[オリジナル] 彼女達との時間 (22)
「おい、麻紀!!」
振り向く彼女に、俺は駆け寄って行った。
わきの書店の店員がこっちを見ていた……らしいが、そん時はそれどころじゃなかった。
なんとかしてご機嫌を取る、俺の最重要ミッション。
あの手この手を逡巡していた俺に、彼女は素晴らしいお言葉をかけてくれた。
「きっっっっっもい!!」
……そんなためて言う言葉じゃないだろ、トホホ……。
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「で、何か言うことないの?」
「すみませんでした。」
「…相変わらず恐ろしいスピードの謝罪ね。」
仕方ないだろ、昔からの癖なんだから。
そんなことを考えてる俺を尻目に、彼女、高須麻紀は頭に手を当て何かを思案していた。
「何考えてんの?」
「この残念極まりない性能の先輩をどう調き……、助言すべきか悩んでるの。」
「今完全に調教って言おうとしただろ!?
てかこんな時に限って先輩呼ばわりしなくてもいいだろ。幼馴染なんだし。」
「そっちこそここぞとばかりに幼馴染という禁句を使ってんじゃない。」
深いため息をつく彼女は、その…、やっぱり絵になる。
長いまつげ、整った顔立ち、154cmと小柄、顔の大きさは俺の二分の一と評判(主に俺のクラスのやつから)。
麻紀には悪いと思うけど、やっぱり見とれてしまう。だって俺だって思春期真っ盛りの男子高校生だもん!!
「キモい、それはないわ。」
「いや、思考読むなよ。雪のんか何か?」
「……このラノ一位だからといって女子高校生には認知度低いんだけど。」
じゃあなんでお前は知ってるんですかねぇ
……と言ってやりたいが、そんな事言ったら本家ばりの毒舌でメンタルやられること間違いなし。大人な俺は軽く受け流してやることにした。
「バーカバーカ!! お前だって読んでんじゃねーか!! 見栄はんな!!」
「せめて中学生レベルの悪口は身に付けて。一緒にいるこっちが泣けてくる…」
……なんかすんません。言われ慣れてるからといって自分が言えるもんじゃないの!
さて、そろそろ自己紹介としますかねぇ。
俺は村上直人。高校三年生だ。市立??高校に通ってる。
「なに急にボーっとしてるの? きもち悪いわよ? その顔。」
早くも三回気持ち悪いとの評価を俺に下している彼女は高須麻紀……ってさっき言ったか。
どうも最近は物忘れが激しい。
…………歳、だな。
高1で、俺の後輩。そんで一応幼馴染。そして何より、可愛い。ここ重要、次の麻紀検定に出るから抑えとけよ。
で、話は変わるけど……、俺がなんでさっき彼女に謝ってたかを説明したい。
「そ・れ・で、なんで私に嘘ついたの?」
「い、いや~それにはお前の胸ぐらい高い理由があり」
「私は自分の胸のなさぐらい自覚してるのよ!!!!!」
回し蹴り一閃。鳩尾にクリーンヒット!!
悶え苦しむ俺をよそに、彼女は続ける。
「あれって確か……、橘先輩でしょ?」
「あ〝、ああ……。そうだけど…」
「デレデレすんな、気持ち悪い。そんなに先輩の………がいいの?」
「あ、ごめん。一部分とある悪意によって聞こえなかった。もう一度聞かせてくれ。」
「悪意じゃなくて敵対心よ。」
今度は脛か。弁慶が耐えられない痛みに俺がたえられるか。
足を抑えて涙目になってる俺を尻目に彼女はまだ続ける。……立場ないな。
「まったく……、男はみんな胸がでかけりゃいいっての? 冗談じゃないわよ。そんなものあったところで重いだけ…」
自分の言葉で落ち込む麻紀もやっぱり可愛い。お義父さん、ホームビデオはどこですか。
俺の熱い視線に気づいた麻紀の肘が俺の鳩尾に入ったころ、俺達は目的地にたどり着いた。
……なんだ、雪ふってきたのか。
「タイミング悪いわね、もっと早くふりなさいよ…」
「なんだ、雪ふって欲しかったのか?」
「…………雪合戦とか、したかった。」
「…………ぶふっ!!」
「辞世の句は、詠めた?」
「謝罪するから俺の人生に幕下ろすのはやめてくれ。」
俺はまだやることいっぱいあるんだよ!
お前が俺の卒業式の日に泣きながら「せんぱぁい……、ぐすっ……」って言ってくれるの見たり、一緒に花見行く時のお前をお義父さんと一緒にホームビデオに収めたりと……、な?
「なんかすっごい寒気がしてきたんですけど。」
「雪のせいだな。」
「なんか白々しい……」
「てか、そろそろ家入らなくていいのか?」
「…………鈍感」
何言ってんのかよく聞こえなかった。
………は!? もしかして俺もついに難聴系ラノベ主人公体質になったのか!?
「………………」
「あの、キモいこと考えてたのは認めるから。その目はやめて。耐えれない。」
絶対零度の視線って、二次の中だけだと思ってた時期が俺にもありました。
ま、というわけで目的地ってのはこいつの家だったってわけ。
「……まあ、ここでいつまでも無駄な時間を費やすわけにもいかないし。」
「無駄ってなんだ無駄って、失礼だぞ!」
「そうね、何よりも大切な時間に失礼よね。」
「少しは俺に敬意を払ってくれ!!」
「敬意? それって敬うべき人物に示す気持ちのことでしょ? なんであんたに払わなきゃいけないのよ。定義に反してるじゃない。」
「ナチュラルに出てくる罵倒を他の対象に向けてくれっつってんの!!」
……この20分で約三回目の半泣き。男としては情けないばかりだ。
「フフッ、まあいいわ。じゃあ、また明日ね。せ・ん・ぱ・い♪」
「………お、おう。」
完全に狙ってると分かっていても、不意のことにドキッとしてしまう。
それぐらい、彼女の笑顔は魅力的なんだ。
お義父さんが麻紀の半ストーカーと化して、娘に警察に相談される一歩手前まで行くのも頷ける可愛さだ。
……お義父さん、あん時のあんたは、とても輝いてたぜ。
「あ、あとお義父さんじゃなくておじさんにして。字面相当気持ち悪いから。」
そのセリフを残し、彼女は自宅の中へ消えていった。
だからなんでお前は俺の思考を読めるんだよ………………。
「ただいま~」
誰もいない我が家に帰って来た。
あ、別に両親死んだとかそんな設定はないから。ただ共働きで帰ってくるのが遅いってだけだから。
二階の自室に入り、カバンを床に置いてベットに横たわる。
ベットっていいよね。楽、これに尽きる。
「帰ってくるなり自室にこもるって、兄貴もだめだね!」
「ああ、ただ人の部屋に勝手にいる知恵よりかはマシかなぁ。」
「えへへ」
「可愛いけど意味わからんなその返事は。」
今度は俺が溜息をつく立場のようだ。
「少年、悩むがよいわ。アハハハハ!」
「お前は老獪かなんかなのか?」
俺の可愛い可愛い妹、知恵。
ほんっとうに可愛いんだけど、最近とある病にかかってしまい……絶賛治療中だ。
……どう考えても中二病です。
誰がうつしたんだよって質問はブーメランで俺の眉間あたりに返ってきそうだからやめておこう。意外と妹って兄貴の背中を見て育つもんなんだよ。どっかのクソ親父と違ってな。
「で、ここでなにしてんの?」
「フッフッフッ……、神聖なる秘宝をさがしておるのだよ。」
「あ、そうゆうのもういいから。」
「なんか最近兄貴ノリ悪いー。ブーブー」
あ、今の拗ねた顔可愛い。脳内メモリーに保存確定ですな、ムフフ。
「兄貴、なんかキモいよ。」
「お前までキモいなんて言葉使わないでくれ……。」
必死の願いだった。いくら可愛い妹とはいえ、辛いもんは辛い。
そういえば最近、学校で教室に入る時にも女子の方々が俺に道を開けてくれることが格段に増えた気がする。
………まさか、ねぇ?
「俺がキモいってのは置いといて、結局なにしてんの?」
「エロ本漁ってる。」
「勘弁して下さい。」
「ちょ、ちょっと…。妹に淀みない動作で土下座する兄貴とか見たくないんだけど。」
「いや、ちょっと、マジで勘弁してくれ!
漫画ならいくらでも貸すから、な?」
「まあもう全部確認済みなんだけどね。」
「ノォォォォォォォォォォォ!!!!!」
終わった、全部終わった。この前母さんに
「あんた、妹物ってまずくない?」て言われたことよりこたえた。
父親には「グッジョブ!!」て言われてたけど……。てかなんで俺のエロ本事情を家族全員が知ってんだよ! プライバシーの権利はないの!?
「ないよー?」
「だからお前まで思考を読むのはやめてくれ……」
orzを自分の身体で表現するのは久しくない。
確か前やったのは……、麻紀にエロ本事情がばれた時だったか。
「幼馴染に逆レイプされるとか、ないわー……」とのことだった。取り敢えずあいつから俺の家族にエロ本事情が以心伝心していったのは間違いないだろう。
…………今度からネット中心にしよう。
取り敢えず書き溜めがここまで。
………書いてみて気づいたけど、こーゆう形式のss書くのってなかなか難しい(主にメンタルというか羞恥心というか)。
今晩また更新。
「そういや兄貴はなにしてたのー?」
なんと間抜け……可愛らしい声なんだろう。
「あぁ、センター受ける1、2年の世話してきた。」
「麻紀ちゃんのために?」
「もち、てかそれ以外はどうでもよかよか。」
「……ぶれないねー兄貴は。」
「真っ直ぐ自分の麻紀道は曲げねぇ!」
「………」
「凍てつく視線まで身につけてんのかよ…」
あれだ、俺より麻紀の妹って言った方が信憑性あるぞ。
ちなみにさっき言ったセンターってのは、一二年がやる同日受験ってやつ。塾の先生に頼まれて試験官やってきたってわけだ。まあ、麻紀が塾で受けなきゃ引き受けなかった話だけどな。
………まあバイト代でたし、よかったっちゃあよかったけど。
あ、俺は推薦で某有名大学合格してるから万事オッケー。みなさんセンター試験お疲れ様です。
「兄貴今何点ぐらい取れるの?」
「なんの話だ。」
「センターセンター。英語でいいよー。」
「なんだ英語でいいって。多分140ぐらいじゃね? 全盛期が180だったかな…」
「なんか腹立つ。」
「なんでクラスのやつらと同じこと言うんだよ。」
最近の子は成長が早いって言うけど、うちな子もそうらしいです。
「あ、麻紀ちゃんはどーだった?」
「英語116。一年なら十分だろ。」
「うん、十分だね。」
「お前は50も取れんだろーが。」
「中2に無理強いしないでよー!」
「俺が言ったのは知恵の冬休み明けテストの話なんだけど……」
お察しのとうり、この子アホです。生粋のアホです。ま、可愛いからいいんだけどな!!
そうこうしてるうちに夕飯の時間が近づいてきた。我が家では俺が夕飯担当。まさかの二次元の奴らと同じ料理スキル持ちだ。
将来的にはもこみちばりのオリーブオイル使いを目指そうと考えている。ただ、あの人のプロデュースのオリーブオイル高いんだよなぁ……。
「知恵ー、ご飯できたぞ~。」
呼んだらちゃんと来るうちの妹は、反抗期というものを通り越して育ったのである。
基本的に素直、ぜひそのまま大人になっていただきたい。
……ただ、降りてくるときに右手になにかを握りしめていた。
瞬時に体を襲う悪寒、震える足を気力で押さえつけて俺は問う。
「知恵よ、それは……なんだ?」
「ん? 兄貴のAV」
世界が音を立てて崩れていった。
暗くなる視界をビンタで明るくさせながら彼女の手からブツをかっさらう。
「あ! なにするのー!!」
「なにするのー!!じゃねぇ!! なにやってんだ! 兄貴の痴態をなぜそうも広めようとする!?」
「ご飯食べながら見ようと思って。」
「そんな不謹慎極まりないことはやめなさい!」
あらん限りの力を使って彼女を説得する。
本来なら優しく「ね? 兄貴のライフはもう0よ?」と諭す場面。しかし、今日は、今日だけはそんなことを言ってる場合じゃないのだ。
今日は、一週間に一度の特別な日。俺の憩いの日だ。それがこんなことで潰され__
「ナオー、来たわよー」
幸せの象徴は、ドアノブをひねり、俺の元へと現れた。
その目は、しかと俺の左手に注がれている。
目のハイライトが、消えて行き……
「サヨナラ」
「いや、違う!! 色々違う! お願い麻紀待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「で、どーゆうこと?」
笑顔笑顔笑顔。俺の目の前では、笑顔の処刑人が仁王立ちしている。
…………俺、死ぬのかなぁ。
「ど、どういうこととおっしゃいますと?」
「それ、今私に聞く?」
おっしゃるとうりにございます。知恵、全部お前のせいだからな。決してさっきのAVのタイトルが[堕ちてゆく幼馴染__奪われ行く快感とは]だったからじゃあ断じてない。
俺の思考をキャッチしたのか、麻紀からの重圧が五割ましになった。
どうにか、どうにかこのささやかな幸せの時を守りたい…!! 俺は俺の願いを叶えるために、彼女への言葉を紡ぐ。
「スライディング土下座でイイっすか?」
カチャカチャと、金属と陶器の当たる音が響く。
何故だ? 何故こうなった? ジンジンする両頬を押さえながらも俺は考える。
………まあ考えるまでもないよね!!
現在麻紀は俺なき今、というていで知恵と楽しく食事している。
今日の献立はオムライス、麻紀の好みのデミグラスソースがけである。卵はふわとろに仕上げないと、知恵のお眼鏡にはかなわないので俺はいつも細心の注意を払いながら作っているのだ。
……ところで先ほどから疑問に思ってるのだが……
「なあ、麻紀。」
「え? 知恵ちゃんもうあそこの新作買ったの!? 高かったんじゃないの?」
「ううん、うちには生けるATMがいるのでお金には困らないんだ! あ、麻紀ちゃんもいる?」
「ごめーん、アレ、私の趣味じゃないんだ。」
……ATMってなんだろうなぁ。
説明しよう!! 俺はいつの間にか妹の財布になっていた!!!
背景にドンッ!!とでも書かれそうな俺の決死の告白。 本当に決死に思えてくるのが残念だ。
「あ、あの~。麻紀、さん?」
「…………ア〝?」
あ、ダメだコレ。ブチ切れてますわ。
こーなった麻紀は止まらない。前こーなった時はこの家の食料という食料を全て無に帰されていた。あの細い体の何処に消えたんだろ、俺のヘソクリポテチ。
書き溜めここまで。
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