ほむら「おおいなる時間」 (126)


初スレ立て&初SSです。

叛逆のネタバレは無しとなっております。

書き溜めが少ないですが、頑張ろうかと思います。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1386241405

[2013年 6月12日]

見滝原に謎の赤い竜と巨人が突如現れる。巨人は赤い竜により崩壊、その後赤い竜は戦闘機スカーフェイスのミサイルで撃墜。
竜の死骸は政府に研究対象として回収、保管される。



ほむら「さて、今日も魔獣退治の打ち合わせをしないと」

ほむら「佐倉杏子はもう来てるかしら。遅れたら彼女たちに悪いわ」

ほむら「……? あれは……何?」


その時わたしが見たのは、
ぐにゃりと歪んだ青空から降ってきた女性のような体つきの巨人と、赤い竜だった。


アンヘル「ここは……神の国なのか?」


――見滝原――



『母』は歌い始めた……。
陰と陽、正と邪……。
摂理を見出し母天使の声の波紋を押さえつけろ!


アンヘル「何なのだ、これは! どうすればいいのだ?!」


ほむら「あれは一体……?!」

杏子≪ほむら! 聞こえるか?!≫

ほむら≪杏子! あなたも見えているのね?!≫

杏子≪ああ! 今マミの家に着いたんだが、お前どこに居るんだよ!≫

ほむら≪これから向かうつもりだったのよ!≫

マミ≪暁美さん、聞こえる? まだ状況が掴みづらいわ。安全を優先して、予定通りわたしの家に来てもらえる? 』

ほむら≪わかったわ≫

〈マミホーム〉

マミ「みんな揃ったようね」

杏子「何がどうなってやがんだ……」

ほむら「テレビをつけてみましょう。何か分かるかもしれないわ」


テレビをつけると、画面には謎の巨人と赤い竜が映っていて、赤い竜は巨人めがけて火を噴いていた。
テレビレポーターが必死に状況説明をしているあたり、一般人にもこの光景は見えているのだと容易に判断できた。



マミ「普通の人にも見えているってことは、少なくとも魔獣ではないわね」

杏子「どっかのファンタジーじゃあるまいし、何かの冗談としか思えねぇよ……」

ほむら「魔法少女や魔獣がいる世界よ。巨人やドラゴンが存在したとしてもおかしくはないわ」


しばらくテレビ画面に見入っていると、巨人が崩壊し始めてゆくのが確認できた。
赤い竜の攻撃に耐えかねたのだろうか、その巨体がボロボロと崩れ落ちてゆく。


アンヘル「やったぞ! ついに……」 ドオォォン


巨人の体を構成していた残骸が辺りに散らばり原型を留めなくなったのと、赤き竜が突如として爆炎に呑まれたのはほぼ同時だった。


戦闘機パイロット「こちらスカーフェイス。目標に命中。正体は依然不明。風見野方面に落下したもよう」


赤い竜が哀しげに落ちていくその光景は、翼をもがれた天使のようで、儚い最期に見えた。


杏子「ミサイルか?!」

ほむら「日本政府だって、あんな得体の知れないモノを放っておけないもの。当然の処置といえばそうだけど……」

マミ「イヤな予感しかしないわね……」

QB「みんな! 遅れてしまってごめん」


マミ「キュゥべえ! どこに行ってたの?!」

QB「ごめんよ。僕としても色々と調べたいことがあってね」

ほむら「あの巨人と赤い竜のことかしら?」

QB「そうだよ。こんなことは僕も想像だにしていなかったからね」

杏子「で、何か判ったのかよ?」

QB「まだ仮説の段階だけどね。あれはこの世界には存在しないモノだよ」


QB「あの巨人の残骸と赤い竜の死骸を構成していた物質のサンプルを僕たちの母星に送って調査した結果、
   全宇宙のどの天体にも合致するデータは存在しなかったんだ」

QB「つまり、別の世界からやって来たとしか考えられないわけだ」

杏子「そんなことって……ありえるのかよ……!」

マミ「……でも、キュゥべえの言ってることが正しいなら、そう信じるしかないわね……」

ほむら「…………」


杏子「こんな状況だけどよ……。今日の魔獣退治はどうすんだ?」

QB「やめておいた方がいい。いつ、どんなイレギュラーが起きてもおかしくない状況だ」

マミ「……でも、放っておいたら魔獣に襲われる人たちが……」

ほむら「……わたしが様子を見てくるわ。あなたたちはここで待ってて」

杏子「お前、正気かよ?!」

マミ「一人は危険よ! わたしたちも……!」

ほむら「全員動けば、リスクが高まるだけよ。ここはわたしに任せて」

QB「彼女には僕がついている。もしもの時は二人に呼びかけるからね」

杏子「ッ……! ぜってえ無理すんじゃねぇぞ。必ず帰って来いよな!」

マミ「暁美さん! 無事に帰って来てちょうだいね……」

ほむら「……ええ。二人ともありがとう」ヒュンッ


〈見滝原 -市街地-〉

QB「今日は瘴気が薄い。魔獣の数はそう多くないはずだよ」

ほむら「楽に越したことはないわ。とっとと片付けましょう」


あの子が願ったこの世界で、どうしてこんな事が起こっているのか――

魔獣退治が無事終了したその日の夜、ベッドに仰向けになったまま、わたしは思慮にふけっていた。

ほむら「………………」

――別世界。 
そのようなものが存在するなんて、まどかによる世界の改編後以来、今まで思ってもいなかった。

だが実際、心あたりが無いわけではない。
わたしもまた、彼女を救うために幾度となく同じ時間を繰り返し、数多の平行世界を横断してきた。
世界が同一線上に「平行」しているのなら、わたしたちの知らない世界が隣合って存在している可能性もある。

ほむら「…………まどか……」

思わず呟いてしまった。

悲しみと憎しみばかりを繰り返す、救いようのない世界だけれども――
だとしてもここは、かつてあの子が守ろうとした場所だった。
それを壊そうとする者がいるのなら、わたしは許さない――
そう言い聞かせて、わたしは瞼を閉じる。

本当の「終わり」が、まだ始まったばかりとは知らずに……


[2013年 12月]

見滝原で全身が白く塩化する謎の奇病が発生。致死率は100%。
以後、見滝原全域に感染者が続出。



[2014年 4月]

感染者の中に凶暴化した者(レギオン)が出現。
レギオンは非感染者を襲う。日本政府は各国から対応を迫られる。



[2014年 6月]

