エーリカ「今日は宮藤が宿直だってー」ルッキーニ「あそびにいこー」 (134)

美緒「今日から宮藤にも宿直勤務に就いてもらう」

芳佳「はい。で、あの、宿直ってどんなことをしたらいいんですか?」

美緒「緊張することはない。夜間哨戒を行っているウィッチ、つまりはサーニャからの定時報告を受け取るだけでいい」

芳佳「それだけですか?」

美緒「まぁ、ネウロイの襲撃やユニットの動作不良等の緊急事態もあり得る。そのときは早急に私かミーナ、バルクホルン、シャーリーに伝えてくれ」

芳佳「それはいいんですけど、あの、一人は不安で……」

美緒「何を甘えたことを言っている。軍人なら誰でもやることだ。訓練の一環だと思え」

芳佳「でも……」

美緒「何も難しいことではない。一度経験すればそれも分かるはずだ」

芳佳「は、はい。がんばります」

芳佳(はぁ……一人はやだなぁ……)

―食堂―

リーネ「芳佳ちゃん、今日が初めてなんだっけ?」

芳佳「うん。リーネちゃんはもうしたの?」

リーネ「何回かあるよ」

芳佳「ねえ、どんな感じなのかな?怖い?」

リーネ「私のときは別に何もなかったからなんともいえないけど」

芳佳「私でも出来る?」

リーネ「できるよ。芳佳ちゃんなら」

芳佳「一緒にしよう、リーネちゃんっ」

リーネ「え!?あ、うん。私も芳佳ちゃんと一緒にしたいけど、きっと坂本少佐やミーナ中佐に怒られるから……」

芳佳「そっかー。リーネちゃんも一人でやったなら、私も頑張らないと」

リーネ「がんばってね、芳佳ちゃん」

エーリカ「……」

―格納庫―

ルッキーニ「すぅ……すぅ……」

シャーリー「おっかしいなぁ……どうしても出力にブレが……」

芳佳「シャーリーさん」

シャーリー「どうした?」

芳佳「今、いいですか?相談があるんですけど」

シャーリー「いいよ。作業しながらでいいならね」

芳佳「すいません。あのぉ、今日から宿直勤務をすることになったんですけど」

シャーリー「そうか。おめでとう。あれ辛いんだよな」

芳佳「何か心得とか心構えかとありますか?」

シャーリー「別にないだろ」

芳佳「そうですか……」

シャーリー「初めてのことで不安なのはわかるけど、宮藤なら問題ないさ。ルッキーニだってちゃんとやってるんだから」

ルッキーニ「……」

芳佳「サーニャちゃんの報告を受けるだけでいいんですよね?」

シャーリー「そうそう。それができれば大丈夫。言葉はわかるだろ?」

芳佳「それはいいんですけど。まだ、こっちに来て間もないですし」

シャーリー「私が隣にいてあげようか?」

芳佳「え、いいんですか?」

シャーリー「結構、恥ずかしいことだと思うけどね」

芳佳「うぅ……シャーリーさん、言い方が意地悪です」

シャーリー「ははは。悪い悪い。夜勤が不安だ、なんていって来たのは宮藤が初めてだからさ」

芳佳「リーネも特に不安に思ったことはないみたいだったし、私だけなんですね」

シャーリー「退屈になったらサーニャと話でもしていたらどうだ?」

芳佳「それ、いいんですか?」

シャーリー「サーニャ次第かな。私のときはあまり喋ってくれなかったけど」

芳佳「分かりました。サーニャちゃんと話せるなら楽しみです」

ルッキーニ「……」

―廊下―

芳佳(でも、やっぱり一人は不安だなぁ。何かあったときパニックになっちゃうかも……)

バルクホルン「宮藤」

芳佳「え?あ、バルクホルンさん。どうしたんですか?」

バルクホルン「今日から夜間勤務に就くことになっているな」

芳佳「はい。そうです」

バルクホルン「寝るなよ」

芳佳「も、もし寝ちゃったら、どうなるんですか?」

バルクホルン「何かが起こった時、サーニャを助けることができなくなる」

芳佳「……」

バルクホルン「それでもいいなら寝ていろ」

芳佳「あ……あの……」

バルクホルン「ではな」

芳佳(余計、不安になってきちゃった……)

―食堂―

芳佳「これと……うーん……これも……」

リーネ「芳佳ちゃん、何してるの?」

芳佳「リーネちゃん。夜、寝ちゃうといけないからコーヒーとか持っていこうかなって」

リーネ「芳佳ちゃん、通信室での飲食は禁止されてるよ?」

芳佳「え?どうして?」

リーネ「精密機械が多いから」

芳佳「……」

リーネ「あ、あの、そうだっ。洗濯ばさみとかはどうかな?」

芳佳「どこを挟むの?」

リーネ「耳とか唇とか。痛くて眠気が飛ぶかもっ」

芳佳「……やってみるね。ありがとう、リーネちゃん」

リーネ「う、うん……」

芳佳「はぁ……」

―夜 通信室―

ミーナ「それでは、宮藤軍曹。夜間勤務に就いてもらいます」

芳佳「りょ、了解!」

ミーナ「そんなに緊張しなくてもいいわよ。交代は0300時頃に来るから」

芳佳「は、はい」

ミーナ「よろしくね、宮藤さん」

芳佳「が、がんばります!!」

芳佳「……」

芳佳(始まっちゃった……。コーヒーもないし、絶対に寝ちゃうよぉ……)

芳佳「……」ピッ

サーニャ『はい。こちら、サーニャ』

芳佳「よ、よろしくね、サーニャちゃん。あの、私、初めてだから色々と迷惑かけると思うけど……あの……」

サーニャ『大丈夫よ。私の定時報告を聞いてくれればそれで良いから』

芳佳「う、うん。聞くよ。絶対」

芳佳「星が綺麗……」

芳佳「……あと4時間かぁ」

芳佳「はぁ……」

芳佳「…………はっ!?ダメ、寝ちゃう」

芳佳「洗濯ばさみで……」グニッ

芳佳「いっ……!!こ、これふぁららいふぉーふ!!!」

芳佳「いふぁいなぁ。あははは」

芳佳「いふぁ……」

芳佳「…………」

サーニャ『――こちら、サーニャ。異常はありません』

芳佳「………………」

サーニャ『芳佳ちゃん?』

芳佳「……え?」

サーニャ『こちら、サーニャ。異常はありません』

芳佳「あ、うん。わかりました」

サーニャ『大丈夫?』

芳佳「ご、ごめんね。がんばってみたけど、やっぱり意識が飛んじゃうよ」

サーニャ『慣れないうちは仕方ないと思うよ』

芳佳「ありがとう、サーニャちゃん。サーニャちゃんががんばってるのに、寝ちゃうなんてダメだよね」

サーニャ『気にしてないから』

芳佳「ごめんね」

サーニャ『引き続き、夜間哨戒を行います』

芳佳「りょ、了解」

芳佳「……はぁ」

芳佳「やっぱり、だめだよぉ……。昼間は訓練もやってるから、どうしても疲れで……」

芳佳「……」

芳佳「すぅ……すぅ……」

バルクホルン「……おい」

芳佳「え!?は、はい!!!」

バルクホルン「交代の時間だ」

芳佳「あ、あの……ねてました、よね……私……」

バルクホルン「早く部屋に戻れ。三時間後には起床だ」

芳佳「は、はい」

バルクホルン「次からは気をつけろ」

芳佳「すいませんでした」

バルクホルン「……」

芳佳「戻ります……」

バルクホルン「――サーニャ」

サーニャ『はい。なんですか?』

バルクホルン「宮藤は何時間眠っていた?」

サーニャ『……寝てません』

バルクホルン「一応、報告してくれ」

サーニャ『……日付が変わってからは応答が一度もありませんでした。で、でも、芳佳ちゃんは初めてだったのでしかたな――』

バルクホルン「了解」ピッ

―翌朝 食堂―

芳佳「……」

シャーリー「どうした、宮藤?」

芳佳「散々だったんです」

シャーリー「寝ちゃったか?」

芳佳「はい……」

シャーリー「気にするな。私もよく寝るからさ」

芳佳「でも、気が付いたら交代の時間になっていて……バルクホルンさんが背後にいて……」

シャーリー「それは怖いなぁ」

芳佳「もう心臓が飛び出るかと思いましたよぉ」

美緒「それは面白いな」

芳佳「さ、坂本さん……!?」

美緒「バルクホルンから聞いたぞ。随分と眠っていたそうだな?」

芳佳「すいません……」

シャーリー「少佐。宮藤は仕方ないですって。まだ慣れてないんですから」

美緒「慣れていないでは言い訳にならんな。私とミーナは宮藤になら任せられると判断して夜間勤務に就かせたのだからな」

芳佳「そうなんですか?」

美緒「期待しているんだ。失望させないでくれ」

芳佳「は、はい。次はがんばります!!」

美緒「頼むぞ」

芳佳「はぁ……」

シャーリー「げんきないなぁー、みやふじぃ」

芳佳「大失敗したんですから、元気なんてでませんよぉ」

シャーリー「ま、あれだけは気の持ちようというかさ、慣れるしかないからね」

芳佳「はい」

シャーリー「気にしない気にしない」モミモミ

芳佳「ありがとうございます……うぅ……」

シャーリー「あ、あれ?なんで泣いてるんだ?」

芳佳「すいません……」

シャーリー「はいはい。大丈夫大丈夫。誰も責めてないだろ?」

リーネ「芳佳ちゃん……かわいそう……」

ペリーヌ「何が可哀相なんですの?任務中に居眠りだなんて、問題外ですわ」

リーネ「でも、芳佳ちゃんは今までこんなことをしたことがなかったから……!!」

ペリーヌ「サーニャさんにもしものことがあっても、慣れていなかったから仕方ないで納得できるんですの?」

リーネ「それは……」

ペリーヌ「もう少し自覚を持ってもらいたいものですわね」

リーネ「……」

エイラ「何をえらそーにいってんだか」

リーネ「え?」

エイラ「ツンツン眼鏡だって爆睡して一つも応答しなかったのにな」

ペリーヌ「……」

リーネ「そうなんですか?」

エイラ「そうだ。私とサーニャがそれを隠してやったんだ。それを棚に上げてさぁ」

ペリーヌ「エイラさん!!それはもう昔のことでしょう!?」

エイラ「あぁ?宮藤にエラソーなこというなって言ってるだけだ」

ペリーヌ「ですから、あれは通信機器のトラブルで!!」

エイラ「こっちの声は聞こえてたんだろ?どこが故障してたんだよぉ?」

ペリーヌ「ぐぬぬぬ……」

リーネ「まぁまぁ」

エーリカ「ふわぁぁ……ねむい……」

ルッキーニ「たいへんだねー」

シャーリー「ルッキーニは不思議と寝たことないんだよな?」

ルッキーニ「にひぃ。ないっ」

シャーリー「なんか秘訣でもあるなら宮藤に教えてやったらどうだ?」

ルッキーニ「秘訣って言われても、困るけど」

シャーリー「特に意識したことがないのか?」

ルッキーニ「ないっ!」

シャーリー「流石だな」

エイラ「ペリーヌはルッキーニ以下ダナ」

ペリーヌ「なんですってぇ!?」

―廊下―

芳佳(次の当番でももし寝ちゃったら……坂本さんかミーナ中佐に……)


美緒『宮藤、覚悟はいいな?』

ミーナ『うふふ、宮藤さん。この鉄板の上で正座してくれるかしら。ちょっとだけ熱くなっているけどね』


芳佳「こわいっ!!!」

芳佳「ど、どうにかしないと……でも……どうしたら……」

バルクホルン「宮藤」

芳佳「は、はい!?」

バルクホルン「……」

芳佳「あ、えっと……すいません、ねちゃって……」

バルクホルン「新人にはよくあることだ」

芳佳「はい……すいませんでした……」

バルクホルン「せ、洗濯ばさみとか……いいんじゃないか?私も、よくやる……」

芳佳「……」

―格納庫―

シャーリー「寝ないコツかぁ。私も寝ちゃうときは寝るからなぁ」

芳佳「やっぱりそうなんですか」

シャーリー「いいんじゃいか、寝ちゃえば。サーニャもエイラも見逃してくれるしさ」

芳佳「ダ、ダメです!!!それだけは!!!」

シャーリー「どうして?」

芳佳「バルクホルンさんにも言われましたけど、何かあったときどうするんですか!?サーニャちゃんとエイラさんが困るんですよ!?」

シャーリー「まぁ、そうだけどさ」

芳佳「なんとか起きてないとダメですっ」

シャーリー「そこまで気合が入ってるなら、次はもう大丈夫だって」

芳佳「それならいいんですけど……」

シャーリー「怖いか」

芳佳「はい」

シャーリー「どうしたものかなぁ」

ルッキーニ「……」

―数日後 夜 通信室―

美緒「宮藤。頼むぞ」

芳佳「はい」

美緒「交代は前回と同じ0300時だ。寝ないようにな」

芳佳「りょ、了解」

美緒「うむ」

芳佳「……」

芳佳「……あのー」ピッ

サーニャ『はい。サーニャです』

芳佳「サーニャちゃん、もし応答なかったら怒鳴ってほしいの」

サーニャ『え?そんなのできないわ』

芳佳「お願い!!!サーニャちゃん!!!」

サーニャ『う、うん、がんばってみるね』

芳佳「ありがとう!!」

芳佳「……」

芳佳「…………」

ルッキーニ「みやふじよしかぁ!!!たるんどーる!!!」

芳佳「きゃぁ!?!ごめんなさい!!!」

ルッキーニ「にゃはー。芳佳、今寝てたよー?」

芳佳「あ、ルッキーニちゃんかぁ……びっくりしたぁ」

ルッキーニ「今日は晴れてるねー」

芳佳「う、うん」

ルッキーニ「……にひぃ」

芳佳「な、なに?」

ルッキーニ「よしか、あそぼ」

芳佳「え?あ、えっと。ルッキーニちゃん、もう消灯時間過ぎてるし……」

ルッキーニ「いーから、いーからぁ」

芳佳「でも、戻らないと怒られるんじゃ……」

ルッキーニ「へーき、へーき。さ、あそぼ」

芳佳「でも、何して遊ぶの?」

ルッキーニ「うーんとねぇ……そだっ!」ピッ

芳佳「え?ルッキーニちゃん?」

サーニャ『はい。サーニャです』

ルッキーニ「サーニャ、やっほー」

サーニャ『え?うん』

ルッキーニ「2人でできる遊びってなにかある?」

サーニャ『……しりとりとか?』

ルッキーニ「つまんなーい!!」

芳佳「……」

ルッキーニ「よしか、ねるなぁー」グニーッ

芳佳「いっ!?ご、ごめんなさい!!」

ルッキーニ「真面目にやれー」

芳佳「えぇ!?でも、ルッキーニちゃんは遊びたいんでしょ?」

ルッキーニ「真面目に遊ぶの!!」

ルッキーニ「よしかぁー!!これこれー!!」

芳佳「なに?そのスイッチがどうかしたの?」

ルッキーニ「これ……実は基地の爆破スイッチなんだ……」

芳佳「えぇ!?」

ルッキーニ「絶対に押しちゃダメだよ」

芳佳「そ、そんな大事なボタンなのにどうしてむき出しになってるの?何かで保護しておかないと危ないよぉ」

ルッキーニ「押しちゃダメって言われると押したくなるよね」

芳佳「ならないよ!!」

ルッキーニ「えー?芳佳はおかしー」ポチッ

芳佳「えぇぇぇぇ!?!?ルッキーニちゃん!!押してる!!爆破スイッチ押しちゃってるから!!!」

ルッキーニ「にゃはー!!」ポチポチポチ

芳佳「いやぁぁぁ!!!!みんなが死んじゃうからやめてぇー!!!」

ルッキーニ「まだまだー!!!」

サーニャ『――こちらサーニャ。異常ありません』

サーニャ『……芳佳ちゃん、応答してください。芳佳ちゃん……?んんっ……おきてくださいっ。宮藤軍曹っ。おきてっ。おねがいしますっ』

ルッキーニ「よっしかー。変な顔してー」グニーッ

芳佳「もうなっふぇるからぁ」

ルッキーニ「にゃはははは」

芳佳「あうー」

ルッキーニ「ふわぁぁ……飽きた」

芳佳「え!?」

ルッキーニ「おやすみぃー」

芳佳「あ、ルッキーニちゃん!?ちょっと!!」

ルッキーニ「うっさい」

芳佳「えぇ!?散々遊んであげたのに!?」

ルッキーニ「すぅ……すぅ……」

芳佳「……」

ミーナ「――宮藤さん、交代の時間よ?」

芳佳「ミーナ中佐。もうそんな時間ですか」

ミーナ「ええ。あら?ルッキーニさん、今日はここで寝てるのね。もう注意するのも疲れたからいいけど、寝る場所は固定してほしいわね」

芳佳「あの、ルッキーニちゃんは……」

ミーナ「いいわ。ここで寝かせておいてあげて。朝まで起きないでしょうし」

芳佳「わかりました」

ミーナ「おやすみなさい。宮藤さん」

芳佳「はい」

ミーナ「サーニャさん、応答して」

サーニャ『はい』

ミーナ「宮藤さんはどうだったかしら?」

サーニャ『心配ありません』

ミーナ「そう。それなら今後も宮藤さんには任せてもいいわね」

サーニャ『はい。問題ないと思います』

ミーナ「前回、失敗したのが尾引いているなんてことはなさそう?」

サーニャ『気にしてはいるみたいですけど、きっと大丈夫です』

ミーナ「了解。引き続きお願いね」

ルッキーニ「すぅ……すぅ……」

―翌朝 食堂―

芳佳「……」

リーネ「芳佳ちゃん、どうしたの?疲れてるみたいだけど」

芳佳「うん……寝不足もあるけど……遊びつかれて……」

リーネ「遊びって……?」

芳佳「昨日、ルッキーニちゃんが来たんだ。そしたら交代時間までずっと遊んでて……」

リーネ「そうなんだ」

芳佳「楽しかったけど、疲れちゃった……」

シャーリー「よー、宮藤。昨日はルッキーニが迷惑をかけたみたいだな」

芳佳「いえ、そんなことは」

シャーリー「面倒見てくれてサンキュ。あいつ、どこでも寝るからまた行くかもしれないけど、そのときはよろしくな」

芳佳「は、はい」

リーネ「でも、ルッキーニちゃんと一緒なら夜勤も楽しくなるね。いいなぁ」

芳佳「リーネちゃんのときはルッキーニちゃんが来たことないの?」

リーネ「ないよ。だから、少し芳佳ちゃんが羨ましいな」

芳佳「あはは。大変は大変だけど、確かに交代までがあっと言う間に感じたよ」

リーネ「ルッキーニちゃんは見てるだけでも飽きないよね」

