早朝 比企谷宅
ヴヴヴヴヴ……
八幡「……もしもし?」ピッ
雪乃『おはよう、比企谷くん。いい朝ね、ちゃんと起きているようで何より』
八幡「いやだから別にモーニングコールとか無くても大丈夫だっての。そんな遅刻キャラってわけじゃねえから俺」
雪乃『でも遅刻した事はあるのでしょう? 平塚先生から聞いたわ、あなたらしい、ありえない言い訳もあったとか』
八幡「……まぁ、その、たまにはな。でもたまにだぞたまに」
雪乃『あまりたまたま言わないでくれるかしらセクハラで訴えるわよ』
八幡「その発想に行き着くお前が訴えられろ。とにかく、モーニングコールとかいらないから」
雪乃『でも比企谷くん、世の中には孤独死というのもあるのよ。何かのトラブルで家の中で死亡して、そのまま誰にも気付かれないという……』
八幡「友達はいねえけど家族はいるから。この状態で孤独死とかそれこそ死ねるわ」
八幡(リビングで寝落ちしてたのに誰にも起こされずに遅刻した事はあるけどな)
雪乃『あら、私は友達じゃないのかしら?』
八幡「……そうかもな」
雪乃『いえごめんなさい、違ったわ』
八幡「あぁそうだ、違ったな。お前は悪魔だった」
雪乃『あなたとは恋人同士だったわね』
八幡「ちげーよ一番ちげーよ。それ俺が言ったら通報されるようなセリフだぞこえーよ」
雪乃『そう……ではキープその1だったかしら』
八幡「そういうのはリア充の悪行だ。つかその1とか他にも居るみてえじゃねえか」
雪乃『その2は由比ヶ浜さん、その3は小町さんよ』
八幡「おい待て、お前と由比ヶ浜は百万歩譲っていいとして、小町って何だ小町って。千葉のお兄ちゃんがみんなガチの妹ルートへ進むと思うなよ」
八幡「あとちゃっかり自分を第一候補に持ってくるな。仮にキープなんてものがあったとしても、その1は戸塚だ」
雪乃『……あの夜、二人であんな事までしたのに』
八幡「誤解を生むような言い方やめてくんない。盗聴されてたらどうすんだよ」
雪乃『あなたの通話なんて聞きたいと思う人がいるわけないじゃない』
八幡「……それもそうだな」
雪乃『私と由比ヶ浜さん以外』
八幡「こえーよ、無駄にありそうで洒落になってないからやめろ」
雪乃『ふふ、どう? 少しは目が覚めてきたかしら?』
八幡「ここまで全て思惑通りみたいに言ってんじゃねえ。だいたい、モーニングコールとかお前だって面倒だろ」
雪乃『そんな事ないわ。むしろ私は朝からあなたの声を聞くことができて嬉しいもの』
八幡「…………そ、そうですか」
雪乃『えぇ、そうよ。じゃあ比企谷くん、この調子で無事に学校まで着いてちょうだい』
八幡「なに俺、誰かに狙われてんのかよ。そこまで人から関心向けられる事なんざねえっつーの」
プツッ
八幡「……はぁ」
八幡(ったく、雪ノ下攻めすぎだろ俺じゃなかったらとっくに落ちてるぞ危ねえな)
小町「んー、お兄ちゃんおはよー」ゴシゴシ
八幡「お、小町。なんだお前妙に早起きじゃねえか珍しい」
小町「そりゃ朝っぱらからお兄ちゃんの『でゅふふ』っていう笑い声聞いたら目も覚めるよ」
八幡「は!? え、俺そんな声出してたの!?」
八幡(バカな……もう既に俺は落ちていたのか……!?)
小町「うーん、どうだろ。現実かもしれないし、夢かもしれない。小町が現実だと思えばそれは現実で、夢だと思えばそれは夢なのかもしれない」
八幡「そういう中学生が好きな表現はやめろ。それは夢だ。お前がどう思っても夢だ」
小町「そうなのかなぁ。でも朝っぱらからのお兄ちゃんと雪乃さんの甘々のラブラブっぷりに胃もたれしてるっていうのは現実かも」
八幡「それも単にお前の脳内がお花畑過ぎて勝手に甘く変換してるだけだ。コーヒー淹れてやるからブラックでガブ飲みしろ」
小町「えー、小町ブラック飲めないー。だけど、良かったよお兄ちゃん。雪乃さんと仲直りしてくれたみたいで」ニコ
八幡「……何の話だよ元々ケンカする程仲良くねえっての」
通学路
スタスタ……
八幡(こんな時間に余裕を持って登校とかどんだけ優等生だよ俺。教室にぼっちで居る時間が長くなるじゃねえか)
八幡「……ん?」
平塚「お、比企谷か。おはよう、いや、本当に早いな。そういえば雪ノ下からモーニングコールを受けているのだったか」
八幡「おはようございます。つかどうしてそれ知ってんすか」
平塚「私が雪ノ下に提案したからだ」
八幡(諸悪の根源はこの人か!)
