真「明日に向かって撃て!」(161)

「っ――!」


最初、それに気付いたのはボクだけだった。
朝の生中継の収録を終えて、プロデューサー達と事務所へ帰る道中。
視界の端に、猛スピードで走る車が見えた。


貴音「さて、収録も終わりましたことですし、遅ればせながら朝餉に参りましょう!」

P「朝餉ってお前なぁ……ラーメン屋のクーポン握りしめて……」


車は勢いを緩めることなく、こちらへ迫ってくる。歩道がガードレールで仕切られていない、細めの道。
ボク達を気遣う様に車道側を歩くプロデューサーも、ようやくその音に気付いて振り返った。


P「っ! 二人とも、危ない!」


プロデューサーが、貴音とボクを脇へ押しやろうとする。けれども、ボクの反応と動きの方が早かった。


P「まこっ――?!」

貴音「何を――!?」


一番外側に居たボクは、何も言わずにプロデューサーの手を思いきり引いた。
その反動で、二人の間をするりと抜け、ボクは車の前へ躍り出た。

そして。


「「――」」


後ろから、プロデューサーと貴音の声が、ゆっくりと聞こえてきた。
ドップラー効果? じゃないよね。

車もスローモーションのようにゆっくりになって、じわりじわりと近づいてきた。
あれかなぁ、事故に遭う時やプロボクサーは感覚が云々って言う。

迫ってくる車を中心に、光の帯がいくつも放射状に見えた。
帯の一つ一つに、色々な思い出が詰まっていて。その帯が、ボクの身体を包み込んだ。


……走馬灯ってやつ?


ああ、ボクは死ぬのかな。意外と率直に、そんなことを思った。
帯の中を覗くと、本当に色々なことがあった。
嬉しかったこと、怒ったこと、悲しかったこと、楽しかったこと。




ボクは、幸せだったのかな……?

――――
―――
――


貴音「真」

「うわぁっ! ……ゆ、夢かぁ。それにしてはリアルな夢だったなぁ……」


頭の中がぼけーっとして、何も考えられない。ここは……事務所?


貴音「夢を?」

「ああ、うん。居眠りして変な夢を見ちゃっただけだよ、あはは」


なんだか、貴音が神妙そうな顔をしてる。
ボク、そんなに変な事言ったかなぁ……?


貴音「真、それは夢ではありません」

「え?」

貴音「確かに真は、車に撥ねられたのです」


貴音、何を言ってるの?

でもほら、この通り、怪我も何もないじゃないか。
そんな真顔で冗談を言わなくたって……。


「ちょっと笑えない冗談だよ、貴音」

貴音「では、何故わたくしが夢の内容を知っているのか、ご説明いただけますか?」

「……それは」

貴音「本当は、分かっているのでしょう?」


……はぁ。
貴音って、やっぱり不思議だなぁ。
どうしてそうすらすらと、人の心の中を読めるんだろう。


「夢じゃ、なかったんだね」

貴音「はい」

「ボクはプロデューサーを庇って」

貴音「車に、撥ねられました」


珍しく、貴音が辛そうに顔を歪める。
これは、冗談を言ってる表情じゃ、ないよね。

「ボクは、死んだのかな」

貴音「いいえ、まだ亡くなってはおりません」

「え……」


まだ死んでないの?
てっきり、あのままお陀仏になっちゃったのかとばかり。


貴音「この世界は、生と死の、境目なのです」

「境目……」


境目、かぁ。
三途の川とか、そういうのを想像してたんだけど、思ったより日常的な場所なんだね。


貴音「わたくしは、機会をお伝えするためにここへ参りました」

貴音「再び生の世界で生きるための、一度きりの機会です」

「!」

戻れる? みんなのいる場所へ?


「ど、どうすれば!」

貴音「真は今、この世への"未練"を引っ掛けるようにして、何とか踏みとどまっている状態です」

「そういう遠回しな話はあとでいいからさぁ、もっとバシッと!」

貴音「落ち着いて、最後までお聞きなさい」

「は、はい」


貴音の言葉に、思わずベッドの上で正座になる。
改めて自分を見てみると、車に撥ねられた時の服のまま寝てたのか。
な、生々しく思い出されてやだなぁ……。


貴音「……『本当に幸せだったのだろうか?』」


貴音の言葉に、ずきっと、胸が痛んだ。
ああ、それは、あの時ボクが考えていたことだ。
貴音は、何でもお見通しだなぁ。

貴音「撥ねられる直前に、どうにか真の強い想いを捉え、引き止めることが出来ました」

貴音「今、真がやるべきことは、その想いの"答え"を見つけることです」

貴音「その未練を、"まことの幸せ"へと昇華させてください。心の奥底からの、本当の幸せへ」

貴音「願いを叶え、真の、まことの幸せを知ってください」

貴音「弱気は、死への近道です。幸せを知り、心より渇望する事で、生への執着、活力としてください」


そ、そろそろ限界かも。
ボクの、頭の許容量的に。


「え、えっと」

貴音「そして、注意していただかねばならないことがあります」

「な、何?」


ま、まだあるの!?
そろそろストップしてくれないと、許容量オーバーだよ……!

貴音「この夢の世界へ引き止めることができたとは言え、それはごく限られた時間です」

貴音「わたくしが引き止めていられるのは"今日限り"」

貴音「日の境目を越えてしまったら、わたくしには為す術はありません」

貴音「何としてでも、今日の内に願望を叶えてください」

「リミットは……今日限り」


0時ピッタリ、なのかな。
シンデレラの魔法みたいだなぁ。
万が一間に合わなかったら……うぅっ。


貴音「そして、ただいま申し上げたように、ここは夢の世界。真実と虚構が混じり合っています」

貴音「偽物と本物が入り乱れ、時に誘惑し、時に諭すでしょう」

貴音「見極めてください。わたくしは、これ以上お助けすることはできません」

「……ありがとう。ここまでしてくれただけで、十分だよ」


あとは、ボク自身が頑張らなきゃいけないこと、なんだよね。
ボク自身の幸せを、見つけるために。

貴音「では、わたくしはこれにて」

「どこに行くの?」

貴音「夢の世界とて、仕事は仕事。収録へ行って参ります」

「り、律儀なんだね……出来れば付きっ切りで色々教えて欲しいんだけど……生死がかかってるし」

貴音「申し訳ありませんが、これ以上はわたくしにも分からないのです」

「そっか……行ってらっしゃい」

貴音「幸運をお祈りしております」


貴音はそう言い残して、事務所から出ていってしまった。
仮眠室を出ると、ボクは一人取り残されて、ぼーっとする他なかった。


「どうしようかなぁ……幸せなんて急に言われても分からないよ」


でも、貴音はやっぱり不思議だ。普通ならあんなこと言われたら、困惑するか疑うか。
貴音に言われると、なんだかすんなり受け入れられちゃうんだよね。

……けど、なんで貴音がここにいるんだろう。本当に、何者なんだよ……。


その時、ドアが開く音がした。
ボク、警戒してるのかな。ついつい身構えちゃったよ。

P「ただいま。ん、いるのは真だけか?」

「あ……プロデューサー!」


うぅ、プロデューサー!
プロデューサーを見たら、つい色々な感情がこみ上げてきちゃったよ。


P「うわぁっ! ど、どうしたんだ、いきなり抱き着いて来たりして」

「ぷろっ……ぷろでゅーさー……!」

P「な、泣いてるのか?」

「う、ひっく……泣いてないです……」

P「……よしよし」


いきなりこんなじゃ、プロデューサーもびっくりしてるはずだよね。
でも、涙が止まらないボクを、優しく撫でてくれる。
優しいなぁ、プロデューサーは。

「ご、ごめんなさい、いきなり……」

P「何か辛いことでもあったのか?」

「えぇ、辛いと言えば、まぁ……」


ひとしきり泣いたら落ち着いてきて、すると今度は一気に恥ずかしさがこみ上げてきた。
ボクは何をやってるんだろう……!


