咲「ノドカの牌??」(443)
和「ツモです。2000・8000」パララ
咲(やったね! 和ちゃん、二組のベストフォーに入れたよっ! これで来月からは)
和(ええ、そうですね。やっとと言うべきか、ついにと言うべきか)
憧「おっ、和、勝ったの? おっめでとー!」
和「あ、憧さん。ありがとうございます」
憧「最初はどうなることかと思ったけど、成績、順調に伸びてるみたいね。今月の和はっと……おっ! 二組の二位じゃないっ!!」
シズ「えっ!? 和、もう二位になったの!!? すごいなー! 私なんて半年近くかかったのにー」
玄「おめでとう、和ちゃん」
ヤンヤヤンヤ
和「みなさんっ! あ、ありがとうござますっ!」ペコリ
憧「ふふーん。でも、和、喜ぶのはいいけど……わかってる? 来月から和が戦う相手は――私たちなのよ?」
シズ「うおおおおお!! やっと和と打てるっ!!」
玄「私たちみんな、研究会とは一味違うからね?」
和「もちろん、心得ていますよ。改めて……よろしくお願いします」
憧「ようこそ、一組へ!!」
――
憧「じゃあ、和、一組の主なメンバーを紹介するねっ。入れ替わりの激しい院生の中でも、安定して一組上位にいるのはほんの一握りなんだよ?
そうね、まずは一組一位の――」
玄「私だね!」フンス
和「玄さんは初めてお会いしたときからずっと一位ですよね、すごいです」
玄「ありがとうっ!! もっと褒めてくれてもいいんだよ!?」
シズ「でも、最近その一位の座がちょっと危ういですよね」
和「どういうことですか?」
憧「小鍛治さん門下の――大星淡。
和のちょっと前に入ったんだけどね、ものすごい速さで順位を上げてきたの。年は和よりも一つ下、院生の中でも最年少ね。今のところの順位は、一組二位」
――淡「いっくよー、ダブリーッ!!」ゴッ
和「あっ、知ってます。院生に入って最初の頃に打ちました。年下なのにびっくりするほど強くて、印象に残っています」
憧「ま、確かに麻雀は強いけど、普段はただの生意気ながきんちょよね」
玄「憧ちゃんは小鍛治さん門下に厳しいなぁ」
憧「私が嫌いなのは宮永照だけ。小鍛治八冠や弘世七段は好きだもん」
あ。
――修正
和「ツモです。2000・4000」パララ
和「あの、他の方は?」
憧「そうねぇ、あと覚えておいたほうがいいのは数絵かなー。ほら、あのポニーテールの。年は私と同じで、順位は私の一つ上、三位」
――南浦(13)「ロン。リーチ一発……裏々。12000」
シズ「南浦さんはしり上がりに調子を上げていくタイプなんだ。だから、東場で勝ってても絶対に油断しちゃダメだよ?」
和「覚えておきます」
憧「プロ試験に合格できるのは三人だけだからね。玄と、大星淡と、数絵。この上位三人とせめて対等に打てるようにならなきゃ、プロ入りは厳しいと思ったほうがいいわ」
和「私の力がどこまで通用するのか……。早く打ってみたいです」
憧「おっ、燃えてるねー! まあ、あとのメンバーは……おいおい打てばわかるわよ」
和「わかりました。ありがとうございます」
憧「再来月には若獅子戦もある。和、早く上がっておいでよ?」
和「頑張ります」
――
胡桃(15)「ロン。7700」ポンッ
和(院生六位……鹿倉胡桃さん。驚くべきはそのリーチ率ですね。まさかゼロなんて人がこの世にいるとは。麻雀の世界は広いです!)
莉子(11)(胡桃さんが強いのはいつものことだけど、この新人さんもかなり強いっ!)
はるる(11)「」ポリポリ
――
いちご(15)「ツモじゃ。12000オール」
シズ「わわっ!? 三倍満っ!!?」
友香(11)「あいたたたでー!!」
和(院生五位の佐々野いちごさん……それに七位の森垣友香さん。二人とも火力が高い。かなり持っていかれた……!)
――
淡「さーて今日も私が勝たせてもらうよー!!」
憧「ちょっと、がきんちょ! 言っとくけど! 私は玄と数絵に負けてるから四位なだけで、あんたにはわりと勝ってるんだからね!? そこんとこ勘違いしないでよね!」
南浦「二人とも、うるさい」
和(今日は二位と三位と四位が相手ですか。プロになるための一つの目安……この人たちに勝たなければ、試験合格はない!)
――終局・検討中
和「そう言えば、若獅子戦ってなんですか?」
淡「和ってばそんなことも知らないのー? 低段者の若手プロと、院生の一組十六位以上が混ざってトーナメントするんだよ」
和「十六位ですか……」
憧「それどこ情報よ。若獅子戦は一組八位以内が参加」
和(どちらにせよ参加条件は厳しいですね)
淡「あっれー? おかしいな。弘世先輩が言ってたんだけど」
南浦「弘世七段は院生じゃなかったはず。何か勘違いしてたのかも」
淡「へえ? そうなんだ。院生通らずにプロ入りするなんてテルくらいだと思ってたけど、そんなに珍しくないの?」
南浦「あの世代は特別……って私のお祖父様が言っていたわ。弘世七段と同世代の中堅雀士のほとんどは、あの『失われた夏』の――」
憧「数絵、それ以上は言わない」
南浦「失礼。ま、そういうことだから。確か、小鍛治門下で院生になるのはあなたが初めてのはずよ、大星さん」
淡「えっ!? そうだったの!!?」
和(失われた夏……?)
――帰り
和「失われた夏、ですか。なんだか気になりますね。弘世七段と同世代ということは……福路先生あたりに聞くのがいいでしょうか」ブツブツ
咲(和ちゃん、そんなことより、和ちゃんの今月の順位は?)
和「一組十五位ですね。シズや莉子さんとは大分張り合えるようになってきましたが、まだ一組上位陣には負け越しです」
咲(なら、もっと練習したほうがいいんじゃない? 和ちゃん、まだまだイージーミスが多いでしょ。ネット麻雀なら一組上位陣とだって渡り合える力はあるのに)
和「うっ……そうですね。どうにも人が相手だと調子が狂ってしまうようです。自分はそんなつもりないのですが、対局が終わって牌譜を見ると、疑問手ばかりで……」
咲(若獅子戦、だっけ? そこにはきっとあの宮永照が出てくるんだよ。和ちゃん、あの子と再戦したくないの?)
和「……したい、です」
咲(じゃあ、一組で八位以内に入らなきゃ。十五位になったくらいで浮き足立ってたらプロなんて夢のまた夢だよ)
和「そうですね。確かに、今は自分のことに集中しなくてはいけません。では、早く帰ってネット麻雀をしますか」
咲(うん、そうだね)
和「しかし、珍しいですね。咲さん、いつも自分が打ちたい自分が打ちたいってそればっかりなのに、急に私にもっと練習しろだなんて」
咲(え!? そんなことないよ!!? 私はいつだって和ちゃんの雀力と胸の成長を暖かく見守ってきたつもりだよ!!?)
和「咲さん、私をそんな目で見てたんですね……」
――小鍛治門下
淡「もー! 弘世先輩のせいでえらい恥かいたよー!」
菫「それは、すまんことをした」
淡「ま、別に十六位以内でも八位以内でも楽勝だけどねっ! ねー、テル、決勝で戦おうねー!!」
照「うん、そうだね……」
淡「テルー?」
照「ねえ、淡。原村和、って今院生にいるんだよね?」
淡「ん、あの胸の大きい人なら、こないだ一組に上がってきて、十五位まで順位を上げてきたよ。私の敵じゃないけど」
照「十五位……そっか」
淡(……テル、そんなにあの原村和ってやつが気になるんだ。麻雀は私のほうが断然強いのに。あんなミスの多いデジタル打ちの何がそんなにいいのかなぁ……むー……!!)
――
和「ロンです。9600」パララ
はるる「……はい」
シズ「あー今日は和の勝ちかー!!」
友香「原村さん、今日はいつもよりキレがいいみたいでー」
和「(穏乃がいるからですかね。確かに自宅にいるときと同じような感覚で打てました)今日はみんな同級生ですから、リラックスできたみたいです」
友香「これでトップは原村さんかぁ。はるるはここのとこ不調でー。もしかして、黒糖切らした?」
はるる「」コクッ
シズ「早く鹿児島から届くといいねっ!」
友香「けど、これはもしかして順位が動く感じでー?」
シズ「えっと……あっ、本当だ! 和、やったよ! 滑り込みセーフ!!」
和「なんの話ですか?」
シズ「若獅子戦!! 和、今の一局で春さんを抜いて八位なんだよっ!!」
咲(おおお! よかったね、和ちゃん)
和「し、穏乃は……?」
シズ「私は変わらず十位。だから……若獅子戦は全力で和たちの応援するよっ!」
和「あ……」
シズ「そんな顔しないでよ、和。大丈夫。強い人はどんどん上に行ったほうがいい。私もすぐに追いつくから、心配しないで!」
和「はい……わかりました。若獅子戦、穏乃の分まで頑張ります!」
シズ「その意気その意気!」
――小鍛治門下
淡「テルー! 若獅子戦の組み合わせが決まったよー!! 私とテルーは反対側っ! これはもう決勝でぶつかるしかないねっ!!」
照「うん、そうだね……」チラッ
――――宮永照(プロ初段)
――――原村和(院生八位)
照(原村……和)
和『照さんは……私の目標です。倒すべき相手です』
照(まさか、名前が並んだだけで、追いついたなんて思ってないよね……?)
淡「テルー、どうしたの?」
照「ううん、なんでもない。淡、決勝まで来れたら、私のとっておきのお菓子屋さんに連れていってあげるね」
淡「いいの!? やったー!!」
照(まあ……たぶん決勝に来るのは淡でも難しいと思うけど、お菓子は買っておこう)
――若獅子戦・当日
憧「来たわね、宮永照に借りを返す日が!!」メラッ
玄「いや、憧ちゃんは反対側だから、宮永さんと戦うには決勝に行かないとだからね……?」
和(私は……一回戦を突破すれば、照さんと戦える……!!)
シズ「三人とも頑張って!!」
灼「お、揃ってるね」
和「灼さん! お疲れ様です!!」
灼「お疲れ。今日はよろしくね、宥さんと赤土さんも直に来るよ」
玄「赤土門下大集合だねっ!」
灼「ま、それを言うなら小鍛治さん門下もだけど……」
誠子「お疲れー、鷺森さん」
尭深「……よろしく……」
灼「よろしく。お互い、若獅子戦に出れる最後の年齢だけど、最後くらいはいい思いしたいよね」
尭深「……そうですね……」トオイメ
和「えっ、今まではいい思いしてこなかったんですか?」
誠子「私ら三人は同期なんだけどさ、一期上にあの天江衣がいたから。若獅子戦はあいつが段数制限に引っかかるようになるまでずーっとあいつの独壇場」
灼「で、天江さんの段位が上がったと思ったら、今度は今度で――」
尭深「……あ……来た……」
ザワザワ
小蒔(25)「み、みなさん、今日はよろしくお願いしますっ!!」ペコッ
玄「神代小蒔二段……なんと完熟なおもちっ!!」
和(あの人が神代小蒔二段……天江五段と双肩をなす若手最強の雀士……!!)
誠子「しかし、去年はともかく、今年は神代小蒔の独壇場になるかっていうと微妙かもな。麻雀界史上、最高の新初段と名高い『三強』――」
ドヨドヨ
照「よろしくお願いいたします」
憩「よろしくですわ~」
智葉「よろしくお願いします」
和(て……照さん……!!)
照「あっ……」タッタッタッ
和「あ、あの、て――」
照「亦野先輩、尭深先輩、それに鷺森三段も、今日はよろしくお願いします」ペコッ
和・憧・玄・シズ(む――無視……!!?)
尭深「……よろしく……」
誠子「よろしくな。淡はどうした?」
照「寝坊したそうで。弘世先輩が車で迎えに行ってます。もう間もなく着くそうですよ」
誠子「こりゃあとでシャープシュート決定だな。ま、バカは放っておいて、対局の準備をしようか」
灼「私たちも、卓に着こう。みんな、ベストを尽くすんだよ」
憧・玄「はいっ!」
和(照さん……!)
咲(勝てばいいんだよ、和ちゃん。そしたら、きっとあの子も和ちゃんを見てくれる)
和(そう、ですね。勝てば……いいんですよね!)
<組み合わせ表>
A卓:鷺森灼(プロ三段)、宮永照(プロ初段)、松実玄(院生一位)、鹿倉胡桃(院生六位)
B卓:渋谷尭深(プロ三段)、辻垣内智葉(プロ初段)、南浦数絵(院生三位)、原村和(院生八位)
C卓:亦野誠子(プロ三段)、荒川憩(プロ初段)、新子憧(院生四位)、佐々野いちご(院生五位)
D卓:椿野美幸(プロ三段)、神代小蒔(プロ二段)、大星淡(院生二位)、森垣友香(院生七位)
(一回戦:A/B/C/D。二回戦:A・Bの一、二位/C・Dの一、二位。決勝:二回戦の一、二位)
――
全員「よろしくお願いしますっ!」
――
タンッ タンッ タンッ タンッ ツモ タンッ
赤土(おっ、始まってる始まってる)コソッ
宥(玄ちゃん……灼ちゃんと宮永さんの卓かぁ)コソッ
――A卓
照(松実玄……プロ試験のときに打ったけれど、ドラが使えなくなるのは相変わらず面倒だ)タンッ
玄(宮永さん、東一局は大人しい……前に打ったときもそうだった。稼ぐなら、今の内……)タンッ
灼(さて、若獅子戦。せめて一回戦は突破したいものだけれど……段位戦と関係ないところで宮永照の研究もしておきたい)タンッ
胡桃(今日こそ宮永さんのコークスクリューツモを注意しなきゃ。去年のプロ試験ではびっくりして注意し損ねたからね)タンッ
――
赤土(玄、調子よさそうだな)
宥(宮永さん相手だと萎縮しちゃうかと思ったけど、今日は灼ちゃんがいるから大丈夫みたいですね)
――C卓
憩(先生……優勝せんとフルボッコや言うてたけどなぁ。今日は宮永さんと辻垣内さんだけやなくて神代二段がおるからなぁ……こりゃしんどいで)タンッ
亦野「(荒川憩……私のことは眼中になしか。ま、照と張り合っている時点で素質の差は明らか。とは言え、こちらもプロになって四年目。通したい意地ってものがある)ポンッ」タンッ
憧「(亦野三段の得意な鳴き麻雀……オッケー、なら私も、自分の得意分野で打つっ!)チー!」タンッ
いちご(よう鳴きよる……じゃが、ちゃちゃのんはちゃちゃのんの打ち方を守らんとな。せっかくプロを相手にしとるんじゃ、いつも通りの麻雀を……冷静に……)タンッ
――
赤土(憧のやつ、宮永照を意識し過ぎて熱くなってるかと思ったら、ちゃんと場が見えているじゃないか)
宥(憧ちゃんだって成長してますから。今年こそは結果が出るといいですね)
――D卓
淡(よし……いい感じっ! 普段から打ってる相手が違うんだ。私の打ってる相手はあの小鍛治先生やテル――それに比べれば断然楽だよ!)タンッ
美幸(小鍛治門下の大星淡……宮永照の下にまだこんなのがいたなんてびっくりだなもー。ま、友香の手前、そんな簡単には負けられないけどもー……!)
友香「(美幸先輩……大星淡を意識してる……? 悔しい……せっかく先輩と同卓できたんだから……ちゃんと私を見てほしい。勝負かけるんでー!)リーチッ!」
小蒔(みなさん手強い……九面、使いますか。どうしましょう……今日は三回対局をしなければならない。
ここは……とりあえず一番弱い神様で様子を見ましょう……ダメなら少しずつ段階を上げていくまでです……)オオオオオオオ
――
赤土(お、これが……神代小蒔のアレか。私はまだ直に対局したことはないが……とんでもないプレッシャーだな)ゾワッ
宥(私はありますよ……たぶんですが、これはまだほんの小手調べってところだと思います)
赤土(ははっ、面白い。早く上がって来ないものかな)
――B卓
尭深(……原村さん……随分変わった……けど……いずれにせよ強敵……)タンッ
智葉(渋谷三段には一発があるからな。あまり戦いたくない相手ではある。が、無論プロになったからにはどんな相手だろうと蹴散らす。それが絶対のルールだ)タンッ
南浦(やはりプロの二人は別格。東場は耐えるのが精一杯……それでも南場になればと思っていたが……不運なことにオーラスに強い渋谷三段に当たってしまった。
否、むしろ好機と思おう。南場ばかりに頼っていたのでは……プロにはなれない。私にできることを模索するいいチャンスだ)
和(………………)タンッ
――
咲(おっ、これはこれは赤土さん。お久しぶりですね。和ちゃんを見に来たんですか?)
赤土()ジー
咲(なんだか懐かしいですね。子供麻雀大会がきっかけで、小鍛治さんと赤土さんと打つことになって……ま、結局、あの対局はなかったことになってしまいましたけど)
咲(それに、赤土さんは和ちゃんが中学生の大会に出て龍門渕さんと打ったときも見てくれたんでしたっけ)
咲(あれは……どっちも私ですよ……?)
咲(気になってるんでしょ? 私と打ちたいんでしょ? だったら……今すぐここでどうですか? 卓もあります。面子なら松実五段と穏乃さんがいます。
どうですか……私と打ちたくないですか……?)
赤土()
咲(なーんて、聞こえてないですよね。いいですけど。私はネット麻雀とか、色々楽しませてもらってますし。赤土さんとは、いつか、どこかで対局するような気もしますし)
咲(それよりも、和ちゃんはどうですか? 赤土さんの門下生とも互角にやり合うようになってきたんですよ? まだちょっとミスが多いですけど……って!!)
和()タンッ
咲(和ちゃん!!? そっち!? そっちいっちゃう!? もううう家で打ってるときはもっと冷静なのにー!)
赤土()フム
咲(あれ、赤土さん……? ん……?)チラッ
咲(へえ、和ちゃん……あの状況から一巡で立て直してきたか。
そうそう、そうやっていつも通りに打てばいいんだよ。いつもの和ちゃんなら、それくらいの悪手はいくらでもカバーできる。その力はある。
ま、今回は運もあったんだろうけど、これで手が生き返った。ホント、デジタルなのにハラハラする麻雀を打つよね、和ちゃんって)
咲(和ちゃん……これからプロになって、ここにいる人たちや、他の色んな雀士と……何十年も麻雀を打っていくのかな。
私は……そんな和ちゃんの傍にいて……何をするつもりなんだろう……)
咲(というか……私って、なんのために現世に蘇ったんだっけ……?)
――麻雀って楽しいよね!!
咲(嫌なこと……思い出しちゃったよ……)
――終局・D卓
淡(ま……捲くられた……!!?)
小蒔「………………」オオオオオオオオ
美幸「(届かなかった……!)お疲れっしたもー……」
友香「(ラスかぁ……壁……高いんでー)お疲れ様です」
美幸「友香」
友香「は、はいっ!」
美幸「今すぐ友香の淹れたお茶が飲みたいもー!(癒しが足りないもー!!)」
友香「えっ? あ、はい。アッサムでよかったですか……?」
――終局・C卓
憩「お疲れ様です~」
誠子「……お疲れサマサマ」
いちご「(なかなか思うようにいかんのう)お疲れじゃあ」
憧「(足りなかったかぁ……)ありがとうございました」
憧(前のプロ試験のとき……荒川憩には手も足も出なかった。去年の若獅子戦だって、私はプロ相手に全然振るわなかった。けど……今年は違う)
憧(少しだけど……打っているうちに慣れてきたっていうか……手応えがあった。状況や運に左右されない……確かな実力がついてる感触があった……!)
憧(行ける……! 今年こそ……プロになるんだ!!)
憧「あ……そういえば、玄と灼は……」タッタッタ
――終局・A卓
照「お疲れ様でした。あ、あと、ツモるときのあれは……本当にすいません。けど、あれは私に必要不可欠な動作で……」
胡桃「む、不可欠なら仕方ない」
灼「ふう……お疲れ」
玄「こちらこそ……お疲れ様でした」ペコリ
憧(シ、シズ、玄と灼は!?)
シズ(そ、それがなんと……!!)
灼「じゃあ、玄。二回戦、頑張ってね」
玄「はい。お任せあれです」
灼「ま、こんなところで勝ってもプロになれなければ仕方ないんだけどね」ボソッ
玄「……灼さん」
灼「玄は強いよ。院生でずっと一位。こうしてプロの私にも勝てちゃう。けど、どんなに強くたって、プロになれなきゃ一歩も前に進めないんだ」
玄「ううう……はい……」ウツムキ
憧(あ、灼っ! いくらなんでもそれは言い過ぎ――)
シズ(ちょ、憧さん、ストップっ!!)
灼「だからさ、玄」
玄「はい……」
灼「早く、こっちに――プロの世界に来なよ。玄にはその力があるんだから」
玄「はい……今年こそは、必ず……!!」
灼「うん。そのくらいの気合がないと。玄はどうにもメンタルが不安定だから」
玄「そ、そうですよね……」ズーン
灼「ほらぁ、またそうやって落ち込む。憧と穏乃が後ろで心配してるよ?」
玄「え? あ……二人とも……ごめん」
憧「なんで頭下げてんのよ、玄。玄は勝ちあがったんでしょ? なら、前だけ向いて打てばいいの! 私やシズの分まで勝ってきてっ!!」
穏乃「そうですよっ! 玄さんなら大丈夫ですっ!! もしピンチになっても私たちが元気を送りますからっ!!」
玄「二人とも……ありがとう。灼さんも、ありがとうございます。私……もっと強くなるね……!!」
――終局・B卓
南浦「(くっ……オーラスでひっくり返された)ありがとうございました」
尭深「……ありがとう……ございました……」
智葉「(役満……親っ被りでなかったのがツいてたな)ありがとうございました」
和(…………)
咲(悪くなかったと思うよ、和ちゃん。いいところもいっぱいあった)
和(よくないところも同じくらいあった、ということですね。プロ……渡り合えなくはないと思います。届きそうな感じはするんです。
けれど、今の私の麻雀では、私自身が私の強みを殺している。これでは勝てるものも勝てません)
赤土「和、お疲れ」
宥「お疲れ様」
和「先生……宥さんも。ど……どうでした……?」
赤土「ま、言いたいことはたくさんあるがな。それは帰ってからみんなで検討しよう。
それよりも今は、次の二回戦と決勝、しっかり見ておいたほういいぞ。ここにいる雀士たちは皆、和の将来のライバルなんだからな」
和「は、はいっ!」
――
照「どうしたんですか、渋谷先輩?」
尭深「……原村……和……」
照「……彼女が、何か?」
尭深「……悪くなかった……少なくとも……以前アマの大会で打ったときとは別人……」
照「お言葉は……有難く受け取っておきます。ですが、私は、まだあいつを認めてはいない。もし彼女がプロになるようなことがあれば、話は別ですが」
尭深「……時間の問題……」
淡(あ……あれ、テルと尭深先輩……あんなところで何を?)コソコソ
照「とにかく、原村和の話はもうやめましょう。お互い、次の対局に集中したほうがいいでしょうし……」
淡(なに……? 原村和の話をしてたわけ……?
どうして、あんな……一回戦で負けるようなやつ……! 今日勝った院生は私と松実玄だけなのに……なんで原村和の話なんか……!!)
照「ん、淡……? どうした、そんなところに隠れて」
淡「あっ……いや、なんでもないっ! それより、テル、決勝にいけたらお菓子屋さんだからねっ!? 楽しみにしてるからっ!!」
照「そうだな。そっちも頑張れ、淡。決勝になったら弘世先輩と先生もいらっしゃるそうだし、私も淡と打ちたい」
淡「う……うんっ!」
誠子「おーいー! お前ら何やってんだー? 二回戦が始まるぞー!!」
――二回戦A卓:渋谷尭深(プロ三段)、宮永照(プロ初段)、辻垣内智葉(プロ初段)、松実玄(院生一位)
照「よろしくお願いします」
智葉「よろしくです」
尭深「……よろしく……」
玄「よ、よろしくお願いしますっ!!」
――二回戦B卓:亦野誠子(プロ三段)、神代小蒔(プロ二段)、荒川憩(プロ初段)、大星淡(院生二位)
淡「よろしく!!」
憩「よろしくです~」
小蒔「よろしくお願いしますっ!」
誠子「よろしくな」
――
菫「そろそろ二回戦が終わる頃ですかね。亦野からのメールでは、うちの門下生は淡も含めて全員一回戦を突破したそうですが」
健夜「赤土さんの門下生たちは?」
菫「宥の妹――もとい松実玄が、鷺森三段を抑えて二回戦に進出したそうです」
健夜「ああ、あの子ね。力はとてもあると思うのだけれど……ん?」
菫「どうかしました?」
健夜「いや、向こうに随分と背の高い人がいるなと思って……」
菫「あれは……」
?「あああ! 小鍛治八冠だああっ!! サインくださーい!!」
健夜「姉帯七段……来てたんだ。今日は鹿倉さんの応援?」
豊音(26)「いや、決勝を見に来たんですよ! 熊倉門下総出で!!」
菫「なんとまぁ……」
エイスリン(26)「シロ! タッテ!! アルイテ!!」
シロ(26)「だる……」
塞「ホントあんた先生より手間かかるわね……」
菫(ウィッシュアート五段に臼沢四段……それに対局以外では滅多に姿を見せない小瀬川七段まで……)
小鍛治「ところで、熊倉五花は?」
豊音「タイトル戦が近いので、今日は英気を養うそうで」
塞「先生は多忙なので、休めるときに休むよう私が言い聞かせて来たんです」
菫「ん? 臼沢五段、今日はモノクルなしか……?」
塞「あれね、なんか壊れそうな予感がしたので置いてきたのよ」
菫「英断だろうな」
豊音「じゃ、私たちは胡桃のとこに行かないとなので。また~」
エイ「ホラ! シロ!! センリノミチモイッポカラ!!」
シロ「うーー……」
ガヤガヤ
菫「思ったよりも色々な人が来ているみたいですね」
健夜「そうだね。あ……あっちは石戸門下の子たちかな」
ガヤガヤ
?「もーはるるのやつ黒糖切らして順位を下げるとかたるんでるですよー」
?「仕方ないよ、最近院生になったっていう原村和? って子、先生曰くとんでもない『魔』が憑いてるって話しだし」
初美(26)「魔なんて祓っちゃえばいいだけの話ですよー」
巴(26)「いやいや、依頼もされてないのにお祓いしたら怒られるよ。本人にとっては大切な何かかもしれないでしょ」
ガヤガヤ
菫(薄墨七段と狩宿四段……いや、それよりも今何か話していたな。原村和がどうとか……)
健夜「若い子ばっかり……私、浮かないかな」
菫「いや、赤土九段がいるそうですから、たぶん大丈夫かと」
健夜(36)「うっ、私が若くないことは否定してくれないんだ」
菫「そりゃ……まあ」
健夜「菫、あとで説教部屋ね」
菫「そ、そんな理不尽なっ!?」
――終局・二回戦A卓
玄「(負けちゃった……さすがの強さだよ、宮永さん。それに……辻垣内さん……)ありがとうございました」
尭深「(……まくれなかった……)……ありがとう……ございました……」
照「ありがとうございました」ペコリ
智葉「(ったく、涼しい顔しやがって……新初段シリーズでもその兆しはあったが……やはり私らの中ではこいつが頭一つ分抜けてるな)ありがとうございました」
――終局・二回戦B卓
誠子「(ちっ……ここまでか)ありがとうございました」
淡「(ぐぬぬぬぬぬぬ……!!)ありがとうでしたっ!!」
憩「(ひゃ~参ったわぁ……想像以上の化け物やったな。これが神代小蒔二段か……)おおきに~」
小蒔「………………」オオオオオオオオオオオ
晴絵「さて、これで決勝の四人が決まったわけだが……」
宥「目に見えてギャラリーが増えてきましたね。あっちにいるのは……白水七段と鶴田三段ですか」
ザワザワ
哩(26)「よーく見て研究すっとよ、この決勝の四人は間違いなく上がってくっとね」
姫子(25)「わかっとっとですよ。神代二段とは……もう何回か手合わせしとっとですし」
ガヤガヤ
福路「あっ、松実五段、赤土九段も。ご無沙汰しています」
晴絵「福路七段じゃないか。昇段おめでとう」
福路「ありがとうございます」ペコリ
宥「私もすぐに追いつけるよう頑張ります」
福路「ふふ、弘世さんがいるからですか?」
宥「そ、それはその……/////」
福路「それにしても、こんなに大勢の人が見に来ているなんて驚きました。まるでタイトル戦のようです」
晴絵「ま、実際タイトル戦みたいなもんだろうな。十年後か、二十年後か。この決勝卓にいる四人と、あともう一人がプロ麻雀界を席巻する日は確実にやってくる」
宥「おっと、噂をすればですね……」
ドヨドヨ
衣「調子はどうだ、小蒔」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
小蒔「衣ちゃん! 来てくれたんですねっ! 調子はまずまずですよ。決勝も頑張りますっ!」オオオオオオオオオオ
ドヨドヨ
晴絵(新しい波……小鍛治さんは、彼女たちをどんな目で見ていることやら)
健夜(若いっていいよね!!!)エグエグ
ザワザワ
衣「よもやとは思うが、格下に負けるなよ、小蒔」
小蒔「もちろん、全力以上で戦いますから、心配は要りません」
衣「ならいいが……。しかし、あの宮永家の……あれには十分注意しておけ。何をやってくるかわからない」
小蒔「大丈夫です。私だって、もう子供ではありませんから……」
衣「そうだな」
小蒔「では……行って参ります!」
衣「高みで見物させてもらうぞ、神代二段」
小蒔「ご自由にご覧ください、天江五段」
――若獅子戦・決勝:神代小蒔(プロ二段)、宮永照(プロ初段)、荒川憩(プロ初段)、辻垣内智葉(プロ初段)
小蒔「さて……よろしくお願いいたしますね」
智葉「よろしくお願いします」
憩「よろしくです~」
照「よろしくお願いします……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
――決勝・東一局
小蒔「ツモ……4000・8000」オオオオオオオオオオオ
憩(ホンマに大した『憑き』やな~、この人)
智葉(これが神代二段か……まだ余力を残していそうな感じがするな。化け物め)
照(親っ被り……これは使ってみるか……『アレ』を)
照(新初段シリーズ……赤阪三元の圧倒的な支配力の中で……私は一つの能力を得た……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
照(出し惜しみをして勝てるような相手ではない。新初段シリーズのときから密かに練習はしていた……今ならうまくできるはず……!)
