兄「やべっ妹落とした……」(178)

はい

兄「しまったな……どこで落としたんだろ」

母「とりあえず交番行ってきなさい」

兄「まいったな、まったく」

――交番

兄「あのーすいません」

警官「はいこんにちはどうしました」

兄「えっと、妹……」

警官「はい妹。妹がどうかしましたか」

兄「妹をですね、落としてしまいまして」

警官「落としたというのは、紛失したということ?」

兄「あ、はい。そうです」

警官「それじゃ紛失届けに記入お願いします」

兄「はい」

警官「連絡先もお願いします」

兄「はい」

警官「妹の特徴はこれで間違いないですか」

兄「一応……」

警官「では見つかり次第連絡させていただきます」

兄「よろしくお願いします」

兄「うーん。警察の人の話し方って苦手だ。あの曖昧な物言いを許さないカンジ」

兄「職業柄仕方ないんだろうけど」

母「交番には行ってきたの?」

兄「何かあったら連絡するって」

母「ま、そのうち見つかるでしょ」

兄「だといいけど」

――3日後

警官「こちらの方から届けていただきました。あなたの妹に間違いないですか?」

紳士「どうも」

妹「やっほー」

兄「間違いないです! ありがとうございます」

警官「念のため、あなたの妹であることを確認してもいいですか」

妹「お兄ちゃーん」

警官「はい確認取れました」

兄「ほんとに迷惑かけました」

紳士「いえいえ、すぐに見つかってよかったです」

警官「それで、1割の件だけどね」

兄「あっ」

警官「こちらの方が1割ほど、譲り受けたいそうなんだ」

兄「あー……決まりですもんね」

警官「大丈夫?」

兄「はい、落とした僕が悪いですから。こうやって帰ってきただけ運がよかったです」

紳士「すみませんね」

警官「それじゃ、妹の1割を譲るということで」

――おうち

母「帰ってきてよかったじゃない」

兄「まぁそうなんだけどさ」

母「どしたの?」

兄「1割取られちゃってさ」

母「それはあんたが悪いんだから仕方ないでしょう」

兄「わかってるけど……」

妹「いえー」

兄「1割ぶん何が減ったのかさえわかればなあ」

母「二人ともお風呂入ってきなさい」

兄「はーい」

妹「やだ!」

兄「えっ」

妹「お兄ちゃんわたし先に入るよ」

兄「あ……」

母「珍しいわね、いままで一緒に入ってたのに。ませた?」

兄「妹が減ったからかな……」

兄「おーい。妹よ妹よ」

妹「どうしたのお兄ちゃん」

兄「どっか調子おかしかったりしない?」

妹「ぜんぜん元気だよ?」

兄「ほんと?」

妹「変なお兄ちゃん」

兄「いや、3日ぶりだからさ。体調とか崩してないかな、と」

妹「気遣ってくれてるの? ありがと!」

兄「いやぁ落としたのおれの責任だし……」

兄(特に問題はない、のかな?)

