女「秘技!」女「分身!」女「の術!」男「うわあああああ!!」(102)

男「何だこりゃ?!女の三つ子?!いやクローンか?!」

女「いいえ、秘技・分身の術よ」

女「これは私の男への愛が具現化した形、言わば愛の結晶」

女「そう!私は男を愛する余りに、有り余る愛が私と言う器の許容量を越えてしまった形!」

男「――えーと?」

女「今までの私では、男に対して一人分の愛しか男に伝える事ができなかった…でも!」

女「そう、この状態なら今までの私の三倍分男を愛せるのよ!だから…」

女「男も私達三人分愛してぇーーーーっ!!!」ダダダダダダ

男「意味がわからん!!うおおおぉぉぉっ!!?」

男「おい!待て!未だにさっぱり解らん!おい!後ろの女!どこに手を入れてる!やめろ!!ぬわああぁっ!!まずは離れろ!!!」ブンブンバッバッ

女「あら怖い」

女「やだ、何時からこんな乱暴になったのかしら」

女「傷付く…」

男「オーケイ、物分かりの悪い俺だが、ここは三百歩譲ってお前らは女の分身の術で増えた分身、であると仮定しよう」

女「仮定もなにも」

女「そのとおりですし」

女「おすし」

男「じゃあ本物、というか本体というか…メインはどれだ?コピーだとしたら原本はあるものだろう?」

女「いや、特にないわ」

女「逆に言えば全員本物?ほとんどは共有というかリンクしてるし」

女「愛が溢れて出来た形、とは言ったけど、溢れた愛そのものが私自身?みたいな…説明できてる?」

男「うーん、さっぱり解らん」

男「とりあえずこのままだと色々分かりにくいから、適当にナンバリングしていいか…?――お前1な」

女1「やたっ」

男「2」

女2「えー…」

男「3な。何か悪いな」

女3「ま、許したげる」

男「まあ記憶共有してるならナンバリングする意味もなさそうな気がするが、俺が解らなくなるからそこは我慢してくれ」

女1「はーい♪」

女2「何よ…一番に選ばれたからって…ムカつくニヤけ顔ね…」

女3「貴女、私の顔でしょ」

男「感情は共有してないのな…で、三人に分身って事は、元々女の中には三倍の愛が詰まっていたって事でいいのか?」

女4「ん?別にまだまだ増やせるわよ?」

女5「お望みならいくらでも出せるわ」

男「おい折角番号ふったのに――いや問題はそこじゃない…頭痛くなってきた…」

男「おい、これ以上増やすなよ?只でさえ狭い部屋なんだから、愛で溢れてパンクしちまうぞ」

女4「私も男への愛でパンク状態だよ」

女5「だから男が受け止めて」

男「あーもう…つーか増やせるんだったら戻す事は出来ないのか?」

女1「え、戻すの?」

女2「まあ戻すって言うかは…」

女3「出来る事は出来るけど…」

男「いや無闇に増やされるのも困る訳で…」





女4「殺せば減るよ」

男「――…っ」

女4「言わばマリオの残機ね。死ねば-1。馴染み深いでしょ?」

女5「ま、私達の残機が尽きるのは考えにくいから、ゲームオーバーはしないだろうけどね」

男「…それは、何だ?お前らが殺し合うって事か…?」

女1「――えっとね。解りやすく言えば、私、男になら殺されてもいいよ」

女2「つまりはそういう事。男に取って邪魔になったら私達を殺せばいいの」

女3「手を下すのが面倒なら私が自ら命絶ってもいいよ?死体の処理も面倒だもんね」





男「――カ」

女4「…え?」

男「…バカっつったんだよ…っ!」

女5「…っ」

男「いくら…分身だからって、女を殺すなんて出来る訳ねーし…死なせる事なんて…させる、かよ…っ!」
女4「…」

男「…第一、俺がそんな事、すると思うか…?俺だって、女の事、すごく大事な人だって…思ってるし、無くしたりしたくない…」

女1「…うん、男は絶対に、そんなことしない」

男「そんなの…絶対…嫌だ…だったら…全部俺が面倒、見るからさ…そんな事言わないで、くれよ…」グスッ

女2「…うん、ごめんね…なんか変な事言っちゃって」ナデナデ

男「…」

女3「ちょっと男を試してみたかっただけなの。ほら、私にこれだけの愛があると普通の人じゃ重すぎるかもしれないから…」

女1「男なら大丈夫、きっと全部私を、私達を受け止めてくれるって解った。今はっきりと確信したよ」

女4「うん…でもまさか本気にするとは思ってなくて…」





男「――今、なんつった?」

女5「今までのウソでしたー♪」



男「」

男「うううううぅぅぅぅぅぅ…ううぅぅぅぅ…」プルプル

女1「あちゃー、顔真っ赤…本当にごめんね。コケにしたかった訳じゃなかったの…」

女2「そうそう、ただちょっとだけシリアスというか、真面目に深刻な空気を出してカマかけたかっただけ」

女4「後、ウソって言ったけど本当にウソばかりではないよ?」

女5「男に対する私達のこの気持ちと覚悟は、紛れもない本心。それだけは容赦してね」

男「――うぅ…じゃあ、分身って言うのは?」

女1「それも本当。ただ、数を減らす事は任意で可能ってこと……破っ!!」

女4「えー、もう終わり?」シュンッ

女5「物足りないなぁ」シュンッ

女3「ま、ガス抜きには良かったかしら?」シュンッ

女2「よいしょっ」シュンッ



女「――とまぁ、この通り」

女「今回は1番の私が残ったけど、誰でも同じ私自身だから、誰が残っても誰が消えても、全員分の私が一つになるだけ。それぞれ各個の記憶は全て混ざって私になる、って感じ」

