エレン「ミカサ、戦え」(34)


※Production I.GといえばBlood+だろ

※というわけで進撃でBlood+をやってみる話
 もうあったらごめん

※話の都合上、黒化してるキャラもいる
 翼手の細かい設定とか少し違う

その日、人類は思い出した。

翼手に支配されていた恐怖を。

鳥籠の中に囚われていた、屈辱を――。


【845年】


パカラッパカラッパカラッ…

キース  「総員、戦闘用意!!!」バッ

団長の号令に、エルヴィンは顔を上げる。
地平線の向こう、まだ遠いが、黒い影がうごめいていた。

近づくごとに、影の形が明らかになる。鋭い牙にコウモリのような翼。
3メートルほどの大きさで、馬の足音を聞きつけた長い耳がぴくり、と動く。

キース  「目標、前方の3メートル級2体!翼手の中でも小柄な方だ、必ず仕留めろ!!」

モーゼス 「距離400!……行けます!」

ググ…

ズシンッ、ズシンッ

モーゼス 「っ、目標が走り出しました!!距離およそ250!縮まっています!!」

キース  「なんだと!?翼手は日光に弱いんじゃなかったのか!」

エルヴィン「滑空できないというだけで、動きが封じられるわけではありません!
      ……翼手は昼間でも、我々を殺せます!」

キース  「くっ…全員、立体起動に移れ!!我々の班が囮をつとめる、訓練通り5つに分かれて討伐しろ!!」

全員   「「「了解!!」」」バシュゥッ…

次々に飛び立っていく、調査兵団の兵士たち。
翼手はその大きな翼を広げて、彼らを叩き落とそうとした。

兵士A  「させるかっ!」ギュオオオ

飛び立った兵士たちはアンカーを撃ち出し、翼手の翼に突き刺して攻撃を避ける。

兵士B  「頭がガラ空きだぜ!!」

兵士C  「人類の力を……思い知れ!!!」

□□□□

??? 『早く帰ろうぜ、オレたちの家に』

??? 『な、ミカサ』

「――ミカサ」

ミカサ 「…………」

??? 「ミカサ!」

ミカサ 「……んっ…」パチッ

ゆっくりと目を開ける。肌に当たる草。やわらかい陽ざし。
そして――視界いっぱいの、あきれ顔。

??? 「さっさと起きろよ、日が暮れちまうぞ」

??? 「ったく…俺がせっせと薪拾いしてる間に、お前はグースカお昼寝か?」

ミカサ 「……?……あれ、ジャン?……縮んだ?」

ジャン 「は?……まだ寝ぼけてんのか?」

ミカサ 「ん……なんだか、すごく長い夢を見てたみたいな気がするけど……」ゴシゴシ

ジャン 「おい、ミカサ……お前、なんで泣いてんだ?」

ミカサ 「……え?」

ザアッ…

【846年】

トコトコ…

ミカサ 「ジャン。わたしが泣いてたってこと、おばさんには言わないでね。心配するから」

ジャン 「分かった、秘密な。その代わり…」

ミカサ 「チーズはあげない。パンならいいけど」

ジャン 「ハァ…翼手に喰われるより先に、お前の食費でウチが破産しちまうぜ」

並んで歩くわたしたちに、道の向こうから「おーい」と手を振る人がいた。

ハンネス「よお、二人とも元気してたか?」

ジャン 「おっさん!」

ミカサ 「ハンネスさん!」

ハンネス「わりいな、ここ最近全然構ってやれなくてよ。お、ミカサまた髪伸びたか?」ワシャワシャ

ミカサ 「やめて、髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃう」

ハンネス「ジャンはあいかわらず目つきが悪いなあ」ワシャワシャ

ジャン 「生まれつきだよ、ほっとけ!」

この人は、ハンネスさん。苗字は知らない。
ジャンのお母さんの友達で、時々家に来て晩ごはんにありつくおじさんだ。

ジャン 「おっさん、こんなとこで遊んでる場合かよ。壁の上にちゃんといろよ」

ハンネス「夜勤明けだ……ふああ、ねみぃ……」

ミカサ 「駐屯兵団はそんなに大変なの?」

ハンネス「あ?ああ、なんせ翼手の野郎は夜になると強くなっからな。壁の上で夜通しかがり火焚いて、
     固定砲の横で立体起動くっつけて待機だ。調査兵団が昼間のうちに数減らしても、
     毎日二、三匹は来やがる。やってらんねえぜ」

ジャン 「ケッ、駐屯兵団が一番の貧乏クジってだけの話じゃねーか。なあミカサ」

ミカサ 「うん……」

カンカンカン!!!

