側近「え?」
魔王「魔王は勇者に倒される」
魔王「これは先祖代々子々孫々、異界や創作においても当然の摂理」
魔王「だが」
側近「だが?」
魔王「ワシは死にとうない」
側近「えぇ~・・・」
魔王「当たり前ではないか! だれが好き好んで人生に終止符をうつというのか!」
側近「いやでも、魔王ともあろうものが死を恐れるというのも」
魔王「魔王とて一匹の魔物にすぎぬわ」
側近「それ部下たちに言っちゃだめですからね」
魔王「まぁそういうわけだ。どうすればワシは生き延びられるのか」
側近「うぅむ・・・ではとりあえず幹部会を開きましょうか」
~~~~~~
側近「今回の議題」
側近「魔王様が勇者に倒されないようにするにはどうすればいいか」
側近「魔王様いわく『ワシは死にとうない』」
幹部A「ないわ」
幹部B「ないわ~」
幹部C「この軍もうダメじゃね?」
魔王・側近「そこをなんとか」
幹部A「え~いやだって魔王って力の象徴でしょ?
勇者なんて真っ向から打ち破ってこその魔王じゃない?」
幹部B「まったくじゃなげかわしい
倒されることを恐れるのではなく倒すことを考えるべきではないのかのう」
幹部C「魔王様マジカッコワルイ~」
魔王「うるさいわ!」
側近「というわけで資料をご用意しました」
幹部「「「資料?」」」
側近「まず、歴代魔王様の死因統計を」
魔王「そんな統計あったのか」
側近「記録書庫をあさって手早く作ってみました
その結果」
『
歴代魔王(120代)死亡理由
第3位 「次代魔王に倒される」 1%
第2位 「老衰」 1.2%
第1位 「勇者に倒される」 98.8% 』
魔王・幹部「・・・・・・うわぁ」
幹部A「ん?」
幹部C「どした?」
幹部A「数おかしくね? 計101%になるんだが」
魔王「なんだ側近、ミスか?」
側近「ああいえ、勇者が魔王を倒したあと次代魔王になることがあったので」
魔王・幹部「・・・・・」
魔王「・・・・・・やっぱりあれだな、運命だな」
幹部C「いやいやいや、魔王たるものその運命を打ち破りましょうよ」
幹部A「ですよですよ、これまでがこんなんばっかだったからって・・・」
側近「あー、あと次の資料です」
幹部「「え?」」
『
勇者侵入時の魔王軍上層部死亡率
魔王 100%
側近 50%
四天王 100%
幹部 100% 』
幹部「「「・・・・・・・・・」」」
幹部C「今までお世話に
魔王「待てやゴラぁ!!!!」
魔王「ていうかなんで側近だけ2回に1回は生き残ってんの? ずるくない?」
幹部A「さすが側近、腹黒の鑑ね」
側近「いや、私のことではないのでそんな風にいわれてもこまります
寝返ったり隠れてたりした元側近たちがいただけです」
幹部B「ちなみに、今勇者が来たら?」
側近「隠れます」
魔王「さて、真剣に考えようか」
幹部「「「ですね(な)」」」
側近「冗談ですよ」
幹部C「そもそも勇者ってなんなんでしょうね?
魔王がいれば勇者が出てくるもんですが、どういう原理なんだか」
魔王「ふむ、勇者といってもいろいろあるが、神に選ばれた者やかつての勇者の血筋、
あるいは自力で魔王を倒す力を得た者といったところか」
幹部A「神ねえ・・・こそこそ裏から悪巧みするだけの裏方のくせに偉そうよね
自分で戦えばいいのに」
幹部C「否、神を裏方に追いやったのは初代魔王であろう。
本来は全ての魔物の力をもってしてもあらがえぬ力を持つという」
魔王「初代と神の戦いで大地が割れたらしいな。ワシには無理だ」
側近「そういうことを言わない」
幹部C「でもさでもさ、じゃあ神をさらに封じちゃえば勇者怖くないんじゃね?」
幹部A「たとえば?」
幹部C「えー、神殿壊したり教会壊したり?」
魔王「それでなにか変わるか?」
側近「どうでしょうねぇ。でも勇者は死んだら神殿で目覚めるといいます」
魔王「は?」
側近「はい?」
魔王「普通死んだら死ぬのではないか?」
側近「死んだら死にますけど、勇者は復活するんですよ」
魔王「それは本当に人間か?」
側近「さあ? 歴代魔王も何度も勇者は殺していますが、
何度でも復活して襲いかかってきたようです。魔王が死ぬまで」
魔王「なにそれこわい」
幹部B「それはきついのう、殺せるまで何度でも襲いかかってくる不死者とは」
幹部A「しかも勇者って戦うたびに強くなるんでしょ? どうしようもなくない?」
幹部C「オレ勇者なめてたわ」
魔王「そこまでの化物だったとは・・・
とりあえず神殿や教会を破壊すればそのリビングデッドは止まるのか?」
側近「さあ? それはわかりませんが、なにもしないよりはマシなのでは」
魔王「そうだな、とりあえず各地の魔物たちには教会や神殿を全力で壊すように連絡だ」
魔王「では次だが・・・神に選ばれる以外の勇者対策だな」
幹部B「勇者の血筋や、自力で到達するやつらか」
側近「それに壊した神殿跡などから神とのつながりを得る勇者もいるかもしれませんね
過去にはそういう勇者もいましたし」
幹部A「神殿壊したとき聖なるなんちゃらが残ったりしないようにしなきゃいけないわけね」
魔王「そのあたりもしっかりと実行連中には伝えておかねばか」
幹部C「それはいいけどよー、残りの血筋とか自力とかはどうしようもなくね?
人間の血族とかさっぱりだよ」
魔王「かつて勇者が出たあたりを徹底的に滅ぼせば良いのではないか?」
幹部B「それができればそもそも世界征服が完了しておるよ
それなりに人間の軍が抵抗してるのでなぁ、重要な場所はなかなか」
魔王「ふむ、側近。多少戦力を集中すればどうにかなるような該当場所はないのか?」
側近「少々お待ちを・・・・・・・・2代前の勇者が出た村などは守りは薄そうですね」
魔王「ではそこに手のあいている戦力を」
側近「御意」
魔王「他にも該当する場所があれば戦力をつぎ込むようにして・・・
次は自力で強くなったやつの場合か」
幹部C「ここまでくると勇者とか関係なくね?」
側近「いえ、強くなる過程で神の力や精霊の加護を得るので、
ただの人間とはいえないかと」
魔王「ある種の運命というやつか」
側近「人間の間では英雄譚として面白おかしく語られるものですが、
我々からすれば理不尽としか言いようの無い成長度合ですしね」
幹部B「神の力はさきほど話した神殿関係でよかろう。
となると残るは精霊か?」
幹部A「精霊ねーぶっちゃけ私見たことないんだけど」
魔王「安心しろ、ワシもだ」
側近「精霊といってもいろいろいるようですねぇ
神の使いたる大精霊は歴代の魔王様方が封印したりなんだりしてますね」
魔王「では別にほっといても良いのではないか?」
側近「勇者は封印されたものを解放するものですよ」
魔王「迷惑な・・・」
幹部C「んじゃ解放されないように気をつければいいんじゃ?」
幹部B「そうじゃのう、封印した場所などは分かっておるのか?」
側近「4大精霊のうち2つはわかってますが残りは不明です。
記録にある火と土の大精霊の封印も今はどうなっているか確認が必要ですね」
魔王「では迅速に確認を。
・・・他にも我らには危険でありながら情報がないものもありそうだな
側近、部下たちも使ってそういった情報の再確認をせよ」
側近「御意。少々席を離れます」
魔王「さて、側近が離れている間になにが話せるか・・・」
幹部C「あ、魔王様ー 前々からちょっと気になってたんですけど」
魔王「なんだ?」
幹部C「人間滅ぼしたいなら前線に強力な魔物置くべきなんじゃねーの?
人間の勢力圏周りってなんかスライムとかばっかじゃん
それなのに魔王城に近づくほど強力になってるしなんか無駄じゃね?」
魔王「あー、あれは結果的なものだ
強力な魔物を行かせると人間が全力で抵抗して強いのを狩るせいで、
すぐ近くではあんまり強いのは生き残れんのだ
いくら強くとも敵の本拠地近くでは数や補給力の差が酷いからな」
幹部C「あー・・・あいつら群れるとウザいもんなー」
幹部B「・・・・・・ふむ」
魔王「うむ? どうした幹部B」
幹部B「いや、さっきの話に戻るのじゃが」
魔王「さっきのとはどの話だ?」
幹部B「自力で強くなる勇者の話よ」
魔王「ああ、それが?」
幹部B「勇者がどうやって強くなるのか、というのを考えてみたのだが」
魔王「どうやって強くなるかだと?」
幹部B「うむ、人間というのは弱いものじゃ。しかし勇者は理不尽なほど強い。
そのふたつの間になにがあったか、という話じゃ」
魔王「・・・つまりどういうことだ?」
幹部B「勇者というのはもしや、弱いモンスターから順々に倒しておるのではないか?」
魔王「それは・・・・」
幹部A「え、それって当たり前じゃない?
さっきも言ってたじゃん、人間の城から魔王城に近づくほど強い魔物がいるって」
魔王「・・・・・・・・なるほど。ほうほう、なるほどな」
幹部A「え」
幹部B「わかったかのぅ?」
魔王「つまりこういうことか。
・・・・・『勇者は我らが育てあげる』のだと」
幹部C「あー・・・盲点だったわ、なるほど」
幹部A「えっと?」
幹部B「ふむ、幹部Aは、いや我らはもともと考え方がズレておったのだよ
『勇者は戦えば戦うほど強くなる』ことを知っていながら、
『勇者とは運命、あるいは天災のようなものだ』という認識で目を曇らせておった」
幹部A「うん・・・・うん? ごめんわかんない」
魔王「・・・・つまりだ、幹部A。
どこかで我らは『勇者というのは必ず強い者』だと思っておったのだ。
それが自身の手に負えるかどうかは個々であったろうが。
自力で強くなった勇者、などと言っていても
『勇者であるからにはすでに強い者』であると。
そう、とにかく・・・
『勇者も最初は弱い』のだということを、我らは意識から外しておったのだ」
幹部A「え、弱かったら勇者じゃなくない?」
魔王「そう、それだ。勇者というからには、最弱でも人間達の精鋭であろうと。
だが実際はそうではなかったのかもしれん
最初は弱いスライムなどで経験を積み、
ゾンビやリトルデーモン、人面樹にギガンテス・・・
徐々に魔王城に近づきながら、そのたびに強くなることで
幹部や魔王を倒すに足る力を手に入れたのかもしれんというわけだ」
幹部A「おおっなるほど!
たしかに私達が育ててるみたいな感じねそれ」
幹部B「となれば」
魔王「うむ
低級の魔物を人間の近隣から退かせるぞ」
側近「ちょ、ちょっと待ってください!」
魔王「おお、側近か。早かったな」
側近「ええ、伝達を出してきただけですので、って今はそれどころじゃないです!」
側近「何ですか、その案は!だめだめ!絶対に駄目です!」
幹部C「なんでよ。いい案じゃね?」
側近「そうしたら人間が安心して外に出てくるじゃないですか!結果として勇者が魔王様の近くにくることになりますよ!?」
魔王「あ……」
幹部A「ダメかー」
側近「ですが骨組みとしては悪くありません」
幹部B「とおっしゃると?」
側近「はい。低級が駐屯している地域へ最上級の精鋭を送ります」
側近「無論一度に全てとはいきません。ですので準備が出来た精鋭と低級を交代で入れ替えていきましょう」
側近「最終的には最前線を全て精鋭で固めます」
魔王「なるほど!完璧だな」
幹部A「流石側近ちゃんねー」
幹部C「あーでもさー」
魔王「体力馬鹿で無駄にプライドが高い幹部C、何か異論でもあるのか?」
幹部C「新しい就職先みっけっかな……」
幹部C「いやね?そしたらさ、低級達からすると面白くなくね?」
側近「ふむ。続けてください」
幹部C「だってさ。そりゃ低級は低級ちゃんだけどさぁ」
幹部C「連中からすれば死に物狂いで最前線を維持してた訳でしょ?」
幹部C「それを『お前ら雑魚だから入れ替えるわ』じゃ頭に来るだろ」
幹部B「成る程、一理あるのぅ。上級の損耗を抑える為に彼らに労苦を強いてきた訳じゃしな」
魔王「たまには幹部Cも頭を使えるんだなぁ」
幹部A「まおーさま、言い方考えようよ……」
側近「確かに幹部Cさんの意見も尤もですね。どうしましょうか」
幹部B「低級達に要らぬ不満を持たせるのも得策では無いしのぅ」
魔王「悪くないと思ったんだがのー」
幹部A「あ、そしたら交代する理由をもっともらしくすればいいんじゃないですか?」
魔王「お、何かいい案ある?」
幹部A「簡単ですよ。『今までの激務ごくろー!疲れを癒す為にしばらく休むがよい!』とかいえばいいんじゃないです?」
魔王「いいね、それ」
側近「無駄に露出が高くて胸にばかり栄養がいってるわけじゃ無かったんですね。感心しました」
幹部A「あ……?胸面クレーターが何か言ったか、コラ……?」
側近「邪魔な脂肪ごと消し炭にしてさしあげてもよろしいが」
幹部C「あーそしたらさー。むしろ最前線は定期的に交代させるといいんじゃね?」
魔王(馬鹿はこういう時空気読まなくて助かるな)
側近「……。そうですね。実際に最前線は疲労も溜まり易いでしょうし」
幹部C「だしょだしょ?そしたら皆モチベも上がると思うんだよね」
幹部B「ついでに保養地やら色々特典をつけてやるのも良いじゃろうて」
幹部A「でも交代でまた低級ちゃん達送ったら意味無いんじゃない?」
幹部B「そうじゃのう。各種族の戦力を数値化し、戦力を平均させた混生軍団を作るのはどうじゃ?」
魔王「あー、今までそういうの適当だったからなぁ」
側近「流石、魔族の生き字引と言われる幹部Bさんですね。慧眼です」
魔王「えーと……纏めるとどういう事?」
側近「まず前線の低級を慰安名目で徐々に精鋭と交代させます」
側近「後に各種族の混生軍団を結成し、これを前線部隊へ。またこれらはローテーションで回します」
魔王「いいねいいね。軍隊っぽくなってきたね」
幹部C「俺が言うのも何だけどよく今までやってこれたな……」
幹部A「これで勇者も成長できないし、前線も効率的に回りますねー」
魔王「これで一先ずワシも安心じゃなー」
魔王「そう思うと何かノってきたのう!人間を征服する算段をもっと立てるか!」
側近「魔王様がようやく魔王らしくなってこられた」
魔王「さあ、皆の者よ。何か良い案は無いか?」
幹部C「あー、それじゃいいっすか?」
側近「幹部Cさんも今日は冴えてるみたいですね」
幹部C「いやね?インフラっていうの?農村とか港とかさ」
幹部C「そういうとこを狙えば人間も食べ物とか補給できなくて戦えないんじゃね?」
側近「冗談で言ったのに本当に冴えてる!」
幹部A「あー!そしたらそしたらさ、主要な道路とかも抑えちゃえば?」
側近「幹部Aも冴えてるのは何か小憎らしいです」
幹部B「それでは我が部隊がそれ向きじゃし早速指令を出してきましょうかの」
魔王「いいねいいねー。何て言うの?」
幹部B「は。農村、港、道路を制圧し人間を皆殺しにせよと」
魔王「いやいやいや、皆殺しは可哀相じゃない……?」
側近「何故ですか?当たり前のように思えますが」
魔王「いや、歯向かうなら別だけどさー。大体そういうとこって殆ど非戦闘員でしょ?」
幹部B「そうなりますな」
魔王「そういうのはさー、何か好きじゃないんだよね」
幹部C「若かりし頃は『殺戮の権化』『破壊の体現者』『地獄の代弁者』って言われ恐れられた魔王さまの言葉とは思えないな」
魔王「いやー、最近さー、血とか苦手になってきたんだよね。昔はむしろ好きだったんだけど」
幹部A「でも、それじゃどうやって制圧するんですか?」
魔王「う……」
側近「可能な限り人間の死者を押さえ制圧する、でよろしいですか?」
幹部C「ちょ、タンマタンマ!そんな事したら俺らの被害がでかくなるだろ!」
幹部C「農村はともかく港や主要道路なんて正規兵がいておかしくないぜ?」
幹部B「自分の配下は隠密や魔法に長けた者が多い故、それなりの被害が出るかと」
魔王「んー、この際は止むを得ないのかなぁ」
幹部A「でもさー、まおーさまの考えも一理あると思うんですよねー」
魔王「お?その心は?」
幹部A「いや、今まで私達って人間ぶっころしまくってきたじゃないですか?」
幹部C「まぁ魔族だしな」
幹部A「だからそれで人間も怒ったり怖がったりして、要するに憎しみとかで戦ってるわけじゃないですか」
幹部A「で、そういう人間の一部が勇者とかになる、と」
幹部A「皆殺しっていっても、どうしても少しは逃げる奴もいるし」
幹部A「そういう中から勇者が出るかも」
側近「魔族である以上、仕方の無い事ではありますが確かにその通りですね」
幹部B「無血制圧となると、如何なる手段を用いたものやら……」
側近「ですが相手の補給路を断つ上でこれらの制圧は必至です」
魔王「んー、どうしたもんかな」
側近「魔王様は細かい事考えるの苦手ですからねぇ」
魔王「面倒だからとりあえず農村いってどうすれば制圧されてくれるか聞いてくる」
側近「え、ちょ、え?魔王様?」
魔王「いってきます」
村人A「今年は豊作やね」
村人B「だねー。あと一仕事頑張るべ」
村長「ん、昼間なのに流れ星?」
魔王「ども。魔王です」
村人A「」
村長「ま、魔物だ!魔物が出たぞおおおおおおお!」
魔王「あ、お茶とかいいんで。お構いなく」
村人B「こ、このおおおおおおお!」
魔王「ん?何これ。鍬?」
村人B「くそがあああ!離せええええええ!
村人A「村人B!無茶だ!やめれ!」
村長「あ、あ、あの姿……!爺さまに聞いた魔王!!」
魔王「え、もしかしてこれで作業してんの?効率悪くね?ほいほいのほいっと」
村人B「鍬が……新品になった!」
魔王「サービスでワシの魔力も込めといたからね。それ使えば超耕せると思うよ」
魔王「ふぅ。これで村の農具全部終わりかな」
農民Z「あ、最後にこの鎌もお願いします」
魔王「あいよ。そんじゃ最後だし張り切って特大魔力込めるわ」
農民Z「おお!鎌が輝いて見える!」
農民A「いや、ガチで光ってんぞ、これ」
農民Z「ふんす!」
農民B「うおお!大岩がチーズみたいに裂けたぁぁぁぁ!?」
農民Z「これで草刈が楽になるだ」
魔王「喜んでもらえたようで何よりだ」
村長「えっと……それで当村に何の御用で?」
魔王「あれ、何だっけ……?」
側近「で、何だか満足したから戻ってきたと」
魔王「いやあ、人助けをするって気持ちいいな」
幹部A「いやー……まおーさま、流石にそれは……」
魔王「ああ、それでさ。結局ワシ、何しに村行ったんだっけ」
幹部B「その……どんな条件ならば傘下に加わるか直接聞くと……」
魔王「ああ、それそれ!すっかり忘れてたわ。いやー、あっはっは」
幹部C「まぁある意味魔王さまらしいな」
幹部B「側近殿……」
側近「ええ。その村、危険ですね。まぁ我々には関係ない事ですが」
魔王「ん、どした?」
村人A「いやー、魔王ってどんな悪い奴かと思ってたけど」
村人B「農具やら色々直してくれて意外と良い奴だったっぺな」
村長「うむ。伝え聞いていた魔王とは大きく違っておったのぅ」
村人Z「そ、村長!兵隊がいっぱいやってきただ!」
村長「何じゃと?こんな辺鄙な農村に何の用かのう」
騎士A「村長はおられるか!?」
村長「はい。ワシが村長ですじゃ。何も無い村ですが、ようこそおいでくださりました」
騎士B「我らは王国近衛第三師団である。団長が貴殿にお会いしたいと」
村長「こ、近衛の方々でしたか!しかし、はて、ワシに何の御用ですかな」
騎士A「それは団長に直接尋ねられよ。こちらだ」
団長「貴君がこの村の村長か」
村長「は、はい。いかにもワシが村長ですじゃ」
団長「急な呼び立てを許してほしい。事は火急の事態だったのでな」
団長「……。村長以外の者は幕舎から出よ」
騎士A「はっ」
団長「さて、単刀直入に聞こう」
村長「な、なんでございますか?」
団長「この村に魔王が現れたと聞いた。事実か?」
村長「は、はい。先日突如現れましたですじゃ。それはもう流れ星のようで……」
団長「やはり事実であったか……。それで」
団長「何故この村は犠牲の一つも無く残っているのだ?」
団長「答えよ、村長!魔王はここで何をしていったのだ!?」
村長「はぁ……農具を手直しして帰って行きましたですじゃ」
団長「村長……これまで久しくなりを潜めていた魔王が動いたのだぞ」
団長「そのような冗談が通じるとお思いか?」
村長「い、いや!本当なのですじゃ!鍬や鎌が新品以上に……」
団長「信じたくは無かったが情報は本当であったか……」
団長「騎士A!聞こえるか?」
騎士A『は。ここにおります』
団長「残念だが当初の手筈通り事を運べ」
騎士A『……。了解致しました。既に村民は広場へ皆集めています』
村長「だ、団長どの?何をなさるおつもりか!?」
団長「……タレこみがあったのだよ。この村は魔族に組して王国に謀反を企てているとな」
村長「そ、そんな!出鱈目ですじゃ!わしらは、ただ平和に暮らしていければ……!」
団長「私もそうあって欲しかった。しかし現状では貴君らの村を野放しにしておく事は出来んのだ」
村長「な、や、やめてくだされ!ワシらは」ザシュッ
団長「許しは請わん……王国の為なのだ……」
村人A「村長、中々戻ってこねーべさ」
村人B「いやー、首都の偉い騎士さんにあってるんだろ?色々話があるんだべさ」
村人Z「しっかしなんで俺ら皆集められてんだ?」
村娘A「見てみて!やっぱり都会の騎士様はかっこいいねー!」
村娘B「うんうん!憧れちゃうなー」
騎士A「……。団長からの命令だ。当初の予定通りにやれ、と」
騎士B「本当なのか!?皆、ただの善良な村人にしか見えんが……」
騎士A「団長が村長と話をした上での結論なのだ。我らはそれに従い忠義を果たすのみ」
騎士B「分かった……。しかし年端も行かない女子供全てか。惨い話だ……」
村娘A「あ、騎士さまがこっちくるよ!」
村娘B「わ、私緊張してきた!あ、あの私」ザシュッ
騎士A「全騎士に告ぐ!この者らは魔王と結託せし反逆者である!一人残らず切り捨てよ!」
魔王「ねぇねぇ、二人で何内緒話してんの?えっちな話か?」
側近「違いますッ!」
幹部B「魔王様。余計な事とは思いますが進言します」
幹部B「先日の村ですが……」
側近「魔王様が直々に城外へお出になられたのは実に30年ぶりの事です」
側近「直接魔王様に滅ぼされなかったとは言え、彼の村は恐らく人間どもの追及は免れぬかと」
幹部B「更に申せば、被害が一切無い事を詮索され、恐らく村ごと焼き討ちに遭う可能性が高いかと思われます」
魔王「マジで!?」
側近「もし魔王様のお気に召した村でしたなら部隊を派遣いたしますが」
幹部B「派遣するならば急ぎご決断を。正直今からで間に合うかどうか」
魔王「んー」
魔王「って言ってもどうせ騎士団、良くて近衛が出張るくらいでしょ?」
幹部A「どうせって……両方とも人間の正規軍じゃないですかー!」
側近「はっ、恐らくそうなるかと」
幹部B「むしろワシの読みでは王国近衛でも生え抜きの精鋭、第一か第三師団の線が濃いかと思われますじゃ」
魔王「対魔装備の第七師団は?」
側近「相手は村人故、その線は薄いかと」
魔王「あー。それじゃやっぱ多分大丈夫だわ」
側近「は?」
魔王「いや、実はこの前、帰る時にさー」
魔王「やっばいなぁ。何しに来たか忘れちゃったよ」
魔王「まぁいいや。ついでに何か困ってる事とかある?」
村人B「そういや最近物騒で……」
魔王「ん、なになに?この辺にはあんまり魔物配置してなかったと思うけど」
村人A「いや、最近山や森の動物が里に降りてきて危ないんだべさ」
村長「もうすぐ秋になりますゆえ、里の食べ物を狙っておるんです。先日はついに村人にも怪我人が……」
魔王「あー、動物は管轄外だからなー。んじゃちょっと村人全員集めてくれる?」
村長「はぁ。構いませんが」
魔王「皆集まった?んじゃ動物に襲われても平気な用に身体強化の法と衣服強化の法かけるわ。ほいほいのほいっと」
村人Z「うおおお!?力が……力が漲ってくるだ!」
村人A「ひゃっほおおおお!収穫が一瞬で終わるだよ!」
魔王「結構気合いれて施術したから。熊くらいなら牙も通らないし、逆に供でも素手で倒せると思うよ」
魔王「って訳だったのさ」
幹部A「ちょ、それって……」
幹部B「ま、魔王様……本当ですか?」
魔王「え?マジだけど」
側近「農具に魔力を与え、衣服を強化し、身体強化の法まで……」
幹部C「よくわかんないけどそれまずいのか?」
側近「あ、ああああ、あったりまえです!」
側近「いいですか!?バカだけど魔王様の魔力はマジでヤバイんです!!!」
側近「それで強化されたなら下手な聖遺物を凌ぐ力を秘めるんですよ!?」
側近「仮に鎌なら金剛石の盾だろうとスライスチーズ!衣服でさえ剣や矢を弾くんです!」
側近「更に身体強化の法は、かけられた者の能力を3倍する秘術!」
側近「そんなのを敵である人間に授けてどうするんですか!!」
魔王「あーごめん。そこまで考えてなかったわ」
魔王「てか側近さぁ。さりげなくワシの事、バカって言った?」
側近「いえ、聞き間違いかと」
村娘B「うわっ、あっぶなぁ!いきなり何するんですか!」
騎士A「なッ……私の斬撃を避けただと!?」
村人A「おらたちが反逆者だと!?言っていい事と悪い事があるっぺさ!」
騎士B「こ、こいつら刃が通らない上に速い!?」
村娘A「かっこいいからって調子のんなー!」
村人B「そうだー!かーえーれ!かーえーれ!」
騎士A「き、貴様ら……」ザンッ
騎士A「な!?名工に鍛えられし我が剣が!?」
村人Z「次は本気でいくど……?」
村長「王国の偉い騎士様といえど無礼が過ぎますぞ!よってたかってか弱い老人を!」
団長「つ、強すぎる……」
団長「総員撤収!撤収せよおおおおおお!!」
村長「ふん!一昨日きやがれじゃ!」
幹部C「そんなすげー魔法あるなら俺らにもかけてくださいよ」
魔王「わかったわかった、今かけるよ」
幹部B「ちょ、ストップストップ!」
側近「幹部Cを殺す気ですか!」
幹部C「え、なにそれ」
側近「身体強化の法は本来自分を短時間限定強化する秘術です」
側近「注ぎ込まれた魔力は生命活動に伴い少しずつ発散されてしまうんですよ」
側近「そして我々魔族は大なり小なり魔力を持っています」
側近「そこに別の魔力が注がれると確かに短時間ですが3倍強化の恩恵は受けられる」
側近「ですが別種の魔力の影響で魔力暴走を引き起こし、平均して一時間程で自滅、つまり死にます」
側近「人間は元から魔力が無いので消費しませんしほぼ永続的に効果も続くんです」
幹部A「まぁ相当の魔力と桁外れの魔力制御が必要だからまおーさま含めて世界でも数える程度しか使い手がいないけどね」
幹部C「そうなのか知らなかった」
幹部B「むしろ幹部でありながらそれを知らないお前にワシはびっくりじゃよ」
側近「まぁ3倍というのは一般の使い手の場合ですから」
側近「正直、魔王様の魔力の場合、どれだけ強化されてるかわかりません」
側近「いずれにせよ第七師団ならともかく通常兵装の第一、第三師団では苦戦は必至でしょうね」
幹部C「そんな凄いのかよ……」
側近「無論彼らが全力で掛かれば村人は絶対負けますが」
側近「しかし村を滅ぼすという任務の性質上、動かせるのは多くないはずです。予想される動員兵力では相打ち覚悟でしょうね」
幹部B「うむ。それに連中はいずれもキレる指揮官をもっておる。早々に撤退するでしょうな」
魔王「ほら。大丈夫だったでしょ。皆心配しすぎなんだよ」
側近「今回限りです。次勝手に同じ様な事したら私キレます」
魔王「あ、はい……」
魔王「まぁとりあえずさ。一度あの村の様子見てくるよ」
側近「そうですね。危険なようならば速めに始末したほうがよろしいかと」
魔王「んじゃいってくる」
幹部C「そう言えばさ。例の強化法って人間には副作用一切無いの?」
側近「副作用という程ではありませんが、ちょっとした変化が身体におきますね」
幹部C「へー」
村長「むむ?村人が皆金髪になっとる!」
村人A「あれ?お前、何か耳が長くなってね?」
村人B「お前こそなんか耳とんがってっぞ」
村娘A「あれ、Bちゃん、何か今日かわいくなってる?」
村娘B「Aちゃんこそ!ていうか村の皆、顔立ちがスッキリしてキレイになってるきがする」
村長「最近、このえろふ村はおかしな事ばっかりじゃのぅ」
魔王「さて、もうすぐ着くな」
魔王「こんちゃーす。あれからどう?」
村人A「ま、魔王様だ!魔王様がお越しになられたぞー!」
魔王「うわ、村中引っ掻き回して大騒ぎになってる」
魔王「やっぱり警戒されてるのか。まあ仕方ないけど」
村長「おお、魔王様!よくぞお越しくださりました!」
魔王「!?」
村人B「さぁさ、村の皆で盛大に歓迎するだ。踊り子隊前へ!楽士隊、始め!」
村人Z「ピーヒャラピーヒャラズンドコドコドコ」
村娘A「ランラン ランララランランラン ラン ランラララン」
村娘B「ランラン ランララランランラン ララララランランラン」
魔王「なんぞこれ……」
村人A「今料理も持ってこさせますので!」
村長「魔王様。宴はお楽しみいただけておりますかな?」
魔王「いやー、びっくりしたよ!歌も踊りもいいし料理も美味しいな、こりゃ」
村人A「いやー、腕を振るった甲斐がありましたべさ」
魔王「あ、これ君がつくったん?超うまかったよ」
魔王「ていうか、ワシのせいで騎士団に襲わ」
村長「そう、実はそれをお話したかったのですじゃ!」
魔王「う、やっぱり来てたのか……ごめんな」
村長「騎士団も王国も、もう信用ならンのですじゃ!」
魔王「さい、ってえ?え?」
村人B「そうだべ!あいつら信用できねーべ!」
村娘A「動物の被害で助けを求めても全然来てくれなかったのにさー!」
村娘B「魔王様が村を助けに着てくれたのに、なんかそれに嫉妬して喧嘩してきたんだよ!」
村人Z「何か第三師団とか偉そうな名前つけてたけどボコボコにして追い返してやったべさ」
村人A「俺らが一所懸命作った作物を毎年半分ももってくくせに!」
村人B「あんなのなら居ないほうがいいべ!よわっちいし!」
村娘A「そーだそーだ!」
村長「そこでお願いなのですが……良ければ魔王様にこの村を治めていただきたいのですじゃ」
魔王「マジで!?」
村長「王国の連中は助けもくれず税を搾り取るだけのくそやろーどもですじゃ」
村長「しかし魔王様はこんなワシらに力をお与えくださった……我らも領主を選びたいのですじゃ」
魔王「いいの!?」
村人A「魔王様がいいだ!」
村人Z「そうだべそうだべ!」
村娘A「魔王様かっこいい!」
村娘B「すてきー!」
村長「ワシだけの意見ではございません。村人の総意なのですじゃ。受けてくださいませぬでしょうか」
魔王「むしろね、今日は良かったらワシらに制圧されてくれないかなーって聞きにきたんだよね」
村人A「なんと!」
魔王「いやぁ、やっぱり怒るよなぁ」
村人B「願ったり叶ったりだべ!制圧してくんろ!」
魔王「それでいいの!?」
村長「なら話は早いですじゃ!えろふ村は魔王様に制圧していただきますじゃ!」
村人Z「ささ!こんな事もあろうかと魔王様のお旗を用意しておいたですだ」
村娘A「広場に掲揚場所を用意してありますのでそこに掲揚しちゃってください!」
魔王「こ、これでいいのかな」スルスル
村長「おお!何と神々しい!これでえろふ村は無事魔王様に制圧されましたですじゃ!」
村人Z「ひゃっほおおお!ひゃっほほおおおおお!!」
村娘B「魔王様ばんざーい!魔王様ばんざーい!」
村人A「ばんざーい!ばんざーい!」
魔王「というわけでえろふ村が魔族の傘下に入ったわけだが」
幹部B「なんともはや……」
幹部C「流石魔王さまっすねー」
側近「ま、まぁ結果良ければ全て良しとしましょう」
側近「事前調査によれば、あの村は辺境にも関わらず中々の収穫量があります」
幹部B「ほう、これがデータですかな。ふむ、凄い。これだけの石高なら我が軍の補給ラインに組み込めますぞ」
魔王「あー、それなんだけど……」
側近「どうされましたか?」
魔王「あの……怒らないで聞いてネ?」
側近「……。まず話してみてください」
村娘A「魔王様ばんざーい!ばんざーい!」
魔王「いやぁ、あっはっは。何か照れるな」
村長「して魔王様。税についてなのですが」
魔王「うん?税?」
村長「はい。以前の領主、まぁ王国の国王なのですが」
村長「税は収穫の半分という取り決めでしたですじゃ」
村長「魔王様のお陰で今後は収穫量も上がるじゃろうて、多少は多く収められますが」
魔王「あー、いいよいいよ、そういうの」
村長「な、なんと!?」
魔王「いやー、別にうちも食べ物は困ってないしさー」
魔王「だから税だっけ?無しの方向でいこか。それに村長さん達が作ってるのにワシらがただで貰うっておかしくね?」
村人A「おお……名君だ!名君主さまだっぺー!」
村娘A「魔王様ばんざーい!ばんざーい!」
村娘B「魔王様さいこー!魔王様と魔族とえろふ村に栄光あれー!」
魔王「あ、代わりといっちゃなんだけどさー」
魔王「ここの料理すごく美味しかったし踊りとか歌も良かったし」
魔王「確か近くに温泉もあるんでしょ?」
村長「はい。我が村自慢の『えろふ温泉』ですじゃ」
魔王「その辺も込みでさ。魔族の連中にここ保養地ってか観光地みたいに使わせてもいい?」
村娘A「魔族……」
魔王「あーいやいや!嫌なら止め」
村娘A「魔王様のお仲間なんですよね?大歓迎に決まってます!!」
村人Z「んだんだ!是非お越しくだせえ!」
村長「慣れぬ内は戸惑うでしょうが、しかと大任お受けいたしますぞ!」
魔王「マジで!?」
…
……
………
魔王「という訳で税は断ったわけだ」
側近「……」
幹部A「ヤバ……」
魔王「まてまてまて!保養地で来て良いって約束は取り付けたんだから!」
側近「あン……?」
幹部C「ま、魔力が増幅して!」
魔王「そ、そうだ!お土産にデザートを持ってきたのだ!タルトというそうだぞ?それ食え!」ヒョイパク
側近「……」モシャモシャ
側近「……」
魔王「ごくり……」
側近「///」
側近「決めてしまわれた事は仕方ありません。私も後で視察に向います」
魔王「とりあえずこれで農村を傘下に納めるという案は成功したな」
側近「兵糧に組み込めなかったのは残念ですが。しかし人間どもの補給線へそれなりの打撃を与えたかと」
幹部A「となると後は道路と港でしたっけ」
幹部B「左様。しかし農村は上手くいきましたが、これらは一筋縄ではいきますまい」
魔王「それじゃちょっと」
側近「魔王様はしばらく城外へ出ることを禁じます」
魔王「あ、はい」
側近「次は道路を制圧が良いかと。港へ通じる道路などもありますし」
幹部B「こちらが魔族と人間の領域の位置で見て重要な道路です」
側近「恐らく今回は戦闘を避けられぬかと」
魔王「ふむ。それじゃ誰かに行って貰おうか」
幹部C「あ、はいはい!俺行きます!」
側近「幹部Cですか。確かに戦闘を考慮すると適任かと」
魔王「それじゃいっちょ頼むよ」
幹部C「さーて、久々の戦いだ。腕が鳴るぜ」
側近『念の為言っておきますが戦いは最低限に抑える事。人間に我らの動きを悟られたくありません』
幹部C「あー、そういや側近がそんな事言ってたっけなぁ」
幹部C「まぁいいや。なるようになんだろ」
幹部C「ここらが街道か。立派な道だな。荷馬も歩き易そうだ」
幹部C「さて、人間の兵士をぶっ殺すにはっと」ガヤガヤ
幹部C「ん?何だ、あの人だかりは」
商人A「何故通らせてくれないんだ!手形だってある!」
兵士A「王国から通達があったのだ!魔王に動きあり。変装した魔族の侵入を防ぐ為、ここは通行禁止だ!」
商人A「冗談じゃない!大事な荷なんだ!頼むから通してくれ!」
兵士B「気の毒だが諦めろ。お前だけじゃない。皆通れないんだ」
商人A「そんな……」
幹部C「あ?困ってんだからいいだろ、ちょっとくらい。見ろよ、おっさん涙目だぞ」
兵士A「誰だ、お前は!言っただろう!魔族を入れないためなんだ!」
幹部C「んー」ジロジロ
幹部C「よし、大丈夫だ。この中に魔族はいねーぞ」
兵士B「は?そんな事、何故貴様にわかる!」
幹部C「いや、俺魔族だし。俺くらいになれば魔族かどうかくらい見りゃわかるって」
幹部C「な?だから通してやれって」
兵士A「ぶふぉぉぉぉぉぉぉ!」
兵士B「ぶははははははは!」
幹部C「あ?何が可笑しいんだよ?」
兵士A「自分の正体をばらす魔族がいるか!」
兵士B「うまいこと言って抜けようたってダメだ!ほら、さっさと行け!」
幹部C「何だと、コラ?」
商人A「そこの兄さん、ありがとう。気持ちだけで嬉しいよ。さ、行こう」
幹部C「おい、おっさん。いいのかよ?大事な荷なんだろ?ってか中身何なんだよ」
商人A「これは薬さ」
幹部C「は?薬?」
商人A「今、港町は大変な疫病が流行っている。それを治療する為の薬だ」
幹部C「マジかよ!それあいつらに言ったのか?」
商人A「言ったさ。だがダメだの一点張りだよ。はぁ……」
幹部C「お、誰だい、その魔写真の女。おっさんの愛人か?」
商人A「綺麗だろう?私の娘さ。……今、港町にいるんだ」
幹部C「そこまで聞かされて黙ってちゃ俺の男が廃るってもんだわな」
商人A「おいおい、兄さん、気持ちはありがたいが無茶は……」
幹部C「いいから見てろって」
商人A「あ、荒事は止してくれ!腹は立つが兵士達の言う事も分かる!人死にはごめんだ」
幹部C「OKOK、おっさんの希望になるべく沿うようにするからよ。まぁ任せとけ」
幹部C「おい、兵士ども」
兵士A「またお前か。こっちも忙しいんだ」
幹部C「要は俺が魔族ってわかればいいんだろ?」
兵士A「何だ、またその続きか」
幹部C「どっごらぁぁぁぁぁぁぁ!」ゴゴゴゴゴゴ
兵士B「何の騒……ひぃぃぃぃ!そ、そいつは!」
兵士A「て、手配書にあった魔族の高級幹部、幹部Cだぁぁぁぁぁ!」
幹部C「ふひひ。さて、これで俺の言ってた事が本当ってわかったろ?さ、皆を通してやれよ」
兵士A「ふ、ふざけるな!魔族の言う事なんか信じられるか!そうやってスパイを潜り込ませるつもりだろう!」
幹部C「んじゃどうしろってんだよ……」
兵士A「み、皆、ひるむな!こいつを絶対に王都へ行かせてはいかん!」
兵士B「そ、そうだ!相手は一人!皆でかかれえええええ!」
幹部C「あー、やっぱやんの?死んだわ、お前」
兵士C「うおおおおおおお!」
幹部C「どっごらぁぁぁぁぁぁぁ!」
商人A(人死にはごめんだ)
幹部C(チッ……)
兵士C「喰らえぇぇぇぇ!」ドスッ
幹部C「ゴフッ!」
兵士A「な、何だこいつ!?見掛け倒しか?これなら勝てる!皆いくぞおおお!」
ドス ザク グサ バシュ ドス グサ
………
……
…
兵士X「はぁはぁ……やったぞ!」
兵士Y「おおおおお!我らが魔族の幹部を討ち果たしたぞぉぉぉ!」
兵士U「ざまぁみろ!俺達をなめるな!」
幹部C「……ぃ……」
兵士A「ん?こいつ、まだ息があるぞ!」
兵士B「何て言ってるんだ?」
幹部C「ぉぃ……もぅぃぃだろ……?」
兵士D「はは、何だ命乞いか?無様d」デコピン
兵士D「ぎゃああああああああ!」
兵士I「兵士Dがデコピンでふっとんだぁぁぁぁぁぁ!」
幹部C「指一本で……これ、だ……本気さえ……出せば……お前らなん、か……瞬きの、あい、だで……皆殺し、よ……」
幹部C「その……俺、が……こ、こま、で……喰らってや、ったんだ……嘘か、ど、うか、くらい……わかんだろ……」
幹部C「皆、を……通し、て……やれ、よ……」
兵士O「ふ、ふざけんな!今トドメをさしてやる!」
兵士A「……待て」
兵士B「お、おい!?」
幹部C「……」
兵士A「本当にこの中に魔族はいないんだな?」
幹部C「ま、だ……ビビって、んのかよ……俺、の誇り、にかけて……誓っ、てやる……」
幹部C「このな、かに……魔、族は……いね、ぇょ……」
兵士A「……」
兵士B「だから!お前の言う事なんぞ誰が」
兵士A「今、この場に居る者全てに通行の許可を与える」
兵士C「ば、バカ!そんな事勝手に決めちゃ!」
兵士A「貴様ら、さっさと行け!俺の気が変わらんうちにな!」
幹部C「へへ……に、んげんの……中、にも……男が……いるじゃ、ねぇか……」
幹部C「ゴホッ!」
幹部C「……」
商人A「にいさん!おい、しっかりしろ!」
兵士A「お前は?」
商人A「このにいさんは……俺を、薬を港へ届けさせるためにこんな……」
商人A「俺が……人死にはごめんだなんて言ったばかりに……」
兵士A「そうか……そういう事だったのか……許せ……」
兵士A「魔族にも、こんな奴がいるんだな」
兵士B「おい、どうすんだよ。こんなになっちゃ俺ら処罰モンだぞ」
兵士A「そうだな。俺は兵士をやめるよ」
兵士A「本来国民を守るはずの俺達が命令で国民を見殺しにしようとする一方で」
兵士A「敵であるはずの魔族が、命を賭してその国民を助けようとした」
兵士A「もう、何のために戦うのか俺にはわからん」
商人A「あんた……」
兵士A「港町まで送ろう。それとこの魔族に墓でも建ててやるか」
商人A「そうだな。見ろよ、この顔、まるで眠ってるみたいで」
幹部C「zzzzzzZZZZZZ」
幹部C「ふぁぁぁぁぁぁ!良く寝たぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
兵士A「ようやく目覚めたか」
商人A「よかったよぉ!にいさんが生きててよかったぁ!」
幹部C「あ?何だ、心配してたのか?」
幹部C「冗談!あんなの一億万発喰らったって俺が死ぬわけねーだろ」
幹部C「ただ三日間寝ずに急いでここまできたからよー。眠くって眠くって」
兵士A「正しく呆れ果てた奴だな……」
商人A「しかし、なんでまたそんなに急いでここまで?」
幹部C「あー、それよ、それ!いや、ここの街道を制圧しようと思ってさー」
兵士A「はは、安心しろ。それならもう終わりだ」
幹部C「どゆこと?」
兵士A「大なり小なり皆、俺と同じ気持ちだったようでな。関所の兵士は全員廃業して港町へ行く事にした」
兵士A「事実上、ここは制圧されたも同じさ」
幹部C「え、ちょ、え?いやいや、俺まだ戦ってねーぞ!え、マジで!?もう終わりなの!?」
幹部C「納得いかない……」
兵士A「それじゃ俺たちは行く。薬を待ってる人たちもいるからな」
商人A「ありがとうなぁ、にいさん!にいさんのお陰だよ!」
商人A「ここにいた他の連中も皆にいさんに感謝してたよ」
兵士A「港町の近くへきたら寄ってくれ。お前みたいな奴なら歓迎する」
商人A「それじゃにいさん、またなー!」
幹部C「おう、おっさんも兵士も達者でなー!」
幹部C「……」
幹部C「何か納得いかねえええ!戦ってねえのにぃぃぃぃぃぃ!」
幹部C「っていう事があったんですよ」
幹部B「いやはや、またしてもなんともかんとも……」
幹部A「ま、まぁ結果的に街道から人間の戦力は消えたんだしおーらい?」
魔王「ってか幹部C、空飛べたよね?飛べば数時間でついたんじゃ?」
側近「人間如きと約定をかわしたのもアレですが……」
側近「それならそれで、死なない程度に兵隊を蹴散らせば良かったんじゃ……」
幹部C「あ」
側近「何でこんなのが幹部なんですか……」
側近「しかし、これで街道は我らの物です。敵の補給路は大きく制限されました」
側近「この機を逃さず、速やかに港町を制圧するべきかと」
幹部C「あ、それなんだけど」
側近「嫌な予感しかしない……」
幹部C「あの後、飲みに行ったらさー、もう大歓迎されちゃって」
『本当に困った時に見捨てる王国なんぞ信用できん!我らは、身を張って助けてくれた幹部Cさんの味方だ!』
幹部C「って事があって、今後は色々協力してくれるってさ」
側近「……」
幹部B「そ、側近どの!お気を確かに!」
幹部A「ま、まぁほら。魔コーヒーでも飲みなよ。ほら、えろふ名物、魔タルトもあるよ」
側近「……」モシャモシャ
幹部B(そこはちゃんと食べるんですな……)
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