照(『照魔鏡』……発動――!!!!)ゴッ
小蒔(ん……これは……?)ピクッ
憩(この感じ……新初段シリーズのあとに先生が言っとったやつか!? まさかもうモノにしたんかいなー!!)ゾワッ
智葉(ん……これは……新初段シリーズの最終局で宮永から感じた悪寒と同じ……まるで全てを見られているような……)ゾクッ
照(よし……見える……! あらゆる『魔』が……鏡に映って――)
ゴオオオオオオオオオオオオオ
咲(あ……)
照(え――?)
ガタンッ
照「お姉ちゃん……!!!?」ガバッ
和「え……!?」ビクッ
照「え…………?」
照「え…………?」
照(な……なぜそこにいる……原村和……!!? 私の鏡の中で……そこに立っていたのは――)
智葉「おい、宮永。対局中だぞ。よくわからんが、お前が座らないと東二局が始まらん」
照「あ……すいません。失礼しました……」
憩(あの宮永照が取り乱してる……? なんや珍しいもん見たわ)
小蒔(宮永さん……今、『お姉ちゃん』って。それってやっぱり……『宮永咲』のこと……だよね……?)
照「席を立って申し訳ありませんでした。対局を……再開しましょう……」
和(照さん……? 今のは……どういうことですか……?)
咲(……………………)
――
ガヤガヤ
「いやぁ過去最高にハイレベルな若獅子戦でしたねぇ」
「本当に。高段者同士の対局を見ているみたいだった」
「天江五段のデビューも鮮烈だったが、遅れてプロ入りした神代二段も今年の三強もまったく引けを取らない。こりゃあ荒れるだろうなぁ」
ガヤガヤ
晴絵「で、正直どう思いました、小鍛治さん」
健夜「強いよ。つまり、段位に比べて、ってことだけど」
晴絵「言いますねぇ。タイトルが危ういとか、そういう焦りはないんですか?」
健夜「あの子たちが脅威になるって……? ははは、そんな自分でも思ってないようなことを言わないでよ、赤土さん。わかりきっていること」
晴絵「ええ、そうですね」
健夜「十年早いよ」
晴絵(34)「おっ、アラフォー節炸裂ですね?」
健夜(36)「ちょっ、それだけは言わない約束でしょ!!?」ズーン
――
和(照さん……新初段からさらに強くなっていました。追いかけても追いかけても、離れていってしまいます)
咲(うん……そうだね)
和(咲さん……?)
咲(ああ、ごめん。ちょっと考え事してて……)
和(さっきの……照さんのことですか? 照さん……いきなりこちらに振り返って……叫んでましたね。『お姉ちゃん』って……)
咲(うん…………)
和(どういうことなんですか、咲さん。何か私に隠していることがあるんですか?)
咲(今は……話したくない)
和(そう……ですか。わかりました。それなら、聞きません。けど……)
咲(なに……?)
和(咲さんは、私に麻雀の楽しさを教えてくれました。咲さんは私に色々な出会いを与えてくれました。
だから……できることなら、私は咲さんの力になりたいって思います)
咲(和ちゃん……)
和(もし……咲さんさえよければ、いつでも私を頼ってください。この世界で咲さんと話ができるのは……私だけなんですから)
咲(ありがとう……和ちゃん)
和(いえ。では、そろそろ穏乃たちと合流しましょうか。今日は赤土さんの家で若獅子戦の反省会だそうです。咲さんも、何か意見があったらどんどん言ってくださいね)
咲(うん……本当にありがとね、和ちゃん)
お疲れ様です。遅くまでつき合わせてすいません。ありがとうございました。
いったん眠ります。たぶん明日の朝には続きを書けると思います。
残っていたらここに書きます。落ちてるようだったら新しいスレを立てます。
では、おやすみなさい。
おはようございます。保守ありがとうございました。再開します。
――数日後・赤土邸
晴絵(さて……いよいよ明日から、か)
晴絵(二日の休みを間に挟んで……一週間。一週間後には、結果が出る)
晴絵(果たして……一週間経ったとき、私はタイトルホルダーになれているのか、否か)
晴絵(ま、不確定な未来のことなど考えても仕方がない。一局一局を大切に……一歩ずつ前に進んでいく。そうやって……私はここまで辿り着いた)
晴絵(はは……手が震えてるや。恐い……小鍛治さんと初めて対局したときのことを思い出す。あのときは……本当に牌を見るのも嫌になったっけ。
どうしよう……少し……アルコールでも入れるか……)
晴絵(いや……あるじゃないか。ここに……最高の……心の支えが……)
『少しずつ肌寒い季節になってきました。お身体に気をつけてください。先生の健闘を祈っています。松実宥』
『麻雀を打っているハルちゃんが大好きです。最後まで応援しています。それで……このタイトル戦が終わったら……。鷺森灼』
『先生がドラに恵まれますように。ドラゴンさんに頼んでおきますっ。松実玄』
『レジェンド再び! これが天和への第一歩!! 新子憧』
『勝利!!!! 高鴨穏乃』
『結果がどうなるかは誰にもわかりません。けれど、私は先生がタイトルを獲れると信じています。原村和』
晴絵(これが……今の私が持っている全てだ。門下生を持つようになってから……強くそう思うようになった)
晴絵(自分一人の力でできることなんてほんの少しだけなんだ。支えてくれる人がいるから……私は強くなれる。どんな状況でも頑張れる!!)
晴絵(勝つぞ……!! 勝って……一週間後……あいつらと一緒に笑って乾杯するんだ……!!)ゴッ
――五花タイトル戦・初日
トシ「おや……早かったね。緊張で目が覚めたのかい?」
晴絵「そちらこそ、タイトルホルダーなら悠々と遅刻するくらいでよかったのでは?」
トシ「年寄りだからね。朝は勝手に目が覚めてしまうのさ」
晴絵「大丈夫なんですか? 一日に四半荘……対局は夜まで続くんですよ」
トシ「なんだい、いきなり敵の心配かい? 随分と余裕じゃないか」
晴絵「できれば、万全の状態のあなたと戦いたいので。五花は……小鍛治さんが唯一獲れなかったタイトルですからね。
あとあと体調が悪かったなんて言い訳されたらたまらない」
トシ「はは、もう私から五花の座を奪ったつもりか。バカを言うんじゃないよ。あんたや小鍛治みたいな若造……百年早い」
晴絵「さすが……七十を超えると桁が違いますね」
ガラガラ
?「おっはでーす! 今日から一週間、よろしくお願いしまーすっ!!」キラッ
トシ「と……うるさいのが来たね。年を考えな、年を」
はやり(37)「あはっ☆ うっせえボコボコにするぞ☆」
?「いけません、瑞原九段。目上の方にそんな言い方をしては……」
トシ「お、また性懲りもなく負けに来たねぇ。身体のほうは大丈夫なのかい?」
善野(39)「あなたに心配されるほど衰えたつもりはありませんよ、熊倉五花」
トシ「ふん、違いない」
『間もなく対局を開始します。対局者は……』
晴絵(おっと……いよいよ始まるか、タイトル戦が。ま、何はともあれ、一つ勝つことだな……!!)
晴絵「では、みなさん、よろしくお願いします」
はやり「よろしくー」
善野「よろしくお願いいたします」
トシ「さあて……一丁遊んでやるよ、ガキども」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
――某麻雀雑誌編集部
「おい! 五花戦はどうなってる!?」
「中日を過ぎて赤土九段がやや優勢ですっ!! これはもしかするともしかするかもしれません!!」
「た――大変です、小鍛治八冠がまた……」
「小鍛治八冠が大変なのは毎度のことだろ!! それよりも例の新しい波の動きは……!! 天江五段と神代二段は――」
「いや! そちらよりも宮永照ですよ!!」
「ま……待て、宮永家の者を取材するのは……」
「そ、速報です!! 荒川初段と辻垣内初段の二人が九蓮の……!!」
西田(ま、麻雀界荒れ過ぎっ!!!)
――九蓮・三次予選C卓
美穂子「あら……おはようございます。今日は、随分と可愛らしい子が相手なのね。よろしく」
智葉「福路七段……よろしくお願いします」
豊音「すごいよねー辻垣内さん! この間、若獅子戦に出てた人がもう三次予選なんてっ!! 今のうちからサインもらっておいたほうがよさそうかなー?」
智葉「いえ、姉帯七段のコレクションに仲間入りするには、私なんてまだまだ実績不足です」
美穂子「実績はなくとも……実力は不足してない。そんな口ぶりね」
豊音「いいねーいいねー!! じゃ、辻垣内さんのサインをもらうのは、あなたが私に勝てるようになるときまで待つことにするよ。いつになるかわからないけどね~」
智葉「ありがとうございます。けど、ごめんなさい。私……サインってしたことがないので、今日は少し出来の悪いものをお渡しすることになるかもしれません……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
宥(この子が『三強』の一角……天江さんや神代さんの勝ち上がるスピードも相当だったけれど、それに勝るとも劣らない……目覚しい活躍)
宥(でも……そんな簡単に負けるわけにはいかない。今は先生がタイトル戦の真っ最中なんだ……余計な心配はかけられない……!!)
美穂子・豊音・智葉・宥「よろしくお願いします」
年齢(和小五年現在)
10:淡
11:和、優希、シズ、友香、莉子、はるる
12:憩
13:照、憧、南浦
14:智葉、すばら、まこ、龍門渕四天王
15:玄、いちご、胡桃
25:衣、小蒔、誠子、尭深、灼など
26:菫、宥、福路、豊音など
31:藤田
34:晴絵
36:健夜
39:ダヴァン
70:トシ
??:霞、赤阪
<段位>
初段:照、憩、智葉
二段:小蒔
三段:誠子、尭深、灼、美幸、姫子
四段:塞、巴
五段:衣、宥、エイスリン
六段:
七段:福路・菫・シロ・初美・豊音・シロ・哩
八段:
九段:晴絵、ダヴァン、霞、
タイトルホルダー:健夜(一緑・無双・四喜・四暗・六頭・七星・八連・九蓮)、トシ(五花)、赤阪(三元)
――九蓮・三次予選E卓
哩(もう三次予選まで上がってきたとね……直接対決は早くとも一年後かと思っとったんやが……本当に規格外の新初段と)
エイ(ナニユエ、ナースデスカ……?)
憩「おはようございます~。今日はどうか、お手柔らかによろしくお願いしますわ~」
菫「おはよう。しかし……まるで緊張の色が見えないな。こんな生意気な新初段を相手にするのは初めてだ」
憩「はは、なに言うてはるんですか、シャープシューターさん。生意気さならそちらの後輩さんのほうが断然上やで。
ホンマ、小鍛治さんとこではどんな教育してはるんですか~?」
菫「あいつは特別なんだよ。私らはただの弟子だが……あいつはもう先生の実の娘みたいなもんだ」
憩「アラフォーにもなって独身を貫いとる小鍛治さんの娘ですか。はははっ、なんか笑えへんジョークですね、それ」
菫「おまっ――滅多なことを言うな! ぶっ殺されるぞっ!!!」
――某所
健夜(あれ……なんだろう。今、誰かが私のことをアラフォーって言った気がする……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
――一緑三次予選決勝
ザワザワ
「おいおいどうなってんだよ……三次予選決勝が九段三人と初段一人って……!!」
「こ、これ……まさか勝ったりしないよな……?」
「いくらなんでもそれは有り得ないだろ……! 相手は愛宕九段と久保九段とダヴァン九段……それぞれがそれぞれの世代を代表する打ち手だぞ……!!」
「ああ!! 終局したっ!! 結果が出たぞ……!!」
「こんな……こんなことが……!!!?」
ガラガラ ザワザワ
西田「(あ……出てきたっ!! 一番乗りっ!!)み、宮永さんっ!!」
照「あ……はい」
西田「三次予選突破おめでとうございます!! 率直に、今のお気持ちを聞かせてください!!」
照「……応援していただいた皆さんのおかげで、いつも以上の麻雀が打てました。自分でも納得の一局です……」
西田「なるほど!! 初段で三次予選を突破したのは小鍛治八冠以来の快挙となりますが、宮永さんはこのまま一緑を狙うつもりでしょうか!?」
照「先のことはわかりません。目の前の一局一局を、集中して打つだけです」
西田「ふむふむ……ありがとうございますっ!! では、このたびは本当におめでとうございました。さすがは小鍛治八冠の愛弟子にして『宮永咲』の――」
?「おい、雑誌記者。その言い方は宮永照に失礼やろが」
西田「あ……あなたは……!!!」
雅枝(48)「さすがは『宮永照』なんや。小鍛治も宮永咲も関係あらへん。この結果を掴んだのは、この子自身の実力やで。よう覚えとき」
西田「も、申し訳ありません……」
雅枝「おめでとな、宮永さん。ええ麻雀やったわ」
照「ありがとうございます……」
雅枝「挑戦者リーグ、あそこはウチら以上に魔の巣窟やけど……あんたなら大丈夫やろ。思う存分荒らして来るとええで」
照「はい……」
雅枝「ほな、頑張ってきいや。うちも応援しとるさかいな」
照「はい……ありがとうございました」ペコリ
――五花タイトル戦・最終日・夕食休憩
晴絵(よし……!! よし! よし!! よしっ!!!!)
晴絵(僅差だが……初日からずっとリードを守ってこれた……!! 残すは夜の半荘一回……あと一局……あと一局凌ぐんだ……!!)
晴絵(しかし……今から興奮していては対局に影響するな。外は寒いが……少し……風に当たってくるか)
トシ「よう……あんたも散歩かい。奇遇だねぇ……」
晴絵「熊倉五花……なぜここに……?」
トシ「いや……次が最後だろう……? いくら私だって平常心で臨むのは難しいさ……」
晴絵(涼しい顔をしていけしゃあしゃあと……)
トシ「ところで……あんたはなんだかんだでタイトル戦は初めてだったか。じゃあ……こんな言葉があるのは知ってるかい……?
『オーラスには魔物が潜んでいる』ってね……」
晴絵「そんなものは知りませんし、知りたくもありませんよ」
トシ「まあまあ、年寄りの話は黙って聞くもんだよ。それで……タイトル戦ってのはねぇ……特に僅差のタイトル戦は……最後の一局まで結果がわからないもんだ。
だけどね……これがちょっと調べてみるとある傾向があるのさ……最後の半荘……オーラスで親だと……つまりラス親だね……不思議なことに負けることが多くなるそうなんだよ」
晴絵「私はそんなオカルト信じませんよ」
トシ「けど……けっこう的を射ていると思わないかい? ラス親っていうのは逆転のチャンスがある反面……逆転される可能性も大きい。
特にタイトル戦なんていう大一番では……嫌でも意識してしまうもんだろうさ」
晴絵「だから……どうしたって言うんですか……?」
トシ「あんた……ここまでの十九半荘……一度でもラス親になったかい?」ニヤァ
晴絵「!!!!!?」
晴絵(バカな……言われてみればそうだが……ありえない!!! こんな……たったこれだけの揺さぶりのためだけに……賽の目を操作していたっていうのか……!!?)ゾワッ
晴絵(否……違う!!! 落ち着け。いくら熊倉さんが化け物でもそんなことができるはずないんだ。
こんなのはただの偶然。偶然起こったことを、まるで故意であるかのように言っているだけの……ただのはったり!!)
トシ「おっと……そろそろかな。じゃあ、私は先に対局室に行っているよ。
あんたも……これが最後の休憩……最終局までに気持ちを整えてくるといい。どういうわけか少々顔色が悪いようだからねぇ……?」
晴絵「…………ババァ……」ギリッ
――五花タイトル戦・最終日・最終半荘
トシ「さて……仮親は私だねっと……」コロコロ
晴絵(くっ……!!)
トシ「左八……起家は牌のお姉さんか。ラス親は……おやおや……挑戦者様じゃないか。どうした、軽く瞳孔が開いていないかい?」
晴絵(お……落ち着け……私……!! こんなのは偶然!! 偶然だ……!!)
はやり(む……? 赤土九段、どうしたんだろ……? さっきまでとは随分雰囲気が違うけど)
善野(赤土九段の様子がおかしい……さては、何かしましたね、熊倉五花)
トシ「さあ……それじゃあ始めようか。私の五花を賭けた最後の半荘を……」
晴絵「熊倉……五花……!」
トシ「なんだい……そんな睨むんじゃないよ。恐いじゃないか」
晴絵「今の新しい世代は……私の弟子たちは……みんな純粋で素直ないい子たちばかりですっ!! そんな子たちがこれから麻雀界を担っていく……!!
いつまでもあなたのような老害に居座られたのではたまらない……!! 五花の座は、ここで私が継がせてもらう!!」
トシ「逸るんじゃないよ、青二才。心配しなくとも、結果ならすぐに出るさ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
晴絵「ああ……勝つのは――私だッ!!!」ゴッ
――小鍛治邸
健夜「そっか……うん。うん。そうだね……うん……お疲れ様って伝えておいて……今日はゆっくり休むといいよって……じゃあ、わざわざありがとうね」
恒子「すこやん、電話誰から?」
健夜「松実宥さん。ほら、赤土さん門下の」
恒子「ああ……なんだって?」
健夜「赤土さん、最後の最後で負けちゃったって……」
恒子「そっかぁ……あの人なら獲れると思ってたんだけどなぁ」
健夜「私もそうあってほしいと思ってたよ。赤土さん……私にだけは相性いいくせに。ホント、私に勝った人がいつまでも九段のままっていうのは……やるせない」
恒子「まぁ、仕方ないよ。赤土さんはアラサーだもん。アラフォーのすこやんみたいには勝てないって」
健夜「こーこちゃん、言っていいことと悪いことがあるよ」ズーン
恒子「それはそうと……すこやん自身のほうは大丈夫? 今度、あの人と再戦するんでしょ……?」
健夜「誰を心配してるの、こーこちゃん。私が二度も負けると思う……?」
恒子「いや、私が心配なのはすこやんの身体のことで……もう若くないんだから、あんまり無茶しないでね」
健夜「悪いけど……期待には添えないと思う。ごめんね、こーこちゃん」
――無双挑戦者リーグA卓
?「いや~世の中わっかんないもんだねぃ~。まさか五段で挑戦者リーグに上がってくるとはねぃ」
?「……すごいっ……!」
?「いやはや……とんだモンスターですね」
衣「言うわりに、いささかも動揺が見えないな。負ける気はないということか」
理沙(34)「……そのつもり……!!」
良子(30)「こっちが何年プロやってると思ってるですか。そんなイージーには負けないですよ」
衣「ふん、九段止まりの有象無象が……蹴散らしてくれる……!!」
咏(33)「いやいや~、そこはさ~? 天江さんもわかってるよねぃ? わっかんねーとは言わせない。小鍛治健夜八冠……」
衣「あの四十手前のことか……それがどうした?」
咏「いや、どうしたってことはないんだけどねぃ。
ただ……小鍛治さんに勝てなかった――それだけのことで無冠の王者に甘んじているナンバーツーがここにはごろごろいるんだよ、ってことだけわかってもらえればねぃ」
衣「負け犬の遠吠えに耳を傾ける衣ではない。御託はいいから……早く対局を始めようじゃないか」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
咏「ホントこの子は……わからず屋だねぃ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
――無双挑戦者リーグB卓
霞「あらあら、あっちの若い子たちは元気でいいわねぇ。私たちも負けてられないわ」
赤阪「せやけど、またえらい偏った卓になってもうたな~。こっちはさしずめシニア卓やん。笑えへんわ~」
トシ「シニア卓なんて……そんなことを言ったら神代二段に悪いですよ、難波の魔女」
小蒔「………………」オオオオオオオオオオオオオオオオ
赤阪「せやったせやった。ごめんな~、小蒔ちゃん? って、聞こえてへんか」
霞「こうなったこの子は相当手強いのよねぇ。けど、熊倉さんもこの間防衛したばかり……まだまだ若い子には負けられないわ」
赤阪(??)「それはそうと、熊倉ちゃん。いつも敬語はやめてや~言うてるでしょ~? 熊倉ちゃんに敬語使われるとうちの年バレてまうんやから~。ねえ、霞さんもそう思いますでしょ~?」
霞(??)「ふふ……郁乃ちゃんも私に敬語を使うのはやめてって……いつも言ってるわよね……?」
赤阪「お~、年齢不詳の仙女を怒らせてもうた~」
トシ(70)(難波の魔女と秘境の仙女……こいつらと卓を囲むと自分の小ささを思い知らされるね……。
赤土九段……わかってるかい……こいつらが正真正銘……麻雀界の老害だよ。私なんて可愛いほうさ……!!)
霞「さあ……こちらも始めましょうか……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
――数日後・三元タイトル戦会場・エレベーター
赤阪「おはよ、すこやんちゃん。今日もええ天気やね~」
健夜「そうですね」
赤阪「しかし、こんなに早く取り返しに来るとは思うてへんかったよ~? せっかくタイトルホルダーになってええ気分やったんやけどな~。
ほら、すこやんちゃんとこのお弟子さんとも新初段シリーズで戦えたしな~」
健夜「ああ……牌譜を見させていただきました。かなり大人気ない真似をされたようで」
赤阪「ああいう子にはあれくらいでええんよ。なんや、うちに負けてあの子、一皮剥けたようやし」
健夜「それについては感謝していますよ」
赤阪「それについては、とはね~。なんや、すこやん八冠ともあろう雀士が、お弟子さんをボコったことをまだ根に持っとるん?」
健夜「根に持っているつもりはありません。それに……あれはあの子の自業自得ですし。新初段シリーズの前、あの子が私になんと言ったと思います?
『借り、私が返してきましょうか?』ですよ。本当に……誰に似てあんな生意気になったのか……」
赤阪「そりゃあ誰かさんやろな~。目に見えるようやわ。そんな生意気な口を聞いた照ちゃんを窘めつつ、『あれくらいすぐに取り返す』とか言うてる姿が……」
健夜「一週間後には事実そうなるのですから、なんの問題があるんです?」
赤阪「あはは~……オモロいな~すこやんちゃん……二度と牌を握られへん身体にしたろか~?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
健夜「私のタイトル……利子つけて返してもらいますよ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
――
和「若獅子戦が終わってから、プロ麻雀界は大きく動いているようでした。
照さん世代の三人がトーナメントを勝ち上がり、天江さんと神代さんが挑戦者リーグを湧かせ、小鍛治さんが三元を取り返し九冠に返り咲きました。
私はというと、小学六年生になり、院生順位を六位まで上げ、来るプロ試験に向けて鍛錬を積む日々が続いていました。
咲さんは、あの若獅子戦以来、随分と大人しくなってしまって、私と自宅で二人麻雀を打つ以外は、人と対局をすることがなくなってしまいました。
咲さんに元気になってもらいたい……けれど、咲さんが何も話してくれない以上、私にできることは多くありません。
そうして、季節は梅雨の終わり、夏の始まりを迎えようとしていました……」
――
――日本麻雀院・食堂
和「えっ? 外来、ですか?」
憧「そうよ。私ら院生はなんの試験も受けずにプロ試験予選に出られるけど、プロ試験は三十歳まで受けられるのよね。つまり、院生以外の受験者も当然いる。
そういう院生以外でプロ試験を受けに来る人たちを、外来っていうの」
玄「去年の宮永さんたちは全員外来だったんだよ」
シズ「で! その外来の募集が今日から始まるんだ!!
ま、もちろん外来の予選っていうのもあるから、応募した人全員がプロ試験予選に出られるわけじゃないんだけどねー」
和「プロ試験予選の前にもう一つ予選があるんですか。外来さんは大変なんですね、私、院生でよかったです」
憧「でも、ホントに強い外来は、外来予選なんて簡単に突破してくるんだけどね。
去年の三人は特に別格だけど、実際、外来でとんでもなく強い人ってのは毎年ちらほらいるから……」
玄「あ、そう言えば、私聞いちゃった。今年は例の『アマ最強』がプロ試験を受けるって話……」
シズ「ああ!! 大学麻雀のタイトルを総ナメにしたっていう……あの学生最強の『王者』!!」
憧「げええ、それマジで? そりゃ覚悟はしてたけどさぁ……にしても『王者』が受けに来るのか……今年も厳しい戦いになりそうね」
和「あ、午後の対局が始まりますよ、そろそろ対局室に戻りましょう」
――日本麻雀院・ロビー
?「ついに私の出番が来たようだな!!! インカレを始めとした数々の学生タイトルを獲得し、ついでにちょちょっと博士号まで取った私の出番が!!!」ドンッ
?「きゃー!! 先輩、カッコいー!!!」
?「さて、受付はどこにあるのやら。お、ちょうどいいところに人が……」
――
和(思いの他対局が早く終わってしまいましたね。穏乃たちはまだですか。少し待ちましょう……)ウロウロ
?「おーい、そこの胸の大きな子供ー」
和「(む、胸!?)え……は、はい。なんでしょう?」
小走(27)「プロ試験の申し込みに来たんだが、受付の場所を知らないか?」
和「ああ……たぶん、三階の事務室だと思いますけど……」
小走「そっか、ありがとなっ!」
和(あの人が……外来ですか。強いんですかね……不安です)
小走「そうだ、ありがとついでにもう一つ頼みたいんだが」
和「なんですか?」
小走「あんた、院生だろ? よかったそこで私と一局打ってくれないか?」
和「え、いや、でも面子が……」
小走「大丈夫、とりあえずここに私の後輩が一人いる。ま、本当は四人いればいいんだけどな。別に三麻でも問題はあるまい?」
初瀬(25)「よろしくねっ!」
和「は、はあ……」
――練習室
小走「麻雀かぁ……博士論文に忙しかったからな。まともに打つのは一年振りか」ジャラジャラ
初瀬「私、久しぶりに先輩と麻雀が打てて嬉しいですっ!!」ジャラジャラ
和(困りましたね……そろそろ穏乃たちの対局が終わる頃だと思うんですが……こんなところで三麻をしていたら、下手をすると夕方の対局に遅刻してしまいます……。
あ、そうだっ!!)ジャラジャラ
小走「懐かしいなぁ……この牌の感触……」ジャラジャラ
和(咲さん! 咲さん、一局、どうですか?)
咲(えっ? 和ちゃん……?)
和(咲さん最近私以外と打ってないじゃないですか。たまにはどうです? この人、外来でプロ試験を受けるそうですから、かなり手強い方だと思いますよ)
咲(とかなんとか言って和ちゃん、単純に早く対局を終わらせたいだけでしょ)
和(ま、まあ……そういう意図もありますが、でも、少しでも咲さんの気晴らしになれば、と思うんです。
プロ試験が始まってしまったら、私が咲さんの代わりに打てる機会は少なくなってしまいますから)
咲(ま、そうだね。和ちゃんの言う通り、たまには打っておかないと腕が錆びついちゃうかもだし)
和(じゃあ……!)
咲(うん。任せてよ。一瞬で終わらせるね)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
小走(ん……なんだ……急に寒気が……?)ブルッ
――
小走「お見せしよう……王者の打ち筋をッ!!!」タンッ
和「カン……嶺上開花……」パラララ
小走「え……?」
初瀬「え……?」
――
――
初瀬「せ、先輩……!!! しっかりしてください!!! 息をしてください!!!」
小走「」
和(って……めちゃめちゃ強いじゃないですかこの人!!? いや、まあ結果だけ見れば咲さんの圧勝ですけど!!!
少なくとも私なんかよりはずっと咲さんに抵抗できていた……それも初見で……!!)
小走「おい……あんた、本当に院生か? 順位は……?」クラクラ
和「え……えっと、先月の順位は六位でした……」
小走「なあ……!? これで六位……だと!!!?
(こんな化け物より強いのがまだ五人もいるのか……!? しかも……こいつはプロでもなんでもない……ただの院生。だとしたら……プロ麻雀の世界とはどれだけの……)
初瀬「せ、先輩……?」
小走「…………初瀬、今年のプロ試験は見送りだ」モウシコミヨウシグシャグシャ
初瀬「先輩っ!!?」
小走「どうやら私は天狗になっていたようだ。アマ最強だ、学生王者だ、などと周囲からもてはやされて……プロを――麻雀を甘く見ていた」
初瀬「先輩……」
小走「一年……一年だ。本気で自分を鍛え直す。そして……堂々とこの場所に帰ってこようと思う。今の私には、プロ試験に申し込む資格すらない」
和「あ……あの……」
小走「院生六位さん、ありがとう。あんたのおかげで目が覚めたよ。今日限りで私は王者の座を退く。これからは挑戦者としての麻雀を打とう。
そして……いつか、プロの世界で、あんたと再戦をしたいと思う。私はこれで失礼するよ……」
和「あ、あの……待ってください。せめて、お名前だけでも――」
小走「悪いが、私がプロになるまで名乗りは遠慮させてもらいたい。自分の実力も測れずにプロ試験を受けに来たニワカがいたと……今はそれだけを覚えていてくれ」
和「ニ……ニワカさん……!!」
小走「この借りは高くつくぞ……! では、またいつか!!!」
和「は、はい……!!」
――ロビー
憧「和ー、どこ行ったのー? って……あれ? あれ小走やえじゃない!!」
玄「本当だ……!! プロ試験の申し込みに来たのかな……?」
シズ「ん……なんだこれ、ゴミ箱の上にぐしゃぐしゃになった紙が……え? これ、小走さんの名前が書いてある申し込み用紙!? なんで捨てられてんの!?」
憧「ま、まあ……よくわかんないけど、今年は受けないってことなのかな、プロ試験」
玄「さ、さあ……」
――
小走「さあ……初瀬!! 早速帰って麻雀の練習をしようっ!!」
初瀬「はいっ! 私はどこまでも先輩についていきますっ!!」
――小鍛治門下
菫「来週からついにプロ試験予選か……淡、どうだ。プロになれそうか?」
淡「誰にものを言ってるんですか、弘世先輩。なんなら、全勝でプロになってみせましょうか? 例の……原村和とかいうのにも勝って……」
照()ピクッ
淡「それはそうと……ねえ、テルー。お願いがあるんだけど……」
照「ん、何……?」
淡「プロ試験が終わるまで、私、テルに一対一で指導をつけてもらいたい。本気で……全勝したいと思ってる。テルでもできなかった全勝合格……ねえ、ダメかな?」
照「ダメなわけない。淡には、頑張ってほしいから」
淡「やったー! じゃあ、早速今夜からよろしくねっ!!」
照「うん……(私……最低だ。淡を物差しにして原村和の実力を測ろうとしている……)」
淡(照……原村和のことを考えているのかな……いいよ、好きなだけ考えて。それで、私がその原村和に勝つ。そうすれば……きっと照は私を見てくれるはず……!!)
