男「お前誰?」女「妹です」 (85)
少しずつ、何かが欠けていっているような気がした。
一体何が失われているのかは分からないが、それが僕には大切な様な気がするのだ。
このまま失い続ければ、生命を保つことすら出来なくなるほどに。
だから、どうにか止めなくてはいけない。これ以上失わないように抵抗しなくてはいけない。
しかし一体なにが失われているかも分からないのだ、抵抗のしようがない。止めようがない。
俺は日々、曖昧とした恐怖に怯えていた。
ピンポーン
男「はーい」
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ピンポーン
男「出るっての」
ピンポーン
男「うるせーな…」ガチャッ
女「…」
男「…」
男(肌白っ!黒髪綺麗っ!ちっちゃくて可愛いっ!こんな子俺は知らんぞ。って、それはいつもの事か)
男「誰お前」ドキドキ
女「妹です」
男「…マジで?」
女「マジです」
男「俺は一人っ子だったと思うんだけど」
女「それは勘違いですよ」
男「マジで?」
女「マジです」
男「そっか、取り敢えず上がれよ。寒いだろ」
妹「ありがとうお兄ちゃん」トコトコ
男「…」
妹「…」
男「…俺と昨日は会った?」
妹「…」
男「変な事聞いてごめんな」
妹「まだ頭は駄目なんですね」
男「嫌な言い方するね。てか、知ってるの?でも久しぶり会ったような言い方だな」
妹「はい」
男「…」
妹「…」
男「…」
妹「事故の少し前にお兄ちゃんと知り合ったんです。お兄ちゃんの父の再建相手の連れ子です」
男「あー、それで俺は覚えてないのか。そして顔が似てないわけだ」
妹「似てないですか?」
男「なんで残念そうなの?そりゃそうでしょ、血が繋がってないんだから」
妹「別に、なんとなく残念がってみただけです」
男「それよりさ」
妹「はい」
男「何で会いに来たの?」
妹「理由がないと駄目なのですか」
男「いや、だってな。俺は家族に捨てられたって聞いてるから。事故で駄目になったからって」
妹「誰に聞いたんです?」
男「幼馴染」
妹「それは嘘です」
男「そうなの?」
妹「親が捨てたんです」
男「マジじゃん」
妹「妹は捨ててませんよ、お兄ちゃんの事。だから家族が捨てた訳ではないです」
男「なるほどね」
妹「はい」
男「じゃあなんで、今まで会いに来なかったの?」
妹「…」
男(俯いて黙っちゃった。ちょっと意地悪な事言ったかな)
男「ごめんな、別に責めたつもりはないんだけど」
妹「……です」
男「ん?」
妹「怖かったからです」
男(なんでそんなに泣きそうな顔なんだろう。俺に会うのがそんなに怖かったのか?もしかして俺、妹を襲ったりしてないよな?)
男「そんなに怖いなら、帰っていいよ」
男(なんか冷たい感じになってしまった。ただ心配なだけなんだけどな)
妹「嫌っ!」ガシッ
男「うおっ!?」
妹「…もう決めたんです。一緒にいるって」ギュッ
男「お、おう」ドキドキ
妹「…」ジーッ
男「…」 ドキドキ
妹「…」ジーッ
男(ど、どうしよう。妹がどんどん近づいて来る)
男「あ、あのさ」ドキドキ
妹「なんですか?」
男「離れてくれない?」
妹「なぜです?お兄ちゃんは私の事嫌いですか?」
男「違うけど…」
妹「けど?」
男「もうそろそろ幼馴染が来るからさ」
妹「…」
男「こんなとこ見られたらな、誤解されるだろ」
妹「私はいいですよ。誤解されても」
男「…い、いや俺は困る。幼馴染と付き合ってるからさ」
妹「えっ?」
ドーンッ!トントン
男(やばっ!幼馴染来たっ)
男「マジで、な、ちょっと離れて」
妹「…」ギュッ
ガチャッ
幼馴染「男ーっ、元気!!、だっ、…たみたいだね」
男「違うんだよ!この子は妹でな!」
幼馴染「覚えてるよ、妹ちゃんでしょー。男の事を捨てた家族だねー」