八幡「……で、どうしたんですかこんな所で。車、故障でもしたんですか」
平塚「いや、そういうわけではないのだが……」チラ
八幡「??」
八幡(何を見て……あれ、あそこに転がってるのって……)
平塚「比企谷、悪いが手伝ってくれないか」
八幡「猫……ですか?」
平塚「あぁ、轢かれたまま放置されているのも可哀想だろう」
八幡「先生が轢いたんじゃ……」
平塚「人聞きの悪い事を言うな。車の位置的に通り過ぎる前に止まったと分かるだろうに」
八幡「冗談ですよ。分かりました、何すればいいっすか?」
平塚「……あっさり引き受けてくれたな。てっきり渋られるかと思っていたのだが」
八幡「うちにも猫居ますしね……それに先生の言う事は聞きますよ」
平塚「ふふ、どの口が言うんだかな。ありがとう、比企谷」
数十分後
八幡(猫は見晴らしのいい場所に埋めてやって、拝んだ)
八幡(俺が手伝ったのは穴を掘って埋めるくらいで、実際に猫の死骸を持っていたのは平塚先生)
八幡(正直、動物の死骸を普通に触れるのはすげーと思う。俺もうちのカマクラなら大丈夫だろうけど、その辺の野良猫ってのはキツイし)
平塚「さて、改めてありがとう比企谷。結局時間もギリギリになってしまったな」
八幡「いいっすよ。早く行き過ぎても良い事ないですし」
平塚「まだグループが出来上がっていない時間に、一人で居るクラスメイトを狙って話しかけるチャンスだと思うが」
八幡「んな努力する気力は残ってませんよ。別にいいですし、ぼっちで。それにほら、戸塚も居ますし」
平塚「雪ノ下と由比ヶ浜もだろう」ハァ
八幡「……そうっすね」
平塚「雪ノ下と言えば、君達はまた交遊を始めたらしいじゃないか。あの子も生き生きとしていて何よりだ」
八幡「そうですか? 何も変わってないと思いますけど」
平塚「いやいや、見違えるほどだぞ。私にはそう見える。この調子で奉仕部にも復帰というのは……」
八幡「すいません、それは無理っす」
平塚「……そうか。まぁ、それも頭のどこかに留めておいてもらえると嬉しい」
八幡(由比ヶ浜の件を話せば納得してもらえるだろうが……言うわけにはいかねえよな……)
平塚「それと比企谷、私には君もかなり変わってきたと思うぞ」
八幡「え、俺が?」
平塚「あぁ。雪ノ下効果か由比ヶ浜効果か戸塚効果かは知らないが、目の濁り具合や性格の腐り具合がマシになってきた気がする」
八幡「それは戸塚効果でしょう。戸塚以外考えられない。戸塚サイコー」
平塚「本当に君は戸塚の事が好きだな……。とにかく、以前よりは少しでも日常生活を楽しんでくれているのであれば、私は嬉しい」ニコ
八幡「…………」
八幡(考えてみると……この人こうやってずっと俺の事見てきてんだよな。なんつーか、本当に居るもんなんだなこんな先生)
八幡「……あの、真面目な話、たぶん一番効果があったのは…………」
平塚「ん?」
八幡「……いや、何でもないっす」
八幡(何言おうとした俺、すげえ恥ずかしい)
平塚「そうか? 何かあったら遠慮なく相談してくれ。生徒に頼られる事を喜ばない教師は居ない」
八幡「そんな事もないと思いますけど。先生は結構特殊っつーか、なんつーか……」
平塚「はは、君だけには言われたくないなそれは。ほら、そろそろ行かないと遅刻してしまうぞ」
昼休み 教室
結衣「ねぇヒッキー、職場見学なんだけど、あたし達と同じ班でいいよね?」
八幡「はぁ? 俺は戸塚と戸塚と戸塚と戸塚と戸塚と、あと何だったか、葉なんとかって奴と同じ班だが」
結衣「さいちゃん分裂しすぎ、葉なんとかっていうのも酷いし……そうじゃなくて、そこに女子三人が入るでしょ?」
八幡「そうだったか? 知らん」
結衣「そうなの! 隼人君とさいちゃんはもう知ってるから、ヒッキーにも教えないとって」
八幡「仮に俺がごねた所で何も変わんねえんだから、いちいち教えてくれなくてもいいっつの。特にあの女王様とか一蹴するだろ俺の意見」
結衣「ゆ、優美子は女王様なんかじゃないってば!」
八幡「別に俺は三浦だとは言ってないがな」
結衣「あっ! い、いや、その、これはねヒッキー!」アタフタ
八幡「分かった分かった、聞かなかった事にすっから。要するに女子は全員葉山狙いって事だろ」
結衣「そ、そんな事ないって。あたしは……」チラ
八幡「…………」
結衣「えっと///」モジモジ
八幡(やっぱこいつ俺の事好きだろ。やべえついに俺にもモテ期ってのが来た。今までバカにして信じなくてごめん)
八幡「……けど、葉山がなんつーか、俺と同じ班ってのも珍しいな。女子はともかく、男もいつもの取り巻きと組むかと思ってたが」
結衣「取り巻きって……うん、でもその辺りはちょっとあってね。ほら、今回って男子三人、女子三人の班じゃん?」
八幡「なるほど、なるほど。あいつらは四人。だから邪魔な葉山を追い出したのか」
結衣「ち、違うってばもー! 隼人君は自分から引いたんだよ!」
八幡「はっ、いかにも人気者のしそうな事…………ん?」
八幡(なんだ、そんな話聞いた事あるような……)
結衣「でもその前は変な空気になっちゃったりして大変だったんだよ。だからゆきのんにも相談してね……」
八幡「雪ノ下に?」
結衣「うん、ていうか奉仕部にね。そしたら隼人君が抜ければ、それ以外の三人の仲も良くなっていいんじゃないかって」
結衣「それでその通りにしたら、あの三人も仲良くなったみたいで丸く収まってくれたんだよ。流石ゆきのんだよね!」
八幡「そこは流石葉山って言うべきなんじゃないの。あいつが溢れても平気っていう超絶人気者スキル持ってるからこそ取れる方法だろ」
結衣「あ、あはは、まぁ隼人君だし……」
八幡(思い出した。確かそんな話を雪ノ下からメールか何かで相談された気がする。その解決法出したの俺じゃねえか)
八幡(まぁ、雪ノ下も友達多いってわけじゃねえし、一人じゃ厳しいと思ったんだろう)
八幡(つー事は葉山が俺の班に入ってきたのは自業自得って事じゃねえか何やってんだ俺)ガクッ
結衣「どうしたのヒッキー?」キョトン
八幡「いや、何でもねえ」
八幡(奉仕部は辞めたが、まだ雪ノ下と関わっているってのは伏せたほうがいいよな念の為)
結衣「……ヒッキーはさ、奉仕部に戻りたいとか思ってないの?」
八幡「はぁ?」
結衣「だってほら、ちょっと覗いてみた事あるけど、ヒッキーとゆきのん、楽しそうだったし……」
八幡「ねえよ。あんな毒舌女と一緒の空間に居るとか二度とごめんだ」
結衣「そ、そっか……でも、ゆきのんって本当はすっごく良い子なんだよ!」
八幡(知ってる……とは言えねえ)
八幡「少なくとも俺にはそう見えなかったな、全然」
夜 道路
八幡(ったく、まさか醤油切らしてたからって、お兄ちゃんをチャリで使いっ走るとかどんだけだよあの妹)キコキコ
八幡「…………」キョロキョロ
八幡「……はぁ」
八幡(あの雨合羽の一件以来、どうも夜道ってのは警戒しちまう。いや、正しいんだろうけどよ。とにかく早めに……)
??「にゃん♪」
八幡「…………」
??「ん? おぉ、お前は確か……」
八幡(白髪ネコミミ、ブラとパンツ。どう見ても変質者だ、『見ちゃいけません!』って言われる人だ)
八幡「ふっ!!」シャッ!!
ガシャン!!
八幡「うおっ!?」グラッ
??「まぁまぁ、逃げるにゃ人間。つか仮にも恩師に向かってその態度はどうにゃんだにゃ」
八幡(こいつ、荷台に乗っ……ジャンプしたのかあそこから!?)
八幡「変態に対する態度としてはこの上なく正しいだろうが。恩師って何だ恩師って、暗に俺も変態だって言ってんのか」
??「あー、このカッコじゃ分かんにゃいか。平塚静だにゃ」
八幡「……は?」
??「だから、恩師である平塚先生に対してその態度はにゃんだって話だにゃ」
八幡「…………」
八幡(何言ってんだこいつ……いや、平塚先生って……)
八幡「おいお前、確かに平塚先生は恩師っていうのかもしれないが、だからこそその先生の名前を騙んのはやめろ。社会的に殺しにかかってんのかよ」
??「にゃんだ、まだ信じられにゃいのか。まぁいい、別に俺はそれが言いたくてお前に話かけたわけじゃにゃいし。もっとも、元々理由らしい理由もにゃいんだが」
八幡「じゃあもういいだろ。俺が売ってほしいのは油じゃなく醤油だ」
??「にゃはは、俺は今朝お前達に恩を売ってもらったにゃ。まぁ、仇で返すのが俺だから、そこら辺はよろしくにゃー」
シュタタタタ……
八幡「はっや。マジで猫かよあれ」
八幡(つか今朝って……猫を埋めたっけか。今日は何かと猫に縁があるもんだな。つっても家には毎日カマクラが居るわけだが)
次の日 学校 職員室前
八幡「…………」スタスタ
八幡(今日は現国が自習……つまり平塚先生が来ていない。昨日の今日でこれってまさか……)
戸塚「八幡は偉いよね、自分から自習の課題を先生の机に届けるなんて!」ニコニコ
八幡「日直の奴に何度声かけても気付かれなかった上に、『ありがとうヒキタニくん!』とか言われたがな。誰だよヒキタニくん」
戸塚「あ、あはは……でも珍しいよね、現国が自習だなんて」
八幡「どうせあの人の事だから、婚活に失敗してやけ酒して爆睡してんじゃねえの」
戸塚「そ、それはどうかな……」
八幡(……つかそれならいいんだけどな)
ガラガラ
戸塚「失礼します」
八幡「平塚先生の現国の自習課題届けに来ました」
教師「ご苦労様。君なら先生の机は分かるね?」
八幡「はい、まぁ……」
戸塚「(わぁ、八幡って他の先生にもよく知られてるんだー)」ヒソヒソ
八幡「全く褒められた覚え方されてねえだろうけどな」
ドサッ
八幡「さて、と」
八幡(ぼっちスキル、スーパー聞き耳発動)
「しかし珍しいですね、平塚先生が無断欠勤だなんて」
「ケータイにも自宅にも繋がらないようですよ」
「放課後誰か様子を見に行った方がいいかもしれませんね」
八幡「…………」
戸塚「どうしたの、八幡?」キョトン
八幡「……いや、何でもない」
八幡(やべえな、ビンゴっぽい気がする)
八幡「悪い戸塚、俺ちょっと行くとこあっから」
戸塚「えっ、でもすぐ次の授業始まっちゃうよ?」
八幡「何とか間に合うようにする。そんじゃな」スタスタ
戸塚「あ、八幡!?」
屋上
八幡(リア充の聖地、屋上)
八幡(普通は鍵がかかっているもので、この学校も本来はそうなんだが、どっかのバカが南京錠を破壊して開放されている)
八幡(今回に限ってだが、そのバカGJだ。ここなら誰かに盗み聞きされる事もない)
プルルルルルルル……ガチャ
??『にゃはは、にゃにか用か、問題児』
八幡(普通に出やがった)
八幡「……酔ってるわけじゃないですよね先生」
??『おう、酔ってはいにゃい。でも寄ってはいるにゃ。猫に。化け猫に。障り猫に』
八幡「障り猫?」
??『昨日の朝埋めただろ。道路で死んでいた俺をよ』
八幡「……あの猫が先生に取り憑いたってのかよ」
??『――昔々、善人を絵に描いたような男が居て、そいつは死んだ猫を供養してやった』
八幡「おい昔話に付き合ってる余裕はねえよ」
??『まぁ聞け。んで、その後男は何かに取り憑かれたように態度が豹変して、悪行の限りを尽くす事ににゃった』
八幡「あー分かった。そんでいざその取り憑いてる何かを払おうとしたら、実は何も憑いてなかったってオチだろ」
??『にゃあ!? おいこら、人の話を勝手に完結させてんじゃねえ! しかも合ってるし!!』
八幡「国語学年三位舐めんな。その話から言いたい事は、心の底からの善人なんて居ませんよって事だろ。俺も同意見だ」
??『……ったく、やっぱ変人だにゃお前』
八幡「あんな格好で外ぶらついてる奴に言われたくねえ。お前まさかそれが先生の本性だとか言うつもりじゃねえだろうな」
??『あぁ、この格好はただの猫としての感覚で服が邪魔だっていうだけだにゃ。本当はマッパが一番にゃんだけど、その辺は妥協してやってるにゃ』
八幡「よし、そこだけはマジで妥協しろ全力で。つか、お前は街をうろついて何してんだよ」
??『夫婦を襲ってる』
八幡「……は?」
??『俺がこうして出てくるのは、ご主人が日頃から溜めてきたストレスのせいだ。中々結婚できにゃいっていう。だから俺が今それを解消している所だ』
八幡「おい待て……んな事先生は……」
??『望んでにゃいにゃんて言えるか? 恵まれている奴の不幸を願っちまうのは、そこまでおかしい事じゃにゃいだろ』
八幡「……あぁ、俺だってリア充爆発しろとか思う。けど普通に考えてそれを実行するわけねえだろ何考えてんだお前」
??『にゃにも考えていにゃい。考えるのは俺じゃにゃい、ご主人の役目だ。俺はただ好き放題にこのストレスを解消するだけだ』
八幡「ふざけんな、先生はお前に手を差し伸べてくれたんじゃねえのかよ。それを」
??『にゃっはっは、だから言っただろ、俺は恩を仇で返すって。諦めろ問題児の教え子』
八幡「お前にだけは問題児とか言われたくねえ」
??『まっ、ストレスを解消しきればその内消えてやる。いつになるかは知らにゃいけど。んじゃにゃー』
プツッ……ツーツー……
八幡「…………」
八幡(由比ヶ浜の猿よりもやべえな……狙われる対象が広すぎる)
八幡(もう授業がどうとか言ってらんねえ。とにかくあの人に……)
プルルルルルルル……
八幡「電話? こんな時に……ってあの人しかいねえか」ピッ
陽乃『ひゃっはろー! 大変な事になっちゃったね、比企谷くん』
八幡「俺は何をすればいいですか」
陽乃『お、珍しく積極的だね、何かいい事でもあったのかな?』
八幡「いい事なんて何一つないです。ただ、この件には俺も関わってるんで……」
陽乃『ふふ、本当にそれだけなのかな。どうやら静ちゃんは相変わらずいい先生やってるみたいだね』
八幡「あの、雪ノ下さん。そんなのんびり話してる暇は」
陽乃『君は何もしなくていい。というか、しないでほしい』
八幡「え?」
陽乃『この件は私が片付けるよ。だから君はただいつも通り過ごしてくれていればいい』
八幡「……邪魔だって事すか」
陽乃『まぁ、ハッキリ言っちゃうとそうなるかな。この件は君の手に負えるレベルを超えている。気持ちじゃなくて実力が足りないんだよ』
八幡「…………」
陽乃『自分じゃどうにもならない事なんていくらでもある。それは君がよく知っている事なんじゃないかな?』
八幡「……そうですね」
陽乃『うん、分かってくれて嬉しいよ。大丈夫、私が責任持って、出来るだけ早く解決するからさ!』
プツッ
八幡「…………」
八幡(……いや、いいじゃねえか。そうだ、こんなわけ分からんオカルトにわざわざ首突っ込むのが間違ってるだろ)
八幡(別に俺は陰陽師とかそういうんじゃねえし、化猫だか障り猫だかが取り憑いてるからってどうする事もできねえし)
八幡(まっ、そこは適材適所だ。つっても陽乃さんよりも俺の方が適してる状況なんかあるのか知らんが)
八幡「…………出来るだけ早く、か」ボソッ
八幡(それっていつなんだろうな。一刻も早くしないとまずいってのはあの人も分かってるよな)
八幡(すぐに先生とあの猫を繋げられる奴はいないとは思うが、それでも犯行を重ねていけば分かんねえ)
八幡(もし気付かれたら確実に捕まる。学校だってもちろん辞めさせられる。要は社会的に死んだも同然だ。独身とかそんな問題じゃねえ悲惨過ぎるだろ)
八幡「…………」
『ふふ、君が噂の問題児か。平塚静だ。君にとっては鬱陶しくて仕方ないであろう生活指導担当だが、まぁ、よろしく頼むよ』
『比企谷……また君か。まったく、ひょっとしてこうして私に怒られる為にわざとやっているんじゃないか?』
『確かに君は紛れも無く問題児で、社会では生き辛い性格をしているとは思うが、私は面白いと思うよ』
『君が傷つくことで傷つく者が居る事を心に留めていてほしい。私? んー、どうだろうなぁ』
『君にも君の理由があるのだろう。話したい時にいつでも話してくれ。私はいつでも相談に乗るよ』
八幡「……ったく、何やってんだ俺」
八幡(建前並べて本心隠して取り繕うとか、俺が嫌ってるそこらのリア充共と同じじゃねえか)
八幡(俺は――――)
………
……
…
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FROM:八幡
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TITLE:猫の怪談か何か知らないか?
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都市伝説、街談巷説、道聴塗説、何でもいいから何か知ってたら教えてくれ
そういうの好きだろ
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FROM:☆★ゆい★☆
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TITLE:Re 猫の怪談か何か知らないか?
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都市伝説は分かるけど後ろの二つって何?(´・ω・`)
あたし猫は苦手・・・犬は大好きだけど!(^o^)
てかヒッキー授業は? みんなスルーしてるけどサボり?(=o=;)
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FROM:八幡
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TITLE:Re2 猫の怪談か何か知らないか?
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猫派か犬派かなんて聞いてねえよ、怪談とか都市伝説とか何か知らないか?
授業はサボりだ
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FROM:☆★ゆい★☆
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TITLE:Re3 猫の怪談か何か知らないか?
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やっぱ絵文字も顔文字もないと怒ってるみたいで怖いって(>_<)
都市伝説はみんなこのサイトで見たりしてるよ!(`・ω・´) つhttp://chibalove.UrbanLegend.jp
ヒッキー不良じゃん! ダメだよ!ヾ(*`Д´*)ノ”
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FROM:八幡
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TITLE:Re4 猫の怪談か何か知らないか?
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サンキュ、助かる
お前もケータイばっか弄ってないで真面目に授業受けろよ^^
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FROM:☆★ゆい★☆
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TITLE:Re5 猫の怪談か何か知らないか?
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その顔文字ムカツク!!ヽ(`Д´#)ノ ムキー!!
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………
……
…
八幡(このサイトか……見るからにうさんくせー、こんなの見て喜んでんのかよ人生楽しそうだな)ポチポチ
八幡(猫……猫…………お?)
八幡(夫婦を襲う色ボケ猫……これか? すげえ、もうこんな書き込まれてんのか、どんだけ派手に暴れてんだよ)
『下着姿の白髪ネコミミ女が目撃されている。その人間離れした身体能力から、人間に化けた猫、もしくは猫に取り憑かれた人間だと思われる』
『化猫は夫婦を襲う。ただ、夫婦といっても更に絞られ、対象は子供を持たない家庭に限られる』
『化猫に襲われた人間は体のエネルギーのようなものを吸い取られ、ぐったりしたまましばらく動けなくなる。命に別条はない』
八幡「……子供を持たない家庭、か」
休み時間 職員室
八幡「すみません、平塚先生の自習課題を提出しに来たんですけど……」
教師「あれ、君さっきも来てなかったっけ?」
八幡「実はその、自分の分はまだ終わっていなくて、さっきは他の人達の分だけ届けに来たんです」
教師「ん、そうなのか。分かった」
八幡(とりあえず先生の机に近付く事は成功。あとは)
八幡(ぼっちスキル。存在感消失)
八幡「…………」ガサゴソ
八幡(確か先生、机の中に…………あったあった)
八幡(これでもう、後戻りはできねえ。するつもりもねえけど)
八幡(……それならそれで、他にもやらねえといけねえ事もあるよな)
放課後 教室
プルルルルルル……ガチャ
結衣『も、もしもしヒッキー? 珍しいね電話なんて……ていうか初めてなんじゃない?』
八幡「そうだったか?」
結衣『そうだよ、てか連絡先交換する時も色々意味分かんない事言い出して苦労した…………あ、そ、それで何か用なのかな!?』
八幡「……いや、大した用ってわけじゃない。悪いな」
結衣『えっ、う、ううん! 別にいいって! そうだよね、理由が無いと電話しちゃいけないなんて事はないし! あたしも、もっと気軽にヒッキーに電話する事にするよ!』
八幡「いやそれは面倒だからやめろ。命に関わるような緊急事態に限り許す」
結衣『ひっど! てかそんな時はヒッキーじゃなくて救急車にかけるってば!!』
八幡「お前救急車の番号分かんの?」
結衣『流石に分かるし! 119……あれ、110だっけ?』
八幡「……まぁ似たようなもんだからいいか」
結衣『なんだかヒッキーに見捨てられたような気がする……』
八幡「あー、それで、由比ヶ浜。なんつーか、俺今からこっ恥ずかしい事言うから、これ聞いたらどこかに頭ぶつけて記憶飛ばせ」
結衣『別にヒッキーいつも恥ずかしいから今更じゃない?』
八幡「それもそうか、俺なんて常に生き恥晒してんだから……ってやかましいわ」
結衣『うわさむっ……』
八幡「とにかく聞け。お前は、あの事故の同情とかで俺に関わってるんじゃねえって事は何となく分かってきた」
結衣『もう、まだそんな事言ってるの!? だから違うって言ってるじゃん!!』
八幡「……ありがとな由比ヶ浜」
結衣『えっ!?』
八幡「お前は頭悪そうに見えて本当に頭悪い尻軽ビッチみてえな奴だが……お前とバカみたいな事を話すのは嫌いじゃない」
結衣『だからビッチ言うなし! ヒッキー捻くれすぎ、素直に喜べないじゃん!』
八幡「それこそ今更だろ。俺がまともにお前を褒めるわけねえ」
結衣『はぁ……ヒッキーはいつまで経ってもヒッキーなんだね』
八幡「おいその言い方は引きこもり的なニュアンスが強くなるからやめろ。…………なぁ、由比ヶ浜」
結衣『今度はなにー? 褒めるなら悪口とか皮肉とかなしで褒めてよ』
八幡「俺さ、お前の事……」
結衣『……え、ちょ、ちょっとヒッキー!?』
八幡「なんだよ。一応これが本題なんだけど」
結衣『あ、い、いやー、なんていうか……え、本気……?』
八幡「だから何が」
結衣『わ、分かった! 分かったからちょっと心の準備させて!』
結衣『すー……はー……』
八幡「何お前いちいちそんな準備しねえと俺の声聞けねえの、すげえ傷つくぞ」
結衣『そ、そういう事じゃないってば! うん、いいよ!!』
八幡「おう。俺さ、お前の事……」
結衣『……う、うん』
八幡「友達だって思っていいのか」
結衣『…………は?』
八幡「悪い、悪かった。んな威圧すんなよこえーよ泣くぞ」
結衣『いやそうじゃなくて……え、友達?』
八幡「あぁ。ぶっちゃけお前は俺の事好きなんじゃないかとか思ってたんだけどよ」
結衣『っ!! な、なにを……』
八幡「けどまぁ、こんなもん俺の勝手な痛い勘違いだろうし、それに俺はお前とはそういうんじゃなくて、友達になれたらと思ってるんだ」
結衣『友、達……』
八幡「…………おう」
結衣『…………』
八幡「…………」
結衣『そ、そっかぁ……えへへ、うん、もちろん良いに決まってるじゃん! てかいちいちそういう事訊かなくていいし!』
八幡「……そっか、サンキュ」
結衣『もう、友達になろうだなんて初めて言われたよ。そういうのって普通は流れっていうか、告白じゃないんだから』
八幡「俺は普通じゃないからな」
結衣『あはは、そうだったね……』
八幡「……俺が言いたかったのはこれだけだ。そろそろ」
結衣『ねぇヒッキー』
八幡「ん?」
結衣『ヒッキーさ、もしかして好きな人できた?』
八幡「……どっちかっつーと、今になって好きだって気付いた」
結衣『さいちゃん?』
八幡「ばっかお前、戸塚は最初から気付いてるわ」
結衣『あはは、そうだよね。じゃあさいちゃん以外……か』
八幡「雪ノ下ではないぞ」
結衣『えっ? ど、どうして……』
八幡「お前の単純な頭の中くらいすぐ分かるわ。とにかく雪ノ下でも戸塚でも…………お前でもない」
結衣『……そっか』
八幡「…………」
結衣『…………』
八幡「なぁ、由比ヶ浜――」
結衣『じゃあ、頑張らないとね』
八幡「……おう」
結衣『ヒッキー挙動不審でキモい時あるし、そういうのも直さないと』
八幡「そうだな」
結衣『あと言葉も。間違ってもビッチとか言っちゃダメだよ』
八幡「言うか。これはお前限定だ」
結衣『それ全然嬉しくないし……でも、ヒッキーなら大丈夫かな』
八幡「お前にビッチって言っても?」
結衣『そっちじゃないってば! ほら、ヒッキーって顔は結構いい感じだし。目が死んでる事以外。そこ何とかできないのかな』
八幡「目が綺麗な俺とか、それもはや俺じゃないだろ」
結衣『あははっ、そうかも。だけど、他にもたくさんあるよ、ヒッキーの良い所』
八幡「そうか?」
結衣『……うん、あたしは知ってる。言ってあげようか? ちょっと恥ずかしいけど』
八幡「…………いや、いい。気持ち悪い笑い声が漏れそうだ」
結衣『うわ、それはあたしも嫌だな。それじゃ、そろそろ切るね。まさかヒッキーから恋バナ聞けるとは思わなかったよ』
八幡「あんま人に言うんじゃねえぞ。ぜってー笑われるし」
結衣『…………言えないし笑えないよ、ばか』
プツッ
八幡「…………はぁ」
八幡(よし……あとは)
雪乃「次は私、かしら?」
八幡「っ!! ゆ、雪ノ下……お前音もなく入ってくんなよビビるわ学校の七不思議に加えるぞ」
雪乃「シチュエーション的にはむしろあなたの方が七不思議に入りそうだけれど……それに、別に私は音を消して入ってきたわけではないわ」
八幡「……ただ俺が電話していて気が付かなかっただけか」
雪乃「加えて『でゅふふ』って気持ち悪い笑い声を出しながら熱中していたみたいだし」
八幡「そんな笑い声は出してねえ、メチャクチャシリアスだったぞ俺。つか、お前なんでまだ学校に居んの」
雪乃「あなたが学校に残っていると聞いたから探していたのよ」
八幡「そんなの誰から……あぁ……雪ノ下さんか」
雪乃「えぇ。このままだと、あなたを他の女に取られるかもしれないとも言われたわ」
八幡「へぇ、それは一大事だな」
雪乃「そう、一大事よ。だからあなたをどこかの廃墟に拉致監禁しようかと思っていたの」
八幡「怖い、怖いって。そういう安易なヤンデレ化やめてくんない」
雪乃「ふふ、冗談よ。それで比企谷くん、私に何か言いたいことがあるんじゃない?」
八幡「……そうだな」
雪乃「言っておくけれど、あなたの異常性癖とかは聞きたくないから」
八幡「そんなもん言うつもりないわ。あ、いや、別に異常性癖持ってるわけじゃねえけど」
雪乃「そうね。ネコミミに萌えるというのは異常とは言えないかもしれないわね」
八幡「……異常ではないな」
雪乃「それで、あなたはこれから何をするのかしら?」
八幡「そんなもん決まってんだろ」
八幡「生活指導の先生がグレちまったから、俺が逆に指導してやんだよ」
雪乃「……ふふ、似合わないにも程があるわね」
八幡「ほっとけ、分かってるっつの」
雪乃「方法はやはり、もっとも短絡的なものでいくのかしら?」
八幡「おう。回り道なんかしてる暇ねえからな」
雪乃「でもそれは、あなたの信念に反するんじゃないかしら。デートの時に言っていたじゃない、裏切られるくらいなら青春ラブコメはいらないって」
八幡「……そうだな、お前の言う通りだ」
八幡「けどよ、そういう信念を全部曲げてでも、俺は先生を助けたいと思ったんだ」
八幡「こんな気持ちになるのは初めてだし、確証は持てねえけど、たぶんこういうのが――」
雪乃「分かった。もう……分かったから」
八幡「…………」
雪乃「そうね、あなたはいつだって自分の道を進んできた。どれだけ周りから非難されても」
八幡「そんな大層なもんじゃねえよ」
雪乃「あなたにとってはその程度の事でも、私は惹かれた。周りに流されずに進んでいくあなたの事を目で追っていた」
八幡「……俺も、お前の事をそういう風に見ていた。勝手に親近感を覚えてたよ」
雪乃「そう、それは嬉しいわ。だからこそ、いつものように自分で決めた道を進もうとしているあなたを、ここで私は後押ししなければいけないのでしょうね」
八幡「それは……しなくてもいいんじゃないか。お前にはお前の道があるだろ」
雪乃「……それもそうね。じゃあ、一度だけ言うわ」
雪乃「行かないで、比企谷くん」
八幡「…………悪い」
雪乃「ふふ、ほらダメじゃない。あなたのせいで余計な酸素と時間を消費してしまったわ」
八幡「妥協は許せないっていうスタンスじゃなかったかお前」
雪乃「そうだったかしら。でもあなたも永久欠神『名も無き神』という設定ではなかったかしら」
八幡「おいやめろ唐突に俺の黒歴史を掘り返すな」
雪乃「……人は変わっていくものよ。望む望まないは関係なく」
八幡「まぁ……そうなんだろうな」
雪乃「比企谷くんは後悔している? これは望まない変化だった?」
八幡「そんな事はねえよ。俺はこれで良かったと思ってる」
雪乃「そう。それなら良かったわ」ニコ
ガタッ
雪乃「お逝きなさい」ビシッ
八幡「懐かしいなおい、つかそれ相手を呪い殺す時の漢字だから」
雪乃「声だけでは漢字なんて分からないでしょう」
八幡「そこ突っ込むなよ。…………それじゃあ、行ってくる」
ギュッ
八幡「…………」
雪乃「もう少しだけ……このままで……」
八幡「……こういうのフィクションの中だけかと思ってたわ」
雪乃「あと三時間……」ギュッ
八幡「なげえよ朝起こされる時のセリフか」
雪乃「…………」
八幡「…………」
雪乃「……もういいわ。これ以上は比企谷菌が移ってしまうし」スッ
八幡「照れ隠しに人のトラウマ抉るのやめてくんない」
雪乃「一途ないい女を振った男は、このくらいの報いは受けるべきだわ」ニコ
八幡「……それもそうだな。じゃあ、今度こそ行ってくる。またな、雪ノ下」
雪乃「えぇ……また」
ガラガラ……バタン
………
……
…
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FROM:八幡
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TITLE:助けて
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不良に廃墟に監禁されてリンチされる
地図http://chibalove.MAP.jp
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夜 とある廃墟
ゴシャァァァァ!!!!!
??「比企谷! 大丈夫か!?」
八幡「……うす」
??「は……え、不良はどこに……」キョロキョロ
八幡「…………」
??「……はぁ、そういう事か。私はまんまとおびき出されたというわけだな」
八幡「てか普通に考えて、監禁されてんのに地図まで添付する余裕はないでしょ」
??「まっ、それもそうだな。私も私で何も考えずに突っ走ってしまったわけだ。しかし、教師を平気で騙すとは、流石比企谷だな」
八幡「平気ではないですよ、良心傷みまくりです」
??「心にも無い事を言うな。まぁ、無事ならそれでいい」
八幡「無事じゃないのは先生じゃないすか。なんすかその白髪ネコミミ下着姿」
??「…………」
八幡「つか、キャラ設定ブレてますよ。にゃんにゃん言ってにゃいじゃにゃいですか平塚先生」
平塚「……はは、いつから気付いていた?」
八幡「今日気付いたばかりです。同僚からの電話には出ずに俺からの電話には出る。子供が居る夫婦は襲わない。先生、子供好きですもんね」
八幡「それに、こうやってメールを読んで駆けつける事だって、猫にはできないでしょう」
平塚「そうか……やはり君は観察眼、洞察力に長けているようだな。教師として嬉しい限り……いや、もう教師ではないのか私は」クス
八幡「どういう意味ですか?」
平塚「君も、もう分かっているのだろうに。私は自分の意思を持って幸せな家庭を襲った。そんな人間を、教師などと呼べるわけがないだろう」
八幡「……呼びますよ」
平塚「なに?」
八幡「他の奴等は知らないですけど、少なくとも俺はあんたの事を先生って呼びますよ。呼べなくても呼びます。呼びたいんです」
平塚「……ど、どうした比企谷。君はどこか頭でも打ったのか? そんなの君のセリフじゃ」
八幡「俺のセリフですよ。俺が変わったと思うなら、それは先生が変えたんです。雪ノ下でも由比ヶ浜でも戸塚でもなく、先生が」
八幡「ずっと俺を見てきて接してくれた、先生が変えたんです」
平塚「…………」
八幡「別に俺は平塚先生が完璧な人間だなんて思ってませんよ。意見は独断と偏見にまみれてるし、すぐ暴力振るうし、重いし怖いし」
八幡「だからこうしてちょっと暴れても、そこまで衝撃は受けません。許容範囲内っす」
八幡「つか俺も結構共感できますし。なんか幸せそうな奴等見てると砕け散ってほしくなりますよね。俺だって猫にそそのかされたら同じ事しますよ」
平塚「…………ふふ、それでフォローしているつもりなのか君は」
八幡「ダメっすかね」
平塚「君の気持ちは素直に嬉しいよ。だが、ダメだろう。私はきっとその内捕まる。そしたらいくら君が望んでくれた所で、私はもう教師ではいられない」
八幡「じゃあそのストレスを何とかすれば、先生も元の姿に戻ってめでたしめでたしってなるんじゃないですか」
平塚「……また君が斜め上の方法で解決、か? 今度は私を助けてくれるのか」クスッ
八幡「いや……ぶっちゃけこれって全然斜め上でもなくて、むしろド直球な感じなんですけど……」
平塚「直球? 君がか?」
八幡「先生、これ何だか分かりますよね。いつも机に入れてるっていう……」ガサッ
平塚「……婚姻届、か。それがどうしたと言うんだ。そんなものは所詮私の醜い悪あがきだ」ハァ
八幡「よく見てください、先生」
平塚「…………」
平塚「……え」
八幡「俺、書いた事ないんで、こんなもんでいいんすよね? ハンコはシャチハタじゃダメってのも……」
平塚「ま、待て比企谷、君は何を」
八幡「先生、結婚してください」
平塚「…………は?」
八幡「俺は先生の事が好きなんです。そんなに結婚したいなら俺としてくださいよ」
平塚「ふ、ふざけるな! そんな同情で生徒を巻き込めるわけがないだろう!」
八幡「俺が同情でこんな事しないって事は、先生がよく知ってると思いますけど」
平塚「それは……っ」
八幡「先生を助けたいっていう気持ちからこう言っているというのは確かです」
八幡「その為に、俺はいろんなものを捨ててます。それでも、俺はこうしたかったんです」
八幡「どんな事をしても先生を助けたかったんです。たぶん、これが――」
八幡「本当に人を好きになる事だって、俺は思うんです」
シュゥゥゥゥ……
八幡(先生のネコミミも……白髪も……戻った、か。ぶっちゃけネコミミはちょっと惜しかった気も……)
平塚「…………そんなのは、違う」
八幡「俺が決めました。結局、誰が誰の事を好きかっていうのは、他人がどんな事を言ったとしても最終的には自分で決める」
八幡「例え先生でも、それを否定する事はできないです」
八幡「つーか、そうやって化猫の姿から元に戻ったっていう事は、俺の言葉を真に受けているっていう事じゃないんですか」
平塚「…………」
八幡「先生、答え聞かせてくださいよ。俺の人生初のプロポーズなんです」
平塚「……比企谷」
八幡「はい」
平塚「バカな事を言うな……問題児め……」ポロポロ
卒業前 二月 教室
いろは「……え、終わりですか? もう、毎回ぶん投げて終わらせないでくださいよー。後日談というか、今回のオチは?」
八幡「後日談なんてねえし、オチただろ。こうして俺と先生は結婚する事になりました。おわり」
いろは「あれ、やっぱり先生と結婚するんですか。『実はウソでしたテヘペロっ!』ってのはダメなんですか?」
八幡「ダメに決まってんだろ。あの場面は俺の言葉が本気だってのを先生に知ってもらわないと意味ねえし、そこから裏切るなんて事出来るわけねえし、したくねえ」
いろは「じゃあ、それならそれで、そこからの先生とのラブコメとか、雪ノ下先輩、結衣先輩との修羅場とか」
八幡「ねーよ。あったとしても言いたくねえよ。語り部が何でも語ると思うなよ」
いろは「むぅ……でも、何だかスッキリしませんねぇ」
八幡「そうか?」
いろは「そうですよー。だって今までの流れ的には雪ノ下先輩か結衣先輩と付き合うものとばかり……」
八幡「戸塚抜かすなよ戸塚。最有力候補だろ」
いろは「はいはい、あと戸塚先輩ですね。でも、そこからの平塚先生というのが意外で」
八幡「そんなもんだろ。高感度上げていけば順調に進んで誰々ルートなんてのはゲームの話だ」
いろは「そういえばゲーム版の『俺ガイル』の平塚先生ルートは」
八幡「バッドエンドだって言いたいのかキレるぞ。普段キレねえ奴がキレると何とも言えない空気になるぞ」
いろは「あ、いえ、すみません失言でした。とにかく、比企谷先輩は本当に平塚先生の事が好きなんですよね?」
八幡「お前さっきまで何聞いてたんだよ、あんだけ先生への愛を語ってやったじゃねえか。教室の中心で愛を叫んだじゃねえか」
いろは「叫んでないですし窓際ですけどねー、ここ。雪ノ下先輩や結衣先輩とはどうなっているんですか?」
八幡「別にどうも。二人共友達として仲良くしてもらってるよ。由比ヶ浜の腕の事があるから、雪ノ下とは堂々と会えないけどな」
いろは「結衣先輩の腕が平塚先生を襲ったりは……」
八幡「今は雪ノ下への願いが成就できずに中途半端になってるから、その辺は大丈夫らしい。まぁ、それが無くても、あいつはもう腕に願ったりはしないだろうけどな」
いろは「なるほど……ともかく、比企谷先輩と平塚先生は付き合っているっていう事でいいんですよね?」
八幡「まぁそうなるけど……くれぐれもバラすんじゃねえぞ、俺の卒業近いからって。つか何で俺は話しちまったんだか」ハァ
いろは「大丈夫ですよ、私を信じてください」
八幡「そこまで疑ってるわけじゃねえけど……」
いろは「十万円から考えましょー」
八幡「おいふざけんな信じられるのは金だけかよどんな人生送ってんのお前」
いろは「あはは、冗談ですって。でも、それなら比企谷先輩、卒業と同時に専業主夫になれるじゃないですか。どうしてわざわざ地元国立なんて受けるんですか?」
八幡「先生が今から選択肢を狭めるのは良くないってよ。その内他にやりたい事ができるかもしれないから、大学は行っとけって」
いろは「おぉ、なんか先生っぽい事言ってますね」
八幡「先生だからな。ぶっちゃけ俺は他にやりたい事とかできるとは思ってねえけど」
いろは「とは言え説得されちゃったわけですかー」
八幡「そりゃ『これから変わるかもしれないだろう。君が私の事を好きになってくれたように』とか言われたらな。うへへ」ニヤニヤ
いろは「先輩、惚気はいいとしても、その気持ち悪い笑い声はやめてください。泣きますよ大声あげて」
八幡「悪かったから、隙あらば俺を社会的に殺そうとするのはやめろ」
いろは「……うーん、でもやっぱり納得できないです」
八幡「まだ言ってんのかよ、何お前俺の事好きなの?」
いろは「あいにく私の恋愛対象は人間の男性なんです」
八幡「俺は何なんだよ新種か、まさかの女の子疑惑か。女主人公のラノベは難しいぞ、キノ好きだけどよ」
いろは「では、ハチ子先輩」
八幡「誰がハチ子だ、いろ男……なんか色男みたいで褒め言葉みたいになっちまった……」
いろは「何と言うか、いちご100%的なもやもや感があるんですよねー。東城好きの私は、あのラストの後、30秒程落ち込みました」
八幡「あんま落ち込んでねえじゃねえか。そこまで好きじゃなかっただろいちご100%」
いろは「この場合は東城でも西野でも北大路でもなく、南戸エンドって感じですかね」
八幡「いいじゃねえか、俺は大好きだぞ唯」
いろは「あ、今の偶然録音しちゃったんですけど、平塚先生に聞かせたら面白い事になりそうですね」
八幡「は? なんで…………いや、やめろ。やめてください」
いろは「それでは、私が納得できるような先生とのラブコメでも聞かせてください」
八幡「……仕方ねえな。あれは付き合ってから最初のバレンタインデーだった」
いろは「おっ、いいですねいいですね」ワクワク
八幡「俺は先生から手作りチョコを貰った。メッセージカード入りのな。でも俺がいざ開けてみると、カードは真っ黒になっていた」
いろは「あー、チョコが溶けちゃってカードに付いちゃったんですか。ダメじゃないですかー、比企谷先輩」
八幡「違う、そのカードにはメチャクチャ細かい字でびっしりメッセージが書いてあったんだ」
いろは「こわっ! ちょっ、比企谷先輩、私が訊きたいのはラブコメで、怪談ではないんですけど」
八幡「人の彼女の微笑ましいエピソードを怪談とか言うな」
いろは「あー……もう先輩は調教済みって事ですね……」
八幡「何でそんな言い方すんだよ愛と言え愛と」
いろは「あいあい。じゃあオチが弱い話をだらだらと聞かせてもらったお礼に、私からも一つ」
八幡「その言い方だとこれから報復でも受けそうだな俺」
トンッ
八幡「……? 何だよ、俺の額の秘孔でも突いたのか?」
いろは「可愛い女の子からおでこ突かれたんですから、もっと喜んでくださいよー」
八幡「え、喜んでいいの? すげえ気持ち悪くなるぞ俺。先生にも『うわぁ』とか言われた笑顔が飛び出るぞ」
いろは「彼女からも全力で引かれるとは、流石比企谷先輩ですね」
八幡「まぁな。もっと褒めてもいいぞ」ドヤァ
いろは「褒めてません皮肉です。それと、今の行為で『秘孔を突かれた』と言われる辺りジェネレーションギャップを感じますねぇ」
八幡「学年一つしか違わねえじゃねえか」
いろは「私的には額を突く行為は、NARUTOの『許せサスケ』が出てくるんですけどねー」
八幡「あー、まぁそっちの方が今時か」
いろは「許せ八幡」
八幡「うるせえよ馴れ馴れしいよ俺をそう呼ぶのは両親と戸塚と材……いや、その三人だけだ。つか何、俺に天照でも授けたのかよお前」
いろは「確かに比企谷先輩のその目で見たものが黒い炎に包まれるっていうのは様になりますね」
八幡「それも褒めてねえだろ絶対。で、結局何がしたかったんだよ。目潰しが失敗した結果だとか言うんじゃねえだろうな」
いろは「いえいえ、どうやら比企谷先輩には色々と見えていないものがあるようでしたので、見えるようにしてあげただけですよ」
八幡「何だよそれ、現実は嫌というほど見えてるぞ」
いろは「私が先輩にみてほしいのは痛い目ですかね」
八幡「普通にひでえ事言いやがったな。それこそうんざりするくらい見てるわ」
いろは「あはは、それもそうですね。では、私は仕事がありますので、この辺で失礼しますー」ガタッ
スタスタ……
八幡「……なぁ」
いろは「はい?」クルッ
八幡「その仕事って、生徒会のか?」
いろは「うーん、まぁそれも兼ねていますかね。『間違っているものを正す』というのは、生徒会長としても当然の仕事でしょう?」
八幡「どっちかっていうと風紀委員の仕事のような気がするけど」
いろは「まぁ、どっちでもいいですよー。結局は生徒会の傘下に過ぎません」
八幡「そんな生徒会の権力が強いのはフィクションの中だけだ」
いろは「実はこの世界はフィクションなんですよ」
八幡「唐突に世界全てを巻き込む衝撃の事実を明かすな」
いろは「『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の間違いを正すのが私です」
八幡「無理矢理原作タイトルを回収するな」
いろは「あはは、やっぱり面白い人ですね比企谷先輩は」
いろは「――今までありがとうございました。楽しかったですよ」ニコ
ガラガラ……バタン
通学路
スタスタ……
八幡(雪降ってるのは知ってたが、まさかこんな積もってるとはな。これじゃ自転車乗れねえじゃねえか)ハァ
八幡(押すのめんどくせー、無理すれば乗っていけるか? いやこの時期に怪我とか洒落にならねえし、滑るとか縁起悪いしな……)
八幡「……それにしても」
八幡(一色いろは。あいつには陽乃さんからも気を付けるように言われてるのに、なんか気付けば普通に話してるんだよな俺)
八幡(あの陽乃さんが警戒するとか相当やばいんだろうが……なんか実感湧かねえ)
八幡(ただ……『間違っているものを正す』、か……)
ガンッ!!!
八幡「……?」フラッ
ドサッ……
八幡(……あれ、何で俺こけてんだ? つか頭メッチャいてえ)ズキンズキン
八幡(え、すげえ血出てる。雪真っ赤じゃねえか)ドクドク
八幡(マジで……何が……)
相模「はぁ……はぁ……!!」ギロ
八幡(……相模? 何だこいつ鉄パイプなんか持って……あぶねえな警察に見つかったら即補導だろ。受験生がこの時期になんつー冒険してんだ)
八幡(つか既にあの鉄パイプ血まみれじゃねえか。人でも殴ったのかよこえーな)
八幡(…………いや、俺が殴られたんだけどな)
相模「あんたさえ……あんたさえいなければウチはあああああああああああああああああああああ!!!」
八幡(よく分かんねえけど……何でこいつ、こんなデカイ蛇に巻き付かれてんだ……?)
八幡(蛇……そういえば戸塚の件で…………ダメだ、頭働かねえ。体も動かねえ……)
八幡(……すみません、先生。せっかく勉強教えてもらったのに……受験どころか地獄に落ちるみたいっす俺)
八幡「…………全然笑えねえよ」
ガンッ!!! ゴンッ!!! バキッ!!! グシャッ!!!
薄れ行く意識の中、俺は考える。
どこが間違っていたのか。どうすれば良かったのか。
雪ノ下の蟹を知った時に、引き下がって手を貸せば良かったのか。
母の日の迷子を、目的地まで連れて行ってやれば良かったのか。
由比ヶ浜を、猿の腕から完全に解放してやれば良かったのか。
戸塚の蛇の件で、相模にやり返さなければ良かったのか。
平塚先生の猫は、陽乃さんの言う通りに俺は手を出さなければ良かったのか。
あの星空の下、雪ノ下と恋人同士になれば良かったのか。
少し考えれば迷子の件は関係が薄そうで、蛇の件が重要だったと分かる。
でも、それだけとは言い切れない。
バタフライエフェクトという言葉があるように、過去のどの要因が未来に影響を与えるかなんていうのは分からない。
相模にやり返さなければ、こんな事にはならなかったかもしれないし。
例えやり返さなかったとしても、やっぱり同じ結果になったのかもしれない。
こんな風にかもしれないを言い出したら切りがない……かもしれない。
様々な不確定な選択が積み重なって、今を作っている。
それなら、俺はこの道が間違っていたとは思わない。
選択を変えれば、確かに俺はもっと長生きできたかもしれない。
でも、もしかしたら平塚先生とはこんな関係にはなれなかったかもしれない。
先生の事が好きだというこの気持ちを一生知らなかったかもしれない。
だから、間違っていない。
むしろ、高校時代に俺が彼女持ちのリア充とか大正解だろ。
結局、何が正解で何が間違っているかなんてのは、選んだ本人が判断するものだ。
惜しかった。
もう少し早く気付いていれば、一色にドヤ顔で言えたのに。
そんな事を考えながら、俺の意識は落ちていく。
顔はたぶん、気持ち悪い笑顔で。
これもきっと、間違っていない。
おわり
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