私の名前は宮永和【咲―Saki―】 (154)

―注―

原作から12年後の咲和です
立先生の原作を待っていると100年後か、描かれないかになるので勝手に脳内補完しました
原作にないキャラが一人います
主に和視点で書かれています

やたら長いです

以上、苦手な方はブラウザバックお願いします

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私の名前は宮永和。旧姓原村。

結婚してもう6年になります。

娘にも恵まれ、その子遥は今年から幼稚園。

私はその幼稚園で、あるきっかけで先生をしていました。

小学校や中学校以降の学校では親子で教師、生徒という関係は禁じられていますが、幼稚園では大丈夫です。

私の夫の咲さんはプロ雀士。

大学在学中から活動を始め、今や世界大会に出場が決まっている身です。

私はというと、両親からの圧力で法学部へ進学していたこともあり、

法曹界への転身を余儀なくされました。

咲さんとは大学からのお付き合い。

高校1年で全国優勝が叶わなかった私は、東京の進学校へ転校したのですが、

咲さんとは連絡を取り続けていました。

今までは一方的な片想いと気持ちをひた隠しにしていたのですが、

咲さんがお姉さんと仲直りをして同居のため東京に上京してきて以来、

再び傍にいられることになり、気持ちを抑えられなくなりました。

大学1年の時にとうとうこちらから告白。

「暫く考えさせて」と即答はしてくれませんでしたが、

ほどなくして「私も和ちゃんにずっと傍にいてもらいたい」との返事。

この時ほど嬉しかったことはありません。

しかし、大学3年にもなると全国チャンプの咲さんをプロ麻雀界がほっておく筈もなく、咲さんはプロに。

私は勉学が忙しく段々麻雀に割ける時間が減っていく。

2人の接点がなくなっていくような気がしました。

多分、焦っていたんだろうと思います。

咲さんは麻雀の試合のため全国へ出張するように。

会える時間も減っていく。同棲しませんか、と私から言いました。

また咲さんは暫く迷ったあとに、「いいよ」と一言。両親は大反対しました。

でも私も負けていられませんでした。

今後弁護士や検事になるならば、私も全国を転々とすることになります。

そうなれば、将来咲さんの傍にいることは叶いません。

もう私も両親の言いなりになる子供ではありませんでした。

咲さんは随分心配してくれましたが、咲さんとずっと一緒に、というこの気持ちだけは誰にも譲れません。

でもプロポーズは咲さんからしてくれました。

「ちゃんと形にしようよ。そしたら、お義父さんやお義母さんもわかってくれるよ」と、

いつの間に用意したのか指輪をそっと手渡してくれたのです。

思わず涙ぐんでしまいました。もう・・・決める時にはきちっと決めてくる咲さんはずるいです。素敵すぎます。

両親にも凛々しく「和さんをください」と言ってくれましたし。

そんなこんなであっという間に結婚して6年。

大学卒業と同時、結婚1年後には愛娘も授かり、

私たちよりずっと遠くに羽ばたいてもらいたいとの想いを込めて、遥と名づけました。

孫ができた時の両親の喜びようたらなかったです。

やはり娘の幸せが何よりなんですね、親というのは。

また親だからこそ自分の子には過剰な期待をかけてしまう気持ちも子をもって初めて知りました。

けれど、私にとっては愛する咲さんと遥と3人でいつまでも一緒にいられたらそれで十分。

咲さんは結婚しても相変わらずプロ雀士として多忙な日々ですし。

出張先で何を食べているのか、いつも気がかりです。

そう言うと、咲さんは「私だって料理くらいできるよ~」と言いますが、

疲れから寝坊して適当に食事を済ませているに違いありません。

>>4
俺も何が楽しいのか分からんけどそこは個人の自由だし一定の需要はあるだろうからそっとしとこうぜ
それより原作で咲和がくっつくと思ってる>>1の脳がヤバイ

私は幼い頃から転校、転校で両親も多忙であまり家におらず、

寂しい日々を送ってきました。

だから、家庭を守ることに徹するというのは私の意志でした。

いつでも妻が、母親が傍にいる、そんな安心できる家庭を作りたいと思ったのです。

今日はそんな多忙な咲さんが一週間ぶりに我が家に帰ってくる日。

腕によりをかけて自慢の手料理を用意します。

>>9 ワロタ

和「♪♪♪~」

遥「ママ~・・・」

和「あら、遥。もうお絵描きはしないんですか?」

遥「ママいないから、つまんない・・・」

和「ごめんなさいね。今日はパパが帰ってくるから、ママお料理しなきゃなんですよ」

遥「パパ、帰ってくゆの・・・?」

和「もうすぐですよ。パパが帰ったらご飯にしましょうね」

ピンポーン

和「あ、パパかも。ママ手が離せないから、遥、お出迎えしてくれますか?」

遥「パパ~?」

ガチャッ

咲「ただいまー。おっと」

遥(咲に抱きつきながら)「パパー」

咲「飛びついてくるのはちょっとびっくり。元気にしてた? 遥」

遥「うん。パパ。お土産は~?」

咲「ああ、あるよ。これ開けてごらん」

遥(お土産を持ってリビングへ走っていく)「わーい、ママー」

咲「お土産もらったら、私にはもう用ないのか・・・。我が子ながら現金だなぁ・・・」

和「お仕事お疲れ様でした、咲さん。ふふ、子供って現金なものですよ」

遥「やたっ。欲しかったブーブーだよ!」

咲「しかも、女の子だけど男の子趣味なんだよなぁ」

和「いいじゃないですか。元気なのが一番ですよ」

咲「それもそうだね。いい匂い」

和「咲さんの好きなものばかりですよ。あっ、遥の好物でもありますけど」

咲「食べ物の好み、殆ど同じなんだよなぁ」

和「ほんとに遥は咲さん似ですよね。髪のホーンも同じ」クスッ

咲「遺伝するんだね・・・知らなかったよ。

 髪の色は私たちのを足して2で割った感じだよね」

和「ほんとに私は咲さん似のあの子が可愛くて可愛くて」

咲「照れるな・・・。勿論、私だってあの子が可愛いよ」

和「私はどうですか?」

咲「えっ。あっ・・・。えーと・・・可愛いというより、綺麗だよ・・・///」

和「もう、咲さんたら///」イチャイチャ

遥「パパー。ママー!」

咲・和「「あっ。わっ」」

遥「ご飯食べゆよー」

和「はいはい、今行きますよ」

咲「和ちゃんは丁寧な喋り方なのに、

 遥はどうして某ピ○コみたいな喋り方をするんだろう・・・」

和「口がまわらないだけですよ」

久しぶりの家族団欒。

遥がパパの不在を寂しがりますが、それは私も同じ。

電話は毎日していましたが、やはり会えないのは寂しい。

話はやがて間近に控えた世界大会のことになります。

和「やっぱり、私と遥もついて行こうと思うんです」

咲「私は助かるけど、和ちゃん、勤めてる幼稚園はどうするの?」

和「勿論お休みします」

咲「休ませてくれるの?」

和「最初から遥が行く幼稚園だから働こうと思ったわけで」

咲「人手不足だから、龍門渕経営の幼稚園に抜擢されたんじゃないの?」

和「だからこそ無理がききます」

咲「そうかなぁ」

和「咲さんだけじゃ不安ですもの。国内でさえ、あんなに迷うのに・・・」


咲「それはそうなんだけど・・・。

 そりゃ、私としても語学堪能な和ちゃんがついてきてくれるのは頼もしいよ?」

和「ほら。遥もドイツのお城見たいって言ってましたよね?」

遥「はるか、お城見ゆ~。刀も見ゆ」

咲「娘を取り込むのずるいなぁ・・・」

なんだかんだで咲さんは黙ってしまいます。

昔から私が頑固なのをよく知っているんです。そこへ電話の着信音。


和「はい、宮永です。あっ、お義姉さん。はい、今代わりますね」

咲「あっ、お姉ちゃん? うん、そう。あ、TV観てくれたの?

 そうそう。うん、お姉ちゃんを倒して世界へ行くんだから、勿論1位目指して頑張るよ。

 え、壮行会? 宮永家で・・・? 大袈裟だよ、お父さん・・・。

 え、もう人呼んじゃってるの? え、久先輩や・・・? 

 え、久しぶり・・・。てゆうか、連絡早っ」

ガチャン ツーツー

和「お義姉さん、なんでしたか?」

咲「なんだか勝手に盛り上がってるよ・・・。

  聞いての通り、宮永家で壮行会するみたいなんだ。

  しかも竹井先輩や清澄の人たちももう呼んじゃってるんだって・・・」

和「行かないわけにいきませんね。でも同窓会みたいで嬉しいです」

咲「ぶっちゃけ、私忙しいんだけどなぁ」

和「皆さんが祝ってくれるのはいいことですよ。

  思えば、お義姉さんを倒してから本当に宮永姉妹は仲直りできましたね」

咲「うん、あれはすごく強烈な思い出だよ」

遥「ブーブー!」

咲「あ、痛い! 遥、パパのこと車で轢いちゃダメだよ」

和「遥、遊ぶなら洗い物のお茶碗持ってきてからにして下さいね。さあ、ほら」

咲「遥、その車一応ランボルギーニ・・・って聞いてないね・・・」
 
和「こら、遥!」

今日は本当に慌ただしい一日です。

でも咲さんや遥が隣にいてくれると思うと、

いつもこうして過ごせないことを残念に思うのです。

そして遥を寝かしつけて、私は夫婦の寝室へ向かいます。

子供部屋はエトペングッズでいっぱい・・・ですが、

母親の趣味はあまり受け継いでいないようです。

遥は今日咲さんがお土産に買ってきたランボルギーニの精巧な作りの、

子供には大きな車体を抱えながら寝ています。

和「咲さん、この1週間、本当にお疲れ様でした」

咲「あ、ううん。和ちゃんこそ、いつも家庭を守ってくれててありがとう」

和「当たり前のことですよ」

咲「なんだか結婚してからの6年間、ずっと走り続けてきた気がするよ・・・」

和「忙しかったですものね。でも多分これからも・・・」

咲「忙しいだろうね。世界大会もあるし・・・」

和「とうとう、世界にお披露目ですね」

咲「大袈裟だよ。高校から世界大会に出ていた選手も当時いたし」

和「そうでしたね。でも咲さんは今や日本代表なんですから、胸を張ってください」

咲「勿論、負けるつもりはないよ」

和「そんな咲さんも素敵です・・・」

咲「あ、ちょっ・・・」

すっと咲さんの腕を絡め取って自分の胸の谷間に挟む。

咲さんは疲れているので、今日はその気になれないんでしょうか・・・と思っていたら、

唇に柔らかな感触。するり、と寝巻を脱がされます。

首筋や胸元に軽く咲さんの唇が這ってきて・・・背筋がぞくぞくします。

和「あ・・・咲さん・・・。私・・・寂しかったんです」

咲「ごめんね、いつも寂しい思いをさせて・・・」

夫婦の睦言は続きます。

愛してるよ、愛してます、と言い合いながらゆっくり時間をかけて

お互いの不在の時を埋めるかのように、存在を確認し続けました。

そして、世界大会へ向けての咲さんの壮行会の日はあっという間にやってきました。


まこ「うちらの中では一番の出世頭じゃないんかのー?」

優希「今日は最高のタコスを用意したじぇ!」

咲「みんな、久しぶり・・・って、優希ちゃん、まだタコス食べてるんだ?

  京ちゃんは元気?」

優希「うちのバカ旦那か。あいつはこんな大事な時に仕事だなんて、間が悪すぎるじぇ!」

咲「仕事なら仕方ないんじゃないかな・・・」

久「うち、本当に高校での結婚率が高いわね」

咲「そう言えば、久先輩のとこの美穂子さんも今入院中でしたっけ?」

久「もうすぐお産だからね」

咲「結婚式には行けなくてすみませんでした。
  
  でもついててあげなくていいんですか?」

久「連絡入るまではね。家にいてもやきもきするだけなのよ。やることはないし」

咲「できちゃった婚なんでしたっけ? 

  え、でもじゃあ、大学で付き合ってたあの娘は・・・? 

