貴族「今日から俺がご主人様だ!」狐娘「ふーん」 (183)


貴族「ふーん、って……」

狐娘「だって興味ないもん。仕方ないじゃない」

貴族「な、なんだと!? ご主人様に向かってなんて口の利き方だ!」

狐娘「そんなこと言われてもなぁ」

貴族「お、お前はあくまで奴隷なんだ! 俺の命令には絶対服従だぞ!」

狐娘「だったらせいぜい可愛がってちょうだいね、ご主人サマ♪」

貴族「ぐぬぬ……!」



貴族(なんて生意気な奴隷なんだ! せっかく高い金払って買ったのに!)

貴族(こんなの、俺が思ってたのと全然違うじゃないか!)


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~回想~

今朝



執事「奴隷、でございますか?」

貴族「ああ」

貴族「俺は奴隷が欲しいんだ」フンス

執事「現在の使用人たちにご満足いただけないのでしたら、すぐにでも代わりの者を…」

貴族「いや、そうじゃない」

執事「?」

執事「では何故奴隷が欲しいなどと――」


貴族「俺は、奴隷ちゃんを全力で可愛がりたいんだ!」

執事「」


執事「だ、旦那様……?」

貴族「いいか執事、普通なら奴隷には何をさせる?」

執事「それは……」

執事「掃除などの家事全般、でしょうか」

貴族「そうだな。他にも自分の性欲処理をさせる、なんて輩もいるだろう」

執事「……そうですね」

貴族「つまり、大抵の者は自分のためだけに奴隷を買うわけだ」

貴族「しかし俺は違う」


貴族「汚れた体を温かい風呂できれいにし」

貴族「美味しい食事を仲良く一緒に食べ」

貴族「ふかふかのベッドでゆっくり眠りにつく……」

貴族「そんな生活を奴隷ちゃんに与えてやりたいんだ!」

執事「さ、左様でございますか……」

貴族「恵まれない奴隷ちゃんに救いの手を!」

執事「…………」


執事(お父様とお母様を病気で亡くし、若くして当主となった旦那様だが……)

執事(寂しさのあまり頭がおかしk――不思議な思考をお持ちになってしまったのか)


貴族「……俺だって分かってるさ」

執事「と、申されますと?」

貴族「救いの手を、とは言ったがこれは所詮偽善に過ぎない」

貴族「できることならすべての奴隷を解放してやりたいが、俺にそこまでの力はない」

貴族「ならせめて、手の届く範囲の者を救ってやりたいの思うのはいけないことか?」

執事「……そんなことはございません」


執事(……いつまでも鼻たれ小僧のままだと思っていたが)

執事(なんだ、ちゃんと成長してるではないか)


執事「立派ですよ、旦那様」

貴族「……そうか」




貴族(――よっしゃ! 完全に騙せてるな!)ガッツポ

貴族(まったく、ちょろいジジイだ)ククク

貴族(すべての奴隷を開放とかこれっぽっちも興味ないし!)

貴族(最初にふざけて後から急にシリアス感を出す作戦だったが、こんなにも上手くいくとは!)



貴族(ああ……これで長年の夢が叶う……!)

貴族(温かく優しい対応に驚き、困惑しながらもそれを受け入れていく奴隷ちゃん……)

貴族(最初は疑いの眼差しを向けていた俺に対しても、次第に心を許していき――)


貴族(っと危ない! 奴隷ちゃんとの生活を考えただけで鼻血が……)


執事「ん? どうかなさいましたか?」

貴族「いや、なんでもない」フキフキ

貴族「さて思い立ったが吉日、さっそく奴隷商人のところへ――」

執事「お待ちください」

貴族「む?」

執事「ご主人様が直接向かうのは少々問題があるかと」

貴族「なぜだ?」

執事「この家はこの町を治める名家でございます。加えてご主人様はまだ跡を継いだばかり」

貴族「それがどうした」

執事「使用人を雇えば済むところを、わざわざ奴隷を買いに行く」

執事「それは周囲にどのような印象を与えてしまうでしょうか?」


貴族「そりゃあ……変な奴だな、とか?」

執事「そうです。ご自身の顔に泥を塗ることになってしまいます」

貴族「それくらいなら別に構わんが」

執事「それだけで済めばいいのですが……」

執事「使用人も雇えないくらいに落ちぶれてしまったのでは、などと思われてしまえば」

執事「この家の名に傷をつけることになってしまいます」

貴族「……確かに」

執事「町を治める家として、これは避けるべきではないかと」


貴族(むう。いちいち面倒だな……)

貴族(だが奴隷ちゃんを万全の状態で迎えるためならば仕方ない)


貴族「分かった。ならば下男にでも行かせるとしよう」

貴族「あいつなら簡単に素性を隠せるだろうし、問題あるまい」

執事「かしこまりました」


・・・その後

下男「というわけで奴隷市に来たはいいものの……」


商人1「よう兄ちゃん。こいつどうだい、安くしとくぜ」ゲシッ

奴隷男「グッ……!」

商人2「男なんてダメダメ。こっちは性欲処理にうってつけなのが揃ってるよ」

奴隷女「うう……」

商人3「マニアックなのがお好きなら、一匹どうだい?」

ロリエルフ&ロリドワーフ「……」


下男「この雰囲気、好きじゃないなぁ」

下男「さっさと買って帰ろっと」


下男「で、どんな奴隷を買えばいいんだっけ?」



貴族『おーい下男! 奴隷買ってきてくれ!』

下男『奴隷、ですか?』

貴族『そう! 可愛いやつな、キレイ系でも可!』

貴族『種族も値段も気にするな! その辺はお前に任せる!』

下男『はあ……わかりました』



下男「って話だったけど」

下男「可愛いやつかキレイ系。種族も問わない、と……」キョロキョロ

下男「はあ、そう簡単に見つかる訳が――ん?」

・・・数時間後、貴族邸


貴族「まだかなまだかなー?」ワクワク

貴族「下男のやつ、どんなの連れてくるのかなー?」テカテカ

貴族「まあ金貨50枚も渡したし、どんな上玉だって買えるだろうけどー」

貴族「いやぁ楽しみだなぁ!」


執事(……なんかさっきまでと態度違わないか?)

執事「旦那様、もう少し落ち着きになられては――」


ガチャッ タダイマカエリマシター


貴族「お! 来た!」ダッ

執事(聞いてないし)


下男「あ、旦那様。ただいまです」

貴族「おおお遅かったじゃないか! くくるしゅうないぞ!」フンスフンス

下男(どんだけ興奮してんの)

貴族「で、奴隷は?」

下男「ああ、こちらなんですが――」



狐娘「なんだ、ずいぶんショボイ家じゃない」ファサッ


貴族「……え?」

執事「」

下男(あらら……)


狐娘「私を買うなんて、どれだけ位の高い貴族なのかしらと思ってみれば……」フッ

貴族(鼻で笑われた!?)

下男(あ、狐っぽい耳がピコピコしてる)

貴族「あっと、その……」

貴族(いかん、落ち着くんだ。ここは冷たく且つ優しい対応をせねば!)



貴族『まずは風呂にでも入ってきたらどうだ?』

狐娘『そ、そんな! 私なんかがお風呂を使うなんて……』

貴族『勘違いするな。その汚い格好が目障りなだけだ』

狐娘『わ、わかりました』

狐娘(もしかしてこの人、悪い人じゃない……?)キュン



貴族(なぁーんてな!)


貴族「ま、まずは風呂にでも入ったらどうだ? その汚い格好じゃあ――」

狐娘「そうさせてもらうわ。朝シャワー浴び損ねちゃったしね」

貴族「目障りに……ってあれ?」

狐娘「じゃ、着替えもちゃんと用意しておいてね」スタスタ

狐娘「もし用意されてなかったら――」ピタッ



狐娘「さっそく家出しちゃうかもね♪」ニコッ

貴族「」



貴族「って呆気にとられてる場合じゃない! 執事、早く着替えの用意を!」

執事「か、かしこまりました!」バタバタ


下男「……」ソローリ

貴族「どこへ行く気だ?」ガシッ

下男「あ、あはは……」


狐娘「♪」ジャー




貴族「で、あれはなんだ?」

下男「いやあ……」

貴族「俺は奴隷を買ってこいと言ったのであって、妖狐を誘拐してこいとは言ってないんだが」

下男「ち、違いますよ! ちゃんと奴隷市で買いました!」

貴族「嘘つけ! 朝にシャワー浴びる奴隷なんているか!」

貴族「練習通りに汚い格好とか言ったけど全然そんなことなかったし! むしろいい身なりしてたしな!」

下男「本当なんですよぉ! その分高かったんですから!」

貴族「……いくらだったんだ?」



下男「金貨50枚」

貴族「Oh……」

下男「渡された分、全部使っちゃいました」テヘ

・・・ちょっと前

下男「はあ、そう簡単に見つかる訳が――ん?」

ガヤガヤ

下男「なんだあれ?」



商人「さあお客さん! 寄ってらっしゃい!」

商人「ここらじゃ珍しい東の国の化け狐! 今なら特別価格で売ってるよ!」

狐娘「……」



下男「おお、可愛いなあの子」

下男(奴隷なのに薄汚れた格好してないのが気になるけど……)ウーン

下男(あ、キレイ系ってああいうことなのかな?)

下男「よし! じゃああの子にしよう!」


下男「でもやっぱり珍しいだけあって人だかりが出来てるな」

下男「誰かに先越されちゃいそう……」



男「おい」

商人「はい、なんでしょう?」

男「そいつが気に入った、俺に売れ」

狐娘「……」ジッ



下男「あらら、やっぱり取られちゃった」

下男「じゃ、少し様子見ってことで」



商人「ありがとうございます! 流石、お目が高いですねえ!」

商人「こいつは妖狐の中でも特に妖力の強い奴でして、この歳にして大人の妖狐をも凌ぐ――」

男「御託はいい。金はやるからさっさとよこせ」

商人「あららこいつは失敬。では代金の方、お願いします」

男「で、いくらだ?」

商人「はい、金貨50枚でございます!」



男「――はぁ!?」

下男(高っ!)


商人「いやぁ普段は金貨100枚でお出ししてるんですが、今回ばかりの特別価格ですからね?」

商人「お客さんは本当に運が良ろしいようで……」

男「あ、アホか! こんなの払えるわけねぇだろ!」ダッ


タカスギルナ アレハナイ ボッタクリジャネェカ   ゾロゾロ


商人「あれ!? な、なんで皆様お帰りに!?」

狐娘「はぁ……。だから言ったじゃない、売れるわけないって」

狐娘「庶民にとっては、この10分の1でもまだ手が出ないような値段なんだから」

商人「そうは言ってもだなあ……」



下男「値段は張るだろうとは思ってたけど、まさかこんなに高いとはね」

下男(でも金額的には買えるんだよなあ)

下男(せっかくの掘り出し物だし、他に買う人もいないみたいだし……よし!)



下男「――すいません!」

商人&狐娘「ん?」

・・・時は戻り

下男「――ということなんです」

貴族「……そうか。まあ確かに容姿は最高だけど」

下男「でしょう?」

貴族「でもあの態度がなぁ。全然奴隷らしさがない」

下男「いいじゃないですか、活気があって」

貴族「俺が思ってたのはもっとこう……オドオドした感じとか、な?」

下男「き、きっと最初だから強がってるだけですよ!」

下男「ちょっと生意気かもしれませんけど、優しくしてやってください!」

貴族「むう……」


貴族「それより、ちょっとまずいんじゃないか?」

下男「何がです?」

貴族「俺が奴隷を買ったってバレないためにお前に買いに行かせたのに」

貴族「あんな大金ポンと出せるなんて、ここいらじゃ俺の家の者だけじゃん」

下男「……あ」

貴族「使用人が自分の奴隷を買うってのもおかしいし、俺の命令で買いに来たんだってバレんじゃん」

下男「そ、それは……」



執事「心配せずとも大丈夫かと思いますよ」

貴族「あ、執事。いたんだ」


貴族「心配いらないって、なんで?」

執事「金貨50枚という、一般市民には考えられないほどの大金。それをなんのためらいもなく使った下男」

執事「もし下男がこの家の者であると気づかれたとしても、その様子を見てこの家の財を心配する者はいないかと」

下男(お、執事さんナイスフォロー)

貴族「そうか?」

執事「むしろそれだけ財力に余裕があるということを見せられたのではないでしょうか」

執事(旦那様が変人だという噂が出回る可能性は消えませんが)

貴族「うーん。ま、なるようになるか」


バタンッ!


メイド「旦那様!」

執事「何事ですか、騒々しい」

メイド「あ、あの娘が……とにかく来てください!」

貴族「ん?」


狐娘「この服は……なんだ、センスの欠片もないフリルね」ポーイ

狐娘「こっちのはずいぶんヘンテコなデザイン。着心地悪そう」ポーイ

狐娘「うわ、なにこのゴテゴテドレス。趣味悪っ」ポーイ


貴族(何事かと衣装部屋に来てみれば、そこには下着姿で服をひっかきまわす狐娘が)

貴族(真っ白な肌に金色のポニーテールがよく映えて――じゃない!)


貴族「おいお前。一体何を――」

狐娘「お前じゃない、狐娘」ジロッ

貴族「そ、そうか。すまん」

貴族(ってなんで俺が謝るんだ。相手は一応俺の奴隷なんだぞ?)


貴族「ゴホン。で、一体何をしてるんだ?」

狐娘「私の着替え用意したの、誰?」

執事「……私でございますが」



狐娘「あれ、センス無さすぎ」

執事「」グサッ


狐娘「頭の悪いお嬢ちゃんじゃないんだから、あんな派手なドレス着ないわよ」

執事「し、しかしあの服はこの中でも一番高価なものでして――」

狐娘「金かけりゃいいってもんじゃないの。これだから金持ちは……」ハァ

執事「」グサグサッ


貴族(うわぁフルボッコ)


狐娘「私はね、これくらいシンプルなのがいいの」


貴族(赤いラインの入った、白いワンピース……)

貴族(確かに素材が良いんだから、そんなに着飾る必要もないのか)


狐娘「うん、サイズもぴったりね」フリフリ

貴族(ああ、尻尾みたいなポニーテールがフリフリ揺れて……)

貴族(まったくなんて可愛いん――って違う!)

貴族(さっきは出鼻をくじかれたが、今度こそビシッと言ってやらねば!)

貴族「おい、狐娘!」

狐娘「?」




貴族(なめられたら終わりなんだ!)

貴族「今日から俺が――!」

~回想終了~


貴族「結局なめられた」


貴族「もうだめじゃん……」

下男「そ、そんなことないですよ! まだ大丈夫です!」

貴族「いやもう無理だろ。奴隷の態度じゃないもん、アレ」

下男「まだまだこれからですって!」

貴族「そう?」

下男「そうですよ! まだ出会ったばかりじゃないですか!」

貴族「……そう、だよな! 挽回のチャンスはいくらでもあるし!」

下男(ちょろい)

貴族「なら次は食事だ! 早速昼食の準備をしてこい!」

下男「了解です!」



狐娘「これは……」

貴族「こんな食事は初めてだろう?」

狐娘「ええ、そうね」


貴族(多少生意気だが、奴隷だったことに変わりはない)

貴族(ならばこんな贅沢な食事は見たこともないのだろう)

貴族(とはいえ無駄に豪華なのではなく、高級かつシンプルな料理ばかりを用意させた。それも――)



狐娘『こんな豪華な料理を、奴隷である私が食べるなんて……!』

貴族『何を言っている、味を覚えてもらうためだ』

狐娘『え?』

貴族『いずれはお前がこれを作ることになるんだ』

貴族『後になって苦労したくなかったら、この味を必死で舌に叩き込むがいい』

狐娘『わ、わかりました!』モグモグ

狐娘(お、美味しい! ありがとう、ご主人様……!)キュン



貴族(これをしたいがためになぁ!)


狐娘「……ご飯」ボソッ

貴族「え?」

狐娘「お米はある?」

貴族「米、か。無いことはないが今すぐには……」

狐娘「そう。なら今回はパンでいいわ、我慢してあげる」

貴族(パン『で』いいとは、奴隷のくせに……!)

狐娘「白米のない食事は初めてだから驚いたけど、次からはそれでお願いね」

貴族「わ、わかった。コックにはそう命じておく」

貴族(落ち着け、俺よ。ここは大人の対応を……)



狐娘「あ、あと油揚げのお味噌汁もお願いね♪」

貴族「」イラッ

・・・

貴族「まったく、いちいちカンに障るやつだな……!」

貴族「ええい、次は掃除だ!」

貴族「本来なら甘やかせながらさせるつもりだったが予定変更だ」

貴族「今度こそ上下関係をはっきりと分からせてやる……!」



下男「……なんか目的が変わってる気がするんですが」

執事「『奴隷ちゃんに救いの手を!』と言っていたのはどうなったのか……」

下男「どうします?」

執事「……ま、しばらくは好きにさせてやりましょう」

下男「了解でーす」


貴族「おい、狐娘」

狐娘「なに?」

貴族「お前にはこれからこの屋敷の掃除をしてもらう」

狐娘「……なんでアンタに命令されなきゃならないの?」

貴族「俺がご主人様だからだよ!」

狐娘「ああ、そういやそうだったわね」

貴族「」イラッ

貴族「……まあいい。じゃあ早速この部屋をキレイにしてもらうおか」

狐娘「この部屋、って……」



部屋「」ピッカピカーン


狐娘「すでに超キレイなんだけど」

貴族「えっ」


貴族「じ、じゃあここはもういい。なら廊下を――」ガチャ


廊下「」キラキラーン


狐娘「やる必要ないわよね?」

貴族「……えっと、なら風呂場はどうだ!」ガチャ


風呂「」ツルツルリーン



貴族「……メイドぉ!」

メイド「はい、なんでしょうか?」

貴族「なんで勝手に掃除してんだよ!」

メイド「ええ!?」


貴族「どんだけ家の中ピカピカにしてんだよ!」

貴族「これじゃあどこも掃除させられないじゃないか!」

メイド「そんなこと言われましても、これが私の仕事ですし……」

狐娘「流石にそれは理不尽だと思うわよ?」


貴族「もういい、次はキッチンに殴りこみだ!」

メイド「そ、それはやめた方が……」

貴族「構うもんか! 行くぞ、狐娘!」

狐娘「はいはい」

メイド「大丈夫かなぁ……」

・・・

貴族「めっちゃ怒られた」

狐娘「コック、怖かったわね」

貴族「『俺の城に入るな!』とか、あんな怒鳴らなくてもいいじゃん……」

狐娘「はいはい、しょげないしょげない」ヨシヨシ

貴族「あの頑固オヤジめ……ってなんで俺が慰められにゃならんのだ!」バッ


貴族「――ん?」

狐娘「? どうしたの?」

貴族「そういやお前って、首輪とか枷とかしてないよな」

狐娘「……ああ、そうね」

貴族「それってアリなの?」

狐娘「たしかに珍しいけど無くはないわ」

狐娘「私は枷が無くても逃げませんよ、って証明だからね」

貴族「……出会ってすぐに『家出しちゃうかも♪』って言ってたけど?」

狐娘「そ、そう? 忘れちゃったわ、あはは……」

・・・夜

貴族「ふう……やっぱり風呂は落ち着くなぁ」


貴族「……せっかく奴隷を買ったってのに、思ってたのと全然違うじゃないか」

貴族(これじゃあ何のために奴隷を買ったんだか……)

貴族「今日はずっと振り回されて疲れたよ、ったく」

貴族「これも全部あの狐のせいだ!」



狐娘「誰のせいですって?」

貴族「だからあの狐のせいだって――うおぅ!」バシャッ

貴族「な、なんでここにいるんだよ!?」

狐娘「お風呂に入るために決まってるでしょ」


貴族「俺が入ってるだろうが!」

狐娘「あらそう、気付かなかったわ」

貴族「ていうか前! 前ぐらい隠せよ!」チラッ

狐娘「ちゃっかり指の隙間開けて見てるやつのセリフじゃないわね……」

狐娘「大丈夫、その辺は問題ないわよ」

貴族「問題ない、って……あれ?」

貴族(狐娘の体に白いモヤがかかってるぞ、なんだこれ)

狐娘「ふふん、妖術で体を隠すくらいわけないのよ」

狐娘「それにこれが無くても私の体には常に幻術をかけてるから、直接肌を見られることはありえないわ」


貴族「じゃあ衣装部屋で下着姿だった時も、痴女だったわけじゃなくて……」

狐娘「」ムカッ

狐娘「……そうね。特に気にしてなかったけど、あれも幻術で隠してあったわ」

狐娘「残念だったわね。乙女の柔肌はそう安くないのよ」フフン



貴族(――――甘いなッ!)

貴族(それは言わば女子の『これ見せパンだから!』って言い訳と同じ!)

貴族(それでも男にとってはありがたいんだよ!)



貴族(……とは言え、なぁ)チラッ

狐娘「?」キョトン

貴族(こうも堂々とされると、逆にこっちが恥ずかしい……)ブクブク

狐娘「……変なの」

・・・

メイド「ねぇ、本当にいいの?」

下男「いいの。なーんにも問題なし、っと」カチャリ

下男「うん、あとは適当に嘘ついておけばミッションコンプリートだね」

メイド(空き部屋の鍵を全部閉めちゃうなんて……)

メイド「旦那様に怒られちゃうよ?」

下男「むしろ褒められるんじゃないかな、よくやったって」

下男「メイドだって、二人には早く仲良くなってもらいたいでしょ?」

メイド「それは、そうだけど……」

下男「ならいいじゃん。一緒に一晩過ごして親睦を深めてもらおう大作戦」

下男「旦那様はヘタレだろうから間違いが起こるはずもないし」

メイド「うーん……」

下男「じゃ、僕は旦那様のところに行ってくるねー」タタタッ


貴族「ふう、さっぱりした」

狐娘「なかなかいいお湯だったわね」

貴族「そうだろ?」

狐娘「アンタじゃなくてお風呂を褒めたんだけど」

貴族「はいはいそーですか」


下男「あ、旦那様。ちょっといいですか?」

貴族「なんだ?」

下男「狐娘様の今日の寝床なんですが」

貴族「もう様って言っちゃってるじゃん。奴隷に対してなのに」


下男「実は、空き部屋が全部使えなくなってしまいまして」

貴族「え、なんで?」

下男「色々と問題がありまして……」

貴族「ええ?」

下男(いけるかな? ダメ押ししようか)

下男「すみません、僕が普段から気をつけていればこんなことには……」フカブカ

貴族「……いや、気にするな。使えないものは仕方ないさ」

下男(ちょろい)

狐娘(ちょろいわね)


下男「というわけで、狐娘様の寝床は旦那様が何とかしてくださいね!」

貴族「え?」

下男「旦那様のベッドは広いから問題ないですよね、それじゃ!」ダッ



貴族「……行っちまった」

狐娘(こんなに舐められてて大丈夫なの? 面白いからいいけど)

・・・下男の部屋

下男「よし、これでオッケーだね。二人とも、喧嘩してないといいけど」

下男「それじゃあ僕もそろそろ寝るとしようかな……」


コンコン


下男「ん?」

貴族「おーい、下男」

下男「あれ、どうしたんですか?」ガチャ

貴族「どうしたって、一晩泊まりに来たんだけど」

下男「……は?」

・・・数分前

貴族「で、部屋どうする?」

狐娘「……東の国にはね、『男女七歳にして席を同じうせず』って言葉があるの」

貴族「???」

狐娘「つまり、立派な男は自ら自分の場所を離れて女性と距離を置くものだ、ということよ」

狐娘(ホントはちょっと違うけど)

貴族「な、なるほど。勉強になるな」

狐娘「それで、アンタは立派は男なの? そうじゃないの?」

貴族「り、立派な男だとも!」

狐娘「じゃあ、何をどうすればいいかは分かるわ?」


貴族「……お前は俺の部屋で寝るがいい! 俺は下男の部屋に泊めてもらう!」

狐娘「あら素敵。男らしいわね」

貴族「そうだろう! それじゃあおやすみ! いい夢見ろよ!」

狐娘「ええ、おやすみなさい……♪」

・・・

貴族「……ってな訳だ」

下男「なにすっかり騙されてるんですか!」

貴族「ええ!?」

下男「言いくるめられたんですよ、あの子に!」

下男「この家で一番偉いあなたが部屋を追い出されてどうすんですか!」

貴族「た、たしかに言われてみればそうだよな……」

下男(この人はアホだ。僕の予想を遥かに超えるアホだった)


貴族「あ、なんか腹立ってきた。抗議しに行ってくる!」ダッ

下男「……行ってらっしゃい」

下男(無駄だと思うけど)


貴族「ダメだった」

下男「でしょうね」

貴族「鍵かかってた。というか部屋に近づくこともできなかった」

下男「結界ってやつですかね」

貴族「さすが妖狐だな」

下男「ですね」




下男「で、何か言うことは?」

貴族「今晩泊めてください」

下男「まったく……狭くても文句言わないでくださいよ?」

貴族「うう、すまんなぁ」グス

・・・翌朝


貴族「ふう。食べた食べた」

狐娘「ご飯もなかなかいけるでしょ?」

貴族「ああ、こりゃ毎食ご飯でも――っじゃない!」バンッ

狐娘「きゃっ!?」

貴族「なんだよこの食卓! 和食のオンパレードじゃん!」

狐娘「私がシェフに言ったからよ。そうして、って」

貴族「なんで奴隷の要望が通るんだよ!」

狐娘「私が可愛いからじゃない?」

貴族「否定できないのが悔しい……!」


貴族「大体なぁ、奴隷らしくないのはもうこの際いいとしてもだ!

下男(いいのかよ)

貴族「お前、完全に俺をなめてるだろ!」

狐娘「うん」

貴族「即答すんな!」


貴族「もう怒ったぞ! 俺を怒らせるとどうなるか――」

狐娘「ちょっとうるさい」ピッ

貴族「むぐぅッ!?」


貴族(く、口が開かない!?)

狐娘「申し訳ないけど、そのお口にチャックさせてもらったわ」

狐娘「今は静かに食事の余韻に浸る時間よ。とても美味しい食事だったもの、ね」


コック「ええ子や……」ニンマリ

執事「しっかりした子ですなぁ」

メイド「ホントですねぇ」


貴族(ええいみんなデレデレと! こうなりゃ筋力に物を言わせてやる!)ダッ


狐娘「えいっ」パッ

貴族「むぎゅぅ!」ベシャ

狐娘「腕力はなくとも、あなたに負けたりしないわ」

狐娘「私がエリート妖狐だってこと、忘れてたとは言わせないわよ?」

貴族(忘れてた……)

・・・数日後


貴族「――ああもう限界だ!」

下男「どうしたんです、突然?」

貴族「どうしたもこうしたもない! あの奴隷のことだよ!」

下男「ああ、そういえば旦那様はずっとおちょくられっぱなしですもんね」

下男「使用人たちには少しずつ懐いてくれてるみたいですが」

貴族「俺にだけ、ってのがまた腹立たしい」

貴族「歯向かうだけならまだいいが、ついには手を上げるようになってしまったしな」

下男(それは旦那様が力づくでなんとかしようとするからでは)


貴族「はあ……もういっそのこと返品でもするか」

下男「!」


下男「旦那様、それはちょっと可哀想ですよ。せっかくまともな暮らしができるようになったのに……」

下男「またあの暗い世界に戻しちゃうんですか?」

貴族「って言ってもなぁ、あいつも元々奴隷なんだぞ」

貴族「世間では、奴隷は物みたいに扱うのが普通なんじゃないのか?」

下男「それは……」

貴族「だったらどう扱おうが俺の自由だろ。俺はご主人様で、あいつは奴隷なんだから」

貴族「こんなことなら最初の時に首輪でも付けて、ちゃんと躾をしておけばよかったな」

下男「……」ギリッ

貴族「やっぱり新しい奴隷でも買うか。いらないのをいつまで持っててもしょうがないし」

下男「――ッ!」バッ



バンッ!



下男「!」

貴族「……!」


狐娘「…………」

下男「き、狐娘ちゃん。今の、聞いて……?」

狐娘「……」ギロリ

貴族「なんだよ。ご主人様に文句でもあんのか?」

狐娘「……」スタ、スタ

貴族「どうした? またあの変な力で俺をねじ伏せるのか?」

狐娘「……」スタ、スタ

貴族「やれるもんならやってみろ。そしたらお前なんか本当に追い出してや――」


パンッ


貴族「……え?」


狐娘「アンタも、アイツらとおんなじなのね……!」


狐娘「気に入らないものは簡単に見放して……! 切り捨てて……!」

貴族「そ、そういうわけじゃ……」



狐娘「……私のこと、いらないって言うのね」ポロ、ポロ



貴族「あ……」

狐娘「……もういいわ。さよなら、ご主人サマ」



キィ バタン


下男「……いいんですか、旦那様?」

貴族「……分からん」

貴族「ちょっと、頭冷やしてくる。一人にしてくれ」キィ バタン



下男「……さて、どうしようかな」

下男「とりあえず狐娘ちゃんが心配だね。メイドちゃん、いる?」

メイド「はーい。なかなか大変みたいね」

下男「聞いてたの?」

メイド「たまたま聞こえただけ」

下男「……まあいいよ。狐娘ちゃんを探してきて欲しいんだけど」

メイド「了解。それで、下男くんは?」

下男「僕は、そうだね――」




下男「さっき言ってた『アイツら』ってのが気になるんだよね」

・・・貴族の部屋



貴族(俺は、何がしたかったんだっけ)

貴族(……そうだ、奴隷ちゃんとの甘くて幸せな生活だ)

貴族(それができなくて、思い通りにならないことに腹が立って……)

貴族(だから、あんな事を……)


貴族(っていうか、狐娘との生活は楽しくなかったのか?)

貴族(言うことは聞かないし、生意気だし、望んでたのとは違ったけど……)

貴族(楽しくなかったって言ったら、嘘になるような……)

貴族(うーむ……――)


貴族「――あぁもう分からん!」

貴族「どうすりゃいいんだ! っつか何で悩んでるのかすら分からなくなったわ!」


貴族「ってもう夕方か、全然気付かなかった

貴族「こんなに悩んでたのか……」

貴族(……そろそろ、あいつも帰ってきてるはずだよな?)



貴族「お、おーい。下男ー、メイドー」コソコソ

貴族「いないのかー?」コソッ


ガチャ


貴族「!」


貴族「おお狐娘、おかえr――」


下男「あ、旦那様」

メイド「ただいまもどりました」

貴族「……なんだ、お前らか」

下男「なんだとは失礼ですね」

メイド「そうですよ。旦那様のために走り回ってたのに!」

貴族「ん? こんな時間まで何してたんだ?」

メイド「私は狐娘ちゃんを探してたんです!」

貴族「!」


貴族「そ、それで!? 見つかったのか!?」

メイド「いえ、ざんねんながら……」

メイド「何か術を使って隠れていたのか、目撃情報すらありませんでした……」

貴族「そうか……」

貴族「それで、下男は?」

下男「ホント、ギリギリだったんですからね」

下男「あとちょっと遅かったらこの町を去るつもりだったそうですし、間に合ってよかったですよ」

貴族「何の話だ?」



下男「それじゃ、ちょっとお話しましょうか」

下男「――『アイツら』について」

これは狐娘が甘え過ぎ、返品されて当然だわ。
奴隷じゃなくて、使用人でもクビだろ。
辛い過去が有ったんです!も胡散臭く見える。

>>63-64
ご指摘ありがとうございます。
そのへんに若干の手直しをしつつ、書き溜めていた分が最後まで完成しました。
あとはのんびり、できる限り今日中にはあげていきます。

・・・十数年前、東の国

狐母「くっ……うう……!」

狐医「大丈夫ですよ、ゆっくり息を吐いてください」

狐母「ふう……! くぅ……!」



狐父「はあ、大丈夫だろうか……」

狐父「初の出産で、しかも双子だそうじゃないか……」

狐父「無事だといいが――」


狐医「狐父さん! 今すぐ来てください!」


狐父「ッ! どうした!」ガラッ

狐父「!? こ、これは……!」


狐父(狐母も子供二人も無事なようだ。しかし――)

狐父「この子は、なんて妖気をしてるんだ……!」


狐父「隣の子に比べて、とんでもなく濃くて強大な妖気だ……!」

狐父「赤子の段階でこれ程とは、成長したら一体どうなってしまうのか……」


狐父(……これはまずい)

狐父(この村では代々、最も妖力の強いものが長になるという風習がある)

狐父(この子なら間違いなくその素質はあるが、それをいまの村長が許すわけが――)



狐長「おや、無事生まれたようですな」

狐父「!」


狐長「いやはや、赤子ながらなんたる妖気。生まれる前から目をつけておりましたがこれほどとは……」

狐長「ちゃんと育てれば、村長の座も狙えるでしょうなぁ」

狐父「……」

狐長「それで、狐父や。その子はどうするつもりかね?」

狐父「わ、私は……」

狐父(どうする……最悪の場合、一家まとめて消されてしまうかもしれんのだぞ……!)

狐母「あなた……」

狐父(ならば――!)


狐父「――いやぁ、私共もね、二人も生まれてしまって困っていたところなんですよ!」

狐母「!?」

狐長「……ほう」

狐父「二人も育て上げるだけの甲斐性はありませんし!」


狐長「……ならば、その子を私に預けてはくれませんかな?」

狐長「立派に育て上げてみせましょうぞ」


狐父「本当ですか! いやぁ助かります!」

狐母「な、なにを――むぐっ!」

狐父(いいから黙っていろ! 死にたいのか!)


狐父「それじゃあよろしくお願いしますね!」

狐長「分かりました。何も心配することはありませんよ。なにも、ね」

狐父「はは、ははは……」

狐母「ううっ……」


狐長「……ふん。若い芽は早いうちに摘むに限るわい」

狐長「ワシの後は息子が継ぎ、その次は孫が継ぐ」

狐長「この村の長は昔も今も、そしてこれからも我が狐長一家が受け継いでいくものなのだ」

狐長「貴様なんぞに、それを奪われてたまるものか……!」


狐長「しかし、一思いに殺すのはつまらんな」

狐長「どうせなら、生まれてきたことを後悔させてやろうじゃないか」

狐長「たっぷり苦しむがいい……!」

・・・十年後


狐兵「泥棒をひっとらえたぞ! 人間だ!」

泥棒(ちっ! 狐の宝を盗みに来て、まさか捕まっちまうとは!)



狐兵「牢屋に入れ! うす汚い人間め!」

泥棒「うぐっ!」ドシャッ

狐兵「もう二度とここから出られることはないと思え!」

泥棒「クソっ……!」



泥棒(――なんてな!)

泥棒(こちとら都では天下の大泥棒とまで呼ばれた大ベテラン! こんなチンケな牢から逃げるなんざ朝飯前よ!)

泥棒(とは言え、さすがにまだ警備が手厚くなってらぁ)

泥棒(焦る必要はねぇ、じっくり時間をかけてでも抜け出してやる!)

・・・数週間後


狐兵「――でな、ホントやってらんねぇんだよ!」

泥棒「いやあ、そいつは大変ですねぇ! そりゃあ疲れも溜まるわけだ!」

狐兵「分かってくれるか!」


泥棒(へっ、看守なんて所詮黙って見てるだけの仕事。愚痴の一つも言いたくなる)

泥棒(そこで聞き役を買ってでてやりゃあら不思議、あっという間に仲良しこよしってな!)

泥棒(……ちょっくら仕掛けてみるか)


泥棒「ときに狐兵さん」

狐兵「なんだ?」

泥棒「あたくしの向かいの牢に入れられてる娘っ子、一体なにをやらかしたんですかい?」

狐娘「……」

泥棒(看守って立場上、他の罪人のことをペラペラ話すわけにゃあいかねぇ)

泥棒(逆に、話してくれりゃあそれだけ信用してもらえてるってことよ)


狐兵「ああ、あいつか。なに、つまらねえことなんだがよ――」

泥棒(へへっ、ちょろいもんだな)



狐兵「――ってことなんだ。な、つまらねぇだろ?」

泥棒「そ、そうでございますねぇ……」

泥棒(な、なんだ。やけに重てぇ話じゃねぇか)

泥棒(そりゃあ俺だってまともな生まれじゃなかったけどよ……こいつも相当だな)



狐兵「こいつはもうずうっと前から村中のやつらからひでぇ目に遭わされてる」

狐兵「話の村長はだいぶ前にポックリ逝っちまったんだが……」

狐兵「俺ら妖怪から見ても気色の悪い妖気してんだ。そりゃあ嫌われもするさ」

泥棒「……へぇ。そうですか」


泥棒(今だにキツイ仕打ちをされてるみてぇだが、俺にゃあどうすることもできねぇ)

泥棒(すまねぇな、嬢ちゃん)

・・・後日

泥棒(さて、看守の信頼も十分だって確認できた。いっちょやりますか)

泥棒(まずは息を止めて、隠し持ってた睡眠香に火を……っと)



狐兵「……む? なんだか眠くなってきた」

泥棒(よし!)

泥棒「お疲れですかい? だったら寝てもらって構いませんぜ?」

狐兵「しかし……」

泥棒「他の罪人が下手な動きしたら起こしますよ。それにあっしも逃げません」

泥棒「まだ看守さんの話、聞き足りねぇんでさぁ」ニッコリ

狐兵「そうか、なら、頼ん、だ……」zzz


泥棒「おやすみなさーい……♪」ニヤリ


ギコギコ バキン


泥棒「あらよっ、と」スルリ

泥棒「さて。牢も抜けたしさっさとずらかるとしますか――ん?」

狐娘「」スヤスヤ

泥棒「あれま、こっちも寝ちまったのか。助けてやりてぇがさすがに人担いで逃げんのは……」


キラン


泥棒「お? 嬢ちゃんの首輪、なんだかずいぶんイイ品みてぇだな」


泥棒「……俺は根っからの盗っ人、悪名高い大泥棒よ」

泥棒「嬢ちゃん、悪いがこいつは頂戴するよ」ギコギコ バキン


泥棒「牢に入って――」スルリ

泥棒「――ほいっ、と」パキンッ



狐娘「」パチッ

泥棒「え?」


狐娘「」バッ



キュイィィィィン…

ドゴオオォォォォォォォン!!



壁「」ポッカリ

泥棒「」


泥棒「い、一体どうなってやがんだ!? 牢屋の壁が一瞬で無くなっちまったぞ!?」

狐娘「……んぅ?」

泥棒「やべ……!」

狐娘「おじさん、誰……?」

泥棒「え、えっとだな、そりゃあちょっと話せねぇというか……」


ナンノオトダ! ロウヤノホウカラダ! イソゲ!


泥棒「!」

狐娘「……?」

泥棒「ちっ! 嬢ちゃん、逃げるぞ!」

狐娘「え? 逃げるってどこへ――」

泥棒「いいからついてこい!」グイッ



ニガスナ! オエ!!

~現在~


貴族「――で、その狐娘を連れ出した泥棒が……」

下男「はい。あの奴隷商人だった、というわけです」


下男「その後、商人さんは狐娘ちゃんを連れて旅をしている間に自分のことを話したそうです」

下男「狐娘ちゃんは迫害を受けていたとは思えないほど優しい子で……」

下男「いつしか商人さんは、泥棒をしていたことを反省するようになったんだとか」

貴族「……」


下男「それを知った狐娘ちゃんは『自分を売ったお金で罪を償って欲しい』と言い出しました」

下男「都に戻って打ち首にされるのは簡単でも、それでは被害者の人が救われない」

下男「ならばまっとうなお金を用意してその人たちに返して欲しい、とのことです」


下男「もちろん商人さんは断りました。罪は自分で償うものだし、なにより狐娘ちゃんと離れたくない、と」

下男「しかし無一文の二人で旅をするのも限界でした」

下男「それにお金を稼ぐにしても、せめて最低限生きていけるだけの資金がないと、ということです」

貴族「そうか……」


下男「そして揉めに揉めた結果、こう決まったのです」

下男「盗んだ分のお金は全部自分で稼ぐ。狐娘ちゃんを売ったお金は自分が最低限生きるために使う、と」


貴族「なんか、おかしくないか?」

貴族「最低限生きるためなのに、金貨50枚って値段はちょっと……」

下男「それは、ですね……」


下男「商人さんが狐娘ちゃんと離れたくないから、わざとボッタクリ価格にして売れないようにしてたんだとか」

貴族「……はぁ?」

下男「おかげで『全然売れないじゃない!』って狐娘ちゃんに何度も怒られたそうで……」

下男「それがこうして売れたもんだから、最初はすごく驚いたみたいですよ」

貴族「なんだそりゃ」

貴族「商人のやつ、売るつもりないのに奴隷商人なんかしてたのかよ」

下男「あはは……」


下男「それと、狐娘ちゃん。最初の頃に比べていい子になったと思いませんか?」

貴族「そうか?」

下男「今は僕やメイドの手伝いも、進んでやってくれてるんですよ」

貴族「俺の言うことはあいかわらず聞かないけどな」

下男「それはきっと、あなたをからかって楽しんでるだけですよ」

貴族「ご主人様なのに……」


下男「来たばっかりの時のあのわがままっぷりは、商人さんがそうしろと指示していたそうです」

下男「そうすればアホみたいにいい人じゃない限り、すぐに返品するなり捨てるなりするでしょうし」

下男「下手に慣れ親しんじゃうと、いざそうなったときのショックが大きいですから」

貴族「……」


下男「それと、商人さんから伝言を預かってます」



商人『旦那、あたしの指示のせいで気を悪くしたのなら申し訳ございません。あの子を責めないでやってください』

商人『ちょいと前に、あの子からうまくやっていけそうだと連絡があって安心してたんですが……』

商人『まさか旦那に対してだけ、まだあの態度でいたとは思いませんで』

商人『きっと、旦那に甘えたかったんじゃねぇかと思います。その仕方がよくわからなかっただけで』

商人『勝手な願いではありますが、どうか、あの子の笑顔を守ってやってくれませんか』

商人『あの子を、見捨てないでやってください』



貴族「……まったく、東の国には身勝手なやつしかいないのか」


貴族「それで、その商人はどこへ行ったんだ? あれだけ金があれば店でも開いて稼ぐには十分だろうに」

下男「あ、今はもうそのお金ほとんど残ってないみたいですよ」

貴族「は? なんで?」

下男「商人さん、奴隷市の奴隷をみんな買っていっちゃったんですよ」

下男「奴隷商人全員と相談して、まとめて買うから安くしてもらったそうです」

貴族「奴隷をまとめ買いかよ……。そんな大勢引き連れてどうするんだ?」

下男「なんでも、旅の途中でお世話になったある村がひどい人手不足で困ってるそうで」

下男「しばらくはそこで厄介になるんだとか」


下男「あの子との約束はちょっと破っちまうけど、それでもこれからは誰かの為に生きていきたい」

下男「そう思うんだ、って言ってました」

貴族「……泥棒だったくせに、ずいぶんとお人好しなんだな」


下男(……貴族のくせに奴隷に甘くて、文句を言いつつわがままを聞いてやって)

下男(その奴隷を泣かせちゃって本気で落ち込んで悩むあなたも……)

下男(人のこと言えないくらい、相当お人好しだと思いますよ)クスッ


下男「……話がそれちゃったんで戻しますね」

下男「商人さんは少しづつですが、あの子がどんな仕打ちを受けてきたのかを聞いたそうなんです」

下男「それで、『アイツら』ってのはその村の人たちのことだろう、って言ってました」


下男「商人さんが外した首輪は、妖力を封じ込める作りになっていたんです」

下男「無理やり外したことで、妖力が暴走しちゃったみたいですけど」

下男「『アイツら』は首輪であの子の強大な妖力を封じ、逆らえなくなったところを散々痛めつけてました」

貴族「……」


下男「しかし、中でも一番辛かったのは、両親があの子の目の前に現れた時だそうです」

下男「彼らもまた、殺されずには済んだもののやはり良い扱いはされなかったようで……」


下男「やつれきった彼らから『お前なんかいらない、産まなければ良かった』、と」

貴族「……!」



下男「あの子にとって一番の恐怖は、誰からも必要とされなくなることなんです」

下男「安心して誰かのそばにいられることが何より嬉しくて」

下男「大切な人からいらないと言われることが、なにより怖いんです」


下男「商人さんがいない今、あの子をそばにおいてあげられるのは旦那様だけなんです」

下男「だから、その……」


貴族「……」

貴族(俺は……)


下男「……さて、話してるうちにすっかり夜になっちゃいましたね」

貴族「ああ……」




下男「――ここで突然ですがクイズです!」

貴族「うわっ!」ビクッ

下男「最近、夜になるとこのあたりに魔物が出るそうなんですよね」

貴族「な、なんだよ急に……」


下男「こんなときに女の子が出歩いてたりしたら、どうなっちゃうんでしょうね?」

下男「もしかしたら今この瞬間にも襲われてしまってるのかも……」

貴族「……!」



下男「――あなたならどうする?」

貴族「ち、ちょっと散歩にいってくる!」ガシャン!  ダダッ



下男「いってらっしゃ~い♪」

下男「……まったく、どこの世界に使えもしない剣持って夜の散歩に出かける貴族がいるのやら」

下男「ホント、昔っからアホなんだから……」


執事「おや、一体どこへお出かけに?」

貴族「ちょっと散歩に行くだけだ! 止めても無駄だぞ!」

執事「……私はどこへ、と聞いたのですよ?」

貴族「し、知らん! とにかく行くったら行くんだ!」



執事「目的地、教えて差し上げましょうか?」

貴族「……え?」


執事「まったく、旦那様は物忘れが激しいようで」

執事「小さな頃からよく迷子になっていたあなたを見つけていたのは、どこの誰ですかな?」スッ

ちょっと用事があるので出かけます。
夜にはまた再開しますので。

・・・町外れ


狐娘「……」グスッ

狐娘「はぁ……泣いたのなんていつぶりかしら」

狐娘「子供じゃないんだから、バッカみたい」

狐娘「命令ばっかりの貴族ともおさらばできて、むしろラッキーじゃない!」

狐娘「……」



狐娘「楽し、かったなぁ」

狐娘「独りはやっぱり、つまんないわね……」


狐娘(嫌な気持ちになったのは、たしかにアイツのせいなんだけど)

狐娘(でもちょっと、わがまま過ぎたわよね……)


狐娘「……ちゃんと」

狐娘「ちゃんと謝ったら、許してくれるかしら……?」


狐娘「…………帰ろう」トボトボ


魔物「――ガウゥッ!」

狐娘「!」

魔物「バウゥ!」ガバッ

狐娘「――このッ!」ババッ!

キイィイン!


魔物「ギャンッ!?」ベシャ

狐娘「ふう。結界に向かって飛び込んでくるなんて、とんだおバカさんね」

魔物「グウゥ……」ヨロヨロ

狐娘「まだ立ち向かおうとする姿勢は認めてあげるけど、面倒だから逃げさせてもら――ッ!?」ガシャン!


狐娘(これは、狩猟罠!? なんでこんなところに!?)


男「よっしゃ! 引っかかった!」

狐娘「!」


男『あ、アホか! こんなの払えるわけねぇだろ!』


狐娘(こいつ、あの時の……!)


男「おいで、ポチ」

魔物「クゥーン」スリスリ

男「いやあ、それにしても見事に引っかかってくれたなぁ」


男「それもポチ、お前がこいつを見つけて、しかも囮になってくれたおかげだ!」

魔物「ワフッ!」

男「それにしても、仕掛けておいた罠なんかにかかるとはずいぶんマヌケだなぁ?」


狐娘(くっ、油断した……! こんなくだらない策にハマるなんて!)


男「金で買えないなら、自分の手で捕まえちまえばいいってな」

男「まさか一人でうろついてるとは思わなかったが」


男「さて、じゃあ喋りはここまでにして……」

狐娘(でも、落ち着いて術を発動させれば負ける相手じゃな――)



男「暴れないようにさせてもらいますか」キランッ

狐娘「――ッ!?」


狐娘「そ、それ、なんで……」

男「綺麗だろ? 魔物用の首輪を、東の魔物用に特注で作ったんだ」


狐娘(嘘……い、いや……嫌ぁ!)


男「大人しくしてろよ? そうすりゃなにも痛くないから、な」ニヤァ


狐娘「あ、ああ……」ガチガチ


男「さあ、今日からお前も俺のペットの仲間入りだ!」


狐娘(誰、か……助け――!)






「――とぅりゃあぁぁぁぁ!!」


狐娘「!」



男「うおっ!?」バッ

魔物「ガフッ!?」

男「だ、誰だ!」


「誰だ、だと? 分からないなら教えてやる!」




貴族「泣く子も黙る大富豪! 貴族様だ!」


貴族「すまない、遅くなっちまった」

狐娘「ど、どうして……ここ、が?」

貴族「執事の特製発信機のおかげだ。お前に付けておいたんだとさ」

狐娘「えっ!?」

貴族「ヤンチャ坊主だった俺に、昔からよくつけてたらしい。いくつになっても食えないジジイだ」


狐娘「……どうして、来てくれたの?」

貴族「どうしてもなにもない! 助けたいから助けに来たんだ! 悪いか!」

狐娘「っ! そ、そう……!」


男「……楽しそうに喋ってるとこ悪いが、生憎俺は今虫の居所が悪い」

男「邪魔するってんなら、本当にブッ殺すぞ?」ギロリ

魔物「グルル……」


貴族「そいつは奇遇だな。実は俺も今、とっても機嫌が悪いんだ」

男「……あ?」

貴族「なんてったってなぁ……お前はやっちゃいけないことをしたんだ。分かるか?」

男「知るかよ、ンな事」


貴族「……お前はなぁ」


貴族「お前は! 俺の大切な家族を! 傷つけやがったんだ!」

狐娘「――!」



男「……だからなんだよ?」

貴族「俺は、俺の家族を傷つけるやつは許さない――絶対にだ!」

男「はっ! 一生言ってろ!」チャキ

魔物「ガフッ!」

貴族「……」スチャッ


狐娘「ちょ、なにやってんの? 二対一なのよ?」

狐娘「アンタなんかが勝てるわけない! さっさと逃げなさいよ! 私は大丈夫だから!」

狐娘「ほら早く「なあ」」

狐娘「……え?」




貴族「好きなやつを守るときくらい、カッコつけさせろよ」

狐娘「――は?」


男「余所見してんじゃねぇぞ!」ダッ!

貴族「――!」バッ!





狐娘「ちょ、貴族――――!!」







貴族「……痛ったい」

狐娘「バッカじゃないの!?」

貴族「バカとか言うなよ、頑張ったんだぞ」

狐娘「無謀な挑戦は勇気じゃないの! そういうのをバカって言うのよ!」

貴族「いいじゃないか、ちゃんと勝ったんだから!」


男「」ノビー
魔物「」ノビー


狐娘「……」ゴン

貴族「痛い!」

狐娘「私が術で助けてあげなかったら、どうなってた?」

貴族「えっと……多分、魔物に食い殺されちゃってたかなー、なんて」

狐娘「その通りよ!」

狐娘「まったく、助けに来たのに助けられるなんて……!」

貴族「だって完全に戦意喪失してると思ったし」

狐娘「あの時はちょっと動揺してただけ! 落ち着きさえすればどうってことないわ」

貴族「くそう、せっかく頑張ったのに……」

狐娘「……」


狐娘「……ま、来てくれたことには感謝してるわ。危なかったのはホントだし」


狐娘「その、ありがと、ね……」

貴族「……おう!」



貴族「さて、それじゃ帰りますか……って、おい」

狐娘「……なに?」フラフラ

貴族「足、大丈夫か?」

狐娘「平気よ、これくらい……くっ」ヨロッ


狐娘(あー、回復系の術も練習しておけばよかった……)

狐娘(でも、あの時に比べたらこれくらいの怪我、なんてことない)


貴族「……」ポリポリ

貴族「あー……、ほら」クルッ

狐娘「なに?」

貴族「おんぶ」

狐娘「いっ!? い、いらない、そんなの!」ワタワタ

貴族「そんなのってなんだ! こうなったら意地でもおんぶしてやる!」

狐娘「いやぁぁぁ!」

・・・


貴族「まったく。最初から素直に乗ればいいものを」

狐娘「うっさい」

貴族「はいはい」

狐娘「……」

貴族「……」


狐娘「……ねぇ」

貴族「ん?」

狐娘「さっきの……ホント?」

貴族「さっきのって?」

狐娘「だから、その……俺の家族、ってやつ」


貴族「ああ、それ。もちろん本当だぞ」

狐娘「……どうして?」

狐娘「私、お金で買われただけで、言うこと聞かないし、生意気だし……ま、魔物なのよ?」

狐娘「それでも、家族って言うの?」

貴族「んー……」

狐娘「……」



貴族「俺、そんな面倒なこと考えてないわ」

狐娘「え?」


貴族「同じ家に住んで、同じご飯食べて、一緒にいて楽しいって思える」

貴族「だったらもう家族なんじゃないの? 少なくとも俺は、そう思ってる」

狐娘「……」

貴族「だから俺にとっては、執事も下男もメイドもコックも、ほかの使用人もみんな家族だ」

貴族「もちろん、お前もな?」

狐娘「!」


狐娘「私、あなたの家族でいいの?」

貴族「うん」


狐娘「私と一緒にいて、楽しいの?」

貴族「ああ、最高だ」



狐娘「私……あなたのそばに、いていいの?」

貴族「むしろ、こっちからお願いしたいくらいだよ」

狐娘「そ、そう……!」


貴族「……なあ、狐娘」

狐娘「なに?」

貴族「お前は、俺のそばにいたいって思うか?」

狐娘「うーん……」

貴族「そこは悩むのかよ」

狐娘「そうじゃないわ」



狐娘「……私ね、はじめて下男さんにあった時に驚いたの」

狐娘「こんなに幸せそうな人が奴隷市に来るんだ、って」

貴族「?」


狐娘「私、大雑把になら人の心を読めるの。ほんとにちょっとだけど」

狐娘「でも奴隷市に来る人はみんな荒んだ心ばっかりで、心を読むのは嫌いだったわ」


狐娘「そんな時に現れたのが下男さん」

狐娘「心を読むまでもなく、一目見ただけでこの人は優しい人だって分かったわ」

貴族「ほう、さすが下男だな」

狐娘(……あなたも人のこと言えないわよ?)クスッ


狐娘「それでお屋敷に着いて、使用人さんたちの心を読ませてもらったの」

貴族「お、マジか」

狐娘「悪いとは思ったけどね。ちょっとだけだから」


狐娘「ホント、びっくりしたわ」

貴族「なんで?」

狐娘「みんな考えてることが同じだったの」

貴族「?」


狐娘「旦那様――あなたのことが大好きだ、って」

貴族「……!」


狐娘「最初は不思議でしょうがなかったわ」

狐娘「あなたに振り回されてるのに、なんでみんなこんなに幸せそうなのか」


狐娘「執事さんは、あなたが毎日成長するのを見守るのが生きがいなの」

狐娘「コックさんは、あなたの笑顔が見たくて料理をしてる」

狐娘「メイドさんは、あなたが『ありがとう』って言ってくれるのが何より嬉しい」

狐娘「下男さんは、あなたといるだけで楽しくて仕方ない」

狐娘「ほかの使用人さんも、みんな似たようなものよ」

貴族「……」


狐娘「あたなはみんなにとって、孫であり息子であり、兄でも弟でもある」

狐娘「あのお屋敷は、あなたを中心とした幸せな輪で出来てるの」


貴族「な、なんだか照れるな……」


狐娘「……それでね」

狐娘「いつしか、私もその輪に入りたいって思うようになったの」

貴族「……そうか」


狐娘「わがままばかりで、迷惑かけちゃってごめんなさい」

狐娘「それでも、私はあなたのそばにいたい。離れたくない」

狐娘「だから……」ギュウッ

貴族「……」





貴族「よし、走るぞ!」

狐娘「えっ」

貴族「ダッシュで帰る! 行くぞ!」ダダダッ!

狐娘「ちょ、まっ――」

・・・貴族邸


貴族「ただいま!」

狐娘「た、ただいま……」ボロ

執事「おや、おかえりなさい旦那様。それに狐娘様も」


執事(どうやら、うまくいったみたいだな)

下男(ですね)


メイド「お二人共、お怪我は?」

貴族「してないこともないけど、いまはそれより重要なことがある!」


貴族「聞け、みなのもの!」


貴族「ここにいる狐娘だが、今日限りで俺の奴隷をやめさせることにした!」

貴族「そして、俺の家族として正式に迎え入れる!」

狐娘「!」


執事「旦那様、それは……」

貴族「文句は言わせない! 決定事項だ!」

メイド「文句、といいますか、なんというか」

貴族「……なんだ?」

下男「僕らはとっくに家族みたいなものだと思ってたんですけど」


貴族「え!?」


下男「だから呼び方も狐娘ちゃんに変えましたし」

メイド「狐娘ちゃんの部屋も、とっくに用意してありますよ」

貴族「き、気付かなかった……」

狐娘「じゃあどこで寝てるとおもってたのよ……」


貴族「ええいうるさい! こういうのは正式にってのが大事なんだ!」

貴族「『俺の許可を得て』の部分がキモなんだよ!」

下男「普段は正式に、とか堅苦しいの嫌いなくせに」

貴族「やかましい!」


貴族「コックよ!」

コック「なんだい、坊っちゃん」

貴族「いますぐありったけの料理を用意しろ!」

コック「……! 了解!」

貴族「他の者もだ! みんな、俺の言いたいことはわかるな!?」

使用人たち「「はい!」」

狐娘「え? 一体なにを――」



貴族「狐娘は俺たちの新しい家族だ! 盛大にもてなすぞ!」

狐娘「!」

貴族「今夜は宴だ! 早速準備をしろ!」


「「オォー!!」」


貴族「家族が増えたら全員で歓迎の宴をする」

貴族「これが我が家の伝統でな」ニカッ

狐娘「そう、なんだ……!」



貴族「あの時は、ひどいことを言ってすまなかった」

狐娘「……いいわよ別に。私が悪かったんだし、気にしてないわ」

貴族「勝手にで悪かったが、商人から昔のことを聞かせてもらったんだ」

狐娘「そう」

貴族「辛かっただろう?」

狐娘「まあ、それなりにはね」

貴族「……そうか。だがもう心配いらないぞ」

貴族「俺がお前を――狐娘を、世界一幸せにしてやる!」

狐娘「!」


貴族「だから、その……もう泣くな」

狐娘「うん……、うん……!」

貴族「やれやれ……」




下男「ちょっと旦那様」

貴族「なんだ?」

下男「この屋敷内での、狐娘ちゃんの立ち位置はどうなるんです?」

貴族「?」

下男「狐娘ちゃんは奴隷でなくなったんですし、使用人でもないんですよ」

貴族「むう、そうだな」


下男「……さっき、『正式に』家族に迎えるって言いましたよね?」

貴族「ああ、言ったぞ」

下男「ならいっそ、本当の意味で家族にしちゃうのはどうです?」

狐娘「――!///」カァ


貴族「ほう、それは名案だな!」

下男「さすが旦那様! 男らしい!」

狐娘「ちょ、いいの!?///」

貴族「問題ない! 俺も昔から憧れてたんだ!」


下男「あれ? 狐娘ちゃんは嫌なのかな?」

狐娘「い、嫌とか、そういうんじゃなくて……」

貴族「……嫌なのか?」シュン

狐娘「ち、違うっ! むしろ嬉し、じゃなく、えっと――!」

下男(やっぱ面白いなぁ、この二人)


狐娘「その……ふ、ふつつかものですが、よろしくお願いします///」

貴族「おう!こちらこそよろしくな!」

貴族「よし、それじゃあ今日から俺が――」


貴族「――お兄様だ!」

狐娘「はい!」







狐娘「えっ」

貴族「えっ」

下男「」ブフッ


狐娘「ごめん、もう一回言って」

貴族「しょうがないなぁ」


貴族「今日から俺がお兄様だ!」

狐娘「なんで?」

貴族「え?」

貴族「だって、本当の家族になるってそういうことじゃないの?」

狐娘「全然違うけど」

下男(いくらなんでもアホすぎるだろぉ!)ゲラゲラ


貴族「――あ!」

狐娘「気付いた?」

貴族「ああ! これじゃあおかしいよな、すまん!」

狐娘「そうよね。じゃあもう一回やり直し」

貴族「分かった!」




貴族「今日から俺がお父様だ!」

狐娘「何も分かってなかった」


貴族「何がダメなの?」

狐娘「ほぼ全てよ」

貴族「養子にして欲しいってことじゃなくて?」

狐娘「まったくもって違うわ」

貴族「じゃあもうどうすればいいのさ! わかんねぇよ!」

狐娘「……はぁ」


狐娘「じゃあ、『今は』妹でいいわ」

貴族「そ、そうか!」

狐娘「もう、ホントおバカさんなんだから……」


メイド「聞きました?」

執事「それはもうバッチリ」

メイド「『今は』、ですって」

執事「あんなに素敵な嫁候補をゲットするとは……」

メイド「将来が楽しみですね」

執事「こりゃあ、まだまだ死ぬわけにはいきませんな」


貴族「それじゃ、もう一回やるぞ」

狐娘「ええ。かっこよくお願いね」

貴族「任せろ!」




狐娘(あなたはあの時、私のことを『好きなやつ』って言ってくれた)

狐娘(それはたぶん、大切な人って意味なんだと思う)

狐娘(けれど、いつかきっと――……)




貴族「今日から俺がお兄様だ!」

狐娘「はい!」



fin

終わりです。
話が進むにつれて口調がバラついたり、貴族がアホになったり逆に下男ができるやつになったりと、反省だらけです。

読んでておかしなところが無いように気をつけましたが、質問があれば受け付けます。

初SSでしたが、楽しんでもらえれば嬉しいです。

>>1です。
みなさんの反応が嬉しくてたまらないです。

続きは一応考えてます。が、昨日で冬休みが終わってしまったためにあまり時間がとれなくなります。
ゆっくりにはなりますが、ちょっとずつ書いていこうかと。

別スレを立てようかとも思いましたが、蛇足的な部分でしかないのでこのままこっちに書きます。
引き続きお楽しみいただけると幸いです。




貴族「今日から俺がお兄様だ!」狐娘「はい!」


狐娘「私があの人の妹になって、早くも一ヶ月が過ぎた」

狐娘「最初は妹ではちょっと不満足だったけど、普段の生活は間違いなく楽しいものだったわ」

狐娘「だからこそ、まだしばらくは妹のままでいいかな、なんて思ったりもした」



狐娘「……あいつが現れるまでは」

>>1はちゃんと宿題やったのか心配

>>146
痛いところを突かれました。
これからしばらく、先生に頭を下げながら宿題の残りをやる毎日になります。
なのであんまりあげられなくなります。申し訳ないです。

こんにちは、>>1です。
久しぶりに来てみたら宿題についてガンガン触れられてて何とも言えない気持ちです。
こんなの先生に見せたら黒歴史確定です。

というわけで、続編のさわりの部分を書き貯めていたのでのせます。
若干のコレジャナイ感は否めませんが、当初の予定通りに進めていきます。

・・・昨日

狐娘「ねえ」

貴族「なんだ?」

狐娘「暇なんだけど」ゴロゴロ

貴族「そうか。時間にゆとりがあるのはいいことだ」

狐娘「ねえ」

貴族「なんだ」

狐娘「暇なんだけど」ゴロゴロ

貴族「ああもう暇なのは分かった! けどこっちは忙しくてお前に構う余裕ないの!」


狐娘「えー」

貴族「えーじゃない。俺はいろいろ勉強しなきゃいけないの」

狐娘「なんでよ」

貴族「こう見えてもこの家の立派な当主なんでな」

狐娘「そうは見えないのにね」

貴族「うっさい! ほらあっち行った」シッシッ

狐娘「可愛い妹を追い払うの?」

貴族「あとでちゃんと相手してやるから。それまでメイドにでも構ってもらえ」

狐娘「はーい」ガチャ バタン

貴族「まったく……」


狐娘「ふう。貴族にウザ絡みするのも飽きてきたわね」

狐娘「何かもっとこう、刺激的なイベントはないものかしら」


スミマセーン


狐娘「あら、お客さん?」

狐娘「……私が出ても問題ないわよね」


狐娘「はい、どちらさまでしょうか?」ガチャ

?「あ、えっと、はじめまして!」

狐娘(なんだかずいぶん綺麗な人ね。それに大人っぽいし……)

狐娘「はじめまして。それで、ご要件は?」

?「あの、貴族さんっていますか? 会いに来たんですけど……」


狐娘「えっと、兄は少々用事があって手が離せないのですが」

?「兄? するとあなたは、妹さんですか?」

狐娘「は、はい」

?「……そう、ですか。ではまた後日――」


メイド「お、幼馴染様!?」

幼馴染「あ、メイドちゃん! 久しぶり!」


狐娘(え、知り合い?)


メイド「いつの間にこちらに帰ってきたのですか? 連絡して下さればお迎えくらい……」

幼馴染「いいのいいの! ちょっと驚かせようとしただけだから!」


狐娘「め、メイドさん。この方は?」

メイド「ああ、狐娘ちゃんとは初対面ですもんね。紹介します」


メイド「この方は旦那様の古いご友人の、幼馴染様です」

幼馴染「よろしくね。えっと……狐娘ちゃん?」


狐娘「よ、よろしくお願いします……」

お久しぶりです。
宿題のひと段落したので続きをのせます。
期末テスト?そんなの知らない。

「さわり」の誤用に関しては申し訳ないと思ってます。
間違いだと聞いたことはあったのですが、指摘されて思い出しました。すっかり忘れてました。
物語の始めの部分ってことを言いたかったんです、ごめんなさい。

・・・

幼馴染「いやー、それにしても貴族くんにこんな可愛い妹ができるなんてなー」

狐娘「あ、ありがとうございます」

下男「メイドちゃんは用事があって出かけちゃったし、旦那様でも呼ぼうか?」

幼馴染「あーいいよ別に。時間はいっぱいあるし」

下男「けど、幼馴染ちゃんも忙しいんじゃないの?」

幼馴染「ん、でもしばらくはこっちにいるから平気だよ」

幼馴染「そんなことより、狐娘ちゃんといっぱいおしゃべりしたいからね」


狐娘(な、なんなのこの人? 大人っぽいかと思ったら急に砕けた喋り方になって……)

狐娘(しかも人のお屋敷に押しかけておいて、ちょっと態度が大きすぎるんじゃない?)


幼馴染「にしてもホントに可愛いねー」ナデナデ

狐娘「や、ちょっと……」

幼馴染「私の妹にしたいくらいだよ。貴族くんばっかりずるーい!」


下男「旦那様と結婚すれば、義理の妹にはできるよ?」

狐娘「ちょ、何言ってんの!?」

幼馴染「それ名案! 貴族くんとなら別に結婚してもいいかなー」

狐娘「だ、ダメよそんなの!」

幼馴染「あ、じゃあ狐娘ちゃんのことも妹ちゃんって呼んじゃおうかな?」

狐娘「それもダメ!」


狐娘(それにしても、ずいぶん下男と仲がいいのね。貴族とも面識があるようだし)


狐娘「……警戒しておく必要があるわね」ボソッ

幼馴染「ん、何か言った?」

狐娘「何でもないわ」

幼馴染「……ふーん」


貴族「あー疲れた」ガチャ

貴族「おーい、ちょっと一休みしたいから紅茶でも――」


幼馴染「貴族くん!」ガバッ

貴族「うおッ、なんだ!?」

狐娘「!」


幼馴染「あー貴族くんだー! 懐かしいねー!」ギュウゥ

貴族「え、お、幼馴染!? なんでここに!?」

幼馴染「勉強がひと段落着いたから、まとめてお休みもらってきちゃった♪」

貴族「そ、そうか。だったら連絡くらいしてくれれば良かったのに」

幼馴染「だって驚かせたかったんだもーん」

貴族「……そういうところは相変わらずなんだな」

幼馴染「貴族くんだって、あの頃と全然変わってないよ?」



狐娘「――ってこらぁ! いつまで抱き合ってんの!」


幼馴染「えーいいじゃん、十年ぶりの再会なんだし」

幼馴染「貴族くんだって満更でもないみたいだし、ね?」ギュウ

貴族「いや、それは……」


狐娘「いいから離れなさい!」ビッ

貴族「うおっと!」

幼馴染「きゃあ!」

貴族「こら! 急に妖力使うなっていつも言ってるだろ!」

狐娘「うるさい! あんたがデレデレしてるのが悪いのよ!」


下男(これは……面白くなってきたなぁ)ワクワク


狐娘「で、この人とは一体どういう関係なの?」

幼馴染「さっきも言ったよ? 貴族くんの古いお友達なんだ、って」

狐娘「あなたには聞いてないわ。私は貴族に聞いてるの」

幼馴染「むぅー。狐娘ちゃん冷たい……」


貴族「えっとだな、幼馴染は隣町を仕切ってる家の娘さんで、そこの次期当主ってわけだ」

貴族「ウチとは昔から家族ぐるみで仲が良かったから、小さな頃から一緒に遊ぶことが多かったんだ」

幼馴染「下男くんやメイドちゃんともよく一緒に遊んでたよね」

下男「あの頃はまだ、使用人の見習いですらなかったからね」


狐娘「ふーん……。じゃあ幼なじみってわけなんだ」

幼馴染「ま、私は途中で都の方に行っちゃったけどね」

狐娘「どうして?」

幼馴染「当主になるためには勉強しなきゃいけないことが山ほどあったし」

幼馴染「だから都の方までいかないとダメだったんだよ」

狐娘「……お兄様はこっちに残ってたみたいだけど」

貴族「お、俺はその、こっちでも充分勉強できるというか……」


幼馴染「貴族くんは『みんなと離れたくない!』ってダダこねたんだよね」

貴族「おい! それは言うなよ!」

幼馴染「私と離れるのはいいの?って聞いたらそれもヤダって言うし」

下男「そうそう。『じゃあみんなまとめて引越しする!』なんて言い出した時はもうどうしようかと……」

貴族「ちょ、下男まで!」


ワイワイ ギャーギャー


狐娘(……なるほど)

狐娘(警戒するに越したことはないけれど、幼なじみってだけならそこまで危険ってわけじゃないわね)

狐娘(焦る必要はないわ。これまで通りじっくりと……)


幼馴染「あ、そうだ。すっかり忘れるところだったよ」

幼馴染「本当はね、貴族くんに大事な話をするために帰ってきたんだよ」

貴族「そうなのか。で、その話って?」

幼馴染「んー、今はまだ秘密。もう少しだけ待ってて」

貴族「なんだそれ。せめてどんな話かくらい教えてくれよ」

幼馴染「そうだねー、強いて言うなら……」



幼馴染「私たちの将来の話、ってとこかな♪」

狐娘「!」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年01月31日 (日) 03:23:24   ID: iD2Sp2ns

なんだろう、全体的に絶妙にイラッとさせてくるなこれ

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