男「…本当に消えたな……これで分身の事もウソなら良いんだけど…」

女「あら、まだ何か不満?」

男「何かも何も…いや、うん。分身が消えたのは本当に死んだりとかって事じゃないよな?大丈夫だよな?」

女「はー、あまり解ってない感じかな…?この分身は『私から産まれた』というよりも『私が分かれた』って感覚に近いの、質量的なものに差異はないけどね」

男「んん?」

女「一方一つになる時には、分かれた私達の経験や記憶を破棄、すなわち死なせる、殺すとかはせずに全てが混ざり合って戻る。記憶の整合性や矛盾点も出てくるけど、戻る時はそういう所で脳に負担が結構かかったりするから、分かれた数が多い場合はいっぺんに戻す事はできないかな」

男「なるほど、さっぱりだ」

女「とにかく、簡単にまとめればどの私が消えたとしても、全員分全部覚えてますよって事」

男「まあそれはいいんだけど、もう一ついいか?」

女「どうぞ」

男「もしお前ら女達の分身が実際本当にケガをしたり、致命傷となり死んだりした場合はどうなる?一つになった時に死ぬのか?それとも本当に残機があるのか?」

女「――えーとね、それも多分半分ウソ…かな。というのも試せてないんだ。もし試しに死んでみて取り返しがつかないなんて事にはなりたくないし、どの分身も私そのものだから自我がある分、自分からケガをするとかの痛い目になんか遭いたくないし」

男「そりゃそーだったな」

女「ま、いざという時にはどんなに分身していたとしても、男が私達を全部守ってくれるだろうし…ねー?」ニヤニヤ

男「ぐぬぬ…」カアアアァァッ

女「他に聞く事は?」

男「いや、また疑問に思った時にまた聞くよ」

女「うん、解った……にしても、分身は色々捗るわよ、」

男「まぁ単純に処理も倍化、三倍化できるから仕事がすぐに消化できるな。羨ましい限りだ」

女「夜の4Pとか」

男「まあまて」

男「後、現時点で体の異常とかはありそうか?分身する事自体の副作用とか」

女「心配ご無用。さっきも言った通り、いっぱい出し過ぎると戻す時に脳の処理が追い付かなくなって、頭が悲鳴を上げる以外はなーんにもなさそう」

男「――いきなり倒れたりしないだろうな」

女「もー、心配性なんだから男は」

男「そりゃ心配にもなるわ。あくまでも俺たちはその…そういう関係なんだし、少しでも悪い所があったら言って欲しいし、相談してほしい。――さっきのみたいに悪趣味なのはもう勘弁してほしいけどな」

女「あ、一つあるかも」

男「なんだ?」

女「お腹が空きました」

男「…メシでも食いに行きますか」

男「にしてもいつからそんな芸当が出来る様になったんだ?」

女「割と最近かな。多分あの時の事がトリガーだと思う。あれからずっと愛が止まらないし、増幅してる感じがする」

男「あの時?」

女「んふー、アレですよ。なんなら今から本当に4Pしちゃいますかね?」

男「…あ、なるほど」

女「え!二回目でもううしろを開発するつもりなの?!」

男「『あ』『なるほど』だからな、『あ』『なるほど』な。本当に思考回路がオヤジなんだから…」

女「あ、吉野家いいんじゃない?ここで食べようよ」

男「ほら、やっぱりオヤジだ」

男「量は五人前頼まなくてもいいのか?大丈夫か?」

女「何か心配症通り越して皮肉にも聞こえて来た…でも大丈夫よ。一人に戻れば一人前で十分なのです、人を大食漢みたいに言わないでくださる?」

男「特盛が一人前ねぇ…あっつ!!」

女「あ、店員さんすいませーん。お茶をこぼしてしまったのですけども…」

男「わざとだろ今の!事実じゃないか!特盛頼む女性なんて今まで見たこともないし!」

女「――今度のお茶は淹れたてよ?」

男「特盛おいしいですね」

男「五人に分身しても、食べる時に一人になれば一人分の食事で済むなんて都合がいい話だな」

女「都合良く出来てなきゃ、普通分身なんて成り立たないと思うの。自分で言うのも何だけどね」

男「愛の力って奴なのか」

女「そうよ。まだ解らない事は多いけど、こんな能力を得た以上、私は最大限にこの力を活用させてもらう事にする。何しろ便利だしね」

男「みだりに使わない方がいいと思うんだけどな…」

女「何で?別に今のところ何の異常もないのに?」

男(俺としては懸念点だらけで、そんな楽観視出来る問題じゃないんだけどな…)

女「そんな神妙な顔しないでよ。絶対男のためにしか使わないから」

男「それはそれで勿体ない気がする。もっと大事な事のために取っておいた方が…」

女「というか、男への愛で出来た力なんだから、男に向けたものであったり、男に関係する事でなければ分身は出来ないわよ?」

男「なるほど、そういう事だったか」

女「男の為なら何でも出来るよ。その為に神様が授けてくれた能力って信じてる」

男(有り難く享受する他ないのだろうか。確かに心配症なのは自覚もあるが)

