のび太「うわぁぁぁぁぁっ!?」ピクル「ハルル……」 (55)

~ のび太の家 ~

のび太「ただいまぁ~!」

のび太「あれ、パパ。絵なんか描いちゃって、珍しい」

のび助「久しぶりに描きたくなってね」ヌリヌリ…

のび太「へぇ~、けっこううまいじゃない!」

のび助「これでも、昔は画家志望だったからね」ヌリヌリ…

すると──

ぬうっ……

ピクル「…………」

のび太「うわぁぁぁぁぁっ!?」

ピクル「ハルル……」

のび助「う~ん……」ドサッ

のび太「うわっ、パパ!?」

のび太(たしか、この人は……こないだテレビで大騒ぎになってた……原人)

のび太(ピクル……だっけ?)

のび太(な、なんで、ぼくの家に……!?)

ピクル「ハルル……」



ここで時間は、一億年以上昔にさかのぼる──

─────

───

遠い未来で『白亜紀』と呼ばれる時代──

ピクルは独り、ただひたすらに歩いていた。

遠くへ、より遠くへ──



ピクル「…………」ザッザッ…



己が生きるこの世界を堪能するため──

そしてなにより、より強いヤツに出会うために──

どのくらい歩いただろうか──

現代の距離でいうと、おそらくは数千……否、1万キロメートルはすでに歩いただろうか。



ピクル「…………」ザッザッ…



そんな時であった。

「ピューイ、ピューイッ!」



鳴き声が聞こえた。

この時代、生物の鳴き声など珍しいものではないが──

ピクルは鳴き声が聞こえた方角へと向かうことにした。



ピクル「ハルルル……」

ダッ!

すると──



首長竜「ピューイッ、ピューイッ!」モソモソ…

ズルッ…… ドサッ……!

首長竜「ピィ……」ヨロッ…

ピクル「…………」



一頭の首長竜が、穴にハマっていた。

登ろうとしても、柔らかい土のせいで登れない。

このままでは、この首長竜は餌も取れぬまま穴の中で力尽きるであろう。



この首長竜こそ──ピクルを含め、誰も“名前”を持たないこの時代において、

唯一名前を持つ首長竜、フタバスズキリュウの“ピー助”であった。

ピクル「…………」スッ…

ピー助「ピュイ?」

ピクル「ハルル……」ガシッ…

グンッ!

ピー助「ピィッ!」ドザァッ…



ピクルはピー助を穴から救い出した。

食べるため? ──否。

“弱肉強食”はピクルのルールにはない。

強いヤツ、向かってくるヤツしか餌としないピクルにとって、

強くもなければ向かってもこないピー助は、捕食対象にはなりえない。

ならばなぜ?

白亜の王者の気まぐれ……としかいいようがないだろう。

気まぐれでピー助を助け、立ち去ろうとするピクル。



ピー助「!」ハッ

ピクル「?」

ピー助「ピューイ、ピューイ!」

ピクル「ハルル……」



ピー助が、ピクルを見るなり、再び大声で鳴き始めた。

むろん、恐竜や首長竜の言葉など、ピクルには分からない。

分からないが──

時として、“想い”というものは、言葉をも超越(こえ)る。



ピー助「ピューイ、ピューイ、ピューイッ!」

ピクル「…………」



“コイツには大切な親友(とも)がいる”

“そして、オレをその親友(とも)の仲間だと思っている”

ピクルは言葉を持たないが、このような答えにたどり着いた。

そう、ピー助は──

かつて自分を育ててくれた親友──

野比のび太の面影を、彼と同じく二足歩行をしているピクルに見出していたのだ。

ピクルは身振り手振りで、ピー助に伝えた。



ピクル「ハル……」ブンブンッ

ピクル「ハルルル……」ブンブンッ

ピクル「ハルラァ……」ブンブンッ

ピー助「ピュイ……」



“オレはお前の親友(とも)の仲間ではない”