芳佳「あー。それはあるかも」

ルッキーニ「うぇぇぇん……しゃーりー……」

シャーリー「おぉ、どうした?」

ルッキーニ「大尉がぁいじめるぅ」

シャーリー「なんだと?なにされたんだ?」

ルッキーニ「眠たいのにぃ、もうおきろってぇ……うぇぇぇん……」

シャーリー「それは許せないな。ちょっと言ってきてやるよ」

ルッキーニ「にひぃ!!シャーリーだいすきー!!」

シャーリー「出て来い!!バルクホルン!!!」

ルッキーニ「うにゃー!!」

リーネ「私のときも来てくれないかなぁ……ルッキーニちゃん……」

芳佳「ルッキーニちゃんは気まぐれだからね。難しいかも」

―廊下―

エーリカ「ふわぁぁ……」

バルクホルン「ん?ちょっとここで待っていろ」

エーリカ「はいはい」

バルクボルン「――宮藤」

芳佳「はい?」

バルクホルン「昨夜の任務は無事に遂行できたようだな」

芳佳「はい。なんとか」

バルクホルン「……せ、洗濯ばさみが役になっただろう?」

芳佳「い、いえ、洗濯ばさみはあまり意味が……」

バルクホルン「なに?」

芳佳「昨日はルッキーニちゃんのおかげでなんとかなった感じなんです」

バルクホルン「ルッキーニだと?何かしていたのか?」

芳佳「はい」

バルクホルン「詳しく話せ」

―格納庫―

シャーリー「まてー!たべてやるぞー!」

ルッキーニ「きゃー!」

美緒「――ルッキーニ」

ルッキーニ「あにゃ?」

シャーリー「少佐?どうしたんですか?」

美緒「話がある。ちょっとこい」

ルッキーニ「えぇー?やだぁー」

美緒「……」

ルッキーニ「いきます」

シャーリー「少佐、ルッキーニが何かしましたか?」

美緒「宮藤の夜勤中、邪魔をしていたというのは本当か?」

ルッキーニ「……え?」

美緒「どうなんだ?」

ルッキーニ「し、してません……」

シャーリー「してないって言ってますよ、少佐?」

美緒「こんなに目を泳がされたら疑いたくなるものだが」

ルッキーニ「おぉぉぉ……」

シャーリー「ルッキーニ、お前……」

ルッキーニ「邪魔はしてないよ!!芳佳だって遊んでくれたんだもん!!」

美緒「それを邪魔をしているというんだ。ルッキーニ、お前がどこで寝ようと勝手だが任務中の者を巻き込むのは感心せんな」

ルッキーニ「えぇぇ……でもぉ……」

美緒「通信室への不要な出入りを禁じる」

ルッキーニ「あにゃー!?」

美緒「以上だ」

シャーリー「少佐!!待ってください!」

美緒「どうした?」

シャーリー「ルッキーニのことだから、邪魔っていっても宮藤の膝の上にのるとかそんな他愛もないことじゃないんですか?」

美緒「通信室で爆破スイッチがどうのと大騒ぎしていたそうだがな。宮藤の話を聞く限りではだが」

シャーリー「そうなんですか……」

―食堂―

芳佳「はぁ……」

エイラ「なんだ、宮藤の奴。頭抱えてるぞ?」

リーネ「それがルッキーニちゃんと一緒に遊んでたことをつい喋ってしまったらしいんです」

エイラ「それだけのことで落ち込んでるのか?ああ、怒られたのか?」

リーネ「いえ、ルッキーニちゃんが怒られたことを気にしているみたいです」

エイラ「ふーん。自分が告げ口した形になったからか」

リーネ「ええ……」

芳佳「……」

ルッキーニ「よしゅかぁ……?」

芳佳「あ!?ルッキーニちゃん!!ごめんね!!あの……つい……!!」

シャーリー「ああ、いや、別に宮藤は悪くないよ。ルッキーニが悪いんだし」

芳佳「ごめんね……」

ルッキーニ「別にいいよ。あたしこそ、ごめんね?」

芳佳「ルッキーニちゃん……」

―ブリーフィングルーム―

バルクホルン「ルッキーニにも困ったものだ」

エーリカ「別にいーじゃん。宮藤だってルッキーニのおかげで居眠りせずにすんだんだろー?」

バルクホルン「軍規違反だろう。消灯時間は過ぎているんだぞ」

エーリカ「ルッキーニは部屋で寝ないんだから、今更じゃないの?」

バルクホルン「あのなぁ!!」

美緒「ルッキーニにはきちんと言っておいた。問題はない」

バルクホルン「ならばいいが」

エーリカ「……」

美緒「なんだ、ハルトマン。不服そうだな?」

エーリカ「べつにぃー」

ミーナ「遡及するつもりはないけど、ルッキーニさんは何度か同じ事をしているかもしれないわね」

バルクホルン「私のときに訪れたことはないな。ハルトマンは?」

エーリカ「私もないよー」

美緒「もういいだろう。ルッキーニも反省していたからな。あまり責めてやるな」

―格納庫―

ルッキーニ「うにゃー!!」

エイラ「こらぁ!!かえせー!!私のズボンー!!!」

ルッキーニ「わーい」

エイラ「わーいじゃねえ!!!」

ペリーヌ「また、あの人たちは……」

リーネ「あはは……。楽しそうですよ?」

ペリーヌ「ここは軍基地であって遊び場ではないんですのよ!?」

芳佳「はぁ……」

ペリーヌ「それから宮藤さん。さっきからため息ばかり吐かないでくださいな。気が滅入りますわ」

芳佳「ごめんなさい」

ペリーヌ「なんでしたっけ?ルッキーニさんと遊んでいたことを洩らしてしまったらしいですわね」

芳佳「はい。その所為でルッキーニちゃんが怒られちゃって……」

ペリーヌ「ルッキーニさんが叱責を受けるのは当然ですわ。何を落ち込むことがあるんですの?」

芳佳「だって、ルッキーニちゃんが嫌な思いしちゃったんですよ?落ち込みますよぉ」

ペリーヌ「それはルッキーニさんの自業自得というものでしょう?貴女が気にしてどうしますの?」

芳佳「でも……」

リーネ「気にしちゃうよね、やっぱり」

芳佳「うん……」

ペリーヌ「全く。訳が分かりませんわ」

エイラ「――あいつ、全然反省してないし、堪えてもないみたいだから気にするだけ損だぞ、宮藤」

芳佳「そんなことないですよ。ルッキーニちゃん、とっても悲しそうな顔してましたし」

エイラ「落ち込んでるなら私のズボンを盗ったりしねえ」

芳佳「……」

ルッキーニ「シャーリー!!エイラがズボンとったー!!」

シャーリー「おいエイラー。かえしてやれよー」

エイラ「私のだぁ!!!」

ペリーヌ「毎日、楽しそうですものね。ルッキーニさんは」

リーネ「あぁ!だから見ているだけで楽しくなるのかも!」

ペリーヌ「騒がしいだけですわよ」

―食堂―

芳佳「はぁ……」

エーリカ「どうしたの?」

芳佳「ハルトマンさん……」

エーリカ「今日は一日元気ないようにも見えるけど?」

芳佳「なんだか、迷惑ばっかりかけてる気がして」

エーリカ「新人特有の悩みだねぇ」

芳佳「あはは……」

エーリカ「ルッキーニは根に持つようなタイプじゃないし、気にしなくていいんじゃない?」

芳佳「本当にそうなんですか?」

