雪歩「二人で歩んでいけたら」 (13)
見上げた夜空。
一面に広がる、煌めく星空。
まるでファンが照らしてくれるサイリウムの輝きの様な、
綺麗で幻想的な空。
たるき亭ビル屋上。
今日は12月24日、萩原雪歩の誕生日。
765プロ事務所にて、全員がささやかながら誕生会を開き、
雪歩のお祝いをしたのだった。
誕生会が終わった後、菊地真と雪歩の二人は屋上に上がり、寒いながらも二人きり、
クリスマスイヴという日でいつもと違う雰囲気の街を観ながら同じ時を過ごしていた。
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雪歩「真ちゃん、今日の夜空は一段と綺麗に見えるね」
真「うん、今日は本当に綺麗だ。雪歩の誕生日を空もお祝いしてるのかも」
雪歩「えっ、そ、そうかなぁ。そんな事ないよぅ」
真「だってさ、まるでステージの上でファンの皆がお祝いしてくれてるみたいじゃない!」
真は、強く両手を広げて雪歩に微笑みかけた。
夜空が本当に雪歩を祝福している事を信じて疑わない、そんな力強さで。
雪歩「ふふっ、凄いいっぱいのファン」
真「最近はみんなだんだんに忙しくなってきて、中々全員で集まれる事も少なくなっちゃったし、でも今日は雪歩の為に皆集まってくれた」
雪歩「そ、そうだよね…皆、仕事が大変なのに、私の為にこんなに素敵な誕生会開いてくれて、本当に嬉しい」
真「ボクも、久々にこうして皆で集まれた事が嬉しいよ。でも何より、皆で雪歩の誕生日を祝えた事が、心から嬉しいんだ」
雪歩「ありがとう真ちゃん、私も本当はね?皆、集まれないかなって思ってたんだ…」
雪歩は、少し切なげに真に言った。
でも本当は、真が、真一人が居れば、それで良かったと思っていた。
真に今日という日を祝って欲しい、一緒に、一緒に今日という時間を過ごしたい。そう思っていた。
真「でもさ、来年もこうして皆でお祝い出来るといいよね雪歩!」
雪歩「うん!…でも無理だったら、大丈夫だよ?」
真「ボクは絶対、スケジュールの調整するよ!雪歩の為だからね!」
雪歩「えへへ、その言葉だけで充分だよぉ」
真「あ、嘘だと思ってるでしょ!よーし!来年も絶対この日だけは仕事入れない様にするからね!」
雪歩「あっ、そんなつもりで言ったんじゃないよぉ、本当に無理だけはしないでね?」
真「大丈夫!期待してて!へへっ!」
真は、一点の曇りもない瞳で見つめ、雪歩に応えた。
この時間がいつまでも永遠に…続いて欲しい。
雪歩はそう願わずにはいられなかった。
変わらず綺麗に瞬く星空の下、静かに真は言った。
真「来年はさ、もっともっと仕事をプロデューサーに増やしてもらって、色んな事に挑戦して、色んな所に行きたいって思ってるんだ」
雪歩「うん…真ちゃんなら、きっと出来るよ」
真「雪歩は、もっと色んな仕事したいって思わない?」
雪歩「私は…そんなに真ちゃんみたいに、ダンスも歌も上手じゃないし…もっと色んな事に挑戦するなんて事、出来ないよ」
雪歩は、真っ直ぐに前を見つめ力強く進もうとする真に、置いて行かれてしまう、そんな感情を抱いた。
真が遠く、手の届かない所へ行ってしまう。
真だけではない、このままでは皆が自分の知らない世界へと行ってしまうんではないのか、そんな気さえしてしまった。
真「雪歩?」
表情の曇ってしまった雪歩に、真は心配そうに語りかける。
雪歩は、少し戸惑っている真に気付き慌てて、心配させまいと作り笑いをした。
雪歩「あ、ごめん、な、なんでもないよ、大丈夫」
雪歩は何とか自分を誤魔化して、この場を和ませようと必死に考えた。
でも、前に進めない自分の不甲斐なさと、真に置いて行かれてしまう恐怖でどうしても上手く笑えなかった。
そんな雪歩を見て、真は言う。
真「一緒に頑張ろう、雪歩」
雪歩「えっ…」
真「一緒に色んな仕事しよう!色んな所に行って、色んな物見てさ、色んな事感じて!きっと楽しい事もいっぱいあると思うんだ!」
雪歩は、堪えていた涙を抑える事が出来なかった。
自分の弱さ、脆さを大きく包み込んでくれる優しさ。
そんな真に想いをより一層募らせる。
夜空に流れる星の様に落ちる涙を、真は優しく拭った。
真「泣かないで雪歩、ごめん、何か心配させる様な事言っちゃったかな」
雪歩「んーん、私の方こそ、いきなり泣いたりしてごめんね」
真は、雪歩の目をじっと見つめて、言った。
真「雪歩は、本当に皆から愛される素敵な女性だとボクは思うんだ」
雪歩「ま、真ちゃん!?何言ってるの!?」
慌てふためく雪歩を余所に、真は続ける。
真「ちゃんと周りに気遣いが出来て、優しくて、そして本当は凄く心が強いって
ボクは思ってる!女性としてボクが見習う事が雪歩にはたくさんあるよ!」
その言葉を聞いた、雪歩はまた瞳が潤んでしまいそうになったが、頑張って堪えて言う。
雪歩「私なんて、男の人が相変わらずダメダメで、人前にも出るの苦手だし、ステージでも上手く喋れないし…皆に迷惑ばっかりかけてるし…」
真「ボクだって、そりゃ初対面の男の人には緊張して上手く話も出来ないし、ステージに立っても緊張でダンスや歌が上手く行かないこともあるよ、迷惑だっていっぱい掛けてるし」
雪歩「私は、真ちゃんが羨ましいよ、明るくて、格好良くて、輝いてて…そんな風になりたいよ」
真「ボクだって、雪歩のおしとやかで優しくて、透明感のある所に憧れてるよ。自信を持って、雪歩。ボクが保証するよ!…ボクの保証じゃ頼りないかもしれないけどね、へへっ」
雪歩「そんな事ないよ真ちゃん、ありがとう」
雪歩は、決意する。
この人とずっと一緒に居たい、失いたくない。
置いて行かれない様に、自分も変わろう、もっと頑張ろう。
そしてこの人の傍に居ても恥ずかしくない人間になろう。
今すぐには、変わる事は出来ないかもしれないけど、
少しずつでも前に進もう。
でも、この人と一緒に前に進みたい。
だから―――
真「いやー本当に寒いや!雪歩、そろそろ事務所に戻ろ?」
雪歩「うん」
真「雪歩、改めて!誕生日本当におめでとう!また来年もこうしてお祝いするからね絶対!」
だから…この想いを伝えたい。
真「でもプロデューサー、来年の仕事ちゃんと見えてるのかなぁ?ホワイトボードもそんなに埋まってないし、雰囲気もそんな感じじゃないし…」
この人と一緒に歩んでいく。
絶対離れたくない、だからこの気持ちを伝えるの。
今、一歩踏み出せなきゃ、この先も踏み出せない。
私は…真ちゃんを―――
雪歩「真ちゃん!」
真「ん?なあに?雪歩」
雪歩「真ちゃん…私、私ね、真ちゃんの事―――」
おしまい
短いですけど、雪歩誕SS。
誕生日おめでとう雪歩。
きっと二人でならどんな試練も乗り越えて行けると思う。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
またの機会にお目にかかれればと思います。
それでは。
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