奇病を『白塩化症候群』と命名。
この奇病の原因は不明だが、感染者は『凶暴化』・『死亡』のいずれかが訪れる同一の病であることが判明。


〈鹿目邸〉

ほむら「…………そ、そんな……」

心配になって、まどかのご家族に会いに行ったわたしだったが、
人の気配は全く感じることができなかった。
家の内部を探し回った結果、確認できたのはキッチンに一つと、寝室に大小一つずつの盛り上がった塩の山だけ――

何も、できなかった――

悲しみや後悔を感じることもなく、ただ茫然と、わたしは立ち尽くしていた。

〈マミホーム〉

マミ「わたしたちは今まで、この街の人々を守るために戦ってきたはず……なのに…………」

杏子「魔獣以外にも人を襲うヤツが出てきたからな……」

QB「レギオンは、通常の人間より知性が劣っている代わりに大幅な身体能力の向上が見られる。襲われて感染でもしたら、彼らの仲間入りをするか、全身が白塩化して絶命するかのどちらかしかない。魔獣が手を下さずとも、人間の個体数は着実に減少していくだろうね」

マミ「……それじゃあ、わたしたちは一体何の為に戦っているっていうの?! 誰にも気付かれずに魔獣を倒しながら、ただ人が破滅していく様を黙って見ていろと言うの?! 冗談じゃないわ!」

杏子「マミ、落ち着け! あんたがここで参ったらどうすんだよ! それに、まだ魔獣が消えた訳じゃないだろ? だったら、あたしら魔法少女にできることは一つしかねぇだろうが」

マミ「……魔獣を狩り続ける……? フフフッ、何の為に…………?」

杏子「ちっくしょお……。おいキュゥべえ、あのバケモンは、魔法少女の力でなんとかならねぇのかよ?」

QB「その質問は、レギオンを元の人間に戻せるかという意味かい? それとも、彼らを殲滅させるという意味合いかな?」

杏子「どっちもさ!」

QB「残念だけど、現状では元の人間に戻らせる方法は僕でもわからない。物理的攻撃なら、身体内部の中枢系を破壊するか、身体ごと木っ端微塵に吹き飛ばすしか思いつかない。これまでの自衛隊とレギオンの交戦経験上、ちょっとやそっとの被弾では彼らは怯まないからね」

QB「でも、君たち魔法少女の“魔法”をもってすれば、案外楽に倒せるかもしれない。魔法少女は条理を覆す存在だからね。それに君たちは、レギオンの攻撃対象には入ってないみたいだ。彼らに反撃されることはないだろう」

杏子「……この前アイツらと接触したにもかかわらず、向こうは襲って来なかったもんな……。あたしらの真ん前を素通りして行ったし」


QB「そもそも人類は、レギオンに対して攻撃する事を躊躇しているように見える。種としての同族が攻撃されているというのに、わけがわからないよ」

マミ「…………当たり前でしょ……。元はみんなと同じ普通の人間だったのよ……。ひょっとしたら、まだ人としての心を残しているんじゃないの……?」

QB「その可能性も最初は考えたけど、すぐ否定的になったよ。レギオンは、暁美ほむらも含めて君たち魔法少女には全く手出ししない代わりに、普通の人間には平然と襲いかかる。どうやら彼らは、何かもっと本質的な方法で人間を探し出し、見つけ、襲っているようだ」

杏子「あたしたち魔法少女の倒すべき敵ではないってことか……」

QB「むしろ、倒したところで君たちには何のメリットも無いんだ。向こうが君たちを敵として認識していない以上、こちらから仕掛ける必要性は無いね」

マミ「ッ……! だからって、レギオンに襲われる人を放っておく訳には……!」

QB「それは君の良心の問題だ。知っての通り、レギオンを倒してもグリーフシードは落とさない。君ら魔法少女にとっては何の見返りもない。魔翌力の消費は、ソウルジェムを濁らせるだけだ」

QB「まあ、僕としては君たちの判断に任せるけどね。ただ、魔法少女のソウルジェムを浄化できるのはグリーフシードだけだ。そのグリーフシードが君たちにとっての生命線だとすれば、魔獣を倒し、グリーフシードを手に入れるしかない。魔翌力魔獣以外に魔翌力を行使するのは、今、この世界の現状を考えれば非論理的だと思うよ。」

訂正です

魔翌翌翌力×→魔翌力○

文字化けです

もう二度とスマートフォンから書き込みしません

どうかお許しを

ありがとうございます。

以下、訂正レスです。




QB「そもそも人類は、レギオンに対して攻撃する事を躊躇しているように見える。種としての同族が攻撃されているというのに、わけがわからないよ」

マミ「…………当たり前でしょ……。元はみんなと同じ普通の人間だったのよ……。ひょっとしたら、まだ人としての心を残しているんじゃないの……?」

QB「その可能性も最初は考えたけど、すぐ否定的になったよ。レギオンは、暁美ほむらも含めて君たち魔法少女には全く手出ししない代わりに、普通の人間には平然と襲いかかる。どうやら彼らは、何かもっと本質的な方法で人間を探し出し、見つけ、襲っているようだ」

杏子「あたしたち魔法少女の倒すべき敵ではないってことか……」

QB「むしろ、倒したところで君たちには何のメリットも無いんだ。向こうが君たちを敵として認識していない以上、こちらから仕掛ける必要性は無いね」

マミ「ッ……! だからって、レギオンに襲われる人を放っておく訳には……!」

QB「それは君の良心の問題だ。知っての通り、レギオンを倒してもグリーフシードは落とさない。君ら魔法少女にとっては何の見返りもない。魔力の消費は、ソウルジェムを濁らせるだけだよ」

QB「まあ、僕としては君たちの判断に任せるけどね。ただ、魔法少女のソウルジェムを浄化できるのはグリーフシードだけだ。そのグリーフシードが君たちにとっての生命線だとすれば、魔獣を倒し、グリーフシードを手に入れるしかない。魔獣以外に魔力を行使するのは、今、この世界の現状を考えれば非論理的だと思うよ。」