――さらに1週間後

兄「あれ、妹がいないぞ」

兄「まさかまた落としたんじゃ……」

母「あんたまた落としたの? ちょっとは反省しなさいよ」

兄「気をつけてたはずなんだけどなぁ」

母「とりあえずまた交番行ってきなさい」

兄「警官の人まだ覚えてるだろうなぁ。恥ずかしい」

――交番

警官「また妹を落としたのかい?」

兄「恥ずかしながら」

警官「気を付けなさいよ。この前はいい人が拾ってくれたからよかったものの。悪い人なら拾ってそのまま持っていくやつだっているんだからね」

兄「すみません」

警官「それじゃ紛失届け書いてね」

兄「はい」

兄「警官の人も呆れ顔だった」

兄「しっかり妹の手を握ってたと思ったんだけど。いつの間に落としたんだろう」

兄「妹を持つのって大変なんだなぁ。ちくしょう」

母「交番行ってきたの」

兄「うん」

母「それじゃまた親切な人に拾われるよう祈るしかないわね」

兄「うん……」

――また2日後

警官「こちらの方から届けていただきました。あなたの妹で間違いないですか?」

妹「お兄ちゃーん」

警官「はい確認とれました」

大学生「道端でひとりポーカーしてるから変だと思ったんですよ」

兄「すいません。本当に、ありがとうございます」

大学生「いえいえ、お礼はいいんですけど……」

兄「はい?」

大学生「その1割、いただけるんですよね?」

兄「あっ」

警官「いいかな?」

兄「あー……はい、仕方ないですよね」

警官「仕方ない、じゃなくて決まりだからね。拾ってもらったんだから」

兄「あっすみません」

大学生「いえいえ! そんな図々しいこと言ってこちらこそすみません」

兄「どうぞ。拾っていただいてありがとうございました」

兄「ということでまた1割減ってしまった」

母「そのうち妹じゃなくなるかもね」

妹「兄さーん」

兄「はいはい」

母「なんか呼び方変わってない?」

兄「1割減ったから、かも」

母「ふーん」

妹「兄さんや兄さんや」

兄「どうした妹よ」

妹「なんというか……あまり私の着替えとかのぞかないように」

兄「えっ」

妹「兄弟姉妹といえども最低限のプライバシーはあるべきなのです」

兄「のぞいた覚えはないぞ」

妹「本当ですか?」

兄「のぞくも何も、いままでいつも一緒にいたじゃんか」

妹「そうそう、それです」

兄「?」

妹「兄と妹も言ってしまえば男と女です。線は引くものかと」

兄「そう言われるとそうかもしれない」

妹「でしょう。わかっていただけたら幸いです。それでは私は部屋にもどるので」

兄「同じ部屋だけど」

妹「これはまずいですね。プライバシーです。プライベートです」

兄(2割でだいぶ変わったなぁ)

――さらに1週間後

警官「また君かい?」

兄「自転車で転んだときに気づいたら落としてました」

警官「そろそろ真面目に怒るべきかな」

兄「すみません」

警官「ま、実は君が来ることわかってたんだけどね」

兄「え?」

警官「君の落し物は、こちらの方から、もうすでに届けていただいてるよ」

会社員「君の妹かい?」

妹「兄さーん」

兄「あっ、妹!」

警官「はい確認とれました、と」

警官「それじゃ、またお礼の話なんだけど……」

――

兄「また1割減ってしまった」

母「ほんとに心配になってきたわ。今何割?」

兄「3割減った」

母「夕飯は餃子にしましょうか」

兄「うーん」

妹「兄さん、私は餃子好きですよ」

妹「兄さん、そんなに見つめないでください」

兄「うーん」

妹「セクハラですよ」

兄「どっかおかしいんだよなぁ……」

妹「なっ、人のことを見つめてそのあげくおかしいなどと言うなんて。失礼がすぎます」

兄「あっ、ごめん」

妹「兄さんなんて知りません。ふん」

兄「ごめんごめん。いっしょにゲームでもしようか」

妹「しょうがないですね」

母「仲いいじゃないの」

母「気にしなくてもいいんじゃない? 昔よりなんだか丁寧な妹になったけど。もとから女の子って『おませ』なものよ」

兄「そうかな」

母「あんたらの仲が悪くなったわけでもないんだし。ま、これ以上落とさないように気をつければ?」

兄「そういうものかな」

母「もとはと言えばあんたが落としたのが悪いんでしょ?」

兄「それを言われると、その通りなんだけどさ」

兄(やっぱり、妹っぽくなくなってるんだよなぁ)

