P「やっぱり伊織と結婚するべきだよな」(172)
小鳥「伊織ちゃんと? もしかしてお金目当てですか?」
P「はい」
小鳥(断言された……)
P「ということで伊織に告白しようと思うんですけど?」
小鳥「それはちょっとどうかと……」
P「あー、やっぱりまずいですよね」
小鳥「ええ、世間体とか考えると色々と」
P「それ以前の問題ですよ」
小鳥「え?」
P「実は雪歩と付き合ってるんです」
小鳥「ピヨ?」
P「まず雪歩と別れないと結婚できないですよね」
小鳥「いつから?」
P「え?」
小鳥「いつから雪歩ちゃんと付き合ってたんですか?」
P「もうずっと前から」
小鳥「……」
雪歩「……プロデューサー。
伊織ちゃんと結婚したいんですか?」
P「おう。やっぱ世の中金だよな」
雪歩「……ひどいですよぉ。
私のお父さんも認めてくれた仲だったのに」
春香(修羅場の予感……)
雪歩はしくしくと泣き始めた……
うつろな目をしながら、スコップを振り上げたところで、
さすがのPも異常事態を悟った。
P「待ってくれ!! 雪歩には愛人ポジが残ってるじゃないか!!」
ズゴオオオオン!!
Pはスコップの一撃を喰らい、窓から外へと吹き飛んだ!!
春香「ガラスの修繕費とか誰が払うんでしょうね」
小鳥「全部Pに任せればいいと思うわ」
雪歩「しくしく……。もうあんな人知らないですぅ。
これからグルメ番組の収録に行ってきます」
小鳥「ええ、気を付けていくのよ」
Pは路上で目を覚ました。
強烈な一撃を喰らってもまだ生きていたのだ。
真美「兄ちゃん? そんなところで寝てたら
渋滞の原因になっちゃうYO?」
P「ん? ああ……。真美か」
真美「なんで頭から血を流してんの?」
P「ちょっと個人的な事情でな。
あっ、そうだ。真美にも言っておかないとな」
真美「?」
P「実は伊織と結婚することになったから別れてくれないか?」
真美「」
つまり真美は俺の愛人的な存在だったんだが、
向こうが勝手に恋人だと勘違いしてやがる。
この際、はっきり気持ちを伝えるのも悪くないだろ?
P「つーわけだ。世の中お金が一番だよね」
真美「」
P「真美のことは今でも好きだよ?
でもお金の誘惑には逆らえないよな?」
真美「わ、分かった。実はドッキリなんでしょ?」
P「おいおい。これが嘘をついてる人間の顔に見えるか?
俺はお金のことに関しては嘘をつかない」
真美「……兄ちゃんが血を流してるのってさ、
もしかして他の女に殴られたからでしょ?」
……思わず震えた。なんて鋭い洞察をしやがる。
真美「その傷はたぶんスコップだよね?
てことはユキぴょんにやられたのかな?」
事実だったが、これ以上余計なことを口にするつもりはない。
P「何を言ってるのか知らんが、おまえとは今日で終わりだ。
今後は仕事に関係ないことで話しかけてくるのは止めてくれよ?」
真美「……」
P「お、おい、聞いているのか?」
重い沈黙は、真美の怒りを表してるかのようだった。
なんていうか、俺が悪かったみたいな気持ちになってくる。
真美よ。まるで悪い人を見るような目で俺を見てこないでくれ。
真美「兄ちゃんはさ……」
P「なんだ?」
真美「真美のこと、高校生になったら真剣に相手してくれるって
言ったよね? 他の女には興味ないって言ったよね?
全部嘘だったってこと?」
あの時は俺も若かった。真美と寝るための口実だよ。
そのことを正直に伝えると、さらに強い殺気を感じた。
P「あのさ、もしかして怒ってる?」
真美「これが怒ってないように見える?」
俺は自分の気持ちを偽らない素晴らしいPなんだぞ?
なんで真美に怒られないといけないのか、理解に苦しむ。
真美「いっそ……この手で……」
P「あ? おまえも雪歩みたいに俺を殴るつもりか?」
真美「兄ちゃんは反省したほうが良いと思う」
P「なんだそりゃ? ああそうか。おまえは俺が
悪いって言いたいんだよな? なら好きなだけ殴れよ」
真美「……?」
P「俺は一切手をださない。あとで律子に問いただされたら、
全部真美が悪いって証言してやる。それで良ければ殴れ」
俺はごく普通のPだ。
真面目だし、アイドルたちのことをつねに考えて行動してる。
だから殴られる理由なんて何もないと確信して……
P「ぐあああああああああ!!」
最近の女子中学生はこんなに狂暴になっちまったのか?
俺は情けない声を上げながら数メートル吹き飛ばされてしまった。
真美「うわああん、兄ちゃんのばかあああああ!!」
P「うぐっ……ぐふっ……!! ぬわあああああ!!」
真美のバカ野郎は、俺にストレートを食らわしただけでは飽き足らず、
馬乗りになって拳を振り上げてきやがる……。
なんで俺がこんな目に合わないといけないんだ?
いい加減にしないと警察に通報してやるぞ!!