男「さて、帰るとしますか」

女「――ねえ。今日、そっち泊まってもいいかな?」

男「あー…まぁまだまだ聞きたい事もあるしな、隠された能力とか、細かい条件やリスクも探ってみたい」

女「(こんな誘いを女性から受けたら、普通男性なら分身プレイしてみたいとか言うだろうが…)」ボソッ

男「え、何?聞こえなかった」

女「何にも」

男「そうか。冷蔵庫に何かあったっけかな、買っていくか?」

女「お酒」

女「再度お邪魔します」

男「コップとか出しとくから待っててくれ」

女「うん、コタツ電源入れとくね」

男「酒はもうあけるのか?」

女「梅酒とビールー」

男「一人で飲むのか?」

女「男も飲むんだよー?」

男「しょうがないなあ…」カキッ

女(酔わせて一発を狙っていかないと)

男「よいしょっと」ゴト

女「何で向かいに座るのよ。隣に来なさいよ」

男「流石に狭い、こたつ小さいんだから」

女「…ま、いいか。方法はあるし」グビッ

男「おいまだ乾杯してないぞ」

女「かんぱーい」

男「全く…」

男「じゃ、さっきの続きかな」

女「えー、もういいよー。今日はお酒飲み明かすだけにしようよー」

男「取り敢えず、歩いてた時に考え付いた仮定が二つ程挙がった」

女「するんかい」

男「分身から戻った時にどうなるかの結果だが、一つは分身した各個の身体的状態も記憶と同じ様に、加算されていく説」

女「例えば分身が傷を負っていたら、戻った時にその傷がそのまま残る、って事かな?」

男「さっき分身を解いた後、空腹を訴えていただろ?あれはエネルギーが分身分消耗されて、分身を解き一つに集まった時に全ての消耗分が加算される。それがさっきの腹減り要因の一つなんじゃないだろうかと思って」

女「それぞれの分身がダメージを受けすぎると、全ダメージが解いた時に纏まっちゃうのか。一定の許容量を越えたら命を落とす、みたいな」

男「もしくは分身が一人でも致命傷を受けた場合も、その分身を解いた瞬間に女は死ぬ、って感じだ。あまり考えたくもないが」

女「割と信憑性はあるけどどうかなー。それなら全員分の疲労とかも溜まりそうなものだけど、分身による疲れとかはイマイチ感じないのよねー」

男「それならもう一つのだ。分身した数だけ均一化される、いわゆる割勘だ」

女「5人分身したら戻った時にそれぞれ5分の1ずつ加算してくる、って事かな。」

男「それならどんな数の分身で動いたとしても、集まれば大方一人前の疲労で収まる」

女「式で表すとすれば分身の数×消費エネルギー÷分身の数かな」

男「そんな感じかな」

男「いずれにしても、分身が傷付いたり取り返しのつかない状態になった場合は、その分身だけは戻さない方がいいのかもしれない。が、それが出来るならの話なんだ…そこんとこはどうだ?」

女「一応解除する対象は選べるっぽい」

男「そうか。なら問題は、その分身をどうするのかって話になる訳だが…何らかの手段でローリスクで元に戻せればいいんだけど…」

女「――男って本当に優しいよね」

男「?…何だ急に」

女「正直言って、私自身ですら自分の分身に対して『解いたら不味くなるなら破棄しちゃえばいいのに』とか思ってたのに、男は全くそんな事を考えてない。たくさんある内の一つなんだから、なんて微塵にも思ってない感じがする」

男「…そりゃ当たり前だ」

女「分身の一人一人でも、それぞれを私として大事にしてくれてるって事よね。何かもう、それだけでも幸せだなぁって思ってさ」

男「…何時とあろうと、俺はお前を守ると決めた。それは分身の女も漏れなくだ。もしもの時は全員俺が守らなければならない…そうならない事を願う、だけじゃ他人事みたいな考えで終わるだろう」

女「…」

男「――さっきそう誓ったばかりだしな」





女「………えへー」

男「どうした」

女「いやー、もうね。愛しさが止まらないっす。どうしてくれるんすか男さん」

モゾ

男「ん?!コタツの中に何かいるぞ?一体何が…」



女2「ばぁ~~~~~~~~っ」ガバァッ

男「うあっ!」ドタッ

女2「捕まえたー」ギュー

男「お、おい、女!コタツの中に分身潜ませてたな!?」

女1「いやーつい漏れちゃいまして…」

女2「漏れちゃいましたー」

男「この…大分酔ってるな!おい2番!」

女2「コタツの中にいると酔いが回って回って…あぁん男の体かたくておおきーい、ずっと抱き着いていたいなー」ギュー

女3「ホント?私にも抱きつかせてー!」ガバァッ

女4「ちょっと、私も混ぜてよ。独り占めはずるいわ!」ガバァッ

男「次から次へと…俺のこたつは四次元にでも繋がっているのか?」

男「――つい昼前にも同じ出来事があった様な…」ギュウギュウ

女1「デジャブって奴?気のせいの場合が多いあれ?」

男「お前にもその既視感があるはずなんだが?」

女2「男の胸板あったかーい」ムギュー

女3「お客さーん。肩、こってますネー」ギュムギュム

女4「でも手が冷たいね…内股で挟んで暖めてあげる」ギュー

女5「うううぅ…どこから抱き着けばいいか…もうちょっと詰めてよー…」オロオロ

男「数の暴力はいけないと思うんだが」

女1「まとめて面倒、見てくれるんでしょ?」

男「早くも後悔してきた」

男(この量を相手するって、俺の体が持たないと思うんだが…主に物理的に)