ハンネス「お、もうこんな時間か。んじゃ、俺はちょっくら引っかけてくっから、またな」ヒラヒラ

ミカサ (……そんなこと言って、お酒の匂いがしたことなんか、ないのに)

ジャン 「調査兵団が帰ってきたのか……ちょっと見てこうぜ、ミカサ」ガシッ

ミカサ 「毎日のことじゃない。それに、早く帰らないと」ズルズル

ささやかな抵抗もむなしく、ジャンはわたしを引きずって大通りに出た。
もうたくさんの人が集まって、英雄たちの凱旋を見守っている。

ガラガラガラ…ワイワイ

住民A 「来たぞ、調査兵団だ!」

兵士たち「「「……」」」

ミカサ 「!」

ジャン 「…ひでえな」

帰ってきた兵士たちは、ほとんどがケガをしていた。荷馬車に寝ている人もいる。
つまさき立ちで大人たちの後ろから覗きこむと、布をかぶせられた下に赤いきれいな石みたいなのが見えた。

ミカサ (あの人が団長?……すごく暗い顔)

住民B 「今日は運がよかったんだな、死体袋がないぜ」

住民C 「ああ…マリアがなくなる前は、ここももっと平和な街だったのになァ」

ミカサ 「……」

ジャン 「……帰ろうぜ」

ミカサ 「うん……」

【キルシュタイン家】

ガチャッ

ミカサ 「ただいま、おばさん」

ジャン 「ただいま。あー、背中痛ェ……」ガラガラ

ジャン母「おかえり。もうご飯できてるよ、手洗ってきな」

ジャン母「あんた、晩ごはんだよ」コトッ

台所でシチューを煮ていたおばさんは、テーブルに置いた肖像画の前にもお皿を置いた。

ミカサ 「はぐっ、もぐもぐ…おかわり!」ムシャムシャ

ジャン (なんて速さだ……スプーンが見えねえ!)

ジャン母「ミカサは本当に大食いだねえ。そういえば、春になったら訓練兵の募集があるらしいけど……」

ミカサ 「……わたし、行く」

ジャン 「俺も。家いたって退屈だしな」

ジャン母「ジャンは男の子だからいいけどね…ミカサ、あんたは他の子とは……」

ミカサ 「分かってる。でも、訓練所はご飯がたくさん食べられるって、ハンネスさんが言ってた。
     それに…兵士になって壁の外に出たら、何か思い出せるかもしれない…たぶん」


ジャン 「ミカサがうっかり死なねえように俺が見といてやっから。いいだろ?」

ジャン母「……仕方ないね」

ミカサ 「おばさん!」

ジャン母「一つだけ約束しな。二人とも、絶対に死に急いじゃいけないよ。兵士だからって
     必ず死ななきゃいけないなんて法はないんだからね」

ミカサ 「うん。約束する」

ジャン 「言われなくてもそうするっての」


いまから一年前――突然現れた超大型翼手、および鎧の翼手によって、シガンシナ区は破られた。

人類は一番外側の『ウォール.マリア』を放棄。その活動領域はウォール.ローゼまで後退した。

翼手。それは、人に擬態して生き血をすする化け物。

わたしたち人類の、天敵だ。


【847年】


キース 「私が運悪く貴様らを監督することになった、キース.シャーディスだ!!」

ミカサ (ひっ…!怖い……!)ビクッ

ジャン (チッ、ミカサの奴完全にビビッてやがる…)

ジャン 「おい、力抜けよ」ヒソヒソ

ミカサ 「む、むり…」ガタガタ

前の列にいた金髪の男の子が、「バカみてえな名前だな!!」って怒鳴られている。

ミカサ (どうしよう、訓練兵団がこんなに怖いところだなんて知らなかった……!)