  ムガ、ムガムガッ」

和(咲の口を手で押さえながら)
  「咲さん、今地雷踏みましたよ・・・」

久「あは、あはははは・・・

  や、付き合ってたというか、付き合ってなかったというか・・・
 
  まぁ、いいじゃない、今日は我らが咲の世界出陣を祝して乾杯~!」

まこ「昔から都合悪うなると誤魔化すの、うまいのぅ」じと~っ

界「いやー皆さん、今日は娘の咲のためにお集まり頂きありがとうございます!

  えー、咲は僅か6歳で麻雀を始めたわけですが・・・」

咲「うわっ、お父さん、始まった・・・。

  うぅ、プロになってからの私の父アピール、すごいよぅ・・・。恥ずかしい・・・」

和「この間も遥に麻雀教えようとしてましたからね・・・」

まこ「いやー、あんたらとこの娘じゃったら末恐ろしかねー」

咲「でも、うちの子、今麻雀とかには興味示さないんですよ」

和「私も麻雀を覚えたのは小4ですからね・・・」

遥「ママー、ケーキ、ケーキ!」

和「あ、はいはい。今取ってあげますよ」

まこ「しっかし、遥ちゃんは咲そっくりじゃのぅ」
 
咲「えへへ、よく言われます」

照「皆さん、咲がどうも・・・」

まこ「おっ、宮永姉」

照「その呼び方はちょっと・・・」

まこ「すまんのぅ。しっかし、プロ大会での宮永姉妹の対決は物凄かったのぅ」

照「後悔はしていない・・・。いい戦いだったから・・・」

優希「私もあれを観て、また麻雀を打ちたくなったじぇ!」

照「プロの試合がない時ならいつでもお相手を・・・」

優希(ぞくっ)「いや、前言撤回するじぇ・・・」

久「あら、あたしは打ちたいわ。

  って私は麻雀はまこの雀荘のコーチなだけだけど」

まこ「あんたなら、プロでも通用したろうに・・・」

久「いいのよ、今の会社待遇いいんだもの」

まこ「あんたが株式トレーラーにのぅ・・・。

   まぁ、向いとる気ぃもするが」

久「昔から先見の明があったからね」

まこ「言ってんさい」

照「私のケーキがない・・・」

和「あっ、すみません、お義姉さん。

  遥、照義姉さまにケーキ持って行ってください」

遥「おばちゃん、ケーキ、ケーキ」

照「おばちゃんではない・・・」ギギギギギ

咲「お姉ちゃん、私の娘にコークスクリューはやめて!」

ワイワイ、ガヤガヤ

咲「もう、お父さん、酔い潰れるなんて・・・」

照「嬉しかったんだよ・・・というか、デザートは・・・?」

咲「まだ食べるの?! お姉ちゃん、年齢的にもう太るよ?」

照「歳のことは言うなっ!」

咲「いちいちコークスクリューやめて!」

照「まだ結婚できない姉を、おまえはバカにしているんだぁ~ワア~ン」

咲「してないよ・・・てか、お姉ちゃんも飲みすぎだよ・・・」(介抱)

久(宮永家・・・。ほんとに麻雀以外はポンコツなのね・・・)

和「咲さん、遥、眠っちゃいましたよ」

咲「私がおぶるよ」

界「置いていけ~」

咲「連れて帰るよっ!」

優希「じゃあ、咲ちゃん! 朗報楽しみにしているんだじぇ!」

まこ「久しぶりに昔話ができたわい」

久「まぁ、気楽にいったんさい。

  あ、お土産気を遣わなくてもいいわよ」

まこ「そう言われたら、余計気を遣うじゃろ」

咲「あはは・・・みんな、今日はありがとうございました。

  私も頑張ります!」

優希「のどちゃんにはまた電話するじぇ!」

和「はい、優希」

みんな、咲さんの世界進出に期待を寄せてくれています。

ここは、妻としてしっかりサポートしなくては。

ただ、遥が麻雀に興味がないので試合中むずかりそうですね。

遥の遊び道具もたくさん用意していかなければならないようです。

家族用の控室は関係者が用意してくれるから、

そっちは問題ないでしょう。

仕事を休む旨を伝えると、龍門渕透華理事に直接面会を、と告げられました。

ここは直接お会いし、頭を下げておくべきでしょう。

今や龍門渕グループも透華理事がM商事の御曹司を婿に迎え、更なる発展を遂げています。

あの天江衣プロ雀士もプロの試合をこなしながら、経営に携わっているとかいないとか。

多分龍門渕グループのバックがあるので名義上なのでしょうね。

試合で忙しいでしょうから。

ただ、プロアマ親善大会で天江衣選手を破った無名の高校生雀士の登場は意外でした。

新しい才能が次々と芽生えているようですね。

なんだか懐かしい・・・咲さん達と全国を目指した、

あの清澄高校での1年間がまるで夢のようです。

透華「原村和、もとい、宮永和、ご苦労ですわ」

和「龍門渕さんもお久しぶりです。

  この度はご配慮ありがとうございました」

透華「堅苦しい挨拶は抜き抜き。

   あたしとあなたの間柄じゃありませんの」

和(そんなに親しかったでしょうか・・・)

透華「なにせ、高校時代は私とあなたでアイドルの座を争った仲・・・。

   今思えば若かったですわ。結局決着はつきませんでしたけど」

和「はぁ・・・」(何を言っているのでしょう・・・)

透華「宮永咲の世界大会についていくそうですわね」

和「はい、夫一人では何かと心配なもので」

透華「あなたはプロの道に進むと思っていましたのに・・・。

   まぁ、うちでもプロに進んだのは衣だけですわ」

和「天江さんと言えば・・・天江さんを破った無名の高校生・・・。驚きました」

透華「私も驚きましたわ。あのような才能。

   将来宮永咲も危ないかもしれませんわよ」

和「SOA」

透華「出ましたわね。お馴染のフレーズ」

和「すいません、つい癖で」

透華「いいですわ、そりゃあ、旦那様ですからそう言いたくなる気持ちもわかりますわ」

和「今日は天江さんは・・・?」

透華「今日は遠征でいませんの。きっと残念がりますわ。

   けど、いつでも遊びに来てくださっていいのですわよ」

和「ありがとうございます。
  
  私の幼稚園の就職にも便宜を図ってくださって・・・」

透華「そのぐらい訳もないのです。

   私にかかればちょちょいのちょいですわ」

和「金に物を言わせて」

透華「違いますわ! 寧ろ権力です」

和(汚さに変わりはない気がします・・・)

透華「今日はお子さんも連れてきているのですね」

和「すみません、子連れで・・・。でもいつも一緒にいたくて・・・。つい」

透華「いいのですわ。今ハギヨシが面倒を見ているでしょうから。

   あぁ、ついでに龍門渕グループのレジャーランドで遊んでいらっしゃいまし」

和「えっ、ご迷惑では」

透華「旧友に遠慮することはないのですわ。

   私はこれからまた会議なのですが、是非遊んでらっしゃいまし。

   案内はハギヨシにさせましょう。

   聞けばあなたのお子さんは車などがお好きなようで。

   子供でも運転できるゴーカート場もありましてよ」

和「ゴーカート! それは喜びます」

透華「じゃあ、そうなさいまし」

龍門渕透華理事は高校の頃よりも、物腰が柔らかくとても女性らしくなったように思われます。

今はお父様の跡を継ぐべく、帝王学なるものを学んでいる真っ最中なのでしょう。凄いですね。

お言葉に甘えて、私たち親子は龍門渕レジャーランドで遊ばせてもらうこととなりました。

遥のはしゃぎようたらなかったです。

咲さんも一緒だったら・・・と思いましたが、今日は取材の日でしたね。

思えば、高校生の頃は初めは私ばかりが取材を受けていた気がします。

今は立場が逆転しましたね。

けれど、そんなことも誇らしく思える程、私はあなたを愛してしまったのですよ。

ええ、あの高1のあの日から・・・。

遥「ママー!」

和「はっ。つい物思いに耽ってしまいました。遥ー! なんですか?」

遥「アイスクリーム買って!」

和「はいはい。食べてる間は座ってるんですよ」

この幸せがいつまでも続いてほしい・・・。

ほんとに平凡な幸せかもしれません。

けれど、この後家族に思わぬ危機が迫ることになるなんて。

この時の私は知る由もなかったのです。

和「それで、ゴーカートに乗った遥ったら・・・」

咲「そうなんだぁ。私からも龍門さんにはお礼言っとかなくちゃだね」

寝室でのピロートークです。

いつもは遥中心に生活が回っているので、2人きりの時間は貴重です。

今日も咲さんはお疲れで帰ってきました。

右腕の筋が張る、とのことなので私が揉み解してあげています。

遥ははしゃぎすぎたのか、咲さんの膝の上でアニメを観ながら寝てしまっていました。

今日は少し長く夫婦の時間がありそうですね。

和「お疲れ様でした」チュッ(咲の右手にキス)

咲「今週は私もゆっくりできると思うよ・・・。和ちゃん・・・おいで」

和「はい・・・」

 
咲さんを抱きしめるように身を寄せると、

咲さんは愛おしそうに私の髪をかきあげてくれます。

少し体重をかけて咲さんの上に寄りかかると、唇を求めます。

応じてくれる咲さん。今日は私が咲さんのパジャマを脱がせていきます。

鎖骨を撫でたり、細い腰に手を回したり・・・。

咲「和ちゃん、くすぐったいよ・・・」

和「だって咲さんの体、大好きなんですもの・・・」


咲さんが私の背中に手を回してきます。そして私の胸の谷間に顔を埋めました。


和「あっ・・・うん、咲さん・・・そこ・・・」

咲「和ちゃん・・・」


咲さんの舌の先がちろちろと乳首を転がして、思わず声が出ます。

そのまま、手はあそこに・・・。いやっ、2点攻めなんて。

咲さん、いつの間にか私の弱いところばかり知ってる・・・。

乳首とクリトリスを攻められて、一度軽くイってしまいました。

今更ですが、乱れた姿を見られるのは恥ずかしいです。

でもそんな姿がそそるみたいで・・・咲さんの攻めは激しくなっていきます。

最初は私がリードしていたのに・・・。

こちらの方でも逆転されました。

和「あっ、あっ、もう・・・ダメぇ・・・!」

咲「もういい? 和ちゃん・・・」


コクリと頷くと、一気に正常位で貫かれました。

大きな嬌声が出て、はっとして唇を噛みます。

根元まで挿入すると、咲さんは深いキスをしてきます。

私の頭は真っ白で、ただ咲さんの舌を求めるので精一杯です。

ゆっくり咲さんが動き始めました。

喉の奥で嬌声をかみ殺します。

私の中で咲さんがどんどん凶暴になってくるのがわかります。

いつもは大人しい人なのに・・・。

まるで麻雀を打っている時みたい・・・。

でもこうして蹂躙されて喜びを感じている私がいます。

こんな風に求めてきてくれることが嬉しい・・・。

こうして2人の夜は更けていきます。

夫婦とか子持ちとか咲さんや久さんの性別の設定がよく解らないのですが
婦婦の間違いとIPSですよね?
できちゃった結婚とか見間違いですよね?
お願いですのでそう言って下さいお願いします

そうこうするうち、世界大会の行われるドイツはデュッセルドルフへ出立の日がやってきました。

初めての飛行機に騒ぐ遥を目を細めて見ながら、咲さんは少し思いつめた様子。

やはり世界大会だから緊張するのでしょうか。

咲さんも気になりますが、遥が機内を走り回りたがって宥めるのに苦労します。

長い飛行時間ですから、土台子供にじっとしていろという方が無理なのですけれど。

おもちゃで気を惹こうとしたり、抱きかかえて機内をうろうろしたり。

咲さんも遥に話しかけたり機嫌をとろうとしますが、ここは母親でないとダメみたい。

すぐにグズります。

>>40 Year! 婦婦でiPS(棒)です 山中教授ありがとうm(_ _)m


咲「はぁ・・・まだ2時間しか経ってないんだけどなぁ・・・」

和「子供にとって2時間は相当長い時間ですよ」

咲「うーん・・・」

和「あ、それは世界ランクの選手の牌譜ですね。どうですか?」

咲「異常な打ち手ばかりだよ」

和「咲さんから異常、という言葉が出るなんて・・・。相当ですね」

咲「お姉ちゃんを倒す前の私だったら、到底敵わなかった相手たちだよ」

遥「ママー! ブーブーで遊ぶ~!」

和「えっ、あのランボルギーニの? それは荷物と一緒に預けたから・・・

  こっちの小さいのにしましょうね」

遥「やだー、あれ出して~!」

和「遥・・・ほら、飛行機もあるんですよ。

  あっ、お菓子食べますか?」

遥「プリンがいい」

和「プリンはちょっと・・・」

咲「こら、遥~。ママをあまり困らせちゃダメ」

和「いいんですよ、咲さん。

  遥は私に任せて対戦者の研究でもしててください」

咲「でも・・・いいの? 和ちゃん」

和「気にしないでください。あっ、遥、走っちゃダメですよ」

咲「・・・」

和(咲さん、思いつめた表情・・・。

  あの牌譜は私も見ましたが、確かに俄かに信じられない偶然の集合体でしたね・・・)