エーリカ「どういうこと?」

芳佳「ルッキーニちゃんだって色々と考えてると思いますよ」

エーリカ「例えば?」

芳佳「た、たとえば……えーと……」

エーリカ「ブッブー。はい、時間切れー。よって、ルッキーニは何も考えてないアンポンタンってことで」

芳佳「そんな言い方!?」

エーリカ「ただルッキーニは宮藤と遊びたかっただけだね」

芳佳「そう、ですか?」

エーリカ「そうそう」

芳佳「だけど、リーネちゃんが夜勤勤務に就いているときにルッキーニちゃんは現れないみたいなんです」

エーリカ「たまたまでしょ」

芳佳「……ハルトマンさんのときはどうでしたか?」

エーリカ「私はないなー。ルッキーニが遊びにきたことなんて」

芳佳「やっぱり、人を選んでるんじゃ……」

エーリカ「どういう人選をしてると思うの?」

芳佳「そうですね……。よく眠る人のところにきて、眠気を飛ばすために遊んでくれているとか」

エーリカ「そう思うなら、サーニャに聞いてみるといいよ」

芳佳「何をですか?」

エーリカ「夜勤勤務中、どれだけの人が寝ているのかを。きっと宮藤だけじゃないよ」

芳佳「私だけじゃない……?」

―数日後 夜 通信室―

芳佳「サーニャちゃん、聞こえる?」

サーニャ『はい、感度良好です』

芳佳「あのね、聞きたいことがあるんだけど」

サーニャ『なに?』

芳佳「……あの、言い難かったらいいんだけどね……その……この夜間勤務中、みんなよく寝てるの?」

サーニャ『……』

芳佳「ご、ごめん……。ちょっと気になってただけだから……」

サーニャ『……正直に言えば、寝ていなかった人は一人もいないわ』

芳佳「そ、そうなの?それって坂本さんも?」

サーニャ『うん。ミーナ隊長もバルクホルンさんも居眠りしていたことはあるわ』

芳佳「意外……。そんなことしなさそうなのに……」

サーニャ『ミーナ隊長とバルクホルンさんは誤魔化し方が上手だから、よく分からないときもあるけど……』

芳佳「なら、ルッキーニちゃんは別に私だから来てくれたわけじゃないんだ」

サーニャ『ルッキーニちゃん?』

芳佳「あはは。気になってたんだー。もしかしたら、私ってルッキーニちゃんにまですごく迷惑をかけてるんじゃないかって」

サーニャ『……』

芳佳「坂本さんやバルクホルンさんだけじゃなくて、ルッキーニちゃんにまで心配させちゃってるならどうしようかって悩んでたの」

サーニャ『どうして?』

芳佳「だ、だって!!あのルッキーニちゃんにまで心配されてるってことは、もう私はみんなの負担になってるんじゃないかって……」

サーニャ『そうなんだ』

芳佳「そう思うと、なんだか申し訳ないなーって……。でも、そういうわけじゃないなら、少しだけ楽になったかな。ありがとう、サーニャちゃん」

サーニャ『私が知る限りでは、ルッキーニちゃんはペリーヌさんのときにも遊びにきていたけど』

芳佳「ペリーヌさん?」

サーニャ『うん。そのことは多分、私とエイラ以外は知らないと思う』

芳佳「そうなんだ……。でも、どうしてペリーヌさんなんだろう……」

サーニャ『ルッキーニちゃんなりの応援かも』

芳佳「応援?どういうこと?」

サーニャ『ごめんなさい……そう思うだけで……』

芳佳「ああ、ううん。ありがとう。サーニャちゃん」

芳佳「……」

シャーリー「……」

芳佳「すぅー……すぅ……」

シャーリー「……」

サーニャ『宮藤軍曹っ。応答してくださいっ。……みーやーふーじーぐーんーそーっ』

芳佳「え……!?あ、はい。了解です!」

サーニャ『はいっ。夜間哨戒を続けます』

芳佳「あぁ……また寝ちゃってた……」

シャーリー「わっ」

芳佳「きゃぁああ!?!?」

シャーリー「ほら、交代だよ」

芳佳「あ、すいません……」

シャーリー「どれぐらい寝てたんだ?」

芳佳「えーと……多分、30分ぐらいです」

シャーリー「そっか。段々短くなってるな。偉いぞ、宮藤」

芳佳「嫌味にしか聞こえませんよぉ」

シャーリー「嫌味だからな」

芳佳「シャーリーさん、いじわるですっ」

シャーリー「まぁ、反省させないとまた宮藤が怒られるからね」

芳佳「……」

シャーリー「そんな顔しない。ほら、もう寝たほうがいい」

芳佳「シャーリーさん?」

シャーリー「んー?」

芳佳「ルッキーニちゃんがここに遊びに来たことありますか?シャーリーさんが夜間勤務のときに」

シャーリー「ないなー。交代以外で人が来たのは、ハルトマンぐらいかな」

芳佳「ハルトマンさんが?」

シャーリー「気になるか?」

芳佳「少し」

シャーリー「前に言っただろ?はっきりいってこれは辛いってさ。まぁ。昼間に訓練や任務をこなして、その上睡眠時間削られるから当然だけどさ」

シャーリー「中佐も定時報告ぐらいウィッチじゃなくて衛兵に受けせればいいのに、不必要な会話をするかもしれないからっていう理由で私たちがやってるんだけどさ」

芳佳「はい……」

シャーリー「で、これはおかしい!って中佐に直談判したんだ。私とルッキーニも不満が溜まってたし」

芳佳「えぇ!?そ、それで!?」

シャーリー「聞く耳持たずだったな。あの時ばかりは暴れてやろうかなんて考えもしたかなぁ」

芳佳「もしかしてハルトマンさんは……」

シャーリー「中佐のことを理解してほしいなんて言ってきたよ」

芳佳「それ、ルッキーニちゃんも?」

シャーリー「勿論」

芳佳「それじゃあ……ルッキーニちゃんがここへ来るのって……」

シャーリー「いや、中佐の考えを理解してほしいなんてことは微塵も思ってないぞ。あいつは」

芳佳「だったら、どうして私やペリーヌさんのところへ?」

シャーリー「宮藤もペリーヌも大失敗したからじゃないか?」

芳佳「大失敗……?」

シャーリー「ペリーヌの奴、あのときは相当落ち込んでたからなぁ。それじゃないか?」

芳佳「ルッキーニちゃんは励ましてくれていたんでしょうか?」

シャーリー「どうだろうなぁ。ルッキーニがそんな器用なことをするかは微妙なところだけど」

芳佳「だとしたら、私……」

シャーリー「どうした?」

芳佳「やっぱり、ルッキーニちゃんに心配させていることになります!!」

シャーリー「何か不味いか?」

芳佳「マズいですよ!!あのルッキーニちゃんの負担になんて絶対になりたくないです!!!」

シャーリー「年下だからか?」

芳佳「違います!!いつも笑っているルッキーニちゃんが、私の所為で心から笑えなくなっているのが嫌なんです!!!」

シャーリー「……」

芳佳「あ、ちょっと偉そうなこといいました……」

シャーリー「宮藤がそう思うなら、それでもいいけど。なら、これからどうするつもりだ?」

芳佳「どうしたらいいでしょうか?」