妹「勘違い女って怖いよお兄ちゃん。自分の都合の言いこと人に話すんだもん」ボソッ
幼馴染「」ピキッ
男「うん、そんな怖い女はここにはいないから安心だなー。だから少し黙っててねー」ナデナデ
幼馴染「…喰い[ピーーー]」ユラッ
男「幼馴染!」
幼馴染「なに?」
男「好きだ。いつも好きだけど、今日は一段と好きだ」キリッ
幼馴染「な、なに言ってんの!?もうやだ、妹の前で恥ずかしい!!」
妹「チョロ美」ボソッ
男「マジで黙っててね」ナデナデ
男「…」
妹「…」
幼馴染「…」
男(きつい!この空気キツすぎる)
男「ちょっとコーヒー入れてくるな」
妹「私はブラックでお願いします」
幼馴染「私は甘めでお願いね」
妹「お子様」
幼馴染「そういうお前は猫舌なおったの?」
妹「…」
幼馴染「…」
男「ヒイッ」スタスタ
妹(お兄ちゃん行ったな)
妹「…嘘つき」
幼馴染「は?嘘なんてついてないよ?」
妹「私がお兄ちゃんを捨てたって言った」
幼馴染「だってそう思ったんだもん。違ったの?ごめん勘違いだったみたいだね」
妹「嘘つき」キッ
幼馴染「だから違うって、なに泣きそうになってんの?」
妹「泣いてない」ゴシゴシ
幼馴染「てか、今更なんなの?消えて、邪魔」
妹「消えない。お兄ちゃんは私のだからね」
幼馴染「…いいけど、あの話はしたら駄目だよ」ジッ
妹「…別に話す気はないよ」
幼馴染「ならいいけど。…もしも話したら、[ピーーー]から」
妹「…」
幼馴染「絶対に…[ピーーー]」ジー
妹「…わ、分かったってば」
幼馴染「…」
妹「…」
男「コーヒー入れました」スッ
妹、幼馴染「「うわっ!!」」
男「おうっ!?」
妹「いきなり現れないでください!忍者ですか」
男「違います、すいません」
幼馴染「…び、びっくりしたー」
ーーーーー
幼馴染「じゃあねー」
男「またなー」
妹「…」(もう来るな)
幼馴染(お前こそ帰れ)
妹(!?)
男「どうした妹?」
妹「幼馴染さん怖い」ビクビク
男「お前が絡むからだろ。ところで妹はいつ帰るの?」
妹「帰らない、ここで暮らす」
男「そんなの許してくれる両親じゃないだろ」
妹「話はつけてきてる。しばらくここで暮らす代わりに、一生逆らわないって約束した」
男「一生って、本当にいいなりの人生だぞ。お前の母さんは知らないけど、俺の父さんと上手くやってるって事はあまり良い人ではなさそうだし」
妹「最悪だよ」
男「今からでも帰って許してもらえよ。仕事も趣味も結婚相手も決められたものを選ぶ人生になるぞ」
妹「…」ギュッ
男「はぁ、知らないぞ?絶対に帰った方がいいだけどな」
ーーーー
男「駄目だ」
妹「なんで?」
男「だから俺には幼馴染がいるんだよ」
妹「だからただ一緒に寝るだけでしょ」
男「無理だ」
妹「なんで」
男「しつこい…これ以上ワガママ言うなら帰ってもらうぞ」
妹「わかったよ」シュン トホトボ
男(少し可哀想な気もするが、これは絶対に駄目だ。だいたい一緒に寝たら絶対に手を出してしまう。恐ろしいほど俺のタイプなんだもんな)
男「って何を考えているんだ。そんな事をおもったらいけない!俺には幼馴染が」
男「…今日は疲れた。もう寝よう」パチン
男「…」
男「」クー クー
妹「」ススッ
妹「寝るのはやいなぁ」
妹「んしょんしょ」ススス
男「ん」パチッ
妹「」スー スー
男「落ち着け、落ち着け」
妹「」スー スー
男(あっ、寝間着がはだけてる!胸元がっ!しかもブラ付けてないっぽい!!これ角度によっては…)ゴクリ
妹「」スー スー
男「…はあ、はあ」
妹「」スー スー
男「って俺の馬鹿!…トイレに行ってくるか」スクッ
ウッ
男「ふぅ、冷静になったぞ」ジーッ
男「うん貧乳だな。だが俺はこういうのも好きだぞ」ペタペタ
妹「」スー スー
男「本当に可愛いな」
男(なんで人生を捨ててまで俺に会いに来たんだろう。)
