男「悪人っていうのは、結局の話、頭が良くないものでして」
女「…………」
男「僕みたいな舌足らずの脳味噌足らずが頭を捻ってみたところで、できあがるのは悲劇じゃなくて喜劇が関の山で」
女「…………」
男「まあ、馬鹿な僕が長々と喋ったところで要領を得ないだろうからわかりやすく短く言い直してみるけど」
女「…………」
男「要するに、今のキミの惨状は、ただの滑稽な喜劇だってことだよ」
女「…………」
男「聞こえてない? いや、聞く気がないのか。いや、どっちも同じことかな」
男「じゃあね、可愛らしいお嬢さん。頑張って幸せになってね。無理だと思うけど」
少女「可哀想な人ね」
男「うん? 僕が可愛く見えるのかい? 昔はよく言われたかな。ほら、僕、女顔寄りでしょう?」
少女「たぶん、漢字を間違えてるわね。頭から二つ目辺りを」
男「そう? ひょっとして、可哀想って言ったのかな。僕とは無縁の言葉だから、気が回らなかったよ」
少女「…………」
男「なんだよその顔は、頭が悪くたって、幸せにはなれるんだよ。僕はぜんぜん、可哀想なんかじゃあないね」
少女「人を騙したら、幸せなの?」
男「違うよ。あの子が勘違いしただけさ。僕は頭が悪いから、嘘を吐くなんてできないよ」
男「そりゃあ、僕が舌足らずの言葉足らずだから、そのせいで誤解を招いたのかもしれないけれども」
男「じゃあ、まあ、悪意の有無はおいておいて、彼女が酷い目にあったのは、僕のせいなのかな」
少女「あった癖に」
男「僕に? 悪意が?」
男「『悪』には下に心が付いてるじゃあないか。これが本当の下心って奴だね。うん、うん」
少女「…………」
男「僕に、そんな大層なものはないから。だからこれは、ただの事故だよ」
少女「『言』という感じに目はないけど、目は口程に物を言う、という言葉があるわよ」
男「そういうことじゃあなくてさ、だからほらそれは……」
男「ああ、今から僕が何言っても、自分の言ったことの否定になっちゃうねこれ」
男「悔しいな。きっと僕が正しいはずなのに、馬鹿だから自分の考えてることが伝えられないや」
男「あれ? どこへ行ったのお嬢ちゃん? 幻みたいに消えちゃったよ」
男「初恋の子に似てたのに、残念だなぁ」
Q.嘘は好きですか?
男「差別的だな。韓国人は好きですかって聞くようなものだよそれは」
男「こういった質問で、嫌いって答える奴も、好きって答える奴も僕は大っ嫌いなんだ」
男「だってさ、世の中には色んな嘘があるんだよ。幸せな嘘だっていっぱいあるし、誰かのための嘘だってあるんだよ」
男「ああ、こんなに尖った言い方をしちゃあダメだ。またさっきのお嬢ちゃんに揚げ足を取られちゃうね」
男「でも、ま、あれだね。僕、嘘を吐けるほど賢い人間じゃあないからね」
男「別に幸せだから気にしてないけど。現状を恨めるほど、賢い人間でもないけど」
男「えっと、それで、僕は誰と話していたんだっけ? ああ、キミかな?」
金髪の男「…………」
男「違うか、喋れそうには見えないし」
男「ああ、だから僕はあんな女に金を使うなとも、あそこからは借りるなとも、下手に逃げようとしない方がいいとも言ったのに」
男「良い人からダメになっていくんだから、嫌な世の中だよ本当に」
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