令嬢「私の執事は格闘家」 (74)

~ トレーニングルーム ~

執事「ふっ、はっ、せやっ!」ブオンッ

執事「はっ、とうっ、でやあっ!」ババッ

執事「ハァ……ハァ……」

執事(今日はこのぐらいにしておくか)

ギィィ……

令嬢「執事、お疲れ」

執事「お嬢様、お疲れ様です!」バッ

令嬢「かしこまらなくていいわよ。すぐにシャワー浴びてらっしゃい」

令嬢「汗臭くてかなわないから」

執事「は、はいっ!」ダダダッ

令嬢(フフフ、飛び散った執事の汗をなめるチャンスだわ!)

令嬢「ここね……」クンクン

令嬢「…………」ペロッ…

令嬢「…………」ペロペロ…

令嬢(しょっぱくて、おいし~い!)

令嬢(執事ったら、こんなに塩分を放出して大丈夫かしら?)

令嬢(ああもう、ご飯が欲しくなってきちゃった!)

ガチャッ……

執事「お嬢様、シャワーから戻りました!」

令嬢「!」ハッ

執事「お嬢様……?」

執事「床に這いつくばって、いったいどうされたのですか?」

令嬢「え、あ、あの……こ、これは──」

令嬢「床掃除! そう、床掃除よ!」

令嬢「執事がシャワー浴びてる間に、少しでも床をキレイにしとこうと思ってね……」

執事「そうだったのですか! ありがとうございます、お嬢様……!」

令嬢「いいのよ、これくらい」

執事「しかし……床をキレイにするのならば、あっちにモップがありますが」

令嬢「あら!」

令嬢「全然気づかなかったわぁ~、もっと早くいってよね!」サッ

令嬢「ル~ルル~」キュッキュッ

令嬢「ルル~ル~」キュッキュッ

執事「…………」

執事「──って、掃除なら私がやりますよ!」

令嬢「いえ、私がやるわ!」シュッ

ドズッ!

執事「ぐほっ……!」

執事(ミゾオチにモップの柄をクリーンヒットさせるとは……)

執事「さすがです、お嬢様……」ガクッ

令嬢「…………」

令嬢(しまった、たまに私も執事に護身術を習ってるからつい……)

令嬢(あ~ん、執事の汗をなめたかっただけなのに、どうしてこうなっちゃうの!?)

またある時──

~ トレーニングルーム ~

執事「シッ、シッ、シィッ!」

バシッ! バシッ! バシィッ!

ギシギシ……

執事「ハァ……ハァ……」

令嬢「すっごぉ~い、サンドバッグがあんなに揺れてる!」パチパチ…

執事「ありがとうございます」ニコッ

令嬢(歯が光った!)

令嬢(執事の前歯は一本差し歯だけど、それがまたス、テ、キ)

執事「では次のトレーニングの準備をしてきますので」スタスタ…

令嬢「ええ」

令嬢「…………」

ギシ……

令嬢(サンドバッグ……)

令嬢(執事が蹴ったサンドバッグ……)

令嬢(執事の足が触れたサンドバッグ!)

令嬢(抱きつくしかないじゃない!)ピョンッ

令嬢「サンドバッグゥ~!」ギュッ…

令嬢(サンドバッグを介して、私の全身と執事の体が触れ合ってる!)

令嬢(いいのかしら、こんなことして!)

令嬢(ああもう、サンドバッグ最高!)

令嬢(サンドバッグ最高! サンドバッグ最高! サンドバッグ最高!)ギュウ…

ガチャッ……

執事「お嬢様……」

令嬢「!」ハッ

執事「サンドバッグに抱きつかれて……いったいどうされたのですか?」

令嬢「え、と、これは……」

令嬢「そう、抱き枕! 抱き枕よ!」

令嬢「前々から私、サンドバッグを抱き枕にしたいと思ってたのよ!」

執事「そうだったんですか……全く気づかなかったです」

令嬢「というわけで、あとでこれ、私の寝室に運んでおいてちょうだい!」

令嬢「よろしくね!」

執事「かしこまりました!」

~ 令嬢の寝室 ~

令嬢(サンドバッグを抱き枕にしたのはいいけれど……)

令嬢(重いし硬い……)ゴロ…

令嬢(もう執事の匂いも消えちゃったし……)ゴロ…

令嬢(こんなものがベッドの上にあったってジャマよ、ジャマ!)

