毛利蘭「マッハ突き……!?」 (102)

米花町 ───

克巳「ったくゥ~……」

克巳「母さんへの誕生日プレゼントくらい、自分で選べばいいだろ?」

克巳「二十過ぎた男と五十過ぎた男が並んでても絵にならないぜ……親父」

独歩「つべこべ言うねェ。たまには親孝行したってバチは当たらねェって」

克巳「しかも……なんでわざわざ米花町まで来たんだい?」

克巳「プレゼント買うだけなら、近くにもデパートがあるだろうに」

独歩「どこで買おうが俺の自由だろうが」

克巳「とかなんとかいって……」

克巳「万が一にも、プレゼント買ってるところを弟子に見られたくないからだろ?」

独歩「口の減らねェ息子だ……」フンッ…

独歩「──お?」

蘭「もう……放して下さい!」

チンピラ「いいじゃねェかよ、なァ」ガシッ

チンピラ「茶の一杯や二杯、付き合ってくれたっていいだろォ?」

蘭「…………」



独歩「だれも助けようとしねェ……。世知辛い世の中になったもんだぜ」

克巳「手助けするかい?」

独歩「イヤ……必要ねェだろ。あの姉ちゃん、かなりヤルぜ」

蘭「アアアアア……!」コォォ…

チンピラ「?」

ビュアッ!

次の瞬間、蘭の足刀がチンピラの顔面に寸止めされていた。

チンピラ「ヒ……ッ!」

蘭「まだ絡んでくるっていうなら……今度は容赦しないわよ!」

チンピラ「ひっ、ひえぇ~っ!」タタタッ…



独歩「ヒュウ~、ほらな」

克巳「みごとな上段足刀だ。親父よりキレがいいんじゃない?」

独歩「ま、俺なら当ててたけどな」

克巳「そしたら、また警察のお世話になっちまうよ……」

独歩「なァ、克巳よ」

克巳「なんだい?」

独歩「ちィと予定変更して、ちょいとナンパといかねェか」ズイッ

克巳「オイオイ、まさか……」

克巳が静止する間もなく、蘭に話しかける独歩。

独歩「よう、姉ちゃん」

蘭「はい?」クルッ

蘭「!」ハッ

蘭(え……ウソ……。この人ってもしかして、神心会の愚地先生じゃない!?)

克巳「親父、なにやってんだよ……」

蘭(あっ、この人は愚地克巳館長!? ウッソ~、どうして私なんかに!?)

蘭も空手道に生きる人間として、愚地独歩と愚地克巳の名は耳にしている。

独歩「なぁ、姉ちゃん」

独歩「さっきの蹴り……みごとだったぜェ。手本にしたいくれェだ」

蘭(さっきの……見られてたんだ)ポッ…

独歩「どうだい、ちょいと話をしたいんだが……時間、もらえるかい?」

蘭(今日はもう帰るだけだったし……まだ夕ご飯までには時間があるし……)

蘭「かまいませんけど……」

独歩「よっしゃ、じゃああっちの喫茶店でお茶でもしようや」

克巳(やれやれ……惚れちまったな、親父)

喫茶店 ───

独歩「ほぉう、関東大会で優勝とは……大したもんだ」

克巳「どうりで、あんな蹴りを放てるワケだ」

蘭「いえ……お二人に比べたら、全然ですよ」

蘭「ところで、お話しというのは……?」

独歩「オウ、単刀直入にいわせてもらうぜ」

独歩「どうだい、神心会(ウチ)でチョット空手をやってみる気はねェか?」

蘭「!」

蘭「神心会に……入門しろってことですか?」

蘭「でも私……部活もあるし、家のこともあるし……これ以上は──」

独歩「なに、今の部活を辞めろとか、毎週道場に通えとかいってるんじゃねェ」

独歩「極端なハナシ、お前さんが来たい時にだけ来てくれりゃいいんだ」

蘭「えぇっ!?」

独歩「俺にこれぐらいのこといわせる価値を、お前さんは持ってる」

蘭(神の拳っていわれる愚地先生が、ここまでいって下さるなんて……)

蘭(でも……)

蘭「申し訳ないんですけど、お金が……」

独歩「こっちからムリいってんだ。銭なんて取らねェよ」

蘭「えっ……!」

独歩「どうだい……?」

克巳「その辺にしとけよ、親父」

克巳「なにも今、この場で決めなきゃならないってこともないだろ?」

独歩「ン……わりィな。年甲斐もなく、ついはしゃいじまった」

克巳「毛利君」

蘭「はい」

克巳「俺もこの人も、空手界じゃ多少は名が知れてる方だと自負してる」

克巳「こと空手に関する眼は、たしかなつもりだ」

蘭(名が知れてるどころか……知らない人なんていないわよ……)

克巳「そして俺も親父も──君の持つ才能に惚れちまった」

克巳「実は今度の日曜日、ウチの本部道場で黒帯研究会があるんだ」

克巳「よかったら、ぜひ来てくれ。これ、名刺」スッ…

蘭「……は、はいっ!」

克巳「それじゃあ、代金は払っておくから」

克巳「足止めしてワルかったね」

独歩「すまなかったな」

蘭「こちらこそ、私なんかのために……ありがとうございます!」



喫茶店を出た二人──

克巳「強引なんだから、親父は……」

独歩「どうだい、あの毛利って姉ちゃん、来ると思うかい?」

克巳「どうだろ……」

克巳「あの年頃の女の子は、俺らとちがって空手以外に沢山やることあるからなァ」

喫茶店に一人残った蘭──

蘭「…………」

蘭(たしかに最近、スランプってわけじゃないけど……)

蘭(なんというか、伸び悩んでたのよね……空手)

蘭(しかも、あの二人が直接私を誘ってくれるなんて……)

蘭(せっかくのチャンスだし……一度おジャマしてみようかな、神心会……)

次の日曜日──

毛利探偵事務所 ───

蘭「コナン君、ちょっと出かけてくるね」

コナン「どこ行くの、蘭姉ちゃん? 今日は部活はないっていってなかった?」

蘭「神心会の本部道場……っていってもコナン君は分からないよね」

蘭「とにかく、今日は空手の稽古だから!」

コナン「行ってらっしゃ~い!」

コナン(神心会っていや……たしか、日本で一番規模の大きい空手団体だよな)

コナン(オイオイ、蘭のヤツ、これ以上強くなる気かよ……)

神心会本部 ───

蘭「こんにちは、克巳先生!」

克巳「!」

克巳「オォ~、毛利君じゃないか!」

克巳(まさか、来てくれるとは……話をしてみるもんだな)

蘭「今日はよろしくお願いします!」

克巳「こちらこそ」

克巳「今日は男ばっかでムサいと思うけど、気楽にやってくれ」

克巳「少なくとも、稽古で女の子に下心を持つようなヤツはいないから」

蘭「はいっ!」

克巳「本日の黒帯研究会は、この毛利君が特別に参加する」

克巳「まだ高校生だが、空手の腕は俺と父のお墨付きだ」

克巳「みんな、よろしく頼む」



「 オ オ オ オ オ オ ス ッ ッ ッ ! ! ! 」



蘭(うわ、すっごい気迫……)ビリビリ…

蘭(それに、末堂選手に寺田選手に、崎村選手……有名な人ばかりじゃない!)

蘭(サインください……なんていったらマズイよね)

蘭(今日は勉強させてもらおうっと)

神心会『黒帯研究会』は、実戦的に空手の研究を行う会である。

克巳「今日は対凶器の研究を行う」

克巳「拳と凶器──もちろん、普通に考えたら凶器の方が強い」

克巳「しかし、凶器を普段から扱いなれている人間など、ほとんどいない」

克巳「いうなれば“日本刀を持った素人”……」

克巳「一方の我々は、拳足を日常のように振るっている」

克巳「いうなれば“斧を持った職人”……」

克巳「日本刀と斧、武器としての性能に特化しているのはもちろん日本刀だが──」

克巳「日本刀を持った素人と、斧を持った職人がもし立ち合ったなら」

克巳「斧を持った職人にも、十分勝ち目がある」

蘭(そうよね……私だって武器を持った相手を倒したことあるもの)

研究会は続き──

克巳「毛利君、せっかく来たんだ。対刃物──挑戦してみるかい?」

蘭「えっ、私がですか!?」

克巳「俺が持っている匕首を蹴り飛ばして、こないだのように俺に足刀を放ってくれ」

蘭「オス……やってみます!」

ザッ……!

蘭(相手は私よりずっと格上……手加減はむしろ失礼に当たっちゃうわ)

蘭(なら……本気で!)

蘭「セイヤァ!」

パキンッ!

鮮やかな足さばきで、克巳の匕首を蹴り飛ばす蘭。

さらに──

ガッ!

足刀を放つが、さすがにこれは克巳の左腕にガードされた。

オォ~……!

克巳(やはりこの娘……ホンモノだ)

克巳(空手がウマイってだけじゃない……実戦を体験してる動きだ……!)

克巳「よかったよ、毛利君」

蘭「オス……こちらこそ、ありがとうございました!」

研究会が終わり──

蘭「今日はありがとうございました、克巳先生」

克巳「我々こそ、勉強させてもらったよ」

克巳「今日は男ばかりだったけど、ウチには女子部もあるし、また気軽に寄ってくれよ」

克巳「君が受付で名前をいえば、稽古に参加できるようにしとくから」

蘭「はい!」

克巳「ところで……君はむやみにケンカをするタイプには見えないが──」

克巳「ずいぶん“実戦慣れ”しているように見受けられる」

克巳「どうしてだ?」

蘭「実は……父が探偵をやってまして……」

克巳(父親が、探偵……? 毛利……)ハッ

克巳「そうか、君のお父さんはあの有名な“眠りの小五郎”かッ!」

蘭「はい」

克巳「ナルホド……」

克巳「お父さんの仕事を手伝う時に、犯人と格闘することもあるってことか」

蘭「ええ、そうなんです」

克巳(どうりでウチの門下生と比べても、凶器や実戦に慣れているワケだ)

克巳(それに、毛利小五郎も柔道の達人と聞いたことがある……)

克巳(この娘もまた、俺や範馬刃牙と同じく“強き父を持つ子”だってことか)

こうして、蘭の神心会空手体験は終わった。

それからというもの──

井上「強いわね~、毛利さん。とてもかなわないわ」

蘭「いえ、井上先輩こそ……すごい回し蹴りでした!」



蘭「あの、サイン……いただけないでしょうか?」

末堂「え、かまわねェけど……」

加藤「へっ、有名人は辛いなァ、末堂?」



独歩「どれ……ちょいと稽古をつけてやろうか」

蘭「いいんですか!?」

蘭は時間の許す限り、神心会の門をくぐった。

そして、稽古の成果はというと──

犯人「くそっ、こうなったらボウガンで……!」サッ

コナン「(やべえ!)蘭姉ちゃん、避けてっ!」

ビュッ!

蘭「かわすまでもないわ!」ブオンッ

パシィッ!

コナン(ボウガンの矢を、弾き飛ばしただと!?)

犯人「バ、バカな!?」

蘭「愚地先生直伝……廻し受け、よ」スゥッ…

蘭「デヤァッ!」ビュオッ

バキィッ!

犯人「ぐええっ……!」ドサッ

コナン(蘭のヤツ、この数週間でとてつもなく強くなってやがる……!)

そんなある日の夜──

神心会本部 ───

蘭(忘れ物しちゃった……)

蘭「えぇ~と、女子部の道場はどこだったっけ……」キョロキョロ…

パンッ……  パンッ……  パンッ……

蘭「なにかしら、この音?」

パンッ! パンッ! パンッ!

蘭(この部屋から聞こえてくる……)

ガチャッ……

ドアを開けると、一人で黙々と左拳を振るう克巳の姿があった。

蘭「克巳先生!」

克巳「お、毛利君か」

蘭「すみません、稽古のおジャマをしてしまって……」

克巳「ハハ、かまわないよ。おおかた、この“パンッ”て音が気になったんだろう?」

克巳「名探偵の娘さんとしては、気になるのは当然だよな」

蘭「名探偵だなんて……。でも、いったいなんの音だったんですか?」

克巳「ン~……ま、探偵に犯行を突き止められた犯人は、白状する義務がある、か」

克巳「あれは、俺の拳のスピードが音の壁を超えたことによって生じた破裂音だ」

蘭「拳が……音の壁を……!?」

克巳「俺の必殺技“マッハ突き”だ」

蘭「マッハ突き……!?」

克巳「正拳突きの際に使用する関節を、同時加速させることで」

克巳「拳は音速を生み出すことができる」

克巳「さらに、想像(イメージ)で関節の数を増やすことで、速度はさらにハネ上がる」

蘭(そんなことができるなんて……)

蘭「でも、音速を超えた正拳なんて、拳もただじゃ済まないんじゃ──」

克巳「おっしゃるとおり。さすがの名推理だ」

蘭「!」ハッ

蘭「克巳先生のなくなった右腕って、もしかして……」

克巳「そう……。“俺だけのマッハ突き”を完成させた代償に肉が弾け飛び──」

克巳「ダチにプレゼントしちまった」

蘭「…………」ゴクッ…

克巳「おっと……しゃべりすぎた」

克巳「武道家ってのは結局自分が一番大事だからな……これ以上はナイショにしとこう」

克巳「あとついでに、これは師匠としていっておくが」

克巳「マッハ突きは、自分にも危険な技だ」

克巳「もし、到達できたとしても……使用(つか)うのはやめておきなさい」

克巳「君のような、未来ある女学生ならなおさらだ」

蘭「は……はいっ!」

蘭「どうもありがとうございましたっ!」

バタンッ……

克巳(あの娘なら……もしかすると、もしかするかもな)

帰り道──

蘭「セイッ!」

ブンッ!

蘭(この拳が音より速く……? とても信じられない……)

蘭(仮に打てたとしても、私の手が使いものにならなくなる……)

蘭(私には克巳先生のように、体のどこかを失うなんて覚悟、とてもない……)

蘭(でも……なんだろ)

蘭(私……マッハ突きを……目指してみたくなってる……)

蘭(どうしちゃったんだろ、私……)

毛利探偵事務所 ───

蘭「ねえ、コナン君」

コナン「なぁに、蘭姉ちゃん?」

蘭「空手の正拳突きが、音より速くなるなんて可能だと思う?」

コナン「できるわけないじゃない、そんなの」

コナン「だって、格闘技で一番速いとされるボクサーのパンチだって」

コナン「せいぜい時速30km程度なんだよ?」

コナン「一方、音は時速1225km。40倍もちがうんだから」

蘭「そうよねえ……」

蘭「じゃあ……コナン君」

コナン「なに?」

蘭「関節をイメージで増やすなんてこと、できると思う?」

コナン「できるわけないよ」

コナン「さっきからなにいってるんだよ、蘭姉ちゃん」

蘭「ご、ごめん……きっと私、疲れてるのね」

コナン(オイオイ、音より速い拳とか、関節を増やすとか、いきなりどうしたんだ?)

コナン(大丈夫か、蘭のヤツ……。空手のやりすぎなんじゃねえか?)

蘭(コナン君のいうとおりだわ……できるわけないよね)

蘭(新一に聞いてもきっと──)



新一『拳が音速を? 無理に決まってんだろ! 漫画の読みすぎだっての!』

新一『バーロ……イメージで関節を増やすなんて、できるわけねーだろ?』



蘭(──って、アイツのことだからバカにするに決まってるわ)

蘭(なんか……想像しただけで腹立ってきたわ)ムカッ…

蘭(自分だって、推理小説の読みすぎじゃないのよ!)

蘭(あの推理オタク、どこをほっつき歩いてるんだか……)

蘭「!」ハッ

蘭(今、私……想像で勝手に新一に話をさせて、想像に勝手に怒って……)

蘭(もしかして想像って、ものすごい力を秘めてるんじゃ……)

蘭(もし……この想像力を高めることができたら──)

蘭(私にもマッハ突き、できるかもしれない!)

この日から、蘭はイメージで自分の関節を増やす稽古に没頭した。

蘭(関節、関節、関節……)

小五郎「蘭、ビール買ってきてくれよぉ~……なくなっちまったよぉ~……」ウイ~…

蘭「ジャマしないでよ、お父さん! 今いいところだったのに!」

小五郎「な、なんだぁ!?」ビクッ



蘭(関節、関節、関節……)

園子「ちょっと蘭、どうしたのよ。さっきからボケッとして」

蘭「あ、ゴメン、園子……。ちょっと関節をね……」

園子「へ?」



そして──

パンッ!

蘭「う、打てた……」シュウウ…

蘭(今の音──あの夜に聞いた音と同じ!)

蘭(私の正拳が、ついに音の壁を超えたんだわ!)

蘭(そして同時に、“さらに威力を上げる方法”も分かっちゃった……)

蘭(でも、もしそれをやったら──)

蘭(きっと私の腕は……克巳先生のように……)

蘭(もう、マッハ突きのことは忘れた方がいいのかも……)

しかし、武の神様は、飛躍を遂げる彼女に更なるプレゼントを与えた。

蘭(今日はもう寝なくちゃ……疲れが明日に残っちゃう!)

蘭(それじゃ歯を磨いて……)

歯を磨くために、洗面台の前に立つ蘭。

蘭「!」ハッ

蘭(見つけた……)

蘭(私の……私だけのマッハ!!!)


──────

────

──

数日後、神心会での稽古を終えた蘭は、克巳に駅まで送ってもらっていた。

蘭「すみません……。私、オバケとかが苦手で……」

蘭「夜道を一人で歩くのが怖いんです……」

克巳「ハハハ、かまわないよ。いくら空手でも幽霊は倒せないもんな」

克巳「じゃあ、俺はこれで」

蘭「ありがとうございました」ペコッ…

ワァァ……! キャァァ……!

蘭「悲鳴……?」

克巳「この駅で、なにかあったようだな」

人々の悲鳴の原因は、駅内で暴れる凶悪犯であった。

凶悪犯「どりゃあっ!」ブオンッ

バキィッ!

高木「うぐっ……!」ドサッ

小五郎「ぐおっ!」ドザァッ

コナン「高木刑事! おっちゃん!」

コナン(ちくしょう、なんてヤツだ!)

コナン(高木刑事とおっちゃんを倒して)

コナン(俺の麻酔針やサッカーボールまでかわしちまうなんて!)

コナン(もし蘭がいたとしても……この犯人は止められねえかもしれねえ!)

克巳(なんだアイツは……)

克巳(かつての五人の死刑囚にこそ及ばないが──かなりの戦力だ)

克巳(今この場でヤツを制圧できるのは、俺しかいないだろう……)

克巳「毛利君、君は下がって──」

蘭「あの……私にやらせて下さい!」

克巳「しかし……」

蘭「お願いしますっ!」

克巳「……ワカった。毛利君、君に任せる!」



凶悪犯「次はあの小娘だァ!」ドドドッ

蘭「アアアアア……」コォォ…

コナン(蘭!? ──そうか、この駅の近くには神心会本部がある!)

コナン「蘭、逃げろッ! そいつはお前でも敵わねえ!」

凶悪犯「シイッッッ!」ブオッ

蘭「くっ!」サッ

凶悪犯の鋭いパンチを、間一髪でかわす蘭。



克巳(どうする気だ……ッッ)

克巳(拳か!? 足か!? いや、どちらでもない!?)

克巳(毛利君が髪を振りかざした!?)

克巳(ま……まさか……ッッ)

蘭(突きは当てるのではなく、引き戻す瞬間がもっとも速い……)

蘭(その時に生じる衝撃波を使った一撃こそが──)

蘭(私が到達した極意……“当てない打撃”)

蘭(でも、もし私がこの技を放ったら、きっと私の腕は骨ごと砕け散ってしまう……)

蘭(なら──腕や体で打たなければいいの!)

蘭(私のヘアスタイル……まるでツノのような形になっている部分……)

蘭(“ここ”を使う!)

蘭(この部分に骨があると、関節があると、ツノがあるとイメージして……)

蘭(“当てない打撃”を放つ!)

蘭(これが私だけが掴んだ──私だけのマッハ!!!)ブンッ



パァァァンッ!!!

凶悪犯「ぐはァ……ッッ」

ドザァッ……!

コナン「す、すげぇ……あの凶悪犯を一撃で……!」

克巳「おみごと……ッッ!」

しかし、蘭の髪型のツノ状になっている部分は、今の一撃で吹き飛んでしまっていた。



蘭(そうだよね……。頭にツノが生えてるわけないよね……)

蘭(魔法が……解けたんだわ)





                                   < 完 >

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毛利「解りました警部殿。犯人はビルのわずかな凹凸に指を引っ掛けて登り部屋に侵入したのでしょう」

目暮「馬鹿者!そんなヤモリみたいな真似が出来る人間がいる訳ないだろうが!」

コナン(おっちゃんの推理は正しい。そして犯人は恐らくあのロシアの人だろう・・・けどまだ被害者を切り裂いた凶器が見つからねぇ・・・)

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