榊原「存在したかもしれない世界」 (6)

さよなら怜子さん……

僕の目の前で藻掻いている女性にツルハシを振り下ろした瞬間、一瞬にして目の前が暗闇に包まれた。
ここは何処だろう?もしかして僕はもう死んでいるのかもしれない、はたまた生まれてすらないのかもしれない。
考え事に浸っていると何処からか自分を呼ぶ声が聞こえた気がする。
誰?

見崎「大丈夫榊原君?」

榊原「えっ、ここは……」

勅使河原「何寝ぼけた事言ってんだよサカキ、さっきから飯食ってたじゃん」

榊原「……飯?」

榊原「僕はさっきまで……ツルハシで……怜子さんを……」

望月「三神先生がどうかしたの?」

榊原「…………」

勅使河原「サカキお前さっきから変だぜ、気分わりぃなら保健室行って来いよ」

望月「何なら着いて行こうか?」

榊原「………………」

榊原「いや大丈夫……ちょっと混乱しただけだから」

勅使河原「混乱ってホント大丈夫かよ、もうすぐ修学旅行だぜ」

榊原「修学旅行?」

勅使河原「おいおいマジで大丈夫かサカキ」

榊原「見崎は覚えてないの合宿の事?」

見崎「合宿?」

そう言って見崎は首を傾げた。
先程まで一緒にいた見崎とは何処かが違う気がする。

見崎「ごめん……わからない」

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榊原「ごめん変な事聞いて」

見崎「うん、大丈夫」

勅使河原「おい、2人にしかわからない話かよ、全く惚気んなよな」

見崎「……」///

望月「ははっ、相変わらずだね2人とも」

何かが違う、決定的な何かが。
最初は見崎だけが違うのかと思ったけど、どうやらこの2人もあの合宿の事を思えていないらしい。
どういう事なんだ、これも現象の一部なのだろうか?

勅使河原「なぁ、サカキホントにお前らって付き合ってねぇのかよ」

榊原「ふぇっ!」

唐突に投げかけられた質問にびっくりし変な声を出してしまった……我ながら恥ずかしい。

榊原「なっ何の話?」

勅使河原「だーかーらー、お前ら付き合ってんのかって話だよ」

榊原「そんな事ないよ、ねぇ見崎」

見崎「うん……」///

勅使河原「かっー、絶対嘘だろそれ!望月お前からも何か言ってやれ!」

望月「そうだね、2人はいつも一緒にいるからそう思われてもしかたないよ」

勅使河原「わざわざ隠すなよサカキ」

榊原「何くだらない事言ってんだよ、見崎も何か言い返していいんだぞ」

見崎「うん、私と榊原君はそんなんじゃないよ」///

勅使河原「全く、見てるこっちの身にもなれよな」

そんな他愛もない話をしていると昼休みを終えるチャイムの音が聞こえていた。
どうやら食べる事により喋ることに集中してしまっていたらしい。

勅使河原「やべっ!こうしちゃいらんねぇ、望月教室まで競争だ!」

望月「あっ、待ってよ勅使河原君」

そう言って2人は急いで教室に戻って行った。
全く騒がしい奴だ。

榊原「じゃあ僕達も帰ろうか見崎」

見崎「うん……」

僕の抱いていた疑惑が確信に変わるのにはそう時間がかからなかった。
何故ならば本来いるはずのない人間がそこにはいたからだ。

榊原「えっ……」

見崎「どうかしたの榊原君?」

榊原「ごめん……変な事聞くけど、赤沢さんって死んだりしてないよね……」

見崎「……それってどう言う事?」

榊原「そのままの意味だよ」

見崎「生きてるし、第一そこに当の本人がいるでしょ?」

榊原「そうだよね……僕の見間違いじゃないんだよね……」

見崎「やっぱり今日の榊原君変だよ」

榊原「ごめん……さっきの弁当に何か悪い物が入ってたみたい、今日はもう早退するよ」

見崎「えっ、うんわかった」

榊原「じゃあまた明日ね見崎」

思っていた通りだった、やはりここは僕のいた世界じゃない。
記憶の改竄ならまだしも死んだ人間が生き返る何て事があり得るわけがない。
でも、もしかしたらあの人なら何か知っているかもしれない。
そう思い僕は図書室に足を運んだ。
図書室の主に会いに行くために。

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