男「せめてここにいる間は楽しませてやりたいな…でも俺なんかに出来るかな?」
俺は学校にも行かないで、親の金で生きている。いわゆるニートだ。
俺の親は酷く冷たく利己的な人だ。それは息子の俺に対してもそうだった。
それでも俺は親に愛されたくて頑張った。その結果サッカーで全国大会まで行き、高校もエリート校に学力で入った。
しかし中学生の最後の春休みに俺は事故にあう。その事故で俺は記憶障害になり、その事故の前後の記憶がない。そしてそれ以降3日も記憶を保持出来なくなった。新しくモノを覚えられない俺はあっという間に落ちこぼれた。
そして親父はそんな俺を見捨てた。生活費を出すから、親父の目の届かない場所で暮らせと言われた。
きっと落ちこぼれた俺を見たくないし、人に見られたくもないのだろう。
男(今の俺なんかに出来る事は…少しでも妹の事を忘れないでいるぐらいか)
妹「」スー スー
男「…おやすみ」ナデナデ
妹(もっと触って)スー スー
ーーーー
男「ん」ムク
妹「」スー スー
男「……ん?」
妹「」スー スー
男「そっか、今この家には妹がいるんだった」
妹「ふぁー」ムクッ
男「おはよ」
妹「おはようございます」フラァ
男「朝ごはんパンと米どっちがいい?」
妹「お兄ちゃんに合わせます」コシゴシ
男「じゃあ米にするよ」スッ
妹「あ、私がやります」フラァ
男「まだちゃんと起きてないでしょ、危ないから駄目だよ。顔でも洗ってきな」
妹「すみません」フラフラ
男(朝弱いんだな) ジャー トントン
男(あー、いつか襲ってしまいそうだな。起きた時に妹だと覚えてない時がヤバいよな)ボッ
妹「目が覚めました、手伝います」
男「あ、いや大丈夫だよ。大してやることないから」
妹「なら私がやるので見てて下さい」
男「いや、いいって」
妹「私がやりたいんです。そしてそれを見てなさい」
男(…見てなさいって)
男「分かったよ」
妹「ふん!ふん!」バンバン
男「って何やってるの!!」
妹「料理です」
男「フライパンをコンロに叩きつけるな!それは料理の動作じゃないぞ!!」
妹「料理です!…あの、こう、ひっくり返すやつです」
男「料理した事ないの?」
男(あの親がやらせないとは思えないけどな)
妹「あります。いつもやってます」
男「この感じで?」
妹「はい、この感じで」
男「それは、あれ、言いにくいんだけど…あんまり美味しくないんじゃないか」
妹「くっそマズイですね!」フフンッ
男「よくあの親が食べてくれるな」
妹「あいつらはシェフの作った飯食ってやがりますから!クソまずい飯食ってるのは私だけですから!!」フフンッ
男「分かったから、泣くなよ」
妹「泣いてないです」ゴシゴシ
男「誰に習ったらこうなるの」
妹「独学です」
男「…ネットとかでやり方を見てるのかな?」
妹「いえ、独学です。だってかっこいいじゃないですか」
男「何が?」
妹「独学がです」
男「…俺が教えるよ」
男(思ったより変な子だな。普段大人しいから普通の子だと思ったけど、結構アレなんだな)
妹「…」
男「なんで少し嫌がるの」
妹「いえ、まあお兄ちゃんの言う事には逆らえないので…教えさせて上げます」
男「ありがとう」
男「いただきます」
妹「いただきます」
男「」モグ モグ
妹「」モグ モグ
妹「…」ブワッ
男「えっ!どうした!?辛かった?何かおかしかったかな!?」
妹「…いえ」ハムッハムッ
妹「」ゴックン
妹「自分の作った朝食が美味いのが嬉しくて」
男「お、おう」
男(…思わず泣くほどか)
妹「こ、このウインナーは私が焼いたやつですよ!」パクッ
男「そうだね」
男(少し焼き過ぎて妙に黒い。一瞬目を離しただけなのに、何故か焦げさせてたんだよな)
妹「」モグ モグ
妹「ウメー!!食べ物だ!」
男「…」
妹「私が作ったのに!食べ物だー!」モグモグ
男「妹って、少し変だね」