和(特にフランス代表の選手・・・。名はなんと言いましたっけ・・・)

遥「ママー! おしっこー!」

和「あ、はいはい」


デュッセルドルフの空港は曇天の下。

あまり天気がよくなくて残念です。

長旅に疲れた遥を咲さんが背負いながら、タクシーで麻雀大会会場隣接の宿舎へ向かいます。

近くには「ケー」と呼ばれるケーニスアレーが見降ろせます。

宿舎の部屋は小さなアパルトマンのようになっていて、料理もできるようでほっとしました。

咲さんだけなら、アールトシュタットのレストランなどで外食ばかりでしょう。

・・・尤も、そこに辿り着けるかどうかは疑問ですが。

私のドイツ語も通じるようです。

開催地がフランスでなくて助かりましたね。

フランス語は最低現地で1年以上は暮らしていないと通用しないようですし。

咲さんは宿舎の中でも案の定ウロチョロ。安定の迷子です。ついてきて正解でした。

遥の好きなお城はデュッセルドルフならベンラート城ですが、果たして行く時間があるでしょうか。

行かなければ、遥がかなりおこでしょうね。

そして明日の抽選から3日後、1ケ月に亘って激闘が繰り広げられます。

その夜のピロートークは、従っていつになく真剣なものになりました。

和「勝算はどうですか?」

咲「あるっちゃあるけど・・・。この選手だけが・・・」

和(牌譜を覗いて)「あ、この選手はフランスの・・・」

咲「うん。カトリーヌ・・・カトリーヌ・ド? デ・・・ル?」

和「それはデュシュネと読むんですよ」

咲「うん、そのカトリーヌなんとかさん。一番厄介そうだよ」

和「そうですね・・・。

  かなりの確率で四槓子で和了なんてあり得ません」

咲「やっぱり和ちゃんも注目してたんだ? 

  私と同じ槓を得意とする選手だよ」

和「牌が彼女の手に自然と集まるとでもいうのでしょうか・・・。SOA」

咲「だよね・・・」

和(咲さんが考え込んでいたのは、やはりこの選手でしたか・・・)

カトリーヌ・デュシュネ。この時はただの対戦相手に過ぎませんでした。

でも今後彼女に家族の運命が託されることになるなんて・・・誰が予想しえたでしょう。

・・・翌朝、抽選会場まで咲さんを送ると、

咲さん曰く「折角なんだから街を観ておいでよ。私は大丈夫だから」とのことで、

遥と一緒にドイツの旧市街地を少し回りました。

まるでお伽の国のような街並みに、遥は「妖精さんのお家に行く!」と言いだします。

ハインリッヒ・ハイネ通りでカップケーキを買うことで、

その小さなお菓子屋さんを急遽「妖精さんのお家」ということにしました。

咲さんにもお土産を買って、迎えに行きます。

和「抽選はどうでしたか?」

咲「まずまずの組み合わせだよ。

  一番厄介なカトリーヌさんとは一回戦は避けられたし」

和「明日、明後日はゆっくりできるんですね」

咲「気持ちはのんびりとはいかなさそうだけどね」

遥「パパ! かけっこして遊ぼう! あの柱まで競争!」

和「遥~! ダメですよ、走っちゃ!」(遥を追いかける)

咲「あ、あはは・・・誰に似たんだろ・・・」

1回戦の咲さんの相手は、中国・ロシア・カナダの選手。

世界大会では一荘ルール(東風・南風・西風・北風)が採用されます。

半荘では世界選としては短い、との判断からでしょう。

遥がグズるので、リアルタイムではじっくり観戦できませんでしたが、

ロシアのエレーナ・プリコーヴィトワ選手にはかなり咲さんも手こずらされたようです。

なにせ、あっという間に手ができあがります。

オーソドックスな打ち方ですが、皆が聴牌している時でも、

難なく一・二順目くらいで和了してしまいます。異名は「極寒のトカレフ」。

どんなに厳しい状況下でも機動するトカレフのようだ、とのことです。

咲さんも一荘ルールに助けられた面があります。

最後の最後でまくりました。1回戦突破です。

カトリーヌ選手は・・・なんと、世界選で他家を飛ばして和了。脅威的です。

カトリーヌ選手に関しては・・・

フランスのTV局がドキュメンタリーを組んでいるようですね。

咲さんもインタビューに答えて、やっと私たちのもとへ戻ってきてくれました。

全体の1回戦が終わるまで、また暫く休養です。

咲が受けの方が好き

和「咲さん、私は今日は遥を連れてベンラート城へ行こうと思いますが、

  咲さんはどうしますか?」

咲「そうだなぁ・・・私も気分転換に今日は一緒に出かけることにするよ。

  私一人だと宿舎内でも迷っちゃって、結局部屋に閉じこもりきりだし」

遥「わーい! パパも一緒!? 今日、遥、刀買うよ!」

咲「いや、剣とかの類は置いてないと・・・。

  って飛行機に持って入れないよ?」

和「じゃあ、デュッセルドルフ中央駅から行きましょうね。

  はぐれないで下さいよ?」

咲「わかったよ・・・って、こっちが子供みたいだね・・・」ハァ///

>>48 最初受け設定だったんだけどなぁ・・・


ベンラート城はピンクの可愛いお城です。

私の好みなのですが、遥はちょっとがっかりしたみたいです。

中世の騎士のような置物はありませんでしたしね。

勿論、剣も売ってません。

外見は私の趣味でフリフリの洋服を着ているけれど、

これで家では腰に刀を差すんですから、不格好極まりありません。

注意しても聞きませんし。

庭園の広さには「おっきー!」と言って駆け回って喜んでいました。

ガイドの方が英語で詳しく説明してくれます。

英語のできる方で助かりました。

私のドイツ語も英語と比べるとそんなに流暢ではありませんからね。

「建築はバロック様式で・・・」など、咲さんに通訳して伝えます。

咲さんも文学や芸術に造詣が深い人なので興味深そうに聞いています。

途中、遥が肩車をねだったので、咲さんが担ぎ歩を進めます。

カフェで一寛ぎ。ウェイトレスさんの制服もピンクです。

アリですね・・・。ちょっと着てみたくなりました。

咲さんは窓の外を見てぼーっとしています。

ちょっと胸騒ぎがします。

和「試合が気になるんですか?」

咲「ん? ・・・うん、ちょっとね」


遥がワッフルをポロポロ食べこぼすので、

お口をフキフキしながら咲さんのことも気遣います。

心ここにあらず・・・といった感じです。

仕方ありませんね・・・とは思うものの、つい私も心が翳ります。

そんな私を見て、咲さんも気を遣ったのでしょう、

はっとした顔をしてこちらを見るとニッコリと笑いました。


 咲「家族で来れてよかったね! 

   私も暫く家族サービスしてなかったから・・・」

 和「いいえ、そんなこと。でもまた来たいですね、家族で」

 咲「うん、また来ようよ!」

 遥「よいちょっ」(ナプキンの束に手を伸ばして、それらを全部床に落とす)

 咲・和「「あーあ」」

2回戦から咲さんはアフリカ・イスラム圏の国々と対戦です。

まだ世界選へ出られる国は限られているようです。

麻雀が流布したのも最近です。

運よく世界ランク40~50位の選手と当たることができました。

と言っても、世界で40~50位は十分凄いのですが。

咲さんは2回戦も突破。

一方カトリーヌ選手は・・・流石に他家を飛ばすまでには至りませんでしたが、

四槓子和了率がなんとこれまでで凡そ12%に達しました。SOA。

大事なことなので2度言います。SOA。

彼女の最高記録となりました。

勿論、彼女の特技はそれだけでなく、相手の能力にも柔軟に対応してくるようです。

しかも、後半へ至れば至るほど、他家の手が進まなくなります。

相手の能力を封じる何かが彼女にあるとでも言うのでしょうか?

ならば、咲さんの槓が封じられてしまえば・・・? 

それと同時に彼女は他家の能力をすっかりコピーして

試合に生かすこともできるようです。

コピーと言えば、後輩のマホがそんな打ち方をしていたことがありました。

しかし、なんとなく単なる真似とは違うようなのです。

なんと言うか・・・もっとこう、禍々しいような・・・。

でもそう感じた理由は3回戦で解りました。

咲さんはアジアの選手陣と打っていました。

その日は調子があまりよくなかったのか、辛くも3回戦突破。

途中何度か冷や冷やさせられる場面がありました。

3回戦のカトリーヌ選手の打ち筋はいつになくオーソドックス・スタイル。

盤石に勝ちを決めました。

その時、遥の世話で汲々としていた私は、やっとカトリーヌ選手と戦った相手の牌譜に少し時間をかけて目
を通すことができたのです。

上位2名が抜け出るトーナメント制となっている今大会で、

今まで私はカトリーヌ選手の牌譜にしか注目していませんでした。

ところが、カトリーヌ選手と戦った相手は、続々と次戦からは漏れなく敗退しているのです。

しかも圧倒的な大差で。

牌譜を見ると、各々の選手の得意技が消滅しています。

つまり―――壊されている。

咲さんはずっと前からこのことに気づいていたのです。

でも最早時は遅かりし。

4回戦でとうとう咲さんはカトリーヌ選手と対戦します。

何故このことにもっと早く気付かなかったんでしょう! 

・・・確かに、私が早めに気付いたところで対策は立てられなかったでしょう。

でも・・・このままだと、咲さんが潰される!

4回戦の家族控室では、既にモニターに咲さんの顔が映っています。

4回戦開始のブザー。只ならぬ静寂。

咲さんがいきなり「リーチ」の宣告。ダブリーです。

即和了。咲さんは、逃げ切るつもりです。

カトリーヌ選手がニヤリと笑った気がしました。

他の選手は地元ドイツ・オランダの欧州勢です。

ドイツは「パンツァー(戦車)」の呼び名高いマルティナ・リーゼンフーバー選手。

強引に勝ちをもぎとっていくタイプです。

オランダはソフィー・ファンダイク選手。異名は「糸杉」。

ゴッホの燃え上がる糸杉のように打点の吸引力が伸びていく。

しかも、他家に和了られてもその吸引力は衰えることはない。

咲「槓・・・嶺上開花、ツモ」


咲さん、走ります。他家は粛々としています。

3連続で咲さんが和了ろうとしたところへ、ソフィー選手の鳴き。

咲さんの和了をズラしました。マルティナ選手が早くも聴牌。

次の順でマルティナ選手がツモ。半荘目までは一進一退の攻防。

しかし、西風戦に入る頃、他家の手が進まなくなりました。

・・・同じだ。今までの戦線状況と同じなのです。


ついに、カトリーヌ選手の「槓」の呼び声が入りました。まさか・・・!

咲さんは・・・? 遥がお昼寝から寝ざめてグズり始めます。

慌ててお菓子を与えて誤魔化そうとしますが、外へ行きたいと駄々をこね始めます。


 和「少し黙ってて!」


気付けば思わず声を荒げていました。

遥は一瞬ポカーンとして、直後火のついたように泣き出しました。

「あぁ、もう・・・ごめんなさい、よしよし」と抱きあげます。

しかし、次の言葉に耳を疑いました。

カトリーヌ「嶺上開花、ツモ」


やっぱり・・・! 咲さんの技を盗ったとでも言うのでしょうか・・・。

咲さんは・・・! 表情はここからでは窺い知れません。

カトリーヌの得意技である四槓子は未だ出てきていません。

気付けばマルティナ選手・ソフィー選手共に手が進んでいません。

聴牌もできない様子。

そこからは完全にカトリーヌ選手を咲さんが追う形になりました。

ドイツ・オランダの代表選手は飛ばされないように精一杯のよう。

咲「槓」

カトリーヌ「ポン」


何か異常なことが卓上で起こっていることだけは解りました。

やっとモニターに映し出された咲さんは軽く肩で息をしています。

やはり咲さん相手に四槓子は難しいのでしょうか。

そうですよね、きっと・・・。

しかし、北風に入った直後またもカトリーヌが槓からの嶺上開花。

しかも、今度は加槓です。

打点が伸びている・・・。これはソフィーの得意技「糸杉」?! 