そうこうしているうちに、わたしの番が来た。

キース 「貴様は何者だ!!何をしにここへ来た!!」

ミカサ 「えっ!?あ、あの…」フルフル

キース 「何者だと聞いている!!その口は飾りか!?」

ミカサ 「ウォールローゼ、とっ…トロスト区出身……ミカサ.アッカーマンです!
     へっ、壁外に出て!翼手を倒すために来ました!!」

キース 「そうか!せいぜい翼手の餌になれるよう、精進しろ!!」

ミカサ (えっ、餌!?ひどい……!)ガーン

「憲兵団に行って内地で暮らしたい」と言ったジャンは、思いっ切り頭突きされた。
それを見た誰かが「翼手の前に教官に殺されるぜ」と言ったのに、わたしは心の中で同意した。


【食堂】


ザワザワ…

ミカサ 「あ、あの…」(ジャンは「ちゃんと女子とは仲良くしろよ」って行っちゃったし、わたしから声かけなきゃ…)

クリスタ「なあに?」

ミカサ 「い、いっしょに…その、ご飯を…」

クリスタ「いいよ、ここ空いてるから一緒に食べよう?」

ミカサ 「あ、ありがとう…!」(優しい…よかった、教官は怖いけどなんとかやれそう…)

ユミル 「私はユミル。この天使がクリスタだ。お前、ミカサ…だよな。教官に翼手の餌認定されてた……
     それ、一人で食うのか?」

ミカサ 「へっ?おふぁふぃい?」モゴモゴ

ユミル 「いや、どう見ても五人前はあるだろ…調理係に何つかませたんだお前」

ミカサ 「え、えっと…」チラッ

ユミル 「おい、お前なんで目そらしてんだ」

クリスタ「まさか…さっきのサシャと同じで」

サシャ 「呼びましたか?」ヒョコッ

クリユミ「」

サシャ 「ああっ!どうやって持ってきたんですかこのパン!私にも一個ください!」

ミカサ 「だめ。これはわたしが命を削ってぬす…持ってきたもの。たとえジャンが頼んできても渡せない」

クリスタ(今盗んだって言いかけたね)

サシャ 「だったら大食い対決しませんか?今男子のみんなからごうだ…貰ってきたパンがあります!」ドサッ

クリスタ(強奪って……)

サシャ 「ミカサが勝ったら、明日の私のパンを半分あげますが、私が勝ったら明日のミカサのパンは
     いただきますよ!早く食べきった方の勝ちです!」

ユミル 「何バカなこと… ミカサ「分かった……受けて立とう」バカかお前!?教官に見つかったら……」

サシャ 「そこの人、スタートの合図お願いします!」

マルコ 「えっ?わ、分かったよ…」

ジャン 「あのバカ……」アタマカカエ

マルコ 「じゃあ、行くよ。1、2の……さん!」

ミカサ 「もぐもぐ、はぐっ」ガツガツ

サシャ 「むぐっ、ん、むぐむぐ…」ムシャムシャ

それは、闘い――。ひたすら目の前のパンにかぶりつき、引きちぎり、
咀嚼の時間も惜しいとばかりに、喉へ詰めこむ。

「いいぞー、二人ともー!」「すげえ…翼手でもあんな食えねえぞ…」「俺ミカサに10シリング!」

アルミン「……なんだろう、あっちにみんな集まって…」ガタッ

アルミン「あの黒髪の子……ミカサ?」

周りから歓声が聞こえる。わたしとサシャの手が、最後の一個に伸びた瞬間。

キース 「貴様ら……何を騒いでいる」ゴゴゴ

ミカサ 「」

サシャ 「」

突然現れた教官によって、闘いは終わりを告げた。

キース 「ブラウス…初日だからと罰則を免除してやったのが仇になったな。早速独房へ行きたいのか?」

サシャ 「え、えっと…それは…」

ライナー「ブラウス訓練兵は何もしておりません!その、あ、明日から訓練が始まると思うと、
     つい興奮してしまいまして……」

キース 「ほう、いい心構えだな。なら、特別に…明日の午後は座学の予定だったが、
     崖を命綱なしで下りる訓練に変えてやろう」

全員  「」

教官が出て行くと、みんなも食器を片付けはじめた。

サシャ 「やりますね……私のスピードに追いついたのは、あなたが初めてでしたよ」ガシッ

ミカサ 「こちらこそ。いい戦いだった」ガシッ

クリスタ(いつのまにか謎の友情が生まれてる…)

ユミル (ベクトルの違うバカが揃っちまった…)

ミカサ (やった、今日1日で3人も友達ができた!)パァァ

ミカサ (ジャンはどうしてるだろう…短気だから心配していたけど、誰彼構わず喧嘩を売るような
     性格ではない。心配はいらな「んだと、もう一回言ってみろ!!」

けたたましい怒鳴り声。
見ると、ジャンが黒髪の男子とつかみ合いの喧嘩をしていた。

エレン 「だったらお望み通り言ってやるよ!この腰抜け野郎!!」

ジャン 「なんだと!?内地に行きたいって思って何が悪いってんだよ!!いきなり突っかかって来やがって!」

エレン 「だったら今すぐ行けばいいだろ!?お前みたいな奴がいると士気が下がるだろうが!」

アルミン「や、やめてよエレン…また教官が戻ってく「アルミンは下がってろ!」ドンッ

アルミン「いっ……!」ガシッ

ミカサ 「大丈夫?」

アルミン「あ、僕は平気……」(すごくきれいな子だ……)

マルコ 「二人とも落ち着けよ!」ガシッ

ミカサ 「ジャン、一旦その手を下ろして。外でゆっくり話そう」

ジャン 「クソッ…分かったよ、ミカサが言うんなら」スッ

エレン 「ミカサ?」

そこで初めて、取っ組み合いになっていたもう一人がわたしを見た。
黒髪に、大きなエメラルド色の瞳。その両目が、わたしを射抜く。

エレン 「お前……」

ミカサ 「?」

エレン 「いや、なんでもねえ……きれいな髪だな」

それだけ言うと、彼はさっさと行ってしまった。


_______

一旦切る

『なあ、エレンってあのシガンシナ区にいたんだよな?』

エレン 『ああ……』

『じゃあ、超大型翼手ってのも見たのか?』
 
エレン 『まあ…デカかったな。壁から頭出るぐらいには』

ザワッ…

『じ、じゃあ…内門を破った鎧の翼手は?奴ら、昼間でも空飛んだって聞いたぞ』

エレン 『オレはよく見てないけど、翼は硬かったな。駐屯兵団の大砲が全然……』

ワイワイ…

ジャン (こいつら、デリカシーの欠片もねえな……被害者に根掘り葉掘り……)

ジャン 『……おい、ただでさえ味気ない飯でうんざりしてるってのに、翼手の話なんかしてんじゃねえよ』

『なんだよ、ジャンは気にならないのか?』

ジャン 『ケッ、どうせ憲兵団に行けない奴らは、毎日見られるだろうが』

エレン 『おい…お前、内地で楽したいとか抜かしてた奴だよな。悪かったよ、んな腰抜け野郎だったら
    心臓も弱いって分かっておくべきだったな』

ジャン 『んだと、もう一回言ってみろ!!』

□□□□

ジャン 「――というわけだ。オレは悪くない。あいつがいきなり突っかかってきたんだよ」

ミカサ 「つまり……エレンが辛いんじゃないかと心配して言ったのに、
     逆にバカにされて腹がたったということ?」

ジャン 「バッ、バカ言ってんじゃねえ!俺はただ……」

マルコ 「あ、あそこにいるの、エレンじゃないのか?」

マルコが指さした先を見ると、井戸の所でエレンが気まずそうな顔で立っていた。
わたし達を見ると、ぐっと拳を握りしめて近づいてくる。

エレン 「悪かった!!」ガバッ

ジャン 「……あ?」

エレン 「た、たしかに、食事中に翼手の話なんか、するもんじゃないよな……それに、
     あんな遠回しな言い方だけど、心配してもらってッ……なのに、内地志望を見下すなんて、
     異端者狩りをする奴らと同じじゃないか、って…アルミン、に……怒られて……」

エレン 「本当に、ごめんな!」

ジャン 「……顔上げろよ。言っとくけど、俺は自分の考えは曲げるつもりはねえからな。
    ただ、テメエとは忌々しいことに同室だ。下らねえ喧嘩で開拓地行きに
    ならない程度には仲良くしてやるよ」

エレン 「ジャン……!」パァァ

ジャン 「なんだよその顔」

エレン 「いや、お前最初はムカついたけど、意外にいい奴だな!」

ジャン (なんか友達認定されたみてえだ…こいつ、人付き合い苦手なんだな……)

ミカサ (そうか。この二人、似た者同士だと思ってたけど……友達少ないところが似てるんだ……)ホロリ

エレン 「ミカサも、これからよろしくな!」ガシッ

ミカサ 「あ、うん……」(なんだか、距離感が独特な人だ……)

ジャン 「……」ビシッ

エレン 「いってえな!何すんだジャン!」ヒリヒリ

ジャン 「気安くミカサに触んじゃねーよ!お前の目に下心が見えてんだよ!」

エレン 「言いがかりじゃねーか!お前こそミカサと一緒に暮らしてたからって、勝った気でいんじゃねーぞ!!」

ジャン 「んだと!?そりゃあ宣戦布告って受けとっていいんだよなあ!?」ボキゴキ

ギャーギャー

ミカサ 「あの二人はなんでまた喧嘩を始めたんだろう…」ポカン

マルコ 「」

カラーン…カラーン…

マルコ 「もう消灯時間か…じゃあおやすみ、ミカサ。明日からの訓練がんばろうね」

ミカサ 「うん。おやすみなさい」

ジャン 「腹冷やすんじゃねえぞ、ここには毛布かけてくれるババアはいねえんだからな」

エレン 「おいジャン、家族にそんな言い方「分かってる。ジャンこそベッドから落ちないでね」……ええー」

ミカサ 「これは愛情の裏返し。エレンもいずれ分かる」

エレン 「そういうもんなのか……?まあいいや、おやすみ」

ザッザッ…

ミカサ (よかった。ジャンの方もちゃんと友達が出来たみたいだ)

ミカサ (でも、通過儀礼であんなに怖かったのに、明日からの訓練は大丈夫だろうか…)

ミカサ (だめだめ。こんな所でへこたれてちゃ、おばさんに合わせる顔がない。
     ……わたしなら、きっとできる)


だけど、この世界は残酷だった。


【対人格闘】


ミカサ 「ふんぬぐぐぐ……!」カオマッカ

アニ  「……はいっ、と」グリンッ

ミカサ 「いたっ!」ドサッ

アニ  「これで15回目だけど……どうする、まだやるの?」

ミカサ 「だ、だいじょうぶ……」ヒリヒリ

アニ  「尻さすりながら言われてもね……あんた、力みすぎだよ。筋肉はちゃんとあるのに、
     それを正しく使えてない」

ミカサ (図星すぎて何も言い返せない……)サスサス

エレン 「おーい、アニ!また足技教えてくれよ!」

アニ  「いいよ。じゃあミカサは……ああ、ちょうどライナーが空いたみたいだから、組んでもらいな。
     首席のあいつなら手加減も上手いだろうし」

□□□□

ミカサ 「いだぁッ!!」ドサッ

ライナー「すまん!かなり手加減したつもりだったんだが…」

ミカサ 「たたっ…足、ひねった…!」ズキズキ

ライナー「本当に悪かった……教官!アッカーマン訓練兵を医務室へ連れて行ってもよろしいでしょうか!」

エレン 「あ、だったらオレが」

アニ  「余所見してんじゃないよ」ガシッ、グルン

エレン 「ふごっ!」ズテーン 「いででで、ギブギブギブ!!首、首!!」バシバシ

ジャン (ナイスだアニ!そのまま死に急ぎ野郎を落としてくれ!!)グッ

ライナー「ほら、背中につかまれ。早く冷やさないとな」

ミカサ 「う、うん…」(わたしと組んだばかりにこんな面倒を…ごめんなさい、ライナー…)

【馬術】


クリスタ「よーしよし、いい子だねコゼットー」ナデナデ

ユミル 「コゼットは本当に優しいよなあ。私にも触らせてくれるし。やっぱ馬は飼い主に似るんだな」ナデナデ

ミカサ (クリスタの馬はいつも大人しい…なんでわたしのカミカゼは暴れ馬なんだろう?)