妹「ハッ…すみません。少し興奮しました」
男「いや別にいいんだよ」
妹「大丈夫です。落ち着きましたから」
男「うん、じゃあ食べようか」
妹「はい」
ーーー
男「」ジーッ
妹「」ジャーッ カチャカチャ
男「どうやら洗い物は出来るみたいだな」
妹「だからそう言ったじゃないですか」
男「ごめんごめん、でもあれの後だから」
妹「あれって…もう少し、言い方が」
男「ごめんごめん」
妹「許してあげます」
男「そういえば俺の記憶の事だけど、だいたい3日ぐらい経つと忘れちゃうから」
妹「だいたいですか?」
男「そうだいたい、気持ちとか体調とかで前後するけど、だいたいそれぐらい。細かい事だと一日も覚えて無かったりするから」
妹「ふむふむ」
男「だから大事な事は毎日俺に、しっかりと伝えてね」
妹「はい!お兄ちゃんの事が大好きです!!」
男「あ、ありがとう」
妹「結婚しましょう!」
男「ごめん、幼馴染がいるから…」
妹「…はい、そうですよね」
男「…ごめんね」
妹「我慢しましょう」
ーーーーー
男「……」
妹「……」
男「…」
妹「…あの」
男「はい」
妹「どうかしましたか?」
男「いや、これから何をしていいのか分からなくて」
妹「はい?」
男「ああ、ごめんね。俺はいつも幼馴染が居ない時はぼーっとしてるんだ」
妹「幼馴染さんが学校から帰ってくるまで一日中?」
男「一日中」
妹「なんで何もしないんですか?暇じゃないですか」
男「新しい事が覚えられないからさ、何も出来ないんだよ。一人だと道も分からないもん」
男「それに…怖いんだよ」
妹「…」
男「…昨日なにがあったのか分からない時とか。だからさ…何もしなければ、分かるじゃん、昨日も何も無かったって」
妹「……私がいます」
男「?」
妹「私が教えてあげますよ。道も、昨日なにがあったかも」
男「…っぷ!ははっ、ありがとう」
妹「な、何が可笑しいんですか!!」
男「いや、幼馴染みたいだなって。幼馴染はいつも教えてくれるから、道とか昨日の事とか」
妹「…それは、嬉しくないです」
男「ありがとな」ナデナデ
妹「ん、頭を撫でられるのは好きですね」
男(本当にいい子だな。やっぱりどうにかして楽しませて上げたいや)
妹「じゃあ!散歩に行きますよ!!」ザッ
男「うん、行こうか」
ーーーーー
妹「このコロッケ美味しいです!」ハムハムハム
男「うん、美味しいな」パク
妹「ここの商店街は良いですね。美味しい物がたくさんあるし、みんな優しいです」
男「さっきの店がサービスしてくれたのは、妹が可愛かったからだよ」
妹「なっ、何ですか、急に可愛いだなんてっ!嬉しいじゃないですか!」
男「それは良かった」
?「あら!久しぶりねー!」
妹「…?」
男「…あっ、久しぶりです」
?「あれ、今日は幼馴染ちゃんじゃない子を連れてるのね?ふふっ駄目よ、浮気なんかしたら」
男「はは…違いますよ、妹です」
妹「…こ、こんにちは」
?「あら、そうなの?可愛い妹さんね」
男「それじゃ、今日は急ぎの用があるので」
?「そう、じゃあね!今度はうちの店に寄っててよ!!いつもありがとね!!」
男「はい、こちらこそ…いつもありがとうございます」ペコリ
妹「」ペコ
男「…ふう」
妹「…」
妹(お兄ちゃん悲しそうな顔してる)
男「…」
男(しまった!何だか妹が話しかけづらそうにしてる。俺、顔に出てたかな。)
男「は、ははっ、浮気だって言われたな」
妹「そ、そうですね!どちら言えば、私が正妻なんですけどね!!」
男「俺が愛人を作ってるような口ぶりですね!」
男(それよりも、正妻が妹ってとこに突っ込むべきだったかも)
妹「はは、…」
男「はは…」
妹「…あの」
男「なに?」
妹「…うん、ちょっと待ってて下さい!」ダッ
男「えっ!?なに!どこ行くの!?」
男(あっ…さっきの店のおばさんと喋ってる?)
妹「」タタタ
男「どしたの?」
妹「田中智恵子さんって言うらしいです、あの人。幼馴染さんは智恵ちゃん、お兄ちゃんは田中さんって読んでるそうです。そして、お兄ちゃんは」パスッ
男「なに、これ?」
妹「このプレーンのあげ饅頭が好きらしいですよ!」ニコッ
男「!…」バッ
妹(っ!顔を全力で背けられた!)
妹「え?どうかしましたかお兄ちゃん?もしかして気に障るような事でした?」
男「」フルフル
妹「ど、どうしたんです?」
男「…ごめ、なんか少し泣いちゃって。上手く言えないけど、嬉しくて」
妹「嬉しいんですか」パアッ
男「っ!?」バッ
妹「えっ!、こ、今度は?」
男「な、何でもない」
妹「え?」
男(可愛すぎて直視できなかったなんて言えない)
妹「?」
ーーーー
男「今日はありがとな」
妹「こちらこそありがとうですよ」
男「はは、俺はお礼を言われるような事出来てないよ」
妹「しましたよ。隣を歩いてくれました、それに隣でコロッケを食べた!」
男「そんな事、してあげたとは言えないよ」
妹「確かに下らない事かもしれません。それでも、私にとっては大切な事なんです」ニコッ
男(やばい、可愛すぎる。本当にやばい)ドキドキ
幼馴染「なんでお前さんは妹とイチャついてる?」
男「おわっ!いつの間に!!」
幼馴染「なにイチャついてるの?」
男「いやイチャついてないよ!なあ、妹?」
妹「あっ、はい。そ、そうですね?」
男「妙に含みをもたせるな!」
幼馴染「ふーん」
男「いや、誤解だって!」
幼馴染「ソウイウコトニシトクヨ」
男「ハブてるなよー」
妹「話の分からない女は捨てられちゃうよ」ボソッ
幼馴染「あ?」
妹「な、何ですか?」フン
男「なしてこうなる」
幼馴染「…もうこいつ無理!男!こいつ追い出して!!」
男「そんな事言わないで、仲良くしてよ」
幼馴染「駄目!!私か、こいつか!選んで!!」
男「え、ええ!?なんだよそれ」
妹「…お兄ちゃん、捨てないで?」フルフル
男「捨てるわけないだろ」キリッ
幼馴染「も!もう知らない!!」バンッ
男「あっ、ちょっと待っ!」
妹「お兄ちゃん!」ガッ
妹「私が行くから待ってて」
男「いや、ここは」
妹「い・い・か・ら」ガシッ
男「…あ、はい」
幼馴染「…なに?」ゴシゴシ
妹「泣いてる?」
幼馴染「うるさい!お前は本当に邪魔!!いまさら!いまさら邪魔しないでよ!!」
妹「やだ」
幼馴染「…だって、今まで来なかったじゃん。なんで急に来たの?」
妹「私ね、幼馴染ちゃんの事嫌いだよ」
幼馴染「私だって!」
妹「でもね、私は幼馴染ちゃんも大事だったの」
幼馴染「…」
妹「初めて出来た仲間だったんだもん。私はお兄ちゃんも、幼馴染ちゃんも大事だったの」
妹「だから傷つけたくなかったの二人とも」
幼馴染「だったら、なんで今さら私を傷つけるの?」
妹「…幼馴染ちゃん、秘密だよ」
幼馴染「秘密?」
妹「うん、秘密。私ね」
時間が無いの。
私ね、結婚するの。
幼馴染「だ、誰と?」
妹「忘れちゃった」フフッ
幼馴染「忘れた?」
妹「だって元々興味ない人だもん。あんなおじさん。私ねグズだし、馬鹿だけど、可愛いでしょ。自分で言うのもあれだけど」
幼馴染「…」
妹「大きな会社の社長だったと思うよ。まあ、売られたみたいなもんだよね」
幼馴染「…逃げれば良いじゃない。そんなの、逃げれば良いじゃない!」
妹「そうしたら、お兄ちゃんに生活費をもう渡さないって。お父さんは私と違って賢いから」
幼馴染「…」
妹「だからさ、最後に夢を見に来たの。ごめんね幼馴染ちゃんを傷つけるけど」
じっとしていられずに、こっそり後をつけた俺は、妹の言葉を黙って聞いていた。
妹がどんな顔をしているのかここからは見えない。
俺のせいで妹は逃げられない。
俺のせいで。
どうにかしたいと思った。
それは俺が妹が可哀想だからなのか、大事だからなのか、人の手に渡したくないのか、自分でもよく分からない
でも、このままには出来ないのは確かだった。
妹「これは夢だから。だから、最後はちゃんと覚めるから」
ピリリリリ
男「ふあぁ」カチッ
妹「」スー スー
男「…昨日の事を忘れないうちに何とかしないとな」
妹「」スー スー
男「妹、起きて」ペチ ペチ
妹「…んっ、んー」
男「朝だよー」
妹「…やだ、眠いです」
男「いいからっ、起きろ!」バッ
妹「ふぁっ!」
男「ほら、顔を洗って」
妹「ふぁい」トボトボ
男(可愛い)ハッ
男「いけない、いけない俺には幼馴染が…」ブツブツ
妹「どうかしました、お兄ちゃん?」シャキーン
男「い…いや、なんでも」ハハハ
妹「ん?」
男「いいから、ほら、ご飯を作るぞ」
妹「はい!今日もお願いします」ペコペコ
妹「ふん!ふん!」バンバン
男「だ・か・ら・フライパンでコンロを叩くな!!」ペシッ
妹「痛っ!…酷いです」グスッ
男「う…ごめんっ!つい叩いちゃった」
男(涙目に少し興奮してしまった。俺ってSなのか?)
妹「まあ、私が悪いんですから…許してあげます」
男「ごめんな」
妹「いいですよ」
妹「ふん!ふん!」バンバン
男「…」ベシッ
妹「い、痛い!さっきよりも痛いです!」グスン
男「…」ジー
妹「…な、なんですか!?なんなんですかその目は!」
男「ふざけてる?」
妹「…少々」テヘヘ
男「次は怒るよ」
妹「あっ、はい」
妹(結構ガチなやつだ)
男「いただきます」
妹「いただきます」
男「」パクパク
妹「」パク
妹「」ダーッ
妹「」ガラッ
妹「うめーぞ!コラー!!」ウオーッ
男「やめなさい近所迷惑です」
妹「あっ、すみません」
男「そもそも今のは誰に訴えてんだよ?」
妹「父と母に。あいつら私の手料理を兵器扱いしてたんですよ、でも今は豚の飯ぐらいにはなったぞーって」
男(豚の飯レベルでうめーと叫ぶのか)
男「ごちそーさまでした」
妹「ごちそーさまでした。今日も散歩に行きましょうか?」
男「いや、今日は用事があるんだ」
妹「用事ですか?」
男「うん」
妹「用事って?」
男「…ちょっと会いたい人がいて」
妹「…浮気?」グスッ
男「浮気じゃないし、妹が泣くのはおかしいね」
妹「誰に会うんですか?」
男「あー、…えっと、父さん」
妹「父さん?」
男「うん」
妹「つまりfather」
男「father」
妹「why?」
男「Well…there is hope the father」
妹「あっ、すみません日本語で」
男「父さんにお願いがあって」
妹「おねだりしに行くんですか」
男「ああ、うん」
妹「うん…はい、私はお留守番してます」
男「じゃあ行ってくるよ」
ガタンゴトン
次ハ○○駅ー 次ハ○○駅ー
男「…」
ガタンゴトン
プシュー
男「」テクテク
男(微妙に変わってるけど、なんとなく道がわかるな)
男(懐かしい、道が分かるってなんだが妙な感じだな)
男「って、ここだよな」
男「うん、表札通りならここだな。ますます…でかくなったなんだな俺の…父さんの家は」
ピンポーン
「なんだ?」
男「あー、父さん俺です」
父「カメラで誰かは見えてる。用事は何だ?」
男「話があります」
父「なら早く話せ」
男「顔を合わせての話です」
父「…さっさと入れ」
男「はい」
ガチャ
父「で、何だ?」
男「いつの間にか家がだいぶ大きくなりましたね。相変わらず、仕事は上手く行ってるみたいですね」ニコニコ
父「用事は何だ?」
男「妹が結婚するらしいですね」
父「そうだが」
男「相手はどんな人なんです?」
父「…教えてどうする?どうせ忘れるくせに」フン
男「少しの間は覚えていられますよ」ニコ
父「△△会社の社長だ」
男(予想以上の大物だな)
父「あいつを見かけた時にたいそう気に入ってたみたいでな。あいつも使えない奴だと思ってたが、なかなか役立ちそうだよ」
男「っ…そうですね。父さんはもっと上に行けますね」
父「ああ」
男「…父さんは一体、どこに行きたいんですか?」
父「どこに?」
男「はい。どこに行こうとしてるんですか?偉くなって何がしたいんですか」
父「やかましいぞ」
男「答えてくれたら、もう帰るから答えろよ。昔からあんたは馬鹿みたいに上を目指してるけど、それって上に行くことが目的なのか。そんなに阿呆じゃないだろ」
父「…ああ、違うよ。それは手段だ。目的は別にある」
男「それって何だよ?俺を捨ててまでっ、妹を犠牲にしてまで欲しいものって何なんだよ!」
父「金がいるんだよ」
男「十分だろう?この家を見ろよ」
父「この家はもっと上に行くためのものだ。私生活が貧しいと足元を見られるからな。まだまだ俺には金がいるんだよ」
男「金なんてくっだんねぇ!アホかよ!!」
父「…」チラ
男(何だ?あの写真は、ただの向日葵畑だよな。なぜあれを見るんだ)
父「確かにアホなのかもな。だが変わる気などない」
父「ほら、出てけ」
男「…なぁ、あの写真の場所は?」
父「…一週間前の事も思い出せない奴には分からんさ」
男「え?」
父「ほら、出てけ」
男「…」
ガタンゴトン
男「俺は、あそこを知っているのか?」
ガタンゴトン ガタンゴトン
妹「お帰りなさいお兄ちゃん!」ガバッ
男「うわっ!ちょっ、抱きしめないで!」
男(妹の!可愛らしい胸が!!!!当たってるぅ!!!)
妹「ふふー」ムニムニ
男「マジでストップ!!」
男(天国だ…)
幼馴染「…」
男「…」
男(地獄だ…)
幼馴染「…」ダキッ
男「!?」
幼馴染「うぅぅ」ムニンッ ムニンッ
男(顔を真っ赤にしながら、大きな胸を押し付けてくる!!)