P「うわああああん!! 僕が悪かったです!! もう許してええ!!」
真美「そのしゃべりかた、キモいよ兄ちゃん」
もちろん泣き叫んだのは演技だ。
ドン引きしてる間が命取りだぞ真美。
真美「わああっ!! 兄ちゃんに突き飛ばされたああ!!」
P「へへーん。ざまあねえな。
俺は仕事に戻るからねー。さいならー」
真美「置いてかないでよおおおお!!」
プップー プー
クラクションの音。
そいうえば俺たちは路上で喧嘩してたのか。
交差点では軽い交通状態が起きてるようだな。
冷静に考えれば全部真美のせいだから気にしないことにする。
事務所に戻ってホワイトボードを確認するぞ。
P「ふむ。今日は雪歩が料理番組に出るのか」
だが肝心の雪歩がいないぞ?
小鳥「雪歩ちゃんなら一人で出発しちゃいましたよ?」
なんて勝手な行動をとりやがる。
最近の女子高生のモラルはどうなってんだ?
小鳥「あと……お父さんに今日のこと報告するって言ってましたよ?」
寒気がするのはなぜだ?
春香「雪歩に謝った方がいいと思いますよ?」
P「しかし、雪歩の遅い反抗期に付き合ってやるのもな……」
春香「どっちかと言うとPさんが反抗期なんじゃないですか?」
P「また説教するつもりか? 豆腐メンタルなんだから勘弁してくれ。
あんまり怒られると転職先探しちゃうぞ?」
春香(うわっ、この人まじでウザい)
小鳥(Pさん、どうしてこんなにクズになっちゃったんですか)
P(俺の豆腐を傷つけないでくれって)
春香(ちょ……心の中に!!)
アイドルと結婚したPなんて現実世界でもいるんだぞ。
こんだけ人数の多い事務所で、結婚相手を見つけるのが
そんなに不自然か? 俺はむしろ良いと思うぞ。
P「おっ、雪歩からメールだ」
『お父さんが言ってました。東京湾の底に沈めるそうです』
意味わかんねーし。
なんでそんなに怒ってるのか知らんが、
とりあえずフォローしておくか。
~スタジオにて~
P「雪歩、今日はすまなかったな」
雪歩「いまさら言い訳なんて聞きたくないですよ」
P「ああ、そうだな。もっと早い時期に別れ話を
持ちかけるべきだったとおも……」
俺はまたスコップを喰らい、十メートルくらい吹き飛ばされた。
スタッフ「機材が壊れるから勘弁して下さいよ」
雪歩「ふぇぇ、ごめんなさいですぅ。ついカッとなってしまいました」
P「スタッフさんの言うとおりだぞ、このバカたれが!!
どうしてそんなに暴力的な子に育っちゃったんだ」
雪歩「……」ギロ
P「うっ……」
怖くなったのでそれ以上言うのは止めた。
雪歩が怒ると死のイメージが付きまとうんだが、なぜだろう?
収録が終わり、帰りの車の中。
雪歩「Pは変わりました」
P「そうかな? 俺は入社した時からこんな感じだったよ」
雪歩「私、最初はPがすごく優しい人だと思ってたんですよ?」
P「おう。正しい感想だな」
雪歩「ふざけてないでちゃんと聞いてください。
今でも男の人と話すときは緊張するけど、
Pだけは特別だって思うんです」
P「ほー、なんでだ?」
雪歩の話はとにかく長い。あいつは話好きだからな。
適当にあいづちを打ちながらでも一時間くらいはすぐ過ぎる。
もちろん俺は真面目に聴いてないけどな。
雪歩「……だったのに、どうして伊織ちゃんのことだけ
好きになったんですか?」
あ? いつのまにか伊織の話になってるみたいだぞ。
信号の色は赤。交差点では歩行者が行き交う。
人の波の中に、なぜかシマウマが歩いてるのが見えた。
雪歩「P、無視するつもりですか?」
P「ちゃんと聞いてるよ」
ビルの陰に夕日がかかり、少しだけ幻想的だ。
一日の終わりを象徴するこの景色が、
俺の命の終わりを象徴してるかのようだった。
……俺は何を言ってる? 明日だってまた太陽は昇るんだ。
P「今でも雪歩のことは愛してるよ」
雪歩「……!!」
彼女の鼓動が、こちらにまで伝わってきそうだった。
P(あれ? 俺は今何を言った?)
雪歩「ほ、本当ですか? 本当に私のこと好きなんですか?」
なんて微妙な感覚なんだろう。
今すぐ冗談だったと言えば済む話なのに、
否定の言葉が頭に浮かばない。
P(ああ、そうか、俺は雪歩のことが本当に好きなのか)
単純な図式で説明しよう。
本命→雪歩 その他→愛人 伊織→金
P(ここで重要なのは、やはりお金だろう)
俺は確かに雪歩が一番好きらしい。
だが愛なんてすぐ冷めちまうもんだ。
それに雪歩の親父があっち系の人だしな。
P「俺が伊織を妻に迎えるにあたって、
一番重要なのはお金だと思うんだ」
雪歩「えっ……?」
P「おまえのことは好きだ。むしろ愛してる。
だけどそれだけだ」
雪歩「え? ええっと、好きなのに駄目なんですか?」
P「おう」
そんな会話をしてたら事務所についてしまった。
別れ話ってのはやっぱり辛いよな。
する方も、される方もな。
美希「ハニー、お帰りなさいなの」ギュー
P「ははっ、美希もお仕事お疲れさま」
雪歩「……」ショボーン
美希「雪歩が元気ないの」
P「雪歩にも色々と事情があるんだよ。
美希は大人だから分かってくれるよな?」
美希「はいなの」
P「偉いぞ、美希」
美希「えへへ。もっと撫でていいよ?」
――さて。美希にはいつ別れ話を持ちかけるべきかな?
美希と付き合うようになってから、成績がグングン伸びたんだ。
トップアイドルまであと一歩ってところかな。
さすが美希。ポテンシャルだけなら断トツだよね。
P「美希。実は大切な話があるんだ」
美希「た、大切な話?」
P「ここじゃあれだから、二人だけの時に話す」
美希「美希はここでも平気だよ?」
ふーん。じゃあ正直に話してしまおう。
P「そろそろ別れよっか」
美希「……?」
P「美希は俺にたくさんの夢を見せてくれた。
俺みたいな平凡な男でも、トップアイドルに
近い存在を生み出せるってことを教えてくれた」
美希「ハ……ニー? 何言ってるか分からないの」
P「つまりな、美希と遊ぶのはもう終わりにしたいってことだよ。
冷静に考えてみてくれ。おまえはアイドルで、俺はPだ」
美希「で、でも……それだったらデコちゃんと結婚するのも変なの」
P「結婚は恋愛とは違う。まあギリギリオッケーだと思う。
竜宮ファンの人は激怒するだろうけどな」
美希「律子……さんが認めるわけないの」
P「あっ、そうだな。律子にはまだ話通してなかった。
やっべー。忘れてたよ」
美希「ハニーはあわてんぼさんなの」
P「だが、そんな些細な問題もお金でどうにでもなる」
美希「そんな……。ハニーはいっぱい嘘ついたの。
美希のことだけ見てくれるって……」
P「あー悪い。実は頭から血を流しすぎて倒れそうなんだ。
家で休まないと出血多量だわ。そろそろ帰らせてくれ」
美希「まだ話は終わってないの!!」
P「うんわかってる。明日続きを話そうよ。
まじで眩暈がしてやばいんだわ。じゃあね」
美希「美希が看病してあげるの」
P「いやいーよ。俺の部屋なんか来たら、それこそスキャンダルだ。
美希の親御さんも心配するだろうし、今日は早めに帰りなさい」
美希「今はそんなことどうでもいいの。
急に別れ話されても諦めきれないの」
美希は俺の服の裾を掴んで離さない。
そんなに俺のことを心配してくれるのか。
仕方ないので一緒に帰ることにした。
~アパートのPの部屋~
P「いてて……さすがに殴られ過ぎたか……」
美希「ひどい怪我なの。普通の人なら三回くらい死んでるの」
P「そうかもな」
美希「並の耐久力じゃないの」
P「このくらい頑丈じゃないと、9人のアイドルの
面倒なんてみれないんだよ」
美希「ハニー、今日言ったことは嘘だったんだよね?」
P「いきなりその話か。まあ正直に言うと本当だ。
ぶっちゃけ伊織以外の女とは関わらないようにしようかと」
美希「なら、どうして美希を部屋に上げたの」
P「しつこそうだったから」
美希「……」
部屋の空気が変わり、北極海みたいに冷たくなった。
美希「本当は殴りたいほどムカついてるんだよ?」
P「まて。さすがの俺でも死ぬよ?」
美希「うん。だから我慢してるの。
美希を怒らせないでほしいの」
P「悪かったよ。俺だって美希を傷つけたくないんだ」
美希「じゃあ好きって言って」
P「……」
美希「言ってくれないの?」
P「俺の最終目標は伊織と結婚だ」
美希「……」ムカ
あっ、殴られる。と思ったらキスされてしまった。
俺がわずかに抵抗すると、ベッドがきしんだ音を立てる。
美希は俺の上に覆いかぶさって逃がしてくれない。
ただでさえ怪我人なので受け入れるしかなかった。
美希「えへへ。ハニーとキスしちゃったの」
唾液で濡れた唇。不覚にも興奮しそうになってしまう。
美希ってなんでこんなに色っぽいんだろう。
美希「今なら誰にも邪魔されずにやれるの」
P「ばっ、最後までやるつもりか?
早く服を着ないと律子に通報するぞ?」
美希「恋愛なんて早い者勝ちなの。
既成事実を造っちゃえばデコちゃんなんて怖くないよね?」
休憩っすね
P「あ? 舐めるなよ。
既成事実を作っても関係ねえ。必ず伊織と結婚してやる」
美希「……」
P「伊織の顔を想像すると、僕のハートはドキドキ♪」
美希「……」
天に誓って言おう。
俺は思ってることを口にしただけで、
美希をバカにしたつもりはまったくない。
むしろ美希の超人的なダンスの才能や、
歌唱力の高さに尊敬の念すら抱いてる。
なのに、どうして美希は怒ってるんだ?
美希「ハニーは救えない人なの」
美希が怒るのがこんなに怖かったなんてな。
俺が携帯で通報しようとしたんだが、一瞬で取り上げられた。
美希「ハニーが他の女と、どんなメールしてるか気になるの」
P「見ちゃらめえええ!!」
数分後、携帯が変な音を立ててへし折れてしまった。
美希「すごく不愉快な内容だったの。
美希以外の女とも仲良くしてたんだね」
P「まあ仕事上アイドルと仲良くすることもある」
美希「仕事上? デートの約束してる文章もあったのに?」ゴゴゴ
それは違うぞ。円滑なコミュニケーションを図るためには、
時にはデートが必要なこともある。
現に仕事は順調じゃないか。社長にだって文句言われてないぞ。
美希「真美だけじゃなくて亜美ともデートしてたの。
キスしたとか書かれてたの」
P「……親睦を深めるためにキスが必要なこともある」
美希「どこが親睦なの。ハニーって、もしかしてすごく
女好きなんじゃないの?」
P「結婚相手を見つけたかった」
美希「え?」
P「結婚相手を見つけたかった。ただそれだけの理由です」
美希「アイドルのプロデュースするのが仕事なんじゃないの?」
P「それは二流のPだけだ。俺ほどの腕前になれば、
仕事しながら結婚相手を見極めることも可能だ」
美希「すごい高性能なの。亜美に手を出した理由は?」
P「双子の本質を見極めたかったからだ」
美希「浮気の理由にしてはしょぼいね」
P「そうかな? 最初に俺と付き合ったのは真美だ。
日に日に充実し、女らしくなっていく真美。
亜美は真美の変化に気付き、やがて真実にたどり着く」
美希「どういうこと?」
P「片方だけを溺愛するなんて、むしろ残酷ってわけだ。
熟慮した結果、二人を愛することになってしまったわけだ」
美希「うーん、双子との恋愛って確かに複雑かも」
P「まあそれも今日までだな。亜美にメールを送ろうと思ってたんだ。
俺のことは忘れて仕事に専念しろってな」
美希「携帯壊さなければよかったの」
美希「美希はそろそろ引退して結婚を考える時期なのかな」
P「ほう。面白い冗談だな」
美希「デコちゃんに言ってあげようか?
ハニーがたくさんのアイドルと浮気してたって」
P「それは困る」
美希「じゃあ美希と結婚すればオールオッケーだよ?
美希は過去のことにこだわらないの」
P「ふむ……」
美希のさっぱりした性格は嫌いじゃない。
それにこいつの家もそこそこの金持ち。
確かに悪くないだろう。
千早「プロデューサー、ただいま帰りました」
夕飯の食材を持った千早。
今日も俺のために健気に料理を作ってくれる、予定だった。
千早「え? なんで美希がここに?」
美希「そっちこそ意味わかんないの。
なんでナチュラルに同棲してます感だしてるの?」
千早「だって実際に同棲してるから」
P「そういえばそうだったな。美希を呼んだのはまずかったか」
千早「そんな格好してたら風邪ひきますよ?
早く服を着てください」
P「だってさ。美希も早く服着ろよ」
美希「……さすがの美希でもブチ切れそうなの」
千早「美希。認めなさい。あなたはPに遊ばれてただけなのよ」
美希「……千早さんは何も知らないんだね?」
千早「?」
美希「ハニーはね、千早さん以外にもたくさん女がいるんだよ?」
千早「……」
美希「亜美真美とか、雪歩とか、ハニーはいろんな女に
好きだって言ってるの。騙してきたの」
千早「それは……」
美希「え?」
千早「美希の妄想ね?」
……始まったか。
美希「冗談なんかじゃないの!! あんなに浮気してたのに、
千早さんが知らないとは思えないの!!」
千早「Pだってアイドルとスキンシップを取ることもあるでしょう」
美希「キスとかしてるのにスキンシップって言えるの?」
千早「子供ね、美希。Pは遊んでるだけなの」
美希「どうしてそんなに自信満々なの?
千早さんだって本命じゃないかもしれないのに!!」
千早「それは有りえないわね」
美希「……」ゾクッ
つまりこういうことだ。千早とも親密になったのだが、
残念なことに冗談では済まなくなって今に至る。
千早「美希。食事の支度の邪魔だから早く消えなさい」
美希「ハニーはどう思うの!?
デコちゃんと結婚するから千早さんとも別れるんだよね?」
P「……美希、もういいんだ」
美希「何がいいの? ちゃんと千早さんにも別れ話してよ!!」
P「俺は常識ある大人だ。言っていい時と
悪い時があることくらい分かってるつもりだ」
千早「お願いだからPを困らせないで。
この人はけが人なのよ?」
美希「真美と雪歩が殴ったって小鳥から聞いたの」
千早「誰が犯人でもいいわ。あとで消せばすむ話でしょ?」
美希「……」ゾクッ
P「今日の夕食が美希のミンチになる前に帰りなさい」
美希「ぐぬぬ……。分かったの。今日は引いてあげるの」
正直言って帰ってほしくなかった。俺も美希の家に行きたかった。
千早「邪魔者は帰りましたね」
P「おう」
千早「念のため確認しておきたいんですけど……」
P「千早。好きだ」
千早「あぅ……」
P「なあ千早」
千早「はい」
P「好きだ」
千早「///」
P「分かってると思うが、美希が言ってたことはデタラメだ。
ゆっくり二人きりの時を過ごそうぜ」
確かに俺は千早にびびってる。
だが好きと言っただけで、婚約したわけじゃない。
あくまで目標は伊織。俺の心がぶれてないことを分かってほしい。
千早「携帯、壊れちゃいましたね」
P「あとで新しいの買いに行こうな。
ふわぁ。それにしても眠い」
千早「もう寝ちゃうんですか?
夕飯食べたばっかりなのに」
P「明日も早いんだよ。六時になったら起こしてくれ」
ベッドで横になると、千早がぴったりくっついてきた。
俺は一流なので動じることなく眠りにつく。
なぜか昔の同級生が夢に出てきて驚いた。
P「おはようございます、音無さん」
小鳥「ピヨ。おはようございます」
今日も元気に事務所に顔を出す。
小鳥さんも朝早いから感心してしまうぜ。
P「ふむふむ、今日はみんなも予定がぎっしりだな」
小鳥「あのぉ、ホワイトボードを見てる場合ですか?」
P「え? なんですか、朝っぱらから説教ですか?」
小鳥「雪歩ちゃんから話があるそうですよ」
雪歩「……」チラチラ
なんで初めて合った時みたいな反応してくるんだよ。
すげえ初々しいな。
P「そうですか。じゃあライブの打ち合わせに行ってきますね」
小鳥「ちょ……」
雪歩「スルーしないでくださいよぉ!!」
P「だって遅刻しそうなんだもん」
雪歩「プロデューサーは私なんて好きじゃないんですよね?
だから話を聞いてくれないんですよね?
私なんて、私なんて……」
貴音「朝からもめ事ですか」
P「貴音か。実は昨日から個人的なことで……」
貴音「存じ上げております。
Pが伊織と結婚したいと言ったのでしょう?」
P「まあそんなことだ。別れる時はすぱっと言ったほうが良いと思ってな」
貴音「自体の解決のために伊織を連れてきました」
伊織「あんたねぇ。みんなに私との仲を言いふらしてんじゃないわよ」
P「実際に結婚するわけだから問題ないだろ?」
伊織「問題大有りよ。結婚するのに異論はないけど、
私だってまだ学生なんだからね?」
P「確かに時間は必要だな」
小鳥「……」
P「あっ、すみませんでしたね音無さん。
俺ったらつい婚約に浮かれてしまって」
小鳥「ピヨ……」
貴音(小鳥嬢……)
小鳥「結婚なら、いつでもオッケーな人が一人いると思いませんか?」
P「俺は自分の意志で伊織を選びました」
小鳥「……」ショボーン
伊織「あんまり大きな声で言わないでよ、恥ずかしいわね///」
亜美「兄ちゃん……」
真美「さすがにこれはないっしょ」
P「何がだ?」
亜美「真美から全部聞いたんだけどさー、
兄ちゃんってお金目的でいおりんを選んだんでしょ?」
P「違うね」
亜美「ほえ?」
P「確かに、お金も生きていくうえでは大切な要素だろう。
生活費だけじゃなくて子供の養育費とかもな。
ところで、子供たちはどんな環境で育つべきだ?」
真美「?」
P「愛のある家庭とはなんだ? 夫婦感の愛情もなくて、
お金だけあればそれで満足か? 俺はそうは思わないね。
伊織を選んだのは、好きだからだ。好きじゃなければ婚約しないよ」
雪歩「プロデューサーは私のこと愛してるって
昨日言いましたよね?」
伊織「ちょ……いきなり浮気したの!?」
P「待て。好きといっても色んな種類がある。
俺は伊織をのことがどれくらい好きか?
具体的に説明するとこうだ」
――伊織を見てると胸がドキドキする♪
P「分かってくれたか?」
雪歩「分かるわけないです。穴掘って埋まってろですぅ」
今日もスコップ攻撃を喰らい、窓から外へ吹き飛ばされた。
最近のアイドルは攻撃力が高くて困る。
グオオオオオン ブロロロロオッロ
P「うっ」
車に轢かれてしまったが、なんとか立つことができた。
早朝なので通りが激しいな。
あずさ「あらー、プロデューサーさんじゃないですか」
P「おはようございます。全身が痛むので肩を貸してもらえますか?」
律子「朝からなにバカやってんですか。
スーツにガラスが刺さってますよ?」
あずさ「なんでボロボロになってるんですか?」
P「俺もよく分かりません。伊織と結婚したいって言ったら
みんなが怒りだして……」
あずさ「は?」
律子「……」ゾクッ
あずさ「すみません、ちょっと聞き取れませんでした」
P「は、ははっ。あなただってうすうす気付いていたでしょう?
俺は伊織一筋という結論にたどり着いたんです」
あずさ「伊織ちゃんと……結婚するんですか?」
P「将来的にはそうなりますね。
あずささん、申し訳ありませんが、運命の人は
俺以外の人を探してくださ……」
あずさ「千早ちゃんに言っちゃおうかな~」
P「……まだあずささんとは恋人出来るべきだと思いました。
一度付き合ったのに、簡単に分かれるとか無理がありますよね」
律子(なにこれ、完全に修羅場じゃない。
事務所がどうなってるのか想像つくわ)
事務所の扉を開けると、たいてい美希が抱き着いて来る。
美希「今日は遅かったんだねハニー」タタタッ
あずさ「あはー」
美希「……!!」
あずささんと俺が腕組みしてるのを見て絶句してる。
P「美希。これも仕事上必要なことだ。分かってくれるか?」
美希「もうそのネタは鮮度切れなの」
律子(ごめん……修羅場は苦手なのよ……)
亜美(あっ、りっちゃんが逃げちゃった)
小鳥(律子さんが放棄するとかどんだけ深刻な事態なのよ)
P「確かに俺は浮気まがいのことをしてるだろう。
だが伊織を愛してることに変わりなはいぞ?」
美希「かっこつけないでよ。そろそろハニーを殺害したくなったの」
伊織「結婚相手を勝手に殺さないでよね。
あずさもPから離れなさいよ」
あずさ「あら? 愛人を作っちゃいけない決まりでもあるの?」
P「伊織。おまえのことを一番に愛してる」
伊織「その状態で言っても説得力ないわよ」
小鳥「てゆーか、Pと伊織ちゃんが結ばれてハッピーエンドで
いいじゃないですか」
貴音「無理でしょうね。アイドルたちとの今までの
関係を清算しませんと」
P「まさしく問題はそこだな」
伊織「最初から私と付き合ってればよかったんだけどね」
P「最後に付き合ったのが伊織だったんだよな。
人は間違うように作られてるとはいえ、
さすがに自重したほうが良いレベルかもしれん」
小鳥「プロデューサーさんも間違いに気付きましたか?」
P「はい。別れ話は、もっとオブラートに包むべきでした。
今度からメールでしようと思います」
小鳥「……」
P「あっ、顔文字とか入れたほうが良いですか?」
小鳥「これは……さすがに……」
貴音「制裁の必要すら感じます……」
真美「また兄ちゃんを殴りたくなっちゃった☆」
亜美「亜美も手伝うYO!!」
P「言っておくが、俺のメンタルは豆腐なみだ。
これ以上殴られたら辞表を出してやる」
小鳥「えっ、それは卑怯ですよ」
亜美「にーちゃん以外にうちのPが勤まる人がいないって
知ってるくせにー」
P「じゃあ社長に訊いてみようじゃないか。
社長なら公平だし、判断を任せられる」
社長「呼ばれたので来てみたよ」
P「社長は俺と伊織の関係について、どう思います?」
社長「賛成だね。うちはPとアイドル間の恋愛は禁止してないし、
今後結婚するかは彼らの問題だ。口を出すべきじゃないね」
P「だってさ。みんな聞いたか?
別に社長を買収とかしてないから安心しろよ?」
ーーー
食事休憩
美希「社長を買収してるとか……」
小鳥「最低ですね……」
P「お金の力があれば買収だって可能だ。
言い方を変えれば愛の力だよ」
貴音「なんというゲス野郎でしょう。
こんな男にプロデュースを任せていたとは」
P(あれ? 貴音に毒を吐かれると気持ちい)プルプル
社長「彼のプライベートな問題はともかくとして、
仕事上必要な男なのは事実だ」
伊織「Pがいてくれたから皆頑張れたんじゃない」
社長「あの冷静事務所だった我が社が、
今や各スタジオから引っ張りだこだ」
P「こっちから営業かけなくていいから助かるよね」
社長「Pの悪口を言う人は爆発したまえ」
美希「……社長も制裁する必要があるの」
真美「買収されてる時点で制裁決定だよね→」
社長「ほう? 面白いじゃないか。
どんな方法で制裁するつもりだね?」
貴音「市中引き回しです。全裸で」
社長(なにそれ、気持ち良すぎるよぉ!!)
貴音「真はどう思いますか?」
真「雪歩を泣かせた以上は死ぬべきじゃないかな。
もちろんPも一緒に」
P「残念だ。真なら分かってくれると思ってたのに」
真「許せるわけないじゃないですか!!」
春香「最低ですよねー」
伊織「皆の気持ちは分かるわ」
春香「どうせ口だけでしょ?
自分はPさんに選ばれたから余裕があるんだ?」
伊織「ちょ……そんな理由じゃないわよ」
春香「Pみたいな最低男の誘いを受ける伊織ちゃんも
どうかなってと思うよ?
最低な人は最低な人同士でくっつくってこと?」
P「それは言い過ぎだぞ春香。
強いて言うなら悪いのは真美だ」
真美「え?」
P「春香はまだ俺のことを許してくれないのか?」
春香「当たり前ですよ。Pさんのこと、ずっと信じてたのに……」
伊織「あんた……どんだけ多くのアイドルと関係を持ってたのよ」
P「まああれだ。過去にとらわれるのは良くないな」
社長「Pの労力を考えれば、これくらい好き勝手
やっても良いんじゃないかと思ってしまう」
真美「真美が不憫すぎない?」
P「伊織はどう思う?」
伊織「日本は一夫多妻制じゃないから難しいわね」
小鳥「最終的にPを取り合って喧嘩するでしょうね」
貴音「すでに解決方法が見当たりません」
そんなことやってるうちに遅刻ぎりぎりの時間になっちまった。
俺は車を走らせて仕事場に向かう。
春香の怒鳴り声が聴こえてきたが、構ってる暇はなかった。
昼前には事務所に帰れた。
午後は千早と仕事があったが、特に問題なく終わった。
同棲してる以上、帰りは一緒に帰らないといけない。
千早「あなた。今日もお疲れのようですね」
P「忙しすぎて過労死しそうだよ。
会社はそうとう利益を上げてるらしいけどな」
千早「ところで、今日伊織が面白いことを言ってたんですけど……」
背筋に寒いものを感じ、玄関から飛び出そうとした。
千早「慌ててどうしたんですか? まだ話の途中ですよ?」
P「……こうなったら正直に言うからな。
伊織と結婚することによってハッピーエンドを迎えるつもりだ」
千早「はい?」
P「……」ゾクッ
なぜか分からんが、千早は怒ってるらしい。
俺は間違ったことなどしてないつもりだが。
たぶん千早は機嫌が悪かったんだろうな。
千早「なぜ伊織と?」
P「なんかさー、ぎゅって抱きしめたくなるって言うか?
伊織が視界に入っただけで胸がキュンキュンってするの。
これってなあに♪」
千早「……」
あまりにも重い沈黙だった。口のきき方は難しいもんだ。
千早「美希の言ってたことは本当だったんですね。
私のことはどうでもいいんですか?」
P「お前と一緒に居られた時間は本当に楽しかった。
仕事だけじゃなく、家庭でもな」
千早「……」
P「俺は……未来の結婚相手を探したかっただけなんだ。
色々道に迷っちまったけど、今ならはっきり言える。
俺の隣にいて欲しいのは伊織だけだ」
千早「かなし~みの~」
P「あ? そんなふざけた音楽で俺を殺すつもりか?
言っておくけどな、俺はナイフで刺されても死なないぞ」
千早「車で轢かれても生きてましたもんね」
ドンドン ドンドン
何処のバカが扉を叩いてるのかと思ったら、
萩原組の黒服が来てたらしい。
黒服「貴様が765プロのPだな?」
P「はい。水瀬伊織と結婚予定のPでーす☆」
黒服「ふざけた態度だ。お嬢様がお怒りなのも分かる」
黒服B「このバカを連行するぞ」
雪歩「あ、あの……」
黒服「どうしました? 父上からコンクリ詰めにして
海中へ投棄するよう指示を受けてますが」
雪歩「やっぱり物騒なことは止めませんか?
Pだって人間ですし、言えば分かってくれますよ」
千早「Pは誰のことが一番好きですか?」
P「伊織ちゃんです☆ 竜宮のCDもたくさん買っちゃったYO!!」
ドゴオオオオオオッ
黒服から榴弾砲のようなボディを喰らい、床を転がった。
P「いてて、一瞬だけ息が止まって死ぬかと思ったぞ」
黒服「あの一撃を喰らってすぐ立てるのか……」
黒服B「なんて耐久力だ!!」
千早「だってPですし」
雪歩「安心と信頼のPの防御力ですぅ」
P「そういうわけだ。とりあえず黒服の人たちは帰ってくれないかな?」
黒服「ちっ、すがすがしいな。撤退するぞ」
雪歩を部屋に上げて三者面談することにした。
雪歩「Pが千早ちゃんと同棲してたなんて知りませんでした。
私、Pのこと何も分かってなかったんですね」
千早「貴女に比べれば、私の方がランクが上ってことね」
雪歩「……」ムカ
P「……」ボッキ
雪歩「同棲してるかなんて関係ないですよ。
Pは私のこと愛してるって言いました」
千早「本当ですか?」
P「んあ? 言ったかもしれないね」
雪歩「い、伊織ちゃんのことはお金を含めて
一番好きなんだそうです。女としては
私が一番好きだって言ってました?」
千早「雪歩の妄想ですよね?」
P「事実っす」
千早「は?」
P「サーセン。雪歩って可愛いじゃないですか」
雪歩「えへへ///」
千早「私のことは可愛くないんですか?」
P「好きだよ。ぶっちゃけアイドルはみんな可愛いよね」
千早「はぁ……。なんて曖昧な回答。
アイドルなら誰でもいいんですか」
雪歩「で、でも特に私のことがお気に入りなんですよね?」
P「うん」
雪歩「伊織ちゃんと結婚するのだって、今すぐじゃないんです。
それまでにPを振り向かせれば……!!」
P「それは無理かな」
雪歩「え? 断言するんですか?」
P「俺は伊織を選んだ。俺の意志でだ!!」
意志の力のなんと強いことか。
たとえ拷問されても自分の意志を曲げるつもりはないぞ。
千早「恋愛って早もの勝ちですよね?」
雪歩「な……そんなものが……!?」
千早「↓をも見てもまだ減らず口が叩ける?」
→婚姻届(Pと千早に関してもれなく記入済み)
雪歩「え……どうして? Pは伊織ちゃんと結婚するはずですよね?」
P「いつだったかな。酔った時にノリで書いちゃった」
雪歩「何やってるんですか!!」
P「なんていうか、すまん」
千早「水瀬さんと婚約するより前に書かれたものですよ。
これを見せれば水瀬さんも諦めてくれるかも」
P「むしろ修羅場になる可能性大だよね」
雪歩「きっと伊織ちゃんも、かなり怒ると思いますよ」
P「なんつーか、俺ってそのうち刺されそうだよな。
普通に仕事してるだけなんだが」
雪歩「普通に仕事する人は、多人数と浮気しないと思いますけど」
千早「そうかしら? 萩原さん達はただの遊び相手だし、
浮気相手ですらないわ。だって遊びよ?」
P「ちょ」
雪歩「……さすがに千早ちゃんでも許せなくなってきましたぁ」
千早「あなた、その話し方やめたほうが良いわよ。
男に媚びてるのか知らないけど、無駄に子供っぽいわ」
雪歩「……」ムカァ
三者面談の会場が戦場に変わろうとしてる。
雪歩がブチ切れるとかめったに見れるもんじゃない。
全部真美のせいだな
千早「あなたって男性恐怖症の割にはPが大好きよね?」
雪歩「Pは特別だからですよ。千早ちゃんこそ、
Pの愛人のくせして正妻気取りとかどうなんですか?」
千早「あらあら。残念ね。婚姻届が見えなかったのかしら?」
雪歩「あれは無理やり書かされたんですよね、P?」
P「酔った勢いでな。ぶっちゃけ、いつ書いたか覚えてない」
雪歩「やっぱりそうでしたか。
ずるいことを簡単にできる人って軽蔑します」
千早「くっ、言ってくれるじゃない」
→これは何と読みますか? 72
雪歩「なに」
千早「……どうやら、あなたとは拳で語り合う必要がありそうね」
とっくみあいの喧嘩が始まった。
千早がやや優勢で、雪歩は苦しそうな顔をしてる。
まるで相撲してるみたいだった。
雪歩「ふぇぇ。力じゃ勝てそうにありません……」
千早「い、いえ……萩原さんも結構力ある方よ?
美希なら三秒で吹き飛ばせたのに……」
床へしたたり落ちる乙女の汗。
我々の精神もまた、堕ちていたのだろうか。
雪歩「えいっ」
千早「うぐっ……!!」
一瞬のすきを突いた雪歩のボディが決まり、悶絶する千早。
雪歩「P!! やりました!! 私、千早ちゃんより強いんですよ!!」
P「ん? おお、そうか」
俺は新聞から目を離して雪歩を見た。
すごい汗だくだな。激しい戦闘だったことがわかる。
俺のアイドルたちは本当に戦闘力高いよな。
千早「力があるということは、防御力が高いことでもあります」
雪歩「ぐえええええっ!?」
鉄の棒を振り回したかのようなミドルキックがまともにヒット!!
壁に突っ込んだ雪歩。あーあ、また大家さんに怒られちまうだろが。
千早「邪魔者は排除するのが一番ですよね?」
P「ふむ。君をソビエト外務人民委員に推薦しよう」
千早「Pは力が強い女が好きですよね?」
P「まあ弱いよりはいいかな?
夫婦喧嘩すると殺されそうだけど」
雪歩「はぁはぁ……となりの人のお風呂場に
突っ込んじゃいましたぁ……」
千早「あら。あなたまだ生きてたの?」
P「やっぱり鍛え方が違うといいよね。
ところで君たち、修理費とか払ってくれるんd……」
雪歩「千早ちゃん、これでも食らってください」
千早「ぶごおっ!!」
横殴りの暴風かと思いきや、雪歩のストレートパンチだった。
千早は雪歩とは反対側の壁に突っ込んでしまった。
俺はというと、考えるのがめんどくさくなったので逃げた。
夜風が冷たく、ますますみじめになる。
下校途中の学生やサラリーマンとすれ違うが、
なぜか奴らが無性にうらやましく感じるぜ。
店員「シャーセーwww」
適当にコンビニに寄った。俺には帰る家はないのかも
しれないが、せめて腹の足しになればと思った。
店員「お弁当温めますかwwww?」
P「お願いします」
響「おっ、プロデューサーじゃないか。元気ないな?」
救いの女神、現る!!
P「色々あってな。今悩んでるんだ」
響「へー、Pでも悩むことってあるのか。
いっつも能天気そうな顔してるのに」
P「大人の世界は大変なんだよ」
響「ふーん」
店員「オキャーサンww早く会計済ましてくださいよwww
とっくにお弁当温まりましたよwww」
P「あっ、すみません」
店の外に出て一言。
P「頼む。今日泊めてくれ」
響「なっ……?」
P「頼む。響の家じゃないと駄目なんだ。
響だから頼んでる。だめ……かな?」
場所が変わって響のマンション。
響「ちょっと散らかってるけど……」
P「俺の部屋なんて壁に穴がいてるんだ。
それに比べれば百倍まし」
響「壁に穴? どんだけ古いアパートなんだ」
P「まあいいじゃないか。二人きりなんだし、
のんびりさせてもらうぞ?」
ハム蔵やいぬ美達を愛でながら、響と談笑する。
忙しくなるとちゃんとした餌を与える時間もないらしい。
ペットの世話は暇じゃないと難しいってわけだ。
響「あのさ、プロデューサー。自分の家に来てくれたってことは
その……。もしかして自分に気があったり?」
俺は返答代わりに響を抱きしめていた。
P「なんか……ほっとする」
響「あわあああっ……いきなりは卑怯だぞ……」
伊織と結婚するはずなのに、
この上更に手広げるのかと思う人もいるかもしれない。
だが冷静に考えてみてくれ。
俺には明日も仕事がある。
当たり前だが、仕事をこなさなければ給料も得られず、
アイドルたちの面倒も見てあげられない。代理のPはいないんだ。
P「泊めてくれたこと、本当に感謝してる。だからこれはお礼だ」
響「……ん。んん!!」
肩を強く抱き、唇を重ねあわせた。
なんて柔らかい唇なんだ。
それに急展開に驚いてる、響の無垢な顔。
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