兄「これ以上落とさないよう気をつけよう」

――兄はそれから、妹にストラップをつけたり、フック付きのひもでくくってみたりするも、努力むなしく、妹を立て続けに落としてしまう。

   そして、ついに妹は5割となった。

警官「やぁ」

兄「こんにちは……」

警官「今回拾っていただいたのはこちらの方です」

おじさん「君の妹さんかな?」

兄「すみません、ありがとうございます」

妹「……」

兄「ほら、こっちこい」

警官「あ、ちょっと待ちなさい」

兄「えっ」

警官「いちおう君の妹か確認しないとね。きまりだから」

妹「……」

兄「おい、返事しろよ」

妹「……なに?」

警官「あらら。駄目だよ、ちゃんと君の妹だって確認できないとね」

兄「いつもみたいにおれのこと呼べばいいんだよ」

妹「なんであんたのことなんか」

警官「あらら、落とし過ぎてすねちゃったかな」

兄「おい、みんなを困らせるなよ」

妹「……ごめんなさい。お兄さん」

警官「はい、確認とれました」

兄「すみません。うちの妹が迷惑かけて」

おじさん「ははは、妹さんに嫌われたくなかったら、もう落としちゃだめだよ」

兄「はい」

おじさん「といってもおじさんもついさっき妹を落としたんだけどね」

兄「えっ」

おじさん「交番に届け出に行こうと思ったところにこの子を見つけてね。おじさんの妹もはやく見つかるといいなぁ。ははは」

警官「実は最近妹を落とした人が多くてね。といっても君ほどじゃないが」

おじさん「ほう、君はそんなに落としているのかい?」

兄「恥ずかしながら」

おじさん「そうかぁ……いや、それは申し訳ないなぁ」

兄「え?」

おじさん「いや、おじさんも妹を落としたからね。拾った妹の1割で補填しようかな、なんて考えてたんだよ」

警官「君が来るまでそういう話をしてたのさ」

兄「あっ、いいですよ。1割払います」

おじさん「いいのかい? すまないねぇ」

警官「それじゃ1割確かに」

おじさん「悪いね、ありがとう」

兄「拾っていただいてありがとうございました」

兄(ついに5割になってしまった……)

