ミカサ「アニと私」(32)

アニ。

貴女に聞こえていればいい。




ミカサ(それを心地良いだなんて、貴女には思えないくせして)

ミカサ「アニと私」

アニが眠る水晶を前にして、

エレンとアルミンは眉をひそめて、息を飲んだ。


エレン「…っのやろッ…!」

アルミン「……アニ…」

エレンが悔しそうに拳に力を込める姿と、

アルミンが物言いたげに水晶に触れる姿を、

ミカサは後ろからそっと見ていた。



ミカサ(エレンはアニと対人格闘をしていたし、
   女型の巨人はアルミンを意図的に生かしたと言う)

どんな理由であっても許せないと怒るエレンと、

どんな理由があってこんなことと嘆くアルミンが、

自分のなかのアニと、
アニが犯した事実を重ね合わせて、

背中を悲しげに震わせていた。

エレンとアルミンが、アニの名前を呼ぶ。

たくさんの感情を込めて。

そして━━



ミカサ(……アニ)

エレンとアルミンの悲しい気持ちを

辛いと感じながら、

ミカサも複雑な心境でアニの名前を呟いた。

ミカサ(アニとは、)


アニとは特別仲良くしていたわけではない。
どちらかと言えば、あまり話したことがなかった。

対人格闘の時間には、エレンは決まってアニと組んでいた。

始めは異色のペアに思えたが、
数回もすればエレンがアニに学ぶ形で組んでいることがわかったし、
エレンがアニに似た型で上達していくのが目に見えた。

その光景を見る度に、
心の中でなんと呼んでいいのかわからない
もやもやとした気持ちが底から沸き上がるのだ。

もやもやをなくしたいと思えば思うほど、
もやもやを誰かにぶつけたくなり
ライナーを投げ飛ばしたこともあった。


いつだかクリスタが「ミカサとアニは少し似てるね」と言ったことがあった。
私とアニはそれを聞いて怪訝な顔をした。

「寡黙なところ」「努力家なところ」「意外と世話焼き」と、
クリスタが得意気に話している横で
サシャが「二人とも案外乙女ですよね」と
何気なくふわっと言うものだから、
なぜだか思わずドキッとしたのだ。

アニもそうだったようで、
私達二人の顔を見た女子たちは楽しそうな声で笑う。

心なしかムッとして、
ちらりとアニを視界に捉えた。

アニもどこかムッとした顔で、
床を睨んでいた。

エレンのまわりにいる女子はアニだけじゃない。


ミカサ(それなのに━━)


エレンとアニが一緒にいると、
なぜだか心が焦るのだ。


理由はわからない。


たくさんの女子の中で、
アニはどこか栄えるのだ。

寡黙なのに、目を引く。

何かしているわけではないのに、目立つ。


ミカサ(少なくとも、私にはそう見えた)

だからかもしれない。

エレンとアニが一緒にいると焦るのは、

エレンもアニをそう捉えているのではと、

思ったからかもしれない。

その他の大勢の女子とはどこか異なる空気を持ったアニが、

エレンの心のどこかしらに引っ掛かったのではないかと、

些か恐ろしい気持ちがした。

私はふと、それはなぜ…と自問自答をして、首をふった。


あるとき、ふとしたことがきっかけでアニと対人格闘をすることになる。

もやもやを、本人にぶつける時が来たと
思った。
アニを見ると、アニも力の籠った瞳で睨んでいた。

けれど、教官の野暮で勝敗はつかず…



クリスタ「結局どっちが勝ったんだろうね?」

サシャ「アニとミカサは、さしずめライバルと言ったところでしょうか」

ミカサ「ライバル…とは?」

サシャ「えぇーと、何においても、こいつには負けたくないって相手ですかね!」

ミカサ「………」

アニ「………」

ミーナ「そうみたいね」



私とアニの気持ちをよそに、

やはり女子たちは楽しそうに笑うのだった。

ミカサ(こいつには…負けたくない…か)

家族でも幼馴染みでも友人でもない関係があるのだと、
その日新たに知ったのだった。



ミカサ(……アニ)


いま、目の前にいるアニは、

瞳を伏せ、硬い水晶の中で眠っている。


……エレンの悲しい背中が見える。


ミカサ(エレンの存在は、
   アニにとってもまた、特別なものだったの?)


━━私なら。


私ならその特別なものを守るために、なんだってする。



アニ。


もしも、貴女にとってエレンが特別なものだったとして

もしも、貴女が総てを棄ててもエレンが特別だと

もしも、もしも、

本当のことを全部、打ち明けてくれていたなら━━

ミカサ(そんなことしたところで、
   貴女を認めることなんてできないけれど、)


それでも━━



ミカサ「………不毛」


ミカサ「取り返しなんてつかない。
    なぜ、どうして、…もしもなど不毛」


吐き捨てるように呟くと、

エレンとアルミンがこちらを向いた。


ミカサ「悔やんでも過去は変わらない」


エレン「…そうだな」

アルミン「…うん」


思うことはあれど、
三人とも目指すところは同じ。

エレンもアルミンも、力強く頷いた。


エレン「行こう」

アルミン「ああ」

ミカサ「……」コクッ


アニ。

眠る貴女に聞こえていればいい。

エレンの気持ちも、
アルミンの気持ちも、
すべて聞こえていればいい。


━━女型の巨人が涙を流していたように思えてな…


アニ。


ミカサ(エレンは私が守る)


これが勝ち?


ミカサ(アニの馬鹿)


ライバルじゃ、なかったの?


ミカサ「エレンは、私が絶対に守る」

★おわり★

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