淡(原村和……絶対ぜったい……負けないんだから……!!!)ゴッ
――プロ試験予選・組み合わせ抽選会・日本麻雀院入口
憧『予選は八人六組に分けて、一組から上位二人が本戦に勝ち上がり。
まあ、私ら院生はくじを引く段階で順位ごとにバラけるようになってるから、六位の和は格下相手としか当たらないはずだよ。もちろん、外来もいるし、油断は禁物だけど』
和「って憧さんは言ってましたけど……緊張するものは緊張します。
もし……穏乃と同じ組になってしまったらどうしましょう……そこにあのニワカさんくらい強い外来さんが来てしまったら……?
最悪……私と穏乃で本戦出場を賭けて戦うことに……」
咲(他の人のことを考えても仕方がないよ、和ちゃん。和ちゃんがやることは、いつも通り打つこと。たとえ、誰が相手でも……)
和「そ……それはそうですけど……!!」
ドドドドドドドドドドドドド
和「えっ……!!? な、なんですかこの爆音っ!!? ど、どんどん近付いてきて……!!!」
ドドドドドドドドドドドドドキキイイイイイイイザアアアアアアアアアア
和「えええええええええ!?(ま、真っ赤なバイクがドリフトしながら目の前に停車してきましたあああああ!!!!!)」
?「あら、驚かせちゃった? ごめんなさいねー♪」
和(なななななななんなんですかこの人!!?)
久(27)「随分と可愛らしい子ねぇ。あなたもプロ試験に? ってことは院生なのかな。私は外来で受けに来た竹井久よ、よろしくぅ!」
和(こ、こんな真っ赤なバイクを乗り回すような派手な人まで受験者なんですか!!!? 聞いてないですよ……!!)
久「あら……それにしてもあなた、年のわりにかーなりイカサマな牌を持ってるのね~」
和「は、牌ですか? 持ってませんよ! というかイカサマなんてしたことないですし!!!」
久「いやいや、ここにあるでしょ。ああ……なんて柔らかそうな牌なのかしら。じゃ、ちょっと失礼して――」モミッ
和「え………………?」
咲(は………………?)
久「んん~!! やっぱり若い子の牌は格別にジュ~シ~!!」モミモミ
和「何をするですかあああああああああ!!!」ガバッ
咲(ぶ……ぶっ殺おおおおおおおおおす!!!!!! 私が初めてをもらうはずだったのにいいいいいい!!!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
和(咲さんは霊体だから触れないっていうか初めてをもらうってなんですかっていうかこの人なんなんですか本当に!!!!!)
久「あらあら。なにやら危険なオーラを感じるわね。これ以上の悪戯は命に関わるかしら」
咲(殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……)ゴゴゴゴゴゴゴゴ
和「(咲さん落ち着いてください!)ち……痴女さん……プロ試験を受けるってホントですか……?」
久「私のことは久って呼んで。で、プロ試験のことだけど、もちろん受けるし、本戦まで行くつもり。これでも昔はインターハイでけっこう上まで行ったのよ?」
和(こ……この人とだけは戦いたくない!!! 冷静に打てる気がしません!!!)
咲(だったら和ちゃん……私が代わりに潰しておくよ。蟻を踏み潰すみたいに……ぷちっとね、ぷちっと……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
和(さ、咲さんまでキャラ崩壊している!!! こ、これはピンチですっ!!!)
久「ほら、早く中に入りましょうー!」ガシッ
和「あ、いえ、私は友人を待って……っていやあああああ」ズルズル
――
憧「ちょ、和が派手な格好をした女の人に拉致られてる!?」
玄「和ちゃん……」
シズ「大丈夫だといいけど……」
――組み合わせ抽選会終了後・ロビー
憧「って……私たちみんな予選でバラけたのはよかったけど、和……」
玄「本当に大丈夫……?」
シズ「あの派手な外来の人と一緒の組だけど……」
和「わ、わかりません……こればっかりは本当に……」
久「和~! 明日からよろしくね~!!」バーン
和「あ痛っ!! もう、気軽に触らないでくださいっ!!」
咲(いてまうぞゴラァ!!)
和(だから咲さん、キャラおかしくなってますって!!!)
久「ふふ、つれないわねぇ。同じ組同士、仲良くやりましょう。じゃ、また明日」タッタッタッ
ブウウウンブウウウンドドドドドドドドドドドド
憧「嵐のような人ね……」
玄「和ちゃん……頑張ってね」
シズ「平常心だよ、平常心っ!」
和「わ、わかってますけど……(たぶん不可能です……)」
――プロ試験予選・初日
久「はい。これで午前の対局は私の勝ちねっ!」ゴッ
和(こ、この人……麻雀も相当強い……!! しかも……悪待ちが得意なんて……そんなオカルトありえません……!!)
咲(和ちゃん、焦っちゃダメだよ。それこそこの人の思う壷だよ!!)
久「ね~、和~!」ギュッ
和「ひっつかないでくださいっ!」ドンッ
久「ごめんごめん。で、和ってお昼どうするの?」
和「友人と食堂で」
久「よかったらこの辺りの店を案内してよ。私、よく知らないのよね」
和「いや、わた――」
久「さあ!! レッツゴーっ!!」ガシッ
和「いやあああああああ!!!!!」ズルズル
咲(ダ、ダメだ……早くなんとかしないと……!!)
――レストラン
久「ご飯代は奢るから、好きなだけ食べるといいわ。デザートもつけてくれていいのよ?」
和「う……じゃ、じゃあ……チョコレートパフェを……」
久「和、しっかりしてそうだけれど、まだまだ味覚はお子様なのね。可愛いっ!」
和「か、可愛くなんか/////」カー
久「可愛いわよ。服もヒラヒラのフリフリだし、まだ小学生なのにおっぱいは破廉恥だし。こんな子がプロになったら、きっと周りが大騒ぎするでしょうねぇ」
和「や、やめてくださいっ! 恥ずかしいですっ!!」
久「ま、でも、和の『初めて』はもう私がもらっちゃったけどね~」
和「~~~~~~~~っ!!!」
久「やだ、和ったら。こんなところでそんなに顔を真っ赤にして」
咲(おいコラ。誰の許可を得て和ちゃんを口説いてんだ? ああん? 死にたいのか? 今すぐ沈めてやろうか? おい誰かここに雀卓を持ってこいやああああ!!!!)
久「あらやだ。またこの悪寒? 和、あなたってもしかして、ものすごい守護霊に取り憑かれてたりする?」ブルッ
和「な、なんのことでしょうか……」アセアセ
久「それはそれとして、和、あなたって院生の六位なんでしょう? けど、さっき一局打った限りだと、正直、さほど強いとは感じなかったわ。
何か理由があるの? それとも、院生って言っても所詮はお子様レベルなのかしら?」
和「そ……それは……(あなたのせいですよっ!!)」キッ
久「あ、いいわね、そのちょっと反抗的なジト目。癖になっちゃいそうだわ」ゾクゾク
和「変態ですか!? 久さんは変態なんですか!!!?」
久「あ、やっと私のこと『久』って呼んでくれたわね?」
和(もうううううううう!!!!)
久「ほらほら、言いたいことがあるなら言いなさいよ。久お姉さんは優しいから、何を言われても怒ったりしないわよ?」
和「………………んです」
久「え? なんて?」
和「リアルで人と打つのは苦手なんです!!!」
久「どういうこと……?」
和「特に!! 久さんのような、人の心を弄ぶ大人は苦手なんです!!!」
久「失礼ね。まるで私がタラシみたいな言い方じゃない」
和「違うとでも!!!?」
久「違わないけど」
和「ほら見たことですか!!! もう……久さんなんて……ネット麻雀だったら……きっと五回に三回くらいは勝てるのに……」ブツブツ
久「あら、和。あなたネット麻雀やるの?」
和「やりますよ。それがどうかしたんですか?」
久「ハンドルネームは?」
和「『のどっち』です」
久「……………………嘘でしょ? のどっちはR2300を超える雀士よ? 下手なプロよりよっぽど強い。あなたとは雲泥の差だわ」
和「雲泥の差っていうのは、私もそう思います。けど、本当なんだから仕方ないじゃないですか」
久「なるほどねぇ。そうだ、そんなに強いなら、和はネット麻雀仲間とかいる? オフ会とかしたことは?」
和「いえ、特定の誰かと仲良くなったりはしていません。オフ会とかそういうのも、父に止められていますし、チャットをしたことすらありません。
それがどうかしたんですか?」
久「いやね、私……ちょっと個人的に探してる人がいるの。その人を見つけたのが……その、ネット麻雀の中でね」
和(ん……?)
久「和もネット麻雀をしてるなら聞いたことないかしら? 去年の夏に一瞬だけ現れて消えた……プロをも打ち負かす最強の打ち手――『saki』のこと……」
和「…………名前くらいは、聞いたことあります。けど、それだけです」
久「そうなの。ま、じゃあ、誰か知っている人がいたら、私に紹介してくれると助かるわ」
和「久さんは、どうして咲さ――『saki』のことを探しているんですか?」
久「私が高校生の頃のね、後輩に……打ち方が似てるのよ」
和「えっ。高校の後輩ですか……? そんな人なら……連絡先くらい知らないんですか? 疎遠になってしまったんですか?」
久「ううん、違うの。そうじゃなくて……」
和「え……?」
久「あの子はね、もうこの世にいないの」
和「え…………?」
咲(……………………)
久「ま、この話はこれでおしまいっ! 午後の対局が始まるわよっ!! 試験場に戻りましょう」ガシッ
和「あっ……パ、パフェがまだ途中……」
久「また今度、ケーキバイキングにでも連れて行ってあげるわよっ!!」
――プロ試験予選最終日
和(な……なんとか予選通過しました……!! 久さんのせいで大分ペースを崩されましたが……とにかく落ちなくて何よりです)
久「お疲れ、和。二位通過おめでとう」
和「久さんこそ、一位通過おめでとうございます」
久「あなたの牌譜、見たわよ。私以外と打ってるときは、まあまあ打てるのね。
あなたの正体がのどっちっていうのも、実力の差はともあれ、なんとなく影がちらついている感じはするわ」
和「同一人物なんですから、当然です」
久「ねえ、それでなんだけど、和」
和「なんですか?」
久「これから本戦まで二週間の時間があるわ。その間……私と一緒に雀荘を回らない?」
和「えええええ!? い、嫌ですよっ!!! 私は穏乃たちと赤土さんも交えて研究会を――」
久「でも、あなたは自宅で打つネット麻雀は既に十分強い。けれど、今のあなたのままではプロ試験合格は厳しいわ。
いつもと同じような練習で、いつも以上の結果を残そうっていうのは、無理がある話だと思わない?」
和「久さんが……私のコーチをしてくれるってことですか? そんな、ライバルを増やすような真似をして、久さんになんの得が……?」
久「損得や確率じゃないのよ。あなたも私の悪待ちには散々やられたでしょ? 私のカンが……ここであなたと仲良くなっておけって言ってるの。
それに、単純に私自身がもっと強くならないといけないって感じたっていうのもある。
他の組の、ほら、大星さんや松実さんって子はけっこう強いみたいだしね。ま、そのついでに、せっかくだから和もどうかなって」
和「私は……まだ、久さんのことをそこまで信用していません」
久「ええ!? てっきりもう落とせたものだと思ってたのに!!?」
和「まあ、冗談はさておき、久さんの言うことにも一理あります。
今まで……すぐ傍に強い人がいたからでしょうか、ずっと受身で麻雀を打ってきたような気がします。特に、麻雀の練習方法というのは、ネット麻雀以外のやり方を知りません」
久「ってことは……?」
和「久さんの提案、乗らせていただきます。覚悟してください、久さん。私は久さんを踏み台にして、プロの世界に入ってみせますから」ゴッ
久「上等ね……じゃあ、ひとまずは本戦まで共闘ってことで!!」ガシッ
和「はい、よろしくお願いします」ガシッ
――赤土門下
憧「ってなわけでさー、和ったら、その予選で一緒に勝ち抜けたバイクの人とすごい仲良くなっちゃって」
玄「しばらくこっちには来れないそうです」
宥「寂しくなるね」
シズ「和って、ああいう押しの強いタイプに弱いのか……」
灼「ハルちゃんは、どう思う?」
晴絵「どうって、いいんじゃないか? 強くなるやり方は人それぞれ。
和は、言われたことは素直に聞き入れる真面目なやつだが、それは主体性に欠けているからだ、と言えなくもないよな。
その和が、自分から見知らぬ世界に飛び込もうとしている。賭けに出なきゃ、化けることもないさ」
憧「和……強くなって戻ってくるのかな。なら……私たちも負けてられないね!!」
玄「うんっ!! 昨日よりも今日、今日より明日……私たちも強くなろうっ!!」
シズ「それで……また和と一緒に遊ぶんだっ!! プロ試験本戦で!!」
晴絵(和……楽しみにしているぞ……頑張れよ……!)
――古びた雀荘
和「ほ、本当にこんなところに入るんですか!!?」
久「大丈夫よ、お化けなんていないわ。お化けみたいな人ならいっぱいいるけど」
和「無理無理無理無理!!」
?「騒がしいな……入るならとっとと……なんだ、久か」
久「やっほー、マスター。来ちゃった」
大沼(80)「こんなむさくるしいところによく来るなァ。まあ……うちとしては客引きになるから助かるが……」
「おーい! マスター!! 頼んだ出前はまだかよっ!!! あと茶ァおかわり!!」
「マスター、灰皿いっぱいになっちまった!!」
大沼「うるせえぞ!! そんくらいテメェらでなんとかしやがれ!! こっちは今上客の対応で忙しいんだァ!!」
「ひゃー恐えええ」
「知ってるか、マスターって戦時中、米軍と打って一個師団を壊滅させたことがあるらしいぜ」
「マジかよ……」
大沼「そっちのお嬢さんは?」
久「この子はね、今やってるプロ試験で友達になったの。でも、ちょっと抜けてるところがあるから、マスターのところで鍛えられないかなって」
大沼「俺はいいが、そっちのお嬢ちゃんは大丈夫なのか? この店はちと煙草臭ェぞ」
久「ま、それは私に考えがあるのよ。マスター、ここの二階って、空いてるわよね? そこで、ちょっくら二週間くらい合宿させてもらえないかしら?」
大沼「合宿ぅ!? 泊まるのか? ここに!?」
久「ええ。この子の親御さんには話をつけてきたわ」
和「えええええええええ!!!? あの父とどうやって話をつけたですか!!?」
久「というわけで、コーチを募集しているわ。もちろん私も混ざるけど……ここのナンバーワンであるマスターがコーチ1だとして、ナンバーツーって今は誰?」
大沼「俺の次となると……あの頑固野郎だが、あいつは気難しくてな、こんな子供のコーチなんて引き受けるかどうか……」
?「なんだ、私に何か用か?」
久「あら、南浦さんじゃない。お久しぶり」
南浦爺(60)「久しぶりだな。ん、そっちの娘は?」
久「原村和って言うの。今麻雀のプロ試験を受けてる、院生の子よ」
南浦爺「院生!? 今、院生と言ったか!!? そうなのか?」
和「え……まあ、はい(あれ……この人の名前……)」
南浦爺「うちの数絵は元気にしてるか!!?」
和「あ……えっと、南浦さんは、強いです。院生でも三位で……(この人が……南浦さんの話によく出てくるお祖父さん……ですか)」
南浦爺「おお!!! それはよかった……で、私がどうかしたのか?」
久「この子と私、二週間後のプロ試験本戦までに強くなりたいのよ。どう……鍛えてくれないかしら?」
南浦爺「なるほど……いいだろう。その代わりと言ってはなんだが、お嬢さん、数絵の話を聞かせてくれないか?