シャーリー「それは分からないよ。宮藤が考えればいい」

芳佳「そんなぁ」

シャーリー「はいはい。もう寝ろって。起きれなくなるぞ」

―翌朝 食堂―

芳佳「ペリーヌさん」

ペリーヌ「はい?」

芳佳「あのぉ……ちょっと相談が……」

ペリーヌ「なんですの、改まって」

芳佳「ペリーヌさんも夜間勤務中、寝てたことあるんですよね?」

ペリーヌ「……それがなにか?」

芳佳「で、ルッキーニちゃんが来たんですよね?」

ペリーヌ「ちょっと!!それを誰から!?」

芳佳「あ。すいません……。えーと、サーニャちゃんから……」

ペリーヌ「そ、そうですか……それなら、いいですけど……」

芳佳「シャーリーさんも知っているみたいでしたけど?」

ペリーヌ「……他には?」

芳佳「さぁ……?」

ペリーヌ「まさかシャーリー大尉まで知っていたとは……。いいですこと、宮藤さん。この件は、内密にお願いしますわね」

芳佳「それはいいんですけど、ルッキーニちゃんは何か言ってませんでしたか?」

ペリーヌ「いえ。特に。ただ、無駄に遊んでいただけですわ。爆破スイッチがどうのこうのと」

芳佳「一緒ですね」

ペリーヌ「ホント、迷惑でしたわ」

芳佳「でも、それを秘密にしたってことはペリーヌさんもなんとなくわかってるんじゃないんですか?」

ペリーヌ「……だったらどうだっていうの?」

芳佳「え?あ、うーん……どうしたらいいですか?ルッキーニちゃんにお礼でもしますか?」

ペリーヌ「お礼がしたいならどうぞご自由に。わたくしはしませんから」

芳佳「えー!?」

ペリーヌ「話は終わりですか?それでは用事がありますので」

芳佳「ペリーヌさーん」

芳佳「……はぁ」

芳佳「お礼か……」

芳佳(でも、ルッキーニちゃんはお礼をして欲しいのかな)

―格納庫―

ペリーヌ「エイラさんが言ったのではなくて!?」

エイラ「言うわけないだろ」

ペリーヌ「だったらどうしてシャーリー大尉が知っていたんですの!?」

エイラ「しるかよ。ルッキーニから聞いたんじゃないのか?」

ペリーヌ「これは問題ですわ……。もし遊んでいたことが少佐の耳に入っていれば……」

エイラ「ルッキーニは怒られてるな」

ペリーヌ「別にそれは問題ではありません!!」

バルクホルン「お前たち、何をしている」

エイラ「大尉だ。にげろ」

ペリーヌ「あ、ちょっと!!エイラさん!!」

バルクホルン「トラブルか?」

ペリーヌ「い、いえ……そういうわけでは……」

バルクホルン「本当か?」

ペリーヌ「は、はい。では、し、失礼しますわね……」

バルクホルン「なんだあいつらは。任務もしないで」

シャーリー「まぁまぁ、秘密にしたいこともあるんだろ?」

バルクホルン「隠し事は感心しないな」

シャーリー「突っ込むは野暮だろ?」

バルクホルン「ふん……」

シャーリー「あらら。あきれたか?」

バルクホルン「何をしているのかは知らんが、私の見えないところでやれ」

シャーリー「……」

バルクホルン「見つければ注意せざるを得ないからな」

シャーリー「へいへい」

エーリカ「トゥルーデぇ、ここにいたんだぁー。ミーナがよんでるよー」

バルクホルン「了解。すぐにいく」

エーリカ「なんか話してた?」

バルクホルン「ただの世間話だ」

エーリカ「えー?シャーリーとぉ?あやしいなぁー」

―廊下―

リーネ「ルッキーニちゃんのこと?」

芳佳「うん。多分だけど、私の事を励ましてくれたんだと思うの。でも、お礼を言うのは違う気がして」

リーネ「そうだね。芳佳ちゃんの想像通りならきっとそうした意図を隠したかったんだと思うし」

芳佳「ルッキーニちゃんにどうしたら恩返しができるかな?」

リーネ「難しいね……」

芳佳「ごはんを大盛りにするとか、どうかな?」

リーネ「すぐにバレるような」

美緒「――宮藤、リーネ。ちょっといいか?」

芳佳「な、なんですか?」

リーネ「は、はい」

美緒「ルッキーニのことだが、あれから遊びにきているか?」

芳佳「いえ、きてません」

リーネ「はい」

美緒「そうか。ならばいい。邪魔をしたな」

芳佳「あの、坂本さん」

美緒「なんだ?」

芳佳「ルッキーニちゃんは別に悪いことをしてるわけじゃないと思います。あ、いえ、傍から見れば悪いことなんですけど、きちんと理由があるんです」

美緒「理由?」

芳佳「はい。だから、その、出入りは自由にさせてあげることは……?」

美緒「不要な出入りを禁じた。それは覆らないぞ」

芳佳「だけど、ルッキーニちゃんは私を慰めるためにあえてあんなことをしたんです」

美緒「確証でもあるのか?」

芳佳「なんとなくです!」

リーネ「芳佳ちゃん……」

美緒「いくら仲間のためであろうとも、規律は遵守してもらわなければならん。我々は組織にいるのだからな」

芳佳「それはわかってますけど」

美緒「もういいな?」

芳佳「ま、まってください!!」

リーネ「あ……」

―食堂―

芳佳「はぁ……」

ペリーヌ「……」

エーリカ「なにあれ?二人とも頭抱えてるけど」

シャーリー「悩みでもあるんだろ。悩みがない奴はいないしね」

ルッキーニ「わーい」

エイラ「まて!!こらぁ!!!」

サーニャ「ルッキーニちゃん……わたしのズボンかえして……」モジモジ

ルッキーニ「にゃはははは」

エイラ「サーニャが恥ずかしがってるだろぉー!!やめろぉー!!!……まぁ、そんなサーニャもいいけどさぁ」

サーニャ「……」

エーリカ「悩みがない奴がいないって本当にぃ?」

シャーリー「ルッキーニだって悩んでるよ!!」

ルッキーニ「きゃははは」

エイラ「ルッキーニ!!返せこらぁ!!!」

―ブリーフィングルーム―

バルクホルン「了解」

ミーナ「お願いね」

バルクホルン「任せてくれ」

美緒「すまんな。お前にばかり負担をかけさせて」

バルクホルン「そんなことはない。これも上官としての務めだ」

ミーナ「ええと……宮藤さんの夜間勤務は……四日後ね」

美緒「ルッキーニが姿を現すかは分からんな」

バルクホルン「現さないのならそれでいいだろう」

美緒「ルッキーニの動機が気にならないのか?」

バルクホルン「少佐、人が悪いな。想像はついているのだろう?」

美緒「何故、そう思う?」

バルクホルン「通信室への不要な出入りを禁じたからだ」

美緒「何がおかしい?」

バルクホルン「それは不要でなければ構わないと言っている様に聞こえるぞ?」

―夜 通信室―

芳佳「ふわぁぁ……」

サーニャ『芳佳ちゃん。異常、ありません』

芳佳「あ、はい。了解」

芳佳(結局、ルッキーニちゃんにどうしたらいいのかわからないまま……。どうすることが一番いいんだろう……)

