女「だって、君はボクの友達だろう?」(462)

女「それじゃあ、帰ろうか」

男「……あのなあ」

女「ん? なんだい」

男「なんでいるんだ?」

女「君が起きるのを待っていたのさ」

男「勝手に帰れよ……ふわぁ……もう夕方か」

女「うん、太陽も沈みかけてる」

男「だいぶ寝てたみたいだな……」

女「部活でもないのに、放課後に残っているのはボク達ぐらいかもね」

男「そうだな」

女「ふふ、気を取り直して帰ろうか」

男「あくまで一緒に帰るのか?」

女「うん、嫌かい?」

男「別にそうじゃないんだが、先に帰ってても良かったんだぞ?」

女「ふふ、そうもいかないよ。君はここ最近お疲れ気味だったからね。眠くなるのも当然さ」

男「確かに、文化祭の企画、未だにできてないんだよなぁ」

女「手伝おうか?」

男「いや、いい」

女「そうか、残念だ」

男「手伝いたいのか?」

女「もちろん」

男「ほぼ雑用だぞ、こんなの進んでやるのは……」

女「変かい?」

男「んー、ドMに近い印象だな」

女「なんだ、それならボクはうってつけじゃないか」

男「……お前、ドMなのか!?」

女「ああ、そして痴女だ」

男「おお……あっさり暴露したな」

女「痴女と行っても、触ると言うよりは見せる、方だけど」

男「聞きたくない情報だった」

女「だからクラスの女の子と同じくらいスカートが短い」

男「そういうことだったのか……」

女「今日は下に何も穿いていない」

男「えっ」

女「嘘、だけどね」

男「嘘かよ……」

女「期待しちゃった?」

男「しないけどな」

女「見ないとわからないよ?」

男「見せるなよ、放課後のこんな時間に変なことをするな」

女「んー、盛り上がってきたね」

男「きてねえよ」

男「んじゃ、先に帰ってていいぞ?」

女「おや、どうしてだい?」

男「俺はあと少しだけ企画考えてから帰るから」

女「ふむ、そうか」

男「……」

女「……」

男「なんで改めて席に座るんだ?」

女「待ってるからさ」

男「あのなあ……」

女「君は色んな顔をして面白いね」

男「……バカにしてんのか?」

女「そうじゃないよ、とても素敵だって、言ってるのさ」

男「……はぁ、お前いると集中できないんだけどなあ」

女「ボクのことは、何もないと考えてくれてもいいよ」

男「本気で無視するぞ?」

女「うん、構わないよ。その代わりここで脱ぎ始めるけど」

男「いや、無視できるはずがねえだろ」

男「はぁ……あのさ」

女「なにか、問題が?」

男「……どうして俺のこと、待つんだ?」

女「そんなこと、決まってるじゃないか」

男「……なんだよ?」

女「言わなくてもわかると思うけれど」

男「言わんとわからんだろ」

女「じゃあ、言うよ」

男「ああ」

女「君の、友達だからさ」

彼女は、満面の笑みでそう言った。

……友達ねえ。

男「友達って言っても、俺がつるんでるおとこどもはみんな帰っちまったぞ?」

女「彼らよりも友達なのさ。体ごとつるんでるからね」

言い方おかしいな。

男「お前とは体ごとではないと思うが」

女「おや、違ったかい? あの日、ボクと君は過ちを犯してしまったではないか」

なぜ目を潤ませる。

男「おかしなことはしてないと思うが?」

女「犯し……?」

男「字が違う!」

女「そうか、君が一方的に犯し……」

男「話を続けるな」

こんがらがるだろう。

女「ボクも、抵抗することはできなかった……」

男「あー……そろそろ戻ってきてください」

女「いや、しなかった、痴女だから」

男「しなかったのかよ!」

思わずツッコんじまったじゃねえか。

男「いちいち話を紛らわせるな!」

女「いやいや、ついついやってしまうんだ」

反省をしているように、頭を掻いた。

女「……んっ?」

男「ど、どうした?」

女「ついつい、ヤってしまった?」

男「いや、それは俺言ってねえぞ!?」

だいたいこんな感じで、時が過ぎていく。

あっという間に外は暗くなり、部活の喧騒も、少しずつ小さくなっていく。

男「け、結局全然進められなかった……」

女「それは大変だ。文化祭に支障をきたしてしまう」

誰のせいだ、誰の。

女「それじゃあ、ボクが人肌脱ごうか?」

そう言って、彼女は静かにブラウスの一番上のボタンを外す。

男「そっちかよ!」

彼女はゆっくりと、第二のボタンに手を移動させていた。

男「痴女になるぞ!」

女「痴女だが?」

そうでした。

男「と、とりあえずやめろ! 先生の巡回でこんなところ見られたら……」

女「襲われてしまうかもしれないね」

誤解されるんだ。

ふふっ、と彼女は軽く笑って、

女「驚いた顔、とっても危機迫る感じがあっていいね」

男「そりゃな……」

いきなり同じクラスのおんなが、目の前でボタンを外し始めたら。

それはそれは驚く、困る、怖い。

周りの目が、怖い。良かった、放課後で。

男「とりあえず俺は帰るぞ。お前も帰るなら、教室出ろよ」

女「酷いなあ。一緒に帰るっていうのに」

男「家そんなに近くないだろ」

女「同じ方向じゃないか」

まあ、そうだけども。

女「ふふ、ボクみたいな痴女と、一緒に帰りたくないかい?」

男「逆にお前が一人で帰って露出しないか心配だ」

女「おや、ボクを心配してくれてるのかな?」

俺がバッグに荷物を入れていると、彼女は椅子から立ち上がり、スカートのしわを伸ばした。

女「安心してくれ、君以外には見せないから」

男「なんだよそれ」

痴女じゃないじゃないか。

それは嬉しい。いや、見せないことではなく。

俺以外に見せないことが嬉しいわけではない。

断じて。

女「言い方を変えると、限定痴女、かな?」

彼女はキメ顔をして、こちらを見た。

俺は、何も言えなかった。

女「ははは、ここはお世辞でも『今からその限定のモノを見せてもらう』って言ってくれなきゃ」

お世辞でも言えない。

女「そうか、胸が大きくないと、嫌か」

そう言って、胸を隠すような仕草をする。

女「これから育ち盛りだから、もうしばらくの辛抱を」

男「辛抱って……」

女「もうしばらくの待望を」

男「待ち望んでねえよ!」

どんだけ俺はお前の成長に期待してるんだよ。

女「もうしばらくの存亡を」

男「全然意味違うじゃねえか」

成長するか、しないかみたいに使うな。

女「確かに、ボクは胸も……ミニマムだし、お尻も大きくない。身長も、あまり高くない」

男「そういうの好きな人もいるんじゃねえか?」

女「君は好き?」

男「……んー」

胸はでかい方が好きだし、尻もちょっとは大きい方がいいと思う。

女「微妙な反応だね」

男「いや、人それぞれだと思うぞ」

女「うん、それはそうだと思う。ボクも、大きな胸と、大きなお尻は大好きだ」

もちろん女の子のだけどね。

と、付け加えた。

男「レズ?」

女「ふふっ、それはどうでしょう」

ぼかすな。

女「ふふっ、だいぶ長い間、お話をしてしまったね」

男「えっ?」

腕時計を見てみる。

男「! もうこんな時間なのか!?」

女「疲れたからホテルにでも行こうか? もちろんラブだが」

男「んな冗談に付き合ってる暇はねえ、さっさと出るぞ」

女「ああ、わかった」

先生に怒られつつ、教室の鍵を返した。

女「ふふ、怒られてしまったね」

男「誰のせいだ、誰の」

女「君が企画を考える、と言ったんじゃないか」

男「お、俺のせいなのか?」

女「君の責任だよ。……責任、取ってくれるかい?」

なんのだ。

男「自己責任だ」

女「なるほど、自慰か」

職員室の前で堂々と言うな。

男「帰るぞ」

女「ああ」

まったく、困った奴だ。

女「やっと帰れるね」

そう言うなら先に帰ればよかったのに。

女「ああ、これは皮肉じゃないよ。勘違いしないでくれ」

男「そうかい」

女「おや、機嫌を損ねてしまったかな?」

別に。

そんなことで損ねるようなこどもじゃない。

まあ、とりあえず黙っておくか。

女「ふむ、これは困ったな」

顎に手をあてて考えているようだ。

そして、彼女は考えた結果、次の行動に移った。

女「よしよし、機嫌直してね」

背伸びをして、頭を撫でてきた。

男「俺はこどもか!」

居ても立ってもいられなくなり、つい叫んでしまう。

女「まだまだこどもだよ」

男「ああ、それならお前は赤ちゃんだな」

女「赤ちゃんプレイがお好みかい?」

男「ちげえよ!」

身長とか、そういうの鑑みてだ。

女「それにしても、大きいね、君」

男「下を見て言うな」

勘違いされるだろ。

女「届かないよ……喉奥まで」

男「明らかに誤解されるな、それ」

女「でも、何センチくらいだい?」

背伸びをして、頭に触れようとする。

女「おっと」

体勢を崩して、俺にもたれかかってきた。

女「あはは、ごめん」

少し顔を赤くして、微笑んだ。

何やってんだ、こいつは。

女「ふむ、汗ですこししめってるね」

男「離れろ、暑苦しい!」

女「ふふっ、ちょっと発情してるから暑苦しいかもね」

発情中かよ。

女「君には勝てそうにないなぁ、身長」

ここから俺を越したら流石に引く。

女「何を食べれば、そんなに大きくなるんだい? おかずは?」

下を見るな。おかずってどういう意味だ。

男「おかずは色々だ」

女「へえ、巨乳は?」

男「基本的には、やっぱり牛乳かな」

女「タンパク質を分泌してるんだ、タンパク質を摂ったほうがいいんじゃないかな?」

話が噛み合ってねえ!

ドッジボールみたいだ!

男「あのなあ、いちいち下品にするなよ」

女「そうだね、おタンパク質をもっと……」

『お』をつければいいってもんじゃないけどな。

男「そういうことじゃねえよ」

女「うむ、それよりも一番驚いたのは巨乳より牛乳ということだ」

男「いや、そのおかずじゃねえからな!?」

女「『その』おかずって?」

ニヤリと笑って、彼女は顔を近づけてきた。

しまった。

女「どんなおかずだい? ボクに教えてくれないかな」

男「変な考えをおこすな」

トンッ、と軽く頭に手刀。

女「うっ……」

ボケーッとした顔をして、直立不動に。

男「何してんだ」

女「俗にいう、賢者タイムを体感してみた」

なんか嫌な予感はしてたんだ。

女「賢者タイムって、どんな気分なんだい? どうして、賢者になるんだい?」

男「お前はエジソンか!」

知りたがりめ!

女「そうだ、ボクは初めて電気を開発した自家発電大好きな、エジソンさ!」

自家発電は違うだろ!

女「そういえば、男の子も自家発電をするらしいね」

関連付けて話が広がっていく!

男「あー! もうこの話なーし!」

女「途中で止めたら不完全燃焼になってしまわないかい?」

男「しねえよ、こういう話は終わりが見えねえから」

女「君もよく、教室で話をしているじゃないか」

……聞こえてるのか!?

女「今日はクラスの女子を見て品定めをしていたようにも見えたけれど」

男「ああ……」

やべえ、筒抜けだ。

女「君はその時、胸の大きい人がいい、と言っていたね」

知ってたのかよ!

ならなんでさっき質問したんだよ!

女「みんなも賛同しているようだったし」

男「いや……えっと……」

やばい、なんだこれ。

めちゃくちゃ恥ずかしい。

身内でがやがや笑って話してるのに。

すげえ恥ずかしい。

女「……だから、ボクとこういう話をするのも、別に構わないんじゃないかな?」

男「な、なんでだよ……」

女「ボクは友達だからさ、そうだろう?」

下を向いた俺を、覗きこむように伺っている。

女「ふふっ、顔が真っ赤だよ。熱でもあるのかな?」

ごめんなさい、少しだけ席を外します。

この時間の離席は怖いのですが……すいません。

男「あー……お前は本当にずるいな」

女「ずるい? バイバイありがとうさようなら?」

ネタが古い。

男「上手く誘導するのが、ずるい」

女「誘導なんてしてないよ。ボクはただ、君とありのままに話がしたいのさ」

にっこりと笑ったように思えたが、顔が見えないのでわからなかった。

あたりが、もう本当に暗い。

女「真っ暗だね」

男「ああ、そうだな」

照明のない道を、歩いて行く。

暗ければ、少しずつ目も慣れてくるだろうから、それまでの辛抱だ。

女「ふふっ、何も見えないと、都合がいいね」

男「どういう意味だよ」

女「実は、既にボクはブラウスを脱いだ」

男「は!?」

女「爽快感とは正にこのことだね」

男「お前マジか!?」

女「おっと、こちらを見ないでくれ、ボクが痴女だとはっきりとわかってしまうからね」

嘘だな。

きっと、嘘だ。

いつものことのように、冗談だろう。

男「ったく、流石にそんなことできないだろう」

女「ふふっ、そうだね」

そう言って。

彼女は俺の手を持って、彼女の体を触らせた。

男「……」

ぬ、脱いでね?

男「ちょ、ちょっと待て、どういうことだ!?」

女「どういうことって、こういうことだろう?」

この感触は、生身の体……?

ブラウスの感触じゃない。

まさか、本当に……?

確認しないと、やばい。

主に、隣を歩いている俺は、やばい。

しかも触ってるし、やばい!!

チラッと横目で見る。

しかし、こちらを見てニッコリと笑う、やつの顔が一瞬見えた。

まずい、監視されてる。

女「ふふっ、手が汗ばんできたよ」

そりゃそうだ。

色んな気持ちがぐるぐると体の中をかき乱していく。

男「お前、何やってんだよ」

女「ふふっ、ナニも?」

言い方おかしいって。

女「このゾクゾクする感じ、とても最高だね」

男「……」

もう、我慢できん。

俺のためにも、こいつのためにも。

男「おい、いいかげんにしろよ!」

俺は思い切って、彼女の方を向いた。

すると。

女「ふふっ、どうしたんだい?」

ブラウス姿の、彼女がいた。

女「……見つめられるなんて思わなかったよ」

男「お、お前……は、裸は……?」

女「ふふっ、引っかかったかい?」

どうやら、嘘だったようだ。

でも、肌の感触は……?

暗闇に慣れてきた目でよく見てみると、ブラウスがスカートからはみ出している。

まさか、そこに手を入れたのか?

女「とっても驚いているね。さっきとはまた、違う顔だ」

彼女は口の両端を軽くつりあげた。

男「お前なあ……」

女「あはは」

彼女は珍しく、すこし声をあげて笑った。

いつもは小さく一笑なのだが。

男「そういう、本気で騙そうとする冗談はやめろ」

女「怒ってるのかい?」

男「怒ってはいないけど」

それに、なんだろう。

男「……普通に、体とか触らせるなよな」

女「……ん」

彼女は、言葉を失った。

さらに、顔もいつもと違っている。

女「ああ、そうだね」

静かに、そうポツリと言った。

男「? どうした」

女「いや、なんでもないよ」

男「……?」

いつもの余裕が、なくなった?

女「こんな夜は、なんだか珍しいね」

男「ん?」

女「暗すぎて、ビックリだ」

確かに、今日はいつになく、暗い。

まだ真っ暗になるのには、ちょっと早すぎる時間。

女「何か過ちがありそうな予感だね」

男「ねえよ」

即答した。

そりゃもう、すぐに。

女「ボクはもうこんなになっているのに」

どうなってるんだ。

男「あのな、確かに周り何も見えないけど、あくまで外だからな?」

女「わかってるさ」

だからこそだよ、と。

堂々と宣言する。

女「青姦なんて、素晴らしいじゃないか」

何がだ。

女「二人の息が交じり合う、外の空気、そこから生まれる背徳感……」

ゾクゾクっと、体を震わせた。

女「考えただけで、ダメだ」

男「ああ、ダメだ」

相当ダメだ。

女「ボクのやってみたいことリストに入っているよ」

男「実にいや響きのリストだな」

他のは聞きたくない。

男「まあ、実現できるように頑張れ」

女「ふふっ、応援してくれるのかい?」

男「いや、しないけどな」

女「そう言うと思ったよ」

彼女はゆっくりと伸びをした。

女「ふぅ」

息をもらして、ニッコリと笑った。

女「君があの日、話しかけてきてくれなければ、こんな日も、なかったんだよね」

男「ああ、そうだな」

俺とこいつがこうやって話をするようになってのは、数ヶ月前のことだ。

女「あれが初めて、君の優しさに触れたところかな?」

男「なんか、その言い方照れるな」

女「君がボクの初めてを奪ったんだからね」

なんの初めてだ。

男「どんな成り行きだったか忘れちまったなぁ」

女「そうなのかい? それは残念だなぁ」

そう言って、彼女はすこし、顔をふくらませた。

女「ボクは、結構覚えてるのに」

男「そうなのか」

女「まあ、言わないけどね」

男「言わないのかよ」

言う流れじゃねえか。

女「ふふっ、あっという間に家だね」

男「ああ、本当だ」

女「今日は、一緒に帰ることができて、とっても楽しかったよ。また」

男「おう、また明日」

女「うん」

手を振って、別れた。

なんだか、濃い帰り道だったな……。

男「ただいま」

ポツーンと、声が響いた。

親は、まあ基本的には夜中まで仕事だしな。

妹は寝ちまったかな?

男「腹減ったな」

これならあいつと一緒に食えばよかったかな。

まあ、そうも言ってられないな。

しかし、何かあるだろうか。

今につながるドアを開ける。

ゴツっと、何かに当たった。

男「うおっ、なんだ?」

妹「……」

頭をぶつけたように見える、妹がいる。

男「おう、ただいま」

妹「……どこに行ってたの」

男「学校」

妹「なわけないじゃん、遅いじゃん、どう考えてもおかしいじゃん」

すげえご機嫌斜めだ。

妹「私何時に帰ってきたかわかる?」

男「は、はい」

妹「当てたら怒らないであげる」

男「おそらく4時間前くらい?」

妹「……」

あれ、合ってたか?

妹「合ってたけど不正解だよ!」

理不尽な!

男「いやまあ、俺も悪かったと思うよ? だけどそこまで怒らなくても」

妹「ご飯作っといたげたのにさ」

男「おお、お腹ペコペコだから食べさせてくれよ」

妹「はぁ!? 『あーん』とか絶対にしないからね!」

いや、頼んでない。

男「とりあえず、それはどこに?」

妹「ん」

顎で示すなよ。酷い扱いだ。

男「ありがとう」

妹はふいっ、とそっぽを向いた。

男「いただきます」

妹のやつは、怒りながらも、料理の出来を気にしているらしく、

妹「どうなの?」

と、聞いてきた。

男「ああ、美味しいよ」

すると、顔がにやけて、「でしょでしょ?」という顔になった。

妹「今日は自信あったからね」

男「なるほど、いつもがそんなでもないから今日は美味いのか」

妹「その言い方は酷いよ?」

男「わるいわるい」

結局妹は笑顔になった。

まだまだ子どもだな、こいつも。

料理は、俺以上だが。

妹「お兄ちゃんってさ」

男「ん?」

妹「クラスの女の子とは、どんな感じで話してんの?」

男「どんな感じって?」

妹「んー、ほらさ。私みたいな接し方とかしてない?」

男「こんなに愛でた接し方してないよ」

妹「は、はあ? バカじゃないの?」

凄く嫌な顔をして、引かれてしまった。

妹「冗談はさておき、どうなの?」

男「んー、別にあんまり変わらないかな。お前と」

妹「あー……そうなんだ」

男「?」

少し深刻そうな顔をして、俺の様子を窺っていた。

妹「それじゃあ、なんか彼女はできなさそうだね」

男「は?」

いきなり極論を言われた。

男「なんでそんなことになるんだ?」

妹「だって、それじゃあ平行線って感じだしさ」

男「……と、いうと?」

妹「だからさ、お兄ちゃんの付き合いは、ただの友達ってこと」

男「友達」

妹「うん、友達」

男「別にそれでいいじゃねえか」

悪いこと、あるのか?