あいつ、院生になってからはとんと私のところに来なくなってな……」
和「ま、まあそれくらいでしたら……」
南浦爺「決まりだ、どれ。早速打とうか」
大沼「待て待て。まだ俺が店を離れられねぇよ。それじゃ面子が足りねぇだろ?」
久「心配ご無用っ! 残りの一人は既に呼んであるわ!!」
?「なんだ久、急にこんなところに呼び出して……」
和「あ、あなた……!!?」
藤田(32)「君は……まこの友達の小学生……院生になったという話はまこから聞いたが……どうしてこんなところに……?」
久「あら、靖子、知り合いだったの?」
藤田「ああ、うちの雀荘に一回だけ来てな。とんでもない闘牌を見せて帰っていったよ」
和「あ、あれは……マグレです!」
藤田「だろうな。けど、院生になったということは、あれからそれなりに力をつけたということだろう。面白い。私はこれでも元プロでね……相手にとって不足はないと思うぞ?」
和「よ、よろしくお願いしますっ!!」
久「じゃ、二階借りるわね、マスター」
大沼「おう、ちっとばかし埃っぽいが、好きに使え」
――
和「それから、私は久さんと、南浦さんのお祖父さん、大沼さん、藤田さん……それに大沼さんの雀荘に出入りしている雀士たちと、朝から晩まで麻雀を打ち続けました。
最初は、大人の人……しかも男の人と打つなんて無理だと思っていましたが、だんだんと、相手を意識しないで、牌に集中するコツを掴んできました。
誰が相手でも、自分の七割くらいの力は出せる。
しかし、一週間を過ぎたくらいで、その伸びも頭打ちになってきたのです」
――
大沼「うーん、お嬢ちゃんも最初に比べればマシになってきたが、いま一つ勝負弱いな」
和「す、すいません……」
南浦爺「数絵の二つ下としては十分過ぎるくらいだが、プロとなると話は別だな」
和「ううう……」ギュウウウ
久「ところで、和。さっきから抱きしめてるそのペンギン、なんなの? 寝るときもずっと持ってるみたいだけど」
和「これは……エトピリカになりたかったペンギンって言って……これがないと眠れないんです」
藤田「小学生かよ……いや、小学生か」
久「なるほどね……!!」キュピーン
大沼「どうした、久」
久「和、次はそのペンギンを抱いて打ってみなさい!!」
和「えええええええ!!?」
久「いいから。あなたは自宅なら本来の実力を出せる。けど、他の場所ではそれができない。それは、傍に安心できるもの――リラックスできるものがないからよ。
例えばだけど、仲のいい人と打ってるときのほうが力を出せるとか、そういう傾向はなかったかしら?」
和「た、確かに穏乃と打ってるときが一番調子がよくなりますけど……でも、だからってエトペンを抱いて打つなんて……」
久「いいから!! 騙されたと思って!! 和、プロになりたいんでしょう!!?」
和「うう……わ、わかりました……」ダキッ
――
大沼「これは……」
藤田「驚いたな……まるで別人だ」
南浦爺「しかし……お嬢さん、顔が真っ赤だが大丈夫か?」
和「大丈夫です……」ポー
久(これは……想像以上の特効薬ね。私でも……今の和には勝てるかどうか……)
大沼「おい、久。何をニヤニヤしてるんだ」
久「いや、マスターだってニヤニヤしてるでしょう」
大沼「まァ、そうだな。気分がいいもんだよ。人が成長する様を間近で見るってのは」
久「そうね。ま、成長したというか、ただこの子本来の実力を引き出しただけだけど……」
大沼「似たようなもんだ。みんながみんな、いつもいつも本来の実力を出せるわけじゃねぇ。それを引き出せるようになったってのは、確かな成長だろうよ」
久「よし……和、それじゃあ特訓の第二段階に移行するわよっ!!」
和「え……第二段階……? 何をするんですか?」
久「いつまでもここに閉じこもっててもつまらないわ。次は――道場破りならぬ雀荘破りに行くわよっ!!」
和「えええー…………」
――とある雀荘
和「で、今日はこの雀荘なんですか? 最終ステージって言ってましたけど……」
久「そうね。もう明後日からは本戦が始まる。和もこれが終わったら自宅に帰って、明日はゆっくり休んだほうがいいわ。合宿も、雀荘破りもこれで最後」
和「最後っていうわりには、わりと普通そうな雀荘ですね」
久「中に入ればわかるわよ」
タンッ タンッ チーヤ ロンヤ タンッ ツモヤ タンッ
和(あ……本当だ……いつもの雀荘と違う。ここにいる人たちは……)
久(そうよ。みんなこっちの人じゃないわ)
和(関西……ですね)
久(プロ試験を行っている機関は、実は二つあるの。そのうち一つは、和が院生をやってる日本麻雀院。もう一つが……関西麻雀院よ)
和(なるほど。あれ、でも、荒川憩さんは関西人でしたけど、こちらでプロ試験を受けていましたよ?)
久(あの子の師匠の赤阪九段いるでしょ? あの人って関西ではかなり危険視されていてね。だからまぁ、いろいろあるみたいなのよ。
普通は、関西の人は関西麻雀院からプロになるわ。別にそうじゃなきゃいけないってことはないし、例外はいっぱいいるけど)
和(そうなんですか。で、今日は一体誰と打つんです……? やっぱりこの雀荘のナンバーワンとツーを倒すんですか……?)
久(んー、それも面白いけど、今日はちゃんと目星をつけてあってね。えっと……)
?「ようっ、久!! びっくりしたで!! 急に連絡寄越すから。インハイ以来やから十年振りくらいか……?
いやー、なんや、自分、とうとうプロになる気になったんかいなー」
和(この人……知ってる……! 関西最強の若手雀士だ……!!)
久「急な頼みに乗ってくれてありがとね、愛宕洋榎七段」
洋榎(27)「ええってええって。で、こっちの小さいのが例のオモロい院生か。
おおっ、こりゃまた主張の激しいおっぱいやのー。うちの絹とどっこいどっこいかそれ以上かもしれへんな~」
和「久さん……まさか……今日の相手って愛宕七段ですか……?」
久「まさか。洋榎はトッププロよ。まだプロにもなってない和が敵う相手じゃないわ。今日の相手は――」
?「おっ……!! うちのふとももレーダーが反応しとる!!」
?「なんやと!? どこや、どこにおるん!!?」
?「なぁそんなことよりもう一局打とうやー!!」
和(子供の声……!!? なんだか久しく聞いていませんでしたね……!!)
怜(15)「おっ!! あの子やあの子……って!!! ふとももよりもさらに魅力的なおっぱいやと!!?
そ、そんな……う、うち、うちはふともも一筋……決しておっぱいなんぞに浮気なんか……」
竜華(15)「あんた、初対面の女の子、しかも年下相手にセクハラかますってどんだけやねん。見てみいや、驚いて目が真ん丸くなっとるやんか」
セーラ(15)「あれ、あの子、洋榎さんと話とるで……ほな、あの子が例の雀荘破りなんとちゃうん?」
和「え、えっと……この人たちは……」
洋榎「うちのオカンの門下生や。去年、関西麻雀院からプロになった新初段三人組。
いま遠征っちゅうことで、うちがオカンの代理で預かっとるねん。で、なんや、久が腕試しの相手がほしいっちゅうから、ちょうどええと思って連れてきたんや」
久「ホント、何から何までありがとね、洋榎」
洋榎「ええってええって。一緒に失われた夏を過ごした仲間……共犯者やんか」
久「そうね……」
洋榎「ほな……早速始めよかー!」
――
怜「さて……東の院生かなんか知らんけど……うちの力の前では全てが無力やで……」ゴゴゴゴゴゴ
竜華「こらこら、あんま脅したら可哀想やろ。仲良く打とうや。な?」
セーラ「っちゅうか、そのペンギンはなんなん? 胸置き場?」
和「違いますっ!! これは……その――」
怜「なんでもええわ。ほな、お手並み拝見と行きましょかー」コロコロ
――
怜「ツモや。2000・4000!」
久(また一発……私も一発率は高いほうだけれど、この子は異常ね。ここまでは百発百中。他の二人も基本的な力が院生とはまるで違う。
新初段と言っていたけれど……既に三、四段くらいの力はある子たちばかりね)
怜(む……なんや? 洋榎さんがオモロい相手連れてくるゆうから楽しみにしとったのに……あんまパッとせえへんな。まあ、下手なわけやないけど……)
セーラ(やけど……随分落ち着いとるな。この子、うちらの三つ下……まだ小学生。それが、こんなドアウェイにおるのに平然としとる……底が読めへん。
しかし、さっきからなんや顔が赤いけど大丈夫なんか……?)
竜華(時々ぞっとするようなところを切ってくるな。
しかも……驚くべきは第一打以外がノータイムってことや……まさか、何が来たら何を切るって……最初のあの時間で全部計算を終えとるんか……?
いや、まあ、それくらいは大抵のプロができることやけど……にしてもノータイムっちゅうんは訝しいな。迷いとか逡巡ってもんがないんか、この子……)
和()ポー
久(おっ……そろそろお目覚めのようね。もう南入してしまうけれど……ここからがこの子の真骨頂……!!
あの『saki』が消えてしまった今……間違いなくデジタル最強の一人として名が上がる『のどっち』が――デジタルの神の化身が……ここに降臨するっ!!)ゾクッ
洋榎(お、なんかちっこいのの雰囲気が変わったな。怜、竜華、セーラ……気ぃつけや。そいつ……たぶんここから仕掛けてくるで……!)
――
和()ヒュン
洋榎(んー。雰囲気変わったと思うてから……さっきはオリ。今局もまだ二シャンテン……気配も希薄になってしもたし……なんや、期待外れなんか……?
まあ、東場はちょいちょいあったミスが嘘のように消えたっちゅうんは驚きやけどな……)
久(和は数千局スパンで勝率を上げるタイプの雀士……ぱっと見ただけではその強さがわかりにくい。引くときはあっさり引いたりするしね。
けれど……これが一旦攻めに回れば……その速度は飛ぶ鳥すら落とすほど……!!)
和()ヒュン
洋榎(ん……?)
久(あら……?)
怜(む、この一打……一巡前から見えとったけど……一巡経ってもようわからん。
ただ危険牌を打ち出しただけのようにも見えるけど……それだけやと説明がつかへん気がする)
怜(まあ……深く考え過ぎるとド壷に嵌るか……? 別にうちが振り込むことはないんや……普通に回せば大丈夫やろ……)
和()ヒュン
咲(ふうん…………面白いね。今の一打は……和ちゃんらしい……)
咲(カンのいい竹井さんや愛宕さんは何かを感じ取ったみたいだけど……今の一打は……一見して不合理なようで……計算上はこれしかないっていう最適な一打。
先の先のずっと先……もう数巡すれば、たぶん和ちゃんの意図にみんなが気付く。
けど……今そのことを理解しているのは和ちゃんだけ。もちろん……竹井さんや愛宕さんなら感性だけでその正解に辿り着いちゃう気がするけどね。
それでも……こと計算力と読みの深さなら……ここにいる誰よりも……和ちゃんは上を行っている……!)
タンッ タンッ ヒュンッ タンッ タンッ タンッ ヒュンッ タンッ
洋榎(ん、おっ……ちっこいのの手牌が……?)
久(伸び悩んでいた和の手が……的確に有効牌を引き入れて進んでいく? そんな魔法みたいな……)
咲(これは……魔法でもなんでもない。元々こうなる確率が一番高かったんだ……自然に場が進んでいるとしたら……この結果は必然……)
怜(ん……嫌な予感するな……おっぱいっ子の手が進んだような気がする。そんなにええ手やなかったように思うたけど……読み間違えてたか……?)
――和『リーチ……』
怜(次巡にリーチやと……?
どないしよ……手出しやから、ここで竜華の捨て牌を鳴けばズラせる感じやが……それやと数巡未来が見えなくなる……別にリーチくらい掛けさせとけばええか……)
和「リーチ……」チャ
竜華(おっ、ここで初めてのリーチやね。堅い打ち方するから、てっきり守備型やと思うてたわ……)
怜(さて……どうなるか……)
――和『ツモです。2000・4000』
怜(一発かいな……って、なんや……その手牌……?)ゾッ
怜(待て……待て待て、ちょいタンマや。えっと、その手と捨て牌……それにさっきのあの妙な一打……ってことはなんや、あの時点で既にこのヴィジョンを持ってたんか?)
怜(えっと……計算上はどうなるんやろ。むうううう…………ああ……! 確かに、これが正解やんっ!!
いや、そりゃ言われてみると納得やけど……いま、うちがその正解に辿り着くのにどれだけ時間掛かった……?)
怜(この子はずっと第一打以外ノータイムで切ってる……あの一打のときも、ノータイムであることに変わりはなかった。
ってことは何か、いまうちが必死こいてやった計算を……あの子はあの一瞬で済ませた……もしくは既に計算済みやったってことか……?
そんな化け物みたいな計算力があってたまるかいな……偶然や……!! 偶然……!!)
怜「(ま、まあ……ズラせばええんやろ。幸い、竜華の捨て牌はまた鳴ける……和了り牌はわかっとるんや……こっからなら全然追いつける)チー!」タンッ
竜華(お、怜が鳴いた? ってことは、この子一発やったんか……?
ってことは次のうちのツモが……。もー、せっかくあとちょっとやったのに面倒なことしてくれたわ……まあええ。この場は怜に預けたるわ)
セーラ(怜がズラしたってことは、和了りはないも同然やな……)
和「ツモ。3000・6000」
怜「はああ!!!?」ガタッ
怜(一発を消したのに高めツモやと……!!? なんや……ズラしてもおかまいなしか、この子!!
それとも……まさかうちの上を行く未来視能力とかがあって……うちはそれに踊らされただけやったとか……!!?)
和「ど、どうかしましたか?」ポー
怜「いや、その、見えてたもんと違うっちゅうか、見えてたもんより上を行かれたっちゅうか……。えっと、ぶっちゃけた話……あんたにはどこまで見えてるんや……?」
和「何を言っているのかよくわかりませんが、見えるとか見えないとか、そんなオカルトありえません。私に見えるのは、この……捨て牌と得点が並ぶプレイ画面だけです」
怜「は……? がめ、え……?」
和「さあ、これで私の親番ですね……」
怜(なんや……ようわからんけど、別に不思議な力で和了ったわけやないってことやんな。純粋な計算と技術だけで……ここまでの打牌ができるもんかいな。
しかも、ただの偶然とは言うても……裏技使うて和了りを妨害してるうちの上を行きよった……こんな……こんな打ち手が東に――しかも年下におったなんてな……!
世界……広いわっ!!)
怜「せや、おっぱいっ子、あんた、名前は?」
和「原村和です」
怜「うちは園城寺怜や。原村さん……今プロ試験を受けてる言うてたけど……必ず合格してや。
ほんでもって、こんな非公式の場やなくて……プロの世界で、いつかうちと戦ってや。そんときを楽しみに待ってるわ!」
竜華「わっ、怜だけずっこい!! 原村さん、うち、清水谷竜華いうねん。プロになったらうちとも打ってな!!」
セーラ「オレは江口セーラや。原村さん、大阪来たときはいつでも愛宕門下に遊びに来てな。大歓迎やでっ!!」
和「みなさん……はい。ありがとうございますっ!!」
怜「ほな、続き打とうか。原村さんには内緒やったけど、実はこれで負けたら洋榎さんにシバかれてまうんや。やから、死んでも負けへんで!!」
和「私だって……特に罰ゲームはないですが、プライドに賭けて負けられません!!」
怜「よっしゃ……勝負はまだまだこれからやでっ!!」
お。
――修正
和「何を言っているのかよくわかりませんが、見えるとか見えないとか、そんなオカルトありえません。私に見えるのは、この……牌と得点が並ぶプレイ画面だけです」
――
和「ありがとうございました!!」
怜・竜華・セーラ「おおきに~」
洋榎「いやー、やるな、その子。こいつらもええ刺激になったやろ。
今の十代では宮永照あたりが本命やけど、その子もプロになったら中々ええところまで行くと思うで。ま、まだまだうちの敵やないけどな!」
久「ありがとう。また機会があったらよろしくね」
洋榎「おう。久も、油断してると足元掬われんで。気張りや、待っとるからな」
久「うん……ありがと。じゃあ、行こうか、和。家まで送っていくわ」
和「はい。みなさん、お世話になりました」ペコリ
怜・竜華・セーラ「ほなさいなら~」
――自宅
和「ふぅ……やたらめったら強かったですね、関西の新初段三人組さん……」
咲(けど、和ちゃんもやられっぱなしじゃなかったよね)
和「はい。院生になってから……順位争いとか、若獅子戦とか、プロ試験予選とか……色々ありましたけど、初めてプロの世界に触れたような気がしました。
私……強くなりましたかね……?」
咲(強くなったよ。技術もそうだけど、精神的な面でも)
和「今、私が咲さんと打ったら?」
咲(もちろん東一局でトぶね)
和「そんなところだと思いました。ホント、咲さんの強さは異次元ですよ。過去の時代ではどうだったんですか?」
咲(もちろん最強だったよ。まさに国士無双。並び立つものが一人もいない状態)
和「今の時代ではどうですか? 赤土さんや、熊倉五花は? 霞先生は?」
咲(たぶん勝てるね。トバすとなるとちょっと本気出さないとだけど)
和「じゃあ……小鍛治九冠は……?」
咲(わからない……あの人だけは……打ってみないとわからない。だから……今……すごくわくわくしてる……いつかあの人と打ってみたい。
今は……それしか考えられないな)
和「私がプロになれば、そのチャンスはあるかもですね」
咲(うん、頑張って)
和「そう言えば……もし、小鍛治九冠に勝っちゃったときは……咲さん、どうするんですか?」
咲(どうするんだろうね。私にも、わからないよ)
和「そうですか……」
和(咲さん……なんでしょうか。すごく……寂しそうです。
高い高い山の頂上に咲く一輪の花のように……誰も到達できない頂にいる咲さんの心は……もしかして……いつの時代になっても……ずっと孤独なままなのでしょうか……)
和「咲さん」
咲(ん……?)
和「何かあったら、いつでも言ってくださいね」
咲(はは、和ちゃん。今はプロ試験に集中。私のことは、そうだね、いつかちゃんと話すから……)
和「はい。わかりました。では、今日はこれで寝ますね。おやすみなさい……」
和「」スゥスゥ
咲(和ちゃん……寝顔……可愛いな……)スッ
咲(まあ……そうだよね……触れないよね……)スー
咲(仕方ないか。私、死んでるんだし。幽霊なんだし……)
咲(こんなに近くにいるのにな……手が届く距離にいるのにな……触れ合えないなんて……)
咲(麻雀……麻雀となら、いろんな人に触れられる……けど……)
咲(私が触れると……みんな壊れちゃうんだ……)
――森林限界を超えた高い山の上。
――そこに花が咲くこともある。
咲(思い出したくなかったのにな……というか……最初は完全に忘れてたのに……和ちゃん……最初の一人目から……どんどん引き当てていくから……)
咲(もう……全部思い出しちゃったよ。私が……一つ前の……三代目の『宮永咲』が……何をして……どうなったのか……)
咲(部長……まだ……私のこと覚えててくれたんですね……)
咲(照だって……あの頃は小さかったのに……忘れてなかったんだね……一目で私を見つけてくれた……)
咲(他の人もみんな元気そうだったな……私は……私は……)
咲(いや、今は自分のことより、和ちゃんのプロ試験を見守ろう。うん……今は――)
――プロ試験本戦・初日
和(とうとう……本戦ですか)
和(予選を勝ちあがった十二人で、二ヶ月間、総当り戦をする。全試合数は495半荘。一日に、午前一回、午後二回、夜一回の計四半荘を行う)
和(それを、延べ42日間――最終日だけは三局で終わるけど――やって、合格者が決まる。一人当たりが打つ半荘数は、実に167半荘)
和(一位と二位に白星が、三位と四位に黒星がついて、白星の数が多い三人が合格。何よりも連対率が問われる勝負方式。
同点の場合はトップ率、次にポイント順で合格が決まる)
和(167個の二倍だから、334個の星を取り合う。去年、照さんは不戦敗の黒星一つで合格した。
荒川さんと辻垣内さんは、不戦敗の黒星一つと、加えて、二人と照さんの三人が同卓する計九半荘の黒星を互いに押し付けあって、結果は荒川さんが黒四つ、辻垣内さんが黒五つ)
和(167回も半荘をやって……二位を下回ったのが多くてたったの六回……人間が成し遂げられる数値じゃありません)
和(けれど……それくらいの数値を出さないと、プロにはなれない……!)
和(行きましょう……自分を信じて……!!)ゴッ
<プロ試験本戦・予選通過者一覧>
・予選一位通過
松実玄(最終院生順位・一位)
大星淡(二位)
南浦数絵(三位)
新子憧(四位)
佐々野いちご(五位)
竹井久(外来)
・予選二位通過
原村和(六位)
鹿倉胡桃(七位)
森垣友香(八位)
滝見春(九位)
高鴨穏乃(十位)
安福莉子(十一位)
――
全員「よろしくお願いします!!!!」
タンッ
タンッ
タンッ
ポンッ
ツモ
チー
タンッ
ロンッ
ヒュンッ
タンッ
タンッ
――日本麻雀院・教官室
霞(始まったわね……一夏の大勝負が)
霞(みんな合格にしてあげたいけれど……合格できるのは……本当に一握り。たった三人だけ)
霞(今ここで打っている十二人の中で……最低でも三人がプロになるわけだけど……一体……最高で何人がプロになれるのかしら)
霞(最高で三人だと……ちょっと寂しいわよね。できることなら……もしプロになれなくても……この一夏を、一回だけの夏にはしてほしくない)
霞(全ての一打一打が……かけがえのない宝物なの。一局一局が……いつか必ず自分の力になってくれる)
霞(みんな……頑張るのよ……!!)
お疲れ様です。支援等ありがとうございます。
ちょっとお風呂に入ったりご飯食べたりするので、少々抜けます。
今日でプロ試験編が終わればなぁと思っていますが、まあ、できるところまで書きますので、遅いですがご容赦ください。
それでは、いったん失礼いたします。
お待たせしました。再開します。
――プロ試験五日目終了・小鍛治門下
誠子「どうだ、淡。勝ってるか?」
淡「あったり前だよー!! ばっちり全勝だもんね、へへ!!」
尭深「……すごい……」
菫「まだ二十半荘だからな。ちなみに、他に全勝のやつはいるのか?」
淡「まあ、いるっちゃいるけど……松実玄と、新子憧、それに……原村和」
照「…………」
菫「へえ、この段階で四人も全勝がいるのか。これは最後まで鎬を削ることになりそうだな」
淡「べ……別に、鎬とか削らないし! 全勝同士が三人いる対局をまだしてないってだけ。直に全勝は私一人になるもん!!
じゃ、私はこれからテルとヒミツ特訓だからっ! 行こ、テル」
照「ああ……うん」
――
淡「もう、みんな失礼しちゃうよね。私が最強だってことが全然わかってない!!」
照「…………」
淡「……テル、どうしたの?」
照「淡に、見てほしい牌譜がある」ペラッ
淡「へえ……どれどれ……?
ふうん……ぼちぼち強い四人だね。特にこの人が異常……目立った能力はないみたいだけど、ホントに人間かな。まるで機械が打ってるみたいな打牌だよね。
それで、なにこれ、テルが今気になってるプロの対局か何か?」
照「うん。その四人のうち三人はプロ。関西麻雀院の、私と同期の新初段」
淡「そうなんだ。で、四人目は?」
照「原村和」
淡「――っ!!」
照「淡、淡は確かに強い。このまま行けば、プロ試験合格は間違いないと思う。
けど……それ、つい一週間前の牌譜なの。原村和は、たぶん、淡の想像よりずっと強くなってる。だから……」
淡「だから、なに? テルは……私が原村和に負けるって思ってるの!!?」
照「そんなことはないけど……ただ、油断はしないでって……」
淡「…………絶対負けないよ。私、原村和にだけは……絶対に勝つ……だから、テル。約束してよ」
照「なに?」
淡「私が原村和を全勝で下すことができたら……私を照のライバルにしてほしい。
同じ門下の後輩としてじゃなく……一人の雀士として――人間として、私は照と対等な立場に立ちたい」
照「……わかった。けれど……どの道、淡がプロの世界に入るなら……私は淡を対等な相手として見るよ。
亦野先輩も、渋谷先輩も、弘世先輩も……小鍛治先生も、みんなライバルで、倒すべき相手だって……私は思ってる」
淡「そういうことじゃ……ないのに……」
照「じゃあ……どういうことなの?」
淡「全勝合格したら……言うよ」
照「うん……わかった」
淡(テル……テル……!! 私……こんなにテルのことが大好きなのに……!! どうして……私のことを見てくれないの……テル……!!)
――赤土門下
赤土「とりあえず、五日目時点での全勝、おめでとうっ!!」
宥「おめでとう」
灼「快挙」
穏乃「うう!! 悔しいけどっ、嬉しいっ!! この調子で頑張ってくださいっ!!」
玄「ありがとう……けど、明日の午前の組み合わせが、ね」
憧「そうなのよね。できることなら、あの小鍛治さん門下のがきんちょから切り崩したかったのに。オーダーは無情だわ」
和「私と憧さんと玄さんが同卓するんですよね。誰か一人は確実に星を失う……あまりこういう言葉は使いたくありませんが、不運なことですよね」
赤土「いやいや、むしろ、最初の一敗が仲間にやられた一敗になることを幸運に思わなきゃ。
そこらへんのやつに土を付けられるよりは、互いをよく知ってる相手に負けたほうがすっきり負けられるだろ?
ま、そもそも全勝合格なんて目指すものじゃないからな。負けられるときに負けておけ。プロ試験はまだ始まったばかりだ」
和「そういえば、このプロ試験……全勝合格した人っているんですか?」
赤土「ああ、いるぞ。現代麻雀の歴史上、たった一人だけ。しかも、全勝どころかトップ率百パーセントで合格した化け物がな」
和「間違いなくあの方だと思いますが、一応お名前を聞いてもいいですか?」
赤土「ははっ、聞いて驚くな。なんとその一人というのは……何を隠そうこのレジェンドこと赤土晴絵――」
和「えええええええ!!!?」
赤土「と同期の小鍛治健夜さんだ。って、おい、和、今の『えええええええ!!!?』はなんだ。怒らないからどうしてそんな声が出たのか言ってみなさい?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
和「す、すいませんでしたああああ!!!!」
――プロ試験六日目・午前
玄「じゃ……よろしくね」
松実玄:二十勝無敗
憧「よろしく!」
新子憧:二十勝無敗
和「よろしくお願いします」
原村和:二十勝無敗
南浦「よろしく」
南浦数絵:十八勝二敗
――
南浦(原村和……しばらく見ない間に強くなった……最終順位は六位だったけれど、今は私や新子さんと対等か……それ以上……!)
憧(初日にペンギン抱えて現れたときは笑っちゃったけどね。でも、対局してすぐに理解した……和はもう、以前の和じゃない。多かったイージーミスが嘘みたいに消えてた)
玄(和ちゃんは……私のドラ体質みたいに、不思議な力があるわけじゃない。けど……その強さは打ってみればよくわかる。
和ちゃんのデジタル打ちは……もう完成の域……本当に……機械と打ってるみたいだよ……!)
和()ヒュン
南浦(厄介だ。ただでさえ原村和が手強いというのに……松実さんにドラを抱えられては、いくら南場になってもそう簡単には逆転できない)
憧(和……私が全力で速攻をかけても、さらに上のスピードを見せることがある。ホント……強くなったわね……!!)
玄(和ちゃん……でも、私だって、このプロ試験へ懸ける思いは和ちゃんに負けてない。練習だって誰よりもしてきた……私は……もう負けられないんだ……!)
――終局
玄「ありがとうございました」
南浦「ありがとうございました……」
和「ありがとうございました」
憧「ありがとうでしたっ!! だあああ、和、やるじゃん!!」
和「いえ、たまたまです。たまたま」
憧「嘘つけー。あの南三局の打ち回しは痺れたわ。あれをやられちゃうともー手の打ちようがないって感じ」
和「言い過ぎですよ」
南浦「いや、言い足りないくらい。原村さん、失礼かもしれないけど、正直、原村さんがここまでの打ち手だとは思ってなかった。
一体、予選から本戦までの間に……何があったの……?」
和「何がって……その、修行……」
憧「あれよね、なんだっけ、戦時中に麻雀牌だけで米軍を制圧したっていうおじいさんと打ってきたのよね?」
南浦「なにそれ……」
和「あっ、そうでした!! その、その米軍を殲滅した人はまた別なんですけど、私、南浦さんのお祖父様に指導してもらったんです!!
南浦さんによろしく言っておくよう言われてたんでした」
南浦「えっ? お祖父様と……?」
和「はい。とても強い方で、四回に一回くらいしか勝てませんでした」
南浦「よ――」
和「南浦さん……?」
南浦(私ですら一度も勝ったことがないあのお祖父様相手に……四回に一回くらい勝った……?
いや……まあ、お祖父様と打っていたのは私が院生に入る前だから……一概には比べられないけれど……)
和「お祖父様、寂しがってましたよ。南浦が自分と全然打ってくれないって」
南浦「そういえば……そうだった。プロ試験が終わったら、遊びに行ってみる」
和「よかったっ!! お祖父様も喜びますよっ!!」
南浦(原村和……院生順位三位の私なら……今年こそはと思ったけれど……その考えは捨てたほうがいい。今の院生三強は、松実さんと大星さんと原村さんだ。
この三人に……喰らいつく……!!)