女2「男、暖かい?」ギュー

男「全身ポッポして熱出てるかもってくらいだ、あー風邪かもなー」

女3「じゃあ暖かい運動して汗かこっか」モミモミ

男「何の運動ですかねえ?!」

女4「…ねえ、耳貸して?」スッ

男「な、なんだ?」









女4「――――ちゅるっ」

男「~っっっ?!」ビクン

男「お…おまっ耳に舌入れたら汚いだろ!何考え」

ペロッ

男「あふ――っ、首筋舐めるのやめろぉ…くすぐったいだろ!」

女3「あーもう!頭に押し付けちゃえ!」ダキッ

男「後頭部に枕が?!」ギュムギュム

ジ ジィーー…

男「!!おい!誰だチャック開けたの!?」

女1「ん~??」

女2「さぁ~??」

女3「誰でしょぉ~??」

女4「わっかるかなぁ~??」

女5「詰めてよー!!」

男(くそっ、2番が真正面から抱き着いてるし、頭はおっぱい枕で固定されてるから股間の状況が確認できん!ここは…)

男「――まあまあまあまあ、ここは一旦休戦と行こうじゃないか。穏便に、平和的な解決を。数に物を言わせるような戦い方では決して…」

男(自分で言っといて何だが、少し酒が入っているせいとは言え変だな)





女2「――男、お腹に当たってるよ」

男「うぐっ」

女3「あててんのよ」

女4「じゃあ問題。ズボンのチャックを開けたのは果たして誰でしょう!?」

女1「見事正解した場合は解放してあげる、平和的でしょう?」

男「不平等というか不条理な気がするが乗った!」

男(打開への道は開いた!ならば消去法で消して勝利を導くだけだ)

男(軽い酒池肉林で頭の回転が鈍くなっているのが懸念される所だが、これこそ女達の罠!耐えて冷静に物事を運び、正解を叩きつける事さえ出来れば俺の勝ちだ!)



男(まず女1は対面にずっと座っていてこっちに近寄る素振りすらなかった。足を伸ばせば届くかもしれないが、可能性は薄いので除外)

男(女2も正面から抱き着いて腰辺りに手を回している状態だから除外。流石に腹で開けるのは無理がある)

男(女3は後ろから抱き着いてはいるが、ファスナーが下ろされた時は胸を押し付けていた筈だ。両手は塞がっている、除外)

男(となると女4は俺の左手を内股に挟んで腕に絡み付いてはいるが、絡み付いてるのは片手だけでもう片手はフリーの状態だった…つまり…)

男「と見せかけての5番!お前が犯人だ!」ビシィッ

女5「えっ」

男「4番のフリーは言わばフェイク。近い人間で手が残っている相手を疑いたくなる心理をついたトリックだ」

男「そう、最初からウロウロと抱き着こうと狼狽していたのはただのフリであり、その実!いつファスナーに手をかけるかの機会を伺うための布石だったのだ!」

女5「そんな…私は…」

男「そう、遠からずも近めの距離を離れず、ウロウロと回っていた中で俺の意識が他に向いた一瞬の隙を突いて!」

シュバッ

男「――ファスナーに手をかけた。違うか?」












女1「結果はっぴょーう」

女1「さーて果たして正解となるのだろうか?!デュルルルルル……」

女2「デュルルルルル……」

女3「デュルルルルル……」

女4「デュルルルルル……」

女5「デュルルルルル……」

女1「デュルルルルル……」

男「いや長いから」

女1「デン!!」





女「「「「「ふせいかーい!!」」」」」

男「何…だと……」

女1「不正解だと」

男「何故だ、推理は悪くないはずだ!この5人の中で5番以外に開けた奴がいると言うのか?!」

女2「おっと、男さん今5人と申しましたかね?」

女3「いいセン言ってますねー…だがしかし!後一つ届かなかった」

男「…どういう事だ」

女4「それじゃ正解の発表でーすっ!」

女5「犯人だーれだ!!」




バサァッ

女6「呼ばれて飛び出せ!コタツの下からコンバンワーーっ!!」ダキッ

男「うぇあっ!」

女6「犯人はこたつから手を出して潜伏してた、私こと6番でしたー!」

男「ひっきょうな!!」

女1「先に言っておきますと、5人の中からとは一言も申しておりませんが」チビッ

女2「フェイクや罠なんて男が言ったもの以外にもたっくさん仕込んだもんねー」

女3「いやーまんまと不平等な賭けにも乗ってくれちゃったし、お酒の力って怖いわよね」

女4「ま、それも策として練った一つなんだけどさ」
女5「さて、男?覚悟はいいかしら?」

男「――なんのだ?」

女6「男が勝った時は解放だけど、私が勝った時の話はしてなかったわよね?」



男「しまっ――た……」





女1「今から全員で男を一晩中犯し回しまーす!!!」

女「「「「「Yeahhhhhhhhhhhhhh!!!」」」」」

男「oh.........」

女2「ささ、脱ぎ脱ぎしましょうねー」ヌガセヌガセ

女5「はい、まず一枚ー」バサッ

女4「ボタン一つ一つに手をかけて、焦らす様に脱がすのって…扇情的よね。逆にこっちがもどかしくなっちゃうわ」プチ

男「――おい、服の中に手を入れるな」

女3「ん?ごめん手が冷たかった?」

男「そういう、んっ 訳じゃないが、乳首を摘まむな」

女2「感じる?」キュッ

男「っ…責められるのは苦手なんだよ」

女6「んふふ、あの時のお返しよ」

男「あれは俺がリードしただけだろ、初めてだって言うから」

女3「初めてだから優しくして、って言ったでしょ?まさかあそこまで気持ち良いなんて思わなくて…」

男「何だ?復讐か何かなのか?これは」

女1「正解」

男「――その言葉はさっき言って欲しかったな」

女1「いいから大人しくしてなさいって。優しくしてあげるから」

男「優しくって…嘘だろ、相当根に持ってないか?」

女2「うーん、まあ仕返しも兼ねてかも知れないけど、普通に男が好きだから、こうしてあげたいから、って部分が大きいの」

女3「せっかく分身できる様になったからってのもあるし、私一人じゃ出来ない事で男を悦ばせてあげたい」

女5「本当に嫌ならやめるわ。同じ顔が並ぶと気持ち悪いとかあるなら」

男「そう自分を卑下すなって…言っておくと気持ち悪い訳ではないから」

女6「じゃあ下も脱がしてあげるね」カチャカチャ

男「おい、何がじゃあだよ」

男「そんなに分身プレイしたいのか?」

女1「…そんなに私としたくないの?」ショボン

女23456「」ショボン

男「――あーもう分かった!!今夜はいくらでも好きにしろい!何人だろうが相手になってやる!!」

女1「ホントに?!」

男「ああもう干からびる覚悟はした!ただ、コタツの中は流石に無理があるから、寝室に移動してからだ!これだけは譲れん!!」スクッ

ガクッ

男「あがっ、ズボンが足に引っ掛かった!」フラッ

女3「きゃっ」ズルッ



バキッ!!!!!!

男「へぶらっ」

女1「ああっ!男?!」

女2「思いっきり後頭部ぶつけたわね…」

女5「ちょ、ちょっと大丈夫?」ユサユサ

男「」

女6「死んでないわよね…」

女2「うーん…大丈夫みたい。意識だけトんでる状態かな…」

女4「うわ、でっかいコブ」サワサワ

男「」

女2「あんまり触っちゃだめよ」

女3「ああ…私がしっかりおさえていれば…ごめんね男…」

男「」

女1「え、じゃあこれ失神してるって事は…」



女6「………今日はおあずけって事かな?」

女1「そりゃないよ~……」ガックシ

女2「いい流れだったのにー」

女5「とりあえず布団に運ぼうか。このままだと男、上も着てないし下半身丸出しだから風邪ひいちゃうよ」

女3「そうね、人手はあるし、あっちまで持ち運びましょう」

男「」

ドサッ

男「」

女1「ふぅ…コブに氷嚢置いたし、こんなものかしら」

女1(正直このまま睡姦とかしてやりたいけど)

女2(流石にそれは本当に本格的なレイプになるのでやめとこう)

女3(そもそも元の原因は私みたいなもんだし…)

女4(でも、男の無防備な寝顔見てるだけで抑えが…)

女5(――あー、我慢できない。でも気が引ける。一体どうしたら…)

女6(だったら…せめてもの……)






チュッ×6

女「――ま、こんなもんか…」シュンッ

――チュンチュン、チュンチュン…チチチ…

雀「フライドチキンが食べたいでチュン」

男「…浸かりたい油の温度はどれくらいがいい?選ばせてやろう」ムクリ

雀「ひっ」バサバサッ



男「朝か…昨日は一体何を…」

ズキッ

男「?!っ痛!!頭がすごく痛い!後頭部辺りが特に!」

サスサス

男「――うっわ、クソでかいタンコブできてら。一体いつぶつけ…」


ズキッ


男「…あー、思い出した気がする」

男「結局あれで失神してあの場は回避したのか…俺にとっては怪我の功名かもしれないが、女には悪い事しちまったな…」

カサッ

男「…ん?置き手紙?」



おはよう!昨日はごめんね!少し悪ふざけが過ぎちゃってたかも。
打ち所が打ち所なので、今日は大事を取って休んでてください。氷も多目に作っておきました。
あとご飯作っておいたので、是非食べてね!
________女



男「あまり気負いはしてないみたいだな、良かった良かった」ガサッ

男「――しかし朝飯の量が明らかに多いな、女の胃袋を基準に作られても…」

男「げふぅっ……残さず食ってやったぜ…」

男「…取り敢えず今日はどうしようか、特に何もする事もないし、女もいないし…」

男「適当にゴロゴロしてるか…後はネットで分身の原因を探したりとか、家で出来る事をやろう」

男「『頭ぶつけてビッグサイズたんこぶナウ』っと…」カタカタ

『頭ぶつけてビッグサイズたんこぶナウ』

女「元気に起きれたみたいね…よかった…」

女「安心したらお腹すいてきちゃった…何処かで食べちゃおうかしら…」

テクテケテクテケ

ピタッ

女「…ここは…カレー店?立て看板がある…どれどれ…」

制限時間20分間!12人前カツカレーを完食出来ればお代はいりません!随時挑戦者求ム!



女「――これは…入るしかないわね」

店員「いらっしゃいまカレー。空いている席へどうぞお座りくださカレー」

女(それなりに客入りは多いみたいね)

店員「ご注文は何になさいまカレー?」

女「えっと…外に書いてあった12人前カツカレーって言うのを見たのですが…」

店員「オウ!まさかカツカレーチャレンジャーの方カレー?!わっかりましカレー、ご注文承りましカレー!ただ、今丁度他の方もチャレンジされるみたいですカレー、ご提供までにちょっと時間がかかるカレー、少しお時間頂きますがよろしいでカレー?」

女「えっ、そうなんですか。いやまぁ、時間がかかるのは仕方がありませんし大丈夫です」

店員「それでは少々お待ちくださカレー!」

女(へー、私以外にもチャレンジする人がいるのか)

店員「お客様、大変お待たせしましカレー。そしてこちらの都合で大変申し訳ございませカレー、時間の計測の関係上他のチャレンジャーの方と相席にて、同時に計測させて頂いてもよろしいでカレー?」

女(あ、そうなるのか、なるほど…うーんフードファイト的な見せ物になりそうであまり好ましくはないけど…)

女「――いいですよ?こちらが移動すればいいんですかね?」

店員「お手数をおかけしまカレー」

女(ま、男もいないしいっか。それに、私以外のチャレンジャーの人がどんなのか見てみたいってのもあるし)

店員「それではお席にご案内しまカレー」

店員「こちらのカウンター席でお待ちくだカレー、すぐにブツを持ってきまカレー」

女「はい。あ…すいません、隣失礼しますね」

ごっつい男「あ、ああ。どうぞ」

女(…この人がその私の他にチャレンジするって人かな?中々に食豪っぽい人ね)

店員「よいっしょカレー!お待たせしましたカレー!こちらがチャレンジカツカレーになりまカレー!」ゴドンッ

女(うわ、思ってたよりも12人前って多い…というより、このお店の1人前が割と多目な量なのかしら…うわぁ、カツも分厚い、これは本当に食べごたえありそう…っていうか本当に食べきれるのかしら…)ゴクリ

店員「それではチャレンジカツカレーの準備も役者も揃いました事でカレー、開始したいと思いまカレー」

女「えっ、あの…こちらの男性の分がまだ来ていらっしゃらない様ですが…?」

店員「??この方はチャレンジャーではありませカレー、左では無く右の方がチャレンジャーですカレー」

少女「………」

女「えっ、え?あっ…はいすいませんっ………え?」

少女「……取り敢えず、よろしくお願いします…」

女「よ、よろしくお願い致します…」

女(――えーっ!こんな、こんなに体躯の小さい子がこの量に挑戦するの?!というか、こんな小さい体の体積と、皿に盛られたカレーのカサ的に無理があるんじゃ…?色んな所からカレーが漏れちゃいそうだけど…)

店員「それではチャレンジタイムは泣いても笑っても20分間カレー。それまでに皿のカツカレーを全て胃袋にぶちこんで下さカレー!それでは…準備はよろしカレー……?」

女(本当にチャレンジしちゃうのこの子?1人前ですら危なさそうなくらい華奢な体つきなのに…)

少女「……はぁ、そんなに意外ですかね?あまり私を甘く見ないで欲しい…それより、自分の心配したらどうです?」

女「え?」



店員「チャレンジ、スタートカレー!」ポチッッッ

ガツガツッガツガツガッツガツッ

女(くっ…何口か食べ進めてみて解ったのは、この店のカレーは結構『重い』という事だ…)

女(勿論物理的な意味で質量の重さを表している訳ではなく、味付けや使っている材料等によるものだ)

ガツガツガツガツッ

女(…決して不味い訳ではない、むしろ私の知っているカレー屋の中では割と私の好みの味付けに近い。おそらく油分を多用しているからだろう)

女(具が少な目の代わりにその油たっぷりカレールーの比率が高いので、一発一発の胃袋へのパンチが効いている。辛さは抑えめにしてもらっているせいか、バクバクと食い進める事が出来るが油断は全くできない)

バクバクバクザックザック

女(そしてこのカツ、カツも12人前あるせいかかなり多い。肉はロースだが、カツカレーのカツはロースで十分であり、前述の油の多いカレーであれば、むしろロースの方があっている)

女(しかもそれだけじゃない。こちらもカレールーに負けず劣らず油と脂が強い。中々に絶妙な揚げ具合であり、一切れを噛み締める度に旨味の肉の汁が口の端から何度も漏れかけたりしている。カロリーを最大にまで閉じ込めた揚がり方だ。まるでロースとは思えない)

ガッッッガツガツッゴクッ

女(いいスタートを切れているはずだけど、皿の上の山が一向に削れる様子が見られない果たして本当に間に合うのかな…)

女(確かに自分の事で精一杯かも知れない。思っていたよりも甘く見ていた事に痛感させられた)

女「しかし、それでも隣の様子が気になる」

少女「もくもく…」ガツガツモグモグパクパクシャキンシャキン

女「な、んだ…と…」

女(開始からまだ5分間程度、しかし既に8割強を平らげている?!)

女(不正か何かしているの…?いや、店員の驚愕している顔、そして実際に彼女がスプーンを口へと運ぶペースを鑑みてもこれは妥当な結果…おかしいのは彼女自体の食のスピード…っ?!)

ガツガツガツガツモグパクシャキンパクパクシャキンシャキンシャキンザックザックシャキン

女(――人外じみている。食道が裂けてしまうかの様な食べ方。細い喉がつっかえてしまうほどの量を口に詰めてそのまま飲み込んでる形だけど、苦しい顔一つとして見せていない…呼吸出来ているのか不安になる)

女(この子、一体何者なの…)

ザックザックモグモグカッカッカッグイッシャキンバクバクバク

少女「――ごちそうさま…」カランッ

店員「…は、はやーい!こんな早く食べる人初めてカレー!えっと、ただ今の記録は…」

少女「…言わなくていいです。記録には興味ないですから。ただ腹が満たされればいいんで…」ガタッ

店員「えっ、もう出ちゃうんですカレー?!記念撮影とか…」

少女「…はぁ、面倒なので遠慮します…お代も払わなくていいんですよね、ならこれで失礼します…」

ギィ

少女「――あと、福神漬けくらいは添えるなりカウンター席に置くなりしてください。それでは」

カランカラン…



女(もしかして福神漬けまで12人前食べる気だったのかな…?)