妹「大問題だよ大問題」

大げさに、大きめにテーブルを叩かれた。くそ、ビビっちまった。

妹「好きな人ができても、そのままずっと平行線のままなんだよ?」

悲しくないの? と、強い瞳に気圧される。

男「……まあ、そりゃ困るだろうけど」

妹「だから、少しは改めるべきだよ」

男「改めるっつってもなぁ……」

妹「私が教えたげよっか?」

男「嫌だよ」

妹「なんでさー!」

男「妹に教わることなんかなにもないね!」

そう言って、ご飯を口に放り込む。

全部食べきって、俺は椅子から立ち上がった。

男「じゃあ、後片付け頼んだ!」

妹「あー! また私にさせるの!?」

さっきの笑顔はなくなり、一気にぷりぷりと怒った顔になった。

すいません、頭痛が酷くて書けそうにないです……。


朝に戻ってきます、では、また来ます。

新・保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 10分以内
02:00-04:00 20分以内
04:00-09:00 40分以内
09:00-16:00 15分以内
16:00-19:00 10分以内
19:00-00:00 5分以内

新・保守時間の目安 (平日用)
00:00-02:00 15分以内
02:00-04:00 25分以内
04:00-09:00 45分以内
09:00-16:00 25分以内
16:00-19:00 15分以内
19:00-00:00 5分以内

男「ふう」

ベッドに横たわって、今日のことを思い出す。

男「文化祭、どうしようかなぁ」

目を伏せて、すこし考える。

駄目だ、何も浮かばない。

男「やっぱり、みんなの意見を聞くのが最善かな」

一人の考えより、みんなの多数決の方が決まるのは早い。

男「……それよりも」

さっき、妹に言われた言葉が引っかかる。

男「別に、友達でもいいじゃねえか」

それのどこが悪いんだ。

しかし、あの妹の呆れた顔は、正直悔しかった。

男「……つってもなぁ」

いきなり態度変えることも、できねえし。

いつもは、みんなでワイワイするのが好きなわけで。

別に、好きだとか嫌いだとかは、どうでも良くて。

男「まあ、苦手なやつが苦手なんだが」

男「んー」

気にすること、ないか。

いつも通りにしておけば、別に。

今なにか支障がでてるわけじゃないし。

男「風呂入るかな」

妹は既にパジャマだったので、おそらく風呂はもう入っている。

さっさと入って寝よう。

次の日。

今朝は、放課後に寝ていたせいか、あまり眠くなく、起きるのは苦ではなかった。

ただ寝付きが悪かったのが、少し嫌なところだ。

男「……ん」

食卓に500円がある。

多分、昼食代だ。

男「飲み物代も込みで頼むぜ……」

ため息をつき、500円をポケットに入れる。

妹「おはよう」

男「おう、おはよう」

妹「ご飯、作っといたから。食べてね」

男「ほい、もう行くのか?」

妹「うん、日直だから」

男「了解」

妹「今日はしっかり帰ってきてね、あと、朝食の感想もよろしく」

小さな紙を俺に差し出して、妹は早々と家を出た。

毎回感想を書かせるのは、どうかと思うんだが。

男「うっし、俺も行くか」

既に制服に着替えていた俺は、朝食をすませて、外に出た。

ドアを開けて、他には誰もいないので鍵を閉める。

ツーロックなので、二つとも施錠。

自分でドアを閉めたことを指を差して確認していると。

「とても、用心深いんだね」

と、そんな声が聞こえた。

男「この声は……」

女「やあ」

平然と、俺の家の前に、彼女は立っていた。

女「さっき、君の家から女の子が走っていったが、もしかして、肉体友人かい?」

男「なんだその変な名詞は」

言いたいことはわかるんだが。

肉体……?

男「というか、どうしてここにいるんだ」

女「一緒に行こうかと思ってね」

男「おいおい、お前遠くなってるじゃねえか」

女「そういう考え方もあるかもしれないね」

他の考えがあるのか。

女「でも、君と会うには最高の近道だ」

回り道してんのに、近道か。

女「それに、君がボクの家を素通りする可能性も、あるからね」

男「誘って行くことなんてないからな」

女「確かに、いなかったら大変だね」

男「逆に、俺がいなかったらどうするつもりだったんだ?」

女「ふふっ、それはありえないから」

サラッと言い切られた。

女「君はいつもこの時間に登校しているからね」

男「なんで知ってんだよ」

女「君が教室に来る時間から逆算すれば簡単さ」

恐ろしい。

確かにこいつ、いっつも俺より先に来てるな。

それで、決まったようにニヤリと笑って「おはよう」と言ってくる。

男「とりあえず、行くんなら行くぞ」

女「ああ」

男「ふわぁぁ……」

女「眠そうだね」

男「いや、なんか気が緩んだ」

女「ボクに会ったからかい?」

男「そうなのかね」

女「ボクも、君に会ってからここがやけに締まってるんだ」

どこを指さしてるんだ。

女「やれやれ、といったところだね」

自分にやれやれと思う奴がこんなところにいたとは。

女「昨日は帰ってから、考えたのかい?」

男「ああ」

きっと文化祭のことだろう。

男「でも、まったく思いつかなかったな」

女「そうか」

珍しく、話が途切れた。

女「ふふっ、初めてというのは緊張するものだね」

男「初めて?」

女「下校は何度かあるけれど、一緒に登校するのは初めてだろう?」

男「ああ……確かに」

別に、あんまり変わらないと思うけど。

女「周りが明るいと、ついつい視線を気にしてしまう」

きょろきょろと周りを見渡して。

女「ボクの色んなところを、みんなが見てる……見られている」

男「自意識過剰すぎるぞ」

女「それくらいがちょうどいい」

いや、良くないだろ。

女「教室でも一番前の席だと、誰かが自分の後頭部を凝視しているかもしれない……」

男「あんまり考えねえけどな、そんなこと……」

女「ボクは君の後頭部をよく凝視することはあるけど」

お前かよ!

男「お前がしてるかよ」

女「だから、誰かがやっていてもおかしくないだろう?」

まあ、そう考えることもできるか。

女「ボクが自慰をしているのがいつバレるかとても怖いよ……」

お前は授業中になにをしてんだ!?

男「嘘をつくな」

女「君はボクの監視下にいるから、そんなことできないよね」

いや、しねえよ。

男「つか、なんで俺のこと見てんだよ」

女「友達の行動を見るのは、普通のことだろう?」

君は見ていて飽きないからね、と。

にっこりと笑った。

男「……俺はお前のこと見てないぞ」

女「見てくれたら、笑顔で応えるよ」

手も振っちゃうと、本当に手を振りながら言った。

男「怒られるのはお前だぞ」

女「怒られて職員室に連行はいやだね」

男「ならやるなよ」

女「ふふっ、怒られることより君に応える方が最優先だよ」

俺、だいぶ比重があるのか。

女「文化祭、今日も考えるのかい?」

男「いや、今日は放課後にささっとみんなに意見を聞くことにした」

女「それはいいね。君にしては名案だ」

俺にしては、だと?

男「まあ、俺が勝手に決めたら嫌なやつはいるだろうし」

女「ボクは構わないけどね」

男「お前が構わなくても、他は困るだろ?」

女「ボクは構ってしまうね」

男「……?」

女「君のことを、かまわないことなんてできないよ」

……意味が違うようだな。

女「さて、君との登校の時間もそろそろ終わりだね」

男「ああ」

学校が見えてきた。

話をしていると、すぐに終わってしまう。

女「文化祭、何になるか楽しみだね」

男「そうだな。色々と会議とかもあってだるいんだけどな」

女「委員になっただけでも、偉いよ。ボクはエロいだけだし」

言いたかっただけだろ、それ。

男「お前、準備とかは手伝うのか?」

女「君が頼むのなら、いいよ」

男「すげえ上から目線だな」

女「そうでもないよ、友達の頼みは、聞かなきゃ」

男「じゃあ、フォロー頼んだ」

女「フェラーね」

いや、無理があるだろ、それ

女「ボクはまだしたことがないから、下手なのは大目に見てくれ」

期待してねえし、させねえよ。

男「朝から絶好調だな」

女「ふふ、テクが凄いからね」

話術のテクか。

女「おや」

男「どうした?」

ある、一通の手紙が彼女の下駄箱に入っていた。

女「これは?」

男「そ、それはまさか……」

いわゆる、ラブレター?

男「それ、ラブレターだろ」

女「ラブ、レター?」

キョトンと、首を傾げた。

女「ラブホテルみたいなものか?」

男「なわけないだろ」

そんなの下駄箱に入ってたら恐ろしい。

女「……恋文?」

男「そう、そう」

なんか古い言い方だな。

女「えっ……ボクに?」

男「お前の下駄箱に入ってるんだからそうだろ」

女「そ、そうか……そうなんだね」

いきなり顔を赤くして、慌てふためいた。

女「でも、ボクなんかで、いいのかな……」

男「とりあえず、読んでみろよ」

女「ああ、その前に教室に行こう」

そうしないと、ゆっくり読めないからな。俺はさっさと了解した。

女「……」

机に座って、丁寧にラブレターを読んでいる。

男「誰からだ?」

女「学年が同じようだが、知らない人だね」

男「へー」

こいつ、わりと人気あるのか。

女「違うクラスの人が、どうしてボクに?」

男「知らねえよ」

女「こんなド淫乱雌豚野郎に?」

卑下しすぎだろ

男「それで、答えはどうしろって?」

女「屋上に来てくださいと書いてある」

男「屋上か、それっぽいな」

女「それっぽいって?」

男「告白する時とかって、屋上とか、校舎裏がセオリーだからな」

女「君は、告白されたことがあるのかい?」

なんでそんなに焦った感じなんだ。

男「されたことねーよ、悪かったな」

ホッと息を吐かれた。畜生。

俺に先越されるのは嫌か。

女「そうか……」

男「で、どうするんだ?」

女「うーん……」

唇に人差し指をあてて、思いふけっている。

女「ふふっ、どうするんだろうね」

他人事みたいに言うなよ。

男「なんだよ、それ」

女「ちょっと、顔が近いかな」

男「んっ……」

確かに、近くになっていた。

すこし、熱中してた。

女「危うく唇を奪うところだったよ」

奪われるんじゃなくて、奪うのかよ。

強引だな。

それにしても、あっさり受け流されちまった。

まあ気にすることはない。

こいつと付き合うやつの顔が見てみたいが。

放課後になればわかることだ。

女「さて、そろそろみんなが来るね」

男「そうだな」

ホームルーム手前に来る奴が多いので、まだ全然来ていない。

しかし、数分すると、一気に全員集合する。

俺はできるだけ、遅刻ギリギリは避けようと早めに来ているから、そんなことないけどな。

たまにノートをとったり、落書きしたり、寝たり。

問題を出されて焦ったりしていると、授業はあっという間に過ぎていった。

昼食は500円しっかり使って食べれるものを食べた。

珍しく、やつは食べている最中、あまり話さなかった。

やっぱり、ラブレターを気にしているらしい。

男「って、わけで、みんなに色々と意見出して欲しいんだけど……」

ホームルームに、時間をもらって、文化祭の出し物を決める。

たくさんの意見の結果、メイド喫茶になった。

しかし、メイド喫茶は他のクラスも何個かあった気がするんだが……参ったな。

やつはというと、終始そわそわしていた。

まあ、当然だろう。

やつを見ても、笑顔にならない、手も振らない。

早速嘘をつかれた。

男「それじゃあ、メイド喫茶でいいな。もしも通らなかったら、また今度決めるから、みんな協力頼んだ」

そう言って、ホームルームは終わった。

女「いい指揮だったよ。とてもスムーズに事が運んでいたね」

男「で、お前はいいのかよ、屋上行かねえのか?」

女「ああ、今から行くよ」

男「ついていってやろうか」

冗談で言ってみた。

女「ははは、いいよ」

きっぱりと断られて、

女「これは、ボクの問題だから」

男「あ……そうか」

女「だから、ボク一人で解決したい、かな」

なんだか、煮え切らない。

男「まあ、結果は教えてくれよ。今日は先に帰るぞ」

女「待っててくれてもいいんだよ、別に」

男「いや、いい。OKされたらそいつと一緒に帰れよ」

女「……そうか、そうなるんだね」

男「じゃあな、健闘を祈る」

女「はは、まるでボクが告白するみたいだね」

実際は逆だけど、な。

女「それじゃあ、また明日」

男「ああ」

そう言って、俺は教室を出た。

男「……」

気持ちが、変だ。

なんだか胸騒ぎがするというか、なんというか。

男「なんだよ、あいつ」

友達だって、言い張るくせに。

自分の問題は、自分一人で解決かよ。

なんか、納得いかねえな。

男「ただいま」

昨日とは違って、長く感じた帰り道だった。

黙々と帰ると、歩けど歩けどたどり着かないような気持ちになる。

妹「おかえり、今日は早かったんだね」

男「お前に会いたかったからさ」

妹「だったら昨日も早く帰ってきてよね」

軽く流されたが、まあいい。

妹「ん?」

男「なんだ?」

妹「お兄ちゃん、なんかあった?」

男「えっ、なにがだ?」

妹「なんか変な顔してる」

いつもだけど、と。

余計なことを付け加えてきた。

男「悪かったな」

妹「それはいいから、何かあったんなら言ってよ」

男「いや、ないよ」

妹「もしかして、朝食まずかった?」

男「そんなことなかったぞ、美味しかった」

妹「感想が『びみ』ってひらがなで書いてあるから、美味なのか微味なのかわかんなかったよ……」

男「それはお前を悩ませるために無理にそうしたんだ」

妹「なによそれ、不安になるからやめてよ」

男「不安なもんを食べさせるなよ」

妹「うっさいなー、作ってもらってるだけ感謝してよね」

まあ、確かに。

妹「……で、なにがあったの?」

男「あくまで聞いてくるんだな……」

妹「うん、教えてよ」

男「……えーっとだな」

そして、とりあえず今日あったことを話した。

やつが告白されたこと、文化祭の出し物がメイド喫茶に決まったこと……など。

妹「確実にお兄ちゃん、それって……」

男「お前に言及される気はない、話したから部屋に行くぞ」

妹「えー待ってよー!」

俺は無視して、階段を登った。

男「……」

あいつは携帯を持っていない。

だから、結果を今メールで聞くことはできない。

電話するほどでもないと思うし。

男「寝るか」

上手くいかない気持ちを抑えこんで、俺はまぶたを閉じた。

妹「寝るなー!」

男「!」

妹「晩御飯まだでしょ、それに制服のまま寝たらシワになっちゃう!」

男「お前……俺より年下なのにしっかりしてるな」

妹「ダメなお兄ちゃん持つとこうなるのよ!」

と言って、部屋を退出する間際に、

妹「あ、ちゃんとご飯食べて風呂入んなきゃダメだよ。気分もすっきりしないんだから」

男「……あー」

まるで母親みたいな妹だ。

男「……はぁ」

まあ、妹の言う通りかもしれない。

まだ残暑が残る日、ベタリとした体のままだと気持ちもジメジメしちまう。

どうやら、少し寝ていたようだ。

飯を食って、風呂に入ろう。

それでももやもやするなら、寝よう。

男「よいしょっと」

俺はのんびりとベッドから立った。

妹は俺の顔を窺いながら、飯を食べていたように思える。

「気にしなくてもいいぞ」と言ったが、聞いちゃいない。

妹「そんな顔されたら、気にしないなんてできないから」

そんな、大人みたいなことを言う。

なんか、情けない。

妹「お兄ちゃんにはいつも迷惑かけてるんだから、こういう時ぐらいね」

良い妹を持ったなあと、痛感する。

だが、気分は晴れない。

晴れるわけ、ない。

風呂の沈黙までもが、何かをせめたてるように感じた。

男「……」

ちゃぷんと、小さく波紋が広がる。

男「はぁ……」

汗のジメジメはなくなったのに、気分はスッキリしない。

男「なんなんだ、この気持ちは」

頭をくしゃくしゃと掻いた。びしょ濡れの髪の毛は、そのまま形を保っている。

男「……駄目だ」

呟いて、風呂を上がった。もう、寝よう。

目覚めは最悪だった。

いつになく、ベッドから起き上がれない。

男「あー……」

今日は休もうか、というくらいに体が重い。

男「つっても、そりゃ無理か」

変に学校を休んでちゃまずい。

ただでさえ、文化祭まで時間がありそうでないんだから。

男「ふぅ……」

一度、深呼吸をして、ゆっくりと上半身を起こした。

妹「おはよう」

男「おう、おはよう」

妹「お兄ちゃん、昨日は寝れなかったみたいだね」

男「ああ……」

小さく俺がそういうと、妹はニッコリと笑って、

妹「まあ、お兄ちゃんもそういう気持ち、味わった方がいいと思うよ」

男「どういうことだ?」

妹「なんでもなーい」

すこし無邪気に言葉を伸ばして、妹は食パンを頬張った。

男「まあ、それくらいに捉えてくれたほうがいいかもな」

腫れ物に触るような感じで接されると逆に困るというか。

男「いただきます」

妹「今日はお弁当作ってみました」

男「おお」

妹「さらに、今日は自信作なので不安じゃないです」

そりゃ珍しい。

妹「今珍しいと思わなかった?」

男「いいや、まったく」

心が読まれている気がした。

妹「よっし、それじゃあ先に行くね」

男「ん、今日は何かあるのか?」

妹「なにもないけど、早めに行ったらお得な気がするから」

得……するのか?

妹「じゃあ、いってきます」

男「ああ、行ってらっしゃい」

俺も用意された朝食を食べる。

妹のやつ、俺は味噌汁とかなのに自分は食パンなのか。

なんか、悪い気がするなぁ。

男「さて、と」

飯を食い終え、片付ける。

男「俺も行くか」

時計をみると、いつもより少し早い。

男「……」

さて、学校に行くか。

いつものように、鍵閉めの確認をする。

振り返っても、誰もいない。

男「当然、か」

何を期待していたんだ、俺は。

期待する必要なんて、ないだろう。

男「いってきます」

小さく、家に向かってひとりごち、学校に向かった。

いつもよりも早く着いた学校は、朝練の声がした。

昨日は聞こえなかったように思える。

それもこれも、話をしていたからかもしれない。

男「……早いな」

平均より、10分くらい早い。

男「こんなに雰囲気、変わるもんなんだな」

まったく違うところに来たみたいだ。

男「……んっ」

教室には、誰もいなかった。

男「鍵取りに行かねえと」

職員室に行こうと、方向転換したが。

その必要は無くなった。

女「やあ」

男「お、おう」

彼女が鍵を握りしめて、やってきた。

女は颯爽と鍵を解錠し、ドアを開けた。

女「どうぞ」

男「すまんな」

女「いつものことだから」

確かに、この前もそうだった。

「鍵取ってくるから、先に行っててくれ」と、ラブレターをいそいそとバッグに入れながら、職員室に行っていた。

男「……」

女「ふふ、入らないのかい?」

男「お前が先に入れよ」

女「そうか、わかった」

女「……」

男「……」

バッグを机に置いて、少し間があった。

俺もやつも、静かに何も言わない。

切り出そうにも、切り出しづらい。

女「文化祭はメイド喫茶に決まったけれど、やっぱりメイド服を着ることになるのかな」

と、ぽつりと俺に向けて彼女は口を開いた。

男「まあ、これから色々と話を決めていかないといけないから、まだわかんねえよ」

女「そうか。雑用か、料理がいいのだけれど」

男「料理? お前、料理できるのか?」

女「多少は、ね」

男「初耳だ。ビックリした」

女「ふふ、そういう話、しないからね」

いきなり変なネタに突入するせいでな。

男「……」

今なら、聞ける。

女「よいしょっと」

男「ん?」

バッグの中身が、やけに膨らんでいる。

男「なんか、持ってきたのか?」

女「あ、ああ……」

男「……」

女「お弁当をね」

男「弁当?」

女「うん、ちょっと多めに」

こいつの弁当は、あまり大きくなかったはず。

女の子が食べるような、小さめの弁当箱だ。

女「……まあ、そんなことは置いとこうよ」

置いとけるかよ。

男「なあ、昨日のことなんだけど」

俺は、思い切って、聞いた。

男「返事……どうしたんだ?」

女「……ふふ」

男「……」

女「OKしたよ」

男「……」

女「だからこその、弁当なんだから」

そう言って、大きいサイズの弁当箱と。

いつものやつの弁当箱を出した。

女「どれほど食べるかわからないから、とりあえず量は多めにしたんだ」

男「……」

女「どうしたんだい?」

男「いや、なんでもない」

なんでもない。

わけが、ない。

女「ふふ、顔が変だよ?」

ニコッと笑った。

その笑顔が、なんだか違う笑顔に見えた。

幸せのような、なんというか。

形容しがたい、何かに。

男「そ、そうか……そうだったのか……」

彼女は、告白されて、OKをした。

つまり、彼女には彼氏がいる。

そういうことになる。

女「だからと言って、ボクと君の関係が変わることはないだろう?」

男「えっ……」

女「ボクと君は友達なんだから」

『友達』。

そうだ、『友達』だ。

それ以上でも、それ以下でもない。

俺は、何を考えてたんだ。

バカみたいだ。

男「ああ、そうだな」

女「……」

にんまりと、彼女は笑っていた。

男「……じゃあ、そろそろ席に着くわ」

女「まだ、時間はあるよ、お話でもしようじゃないか」

男「いい。ちょっと、寝る」

女「今日はいつもより早かったからね、了解した」

机に突っ伏して、俺は目を閉じた。

このまま、目を開ければ何もなければいいと。

心から願った。

そんなことは、起きるはずもない。

男「……」

チャイムの音で、目が覚める。

今日も授業がはじまるのだ。

何も変わらず、何も起こらず。

ただ淡々と、時が流れていくのだ。

人の気持ちも知らないで、ゆっくりと、着実に。

止まればいいのに。

そのまま、ずっと流れなければいい。

男「……」

でも、何も変わらないのは嫌だ。

男「くそ」

小さく、声を漏らす。

男「くそ……」

そして、また机に突っ伏した。

先生に注意される。

静かに頭を上げて、軽い口調で詫びる。

ふいに、やつを見た。

なぜか俺の方を見ていて、笑顔で応えて、手を振ってきた。

俺はすぐに目をそらした。

なんだか、嫌だった。

男「なんでだよ」

変にかまうなよ、俺に。

付き合ってるやつがそうやって、絡んできたら。

こっちはどう反応すればいいか、わからないだろう。

男「……」

ノートに落書きをはじめる。

しかし、駄目だ。

何故か、文字ばかりを書いてしまう。

落書きすらできないくらいに、気分が良くなかった。

男「……」

勉強に身が入るわけがない。

ただでさえ、真面目にうけてないのに。

今の状態で受けられる奴なんて、相当破滅願望のあるやつだ。

破滅……?

なんで俺は、破滅したと思ってるんだ?

そんなこと、ないだろう。

勝手に気落ちして、勝手に複雑な気持ちになっているだけじゃねえか。

男「……馬鹿馬鹿しい」

自分に嫌気がさす。

この手の「はたから見ればどう見てもお互い好きあってる状態」に割り込んでくる奴は馬に蹴られて死ねばいいと思う

よく「もっと早く気持ちを伝えなかった男(女)が悪い」って言うけど、そんなの関係ないよね
二人で少しずつ時間をかけて気付いていくものだろうに

だいたい、俺はあいつのことをどう想っていたんだ?

男「別に」

どんな想いでも、ねえだろ。

ただ話かけてくるから、話をしていただけじゃねえか。

特別、何かを求めているわけでもない。

そうだろう、男。

男「……」

うんざりする。

そして、今日も今日とて、授業は終わっていく。

平然とした顔で、通りすぎていく。

男「……飯、食うか」

ふと、周りを見てしまう。

やつは、教室を出ていく途中だった。

男「……」

関係ないことだ。

これから、離れていく存在なんだから。

俺には、関係ない。

なのに。

どうして俺は。

あいつを追いかけているんだろう。

男「……」

やつは二つの弁当箱を持って、屋上に向かっているようだった。

どうして俺は、やつについていってるんだ。

バカだ、本当に。

悪あがきでもなんでもない。

自分を本当の絶望に沈めないと気がすまないみたいだ。

本当に、終わってやがる。

男「……やめるか」

そう口では言っているのに、歩みは止まらない。

止まる気配は、まったくない。

屋上への階段を、やつとだいぶ間をあけて、歩く。

やつが屋上のドアを開けて、入ったのを確認する。

もう、どう思われてもいい。

最悪なやつだと、

最低なやつだと、

絶好と言われても、構わない。

確かめたかった。

どんな結果になろうとも。

手が震える。

何を弱気になってるんだ。

終わらせようぜ、全部。

決心して、俺は勢い良くドアを開けた。

女「やっぱり、来てくれたんだね」

そこには。

満面の笑みをした、やつがいた。

男「……えっ」

女「ふふっ、驚いた?」

男「ど、どういうことだ?」

女「どうもこうも、こういうことだよ」

弁当を差し出して、彼女はハニカむ。

女「昨日弁当が無かったから、作ってきたんだ」

男「それ、彼氏のじゃ……」

女「あー……やっぱり本気で信じてたんだ」

良かった…馬に蹴られて死んじゃう不粋な奴はいなかったんや…!!

男「つ、つまり……」

嘘、だったのか?

女「ふふ、君を驚かせようとしたんだ。あんなにビックリした顔してたから、すこし、面白かったな」

男「な、なんだよそれ……」

俺は、こいつに騙されてたのか。

強ばっていた肩の力が、一気に抜ける。

女「でも、やっぱりやりすぎちゃったかな」

ああ……まったくだ。

男「俺はなぁ……」

女「はは、ごめんごめん」

手を合わせて、頭を下げてきた。

男「……」

女「いくらなんでも、友達にするには少し酷すぎることをした、謝ろう」

男「……友達じゃねえよ」

女「……え?」

彼女は戸惑った声をだす。

女「だって、君はボクの友達だろう?」

男「俺はお前のこと、友達として見てねえ」

俺は、

男「俺は、お前のことが、好きなんだから」

……!?

俺は今何を口走った?

自分で、いったいどんな馬鹿げたことを、漏らした?

女「えっ……ええっ……?」

顔を真っ赤にして、驚いている。

男「い、いや、なんでもない、今のは……」

『嘘だ』とは、言えない。

嘘でも冗談でもない。

正真正銘、俺の本音だ。

女「ボクのことが……好き?」

男「……ああ、もういい」

俺は頭を下げて、腹に力をグッと押し込んで、

男「お前が、大好きだ。変な口調も、変に下品なとこも、貧乳も、小さい尻も、短い髪も、全部含めて」

女「……」

自分の気持ちに嘘をつくことは、できそうになかった。

もう、どうなってもいいから。

女「……ふふっ」

彼女は笑って、

女「貧乳とか、ちょっと余計かな」

と、俺の頭を撫でた。

女「こんなボクでよかったら、これからも、よろしく」

頭を撫でながら、彼女は言った。

男「……それは」

女「うん、ボクは君のこと、君以上に大好きだよ」

男「……!」

俺が頭をあげた瞬間、彼女は俺に抱きついてきた。

女「ほらね、君を離したくないって、思ってるみたい」

我慢できず、俺も強く抱き返す。

女「うわっ……!」

驚いて、ビックリしている。

女「ふふふっ、君もボクを、離したくないのかい?」

男「離したくないに決まってんだろうが」

女「熱い言葉だね……嫌いじゃないよ」

むしろ大好きだよ、と。

涙を流して、笑った。

女「あ、あれ……?」

彼女は自分が涙を流していることに気づくと、とてもあたふたとしはじめた。

女「どうして、嬉しい時に、涙が出ちゃうんだろう」

男「……嬉しい、のか?」

女「うん、当たり前だよ。君と、両想いだったんだから」

ゴシゴシと、涙を拭いて、笑い直す。

女「ごめん、変な顔、しちゃってるかも」

そんなこと、ない。

男「いつもとなんか雰囲気違ってて、可愛いぞ」

女「か、可愛い!?」

ボッと顔を真っ赤にした。

女「そ、そんな、可愛いなんて、もったいないから、やめてよ」

男「彼女になるやつ以外に、逆に使いづらいと思うんだが」

女「そ、そうなのかな……」

顔をうつむかせて、彼女は一つ小さく咳払いをした。

女「……それじゃあ、ご飯、食べる?」

男「ああ」

女「……きっと、美味しいよ」

俺に弁当を渡して、

女「すっごく、気持ちが入っているからね」

男「なんか、お前の場合、変な気持ちが入ってそうだな」

女「うん、やましい気持ちと、いやらしい気持ちと、すさまじい気持ちが入ってます」

うわ、食いたくねえ。

女「もしかしたら、体の一部が入ってるかもね」

男「食う気を削ぐなよ……」

女「ふふっ、残さず食べてくれよ?」

男「もちろんだ」

一口食べただけで、こいつの料理は相当うまいことがわかる出来だった。

男「美味い、ごちそうさま」

女「やっぱり、男の子だね、全部食べ切っちゃうなんて」

男「そうか、これくらい普通だぞ」

女「じゃあ、もっといるかい? ボクは少しお腹いっぱいなんだけれど」

というよりは、気持ちがいっぱいになってる、と。

恥ずかしいことを言ってくる。

男「じゃあ、食べてやるよ、貸せ」

女「ううん、はい」

あーん。

男「……美味い」

女「そうか、それは良かった」

……どうしよう。

やべえくらい恥ずかしい。

女「ふー、全部食べちゃうなんて、凄いなあ」

男「……」

なんか、放心状態だ。

色んなことを体験しすぎたせいか、体が熱い。

女「これからも、作っていいかな?」

男「ああ、いいぞ」

いつもパンとかを買って食ってるからな。

それは凄く嬉しい。

……ん。

男「あっ!!!」

女「どうしたんだい、いきなり大きな声を出して」

男「……」

妹の弁当、忘れてた。

今日は自信作だって言ってたのに……。

これはやばいな、とりあえず、帰るまでに食うしかない……!

女「相当まずいことに気づいてしまったみたいだけど、ボクは力になれる?」

男「難しいかもな」

はぁ、どうしよう。

屋上を後にして、俺達は教室に戻った。

教室は何も変わらず、いつも通りだ。

そして、友人達に報告してみた結果、

「お前たち、まだ付き合ってなかったのか」

という言葉が返ってきた。

女「はは、なんだか、恥ずかしいね」

頭を掻きながら、彼女は照れくさそうに言った。

放課後。

男「なあ、女」

女「なんだい、男」

男「この大量の弁当はいつになったら、終わるんだろうな」

妹の弁当は、女の以上に量があった。

女が作ってくれた弁当と、女が残した弁当を食べた俺には、相当な、莫大な量だった。

男「し、死ぬ……」

女「死んだら、困るよ」

いや、冗談だから、今そんな真剣な顔しないでくれ。

結局、食い終わるのは、この前のような真っ暗な時間になってしまった。

男「また先生にこっぴどく叱られた……」

女「ふふっ、先生に渡す時にゲップを何度もするからね」

男「うるせー……」

でもまあ、食べれたのは正直びっくりした。

吐くこともなく、なんとかなったしな。

そして、二人で夜の道を歩いていると、

女「あ、そういえば」

口を開いたのは女。

女「まだキス、してないね」

ハッ!?まさかここから寝取られ!?

男「……するのか?」

確かに、俺も気にしていたけれど。

女「……君に、まかせようかな」

男「……」

俺にまかせる!?

ど、どうしよう。

初めてだから、どうすれば、わからない。

女「あ、でも」

彼女は離れて。

女「お弁当食べたばっかりだから、遠慮するね」

男「な!」

なんだよそれ!

女「ふふふっ」

俺のドキドキを返せ!

女「ボクに口移しするつもりかい?」

男「酷い言いようだな!」

なんか悲しくなってきた!

女「キスは、おあずけにしようよ」

男「ん、あ、ああ」

別に、俺も今すぐしたい、ってわけじゃないしな。

女「だから、さ」

ギュッと手を繋いで。

女「こうして、帰ろう」

男「……ああ」

彼女はニッコリしながら俺をみて、うんうんと頷いた。

月がとっても綺麗な、そんな日だった。


END

妹「おかえり、お兄ちゃん」

男「おう、遅くなった、悪い」

妹「いいよいいよ、それより今日のお弁当はどうだった? 美味しかったでしょ!」

男「……うぷっ」

妹「!?」

男「あ、ああ、美味かった……」

妹「……? そ、それなら良かった。それじゃあ晩御飯食べよ」

男「晩御飯……いらない」

妹「は、はあ!?」

男「俺、食ってきた……」

妹「……もー、なんなのよー!!」


というわかで、無事終えることができました。


以前もボクっ娘を書かせていただいたものです。
前のSSから大分時間が経過してしまいましたが、やはりボクっ娘、最高です。
久し振りという言葉をかけて下さった方も、たくさんいて嬉しかったです。

また機会があれば、どこかでお会いしましょう。



それにしても、500レスも残ってしまいましたね、すいません。
これから、出かける予定がありますので、もしも残っていたら何か書こうかと思います。

それでは、ここまで見てくださってありがとうございました。では。

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