マミ「……もういいわ、キュゥべえ。……佐倉さんも、今日は独りきりにしてくれないかしら……」

杏子「マミ……。…………ッ、しゃあねぇなぁ、今日はわたしとほむらに任せてあんたは休んどけ」

マミ「……ええ。ごめんなさいね……わたし……先輩なのに…………」グスッ

杏子「……気にすんなよ。おいキュゥべえ、行くぞ」ヒュンッ

QB「ほむらは先に魔獣の発生源に向かっているようだ。僕たちも追いつこう」ヒュンッ

マミ「…………」

マミ「……わたし…………、どうしたら………………」


〈見滝原 -三丁目 三叉路-〉

ほむら「…………」


鹿目邸を出た後、わたしは魔獣退治に出かけていた。

悲鳴と怒号が飛び交うこの街は、以前の静けさを取り戻すことはなく――
異形の存在と、魔獣が闊歩する街へと変貌を遂げた。

どうして、どうしてあの子の家族が――

先程、白い巨大な化け物がこちらを向いていた気がしたが、そんなことはどうでもよかった。
それよりも、『白塩化症候群』に感染したあの家族の事が気になって、わたしは一切の思考をそれに向けた。
あの『災厄』の日以来、多くの人間が塩の柱となり――、或いは人類に仇名す存在へと変わっていった。
そしてとうとう、わたしの見知った人までもが塩に成り果て、その命を散らせた。

家中を隈なく調査したが、荒らされた形跡は見つからなかったのでレギオンに襲われたとは思えなかった。
だとすれば、運悪く空気感染してしまったとしか考えられない。
それでも――
それでもわたしは、事実を受け入れられずにいた。

いつからわたしは、こんなにも弱々しくなってしまったのだろう――

けれども、感傷に浸っている暇など無い。
レギオンという脅威が現れた今もなお、魔獣は変わらず人々を狙い続ける。
それを阻止するのが、わたしたち魔法少女の役目――

両目に溜め込んだ涙を拭い、夕焼けの街を前に進む。


〈見滝原 -市街地 ツインタワー屋上-〉

杏子「……わりーな。遅くなっちまって」

ほむら「問題ないわ。私も今さっき着いたのよ。……巴マミは?」

杏子「ッ……、あいつはしばらく立ち直れねぇかもな……」

ほむら「そう……。最近、無理してる感じがあったものね……」

杏子「薄々感付いてはいたが……まさか、あそこまで思い詰めてるなんてな……」

ほむら「その反面、あなたは随分と強いのね」

杏子「……そうでもねぇよ。あたしはさ、魔法少女になって家族を失っちまってからある程度のフンギリはついてる。世界が残酷だってことはな。そりゃまあ、バケモンどもに人が襲われていく様は見過ごせないけどよ……」

ほむら「……そうね。だからこそわたしたちは、わたしたちが今できる事をするだけよ」

杏子「……ああ。ていうかほむら、その目。泣いてたのか?」

ほむら「……あ。こ、これは……その……」

杏子「ああ、無理に言わんでもい。ただ、悩みがあったらすぐ言えよな」

ほむら「……余計なお世話よ」ファサッ


杏子「……今日は数が多かったな」

ほむら「数もそうだけど、魔獣の強さも若干上がっているような……」

QB「魔獣の数と強さは、人間の負の感情に比例する。白塩化に対する恐怖、感染者への疑心暗鬼――そういった感情が魔獣を増殖させ、強化しているのさ」

杏子「このまま行くと、あたしらの手に負えないんじゃねぇのか?」

QB「その心配はない。人間の個体数が確実に減少していく中で、放出される負の感情の絶対数もまた、人間が消えていくにつれて減少する。むしろ逆に、人間がいなくなった後の方が問題だ。人間が存在しなくなったら、魔獣もまた、姿を現さないだろう」

ほむら「……魔法少女には、未来がないってことかしら?」

QB「そうさ。このまま行けば、人間はやがて全滅だろう。それはつまり、魔獣を生み出すことはなくなる訳だ。そうなれば、グリーフシードは勿論手に入らない。ソウルジェムの穢れを浄化できない魔法少女はやがて、君たちの言うところの『円環の理』に導かれて消滅するだろう」

杏子「……へっ、よくもまあしゃあしゃあとぬかしやがる……。今の体を維持するだけでも、僅かに穢れは溜まるってのによ……」

QB「まあでも、白塩化の感染はこの見滝原を中心とした周辺区域に留まっている。このままなら、地球上のすべての人類が全滅するにはまだ時間がかかるしね。当分、グリーフシードに困ることはないだろう」

ほむら「もし、見滝原から人間がいなくなったら、その時は……」

杏子「この街から去るしかない、……か。そうでもしなけりゃ、魔獣に出会い、グリーフシードを拝むこともできねぇもんな……」


[2014年 10月]

政府が『見滝原封鎖計画』を実行。
見滝原が物理的に隔離される『エリコの壁』を設置。
レギオンに対する鎮圧続行の声明が出される。



[2014年 12月]

見滝原区内で意図的に残った報道関係者から、壁の内側の最後の映像が流出。
その後、報道関係者からの通信が途切れてしまう。
映像は白い大きな生物が現れた辺りで悲鳴と共に途切れる。


政府の『見滝原封鎖計画』が発表されてから一週間――

精神的に追い詰められていた巴マミは、わたしと佐倉杏子の度重なる説得により、なんとか立ち直ることに成功した。
わたしと杏子で、魔獣を倒すついでにレギオンも倒そうと彼女に提案したのがきっかけだった。
元人間を攻撃することに躊躇いを隠せなかった巴マミだったが、レギオンに人々が殺されていくのを傍観する訳にもいかず、最終的にはこの提案を呑んでくれた。

最初、魔法少女の魔法でレギオンを軽々と薙ぎ倒していたが、根本的な解決には至らなかった。
それもそのはず――白塩化の感染は、レギオンに襲われなくとも空気感染でいくらでも犠牲者を増やすことができる。
しかも最近では、外見が人型から逸脱し、極度に肥大化した個体である『変異体』なるレギオンが確認されている。
昨日の魔獣退治の後、その個体が市街地をうろついていたのでわたしたち三人で倒そうと試みたが、体力・防御の面で通常のレギオンの5倍近くはあると推測した。
通常の個体ならばソウルジェムをほとんど濁さずに倒せるのだが、『変異体』を倒すのにはそれに見合うだけの攻撃をぶつける必要があった。
向こうからこちらには攻撃して来ないので楽に倒せるが、こちらは攻撃する度に穢れが溜まる一方である。

魔獣も、白塩化の犠牲者とレギオンの増加に反比例して今ではほとんど見かけることはなくなった。
グリーフシードは使わなければならないのに、その供給源が絶たれてしまっては元も子もない。

