願いです……あなたの力を私にください。そのために……私は禁を破って名を『咲』に改めたんです!!」

咲(そっか……いろいろ大変なんだね。わかったよ。私でいいのなら、いくらでも力になる)

?「はいっ!! ありがとうございますっ!!」

咲(じゃあ、あなたは今から宮永咲だよ。ただ、私も咲だから、あなたのことは名を改める前の幼名で呼ぼうと思うんだけど……教えてくれないかな?)

?「私の幼名は……『虎姫』と申しますっ!!」

咲(わかった、虎姫ちゃん。一緒に麻雀を楽しもうねっ!)

虎姫「はいっ!!!」

 ――

咲(これで……敵はいなくなったね)

虎姫「そうですね。私も、人としての全てを手に入れることができました。それもこれも、咲さんのおかげです」

咲(虎姫ちゃん、もう麻雀は打たないの?)

虎姫「はい。蓄えもありますし、子宝にも恵まれました。これからは、心静かに余生を過ごそうと思います」

咲(そっか。じゃあ、お別れだね)

虎姫「咲さんは……これからどうするんですか?」

咲(また宮永の家――虎姫ちゃんの子孫に『咲』が生まれるのを待つよ。霧島の巫女どもが邪魔をするだろうけれど……きっとまたいつか、私はこの世に現れる)

虎姫「そして……その時代の最強を目指すのですか? 自らの敵がいなくなるまで……強者を屠り続けるのですか?」

咲(うん。それが、私がこうして現世に留まり続ける理由だから。どんな雀士も私が全部倒す……最強を証明するために……)

虎姫「しかし、それでは……咲さんは最後は必ず一人になってしまいます。国士無双……世界中に誰一人並び立つ者なく、山の頂に孤独に咲く花のように。
 虚しくは……ないのですか?」

咲(まあ……少しは寂しいけどね。それでも、私は誰よりも強くないといけないんだよ)

虎姫「どうして……そこまでして最強を目指すのですか……?」

咲(それは……えっと……あれ……? なんでだっけ……)

虎姫「まあ、咲さんにも色々あったのでしょう。私が口を挟むことではありませんね。
 それでは……咲さん。ご武運をお祈りいたしております。次の時代には……もっと骨のある相手がいるとよいですね」

咲(ありがとう、虎姫ちゃん。さようなら……)

虎姫「さようなら……」

 ――現代

咲(こんにちは。あなたが三代目の『宮永咲』でいいのかな?)

?「…………」

咲(あれ……?)

?「……あなたが……『宮永咲』……ですか……?」

咲(う、うん(なんだろう……この子、人形みたい))

?「……私は……サキ・検体番号8399……被験者『宮永照』のiPS細胞から生み出されたクローンです……」

咲(え? ク? えっ?)

サキ「……私は……『宮永咲』の依代……人工的に造られた……宮永サキです……」

咲(ちょ……意味わからないよ……)

サキ「……周囲を……見てください……」

咲(え……ええ……なにこれ……!!!? お、同じ姿をした人間がいっぱい……!!!?)

サキ「……この『サキ』たちは……みな……あなたの受け皿として造られました……しかし……適合者は私一人……よって……彼女たちは全員廃棄されます……」

咲(そ……そんなエスエフありえないよ!!!?)

サキ「……この現代……麻雀の競技人口は飛躍的に増えました……新たな強者が次々と現れています……。
 そんな中……最強最古として名高い宮永家は……落ち目を迎えつつあった……そこで……霧島の巫女に極秘で立ち上がったのが……この『プロジェクト・サキ』……。
 私たちは……宮永家に栄光を取り戻すための道具なのです……」

咲(よ……よくわからないけど、要するに、私が麻雀で勝ちまくれば、あなたは救われるってこと?)