ピクルの返答に、ピー助は落胆したようにうつむいた。

すると、ピー助はピクルについてこいとでもいうように、動きだした。

拒否する理由もない。ピクルもピー助についていく。

ガサガサ……

ピクルがピー助についていくと──



ピー助「ピューイ!」

ピクル「ハル……」



ピー助の棲み家である、大海原が広がっていた。

ピー助は海に入ると、あざやかな手並みで魚をとり──

ピクルに差し出した。



ピー助「ピューイ、ピュイ、ピューイ!」ドサッ…

ピクル「…………」

ピクル「…………」ニカッ



助けてくれたお礼、ということなのだろう。

ピクルも快く魚を受け取った。

夜になった。

現代とは異なり、空には星がぎっしりと詰まっている。



ピー助「…………」ピュウ…

ピクル「…………」スゥスゥ…



輝く星に照らされながら、二人は眠った。

もう決して会えぬ友を想い、眠るピー助。

白亜の王者として、堂々と大の字で寝そべるピクル。

やがて、夜が明けた。

朝日が昇る頃には、ピクルとピー助は親友になっていた。

親友となるのに、時間は問題ではない。



ピクル「ハルル……」

ピー助「ピューイ……」



いつまでも、一緒にはいられない。

別れを告げるピクル。

ピー助「ピューイ! ピューイ! ピューイ!」

ピクル「ハルルァ!」



しつこいようだが、二人に言葉はない。

あえて二人のやり取りを言語化するなら、

“もし、ボクのトモダチを見かけたら、伝えて欲しい”

“ボクは元気でやっている、と”

“ワカった。必ず伝える”

といったところだろうか。

約束を交わした後、ピー助とピクルは別れた。

そして、二度と会うことはなかった……。



ピクルはT-レックスとの戦闘中、岩塩層に閉じ込められ──

ペイン博士のチームによって、現代に蘇ることになるのである。



─────

───

~ 東京 ~

烈海王、愚地克巳、ジャック・ハンマー、範馬刃牙との“死闘”──

刃牙と勇次郎による親子喧嘩の“見学”──

めまぐるしい日々を終えたピクルは、ふと思い出していた。

かつて交わした、親友(とも)との約束──



ピクル「ハルル……」



超直感ともいうべき感覚で、ピクルは確信していた。

この時代に、この東京に、ピー助の親友(とも)はいるのだと!

ならば、約束を果たさねばならないが──

さすがにそれがどこの誰かまでは分からない。

ならば、頼るしかない。

この時代の親友(とも)に。

~ 刃牙の家 ~

ピクル「…………」

刃牙「いやァ~、驚いたよ」

刃牙「まさか……君の方から俺を訪ねてくれるなんてね」

刃牙「ところでこないだは牙折っちゃって……ゴメン」

ピクル「ハルルァ!」ガシッ

ピクル「ハルル……ガルァ! ハルラァ!」ユサユサ…

刃牙「!?」



ピクルは言葉を持たない。

己の願いを、吠えることで、揺さぶることで、必死に訴えかけるピクル。

むろん、これが現代人である刃牙に伝わる可能性は極めて低いのだが──

刃牙(ピクルは俺になにかをしてもらいたがっている!?)

刃牙(して欲しい!? なにを!?)

刃牙(戦い……じゃない。なにかを欲しがってるワケでもない)

刃牙(なら人……ピクルはだれかに会いたがっている!?)

刃牙(すでにピクルは自由の身……会いたい人がいるなら自分で会いに行くハズだ)

刃牙(ってことは、それができない相手──つまり)

刃牙(ピクルは自分が知らない相手に会いたがっている……もっといえば)

刃牙(“人を探して欲しい”ってことか!?)



イメージとは、なにも姿形を思い浮かべるだけではない。

相手のことを理解(わか)ってやる力でもある。

刃牙の研ぎ澄まされたイメージ力は、ピクルの心にたどり着いた。

刃牙「ピクルッッッ!」

刃牙「だれかを探してるんだろう!? そうだろう!?」

ピクル「ハルルァッ!」

刃牙(この反応……マチガイない!)

