いち
律子「さあ始まりました」
『いまさら人に聞けない、人の怒らせ方』
律子「この番組の司会を担当します、秋月律子です」
律子「そしてお馴染み、『怒り』のプロフェッショナルこと」
律子「東京東海大学言語学 教授・碑文谷 潤(ひもんや じゅん)先生にお越しいただいています」
教授「よろしくお願いしますぅ~」
律子「はい、よろしくお願いします」
律子「……先生。やはりアイドルたるもの、人の怒らせ方を熟知してこそ、ですよね」
教授「ええ、もちろんです。人の怒らせ方を知るということは、その人の素顔を知るということでもあります」
教授「怒った時に見えるその人の素顔を知ることで、より一層、深い友好関係を築くことができますからね」
律子「はい、確かにそうですよね」
律子「……さて、今回怒らせ方を学んでいただくメンバーは、この4人です」
春香「よ、よろしくお願いします……」
伊織「……」ペコリ
響「よ、よろしくぅ~……」
美希「よくわかんないけど……とりあえず頑張るの」
教授「いいですか、みなさん?怒らせ方を知る以上…・・」
教授「『それとは逆の行動をすればいい』ということに繋がりますから……」
教授「回りまわって、人を怒らせない方法を知ることにもなるのですよぉ」ニッコリ
響「あ、なるほどぉ!それはすごいなぁ!」
伊織「……単純」ボソッ
響「?なんか言ったか?」
伊織「別にぃ……」
律子「さぁ、教授のレクチャーを受けて、それを後々実践に移して行きましょう」
律子「では教授、まずはどんな怒らせ方から行きましょうか」
教授「そうですねぇ、それでは……」
―――
律子「と、いうわけで、レクチャーも終わりましたから、早速実践に移って行きましょう」
律子「最初は……春香、あなたからね」
春香「は、はい……」ドキドキ
律子「いい?上手に怒らせるポイントはいくつも教わったと思うけど」
律子「ビクビクしたり、罪悪感を感じてしまったら、上手く怒らせられないわよ」
律子「どうせ相手からしたらドッキリなんだから……怒らせる以上、本気のぶつかり合い……つまり、マジギレさせなさい」
春香「……わかりました」
春香「覚悟決めます。……私……」
春香「プロデューサーさんをマジギレさせてみる」
律子「……その意気よ」
―――
モニタールーム
律子「……と、いうわけで……私たちはここで経過を見守りましょう」
教授「天海さんの相手は担当のプロデューサーの方ということで……」
教授「親しい相手を怒らせるのは、中々難しいと思いますが、がんばって欲しいですね」
伊織(……私、なんでこんなことやってるんだろう……)ハァ
美希(……ハニーが本気で怒るところ……正直、ちょっと見てみたいの)
響(じ、自分もだ……)
―――
ガチャ
P「お、春香お待たせ」
春香「……どぉもぉ~……」
―――
律子「やる気なさそうね。相手を怒らせるのには良い仕上がり方だわ」
P「おいおいどうしたよ、打ち合わせなんだろ?」
P「どこからする?明日のレコーディングからでいいか?」
春香「……そォ~ですねェ~」
春香「それでェ、いいんじゃアないですかァ~」
P「……おいおい本当にどうした?いつもの春香らしくないぞ?」
―――
律子「……教授これは?」
教授「ええ、これはテクニックの一つ、『鼻抜け声』を使用していますね」
教授「最初のやる気のない態度、さらに『浅座』もあります」
教授「これらと合わせることで、雰囲気作りに一役買っているんではないでしょうか」
・怒らせるテクニック
①鼻抜け声
わざと鼻声で受け答えすることにより、相手に「やる気の無さ」「誠意に欠ける」印象を与えることが出来る
②浅座
椅子に浅く腰掛けて、上から目線な姿勢を保つことが出来る。また同時にやる気の無さもアピール出来る
―――
春香「いいからァ、打ち合わせしましょオよォ~」
P「…………」
春香「どうかしましタァ?ぷろでゅーさースゎン!」
P「…………まあいい、じゃあ明日のレコーディングについてだな」
春香「はァ~イン」
P「…………」
P「明日はアルバム用の新曲のレコーディングだ」
P「この前渡したデモCDに入ってた曲な?あれのレコーディングをする」
春香「…………」チョイチョイコソコソ
P「で、あれに入ってた3曲分、可能なら明日全てスタジオで収録したい」
P「……歌に関して勉強熱心な春香のことだから、そこは心配ない……と思いたい」
春香「……」チョイチョイコソコソ
P「……おい春香、髪いじってるのはいいけど、ちゃんと聞いてるのか?」
春香「はぃイ?聞いてますよォ~?」チョイチョイ
P「……明日収録予定の曲は?」
春香「……デモCDの3曲ですよねェ~」
P「……」
春香「……」チョイチョイ
―――
律子「……これは、テクニックで言うところの『枝毛探し』ですね」
