里志「今日面白い話を聞いたんだ。この学校には古くからあるおまじないが伝わっていてね、これもその一つなんだ」
奉太郎「そうかーよかったなー」
里志「奉太郎、十円玉を持っているかい。それを二枚出してもらえる?」
奉太郎「悪いな。今日財布もって来てないんだ」
里志「それじゃ僕が出してあげるよ。これを縦に積み上げるんだ。いくら生きるのに不器用な奉太郎でもこれくらいは出来るよね」
奉太郎「俺はやらんぞー」
里志「つれないなぁ。もしかしてほんとに不器用だからやるのが怖いのかい?」
ガラッ
摩耶花「あーいたいたふくちゃん!さっき手芸部の人が呼んでたよ。折木ー、私今日漫研の方出るからちーちゃんにも言っといて」
奉太郎「自分で言え」
里志「そういうことだからまた後でね、奉太郎」
ピシャ
奉太郎「…………」
奉太郎「……里志のやつ十円玉忘れてるぞ」
みたいなやつ読みたいです
奉太郎「十円玉を縦に……って、俺はやらんからな」
奉太郎「…………」
ガラッ
える「こんにちは、折木さん」
ピシャ
奉太郎「ああ」
える「今日はお一人ですか?」
奉太郎「いや、さっきまで里志がいたんだが手芸部に呼ばれてそっちに行ったよ。伊原は漫研で今日は来ない」
える「ならやっぱりお一人なんですね」
奉太郎「……そうだな」
える「あら?折木さん、こんなところに十円玉があります」
奉太郎「それは里志の忘れ物だ。戻ってきたら返しやってくれ」
える「はい。わかりました」
奉太郎「…………」
だれか続きはよ
奉太郎「……なぁ千反田。お前、手先って器用な方か?」
える「そうですね、普段料理や裁縫もしてますのでそういったものなら自信はあります」
奉太郎「そうか」
える「…………」
奉太郎「…………」
える「今のはどういう意味の質問なんでしょうか、折木さん」
奉太郎「いや、なんでもない。忘れてくれ」
える「そんなこと言われても私気になります……」
奉太郎「いや、ほんとに深い意味はないんだ」
える「そんな……うぅっ……」
奉太郎「泣くほどのことかよ……分かったから泣くな」
える「嘘泣きです。この間摩耶花さんが折木さんが意地悪したらこうするといいって教えてくれました!」
奉太郎「…………」
奉太郎「そこに二枚の十円玉があるだろ?」
える「はい。福部さんの忘れ物ですね」
奉太郎「その十円玉を縦に二枚積むことができるかって話をしていたんだ」
える「なるほど、分かりました」
奉太郎「ただそれだけの話だよ」
える「十円玉を二枚……縦にですね」
奉太郎「俺はそういう神経使うようなことは好きじゃないからなー」
える「…………」
奉太郎「すごい集中してるな……」
える「出来ました!折木さんできましたよ!二枚積み重なりました!」
奉太郎「おー、えらいなー千反田ー」
える「それでこれが何になるんですか?」
奉太郎「ただの器用さチェックだ」
奉太郎(おまじないだなんて言ったらまたやっかいなことになりそうだ……ところで何のおまじないなんだ?)
える「そうなんですか……」
える「倒れそうで倒れない……不思議な感じですね、折木さん!」
奉太郎「そうだなー」
える「折木さんは今日は何の本を読んでらっしゃるんですか?」
ぐいっ
奉太郎「ああ、大したのじゃ……」
チャリーン
える「ああっ!倒れてしまいました……せっかく頑張ったのに……」
奉太郎「そんなこと頑張ることじゃないだろ。それにお金で遊ぶのはあんまりよくないしな」
える「そうですね……」
ガラッ
里志「お待たせー、って千反田さんこんにちは」
える「はい。こんにちは福部さん、手芸部のほうはもういいんですか?」
里志「うん。そんなに大した用事でもなかったからね。すぐに終わったよ」
える「そうでしたか。あ、これ忘れ物です」
里志「ああ、どうもありがとう」
キーンコーンカーンコーン
「1年A組千反田さん、教務室まで来てください。1年A組……」
奉太郎「千反田ーなんか呼ばれたぞ。悪いことでもしたのか」
える「そんなことしてませんっ!でも、あまり心当たりはないんですけど……」
奉太郎「なんてな。もうすぐ体育祭だしその準備のことじゃないのか」
える「そうかもしれませんね。それでは私行って来ます」
ガラッ ピシャ
里志「確かに体育祭も近いし奉太郎の推測は間違ってないだろうね」
奉太郎「……あー、ところで里志。さっきのって結局何のおまじないだったんだ?」
里志「おお?さては奉太郎、僕が居ないところでこっそり実践したんだね。可愛いところもあるじゃないか」
奉太郎「残念だけどやってない。やったのは俺じゃなくて千反田だ」
里志「へぇ、ここで二人っきりでかい?」
奉太郎「……ああ」
里志「あれはね……実は……体育倉庫に閉じ込められるおまじない、なんだ」
奉太郎「……なんだそれ」
里志「千反田さんは体育祭の準備で確か小道具係だったね」
奉太郎「……そうなのか」
里志「奉太郎はこの学校の体育倉庫に行ったことはあるかい?」
奉太郎「いや……」
里志「体育倉庫はグラウンドの端っこにぽつんとあるんだ。野球部もサッカー部も近くにはよらないんだ」
里志「中に入ったら大声で叫んでもきっと誰にも気がつかれないだろうね」
奉太郎「…………」
奉太郎「うちの学校の体育祭に必要なものはみんなそこにあるのか?」
里志「ほとんどのものはね。一年で一度しか使わないものだったりするから体育準備室にはないだろうね」
奉太郎「とすると千反田は体育倉庫に行く可能性は十分にあるのか……」
奉太郎「…………」
里志「…………」
奉太郎「あー、ちょっと用事を思い出した。じゃあな里志」
里志「急いだ方がいいんじゃないかな?」
奉太郎「まったく……誰のせいだと思ってんだ……」
える「あ、折木さん!どうしたんですかこんなところで……」
奉太郎「ああ、ちょっと用事を思い出してな……体育倉庫に」
える「そうなんですか!私もちょうど体育祭の準備で体育倉庫に行くところだったんです!一緒に行きましょう!」
奉太郎「ああ……」
体育倉庫
える「ここが体育倉庫ですね。折木さんはどんな用事なんですか?」
奉太郎「あー……あれだ。学校名所巡りだ。行ったことのない場所を探してだな……」
える「ふふ、おもしろいことしてらっしゃるんですね。それでは私、中で探し物をしてきますね」
奉太郎「ああ。俺はここで待ってるよ」
える「はい。よろしくお願いします」
ガラガラガラ……
奉太郎「…………」
奉太郎(もしおまじないが本物でも俺が外にいれば閉じ込められても問題ないだろ)
奉太郎「…………」
える「折木さーん!」
奉太郎「どうしたー千反田ー?」
える「ちょっと手伝ってもらえませんかー!」
奉太郎「悪い。無理だー!」
える「そんな、ひどいですー!助けてください!」
奉太郎「やれやれ……どうしたんだ?」
える「折木さん!あのですね……この下にあるものを取り出したいんですけど」
奉太郎「あー、なるほど……こりゃ確かに千反田一人では無理だな」
える「そうですよね。なので折木さんも手伝ってもらえませんか?」
奉太郎「いや、あきらめて戻ろう」
える「ダメですよー!もう係の先生も帰ってしまいましたし今日中にこれをグラウンドに出しておかないといけないんです……」
奉太郎「…………」
える「折木さん……ぐすっ……」
奉太郎「はぁ……わかったわかった……」
える「ありがとうございます!折木さん!」
奉太郎「これをどかせばいいんだな……」
奉太郎「げっ……重い……」
える「わぁ!やっぱり男の人ってすごいですね!私じゃ全然持ち上がらなかったのに」
奉太郎「いいからもっと端っこに寄っておいてくれ……落として怪我でもさせたら大変だ……ぐぐ……」
える「はい!わかりました!頑張ってください折木さんっ!」
奉太郎「でも……扉に寄りかかったりするんじゃないぞ……」
える「えっ?今なんて言ったんですか……きゃっ!」
奉太郎「おいっ!」
ガラガラガラ……ガチャン!