早くても二週間後には、この見滝原に巨大な『壁』が設置され、『壁』の外側に出ることはできなくなる。
僅かに生存している非感染の人間も、次々に見滝原を去って行った。

わたしたち魔法少女もまた、決断を迫られていた――


〈マミホーム〉

杏子「…………とうとう、この街も見放されたか……」

マミ「……仕方ないわ。ここにはもう、望みなんて残っていないもの……」

ほむら「……魔獣も、ここ最近は全く現れる気配がしないわね」

マミ「グリーフシードのストックは十分あるけど……このまま魔獣退治ができなかったら、尽きるのは時間の問題ね……」

杏子「……そろそろさぁ、あたしらも腹決める時なんじゃないの?」

マミ「この街を出ていく……? ……でも、それ以外にわたしたちが生き延びる手立てなんて……」

ほむら「わたしは、ここに残るわ」

杏子&マミ「?!」


マミ「……暁美さん。それが何を意味するのか、本当にわかってるの……?」

杏子「ここにいたって、人間も魔法少女も、犬死にするしかねぇんだぞ! ……ほむら。あんた、何考えてんだ?」

ほむら「……ッ、それは…………」


正直、わたしはこの見滝原を出たくなかった。

あの子と出会い、あの子と過ごした日々――

その記憶を思い出させてくれるこの街にいたからこそ、今までわたしはどんな苦難にも耐え、乗り越えることができたのだ。
それに、まどかが願った世界が狂っていく有り様を、これ以上見たくはなかった。

世界を絶望で終わらせないために、あの子は自らの存在を犠牲にしてこの世界へと作り変えたのだ。
なのに、誰の目的かもわからぬまま、人間は滅びの道を歩まされている。
あの子の犠牲を無駄にしているだけであって、わたしにはそれが許せなかった。
そして何より、あの子の願った世界を守ることができない自分の無力さが一番許せなくて――

どうせならもう、まどかとの思い出が詰まったこの地で、あの子が迎えに来るのを待ちたい――

それが、わたしの本音だった。


ほむら「…………わたしがいなくなれば、グリーフシードの消費は二人分だけで済むのよ……。あなたたちに迷惑をかけるつもりはないわ。だから……」パシンッ

杏子「マミ?!」

マミ「ッ……暁美さん! ふざけないで頂戴ッ……!」ウルウル

杏子「てめぇ一人だけの命じゃねぇんだぞ! よく考えてものを言えよ! 大馬鹿野郎!! 」

自分でもわかる。ろくでもない嘘をついてしまった――
彼女たちがわたしを大切に思ってくれているのは、同じ魔法少女として一番わかっていたはずなのに――


ほむら「……ごめんなさい。変な事、言ってしまったわね……」

杏子「……あんたは勘違いしてる。あたしらは一度だって、あんたを迷惑に思ったことなんてねぇよ……」

マミ「あなたがいなくなれば、それを悲しむ人がいるって、どうしてそれに気が付かないの?!」グスッ


わたしもまた、似たような言葉をあの子に言ってたような――


杏子「……なあ、ほむら。悪いけど、あたしとマミはもうこの街を出るという意見で固まってるんだ。まだ残るって言うんなら、引きずってでもあんたを見滝原から出させるぞ」

マミ「……お願いだから、わたしたちと一緒に来て。美樹さんが死んで、あなたまでいなくなったら、わたし……」

ほむら「……あなたたち…………」


確かに、この狂った世界を見続けるのはとても辛いかもしれない。あの子がかつて守ろうとした世界なら、尚更――
でもここで、彼女たちを置き去りにして自分だけ現実から逃げたら、一体、どうしてあの子に顔向け出来るだろうか。

かつての世界で、まどかはその身を呈して、魔法少女を絶望の未来から救おうとした。
自分が、もう誰からも認識してもらえなくなるとわかっていたのに――

あの子の意志は、わたしが受け継ぐ――
そう心に決めて、わたしは戦ってきた。
それを途中で投げ出し、背を向けるのはまどかに対する叛逆だろう。


ほむら「……わかったわ。わたしも、この見滝原から出ていくわ」

マミ「わたしだって、本当は出たくないわ……。思い出深い街だもの。でも、そうする以外に、わたしたちにはもう手段は残ってないのよ……」

杏子「ほむら、すまねぇな。でもよ、死んじまったら何もできねぇからさ……」

ほむら「間違ってないわ。……そうね。死んでしまったら、何も、ね……」


重い、決断だった。
けれども、まだ希望が無くなった訳ではない。
人類が生きている限り、わたしたちは戦い続ける。
いつか、レギオンが駆逐され、この街が平穏を取り戻すその日まで――

それまでは、さようなら。わたしの、最高の街――


[2015年 1月]

エリコの壁が内部から壊され崩壊。
原因は、赤い目を持つレギオンである『レッドアイ』が、他のレギオンを統率して内側から壁を破壊。
大量のレギオンが見滝原から脱走し人々を殺戮、壁が崩壊したことによって白塩化症候群の感染が関東全域へと拡大。



[2015年 3月]

白塩化症候群により本州全土が戦場化。
政府機関と皇居を九州に移転。
自衛隊は本州に残りレギオンと応戦。



[2015年 5月]

封鎖された見滝原から無尽蔵に湧き出るレギオンに業を煮やした政府は『見滝原壊滅作戦』を検討。
レギオンに対する有効な対抗手段は未だ不明。



[2015年 6月]

見滝原への核攻撃が決定。



[2015年 8月]

見滝原を中心に核弾頭が投下される。
しかし、この核攻撃の余波で全世界に白塩化症候群の感染が広まる。



〈新宿 -旧都庁前-〉

見滝原を出てから半年以上が経過した。

見滝原を出たわたしたちは、かつて“新宿”と呼ばれていたこの地に移った。
インキュベーターが、魔獣が頻繁に出現する地域を全国区で調べてくれた結果、ここ新宿に魔獣が集中しているということで、この地が選ばれたのだ。
今ではもう、新宿に限らず本州のあちこちで魔獣が急激に発生しているとインキュベーターは言っていたが、いくら魔法少女とはいえ本州全土はさすがに廻りきれない。
何よりもまず、わたしたち魔法少女が長距離を移動する際に消費する体力を考えると、割に合わないというのが一番の理由だった。
体のコンディション次第で、ソウルジェムもまた、穢れを溜め込んでいくからだ。