刃牙「よし……ワカった」

刃牙「俺がなんとかするよ……必ず」

刃牙(とはいえ……いくらなんでも手がかりがなさすぎる)

刃牙(こういう時に頼りになるのは──神心会かなァ……やっぱ)

刃牙(克巳さんに……相談してみるかァ……)

~ 神心会本部ビル ~

克巳「……ナルホド」

克巳「ピクルがだれかを探したがっているのはマチガイないが──」

克巳「だれを探したらいいかワカらない、と……」

刃牙「ウン……」

ピクル「ハルルゥ……」

刃牙「人探しなら、やっぱり神心会に頼むのがいいのかな、って……」

克巳「オイオイ、ウチは探偵事務所じゃないぞ?」

克巳(ま……あながち否定もできないけど……)

克巳「他ならぬ君やピクルの頼みだ。もちろん、力になってやりたいが──」

克巳「だれを探していいかすらワカらないってのはな……ウ~ン……」

克巳「バキ……」

克巳「君のイメージ力で、ピクルが探してる人物を映し出すってのはムリか?」

刃牙「イヤ……さっきやってみたけどダメだったよ」

克巳(やったんだ……)

克巳「……ま」

克巳「こうして三人で話していてもラチがあかない」

克巳「寺田ァ、今すぐ門下生全員呼んできてくれ!」

寺田「オスッ!」

ずらりと並ぶ神心会門下生たち。



克巳「諸君……」

克巳「先ほど範馬刃牙からこんな依頼があった」

克巳「白亜紀の王者ピクルが、この現代で“誰か”を探しているというんだ」

克巳「俺も、ピクルとは拳を交えた仲、ぜひ力になってやりたい」

克巳「どんな小さな情報でもいい」

克巳「ピクルの探し人が誰なのか、思い当たる情報があれば、申し出て欲しい」

刃牙「…………ッッ」ゴクッ…

刃牙(克巳さん……すっかり館長だな……)

刃牙(愚地独歩の神心会ではなく、愚地克巳の神心会になっている……)

ピクル「…………」

ザワザワ……

門下生「オス、館長」

克巳「オウ」

門下生「自分、自宅が練馬区にあるンですが──」

門下生「少し前、近くの公園の池に怪獣がいるって騒ぎになったことがあって……」

門下生「結局、怪獣も恐龍も見つからなかったんですが……」

克巳「!」

克巳「そういえば、そんなニュースがあったな……よく思い出してくれた」

克巳「たしか、すすきヶ原にある公園だったな?」

門下生「オス」

克巳「現代に生きる恐龍、か……。もしかしたら、もしかする……かもな」

克巳「バキさん、ピクルを連れてすすきヶ原に行ってみよう!」

刃牙「ありがとう、克巳さん!」

それはピクルが、刃牙と克巳とともにすすきヶ原に足を踏み入れた瞬間に起こった。

“いる”

白亜紀の親友ピー助──が会いたがっていた人物は、この近辺(エリア)にいる!



予感や直感よりも、たしかな──絶対にいるという確信!

そのようなものを、ピクルの五体は感じ取っていた。

この時のことを、神心会館長、愚地克巳氏はこのように語っている。



克巳「ええ……いきなりピクルが奔(はし)り出したんです」

克巳「ビュアッというか、ギュアッというか……」

克巳「長年会いたくても会えなかった恋人に、やっと出会えた時のような──」

克巳「猛烈なスタートダッシュでした」

克巳「残された我々ですか?」

克巳「私と刃牙さんで顔を見合わせて──すぐ結論は出ましたよ」

克巳「“あとはピクルの問題だ。俺たちは立ち入らないでおこうや”……ってね」

しずか「さようなら、のび太さん!」

ジャイアン「じゃあな、のび太!」

スネ夫「じゃあな!」

のび太「うん、またね~!」



ピクル「!」ピクッ



まもなくピクルはのび太を発見した。

そして、すぐに直感(わか)った。

見た目こそ雌(おんな)のように虚弱だが、内に非凡な強さを秘めた少年──

あの少年こそが、ピー助がいっていた雄(おとこ)なのだと!