える「扉がどうかしたんですか?あれ……?閉まってますね」
奉太郎「…………」
ガチャガチャ
奉太郎「…………」
える「……開きませんね」
奉太郎「…………」
える「…………」
奉太郎「どうしてこうなった……」
奉太郎「千反田、携帯持ってるか?」
える「すみません……かばんの中に置いてきてしまいました」
奉太郎「失敗したな……俺もだ」
える「大声を出して助けを呼ぶ、って言うのはどうでしょうか?」
奉太郎「いや、ダメだな。来る途中に誰か一人とでもすれ違ったか?」
える「そういえば誰とも……」
奉太郎(里志の言っていたことは正しいみたいだな……)
える「私たちこれからどうなってしまうのでしょう?」
奉太郎「まだ学校には里志がいるからそのうち迎えに来てくれるさ。だから心配しなくていい」
える「そうですか……よかった」
奉太郎「はぁ……とんだことになっちまったな」
える「すみません……私が折木さんの言うことをしっかり聞かなかったばかりに」
奉太郎「気にすんなって。そんなのいつものことだろ?」
える「ありがとうございます……折木さん」
奉太郎(いや、ちゃんと反省してほしいんだが……)
える「とりあえずいつでも出られるように用事は済ませてしまいましょう」
奉太郎「そうだな」
える「あとはこの箱をどかせば良さそうですね!」
奉太郎「ああ。よっ……うぐっ、これも結構重いな……」
える「あ、折木さん。私もこっちを持ちます!」
奉太郎「あ、よせ!急に力を入れると……!」
える「きゃああぁぁ!!」
奉太郎「あぁ、くそっ!」
がたがたがたがったん!!
奉太郎「…………」
える「…………」
奉太郎「……大丈夫か千反田?」
える「けほっ、けほっ……はい。折木さんのほうこそ……きゃ!折木さん!」
奉太郎「あー、多分大丈夫だ。ちょうど落ちてきた物同士で空間が出来てるみたいだ。重くはないが……悪い。動けそうにない」
える「そんな、折木さん……私をかばって……」
奉太郎「あー、多分大丈夫だ。ちょうど落ちてきた物同士で空間が出来てるみたいだ。重くはないが……悪い。動けそうにない」
える「そんな、折木さん……私をかばって……」
奉太郎「こっちこそ悪いな。なんていうか……その…馬乗り、っていうか……俺の下で」
える「あっ……」バッ
奉太郎「…………」
える「…………」
える「だいじょうぶ……です。折木さんなら……」モジモジ
奉太郎「えっ……?」
える「うぅ…………」カアァ
奉太郎「…………」
奉太郎(……何だよこの状況)
奉太郎「た、体育倉庫だから下がマットでよかったな」
える「そ、そうですね……」
える「…………」
奉太郎「…………」
える「……お、折木さんあのっ!」
奉太郎「ど、どうした?」
える「その格好が疲れたら……く、くっついてもらってもかまいませんので……」
奉太郎「お、おう……?」
奉太郎「…………」
奉太郎(千反田ってやわらかそうな体してるよな……)
奉太郎「って何言ってんだ!ダメだろ!」
える「えっ、でもそれじゃ折木さんが……」
奉太郎「俺のことを考えてくれるんなら一刻も早くその場所から抜け出して俺の上のごちゃごちゃしたやつをどかしてくれ」
える「わ、わかりました!」
奉太郎(このままだと体力の前に精神的にヤバイ……)
える「えっと……上と下、どっちに動けばいいでしょう?」
奉太郎「どっちでもいいから好きな方にしてくれ……」
える「わかりました……」
える「んしょ……下のほうから抜け出してみますね」
奉太郎「ああ、わかった」
える「とりあえず足を抜きます……」
奉太郎(足で抜きます……)
える「よい……しょ……っと」
奉太郎(あー、やばい。千反田の足の間に俺の膝があるから抜け出そうとすると……)
える「んっ……」
奉太郎(右足と左足……つまりはさみうちの形になるな……)
奉太郎「……っ!」
える「あっ、すみません!痛かったですか?」
奉太郎「……いや、大丈夫だ。続けてくれ」
奉太郎「…………」
奉太郎(さっきから千反田の両足が俺の太ももにこすり付けられているわけだが……)
奉太郎「な、なぁ千反田……ちょっと休憩にしないか?」
える「え?あ、はい……そうですね……ちょっと体が熱くなってしまいました……」
える「…………」
える「あっ……わ、私汗臭くないですか?」
奉太郎「いや、大丈夫だ。どっちかって言うと埃くさい」
える「うふふっ……私もそう思ってました」
奉太郎(今のうちに奇数を数えるか……いや、それとも冷蔵庫の中の冷えたきゅうりを想像した方がいいんだったっけか)
える「折木さん」
奉太郎(さっき動いたせいで千反田の制服がずれて肌が見える。みえる。みえるえる……)
える「折木さんっ」
奉太郎「あ、ああ、どうした?」
える「そろそろまた動きますね」
奉太郎「お、おう……頼む」
える「うんっ……しょっ……」
奉太郎(ああ……ずれた制服が引っ張られて元に戻っていく……)
える「?折木さん、太ももの辺りに何か引っかかってるんですが……」
奉太郎「!ああ、携帯だすまん」
える「そうでしたか……よいしょっ……よいしょっ……」
奉太郎「…………」
奉太郎「…………」
奉太郎「白……か」
える「はぁ……はぁ……折木さんっ!出られました!」
奉太郎「ああ。よくやったぞー千反田ー」
える「あとはこれをどかせば……」
奉太郎「頑張れ千反田。お前だけが頼りだ」
える「はいっ!任せてください折木さんっ!」
奉太郎「やれやれ……何とか助かりそうだな……」
える「あとはこの綱引きの縄だけです!」
奉太郎「おいおい、あんまり無理はするなよ……」
える「で、でも折木さんが私にしてくれたことに比べればこのくらい……」
奉太郎「お、動いても大丈夫そうだ」
える「きゃあぁぁ!!」
奉太郎(またか……)
える「お、折木さん!すみません助けてください……」
奉太郎「やれやれ……今度はどうしたって言うんだ」
奉太郎「よいしょっと、やと抜け出せた……って」
える「………うぅ」
える「な、縄が絡まってしまって動けないんです……助けてください……」
奉太郎(どこをどうやったら大縄で緊縛なんて起こるんだ……)
奉太郎「まったく、ちょっと待ってろよ」
える「はい……すみません」
奉太郎(しかしきれいな縛られ方だな……両手を上で胸を通り一周して足に……)
奉太郎(ごくり……)
奉太郎「いいか?動くなよ……」
える「はい……」
奉太郎(しかしスカートがめくりあげられててさっきより丸見えだな……)
奉太郎「俺は何も見てないからな」
える「えっ?」
える「…………」
える「…………」カアァ
える「きゃあぁぁぁ!!!」
奉太郎「あっ、おいっ、バカ、動くと……!」
どさどさどさどてっ
奉太郎「…………」
奉太郎(千反田と一緒に絡まってしまった……)
奉太郎「いいか千反田」
える「はい」
奉太郎「絡まっているということは動く方向さえ間違えなければ解けるんだ」
奉太郎「だから俺たちはまずここから抜け出すことを一番に考える」
奉太郎「そのためにはどんな犠牲も仕方がないことだ」
える「はい」
奉太郎「だからこう……密着してもし変なところを触ってしまってもそれは必要な犠牲なんだ。わかるな?」
える「はい……」
奉太郎「よし」
奉太郎「千反田、右足を持ち上げて俺の脇に」
える「こう、ですか?」
奉太郎「ああ」
奉太郎「…………」
える「…………」
奉太郎「これじゃまるでツイスターゲームだな……」
える「ツイスターゲーム、ですか?」
奉太郎「ああ。二人組みで息を合わせるゲームだ」
える「なんだか楽しそうなゲームなんですね!私、気になります!」
奉太郎「……分かったから次左足な」
える「はいっ!よいしょっ……」
える「んっ……!」
奉太郎「変な声出すなよ……」
える「あ、すみません……こすれてしまって……」
奉太郎(こすれるとか言うな……)
奉太郎「あー、次はもっとくっつかないとだな……できるか?」
える「……はい」ギュ
奉太郎(…………)
奉太郎「やわらかいなオイ」
える「っ……!」
奉太郎(あ、間違えた)
奉太郎「…………詰んだ」
える「えっ?」
奉太郎「……次に手をつける場所がない」
える「えっ、どういうことですか?」
奉太郎「いや、この体勢を維持しながら体位を入れ替えるとなると……」
える「はい」
奉太郎「お前の体のどこかに思いっきり手をつくことになる」
える「…………」
奉太郎「ふぅ……このまま里志が来るのを待つか」
える「だ、ダメですっ!」
奉太郎「…………」
える「どんな犠牲も厭わないって言ったのは折木さんじゃないですか!それなのにあきらめてしまうんですか?」
奉太郎「…………」
奉太郎「いや、でもな……」
える「私、折木さんにならどこを触られても気にはしませんから!」
奉太郎(……それはそれで傷つくんだが)
える「…………うぅ」
奉太郎「わかったよ……千反田にそこまで言わせたんなら俺も覚悟を決めないとな」
える「はいっ……折木さん……きてください……」
奉太郎「…………っ!」
奉太郎「いくぞ……千反田」
える「はい……」
える「…………」
える「んっ!……あっ、あぁん……」
奉太郎「ふぅ……なんとか抜け出せたな」
える「はい……私のせいで折木さんに迷惑ばかりかけてしまって」
奉太郎「ああ、いいんだ。……そんなに迷惑でもなかったし」
える「折木さん……」モジモジ
える「それで、これからどうしましょう?」
奉太郎「そうだな………」
える「携帯もないので時間も分かりませんし……」
奉太郎「そうだな………」
える「あれ?携帯……?折木さんさっき携帯持ってるって言いませんでしたか?」
奉太郎「……いや、言ってないぞ」
える「そうでしたか……」
奉太郎「聞き間違えだな。それより時間なら俺は腕時計してるからわかるぞ」
える「そうですね!今何時ですか?」
奉太郎「ああ。ええと……って」
奉太郎(覗き込んでくるのか……)
奉太郎「見えるか?」
える「はい。閉じ込められてからもう一時間になるんですね」
奉太郎「そうみたいだな」
奉太郎(千反田の髪の毛すごくいい匂いがするんだな……)
える「あっ、そうだ!」
奉太郎「ん?」
える「私クッキー持ってるんです!困ったときに食べようって思って」
奉太郎「いい危機管理意識だ」
える「ここに…………あっ」
奉太郎「見事にばらばらだな」
える「そう……ですね」シュン
奉太郎「まぁ、あれだけ派手に動き回ればな」
える「…………」
奉太郎「でも食い物には変わりないだろ。くれよ、はんぶんこしよう」
える「……折木さん」
奉太郎「うん、うまいよ。ちょっと粉っぽいけどな」
える「折木さん……うぅ……ふぇ……」
奉太郎「お、おい、どうした千反田……」
える「分かりません……わからないけど……涙が出てしまいました」
奉太郎「…………」
える「うぅ……折木さん……おぃきさぁん……ぐすっ」
える「折木さんは……っ、折木さんはどうしてそんなに優しくしてくれるんですか」
える「うぅ……ぐすっ……」
える「どうしてっ……」
える「わたし……きになり、ます……!」
奉太郎「…………」
奉太郎「……どうしてなんだろうな」
奉太郎「……悪い」
奉太郎「こればっかりは……俺にもわからないよ」
える「そう、ですか……」
える「…………」
奉太郎「落ち着いたか?」
える「はい……また折木さんに迷惑をかけてしまいました」
奉太郎「だから気にしてないって。そんなのへのへのかっぱだ」
える「…………!」
奉太郎「?」
える「折木さんっ、思い出しました!」
奉太郎「なにを?」
える「へのへのかっぱです!」
奉太郎「……は?」
える「確か前に聞いたことがあったんです。もし体育倉庫に閉じ込められて出ることが出来なくなったらこのおまじないを唱えろって」
奉太郎「……えらくピンポイントなおまじないだな」
奉太郎「まぁ、あの十円玉もそうか」
える「折木さん?」
奉太郎「ああ、いや、なんでもない」
える「ええと……聞いた話ではこうでした」
える「もし体育倉庫から出られなくなったら」
える「『のろいなんてへのへのかっぱ』と三回唱えろ」
える「上半身裸で」
える「です!」
奉太郎「いや、その理屈はおかしい」
える「おまじないなので理屈とかそういうものじゃないのかもしれません」
奉太郎「…………」
奉太郎「そうだな……」
奉太郎(しかしこんな時間か……)
奉太郎「千反田、その話は間違いないんだな?」
える「はい。私が聞いた話は間違いなくこの内容でした」
奉太郎「…………」
える「…………」
奉太郎「それじゃ俺が……」
える「お、折木さん!」
奉太郎「お、おう」
える「で、できればその……後ろを向いていてもれえませんか……?」
奉太郎「ああ……」
奉太郎「って、なんでだよ!」
える「えっ!?見られながら……あ、でも折木さんになら……私、もう……」
奉太郎「そうじゃなくてっ!」
奉太郎「なんで千反田が脱ぐんだよ!男の俺がやれば何も問題ないだろ!」
千反田「だ、ダメですっ!私ずっと折木さんに頼ってばかりでした……だから最後くらいは私にやらせてください!」
千反田「わ、私も折木さんの役に立ちたいんですっ!」
奉太郎「ダメだダメだ!千反田にそんなことはさせられない!」
える「イヤですっ!私が脱ぎますっ!」
奉太郎「っておい!いきなり脱ぎ始めるな!」
える「早い者勝ちです!」
奉太郎(うおっ!千反田の白いブラがまぶしっ!ってそんな場合じゃない!)
奉太郎「千反田に脱がれる前に俺が脱ぐ!」
える「あっ、ダメです、ホックに手がうまく届きません……」
奉太郎「千反田!そのままじっとしていろよ……!」
える「ああ、折木さんずるいです!あっ、届いた!」
奉太郎「よし!俺のほうが早い!」
える「負けませんっ!」
ほうえる「のろいなんてへのへのかっぱ!」
ほうえる「のろいなんてへのへのかっぱ!!!」
ほうえる「のろいなんてへのへのかっぱ!!!!!!」
扉「ガラガラガラ」
里志「よっ、お二人さん。お楽しみでしたね…………って」
摩耶花「…………やだ……なにこれ……」
里志「……あちゃー、これは完全に邪魔しちゃった感じだね?」
摩耶花「…………」
奉太郎「こ、これには訳があってだな……」
える「い、いやっ!」ギュ
奉太郎(オウフ)
里志「とりあえず二人とも抱き合ってないで離れて服を着たほうがいいね。幸い僕たち以外には誰も居ないから問題にはならないと思うよ」
摩耶花(十分問題よ……)
摩耶花「……先行こうよふくちゃん」
里志「うん。ほら、奉太郎も千反田さんも呆けてないでさ。いや、この場合は惚気てないで、かな?」
摩耶花「ふくちゃんが居ると二人は離れらんないのっ!行くよっ!」
里志「なるほど」
摩耶花「なるほどじゃなくて!」
奉太郎「…………」
える「…………」
奉太郎「……服、着ろよ」
える「……う、うん」
奉太郎「…………」
奉太郎「俺はどこで間違えたんだ……」
帰り道!
里志「それで、本当は千反田さんとどこまで行ったんだい?」
奉太郎「なんにもしてねーよ」
里志「確かにあのおまじないを解くには上半身裸で呪文を唱える必要があったのは知ってるけど、一時間以上も一緒にいて何もなかったって……」
里志「奉太郎、君もしかしてそっちの気があるとか言わないよね?」
奉太郎「殴るぞ」
里志「おおっと、怖い怖い」
摩耶花「ちーちゃん、ほんとに何にもされなかった?脅されてない?」
奉太郎(…………)
える「はい。折木さんはとても紳士で私のことを大切にしてくださいました」ポッ
摩耶花「……うわー」
える「そうだ折木さん!」
奉太郎「ん?どうした」
える「私、やっぱり聞き間違えなんかしていません!折木さん、閉じ込められているときに携帯を持っていると嘘をつきました!」
える「どうしてそんな嘘をついたんですか?嘘をつく必要があったんですか?」
える「私、気になります!」
奉太郎「嘘なんてついてない。お前の聞き間違いだよ」
里志「へー、興味深いね。千反田さん、その話詳しく聞かせてよ」
摩耶花「え?なになに?」
える「かくかくしかじかというわけなんです」
里志「まるまるうまうま……つまり、千反田さんはその引っかかったものが何かを知りたいんだね?」
える「そういうことになりますね」
摩耶花「全然わかんないし」
奉太郎「……おい」
里志「でもやっぱりこればかりは僕には答えを出すことは出来ないね」
える「そう……なんですか」
里志「うん」
里志「でも、きっと千反田さんと奉太郎がもっと仲良くなっていつか教えられる日が来れば」
里志「その奉太郎の携帯電話を千反田さんに見せてくれるよ。ちゃんと千反田さんを受信してたみたいだしね!」
里志「奉太郎も、そのときはもう嘘はつかないんじゃないかな?」
える「もっと仲良く、ですか……」
奉太郎「千反田ー、里志の言うことなんて真に受けなくていいからなー。今のことも絶対忘れろよー」
摩耶花「え……どういうことなの?」
える「…………」
える「分かりました!」
える「私、頑張ります!」
える「折木さんの謎の携帯電話……絶対に見つけ出しますっ!」
おわり!
長くなりましたがこのSSはこれで終わりです。
ここまで支援、保守をしてくれた方々本当にありがとうごさいました!
パート化に至らずこのスレで完結できたのは皆さんのおかげです(正直ぎりぎりでした(汗)
今読み返すと、中盤での伏線引きやエロシーンにおける表現等、これまでの自分の作品の中では一番の出来だったと感じています。
皆さんがこのSSを読み何を思い、何を考え、どのような感情に浸れたのか、それは人それぞれだと思います。
少しでもこのSSを読んで「自分もがんばろう!」という気持ちになってくれた方がいれば嬉しいです。
長編となりましたが、ここまでお付き合い頂き本当に本当にありがとうございました。
またいつかスレを立てることがあれば、その時はまたよろしくお願いします!ではこれにて。
皆さんお疲れ様でした! それと便座カバー
原作の閉じ込めネタってどんな感じ?ネタバレにならない程度に教えろください
>>103
どうやってでよう
なんやかんや
える「脱ぎます」
>>103
初詣で二人が伊原がバイトしてる神社に行くんだが、手伝いで蔵に入ったら閉じ込められる。えるちゃんは着物
ちなみに二人は携帯を持っていない。
>>105
なるほど、わからんthx
>>107
ああ、それでどこかに帯引っ掛けて脱げ脱げなえるちゃんが人肌で暖めるといいとかなんとか言い出すのか
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません