女「付き合ってください」男「どうぞ」(27)


それは放課後、屋上での出来事でした。

女「……良いの?」

男「良いよ」

女「そっか」



女「今だから言えるけど、絶対断られないって思ってた。だよね?」

男「うん。好きだから」

女「えっ。あ、うん……」

女「男も、好きって言うんだ……」

男「うん。もう寒いから帰るよ」

女「……うん。帰ろう」


私の初めての彼氏さんで、今のところ人生で一番馬の合う人。

色んな事に大して拒絶しないで、静かに受け入れる人。
それでいて、自分の輪郭を失わない人。
無関心なんじゃなくて、微かに確かにものを感じている人。
無愛想に見えて、たまに、本当にたまーに、私に刺激をくれる人。

きっと、付き合う事になった事も彼が否定しない人だからだと思う。でも、私の事が好きと言ってくれたのもまた本当のはず。


そうして、記念するべきかもしれないその日は、寒い冬を並んで帰ったのです。


それは日中、お昼ご飯の事でした。

女「しっつれいしまーす、と……」

男「……」

女「男ー、ごはん一緒に……と思ったけど友達いたのね」

女「あ、すいません何かいきなり。私、一応男の彼氏やらしてもらってる女です」

友「えっ、こいつ彼女居たん!?」
友「あ、どうも」
友「マジで?」

エーフリージャナカッタン?
シラナーイ
アノコ、ケッコウカワイクネ?