妹「……」

兄「ほら、帰るぞ」

妹「なんで上から目線なわけ?」

兄「なっ」

妹「何様のつもり? あんたに命令される筋合いはないんですけど」

兄「何様って、おまえはおれの妹だろ」

妹「妹って言ったって、たった半分だけでしょ? そんなので兄貴ぶらないでよ」

兄「わっこいつ」

妹「なによ、半分他人!」

兄「妹のくせに!」

警官「こらこらやめなさい」

母「どうもすみません」

警官「いえいえ、彼らも反省してますから」

兄「ぐあー」

妹「うべー」

母「やめなさい!」

警官「それじゃあね、もう妹を落としちゃだめだよ」

兄「……はい」

母「いったいどうしたの」

兄「妹が、もう半分しか妹じゃない」

母「はぁ?」

兄「もう5割しかないんだよ」

母「……ああ、そういえば」

妹「ふん」

兄「どうしよう」

母「それはあんたの責任でしょ」

兄「おれだって落とさないように気をつけてるんだよ」

妹「こんなやつ私の兄貴じゃない」

兄「おい」

母「やめなさい。まったく、兄は妹を落としたことをもっと反省すること」

兄「はーい」

母「妹は、もう半分しか妹じゃないのね」

妹「そうだよ」

母「でもまだ半分は妹なんでしょう?」

妹「……むう」

母「半分でも妹なら、こいつをお兄ちゃんって呼ぶ資格はじゅうぶんよ」

妹「資格なんていらないもん。私が呼びたくないだけ」

母「そうね。だからお兄ちゃんは、妹に認められるようなお兄ちゃんを目指さなきゃ」

兄「えー……」

母「それがかわいい妹を持つ責任ってやつよ。妹も、それでいいでしょ?」

妹「まぁ、到底ありえないけど」

兄「ぐぬ」

母「あんたはいままで兄の立場にあぐらをかきすぎたってことよ」

兄「仕方ない、妹よ。いっしょにゲームでもやるか」

妹「またテレビゲーム? ワンパターンすぎ」

兄「むぐぐ」

妹「たまにはボードゲームしようよ。カタンとか」

母「なんだ。仲いいじゃない」

ちょい休憩

妹「……ねぇ」

兄「なんだ、妹よ」

妹「あんたさ、私のことどう思ってるわけ?」

兄「妹は妹に決まってるだろ。おまえがおれを兄と認めなくても、おれはお前を妹と呼び続けるぞ」

妹「ああ、そう。無駄な努力頑張って」

兄「ほんとに口が悪くなったなー」

妹「あんたのせいだよ」

兄「……ごめん」

妹「え、ちょっと、いきなり素直にならないでよ」

兄「ごめんな、ぽろぽろ落としてさ」

妹「別に、こうしてちゃんと戻って来てるからいいんじゃない」

兄「しかし何でこう落としちゃうのかな」

妹「妹に対する熱意が足りないんじゃないの」

兄「あっいま自分を妹と認めたな」

妹「あっ」

――そして、翌日

兄「今日からは、もう妹を落とさないぞ」

兄「ということで用意したのはこちら」

妹「首輪……」

兄「これならもう落とさない」

妹「おおげさじゃない?」

兄「これ以上妹じゃなくなったら大変だ」

妹「私はそっちのほうがいいけど」

兄「それじゃ出発」

妹「あいあいさー」

兄「なんか今日は素直だな」

妹「そういう日もある」

兄「うーん、妹心は複雑だな」

兄「まぁおいおい学んでいけばいいな。なぁ妹よ」

兄「って、いなくなってるしー!」

兄「まさか、首輪付けてたのに」

兄「……リードが切られてる」

兄「妹ー! どこだー!」

兄「まだ遠くには行ってないはず」

兄「妹ー!」

妹「……」

兄「あっ見つけたぞ妹め」

妹「あ、来た」

サラリーマン「あれ、君の妹かい」

兄「そうですそうです僕の妹です。あなたが見つけてくださったのですか」

サラリーマン「ここに落ちてたから拾ったんだけどさ。とりあえず交番行こうか?」

兄「えっ、いやこいつはぼくの妹ですから。このまま連れて帰ります」

サラリーマン「うーん。返したいのはやまやまなんだけど」

         し!     _  -── ‐-   、  , -─-、 -‐─_ノ
  ア ギ    // ̄> ´  ̄    ̄  `ヽ  Y  ,  ´     ).  ア ギ
  ア ャ   L_ /                /        ヽ   ア ャ
  ア ア     / '                '           i ア ア
  ア ア    /                 /           く  ア ア
  ア ア   l           ,ィ/!    /    /l/!,l     /厶, !! ア
  ア ア    i   ,.lrH‐|'|     /‐!-Lハ_  l    /-!'|/l   /`'メ、_iヽ
  ア ア   l  | |_|_|_|/|    / /__!__ |/!トi   i/-- 、 レ!/   / ,-- レ、⌒Y⌒ヽ
  ア ア    _ゝ|/'/⌒ヽ ヽト、|/ '/ ̄`ヾ 、ヽト、N'/⌒ヾ (●)  ,イ ̄`ヾ,ノ!
  ア ア  「  l (●)(●)    (●) ′ | | |(●)L!  (●)(●)  リ
    ア   ヽ  | ヽ__(●) (●)、ヽ シ(●)! ! |ヽ_、ソ, (●)(●)(●)_ノ _ノ
-┐    ,√   ! (●)(●)(●)(●)   リ l   !  ̄ (●)(●)  ̄   7/
  レ'⌒ヽ/ !    | (●)〈(●)(●) _人__人ノ_ i(●)く(●)(●)(●)  //!
人_,、ノL_,iノ!  /! ヽ(●)r─‐- 、   「      L_ヽ   r─‐- 、(●)u(●)/
      /  / lト、 \ ヽ, -‐┤  ノ  ギ    了\  ヽ, -‐┤(●)(●)/
ア ギ  {  /   ヽ,ト、ヽ/!`hノ  )  ャ    |/! 「ヽ, `ー /)   _ ‐'
ア ャ   ヽ/   r-、‐' // / |-‐ く   ア     > / / `'//-‐、    /
ア ア    > /\\// / /ヽ_  !   ア    (  / / //  / `ァ-‐ '
ア ア   / /!   ヽ(●) レ'/ ノ   ア     >●)∠-‐  ̄ノヽ   /
       {  i l    !(●)●/  フ  ア    / (●)-‐ / ̄/〉 〈 \ /i

サラリーマン「いちおう、君の妹だって確認がとれないと、返すわけにはいかないなぁ。間違ってたら大変だし」

兄「そ、そんな」

サラリーマン「君の妹だって証明できたらすぐにお返しするよ。安心して」

妹「そういうことらしいよ」

兄「あああ」

――交番

警官「はい、それじゃ確認どうぞ」

妹「お兄ちゃーん」

警官「はい確認とれました。どうぞ」

サラリーマン「いや疑って悪かったね」

兄「い、いいえ……」

警官「……それじゃ、いつものことなんだけど」

兄「また1割減ってしまった……」

妹「もう4割しか残ってないですね」

兄「なぁ、ちょっとおれのこと呼んでみて」

妹「え、えっと……お兄さん? でいいんでしょうか」

兄「よそよそしい」

妹「あー……えっと、お兄さん」

兄「どうした妹よ」

妹「私たち兄妹なんですよね」

兄「その通り」

妹「せっかくだし、ゲームとかやりません?」

兄(気を使われておる)

母「また減ったの?」

兄「はい」

妹「すみません。兄妹なんだから、もっと気兼ねなく話したりできたらいいな、と思いまして」

兄「おれはいつだって妹に遠慮したことはないぞ」

妹「あ、そうですよね。壁作ってるのは私か。あはは……」

兄(なんだこの距離感。再婚相手の連れ子か)

妹「私、お兄さんというものに対してまだ慣れてなくて」

兄「妹としてはけっこうベテランの域に入ってると思うけど」

妹「そう見えますか? あはは」

兄(助けてくれ)

