和「咲さんはヘタレ」(138)

咲「今日は楽しかったね、和ちゃん!」

和「はい、とても」

咲「暗くなってきたしそろそろ帰ろっか」

和「そうですね。名残惜しいですが明日は学校ですし」

咲「……」

和「……」

咲「……あ、あの。和ちゃん?」

和「何でしょうか、咲さん」

咲「ええっと……あの、あのね?」モジモジ

和「はい」

咲「そのぅ……い、いつもの……を」

和「いつもの?」

咲「う、うん。ほら、デートの終わりにはいつも……あ、あれを……」モジモジ

和「……何のことですか?すみませんが、はっきり言ってくれないと分かりませんよ」

咲「う、うううう~……」

和「……」

咲「ほ、ほら、あれだよ……。さ、さよならの……き、き……///」

和「……」

咲「き……う、ううんっ!やっぱり何でもない、ゴメンね引き止めちゃって!」ワタワタ

和「……」

咲「そ、それじゃまた明日っ」ダッ

和「……待って下さい」ガシッ

咲「な、なに?」

和「はあ~……」

咲「和ちゃん?どうしてため息を……」

和「咲さんのせいですよ」

咲「えっ、私のせい!?私何か気に障るようなことしちゃった!?」アセアセ

和「いえ、何もしないのが問題なんです」

咲「……???」

和「はあ……。咲さんは間違いなくアレですね」

咲「あ、あれ?」

和「はい。咲さんはヘタレです」

咲「へたれ!?」ガーン

和「やっぱり自覚なしですか……」

咲「ひ、ひどいよ和ちゃん!どうしてそんなことを言うのさ!」

和「どうしても何も、さっきのやり取りでも十分に咲さんのヘタレっぷりを証明出来ますよ」

咲「えっ?」

和「……いつもみたいにさよならのキス。したいんですよね?」

咲「ふえっ!?」ドキッ

和「したいならはっきり言って下さいよ、もう……」

咲「だ、だって恥ずかしいし……」モジモジ

和「……」

咲「の、和ちゃんも気づいてたならとぼけなくても……」

和「……あのですね咲さん、私たちが付き合い始めてからどれだけキスしたか覚えてますか?」

咲「えっ?こ、細かい数は覚えてないけど……い、いっぱい……///」カアアッ

和「そうです、いっぱいです。では、咲さんからキスしてきたのは何回か分かりますか?」

咲「私から……?えっと、」

和「ゼロですよ、ゼロ。咲さんからキスしてくれたことはありません」

咲「そ、そういえば……そうかも……」

和「いっつもキスするのは私から、咲さんには『キスして欲しい』と言われたことすらないのですが」

咲「……」

和「さっきのもそのせいです。たまには咲さんから……と思ったんですが、咲さんのヘタレが発揮されてあの結果ですよ」

咲「ご、ごめんなさい……」

和「別に謝らなくていいですよ。咲さんのその恥ずかしがりな性格、私は好きですから」

咲「す、好きって……///」

和「しかしですね、さすがにヘタレが過ぎても困るんです」

咲「うう……そ、そんなに私ってその、へたれなのかな……?」

和「……咲さん」ジトッ

咲「は、はい」

和「こうして私たちは付き合っているわけですが」

咲「う、うん」

和「告白したのはどちらか覚えていますか?」

咲「……の、和ちゃんから」

和「そうですね。呼び出したのは咲さんなのに、沈黙に焦れた私が告白しました」

咲「だ、だっていざとなったら恥ずかしくて、練習してたのに言葉が出てこなくて……」

和「それ以外にも」

咲「い、以外にも?」

和「手を繋ぐのもいつも私からです」

咲「そ、そういえば……」

和「こんな風にデートに誘うのも大抵私からです。もちろん今日も」

咲「あぅ……」

和「あんまり誘ってくれないから私と出掛けるのが嫌なのかと勘繰ってしまいますよ、もう……」

咲「そ、そんなことないよ!和ちゃんとのデートはすっごく楽しいし、いつも週末を心待ちにしてて……」

和「じゃあどうして誘ってくれないんですか?」

咲「うぅ……。だ、だって和ちゃんは忙しくないかな、とかどこに行けば喜んで貰えるかな、とかあんまりしつこく誘って嫌われたりしないかな、とか考えると……」

和「考えすぎですよ。というか、しつこくどころか普通に誘われることが稀なんですが」

咲「ごめんなさい……」グスッ

和「……泣かないで下さい。さっきも言いましたけど、私は咲さんのそういうところも好きですから」

咲「うん……ありがとう。私も和ちゃんのこと好きだよ……えへへ」

和「私のことが好きなら……行動でも示して下さい」

咲「っ!!う、うんっ」

和「咲さん……」ソッ

咲(和ちゃん、目を閉じた……これはキスしてってこと、だよね?よ、よ~し)

和「……」

咲(和ちゃん、やっぱり綺麗だなあ……。こんなに綺麗で可愛い和ちゃんに、いまから私が……)ドキドキ

和「ん……咲さん?」

咲「ご、ごめんね待たせて。い、いくよ……」

和「はい……」

咲「…………」ドキドキ

和「………………」

咲「………………うう///」ドキドキ

和「……あの」

咲「ひゃっ!?ご、ごめんなさい!」

和「もう……」

咲「ま、待って!い、今からするから!その、5秒後に!」

和「えっ?」

咲「ご、ごー」

和「か、カウントするんですか?」

咲「うん、これなら私でも……和ちゃん、また目を瞑って?……よん」

和「は、はいっ」

咲「さん」

和「咲さん……」

咲「和ちゃん……にー」

和(な、何だかこれ、ドキドキしますね……///)

咲「いち」

和「ん……」

咲「好きだよ、和ちゃん……ぜろ」

和(ああ、ついに咲さんから私に……何だか咲さんがとても頼もしく感じられます)

咲「……」

和「……」

咲「…………」

和「あ、あの咲さん?カウントはゼロになりましたよ?」

咲「……ま」

和「ま?」

咲「まいなす、いち……///」

和「マイナス1っ!?」

咲「ぜ、ぜろでカウントが終わるとは言ってないよね……///」

和「言ってませんけど!ここに来てまでヘタレますか咲さん!」

咲「や、やっぱり私から和ちゃんにキスするなんて恥ずかし過ぎて無理だよーっ!///」

和「はあ……すっごくドキドキしたのに……」

咲「あう、ヘタレでごめんなさい……」

和「……咲さん」

咲「なに、んっ!?」

チュッ

和「……ぷはっ、こうすればいいんですよ」

咲「の、のどかちゃん……///」

和「もう、結局今日も私からになっちゃいました。咲さんがいつまでも待たせるからですよ?」

咲「う、うん……ごめんね///」

和「次は咲さんからですからね?さあ帰りましょうか」

咲「……」

和「咲さん?」

咲「の、和ちゃんっ!私頑張るからっ!和ちゃんにヘタレって言われないように!」

和「……ふふっ。そうですね、頑張って下さい」

咲「うんっ!」

和「さあ行きましょうか」スッ

咲「あ、手……」

和「これも次は咲さんからだと嬉しいです」ギュッ

咲「えへへ……頑張るね」ギュッ

咲(今はまだ恥ずかしくて、見つめ合ってキス、は無理だけど……)

和「それでは私はこの辺で……また明日、学校で」

咲(和ちゃん……)チラッ

和「咲さん?」

咲「また明日ね、和ちゃんっ」

チュッ

和「えっ……?」

咲「~~~~っ///」ダッ

和(いま、咲さんから……?)

咲(不意打ちで、ほっぺにだけど……キスしてすぐ逃げ出すへたれだけど……今はこれが限界だよ///)タタタッ

和「咲さん……///」ポワー

咲「きゃっ!?」ドテッ

和「咲さんっ!?だ、大丈夫ですか!?」ダッ

……

和『……という感じで、咲さんがヘタレで困ってるんです』

憧「ふ、ふ~ん……」

憧(和からの電話なんて珍しいから何かと思ったら……)

和『でもそういうところも可愛いですよね。しかも咲さんは最近積極的になってて……』

憧(まさか恋人の愚痴、を装った惚気話を聞かされるとは……)ゲッソリ

和『……あ、明日は咲さんとデートなのでそろそろ寝ないと。憧、長話に付き合って貰ってありがとう』

憧「はいはい、お幸せに」

和『明日こそは咲さんからキスを……』ブツブツ

憧「……」ピッ

憧「……はあ~あ」

憧「恋人がヘタレ、ねえ……」

憧「……」ピッピッ

憧「もしもし、しず?」

穏乃『はいはーい、憧ー?どしたのー?』

憧「明日ってヒマ?よかったら一緒に遊びに行かない?」

穏乃『おっ、いいねー!行く行くーっ!』

憧「それじゃあとりあえず明日しずの家に行くから。時間は……」

……

憧「こんな感じでいい?」

穏乃『うん、オッケー!楽しみにしてるよ!』

憧「……ねえしず」

穏乃『ん?なに?』

憧「……あたしね、しずのこと好きだよ。すっごく好き」

穏乃『へっ!?な、何さ急にー……でもありがと。私も憧のこと好きだよ』

憧「えっ……?」ドキッ

穏乃『あと和も!玄さんも、灼さんも、宥さんも、赤土さんもみんな好きっ!』

憧「……」

穏乃『あっ、そうだ!明日、せっかくだから玄さんたちも呼ぼうか?みんなで一緒に、』

ピッ

憧「はあ……」

憧「…………」

憧「ヘタレと鈍感って、どっちのほうが罪なのかしらね……」ボソッ


おしまい

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