令嬢「えいっ!」ゲシッ

令嬢「いだだ……」

令嬢(サンドバッグって結構硬いのね、でかい風船みたいなもんだと思ってたわ……)

またある日のこと──

~ トレーニングルーム ~

令嬢「そんなに瓦を積み上げてどうするの?」

執事「自分のパンチ力がどのぐらいのレベルにあるか試すために、これを割るんです」

令嬢「へぇ~」

執事「ではいきますよ……」

執事「破片が飛び散るかもしれませんので、離れてて下さい」

令嬢「うん」ススッ…

執事「でやぁっ!」

バキィッ!

執事(よかった……全部割れた)

令嬢「わぁ~、すっごぉ~い!」パチパチ…

執事「ありがとうございます」

執事「しかし、これはあくまで動いていない物に対してのパンチ力ですので」

執事「実際の試合ではなかなかこうはいかないのですがね」

令嬢「ふうん」

執事「おっと、瓦を片付けなくては」

執事「ホウキとチリトリを持ってきます」スタスタ…

令嬢「…………」

令嬢(粉々の瓦……)

令嬢(執事の拳が割った瓦……)ゴクッ…

令嬢(寝転がって、私の体にまぶしてみよう!)

ゴロゴロ……

令嬢(ああ……いい気持ちだわ……)

令嬢(執事ったら瓦ばかり割ってないで、私の股も割ってくれないかしら)

令嬢(な~んちゃっ──)

ガチャッ……

執事「!」ハッ

令嬢「!」ギクッ

執事「お嬢様……瓦を体にまぶして、どうされたのですか?」

令嬢「……し、知らないの!?」

令嬢「これは瓦浴ってやつよ!」

執事「瓦浴!?」

令嬢「岩盤浴や森林浴みたいなもので、とっても体にいいの!」

令嬢「こうしてると背も伸びるし、胸も大きくなるし、病気も治るのよ!」

執事(し、知らなかった……)

令嬢「あとでこの瓦の破片を、私のベッドにまぶしておきなさい! いいわね!」

執事「は、はいっ!」

~ 令嬢の寝室 ~

令嬢「寝られない……」

令嬢(なにしろ私のベッドには、でかいサンドバッグが横たわって)

令嬢(シーツには瓦の破片がまき散らされている……)

令嬢(寝返りなんてうとうものなら──)ゴロッ

チクッ!

令嬢「いったぁ! 破片が脇腹に当たった!」

令嬢「どうしてこうなっちゃうのよ~~~~~!」

~ リビングルーム ~

父「ずいぶんと眠たそうだが、大丈夫か?」

令嬢「大丈夫よ、パパ……」ムニャ…

母「あなたは大切な一人娘なんですから……体は大事にしないといけませんよ」

令嬢「ママまで……。大丈夫だって……」ムニャ…

執事「お嬢様、ご無理はなさらない方が──」

令嬢「!」シャキーン

令嬢(執事ったら……私が寝不足になってる理由も知らないで……)

令嬢(鈍感なんだから……!)

令嬢(体を鍛えすぎて、脳みそまで筋肉になってるんじゃないかしら!)

父「ところで執事君、今度試合があるそうだね」

執事「はい」

父「今度の試合で勝てば、君の夢である道場設立にグッと近づく」

父「頑張ってくれたまえよ」

母「でもムチャはしないで下さいね。焦らず一歩ずつ、ですよ」

執事「ありがとうございます!」

令嬢(あ~……眠い)ファ…

~ トレーニングルーム ~

執事「はっ、でや、せやっ!」シュッシュシュッ

令嬢「いつにもまして、気合入ってるわね~、執事」

令嬢「ねえ、なにか私に手伝えること、ない?」

執事「…………」

執事「あ、そうだ!」

執事「お嬢様、私の腕につかまってくれませんか?」

令嬢「え、つかまる!?」

令嬢(ま、まさか……抱き締めてくれるというの!? うひょ~!)

執事「ふっ、ふっ」グッ…グッ…

令嬢「…………」

令嬢「なにこれ」

執事「お嬢様が私の腕にしがみつき、そのお嬢様を私が上下させることで」グッ…グッ…

執事「上腕筋を鍛えているのです」グッ…グッ…

令嬢「……ふうん」

執事「ありがとうございました!」ハァハァ…

執事「では続いて、私の下半身を押さえていただけるでしょうか?」

令嬢(下半身ですって!?)パァァ…

令嬢「やるわ、やる!」

執事「くっ、くっ」グッ…グッ…

令嬢「…………」

令嬢「なにこれ」

執事「腹筋運動です」グッ…グッ…

執事「これによって、私の腹部の耐久力がさらに高められるのです」グッ…グッ…

令嬢「……あっそ」

執事「ありがとうございました!」ハァハァ…

執事「では続いて、お嬢様を肩車してもよろしいでしょうか?」

令嬢(えっ、どんなプレイ!?)

執事「ふんっ、ふんっ……」グッ…グッ…

令嬢「…………」

令嬢「なにこれ」

執事「スクワットです」グッ…グッ…

執事「お嬢様を肩車したままスクワットをすることで」グッ…グッ…

執事「私の下半身はさらに強靭なものとなるのです」グッ…グッ…

令嬢「……なるほど」

執事「ありがとうございました!」ハァハァ…

令嬢「いいわよ、このぐらい」

執事「では続きまして──」

令嬢(どうせトレーニングでしょ?)

執事「お嬢様、私の上に乗っていただけますでしょうか」

令嬢「!?」

令嬢(騎乗位!? 騎乗位ね!?)

令嬢(パパが隠し持ってた本で勉強したから、やれるわ! やってみせる!)

執事「はっ、はっ……」グッ…グッ…

令嬢「…………」

令嬢「なにこれ」

執事「腕立て伏せです」グッ…グッ…

執事「お嬢様を背中に乗せたまま腕立て伏せをすることで」グッ…グッ…

執事「私の腕力がさらに向上することは間違いありません」グッ…グッ…

令嬢「それはよかったわね……」

執事「ふうっ」

執事「ありがとうございました!」ハァハァ…

令嬢「どういたしまして……」

~ 令嬢の寝室 ~

令嬢(ったく、結局ホントにトレーニングに付き合わされただけだったわ)

令嬢(執事ったら……脳筋なんだから!)ゴロン…

チクッ!

令嬢「いったぁ! 瓦が脇腹に!」

令嬢「いたいじゃないのよ!」ゲシッ

令嬢「あだっ! サンドバッグ蹴っちゃった!」

令嬢「きえ~っ! 執事のせいで眠れやしない!」

やがて──

~ リビングルーム ~

父「いよいよ一週間後だね」

執事「はい!」

令嬢(ああ、そういえば試合があるとかいってたっけ……)

母「でも、もし勝ったらこの家も寂しくなりますねぇ……」

令嬢「えっ、どういうこと?」

父「今度の試合はかなり大きな試合だからね」

父「もし勝てば、彼の夢だった道場設立のための金が貯まるんだよ」

執事「長らくこの家でトレーニングさせていただいて、申し訳ありませんでした」

父「いや、いいんだよ。こっちこそ、娘が世話になって……」

令嬢(そ、そんなぁ……!)

~ 廊下 ~

執事(最近、お嬢様がトレーニングルームに来ないな……)

執事(いったいどうしたのだろう……まさか──)

令嬢「執事!」

執事「あ、お嬢様!」

令嬢「執事なんか、大っ嫌い! 試合なんか負けちゃえ!」

執事「お嬢様……」

執事(や、やっぱり……お嬢様は──)

~ 令嬢の寝室 ~

令嬢(ふんだ!)

令嬢(まだ私の気持ちを伝えてもいないのに、気づかずに出てっちゃうなんて……)

令嬢(執事なんか知らない! 大嫌い!)

令嬢(あ~もう、こんな瓦なんかどうでもいいわ、ジャマジャマ!)パッパッ

令嬢(このサンドバッグもジャマ! ベッドの下に転がしちゃえ!)ゴロゴロ…

ドズ……ン……

令嬢(やっと快眠できるわ、ふん!)

令嬢「すぅ……すぅ……」

令嬢(執事のバカ……)グスン…

そして試合当日──

父「本当に来ないのか?」

母「せっかく特等席で観戦できるんですから……」

令嬢「行かないったら行かない! 私はお留守番してるわ!」

父「まったく……じゃあ試合のチケットはここに置いておくから」

父「もし来たくなったら、自分で来なさい」

令嬢「行かないってば……」フンッ

~ 試合会場 ~

セコンド「よしっ、準備いいか!?」

執事「ああ!」

セコンド「相手は力士上がりのレスラーだ!」

セコンド「パワーじゃ不利だから、スピードでかき回せ!」

セコンド「いつものように、技術と計算を駆使して戦えば、勝てる相手だ!」

執事「了解!」

執事(お嬢様は来てくれているのだろうか……)

~ 観客席 ~

母「あなた、いよいよ執事さんの試合ですね」

父「ああ、勝って欲しいが……相手も強敵だというし、こればかりはなんともいえんな」

母「そうですねえ……」

母「でも私としては、執事さんが大きな怪我もなく」

母「リングを降りてくれることを祈るのみです」

父「…………」

~ リング ~

実況『さあ、いよいよメーンイベント!』

実況『執事VSレスラー!』

実況『連勝街道をひた走る執事が、勢いのままに勝利するのか!?』

実況『はたまたレスラーがその夢を打ち砕くのか!?』

実況『格闘技ファン注目の一戦が、ついに始まろうとしています!』

ワァー……! ワァー……!

カァーンッ!

実況『始まったぁっ!』

執事「…………」ダッ

レスラー「!」

スパパパパァンッ!

レスラー「うぐっ……!」

執事「せいやっ!」シュッ

ドゴォッ!

実況『ジャブからの素早いコンビネーションから、強烈なミドルキックがヒットォ!』

実況『執事、いきなりの猛ラッシュだ!』

~ 観客席 ~

父「うむ……執事君が押しておるな」

母「いいぞォッ!」

父「!」ビクッ

母「やれっ、やれっ、叩き潰せェッ!」

母「そこそこ、左フック! ──そうじゃないッ!」

母「よし、右……左、ああ惜しい!」

母「目だ、目を狙え! 視力を奪ってしまえばどうとでも料理できるッ!」

父「目を狙うのは反則だよ、母さん」

父(こんな母さんを見るのは、昔一度だけ浮気した時以来だな……)

父(あの時は本当に死ぬかと思った……)

バチィッ!

レスラー「……へっ、パンチにキレがなくなってきたな」ニヤッ

執事「!」ハァハァ…

レスラー「オレの戦い方を教えてやろう」

レスラー「オレはな」

レスラー「相手が攻め疲れたところを、一気に叩き潰すのが得意なんだ!」

ドゴォンッ!

執事「ぐはっ……!」

実況『強烈なラリアットが炸裂ゥ~~~~~! 一撃で形勢逆転かァ!?』

レスラー「だりゃあっ!」

バチィンッ!

実況『相撲仕込みの張り手が右耳の辺りにヒット! 音が私にまで届きました!』

バチィンッ!

実況『左にもヒットォ! 命に関わりかねない往復ビンタだァ!』

執事「ぐっ……!」ヨロッ…

レスラー「トドメだっ!」バッ

ドゴォッ!

実況『決まったァ~! レスラーのドロップキックで、執事ダウンッ!』

ワァー……! ワァー……!

~ 観客席 ~

父「むむ、相手もやりおる……執事君が押されている!」

母「…………」ピクピクッ

母「あんなウドの大木に手こずりおって……」

母「こうなったら乱入して、私がカタをつけてやる!」ガタッ

父「わぁっ! やめなさい!」

母「────!」ピタッ

父「どうした?」

母「あそこに……リングのすぐ近くに令嬢がいますね。どうしたんでしょう?」

父「ええっ!?」



セコンド「なんだ君は!? 今、試合中──」

令嬢「ちょっとどいて」ギロッ

セコンド「は、はいっ!」ササッ

~ リング ~

執事「お嬢様……!?」

令嬢「あ~……重かった」ズシンッ

執事(サンドバッグと私が割った瓦……! わざわざ持ってきてくれたのか……!)

令嬢「重かったわ……」

令嬢「でも、あなたがこれまで積み重ねてきたトレーニングの重みは」

令嬢「こんなものじゃないっ!」

令嬢「勝って! 勝つのよ! ──勝てえっ!」

執事「…………」

執事(お嬢様が怒っておられる……お嬢様がメチャクチャ怒っておられる……)

執事(ということは、やはり──)

執事「うおおおおおおおおおっ!!!」

執事「うわあああああっ!!!」

ブオンッ! ブウンッ!

レスラー「!?」

実況『どうしたことでしょう!?』

実況『これまで計算高く、シャープな戦い方を持ち味としていた執事が』

実況『急にメチャクチャに拳を振り回し始めたァ!』

実況『例えるならまるで、悪事がバレてしまって』

実況『自暴自棄になったような犯人のような戦いぶり!』

ガッ! ガゴッ! ゴッ!

レスラー「ぐあっ……!」

実況『──が、しかし! 打撃は的確にレスラーをとらえているッ!』

実況『これはどういうマジックだ!?』

~ 観客席 ~

母「フフフ、当然だ」

父「執事君のパワーアップの原因が分かるのか、母さん!?」

母「執事とはバトラー……すなわち、“Battler(戦う者)”ッ!!!」

母「己の闘争本能に従ってこそ、その真価を発揮する……!」

母「両者スタミナや気持ちに余裕がある試合序盤ならともかく」

母「今のような試合終盤においてものをいうのは技術や計算よりも、本能!」

母「本能が生み出すガムシャラな戦いぶりこそが、勝利を生むのだ!」

母「どうやら娘が、執事の内に眠るガムシャラさを引き出してしまったようだな」

父「な……なるほどォ~」

執事「うわあああんっ!」ガッ

執事「うおおおおんっ!」バキッ

レスラー(くそっ、駄々っ子みたいなパンチなのに、効きやがる! なんでだ!?)