女「な、何かあれっぽいから、今日は出直すね、じゃまた……」


すると、彼は弁当箱をバンダナに吊り下げて立ち上がったのです。

大人しかったのは、静かに弁当を片付け、バンダナを結んでいたからでした。


男「ごめん。明日から、この人と食べる」

男「だから、もう一緒に食べれない。ごめんね」

友「……お、おう」
友「ああ良いよ良いよ、行ってやんな」
友「直球……」


男「行こう。女」

女「えっ、あ、うん。な、何かごめんなさっ、失礼しましたー!」

彼はこういう人で、私は未だ慣れない。
そこが良いんだと、私は私の中の仮想の他人にセールスするんだ。

どこと聞かれたら、答えられないのが彼なのかもしれないけど。


そうして、既に埋まりつつあるラウンジ席の2つ分の空きを探しました。

女「ごめんね、急に無理言って」

男「言ってなかったよ」

女「えっ?」

男「自分で帰ろうとしてたでしょ」

女「あ、うん……」

男「あそこ空いてる。座ろ」クイッ

女「あ」

彼はいつの間にか私の反対側に弁当箱を持ち替え、ごった返す人混みの中で私の手首をそっと引いたのです。

女「……うふ」

それだけで良い気持ちになるのは、きっと私と彼だからです。


それは夜、自室での事でした。

女「……」

するべき事に追われすぎると、それが終わった時何をしていいのかすぐに浮かばないものです。

そうすると、身体は休みたい休みたいとダダをこねて、私をベッドに寝転がすのです。

女「ん~、疲れた……」

虚しくなりました。
彼が欲しいです。

でも、所有物扱いしたらいけませんよね。伝えるだけ伝えてみましょう。

女「出るかな」ピポパ

プルルルルル……

男「もしもし」

女「あ、うん。今掛けても大丈夫かな」

男「うん、こんばんは」

女「こんばんは」


男「……」
女「……」

15分で来てくれました。
今、私の隣に座っています。つまり、ベッドでふたりきりです。

私だって、一般女ピーポーなので少しは緊張します。彼に近い側の肩がピリピリします。

男「ん」

すると肩は私の後ろに静かに回り、

男「よいしょ」

私の肩をストンと落としました。

女「どうした、の?」

男「力入ってるみたいだったから」

女「あー、分かっちゃうんだ」

私の行動と言動でバランスが危うくて、それはとてもドキドキで、うっかりするとお赤飯かもしれません。
でも、それはそれでまったく異議がないから余計に困るのです。


結局、寝かしつけてもらいました。
自分でも、どうしてこういう結果になったのかは良く分かっていません。

男「……」ナデナデ

女「……」

男「……」ポンポン

女「眠い……」

男「お風呂、入らなくていいの」

女「いいの」

男「ん。寝るまで横にいるから」

女「寝なかったら、ずっと横にいてくれる……?」

男「僕が眠くなったら、そのまま女の横借りる」ポンポン

彼の手が暖かいです。もっと欲しくなるけど、これくらいがきっとちょうど良いんです。


それは、良く晴れた休日の事でした。

女「んー」

男「……」

私が日差しに向かって伸びをすると、彼は半身を私に向けながら静かに待っていてくれます。

私から今日はおデートに誘いました。ちょっと大きい公園に来ています。

女「座ろ」

男「うん」

彼が隣に居るときにリラックスすると、私は不思議な感覚に襲われるんです。

ひとりで居るような身軽さと、ふたりで居るような安心感が合わさったようなとても快適な感覚。



男「女?」

女「えっ? あ、ごめ、何?」

男「ボーッとしてたから……考え事でもしてた?」

女「え、あ、ふふ……うん」

仲良しな気分と名付けてみましょう。


彼はそれ以上聞いてくる事はないです。
私もそれ以上喋る事はないので、座ったベンチに体重を預けました。


そうすると自然と顔が上がって、リフティングの練習をする男の子が視界に入ってきたのです。

女「サッカー好き?」

男「好きじゃないよ」

女「そっか」

にんまり持ち上がった私のほっぺたは不思議ちゃんです。
話が膨らまないのに、何の不愉快も感じないで笑ってます。


しばらくすると、サッカー少年はボールを蹴りながら行っちゃいました。


しばらくして、海老腰のおじいさんや、つがいのハトさん、ロードバイクの集団が横切っていって、私たちはそれらを静かに見送りました。

女「何か飲まない?」

男「いいよ」

そうしてベンチを立ち上がり、自販機なりカフェなりをゆっくり探し歩きます。
せっかく付き合い始めて最初のデートなんだから、ちょっとこじゃれた所が良いななんて思います。

女「あ、自販機」

男「自販機で良いの?」

女「うん。何飲む?」

カフェはまた今度です。それもこれも、大きく書かれた「季節限定」の文字が悪いのです。


クリーミーポタージュの空き缶を弄びながら、なし崩し的に散歩を続けていると自宅の前に来てしまいました。
今度から少しは計画を立てようと思います。

女「ただいまー」

男「お邪魔します」

両親は日中居ません。
夜も居ないようなものです。

うがい手洗いをふたりでした後、玄関の鍵を閉めて2階に上がりました。

女「もう少しちゃんとしたデートしたかったな……」

男「んー」


暖房を付けた後、何とはなしにベッドの上に転がりました。
真っ白で煌々な蛍光灯に目を細めていると、彼の顔がそれを塞ぎます。

あれ。

女「ねえ」

男「何」

女「……」

覆い被さるってやつだよね。これ。

男「?」

女「うー」

でも、私から言わないと彼は動きません。多分。


女「手……た、だっだ、出さないで良いのかな、って」

……。
酷く噛みました。


女「ううううもう知らない……」ゴロリ

こんなの、酷いです。私が。

男「女。おんなー」

女「知らない、今のはなし!」

男「……」

女「うう」

男「お邪魔するね」ゴロリ

そっぽを向いた私の背に、彼はそっと掌を付けて言いました。


男「可愛いなぁ」


女「え?」ドクン


暖かい手の感触がふたつ。

男「いじらしくて」

それはそっと動いて、

男「心が、落ち着かない」

かたくなな腕を滑り落ち、

男「見てると、ドキドキする」

切ない余韻を残して、

男「大好き」ピト

私の掌に重なる。



女「あ、う……」

ダメ……今のは、ダメ。
身体が熱くて、気持ちが口から漏れてしまいます。

カリカリに焼けたバケットに、暖かく深いオニオンスープが染み込んで、ふにゃふにゃになってしまうような。


男「あのね、あまり普段口にしないけど」

男「女が考えてるより、僕は女の事が好きなんだよ」

手の甲に添えられた彼の手が、にぎにぎと私の形を確かめます。
背中の声が、近いです。

男「好きだし、仲良しだと思ってるし、一緒がいい」

男「だから、たまには好きに振る舞っても良いから」

女「うん……」

女「ありがとうね、いっぱい喋ってくれて」

男「言葉もそうだけど……形あるものは、脆いから。」

男「だから一緒にいたい」


女「わ、わたしも……」

男「私も?」

女「一緒が、いいの」

男「うん」

女「だから、ぎゅって、その、何というか、して」

カチコチに身構える私に彼はそっと身体を沿わせ、静かに上腕を抱きました。
そりゃ、そうです。寝ていれば抱きしめる腕を通せません。そういう人でした。

女「違うの……腕じゃなくて、身体……」

男「……こうかな?」

女「あ、うん……そう」


彼の腕が、私を守ってくれます……。

辛さとか、寂しさとか、卑しさとかで心がいっぱいにならないように、形のないものをくれます。
私は形ある生き物で、確かに脆いと感じるから……それがとても安らぎになるんです。

私は、彼に形のないものをあげられているのかな。

かみなり

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