P「落ち着いたみたいだな。確か真の仕事は午後遅めだし、ちょっとソファーで休んでな」

「はい……」


プロデューサーは座席に着くと、書類を取り出して何やら書き込み始めた。
ボクはというと、内心まだ収まり切らず、ココアを入れて飲みながら、ぼーっと考え事をしていた。

ボクの幸せって、なんだろう?


P「あ、なんだかんだでもう昼なのか」

「そうですね」

P「……よし、ちょっと待ってろ」

プロデューサーは携帯電話を取り出すと、どこかにかけ始めた。
後ろを向いて、ぼそぼそと何かを話してる。仕事の連絡かな。


P「よし、終わりっと。じゃあ、今日は昼食を奢ってやるか」

「本当ですか!?」

P「現金なやつだな……言ったとたん元気になって」

「へへっ」


だって、嬉しいものは嬉しいからね!
とは言っても、プロデューサーならせいぜいが弁当とかファーストフードとか、その辺りだろうけど。
それでも、プロデューサーと一緒にお昼を食べられるのは嬉しいよ。


「さ、行きましょう、プロデューサー!」

P「おいおい、そう急かすなよ。今案内するから」


案内?



――――
―――
――

「こ、ここって……高級ホテルじゃないですか!」


連れて行かれた建物に入ると、おしゃれなクラシックが耳に入ってきた。
きっと趣味が良い、のかな? そんな雰囲気のテーブルやイス。
とてもじゃないけど、普段のプロデューサーからは考えられないようなところ。


P「真だって女の子なんだから……やっぱり、エスコートするならそれなりじゃないと、ね」

「え、エスコートぉ!?」


つい、素っ頓狂な声を上げてしまった。
ぷ、プロデューサー! いきなり、どうしたんですか!?


P「どうしたんだ、真?」

「あ、いえ……」

P「ほら、席に行こう。すみません、予約を入れていた――」


プロデューサーが近くにいたウエイターに声をかけると、奥の席に連れて行かれた。
座席には『予約席』と書かれたプレートが置いてある。
ウエイターがイスを引くと、プロデューサーはボクに座るように促した。

「こ、こんなおしゃれなところでお昼だなんて……」

P「あ、すまん。お気に召さなかったか?」

「い、いえ、とんでもない!」


そんなわけないじゃないですか。
プロデューサーとお食事できるだけでも嬉しいのに、こんな立派な場所で……。


P「給料入ったばかりだから、遠慮しなくていいぞ」

「えへへ、じゃあ遠慮せずいただきますね!」

P「あぁ、なんでもいいぞ」


何がいいかなぁ……って、すごく高い!
どれも、ボクが夕食をちょっぴり贅沢した時よりも高い!
飲み物だけで千円近いって……。


P「俺は……このランチコースにするかな」

「ひ、昼間から豪華ですね……」

P「真も好きなもの選べよ。エスコートする側が気を遣わせたんじゃ、笑い話にしかならないからな」

「じゃ、じゃあボクもそのコースで」

プロデューサーは事も無げに注文すると、ボクを見てにっこりと笑った。
でも、いきなりどうしたんだろう……何かいいことでもあったのかな。


P「真もこれからトップアイドルになるんだから、こういう場所にも慣れていかないとな」

「な、慣れる必要があるなら自分で払って食べに来ますって」

P「それに、俺が真をエスコートしたかったんだよ。迷惑だったか?」

「そそそ、そんなことありません!」


うわぁ、うわぁ、うわぁ!
今、絶対に顔が真っ赤だよ!
嬉しいなぁ、どうしよう!


「へへっ、すっごく幸せです!」

P「そうか、良かった良かった」


そう言いながら、プロデューサーはにこにこ笑った。
幸せだなぁ……。


幸せ?

『――』

P「――」


ウエイターが順番に料理を運んでくる。
一つ一つがきらびやかな宝石みたいで、手をつけるのすら躊躇われるようで。
まぁ、しばらくしたら気にせずに食べ始めちゃったんだけど。


P「――」

「――」


プロデューサーはこちらの様子を窺いながら、邪魔にならないタイミングですっと話題を振ってくる。
大人の余裕、だなぁ……。ボクが答えづらい、話しづらい話題は一つもない。


P「――」

「――」


本当に楽しい昼食。完璧なエスコート。
プロデューサーと一緒の、天国のようなひと時。

でも、何故だか会話の内容は頭に残らなかった。

ボクは、本当に幸せなのかな?

食べ終えてホテルを出ると、プロデューサーがボクに訊ねてきた。


P「お口には合ったかな?」

「えっと……あんな高いもの食べるの初めてだから、うまく言えないんだけど……美味しかったです!」

P「そっか、良かった」


プロデューサーは僅かにほっとしたように笑った。
そこで強気に出ない辺り、やっぱりプロデューサーなんだな。
そんなところがいいところなんだけど。


「プロデューサーは、この後は?」

P「ん? 事務仕事はあらかた終わったからなぁ……あとは真の付き添いだけだよ」

「だ、だったら、このままデートしません?!」

P「で、デート!?」


ボクが思い切って言うと、プロデューサーは流石に驚いたようで、小さく叫んだ。
暫く悩むように天を仰いでから、ちょっと照れくさそうに言った。

P「分かったよ。今日は仕事まで、真をエスコートする」

「本当ですか?! やーりぃ!」


へへっ、言ってみるもんだなぁ!
照れくさそうにしながらも、プロデューサーも満更じゃない表情! ……な気がする。


P「あ、じゃあちょっとここで待っててくれ。仕事の手続きで払い込みだけしなきゃいけないから、済ませてくるよ」

「分かりました。待ってますね!」


プロデューサーは小走りでコンビニへと向かっていく。
一人残されたボクは、またまたぼーっと道路を見ていた。


「今お昼過ぎだから……あと、10時間強、かな」


何ともなしに時計を見る。
一日の終わりはまだ遠いように思えるけれど、人生の終わりだと思うと……途端に身震いがする。


「……あ」


赤信号で車が走っていない道路を、男の子が一人歩いている。
やや広い車道の真ん中に差し掛かったところで、車の信号が青になった。

「っ……危ないっ!」


一瞬、自分の事を思い出して身体が竦んだ。
でも、何止まってるんだよ、ボクは!
ここで動かなかったら、もう前を向いて歩けないよ!