減った1割ぶん他の成分が混入するとでも思ってくれ
妹10:0他
妹 9:1他
妹 8:2他



説明不足でごめんよ

兄「これ以上妹が減ったら、本当に妹じゃなくなってしまうかもしれない」

兄「今日の首輪は完璧だとおもったんだけどなぁ」

妹「残念ですね。気を落とさず」

兄「あっ、応援ありがとうございます」

兄「しかし、なんでリードが切られていたんだ。結局あのサラリーマンの人に妹を譲るはめになってしまった。ぐむう」

――翌日

兄「確かめるには行動あるのみ」

妹「また首輪するんですか?」

兄「うむ」

妹「ちょっと恥ずかしいかな、なんて」

兄「申し訳ありませんががまんしてください」

兄「5分後」

兄「やはりいなくなったか。リードもいつの間にか切られてるな」

兄「しかし今回の妹の首輪はGPSを仕込んであるスグレモノ」

兄「これでどこに行ったかはまるわかりだ」

兄「そう遠くないな、早速追いかけるぞ」

兄「あっ」

妹「あっお兄さん」

おじさん「やぁ、奇遇だね」

兄「おっと危ない、すみませんが、この妹はちゃんとぼくが持っています。落としてません」

おじさん「そうかい? もう落とさないように、気をつけるんだよ」

兄「もちろんです。おじさんの妹は見つかりましたか?」

おじさん「いやぁあの後すぐに見つかったはいいんだが、この前また落としちゃってね」

兄「おじさんもまた落としたんですか?」

おじさん「君に偉そうに言えんなぁ。ははは」

兄「ぼくも見つけたら交番に届けますよ」

おじさん「よろしく頼むよ。そうすれば、君からもらった妹1割を返すことができるからね」

兄「そうですね、ぼくが見つければ……うん?」

警官『最近妹を落とした人が多くてね』

兄「あっ」

おじさん「どうしたんだい」

兄「ちくしょう、なんてこったさっさと帰るぞ妹よ」

兄「って、いなくなってるし!」

おじさん「君の妹、またいなくなってるね」

兄「そうみたいですね」

おじさん「それじゃ早く探さないと」

兄「いえ、今回は諦めます」

おじさん「諦めるって、妹を?」

兄「はい、妹の前に探すものができました」

――交番

兄「こんにちは」

警官「やぁ遅かったね。君の妹はもう――」

兄「その前に、こちらを」

他所妹「いえーい」

警官「うん? この妹は?」

兄「拾いました」

警官「なるほどね」

警官「減った妹のぶんは、他から補ってもらうしかない、か」

兄「最近妹の落し物、多いみたいですから」

警官「実をいうと君の他にもよく来るよ。そういう考えの人」

兄「そうですか。やっぱり」

警官「なんだかんだ自分の妹が可愛いんだろうね。落とし妹をそのまま持っていかずに交番に届けてくれる人が多いのは喜ばしいことだけど」

兄「ぼくもそう思います」

他所妹「にゃーん」

兄「ということで今回の妹はプラスマイナス0で帰って来たぞ」

妹「いえーい、です」

母「もっと早く気付くべきだったわね」

兄「まぁ気づいても妹を拾えなきゃできないからね」

兄「そう、これじゃプラスマイナス0にしかならないのだ」

兄「プラスを大きくするにはどうするか」

兄「そもそも妹のリードが切られていた理由」

兄「たぶん、いやそうに違いない」

妹「お兄さん、お風呂あがりましたけど」

兄「入ります」

――そして1週間後

警官「また見つけたのかい?」

兄「はい。お願いします」

他所妹「にっしっし」

警官「これで7妹目か。よく見つけるよ」

兄(あれから3回妹を落としたから、これでもう8割妹だ)