サキ「……そんなところです……。
 さあ……既に私の身体は十五歳として調整してあります……多少カンを取り戻した後……まずは高校生として……インターハイに出場……軽く優勝してきましょう……」

咲(う、うん……一緒に麻雀楽しもう、か)

サキ「……はい……」

 ――

「ば……化け物……!!」

「うわあああああああ!!!!」

「誰か助けてええええ!!!」

サキ「今日も連戦連勝でしたね、咲」

咲(うん。というか、あの人たちは一体誰だったの?)

サキ「プロ麻雀界の高段者たちです。肩慣らしの相手にはちょうどよいかと」

咲(そうなんだ……)

サキ「ところで、咲はどうして麻雀を続けているのですか?」

咲(どうしてって……あれ……どうしてだっけ……?)

サキ「思い出せないのですか……?」

咲(えっと……待って……すごく……すごく大切なことだったんだけど……)

サキ「咲は……麻雀、楽しんでますか?」

咲(た、楽しいよっ!!? 楽しいに決まってるよ!!?)

サキ「咲が勝つから……ですか?」

咲(ち、違うよ……そうじゃなくて……私が麻雀を楽しんでたのは……私が一番麻雀を打っていた頃は……あれ……?)

サキ「咲……すいません……私は麻雀……あんまり好きになれそうにないです……こんなことのために……私の同胞は……勝手に生み出されて……勝手に殺されたんだと思うと……悲しいです」

咲(ご……ごめん、私のせいで……)

サキ「……すいません……ただの八つ当たりです……気にしないでください……」

 ――インターハイ決勝卓

サキ(次のツモで……カン……嶺上開花で終局ですね……)

咲(うん……これで……優勝だね……)

サキ(あ…………)コホッ

咲(え? サキちゃん……? どうしたの……?)

サキ(すいません……肉体の限界が……私の身体……クローン体……人工的に急成長させたこの肉体は……あちこち欠陥だらけなんです……命が長くないことは……わかっていました……)

咲(そ、そんな!? どうなっちゃうの!!?)

サキ(私の身体……内臓がズタズタなんです……間もなく……死にます……)

咲(ええええええ!!?)

サキ(咲……あなたは……なんのためにこの世に留まり続けているのですか……? なんのために……麻雀を打っているのですか……?
 私は……なんのためにこの世に生まれた……んですかね……?)ゴホッ

咲(ちょ、ちょっと!! サキちゃん!!?)

サキ(宮永咲……私はあなたを恨みます……あなたさえ……あなたさえいなければ……私や……他の『サキ』たちは……こんな思いをせずに済んだのに……)

咲(サキちゃん……)

サキ(宮永咲……あなたは……私が死んでも……きっとまた現世に蘇るのでしょうね……ただ強者を打ちのめすためだけに……自らが最強となるためだけに……勝ち続けるのでしょうね……)

咲(そ、それは……だって私は……えっと……最強の雀士でいなければいけないから……!!)

サキ(最強……虚しい響きですね……宮永咲……あなたはこれからも……一人で打って……一人で勝って……一人で楽しんでください……。
 そして……いつまでも成仏できないまま……孤独にさ迷えばいいんです……)

咲(違うんだよ!! サキちゃん……私が……私が麻雀を打ってるのは――その、楽しいからだよっ!!!?)

サキ(……そうですか……私は楽しくありませんでしたよ……)

咲(っ……!!!)

サキ(……では……私の意識が保つのもこれで最後です……あと数分だけなら……私の身体を完全に乗っ取ることもできるでしょう……。
 嶺上開花を和了るならどうぞお好きに……私は先に逝きます……さようなら……)

咲(ま、待って……サキちゃん…………!!!?)

サキ()

咲(サキちゃん……違うんだよ……私が……私が麻雀を打ってるのは……)

サキ()

咲(あれ……? 私……なんで麻雀を打ってるんだっけ……? どうして最強でいなきゃいけないんだっけ……? あれ……あれ…………?)

サキ()

咲(ま……麻雀って……)

  ――ツモ、嶺上開花!!

         ――麻雀って楽しいよね!!!!

                     ――麻雀って……楽しい……よね…………?

霞「っ……今よ!!! その身体ごと封殺するの!!!! 霊体が完全に肉体の中に入ったわっ!!! 初美ッ! 巴ッ! 全巫力をもって姫様を援護して!!!!」

咲(あっ……やば……霧島の巫女だ……どこか……どこかに逃げなきゃ……!!!)

 ――

咲(い、勢い余って虎姫ちゃんが使ってた麻雀卓まで飛んできちゃった……これ……虎姫ちゃんの血かな……そういえば……私と別れた頃は結核を患ってたっけ……)

咲(しまったな……ここなら霧島の巫女には見つからないだろうけど……時代を超えるごとに宮永の家に対する警戒が強くなっていく……。
 次に宮永咲として麻雀を打ったら……間違いなくあの巫女どもに祓われる……)

咲(で……でも……私って『宮永咲』以外に取り憑いたりとかできるんだっけ……?)

 ――

咲(これからよろしくね、原村さんっ!)

和「そんなオカルトありえません!!」

 ――――――――――――――――――――

 ――――――――――――

 ――――――

 ――――

 ――

和「咲さん……どうして……消えるときは……さようならって言ってくれるって……言ったじゃないですか……咲さん…………」

咲(和ちゃん……ごめんね……ありがとう……さようなら……って……もう聞こえてないか……)

和「……嘘……つき…………」

『咲さんへ

 お元気ですか?

 私は元気です。

 というのは、ちょっとだけ嘘で、咲さんがいなくなってから、私はずっと家に引きこもっていました。

 けれど、この間、玄さんと憧さんと穏乃が来て……一局打って、少しだけ、前に進めそうな気がしました。

 咲さんとは、もう二度と会えない、そう思っていました。

 けど、今日、私は麻雀卓の中に……咲さんを見つけました、

 これから先――。

 私がもっともっと強くなれば、咲さんともう一度会えるかもしれない。

 そんな風に……思えたんです』

『咲さんへ。

 お元気ですか?

 私は元気です。

 今日は、照さんと対局しました。

 結果は、私の二千点負け。けど、わりと善戦したほうだと思います。運が良ければ、次は勝てるかもしれません。頑張ります。

 みんなも活躍しています。そういえば、報告がまだでしたね。

 赤土さんは、咲さんがいなくなった直後に、小鍛治さんに勝って七星のタイトルを手に入れました

 小鍛治さんはその七星戦を期に引退。

 空いた九個のタイトルの穴を埋めるのは大変だったそうです。

 五花に返り咲いた熊倉さんが、引退するつもりだったのに、ってボヤいていました。

 小鍛治さんはというと、あれから日本を飛び出して、最近だと、リオデジャネイロで大暴れしてきたそうです。

 結果は銀メダルだったそうですが、リオデジャネイロの市街地が壊滅したとの噂も聞いています。

 それから、玄さんがプロ試験に合格しました。南浦さんもです。あと、あのニワカさん……覚えていますか? 初段授与式でお会いしました。小走やえさんというそうです。

 久さんは、三十ぴったりになってからプロ試験を受けるそうです。ここまできたら、とことん悪待ちしてやるって言って。受かるといいですね』

『咲さんへ。

 お元気ですか?

 私は元気です。

 照さんと、少しずつですが、仲良くなりました。照さんは、咲さんの話をよくしてくれます。

 あ、でも、私にはちょっとよく理解できなかったのですが、照さんのお姉さんはサキさんで、それに取り憑いていたのが咲さん? とかなんとか。

 照さんは、咲さんがお姉さんを死に追いやった、と思っているようです。だから、照さんは咲さんを倒したいと思っていて、それで、私と打って、その影がちらついたとき、照さんは本当にびっくりしたそうです。

 私には、オカルトもエスエフもよくわかりません。いつか、本当のことが知りたいです。

 それで、照さんのお姉さんの話に戻りますと、この方、とてもよい人だったんですね。照さんが最初に覚えた役は、嶺上開花で、お姉さんに教えてもらった、と聞きました。

 照さんから聞くお姉さんは、私の知っている咲さんとは、別人のようです。

 実際、別人なのかもしれませんね。

 写真、見ました。

 照さんと、久さんに、見せてもらいました。十年前のインターハイ。県予選を突破したときの写真です。

 そこに、笑顔の咲さんが映っていました。

 けど、私の知っている咲さんとは、確かに、少し雰囲気が違うような気もします。

 制服は、同じものでしたけどね』

『咲さんへ。

 お元気ですか?

 私は元気です。

 嘘です。

 とても寂しいです。

 咲さん。

 咲さん。

 会いたいです。

 会って、話が聞きたいです。

 咲さん――』

 ――

?「――ん……ちゃん…………和ちゃん……!!」

和「えっ?」

咲「久しぶり! 和ちゃんっ!!」

和「さ……咲さん……!? 本当に咲さんですか……!!!?」

咲「私は私だよ。本物の宮永咲」

和「咲さんの……声……聞くの……初めてですけど……」

咲「そうだよね。いっつも直接意識に語りかけてたからね」

和「しかし……こんなことが…………いや……なるほど」

咲「どうしたの?」

和「これは……夢、ですね。なぜかは知りませんが、私が高校生の姿で、しかも、咲さんと同じ制服を着ています」

咲「よく似合ってるよ、和ちゃん!」

和「咲……さん……」

咲「ん……?」

和「話したいことが……いっぱい……あります……!!!!」

咲「うん……そうだね」

和「けど……咲さんの……話が聞きたいです。
 私、咲さんのこと、何も知りません。色々と文献を調べたり、咲さんに縁のある土地に行ったりしてみましたが……何も収穫がなくて……」

咲「そんなことしてくれてたんだ……えへへ、なんだか恥ずかしいな」

和「咲さん、教えてください。咲さんのこと……全部です」

咲「いいよ。えっと、昔むかし、あるところに『宮永照』って人がいてね……」

 ――

和「そうですか……大変だったんですね……」

咲「うん……大変だった」

和「咲さんは……もう、麻雀を楽しめないですか?」

咲「わからない。二代目のときも、三代目のときも……私は無我夢中で打ってただけだから。ひたすらに強い人を求めて……打って……壊して……打って打って打って……」

咲「正直……楽しくは……なかったと思う」

咲「勝って勝って勝って……そこにあったのは……いつも虚しさだけだった」

咲「だって……最後には一人になっちゃうから……」

咲「でも……幽霊になった私には、麻雀しかなかったから。おねえちゃんのことを忘れちゃった私にとって……現世をさ迷い続ける理由は麻雀しかなかったからさ」

咲「楽しいって思わないと、やってられなかったんだよね」

咲「でも、小鍛治さんと打って……おねえちゃんのことも思い出せて……私、満足したんだと思う」

咲「和ちゃんとはあんな別れ方になっちゃったけど……こうして夢で会えたし、よかったかなって……もう思い残すことはないかなって」

和「本当に……思い残すことはありませんか……?」

咲「ない……と思う」

和「じゃあ、私の話を少しだけ、させてください」

咲「うん」

和「私は……麻雀、楽しいですよ。それに、私は咲さんのことが好きです。咲さんと過ごせて、本当によかったと思います」

和「麻雀をしてるときも、麻雀をしてないときも、咲さんが一緒にいたから、あの数年間は本当に楽しかった……」

和「こんなことを言ったら、変に思われるかもしれませんが……」

和「咲さんが、千年もさ迷い続けたのは、きっと、麻雀を打つためなんかじゃありません」

和「お姉さんの最強を証明するためでも、たぶん、なかったんだと思います」

咲「じゃあ……私が千年も現世に留まり続けた理由って……?」

和「私と……出会うためです」

咲「和ちゃん……」

和「咲さんは、私と出会うために、きっと千年待ったんです。もう、そういうことにしましょう。それで、いいじゃないですか」

和「辛かったこととか、大変なこととか、いっぱいあったみたいですけど、咲さんは……私と出会えて……どうでしたか……?」

咲「楽しかったよ……和ちゃんと会えて……すっごい楽しかった……!!!」

和「一緒に……麻雀楽しみましたね」

咲「うん。楽しんだ。いっぱい麻雀打ったね……!!」

和「そうです……咲さんは……たくさん麻雀を打ちました。たくさん勝ちました……だから……もう……休んでください……」

咲「和……ちゃん……?」

和「千年も……ずっと一人で戦い続けて……咲さん……疲れたでしょう……?」

咲「うん……なんだか……言われてみると…………とっても眠いよ…………」

和「咲さん、大丈夫です。麻雀の楽しさも、咲さんや咲さんのお姉さんの強さも、これから私が語り継いで、ずっと先の未来まで……繋げていきますから」

咲「ありがとう…………和ちゃん…………」

和「だから……安心して眠ってください。私の胸でよければ……いくらでも貸しますから……」

咲「わああ……和ちゃん……あったかいよ……それにやわらかくて……とってもきもちいい……」

和「幽霊だった咲さんとは……抱き合えませんでしたからね……」

咲「あったかい……あったかいよ……むかし……おねえちゃんが……よく……こうやって…………」

和「咲……さん…………」

咲「おねえちゃんがいなくなって……わたしが……まーじゃんつよくなってからは……だれも……わたしにふれてくれなくて……」

和「それから幽霊になってしまったんですもんね……本当に……咲さんはずっと寂しかったんですね……」

咲「でも……いまは……和ちゃんがいるから……さみしく…………ない…………よ………………」

和「咲さん……」

咲「…………」スゥスゥ

和(咲さん……寝顔……可愛いですね……)スッ

和(やっと……こうして……咲さんに触れることができます……)ナデナデ

和(咲さん……ちょっとくらいなら……イタズラしてもいい、ですよね……?)

和(これは……いただいていきます……)シュル

咲「…………」スゥスゥ

和「……さようなら……咲さん……大好きでしたよ……」ギュッ

 ――

和「おはようございます。今日こそ勝ちますよ、照さん!」

照「私に勝とうなんて千年早いよ、和。ん、ところで……そのペンギン……」

和「エトペンがどうかしましたか?」

照「いや、どうしてスカーフなんて巻いてるのかなって思って……」

和「これは……決意表明のようなものです。大切な人から……こっそりいただいてきちゃいました」

照「なるほど、ただのカッコつけ、ってわけじゃないんだ」

和「はい。私、今まで以上に、麻雀、頑張ろうと思いますっ!」

照「ま、その調子で私を楽しませてね」

和「そうですね……その通りです、照さん」

照「?」

和「一緒に麻雀、楽しみましょうっ!!」

<槓>

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

感謝感激です。


蛇足ですが、以下、自分が書いたものリストです。
興味が湧きましたら、ちらっとだけでもどうぞ。

和「宮永さん、私のリー棒も受け取ってください」咲「う、うん!」
咲「え? どの学年が一番強いかって?」


また、咲とは本当に全然関係ないんですが、涼宮ハルヒシリーズでいくつか書いたものがあります。
もし、ハルヒが好きな方がいたら、どうぞ。

谷口「憂鬱で溜息が消失した」
朝倉「ただの人間です」
佐々木「憂鬱だ」キョン「佐々木でも憂鬱になることがあるんだな」
佐々木「憂鬱だ」キョン「佐々木でも憂鬱になることがあるんだな」β
ハルヒ「宇宙人や未来人や超能力者と一緒に遊ぶことよ」


では、皆様、よい年度末を。

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