「こっち!」


車道に飛び出して、咄嗟に男の子を抱き抱え、一気に走り抜けた。
うわっ、クラクション鳴ってる! ごめんなさい!


P「ま、真!」


さっきまで居た辺りから、プロデューサーがボクの名前を叫んだ。
その時には無事、反対の歩道に辿り着いていた。
嫌な汗をかきながら、ボクは男の子を放した。


「大丈夫?」


言葉もなく頷くと、怒られると思ったのか、そのまま走り去っていった。
全く、人騒がせな子だなぁ。

P「真、大丈夫か!?」


横断歩道を渡って、プロデューサーが追い付いてきた。
大丈夫ですよ。心配性だなぁ。


「大丈夫じゃなかったら、こんなに余裕じゃないですよ!」

P「でも……顔、真っ青だぞ?」

「……えっと」


うぅ、思い出したショックをまだ引きずってたかぁ……。
平静、装ってるつもりなんだけど。


「子どもが轢かれそうになってて」

P「……真は、頭より先に身体が動くからな」

「し、失礼ですよその言い方!」

P「でも……本当に心配だったんだ」

「……はい」

それは……ごめんなさい。
ボクだって、プロデューサーがあんなことしたら、心配しちゃうよ。


P「あの子は?」

「もう行っちゃいました。怒ったりしないのになぁ……」

P「ともあれ、二人とも無事なら良かった。さ、行こうか」

「はい!」


そう答えた時、後ろから声が聞こえた。
振り向くと、知らない人たちが数人、ボク達のことを見ていた。


『もしかして、菊地真さん、ですか?』


うっ、しまった。ちょっと派手にやりすぎた?
もうこれ、完全にバレてるなぁ……プロデューサーと一緒だし、変に隠すと逆に面倒かも。


「あ、はい、まぁ……」

『えっ、ホンモノ?!』

『ねぇ、ちょっとちょっと! 真ちゃんだよ!』

『うっわ! カワイー!』

『ねぇねぇ、写メらせてよ!』


えっ、ど、どうしたんだろう?!
最初に声をかけてきた女の人よりも、一緒にいる男の人達の方がテンション上がってる?


『横の人、カレシ!?』

P「いや、彼女のプロデューサーで……」

『やっべぇ、生で見るとテレビの百倍可愛いじゃん!』


ボクは今、とても動揺している。
そ、そりゃあこれまでも、中には可愛いって言ってくれる男性ファンはいたけれど。
こんな……可愛いことが前提になってるような言われ方は、初めてだよ。


『ちょっとちょっとこっちこっち! 真ちゃんいるよ!』

『嘘!? うわっ、本当だ! 可愛すぎるだろ!』

「えっ、ちょ、あの……」

P「不味いな……真、行くぞ!」

「は、はい!」


プロデューサーに手を引かれるまま、人のいない方へ走り出した。
うわぁ、走りやすい服装で良かった!
今ばっかりは、普段から女の子らしい服を着てない自分に、感謝しなくちゃ……。


P「ふぅ……撒いたか」

「び、びっくりしましたよ……」

P「俺も軽率だったな……真くらいのアイドルになれば、これくらいは予想してないと」

「でも、普段のボクなんて町中じゃ、せいぜい女性ファンが恐る恐る声をかけてくるくらいですから、仕方ないですよ」

P「何言ってるんだお前……むしろ男性ファンだけなら、765プロでも三指に入る人気だろう」


え? ボクが? 男性ファンに?
ボクの頭の中がクエスチョンマークで埋まっている間に、プロデューサーがスマートフォンで何かのサイトを見せてくれた。


P「765プロ人気ランキング。圧倒的な男性からの支持だ」

「うそ……」

ボクのグラフが、美希と並んでる?
あは、あはは……ちょっと驚きすぎて声が出ないよ。


P「俺も軽率だったが……真も、もう少し気をつけてくれよ?」

「は、はい」


有り得ない。認めたくはないけれど、ボクは、765プロの中でも男性人気は相対的には低い方だ。
少なくとも、男性人気が女性人気を上回るなんて、絶対にない。


「と、とりあえず、すみませんでした。以後、気を付けます」

P「ああ……折角のデートなのに小言を言うみたいで悪いな。ここからは、しっかりエスコートするから」


そうだった。プロデューサーとデートしてるんだった!
……そっか、ここ、夢の中なんだよね。男性に人気がある世界、かぁ……。


「嬉しいなぁ」

P「デートが、そんなに?」


それもそうですけど、女の子として、認められてるんだ。可愛いって、みんなから思われてるんだ。

でも、幸せ、なのかな?

「でも、こっちに逃げてきて正解でしたね!」

P「あぁ。こんなところがあるのは、俺も知らなかったよ」


暫く歩くと、公園があった。
真ん中に噴水があって、鳩が水を飲みに来てる。
ベンチもあって、横にはクレープ屋台。


「プロデューサー、アレ食べましょうよ!」

P「さっき昼食食べたばかりなのに?」

「甘味は別腹ですって!」


ちょっと強引に腕を引っ張ると、困ったように笑いながらついて来てくれた。
屋台に近づくと、クレープを焼くいい匂いがする。
薄い円がふわりと舞う度、ボクの胸は高鳴った。


P「すみません、苺チョコ生クリームと、チョコバナナ生クリームを」


すかさずプロデューサーがボクの目線で察知したのか、クレープを注文する。
そ、そんな確認を取らずに注文できるほど、凝視しちゃってたかなぁ。
は、はしたない……。

お金を払ってしばらく待つと、できたてほやほやのクレープを手渡された。
生クリームの白とチョコレートの黒、そして苺の赤のグラデーションが、必要以上にボクの食欲を掻きたてる。


「いっただっきまーす!」

P「頂きます」


近くのベンチに腰かけて、並んで食べる、出来立てクレープ。
シンプルで、どこもあまり味は変わらないけれど、変わらず食べ続けたいこの味。


「へへっ、やっぱり甘いものって美味しいですよ!」

P「あはは、美味しそうに食べる真も可愛いよ」

「えっ……」

P「あ……い、いや、なんでもない」


プロデューサーは慌てたようにクレープを食べ始めた。
な、なんですかその反応は……!

「い、今何時ですかっ!?」

P「え、えっと2時過ぎだな……」

「じゃあ、もうちょっと時間がありますね!」


クレープを食べ終えて立ち上がると、プロデューサーもちょうど食べ終えたところだった。
どうしようかなぁ、どこかに行ってる時間はないけれど、このまま仕事に行くには勿体ない時間。


「そうだ、プロデューサー」

P「ん?」

「あっち側ならさっきの騒動の場所とも離れてますし、少しウィンドウショッピングしましょうよ!」

P「でも……」

「エスコート、してくれるんですよね?」

P「……仕方ないな」

「やーりぃ!」


今日は徹底的に、ボクに付き合ってくれるらしい。
時間は長いわけじゃない。そうと決まれば、早速出発だ!

――――
―――
――


「へ~、これが今季の新作かぁ」

P「全体的に、可愛らしさが前面に押し出されてるな」


さっきファンに囲まれたエリアからは少し離れたショッピング街。
その中のブティックの一つで、ボク達はふらふらしていた。


「こういうのも可愛いなぁ……でも」


こんなフリフリ。ボクには似合わないんだろうなぁ……。
買ったら雪歩に怒鳴られそうだ。


P「いいんじゃないか?」

「え?」

P「とりあえず試着してみたらどうだ? 着るだけならタダだよ」


そ、それもそうかぁ。
ここで着ても、雪歩に見られるわけじゃないしね! ……多分。

「じゃ、じゃあちょっと待っててください」

P「ああ、時間はまだしばらくあるから大丈夫だよ」


試着室に入ると、正面の鏡にボクが映し出される。
そうだよね、ここにいるのはこのボクだけなんだ。
何を着たって、文句は言われない。はず。


「ふんふんふん♪」


自然と鼻歌が漏れる。
やっぱり、女の子であるからにはこういう服、着たいよね!


「よしっ、バッチリ!」


さて、それじゃあプロデューサーにお披露目だ。
……なんて言うかなぁ……また引き攣った顔で笑うのかな。


「ど、どうですか、プロデューサー!」


思い切ってカーテンを開ける。
ちょっと怖くて目を瞑っていたけれど、ゆっくりと瞼を開けると、呆気に取られたような表情のプロデューサーがいた。

「あ、あはは……やっぱり、ダメですよねぇ……」

P「……真、すごく似合ってるじゃないか!」

「えっ?」


やけにテンションの高いプロデューサーが、ボクの手を取って叫んだ。
わわっ、ちょ、ちょっと声が大きいよ!


P「あっと……すまん、ついテンション上がっちゃって」

「い、いえ」


ちらりと周りを見ると、他のお客さんがこっちを見てる。
うぅ……ハズカシイ。晒し者じゃないか!
プロデューサーの馬鹿!

でも。


『可愛いなぁ』

『すげー』

『ファッションモデルかなにかかな?』

「えっ……」

聞こえてきた声は、ボクを褒める声ばかりだった。
しかも、露骨なお世辞ではなく、誰もが独り言のように、心からの感想を。


P「真は何を着ても似合うけど、これは特にいいよ!」

「そ、そうです、か……?」


可愛いフリフリ。
いつかの中継企画で、雪歩に罵倒される勢いでダメ出しを受けたような服。
似合ってる?


P「……そうだ! その服、そのまま着て仕事に行こう!」


そ、そんな事したら雪歩の目に!


「は、恥ずかしいですよ」

P「何を言ってるんだ。こういう服は、見せるために着るものだろう?」

「そ、そうですけど」

P「確かに似合ってなかったら恥ずかしいけど……真は誰よりも似合ってるよ。掛け値なしに」

「そう……ですか?」

試着室の鏡を覗く。
フリフリの服を着たボクが、心配そうな表情で立っている。
にこっと笑ってみると、本当にまるで、シンデレラのように見えた。


「……わ、笑われませんか?」

P「笑う理由がないよ。もし笑うやつがいたら、そいつの感性がおかしい」


プロデューサーの目、本気だ……。
ボクも、こういう服、着ていいんだ。


「ぷ、プロデューサーがそこまで言うなら……」

P「よし! 店員さん、この服、お願いします!」


早速、買った服を着て外を出歩く。
心なしか、道行く人の視線を集めてる気がする。
というか、ちょっと見回せば分かる。
気がするんじゃなくて、実際に集めてるじゃないか!


「プロデューサー……」

P「どうした?」

「や、やっぱりこの服は……周りの人も……」

P「うーん、雪歩みたいなことを言うなぁ。周りの目、よく見てみろって」

「目?」


視線が向いてることしか考えてなかったけれど、プロデューサーに言われて見てみると……。
……え、これって奇異の視線じゃなくて、羨望の眼差し?
みんな、見惚れたように、羨ましそうに、ボクのことを見てる。


「こ、この服……そんなに、似合ってます?」

P「何度も言ってるだろう? そうでなければ、わざわざ買ったりしないって」


そ、そうだよ、ね。
自信持っても良いんだよね!
よぉし! ボクだって可愛いんだ! 負い目なんて感じないで!


「ボクだって、可愛いんだ!」


そう言ってガッツポーズを決めた時、通りすがりの男の人とぶつかってしまった。

「うわっ! す、すみません!」


謝ると、男の人も軽く会釈をして、そのまま歩いて行った。
う、うぅ……今の人、ボクのことを見て少し笑ってたよ……。


P「おいおい、少し落ち着こう」

「は、はい……」

P「さ、気を取り直して! そろそろ時間だな」

「はいっ。プロデューサー! 仕事、行きましょう!」

P「おっ、いつもの真らしくなってきたな? 今日も精一杯やるぞ!」

「はいっ!」


もう一度、フリフリのスカートを見る。
プロデューサーにも、みんなにも褒められた、この格好を。

へへっ、幸せだなぁ。



――――
―――
――

「みんなー、こんにちはー!!」


今日の仕事は、軽いトークとミニライブ。
ちなみに、シークレットゲストとして、事前には告知されていない。
ボクがステージに出て来た途端、張り裂けんばかりの歓声が飛んできた。


「うわわわっ!?」


お、思わずマイクを持ったまま驚きの声を上げちゃったよ……。
マイクもしっかり拾ってるし……。
すると、予想だにしない反応が返ってきた。


『えっ、今日のゲスト真ちゃんなの!?』

『びっくりしてる真ちゃん可愛い!』

『まこにゃん! まこにゃん!』

『やっばいあの服めっちゃかわいい!』

『こっち向いてー!』


観客からの音に、再び身体を圧される。
でも、こっちだってプロなんだ。
まだトップとは言えないけれど、人気の、アイドルだ!

「ごっめんねー! 皆が凄すぎるから思わずのけぞっちゃったよ!」


気合を入れ直して、マイクに向かって喋る。
一言一言に観客が騒ぎ、叫び、歓喜する。
しかも、殆どの観客が、男性だ。


「それじゃあ、いくよーーーっ! せーのっ……」


し、しまった!
お、思わずテンションが上がりすぎてやっちゃった!
ええい、もうやるしかない!


『「まっこまっこりーん!」』


ボクが叫ぶのと、全く同時に。
観客側からも、特大のコールが聞こえてきた。


「みんな元気いっぱいだね!」


今、ボクは、フリフリの服を着て、まっこまっこりんと叫んだ。
かつて、プロデューサーに苦い顔をされ、美希をドン引きさせて、雪歩に一時間かけて説教されたこの掛け声。
それすらも、今は当たり前のように叫べるんだ!

