咲「麻雀放浪記」 (124)
咲「カン リンシャン、ツモりました。大星さんの責任払いでラストだね」
久「カンドラもろ乗りで倍満じゃない……おっそろしい」
淡 トップ→ラス
咲「さて、6回戦終わって清算だけど……大星さん、お金足りてる?」
淡「……カンドラは乗らないんじゃ」
咲「?誰がそんなこと言ったの?」
久「あはは」
咲「表じゃ乗せてないだけだよぉ……王牌の支配が私の能力なのに、どうしてそう思い込むのかなぁ」
久「大星さんはいくらの負けかしら?」
一「合計1200万円のマイナスだね。200万円足りないよね」
淡「……もう一回」
久「ん?」
淡「っ、サキ、お金廻して!」
咲「いいけど……返すアテはあるのかな?」
淡(4回戦までは順調だったんだ。サキがカンドラ乗せられるなら、私はその倍裏ドラを乗せてやるから)
咲「夜は長いよ……ゆっくり打とうよ、淡ちゃん……」
久「で、合計7000万の負債ねぇ」
一「相変わらず宮永さんは強いなぁ……じゃあ、ボクはこれで」
淡「ウソ……私が競り負けるなんて……」
咲「で、返してくれるのかな?お金。」
淡「……1ヶ月待って。稼いでくるから」
咲「何で?」
淡「麻雀」
咲「冗談がうまいなあ、淡ちゃんは。」
淡「久!もっと高レート紹介して!」
久「やあねぇ。あなた、もう種銭もないじゃない……まあ、ソッチの仕事ならいくらでも紹介してあげられるけど」ボソ
無謀な賭け麻雀によって淡は莫大な負債を背負わされてしまった……
淡(じゃあ、どうすれば……)
咲「……」
久「ふー……この場合、黙っても仕方ないんじゃないかしら?ねぇ、マコ」
まこ「そうじゃのぉ。ワシはあくまで場を貸しとるだけじゃから、客に金も廻さんし、その手のトラブルはお客さん同士に任せとるんじゃが……」
まこ「どーしても解決せんっちゅうんじゃ、その筋の人に間に入ってもらって」
咲「あわわ、染谷先輩、いいですよぉ。先輩の手、煩わせるまでもないです。それに、もう来てもらいますから」
姉帯「遅くなってごめんねー宮永さん。一応事務所のお金持ってきたけどー……その様子じゃ勝ったみたいだねー」
淡「ひっ」
姉帯「そんな怖がらないでよー……で、お金足りないみたいだね、どうする宮永さん?」
咲「とりあえず淡ちゃんから何かないかな?」
淡「もう少し……待ってください……お金、借りてきます……」
咲「誰から?」
淡「テルやスミレ……昔の知り合いから……」
咲「じゃあ、今すぐ電話してお金持ってきてもらってよ」
淡は手を震わせながら携帯電話を取り出した
淡「もしもし……スミレ?夜遅くにごめん……もう2時?あはは……」
淡「ちょっとお金貸してくれない?……うん……」
淡「そう……えっと7000……あ、もちろん、他の人にも頼んでみるけど」
淡「7000円じゃなくて、7000万円……え、無理?……うん、ごめん……」
淡「もしもし……あ、やっと繋がった、テルー……お金貸して?」
淡「7000万円!ちょっと急いで必要!……あ、無理……ごめん……」
淡「もしもし、尭深?お金貸して!大至急!7000万円!」
淡「セーコー……お金貸してぇ……」
淡「テルー、やっぱり無理かな?本当に、ないとヤバい……っ、この薄情者!」
淡「はぁ、はぁ……」
久「無理みたいね」
淡「どうすれば……」
咲「どうすればって、困るのはこっちだよぉ」
チックッタク チックッタク チックッタク
久「もう3時よ……いい加減、なんとかしないとね、大星さん」
姉帯「竹井さんのお店で働けばー?」
久「そうねぇ、7000万だと返すのに20年はかかるわね……利子とかも含めたら多分それ以上……そんなに働けないし」
久「確か、知り合いの監督が若い娘探してたから、そこに売ってみる?すっごいハードなやつだけど」ケラケラ
淡「っ……!」
久「あら、生娘じゃあるまいし、女がお金に困ったら、どうすればいいかくらいわかるでしょ?」
淡「勘弁してください……」
久「ウチの店にも何人かいるわ。夢も希望もぜーんぶ奪われて、毎日荷馬車のように働いてるわよ……ねえ、咲?」
咲「あはは……罪悪感あるんですよ、私にも」
姉帯「とりあえず、事務所に連れてく?ここじゃ染谷さんにも迷惑だし―」
淡「ごめんなさい」
淡は目に涙をため、深々と頭を下げた。
久「やっと言えたわね……でもねぇ……そんなまるで遅刻を詫びるみたいに謝っても。7000万円よ?人一人の命が買える額よ?」
淡「ぅぅ……」
淡が膝を床につけようとしたその時だった……!