ルッキーニ「――だーれだ?」ギュッ

芳佳「きゃぁ!?ルッキーニちゃん!?」

ルッキーニ「正解ぃ」

芳佳「ど、どうしたの?」

ルッキーニ「遊びにきちゃったぁ」

芳佳「お、怒られるよ?」

ルッキーニ「ヘーキ、ヘーキ」

芳佳「でも、坂本さんやバルクホルンだって目を光らせてるのに」

ルッキーニ「だいじょーぶ。あたしは闇夜を駆けるパンサーだからぁー。がぉー」

芳佳「怒られるかもしれないのに……」

ルッキーニ「バレなきゃヘーキだってー」

芳佳「戻ったほうがいいよ」

ルッキーニ「なにしてあそぶ?」

芳佳「ルッキーニちゃん……」

ルッキーニ「芳佳ぁ。このスイッチ、なんだか知ってる?基地が巨大ロボットに変形するスイッチなんだよー?」

芳佳「……」

ルッキーニ「へんけーがったーい!!」ポチッ

芳佳「ルッキーニちゃん、無理してないよね?」

ルッキーニ「え?」

芳佳「私のことを思ってしてくれているなら嬉しいんだけど、それでルッキーニちゃんが悩んでるのは嫌なの」

ルッキーニ「……」

芳佳「私は元気だから」

ルッキーニ「ペリーヌと同じこというんだね」

芳佳「ペリーヌさんと?」

ルッキーニ「あたしは別に芳佳の心配はしてないよ?あたしはハルトマン中尉に恩返しがしたいだけだもん」

芳佳「な、なに、どういうこと?」

ルッキーニ「変な勘違いしてるみたいだけどー。あたしは落ち込んでる新人を慰めるなんてことしないよー?そんなのメンドーだもん」

芳佳「えぇ!?それなら、これって……?」

ルッキーニ「あたしさぁ、この夜間勤務すっごく嫌なんだー。眠いし、暗いし、通信室でじっとしてなきゃいけないしで三重苦でしょ?芳佳も嫌じゃないの?」

芳佳「それは……って、任務だから」

ルッキーニ「あたしはそれが嫌なのー。だから、中佐にだっていったんだよぉ?やめたいって。でも、許してくれなくてさぁ」

芳佳「それは聞いたよ。そのあとにハルトマンさんからミーナ中佐のことを分かって欲しいって言われたことも知ってるけど……」

ルッキーニ「それそれー。でも、ちょっと違うよ」

芳佳「他にも何か言われたの?」

ルッキーニ「あたしが辛いからやだっていったら、ハルトマン中尉は毎回交代まで一緒に遊んでくれたんだー」

芳佳「え……」

ルッキーニ「それがうれしくてね。だから夜間勤務中の芳佳と遊んであげたの!!」

芳佳「それは恩返しなの?」

ルッキーニ「うんっ。だって、私と遊んでるのがミーナ中佐にバレて通信室への出入り禁止になってるんだもん。だから、ハルトマン中尉はしたくてもできないんだよ」

芳佳「それじゃあ、ルッキーニちゃんはハルトマンさんのやっていたことを引き継いで……?」

ルッキーニ「そうだよー」

芳佳「だけど、私とペリーヌさんのところにしかルッキーニちゃんは――」

ルッキーニ「自爆スイッチ!!」ポチッ

芳佳「……」

ルッキーニ「あそぼうよぉ、よしかぁ」

芳佳「う、うん……」

バルクホルン「――ルッキーニ。そこまでだ」

ルッキーニ「あにゃ!?」

芳佳「バルクホルンさん!?」

バルクホルン「不要な出入りは禁止されていたはずだ。何をしている?」

ルッキーニ「あぅ」

芳佳「ま、待ってください!!ルッキーニちゃんは訳があって来てくれただけなんです!!」

バルクホルン「言ってみろ」

芳佳「き、きっと、ルッキーニちゃんは……その……」

ルッキーニ「にげろー!!」

バルクホルン「待て!!」

芳佳「ま、まってください!!」ギュゥゥ

バルクホルン「離せ、宮藤」

芳佳「い、いやです!!」

バルクホルン「……ルッキーニの動機は聞いたはずだ。お前が恩を感じ義理立てする必要はないだろう?何故、庇う?」

芳佳「だ、だって、ルッキーニちゃんがただハルトマンさんの真似をしたなんて信じてないからです!!」

バルクホルン「奴は正直に告白しただろう?」

芳佳「だったらリーネちゃんのところにも行ってないとおかしいです!!」

バルクホルン「宮藤、いい加減にしないとお前にまでペナルティを与えることになるぞ」

芳佳「好きにしてください」

バルクホルン「このっ……」

芳佳「うぅぅ……!!」ギュゥゥ

バルクホルン「ルッキーニの話をよく聞いたか?」

芳佳「え?な、何がですか?」

バルクホルン「嫌な想いをしたとき、辛いと感じたときにハルトマンが共にここで時間潰してくれたと言っただろう?」

芳佳「それがなんですか?」

バルクホルン「宮藤とペリーヌもここで苦い経験をしたんじゃないのか?」

芳佳「あ……」

バルクホルン「リーネはまだ盛大な居眠りはしていないからな」

芳佳「それって、この任務が嫌なものになることを避けようとしてくれたんですか?」

バルクホルン「あくまでもハルトマンの真似。深い意味などないはずだ」

芳佳「……あれ?どうしてペリーヌさんのことバルクホルンさんが知っているんですか?」

バルクホルン「宮藤は見ていなかっただろうが、ペリーヌの落ち込みようは尋常ではなかった。様子がおかしいことは誰にも一目で判断できた」

芳佳「シャーリーもそんなこといってたような」

バルクホルン「サーニャは口を割ろうとしなかったが、エイラは話してくれた。ペリーヌにあった出来事をな」

芳佳「ルッキーニちゃんと遊んだこともですか?」

バルクホルン「ああ。エイラが報告してくれた。ペリーヌはルッキーニのおかげで元気になったから、とな」

芳佳「エイラさん……」

バルクホルン「エイラには気をつけろ。仲間想いだから、そういう不安はすぐに取り除きたがる」

芳佳「それだったら、ルッキーニちゃんのことは最初から……?」

―廊下―

ルッキーニ「ふぅー。あぶなかったぁー」

エーリカ「何が危なかったの?」

ルッキーニ「なきゃ!?」

エーリカ「ふふん。ルッキーニ、私を理由に好き勝手してくれてたみたいだね?ミーナと少佐に怒られたよ?宮藤が口を滑らせたのが運の尽きだけどー」

ルッキーニ「あ、あの……だってぇ……」

エーリカ「私がお前と遊んだのはさ、どうしても夜間勤務をしたくないって言ったからだぞ?あそこに誰かいないとサーにゃんが困るからって言ったよね?」

ルッキーニ「うん……」

エーリカ「別にさ、落ち込んでる奴に対してルッキーニが遊んであげる必要なんてないだろ?」

ルッキーニ「でも、楽しいほうがいいし、辛かったら芳佳やペリーヌだって嫌になって逃げ出すかもしれないし……」

エーリカ「あの二人がそんなことするわけないじゃん。ルッキーニや私じゃあるまいしさぁ」

ルッキーニ「にゃははは。そうだねー」

エーリカ「だろー?」

ミーナ「そういう話は、私たちが寝静まってからにしたほうがいいわよ?」

エーリカ「……ミーナはいつ寝るんだよ、ホント」

―翌朝 食堂―

美緒「そうか。やはり、不要だったか」

バルクホルン「ああ。ルッキーニは宮藤と遊ぼうとしていただけだ」

美緒「ルッキーニも通信室への出入りを完全に禁止にするか」

バルクホルン「それがいい」

芳佳「それはあんまりですよぉ。今まで黙認してきたのに」

バルクホルン「見過ごすわけにはいかなくなっただけだ」

芳佳「えぇぇ!?」

美緒「運が悪かったな、宮藤」

芳佳「納得できません。エイラさんから話を聞いたときにそうしているのならわかりますけど」

バルクホルン「おかしなことを言う」

芳佳「な、なにがですか?」

バルクホルン「私も少佐も、ミーナだって現場を見ない限りはこのような厳しい判断は下さない」

美緒「今回、ルッキーニは不要は出入りをしていた。だからだ」

芳佳「屁理屈ですよ、それ」

ミーナ「はい、ハルトマン中尉もルッキーニ少尉も反省すること」

エーリカ「私はもう随分前に反省しただろー」

ルッキーニ「ひぃぃ……シャーリー……」

シャーリー「すまん。一応、フォローはしたんだけどさ」

エイラ「なにやってんだ、あいつら?」

リーネ「見つかったらしいです。遊んでるところ」

エイラ「ふぅーん」

ペリーヌ「もう終わりですわね……」

美緒「ルッキーニは宮藤とペリーヌの任務に対して執拗に妨害をしていた。そしてその行動はハルトマンを規範にしたものだ。間違いないな?」

エーリカ「しらない」

ルッキーニ「しらないっ」

バルクホルン「営倉行きだ」

エーリカ「ひどい!!」

ミーナ「いいえ。二人にはもっときつい罰を用意しました。覚悟しなさい」

ルッキーニ「こ、こわいよぉ……ゆるしてぇ……」

―夜 通信室―

サーニャ『異常、ありません』

ルッキーニ「うじゃぁ……」

サーニャ『元気出して。一週間だけだから』

ルッキーニ「連続ではやだぁー!!!」

サーニャ『ごめんね。私がもっと上手くお話できれば……』

ルッキーニ「もうきるねー。中佐が盗聴してるかもしれないしー」

サーニャ『あ……』

ルッキーニ「はぁー、たいくつだよぉー」

「ルッキーニちゃーん」

ルッキーニ「んにゃ!?よしかぁ!?」

芳佳「あ、えっと。どう?」

ルッキーニ「さいあくー。つまんなーい!!」

ペリーヌ「だと思いましたわ」

ルッキーニ「ペリーヌ!!来てくれたんだー!!」

芳佳「ほら、ルッキーニちゃんが逃げ出しちゃうかもしれないし」

ルッキーニ「もうそんなことしないってー」

ペリーヌ「分かりませんでしょう?」

リーネ「ルッキーニちゃん、お疲れ様」

ルッキーニ「リーネ!!」

エイラ「ルッキーニなんかにサーニャは任せておけないかんなぁ」

ルッキーニ「みんなぁ……」

芳佳「ちょっとの時間しかいれないけど、これでルッキーニちゃんも辛くないよね?」

ルッキーニ「うんっ」

ペリーヌ「今回はまぁ、多少の義理もありますからね」

エイラ「お前、ルッキーニがいなかったら今頃どうなってたんだろうな」

ペリーヌ「自力で蘇っていただけですわ」

リーネ「何しようか?」

ルッキーニ「なんでもできそー!!ねーねー!!あのねー!!」

芳佳「ルッキーニちゃん、静かに!!バルクホルンさんに気づかれちゃうから!!」

―通路―

シャーリー「……裏」

エーリカ「残念、表」

シャーリー「ちっ。もう一回」

バルクホルン「……何をしている?」

シャーリー・エーリカ「「見回り」」

バルクホルン「……」

「あの星はなんて名前だろー?」

「ルッキーニスター!!」

「そんなわけないだろ。勝手につけんなー」

「紅茶でも飲めたら最高ですのに」

「あとが怖いですから我慢しましょう」

シャーリー「なんだよ?どっかいけよ」

エーリカ「通信室にはルッキーニ以外いないぞ。ホントに」

バルクホルン「次からはもっと上手くやれ。全く」

サーニャ『――サーニャです。異常ありません』

芳佳「了解。サーニャちゃん、がんばってね」

サーニャ『え?ルッキーニちゃんは……?』

エイラ「サーニャぁ、私がいるからなんでもいってくれな」

サーニャ『え、ええ……』

ルッキーニ「サーニャぁ!!心配いらないよ!!あたし、今、すっごくたのしいからー!!!」

サーニャ『よかった。またあとでね』

リーネ「サーニャちゃんもなんだか嬉しそうだったね」

ペリーヌ「ルッキーニさんとハルトマン中尉の処遇を不憫に思っていたんでしょうね」

芳佳「一週間夜間勤務ですからね。サーニャちゃんだって心配になると思いますよ」

ペリーヌ「実際、先ほどまで逃げ出してもおかしくない態度でしたしね」

ルッキーニ「もうそんなこと考えてないよー。だって、こーんなにたのしいんだもん!!にゃははは!!!」

芳佳「ふふっ。だって、辛いことも楽しいこともみんな一緒がいいもん」

ルッキーニ「そうだね!みんな!!大好きだよ!!さ、あそぼー!!」

エイラ「だから、声でかいって。静かに遊ぶぞ。いいな?」
                                      おしまい

>>92
芳佳「でも、坂本さんやバルクホルンだって目を光らせてるのに」

芳佳「でも、坂本さんやバルクホルンさんだって目を光らせてるのに」


>>107
芳佳「シャーリーもそんなこといってたような」


芳佳「シャーリーさんもそんなこといってたような」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom