貴音「そして、太陽は穏やかに微笑んだ」 (40)
月と太陽は対極だ。
昼と夜を象徴するその二つは、空に輝き地を照らす。
けれどもそれは地上から見た者の光景で、実際月は太陽の光を反射して輝いているに過ぎない。
大きさも、その比ではない。
月は太陽に憧れていた。
地球を挟んで反対側から、暗い宇宙の中で、燦然と輝く太陽をずっと見ていた。
眩く煌めく太陽は、いつも変わらずに地と月を照らしている――。
※アイマスSSです
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「私は、あなたが好きです……」
仕事の帰り道、私はぽつりと呟きました。
隣を歩いていた少女の歩みが止まり、彼女は驚いたような表情を浮かべます。
「ど、どうしたんだ貴音? いきなり……」
困ったように眉をハの字に曲げて、こちらの顔を覗き込んでくる少女。
愛らしい瞳が、動揺を隠せずに揺れていました。。
「響、私は、あなたが好きなんです」
「う、うん。そうなんだ……?」
突然こんな事を言われて、さぞ混乱していることでしょう。
申し訳ないと思いつつも、言葉を紡いでいく。
「この気持ちが、恋の愛なのかそれとも友愛なのか、私には分かりません」
心臓が高鳴っていました。けれども心は不思議なほどに平静で、思考はゆったりと自身が紡いだ言葉を反芻しています。
「けれどこうしてあなたと同じ道を歩いて、あなたの話を聞き、あなたの笑顔を見る事が、私にはとても嬉しいことでした」
どんな時も、頭の片隅には彼女がいた。
ずっと考えていました。何故彼女は、こんなにも強く自分の中に存在するのか。
「こんな感情を抱いたのは初めてなのです。響、これは恋なのでしょうか?」
彼女は困った表情のまま笑い、頬をかく。
「はは、まさか貴音からそんな相談をされるとは思ってもみなかったぞ……」
「すみません。ただ、どうにも言葉にしてみたくなったので」
「ていうか、その相談を本人にしちゃうなんてなぁ……。まぁ、そこが貴音らしいのかな?」
響は考えるように指をあごに当てて、唸ります。
やがて、こちらを見て
「貴音」
ポケットに入れていた手を差し出してきました。
少し迷いながらも、私はその手を取ります。
「自分も貴音が好きさー」
そう言われた瞬間、心臓が一際大きく高鳴りました。
締めつけられるような苦しみに耐え、彼女の言葉を待ちます。
「たぶん貴音の気持ちと同じだと思う。でもこれが恋なのかは分からないぞ。自分はそういうの疎いし、何より自分たち、女の子同士だし」
そう言った彼女の手は温かかった。
「でも貴音と一緒にいれて嬉しいってのは分かるよ。こうやって手を繋ぐのだって平気さー。だから、さ……」
彼女が指をからめてくる。すこし痺れるくらいの強さで手を握って、照れくさそうに笑いながら。
「へへ、恋人握り」
「……響」
握り返す。ぎゅっと、その手が決して離れないように。
「協力するよ、貴音。いつかきっと分かる時が来る。だって貴音は頭が良いんだもん。それまでは、こんな感じで、一緒に色々試していくさー」
それは、空気が凍てつく12月初旬のことでした――。
響「はいさーい!」
響が元気良く事務所へと踏み込みます。
すでに待機していたアイドル達が、続々と響の声に反応しました。
春香「おはよう響ちゃん!」
伊織「朝から元気ねぇ」
真美「おはようひびきーん!」
響「お、みんなおはよー!」
彼女に続いて私も事務所へ入ります。
貴音「おはようございます」
春香「貴音さんもおはようございます!」
貴音「ええ。春香は響に劣らず今日も元気ですね」
挨拶もほどほどに、皆が集まっていたソファへと腰をかけました。
伊織「アンタらはまた同伴なのね。最近多くない?」
響「近所だからなー。それに、今日は久しぶりに貴音と現場一緒だし」
伊織「どうせ昨日もどっちかの家に泊まったんでしょ?」
響「正解。伊織もウチに来るか? また鍋食べようよ、歓迎するぞ」
伊織「うーん、そうねぇ……。次はしゃぶしゃぶでもしましょうか」
春香「そういえば貴音さんのヘビ克服はどれくらい進んだの?」
貴音「最近は、なんとか指先で撫でれるほどには慣れました」
伊織「最初は見るのも嫌がってたのに。すごい進歩ね」
響「普段はケージに入ってるからね。それにヘビ香はもう人に慣れてるし、あとは貴音のほうが慣れるだけだったからあっという間さー」
真美「首に巻いたりとかできる?」
響「ヨユーだぞ」
真美「遊びに行った時にやらせてよ。あれ一度でいいからやってみたかったんだー」
こうしてお互いの近況などで盛り上がり、仕事まで時間を待ちます。
765プロも今や名の知れた芸能事務所となりました。
所属するアイドルたちにも当然仕事が詰まっています。
しかし、稀にこうして、朝の時間に何人かのアイドル達が集まります。
新人時代からの思い入れがあるのでしょう。移転し真新しくなった事務所でも、そんな朝の交流が止まることはありませんでした。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、仕事の時間がやってきます。
あのあとやってきた美希を加え、私たちはプロデューサーに現場へと送っていただきました。
本日の仕事は、響、美希、そして私のユニット、プロジェクト・フェアリーのPVの撮影です。
プロジェクト・フェアリー――竜宮小町と並ぶ、765プロを代表するユニット。
個々の仕事が多くなった今でも、その活動はしっかりと続いています。
「お疲れ様でしたー!」
撮影は順調に進み、仕事が終わました。
プロデューサー殿の車に乗り込み、一度事務所へと向かいます。
P「いい映像が取れたな。スタッフさんたちも褒めてたぞ」
美希「美希たちにかかればどんな仕事もお茶の子さいさいなの」
響「次のライブも完璧にこなして見せるさー」
P「はは、頼もしいこって」
貴音「…………」
今回のPVに使われる新曲は、来月に開催されるフェアリーライブでも披露されるモノでした。
ダンスの映像のために何度も踊り直したので、やんわりとした疲労が身体に纏わりついていまいます。
響や美希のように何曲も振付の違うダンスを踊り続けられるほどの体力は、私にはありません。
私はシートに背に持たれかかり、ぼんやりと車外の景色を眺めます。
車の外には冬の街が広がっていました。
肌身にしみる寒さがまだまだ衰えることを知らずに幅を利かせ、人々は厚い衣服に身を包み往来している。
そんな中、ふと一枚のマフラーを共に使う二人組が目にとまりました。
二人は手を繋ぎ、幸せそうに街の中を歩いていきます。
貴音「マフラー、ですか……」
響「ん? 貴音、マフラー欲しいのか?」
響の声に、はっと我に返ります。
貴音「あ、いえ、ふと目についたので……」
美希「そういえば今年の冬は貴音のマフラー姿は見てない気がするの」
P「アイドルは身体が資本なんだから、あんまり冷やし過ぎるなよ」
響「プロデューサーもなー」
P「俺には去年編んでもらった響特製のマフラーがあるからへっちゃらだ」
響「まさか去年のマフラーを引っ張りだされると思ってなかったぞ……。言ってくれれば新しいの編んだのに」
P「じゃあ手袋を編んでくれよ。屋外ロケの時は何かと寒くてさ」
響「手袋? 任せるさー。完璧に編んでみせるぞ」
ころころと話が進んでいく。
ぼーっとしていただけに、少し話についていけなくなってしまった。
響「で、結局貴音はマフラーがほしいのか?」
と思いきや話が戻ってくる。私は慌ててマフラーについて考えました。
貴音「え、そ、そうですね……」
長いマフラー。
それを響と一緒に巻くと、どんな気持ちになれるのでしょう?
彼女はどんな顔をするのでしょうか?
知りたい気持ちが、自然と胸に満ちていきます。
貴音「……今度、選びに行こうかと」
響「お、じゃあさ、自分が編んであげようか?」
貴音「え?」
思わぬ返答に、面喰ってしまいました。
響「プロデューサーの手袋も編むわけだし、良かったら貴音にも編んであげようかなと思って」
手編みのマフラー。聞いただけで胸が躍ります。
貴音「ではぜひ、お願いしましょうか」
響「おう! 任された!」
貴音「響、注文なのですが、マフラーはある程度長い物を編んでいただけませんか?」
響「長い奴? いいよ、わかった」
響は笑顔で引き受けてくれました。その笑顔につられて、私の口もほころんでしまいます。
彼女の笑みには、他人を笑顔にする魅力があるのでしょうね。
美希「みんないいなぁ。響ー、美希にも何か編んでよ」
響「ん? いいぞ、何が良い?」
美希「美希はモフモフのニットキャップみたいなのが良いなー。こう、耳当てつきでさ、トップにポンポンがあるやつ」
響「あー、パイロットキャップか? あれは編んだ事ないなぁ。これはプロデューサーの手袋は先延ばしになっちゃうかもしれないぞ」
P「俺が最初に頼んだのにっ!?」
響「あっはは、春までには間に合わせるさー」
貴音「……ふふ」
響お手製のマフラー。本当に楽しみです。
響「貴音ー」
数日後、事務所にて。
響から声をかけられ、私は読んでいた雑誌から視線を上げました。
紙袋を持ってきた響は、それを私の前に置きます。
響「はいこれ、ご注文の品」
貴音「なんと、もう出来たのですか?」
袋の中身を確認すると、中にはマフラーが入っていました。
響「注文通り、ちょっと長めに編んだぞ。このサイズだと普通に巻いても安定しないけど……」
私はそのマフラーを手に取り、しげしげと眺めます。
手触りはさらさらで、首に巻いても心地よく纏えることでしょう。
響「もしかして、長過ぎた?」
貴音「……いえ、そんなことは」
くるりと首に巻いてみる。やはり長い。
何週かして、巻き心地を確かめます。
首元がほんのりとした温かさに包まれました。
貴音「響、これはとても良いものです。ありがとうございます」
響「喜んでくれてよかったさー。ちょっと早いけど誕生日プレゼントだね!」
貴音「ふふ、そうですね」
マフラーの端を両手で持ってみる。
彼女の首に巻けるほどに余りはあります。これなら、あの巻き方もできるでしょう。
貴音「ひび――」
とそこで。
P「響ー、そろそろ行くぞー」
響「あ、はーい! ごめん貴音、自分行かなくちゃ」
貴音「あっ……」
響はプロデューサーに呼ばれ、その場を去ってしまいました。
途方に暮れた両手でマフラーを外し、丁寧に畳みます。
悲しいですが、仕事ならば仕方がありません。このマフラーを二人で巻くのは、また今度にいたしましょう……。
それからまた、いくつかの日が過ぎました。
時期が時期なので、私たちのスケジュールも過密さを増していきます。
「……はぁ」
夜、自宅にて。
手に持った携帯電話、それに写しだされた文面を見ながら、私は思わずため息をついてしまいました。
受信したメール。差出人は響です。
内容は、仕事の都合で明日は共に事務所へ行けないという物。
これでもう、何日響と会えてないのでしょう。
顔で平静を取り繕いつつも、心では寂しさが募っていきます。
約束していたのに――。などと拗ねてみるのは、私らしくはないのでしょうね。
これもまた仕方のないこと。
御仕事を頑張ってくださいという旨を送り、私は電話を置きました。
親しくなって、幾夜も彼女とはメールのやりとりをしてきました。
今までは楽しいものでしたが、たまにはこういう悲しい事もあるのですね。
ふと、再び携帯に目をやります。
顔は見れないが、声ならどうでしょう。
そんな思考が頭を過ります。
この胸に募る寂しさを、少しで紛らわせられるのではないか。
形態を手に取り、響の番号を選びます。
「…………」
けれど少し悩んだ末に、私は発信ボタンを押さずに携帯を起きました。
メールを終え、響ももう就寝しているでしょう。
悪戯に私の我儘に付き合わせてしまうのも、良くないことです。
私も明日に備え寝ることにしました。
「おやすみなさい、響……」
貴音「おはようございます」
翌日、一人で事務所へ赴くと、やはり何人かのアイドルたちがすでに控えていました。
伊織「おはよ」
亜美「お姫ちーん、おはおは~」
あずさ「貴音ちゃん、おはよう」
竜宮小町の面々。それぞれと挨拶を交わし、ソファへと座ります。
伊織「今日は響と一緒じゃないのね。珍しいわ」
貴音「ええ、まぁ。ここ最近は予定が合わず……」
伊織「落ち込むことないじゃない。それだけ忙しいってことよ。それは喜ぶべきことだわ」
貴音「……いえ、別に落ち込んではいませんよ? 喜ぶべきことなのはわかっております」
伊織「そう、ならいいけど」
伊織はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまいました。
何か気に障ってしまったのでしょうか。
小鳥「あら、貴音ちゃん。おはよう」
貴音「小鳥嬢、おはようございます」
小鳥嬢はテーブルにお茶菓子のたくさん入った器を置きます。
おせんべい、小分けにされたバームクウヘン、クッキーなど。
亜美たちがそれに食いつきました。
私もクッキーを一つ拝借します。
小鳥「あら、貴音ちゃん。響ちゃんと一緒じゃないの?」
貴音「ええ、響は仕事の都合で……」
伊織「小鳥、その話題はさっき済ませたから」
小鳥「そうだったの?……あれ? でも変ねぇ、今日は響ちゃん、お仕事は午後からのはずなのだけど……」
貴音「そうなのですか?」
てっきり早朝からロケがあるので無理なのだと思っていました。
仕事が午後からならば、私と一緒に出勤できる時間もあるでしょうに……。
貴音「…………」
亜美「むふふ、これは事件の匂いがしますねぇ……」
伊織「事件? どういうこと?」
亜美「いつもお姫ちんと同伴出勤してたひびきんが、スケジュールが空いているにもかかわらずに今日に限って出勤しなかった!」
あずさ「ど、同伴出勤って……、亜美ちゃんどこでそんな言葉を……」
亜美「シャラップあずさお姉ちゃん! そんなことはどうでもいいんだよ!粗末なことなんだよ!」
伊織「些末なことよ……」
亜美「つまりだよ!」
亜美の声に熱が籠ります。
私はその余りの白熱ぶりについ、生唾を飲んでしまいました。
亜美「これは他の女がいるんじゃなかろーか……!」
伊織「はぁ?」
他の、おんな……?
伊織「貴音、真に受けるんじゃないわよ。いつもの戯言だわ」
貴音「え、ええ……」
あずさ「え、えーっと、こういう時って普通は、男の人なんじゃ……?」
伊織「あずさも耳を貸しちゃだめよ。亜美のアホが移るから」
亜美「アホってなにさアホって!」
貴音「…………」
さすがに飛躍しすぎでしょう。
いつものように亜美はおふざけで想像したに過ぎないのです。
全く、おいたが過ぎる。
なのに。
なのに何故、こんなにも胸が苦しくなってしまうのか。
小鳥「つまり貴音ちゃんと響ちゃんはただならぬ関係だった……!?」
伊織「ホラ見なさい亜美。あんたが変なこというから事務員が暴走しそうだわ。責任取りなさいよ」
亜美「うえぇ、そんなん無理だよ~!」
小鳥「ふふ、うふふ、ひびたか美味しいピヨ……」
あずさ「あらあら……」
騒がしくなる事務所。
けれどもその騒々しさが、遠く感じてしまいます。
今、響はどこで何をしているのでしょう。
貴音「…………」
伊織「……はぁ」
伊織のため息が、やけに大きく、耳につきました。
我に返り、伊織の顔を見ます。
伊織「なに亜美の戯言を本気にしてんのよ」
貴音「べ、別にそういうわけでは……」
伊織「だったらその捨てられた子犬みたいな顔はやめなさい」
そ、それほど酷い顔をしていたのでしょうか……?
伊織「毎朝一緒に事務所来るまで仲のいいアンタを、アイツが避けるわけないじゃない。というより、アイツはそういうのは出来ないタイプでしょ」
あずさ「そうねぇ。響ちゃんはそういうの、苦手そうだわ」
……確かに。
今のところ、響に避けられるほどの原因を作った覚えはありません。
これはただの杞憂。
何も、心配することはないのでしょう。
伊織「分かったら気持ちを切り替えなさい。その顔のまま仕事に行ったら信用ガタ落ちよ」
貴音「そう、ですね……。いらぬ心配をかけしました」
あずさ「ふふ、いつもの貴音ちゃんになったわね」
そう。何があっても、いつも通りにすればいい。
ちょっとした変化があり、それに戸惑ってしまった。
しかしよく考えれば、少し前と変わりはない。
貴音「……亜美の言葉には、人の心を揺さぶる力があるのですね」
亜美「うあうあーごめんよお姫ちーん……」
貴音「次は通用しませんよ、亜美」
そう言って、小さく亜美の頭を小突きます。
今回はこれで手打ちといたしましょう。
しばらくして、伊織たちは律子嬢に連れられ仕事へと向かいした。
それから一人になった私は、ソファで仕事の台本に目を通します。
一通り読み終えたころ、丁度良く事務所の扉が開かれました。
P「ただいまでーすっと……」
小鳥「あ、プロデューサーさん。おかえりなさい」
P「お疲れ様です、小鳥さん」
やってきたのはプロデューサーでした。
ということはもちろん、時間が来たということです。
貴音「あなた様、おはようございます」
P「おはよう貴音。準備出来てるか?」
貴音「ええ、もちろんです」
P「よし」
今日の仕事はドラマの撮影。そのために、プロデューサーに現場へ送ってもらうことになっていました。
雑誌を机に置いて、私は立ち上がります。
貴音「行ってまいります、小鳥嬢」
小鳥「はーい貴音ちゃん、プロデューサーさん、行ってらっしゃい」
車に乗り、いざ現場へ。
P「調子はどうだ?」
貴音「すこぶる快調です。何も、問題はありませんよ」
P「そっか。でも慣れた現場とはいえ何が起こるかわからないからな、怪我だけは注意してくれよ」
貴音「ええ。心得ております」
いつも通りに。
本日のドラマの台詞も把握しました。役も上手くこなせるようになっています。監督から、良い評価もいただいております。
表情を大きく崩さずに、感情の機微を表す私のキャラクター。
焦りも、悲しみも、動揺も驚愕もなく。
いつも通りに。
貴音「……そういえば、あなた様」
P「ん? なんだ?」
貴音「響の今日の仕事は、何でしょうか?」
P「響か? あいつは午後から映画の取材だよ。特集組まれるんだとさ」
貴音「そう、ですか……」
やはり仕事は午後から。
だとすれば、午前から事務所へ赴く必要もない……。
だから……。
貴音「…………」
一瞬沸いた嫌な思考を振り払うように、視線を車外へと移しました。
外は相変わらずの冬模様です。
流れていく人々を眺めていると、自然と落ち着いていきます。
ふと、流れていく風景が止まりました。
信号に止まったのでしょうか。
P「あれ。あそこにいるの、響じゃないか?」
――っ。
弾かれるように、前を見ます。
そこには、大きなポニーテイルをぴょこぴょこと揺らして横断歩道を渡る少女の姿がありました。
見間違えるはずもありません。
我那覇響の姿がありました。
貴音「――――」
ただし、一人ではありませんでした。
P「一緒にいるのは雪歩じゃないか。二人で買い物か?」
忘れかけていた亜美の言葉が蘇ってきました。
戯言だと思っていた言葉が、途端に心を乱します。
思わず口を抑えました。
言いようのない吐き気が、胸のあたりに詰まってしまって。
貴音「…………」
P「貴音? 顔色が悪くないか……どうした、大丈夫か?」
貴音「……いえ、なんでもありません」
いつものように、表情を元へと戻します。
あれは、きっと何気なく暇のかぶった二人が買い物へ出た所を、偶然見かけてしまったにすぎません。
横断歩道を渡っていく響と雪歩を見ます。
貴音「…………」
二人は談笑していました。
何を話しているのでしょう。
とても、楽しそうです。
P「……声、かけていくか?」
貴音「いいえ。そんな事をしては仕事に遅れてしまいますよ」
P「……そっか」
いつも通りに。
焦りも、悲しみも、動揺も驚愕もなく。
焦りも、悲しみも、動揺も驚愕もなく――……。
貴音「…………」
重苦しい足取りで、事務所へ向かいます。
ドラマの撮影は無事終わりましたが、いくつか、台詞が抜けてNGを出してしまいました。
監督や共演者にも心配されてしまう始末。
貴音「……すみません。私が、不甲斐無いばかりに」
P「気にするな貴音。そういう事もあるさ」
プロデューサーもそう言ってくれますが、私の気は晴れません。
心の中だけでため息を吐いて、表情だけは平静を保とうと心がけます。
P「ただいまーっす……」
小鳥「あら、プロデューサーさん、貴音ちゃん。おかえりなさい」
貴音「ただいまです小鳥嬢」
事務所内からアイドル達の声が聞こえてきます。
真「あ、貴音さん! おかえりなさい!」
貴音「ただいまです、真」
真「お仕事どうでした? ドラマの撮影ですよね?」
貴音「ええ、まぁ、中々の手応えはありましたよ……」
真「いいなぁドラマの仕事! プロデューサー! 僕にもドラマの仕事ありませんか?」
P「そうだなぁ……」
響「お、貴音っ! おかえりー!」
聞き慣れた声が耳に届きます。
見れば、ソファのほうに響を含めた他のアイドルたちが座っていました。
千早「おかえりさない、四条さん」
やよい「貴音さん!お帰りなさいですー!」
律子「おかえり」
貴音「ええ、ただいま戻りました」
ソファへと腰かけます。
こうやって挨拶を交わすだけで、不思議と気分が晴れたような気がしました。
声をかけられただけで気が紛れるなど、自分でも呆れるほど単純な気がしますが……。
響「あんまり元気ないね? 仕事で疲れちゃったのか?」
貴音「そうでしょうか……? いえ、そんなことはありませんよ」
響「そう? ちょっと浮かない顔だったから仕事で何か失敗しちゃったのかと思っちゃったぞ」
そっと、顔を指でなでてみます。
思っていた表情と浮かべている表情に差異が出ているのでしょうか。
少し心配になってしまいます。
やよい「貴音さんがお仕事で失敗するなんて想像できません!」
響「だよなぁ」
……やはりそうなのでしょう。
それこそが私のキャラクターなのですから。
貴音「響のほうこそ、仕事はどうでしたか?」
響「自分か? もちろん完璧にこなしたぞ!」
千早「仕事で失敗しそうなのは、どちらかといえば我那覇さんよね」
響「なんだとっ!? 酷いぞ千早ぁ!」
律子「響ももうすこし落ち着きがあったらねぇ。貴音を見習いなさい」
響「り、律子まで……。もう自分の味方はやよいしかいないぞ……!」
やよい「響さん! バッチコイです!」
響「やよいぃぃぃぃいいいい!」
こうして仕事の成果を報告しあって、談笑は続きます。
その時だけは、朝のできごとを忘れていられました。
それから何人かのアイドルが帰ってきたり、帰宅を見送りました。
私もこれ以上遅くなる前に帰るとしましょう。
仕事場から直帰することも多いですが、ああして事務所に戻れば誰かと話せるかもしれない。
私はそのために、仕事後でもなるべく事務所へ顔を出すことにしていました。
響「貴音ー。一緒に帰ろ?」
貴音「ええ、わかりました」
荷支度をおえて、事務所を出ようとします。
響「あ、伊織。メールのやつ、大丈夫?」
伊織「任せなさい。都合はつけれるわ」
響「ホントか!ありがとう!」
メールのやつ、とは……。
響と伊織は何か約束をしているのでしょうか?
響「じゃ、お疲れ様でーす!」
貴音「お疲れ様でした」
小鳥「はーい。響ちゃん、貴音ちゃん、気をつけてね」
帰り道、私は響に尋ねます。
貴音「響、伊織に何かを頼んでいたようですが……?」
響「ん、まぁね。ちょっと自分だけじゃ無理そうだからさ、ダメ元で頼んでみたらOK貰えたんだ」
貴音「何を頼まれたのですか?」
響「んー、内緒」
…………。
貴音「そ、そうですか……」
響「まぁホントは自分で何とかしないといけないやつなんだけどね。ちょっと今の自分じゃ力不足だから、伊織に泣きついちゃった」
頼るなら、私を頼ってくれればよかったのに……。
そう思ってしまうのは、不自然なのでしょうか?
私たちの仲は、頼みごともしてもらえないほどに浅いものだったのでしょうか……。
心がざわつきます。
雪歩のこと。伊織のこと。分からないことが多すぎる。
聞いても教えてもらえないのなら、どうすればいいのでしょう。
響「うぅ、さむさむ! 早く帰んないと!」
貴音「……ぁ」
ふと、首に手を添えました。
なにやら肌寒いと思っていたら、響から貰ったマフラーを巻いていません。
どうやら家に置いてきてしまったようです。
これではあの巻き方もできません……。
響「貴音ぇ? どうしたの? 早く帰ろうよー」
貴音「…………ええ、そうですね」
そう答えたものの、もやもやとした感情が胸の裡に渦巻いていました。
この不快感はなんでしょう。
これは一体、どうしたら取り除けるのでしょう……。
――――――
――――
――
P「貴音、おい貴音……」
…………。
プロデューサーの声に反応して、意識が覚醒します。
貴音「……すみません。寝てしまいましたか」
P「珍しいな。さすがに仕事疲れが出てきたのか?」
乗りなれた車の後部座席。
外には765プロのビルが見えています。
仕事帰り、事務所へ戻るために車に乗り込んだことは覚えているのですが……。
P「ちょっと予定を切り詰めすぎたかもな……」
貴音「いえ、大丈夫ですよ」
身体が疲れているというよりは、心労による部分が大きい。
結局響とのわだかまりが解消されず、何日が経過したのでしょうか。
悩みました。
考えました。
けれども答えは導き出せません。
P「とにかく事務所へ行こう。大丈夫か?」
貴音「……もちろんです」
車を降り、事務所のオフィスへ向かいます。
進める足も気も重かったのですが、平静を装います。
貴音「…………」
……私は今、どんな表情をしているのでしょうか。
仕事場でも評価を落としたような気配はありませんでした。ちゃんと切り替えは出来ているということなのでしょう。
だから、何も心配することはない。
何も、心配することは……。
貴音「…………」
事務所前の扉にやってきました。
やけに重々しく感じる金属製の扉。冷たいドアノブに手をかけて、扉を開きます。
『パァン!』
「「「「ハッピーバースデイ!誕生日おめでとう!」」」」
突然の発破音。そしてかけられる声に驚いてしまいました。
見れば、すっかり誕生日仕様に彩られた事務所の中に765プロのアイドル達が立っています。
貴音「誕、生日……?」
そういえば、もうそんな時期でしたか……。
自分でも呆れるくらい、すっぽりと記憶から抜け落ちていました。
響「おかえり貴音! 待ってたぞ!」
P「ほら、主役が棒立ちでどうするんだ。入って入って」
貴音「は、はぁ……」
響に手を引かれ、部屋の中央へ。
そこに置かれた長机にはいろいろなお菓子や料理が並べられていました。
貴音「まぁ……!」
どれもとても美味しそうです。
響「さ、座って座って!」
椅子に腰かけると、春香が指示を飛ばします。
春香「ケーキ!」
あみまみ「おう!」
亜美と真美が持ってきた中庸な大きさのホールケーキに、歳の分のろうそくが刺さっていました。
バースデイケーキ。
これを見ると、改めて自分が祝われているのだと自覚します。
春香「斉唱!」
「「「「ハッピバースデイトゥーユー……」」」」
春香「さ、どうぞ吹き消しちゃってください!」
乱れのない統率された動きに、思わず笑ってしまいそうになります。
息を吸い込んで、ひと吹き。
ろうそくが全て消えると、アイドルたちが大きな拍手を送ってくれました。
食事もほどほどに、アイドルたちがプレゼントを持ってきてくださいます。
あみまみ「お姫ち~ん! 誕生日オメットウ!」
亜美と真美からは特徴的な模様の入ったラーメンどんぶりが。
真美「何しようか迷ったけど、これにしたよー」
亜美「これでぜひラーメンをたべてくれい!」
貴音「ありがとうございます、真美、亜美。これで食べるらーめんは、きっと格別な味になることでしょう」
続いて雪歩からは冬物のコートをいただきました。
雪歩「このコート、四条さんに絶対似合うと思って……」
試しに着てみると、ぴったりとしたサイズで違和感がありません。
貴音「どうでしょうか?」
雪歩「すごく似合ってますよ、四条さん!」
貴音「ありがとうございます、雪歩」
伊織からはネックレスを渡されました。柘榴石の光る、とても綺麗な物。
伊織「一応誕生石を選んでみたわ。アンタもこういうのつけた方がいいわよ。まぁそれほど高いもんじゃないけどね……」
貴音「いいえ、値段は関係ありません。ありがとうございます、伊織」
あずさ「貴音ちゃん。誕生日おめでとう」
伊織と同時にあずさから手渡されたのは、小さな小物入れ。
あずさ「これね、中にお守りが入ってるの。貴音ちゃん、色々大変そうなロケが多いから……」
中には健康祈願のお守りが入っていました。
確かに食事をするロケは多いので、いろいろ気をつけねばなりません。
貴音「これなら、そういう仕事をもう少し増やしても良さそうですね……」
なんて、冗談を言ってみたり。
他のアイドルからもさまざまなプレゼントをいただきました。
どれもこれも良いものばかりで、本当に嬉しい限りです。
響「どう貴音、楽しんでる?」
貴音「ええ、とても」
響「それはよかったぞ!」
響の屈託のない笑顔に、顔がほころびます。
響「じゃ!」
そう言って、響は立ち上がました。
響「プロデューサー! あとよろしくね」
P「おう、響。おつかれ」
やよい「響さん! また明日です!」
……え?
思わず驚いてしまいました。
響は別れを告げ、事務所を出て行ってしまいます。
貴音「あなた様、響はどこへ?」
P「ん? ああ、家の動物たちの世話をしなくちゃで、早めに帰るんだとさ」
貴音「…………」
忘れかけていたあのもやもやが、再び帰ってきました。
P「今日はどうだった、貴音」
貴音「まこと、嬉しかったです。まさかあそこまで盛大に祝っていただけるとは……」
P「ならよかった」
プレゼントの多かった私は、現在プロデューサーに車で自宅へと送ってもらっていました。
貴音「……ふぅ」
後部座席のシートに背中を預け、車外を眺めます。
確かに嬉しかったです。仲間たちに囲まれて祝われる誕生日。いつまでも思い出に残ることでしょう。
けれど私の気分はそれを素直に喜べてはいません。
気になるのは、響のこと。
貴音「…………」
窓にうっすらと映る顔は、どこか寂しげな表情を浮かべていました。
酷い顔です。
これが私の顔だと思うと、驚きとともに嘲りたい気分になってきます。
捨てられた子犬のような顔とは、実に的を得ていました。
胸の裡にくすぶる霧のような何かが、ぞわぞわと肌を粟立てます。
不安と恐怖と動揺。それらが一緒くたになっていいようのない混乱を生みだしていきます。
その奥には、炎のような感情が静かに根付いていました。
これは嫉妬なのでしょうか。それとも憤怒なのでしょうか。
それは誰に対するものなのでしょうか。
混乱が酷過ぎて、それすらも突き詰めることができません。
どうすればいいのでしょう。
どうすればよかったのでしょう。
首に巻いていたマフラーを寄せ、口元を隠します。
どうすれば、この胸の苦しさは取り除かれるのでしょう――。
しばらくして、見慣れた景色が多くなってきました。もうすぐ自宅のマンションにつくことでしょう。
貴音「あなた様。この辺りで降ろしていただけませんか?」
P「ここでか?家の前まで送っていくぞ?」
貴音「少し、歩きたい気分なのです」
P「ん……わかったよ」
プロデューサーは車を端に止めてくださいました。
ドアを開け、車を降ります。
P「大丈夫か?」
プレゼントを入れた大きな紙袋を手に提げます。すこし重いが、運べないことはありません。
貴音「大丈夫です。本日はありがとうございます、あなた様」
P「ああ、気をつけてな」
プロデューサーの車を見送り、私も歩き出しました。
冬の夜の風は冷たく、じんわりと体温を奪っていきます。
マフラーを深く巻いて、寒さに耐えましょう。
貴音「…………」
このマフラーも、結局いつになったら二人で巻けるのでしょうか。
分かりません。
分からないことが多すぎて、もう何も考えられません……。
夜の空には綺麗な月が浮いています。
それを眺めながら、ぼんやりと帰路を歩きました。
私は今、どんな表情をしているのでしょう。
ちゃんといつも通り、平静な顔を保てているのでしょうか。
マフラーで口を隠して、表情を見られないようにします。
これなら、どんな表情をしていても大丈夫です。
貴音「…………」
………………………………。
………………………。
…………………………………………。
…………。
……。
響「お、貴音ー」
…………。
「あ、え、う……?」
声を掛けられて、混乱します。
せっかく無我になっていたのに。
どうしてここにいるのでしょう。
どうしてここにいるのですか?
「おかえり」
自宅マンションの前。玄関に小さく設けられたスペース、そこのベンチに座っているのは、間違いなく我那覇響でした。
「どうして、ここに……?」
「せっかくの貴音の誕生日だからね、ちょっと先回りして待ってたんだー」
「だから、途中で抜けて?」
「そうそう。あらかじめ解散時間は決めてたから、そこから逆算した時間で待ってたんだけど、まさか歩いて帰ってくるとは思わなかったさー」
「そうだったのですか……」
響が立ち上がり、駆け寄ってきます。
そして私の前にくると、ポケットから皮革製の何かを取り出し、私に差し出してきました。
それを受け取ります。
「これは……」
紙袋を置いて中身を確認すると、蓋のついた綺麗な銀色の懐中時計が入っていました。
「さすがに宝石とかはちょっと気が引けてね……でもでも!貴音に似合うと思って選んだんだ!」
蓋には色々な花の彫刻が施されています。
かちりと蓋を開くと、見やすい文字盤と時を刻む黒い針が。
「こういうの自分、全然知らないから伊織に相談してさ。そしたら伊織の執事の新堂さんが知り合いの人に話を通してくれて、なんとか用意出来たんだ」
「……とても、綺麗です」
蓋を閉じると、それはまるで輝く満月のようでした。
響は満面の笑みで笑って
「貴音、改めて誕生日おめでとう!」
その言葉に、私の胸の苦しみが和らぐような気がしました。
胸が温かくなります。
「……ふ、うぅ、ぐ」
「うえぇ!? た、貴音!? なんで泣いてるの!?」
気付けば涙が溢れていました。
止めようと思っても、止まりそうもありません。
二人並んでベンチに座り、涙が止まるのを待ちました。
「……ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」
「もービックリしたぞ。貴音が泣くなんて」
「…………」
自分でも不思議です。
あんなにも重かった心が軽くなっていました。
「でも、それだけ喜んでもらえたってことかな?」
「……ええ、そうですね。とても嬉しいです」
「よかったさー」
響が微笑みます。私もつられて、口を綻ばせました。
泣いた後なので、ちょっとぎこちない笑顔になっていそうですね。
でも、そんなことはどうでもいいのです。
「……響」
「んー?」
私は一度マフラーを外し、響の首へと巻きました。そして余った残りを自分に巻きます。
ずっとやりたかった巻き方が、やっとできました。
「……ちょっと恥ずかしいぞ、これ」
「そうですか? 私は好きですよ」
「そう? ならいっか」
身にしみる寒さを、身体を寄せ合って凌ぎます。
「……響、この間雪歩と買い物に行きませんでしたか?」
「ん? 行ったぞ。何で知ってるんだ?」
「仕事に行く時、ふと見かけたのです。あと、雪歩からもらった服のさいずがあまりにもぴったりだったので」
「なるほどなぁ」
これでいろいろ謎が解けました。
全く、伊織の言った通りでしたね。
「今日は貴音のウチに泊まっても良い?」
「ええ、もちろんです。うちに泊まるのは久しぶりですね」
「だねぇ。最近は忙しかったら、明日は久しぶりに二人で事務所にいくさー」
「……そうですね」
嬉しい。
こうして二人で喋り、明日の予定を決めて、笑い合う。
私が、ずっと望んでいたことです。
「……でさ、貴音は結局、自分に恋をしてたのか?」
懐かしい問いでした。
少し前のはずなのに、もう随分と遠い記憶のような気がします。
どうなのでしょう。
これは恋なのでしょうか。
改めて考えてみると、未だに答えは出ていません。
「響と会えない時、あなたのことを考えない時はありませんでした。
一緒に事務所に行けない時はとても悲しかった。
雪歩と歩いているあなたを見た時は、どうしていいのかわかりませんでした。
伊織との会話を聞いた時はちょっぴり嫉妬してしまいました。
途中で帰っていく響の姿を見た時は寂しくて胸が苦しかったです。
ここ一週間は、動揺と混乱と不安の連続でした。そんな時でもあなたと顔を合わせれば、自然と笑えました。
こうして二人きりで顔を合わせたら、胸の中の不安や混乱は消えて、今はとても嬉しい気持ちで満ちています。
――けれど、これが恋なのかはわかりませんでした」
何せ初めて経験したことなので。
私自身、まだよく分かっていません。
「それでも、私は今もあなたと一緒に過ごしたいと思っています」
「そっか……」
私の肩に、響が頭を乗せてきました。
「……自分も一緒だよ、貴音」
心臓が高鳴りましす。
嬉しくて、思わず顔が熱くなってしまいした。
響が顔を上げ、こちらを覗いてきます。
「ハッピーバースデイ、貴音。これからもずっと、ずっとずっとよろしくね」
そして、響は穏やかに微笑みました。
――――――
――――
――
誕生日から数日が経ちました。
いつものように事務所では何人かのアイドルが談笑していました。
私はソファに座り、ファッション雑誌の話題で盛り上がりっています。
貴音「…………」
ふと、懐中時計の蓋を開いて時間を確認します。そろそろお仕事の時間が近づいていました。
律子「あら、貴音。懐中時計買ったの?」
貴音「いいえ、響からいただいのです」
律子「似合ってるわよ、カッコいいじゃない」
貴音「ありがとうございます」
花の装飾が施された、銀色の懐中時計。
蓋を閉じて、ケースにしまいました。
響「貴音ー。そろそろ時間だぞー」
響が呼んでいます。準備をするとことにいたしましょう。
……ああ、そういえば。
貴音「伊織、少し頼みごとがあるのですが、大丈夫ですか?」
伊織「なに?」
貴音「この懐中時計の蓋の裏に、向日葵の模様を入れてほしいのですが……」
伊織「ひまわり? まぁ頼んでは見るけど……でもまたなんでひまわり? アンタの誕生花でもないでしょうに……」
私は笑って答えます。
貴音「知らなかったのですか? 私はいつも、太陽を見ているのですよ」
おわり
当日に投稿できてよかったー
でもちょっと最後は駆け足だったね、あと文章も長かったね、申し訳ない
読んでいただきありがとうございました。
最後に
貴音&原由実さんお誕生日おめでとうございます!!!!!!!!!!!!!!!
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