警官「それじゃ確認お願いします

妹「兄さん兄さん」

警官「はい確認終わり」

兄「これ1割ですどうもありがとうございました」

警官「落とさないように気をつけるのも大事だよ」

兄「努力します」

警官「うーんまったく誠意が見えないな」

母「最近調子いいじゃない」

兄「妹が妹に戻って来てるからね」

妹「兄さんや兄さんや」

兄「なんだい妹よ」

妹「最近迎えが遅くないですか」

兄「あー……あとちょっと待ってくれ。もうすぐ全部戻るから」

妹「約束ですよ」

――翌日

兄「こんにちは」

警官「……また妹かい?」

兄「はい、落し者です妹です」

他所妹「まうまう」

兄「それじゃ落とし主が見つかるまでぼくは外に」

警官「待ちなさい」

兄「はい?」

警官「その子はどうか知らないが、昨日君が届け出た妹、いたよね」

兄「はい。それがどうか」

警官「彼女の兄は、妹を落としていないらしい」

兄「どういうことですか」

警官「昨日、彼は妹を持って出かけてないそうなんだ」

警官「一昨日には妹を持っていたと確認している。証人もいる……」

警官「つまり、妹は『紛失』ではなく『盗難』されたと言ってるんだ」

兄「なるほど、怖い話です」

警官「届け出としても紛失届けではなく盗難届けとして受け取っている」

警官「すまないが、少し話を聞いてもいいかな?」

兄「……」

――


警官「どうしてこんなことをしたんだい?」

兄「妹をもとに戻すためです。仕方なくです」

警官「妹さんのせいにするのはよくないよ。君自身も後悔することになる」

兄「……はい」

兄「悔しかったんです」

警官「というと?」

兄「ぼくの妹は、どんなに落としたくなくても、一瞬の隙をついてどこかに行ってしまう」

兄「最初はどうしてだかわかりませんでした。でも妹についた首輪のリードが切られていたのを見たとき、もしかしてって思いました」

兄「誰かが、僕の妹を盗んでいるんじゃないかって。妹を交番に連れて行って、何食わぬ顔で1割をせびっているんじゃないかって」

警官「考えすぎだとは、思わなかった?」

兄「思いました。けど、ぼくが思いつくことなら、きっと他のみんなも思いつくだろうとも思いました」

兄「誰かが思いつくことなら、ぼくがやってもいいじゃないか。どうせそのうち、妹の盗みあいが始まるんだからって、思ったんです」

警官「……なるほど」

兄「うう」

警官「事情はわかった、けど妹盗みは重罪だ。懲役3年は覚悟しておいたほうがいい」

兄「……はい」

――

――しかしその後、彼には情状酌量の余地があるとされ、そこまで刑は重くならなかった。

――そもそも妹を紛失したのか盗難されたのかの判断は非常に難しい。今回の事件は、法の抜け目を明らかにしたとして、妹社会に波紋を呼んだ。

――罪を逃れることもできただろうが、潔く『自首』した彼に対して、減刑運動も起こり、ひとつの社会問題ともなった。

――


妹「お久しぶりです。兄さん」

兄「や、妹ではないか」

妹「ふふ、兄さん変わってないですね」

兄「そうか? だいぶ懲りたつもりだけど。妹は、変わり過ぎてよくわからんな」

妹「そうですかね。ふふふ」

兄「おれがいない間、いろいろ大変だったみたいだね」

妹「ほんとです。兄さんが言った通り、妹紛失詐欺が横行して、警察の方は盗難か紛失かわからず何もできないまま」

妹「そのあと、妹の過剰摂取で分裂した妹が野良化して、それを紛失物だと思った人が届け出て盗難に間違われたり」

妹「かと思えば、妹分を全部失ってただの他人になった二人が住居不法侵入で訴えあったり」

兄「それはひどい」

兄「妹ってのは大変なんだな。もうこりごりだよ」

妹「もう妹は嫌いですか?」

兄「……妹よ、君の中にはあとどのくらい妹があるのかね」

妹「残り1割、といったところでしょうか」

兄「ほとんど他人だな」

妹「はい。ほとんど他人です」

妹「それを踏まえてもう一度聞きます。もう妹は嫌いですか?」



兄「妹はもう疲れた。けど、うちの妹は別だな」

妹「ふふふ。そんな兄さんに教えてあげましょう」

兄「ほう」

妹「あのリードを切った犯人です」

兄「!」

兄「お、おい。それって」

妹「知りたいですか?」

兄「……いや、やめとく」

妹「あら、そうですか」

兄「もう必要ないからな」

妹「……そうですね」

妹「ま、もう首輪もありませんし必要ないかもですね」

兄「そういうこと」

妹「でももし知りたくなったら?」

兄「なったら?」

妹「はい後ろを向く!」

兄「な、なにっ!」

兄「ってなにもないじゃないか」



兄「って、いなくなってるー!」

兄「やっぱり首輪つけとくべきだったかな……」

兄「……交番行くか」








兄「まったく、あいつが妹じゃなくなったら、彼女とでも呼んでいいのかね」




おわり

こんな時間に見てくれてありがとう
1割減るってのはみんなが言ってる計算が正しいんだけど
減り過ぎると妹じゃなくなるようにしたかったんだよ
説明不足すまんね
お酒飲みながら即興で書いたから誤字脱字やらつじつま合わないところがあったら許してね

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