店員「うぅー…折角の大記録なのにカレー…あ、でもおネエさんも中々にいいペースですカレー!この調子で是非頑張ってくださカレー!」

女「いやいや…体一つだと、中々にツラいものがありますけどね…普通の人間なら」ガツガツ

店員「記録は14分27秒カレー!いやーおネエさんも十分凄いカレー!今までのチャレンジャーと比べても早い方カレー、加えて女性チャレンジャー初の快挙を成し遂げましたカレー!」

女「厳密には先程の方が女性初になっていたはずでしたけどね」

店員「細かい事はお気になさらずカレー、それでは記念撮影いってみまカレー!いきますよ、はいっチーズカレー!」パシャ

女(あまりオンナとしては競うべき所ではないと思うけど、まさか私より上が…それも遥か上とむざむざ気付かされたのは悔しいわ…)

女(分身すればもしくはもっと早く完食出来たかもしれないけど、そもそも男のため以外の事では分身出来ないもんね…)

男「――……」カタッカタカタカタッターン…カチッ

男「……そ…、そんな…嘘だ…ろ…?」

カタカタカタッカタッ

男「こんな…まさか、こんな……これって………」









男「おげえええぇぇぇぇぇっPS4国内発売延期かよぉおおおおおおおおおぉぉぉうわああああぁぁぁぁぁぁんんっっ!!」

男「――ぬぁああ、疲れたああぁ~~ん~~~…」ボキボキボキボキ

時計「18時」カチコッ

男「ん…もうこんな時間か」

男(結局分身の原因とやらは解らなかったなぁ…当たり前っちゃ当たり前かもしれんが、前例とか治療法があればなぁとか期待してみた…けど)カチッ

ギシッ

男「――せめて後遺症や副作用だけでもなんとか分からんもんかねぇ…」

男(かといって全く収穫がない訳ではない)

男(昨晩は女が調子に乗って分身を出していたが、分身する前には酒を飲んでいて、俺に負けず大分酔いが回っていた)

男(俺の見間違いとかではない限り、その状態で分身をした結果分身の女全員も酒に酔っている様子だった)

男(この事から察するに、分身した時に別れた女は、分身する前の女の状態に依存し、そのまま×分身数として反映される。という可能性が濃厚だ)

男(……)

男「………だからなんだって話なんだよなぁ…」ポリポリ

男「分身が傷ついたりした場合はってのが知りたいんだよぉ…教えて下さいよぉコタツさぁん…」

ボフッ

男(何言ってんだか俺…)

男(………なんか、女の匂いがする、昨日のアレでコタツに染み付いちゃったんだろうな…)

男(――いい匂いだ)







ムクムク

男「…///」ムラッ

女「…?このニオイは……?」

女「…イカ?」





おっさん「どうですか焼きイカ!おっそこのお嬢さん、どうですか、今晩のオカズに焼きイカ・イカメシ・イカリング!」

女「公園に焼きイカの屋台か……じゃあ、イカメシ8個で」

おっさん「彼氏さん結構食べるねえ、それとも家族へのお土産かい?」

女「いえ一人で」

おっさん「お、おう。そうですかい」

女(さっきの事が軽くショックで食事が喉を通らないかもしれないわ…)

男「――無駄打ちしてしまった」

男(だって昨日の女が悪いんだぞーあんなタチの悪い誘惑してきて、数の暴力に任せた責め方してきて、こんな置き土産まで残して…)

男「…言い訳は良くないな、うん」



ピンポーン♪



男「ん?女か?連絡もなしにまさか連日で来るとは…ってやべ、リセッシュ片付けねえと!後ティッシュでイカ臭いのごまかさないと!!逆だ!!!」

?「……先輩、生きてますか?」コンコン

男「――なんだ、お前か。今片付けるからちょっと待っててくれ」

?「……寒いので早くしてください」

男「こんなもんで大丈夫か。ニオイも消したし片付けも完了、と」

ガチャ

男「すまなかったな、寒い中待たせちまって」

少女「……いえ」

男「取り敢えず上がってくれ」

少女「……失礼します」

男「んで、どうしたんだ急にウチに来て」

少女「……頭を打って仕事を休んだ様じゃないですか」

男「そうだな」

少女「……先輩が休むなんて珍しいなと思いまして」

男「はぁ、まさかそれだけの為にわざわざお見舞いに来てくれたって事か?」

少女「……そうです」

男「大した事でもないのに、心配性だねぇ…」

少女「……久しぶりに先輩の家に上がりますが」

男「おう」

少女「……随分と室内のニオイが変わりましたね」

男「そ、そうか?」ギクリ

少女「……お部屋の芳香剤を代えたせいですかね、あそこにあるアレ」

男(ほっ)

少女「……これも例の彼女の趣味、って奴でしょうか」

男「」

少女「……微かに女性のニオイもしますしね」

男「…確かにその通りではあるが…」

少女「……」

男「…なぁ、何で俺と女の話になると露骨に機嫌が悪くなるんだ?」

少女「……その女とやらより、ずーーーっと昔から先輩に何度も何度もアタックしているのは、私だと言うことをよもやお忘れですか?」

男「…………ィェ」

少女「……先輩はその度に、後輩としか見れないだの、妹みたいな存在だのと上手く交わしてましたが。私を差し置いてどうやってたぶらかしたのか…」

男「いやそこまで悪い奴じゃないってば。前から言ってるけど、一回会ってみればわかるって、本当にいい奴だから…」

男(怒ると怖いけど)