ミカサ (よし、今日こそ!)ダッ

ヒヒヒーン!!ドカッ

ミカサ 「きゃっ!?」シリモチ

エレン 「ミカサ、危ねえ!…クソッ、落ち着けこのバカ馬!!」グイグイ

ジャン 「あ、俺の見てねえ隙に何かっこいい所見せようとしてんだ駆逐野郎!!」

キース 「アッカーマン!馬に背後から近づくな、何回言えば分かる!!」


【座学】


眼鏡教官「……えー、立体起動装置を用いて初めて翼手を討伐したのは、キュクロ.マンセルというのは
     昨日の単元で学習したな。今日は……」

ミカサ (毎日体を酷使してるせいか、眠い……)コックリコックリ

ジャン 「おい、ミカサ…起きろ、まずいぞ」ツンツン

眼鏡教官「では、翼手の弱点とは何か?アッカーマン、答えなさい」

ミカサ 「ふぁっ!?」ガバッ (ど、どうしよう…聞いてなかった、今どこ!?)

マルコ 「脳と脊髄」ヒソヒソ

ミカサ 「の、のうとせきずい!」

眼鏡教官「そう。翼手を完全に倒すには、脳と脊髄を破壊するしかない」

ミカサ 「あ、ありがとう……助かった」ガタッ

マルコ 「どういたしまして。お互い様だよ」ニコッ

エレン 「……その手があったか」ボソッ

ジャン 「……マルコ、明日からもこの席で頼むぜ」ギロッ

マルコ 「えっ、なんで?」

【立体起動】


エレン 「クソッ、全然追いつけねえ!!」ギュイィィィィ

ジャン 「へっ!お前はそんぐらい遅い方が死に急がなくていいんじゃねえのか!?
     つーかしれっと俺とミカサの班に入りやがって!!アルミンとフランツの班行けよ!!」ギュィィィィン

エレン 「なんでお前は、いつもいつもオレの邪魔ばっかすんだよ!!」ギュィィィィ

ジャン 「黙れ巨人バカ!お前みてえな命知らずにミカサは任せらんねえってんだよ!!
     俺に追いつけるようになってからほざきやがれ!!」ギュィィィィ

エレン 「あっ!!こいつ、ますます加速しやがって……待てー!!」ギュィィィィ

ミカサ 「ま、待って……エレンこそ待って、置いてかないで……」キュィィィ

わたしの願いも空しく、二人の背中はぐんぐん遠くなる。

ミカサ 「あ、あれ?二人ともどこ行ったの?」スタッ、キョロキョロ

ミカサ 「ジャーーーン!!エレーーーン!!どこー!!?」

しーん…。

キース 「15班、失格……アッカーマン、立体起動は散歩の道具ではないぞ!!」カキカキ

ミカサ 「……っ!」ガーン

キース (ミカサ.アッカーマン。バランス感覚に優れ、潜在的な身体能力は高いと思われる。
     しかし、一年目を終える今もその才能を引き出せず、成績は平均値)

キース (体の使い方さえ覚えれば、首席も夢ではない逸材だというに……)ハァ


【食堂】


ミカサ 「……」チーン

サシャ 「ミカサー?食べないんなら、このパンもらっちゃいますよー?」ヒラヒラ

ミカサ 「うん……どうぞ、持って行って……」ズーン

サシャ (えっ!?私と並ぶ大食いのミカサが、パンを一口しかかじらないなんて……!)

ジャン 「おいミカサ、いつまでシケた面してんだ?ミカサちゃんは悪くないでちゅよ~って慰めて欲しいのか?」

エレン 「おいジャン!そんな言い方…」

ジャン 「失格になったのはお前の所為じゃねえよ。お前のトロさを計算に入れてコースを組まなかった
     俺の判断ミスだ」

ミカサ 「……ッ!」ガタッ

ジャン 「逃げんのか?お前、都合が悪くなるといっつもそうだよな。勝手に俺を悪者にしてよ。
     俺がいくら"怒ってねえ"って伝えた所で、聞きやしねえ」

ミカサ 「……」

ジャン 「いいぜ、しばらく頭冷やしてろ。俺もしばらく考える」

ミカサ 「……うん」

バタン!タッタッタッ…

コニー 「なあ。ミカサ泣きながら走ってったけど、いいのか?」オロオロ

ジャン 「家族の俺じゃ力不足だからな……というわけで、行けよ。死に急ぎ野郎」

エレン 「お、オレか…?いいのかよ」

ジャン 「悔しいが、こういう時はお前の方が優秀だ。本音ぶちまけるサンドバッグとしちゃあな。
     いいか、ミカサに指一本触れてみろ、今日をお前の命日にしてやるからな」