南浦「じゃあ、お互い最後まで頑張ろう。では、私はこれで失礼する」
和「ありがとうございました!」ペコリ
――
和「憧さんの一敗をきっかけに、私と玄さんも少しずつ星を落としていきました。
十日目になった時点で、全勝は大星淡さんただ一人。
大星さんとは、直接対決は何度もあったものの、まだ、星の喰らい合いになったことはありませんでした。
そして、迎えた十日目夜。
累計四十回目の半荘で、ついに、私たちは激突しました」
玄「黙れ」
淡「」
失礼をば。
――修正
和「お祖父様、寂しがってましたよ。南浦さんが自分と全然打ってくれないって」
――プロ試験十日目・夜
和「(これは……随分と厳しい卓ですね。しかし、こういういったところで勝っていかなければ……合格はない!)よろしくお願いします」
原村和:30勝9敗
玄「(淡ちゃんと和ちゃん……それに、和ちゃんを化けさせた竹井さん……!! みんな合格者候補……これは負けられない……!!)よろしくお願いしますっ!」
松実玄:36勝3敗
淡「(来た……今までは格下二人とばかりで卓を囲んでいたけれど……ここで原村和を地に落とす……!! 照の隣に立つのは私だ……!!)よろしく」
大星淡:39勝0敗
久「(いやぁ、院生の子たち強い強い。特にこの松実さんと大星さんは頭一つ抜けてるわね。
そこに和が加わるのか……ここでトップを取れるくらいなら、私にもまだ可能性はあるってことよね。これは今後の命運を占う一戦になりそう)よろしくね」
竹井久:24勝15敗
――
淡(原村和が真正のデジタル打ちだっていうんなら……正直、配牌を操作できる私にとっては相性のいい相手……勝ちやすい敵なんだ)
淡(だって……私の力は原村和の信じてる確率ってやつに干渉する。
そりゃ、なんの能力もなしで打ったら……原村和の計算力のほうが私より上かもしれない。けれど、これは麻雀……! 計算力や確率が全てじゃない……!!)
淡(大丈夫……ドラは来ないけど、みんなの手は遅いはず。今のところは……私の絶対安全圏……!!)
和「ポン」タンッ
淡(特急券……!? ふん、だからなんだって感じ……!!)
和「チー」タンッ
淡(役牌のみで鳴いて速攻? ま、配牌悪いならそれも一つの手だろうけど……そうやって手牌を晒しちゃったら……防御が手薄になるんじゃないの!?)
淡「リーチッ!!」
和「ツモ。500オールです」パラララ
淡(む……先にツモられたか。まあ、そういうこともあるよね……!!)
――照『原村和は、たぶん、淡の想像よりずっと強くなってる』
淡(想像以上に……強くなってたら……なんなの!? 私だって……テルに稽古つけてもらうようになってから更に強くなってるんだ。
原村和がいくら強くなったって……同じ分だけ私も強くなってる……原村和なんて……永久に私に追いつけるわけないんだから!!)
私「麻雀以外になにかできないんですか?」 咲「……えっと」.
和「「……私たちは……、勝ちました」
――他方
久(さて……和を強くして私が落ちてたんじゃ笑い話にもならないわよね。ひとまず……ターゲットを決めましょう。
今日は……院生のナンバーワン……松実玄、この子の攻略の糸口を見つける……!!)
玄(竹井さん……ここまで同卓したときは、私以外の人に意識を向けている感じがあった。まあ……それはそうか。竹井さんだけは院生じゃない。一人だけ、私たちの能力や打ち方を知らないんだ。
というか……予備知識なしで私たち院生の上位陣に勝ち越せるんだから……たぶん経験や地力では竹井さんのほうが上。勝てるうちに勝っておかなきゃ……!!)
久(ドラを持っていかれるのはかなり痛いのよね。私の打点はある程度ドラを頼りにしてる部分がある。
悪待ちは手役を捨ててしまうことが多いから、裏が乗らないとなると、一発を狙うことになる。ただ、一発はわりと消されやすいから……あんまり上等な対策とは言えないわね)
玄(竹井さん……何を狙ってるのかな……不気味だよ……!!)
久(と、これは面白いとこを引いたわね。いいわ……ここは、こうでしょ!)
久「カンッ!」パララ
玄・和「!!?」
久(さあ……これであなたの手牌はどうなってしまうのかしら……松実玄さん……!?)
玄(ド……ドラいっぱい……!! でも……まだ自由が利く部分はある。そこで上手く回せれば……!!)
久(ドラが一枚増えるくらいでは揺るがない、か。へえ、院生一位の座は……伊達じゃないみたいね……!!)
――終局
淡「こ……こ、こんなことって……!!」プルプル
玄(危なかった……)
久(ちぇー、届かなかったか)
和(ふう……非常に疲れる半荘でしたね。これが夜でよかったです)
淡「…………!!!」ダッ
和「あ、大星さん……!?」
憧「放っておきなよ、和」
和「憧さん!? 終わったんですか? 勝ちました?」
憧「勝ったわよ。そういう和も勝ったみたいね」
和「それはそうなんですが……えっと、大星さんは本当に大丈夫なんでしょうか?」
憧「あいつ、負けるとトイレに籠もるクセがあるのよ。何をやってるのかは知らないけどね、いい気味」
和「そんな風に言うのはよくありませんよ、憧さん。誰だって、負けたら悔しいものですし、涙を見られたくないと思うのは、普通のことです」
憧「ははっ、和は優しいなー」
和「私、様子を見てきます」
憧「ストップ!!! 前言撤回!!! 和、あんた鬼っ!!? それ逆効果!! 傷口に塩っ!!」
和「え……?」
――トイレ
淡「うっ……ううう……うううううう!!!」ポロポロ
淡(どこ……どこで間違ったの……? 役牌鳴かせたこと……? それとも……悪形から強引にリーチしたとこ……?
うううう……そんな……私があんなやつに負けるなんて……!!)ポロポロ
淡(原村は……私相手にスピード勝負を選んだ……火力を捨てて手数で勝負してきた……今回……一番痛かったのはダブリーを一回かわされたこと。
取れるはずのところで取れなかった……それが敗因……!!)ポロポロ
淡(けど……原村和だって……まだ私の能力に対応できているわけじゃない。私があいつの打点と和了率を下げていることは確かなんだ……。
もっと……あいつの得意な場じゃなくて……私の得意な場を作れば……なんの問題もない……!!)
淡「次は……次は絶対負けない……!! 負けない……負けないもん……!!」ポロポロ
――プロ試験二十日目(80半荘)終了
淡「お疲れ様でした。お先に失礼します」タッタッタッ
大星淡:76勝4敗
玄「お疲れ様~! うー! 今日も疲れたなぁ……けど、勝ててよかった!!」
松実玄:71勝9敗
憧「玄、今年は安定してるね。羨ましいよー」
新子憧:53勝27敗
穏乃「いよいよ明日からは後半戦に突入ですね。私はもう厳しいけど、玄さんや憧さんはこの調子で頑張ってくださいっ!!
あ、でも、同卓したら正々堂々勝ちに行きますから、そのつもりでっ!!」
高鴨穏乃:24勝56敗
南浦「穏乃さんのそういうところ、私は尊敬してる。三年前かな。私は初めて本戦に出て、負け越しのまま折り返しを迎えて……心まで折れてしまったから」
南浦数絵:51勝29敗
久「おーいっ!! 和、後ろ乗っていかなーい!? 送るわよー!!」
竹井久:50勝30敗
和「け、結構です!! あんな乗り物絶対に乗りません!! では、失礼しますっ!!」タッタッタ
原村和:59勝21敗
和(みんな……少し疲れの色はありますけど……まだ笑顔ですね。これが……最終日が近付くにつれて……曇ってくるのでしょうか)
和(プロ試験の折り返し……まだ、結果は見えていません。特に、五十勝代が私も含めて四人いる……厳しい戦いが続きそうです……)
和(けれど……なんだか楽しいです。毎日……麻雀を打って、技術を高めて、勝ちを取り合って……喜んだり……悔しんだり……)
和(このまま……夏が終わらなければいいのに……)
咲(そうはいかないよ、和ちゃん)
和「咲さん……寂しいこと言わないでください」
咲(でも、季節は移ろうものだから。時は過ぎゆくものだから。だからこそ、今を大切にしなきゃいけないんだ)
和「今……そうですね。一つ一つの対局を……大切に……」
咲(ねえ、和ちゃん)
和「なんですか?」
咲(明日はお休みだったよね? もし和ちゃんさえよければ、どこか出かけようよ。本戦後半に向けて、気分転換になると思うんだ)
和「いい案ですね! わかりました。なんでも、隣の隣の街に新しいプールが出来たそうなんです。一緒に行きましょうっ!!」
咲(プール……うん、最高だね)
――プール
優希「可愛い水着の女の子が出てくると思ったか!!!? その通り!! お久しぶりの片岡優希だじぇっ!!」ドーン
和「優希、夏休みの宿題は終わりましたか?」
優希「のどちゃん、久しぶりに会っといて宿題の心配とか、相変わらずだじぇ」
和「人はそう簡単に変わりませんよ」
優希「それで、プロ試験のほうはどうだじぇ?」
和「今のところ、順位だけ見れば三位なので、合格圏内です。しかし、三位争いはかなり激しくなりそうなので、まあ、結果はわかりません」
優希「せっかくなら全勝合格とかしてほしかったじぇー」
和「簡単に言ってくれますねぇ」
優希「そういえば、のどちゃん。前に話したマホムロコンビって覚えてるか?」
和「ああ、後輩の女の子で麻雀を打てるんですよね。その子たちがどうかしたんですか?」
優希「コンビの片割れのマホってほうが、いっくら教えても下手っぴいで、最近三人でこの近くの麻雀教室に通うことにしたんだじょ。
そしたら、そこの美人の先生が和ちゃんのこと知ってるって言ってたんだじぇ」
和「ああ、福路さんの麻雀教室ですか。確かに、一時期通っていましたよ。そういえば……あれから福路さんとはきちんと会えていませんでしたね。
優希、よかったら今から行きませんか?」
優希「もとよりそのつもりだったじぇ。マホムロもいるから、のどちゃんに紹介してやるじぇ!!」
和「それは楽しみですね」
――麻雀教室
美穂子「原村さん……!? 今プロ試験の真っ最中じゃないの?」
和「今日はお休みなんです。それで、色々と遅ればせながら、福路先生にご報告をと思いまして」
美穂子「わざわざありがとう。それで、試験のほうは?」
和「今、本戦が折り返しを迎えたところで、私はなんとか三位をキープすることができています」
美穂子「そうなの……じゃあ、原村さんとプロの世界で対局する日も近いということね。
それで……私、原村さんに謝らないといけないことがあるのよ。若獅子戦のトーナメント表で名前を見たとき……私、何かの間違いだと思っちゃったの。
だって、役と点数計算しか知らなかった子が……たった二年で……いつの間にか院生になるなんてありえないってね。ホント、ごめんなさい」
和「いえ、そんなことは全然。私も、ここに来たときは、まさか麻雀のプロを目指すことになるなんて思ってもみませんでしたから」
美穂子「それで、私に聞きたいことって何?」
和「あ……えっと、福路先生……先生は、いくつのときにプロになりましたか?」
美穂子「えっと……十九のときだったかしら。同期だと、弘世七段か、もしくは関西でプロになった愛宕洋榎七段が有名かしらね」
和「先生は、院生じゃなかったんですよね?」
美穂子「ええ、そうよ。それがどうかした?」
和「プロになる前に、インターハイに出てた……ってことですか?」
美穂子「えっと……和ちゃん。何が聞きたいのかな……?」
和「この間のプロ試験で、昔インターハイに出てたっていう竹井さんと仲良くなったんです。その人、年齢が福路先生と同じなんですけど……『saki』を探してるって」
美穂子「……和ちゃん、本当にごめんなんだけど、先生の口からその話をすることはできないわ。
竹井っていう人は先生知らないけど……あのインターハイ……それに『宮永咲』のことについては本当に一切――」
和「『宮永咲』……? あの……私が言ってるのはネット麻雀の『saki』なんですけど……え? どういうことですか……?」
美穂子「っ……!!?」
和「宮永咲ってあの宮永咲ですよね? 江戸時代の……そんな人が先生たちの代のインターハイと何か関係があるんですか……?
あと――『失われた夏』っていうのは……一体なんのことなんですか?」
美穂子「それで、私に聞きたいことって何?」
和「あ……えっと、福路先生……先生は、いくつのときにプロになりましたか?」
美穂子「えっと……十九のときだったかしら。同期だと、弘世七段か、もしくは関西でプロになった愛宕洋榎七段が有名かしらね」
和「先生は、院生じゃなかったんですよね?」
美穂子「ええ、そうよ。それがどうかした?」
和「プロになる前に、インターハイに出てた……ってことですか?」
美穂子「えっと……原村さん。何が聞きたいのかな……?」
和「この間のプロ試験で、昔インターハイに出てたっていう竹井さんと仲良くなったんです。その人、年齢が福路先生と同じなんですけど……『saki』を探してるって」
美穂子「……原村さん、本当にごめんなんだけど、先生の口からその話をすることはできないわ。
竹井っていう人は先生知らないけど……あのインターハイ……それに『宮永咲』のことについては本当に一切――」
和「『宮永咲』……? あの……私が言ってるのはネット麻雀の『saki』なんですけど……え? どういうことですか……?」
美穂子「っ……!!?」
和「宮永咲ってあの宮永咲ですよね? 江戸時代の……そんな人が先生たちの代のインターハイと何か関係があるんですか……?
あと――『失われた夏』っていうのは……一体なんのことなんですか?」
美穂子「原村さん、どうしてそんなにあの夏のことを知りたがるの?」
和「私の大切な人が……そのことに深く関わっているかもしれないからです。すいません……こんなこと、福路先生にしか聞けなくて。無理にとは言いません。
けど……もし何か知っているなら……」
美穂子「原村さん……誰にも言わないって約束できる?」
和「できます」
美穂子「じゃあ、指きりしましょう」
和「はい……」
美穂子「あぁあ……私、何をやってるのかしら……」
和「すいません……本当に、嫌ならいいんです……」
美穂子「ううん。こんなこと、本気で調べようと思えば、わかることだから」
和「はい……」
美穂子「私たちの代のインターハイ……私たちの最後の夏。とある高校から、一人の選手が個人戦に出場したの」
美穂子「その選手は、一年生ながらも、次々と全国の強敵を打ち破って、ついにインターハイ個人戦決勝に辿り着いた」
美穂子「彼女は……圧倒的な力で優勝を飾ったわ」
美穂子「最期の和了りは……そう――嶺上開花」
美穂子「オーラスで嶺上開花を和了った彼女は……優勝を決めると同時に、叫んだの」
美穂子「『麻雀って楽しいよね』、って」
美穂子「そして、彼女はそのまま、卓の上に血を吐いて……帰らぬ人になった」
和「その人の……名前は……?」
美穂子「宮永咲。宮永照初段の……実の姉よ」
なかなか話が進まなくてすいません。今日はこれで終わらせていただきます。
次は来週になるかもしれません。次こそ終わらせたいです。
ちなみに、自分の表現力がないせいで倉田さんが行方不明みたいですが、
倉田さんに相当するのは衣です。ただ、目立った出番があるかどうかは不明です。
では、遅くまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
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