少女「……どんな顔すればいいかわかりませんので、会う必要はありませんし会いたくありません」

男「どんな顔って…普通にしてればいいんじゃ…」

少女「……」

男「――はぁ、ヤメだヤメ。まーたこの空気になるのはいたたまれん」

少女「……そうですね、すみませんでした」

男「んで?他に何か用があったんじゃないのか?ほら、お見舞いって言うからにゃ、何かしら手土産とか…」

少女「……そうでした」ガサガサ

男「おっと?本当にあるのか?」

少女「……これです」ゴトッ

男「…手錠か?」

少女「……間違えました」ガサガサ

男「間違えたって…え、何?お前それいつも持ち歩いてるの?」

少女「……これでした」コトッ

男「これは…軟膏か?」

少女「……一応、打撲な訳ですから効くかと思いまして…先輩に差し上げます」

男「マジか、結構高いんじゃないのかこういうの」

少女「……そこそこです」

男「――すまんな」

少女「……私が勝手に買ったものですので、お気になさらず。それに…」

男「…それに?」

少女「……男さんの恩にはまだまだ遠く及びませんので」

男「…大したことしてないと思うんだがなぁ…」

少女「……それにしてもご立派なたんこぶですね」

男「あんまり見るなよ恥ずかしい」

少女「……さすってあげたいです」

男「治ってからならいいぞ?」

少女「……それじゃ意味がないじゃないですか…」

男「いやいや人のたんこぶさすりたいとか結構サディステックだと思うが?これ結構痛いんだぞ?」

少女「……もしよろしかったら、その軟膏塗って差し上げましょうか?」

男「え、いや一人でできるよこれくらい」

少女「……ダメです、後頭部なんて一人でやるには見えない位置なんですから、ちゃんと患部にまんべんなく塗れる様にするには、誰かの手が必要です」

男「…俺は要介護老人か何かか?」

少女「……たんこぶさんこんばんは」スリスリ

男「痛いんですが」

少女「……失礼しました、ついいとおしくて」

男「触りたいために軟膏持ってきた訳じゃあるまいな?」

少女「……いえ塗るためですよ。では少し滲みたり冷たかったりするかもしれませんが、我慢して下さい」ヌルッ

男「出来れば慎重にな…」

少女「……一番痛そうな天辺から塗らさせて頂いてますが、どうですか?」

男「んー…?スースーはするな、特に滲みたりはないみたいだ」

少女「……なら良かったです」ヌルヌルッ

少女「……先輩、今日頭洗いましたか?」ヌルッヌルッ

男「げっ、臭うか?一応注意を払いつつ洗ったつもりなんだが…」

少女「……いえ、シャンプーのいい匂いがしたので…それよりも、たんこぶが出来た時はあまりお風呂に入らない方がいいかと…」ヌルヌルッヌルッ

男「いや一日に一回は入りたいじゃん」

少女「……ダメです、悪化したらどうするんですか…たんこぶが爆発するかも知れませんよ」ヌルンチョッ

男「ないない」

少女「……とにかく、治るまでは軟膏の効き目がなくなるまで、お風呂は控えてください」

男「はーい」

少女「……」

男「…ん?塗り終わったのか?」

少女「……はい、まんべんなく塗り終えました」

男「そうか、色々とかたじけないな」

少女「……少し、このままでいいでしょうか」

男「…ん?」

少女「……」ギュ

男(首に腕を回された…?)
少女「………」スンスン

男「お、おい。あんまり頭の匂い嗅ぐなって」

男(人の頭に顔埋ずめるとか大丈夫かこのムスメ)

少女「…………」クンクンスーハー

男(…鼻息めっちゃかかるんだが…)

少女「……………おとうさん…………」スンスン

男(………)

少女「…………」

男「………………」

少女「……ありがとうございました」パッ

男「…おう、こっちこそわざわざありがとうな」

少女「……お気になさらず、手を洗いたいので少し水道お借りしますね」スッ

男「後で返せよ」

少女「……イジワルな事言いますね」キュッ

少女「……さて、では用件は済みましたのでこれにて」

男「おう、そうか。気を付けて帰れよ」

少女「……夜道が恐いので帰り道付き添って下さい、と言ったらどうします?」

男「寒いので嫌です、と言うかな」

少女「……解りました、今日はお疲れ様でした。お大事に」ペコ

男「そっちも風邪ひかん様にな」

少女「……さようなら」

バタン

男「…うーん寒いっ」

男「…色々やって気付いたらもう日付が変わろうとしている時間になったな」

男「しかし頭に軟膏を塗ったはいいが、寝る時はどうしたらいいんだ…?」

男「うつ伏せで寝ろってか?うーん…」ボフッ

男「…苦しい」

男「明日は仕事行かなければならないし、早めに眠りたい所だが…」

男「…横向きなら大丈夫かな?」ゴロン

――翌日、定時後

男「うーん1日休んだだけであそこまでタスクを押し付けられるとは…」

男「こう人がいない間に書類の山や依頼メールをガンガン転送してくる会社ってのはどうかと思う」

男「まぁそれも少女が何だかんだで手伝ってくれたから何とか定時帰りで済んだ訳だが…」



男「――だからって何で俺と同じ帰路を歩いているんだ?」

少女「……軟膏を塗らなければなりませんので」

男「そりゃ確かにまだ腫れは引いてないが、何故そこまで俺の世話を焼きたがるんだ?自分の頭のケアくらい一人でできるっつーの」

少女「……軟膏を会社に持ってくるのを忘れてしまった時点で、説得力が感じられませんね」

男「うぬぅ…俺の住んでるとこと少女の住んでるとこそんなに近場じゃないだろうに、そこまで世話をしたがる理由が解らん…」

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