わたしたちはもう、人を守るためではなく自分の命を繋ぎ止めるためだけに魔獣を狩っていた。


杏子「なあ、ここの魔獣もだいぶ数が減ってきたよな?」シャクシャク

マミ「そうね。北海道や九州、海外に逃げれなかった人たちも、もうあまり生き残っていないもの……」

ほむら「しばらくしたら、次の候補地も探さないといけないわね……」


新宿だけではない。本州の外へ逃げ遅れた人たちは、負の感情を募らせ魔獣を生み出し、やがてその命を散らす。
見滝原への核攻撃は、放射能と白塩化症候群の感染を撒き散らし、被曝者と、白塩化もしくはレギオン化の犠牲者を増やす結果となった。

一方、被爆地・見滝原は完全に焦土と化し、かつてのわたしの望みは完全に潰えていた――


マミ「キュゥべえによると、次は“品川”という土地が有力らしいわよ。ここからそう遠くもないって言ってたわ」

杏子「あたしは、食いモンがありゃどこだって構わないよ」シャクシャク

ほむら「相変わらずね、あなたは……」

QB「やあ、待たせてしまったね」


ほむら「……遅かったわね。何か企んでいたのかしら?」

QB「その言い方は心外だな。僕は今日、君たちにとっても興味深い情報を伝えに来たんだよ」

マミ「何? わたしたちに直接関わる事かしら?」

QB「そう言われると、そうであるかもしれないし、そうではないかもしれない。けれども、知っておいて損はないと思うよ」

杏子「……ふーん。早く言えよ」シャクシャク

QB「白塩化症候群の原因が特定できたよ」

ほむら&杏子&マミ「?!」


QB「巨人の残骸と赤い竜の死骸を構成していた物質、そして、レギオンの死体と白塩化した人間から採取した物質――。インキュベーターの全総力をかけてこれらを解析した結果、本来この宇宙には存在しない素粒子を発見したんだ」

QB「名称はまだ決まってないが、ここでは仮に、“魔なる素粒子”を指して『魔素』と呼ぶことにしよう」

QB「この『魔素』には、ある種の『呪い』がかけられていてね。その『呪い』の内容とは、“――人間を滅ぼす――という、《神》との契約”なんだ」

QB「『魔素』が人体に侵入した場合、『呪い』が働いて感染者はその“契約”を強制的に結ばされる――」

QB「感染者は、“契約”を拒めば塩の柱となって絶命し、“契約”を受け入れるとレギオンへと変化、非感染者を襲うようになるんだよ」

QB「しかも、この『魔素』の『呪い』は、魂としての人間が、その本来の肉体に固定化されていなければ作用しない仕組みになっている。だから、魂と肉体が分離した君たち魔法少女は、『魔素』が体に侵入しても、その『呪い』が作用しないのさ」

QB「つまりレギオンも、魂と肉体が直結した人間だけを狙うようプログラムされている訳だ。魔法少女の姿は見えていても、彼女たちを“人間”として認識していないんだけなんだ。せいぜい、自分の周りを走りまわる犬か猫のような小動物程度にしか捉えていないだろう」

QB「『魔素』はウイルスではなく、人間の“魂”のみに作用する物質ということなのさ」


QB「もう一つ、さらに詳しく『魔素』を研究した結果、この世界とは空間を別にして存在する異世界の存在が立証されたんだよ」

QB「“時間”と“空間”はそれぞれの世界に個別に存在しているが、“次元”は平行して存在する別の世界とも共有している――」

QB「一つの次元に幾つもの平行世界が混在していて、そこに歪みが生じたために、あの巨人と赤い竜がこちら側の世界にやってきて、『魔素』を持ち込んだのだろう」

QB「ところで、さっき僕は“《神》との契約”と言ったね」

QB「恐らくこの《神》は、僕たちの知らない平行世界――つまり、あの巨人と赤い竜、そして『魔素』が元々存在していた世界――で本当に存在した《神》なんだろう」

QB「ちなみに、僕たちインキュベーターの仮説だと、《神》は“自らの失敗作である人類の粛清”という目的の元に『魔素』を作り出したという説が、最も有力になっているね」


ほむら「……そう、そういう事だったのね……」

杏子「……《神》、か……。どこの世界でも、神様ってヤツはろくなモンがいねぇな……」

マミ「“人間を滅ぼす契約”なんて……どうしたら、そんなひどい事を……」


だが、これではっきりした。

まどかの世界を汚しているのは、あの子と同格の存在――すなわち、《神》そのもの。

許せない。絶対に――
けど、実体のない存在を相手に、どうやって立ち向かえばいいのだろう。

そっちが神なら、こっちは悪魔にでもなって呪ってやればいいのか――


マミ「……ねぇ、キュゥべえ。『魔素』がこの世から消えれば、もう人々は苦しまなくて済むんじゃないの? 何とかして、あの『魔素』を消し去る方法はあるの?」

QB「『魔素』は、あらゆる熱核攻撃を用いても物理的攻撃手段での消滅は不可能と判明している。残念だけど、今の人類のテクノロジーではどうすることもできないね。」

マミ「そんな……!」

QB「理論上は、『魔素』を次元の狭間へと放出することで、この世界から数を減らすことはできる。けど、そんな高度な技術が確立するとしたら、当分先だろう」

杏子「魔法少女の魔法でも無理なのか?」

QB「前例が無いから何とも言えないね。ただ、魔法少女は条理を覆す存在だ。君たちがどれほどの不条理を成し遂げたとしても、驚くには値しない」

QB「でもね、仮に君たちの魔法で『魔素』を消す事ができても、ソウルジェムの浄化はどうするんだい? 今や世界中で白塩化が進む中、この日本だけでも大量の『魔素』があるんだよ。それを全部消し去るには、膨大な時間と魔翌力を必要とするだろう。ましてや、魔獣の数は減る一方だ。グリーフシードも、近い将来手に入らなくなるかもしれないんだ」

杏子「……チッ、もういい。訊いたあたしがバカだった……」

QB「わけがわからないよ」


ほむら「ともかく、魔獣が少しでも多くいる場所に移動しないと、わたしたちもお終いよ」

杏子「わっかてるよ……。おいマミ、しょぼくれてねぇで行くぞ」グイッ

マミ「……ねぇ、もう止めにしましょう……?」フフフッ


杏子「はぁ? あんた、どういうつもりだよ?」

マミ「わたしたち、何の為に生きてるの? 何の為に戦うの? ここまで見せつけられて、今更何をどうしろって言うのよ?!」チャキッ

ほむら「……! やめなさい! 巴マミ……!」

杏子「ッ……野郎……! とうとうイかれやがったか!」


マスケット銃を構える巴マミ。狙うのは佐倉杏子のソウルジェム。
佐倉杏子が彼女を引っ張ろうとしていたせいで、二人の距離はかなり詰められている。
止めに入ろうとしたわたしだが、彼女は片手でリボンを巧みに操り、わたしの四肢を胴体ごと締め上げる。


ほむら「……くうぅッ!」ギリギリ

マミ「逃がさないわよ!」ガシィ

杏子「こいつ……! 離しやがれ!」

マミ「……ああ……佐倉さん……!」ガバッ


いつの間にかマスケット銃を手放していた巴マミは、佐倉杏子に覆いかぶさるように抱きついた。
佐倉杏子を押し倒し、リボンで彼女の両手両足を括り付ける。
そのまま彼女の腹の上に跨り、その手を彼女の胸元――深紅のソウルジェムへと手を伸ばす。


マミ「……綺麗ねぇ……。佐倉さんのソウルジェム……」ウットリ

杏子「や、やめろぉ……!」プルプル

マミ「……ねっ、一緒に逝きましょう?」ブチッ

杏子「ああっ……!」

ほむら「……巴……マミ……! あなたって人はッ……!!」ギリギリ


佐倉杏子のソウルジェムを奪い取り、恍惚な目でそれを眺め、指先で宝石の部分を撫でる。
その目には生気が宿っておらず、瞳の奥は狂気の色に染まっていた。


マミ「ウフフフ、アハハハッ!」クルン クルン


立ち上がった巴マミは、佐倉杏子のソウルジェムを天に掲げながら突然踊り出した。
一方、体の自由が利かない佐倉杏子は、怒りとも悔しさとも言えないやりきれない表情でぎゅっと目を閉じ、泣いていた。
ソウルジェムとの距離は100メートル以内なので、まだ意識はあるようだ。

マミ「……フフフッ、ねぇ、見える? 佐倉さん。これ、あなたの命なのよぉ?」フリフリ

杏子「……う、ううぅっううぅっ…………」ポロポロ

ほむら「…………狂ってる……。あなたは……狂ってるわ……」

マミ「……? ……何か言ったかしらぁ? 暁美さん……」スタスタ


近づいてくる巴マミ。このままでは、わたしのソウルジェムも奪われてしまう――


マミ「……ウフフッ、暁美さん……。あなたも……とっても綺麗よぉ……」ズンズン

ほむら「……くッ! やめなさい……!」ギリギリ

杏子「……や、やめ…………て……!」ポロポロ


とうとう、巴マミがわたしの眼前にやってきた。
すると、突然顔を近づけてきて、彼女の唇とわたしのそれが、静かに触れ合ってしまった。
蛹のように身動きが取れないわたしには、彼女の口づけを拒む事はできない――


マミ「……ウフッ…………ンッ……」チュッ

ほむら「……ンッ…………ンンッ……!」フルフル

マミ「…………ぷはぁッ……」ツー

ほむら「……ハアッ、ハアッ…………」ツー


彼女の顔が次第に離れていくと、唇の先から唾液が尾を引いていく。

舌まで入れられた――

何の抵抗もできずに、彼女の良いようにされてしまった。
あまりの情けなさに、涙が溢れてくる。


ほむら「……ううッ! ぅぅううううぅぅぅッッ!!」ポロポロ

マミ「あら……? そんなに嬉しかったのぉ……? やだぁもう……暁美さぁん……」ウットリ

杏子「……ハ、ハハッ……。もう、ダメだぁ……コイツぁよぉ…………」グスッ グスッ


先程まで泣きじゃくっていた佐倉杏子は、もう何もかも諦めたような表情で笑い出していた。


マミ「……フフフッ。暁美さんったら、こんなに可愛らしいものなんかつけちゃって…………」スーッ

ほむら「……! やめてっ……! それだけはッ………………!!」プルプル


彼女が手を伸ばす先――

それは、わたしの髪に結んだ赤いリボン。
そう、あの子がわたしに託してくれた、命に代えても大切なもの――

やめて――。

今のあなたが触れていいものじゃない――。


杏子「……ハハハッ、ハハッッ。ほむらぁ……あたし…………」ケラケラ

マミ「…………暁美さん、怖がらないでぇ……。……優しく…………するから……」ススーッ


やめて――。
いや、やめろ――。


ほむら「…………ッッッ!!」プチン


その時、わたしの中で何かが切れた――


ほむら「ガアァッッ!!」ズオアッ


理性が弾け飛んだ瞬間、凄まじい波動と共に魔力の奔流を背中から放出し、黒い翼を展開する。
その衝撃波で巴マミがものすごい勢いで吹っ飛び、わたしを拘束していた彼女のリボンはズタズタに引き裂かれた。


マミ「キャアアアアァァァッッ!」ズザザザザーッ

ほむら「ハアッ、ハアッ……」シュウウゥゥ

杏子「」パタンッ


黒い翼が消滅する。

感情に任せて何も考えず、ただやみくもに魔力を暴発させたため、追撃する体力も残っていない。
今の一撃だけで、わたしのソウルジェムは急速に濁っているだろう


ほむら「はあっ……はぁっ……。と、巴マミは……?」ゼェゼェ


肩で息をしながら辺りを見回すと、前方数百メートル離れた場所に巴マミは横向きに倒れていた。
どうやら気絶しているようだったが、その手には佐倉杏子のソウルジェムがしっかりと握られていた。

斜め前には佐倉杏子が倒れていた。
彼女の両手両足を縛っていたリボンは消えていたが、ソウルジェムが100メートル以上の距離にあるため意識は無い。


ほむら「早く……回収を……」ヨロヨロ


巴マミの元へ向かうわたし――

すると突然、巴マミが倒れている傍のビルの物陰から、人型の生物が姿を現した。


白い表皮、赤い目――

間違いない。レギオンの統率者である『レッドアイ』が、巴マミの方に向かっている。
『レッドアイ』は、元の人間の知性を完全に残しているため、そこいらのレギオンとは比較にならない程厄介な存在だ。

しかし、魔法少女を敵と見なさない彼らのリーダーが、何のために彼女へ近づくのか――

だがしかし、その思考は一瞬でかき消される。
なぜなら、『レッドアイ』が歩を進める先に、巴マミのソウルジェムが転がっていたからだ。


ほむら「!! だ、だめっ……!」


弓を召喚し、『レッドアイ』の頭部を射抜こうとしたが、力が入らない。
魔力が回復していないせいか、肝心の矢もすぐに消滅してしまった。


ほむら「ッ……! このままじゃ……!!」


焦りと恐怖に顔を歪めていると、どこからだろうか








――女神は死ぬ。








野太い声で、そんな言葉が聞こえた気がした。
その声に気を取られた次の瞬間――、


パリンッ――。


巴マミのソウルジェムが、『レッドアイ』の足に踏み砕かれた音だった。


ほむら「……そん…………な…………!!」ガクッ


思わずその場に膝を落とし、うな垂れる。

『レッドアイ』は、特に気にするような素振りも見せず、巴マミの肉体が横たわる方向へと歩き続ける。
きっと、足元にある巴マミのソウルジェムなど気にもかけず、道端に転がる石ころ程度にしか思ってなかったのだろう。

そしてとうとう、彼女の亡骸の前までやって来て、静かに腰を下ろす。
すると、彼女の手に握られていた紅い宝石――佐倉杏子のソウルジェムを手に取り、何かを探るように見つめ始めた。


ほむら「か、返して……! それは…………!」


かすれた声で必死に訴えかけるが、当然、あちらがこっちに気づくわけがない。
地面にへたり込んだまま、わたしは届くはずのない腕を伸ばし――


バキキッ、バキバキッッ――。


白い手に握られた佐倉杏子のソウルジェムがすり潰され、紅い宝石の破片が砂のように手のひらを滑り落ちていく。


ほむら「……そんな…………なんで……どうして……」


『レッドアイ』は立ち上がり、元いたビルの物陰へと消えて行く。

不思議と、怒りや憎しみといった感情は湧いて来なかった。
ただ、何とも形容し難い感情がわたしを包み込んで、とめどなく溢れる涙で地面を濡らす。


ほむら「う、う、ううっ、うわああああぁぁぁ!!!」ポロポロ ポロポロ


泣く、泣く、泣く――
ただ泣き続ける。

なんで泣く? どうして? 悲しいから? 悔しいから? 恐いから?――
理由はわからない。

誰のために泣く? 佐倉杏子? 巴マミ? それとも――
これもわからない。佐倉杏子はともかく、巴マミはあんなにひどい仕打ちをわたしにしたのに。

その日わたしは、泣き続けた。周りの目など、もうどうでもよかった。

このまま気が済むまで泣き尽くして、果ててしまいたかった――


QB「………………」

QB(……やれやれ。感情というものはつくづく厄介な代物だね。僕たちには理解できない)

QB(あの後、事の顛末を見届けたわけだが、一つ不可解な事があったね)

QB(ソウルジェムを砕かれたはずの杏子とマミの身体が、消滅せずに残っていたんだ)

QB(これはつまり、『円環の理』が作用しなかったということだよね)

QB(魔法少女消滅の仕組みの解明は、僕の課題だったけど、こうなってしまったからにはどうしようもないよ)

QB(さて、僕もそろそろ、やりたいことがある)

QB(暁美ほむらの言っていた『魔女』の概念。確かめさせてもらおうかな)

QB(でもどうやって……。上に掛け合ってみるか)

QB(ん? 何だあれは……。“光”が迫って来るぞ)

QB(これは……空間が歪んでいる?! どんどん大きくなって……ダメだ、逃げられない!)

QB(うわあああああぁぁぁ!!)


ここは、教会――だろうか。

なんでこんな場所に? わからない。何もかも。

あれは……女の人?

祈りを捧げているのかしら……それにしても、随分と苦しそうな表情ね。


マナ「あなたも、来ちゃったね」


誰?


マナ「ラララララララ。ラララララララ」


またあの野太い声……。あの赤い服の子が発しているの?


マナ「じゃあね。おねえちゃん」


え? ちょっと待って。わたしは一体……















――女神は死ぬ。















ほむら(……“女神”って、まさか…………)










〈暗闇〉











まど神「…………………………………………」

まど神「……ここ…………どこ…………?」

まど神「…………助けて…………ほむらちゃん…………」
















  第十三章「真実」



ヴェルドレ「おしまいだ! おしまいだー!」

アンヘル「祈らぬのか?」

ヴェルドレ「何にっ? ……何にすがれば良いのです!?」

アンヘル「知るか。すがるものなど、はじめから何もないのだ」

アンヘル「そうさな……虎の子を見つけたくば、虎の巣に入るしかなかろう」

セエレ「やだ。行かないで……カイム! 僕をひとりにしないでよー!」

アンヘル「生きておれば、また会えようぞ」

セエレ「……じゃあさ……せめて……」

セエレ「せめて……忘れないでっ! 僕のこと!!」


QB(……何なんだここは…………空が赤く染まっている……?)

QB(それにあの建造物……。人間の文明が後退しているとでも言うのか?)

QB(あれは…………! あの巨人じゃないか!)

QB(その上には赤い竜が飛んでいる……。まさか……これが……)

QB(な、何だ?! また、“光”が迫って……!)

QB(う、ううぅわあああああぁぁぁ!!)



カイムは、善も悪も全て、道連れにして旅立った。
我々は生きるしかあるまい。混沌の世界で――



[2015年 11月]

秘密裏に進んでいた赤い竜の亡骸の研究により、本来この世界には存在し得ない粒子『魔素』を発見し白塩化症候群の原因と判明。また『魔素』による白塩化は、熱核攻撃などにおける物理的攻撃手段での消滅は不可能と判明。
魔素の発見により、さまざまな分野のテクノロジーにブレイクスルーが発生。研究結果によりこの世界とは空間を別にして存在する、異世界の存在を裏付けた『多元世界説』が立証される。

同時に行われていた魔素の研究も進められた結果、多元世界の研究が進み、これまで仮説とされていた『多元世界すべてでエネルギーは保存される』という説が立証される。



[2016年 3月]

『世界浄化機関』の研究により、魂を抜き出す『ゲシュタルト化計画』が始動。
ゲシュタルト化の人体実験は成功、ゲシュタルト化した人間を元の体に戻す実験も成功した。



[2016年 5月]

魔素を通じ、多元世界からのエネルギーを搾取し、『無より有を生み出す技術』が確立、以後この技術を『魔法』と呼称。
ただし、魔法を使用できるのは赤い竜の培養組織を有したことで、多元世界を分ける壁を越える力を得た『ゲシュタルト』のみ。



[2016年 11月]

魔法による『レギオン壊滅作戦』を決行。
ゲシュタルトの中から、特に魔法の使用に秀でた者を訓練。
レギオンとの戦闘を試みる実験を開始するも、作戦はほぼ失敗。
作戦に参加したゲシュタルトたちが、自我の呵責に耐え切れず精神崩壊する。





[2025年 1月]

ゲシュタルトの器として『レプリカント』の技術が確立。



[2031年]

白塩化症候群はさらに蔓延し続ける。



[2032年 2月]

『レプリカント』技術が一般に公開される。
世界中の人間をゲシュタルト化し、レプリカントを作り出すというシステムを、半永久的に続ける『レプリカントシステム』が構築される。
レギオンの駆逐とレプリカントシステムの継続を、レプリカントの本能、活動目的として組み込む。
『アンドロイド』を作り、レプリカントシステムの管理者として配置。



[2032年 3月]

ゲシュタルト計画が最終段階へ。
世界が白塩化症候群の危険から脱するまでゲシュタルトは眠りに突く。
レプリカントシステムの管理者として、半永久的に動き続けるアンドロイドを世界各地に配置。
レプリカントは病の元である魔素を集めることをアンドロイドに指示される。
集めた魔素はアンドロイドの司祭の元、『祭』によって異世界へ放出。



[2033年]

『黒の書計画』が立案される。
本のような器にゲシュタルトを組み込むことに成功、『黒の書』『白の書』をはじめとした13冊の『封印の書』が作られる。
黒の書と白の書の同時起動で生じるエネルギーを利用し、ゲシュタルトを各々のレプリカントへ強制的に戻す『黒の書計画』が本格化。
ゲシュタルトになった人間は一定時間が過ぎると『崩壊体』になり、さらに時間が経過すると死に至ることがわかる。これを回避するにはゲシュタルト化してもなお安定する個体の魔素の注入が必要であることが判明、この固体を探す。
探す方法として国の救済支援策と偽り、食糧や薬目当てで集まった人々に黒の書のクローンを与え、ゲシュタルト化させ、ゲシュタルトになっても崩壊体にならない固体を見つけだすという行動をとる。


〈廃墟 -旧見滝原-〉

QB Mk-Ⅱ(地球に滞在していた個体からの連絡が途絶えて来てみれば、……なるほど。人類はとうとう、魂を抜き出す技術を獲得していたのか)

QB Mk-Ⅱ(これは驚いたな。魔法少女システムもだんまりってヤツだ)

QB Mk-Ⅱ(それに、この地球ではもう魔獣は絶滅危惧種となっている)

QB Mk-Ⅱ(エネルギー回収も望めないだろう。魔法少女が誰一人存在しないこの星に、もう用はないね)

QB Mk-Ⅱ(というか、魔法少女システム自体が使えなくなってしまったと言う方が正しいだろう)

QB Mk-Ⅱ(新しいエネルギー回収方法を、模索しないとな……)

QB Mk-Ⅱ(上も、『魔素』を使って平行世界からエネルギーを回収しようと躍起になっている)

QB Mk-Ⅱ(人間と同じ事をしていると思うと、我ながら情けないと感じてしまうね)

QB Mk-Ⅱ(“感情”か……。少し興味が湧いてきたよ)


〈見滝原 -風見野方面行き バス停前-〉



ほむら「まどかのいない世界なんて、とっとと潰れてしまえばいいのよ!! ウフフッフフッ、あははっ、アッハッハッハッハッ!!!」ビクン ビクン


ああ、きっとわたしはどうしようもない夢を見てるのだろう――。

でなければ、こんな、何もかも狂った世界に居続けることなんてないもの――。

ここはわたしの居場所じゃない――。

早く目を覚ましさいよ。夢を見てるわたし――。

さもないと、わたしは――


ほむら「アッハハハッ、アハッ、あはっ、はっ…………。」


もう、笑うこともできない――。

突然、わたしの中に押し寄せるどす黒いもの――

何、何なの? わたしを追いかけて来るこの感情は、何?


ほむら「…………い、いや……。も、もう……いやよ……………………もう、いやああああああああぁぁぁぁ!!!!!」ビエーン


助けて、誰か助けて――。

助けテ、助ケテ、タスケテ――。


ほむら「イヤッ! イヤッ、いやなのッ!! もういやなのよおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!」ギエーン


まどか、まどか――。


ほむら「…………ううっ……うぅ……!」グスン グスン


会いたい。会いたいのに、どうしてあなたは来てくれないの?


ほむら「………………ま……ど…………か……」グスッ








――女神は死ぬ。








そう。そういうことだったのね――。


〈暗闇〉












まど神「…………やめて………………もうやめて……………………!」

まど神「…………ほむらちゃん………………………………!!」












QB(…………………………………………)

QB(…………うう……。ここは………どこだ………………?)

QB(…………ビルの屋上か……。建物がやけに多く乱立しているかと思ったら……)

QB(……待てよ…………。そもそも、こんなにも多くのビルが建ち並んでいるなんて、どう考えてもおかしい……。僕が元いた世界は、もっと荒廃していたはず……)

QB(…………! な、何だ?! 空が歪んでいる……?!)

QB(……歪みが広がっていく…………あ、あれは! あの『巨人』が降ってきただと?!)

QB(『巨人』だけじゃない…………『赤い竜』も、あの歪みから…………!)

QB(この光景……どこかで見たような…………。ま、まさか! “戻って”きたとでも言うのか?! 『あの日』に…………!)

QB(……これが…………「真実」、なのか……?)

QB(……落ち着け、落ち着いてよく考えるんだ…………。そもそもここは、本当に『見滝原』なのか?)

QB(…………いや違う……! じゃあ…………、ここは………………!!)





[2003年 6月12日]




アンヘル「ここは……神の国なのか?!」




――新宿――





終わらない始まりへ
ほんとうの終わりへ





Kalafina「君の銀の庭」より抜粋――。




以上で、当SSは終わりです。

当SSを読んで下さった読者の皆様方、
ほんとうに、ほんとうにありがとうございました。



どうも、>>1です。

皆さんいろんなご意見ありがとうございます。

ほむらは“狂い”、女神(=まど神)は“死んだ”。ただ、それだけです。
それ以上でもそれ以下でもありません。

キュゥべえは……ご想像にお任せします。

ただ、「真実」は一つではありません。世界の数だけ、「真実」は存在すると僕は思います。

DODの、モヤモヤ且つよくわからない終わり方が当時(小学校4年生)の僕に衝撃を与えたので、当SSもこのような終わり方に走ってしまいました。

気分を害した方には、お詫び申し上げます。

まどマギは『鬱』だとよく聞きますが、小学生でDODの全エンディングを見てしまった身としては、まどマギはまだ救いがあると思います。

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