幼馴染「…私のが良いよね?」カーッ
男「幼馴染は最高の彼女だ」キリッ
妹「くそっ。どうせ時が経てば垂れるんだよ、あんなの」
***********
幼馴染「じゃーね、男。また明日ね!」
男「また明日なー」
妹(さっさと帰れよ)
幼馴染(今帰ってるだろボケ)
妹(…すいませんでした)
男「今日は疲れたー」
妹「お疲れ様です」
男「ありがとう、でさー」
妹「はい?」
男「なんで俺の布団の中にいる?」
妹「どうせお兄ちゃんが寝てから入るんだから、大して変わらないかなーって」ウフフ
男「馬鹿かこいつー」ウフフ
妹「やだーっ離れません!」ガシッ
男「…あー、今日はもういいや」
妹「ついに幼馴染さんを捨てる決心がつきたしたか?」
男「馬鹿、今日はもう疲れた。妹と言い合う元気もないんだ」
妹「私はお兄ちゃんに逆らうようなことしないですよ」
男「基本的にはね」
妹「…お父さんに何を聞いたんです?」
男「…えっとー」
妹「嘘ついたら、お兄ちゃんが寝てるうちに襲います」
男「…妹の事をね」
妹「私?えっ、もしかして私ホントに邪魔なの!?」ガバッ
妹「お願い!何でも言うことを聞くから、もう逆らわないから!!まだ帰りたくない!!」ウルウル
男「違う、妹がいてくれて嬉しいよ」
妹「じゃあなに?」
男「…妹の結婚相手の事」
妹「聞いてたの?盗み聞きしたの?」
男「ごめん」
妹「あほ、知られたくなかったのに」
男「ごめん」
妹「…許してあげますよ」
男「ホント?」
妹「…その代わり、キスして」
男「えっ、それは」
妹「お願い」ジッ
男(ダメだろ、それはダメだろ。幼馴染を裏切るような事だぞ。でも、妹を傷付けてしまった償いもしなくちゃ駄目だよな。でも、えっと)
男「…ひ、秘密だよ」
妹「うん、秘密で良いよ」
男「…」
妹「…」
チュッ
男「…秘密だよ」
妹「…うん、秘密です」エヘヘ
妹「お兄ちゃん」
男「なに?」
妹「好きです」
男「…」
妹「誰よりも好きです」
男「…うん」
男(何で妹は俺の事を、こんなに好きでいてくれるんだ)
妹「ところで、その事を聞いてどうするんです?」
男「その結婚を止めたい」
妹「…」
男(あれ?喜ぶと思ったけど、微妙な反応)
妹「で、何か収穫はあったんですか?」
男「うーん、あんまり」
妹「まあ、そうですよねー」
男「あと関係ないけど、気になる事を言ってたんだよな」
妹「気になる事?」
男「俺は一週間前の事も思い出せないって、言ったんだ。まあ確かにそうだけどさ」
妹「3日なんですよね?」
男「うん、覚えてて3日」
妹「…お兄ちゃん、おやすみ」
男「え、うん。おやすみ」
妹「…」
横で眠る妹を見ながら、俺は色々と考えを巡らせていた。
しかしだんだんと意識が薄れていき、眠りの世界に落ちて行く。
眠りの世界に完全に落ちる直前に、ボソリ、と何かが聞こえたような気がした。
「あの嘘つき」 、と。
その晩、俺は夢を見た。夢を見たのはすごく久しぶりだった。
夢の中で、俺は小さな子供だった。
向日葵畑であそんでいた。
あの写真のせいで、こんな夢を見ているのだろうか。だとしたら、あの写真には感謝をしなくてはいけない。
この夢は心地よかったから。
本当に心地が良い夢だ。
懐かしくて、暖かくて、俺の失ったものも、全てそこにはあるような気がする。
そこでは父さんは気持ち悪いぐらいに、優しく微笑んでいた。
これも夢のおかげなんだと思った。
きっと、これは俺の理想の世界なんだと。
でもしばらくすると、それは違うと気付いた。
確かにこれは、夢だ。
現実ではあり得ない。
でも決して理想の世界なんかじゃない。これは、僕の過去だ。
そうだ思い出した。
この向日葵畑は、昔来たことがある。それも何度も。
その頃は、父さんは優しかったのだ。
そして、母が生きていた。
僕を抱きしめてくれているこの人は、あの頃は生きていたのだ。
母の顔を見る。
確かにそこにあるのに、上手く見ることが出来ない。母にノイズがかかっているようだ。
「お母さん?」
俺は話しかけてみた。
なあに、と頭の中で声がする。
その声にもノイズが混じる。
昔の父は思い出した。向日葵畑の事も。
でも、俺はもうどうやっても母の事は思い出せないようだ。
もう完全に忘れてしまっているみたいだ。
俺は悲しくて、泣いてしまった。
子供らしく、ワンワンと泣いてしまった。
母は優しく俺を撫でて言うのだった。
大丈夫
「大丈夫じゃないんだ。もうどうやっても思い出せない。僕の中でお母さんは消えてしまった」
大丈夫よ
私はあなたの中にいるのよ
「どこにいるの?」
母さんは微笑む。
母さんの言葉を聞いて、俺はまた馬鹿みたいに泣いた。
ありがとう、ありがとうと母さんに言った。
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