咲「待って、淡ちゃん」
淡「サキ……?」
咲「まだ淡ちゃんから取り立ててないものがあった」
淡「?」
咲「その制服!白糸台のでしょ。ねえ、部長、たしかそういうお店ってありますよね?」
久「あー……あるわよ。白糸台はお嬢様学校だし、下着と写真付きで10万円くらいで売れたかしら?」
咲「じゃあ、とりあえず淡ちゃん。10万円、今すぐ返して。」
それから10分後。換気扇が静かに回る雀荘Roof-Top東京支店(マンション)の煌々とした明かりの下で、淡は身ぐるみを剥がされて土下座していた。
久「性交とはまた別の快感ね、これを見るのは。気持ちいでしょ、咲。さっきまで戦ってた相手をこうやって汚い地べたに這いつくばらせるのは」
まこ「ウチは毎日掃除しとるぞ」
久「咲が来る日だけは掃除しないでよ、まこ」
まこ「そげなこと言うても」
淡「……っ……っ……うぅ……」
久「あら、泣いてるの?泣き止むまで顔あげちゃダメよ?女の涙は武器なんだから」
咲「でも、こんなことしてもお金は返せないよね、淡ちゃん」
久「どうするの、咲?」
咲「とりあえずー……少しずつ返してもらいましょうか、淡ちゃん、顔上げて?」
淡「くっ……うぅぅ……」
咲「姉帯さん、足は?」
姉帯「智美ちゃんに送ってもらったよー今もマンションの駐車場で待っててもらってるけどー?」
咲「じゃあ、淡ちゃん、一緒に行こうか?」
淡「あ、あの、服は?」
咲「?淡ちゃん、お金ないんでしょ?」
久「あらあら」
まこ「毎度あり。アンタも今度は身の丈にあった額で打ちんさいよ」
淡は裸のまま、駐車場の車に連れて行かれたのだった……
智美「可愛い子だな、ワハハ」
姉帯「ねー!外国人みたいな綺麗な髪!」
久「見とれてないで安全運転でお願いね。」
黒塗りの車の座席
咲 ワ
姉 淡 久
久「ねえ、咲、着くまで触ってていいかしら?もー我慢出来ないわ!」
咲「部長、ちょっと待って下さいよぉ」
淡(どこに連れて行く気だろ……事務所?それとも……そういうホテル?)
智美「あと少しでつくからそれまでの我慢なー」
久「安全運転でね!」
一行が着いたのは日本一の繁華街の表通りだった……
久「そろそろ4時ね。でも人がたくさんいるわね、さすが不夜城」
淡「あ、あの」
智美「着いたぞ―」
姉帯「さ、下りるよ、大星さん」
淡「え?え?人が?」
咲「スモーク張ってるから中は見えないよ」
淡「で、でも」
姉帯「さー下りた下りた」
下りたのは姉帯と淡だけだった。
淡(うっ……ジロジロ見られてる……なんでこんなことに……)
姉帯「えーっと、小道具はトランクの中だね」
淡(やだ、何されるの……これから……)
夜の寒い風が淡の体を抜けていく。
姉帯「はい、これでお金稼いで?」
淡「カンカンと……立て札……『お金を恵んでください』……え?え?」
姉帯「頑張ってね、大星さん」
淡「ゆ、許して!許してください!」
姉帯「大丈夫、大丈夫!大星さんに手出そうとしたら私が止めるから!そこで、さっきの雀荘でやったみたく、ね?」
淡「サキ!サキ!許して!許して!なんでもするから!」ドンドン
姉帯「高いクルマだからあんまり叩かないでよーそれになんでもするなら変わらないんじゃない?」
淡「サキィ~~~~~」
咲「頑張ってね、淡ちゃん……7000万円、あ、6990万円か」
淡編 終わり
Roof-top東京支店
久「ロン!18000!いやー、久しぶりに咲から出たわ~」
咲「はい。その待ち、強いですねぇ」
久「あら、ただの地獄単騎よ?」
咲「ワンゲーム100万単位で動く麻雀でその巡目その手でリーチする人はいませんよぉ」
藤田「相変わらずだな、竹井は」
咏「ちょーバイオレンスだねぃ、ウチのチームに入らないかい?久ちゃん?」
久「あはは……まだ自由の身でいたいんで」
藤田「おっ、ツモ。これでラスト」
久「あちゃー、やっぱさすがプロ!」
咲「……辻垣内さんのところだと、ネリー・ヴィルサラーぜ……」
咏「サカルトヴェロの奇跡、か。あの子もウチに欲しいんだよねぃ」
藤田「まるで魔物のバーゲンセールだな、近頃は」
咲「ネリーちゃんかぁ……」
久「どうする?咲?狩りに行く?」
藤田「やめとけ、やけどするぞ」
咏「アハハ、藤田さん、こいつら、言っても止めないと思うよ」
咲「うーん……どうしようかなぁ」
一「あー、もしもし、竹井さん?」
久「久しぶりね、何かしら?」
一「いやー、ボクのところに人づてで連絡あったよ、辻垣内さんのところから」
久「あちゃー、思ったより早かったわね」
一「今度は何やらかしたのさ!」
久「うーん、色々、としか」
一「はぁ。ボクもこれ以上あなたたちと付き合うと商売不味くなるかもなぁ」
久「え?え?そんなつれないこと言わないでよ!」
一「あー、もしもし、竹井さん?」
久「久しぶりね、何かしら?」
一「いやー、ボクのところに人づてで連絡あったよ、辻垣内さんのところから」
久「あちゃー、思ったより早かったわね」
一「今度は何やらかしたのさ!」
久「うーん、色々、としか」
一「はぁ。ボクもこれ以上あなたたちと付き合うと商売不味くなるかもなぁ」
久「え?え?そんなつれないこと言わないでよ!」
一「要件を言うね。辻垣内さんは、竹井久と宮永咲の東京追放を要求しているよ」
久「ふーん、やっぱりそう来るか」
一「1週間以内に東京を出て行かないと命の保証は出来ないって」
久「それは困ったわね」
一「あんまり困っているように見えないけど」
久「いや、ほんと、死にたくないわ。」
一「いつ刺されてもおかしくない癖に」
久「そこら辺は上手くやってるわよ」ケラケラ
一「で、どうするの?黙って出てくタマでもないでしょ?」
久「先方にその要求を飲むこちらの条件を伝えてくれないかしら」
一「いいけど、ボクが出来るのはそこまでだよ?」
久「東京での最後の麻雀がしたいのよ。辻垣内さんと。2対2のデスマッチ」
一「それで東京残留を賭けるの?向こうは乗らないと思うけどなぁ……」
久「いやいや、東京からは出てくわよ。すっごくすっごく残念だけど。辻垣内さんに睨まれたら仕方ないわ」
一「うーん」
久「それに、辻垣内さんも根っからの麻雀打ち。絶対乗ってくれるわよ」
一「2対2ならネリーが絶対来ると思うけど」
久「それならそれでいいわ。こっちにも咲がいるし」
一「で、何を賭けるの?お金?」
久「賭けたいのは、お互いの人権よ」
ダヴァン「馬鹿げてますね、お互いの人権なんて。素直に出て行けばいいものを」
辻垣内「……」
ダヴァン「サトハ!断りの連絡を入れておきますよ!」
辻垣内「……いや、待て。竹井から送られてきたこの条件……6回戦で竹井久と私の成績を競う。純粋な競技麻雀だ」
辻垣内「私は明らかに竹井より打てるだろう。そして宮永咲より強いのがネリーだ」
ダヴァン「ネリーを使いますか、ここで……少し場違いでは?」
辻垣内「そもそも私はあの二人を生きて東京から出すことには反対だったんだ。あの二人が東京でしでかしたことを考えれば、とても許しておく気にはなれないな」
ダヴァン「それがジャパニーズ・ジンギってやつですか?」
辻垣内「老人たちは甘すぎるのさ」
久「いくつか条件が付いているけど、基本的にOKだそうよ」
咲「そうですか」
久「まあ、勝っても東京から出て行くことになるんだけどね、そこは辻垣内さん一人ではどうしようもないと思っていたけど」
久「辻垣内さんなら自分の命を賭けてでも、私達を殺しに来ると思ったから」
咲「それが任侠ってやつですよね、馬鹿だなぁ」
久「咲、それ彼女の前で言ったらその場で斬り殺されるわよ」
咲「ひっ……気をつけなきゃ」
久「でも東京から追放は痛いわね……可愛い子が……」
咲「勝ったら大阪で祝勝会しましょうよ、あそこなら辻垣内さんのとこの影響もないし、美味しい店、末原さんに紹介してもらいましょう!」
久「大阪……いいわね」
港区 ホテル臨海 最上階
ダヴァン「揃ったようですね、では、この勝負を見届けます、Megan Davan(メガン・ダヴァン)と」
純「龍門渕の使い、井上純です」
ダヴァン「ルールは別紙の通り、6半荘の辻垣内智葉と竹井久のスコアを競います」
ダヴァン「辻垣内智葉が勝った場合、竹井久と宮永咲はその人権を譲渡します。竹井久が勝った場合は辻垣内智葉の人権を譲渡します」
ネリー「ネリーはいいの?」
ダヴァン「それが大人のバランスなのです、ネリー。あなたの命はそこまで安くありませんよ」
ネリー「お金くれたらネリーが変わってあげてもいいよ、サトハ!」
智葉「お前の命は金では買えないよ」
久「ネリー・ヴィルサラーゼ……近くで見ると迫力あるわねぇ、ちっこいくせに……咲、アンタ昔こんなのとヤッたの?」
咲「ええ、楽しかったですよ」
純(オレの見立てでも、この中でネリー・ヴィルサラーゼが図抜けているのはわかる……どうするつもりだ、竹井。辻垣内一人でも厄介なのに)
ダヴァン「では、誓約書に血判を」
ネリー「ネリー、痛いのいやだよ!」
ダヴァン「我慢なさい、ネリー、これはジャパニーズ・ジンギです!」
久「あはは……この瞬間、ドキドキするわ」
咲「大丈夫ですか?」
久「自分の命が、宙ぶらりんになる瞬間……やめられないのよねぇ……咲、あなたが居なかったら私は途中でくたばってたわね」
咲「らしくないですよ、部長」
久「私って、大舞台弱いからね……頼むわよ、咲」
ダヴァン「心配ですか?Mr.イノウエ」
純「あんた、分かってて言ってるだろ……まあいいや。透華が信じた竹井を信じる。それがオレの仕事だからな」
ダヴァン「あの二人はアクマです!オニです!鬼退治はモモタロウの仕事で、サトハはモモタロウですよ」
純「まー、あいつらが悪魔で、鬼だっていうのは同意する」
ダヴァン「東京では酷いことばかり……たくさんのヒトが悲しみました……裏の世界にもルールはあります、それをあの二人は破ったのです」
純「だからその報いは受けるだろう」
ダヴァン「サトハは殺すと決めたら必ず殺しますよ」
純「さて……カギを握るのはやはり魔物二人……ネリーと宮永か」
ダヴァン「南一局……ここまでは臨海有利に進んでますね、タケイは17000点、対するサトハは34000点。ネリーと宮永は原点付近ですか」
純「……竹井久はスロースターターだからな、あのインハイもそうだった」
ダヴァン「サトハの前で悠長に構えていると死にますよ?」
純「それにしても、ネリー……」
純(サカルトヴェロの生ける伝説、ネリー・ヴィルサラーゼ。一人であの戦争を終わらせ、故郷に平和をもたらした話はあまりにも有名だ)
純(巨大な石油利権のバランスブレーカー。大勝負では鬼のように強いと聞く。今では世界の暗黒街の切り札だ……勝てるのか、竹井!)
ダヴァン「ちなみに、ネリーはこの手の勝負に負けたことはありません。きっちり仕事をこなしてくれますよ?」
南4局 オーラス
純(竹井が12000点。辻垣内が35000点。……まだネリーと宮永は原点付近か。)
智葉(ふむ……ここで張ったか……いい流れだ。ダマでも満貫)
咲「カン」
智葉(さっきからカンばかり……ただし、ここで状況が変わる。宮永はここでは和了れないが、狙いはカンドラだろう。東2局では竹井のクソ手が宮永のカンドラで満貫に化けた)
久「リーチ!」
智葉(やはりドラ麻雀か。粘ったり躱したりをせず、愚直に前に進む……確かに私とネリーを前にして手役のスピードで競うのは馬鹿げているか)
智葉(だがお前らが和了る前に、ネリーが私に差し込めば、それで決する。一手遅かったな、それが命取り!)
ネリー「北だよ!安牌安牌」
智葉(……?ネリー?ないのか、私の当たり牌が)
智葉(ツモはドラ……これは…切れないな。なら、暗刻で抱えた南を切って)
打 南
ネリー「サトハは変わったね」
智葉「?」
ネリー「大人になったんだね、サトハは。昔のあなたなら、ここで南は絶対切らなかったし、この勝負に私を呼んだりしなかった」
智葉「ネリー?」
ネリー「そして、私がお金で動く人間だと嫌というほど知りながら、昔のよしみで手を貸してくれると信じて、いや甘えて……昔と同じ額しか出さなかった」
ネリー「悲しいよ、サトハ。ロンだよ、それ。国士無双で32000点。これで終わり」
智葉「ネリーィィィイィィイ!!!!!」
ダヴァン「ネリー!!何を!!!」
久「いやー、危なかったわね」
咲「部長、その手テンパッてないでしょ?」
久「あはは、バレちゃった?でも、対面さんは騙されてくれたみたいだけど?」
純「ま、まさか!」
咲「正直、ネリーちゃんには勝てないよ、私達じゃ。でも、だからこそ打つ手はある」
ダヴァン「これは、これは、ジャパニーズ・フギリ(不義理)!ネリー、あなた……」
ネリー「でも、もう私をあなた達は殺せない。私を殺しちゃ、大物たちが黙ってないよ」
ネリー「それに、サキとヒサはサトハの15倍の額のお金をくれたよ?これが私の相場だよ、サトハ!」
久「いやー、東京で稼いだ貯金がスッカラカンよ」
智葉「いや……私は……ネリー……友達だと……」
久「さて、一回戦終わってあと五回……大分余裕が出来たわね」
咲「正直、彼女の動きは読めませんでしたから、今は少し楽になりましたね」
智葉「あっ……あっ……」
ネリー「今のサトハ、カッコ悪いよ!」
純「ルールにはこの場合は規定されていないな……差し込みありなら、味方から和了るのも何ら問題ない」
ダヴァン「そうですね……やっぱりアクマとオニです」
智葉「私は……ただ、お前たちが許せなかっただけなんだ……私の愛した東京を汚したお前たちが……」
ネリー「裏の世界にルールはないよ、それに私はただ遊びたいだけ。
さっき私、言ったよね?お金出してくれたらサトハと変わるよ?って。あの時変わってくれたら、私は本気で打ったと思うよ!」
智葉「ネリー!金か!金なら、あいつらの倍出す!頼む、ネリー!」
ダヴァン「サトハ、もういいんです!もういいんです……」
ネリー「結局、サトハは私のこと、なーにも分かってないんだね!さあ、次の半荘、さくさく行こう!」
咲「そうですよ、まだ勝負は終わってない」
久「私も気を引き締めてかなくちゃね」
ネリー「サトハ、ここからは私も本気で打つよ!昔みたいに、命の削り合い、やろうよ!」
智葉「うっ……うぅうう……」
久「そういえば、前から思っていたんだけど、辻垣内さんってメガネ外して髪下ろしたら可愛いわよね」
咲「え?そーなんですか?」
久「いやー、楽しみだわ……あなたをめちゃくちゃに出来るなんて……東京最後の夜に」
智葉(勝てるのか……ネリー抜きで……いや……昔の私なら)
ネリー「そう、昔のあなたなら」
サトハ編 終わり
末原「はるばるよー来たな、大阪に」
咲「すみません、末原さん、ちょっと東京で色々ありまして」
宮永咲と竹井久を新大阪駅で迎えたのは、少しだけ年をとった末原恭子だった。
久「悪いわね、末原さん」
末原「困ったときはお互い様や、今日はミナミでパーッと飲もうや!」
昔より少しだけ明るくなった末原恭子である。
深夜 3時 ミナミの小さな居酒屋
末原「なんやぁ、宮永ぁ、アンタ煙草吸うんか?」
末原「インハイ出場停止食らってまうで!あ、なら姫松の優勝や!姫松高校ばんざーい!」
咲「末原さん、ちょっと、ちょっと静かに」
末原「あ?あんたらが文無しやから今日の会計誰持ちか言うてみ?」
咲「す、末原さんです……」
末原「あ~~~?もっと大きな声で言わんかい、ボケェ!」
咲「末原恭子大先輩です!!!」
末原「わかっとんならいいんじゃボケ……ウィ~~」
咲(部長は二次会終わったら路上で女の子見つけて夜の街に消えちゃうし……私がこの酔っぱらいの面倒みなくちゃいけないなんて)
末原「ウィ~ウチが大将張っとった姫松はなぁ、そら、強かったでぇ……なあ、宮永!」
咲「はいはい」
末原「……なあ、宮永。あンたまだ麻雀打っとるんか?」
咲「はい。と言ってもお遊び程度ですけど」
末原「そうか……あんたも変わらんなぁ……胸のほうも」
咲「ひゃっ!やめてください、末原さん!」
末原「ええやないか~ええやないか~ほれほれ」
咲「ちょ、ちょっと!」
末原「ん?なんやこれ?小汚い桐の箱やなぁ」
末原恭子は咲のポケットをまさぐって小さな木箱を見つけた。
咲「指です。」
末原「あぁ、ホンマ、指やな」
咲「?驚かないんですか?」
末原「あんたらの悪評はこっちまで届いとるで、これ、辻垣内のお袋さんの指やろ?」
咲「はい」
末原「ホンマは主将もゆーこも絹ちゃんも……あとデコッパチも呼ぼうと思ったんやけどなぁ……」
咲「いいですよ、私、話したことあるの末原さんしかいないし……」
末原「洋榎は竹井に会いたがっとったで、まあ、これも昔の話やけどな」
末原「おい、宮永、そんな煙草吸っとると癌になるで」
末原「……まあええか。あんたは癌で死ぬタマやないしな」
末原「ん……もう昼か」
末原が目覚めたのは小汚いドヤのホテルの一室だった。
末原「置き手紙……何々、酔っ払った末原さんをここまで運びました。お財布の中のお金は少しだけ借りていきます。さき」
末原「ボケ、小銭しか残ってないやん……はぁ……」
久「ねえ咲」
咲「なんですか部長」
久「大阪も思ったほど住みやすくないわね」
咲「最初はそんなもんじゃないですか?」
久「なーんか嫌な感じがするのよねぇ、大阪入ってから」
咲「かわいい女の子抱いてないんですか?紹介しますよ?」
久「うーん……なんか違うのよねぇ……こう、東京でめちゃくちゃやってた時に比べて、スリルが足りないっていうか」
咲「……」
久「ゾクゾクしないのよねぇ……」
咲はこの時思った。もう部長とも手を切るべき時が近づいていると。これは魔物の直感だった。
しかし、咲が思ったよりも歯車が狂いだすのは早かった。
久「もしもし咲?私だけど」
夜中、突然の電話。咲はホテルに一人で居たが、この時はどうやって部長に縁切りを伝えるか悩んでいた。
久「……すっごく面白いヤマを見つけたの……一緒にやらない?」
甘い部長の声。咲は唾を飲んだ。
咲「で、でも、今は……まだ東京のほとぼりも冷めてませんし」
久「らしくないわね。話だけでも聞いてよぉ」
咲「もう……話だけですよ?」
咲は優しかった。否、魔物にしては優しすぎた。
久「ありがと……じゃあ、場所を伝えるわね」
部長に教えられた場所は、大阪の中心からタクシーで1時間程離れたところにある某国の大使館だった。
近くに大きなゴミの焼却場があるのか、そこはいやに生臭かった。
咲「宮永です」
警備員に伝えると、無言で車が通された。
内装がやけに豪華な大使館の屋敷の中に入ると、咲は自分がお姫様であるかのような錯覚を覚えた。
大使館の地下に咲は通された。そして、その一室に部長がいた。
久「ニーハオ、咲。来てくれてありがと」
咲は直感した。ここは胃袋だ。巨大な食虫植物の胃袋の中だ。
赤阪「宮永さん。話は色々聞いとるでぇ~ウェルカムトゥーオーサーカ」
久「この人、私の最後のインハイの時の、姫松高校の監督だって。」
赤阪「ノンノン、正式には監督代行やけどなぁ~まあ、洋榎ちゃんや末原ちゃんの恩師やで~」
咲「……」
赤阪「固いなぁ、咲ちゃ~ん、ウチらお仲間やん。たぁ~くさんわる~いことやってきたやろ?」
赤阪「今回も一緒に乱れようや……なあ、久ちゃん」
久「まあ、咲は用心深いのよ。だから、私は信用しているんだけどね」
赤阪「なら、まずビデオを見せなアカンかぁ~きぃ~っと気に入ってくれるで~」
赤阪「咲ちゃんはたくさん女の子喰ってきたんやろから、ウチのとっておきのコレクションを見せなアカンか」
赤阪「えぇっと、どこやろ……あった」
赤阪「ほな、再生するで~」
「あんっあんっあぁぁあ……」
咲「見せたいのはハメ撮りですか?そんなのもう間に合ってますんで……」
赤阪「つれないなぁ~ま、ただのハメ撮りちゃうでぇ~」
「ひゃっ、んっ……ダメェ……はやりのおっぱい苛めないでぇ……あぁん」
はやり「イクっ、イクゥ~」
咲「牌のお姉さん…?」
赤阪「せやで。あの子がまだ24歳、ピチピチのお姉さんだった頃のやで」
久「すごいわね……テレビでは澄ました顔の瑞原プロが……」
赤阪「そして、これが誓約書や」
久「何々、私瑞原はやりは生涯赤阪郁乃様の性奴隷となることを誓います。……この朱印……もしかして」
赤阪「そうや。在りし日のはやりんのオメコの判や。ここでウチに負けてぇ~一生歯向かえんようにたぁ~くさん弱み握っとるで~っと言ってもこの誓約書がある限り絶対にウチの奴隷やけどな」
赤阪「そんなはやりんがテレビの前では牌のお姉さん……子どもたちに慕われるって……いひひ……」
赤阪「めっちゃくちゃに犯した翌日、声を枯らしながら仕事をしとるの見て、かわええ奴隷やなぁと思ったで~」
赤阪「ネットでも色々疑われてなぁ……次の日、はやりんが土下座をしてもう二度と仕事の前にしないでくれって懇願された時~」
赤阪「代わりに玩具を入れて仕事させてやったり~二度と逆らわんように~見知らぬ男に犯させてやったり~ああ、もうたくさんしたなぁ」
赤阪「仕事辞めるって泣いとったらしいわ、でも、ウチの命令には刃向かえんから~生涯牌のお姉さんやるように命じて、今でも頑張っとるで。もうウチは抱いてないけどな」
赤阪「他にもたくさんプロを飼っとるで……裏表、洋の東西を問わず……」
咲「で、私達はその餌って訳ですか?」
赤阪「ちゃうで~。そもそもウチはもう場を提供しているだけだし~ウチももう年をとった」
赤阪「定期的にこうやって、同じ匂いのする人間を集めてぇ~魂賭けて麻雀やってるだけや。参加する、しないはあくまで咲ちゃんの自由やで。
それに初回特典や……もし負けずに帰ってこれたら、ウチが飼ってるプロ、一人あげるやで~お得やろ~」
咲「部長はやるんですか?」
久「もちのロンよ。まあ、もうルールは聞いたんだけど、この扉の奥に言ったらもう咲とは敵同士ね。」
咲「そーいう縁切りの仕方もあったんですね」
久「そうよ?私が気が付かない訳ないじゃない……最近の咲の気持ちに」
咲「ともかく、私は降ります。もう部長とも会うこともないでしょう」
赤阪「自信ないんか?咲ちゃ~ん」
咲「煽っても無駄ですよ。……ひどい予感がするんです。危険牌を積もった時のような、こびりつくような不安が」
赤阪「ならしゃーないな。お一人様、お帰りや」
咲「じゃあ、失礼します!」
咲が帰りの扉を出ようとした時だった。
照「……咲?」
照「……いつかどこかで会うと思ってた」
咲「……っ」
照「何か言いたそうだね、咲」
咲「おねーちゃんは表の人間でしょ?こっちに何の用?」
照「この地下にいるよ」
咲「?」
照「小鍛治健夜」
咲「まさか」
照「そう。私達家族の敵」
照「魂を賭けてでも……私は戦う。」
大阪編 終わり
エピローグ
咲「ロン!店長、3900です」
花田「相変わらずすばらな麻雀打ちますねぇ」
それから一年……咲は九州の小さな雀荘で打ち子をやっていた。
レートは点2。勝ったり負けたりを繰り返し、基本的にはその店のウェイターをやって生きるお金を稼いでいる。
恒子『ふくよかじゃない福与恒子と』
すこやん『すこやかじゃない小鍛治健夜の……』
恒子すこやん『インハイレディオ!!』
あれから部長の消息は聞かない。表の世界から裏は見えない。咲はかつての友の無事を信じている。
姉の勝負の結果もまた、闇の中だ。小鍛治健夜はいつものようにメディアに出るし、姉もまた時折大きなタイトルを手に入れたというニュースが咲の耳にも入る。
咲が地獄に沈めた女の子たちの話も、遠い九州の地にいる咲の耳には届かない。
今日は咲の店に一人の珍客が来た。
花田「今日は私の昔の後輩、すばらなプロにお越し頂きました!!」
客A「おぉ、原村プロじゃ」
客B「ばってん最近あんまり話し聞かんけど」
原村「お呼ばれしました、原村和です。今日はよろしくお願いします」
咲は目を合わせない。咲の卓に和が座り、軽く一礼し、いつものように麻雀を打つ。
客A「原村プロ、これがこの店のエースですよ」
咲「よろしくお願いします。同卓できて光栄です」
原村「よろしく。では、仮親を」
出会いがあれば別れもある。因果な人生だと、咲は思った。
原村「咲さん、あなたのツモですよ」
咲「う、うん、和ちゃん……あっ」
カン!
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