「今日は急遽、ゲストで呼ばれちゃってさぁ――」


ボクが何を話しても。何を着ていても。何を試しても。
心地良い、精一杯の歓声が返ってきた。


「この服、来るときに一目惚れして買っちゃったんだけど……どう?」

『『『可愛い!』』』

「へへっ、ありがとー!」


フリフリのスカートの端を押さえてちょこんとお辞儀すると、最大級の声援が飛んできた。
もう、嬉しくて嬉しくて、たまらなかった。

メイン司会の人も交えて、軽いトークが始まる。


「少女漫画が好きで、最近は――」


ちらりと、ステージ横にいるプロデューサーを見る。
嬉しそうな表情で、ずっとボクのことを見ていた。

「はいっ、じゃあここを借りて、一曲歌っちゃいますね!」


直前に伝えられた曲は、普段なら絶対に歌うことがない曲。


「友達の歌を借りるよ! 菊地真で、Do-Dai!」


いつもなら、こういう歌をボクが歌うと静まり返っちゃうんだけど。
曲名を言った途端、構えていてすら一瞬びくっとしてしまう声量がぶつかってきた。


「♪本日はみ・ん・な・に、私のとっておきの、恋バナを――」


今か今かと、観客はみんな、うずうずしている。


「♪聞ーかせて、あ・げ・ちゃ・う・よー!」

『ワァァァァァァァァア!!!!』


湧き上がる歓声。ボクが一言歌う度に、会場全体から『可愛い』と聞こえてくる。
可愛いって言われることが嬉しいんじゃないんだ。いや、嬉しいけど。
当たり前のように、女の子として扱われてて。
それが本当に、嬉しかったんだ。

「♪デートしてくれま・す・か?」

『OK!』


やっぱり、ボクはアイドルをやってて良かった。
いつもいつも、かっこいいと言われてきて。
それでも今は間違いなく、可愛い女の子としてみんなが見てくれる。


「まだまだ行くよー! 次も借りちゃって……キラメキラリ!」

『『『ウワアアアアアアアアアアアア!!!!』』』


熱い声援に包まれて。
ずっとずっと願っていた目で見てもらって。
もう、カッコイイ服を優先されるようなボクじゃなくて。


あぁ、なんて幸せなんだろう。
ボクは、本当に幸せだよ。



――――
―――
――

P「お疲れ、真」

「あ、プロデューサー!」


ステージも大盛況の内に終わって、ボクはプロデューサーを待っていた。
スタッフの人にも可愛いって褒められちゃった。
へへっ、ボクだってやればできるんだ!


P「あの服、脱いじゃったのか?」

「さすがに、ステージ出て汗かいた服のままじゃ帰れませんよ」

P「それもそうか。あの服はこっちでクリーニングに出しておくよ。その後はそのまま、私服にするといい」

「ありがとうございます! その、服まで買ってもらっちゃって」

P「いいんだいいんだ! 昼も言ったように給料日直後だし、貯まってるし。何より……」

「何より?」

P「……俺が、あの服を着てる真を見たかったんだから」


ぷ、プロデューサー……!
どうしてそう言う言葉がポンポンと……あぁもう!
ボク、また顔が真っ赤になってる気がする!

P「……どうした? 熱っぽいのか?」

「や、やっぱり……大丈夫ですよ!」

P「やることは終わったし、早く帰ろう。ほら、駅まで送るよ」

「は、はいっ!」


仕事を終えてすっかり日が落ちた道を、ボク達はゆっくりと歩いた。
プロデューサーはボクが本当に体調を崩したと思ったみたいで、時々気遣う様に。
もー、そうじゃないって言ってるのになぁ!


P「なぁ、真」

「はい?」


急にプロデューサーの雰囲気が変わった。どうしたんだろう。


P「真は、これから先のことって、考えてるのか?」

「先、ですか? ……できるところまでアイドルを続ける、ってことくらいしか」

P「いつかはアイドルを辞める日が来る。そしたら、どうする?」

「どうする、って言われても」

そんな先のことは考えてなかったなぁ。
生涯アイドル! とかできたらカッコいいけど、現実問題無理だろうし。

かと言って、アイドル辞めても芸能界に残るような気にはなれないし……。
引退したら、ダンスの講師でもやろうかな?


「何でしょうね……ダンス教室とか?」

P「あー、いや。そうじゃなくて」


どうしたんだろう。プロデューサーにしては、妙に歯切れが悪いなぁ。
もっとビシッ! ズバッ! っと言ってくれればいいのに。


「どうしたんですか? ストレートに言っちゃいましょうよ!」

P「あー、うん。じゃあ率直に言うけど」

「はいっ!」

P「……配偶者のこととか、どう考えてるのかな、って」

「……えっ!?」


ははは配偶者?! って、旦那さんのことだよね……!
ええええええ?! いやいやいやいや! 急に一体……!

P「そういうことを考える時になったら、俺……」

「は、はい」

P「俺じゃ、ダメかなー、とか……」

「はい……えっ!? ぷろっ、今、な、なんてっ!?」


一瞬、頭の中が真っ白になった。
何だコレ、何だコレ!! 何が起きてるの!?


P「……ここまで言っちゃったからな。この際だから、言っておくぞ」


何を? ぷろでゅーさぁ、何を言うつもりなんですか?!
もうここまでだけで、頭の中がパンクしそうで! 破裂しそうで!!


P「俺は……一人の異性として、真のことが好きだよ。この先もずっと、一緒に居たいと思ってる」


ボクの頭は、破裂した。


P「今すぐじゃなくてもいい。心の準備が出来たら、答えて欲しい」

「ぷ、ぷろでゅー、さー……」

P「……ほら、駅に着いたよ」


トンと、背中を押される。
ボクが振り向くと、プロデューサーは、やっちまった、といった表情でこっちを見て苦笑していた。


P「俺は、ちょっと事務所でやり残してることがあるからさ、徹夜しないと。また、明日な」


ボクは頭が破裂したままで、考えることも返事をすることも出来ず、呆然とプロデューサーを見送った。
プロデューサーが視界からいなくなった頃、ようやくボクの頭を血が回り始めた。


「えっ……えっえっえっ!?」

「ぷ、プロデューサーから……告白、されたぁ……!」


やばい、どうしよう! 今、多分、今日一番の真っ赤で変顔してる!
いくら落ち着こうとしても、口角がだらしなく上がったまま戻らない!
だって……だって、仕方ないじゃないか。
嬉しかったんだ。
本当に、本当に、嬉しくて。



幸せだったんだ。

「へへっ、ぷろでゅーさぁ……♪」


さぁ、家に帰ろっと。本当は、プロデューサーを追っかけようかとも思ったけど、もう遅いしね。
どうせ明日会えるんだから。慌てることはないよ。


「切符切符」


券売機に向かって駆け出そうとした時、誰かにぶつかった。
ついよろめいてしまって、転びそうになった。
ぶつかった相手は、すぐにボクの手を握って、支えてくれた。


「す、すみません」

『いいえ、こちらこそ』


見ると、一人の男性だった。
どこかで見たことある気がするなぁ……。


「あ、昼間、道端でぶつかった!」


そうだそうだ、あの時、ちょっと笑われちゃった人だ!
……でも、それ以外でも見たことある気がするんだけどなぁ?

誰かに似てるのかな……。
うーん、すぐには思い出せないや。


『お怪我は』

「大丈夫です! そちらこそ、大丈夫ですか?」

『いいえ、大丈夫ですよ。菊地真さん』

「えっ……ボクのこと、知ってるんですか?」


ファンの人かなぁ……時間も時間だし、ちょっとまずかったかな。


『ええ、知っていますよ。娘がいつも、お世話になっております』

「娘……? じゃあ、765プロの誰かのお父さんですか?」

『はは、まぁ。……ところで、あなたは今、幸せですか?』

「え、急に何を……? まぁ、これ以上ないくらいに幸せ、ですけれど……」


そう答えると、男の人は寂しそうな表情をした。
少し切り出しにくそうに、言いあぐねる様に。

『与えられた幸せというのは、非常に儚いものです』

『その存在は与えてくれる人に依存し、それがなくなってしまえば、脆くも崩れ去る』

『本当に、夢のようなものです』

「夢……」


ボクが感じている幸せ。これは、夢なんかじゃないはずだ。
本当の、本当の幸せの。


『……あまり、私が口を出していいことでもないのですが』

『娘一人、幸せにしてやれない父親です』

「あなたは――」

『会うことがあれば、これからも、娘と仲良くしてやってください。家と、兄と離れて、寂しがっています』

『それでは、失礼』


そう言い残すと、男の人は夜の闇に消えていった。
またもや、ボクが返事をする間もなく。
でも今度は、頭が破裂してたわけじゃない。
万全の態勢で、ボクは何も、答えられなかったんだ。

「……帰らなきゃ」


改めて券売機に向かって、切符を買う。
改札を通るころには、さっきまで感じていた幸せが、どこかに飛んで行ってしまったようだった。


「うー寒い寒い……」


急に、寒さを感じ始める。さっきまで、あんなに暖かかったのになぁ……。
次の電車は、23時30分発。すぐに来るね。

そう思った瞬間、駅のアナウンスが鳴った。
暫くして、ホームに電車が滑り込んでくる。


「暖房車だといいなぁ……」


ボクが乗り込んで数秒後、ドアは閉まった。

ボクが乗った車両には、他に人は殆ど乗ってなかった。
遠くの方にちらっと会社員みたいな人が見える。
なんだか、ドッと疲れちゃったなぁ。座ったら寝過しちゃうかな……。


ふと視線を変えると、男の子が一人で座ってるのが見えた。
こんな時間に? あんなに小さい子が?
い、いくらなんでもこれはまずいんじゃないかなぁ……。

「ねぇ、キミ……」

『なぁに?』


男の子が顔を上げると。


「あっ、キミ、お昼の!」

『あ、助けてくれたお姉さんだ』


車に轢かれそうになっていた男の子。
なんでこんなところで、一人で乗ってるんだろう。


「キミ、一人なの? マズいなぁ……お母さんとかは?」

『一人だよ』

「うぐ、これは次の駅で駅員さんに言うしか……」


丁度その時、電車が駅に止まった。
もう終電近いけど、まぁ大丈夫だよね。

「こんな時間、一人じゃ危ないよ。駅員さんの所に行こう」


そう言って手を引くと、何も言わずに着いてきた。
電車を降りると、男の子から声をかけてきた。


『お姉さん、いつもありがとう』

「え? 何が?」


いつも? この子、知り合いだっけ?
うーん、ボクの知り合いに、こんな子どもはいないけどなぁ……。


『お姉ちゃん、いつも楽しそうに友達の話をしてくれるの。真さんのことも』

「お姉ちゃん?」

『うん。大好きなお姉ちゃん!』


弟がいるというと……やよいかな?
でも、やよいの弟にこんな子いたかなぁ……。
というか、やよいの家が、こんな小さい子を一人で歩かせるなんて有り得ないよねぇ。

『ねぇお姉さん、なんでそんなにつまらなそうな顔してるの?』

「え、つまらなそう……?」

『お姉ちゃんは、もっと幸せそうな顔してるよ! お歌を歌ってくれるときとか、ほんとに!』


歌を。

そうか、この子は。

そして、さっきの男の人は。


「……キミ、そうだったんだね」

『え?』

「そういえばここって、そういう夢、だったね」

『お姉さん……?』


そんな心配そうな顔しないでよ。
大丈夫、ボクは大丈夫だよ。


「ねぇ、キミ」

『なぁに?』

「ありがとね」

『え、えと……どういたしまして……?』

「ははっ、偉い偉い!」


そりゃ、こんな弟に歌ってあげたら、幸せになれるよね。
羨ましいな、なんて言ったら……傷つけちゃうかな。


「ねぇ。歌ってくれてる時のお姉ちゃんって、本当に幸せそうだったんだろうね」

『うん! いっつもにこにこしてたよ!』

「そうだよね、そう、だよね……」


丁度同じホームに電車が来た。


「引き止めてごめんね。ほら、電車が来たからお帰り」

『駅員さんの所に行くんじゃないの?』

「それはもういいや。気を付けて帰るんだよ」

『はぁい!』

男の子は元気に電車に乗った。
ドアが閉まると、傍の窓から顔を覗かせて、笑顔で一生懸命手を振っていた。
もう、本当に可愛い弟だったんだろうな。


「やっぱり羨ましいよ……ボクもあんな弟、欲しかった」


駅の時計を見ると、時刻はもう23時45分を過ぎていた。
急いで階段を駆け上って、反対側のホームへと走り込む。
それと同時に、電車が滑り込んできた。ナイスタイミング!


「急がなきゃ……ボクは、行かなくちゃいけないんだ」

「待たせてるから、ね」


でも、さすがは定時刻に定評のある日本の鉄道。
どんなに慌てても、のんびり構えても、到着する時間は一緒だからね。
電車の中では、美希ばりにのんびりとしちゃったよ。

代わりに、駅についてドアが開いた瞬間、ボクは走り出した。
改札なんて、飛び越えて。

駅を駆けだしてすぐ、またあの男の人に会った。
ボクは男の人の前で立ち止まった。


『おや、忘れ物ですか?』

「もう、とんでもないものを忘れちゃったみたいで」

『そうですか。急ぎなさい、間に合うかは分からないが』

「間に合わないですよ、もう」


時計は、50分過ぎを指してる。
シンデレラの命は、あと僅か。


『……何か、私に用でも?』

「ありがとうございました!」


ボクは深々と頭を下げた。
男の人もさすがに驚いたみたいで、言葉を失っていた。
へへっ、なんだか一本取ってやった気分!


「人から貰った幸せじゃ、やっぱりダメだったみたいです」

『……そうですか』

「教えてもらったんです、友達の弟に」

『……?』

「幸せは、自分で掴み取らなきゃダメだって」

『……そうですね。彼女は弟に歌ってあげる時、本当に幸せそうだ』

「彼女だけじゃない。みんなそうですよ。勿論、娘さんも」

『ああ……あの子は、本当にいい友達を持ったみたいだ』


男の人は、ハンカチを取り出して目元を押さえた。
あれって……いや、そこを言っちゃうのは野暮ってものさ。
ボクは努めて明るく、男の人に言った。


「それじゃあ、ボクも行ってきますね」

『……ええ。どんな結果になるかは私にも分かりませんが――』


男の人はハンカチを仕舞って、ボクに始めて満面の笑みを向けた。


『後悔のないように』


背中を押されて、ボクは走り出した。

もうなりふり構わず、とにかく走った。
走り出す直前、時計は55分くらいだったかな……?
事務所までは、到底間に合わないよね、こりゃ。


『わたくしが引き止めていられるのは"今日限り"』

『日の境目を越えてしまったら、わたくしには為す術はありません』


昼前の、貴音の言葉が耳の中で響く。
分かってるってば……ごめん、貴音。

最後の角を曲がると、突き当りに765プロの事務所が見えた。
窓の灯りが光って、一人の影が動いているのが見える。


「あと、少し……!」


最後の力を振り絞って、ボクは踏み込む足に力を入れた。

ふと、腕時計を見る。



秒針が、文字盤の10を越えた。



「もう少し――」



「あとちょっとで――」



「事務所に――」



「あと、本当に少しで――」



「明日を――」








腕時計を付けている左手が、めくれ上がった。

「ぁ……あ……!」


指の先から、一気に皮膚がめくれ上がるように遡り始めた。
ゾワゾワとした感覚が腕を一気に駆け上る。
それと同時に、足のつま先からも同じような悪寒が、大腿、腹部、胸部と、身体の中を蝕むみたいに。


「気持ち悪い――!」


手はまるで土気色。昔誰かが亡くなった時に見た、あの色。


「それでも……行かなきゃ、行かなきゃ――」


ボクの願いに反するように、ずるりと足が崩れ落ちた。
前のめりになるように、ボクは思いっきり倒れ込む。

へへっ、まるで春香みたいだなぁ。なぁんて言ったら、春香に失礼かな。

でも、悔しいなぁ……事務所まで、あと10mもないのに。


「……っうぐっ!?」

土気色になった手に、激痛が走る。
今度は指先から、どんどん痛々しい傷跡が駆けあがってくる。


「い、たぁっ……?!」


転んだ時に前へ伸ばした右手が、血に染まるように赤くなっていく。
少し動かすだけでも激痛が走る。
足はもう、動かない。


「痛い……よっ……プロデューサー……!」


ボクが呻くと同時に、事務所の灯りが消えた。
街灯の灯りだけが残って、ボクは一人ぼっちになった。


「……れ、でも……それ、でもぉっ……!」


ずるずるとボクは進む。
這いつくばってでも。
どんなに惨めでも。
泥水を飲んでも。

ボクは止まるわけにはいかないんだ。
行かなきゃ、行かなきゃいけないんだ。

もう、生きるとか死ぬとか、関係ない。


みんながいる暖かい場所に戻れるかどうかなんて、関係ないんだ。


ボクは、伝えなきゃいけない。


示さなきゃいけない。


ボクの幸せを。


ボクの、まことの幸せを。


やっと気付いた、ボクの、真の、まことの幸せを。


その向こう側に、何が見えるのか。


その向こうに見える明日は、どんな世界なのか。


その欠片だけでも、ボクの幸せの欠片だけでも。

「シンデレラが本当に幸せになったのは」


「魔法が、解けた後だったんだ」


「一歩」


「もう、一歩」


「誰かに貰うんじゃなくて」


「貴音に手伝ってもらってでも、なくて」


「ボクが、ボク自身で」


「掴まなきゃ、いけないんだ」


「その先に見える、まことの幸せを」


「その先にある、明日を」

事務所の階段を、誰かが下りる音がする。
必死に顔を上げると、ビルの中から、プロデューサーが歩いてきた。
ボクの指先から、1mくらいのところで止まる。


「プロ、デューサー」


プロデューサーは何も言わずに、ボクのことを見ていた。
見下したり、嫌悪したり、といった目ではなく。
優しい眼で、ボクのことを見ていた。


「プロ、デューサー、ボク、は」


ボクは必死に、痛みに堪えて。


P「真、好きだよ」

「……違うんだよ」

P「真、愛してる」

「聞いて、プロデューサー」

P「ずっと、一緒に居て欲しい」

「プロデューサー!」

ボクが痛みを無視して叫ぶと、プロデューサーは口を閉じた。
そして、ボクに右手を差し出してくる。
その手には、一輪の薔薇が握られていた。


「いら、ない」


ボクはまた、声を絞り出す。
プロデューサーは他意のない微笑みと共に、ボクに薔薇を差し出してくる。


「ねぇ、プロデューサー」


砕け散りそうな腕を杖にして、ボクは上半身を上げた。
一瞬でも力を抜いたらきっと、ボクはこのまま地面に落ちて、ガラスのように砕け散ってしまうんだろう。


「聞いてよ」


プロデューサーの持っていた薔薇は、いつの間にか消えていた。

プロデューサーの目は、もう優しくなかった。
でも、あんな上辺の優しさ、いらないよ。


「さっき、さ。プロポーズ、してくれたよね」


今のプロデューサーは、どんな表情もしてないけど、真っ直ぐ、ボクを見てくれてる。


「心の準備ができたら、答えてくれ、って。だから今、返事をするよ」

「ごめんなさい。ボクは、プロデューサーの気持ちには応えられない」


ホンモノのプロデューサーじゃないけれど、胸がずきんと痛んだ。
ボクは何様なんだろう。何を思い上がってんだろうね、ボクは。


「ここで応えてしまったら、最期まで、ボクの幸せは与えられるだけだから」


プロデューサーの瞳の奥が、僅かに揺れた気がした。
それとも、ボクの目が、揺れてるだけかな。
何かボクの視界を揺らすものが、目に入ってるんだ。


「だから最期は、ボクから言うんだ」

「プロデューサー、大好き、です」

「本当に、好きでした」


「情けないところも」

「ちょっとケチなところも」

「全然スマートじゃないところも」

「ファンに見つかった時にごまかすのが下手なところも」

「女の子を誉めるのが下手なところも」

「本番中、いつもおろおろしながら心配そうなところも」

「でも、本当にボク達を大切にしてくれるところが」

「決して偽ったり、飾ったりしないところが」

「ボク達を、ボク達として見てくれるその目が」

「上手く行った時にくしゃくしゃと撫でてくれるその手が」

「失敗して泣きそうなとき、何も言わずに慰めてくれるその手が」

「そんなかけがえのない、プロデューサーという人が」



本当に、全部全部、ボクは、好きでした。

「プロデューサー、ありがとう」


こんなボクに、幸せをくれて。


「プロデューサー、ありがとう」


こんなボクに、幸せを感じさせてくれて。


「プロデューサー、ありがとう」


今、この感謝の言葉を伝えさせてくれて。


「プロデューサー」


ありがとう。
何も言わずに、全部、聞いてくれて。

P「真」


ずっと黙り込んでたプロデューサーが、口を開いた。
あの優しい表情ではなく、無表情のまま。


P「真」

「……プロデューサー」


もう、足の感覚は完全になかった。

そう思った次の瞬間、とうとう、ボクの腕が砕け散った。


「ぁ――」


砕け散った欠片が、細かい粒子になって、光になって、そのまま大気の中に消えた。
そしてボクは、顔から、無様に地面に落ちる。

でも、地面は思ってたよりも柔らかかった。


「プロデューサー……?」


ボクを仰向けに抱き抱えたプロデューサーは、ボクの目を見たまま、何も言わなかった。

へへっ、プロデューサー。
ボク、やっと幸せっていうのが、分かった気がします。


「まことの幸せって、案外、近くにあるんですね」

P「真」

「……なん、ですか?」

P「俺は、待ってるよ」

「プロ、デューサー」


プロデューサー。

ボクが持ってる想いは、全部撃ち切りました。

撃てる限り、全て撃ち尽くしました。

もう、残弾はありません。

もう、これ以上伝えたいことは、何もありません。


ボクが撃った想い。


届きましたか――?

 



『先生、急患が』


『処置を』


『急げ』


『最後まで』


『絶対に』


   ――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――『願いを叶え、真の、まことの幸せを知ってください』――――
―――――――――――――――
   ――――――――――――――――――――――


――――――――――
――――――――
――――――
――――

うぅ……身体中が痛い……。

腕が……めくれて……。

辛い……辛い……。

でも……。


……?


何か聞こえる……。


『真!』


声……?


『真ぉ!』


誰だろ……?




「プロデューサー……?」

P「真!!」


叫ぶような呼び声で、ボクは目を覚ました。
ここは……何だろう。
いっぱい、白衣を着た人がいる。


P「真! 俺が分かるか!?」

「ぷろ、でゅーさー……」

P「良かった……! よく、よく目を覚ましてくれた……!」

『まだ油断はできません。菊地さん、意識をしっかり保って!』


な、なんなんだよここぉ……って……?!


「……いったぁっ……!」

P「頑張れ! 頼む! もう少し、もう少しだけ頑張ってくれ!」

「痛い、けど……」


さっきの痛みに比べれば、こんなの……!

――――
―――
――



P「本当に、本当に良かった……!」

「もう、そんなに手を握らなくても……いたたっ!」

P「す、すまん!」


プロデューサーは慌てて手を引っ込めた。
本当に、この人は。
夢の中のスマートぶりとは大違いだ。


P「でも、本当に良かった……」

「怪我自体は、どうなんですか?」

P「幸い、完治さえすれば、あとは軽いリハビリだけで復帰できるそうだ。ただ、半年から一年は、まともなステージは無理だな……」

「うぐ、悔しい……」

P「でもその後には差し支えないし、復帰自体も回復力や頑張り次第では早まる場合もあるみたいだ。頑張っていこうな」

「……はい!」

こんこんと、ドアをノックする音がした。
ドアの曇りガラスの向こうに人影が見え、すぐに開いた。


貴音「お見舞いに参りました」

響「真、大丈夫か!?」

千早「響、あまり大きい声は……」

P「お前たち……」

貴音「あまり大人数でも迷惑かと思いましたので、三人だけで参りました」

「そんな気を遣わなくてもいいのに……ありがとう」


でも、この三人がお見舞いとは、何の因果だろう。
貴音は分かるけど。……いや、一番の謎だけど。


「貴音のお蔭で、戻ってこれたよ」

貴音「わたくしは、殆ど手助けできませんでした。灰かぶり姫の、執念の賜物です」

P響千早「「「貴音のお蔭?」」」

「あーうん。何でもないよ、忘れて」

貴音「ふふっ、トップシークレット、です」

「あ、そうだ。響」

響「ん?」

「ボク達、ずっと友達だからね」

響「な、ななな何をいきなり?!」

「寂しかったらいつでもおいで」

響「じ、自分寂しくなんてないぞ! ハム蔵達がいるからな!」

「へへっ、それでも、だよ」


頼まれちゃったからさ。
これからも、仲良くしてくれって。


「まぁ、頼まれなくたって嫌がられたって、どうせ仲良くするんだけどね」

響「真、頭がどうかしちゃったのか……?」


随分失礼なことを言われてるなぁ……。
でも、ま、いっか。仕方ない仕方ない。

「あと、千早」

千早「?」

「気分を悪くしないで欲しいんだけど……今度、弟さんのお墓参りに行きたいんだ。ダメかな?」

千早「え、いいけれど……どうして?」

「助けてもらったんだ」

千早「! そう……優が……。それなら、断る理由もないわね」


良かった。気分を悪くされるどころか、心なしか嬉しそうだ。
やっぱり千早は、笑ってる、幸せそうな顔が似合ってるよ。


千早「来てくれれば、優も喜ぶわ。きっと、真に懐いてるもの」

「え、なんで?」

千早「ふふっ。あの子、懐いた人としか、あまり喋らないから」

「そっかぁ。……じゃ、二人で一緒に歌でも歌ってあげようか」


まだ、ボクの歌声は聴かせてないからね。
喜んでくれると良いんだけど……。

響「千早はなんとなく分かったけど……じ、自分はなんであんなこと言われたんだ?!」

「あはは、いろいろあったんだよ。響の家族って、暖かいね」


こんな他愛もない会話。他愛もない日常。
しばらくしたら、きっと他のみんなも、嵐のように見舞いに来るんだろうな。

ごめん、ボクは大嘘をつきました。
みんながいる暖かい場所に戻れるかなんて関係ない、なんて。
やっぱり、大切だよ。大切な大切な、この場所。


響「も、猛烈に気になるぞ……」

千早「長居しても迷惑ですし、そろそろおいとまするわね」

「気を遣わなくていいのになぁ」

貴音「しっかりと休むのですよ。それでは」

響「うー、バイバイ」

P「お疲れさん」


三人が頭を下げて出ていく。
貴音だけ一瞬ボクの方を見て、珍しくウインクをして出て行った。
結局、貴音は何者なんだろう。
ボクの人生において、火星人以上の永遠の謎になるな、これは……。

これで残ったのは、また、プロデューサーだけ。


「ねぇ、プロデューサー。一つ、聞きたいことがあるんですけど」

P「ん?」

「もし担当の現役アイドルにプロポーズされたら、どうしますか?」

P「え゙っ!?」


案の定、驚いてる驚いてる。
見るからにあたふたして、目線が泳ぎまくってるよ。
もう、情けないったらありゃしないなぁ……。


P「それは、その……応えるわけには、いかないだろうなぁ」

「アイドルとプロデューサーだから、ですか?」

P「まぁ、ね」


だろうと思った。
ヘタレで朴念仁で超奥手だけど、しっかりしてるところは妙にしっかりしてるんだよね。

P「ただ……」


ただ?


P「きっと……俺は、待ってるよ」


プロデューサーがそう言った時、締め切られたこの部屋で、風が吹いた気がした。
風を感じて窓の外を見ると、一本の樹が揺れていた。

この樹が何の樹か、どんな花を付けるのかは知らないけれど。
5年後か、10年後か。今の風で、この樹の花が舞う時。

明日の明日の明日の、そのまた明日の……。

そのいつかの明日、きっとボクは、あの今際の際に見えた幸せを、全身で浴びているんだと思う。

そんな予感。



なんてことを考えてプロデューサーを見ると。

プロデューサーもボクを見ながら、少し照れくさそうに笑っていた。



おわり

今日も今日とてこんな時間で支援してくれた人まじ㌧クス、さるさんうぜぇ
地の文有りの練習も兼ねてやってみたけどむずいな
最後が焦って駆け足になったのがちょっとアレだった

あと、映画のパロだと思って見に来た人はまじすまん
本当に偶然だったんや、同名の映画があるなんて思わなんだ

とりあえずまこにゃんかわいい乙



Pはちゃんと庇ってもらったお礼を言うべきだ

>>153
あ、すまん、それは俺が完全に忘れてた
ごめんよまこにゃん

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