エレン 「変なことはしねえよ……分かった。行ってくる」ガタンッ

ジャン (……なんでエレンの野郎が、ミカサに執着してるのかは知らねえ。
     まあ、悪い奴じゃねえのは分かるけどよ)

ジャン (簡単に命を投げ打つなんて、いいわけねえだろ。
     ……それにミカサを巻きこむのは、絶対に許さねえ。あいつは幸せになるべきだ)


【訓練所.外】

ミカサ 「うっ…ううっ、ひっく、ぐすっ…」ポロポロ

ミカサ (どうして、わたしは……こんなに、無力なんだろう……
     訓練兵になってからも、みんなに迷惑かけてばっかりで)

ガサッ…

ミカサ 「っ!」ゴシゴシ

エレン 「……なあ、隣いいか」

ミカサ 「う、うん」

ストンッ

エレン 「あのさ、お前はなんで兵士になろうって思ったんだ?」

ミカサ 「え?」

エレン 「……翼手を見たわけでもないのに、なんで翼手を憎み続けなきゃいけない
     兵士になろうって思ったんだ?……オレには、お前が焦る理由が分からねえ」

その言葉に、考える。

エレンは大切な仲間。ジャンとよく喧嘩するけど、それだけ本音を言い合える友達。
だったら、わたしも……もう、隠し事をするべきじゃないのかもしれない。

ミカサ 「あのね、落ち着いて聞いてほしいんだけど……エレン、わたしには」


「記憶がないの」


エレン 「……は?」

やっぱり、エレンは口をぽかんと開けて呆然としている。

ミカサ 「二年前までの記憶が、すっぽり抜けてる。気がついたら、ジャンの家にいて……
     おばさんと、ジャンと暮らしていた」

エレン 「……じゃあ、ジャンは血が繋がった家族じゃない……ってことか?」

ミカサ 「その言い方は嫌い。血なんかなくても、ううん…だからこそ、わたし達は家族。
     誰よりも強い結びつきの、家族」

エレン 「悪かった。……でも、記憶がないってことは……」

ミカサ 「うん……わたしは、シガンシナ区が陥落したのも、覚えてない。エレンがあの日の
     出来事を語るのも、なんだか……不思議な気分で聞いていた」

□□□□

ジャン母「そうかい…ルイの遺言なんだね。あの女の子を引き取ってくれって」

ハンネス「すみません……変なことを頼みますが」

ジャン母「いいさ。ルイが巨人に食われちまった代わりに、あの子が来たって考えることにするよ」

壁|ャン「……」コソッ

ミカサ 「……」クルッ

壁|  「!」サッ

ジャン母「んじゃ、あんたも時々様子を見に来とくれよ。あたしの友達ってことにしとくからさ」

ハンネス「いいんですか?」

ミカサ 「……」ジーッ

壁|ャン「……」コソコソ

壁|ャン(きれいな黒髪だ……それに、すごくかわいい)ポーッ

ミカサ 「……?」

□□□□



エレン 「……そっか、あいつの親父さん、シガンシナで……」(敗北主義者とか言っちまった自分が恥ずかしいぜ…)

ミカサ 「ジャンは言葉を教えてくれたり、ご飯を食べさせてくれたり、お風呂に入れてくれたりした。
     家に来たばかりのわたしは赤ちゃんみたいだったって」

ミカサ 「訓練兵になるまでは、記憶のことを気にしたことはなかった。だけどエレンに出会って、
     マリアが陥落したのとわたしの記憶がないのは、なにか関係があるのかと思い始めた」

ミカサ 「それが……とても、怖い……」

エレン 「……」

エレン 「いいんじゃないか。思い出さなくても」

ミカサ 「え?」

エレン 「覚えてねえってことは、お前には要らない記憶だったんだよ。お前は……
     駐屯兵団にでも行って、家族と幸せに暮らしてろ。それが一番いいんだ」

そう言ったエレンの顔は、影がかかってどんな表情をしているのか
よく見えなかった。

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