レスラー「このぉっ……なめんなァ!」

ガキィッ!

執事「がふっ……」

実況『レスラーのエルボーが執事の顔面にめり込んだァ!』

レスラー「へっ、これで決まり──」

令嬢「負けないで、執事!」

執事「お嬢様……申し訳ございませんでしたァ!!!」ブオンッ

ドゴォッ!

レスラー「ぐはっ……」ガクンッ

ドザァッ……

カンカンカンカンカン!

実況『決まったァ~~~~~!』

実況『執事の必殺アッパーで、レスラーがノックダウンだァ!』

令嬢「やったぁ!」

父「おおっ!」

母「ま、及第点といったところか……」



執事 ○ ─ × レスラー
(15分27秒:アッパーカット)

試合後──

令嬢(直接いうのは恥ずかしいから、紙に書いて渡そうっと)

令嬢「おめでとう、執事!」

令嬢「あと……はいこれ!」サッ

執事(紙……?)カサ…



『大切な話があるから、あとで試合会場の裏口まで来て』



執事「…………」ゴクッ…

執事(大切な話、というのはあのことに決まっている!)

執事(や、やはり……)

執事(やはりバレてしまっていた!)

執事(トレーニングにかこつけて、お嬢様の体をさわりまくったことが……ッ!)



持ち上げ中──

執事(お嬢様に腕をさわられてるゥ~~~~~!)ハァハァ…

腹筋中──

執事(お嬢様が私の足を押さえている! た、たまらん~~~~~!)ハァハァ…

スクワット中──

執事(お嬢様の太ももが私の頭に! おお~~~~~! おお~~~~~!)ハァハァ…

腕立て伏せ中──

執事(お嬢様が私の背中に乗っている! 私は馬だ! ありがとうございます!)ハァハァ…



執事(最近お嬢様が私を避けていたのも、試合場でお嬢様がなにやら怒鳴ってたのも)

執事(そして大切な話というのも、全てこのことによるものだろう!)

執事(お嬢様の話が終わったら……自首しよう、いさぎよく……)

~ 会場裏口 ~

執事「お嬢様……」ザッ

令嬢「来てくれたのね、執事……」

執事「この紙に書いてある、大切な話というのは……?」

令嬢「うん……あのね……」モジモジ…

令嬢「わ、私──執事のことが好きなのっ! ずっと一緒にいたいの!」

執事「…………」

執事「え、今なんとおっしゃいました?」

令嬢「…………」ピクッ

令嬢「あなたはどこまで鈍感なのよ、バカァ!」

ベチィンッ!

執事「へぶっ!」

執事「あ、いや、すみません!」

執事「そういえば私、レスラー選手の張り手で、両耳の鼓膜が破れてしまいまして」

執事「さっきからなにも聞こえないんですよ、ハッハッハ」

令嬢「なぁんだ、そうだったの」

令嬢「じゃあ骨伝導を使って、告白するわね」

令嬢「私、執事のことが好きなのっ! ずっと一緒にいたいの!」

執事「ええ~~~~~っ!?」

執事「いいんですか!? 私のようなヘンタイでいいんですか!?」

令嬢「なにいってるのよ、私こそヘンタイよ!」

執事「しかし、私はトレーニングにかこつけてお嬢様の体をさわりました!」

令嬢「私だって執事の汗をなめて、執事のさわったトレーニング器具と寝たわ!」

執事「お嬢様っ!」

令嬢「執事っ!」

令嬢「今すぐ私を抱きしめて! ──全力で!」

執事「分かりました!」

執事「お嬢様、愛してますっ!」ギュウウウ…

令嬢「あ、いだい……ちょっと待っ──」メキメキ…

執事「愛してますっ!」ギュウウウ…

令嬢「い、いだい……骨、折れ……ちゃうっ!」シュッ

ゴッ!

執事「はうっ!」

ドササッ……



父「どうやら妙なカップルが誕生したようだね、母さん」

母「幸せになってくれるといいですねえ、あなた」



令嬢 △ ─ △ 執事
(0分17秒:金的蹴りとベアハッグによりダブルノックアウト)



                                   <おわり>

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom