モバP「キャスター和久井留美」 (50)

※アイドルマスターシンデレラガールズに登場する和久井留美のSSです

※本SSはフィクションであり、登場する人物、団体等は実在のものと一切関係ありません

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1388232461

――――――――――――事務所

留美「さて、そろそろ時間ね……出発しないと」

http://i.imgur.com/sVH0cnu.jpg
和久井留美(26)

P「和久井さん」

留美「Pくん? どうしたの?」

P「これからテレビ局ですよね? 僕もついていきます」

留美「あら、珍しいわね? 何かあったのかしら?」

P「いつも和久井さん一人で現場行ってたじゃないですか。僕も挨拶を兼ねて行っておこうと思いまして」

留美「それはありがたいお話だけど……他の娘は大丈夫なの?」

P「クリスマスライブも終わりましたし、今は時間が作れますので大丈夫です」

留美「ふうん……暇つぶしにはちょうどいいと?」

P「ち、違います! そんなつもりじゃ……」

留美「冗談よ。今まで寂しかったから意地悪言ってみたくなっただけ」

P「申し訳ないです……」

留美「もう……そんな顔しないの。それじゃあ、たまにはエスコートお願いできるかしら?」

P「は、はい」

――――――――――――車内

P「和久井さん」

留美「何かしら?」

P「どうですか? 調子は?」

留美「別に……体調はいつも万全よ」

P「あ、いや……そうでなくて、現場の方です。オンエア見る限りは滞り無いようですが」

留美「……」

P「……和久井さん?」

留美「……申し訳ないけど、少し静かにしてもらえる? 資料に集中したいの」

P「あ……す、すいません」

P(和久井さんには現在、夜の報道番組のキャスターをやってもらっている)

P(と言っても関東ローカルの小さなテレビ局だが)

P(最近はお笑い芸人や男性アイドルもニュース番組に出るような風潮があり、僕らの事務所にもキャスターとして声がかかった)

P(当初、局の方では川島さんを希望していたが、彼女は地方の情報番組のリポーターとしての仕事が多い)

P(また、深夜の報道番組であることから、食レポやロケを得意とする川島さんには少々荷が重い)

P(スケジュール的にもタイトであることから、僕の方で和久井さんを推薦してみた)

P(彼女の知識や立ち振舞いはお固い報道番組には合っていると踏んだからだ)

P(これが見事にハマった)

P(視聴者層から見てもバッチリだった。いつしか『深夜のオジサンたちのアイドル』とまで呼ばれるようになった)

P(しかし、僕には気になることがあった)

P(それは……)


留美「どうしたの? Pくん?」

P「へ?」

留美「局に着いたわよ?」

P「あっ……すみません」

留美「もう……しっかりなさい」

――――――――――――一時間後、廊下

留美「とりあえずメイクも終わったわね……あとはリハなんだけど」

留美「あら? あそこにいるのはPくんと……ディレクター?」



P「……ですから、それはいくらなんでも」

ディレクター(以下、D)「そこを何とか! お願いします!」

P「しかしですね……」

留美「Pくん?」

P「ああ、和久井さん。準備終わりました?」

留美「ええ……それよりどうかしたのかしら? 揉めてるようだったけど?」

P「実はDさんの方から、このスカートを履いて欲しいと言われまして……」

D「お願いします! その方が視聴率も上がると上の方からも……」

P「ですから、ウチの和久井はそのような売り方はしてなくてですね……」

留美「Pくん」

P「はい?」

留美「貸しなさい」

P「えっ?」

留美「……Dさん、このスカートでよろしいんですね?」

D「は、はいっ!」

留美「着替えてきますので少々お時間頂けますか?」

D「も、もちろんっ!」

留美「それでは、また後ほど」

P「…………」

――――――――――――控室

留美「よし。これでいいかしら? 変じゃない?」

P「……いえ……お似合いですよ」

留美「釈然としない、って顔してるわね?」

P「そりゃそうです。僕は和久井さんがキャスターをやるということで」

留美「Pくん」

P「はい」

留美「あなたが思っている以上に、この世の中には理不尽な事が横行しているわ」

P「しかし……」

留美「そりゃ、私だって出来ればこのような格好はしたくはないわ。色気で番組を見せるなんて下衆以外の何者でもない」

P「だったら……」

留美「でも、それが私達なの。それが視聴者のためになるのなら何でもやるわ」

P「……」

留美「私が昔、秘書をしていたことは知ってるわね」

P「はい」

留美「よく上司に付き従って、得意先の重役に会いに行くこともあった」

留美「その際には、短いスカートなんかもちろん、相手の好むストッキングまで合わせて履いていったこともあったわ」

留美「最初は嫌で仕方なかった。いやらしい目つきで見られていると思うとゾッとするわ」

留美「でも、それが会社の利益に繋がり、他の社員の為になるとわかれば苦でもなんでもない」

留美「まあ、余程信頼した上司でもない限りそんなことはしないけどね」

P「……」

留美「割り切りなさい。それがプロというものよ」

P「……」

留美「短気は損気。わかった?」

P「……はい」

留美「よろしい。それじゃあ、行きましょうか?」

――――――――――――スタジオ、本番中


P(和久井さんが言うことももっともだ……割らなきゃいけない)

P(でも……僕は……)


男性キャスター(以下、男)「それでは次のニュースです。和久井さん、お願いします」

留美「昨晩、○○区内で発生した、OL刺殺事件についての詳細です。警視庁では午後に会見を開き、現場や周辺の聴きこみを含め調査を進めていますが、依然、犯人に結びつく情報は得られていないと発表しました」

男「この事件に関してコメンテーターの元朝売新聞解説員のAさんにお聞きします。この事件どのようにご覧になりますか?」

解説員「この事件は恐らく被害者女性に何らかの感情を持った20~40代の男性の犯行ではないかと思われますね」

解説員「そして、アニメやゲーム、フィギュアなどの所謂サブカルチャーに傾倒する者かと」

男「その理由としては?」

解説員「現場から数百メートルほど離れた場所に、その専門店…オタクショップがありますね。現場はそういった人間が多く集うことから可能性としては高いでしょう」

男「なるほど」

解説員「そういった趣味の若者は現実と架空の区別がつかなくなっていますからね。被害女性を登場する女性キャラクターのように接しようとしたのでしょう。情けない話です」


P(それは極論だろう……)


留美「その件についてよろしいでしょうか?」

男「和久井さん、どうしました?」

留美「先ほど先生は具体的な犯人像と趣味嗜好までおっしゃられましたが、警察発表ではまだそのような詳細は伝えられておりません」

解説員「ええ、そうですね。しかし、これまでの傾向ではその可能性が高いと言うことです」

留美「それはあくまで推論の域を出ないと判断してよろしいのでしょうか? 断定するには材料が足りないかと思います」

解説員「……あのねえ、私はこれまで報道で30年以上務め上げてきたんだ。私の考えが誤りだとでも言うのかね?」

留美「そのつもりはありません。ただ、犯人像を絞り込むには材料が少なすぎます」

解説員「だから、そういう連中なら犯罪を犯しても不思議はないと言っているんだ」

留美「これまでの傾向がそうであったとはいえ、この事件に関してそれが用いられるかは疑問です」


解説員「不愉快だな、君は……案外、君のようなチャラチャラしたアイドルを崇拝するファンの犯行かもしれないな」

留美「私がチャラチャラしているかについては個人の主観ですので否定はいたしません。しかし、ファンが犯行を犯したような発言については、さらなる説明を求めます」

解説員「似たような人種だろう? まあ、可能性だが」

留美「可能性だけで断定はできません。ましてや、報道番組での発言としては適さないと思われます」

解説員「その可能性の数値も高いと思われるがね」

留美「だとしたら、現在収監されている犯罪者の多くには新聞の読者も多いかと思われます。その母数は私のファンの比ではないです」

解説員「君は私をバカにするのか!!」

留美「あくまで可能性の数値の問題です。これについては不適切な発言であることを謝ります」

解説員「くだらんっ! 私は帰るっ!!」

男「あ!……あ……そ、それでは一旦CMです!!」



P(これはマズいことになったぞ……)

――――――――――――終了後、控室

留美「…………はぁ」


ばたん


P「ただいま戻りました」

留美「Pくん……どうだった?」

P「現在、スタッフ会議が続いています」

留美「先生は?」

P「帰られたようです。よほど腹に据えかねたのか、連絡もつかない状態です」

留美「そう……」

P「あの解説員の人、どうやら局の上層部とも懇意にしているらしいので、対応は難しそうですね」

留美「Pくん……ごめん……」

P「今は謝る必要ないですよ。問題はこれからです」

留美「……駄目ね……私。君に大口をたたいておきながらこのザマよ……」

P「……」


こんこん


P「どうぞ」

ちひろ「失礼しますー」

留美「……ちひろさん? どうしてここへ?」

P「僕が呼んだんですよ。じゃあ、ちひろさん、後は頼みましたよ」

ちひろ「わかりました……それじゃあ、留美さん、帰りましょうか?」

留美「帰る? どうして?! 私はまだ何もしてないのよ? 責任くらいは取らせてよ!!」

P「今のままでは難しいですよ。それに、謝るって和久井さんは自分の発言が間違いだと認めるんですか?」

留美「それは……」

P「ここは僕に預けてください。今はちひろさんと事務所で待機をお願いします」

留美「Pくんは……どうするの?」

P「僕ですか? これから局のスタッフと対応を協議します」

P「僕は和久井さんを監督する責任者ですからね。責任者は責任を取るためにいますから」

留美「そんな……」

P「今日のところはちひろさんとお茶でも飲んで、一度クールダウンしてください。これは僕からの指示です」

留美「……わかったわ」

P「じゃあ、ちひろさん。お願いします」

ちひろ「はい!……」

P「何ですか? その手は?」

ちひろ「お茶代。もらってませんよ?」

P「ちゃっかりしてるなぁ……あれ? 小銭ないや。五千円札しか……」


ばっ


P「あっ!」

ちひろ「毎度ありがとうございますー。さあ、行きましょう。留美さん」



P(強引に取られてしまった……まあ、いい)

P(それよりもこれからだな……)

――――――――――――深夜、バー

留美「ふぅ……」


留美(何をしているのかしら……わたし……)

留美(Pくんにあれだけ大見得を切って、あんなことやってしまうなんて……)

留美(プロ失格ね……)


からん


バーテン「いらっしゃいませ」

???「ここよろしいかしら?」

留美「どうぞ……って、礼子さん?」

礼子「あら? 珍しいわね。一人で飲んでるなんて」

http://i.imgur.com/CbkLrnb.jpg
高橋礼子(31)

留美「……」

礼子「聞いたわよ。派手にやったみたいね」

留美「……マスター、お勘定」

礼子「まあ、待ちなさいな。私を一人にする気? たまには付き合いなさい」

留美「……長居する気はありませんよ」

礼子「別にいいわ。イケメンのお客が来るまで話し相手になって」

留美「……」

礼子「一人反省会中?」

留美「……ほっといてください」

礼子「あの後、どうなったの?」

留美「しばらく謹慎です……番組では休暇という風に言うようですが」

礼子「じゃあ、いい機会ね。しばらく羽根でも休めたら?」

留美「休暇と言っても、クビも同然です。あの方は局の社長の知人だったようで……」

礼子「あらまあ」

留美「私の代理は局の女子アナがやってくれますが、復帰は難しいと思います」

礼子「そうねぇ……社長に泥塗った上に、若いピチピチした女子アナが相手じゃ無理かもね」

留美「……からかいに来たんですか?」

礼子「まさか。客観的に見ての感想よ」

留美「……」

礼子「Pは?」

留美「まだ局との交渉をやってくれてますが……どうにもならないでしょう」

礼子「諦めちゃうんだ?」

留美「客観的に見ての感想です」

礼子「あっそ……」

礼子「ねえ、Pのこと……どう思ってるの?」

留美「どうって……仕事の上のパートナーです」

礼子「プライベートな感情としては?」

留美「彼は年下ですよ?」

礼子「別にいいじゃない。年下と付き合うなんて今どき珍しくもないわ」

留美「ありませんよ……今は」

礼子「まあ、確かに彼はドジで抜けてて頭が悪くてエロくて貧乏で……」

留美「……」

礼子「……本当にどうしようもないわね」

留美「礼子さん……」

礼子「でも、純粋で一生懸命よ」

留美「それは……わかります」

礼子「留美は真面目なのよ。責任を抱えすぎなの」

留美「……いけませんか?」

礼子「あなたが背負い込んでるもの……彼にも持ってもらったらどうなの? 彼はあなたを気にかけてなかった?」

留美「……」



P『どうですか? 調子は?』

P『あ、いや……そうでなくて、現場の方です。オンエア見る限りは滞り無いようですが』


留美(正直な話……不安はあった)

留美(解説員とは考え方が違いすぎて、やっていけるかわからなかった)

留美(それをもっと早く話していたら……違っていたかもしれない)

礼子「彼は何もないつまんない男だけど、少しだけ他の男よりいいと思えるところがあるわ」

留美「……それは?」

礼子「彼は私達アイドルを常に考えていてくれる。私達がもっと輝けるようにいつも行動している」

留美「……」

礼子「あなたは彼のことをどれだけ信じてるの?」

留美「…………」

礼子「……さてと、お姉さんはイケメンでも探して飲みに行ってきましょうかね」

礼子「マスター、お勘定お願い」

留美「……礼子さん」

礼子「なあに?」

留美「ここは私が払っておきます」

礼子「あら、そう? じゃあ、お願いしちゃおうかな~」

留美「お礼は言いません。まだ……私も確信できないので」

礼子「ふふっ♪ せいぜい悩みなさいな……じゃあね~」



留美(彼を信じる……か)

――――――――――――一週間後、TV局控室

P「よかったですね。復帰出来て」

留美「……どうして? 一体何があったの?」

P「ひとつは局にすごい数のクレームが来たそうですよ。『何故、和久井留美を降板させるんだ!』って」

P「まあ、後任の局アナがカミカミで酷かったのもありますが」

P「これまでの留美さんの働きが視聴者に伝わってたんでしょうね」

留美「……そう」

P「あと、例の解説員は番組を降りました」

留美「え?」

P「例の事件、犯人が捕まったようですがアニメやゲームとは全く無縁だったそうです」

留美「……」

P「しかも、現役の朝売新聞の記者だったらしく、動機のない通り魔的な犯行だとか」

留美「朝売って……あの解説員の?」

P「これに関しても視聴者からのクレームが多くて、いたたまれなくなったんでしょうね」

留美「……」

P「さあ、そろそろ本番です。笑顔で行きましょうか!」

留美「Pくん、これは報道なのよ。そんなヘラヘラしながらできると思って?」

P「でも、視聴者は和久井さんの笑顔見たいと思いますよ?」

留美「失礼ね。それは、私がいつも仏頂面だって言ってるの?」

P「ち、違いますよ!」

留美「行ってくるわ。最後まで見ててくれるんでしょう?」

P「もちろんです」

留美「そう……ありがとう」


ばたん


P(うーむ……)

――――――――――――本番中、スタジオ

留美「本日の主なニュースは以上です」

男「それでは、最後に視聴者から送られたある動画をご覧頂きましょう」


留美(?? そんなの打ち合わせになかったけど??)


男「こちらは生まれたばかりの子猫の映像ですが、それを育てているのはなんと雌犬です」

男「我先にとお乳を吸う姿はなんとも微笑ましいですね」



http://i.imgur.com/dWaODH2.jpg
子猫(イメージ)



留美(か……かっ……)

留美(可愛いっ!!)

留美(なにこれなにこれ! きゃああああ! ふにふにしたいいい!!)

男「和久井さんは猫はお好きですよね?」

留美「え?……ええ、まあ……どうしてそれを?」

男「VTRに夢中で気づかれてなかったようですが、和久井さんの微笑みがワイプで抜かれてたんですよ」

留美「えっ!!……そんな……」


留美(まさか!!………Pくんの仕業ね……)


男「いやあ、非常に素敵な笑顔でした。それでは今日はこのへんで失礼します」

留美「し、失礼しました……」

――――――――――――控室

留美「Pくん! ひどいじゃない!! だまし討ちみたいなことして!!」

P「す、すいませんっ! でも、どうしても和久井さんの笑顔を皆に見せてあげたかったんです」

P「それで、Dさんにお願いして明日紹介するVTRを回してもらったんです」

留美「……」


こんこん


留美「……どうぞ」

D「いやあ、和久井さん!! ほんっとうにありがとうございます!」

留美「えっ?」

D「例の動画での笑顔、反響すごいですよ!! 視聴者からこれからも和久井さんの笑顔を見せろってメールが殺到してます!!」

留美「……」

D「ツイッターでも大評判だし、上層部もスポンサーも大喜びですよ!!」

留美「は、はぁ……」

D「これからも、お願いしますね!! それじゃあ!!」


ばたん

留美「……」

P「ね? 言ったとおりでしょ?」

留美「こ、こんなの……認めませんっ!!」

P「ううぅ……ダメか……」

留美「…………Pくん」

P「はい?」

留美「あなた……」

P「?」



留美「ストッキングの好みは何かしら?」




おわり

※これで終わりです。読んでくださってありがとうございました。
和久井さんがキャスターという架空の設定で申し訳ないですが、和久井さん好きの方に喜んでもらえたら幸いです

留美『私はプロよ、どんな内容でもスマートにこなしてみせる(キリッ』

VTR後…

るーみん『子猫達の可愛さには勝てなかったわ…(ニヘェ』

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