・怒らせ方のテクニック
③枝毛探し
人が話している最中でも髪をいじくり、枝毛をさがす。真剣味が極限まで薄れ、相手をイラつかせられる
響「は、春香すごいなぁ……プロデューサー相手に怒らせる演技やり切ってる……」
伊織「あの感じ……どっかの誰かさんの普段の様子をそのまま見てるみたいね」
美希「……それ、誰のこと?」
伊織「さぁ?」キョトン
春香「それでェ、ぷろでゅーさーさん。それがどうかしたんですかァ?」
P「…………」
春香「……ンフフ?」チョイチョイ
P「……わかった。髪をいじるのは止めなくていい」
P「その代り……ちゃんと俺の目を見て話してくれ、春香」
春香「…………」
春香「…………はァ~い」
春香「」チラッ
春香「……見ましたよォ~?」チョイチョイ
P「え!?」
春香「今ので十分ですよねェ~?」チョイチョイ
P「は、春香お前……!」ワナワナ
P(……!い、いや……こんなことで怒ってどうする俺……春香だって多感な時期なんだし……)
P(……普段が良い子すぎるくらいだもんな……今日態度が悪くても眼を瞑ってやるくらいじゃないと……)
P(が、ガマンだガマン…………)フーッ
―――
教授「いやぁ~春香さんの怒らせる演技力は素晴らしいですね~」
律子「ていうかアレに耐えてるプロデューサーも相当すごいですよ」
美希「ミキ……あそこまで酷くないけど、あんなことしたら絶対にハニーにすっごく叱られるの」
伊織「そりゃあアンタだものねぇ~」ニヒヒッ
美希「…………」ジロリ
響「……こ、言葉にトゲがありすぎるんじゃないかなぁ~……」タラタラ
―――
P「は、春香…………わかった。……今日は俺は春香に対して、特に何も言わないよ」
P「ただ明日は、俺だけじゃなく、スタジオの色んな人たちにも協力してもらう日だ」
P「だから……その態度が明日も続くようなら…………さすがに俺も黙っていられない」
P「……それは念頭に置いておいてくれ」
P「厳しいことを言うようかもしれないけど、それが芸能人として、歌手としてお金を稼ぐと言うことなんだ……」
P「……そこはわかってくれ、な?」
―――
響「おお……もう……。プロデューサーの優しさが身に沁みてくるよぉ……」
律子「流石はプロデューサー殿、って所ね」
律子「春香……この人をどう怒らせられるのかしら?」
―――
春香「…………」チョイチョイ
P「……ダンマリか。まぁ、今日はしょうがない。そういう日もあるもんな」
P「明日までに、ちゃんと元気になって…………いつも通りの春香に戻ってくれよ?」
春香「……」
P「……よっし!じゃあ今日の打ち合わせは
春香「足痛いから無理です」
P「……」
P「……え?」
―――
教授「ほほぉ~ここで『足痛』を使いますかぁ。春香さんも策士ですねぇ」
美希「ハニーの優しさが……ぱぁになっちゃうかも、なの」ドキドキ
伊織「……ここからが正念場ね」
―――
P「春香?……足が痛いってのは……どういうことだ?」
P「……ていうか無理ってのは、何が無理なんだ?」
春香「だからぁ、明日までになんとかするなんて、足痛いから無理です」
P「い、いやさぁ……春香の態度と、足痛いのは関係ないだろ……?」
P「な、なんだ……?なんか今日不真面目だったのも、足が痛かったからか?」
春香「……」
春香「ちょっとあの……足が痛いんで答えられないです」
P「…………は?」
・怒らせるテクニック
④足痛
全ての受け答えを「足が痛いから」の理由で突き放す。理不尽極まりない態度が相手の怒りを誘う
P「は、春香さぁ……足が痛くたって、俺と話はできるじゃん?」
P「本当に足が痛いのか?……病院行って、足の様子見てもらおうか?」
春香「いやだからぁ……足が痛いから無理なんですって」
P「……だったらお医者さんに診てもらおうよ。俺もついていくからさ」
春香「…………」
春香「多分……足が痛いのは結局治らないんで……無駄だと思います」
P「……え?……い、いやいや……」
P「え、なんなの?……足が痛いのが治らない病気になっちゃったの?」
P「もしかして……それで不機嫌なのか?」
春香「…………」
P「なぁ、春香……」
春香「足が痛いんで、答えられません」
P「……春香さぁ……」
P「なぁ……目を見てくれとも言わないよ。でも、俺は春香が心配なんだ」
P「俺の知ってる春香は、いつも笑顔で素直で……」
P「そんな春香が、打ち合わせも上の空だし、足が痛いって言うし……すごく心配なんだ」
P「本当に足が痛いんなら、ちゃんとお医者さんに診てもらおう」
P「俺に不満があるのか?……もしそうなら、何を言ったっていい。俺への不満を全部ぶちまけてくれよ」
P「何か嫌なことがあったって言うなら、俺だって精一杯春香のために何かしてあげたい」
P「俺は、いつもの笑顔の春香が見たいんだ……」
春香「……」
―――
律子「プロデューサー殿……もはやぐうの音も出ないほどの聖人じゃないですか……」
伊織「この状況でさらに春香を気遣うだなんて……」
―――
春香「そう、ですねぇ……」
P「…………」
春香「足痛いんで、無理ですね」
P「そう、か……」ハァ
P「……わかったよ、変なこと言ってゴメンな。……明日のレコーディング、キャンセルしとくか?」
春香「……」
P「……フゥ。向こうには、俺から謝っとくよ。明日はオフでいいから、春香もしっかり休んでおこうな」
春香「……」
春香「あ、電話なんで、ちょっと……」
P「おう……」
―――
律子「電話?かかってきてないんじゃないですか?」
教授「どうやら、この状況でもマジギレさせるのを諦めてないようですね」
響「えぇ!?も、もういいんじゃないかぁ……?」
伊織「春香も後に引けなくなってるのよ……やるなら本気で、ってことだものね」
―――
P「…………」
P(春香がもとに戻ってくれればなぁ……どうすればいいんだろう……)
春香「もしもし、千早ちゃ~ん!?うん、今暇だよー!」
P「!!!!????」
春香「え?あ、うんうん、そう」
春香「なんかねぇ~、明日レコーディングの予定だったんだけどぉ、急に休みになったの!」
P「な…………!」
春香「そうそう、だから遊びに行こうよ!」
春香「……え?……うん、うん……」
春香「えぇ~そんなことぉ~!?大丈夫だって」
春香「プロデューサーさんって思った以上にチョロイんだもん!」
春香「千早ちゃんも、適当にやる気ない振りしとけば何とかなるって!」
P「!?」
―――
律子「うわぁあああ!これはヤバイわ!確実にヤバイわ!」
美希「み、ミキでもさすがに、春香のやってることがヒドすぎるってわかるの……!」
伊織「春香……玉砕覚悟の大勝負に出たわね!」
教授「春香さんのテクニックは非常に高度ですね」
教授「『現金』と『見くびり』の複合技というところになるでしょうか」
律子「多少ながらも『クライアント・オア・ダイ』の要素も含んでいますね」
響「ふ、二人とも冷静に分析してる場合じゃないさぁ!」
・怒らせるテクニック
⑤現金
相手が下手に出た瞬間に、それまでの態度を一変させて現金な態度をとる
⑥見くびり
相手を露骨に下に見るような発言をする。相手にそれが聞こえている状態だとなおベター
⑦クライアント・オア・ダイ
立場が下の者をさんざんなじりながらも、その場に重役などが来た瞬間に重役に媚を売るような態度をとる
サラリーマンの悲哀が感じられる部分もあるが、基本的には理不尽な上司に怒りを抱かせられるテクニック
―――
P「は、春香……?」
春香「うんうん、そう、こーんなグデーッって感じで行けば大丈夫!」
春香「明日どこ行こっかね~?」
春香「千早ちゃんはどこがいい~?」
春香「え、私!?……どこでもいいよ~、明日ちょー暇だもん!」
春香「……あ、そうだ。二人でジョギングとかもいいかもねー」
春香「最近ねー私、走るのに凝ってるんだぁ」
P「……めろ……」
春香「……そうそう、新しいスニーカーこの前買ってさぁ、それで
P「止めろ春香!」
春香「…………」
P「電話切れ!……春香、こっちに来い!」
春香「…………」ピッ
P「…………」
春香「…………」
P「……どういうことか、説明してもらおうか」
春香「…………」
春香「足痛いんで、答えられません」
P「その言い訳はもういい!」
P「……どういうことだ?今の電話、どういうことか説明してもらおうか」
春香「……」
春香「……足が
P「足が痛くても答えられるはずだ!」
春香「……」
P「教えてくれ。いや……教えるんだ」
P「いくら俺にだって、ガマンの限界というものがある」
P「俺に不満があるなら言ってくれって、さっき言ったよな?」
P「なんだ、違うのか?仕事がイヤなのか?……いったい何なんだ?」
春香「…………」
P「……教えるんだ」バンッ
春香「……!」
春香「あれ、暴力とか振るう感じですか?」
春香「ちょっと、録音とかさせてもらってもいいですかね」スッ
テープレコーダー
P「……なんだそのレコーダーは」
春香「最近ってパワハラとか多いじゃないですか。芸能界も例外じゃないと思うんですよ」
春香「なんで、プロデューサーさんが何か暴言を吐くかもしれないんで、録音して、証拠にさせてもらおうかと」
・怒らせるテクニック
⑧レコーディング
相手の会話を録音する行為。相手に対し、自分に対する信用性が無い、と思わせることができる
P「…………」ワナワナ
春香「えーと……このボタンですね」カチッ
春香「あ、付きましたね……じゃあプロデューサーさん、存分にどうぞ」
P「…………」
P「……」ガタンッ
ガチャ!
バタンッ!!
―――
律子「あ、……あまりに耐えかねて、出て行っちゃいました」
伊織「春香……アンタってば最高よ」
美希「最後は春香がビンタされちゃうかと思ったけど……さっすがハニーなの……すごいの……」
響「こ、コレ……さすがにマズイんじゃないかぁ……?」
教授「そうですねぇ……プロデューサーさんを探して、早く誤解を解いてあげた方がいいですねぇ」
律子「……じゃ、ま、行きますか」
―――
春香「…………」
春香(…………)ハァー
春香(や、やっちゃった……とうとうやっちゃった……)
春香(これで私は、間違いなくプロデューサーさんに嫌われた)
春香(……ひょっとして、ううん、ひょっとしなくても、ドッキリだってわかったところで、私のことは嫌いなままかも……)
春香(なのに何でだろう……なんで、そこまでわかってるのに……涙が出ないんだろう)
春香(私、本当に、心の底から嫌な人間になっちゃったってことなのかなぁ……)
春香(…………)
春香(……本当に、なんでかなぁ……)
春香(今だって、すっごく「やっちゃった」って思ってるし、プロデューサーさんに嫌われて、すっごく悲しい)
春香(その気持ちを心から噛みしめてるはずなのに……涙が出ない)
春香(…………)ハァー
春香(…………)
春香(…………?)
ダッダッダッダッダ
ガチャ!
P「は、春香!?」
春香「…………え?……………プロデューサーさん?」
P「本当か!?ほ、本当に春香なのか!?」
春香「は???」
春香「え、えーと、あの……どういうことですか?」
P「え、……あ、ち、違った…………春香」
春香「はい?」
P「……本当に、ドッキリなのか?」
春香「…………」
P「…………」
春香「ち、違うって言ったら……?」
P「…………」ジッ
春香「……な、なんですか」
P「……やっぱり、違くないじゃないか」
春香「え?」
P「ちゃんと俺の目を見てくれる……いつもの春香じゃないか!」
春香「……え、え?」
P「ゴメン。……お前にあんだけされて、俺も頭に血が上ったんだ」
P「それで部屋を出て、怒りを収めようと外の空気でも吸いに行こうかと思ったら……」
P「律子たちが来て、『人を怒らせるドッキリ』だなんて言うから……」
春香「……」
P「怒らせるドッキリだから、見事に引っかかった俺は、それはそれでいいんだ」
P「いくらドッキリとは言え……やってる春香の方だって、大変だっただろうしな」
春香「い、いやぁそんな……」
P「……でも俺は、ちゃんと最後まで『何か事情があるんだ』って思うことが出来なかった」
P「春香のことを心配してる、なんて言っておいて、結局自分の怒りで部屋を出て行ってしまった」
P「そのことについて、謝りたくて…………本当にゴメン!」
春香「…………な」
春香「……なんで…………」
春香「なんでプロデューサーさんが謝るんですかぁ……」
春香「いっぱいいっぱい酷いことして……謝らなきゃいけないのは……私のほうなのに……」
P「……だって、ドッキリだったんだろ?」
春香「い、いくらドッキリだって……あんなに酷いことしたのに……」
P「……確かに、あれが俺の知らない、本当の春香の姿だったとしたら、幻滅してたかもしれないな」
春香「やっぱりぃ……」
P「でも、春香はそうじゃなかった。俺にしたことに罪悪感を感じて、……こうしてすまないと思える」
P「俺の知ってる春香は、そういう優しい娘だもんな」
春香「プロデューサーざぁん……あ、ありがとうございます……ごべんなさい……」
P「……よしよし」ポンポン
春香「うぐ……ううぅ……ごめんなさい……ごめんなさい……」
春香(…………やっとわかったよ)
どうして、あんなにプロデューサーさんに怒られたのに、涙が出なかったのか
私は……嫌われた、と思っていた。なのに、涙が出ない、と思ってた
でも違ったんだ。私、本当はプロデューサーさんが……
私のことを信じてくれてる、って……そう思ってるって、心のどこかで確信してた
だから泣けなかったんだ。……嫌われた、なんて、心の底では本当は思ってなかったから
……プロデューサーさんなら、きっと私のことを信じてくれてるって……
だから、今のこの涙は……それが本当だった、ていう……そういう涙なんだ……
P「……さて」
P「春香はいいとして……」
P「……そこでチラチラ見てる律子」
律子「はい!?な、なんでしょうか……プロデューサー殿?」
P「いやぁ……まんまとやられたよ」ニコォ
律子「……怒ってますか?」
P「……いいやぁ?」ニコニコ
律子「へ、へ~……それで、私に何かご用でしょうか?」
P「ちょーっと……この番組のスタッフの方々とお話がしたくてねぇ……」
律子「そうですかぁ……じゃあ、番組プロデューサーの方、呼んできますね」
P「ああ、お願いするよぉ……」
―――
律子「…………」
P「…………」
律子「いやいやいや……まさか……ねぇ?」
教授「はいぃ、私としても、この展開は予想外でしたねぇ」
P「…………と、言うと?」
律子「まさか……『俺もモニタールームで一緒に見たい』って言い出すだなんて……」
響「さっきのアレ……プロデューサーが本気で怒ったんだと思ったぞ……」
伊織「どういう風の吹き回しなのかしら……」
P「……正直に言おう」
P「教授の言っていた、『怒らせる』ことに関するコンセプト、そして実際に受けて感じたテクニックの数々」
P「あのときは確かに本気で激怒したが……その反面、ドッキリとして見た時に、非常に面白いと思った」
P「なので、俺も見たくなった」
春香「…………は、はぁ」
美希「ハニーの考えてることが、ときどき全然わかんないの……」
教授「いやぁ、ですが、この考え方に共感していただけたことは、非常に嬉しく思いますよぉ」
P「はっはっは、教授ってば、普段から人を小馬鹿にした表情をなさるんですねぇ!」
P「流石は怒らせ方のプロフェッショナルだ!」
律子「プロデューサー…………急に人が変わりましたね」
P「気にするな気にするな!」
と、いうわけで次の『怒らせ方実践者』は……
我那覇響
教授「はい、響さんに怒らせていただく相手は……この方です」
響「……!」
響「た、貴音……!?」
伊織「こ、これはまた……」
律子「相当厳しいわね。温厚だとか、怒らない、というイメージこそないけど……」
P「貴音か……しかも響が怒らせなきゃいけないもんなぁ」
教授「はいぃ。普段仲の良い方を、どれだけ激昂させることができるのか……今回は、そちらに挑戦していただきます」
響「た、貴音を激昂……?自分がかぁ……?」
美希「下手したら、ハニーの時よりむずかしいかも、なの」
響「うわー、どうしよう!そもそも怒らせる演技も見抜かれそうだぞぉ……」
律子「そこはアレよ、春香みたいに本気で行けば大丈夫よ」
P「うむ、そうだな。春香が全力でダマしに来たからこそ、俺も怒ってしまったわけだし」
律子「そういうこと。全力で怒らせれば、それこそ響も知らない貴音の顔が見れるかも知れない、ってことよ」
響「う……ううぅ~……。……と、とにかく!全力でぶつかって行けばいいんだな!」
春香「そ、そうだよ響ちゃん!怒らせるにしたって、全力で行けば応えてくれるよ!」
響「春香……!よ、よぉーっし!」パンパン
響「自分、行ってくるぞぉー!」
P「よし、頑張れ!頑張って怒らせてこい!」
P(……貴音が響相手に激怒する姿は、正直すごく見たい!単純に見てみたい!)
伊織「まぁ、貴音のことだから……いくら怒っても、あんたを嫌いになることなんてないと思うわよ」
伊織「でも……その安心感が伝わったら、貴音を怒らせることはできないわ」
伊織「今だけ……その一瞬だけ、貴音を『親友』だと思わないことね」
響「お、おう……」ゴクリ
美希(……ていうか、美希は誰を怒らせるの?不安すぎるの……)
律子「じゃ、響、いってらっしゃい」
―――
ガチャ
貴音「おや……響ではありませんか」
響「おっす貴音ぇー!今、楽屋でなにしてたんだ?」
貴音「今ですか?どらま撮影が終わりました故、しばしの小休止をしておりました」
響「へぇ~そうかぁ。……お邪魔してもいいかな?」
貴音「ええ、構いませんよ」
―――
律子「最初は普通に入って行きますか」
教授「響さんがどのテクニックを使うのか、気になる所ですねぇ」
―――
響「ドラマどうだったんだー?」
貴音「そうですね……やはり、芝居というものは奥が深い、と思わされます」
響「……ふーん…………」
貴音「自分が『役』を演じる。そして相手も同様に」
響「…………」ゴロゴr
貴音「その演じる『役』という膜を通して、わたくし自身を外へ外へと発散するような……」
貴音「……響?」
響「…………」ポケー
響「…………んあー?」
貴音「……失礼いたしました。わたくしが一人で勝手に興奮していたようですね」
貴音「わたくしの芝居に対する価値観を響に押し付けても、仕様の無いこと」
響「……あー、そうかー……」ボー
―――
教授「いいですねぇ、最初は『興味喪失』ですかぁ」
P「へぇ~、そんなテクニックもあるのかぁ」
・怒らせ方のテクニック
⑨興味喪失
自分から話を振っておいて、相手の話を全く聞く気が無い態度になること。
例:「先輩の親って金持ちなんですか!?」→「それが株で失敗しちゃってさぁ……」→「あっそふーん」
―――
響「……!」
響「なーなー、そう言えば貴音って、休みの日は何してるんだぁ?」
貴音「休み、ですか……舞台をよく見に行きますね」
響「へぇ~、舞台かぁ。……今度一緒に見に行ってみたいけど、どんなのが面白いかなぁ」
貴音「……そうですね。わたくしがよく見るのは伝統芸能などもありますが……」
響「…………」ボーッ
貴音「響も楽しめる舞台であれば……」
響「…………」ポケーッ
貴音「……響、どうしたのです?」
響「なにがー?」
貴音「……先ほどから、上の空ではありませんか」
響「えー?そんなことないぞー?」
貴音「……そうでしょうか?わたくしの知っている普段の響とは、明らかに違います」
響「だいじょーぶだいじょーぶ!なんくるないさぁー!」
ヒョイ
パクッ
貴音「!」
響「ほらっ、食欲だってあるぞ!貴音は心配しすぎなんだよぉ」
貴音「…………」
貴音「そ、そうですね……」
貴音(……)
貴音(わたくしがいつも楽しみにしている、楽屋への差し入れのお饅頭……)
響(…………知ってるさー、貴音がこの饅頭好きだったってことくらい。いつも一緒にいるんだもんな)
響(でも、だからこそ……それを利用させてもらうんだ!)
・怒らせ方のテクニック
⑩ラス一取り
主に食べ物において、最後の一個をわざと取る。相手の好物であるならなお良し
響「あ、そう言えばさ!……自分、昨日ロケ番組で京都に行ってきたんだぁ!」
貴音「ほう、それはそれは……京都は如何でしたか?」
響「すっごく綺麗だったなぁ!貴音が育った町って聞いて、なんか納得しちゃったぞ!」
貴音「ふ、ふふ……そうでしたか。……確かに京都はまこと、良き街ですからね」
響「ああ。綺麗な舞妓さんも多かったし、特徴的な喋り方で面白かったし……また行ってみたいな!」
貴音「ふふ、ではいずれ、わたくしと一緒に行ってみましょうか?」
響「ああ、それがええんやないどすか?」
貴音「…………」
貴音「ひ、響……いま、何と?」
響「……ん?貴音はん、どうかしたんどすえ~?」
貴音「…………」
・怒らせるテクニック
⑪~かぶれ
この場合は「京都かぶれ」。経験の浅さを露呈させつつ、感化された様子を周りに見せつけることで苛立ちを生み出す
響「京都ってほんまエエ街どしたやんすな~」
響「貴音はんもそう思いまっしゃろー?」
貴音「…………」
響「みんながみんな、こんな喋り方だったんで……」
響「喋り方も、うつってしもたわー」
響「にしてもアレやなぁ、やっぱ東京は空気が汚いでっしゃろなぁ」
響「神社も寺も少ないし……『おごそかさ』が足りんやっちゅーねんなぁ!」
貴音「…………」
―――
律子「うわぁ、コレはイラつくわ……」
美希「ひ、響が今までにない喋り方してるの……気持ち悪いの……」
伊織「あんな京都弁ない、っていうか、関西弁と混じってるけど……」
伊織「その『知ったか』っぷりが逆にウザさを倍増させてるわね」
―――
貴音「響、どういうつもりなのですか」
響「どういうって?」
貴音「……そのような出鱈目な方言、響の口から出るとはとても思えません」
貴音「なぜ、無理にそのような喋り方をするのです」
貴音「わたくしは、そのような無理をした響の姿は見たくありません」
響「…………」
―――
伊織「さすがにちょっとイラついてるわね」
律子「でも、まだまだですね」
教授「ええ……響さんも、それを見越して次の作戦に移ろうとしてますね」
―――
貴音「響……さっきから今度は急に黙って……どうしたのです?」
響「…………」
響「…………は?」
貴音「…………ひ、響…………?」
響「で?」
貴音「で、ですから……響が先ほどのように、無理に慣れない言葉で喋る理由がない、と……」
響「は?」
貴音「……ですから、響の様子がおかしいのでは、と思い……」
響「…………で?」
貴音「……響、どういうことなのですか」
―――
春香「こ、ここで『は・で理論』ですか……!」
律子「かなりダメージ来るんじゃないかしら」
・怒らせ方のテクニック
⑫「は・で」理論
全ての受け答えを「は?」と「で?」でのみ行う
これでイラつかない人は少ないはずの、チンピラ系テクニック
―――
貴音「響、何かあったのですか?」
貴音「……わたくしに相談できることなら、何でも
響「で?」
貴音「…………」
響「…………」
響「…………ちょっとトイレ」
ガチャ
バタン
貴音「……響…………」
―――
P「……さすがに居た堪れなくて、一旦外に出たか……」
美希「…………!」ハッ
美希「ち、違うの……!」
美希「響……ここで仕掛けに行ったの!」
貴音「……これは…………」
ヒョイ
貴音「『はむすたぁの餌』……今出ていくときに落としたのでしょうか」
貴音「…………」ハァ
貴音(……響はいったい、どうしたと言うのでしょう……)
貴音(話をしても心ここに有らず、それに急におかしな言葉遣いをしたり……)
貴音(…………)
ガチャ
響「ただいま……」
貴音「あ、響……!こ、この餌、はむ蔵のためのものではありませんか!?」
響「え…………なんでそれを……」
貴音「響が先ほど部屋を出る時に、落として行ってしまったよう
ガシッ
バッ
響「…………チッ」
貴音「ひ……びき……?」
響「……ハァ~、ハム蔵のエサ落とすなんてついてないさぁ」
響「ちゃんと汚れ落としとかないと」
シュッシュ
フキフキ
貴音「な……!」
響「…………」
響「もっと念入りに綺麗にしないと、ハム蔵がお腹壊しちゃうかもなぁ」
シュッシュ
フキフキ
響「…………」チラッ
貴音「…………」グッ
シュッシュ
フキフキ
貴音「……いい加減にして下さい響!」
―――
P「そりゃあいくら貴音でもアレは怒るだろー」
教授「……響さんも複合技を使ってきましたねぇ」
教授「『恩仇』と呼ばれるテクニックと、『潔癖』と呼ばれるテクニックの合わせ技です」
律子「あの組み合わせに嫌悪感を抱かない人はいませんものね~」
・怒らせ方のテクニック
⑬恩仇
文字通り、「恩を仇で返す」こと。
今回のパターンでは、貴音は落し物を拾ってあげただけなのに、響はそれをひったくるように取った
⑭潔癖
人から返してもらった自分のものを、異常すぎるほどに綺麗にしようとする
「自分は不潔だと思われてるのか」「そこまでしなくていいのではないか」という不信感、不愉快さを増大させる
―――
貴音「なぜわたくしに対して、そのような嫌がらせをするのですか!」
貴音「わたくしは響の落し物を拾っただけだというのに……そこまで過剰に清潔にせずとも良いでしょうに」
響「……は?」
貴音「……」ギリッ
貴音「響……今後の変わらぬ付き合いを望むが故……あえて言わせていただきます」
貴音「その様な……人を不愉快にさせるような言動の数々……」
貴音「即刻、改善された方がよろしかと思います」
響「……で?」
貴音「…………あくまで、そのつもりですか……!」
貴音「……ならば、わたくしの方からは何も言うことはありません……」
貴音「響、今すぐこの部屋から出て行ってください!……今日は、これ以上響と言い争う気はありません」
響「…………」
貴音「……正直、わたくしも今は少々我を忘れています」
貴音「響自身も、わたくしも……少し時間を置いて、互いを見つめなおす必要があるかと思います」
貴音「……さあ響。……出て行かないのなら、わたくしが出ていくまでです」
響「……わかったさぁ。今日はもう自分は帰るさぁ」
貴音「……そう、ですか。……わかりました」
響「……じゃあ……っな!」
ドゲシッ
ガッシャーン
貴音「ひ!?」
スタスタスタ……
ガチャ
バタン
貴音「な……!す、座っていた椅子を後ろに蹴飛ばして……」
貴音「……」
貴音「…………」プチン
ガチャ!
貴音「響!待つのです!」
響「……あ?」
バシーン!
響「ぐっ!」
貴音「…………ハァー……ハァー……」
響「……」ヒリヒリ
貴音「……許せません」
貴音「先ほどまでの無礼の数々もそうでしたが……物に当たるとはどういうことなのですか」
貴音「言いたいことがあるなら、わたくしにおっしゃってくれればいい」
貴音「不平不満と言うものは口に出しづらいかもしれませんが、お互いをよく知るためには必要なことなのです」
貴音「なのに何も言わず、揚句は無機物に当り散らすなどと……」
響「……で?」
貴音「……」ギリッ
バシーン!
響「……!」
貴音「響……あなたには失望致しました!」
貴音「私が信頼していた……仲間だと思っていた人間がこのような……」
貴音「ふ、ふふ……わたくしの眼が、節穴だったというだけのことですね……」
響「…………」
貴音「…………失礼いたします」
響「ちょっと待てよ貴音」
貴音「……もう、あなたと話すことは何も御座いません」
貴音「はっきりと申し上げるならば……顔も見たくありません」
響「……いいから見ろよ、貴音」
貴音「…………この期に及んで、何だと言うので
ギュッ
響「…………」
響「…………ごべん!!!!」
貴音「え!?い、いや……ど、どういうおつもりなのですか!」
響「ごべん!じ、自分が悪かったさぁ!!」
響「今までの、ぜんぶドッキリだったんだ!ぜんぶ、た、貴音に辛く当たったり……変な言い方したり……」
貴音「な……!?い、今更なんだと言うのです!ど……どっきり!?」
律子「はい、実はそうなんです」
貴音「!???り、律子嬢!?あなた様も!?」
P「いやー、熱が入り過ぎてて全然止められなかったよ~ごめんなぁ」
―――
貴音「わ、わたくしを本気で怒らせるどっきり……」
響「あっ、あ、あうぅ~ご、ごべんよぉ~たかねぇー」ギュゥゥ
貴音「な、るほど……確かに本気で響に対し怒り……そして……どっきりに、かかったと」
響「へ、下手な演技だと貴音には気づかれそうだから……本気で嫌われるように頑張ったんだよぉ……」
貴音「……そのような面妖なことを……本気で……」
貴音「そして……わたくしは見事にだまされた、と……」
貴音「……ふ、ふふふ……ふふ……」
響「たかね?」
貴音「……アイドルとして、女優として活動してきた中で……初めての感情かもしれません」
貴音「単純な『怒り』、まんまとしてやられた『悔しい』という気持ち」
貴音「そして何より……あぅ……ひ、響が……」
貴音「ひ、響が……あのような心無い人間ではなかったという『安心』が……」
響「た、たかねまで泣かないで欲しいさぁ」
貴音「……も、申し訳ありません……ですが……平手打ちをした時から……」
貴音「響に対する『失望』と同時に……もっとも信頼する仲間を失ったという『絶望』が……」
貴音「そ、それらが全て茶番だとわかり……嬉しい、のです……」
ギュウウ
響「た、貴音ぇ……苦しいよぉ……」
貴音「いえ……罰として、しばらくはこのままに致します……」
律子「……ドッキリの最中は無茶苦茶なのに……なんで毎回綺麗に締まるのかしら……」
教授「いえいえぇ、相手をよく知り、お互いの絆を深める……これも怒らせ上手な人ならではのドラマだと言えるでしょう」
教授「ちなみに、貴音さんがキレるキッカケとなった響さんの行動は、『八つ当たり』というものですね」
・怒らせ方のテクニック
⑮八つ当たり
物に当たる。叱られるなど、自分が不利な状況に立たされた直後に行うと効果的
特に説教後は、「反省の色が見えない」ように映るため、相手を非常に怒らせやすい
教授「これらのテクニックを使えば、このように絆を深めることも容易いのです」
P「さすが教授、貴音と響の良いシーンを、情緒も無く見事にぶち壊しますね」
教授「ははははは、あまり褒めないで頂きたいですねぇ」
律子「あ、もう放送終了時間が来てしまいました」
律子「披露できなかった伊織と美希は、来週の放送をお楽しみに♪」
伊織「結局やるのね……」
美希「油断してたの……」
律子「それではまた来週。さようなら~」
とりあえずおわり
あかん、楽しすぎた。見てくれてありがとう~
何人かがレスしていたように
『人の怒らせ方』
というDVDシリーズとのクロス作品でした。
グループ自体がすごく好きなわけではないんですが(嫌いではない)、
「有吉AKB共和国」という深夜番組で同様の企画があり、
その放送があまりにも面白すぎたので、そこから拝借しました。
その番組でしか存在を知らなかったものの、
某ニコニコでも結構なコミュニティーになってたりして、そこから怒らせ方のアイデアももらいました
伊織と美希もちゃんと考えてるけど、まさか春香と響やるだけでこんなに長くなるとは思ってなかったです
怒らせパターンも3、4個のつもりだったのに……
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