ピー助の親友(とも)なのだと!

短い期間で、ピクルは多くのことを学んだ。

今いきなりのび太の前に現れても、いたずらに驚かせるだけだ。

ゆえにピクルは、のび太が自分の棲み家に戻ってから、話しかけることにした。



のび太「ただいまぁ~!」ガチャッ…

ピクル「…………」



ピクル──野比家への潜入を決行ッッッ!

~ のび太の家 ~

ぬうっ……

ピクル「…………」

のび太「うわぁぁぁぁぁっ!?」

ピクル「ハルル……」

のび助「う~ん……」ドサッ

のび太「うわっ、パパ!?」

のび太(たしか、この人は……こないだテレビで大騒ぎになってた……原人)

のび太(ピクル……だっけ?)

のび太(な、なんで、ぼくの家に……!?)

ピクル「ハルル……」

玉子「のび太、なに大声出してるの──」

玉子「きゃあっ!?」

玉子「ああっ……」クラッ… ドサッ

のび太「ママっ!」

ドラえもん「どうしたんだい、のび太君」

ドラえもん「うわぁっ!?」

ドラえもん(この原人は……ピクル! どうしてこんなところに!?)

ピクル「ハルル……」

のび太「ドラえもぉ~ん! ぼく食べられちゃうよぉ~!」

ドラえもん「待ってて、今すぐ助けるからね!」ゴソゴソ…

ピクル「ハルルァッ!」

のび太「ひいっ……!」ビクッ

ドラえもん「あれでもない、これでもない~!」ポイポイッ



“敵ではない”

“伝えたいことがあるだけだ”

──と、いくら伝えたくとも、ピクルはそれを伝える術を持たない。

目の前の少年はただ怯えるのみ。

しかし、無理はできない。

刃牙のように揺さぶったりすれば、この少年はたちまち壊れてしまうだろうから。

そうなっては、約束を果たせない。

ピクルは考えた。

なにか──なにかこの少年に自分の意志を伝える方法はないものか。



ピクル「ハルルル……」キョロキョロ

のび太「ド、ド、ドラえもん……早くなんとかして……」ガタガタ…

ドラえもん「ろくな道具が出てこない~!」ポイポイッ

ピクル「!」ハッ



あった。

まだほとんどなにも描かれていないキャンバスに、色とりどりの絵の具。

これはきっと、平面に物を作り出す道具なのだ、とピクルは判断した。

これを使用(つか)えば、きっと──

ピクルは絵を描き始めた。

むろん、ピクルに絵画の心得などまるで無い。

構図も、色使いも、初心者未満のレベルであった。

しかし、心はこもっていた──



ドラえもん(原人が絵を描いてる……? でも、なにを描いてるのかさっぱりだ……)

のび太「…………」

ピクル「…………」ヌリヌリ…

のび太(ん? これって──)

のび太(もしかして……)

のび太(ピー助!?)

のび太(なんとなく分かる……これは、ピー助だ! ピー助の絵を描いてるんだ!)

のび太(そうか!)

のび太「君は白亜紀でピー助と会ったんだろう!?」

のび太「それで……」

のび太「もし、ぼくに出会ったら、ピー助のことを伝えてくれって」

のび太「ピー助に頼まれたんだろう!?」

ピクル「ハルルァ!」



ピクルには、のび太がなにをいっているかなど分からない。

だが、のび太の満面の笑顔を見て、ピクルは確信した。

伝わった、と──

ようやく、親友(とも)との約束を果たせたのだ、と──

ドラえもん「ほんやくコンニャク~!」

ドラえもん「のび太君、これを食べれば、ピクルと話ができる──」

のび太「いや、いらないよ。ドラえもん」

ドラえもん「えっ」

のび太「ピクル、ピー助は白亜紀で楽しく暮らしているんだね」

ピクル「ハルル……」

のび太「わざわざ伝えにきてくれて、ありがとう……!」



時差一億年以上の友情──

ピクルの手によって、ピー助からのび太へと伝わった。





                                   ~ 完 ~

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