咲さんの表情が険しい。こんな表情は見たことがありません。

卓上では一見、意味不明のカトリーヌと咲さんの鳴き合いが続いています。

2人とも異常な手牌です。

次の局は流局。

カトリーヌ選手は世界選入っての初めての流局ではないでしょうか。

一瞬、苦虫を潰したような顔をしました。

そして、ついにオーラス。


 咲「嶺上開花、ツモ」


最後、咲さんがやりました。しかし、後一歩でカトリーヌには及ばず。

2位なので4回戦突破は決まりました。

けれど、カトリーヌ選手は何か苦々しげに呟いた後、すぐに退場していきました。

と、同時にドサリ、といった感じで咲さんが椅子から崩れ落ちます。

と、取り敢えずここまでです

また書き溜めたら、来ます

和「咲さん・・・! 咲さん!」


私は、遥をスタッフに預けてすぐに会場へと走ります。

遥はモニターでパパが倒れたのを見て、更に泣き声をあげています。

「遥・・・すぐに戻るから・・・!」心で娘に謝りながら、一路咲さんの元へ。

関係者が咲さんの様子を見ています。


和「イッヒ ビン イーネ フラオ!(私が妻です!)」

咲さんはすぐに病院へ連れて行かれて検査を受けましたが、特に異常はないとのこと。

極度の精神的緊張と疲労のせいだろうとの診断でした。

宿舎に帰ってベッドに横たわった咲さんは夜になって熱を出してしまいました。

「パパが死んじゃう」と泣くじゃくる遥を抱っこして眠らせながら、寝ずの看病です。

ドイツまでついてきてよかった・・・と思う反面、一体何があったのかと不安な気持ちでいっぱいでした。

咲さんは次の試合までに回復してくれるでしょうか・・・。

いいえ、こうなってはもう試合とは言いません、どうか無事で・・・。

咲(ふっと眼を開けて)「・・・和ちゃん?」

和「咲さん、気付きましたか!? 咲さん!」

咲「私・・・今何処で・・・何を・・・?」

和「咲さんは試合会場で倒れたんですよ」

咲「倒れた・・・試合は? 私・・・負けたの?」

和「あっ、起き上がろうとしてはいけません、まだ熱があるんですから。

カトリーヌ選手には負けましたが、2位で4回戦突破ですよ」

咲「そう、私・・・負けたんだ」

和「まだ次がありますよ」

咲「次は・・・勝てそうもないよ・・・」

和「何を弱気なことを言ってるんです!

 あなたは日本代表の宮永咲じゃありませんか」

咲「だって私・・・かなり吸い取られちゃったから・・・」

和「吸い取られたって何を・・・? 咲さん? 

って眠ってしまったんですか・・・?」

何かよくないことが起こっている・・・。

その不安は的中しました。

それ以後、調子を崩したであろう咲さんは、なんと5回戦敗退。

終わってみれば、世界選戦績は17位という結果に終わりました。

日本では優勝候補として騒がれていただけに、各新聞は書きたい放題。

反して1位におさまったカトリーヌ・デュシュネ選手には称賛の嵐です。

メディアの手のひらを返したような咲さん叩きには、とても心が痛みました。

帰国後、カトリーヌ選手と対戦した後の咲さんは、やはり体調面も気分もあまりすぐれないようでした。

ある日の夜プロの試合を終えたばかりの咲さんは、家へ帰るなり倒れ、熱を出してしまったのです。

和(最近、こうして原因不明の熱を出すことが多い・・・。

日本でのプロの試合では盤石に勝っているけれど、私の眼は誤魔化されません・・・。

槓からの嶺上開花率が下がっている。

対して、カトリーヌ選手は四槓子に加え、嶺上開花の技を試合で使うようになった・・・。

潰されなかっただけでもよかったというのでしょうか・・・。でも何か違う気がします)


遥「ママ~・・・」

和「あら、起きてしまったんですか? トイレですか、遥」

遥「ううん・・・パパは?」

和「心配で来てくれたんですね。パパはママが看ているから大丈夫ですよ」

遥(ビチャビチャの濡れタオルを持ってきて咲の額に乗せる)

咲「ひゃっ!」

和「あらあら・・・。咲さん、ごめんなさい、遥が・・・。

遥、本当にパパは大丈夫ですよ。それにタオルは絞らないと・・・」(慌て)

和「ほらほら、もう遅いですから遥はねんねですよ」

(遥を子供部屋へ連れていく)

遥「うん・・・おやちゅみなたい・・・」

咲「和・・・ちゃん? 遥・・・は?」

和「ごめんなさい。起こしてしまいましたね。具合はどうですか?」

咲「随分いいよ・・・。ずっと看ててくれたの?」

和「はい」

咲「そっか・・・和ちゃん」

和「はい。飲み物ですか?」

咲「ううん、そうじゃなくて・・・急な話でなんだけど・・・。

私アメリカのメジャー・リーグへ行こうと思うんだ」

和「こんな体でですか!?」

咲「無謀なことはわかってるけど・・・。

けど、このまま日本にいたら私ダメな気がするよ」

和「咲さん、焦る気持ちは解りますが、せめて体を治してからにしてください」

咲「これは体調不良なんかじゃないの」

和「それはどういう・・・」

咲「私は私を取り戻さなくちゃ」

和「咲・・・さん?」

咲「それに・・・メジャー・リーグへは私一人で行くから」

和「はいっ!? 何を言ってるんですか!? 

一人でなんてそんな無理に決まってるじゃありませんか!」

咲「本当に・・・本当に急な話で申し訳ないんだけど・・・。

和ちゃん、私たち別れよう?」

和「 」

咲「ゆっくり考えてくれていいから」

和「どうして・・・どうして・・・っ! そ、そんなこと・・・言うんですか!?

 熱に侵されてしまってるんですね、そうですね?!」

咲「私、正常だよ・・・。酷いこと言ってるのはわかってるよ。

呆れてくれていいから」

和「私、納得できません! 納得できるわけがないじゃありませんか! 

理由を言ってください!」

咲「理由は・・・麻雀に専念したいんだ、私」

和「・・・えっ。それは・・・もしかして・・・邪魔なんですか・・・」

咲「・・・」

和「私が邪魔だって言うんですか。咲さん!」

咲「そういう意味にとってもらって構わないよ」

和「嘘っ・・・嘘っ! あなたの邪魔になるようなことなんて

一切してないじゃありませんか!」

咲「だから・・・呆れてくれていいって言ってるじゃない・・・」

和「嘘です・・・私の知ってる咲さんは・・・

私の咲さんはそんなことを言う人ではありません」

咲「わかった・・・。今日はこれくらいにしよう。

また話をしよう? 和ちゃん」

和「ね、熱が下がったら、また気分も変わります・・・。

そうでしょう? 咲さん」

咲「急に悪かったね・・・和ちゃん」

和「さ、咲さん・・・今日は遥と一緒に寝ますね・・・」

咲「うん」(横を向いて寝入る)

でも、咲さんの気持ちは変わらないようでした。

その日を境に夫婦の会話も少なくなり、咲さんはいつも何か思いつめたよう。

私の必死の懇願も聞いてくれません。

私がどれだけ別れるのが嫌だと言っても、既に2人の間には娘があることを強調しても

咲さんは俯いて「ごめん・・・」と呟くのみなのです。

こんな状態を、子供は悟いものなのですね。

小さな胸を痛めたのでしょう、「パパとけんかしたの・・・?」と私を慰めに来てくれます。

その姿を見るにつけ、思わず瞳が潤んでしまいます。

娘には心配をかけたくないので、できるだけ母親の泣いているところを見せたくないのですが・・・。

私たちはこんなにも修復不可能な関係になってしまったのでしょうか?

和「咲さん・・・それでは」

咲「うん」

和「実家に・・・帰りますね」

咲「うん・・・。見送りできなくてごめん」

和「その・・・一旦、私たちは帰りますが・・・

咲さんが落ち着いたらいつでも・・・」

咲「私は変わらないよ」

和「―――っ。そうですか・・・。

それじゃあ・・・咲さん、体に気をつけて」

遥「パパぁ・・・」

和「具合が悪くなったら、あの、携帯に・・・」

咲「・・・」

遥「・・・グスッ」

和「大丈夫よ、遥。おじいちゃん、おばあちゃんのところに行くのは

ちょっとの間だからね。また、お家に帰って来ましょう?」

遥「ママ・・・」

咲「・・・」

重く玄関のドアが閉まる音を後にして、

私は遥を抱きかかえて家を出ることになりました。

振り返っても・・・そこに咲さんの姿はありません。

恐らく家の中に引っ込んでいるのでしょう。

これが絶対の別れだと思いたくない。一時帰宅のつもりでした。

きっと咲さんは実家に迎えにきてくれる。それまで、一旦距離を置こう。

すぐに・・・すぐに会えますよね。

遥は心細いのでしょう、さっきからしくしく泣いています。

そして、心細いのは私も同じ・・・。

咲さんは・・・麻雀に専念したいの一点張り。

世界大会での雪辱があるのはわかっています。

けれど・・・だからと言って、家族を犠牲にしてまで

麻雀に打ち込むことはないじゃありませんか・・・。

しかし、それ程までに、あのフランス代表のカトリーヌ・デュシュネ選手が

咲さんの心を占めている、ということなのでしょうか・・・?

咲さんは・・・身の心も麻雀の鬼になってしまったというのですか・・・。

それとも単に体調が悪いせいで、一時的に思いつめているだけなのでしょうか。

実家では久々に戻った私を気遣ってか、歓待してくれました。

遥が寂しくないように、と与えられるおもちゃの数々・・・。

そんな物質的ものが本当に必要じゃないことぐらい、誰もがわかっていましたが・・・。

遥は新しく幼稚園に入りなおしです。

今度は幼稚園でも一緒というわけにはいきません。

遥はいつになく寂しそうでした。無理もありません。

急に環境が大きく変わってしまったのですから。

いえ、勿論それだけではないことは明白でした。

私が一番悲しかったことは・・・遥が私に気を遣って、

すっかり大人しく聞きわけのいい子になってしまったことです。

あの元気でやんちゃな遥はどこに行ってしまったのでしょう。

運命を呪わずにいられませんでした。

そして、私が実家に戻ってから1ケ月くらい経ったある日のことです。

その日も私は咲さんからの連絡を待っていました。

こちらから連絡は取らない方がよいと思ったんです。

でも、連絡を無理にでも取ればよかった・・・。

朝刊を取りに行った父が血相を変えてリビングに駆け込んできたのです。


和父「和っ! 大変だぞ!」

和 「な、なんですか? お父さん」

和父「これを見ろ」


そこにはプロ雀士宮永咲、メジャー・リーグへ移籍、と書かれてあったのです。

そんな・・・! 咲さんが私に断りもなく・・・移籍の決断をしたというんですか・・・っ。

私はその場で泣き崩れてしまいました。

これで本当に物理的にも咲さんと埋めようのない距離ができてしまう・・・!

和父「聞いてなかったのか、和」

和 「本当に私たちを置いて・・・メジャーへ行くなんて・・・SOA」

和父「いくらなんでも、この仕打ちはあんまりだ。和。私に任せろ」

和 「どうするんですか・・・」

和父「これ程、バカにされる謂れなどない! 

   あんな奴には三行半を叩きつけてしまえ!」

和 「お父さんには関係ないでしょう!?」

和父「か、関係ないことあるかっ」

和 「余計なことしないでくださいっ」

 
 
私はすぐ咲さんの携帯に電話しました。


事情を聞きたい・・・そうだ、これはきっと何かのデマなんだ、

咲さんが私に相談もなくそんなことをする筈がない・・・

もしこれが本当ならば・・・私たち・・・捨て・・・られた・・・? 

けれどいつまで経っても咲さんは電話に出ません。嘘・・・着拒・・・?

咲さん、お願い、声を聞かせて・・・!

そして今すぐ、これは嘘なんだと言ってください・・・! 

でも何度電話しても携帯の主の気配もしません。

そのうち、私は目眩がして倒れてしまいました。

暫く私は自室に寝かされていたようです。

その間、ものすごく・・・長い夢を観ていた気がします。

なんだか耳元で小鳥が鳴いているような・・・。

うっすらと目を開けば・・・とても懐かしい感じがする。

ここは・・・何処でしょう? 

そうそう、いつまでも寝ていないで、もうそろそろ起きて

咲さんのために朝食の準備をしなきゃ・・・って、咲・・・さん? 咲さん・・・。

気付けば、耳元で携帯が鳴っており、その音で私はまどろみから

一挙に引きずりだされました。携帯を咄嗟につかみます。


和  「咲・・・さん! 咲さん!?」

???「あー・・・和? 私だけど・・・? 

    あれ、咲からの電話待ち・・・?」

和  「えっ・・・咲さん・・・じゃないんですか」

???「なーに言ってるのよ、もう。大丈夫? なんだか声の調子が変よ?

    あー、あれ? 渡航の用意で忙しかったとか・・・?」

和  「ひ、久先輩!」

久  「あら、やっと気付いたの? もしかして寝てた?」

和  「ひ、久・・・先輩・・・私・・・私!」

久  「ちょっ・・・どうしたのよ、和」

そこから後は、もうダメでした。

一度堰を切って溢れ出た感情はどうにも止まらず、

私は今までのことをすっかり打ち明けてしまっていました。


久「あ、うーん・・・そんなことになっちゃってるとは知らなかったわ。

  メジャー・リーグ移籍おめでとう電話だったんだけど・・・

  それどころじゃないわね」

和「久先輩・・・! 私、私どうしたらいいんでしょう・・・?」

久「和。泣いてるだけじゃ何も解決しないわよ。

  それで咲は麻雀に専念したいからって別れるって言ったのね?」 

和「そうです・・・」

久「その他には?」

和「その他って・・・何も。麻雀に専念したいの一点張りで・・・

  話も聞いてくれませんでした」

久「おっかしいわねぇ・・・」

和「え・・・」

久「だって今までも麻雀に専念してきたじゃない」

和「それはそうですが・・・」

久「それに和たちがいてくれた方が麻雀に専念できるってもんよ。

  バックアップがちゃんとあるんだもん。

  だから離婚したい理由にはならないわ」

和「そ、それはそうですけど・・・」

久「それに何を訴えても、ゴメン、なんでしょ?」

和「そうですね・・・」

久「だから本心は手放したくない筈よ。

  うちも娘ができたからね、

  娘と引き裂かれるのがどれだけ辛いか、はわかるつもりよ」

和「あ・・・美穂子さん・・・おめでとうございます」

久「ありがとう。って今はそんな話してる場合じゃないわね。

  そうねぇ、咲は何か隠してるんじゃない?」

和「な、何をですか?」

久「あなた、心当たりないの?」

和「え、えーと、多分世界大会で対局したフランスの代表選手が

  絡んでいるだろうってことはわかるんですけど・・・」

久「へーぇ・・・。ふうん。・・・ほうほう。

  随分それも禍々しい能力者ねぇ」

和「能力者って・・・SO・・・」

久「あー、みなまで言うな、よ。そうねぇ、咲の本音を聞き出すためにも、

  あなたもう一度咲と会わなくちゃね」

和「でも・・・電話にも出てくれないんですよ?」

久「あー、じゃあ、まぁひと肌脱ぎますか。

  大丈夫よ、多分連絡つくわ」

和「えっ。そんなのどうやって・・・」

久「まぁ、まっかせなさい。

  ちょっと知り合いに口きいてみるから」

和「ほ、ほんとですか?! 

  久先輩、なんとお礼を言っていいか・・・」

久「あー、堅苦しいなぁ、いいから、いいから」

今度は久先輩の連絡待ちでした。

その間も咲さんに電話をかけ続けましたが、やはり出てはくれません。

そのうち、久先輩から2~3日ほどして連絡がありました。

たった2~3日、と言えばそうですが、私には一日千秋の思いでした。


和「ひ、久先輩! 私です」

久「お待たせ。咲の情報が手に入ったわよ」

和「す、すごい・・・! どうやって」

久「いや、私の人脈でプロ関係者を当たってみただけだけど? 

  靖子やすこやんとか・・・。

  すこやんは合コン情報だけで随分働いてくれたわねぇ」

和「いえ、小鍛冶プロのことはどうでも・・・って、咲さんは?」

久「あ、そうそう。咲はね、○月×日、

  Sホテルの807号室にいるわよ。行ってみそ」

和「そ、そこまで・・・。小鍛冶プロ恐るべし・・・。

  あ、いいえ、行ってみます! ありがとうございました!」

久「あ、ええと、それとね、これは作戦よ」

和「作戦?」

どうやら咲さんはSホテルで年棒契約をするらしいことがわかりました。

年棒契約をするとすれば、どこかの部屋かホールのカフェなどでしょう。

暫くホールで待って・・・咲さんを見つけられない場合は部屋へ行こうと思いました。

そのうち・・・そろそろエレベーターに乗ろうと思っていた時でした。

見慣れたホーンが頭にある人物がホールをウロチョロしています。

さっきからエレベーター付近を行ったり来たりしているようです。

・・・安定の迷子です。もうあの人は・・・涙で目が霞んできました。

私がいないと部屋にも帰れないというのに、一人でメジャー・リーグですか。

笑わせます。私は思いきって背後に回って声をかけます。


和「咲さん!」

咲「ふぇえ!? 和ちゃん? どうしてここが・・・!?」

和「・・・お話があるんです」

咲「・・・私にはないよ。悪いけど・・・帰って」

和(ぐっと咲の腕を掴んで)

 「私、妊娠しているんです! 

  どうしても話を聞いてもらいます!」

咲「え、えええええ!!」

咲さんの部屋、807号室はスイートのダブル。

契約者側が用意したのでしょう。

相手側の咲さんへの期待値が高いことが、こんなことからでも窺えます。

咲さんは飲めないクセして、ワインでも・・・と言い、

グラスをくゆらせながら窓の外をじっと見つめています。

私はベッドに腰かけたまま、黙って咲さんの言葉を待っていました。

そのうち、痺れを切らしたのか、咲さんが口を開きました。


咲「それで・・・何ケ月なのかな・・・?」

和「3ケ月だそうです」

咲「私が・・・向こうに行っちゃってる時期だね、産まれるの・・・。

  勿論、出産費用は出すし、こちらから万全の用意を・・・」

和「そんな話をしに来たわけではありません」

咲「えっ?」

和「私、この子、堕ろします」

咲「ええええええっ!!」

和「本当に勝手な人ですね、あなたは。

  自分の都合で私たちを捨てるくせに、子供は産めと言うんですか?」

咲「えっ。あ、いや・・・」シドロモドロ

和「私はあなたの子を堕ろす、と伝えに来ただけです。

  もうあなたを引き留める気はありませんから。では、咲さん」

咲「えっ! 帰るの!? ちょっ、ちょっと待ってよ、まだ話が・・・」

和「話すことはなかったんじゃないんですか?」キッ

咲「うっ・・・」

和「あなたにもほとほと愛想がつきました。お元気で」

咲「ま、待ってよ、和ちゃん!」

和「なんですか、手を離してください」

咲「だって・・・いきなり子供ができたとか、

  堕ろすとか・・・そんな、そんな」

和「事実なんだから仕方ないでしょう?」

咲「で、でも私たちの子供だよ・・・?」

和「もう関係ないでしょう? 離してください」

咲「関係ないって・・・子供ができたなら話が違うよ!」

和「話が違うってどういうことですか? 

  子供ができなきゃこのまま離婚ですか? 

  失礼にも程があります! 

  遥は私たちの子供じゃないんですか!?」

咲 バッ「和ちゃん! ごめんなさーい!」土下座

和「え・・・?」

咲「ごめんなさい、勝手なこと言ってるとはわかっています。

  でも・・・でも・・・私、自分の子供が堕ろされるって聞いて黙ってられないよ!」

和「産め、と言うんですか・・・?」

咲「う、うう・・・。

  だって・・・だって私、その子の親だし・・・」

和「あなたがこれから捨てようとしている遥だって、あなたの子ですよ」

咲「あっ、あうっ・・・」

和「いいえ、違いますね。

  これから私たちがあなたを捨てようと思ってますから」

咲「えっ・・・えっ?」

和「えっじゃありませんよ。呑気ですね。

  私は遥と一緒に生きていきますから、あなたもご自由にどうぞ」

咲「の、和ちゃん、待って・・・待って・・・。私が悪かったから・・・。

  待ってよぅ・・・うぅ・・・」(泣)

和(ほうっと息をついて)

 「咲さん・・・」

咲「うぅ・・・あぐっ・・・」

和「泣くほど辛いなら、何故わざわざ別れるなんて言ったんです・・・?」

咲「だって・・・このままじゃ・・・」

和「このままじゃ・・・?」

咲「巻き込んじゃうもん・・・」

和「何に・・・ですか?」

咲「これから私がしようとしてる戦いにだよ・・・」

和「ちょっとちゃんと話してもらえますか?」キッ

咲 ビクッ「うっ・・・。ハイ」


やっと咲さんが重い口を開きました。

彼女は私の隣に腰かけ、訥々と話し始めます。

咲「私が戦おうとしてるカトリーヌ選手というのは・・・

  相手の能力を吸い取る能力者だよ。

  そして能力を吸い取られた相手は廃人になってしまう。

  和ちゃんにそんなこと言ったら、SOAで片づけられそうだし・・・。

  この間の戦いでも、私は雀力をかなり吸い取られた。

  これは倒すのは並大抵じゃない、

  自分が壊れることも覚悟で命懸けでいかないと・・・。

  私がカトリーヌ選手に拘る理由もちゃんとあるよ。

  私・・・いろいろな能力者と戦ってきたけど、

  相手の能力を吸い取る相手は初めて・・・。

  しかも、その能力を自分のものにしちゃう選手。

  でも、そんな能力、私間違ってると思うんだ。

  他人を壊してまで手に入れた能力でのうのうとのさばっているなんて・・・。

  私はそれで、彼女から力を吸いとり返そうと思ったんだ。

  そして、力を吸いとられた皆にその力をもう一度返したいって・・・」

和「そ、そんなことができるんですか・・・?」

咲「うん。この間の試合でなんとなくカトリーヌ選手の力の使い方がわかったの」

和(えっ・・・。それでカトリーヌ・デュシュネは

  あの時渋い顔をしていたとでも言うんですか・・・?)

咲「でも・・・これは私が壊れる覚悟をしなくちゃ。

  そんな戦いに大切な家族を巻き込むわけにはいかなかったんだよ」

和「それで自分一人で単身乗り込む覚悟をした・・・

  で、離婚しよう、ですか」

咲「う、うん・・・」

和「呆れました」

咲「えっ? あ・・・」

和「本当にあなたには愛想が尽きました」

咲「の、和ちゃん・・・そうだよね・・・」ショボン

和「バカじゃないんですか」

咲「和ちゃんなら、そう言うんじゃないかと思った・・・。

  こんな話、SOAって・・・」

和「カトリーヌ選手の能力云々のことじゃありませんよ」

咲「えっ・・・」

和「あなた、結婚をなんだと思ってるんですか」

咲「う・・・うぅ・・・」

和「結婚した時点で、既にもう全てのことに

  巻き込まれてるんですよ」ニコッ

咲「え・・・?」

和「そんなことくらい、覚悟の上です。

  それに、咲さん、あなた本当に間違っています」

咲「えっ・・・ハイ」

和「自分が壊れたらって・・・

  最初から壊れるつもりでいるじゃありませんか」

咲「!!」

和「最初から負けるつもりでいて、勝てるわけないでしょう? 

  心が負けているじゃありませんか」

咲「そ、そうだね・・・」

和「それに・・・」

咲「う、うん・・・?」

和「―――私が壊させません」

咲「!!」

和「どうして私を頼ってくれなかったんですか」

 (咲をギュッと抱きしめる)

咲「の、和ちゃん・・・私・・・私、

  SOAって言われたら反論しようもなくて・・・ そう思ったら・・・」

和「すみません・・・相談しにくくさせていたんですね。

  私、口癖変えます」

咲「えっ」

和「これからはS(咲さんの)O(オカルトは)A(ありえます)にします!」

咲「!!」

和「私・・・咲さんのこと、信じてますから。

  だってあなたは私が愛する宮永咲なんですもの」

咲「の、和ちゃん・・・」

和「だからなんでも相談してください。夫婦じゃありませんか」

咲「和ちゃん!・・・うん、これからはちゃんと相談するよ、

  私間違っていたよ」

和「なんだ・・・思い返せば、咲さん、

  相談できなくて勝手に一人で悩んでただけじゃありませんか」

咲「そ、そうだね・・・ほんと、私って頭悪いよね・・・///」カァ

和「単に夫婦のコミュニケーション不足、すれ違いってやつですよ」

咲「そ、そっか・・・。私勝手に悲劇のヒロインやってたんだね・・・。

  ところで和ちゃん」

和「なんですか?」

咲「産まれてくる赤ちゃんのことだけどさ、・・・」

和「ああ、あれ。ごめんなさい。担ぎました」

咲「え、ええっ!? 嘘ってこと!?」

和「そうです。ごめんなさい」

咲「酷いよぅ・・・」

和「でも、こう言えば必ず咲さんが耳を貸すだろうっていう

  誰かさんの悪知恵、いいえ、助言もあって」

咲「誰かさん? 誰さ?」

和「秘密です」

咲「ずるいよぉ・・・」

和「咲さんだって離婚だなんて酷いこと言ったんですから、

  少しは傷ついてください」

咲「うっ・・・それは一応・・・和ちゃんたちのことを想って・・・」

和「でも間違った考えでしたよね」ジロッ

咲「あ・・・ハイ」

和「今度もしまた離婚だなんて言ったら・・・」

咲「い、言ったら・・・?」(汗)

和「殺します」

咲「スミマセン、スミマセン、もう言いません!」ガクブル

和「咲さん!」ギュッ(押し倒し)

咲「わっ」

和「一人になんかしません。

  寂しい思いももう二度と私がさせません!」

咲「和ちゃん・・・。和ちゃんは強いね」

和「嫌いになりましたか?」

咲「・・・ううん。私に麻雀の楽しさを思い出させてくれた、

  あの時とずっと変わらない大天使のどっちの強さだよ」

和「じゃあ、好きですか」

咲「ん・・・うん///」

和「じゃあ、証明してください」

咲「しょ、証明? 

  具体的に言ってくんないとわかんないよ・・・」

和「折れるほど抱きしめてください!」

咲「うわぁっ。ちょっ・・・和ちゃん・・・ムググ・・・」

そのまま私は咲さんを押し倒して唇を奪いました。長いキス。

咲さんは右手で私の髪の毛をかきあげます。

髪の毛を咲さんに弄ばれながら、じっと見つめ合います。


和「さっき・・・」

咲「え・・・?」

和「さっき、何を言いかけたんですか? 

  ほら、私たちの赤ちゃんが・・・ってところで」

咲「あぁ・・・名前どうしよっかって・・・」

和「咲さんたら、気が早いですね」クスッ

咲「エヘヘ・・・。遥の時も・・・

  私たちの名前から一字ずつって考えたけどうまくいかなかったんだよね」

和「今度はどういう名前にしようと考えたんですか?」

咲「えぇ? 考える暇なんてないよ。

  まさにそれを相談しようと思ってたんだから」

和「聞きたいんです。考えてください」

咲「えぇ? でも嘘だったんでしょ?」

和「そうですけど・・・

  たまには取らぬ狸の皮算用もいいじゃありませんか」

咲「そうなのかな・・・うーん・・・えーっと。えーっとね・・・」

和 じーっ

咲「そんなに見つめられると・・・

  そうだな、歩とかは・・・?」

和「いいですね。意味は?」

咲「んっと・・・堅実に一歩一歩歩いていく・・・とかは? 

  つまんなかったかな・・・アハハ・・・」

和「いいえ、いいと思います」

咲「そう。よかった」

和「じゃあ・・・」

咲「え・・・?」

和「これから歩を作りますか?」

咲「ふぇえ!? ///」

和「冗談ですよ」

咲「驚いた・・・」

和「でも、家族としては着実に歩んでいきたいですね。

  新しい一歩を」

咲「う・・・うん!」

 
こうして私は、今まで信奉してきたデジタルを捨てたんです。

そう、それは信奉でした。

何かの理論を客観的だと思っていることも、それを信ずる人間がいるから成立すること。

私、頑固なだけだったんですね。

それに気付いたのも、新たに信じる人の存在があったればこそでしょう。

でも、このことは身内の間では随分話題性があったようです。

―――また3ケ月後。処変わって龍門渕透華理事主催の立食パーティ


透華「ええっ。原村和。

   あなた、デジタルを捨てたって言うんですの?」

 和「そうです。最近のことですけど」

 一「え・・・あの合理主義の原村さんが・・・?」

 衣「衣の力を認めたんだな。さもあらん」

 和「もう私、宮永ですから。久しぶりですね、天江さん」

 衣「流石は嶺上使いの嫁というか・・・

   ってさっきから衣を撫でていないか?」

 和「うちの子を思い出して・・・」

 衣「ウワーン! いい歳なのに、まだ結婚もできてないのに、未だに子供扱い!

   然りとも、5歳の子供に比されるとは無碍なり!」

 一「衣・・・。最近はアラフォーで結婚できない雀士もいるしね・・・。

   20代後半ならまだまだ圏内だよ?」

 衣「すこやんのことか?」

 一「名前を出すのはよくない、うーん、よくないなー。

   来てるかもしれないしね・・・」

透華「しかし、この私を待たせるとは大物になったようですわね、

   今日の主賓は・・・」

 和「すみません・・・龍門渕理事」

透華「どうしてそういう堅苦しい言い方をなさいますの? 

   私たち高校からの親友じゃありませんの」

 和(新密度が以前にも増して上がっています・・・汗)

ハギヨシ「お待たせ致しました。主賓のスピーチの用意ができました」

咲(記者たちのスポットライトが当たる)

 「えー・・・この度は・・・私のために、古くからの盟友である

  龍門渕グループの皆さんのお力を拝借し、
 
  かくも賑々しく壮行パーティーを開いて頂きましたことは・・・」

記者「宮永咲プロ! 大リーグでの意気込みは如何ですか?」

咲「そうですね、世界という舞台に触れたのは

  前回の世界大会が初めてでしたが・・・」

記者「宮永照プロはこのことをどうお考えですか?」

照「ハイ。私は以前から妹に世界に臨むことがどれだけの糧になるかを

  常々説いてきておりましたが、この度は私の言葉にいたく感銘を受けたようですね。

  妹は私に憧れ麻雀の世界に足を踏み入れたわけですが・・・」

咲(お姉ちゃん、長い・・・。

  私、いてもいなくてもいいじゃん・・・)

まこ 「本当に大物になったものじゃのう」

久  「ふっふーん」

まこ 「なんでお前さんが得意そうなんじゃ」

久  「まぁ、ある意味私が咲を育てた・・・

    というのは最早常識のようね」

まこ 「なんでそうなるんじゃ・・・」

優希 「タコスうまー」

京太郎「こんなところにまでタコスが・・・。ってハギヨシさーん。

    おい、俺挨拶行ってくるから」

まこ 「ワシはこういう華やかな場所は苦手じゃのう」

久  「場末の雀荘経営のどこが悪い! もっと胸を張るのよ」

まこ 「いや、そこまで卑屈になっとらんわ・・・

    って寧ろ失礼じゃろ!」

美穂子「あっ、おシメが・・・変えられないかしら」

久  「あー、それならこっちが保育ルーム。一緒に行く?」

美穂子「大丈夫よ。久は皆さんに挨拶してきてね」

久  「あいあいさー。・・・げっ」

まこ 「何を隠れちょるんじゃ」

久  「いや、あの娘、どこかで会ったなぁーと・・・アハハ」

まこ 「プロまでつまみ食いしとるんかー!」

久  「いや、昔! 大昔のことだから! 時効!

まこ 「美穂子さ・・・ウグッ。技決まっとる! 決まっとる!」

優希 「おぉー、はやりんプロだじぇ。サインもらいに行くじぇ」

まこ 「まさか相手は・・・」

久  「ちゃうちゃう、いくらなんでも、ノーカンノーカン!」

まこ 「なんでいきなり関西弁になっとるんじゃ・・・」

咲 「ふーっ。やっと解放されたよ」

和 「お疲れ様でした」

透華「めでたいですわ! お飲みなさい」

衣 「そうだ、これも飲めー、咲」

咲 「衣ちゃん、私あんまりお酒は・・・」

衣 「衣の酒が飲めぬと申すか・・・!」

咲 「衣ちゃん・・・どっかの古い時代劇の悪代官みたいだね。

   そんな酔い方するんだ・・・アハハ・・・。あ、お姉ちゃん」

照 「おお、皆、ちーす」

咲 「ちーすって・・・記者の前と随分態度違うよ・・・」

照 「和ちゃん、咲のこと、オナシャス! シャス」
 
咲 「くだけすぎだよ!」

照 「咲の代わりに通訳お願いね。朝起こしてやってね。
  
   会場ではトイレの場所を先に教えといてやってね」

咲 「私が頭悪い子みたいじゃない!」

和 「わかりました、お義姉さん」

咲 ガーン「わかりましたって・・・」

衣 「誰が人間は結婚せねばならぬと決めた~!? 

   金ならあるんだぞ!」

照 「それは羨ましいな・・・私、結婚してもいいぞ」

咲 「完全に資産狙いじゃん、それ・・・」

久 「さーきっ」

咲 「わっ。久先輩」

和 「久先輩!」

咲 「今回のことは、どうもありがとうございました」

久 「えー、なんのこと? 私知らないわよ?」

まこ「お前さんはまたなんかしよるんか?」

咲 「夫婦の危機を救って頂いたんですよ」

和 「ねっ」

まこ「ほーお?」

久 「あら、和、あなた喋っちゃったの?」

和 「咲さんが助言相手を教えて欲しいって言うもので・・・」

久 「甘いわねぇ。そんなことじゃ咲に舐められて・・・」

美穂子「久ー」

久 「あ、はいはい。あ、ミルク? わかった。

   その間見てればいいのね」

久 「あー、うん、それでねー。

   やっぱりどちらかが尻にひかれるような関係はよくないわよ。

   よちよちいい子でちゅねー」

美穂子「久ー」

久 「はいはい。うん、わかってる。車だから飲んでないわよ。

   え、これ買ったの? 運ぶの? 勿論、私やっとくわ。え、ナンパされた?

   ヤバいわね、美穂子が可愛すぎるのよ。気をつけてね。

   でね、これは先輩からの助言なんだけど、

   相手の魅力にメロメロになりすぎてもダメね」

まこ「お前さん、言っとることとやっとることのギャップが・・・」

久 「え? 私何かしてる? 普通でしょ?」

咲 「アハハ・・・」

和 「自分のことはなかなか客観視できないって言いますものね・・・」

久 「失礼ね。別に私は尻にひかれてないし、メロメロでもないわ」

和 「はぁ・・・」

久 「まぁ、私がカッコよくて美穂子が可愛すぎるってのはコモンセンスかもね! 

   理想のカップルってやつかしら」

咲・和・まこ「「「・・・」」」

ワイワイ、ガヤガヤ


咲「仲良きことは美しきかな、だね」

和「私たちもですね」

咲「うっ、うん///」

和「思えば、大きく運命を狂わされてしまいましたね」

咲「えっ・・・あ、ごめん・・・」

和「違いますよ、咲さんにじゃなくて、カトリーヌ選手に」

咲「えっ・・・」

和「だから力を全て取り戻しに行くんですよね」

咲「う、うん!」

和「全国を目指した高1の夏を覚えていますか?」

咲「勿論だよ」

和「あの時は、結果離れ離れになってしまいましたが・・・」

咲「うん」

和「今度こそ運命をもぎ取りに行きましょう」

咲「・・・!」

和「約束しませんか・・・?」

咲(フッと微笑んで小指を差しだす)

和「世界へ・・・」

咲「世界へ!」(小指を絡ませる)

・・・と、今回はここまでです

次回は、宿敵との対決でラストです

―――3ケ月後。アメリカはシアトル。

暑くもなく寒くもない時期で助かりました。

マンションの中は未だにいくつかのダンボールが手つかずのままですが、

私たちはかなり適応が早い方だと言えるのではないでしょうか。左ハンドル走行にも慣れてきました。

あ、そう言えば咲さんは乗ってるだけでしたね。練習会場への送り迎えは私がしています。

でも咲さんもインターナショナルディストリクト駅までの行き方は覚えたみたいです。

家族でレストランへ行ったりします。

慣れないのはマーケットでごろんと寝転んでいるキングサーモンやロブスターの巨大さでしょうか。

なんとか苦労して捌いています。遥は一応バイリンガルの幼稚園へ通わせることにしました。

いつ、日本に帰れるかわからないことですし。咲さんは麻雀の研究に余念がないようです。

オーダーは先鋒。稼ぎ頭として期待されているのでしょう。

咲「ちょっと、ちょっと、和ちゃん」

和「なんですか?」

咲「研究に付き合ってよ」

和「え、リーグでずっとコーチしてもらっているじゃありませんか」

咲「それとは別メニュー。試したいことがあって」

和「それは・・・カトリーヌ選手への対策で?」

咲「まぁ、そんなとこ。和ちゃんにはデジタル打ちを教えて欲しいんだ」

和「えっ。この期に及んでデジタルですか」

咲「そうそう」

和「いいですけど・・・」
 「そうですね、ここでは・・・彼女の四槓子和了率12%を考慮して、

  槓の可能性を最大限にとって・・・(槓には回数制限がありますからね)、
  
  この河なら三面張が最も効率がいいと思います」

咲「なるほどね、じゃあ次、この場合の西家の手は?」

和「あ、はい。手がわかっちゃってるので・・・あれですが、

  相手が6待ちでない八面張なので・・・」

咲「ふむふむ・・・これでっと・・・こっちはカトリーヌ選手なら槓だね」

和「あ」

咲「ツモ、嶺上開花」

和「負けちゃいました・・・」

咲「そうだろうね」

和「そうだろうねって・・・」

咲「いいんだよ、これで。じゃあ次行くよ」

和「こんなことで対策になってるんですか?」

咲「なってるよ」

和「???」

咲さんには咲さんの考えがあるのでしょう。ここは信じるしかありません。

咲さんはもっとデジタル打ちを教えろと理論や解説を求めてきました。

なんだか咲さんらしくない・・・? 

それどころか、毎日付き合って欲しいということで、家にお手伝いさんまで雇うと言いだしました。


和「私はまぁ・・・助かりますけど。

  これからも私とこんな研究するんですか?」

咲「うん、頼むよ」

和「咲さんの役に立つなら、いくらでも協力はしますよ?」

それから咲さんは柄にもなく牌譜のデータ分析までし始めました。

まぁ、コンピューターを操作するのは主に私ですが。


和「相手の癖とかはわかりましたか?」

咲「癖とかはいいんだよ。私が知りたいのはデジタルの考え方だから」

和「咲さんが理論派・・・?」

咲「あ、理論だけじゃなくて勿論力も使うけど」

和「はぁ・・・」

咲「コーチの説明だとわからないんだもん」

和「あー・・・(英語ですか。通訳いるでしょうに・・・)、

  それなら書き留めておいてくれれば、解説しますよ」

咲「ほんと? 助かるよ。今まで理論とか考えてこなかったからなぁ」

和(やっぱり・・・と思いましたが、考えてないんですね・・・どんだけ・・・)

大リーグでの試合は主にアメリカ国内でのリーグ戦です。

けれど開幕外では海外勢との練習試合が行われているのです。

そう、咲さんはカトリーヌ選手のいるチームとの練習試合にポイントを定めているようでした。

それには団体戦だけでなく、個人戦も含まれます。


和「でも練習試合ではレコードに残りませんよ?」

咲「それでいいんだよ。試せるから」

和「咲さんがいいのなら・・・」

いつになく、咲さん燃えています。

リーグでの咲さんは嶺上開花率が以前よりは伸びないとはいうものの、

相変わらずのオカルト的強さでチームに貢献しています。

チームではデジタル打ちは見せないので、やはりカトリーヌ選手に特化した打ち筋の選択、

ということなのでしょう・・・? でも俄かではいくらなんでも・・・。

また、たまに熱を出す時もありました。


和「ちょっと根を詰めすぎではないですか?」

咲「いや、無理はしてないんだけど・・・まだ力を吸いとられた後遺症がね・・・」

和「大丈夫ですか、今度の練習試合」

咲「またとない機会だからね、頑張るよ」

和「あなた一人の身体じゃないんですからね・・・」

咲「う、うん///」

時には家族でシアトル観光もしました。スペースニードルでは遥が大はしゃぎです。

ただ曇っていてあまり視界はよくありません。咲さんもいつになく明るい表情。

余裕・・・?なんでしょうか・・・? 

よくわかりませんが、家族水入らずの観光は楽しいものでした。

そして時は過ぎ・・・。


和「明日は遂に遠征の日ですよ」

咲「あっという間だったね」

和「咲さんはどんな特訓をするのかと思っていたら・・・

  ずっとデジタルの研究でしたね」

咲「うん、和ちゃんが手伝ってくれて本当助かったよ」

和「それならよかったです・・・けれど」

咲「ん?」

和「どういう策があるんですか? そろそろ教えてください」

咲「へっ? 単にちょっとデジタル打ちを混ぜてみるだけだよ」

和「え? それだけ?」

咲「それだけ」

和「それで勝てるんですか?」

咲「それはなんとも。やってみないとうまくいくかわかんないから」

和「えっ?」

咲「えっ?」

遠征には咲さんはチームメイトとバスで、

私は遥をチームのご家族に預けて車でついて行くことにしました。

監督は一緒にバスに乗っていいと仰ってくれたのですが、

もし咲さんが前大会の時のように倒れる場合を考えて車が必要になるかもと考えました。

カナダはバンクーバーへ移動です。

そしてアメリカは我らが咲さんのシアトルのリーグ、ニューヨーク、カナダのバンクーバーのリーグ、

そしてフランスはカトリーヌ選手所属のリーグで練習試合の幕開けです。

皆が一堂にホテルに会します。

咲さんはミーティング以外は比較的自由に過ごせるようです。

食事をする際、1階のレストランで待っていたら、2軍の咲さんお付き?の選手が連れてきてくれました。

和「咲さん、咲さん」

咲「ん?」

和「あの奥に座っている選手・・・カトリーヌ選手じゃありませんか?」

咲「あぁ、そうだね。きっと」

和(じっと見つめる)

咲「料理冷めちゃうよ? 早く食べようよ」

和「えっ、気にならないんですか?」

咲「気になるっちゃなるけど・・・気にしてもしょうがないよ」

和「それはそうですが・・・」

咲「頂きまーす」

和「・・・い、頂きます」

  (なんでしょう? ふっきれたんでしょうか・・・)

そして1日の小休止を挟み、遂に練習試合開催。

咲さんは監督に頼み込んだのか、カトリーヌ選手のオーダーに合わせています。

カトリーヌ選手は大将。公式戦以外で先鋒戦から他家が飛んだら練習試合になりませんからね。

ニューヨーク、バンクーバーの選手たちも次々入場してきます。先鋒戦・・・丁々発止の攻防が続きます。

皆強い選手たちです。カナダの選手が最も強い。あっという間に点差が開いていきます。

フランスの選手が少し巻き返して先鋒戦終了です。

次鋒戦。咲さんと仲のいいチームメイトが出陣です。点を取り返します。

しかし、まくるまでには至りませんでした。カナダの逃げ切りです。

中堅選ではニューヨークが首位に立ち、2位カナダ、3位シアトル、4位フランスと続きます。

副将戦。ニューヨークの首位は揺らぎません。シアトルが2位浮上、3位カナダ、4位フランスです。

大将戦によい形でバトンが渡ってきたと言えるでしょう。

咲さんは出陣を間近に控えて、何やら監督とボソボソ話しています。

暫くして監督は不承不承頷いたようです。

そして・・・やっと咲さんが登場します。

ニューヨークの選手はエマ・パレルモ。カナダの選手はオリヴィア・ジェブセン。

フランスはあのカトリーヌ・デュシュネです。

エマ選手は染め手が得意。オリヴィア選手はオーソドックス・スタイル。サイコロが回り始めます。


オリヴィア「ロン 1300」


いきなり安手の和了。

カトリーヌ選手を警戒してでしょうか、早和了して親で連荘するつもりのようです。

咲「ロン 2600」


今度は咲さんの和了。やはり安手です。しかも三色を捨てています。

今の咲さんは最早±0は狙っていない筈。

と、するとこれが咲さんのデジタル、で尚且つ防御スタイル・・・。

監督は咲さんが防御に徹することを渋っていたのでしょう。

カトリーヌ選手は粛々としています。4人とも一見するに堅調な採牌です。

そのまま安手ばかりで場が進み、漸く南入。

・・・と、カトリーヌ選手が噴きました。


カトリーヌ「ロン。混一色」


親を直撃です。しかも、エマ選手の得意技で。

咲さんは・・・聴牌もしていませんでした。

ニューヨークはこれで1位陥落。エマ選手は苦しそうな顔をしています。

これ以後、ニューヨークの浮上はありませんでした。

南入してから他家の手が進みません。

カトリーヌ「ツモ。断糸九」


今度は堅調な和了。早い。今度は咲さんが高い手を作り始めます。


カトリーヌ「ポン」


直後に咲さんの捨て牌で鳴いてきました。ズラされた・・・。いや、違う。


カトリーヌ「ツモ」


咲さんの和了り牌が喰い取られました。止まらない・・・。

しかし、次に咲さんが噴きました。


咲「槓。嶺上開花」


カトリーヌ選手がニヤリと笑いました。

それからは、世界選を彷彿とさせるような咲さんとカトリーヌ選手との意味不明の鳴き合い。

流局。しかし、咲さんが和了したのはこの1回。

カトリーヌ選手の蹂躙が続きます。

この時点でトップ、フランス、2位シアトル、3位カナダ、4位ニューヨーク。

2位とは言っても3位との点差も僅かです。

カトリーヌ「槓。嶺上開花」


打点が伸びていく・・・。咲さん、止められません。

更に次局ではカトリーヌ選手に加槓まで許し、南三局でニューヨークが飛んでゲーム・セット。

トップは揺るがず大差でフランスの圧勝。

順位は変わらず2位シアトル、3位カナダ、4位ニューヨークでした。

終わってみれば一方的、且つ圧倒的。

カトリーヌ選手は意気揚々と引き揚げていきます。

咲さんは倒れはしませんでしたが、ちょっとフラついているみたい。

チームメイトに抱えられて仲間のところへ戻ります。監督と少し喋っているようです。

その後、足元が覚束ない様子で私の元に帰ってきました。

和「大丈夫ですか? 咲さん」

咲「ふーっ。うん、大丈夫。ちょっと疲れただけだから。

  監督が今日はもう休んでいいって」

和「そうですか。ではホテルに戻りましょう。それとも病院へ寄りますか?」

咲「心配しなくていいよ。寝れば治ると思うよ」

和「あの・・・負けちゃいましたね・・・」

咲「あぁ。でもうまくいったみたい」

和「え? 何したんですか?」

咲「私の力を吸いとらせたの」

和「えっ。わざとですか」

咲「うん、そう」

和「何故わざとそんなこと・・・」

咲「勝つためだよ」

和「え・・・」

咲「見ててね、和ちゃん。明日の個人戦は勝つよ」

和「!!」

ホテルの部屋へ連れ帰ると、咲さんはシャワーもそこそこにベッドに倒れ込み、

すぐにすうすうと寝息をたて始めました。

熱は・・・出ていないようです。

明日の個人戦は抽選によるトーナメント方式。

とは言っても、敗退した選手たちはそのクラスで練習試合が続けられますが。

カトリーヌ選手は咲さんの力をまた奪ったとのことなので、更に強さが増している筈です。

そのことは、翌日の個人戦で明らかとなりました。

トーナメントに現れたカトリーヌ選手の打ち筋はまるで咲さんのようです。

東風戦から他家を飛ばしてきます。

槓からの嶺上開花で次々と上位に躍り出たカトリーヌ選手は最早向かうところ敵なしです。

咲さんは監督とまた打ち合わせた結果、防御に徹しているようです。

盤石な打ち筋で上位へ歩を進めます。

これまで咲さんに嶺上開花は出ていない・・・。

封じられてしまったのか、使わないのか・・・。

どうにも判断がつきません。

そして・・・カトリーヌ選手との対局の時がやって来ました。

シアトルからは咲さんを入れて2人が出場。

あとはカナダの選手とカトリーヌ選手。

シアトルのもう一人の選手は名をアビゲイル・モレッツ。風を味方につけるタイプの選手です。

カナダはマーガレット・ウォザスプーン。数牌を操るのが得意です。

対局開始のブザーが鳴ります。

東風一局目。

皆着々と手を作り始めます。

流石に早い段階でアビゲイル選手の手牌には風牌が、

マーガレット選手の手牌にはいい感じの数牌が集まり始めます。


マーガレット「リーチ」


早い。三色同順の聴牌。

しかし、カトリーヌ選手もすかさず「リーチ」の呼び声。

同じく三色同順の聴牌です。

カトリーヌ選手はニヤニヤしています。

しかし・・・流局。

マーガッレト選手の顔色に変化はありません。

カトリーヌ選手が、おやという顔をしました。

東二局。アビゲイル選手の手牌に風牌が集まっています。

カトリーヌ「槓。嶺上開・・・」


嶺上開花ならず。

その局ではアビゲイル選手が小四喜をツモ和了しました。役満直撃。

カトリーヌ選手は眉を顰めました。

アビゲイル選手が一気に1位浮上。

しかし、次の局にはカトリーヌ選手の手牌に風牌が集まり始めます。

やっぱりアビゲイル選手の能力を・・・。

けれど、聴牌までいったところで流局。

カトリーヌ選手の顔が焦りに変わります。

咲「ロン 1300」


安手です。咲さん、このまま安手で逃げるんでしょうか・・・?

一瞬カトリーヌ選手に憤怒の表情が浮かんだように見えました。

そして南入して、また異常事態が起こりました。

再びカトリーヌ選手と咲さんとの意味不明の鳴き合い。

他家は完全に置いていかれています。

流局。流局が多すぎます。

未だカトリーヌ選手も咲さんも嶺上開花で和了してはいません。

そしてオーラス。

ここまで流局がかなりの頻度で続いています。

違うことと言えば、今までと違ってアビゲイル選手には風牌が、

マーガレット選手にはいい手の数牌が集まり続けていることです。

でも和了れません。

サイコロが回ります。

各選手、それぞれ手を作り始めます。

咲さんは・・・今回はなかなか運がいいようです。

そして、それはいきなりでした。

咲「ポン」


咲さんの鳴きです。

えっ。四暗刻一向聴からのポン!? どういうこと・・・でしょうか? 

咲さんはまたもポンから今度は暗槓を重ねます。

これは・・・清一狙い・・・? そんな・・・わざわざ!? 

卓上は既に何かおかしなことになっています。

他家は手が進みません。

カトリーヌ「リーチ」
 

そんな中、やっとカトリーヌ選手がリーチ。

初めて見る苦しげな表情。

必死に咲さんに喰らいついている様子。

おかしい。それ以外の他家は、その場の空気と化してしまっています。

そして、次に起きたことは・・・。

咲「槓」


加槓。カトリーヌ選手があっという顔をしました。

咲さんの手が山へ伸びていきます。


咲「槓」


またもや加槓。咲さんの手が再び山へ伸びていきます。

カトリーヌ選手に驚愕の色。

まさか・・・これは・・・!


咲「もう1個槓!」


咲さんの手がまたも・・・。

カトリーヌ選手がたまらずガタリと席を立ちます。


咲「 ―――嶺上開花・・・清一・・・四槓子!」

カトリーヌ選手が思わず膝を床につきました。

一瞬の静寂。

―――ワァアアアッ。

あまりのことに周囲からどっと歓声が上がります。

清一三連刻嶺上開花四槓子。

四暗刻の可能性を捨てて・・・! なんという無茶な。

卓の周りにはチームメイトが集まり、あのカトリーヌ選手を破ったということで、

咲さんは仲間にもみくちゃにされています。2軍の選手たちも駆け付けたようです。

カトリーヌ選手は床に膝と手をついた前傾姿勢で動けません。

咲さんがそれに気付き、手を差しだしました。

顔を上げるカトリーヌ選手。目には涙が浮かんでいます。

しかし、咲さんの手を払いのけると、傲然と会場を後にしました。

咲さんはまた監督と話し込んでいます。どうやら祝福されている様子。

私は逸る気持ちを抑え、咲さんが帰ってくるのをじっと待ちます。

でも、なかなか皆が解放してくれません。

個人戦はそのままトップを咲さんが独走、

カトリーヌ選手は2位に収まり、練習試合の幕が降りました。


―――その日の夜の各チームの懇親会にはカトリーヌ選手の姿はありませんでした。

部屋に帰ってやっと私は咲さんを抱きしめました。


和「おめでとうございます! 咲さん」

咲「うん、ありがとう///」

和「でも、一体何をどうしたんですか?」

咲「何って・・・えっと・・・感覚的なことだから、一度に聞かれても・・・」

和「じゃあ、順を追って聞きますね。

  咲さんはカトリーヌ選手の対策としてデジタル打ちを身につけていた。

  それはどう役立ったんですか?」

咲「あぁ・・・それは、一挙に力を持ってかれないためだよ」

和「えっ」

咲「一挙に持ってかれたら、いくら私でも壊れちゃうからね。

  でも和ちゃんと仲直りする前だったら、討ち死に覚悟でまともにぶつかってたかも」

和「私と・・・?」

咲「そう。和ちゃんと世界を目指すって約束をした後、思いついたの。

  2人でカトリーヌ選手に対抗すると考えたらどうだろうって」

和「私と2人で、ですか・・・」

咲「そう。そこで和ちゃんの特徴がデジタルなことに閃いたの。

  頭で考えたことなら、能力じゃないからカトリーヌ選手は盗めないんじゃないかって」

和「それで、デジタル、ですか」

咲「賭けだったんだけどね。でもうまくいった。

  一挙じゃなくて徐々にこちらの思うスピードで力を吸いとっていってくれたから」

和「デジタルが抑止力になったんですか」

咲「そういうことだね」

和「でも・・・それだと、個人戦でカトリーヌ選手が相手の能力を

  奪えなくなっていた説明がつきません」

咲「あ、気づいてた?」

和「そりゃ、わかりますよ。今までのカトリーヌ選手と様子が違いましたから」

咲「もう彼女の能力は限界だったんだよ」

和「限界?」

咲「私の力を吸いすぎてしまったからね」

和「!!」

咲「彼女にはもうこれ以上他人の能力を吸い続けることはできない。

  キャパ越えしてしまったんだから」

和「それでわざと・・・しかも、

  それは咲さんの能力が遥に強大だったということですよね」

咲「まぁ、吸い尽くされはしなかったみたいだね。アハハ」

和「じゃあ、もう力は取り戻せたんですか!?」

咲「うん。更に、気付いたことがあるよ」

和「なんですか?」

咲「彼女に力を吸われ続けているうちに、

  私の中から何かまた新たな力が滾々と湧き出てきたことに」

和「えっ(もしかして咲さんの能力って底なしですか・・・

  マジで怖いです。でも・・・よかった) 

  皆の力はどうなりますか?」

咲「多分、同卓して打てば返せると思うよ」

和「えっ、それだけで?」

咲「うん。カトリーヌ選手の能力を逆応用すればいいから。

  彼女の力は見きったよ」

和 (怖い怖い怖い・・・)

 「じゃあ、咲さんも相手の能力を吸いとる能力者に・・・」

咲「私はそんなものにはならないよ。

  だってお互いの力をぶつけ合って戦った方が楽しいからね!」

和 ブルッ(その方がずっと怖い気もします・・・)

 「でも・・・」

咲「ん?」

和「やっぱり咲さん、素敵です!」ドサッ(押し倒し)

咲「わっ。愛情表現は嬉しいけど・・・眠いんだよぅ・・・」

和「つれないですね」

咲「これでも随分力の限りは尽くしたんだよ?」

和「じゃあ、ご褒美は何がいいですか?」

咲「睡眠・・・」

和「ほんとにつれないですね」

咲「ほわわわわ~・・・」欠伸

和「こうして見ると、全然怖い人には思えませんけどね・・・」頬をつんつん

咲「うーん・・・すう・・・すう」

和「ふふっ。おやすみなさい」(電灯を消す)

翌日のバンクーバーは私たちの心のように快晴。

フランス・リーグの面々は早々とホテルを引き揚げるようです。

選手陣を隈なく探し回りましたが、カトリーヌ選手を見つけることはできませんでした。

挨拶もできないようです。

咲さんは、カトリーヌ選手を最終的に潰さなかったと言いました。

「あの選手は自分の力だけで戦っても十分強い。

 もう二度と他人の能力を吸いとる力はないから、
 
 今度こそ自分の力だけで戦ってほしい」とのことでした。

そのことを伝えたかったのですが・・・。今はまだショックが大きいのでしょう。

きっと宿敵からの慰めの言葉も今は火に油でしょうし。

シアトルのチームも引き揚げですが、私たちは現地解散ということにしてもらって、

午前中は遥へのお土産を買いに出かけます。

メープルシロップを使ったチョコレートや蜂蜜などを買い込んで、

今度は遥を連れてプレイランドという遊園地に行こうと約束しました。

午後は咲さんが用があるからとホテルへ直帰。

すると、エレベーターで咲さんが勝手に8Fの表示を押します。


和「その階は、私たちの部屋の階じゃないですよ?」

咲「うん、いいの。こっちでしょ? ニューヨークのリーグの部屋」

8F全体がニューヨーク・リーグの部屋で貸し切られています。

ニューヨーク・リーグはまだ出立はしていないようです。

咲さんはいろいろ尋ね歩いて、どうやらエマ選手の部屋へ行く様子。

部屋に辿り着くと、いきなり「Shall we play a game?」と切り出します。

エマ選手に熱でフラフラしているから、と一旦断られたにも拘わらず、咲さん諦めません。

エマ選手が根負けしてホテル内の雀室に移動。

ニューヨークの選手をもう一人誘って、私も同卓します。

こうして他の選手と打つのは久しぶり・・・。

私もなかなか強いとエマ選手が褒めてくれます。

すると、打っているうちに段々エマ選手の顔に明るさが戻り始めました。

得意技の染め手で次々和了してきます。

最後は仲良くなってニューヨーク・リーグの選手たちとお互いのメール・アドレスを交換しました。

エマ選手は「昨日の和了りは凄かった」と多少興奮気味に咲さんに握手を求め、

出立の際もこちらの姿が見えなくなるまで手を振っていてくれました。

すっかり元気を取り戻したようでよかった・・・咲さんの言った通りでした。

それから・・・どっさり買い込んだお土産を車に積み、一路シアトルに帰宅です。

運転席は私、助手席に咲さんです。出発進行。

 
和「早く遥に会いたいですね。あの子、大人しくしてたでしょうか?」

咲「寂しがって泣いてたかもね」

和「そうですね・・・何日も預けていたことなんて今までありませんでしたからね・・・

  それはそうと、咲さん」

咲「ん?」

和「カトリーヌ選手を倒した後では、今後試合のモチベーションが下がりませんか?」

咲「そんなことないよ。世界にはまだまだ強い選手がいるし。

  それに今度は世界行脚して力を返したりもしないと。それだけじゃないよ。

  ほら、また新しい牌譜を手に入れたんだよ」

和「ん? 誰のですか?」

咲「日本で衣ちゃんを倒した無名の雀士だよ」

和「あー・・・まだ高校生の」

咲「あの娘、出てくるよ」

和「咲さんがそこまで注目するなんて」

咲「それだけじゃないよ、世界のリーグでも新人が続々だよ」

和「ん? 運転席からではよく見えませんが、なるほど。

  ドイツにイタリアに・・・?」

咲「世界はまだまだ広いということだね」

和「じゃあ、咲さんの戦いも・・・」

咲「違うよ」

和「え?」

咲「私たちの戦いだよ」

和「!!」

咲「さあ、これから本格的に世界へ打って出るよ!」

和「私たちの戦いの始まりですね」

咲「そういうこと。Let’s go!」

和「はい、咲さん!」

バンクーバーから南へ下るハイウェイは1本。

その真っ直ぐな道を、快晴の空を雲が流れるようにスイスイと、

私たちは一路シアトルへ下っていきます。

世界は、この空のようにどこまでも果てしないようです―――。








一応、これで完結です

最後は駆け足気味になってしまいましたが、お付き合いくださった方々には感謝

書きたかったことは全部書けたので、後悔はしていないっす

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