十神「俺が導いてやる」舞園「……」 (386)


注意事項

・シリアス物になる予定です。
・十神くんは太ってないです。
・ダンガンロンパ1と2のネタバレあります。
・特定のキャラが崩壊、もしくは真っ黒だったりするので注意。
・何かしら地雷がある人は注意。
・更新亀




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石丸「なぜだ……なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ……何故なのだ!!!」


石丸「何故皆、日に日に消えていく!?何故姿を見せなくなるのだ!?何故だ、何故だ、何故なのた!!」

十神「落ち着け、石丸。みんなきっと脱出できたのだろう」


石丸「そうは言うが、では何故みんなは僕達を助けに来ないのだ!?」

十神「何か事情があるのだろう」


石丸「それに、みんなが脱出できたと何故言い切ることができるのだ!?」

十神「この学園内には、俺とお前しかいなくなった。ならばそう判断するしかあるまい」


石丸「連れ去られたのかもしれないだろう!?いや、あるいは全員個室で、死、んで……」

十神「あり得ん」


石丸「だから、何故そう言い切れるのだね!?皆の部屋の鍵があかない、かつ皆の姿が見えない!ならば、あり得ることだろう!!」

十神「皆、自室で鍵をかけて自殺したとでもいうのか?食料は何故かどこかから補充され、プールに娯楽室、弓道場に植物庭園もあるこの状況でか?」


石丸「だが、密閉された空間というのは、それだけで、どうにかなってしまいそうだ……」

十神「それに、あんな濃いメンツが、自ら命を絶つなどという選択をすると思うのか?」


石丸「……だ、だが!」

十神「取り乱すな、大丈夫だ。俺がついている。絶対に脱出できる」


石丸「……十神、くん」


石丸「ありがとう。ハハッ……きっと君の言うとおりなのだろう。君がいてくれて本当によかった。でなければ、僕はとっくにおかしくなっていたよ」

十神「フン、そうだろう。俺は完璧だからな」


石丸「ふふっ、君はいついかなる時も論理的であり、恐怖に屈しないのだな。ありがとう、十神くん」

石丸「君は……君だけは、どうかいなくならないでくれたまえ」


十神「居なくなりはしないさ、俺は。何故なら」

十神「俺は完璧、だからな」



石丸は十神の手元を見ていた。


キョトン、という効果音が背景に出てきそうな間抜けな顔をしている。





石丸「え」


十神の手元には包丁、そしてそれは石丸の左胸に深く突き刺さっていた。


石丸……やはり、奴を最後に残したのは正解だったな。

愚直に信じることしかできない阿呆だ。

あの状況でほんの欠片も俺を疑うことをしなかった。

何とでも言いくるめることができる。





苗木「あ、あの、こんにちは……」

十神「……」


苗木「初めまして。今日からこの学園に入学する者なんですけど、なんだか人が見当たらなくて……」

十神「俺も今日から入学する、十神白夜だ」


苗木「あ、そうなんだ!僕は苗木誠だよ。よろしくね!」

苗木「よかったら、体育館まで一緒に行かない?」


十神「あぁ」


体育館まで苗木と歩く。

その道中、誰ともすれ違うことはなく、苗木は違和感を加速させているようだった。


苗木「体育館には、きっと誰かいるよね」

十神「あぁ、そうだな」


そして俺は、苗木を後ろに体育館の少し重い扉を開けた。





石丸「君達!遅刻とはけしからんじゃないか!!」

苗木「は、はい……」



俺は辟易していた。

これは一体、何度目のやりとりだろう。


殺しても、殺しても、殺しても、殺しても、何度殺しても、まるでゾンビのように蘇る。

そう、この14人、全員がだ。


江ノ島「あ、あれ?」

朝日奈「ん?どうかしたの、江ノ島ちゃん」


江ノ島「い、いやぁ……始業式をやるっていうから体育館に来たのに、何も始まんないじゃん?」

石丸「う、うむ!確かにそうだが……少し予定が遅れているのだろうな!」




大和田「はぁー、やってらんねぇ。俺は帰るぜ」

十神「帰る?どこにだ?」


大和田「は?んなもん家に決まってんだろ」

十神「玄関ホールは閉じられていた。窓にも鉄板が打ち込んである。どうやってここから出るつもりだ」


この台詞をここで言わないと、面倒なことになるというのは経験則的に知っていた。

もし言わなければ、後に集団パニックに陥り、まとめるのに時間がかかる。


桑田「はぁ!?どういうことだよ!?」

十神「俺達はどうやら、この学園に閉じ込められたらしい、ということだ」


セレス「やけに落ち着いていますわね」

十神「フン、俺を誰だと思っている」


葉隠「え、マジな話なんか!?ど、どどどどーすんだべ!?」







十神「心配するな、俺が導いてやる」


舞園「……」


本日の投下は以上です。
書き溜めないので、本当にトロくなると思いますが、よろしくお願いします。



本日の投下は以上だと言ったが、あれは嘘だ!!
今からまたチミチミ更新したいと思います。
期待レスくれた人ありがとうございます。



腐川の部屋へ入ることは難しくない。

何しろ、腐川から部屋へ入るように誘導されるのだ。


しかも、誰にも内緒で来てくれという。

こんなに好都合なことはない。



そう、変質者のような薄気味悪い笑みを浮かべるこの女は、一番最初に殺さなければならない。

しかし、その笑みも刃物をちらつかせてやればすぐに恐怖の色へと変わるのだった。






腐川「うあ、わあぁあぁぁあああああああああ!!!」

十神「うるさい」



毎度のことだが、こいつの悲鳴は耳に響く。

とてつもなく不快だ。



腐川「やめて、やめてやめてぇぇええええ!!やめなさいよ、この人殺しィィ!!」

十神「ハッ、お前がそれを言える立場か?殺人鬼」



腐川「へっ、えっ、なんで、知って、嫌、来ないでぇぇ……助けてぇええええ!!」

十神「馬鹿が。個室は完全防音だ」



本当に馬鹿な女だ。



さっくりと包丁を体に入れていく。

確実なものにするために、3度程急所を狙って刺す。


貧相な身体は刃物に抵抗する術はなく、随分とあっさり死ぬものだ。



腐川「……ぁ」


ゴプリ、と気色の悪い音を立てて目の前の女は赤黒い液体を吐き出した。

途端、そいつは命のない無機物となり、そこへ倒れこむ。




十神「……この、殺人鬼が」


あとは、返り血を浴びたビニールジャケットを脱ぎ捨て、外からこの部屋に鍵をかけるだけだ。


そうすれば、誰にも腐川の行方を知られることはない。


個室は臭いもシャットダウンしてくれるようで、腐乱臭により死体が発覚することもない。




あとは、残りを面倒な順番に殺していけばいい。



だが、いつも若干とはいえ14人の行動に差異が生じるのは何故なのだろう。

俺が全く同じ言動をとっても、少しずつ何処かが違ってしまう。



ふむ……やはり俺は記憶があるぶん、全く同じ言動をとっているつもりでも、やや違ったものになってしまっているのだろうか。


まぁいい。


俺の勝ちが運命づけられているということには差異など生じようもないのだからな。







苗木「十神くん!こんなところで何してるの?」



十神「……あぁ、腐川に呼び出されてな。チャイムを鳴らしているのだが、一向に出る気配がない」


血で生暖かい包丁と腐川の部屋の冷たい鍵の感触を、胸の内ポケットに感じながらも応対し、チャイムを押してみせた。


ここで苗木に会うのも、今回が初めてだった。

面倒なところに差異が出たものだ。



苗木「えっ、どうしたんだろうね、腐川さん。留守なのかな」


十神「フン、俺を呼び出しておいて」


苗木「うーん、腐川さんが十神くんを誘ったことを忘れるとは思えないけど……」


十神「……出ないのだからそういうことだろうが」


苗木「まぁ、そうなんだけどさぁ」



俺はやや憤慨した素振りでその場を離れる。



早いところ、胸の内ポケットの包丁と鍵を片付けたい。

あの狂った殺人鬼の感触を、一刻も早く取り除きたかった。



舞園『いいですか、苗木くん。人のいない深夜なんかに、廊下を徘徊してはいけませんよ』

舞園『個室に誰かを連れ込むのも、禁止です』



初日のあれは一体どういう意味なのだろう。

それだけ聞けば、母親の小言のように感じる言葉も、あの剣幕の前では違うもののように思えた。



舞園『絶対に、ですよ。約束してください』

苗木『う、うん……分かったよ』



この学園に、僕達が何故閉じ込められているのかは、全く分からない。



始業式の日、石丸くんは夜中まで体育館で式典を待ち続けていたらしいのだが、結局何も起こらなかったという。


だけど、食料は大量にあり、図書室やガチャガチャなんかも娯楽として用意されていて、学内に不自由はないみたいだ。



みんなで手分けして学内を探索したときは、逃げ場がないということしか分からず、場が混乱しかけた。



しかし、十神くんだけは違った。

俺が絶対に外へ出してやる、とみんなの前で言いきったのだ。


力強い演説は、それだけで頼もしかった。



状況が全く掴めず、縋るものがない僕達にとっては十神くんのリーダーシップは精神安定剤となるには充分すぎる。




みんなの気持ちに余裕が出てきた頃には、長い年月をかけて閉じ込められようとも、この学園内であれば適応できる、という意見さえ出てきた。

確かにそうだ。


一番の不安だった、食料の腐敗問題も、最近ではいつの間にか新鮮なものに入れ替わっているということが判明したために解決した。



舞園「苗木くん、個室に誰かを連れ込むのは禁止だと、あれほど口を酸っぱくして言いましたよね?」


苗木「え、うん、だけど、僕の部屋におしかけてきたのも舞園さんじゃないか」


舞園「相手が私でも、ですよ!全く、油断しないでください!」

苗木「えぇぇ……」


理不尽だ、と思った。



しかし、『油断』とは何の話なのだろうか。

彼女の口調にはいつも鬼気迫るものがあるが、この学園について何かを知っているのだろうか。



舞園「苗木くん、あなただけには話しておこうと思います」


苗木「な、何を?」



舞園「これまで、私だけで頑張ってきました。でも無理でした」


苗木「どうしたの?悩みなら聞くよ」





舞園「苗木くん……どうか、私の話を信じてください」










舞園「私達は、この学園で何度も死んでいるんですよ」



苗木「……えっ?」


舞園「信じられないかもしれません。ですが、真実です」



その言葉通り、本当に信じられない。


むしろこの場合は、信じる信じない以前に舞園さんの心配をした方がよさそうだった。



苗木「舞園さん、疲れているんだね。大丈夫、僕は君の味方だから……」


舞園「……本当なんです」


苗木「えっと……色々突っ込みたいけど、まさか舞園さんなりの冗談ってわけじゃないよね」

舞園「違いますよ!!」



そう、舞園さんはこんなブラックジョークじみたつまらないことを言うような人じゃない。

つまり、真剣に言っているのだ。



それが分かるだけに、僕の心配はより一層膨らんでいく。



苗木「舞園さん、えっとね。思い出してほしいんだ」

舞園「それはこっちのセリフです」


苗木「あのね、君は知ってるはずだよね。人間は生き返ったりしないんだ」


舞園「……」



苗木「つまりね、何度も死ぬなんてこと、起こる訳がないよね?」


舞園「あくまでも、信じないんですね」


苗木「……えっとね、舞園さん、落ち着いて」



舞園「私は落ち着いています。人が生き返らないことも知っています」

舞園「でも、本当なんです」


苗木「……」



舞園「それじゃあ、証明にはなりませんけど、これからのことを私が少し予見します」

舞園「私には繰り返している記憶があるので、それの共通項を見つけてこれからのことを予見することができるんです」


苗木「……」




心配を通り越して、ここまで来ると見ていられなかった。

舞園さんは本来、こんな痛々しい人じゃない。


みんなの憧れで、高嶺の花で、誰にでも優しいアイドルだ。


閉じ込められたという事実が、こんなになるまでに彼女を追い詰め、苦しめていたのだろうか。



正直、どういう対応をすればいいのか分からなかった。



舞園「これから、日に日に人が消えていきます。でも、絶対に十神くんだけは消えません」


苗木「……舞園さん」



舞園「最初に消えるのは必ず腐川さんです。次はセレスさんか霧切さんで……」


苗木「舞園さん!!もうやめてよ!!嘘でもそんな話、聞きたくないよ!!」



舞園「でも、でも本当なんです!!」

苗木「もうやめてったら!!こんなの舞園さんじゃないよ!!」



舞園「……」





舞園「……分かりました。これ以上はやめておきます」


舞園「でももし、私の言ったとおりになったとしたら、私のことを信じてください」


舞園さんは少し悲しそうに少し僕を見つめて、部屋を後にした。



石丸「むっ……腐川くんは今日も遅刻か」

舞園「……」



セレス「ふわぁぁ。わたくし、朝には弱いですし、この朝食会というものに意義が見出せないのですが」

石丸「いいや、共同生活をする身として、親睦を深めるべきだ!」


桑田「全く、面倒だぜ」

石丸「……もう我慢ならない!!呼んでくるから、君たちはここで待機しておきたまえ!!」



腐川なら、もうこの世にはいない。

それを知っているのは俺だけであり、露呈することもあり得ない。


こうして朝食会に腐川が来ないことによって、奴の消息が絶たれた状態が発覚するのはいつものことだ。


だが、今回は苗木の様子がおかしい。


苗木「……はは、寝坊かな、腐川さん」

霧切「彼女、集団行動は苦手のようだしね」


苗木「う、うん。そうだよね」



いつもなら、「僕も行くよ」などと言い、石丸を追いかけていくはずだ。


しかし、今回は何やら青い顔をしている。

体調が優れないのだろうか。


そういえば、苗木は昨日から差異が目立つ。

今回は早めに始末するべきだな。







石丸「みんな、聞いてくれ!腐川くんが出てこないんだ!!」



葉隠「んー、まだ寝てるんじゃねーのか?」

朝日奈「うん、そうだよねぇ」


石丸「いや、しかしいつもはもう腐川くんも朝食会に来ている時間なのだぞ?」


山田「ですが、部屋から出てこないのであれば、寝ていると考えるのが普通ですぞ」



霧切「いいえ、部屋で倒れている、とも考えられるわ。もしくは、ドアを開ける気力すらない、とか」


石丸「な、なんと!!」


苗木「い、石丸くん!部屋の鍵は?空いてた?」

石丸「い、いや、確かめていないが……」



苗木「大神さん!」

大神「うむ、我に任せよ」



全員で腐川の部屋へと向かったが、結論として、ドアは開かなかった。


当然だ、それは毎回大神が試し、そして毎回同じ結果なのだ。

それにしても、大神ほどの化け物が破壊出来ないとなると、この学園はどれほどの予算をかけて作られているのだろうか。



江ノ島「……どうすんのよ。大神が開けれないんじゃ、何したって開かないっしょ」

十神「落ち着け。どうして腐川がこの部屋の中にいると言い切れる?」


大和田「は?そりゃ……朝食会に来てねーからだろうがよ」

十神「いや、それだけでは根拠にならない」


セレス「どういうことですの?」


十神「俺は昨日、腐川に呼び出された。部屋に来るように、とな。しかし、いくらチャイムを鳴らしても腐川は出なかった」

十神「そうだよな、苗木?」


苗木「う、うん……。昨日、十神くんが、腐川さんの部屋の前に立ってるのを、見かけて……チャイムを鳴らしても、確かに出なかったよ」

十神「そのとき、お前は何と言った?」



苗木「『留守なのかな』って、言ったよね、確か」



霧切「……なるほど。そのときから腐川さんの部屋は応答がなかったのね」


セレス「そして腐川さんがずっと部屋を留守にしている可能性もある、ということですわね」




まさか部屋で倒れているどころか、殺されているとは夢にも思わないだろう。


最初は混乱を免れないが、始末する順番を間違えなければいいだけだ。


霧切とセレスは早めに終わらせたい。

今回は差異が激しい苗木もだ。


舞園「……」

苗木「……みんなで手分けして探そう、腐川さんを」



次は誰をどんな方法で殺るべきか。

俺は慣れた展開に、二階へと足を運びながらも、既に意識はそのことだけに集中していた。





もし見てくれてる人がいたらありがとうございます。
今日はもう寝ます。
こんな45450721なSSでごめんねぇ……


今から更新します!
もう12月に突入するだなんて僕信じたくなくてSSで現実逃避するんだぁ!



苗木誠、僕は憔悴していた。


数日前、舞園さんの予見した通りになっている現状にだ。


あり得ない。

あり得ない、けれど。

予見の翌日には腐川さんが消え、そして今日には霧切さんが消えた。


この現状を偶然として処理できるか、否、僕にはできない。




舞園「分かってくれましたか?」

苗木「……」


舞園「それと、個室に誰かを連れ込むのは禁止だって、私言いましたよね?」

苗木「……でも押しかけてきたのも舞園さんじゃないか」


舞園「……相手が私でも、ですよ」





苗木「分かったよ。舞園さんの話を信じるか信じないかは置いといて、もっと詳しく聞く気にはなった」


舞園「えぇ、今はそれで充分です」



舞園さんの話を要約すると、こうだ。


腐川さんと霧切さんは消えたのではなく、その鍵をかけられた個室で同一犯により殺されている。

この現象はこれからも続き、おそらく次に殺されるのはセレスさんか僕である。


これは犯人以外の全員が死ぬまで続き、その殺人犯とは、皆のリーダーに君臨している十神白夜くんである……。




舞園「だって私は自室で彼に何度も殺されています」

舞園「最後の一人になったこともありました」



苗木「殺されるって分かってたら、防げそうなものだけど……」


舞園「いいえ、彼は策士なんです。それに、私が記憶を引き継いでいると知られるのも危険すぎます。派手なことはできませんでした」




苗木「……あのさ、これはあり得ない可能性だって分かっているんだけどね、客観的に話を聞いていると、普通はこう思うよ」

苗木「舞園さんが、神隠しの犯人なんじゃないかって……」


舞園「……」



それもそうだ、というような顔をして舞園さんはうつむいた。


僕は少し罪悪感を感じたが、しかしやはりそう思ってしまうのが自然なのだ。


自分達は何度も死んでいる、などと騒ぎたて、そして予見した通りの神隠しが起こる。

舞園さんには悪いけれど、普通に考えれば、これは精神異常者の予告殺人事件だ。



しかし、そう思われることを失念していたとばかりに、顔を歪めている舞園さんはとても殺人鬼には見えない。


むしろその表情に、存在が儚く消えてしまいそうな印象の憂いと疲れ、焦燥を孕んでいて、まるで本当にこれから死に行くような……。



苗木「でも、やっぱり僕には舞園さんがそんなことするなんて思えないよ」

舞園「苗木くん……」


苗木「つまりは、この学園は生き残りが一人になるとリセットされるってことなんだよね?」

舞園「……私はそう考えています。そして、記憶を引き継げるのは、その生き残った一人。いつも十神くんのようですが」


苗木「そして何故か舞園さんも、というわけだね」



……聞けば聞くほど怪しい話だ、というのが正直な感想であった。


しかし、彼女はそれが真実であると主張することしかせず、眉をひそめて奥歯を噛み締めた。


聞けば、十神くんは舞園さんの何枚も上手であるらしい。

物理的な力も、知識も、頭脳も。



更に、舞園さんには『記憶を引き継いでいると知られてはならない』というハンデすらあった。


殺されるという恐怖に耐えきれず、自害してしまおうと考えたこともあったらしいが、そのハンデのせいでそれすらも彼女には許されなかったという。


一層の事、本当に精神を患ってしまったほうが楽だったのかもしれない。


一人で戦うのはもう、限界だったという舞園さんが、嘘をついているとはどうしても思えなかった。



……しかし、僕にとっては十神くんを疑うこともまた難しい。



舞園「苗木くん、私に作戦があるんです」



だから、卑怯だということを分かった上で、彼女はそれを持ちかけたのだろうと思う。


しかしそれは、長い月日の中、本当に精神がイかれてしまいそうな中、彼女が必死に練った策らしかった。



しかし、僕はそれを受け入れることができない。

しかし、それしか方法がないという。

しかし、そんなこと倫理的に許されない。

しかし、舞園さんを放っておけない。




舞園「お願いします、苗木くん」


苗木「……」


それを僕は、やっぱり到底受け入れることなどできず、だからといって、涙で綺麗な顔をくしゃくしゃにした舞園に、辛い言葉をかけることもできずにいた。



石丸「腐川くん、霧切くんに続いて、今日はセレスくんまでもが……」



大和田「クソッタレ!!なんだってんだよ!!どこに消えたっつーんだ!!」

不二咲「うぅ……うっ…うっ……」



朝日奈「さくらちゃん、あたし怖いよぉ……」

大神「泣くな、朝日奈よ。消えた奴らもきっと無事である……と信じる他ない」


苗木「そ、そうだよ。実は一足先に脱出しちゃったのかも……」

桑田「えっ、まじで?」


舞園「え、ええ、きっとそうですよ!」



思わず、にやけそうになるのを堪えた。


今回、苗木の差異が大きかったために多少の不安はあったが、この台詞は苗木が言うべきものであった。

リーダー格に収まっているとはいえ、俺があまりにも誘導しすぎるのは危険だからだ。



十神「既に脱出している、か。面白い意見だ」


故に、俺はこの意見に賛同するだけに留めるのが得策なのだ。



葉隠「ちょっと待った!もしそうだとして、なんで俺たちを助けに来てくれねーんだよ!」


苗木「きっと何か事情があるんだよ!中から外には出られるけど、外から中に入ることはできない、とか……」


桑田「んなことしなくても、警察に言えば早いだろ!」


十神「いや、警察も介入できない可能性が大きい。そもそも、俺たちが閉じ込められ、これだけの日数が経っているのに助けがこない時点で、警察に期待はできん」


不二咲「僕達を閉じ込めた組織は、凄く大きな権力を持ってるっていうこと、だよね」


石丸「なるほど……」



この場に霧切やセレスがいれば、すぐさま反論されてしまうような、現実逃避ともいえる考えだ。



だが、この場には甘っちょろい奴らしか残っていない。

他愛ないし、無様で滑稽だ。


そう、何度繰り返そうとも、勝つのは俺一人。





それは確信であり、不変の真実である。



それからは、大和田、桑田、大神、朝日奈、山田、江ノ島、葉隠と、順に消していった。


ここら辺の順番は、さして重要ではなかったが、暴れると厄介な奴らを消していくのがミソだ。


江ノ島なんかは意外にも鍛えているようで、肉弾戦に持ち込むのは危険極まりない。

しかし、如何せん頭が悪く、いつも簡単に死んでいくので楽といえば楽であった。



そう、愚民を掌握している俺を疑う者などおらず、部屋に入るのも、毒を飲ませるのも、刺し殺すのさえ、いとも簡単なのだ。


……だが、ここにきて誤算も生じてしまっていた。




苗木「……人、また減っちゃったよね」

石丸「……苗木くん、元気を出したまえ」


不二咲「そうだよぉ!みんな脱出してるはずって、苗木くんが言ったんだよ?」

舞園「そうですよ、苗木くん!」


苗木「うん……」



本来、苗木は安全な人間だ。

考えは甘く、お人好しで、力も弱い。


だからいつも後回しにしていたのだが、今回は差異が酷いため、何をしでかすか分かったものではない。

もっと初期に消すべきだった。



……しかし、なかなか苗木に近づくのが難しい、というのも事実であった。

なぜなら




苗木「でも僕、やっぱり怖いよ……怖いよぉ、さやかちゃん……」

舞園「よしよし」



苗木は今までに類をみないほどに精神を病んでいるらしく、その様子はほとんど幼児退行と言っても差し支えないほどであった。



故に、舞園がいつも側についている。


それだけならまだしも、苗木が部屋へ戻るのを見計らい、チャイムを鳴らしたとして、100%返事はないし、苗木が部屋から出てくるのは決まって昼間だ。

しかも不規則に。


朝食会への参加さえ、舞園が迎えに行っているようで、とにかく隙がない。


苗木の部屋の前で待ち伏せするのもあからさまに怪しいし、となれば自然と苗木を後回しにするしかなかったのだ。




仕方が無い、石丸の阿呆は最後までとっておくとして、不二咲と舞園を先に殺すとしよう。



苗木のボディーガードを消す、という意味では舞園を先に殺したほうがよさそうだが、如何せん不二咲は精神が弱い。

塞ぎ込んで、部屋に閉じこもりでもしたら面倒だ。



舞園は意外にも残すことに適している人材だ。


決して暴れず、錯乱することもなく、力が弱く、頭は悪くないが良いわけでもない。



となれば、不二咲を先に消し、次に舞園と苗木を消していくことにしよう。



不二咲「どう、して」


それが不二咲の最期の言葉である。

いつもそうだ。


こいつは殺す都度、恐怖というよりも疑問と悲哀を訴えてくる。


どうして、などと馬鹿馬鹿しい。

愚問にもほどがある。



ソレは腹に刺した包丁を引き抜けば、ドサリと崩れ落ちた。



血濡れているビニールジャケットを脱ぎ捨てながら、この単純作業にもかなり飽きてきた、ということを自覚していた。

なんとかこいつらの生き返りを止められないものだろうか。



まぁそんなこと、俺にとってはどうでもいいか、と結論づけて、不二咲の部屋の鍵を探す。



十神「……?」


こいつは押入れの上の引き出しにいつも鍵を入れていたが、今回はそこにはなかった。


押入れを全てひっくり返すが見当たらない。



ここで俺は、初めて軽く焦りを感じた。

長くこの部屋にいるのは危険だ。


かといって、鍵をかけずに出ていき、死体を露呈させるのもまずい。




十神「いや、問題ない」


もし、死体が露呈したとしても、残りは三人、しかもそのうち一人は女で、もう一人は幼児退行している。


パニックに陥っても簡単に殺せるだろう。


だから、ゆっくり鍵を探せばいい。

もし見つからなければそれでいい。




そうだ、もしかすると、死体が着ている服に入っているのかもしれない。



十神「……クソッ」


スカートのポケットをまさぐるが、そこにはハンカチとポケットティッシュしか入っていなかった。

ブラウスのポケットに入っているのかもしれないが、死体に触るのは趣味じゃない。

そこは後回しにしよう。




十神「……」


グルリ、と部屋を見渡す。

収納の少ないこの部屋で、鍵を隠せるだけの場所はそう多くないはずだ。



ふと思い立ち、部屋の隅にあるゴミ箱を覗く。



十神「……何故こんなところに」


そこに、不二咲千尋の個室の鍵を見つけた。



ここには長く居すぎた。

今は深夜と呼ぶべき時間であり、そう誰かが訪れることもないとは思うが念には念だ。

早々に退散しなくては。


素早く、しかしなるべく音を立てないようにしながら、その穴に鍵を差し込み、回す。



十神「……!」

回す……ことができなかった。


一度鍵を引き抜き、その金属をじっくりと眺める。

心なしか曲がっている、ような気がする。



十神「……」

つまり、この鍵は壊れているのだ。

ゴミ箱へ捨てられていたこともこれで納得できる。


どうする、このまま死体が露呈する前に全員殺っておくか?



いや、死体が露呈したとしても、それほど厄介な事態にはならないだろう。


同じ展開の繰り返しに、少し飽きてきたところであったし、何しろ俺は完璧な人間なのだ。

どんな展開にでも対応できてこそ、超高校級だ。


十神「フン、面白いじゃないか」



明日には何が待っているのか。

その答えは決まっている。

俺の勝利。

それだけは絶対に変わることがない、という確信があった。



短いですが、とりあえずここまでです。
乙くれた方達ありがとうございます。
分かりにくいとことかあったら是非指摘してください!


十神が優秀なのはわかってるはずなんだが、他のかませなss見てるせいか十神が霧切さんとか殺せる気がしないわww


機械音痴で情弱な1です、どうも。
Safariから書き込むのが難しくて凹みました。

文章読み返したけど読みにくいし分かりにくいですね、ごめんなさい。


>>54
初期は悪役っぽかったのに、仲間になったらかませかませと言われる日々のかませくんをどうにかしようと思ったらこんなスレを立ててしまった……反省はしている。



こんにちは。
少ないですが、更新します。


舞園「……今日は、不二咲さんが……」

十神「来ていないな」



石丸「……今更、こんなことを言うのは、遅いのかもしれないが、僕達はもっと固まって過ごすべきだったのかもしれない」

舞園「と、いうと?」


石丸「皆が消える正確なタイミングは分からない。だが、それが発覚するのはいつも朝食会のときだ」

苗木「……」


石丸「個室に戻らず、団体で行動していれば……このような事態は防げたかもしれない」

石丸「少なくとも、消えるタイミングは分かったのではないか?」



十神「どうだろうな。俺はそれが得策だとは思わんが」

石丸「どういう意味だね?」


十神「まず、プライバシーがなくなる。いくら団体行動が好きな人間でも、個人の時間は必ず必要なものだ」

十神「しかも俺たちは、舞園と苗木の例外もあるが、皆初対面だ。余計にストレスが溜まる」



十神「密閉空間を強いられていることに加え、団体行動でのストレス……集団パニックが起こりかねん」


団体で行動する、なんていう策をとられてしまえば、俺が動きにくくなることこの上ない。

故に、ここはきっぱりと否定するべき場面である。


しかし何も慌てることはない。

このやり取りも、もう一語一句暗記してしまうほどの数をこなしているのだから。



石丸「むっ……そう、か……だが…」


舞園「とりあえず、今は一応、不二咲さんの部屋へ行ってみませんか?」

石丸「あぁ……そうだな」



さて、ここではどの様な言動をするのが得策なのだろうか。


これから不二咲の部屋へ行き、死体が発見されれば、消えたとされている者たちの死はほぼ確実とされてしまうだろう。

パニックが起こることは必然だ。


しかし、最悪その場全員始末してしまえばいい。

どうとでもなるだろう。



苗木「さやかちゃん、この部屋、空いてるよ?」


石丸「な、なんと!!無事か不二咲くん!!」


石丸が、我先にと不二咲の部屋へ入る。

次に苗木と舞園が、そして最後に俺が……。




十神「……どういうことだ」

苗木「誰もいないね」

石丸「だが……部屋が荒らされている」

舞園「……一応、学園内を探しましょう」



その部屋には何故か不二咲の死体はなかった。


何故、死体が消えている?

この中の誰かが持ち出したのか?

何のために?

あり得ない。


まさか部外者が……?

そうだ、部外者ならいるではないか。

食料をいつの間にか運んでくる、謎の人物。

そいつが死体を片付けたのか?

いや、それこそ何のために……。



そういえば、14人の最後の一人を殺した後は、いつもすぐ苗木と鉢合わせ、その足で体育館へ行き、そしてそこには既に全員が生き返っていた。

数分前に死体と化したはずの最後の一人も例外ではない。


もしかしたら、この学園においては死体は消えるものなのかもしれない。

そうでなければ説明がつかない。

殺した後はいつも鍵をかけて放置していたから気がつかなかったのか。


しかし、人が蘇るだけでも摩訶不思議であるのに、死体になると消失してしまうのか。

この学園の仕組みが、人間の理解の範疇を超えていることは明白であった。


いや、しかしそんなことは、この俺にとってはどうでもいいことなのだから、考えるだけ無駄というものだろう。

とりあえず、パニックになることは免れた。



本来の予定通り、次は舞園だ。


舞園「お願いします……十神くん、やめてください」

十神「くだらんな」

舞園「十神くん……十神くんは、本当はこんな人間じゃないはずです」

十神「……死ね」


愚民の分際でこの俺の性質を言及するとは、こざかしい。

叫び泣く舞園を押さえつけ包丁で滅多刺す。




舞園「……ごめ、なさい」

十神「……」


こいつはいつも、死ぬ瞬間に何故か謝罪を口にする。

命乞いのつもりなのだろうか。

何にせよ、不愉快極まりない。


さて、舞園が消えたと知れる前に苗木を始末しておきたい。

今となっては、苗木にとって舞園はほとんど保護者のようなものになっていた。

舞園がいなくなったとなると、苗木が取り乱す可能性が非常に高い。


一応、苗木の個室のチャイムを鳴らしてみる。

やはり、例によって返事はない。

次になんとなく、ドアノブに手をかけてみた。


十神「……フン」

かちゃり、という音がした。

俺は運さえ味方につけているようであった。

苗木の部屋の鍵はあいていたのだ。



十神「苗木、入るぞ」

今更、断りなど入れても全くの無意味だが、俺は野蛮人ではない。

あくまでも御曹司という肩書きを担ぐ、文化人なのだ。


しかし苗木の返事はない。


十神「おい苗木。この俺を無視するとはいい度胸……だ、な」



後ろ手に扉を締めながら、思わず息を飲んだ。

十神「どう、いう……」




端的に言えば、苗木誠は死んでいた。


苗木の特徴ともいえる、ヘンテコなパーカー。


それはフードにまでファスナーがあり、すっぽりと頭を隠せるデザインになっている。

それにより、死体の頭部は隠されていたが、その下には酷い顔があることは明白であり、ファスナーを開ける気にはならなかった。


ソレはピクリとも動かず、一目で死体と分かるほど無機質に見える。


死体の腕は包丁を握っており、その刃は腹部に食い込んでいる。

その下には、固まりかけた血溜まりができていた。



どう見ても自殺だ。


十神「……気味の悪い」


精神的にいかれてしまったとは思っていたが、その末路、成れの果てを見てしまったことは、気分を害するには充分な要素であった。


こんな無様で汚いもの、本来俺が目にするべきものではない。

近寄る気にもなれなかった。



十神「……まぁいい。後は石丸だけだ」


一応苗木の部屋にも鍵をかけ、俺は疲れを取るために自室へと足を動かした。

明日終わるせよう、と溜息をつきながら。


石丸「なぜだ……なぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだ……何故なのだ!!!」


石丸「何故皆、日に日に消えていく!?何故姿を見せなくなるのだ!?何故だ、何故だ、何故なのだ!!」


十神「はぁ……」


こうも前回と同じ反応をされると、まともに返事をするのが億劫になってくる。

もういい、さっくりと殺ってしまおう。


石丸「十神くん!!なんとか言いたまえ!!何故僕たちだけ残ってしまったのだ!!」


十神「耳障りだ。黙って死ね」

石丸「は……?」

イザナミだ


ブスリ。


石丸の、筋肉に阻まれている心臓を目掛け、包丁を一気に入れ込む。


途端、石丸の顔は信じられないものを見るようなものへと変貌する。




石丸「……」


十神「フン、馬鹿が」


ザシュッ、と乱暴に包丁を引き抜くと、そこからは鮮血がとくとくと流れるのが見てとれた。





さて、14人目をまたもや無事に始末することができたが、次は一体、通算何度目となるのだろうか。


いや、何度目となろうが俺のやることに代わりはないのだが。

ふむ、しかし娯楽程度にこの謎に包まれた学園について調査してみるのもいいかもしれんな。



体育館までの廊下を歩きつつ、そんなことを考えていたとき、ふと違和感に気付いた。


十神「………?」


苗木が話しかけてこないのだ。


いつもなら、「はじめまして」と俺の前にとっくに現れている頃なのである。




十神「……」


疑問を感じつつも体育館へ歩く。


毎回の14人の行動には、少しずつ差があったが、それは俺が記憶を有しているからだと思っていた。



しかし、こんなリセット直後から差が現れたとなれば、原因は俺ではない。


深く考える必要のないことだとは思うが、何故か気になってしまう……。

そしてそのことに少しの薄ら寒さを感じつつ、俺は体育館の扉を開けた。





石丸「君!遅刻とはけしからんじゃないか!!」


十神「……」



ジイッ、と周りを見渡す。


問題ない。苗木も含め、全員揃っている。

不安要素など何もない。



俺は今まで通り、勝利への道を突き進めばいいだけなのだ。


無機質で生活感の無い空間に、二人の人物が立っていた。


その部屋の壁の一面は大きなモニターとなっており、そこに現れたアルファベットに合わせ、ピコピコと電子音が流れ出す。





ーーーーーーーーーーーー

*despair~game over~*

→continue


Main:togami
Minor:maizono

Guest:naegi

ーーーーーーーーーーーー





まるでテレビゲームのようなそのモニターの文字を眺めながら、そこにいる二人は呆れと安堵の溜息をついた。



「やっと進んだか」

「本当にやっとだけどね」



「クソッ……最初からこうしてれば早かったのに!」

「そう言わないであげてよ。今はシナリオ通りに軌道修正したみたいだし」



「はぁ、あいつの責任感ってのは厄介だな」


「……横暴さに関して、君も人のこと言えないと思うけどね」






その場に不釣り合いな電子音は、最終的に擬似ファンファーレのような音を出してから、ピタリと止んだ。



本日は以上です。
場面転換とか下手ですみません……。
十神くんのことこんなに真っ黒にしてるけど大好きだよ!!

>>70そこに気づくとはやはり天才か。

このスレ好き



>>75ありがとうございます。

短いですが、キリのいいところまでいったので今から投下します。



石丸くん以外が学園の探索を始めた頃(石丸くんは一人体育館で式典を待ち続けている)、舞園さんはどさくさに紛れて僕を彼女の個室に連れ込んだ。


本来なら緊張するべき場面であるが、今は冗談でもそんなことを言っている場合ではない。






舞園「………」

苗木「………」



舞園「悲しい事実ですが、信じていただけましたよね」


苗木「……信じるしかないよ。みんな本当に、何もかも忘れてるし」



舞園「えぇ、そうです」

苗木「………」



舞園「苗木くん?」


苗木「ごめん、ショックが大きくて……」



舞園さんの話が真実だとして、いくつかの疑問が残る。


僕のこと。

舞園さんのこと。

そして、十神くんのこと。


今はそのことについて議論するべきなのだろう。



しかし、納得せざるを得ないこの状況でも、心の何処かが否定している。


十神くんが……何故。





舞園「……苗木くん。ショックなのは分かります。でも、時間がないんです」

苗木「うん、ごめん」



舞園「いいえ、こちらこそ……、ごめんなさい」



苗木「ううん、舞園さんが謝る必要はないよ。ずっと一人でこれに耐えてきたんだよね」


舞園「いえ、本当は私一人で解決するべきなのに……」


苗木「それは違うよ」

舞園「苗木くん……」



苗木「だって、僕達は仲間じゃないか。むしろ舞園さんは、もっと早く僕を頼るべきだったんだ」


苗木「約束するよ。一緒に生きてここから出よう。僕達だけじゃなくて、全員でさ!」


舞園「苗木くん……とっても嬉しいです。苗木くんは、そのままでいてくださいね」


苗木「うん、勿論だよ!」





頬を赤らめてにっこりと笑う舞園さんにつられて、僕も笑った。


そうだ、人よりも少し前向きなのが、僕の唯一の取り柄じゃないか。

どんなに悲しくても、事実なら受け止めるしかないんだ。


だって受け止めなければ、前を向いて進むことなんて、出来はしないから。






舞園「色々と苗木君にも疑問はあると思います。それを話し合ってから、私の情報開示へと移りましょう」



舞園さんと話をする前に、多大な情報量により混乱している頭を整理する必要がある。





舞園さんは、この生活が巻き戻される前に僕にある作戦を告げた。


その作戦とは、いかにもシンプルなもので『絶対に苗木誠が生き残るようにする』というものだ。





しかし、その内容は未だに寒気がする。


まず、不二咲さんの部屋の鍵を壊し、鍵をかけられない状態にする。


そして、不二咲さんが殺害された後、その死体を僕の部屋へと運び、僕の服を何重にも着せる。


死んでいるとはいえ、不二咲さんの裸体を見ることになるこの作業は、女子の舞園さんが負担してくれた。


服を何重にも着せるのは、体型を誤魔化すためだ。


僕がいくら低身長の部類に入るとはいえ、不二咲さんとの身長差は約10cmもあり、その差は誤魔化しきれない。



そこで、不自然でない程度に厚着をさせ、ズボンの丈が余った部分には詰め物を入れ、靴で蓋をしてそれを隠した。


頭部は僕のパーカーですっぽりと覆った。

調べられれば確実にバレてしまう、なんとも稚拙な工作だが、舞園さんには十神くんを騙す自信があるようだった。


この工作を終わらせ、不二咲さんが消えたことに驚いた演技をした後に、僕は1-A教室に隠れて待機する。

そういう作戦だ。



不二咲さんの死体を弄くり回すだけでも恐ろしいこの作戦には、もう一つ恐ろしい点があった。







それは、この作戦で本当は僕が十神くんを殺す手筈であったことだ。



苗木「疑問はいくつかあるけど、まずは何故またリセットされてしまったかっていうことが、一番かな」

舞園「そうですね」


苗木「この学園は、生き残りが一人になるとリセットされる仕組みになっていると舞園さんは仮定してたよね」

舞園「……はい」


苗木「でも、今回リセットされた時点では、生き残っていたのは十神くんと僕の二人だった」

舞園「そうですね。それを疑問①としましょう」



本来の作戦では、僕は十神くんを殺す手筈だった。

そこでリセットが起こるはずだった。


しかし正直、僕ができたとは思えない。

精神的な問題でも、肉体的な問題でも、百パーセント失敗していた自信がある。


それなのに、舞園さんはそんな作戦を僕に持ちかけたのだ。

結果としては違う形で成功したが、そんな、百パーセント失敗してしまうような作戦を。


しかし、舞園さんにはもう打つ手が無かったのだし、その勢いに流されてしまった僕に責める権利など無い。


苗木「そして、何故舞園さんだけは生き残らなくても記憶を継げるのか」

舞園「えぇ、それは疑問②としましょう」



苗木「最後に、何故十神くんは繰り返されると知って尚、人を殺し続けるのか。これは疑問③だね」

舞園「はい」





もっと細かく疑問点をあげることもできる。


例えば、そもそも何故僕たちはこの学園に閉じ込められているのか。

例えば、食料は何故いつのまにか新鮮なものへと入れ替わっているのか。

例えば、何故誰も助けにこないのか。



しかし、それは大前提であり、わざわざ挙げている場合ではない。


それに、今はこの学園のことよりも、十神くんをどうするかということの方が問題なのだ。



舞園「では仕切り直しまして、私の知っている情報について教えます」




舞園「まず、十神くんは一番最初に、必ず腐川さんを殺すんです」


舞園「ですので、腐川さんは最優先に保護しなければなりません」


舞園「それから、彼は基本的に包丁を使いますが、体力自慢の人達に対してはその限りではありません。毒を使います」







舞園「最後に、彼は本当はこんなことをする人ではないんです」


苗木「……どういうこと?」




舞園「私は……少し前に彼を知る機会があったんです。そのときは、今とは全然違う性格でした」



舞園さんによると、本来の十神くんは傲慢かつ自信家であり、自身をよく見せるために騙ることは絶対にしなかったという。


他人を蹴落としてきたことや、これからもそれを貫く覚悟を隠すことなく主張し、決して協調性のない人物。


しかし、一族の名に恥じぬように生きる、誇り高い人物。





舞園「彼は本来、冷淡なほどに感情を無視し、論理的で、意味の無いことを嫌う性質なんです」


舞園「そんな人が、脱出方法を模索することもせず、無意味な殺戮を繰り返すだなんて、絶対におかしいんです」




苗木「えっと……僕は十神くんのことを知らないから、なんとも……」







そのとき、脳裏にとてつもない量の情報が流れ込んでくる感覚がした。



そう、例えば人の二年分の記憶だとか、そのくらいの莫大な……


『フン、くだらん。俺はお前らと馴れ合うつもりはない』




苗木「があっ、あっ」


舞園「……苗木くん?」





『俺は十神家次期党首、十神白夜だ』





苗木「あぁぁああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


舞園「まさか……」





『苗木、俺の元で働け。報酬は俺の誕生日にちなんで……』





苗木「あぁぁぁぁ……舞園さん……僕……」










苗木「思い出したよ、全てを」





舞園さんの綺麗な顔がおかしなほど歪んだ。


きっとそれほどまでに、僕の顔には絶望が表出していたのだ。




短くてすみませんが、今日は以上です。
このくらいのペースでskskと更新していきます。
見てくれてる人がいたらありがとうございます。

ごめんなさい…
もうちょいかかりそうです…


大変お待たせしました。
今から投下します。

場面転換が下手すぎるので、場面転換するときは誰視点に変わったのか書くことにしました。

~togami~

↑こんな感じに。

よろしくお願いします。


~togami~



この学園で目覚めた本当の初日、俺は柄にもなく慌てていたものだ。


密閉空間、顔も知らぬ他人、何の説明もなく始まる生活。

そこへ至った経緯も、何もかもが理解できなかった。



しかし俺は、俺の才能、俺の存在意義、俺のするべきことを知っていた。


俺の才能は、超高校級の完璧、もとい御曹司。

俺の存在意義は、何をしてでも生き残ること。

俺のするべきことは、邪魔者を排除し、勝ち続けること。


そして、それ以外のことは俺にとってはどうでもいいことなのだ。



それ故に、俺が気を持ち直したのは愚民どもよりも幾分か早かった。




そして早々に、腐川を殺した。



何故腐川を殺す必要があるのか。


それは奴が俺の身の安全を脅かす殺人鬼だからだ。



誤解のないように捕捉すると、俺と腐川はこの学園に来てから出会った、つまり初対面だ。


だが、俺は奴の正体……奴が危険だということを知っていた。


何故だかは分からないが、一般常識であるかのように、自然に知っていた。

しかし、そんなこともまたどうでもいい。



腐川を殺すことによって、身の安全を確保することができれば、それの過程だとかこの状況だとかは気に留める必要のないことだからだ。



腐川を殺した翌日は、清々しい朝だった。



俺はまた勝ったのだと、その事実に気分がすこぶる良かったのを覚えている。



しかし、石丸発案の朝食会により、俺は誤算に気づいた。


石丸は、腐川が朝食会に来ないことに対して、まるで重要案件かのように深刻な顔をしていた。



事実、奴にとっては団体行動を乱さないことが重要案件のうちの一つなのだろう。

俺にとっては実にくだらないが。



腐川の部屋で腐川が死んでいる、という事態は俺の予想以上に大衆を混乱させた。


そして予想以上の混乱により、予想外のことが起きた。


オレが最も危惧するべき事態であった。



端的に言うと、疑心暗鬼に陥った葉隠が山田を殺したのだ。





そしてオレは思い知った。

場を混乱させてはならないこと。

腐川を消しても安全にはなりえないこと。


全員が殺人鬼の可能性を孕んでいること。


つまりは、腐川を殺した時点で、全員を殺さなければならなくなったということだ。



そこでオレは手っ取り早く料理に毒を盛り、全員に食べさせることにした。



その後の、死人が生き返った光景はおぞましくあったが、些細なことに感じた。



何故なら、そんなことよりもここで生き残ることの方が遥かに大事で、

だから俺は完璧に腐川を殺す算段を立てることに集中する必要があったからだ。



しかし二回目、三回目と、腐川の死体の側に遺書を置き、自殺に見立てたりだとか、部屋に鍵をかけたりだとかしてみたが、余り意味はなかった。



第二の殺人は必ず起きた。

オレはその度に料理に毒を盛ることになった。



そこで、ある時からオレは、初めから全員を殺す方針に切り替えたのだ。



~naegi~



舞園「そして、あるときから、十神くんは初めから全員を殺す方針に切り替えたんです……」


舞園「料理に毒を盛ろうとするので、なんとかそれを阻止することはできたのですが……」


舞園「苗木くんも知っての通り、十神くんは何においても優秀です。毒を盛れなくても、一人一人殺していけば問題ない」



舞園「……そうして、今の状況ができあがったんです」


苗木「……そうだったんだね」



苗木「でも大丈夫、舞園さんは僕が守るよ、絶対に!」


苗木「今まで僕達のために頑張ってくれてありがとう……後は僕に任せて!」




舞園「……はい」



舞園さんの表情や声、仕草からありありと分かる。

彼女は憔悴しきっていた。


そして、過去にも彼女がこんな表情をしていたことを僕はもう思い出していた。



もう絶対あんなことにはさせない。


今度こそ、絶対にだ……!



苗木「舞園さん……絶対大丈夫だから。僕がなんとかするし、舞園さんを絶対殺させやしないよ……!」


舞園「……」


苗木「だから、舞園さんには笑っていてほしいんだ!」



舞園「苗木くん……」



その日、結局舞園さんの笑顔が戻ることはなかったけれど。



~fukawa~



あたしは困っている。

麗しの白夜様と二人きりになる機会がない。


涼しげな瞳の奥に感じる知性。

妖艶な声が紡ぐ傲慢な言葉。

美しくバランスよく鍛えられている身体。


……あぁ、白夜様!
なんて素敵なの!



しかし、人望のある白夜様の周りには常に馬鹿達が群がっていて、邪魔であることこの上ない。


特に苗木はお気に入りらしい。


どうやって白夜様に取り入ったのかは知らないが、まるで男夫婦のように毎日コーヒーを差し出す始末(苗木が)。




悔しい!憎い!おのれ苗木ィ……!



それに、二人きりになるチャンスが潰える原因はそれだけじゃない。



舞園「腐川さん、聞いてますか?」


腐川「……聞いてるわよ」


舞園「で、どうします?一緒にお風呂に入って、私と友情を深めてもらえますか?」


腐川「……」


そこには暑苦しい風紀委員のようなことを言ってくる女がいた。


こいつだ、問題はこいつなのだ。



こいつが初日から付きまとってくるせいで、白夜様へお誘いの言葉をかけることさえできない。



腐川「……臭くて悪かったわね」


舞園「そういう意味で言ってるんじゃありません!腐川さんと仲良くなりたいんですぅ」


舞園は、むぅ、と頬を膨らまし、上目遣いにこちらを睨みつけてくる。


これをまさに『かわいい』と形容するのだろう。


しかし、そんな表情をされたところで、ただ憎たらしさしか感じない。


腐川「お断りよ!」


舞園「言っておきますけど、一緒にお風呂に入ってくれるまで毎日付きまといます」


その女はにっこりと笑っていた。


ソイツのファンからすれば極上のご褒美なのだろうその表情は、今のあたしにとっては悪魔の笑みにしか見えない。



この女が何故あたしに付きまとうのか、全く理解出来ない。


朝日奈とかいう乳デカビッチみたいな奴の方が、この女には友人として相応しいと思う。


舞園「ね?洗いっこしましょう?」


嫌であった。

普通に嫌であった。


まず、風呂が嫌いなのだ。


そして、こういうキラキラとした友好的な奴も嫌いだった。

特に可愛い女は、嫌いだった。



舞園「ね?いいじゃないですか!一度くらい!」


腐川「……分かったわよ」



しかし、悪魔の笑みは肯定しか認めていなかった。



舞園「さてと、冬子ちゃん」


腐川「えっ」


舞園「冬子ちゃんはどこから洗う派ですか?」


腐川「……は?」


舞園「ですから、冬子ちゃんはどこから洗う派ですか?」


腐川「……」



舞園「……冬子ちゃんはどこかr」


腐川「聞こえてるわよ!!」



大浴場に足を踏み入れるなり、早々の出来事であった。


出来事と呼ぶには大袈裟かもしれない。

ただの会話である。


しかし解せない。



腐川「なんなのよ、なんでいきなり名前で呼んだり……」


舞園「裸の付き合いをしたということは、もうお友達ですから!」




感想1、綺麗な身体してる。

感想2、洗顔フォームを泡立てるのが凄くうまい。

感想3、この女こんなキャラだったっけ?



シャワー前に舞園と並んで腰掛け、その泡だてスキル等諸々に、呆気にとられているうちに、舞園は洗顔を終わらせていた。



どうやらこの女は『顔から洗う派』らしい。



舞園「うふふっ」


腐川「なんなのよ、本気で気持ち悪いわよ、あんた」


舞園「……嬉しいんです、私。こんな風に、普通に友達と過ごすことが」


腐川「……」



アイドルという職業柄、友人と遊ぶ機会が少なかったのだろうか。


社交的だから、遊び慣れているとばかりおもっていたが、違うのかもしれない。



そして何故か舞園の笑顔に憂いを感じる。


何を思っているのか、皆目検討もつかない、しかし……



腐川「……遊びたいならそうすればいいじゃない。こんな場所に閉じ込められて、全員毎日暇なんだし」


舞園「まぁ!冬子ちゃんって優しいんですね!」


腐川「勘違いするんじゃないわよ!あんたが気持ち悪いこと言うのが耐えられないだけよ!」



知りたいと思った。


いつも何かを演じているように完璧な笑顔を絶やさない女が見せた、憂いの正体を、知りたいと思った。


知ってどうしたいのかは自分でもよく分からないが、


腐川「ほら、背中向けなさいよ」


舞園「え?」


腐川「洗ってやるって言ってんのよ!」


舞園「……うふふっ」



ただ今は、この女の提案する『洗いっこ』とやらに興じてみようという気にはなっていた。



だから、気が緩んでいたのかもしれない。



腐川「あっ」


舞園「冬子ちゃん!!」



ボディーソープに手を伸ばした拍子に、思った以上にぬめっていた床に足を取られた。


座っている状態で足を取られるだなんて、逆に難しいだろう、とどこか冷静な自分が言う。


そして、床に頭をぶつけたのだろう、世界がチカチカとしてやがて真っ暗になった。

後頭部が鈍い痛みを発している。


あたしはこの感覚を知っていた。

気絶の前兆だ。


そして、それはあいつが出てくる前兆でもある。



あいつの正体を知られる訳にはいかない。


それも、こんな密閉された空間に、あいつみたいなのが紛れ込んでるってバレたら……。


それになにより、あたしのことを『お友達』なんて言う、この女にバレたら……!



……この女にバレたら?


バレたら、何だというのだろう。

どうしてそんなことを考えたのだろう。


分からない。

分からないけれど、いやだな……。




と、そこまで思考して、あたしは意識を手放した。


以上です。
遅い上に短くてすみません……。

レスくれた人達ありがとうございます。

おやすみなさい。

読解力なくて申し訳ないのだけど、舞園が苗木に全てを話してから2回繰り返してるの?
不二咲さんの死体を細工したのは二回目って事だよね?で今は3回目で良いのか

取り敢えずとても面白いので続き期待してる

>>124
文書力なくてすみません……。
舞園が苗木に、ループのことを話した周と、不二咲の死体工作をした周は同じです。

なので、今は二回目ってことになります。



今から少し投下します。



~togami~


苗木「十神くん、コーヒー淹れたよ」


十神「フン、そこに置いておけ」


苗木「食堂で本なんか読んでると、汚しちゃうよ?」


十神「お前らのような愚図と一緒にするな」



何故だか、この周回は苗木にやたらと懐かれていた。


正直、邪魔であることこの上ない。


腐川は苗木がオレに付きまとっていることにより、オレに近づけないようだし、

オレも、腐川をおいそれと呼び出すことができずにいた。


このままではまずいことは明白であった。



殺人鬼がいつ狂気を振りかざすのか、分かったものではない。


今回は、腐川よりもこの男を先に始末するべきなのかもしれない。



苗木「コーヒーだけだと寂しいよね?クッキーでも取ってくるね」


苗木誠……不思議な奴だ。


オレの好みをまるで初めから知っていたかのように、的確に欲しいものを素早く用意してくる。


愚民のくせに、このオレと話の程度を合わせる能力も認められる。



そして、前回のように精神崩壊の末自殺したかと思えば、今回はオレに懐いたりと、差異が激しい。


もしかすると、苗木誠がこの学園の真相に、何か関わっているのかもしれない。


しかし、お人好しの代名詞のような苗木が、この密閉空間の黒幕とは考えずらい……。



腐川「白夜様……」


十神「……どうした?」



来た、とうとうこの時が来た。


苗木がオレから離れる隙を見計らっていたのだろう、腐川は気味が悪いほどタイミングよく現れた。

実際に気味が悪い。


話の内容は分かっている。


今夜の逢瀬の約束を取り付け来たのだ。


毎周回、必ず同じ台詞なため、一語一句暗記している。


さぁ、苗木が帰ってくる前に、早く言え。





腐川「白夜様……あたしは、あたしは、白夜様が好きです」



十神「……は?」


腐川「もし、この気持ちを受け取ってもらえるのなら……今夜九時に、あたしの部屋に来てください」

十神「……」


腐川「しししし失礼します!」


ガバァっと、雑で下品なお辞儀をしてから、腐川は走り去っていった。


腐川の誘い文句は予想外のものであった。


『あたしは、白夜様が好きです』


単純だし、分かりきっていたことだ。


そもそもオレは奴のこの感情を利用して、殺害を行ってきたのだ。


しかし、言われたのは初めてだった。



何故だ……?


何か、オレの知らないところで、オレの知らない何かが、不吉なことが、進行している気がしてならなかった。


苗木の不可思議な差異や、オレのことを知り尽くしているかのような振る舞い。


腐川が来たタイミング、腐川の台詞。



何かを間違えたのだろうか。


しかし、だとしたら何を間違えたというのだ?


オレの進行は今回も完璧だったはず。


気に止めすぎているだけなのだろうか。





苗木「おまたせ!」


十神「……」


苗木「十神くん、どうしたの?顔が真っ青だよ!」


苗木が心配そうにオレの顔を覗き込む。


どこからどう見ても、いつもの苗木だ。


馬鹿で、騙されやすくて、お人好しの苗木だ。



大丈夫、オレは何も下手を打っていない。


考えすぎているのだ。


苗木誠の行動の変化に惑わされすぎているだけだ。



十神「……問題ない。少し寒いだけだ」


苗木「そっか、よかった」



そうやって、ほっこりと笑っている苗木の顔に何故か、

何故だか、どこか腹の底がゾワリと疼いた気がした。



『もし、この気持ちを受け取ってもらえるのなら……今夜九時に、あたしの部屋に来てください』


勿論、行くに決まっている。


無論、その気持ちを受け取るつもりはない。


しかし、少しの間でも腐川に対して取り繕わなければならない、その事実に反吐が出そうだ。



それに……


『あたしは、白夜様が好きです』


ガンガンとこの言葉がオレの脳内に響く。


何か、固く閉ざされた物をこじ開けられるような異様な感覚に陥る。


それだけ自分にとって、不快な言葉だったのだろう。




『あたしは、白夜様が好きです』


ガンガンガンガンッ




『あたしは、白夜様が好きです』


ガンガンガンガンガンッ!!



オレは不快な脳内ループを気合いで封じ込めながら、倉庫を詮索していた。


腐川を殺すために必要な道具を揃えているところである。


一つ目は包丁。


これは食堂から既に拝借してきた。


言わずもがな、凶器となる。



そして二つ目が今調達している最中の、大きめのビニールジャケット。


これは返り血を証拠として残さないために、必要不可欠なものだ。


これを着て腐川を殺し、返り血を浴びたビニールジャケットを部屋に脱ぎ捨てて、その部屋の鍵をかける。


単純だが、欠陥の無い犯行だ。



ただ、注意すべき点は、このビニールジャケットを倉庫から取り出している姿を誰にも見られてはならない、というところにある。


十神「はぁ……」


それから、ひたすらに品のないデザインであることを我慢しなければならない、という点も、オレにとってはやや問題であった。



午後九時、丁度の時間だった。


オレは、いつもの服装の上に、大きくてダサいダウンジャケットを羽織り、右のポケットに包丁を隠し持っていた。



その状態で腐川の部屋のチャイムを鳴らす。


ガチャリ、と、すぐにその扉は開き、腐川の陰鬱な瞳がこちらを覗いた。



腐川「白夜、様……」


十神「腐川、入っていいか?」


腐川「……はい」



この格好を誰かに見られる訳にはいかない。


腐川を押すようにして、強引にその部屋へ入り、扉と鍵を後ろ手に閉めた。



腐川「……うぁ!」


体が密着したためか、腐川は顔を赤くし、不気味な表情を浮かべ、ベッドまで後ずさりをし、ヘナヘナと座り込んだ。



十神「……おい、何故離れる」


腐川「あ、あの、待ってください、白夜様ぁ」


十神「なんだ?」


腐川「あの、ここに来てくださったということは……つまり、あたしの気持ちを……」


十神「あぁ、そうだ。オレもお前と同じ気持ちだ。だからオレから逃げるな」



オレはイラついていた。


例えすぐに死ぬとはいえ、何故こんな気色の悪い女のことを喜ばせる台詞を言わなければならないのか。



腐川「そう……ですか」


十神「……?」



腐川の様子がおかしい。


というより、予想外の反応であった。


狂喜しながらオレにしがみついてくるものとばかり思っていたが、このしおらしい反応は、一体何なのだ。




腐川「あと、白夜様、そのジャケット……イメチェンですか?」


十神「そんなことどうだっていいだろ。何故逃げるんだ」



腐川はオレが近づくたびに、ジリジリと反対側の壁へ後ずさりをしていた。


前髪で目の辺りが隠れていて、表情が見えない。



やはり様子がおかしい。

何かがおかしい。



腐川「答えてください、白夜様。そのジャケット……どうしたんですか」


十神「イメチェンだ。悪いか」


腐川「……白夜様ぁ」



とうとうその声は、掠れたものになっていた。


表情が見えない。

しかし、泣いているということはその声を聞いただけで分かった。




そして直感した。


こいつは知っている。


少なくとも、今のこいつは、オレがここに来た目的を知っている。


オレが腐川冬子を殺すために、ここへ来たことを知っている。



そう確信を持った途端に、オレは包丁を右手に持ち、腐川へ向かって駆け出していた。





腐川「白夜様には似合いません、そんな服」




腐川がそのとき、最後に発したその言葉は、


涙声にも関わらず、どこか凛としていた。


今回は以上です。
色々と分かりにくかったりすると思います。すみません。

では、おやすみなさい、というかおはようございますの時間ですね。

でも寝ます。
レスつけてくれる人ありがとうございます!

すみません、もうちょっと待ってください。


おまたせしました、
今から更新します!



~naegi~


それを擬音語に当てはめるとするならば、シュタ、というスマートなものになるだろう。


大神さんが十神くんを気絶させた音だ。



大神「まさか……こやつがな……」



気絶した十神くんを脇に抱え、大神さんはショックを隠し切れない様子だった。


BGMのように腐川さんのすすり泣く声がする。



苗木「大神さん、ありがとう。残念な事実だけど、これで信じてもらえたと思う」


大神「……」



大神さんは、十神くんの体をロープで縛り上げながら、無言で眉間に皺を寄せた。



何故腐川さんの部屋に僕達がいるのか。

何故十神くんは気絶させられたのか。

その答えは一つに集約される。


そういう作戦だったからだ。




十神くんが今日、腐川さんの部屋へ訪れることは分かり切っていた。


つまり、腐川さんが、タイミングを見計らって十神くんに約束を取り立ていたところから既に、僕たちの作戦は初まっていたのだ。




腐川「びゃくや……さまぁ……うぅっうっ……」


舞園「冬子ちゃん……辛い思いをさせてしまって、ごめんなさい……」


腐川「うぅぅ……びゃくやさま、びゃくやさま、なんでぇ」



戦刃「……十神くんは、私達の気配に微塵も気付いた様子はなかった。腐川さんの、功績だと思う」



それまで、天井に張り付いて息を殺していた戦刃さんが、音もなく床へ着地したかと思うと、

泣いている腐川さんを前にして、狼狽えつつも慰めているようだった。



しかし、慰めの言葉がズレているような気がして、残念な気持ちになってしまう。



①腐川さんに十神くんを呼び出してもらう。

②大神さんと江ノ島さん……いや、戦刃さんを味方につける。

③十神くんを確保する。


全てが舞園さんの提案だった。



曰く、②の人選については『大神さんと戦刃さんなら、目を背けることはしないでしょうから』だそうだ。


僕にはよく分からない。




大神「……これから、こやつをどうするつもりだ」


舞園「十神くんには、元の十神くんに戻ってもらう必要があります」


苗木「そうだね。そのためには、失った記憶を取り戻してもらうのがいいと思うんだ」


舞園「そう……ですね」



大神「すまぬ、我は協力できぬ」


戦刃「うん。わたしも」



苗木「そっか、大神さんも戦刃さんも、まだ思い出せないんだね……」


舞園「……苗木くん」


苗木「大丈夫だよ、きっとそのうち、何かの拍子に思い出すから。楽しかった思い出をね」



舞園さんは時折、このような悲しい表情をする。


不安なのだろう。


だから、一刻も早く、舞園さんを、みんなを、この学園から解放してあげなければならない。






舞園「十神くんの処遇については、縄で縛ったまま、私、苗木くん、大神さん、戦刃さんの四人で見張りをするべきだと思います」


腐川「あ、あたしは……?」


戦刃「腐川さんは、命を狙われてる。腐川さんが見張りをしたら、十神くんは逆上する、と思う」


大神「うむ。四人でローテーション制にするのがよかろう」


腐川「そんなぁ……」



苗木「でも、十神くんを監禁してるなんてこと、すぐみんなにバレちゃう気がするよ」


問題はそこであった。


特に石丸くんだ。彼は団体行動に重きを置いている。


朝食会に来ない人がいれば、例によって部屋まで呼びに行くだろう。


しかし、そうでなくとも何日も十神くんの姿を見かけなければ流石に捜索されてしまう。


更に、僕達が食事を彼の部屋へ運んだり、出入りしたりしているところを見られてしまえば即アウトなのだ。



大神「皆を信じて全てを打ち明けてはどうだ」


舞園「それは絶対に駄目です!私はみなさんがこの事実に耐えられるとは思えません!」


大神「……ふむ。お主が言うのであれば、そうなのであろう」


舞園「すみません……。私はみなさんが大切なんです。信用はできなくても、みなさんが大切なんです」



舞園さんは悲しそうに下唇を噛んだ。

その目は少し充血しているように見える。



苗木「じゃあ、こういうことにしない?十神くんは、自分から自室にこもって、脱出の作戦を練ってるんだよ。そして、僕達はそのお手伝いをしてる」


大神「なるほどな。そのように説明すれば、多少不自然ではあるが誤魔化せそうではある」


舞園「それでも、何日も誤魔化せるとは思えません。一週間もすれば、流石に不審がられます」


苗木「そうだね。だから、時間稼ぎにしかならないけど、その間になんとかするしかないよ」




それから僕ら五人は必死に頭を捻ったが、結局その方法以外に思いつかなかった。



舞園「この作戦でいくしかないですね。でも、霧切さんには、バレてしまうと思います」


苗木「うん、僕もそう思うよ。だから、霧切さんにだけは本当のことを言おうと思う」


舞園「……苗木くん、その役目は私に任せてもらえませんか?」



なんだか、舞園さんは酷く疲れている様子だった。


ここ最近の舞園さんは、いつも具合が悪そうに見える。


特に僕といる時に、そう見える。




恐らく、みんなの前では持ち前の演技力で明るく振舞っているのだろう。


僕の前では素のままでいてくれているのだと思うと嬉しいけど、舞園さんの苦しそうな姿は見たくない。



つまり、複雑な心境だった。



~kirigiri~


ここに閉じ込められ、数週間が経過した。


私はその間、この学園内を隅から隅まで調べ上げることに専念していたけれど、これといった収穫はなかった。




教室という教室が、まるで新校舎のそれかのように綺麗で、落書きの一つもない。


学園長室へ行ったところで、重要書類の一つも見つからない。



それどころか、図書室以外の本棚は空っぽで、学園とは名ばかりかつ、形だけな空間だった。



そして分かったことといえば、少なくとも、この建物は学校の機能が果たせるような場所ではない、ということだけだ。



ここは一体どこなのだろう。

そして、私は一体何者なのだろう。



いつの間にか眠らされ、この学園に放置されていた、ということは全員の共通認識であると思う。



しかし、私はそれだけじゃない。


自分が何者なのか、自分の才能が何なのかが思い出せないのだ。


端的に言うと記憶喪失である。


何故自分だけが、記憶を失ってしまっているのだろうか。



ーー分からない。



そして、私達をここに閉じ込めた組織の目的は何なのか。


食料が新しいものへと変わっていることから、ただ殺すことが目的ではない。


むしろ、この密閉された空間で私達が生きて暮らすことに、閉じ込めた側の意図があるように思える。



何しろ、図書室、プール、トレーニングルーム、武道場、音楽室と、娯楽はそこそこ充実しているように思える。


充分な衣食住に加え、娯楽や自分以外の14人が住まう環境。


ほとんど集落と言ってもいい。

つまりは快適であった。




よって、何かしらの実験をさせられている可能性が高い、という結論に落ち着いていた。


精神的な実験か、肉体的な実験かはまだ分からない。


後者ならば、用意されている食材に薬物が含まれているのかもしれない。



しかし、私は前者である可能性の方が高いと踏んでいた。


私達はお互いに超高校級と呼ばれる才能の持ち主。(私は自分の才能を忘れてはいるが)



わざわざそんな有名人だけを集め、非人道的な実験に参加させる意味はない。


特に、こんな監禁生活だ。


アイドルである舞園さんや、御曹司の十神くんが、こう何日も行方不明となると、世間が黙ってはいないはず。



つまり、この生活は私達の周囲の人々から認可されているもので、絶対的な安全が確保されているのではないか、と考えたのだ。




そこで立てた仮説は、この意味の分からない生活自体が、希望ヶ峰学園の入学試験である、というものであった。


今のところこの線が一番濃いと考えている。










葉隠「霧切っち!その考えは近いうち、まるまる無駄になるべ!」



部屋へ戻ろうと、寄宿舎の廊下を歩いているときだった。


体積がおかしい髪が特徴的な、胡散臭い男に捕まった。




霧切「……。あなた、私の考えていることが分かるのかしら?」


葉隠「いーや、全く分からん!でもオレの占いは3割当たる!」



3割……大した数字ではないが、何故か目の前の男はドヤ顔だ。



霧切「そう、ご忠告痛みいるわ。それじゃ」


葉隠「相変わらずクールだべ……」




舞園「あ……」



ガチャリ、と部屋から舞園さんが現れる。




しかしそこは舞園さんの部屋ではなかった。


超高校級の御曹司、十神白夜の部屋から出てきたのである。



葉隠「おぉ~~っ!舞園っち!十神っちとはどういう関係なんだべ!?」



目の前の占い師は野次馬根性丸出しで、アイドルの熱愛発覚にノリノリだ。


しかし、アイドルの恋愛はご法度だと聞くが、舞園さんが慌てる様子はない。




舞園「うふふっ、そういうのじゃありません。私は、十神くんのお手伝いをしていたんです」


霧切「お手伝い?」


舞園「えぇ、十神くんは脱出の方法を練ってるんです。しばらくは部屋から出てこられないかもしれません」


葉隠「なるほど!むっ……オレの占いによると、十神っちにぜーんぶ任せとけばなんとかなるべ!!」



霧切「……そう」



胡散臭い、と思ったが、葉隠くんの占いによってその胡散臭さは増した。






彼女の演技は完璧だ。



しかし、いくつもの疑問が瞬時に浮かぶ。


何故作戦を練るのに部屋へこもる必要があるのだ。


『十神くんのお手伝い』とは具体的に何なのだ。


十神くんは部屋へこもる前に、何故私達に一声かけなかったのだ。


作戦の方向性を教えてくれれば、みんなで知恵を絞ることもできるのに、何故一人で作戦を練るのだ。



……舞園さんは嘘をついている。



舞園「あ、そうだ、霧切さん」


霧切「……なに?」


舞園「私の部屋で、お茶でもいかがですか?」


霧切「いいけど」




悟られないように、そっと警戒の眼差しを向ける。




そして確信した。


舞園さやかは何かを企んでいる。


そうでなければ、いくら社交的な彼女といえど、個室でのお茶会に、こんなタイミングで誘うはずがない。



今までろくに会話したことのない、この私がその相手なら、特に。



唐突すぎるし、不自然すぎる。



他人との正しい距離感を知っている彼女ならば、例え私をお茶に誘うとしても、個室ではなく食堂を選ぶだろう。



舞園「では、先に私の部屋で待っていてもらえませんか?私は食堂でお茶を入れてきますから。はい、これ」


霧切「……えぇ、分かったわ」



彼女の部屋の鍵を受け取り、思案する。



彼女が自室の鍵を渡してきたことから、こちらが警戒心を持っていることはバレている、と悟った。



おそらく、私の警戒心をなるべく和らげるために、渡してきたのだろう。




もしかすると、ノコノコと舞園さんの部屋へ入るのは危険かもしれないが、何らかの罠が張られていれば、彼女が帰って来る前に逃げ出せばいい。


何故か危険を察知することに関しては自信があった。



……私の才能と関係するのだろうか。



舞園「私の部屋には既に腐川さんがいるので、雑談でもしていてください」




舞園さんはにっこりと、可憐に笑い、食堂へと歩いて行った。




葉隠「舞園っちって、何故か腐川っちと仲良しだべ。意外だべ」


霧切「……そうね。それじゃ」




確かに、意外だ。


もしかすると、彼女達はこの学園について、何か知っているのかもしれない。


しかし私の仮説では、この学園での安全は保証されている。


だから、大丈夫だろう、とは思う。




『霧切っち!その考えは近いうち、まるまる無駄になるべ!』



……でも、もしかしたら彼女の部屋へ行くのは危険なのかもしれない。



3割の可能性は捨てきれないし、彼女は確実に何かを企んでいる。


いや、それでも大丈夫。


先に腐川さんがいるのであれば、彼女から根掘り葉掘り聞き出せばいい。


彼女は舞園さんと違って演技が出来るとは思えない。


危険だと思えば、舞園さんが戻って来る前に立ち去ればいいのだ。




それに、虎穴に入らずんば虎子を得ず。


行くしかない。






腐川「き、霧切……来たわね」


霧切「えぇ、こんにちは」



舞園さんから預かった鍵を使い、彼女の部屋へと入った。


彼女が言ったとおり、そこには既に腐川さんの姿がある。


そして、とても歓迎されているようには見えない。


警戒しながら、彼女の言葉を待つ。





腐川「な、何なのよ、その目は!何ジロジロ見てるの……?ハッ……あたしのこと見下して楽しんでるのね!?顔をマジマジと見てブスだって思ってるんでしょ!?そうなんでしょ!?分かってるんだから!!」



……いや、彼女はそもそもこういう性格だ。


問題ないだろう。



霧切「違うわよ」


腐川「そ、そう……」


霧切「……」




むしろ今日は比較的しおらしい方かもしれない、と思った。



霧切「腐川さん、舞園さんから何か聞いているの?」


腐川「……何かってなによ」


霧切「十神くんのことよ。彼女、十神くんの部屋から出てきたの。確実に何か隠しているわ」




単刀直入だった。


腐川さんのようなコミュニケーションが苦手なタイプには、こうしてズバズバ言うことにより、逃げ道をなくした方が情報が引き出せるのだ。




特に、方向性には問題があるが、腐川さんは感情をすぐに顔や言動に表してしまう傾向にある。



こうやって様子見をするのが、ここでの正しい選択肢だということを、何故だか私は知っていた。







腐川「白夜様のこと……!?舞園が白夜様の部屋から!?それってどういうことなの霧切!!答えなさい!!」






霧切「あ、いえ……私も何も知らないわ。舞園さんから聞きましょう」


腐川「舞園さやか……!!白夜様にあの憎たらしい身体で……!!密室でナニを……!!」



ブツブツと呟かれる恨み言と、ギリィ……という歯ぎしりの音を確かに聞いた。


これが演技であれば腐川さんの意外な才能といえる。


おそらく、彼女は何も知らないだろう、と結論付けた。



やはり、舞園さんを待つしかない。







……そして、ある短期的な問題が発生していることに私は気が付いてしまった。






……話題がなくなったのだ。



舞園さんはまだ現れない。




人間不審気味で被害妄想が激しく、恐らくコミュニケーションに慣れていないだろう彼女との間に、形容し難い沈黙が流れる。


私も舞園さんや朝日奈さんのように、明るい話題を提供することは苦手だ。


私としては(恐らく彼女も)沈黙が不愉快に感じることはないが、食堂で紅茶を淹れているだろう部屋の持ち主に、多少申し訳ない気持ちになる。


なにしろ、彼女はこの部屋に戻ると、この冷め切った空気を一人で盛り上げなければならないのだ。




……本当に、何故私(と腐川さん)をこの部屋に呼んだのだろう。


もしかして、腐川さんをこの部屋にあらかじめ呼んでおいたのは、こんな雰囲気を作り上げることによって、私に隙を作る目的があったためなのだろうか……という邪推すら湧いた。


そしてこれは恐らく私の被害妄想だ。





舞園「おまたせしました、ホットでよかったですか?」


にっこりと可愛らしい笑顔を浮かべて登場した彼女は、さながら極寒に突如咲いた美しい桜の花のようであった。



短くてすみません……。
本日は以上です。



今から投下します。
なんか収集がつかなくなりそうで怖いですが、どうなっても完結はさせるつもりです。



ーーーー




霧切「……思い、だしたわ……全てを……」





ーーーーー



舞園さんからこの学園についての全貌を聞かされた。


腐川さんは既に全てを知っていたらしく、あの演技力に脱帽しかけたが、どうやら演技ではなかったらしかった。


いや、演技なのだが半分演技ではなかったらしい。


彼女は十神くんのことを知ってなお彼を想い続け、十神くんの部屋への出入りができる舞園さんを羨んでいるのは確からしい。


腐川さんは十神くんとの接触を禁止されているのだ。





そうして全てを聞き終わると、私の記憶の全てが戻った。


自分の能力だけじゃない。


失った2年間も、あの最悪な生活も、何もかも、全てをだ……。



誰よりも臆病で小悪党で、だけど自分を弁えていて、本当はちょっぴり大人な葉隠くん。


いつまでも純粋で真っ直ぐで、一生懸命、そしてムードメーカーな朝日奈さん。


誰よりも本当の痛みを知っていて、誰よりも愛情深く、誰よりも内なる感情が豊かな腐川さん。


傲慢でプライドが高くて、だけど実はみんなを認めていて、冷たい態度を取る癖に、心は人一倍熱い十神くん。


そして



いつも前向きで、乗り越えることも忘れることもしない、そんな必要以上に強すぎる男の子、苗木くん。





霧切「……みんなのことを、思い出したのよ……私、私……あぁぁ……」



腐川「何なのよ……!泣きたいのはこっちよ……!!だってあたしは……あたしは……あたしのせいで……!」




『泣きたいのはこっちよ』??


どういう、意味なのかしら、と思考した。


それではまるで、私が泣いているみたいではないか、と。




霧切「あ」



ポテポテ、と水滴が掌に落ちるのを見た。


私は、泣いているのか。


そうか、それもそうか。


だってーーー






舞園「落ち着いてください、霧切さん。それに冬子ちゃんも」

舞園「お二人のせいではありません。勿論、他のみんなも含めて……誰のせいでもないんです」


舞園「少なくとも、私はそう思っています」




霧切「……どうすれば、いいの」



舞園「まずは、十神くんを止めましょう。霧切さん、あなたの力が必要なんです」



そうだ、慌ててばかりもいられないのだ。


この状況……十神くんをなんとかしないと、私達に未来はないのだから。




霧切「舞園さん……十神くんと話がしたいわ」


舞園「いいですが、今は情緒不安定なんです。話ができる状況とは思えませんけど……」


霧切「それでも、彼に聞かなければならないことがある。舞園さん、あなたの話では十神くんはどこかおかしいのよ」


腐川「そんなの誰だって分かるわよ!!み、み、みなごろしにするだなんて……うぅ、白夜様ぁ……ごめんなさいぃぃ……」




察するに、腐川さんも不安定になっている。



その様子を見て、私がしっかりしなくては、という気持ちがより一層強くなるのを感じた。




霧切「確かに、それもおかしいけれど……とにかく、話を聞き出さないことには分からないわ」


舞園「えぇ、分かりました。行きましょう、彼の部屋に。冬子ちゃんはここにいてください」


腐川「うぅぅ……」




腐川さんが恨むようにこちらを睨んでいた。


彼女のこういう変わらない部分に、少し胸を撫で下ろした。



彼の部屋には、話に聞いていた通り、彼と大神さんがいた。



大神「舞園……それと霧切か」


十神「……」



舞園「十神くんの様子はどうですか?」


大神「見ての通りだ。落ち着いている、というよりも廃人と表現した方が良いだろう」




本当にその通りで、縄に縛られた十神くんはピクリとも動かなかった。


なるほど、こんな状態の十神くんを腐川さんに見せる訳にはいかないだろうと思う。





霧切「十神くん、聞きたいことがあるの」



十神「……きり、ぎり……霧切響子ぉ……!!」



私が話しかけると、十神くんの目に少し光が宿った気がした。


しかしそれは、狂気の光だった。




霧切「いくつかあるけれど、まずは一つ目、あなたは何故」


十神「黙れぇえ!何をしに来た!オレを、オレを殺すのか!許さんぞ!許さん、霧切響子ぉおお!」


霧切「……そう、それが答えなのね」




何故皆殺しにするのか、という質問をするつもりが、遮られた。


しかしその遮った言葉が答えだ。


殺さなければ殺される、彼はそう思っているのだ。



それからも、いくつかの質問をぶつけた。


的を得る答えが返ってくることは稀だったが、なんとか根気よく殺すつもりはないと弁解し続け、質問を繰り返した。






その後、私と舞園さんは、腐川さんの待つ舞園さんの部屋へと戻った。


そのときには、私の中では既に十神くんについてのある可能性が浮かんでいた。


考えにくい可能性……しかし、そうとしか考えられないのも事実だった。







霧切「ほとんど間違いないと思うわ。あの十神くんは、十神くんじゃない」



腐川さんの目が見開かれる。

舞園さんは口をあけてポカンとしていた。



十神くんの行動は、彼のものにしては不自然としか言いようがなかった。


それは誰かに命を狙われている、という被害妄想に始まる。


そして、この生活が、繰り返されると知ってなお殺戮を繰り返すことも彼らしくない。


一番不自然なのは、殺人の準備や過程、証拠隠滅の方法だ。


具体的には、彼は殺害対象の部屋に出入りしているところを目撃される可能性を微塵も考えていなかった。


その対策を全くしていなかったのだ。


それに、ビニールジャケットで返り血を防ぐ……だなんて、不確実で不自然な方法を選ぶ理由もない。


靴やズボンに血が飛び散る可能性だって充分にあるし、ビニールジャケットを着ている十神くんがそもそも不自然であるため、対象に警戒を許してしまう。



極めつけは、腐川さんに呼び出されるのを今か今かと待っていたらしいが、約束を取り付けずとも彼女の部屋へ押し掛ければいいだけの話だ。




要約すると、十神くんにしてはオツムが足りなさすぎるのだ。



霧切「私達の知っている十神くんが、こんなことにも気が付かないと思う?」


舞園「確かに、そうです。おかしいと思ったことも確かにありました。でも、それは、十神くんが心の底では殺人なんてしたくないからなんじゃないかって思っていたんですが……」


霧切「それはそれで彼らしくないの。彼は自身の目的のためなら、なんだって割り切れる。そういう人だったはずよ。少なくとも、周りに悟られない程度にはね」


腐川「じゃ、じゃあ……なんだっていうのよ……!本物の白夜様は、どこに……!」




舞園「あ……!」


腐川「な、なによ……」


霧切「舞園さん、あなたも思い至ったようね」


舞園「はい……確証はないですけど、だって……そうとしか考えられないじゃないですか」


腐川「な、なんなの、早く教えなさいよ!」



ここまでくれば、誰でも辿り着ける真相だ。


一つの結末としは陳腐すぎるし、そんなのありなのかという気持ちを抱いてしまう。


しかし何せ、ここには腐川さんがいる。


それだけで、普通は思い至らない可能性だとしても、思いついてしまう。


悲しい可能性かもしれないが、私はその可能性を信じたいとすら思っていた。


やっぱり、私達の知っている十神くんは人殺しなんかじゃないのだと、十神くんは元に戻れるのだという希望が湧いたからだ。








霧切「十神くんは……解離性同一性障害……腐川さんと同じ、多重人格者なんじゃないかしら」



~hagakure~


微睡みの中、騒音を聞いていた。


何故こんな喧騒の中、自分は微睡んでいられるのか。


嗚呼、そうか、これは夢だ。






耳を劈く金切り声。


それと、男の叫び声。


それに混じって女の子の泣き声がした。


悲鳴と、怒号と、咽び。



大切だった、気がした。


その場所も、その人達も、大切なものだったような気がした。



大切……


大切、とは、何なのか。


具体的にいうと、金とか安全とか。


オレにとってはそういうものが大切……。


純粋さの欠片もなく、ただの悪党であるオレにとっての大切なものなんて、そんなものだ。




だけど、間違いなくオレはその喧騒に心を痛めていた。


心……。


こんなどうしようもない人間の、その心が痛んだところで何だというのだろうか。


今まではそう思えていたことが、今回ばかりはそうもいかなかった。



失いたくなかった。



オレは、今まで散々と人を悲しませた。


自分は馬鹿だが、人の気持ちが分からない訳ではない。


むしろ生まれついた能力のこともあって、人の気持ちを理解する力はソコソコあると自覚していた。


だから、それを使って人を騙した。


金を巻き上げた。


騙されたと知って泣き咽ぶ相手から全力で逃走した。


その中には、親族、友人、恋人と呼べるような関係の人もいた。


例外なんてない。





自分は、人の汚い部分や、社会の汚い部分を見すぎたのだと思う。



誰かの成功の影で、誰かが悲しみに暮れる。


得をする人間の裏に、損をする人間がいる。


そんな汚い世界を、幼くして見すぎた気がする。



そして、そんな世界に悲観したところで変えられる訳ではないことも、幼くして悟っていた。


なんせ、オレは馬鹿だから。


馬鹿なオレより頭のいい人間が沢山いるこの世界が、汚い世界なのだとしたら、それがきっと人間にとって都合のいい世界なのだろうと。


綺麗な世界よりも、汚い世界の方が、都合のいい世界なのだろうと、ただ悟ったのだ。


それを悟ったときの感情はもう覚えていない。


オレは記憶力も悪い。



だけど結局、幼いオレの占いは、ドロドロとしたものを占いすぎていたのだと思う。




今となっては、そんなきっかけすら言い訳にすぎないけれど。



汚い世界で生きるためには、というお題。



例えば、両親はお金が大好きだった。


お金があれば何でも買えるらしいと、小学校へ上がる頃には薄々気が付いていた。


汚い世界で、お金が大好きな大人達は、なにも両親だけではなかった。




つまりは、それが答えだった。





だからオレは人を騙した。



生きていくために、金を手に入れるために。


心が痛まない訳ではない。


しかし、こんな悪党の心が痛んだところで何なのだ、という気持ちがあった。


オレはそうやって割り切ることができた。



罪悪感のバランスをとることもそのうち覚えていった。


例えば、悪そうな相手からはガッポリ奪い取り、善良そうな相手からはそこそこ奪い取る、とか。


そうやって、バランスをとるのすら自分のためだという自覚もハッキリとしていた。



飄々と逃亡し続ける日々も、ハラハラとしたが、実はそこまで嫌いではなかった。



結局は、悪事を働くことに刹那、心を痛めようがいつかは忘れるし、自分は生まれながらにして悪党なのだと実感していた。


きっかけがありこそすれ、結局は自分の根っからの性であるのだと。


だからオレは悪事を働きながら生きていける人間なのだと。


清い道徳や、青臭い人間関係、甘酸っぱい恋、小っ恥ずかしい夢なんてものを、悪事で塗りかえて生きていくような人間なのだと。






そんな所謂クズな自分が、大切なもの。


大切な人達。


大切な場所。


失いたくない諸々、だなんて……。










最初は、父性のようなものだったのかもしれない。



自分はその異常な学園生活の中、一番歳上であり、唯一成人していた。



自分が取り立てて大人だとは思っていないが、高校生はやはり子どもに見えた。


馬鹿で悪党なオレよりも凄い奴等だったが、小さなところで『やっぱりまだ餓鬼なんだな』と思うことがしばしばあった。


具体的には、無意味に気が短かったり、すぐに情緒不安定になったり、自分の価値観以外を認めなかったり、だ。



そして、こいつらが子どもであると気づいたとき、

自分には集団をまとめる力は無いが、出来るなら守ってやりたい、くらいの気持ちが小さく、ほんの小さく芽生えてしまったのかもしれない。



極限状態においての、突発的な異常な変化。


それが初まりだったのかもしれない。



そうでなくとも、自分には人を殺す度胸なんてない。


だから、どんなに悪党に成り下がろうとも、殺人だけはしないでおこうと思っていたのだ。




だからこそ、自分が殺してしまったと思い込んだときに、割と早く自白したのだろうと思う。


自分が生きる変わりに、子ども達五人が皆殺しにされることが、嫌だったのだろうと思う。


その時は既に、ほんの少しは、そんな気持ちを持っていたのだと思う……多分。


結局、オレが犯人ではなかったが、あれはそういうことだったのだろうと思う。



汚かった世界が、世界と呼べなくなったと知ったときにも、何故だか自分のような臆病者が希望を持つことができた。



希望ーーー絵空事のような、綺麗な言葉だ。


本来の自分にはほとほと縁のない、爽やかでキラキラと輝く言葉だ。




こんな薄汚れた自分が、そんな感慨を抱いてしまったときに、


嗚呼そうか、オレはこいつらが好きなんだ。


信頼しているんだ。


一緒に前を向いて歩きたいんだ。


甲斐性がないくせに、柄にもなく、見守ってやりたいんだ。


大切なんだ。


と、ただ自分の中で着々と静かに変化していった価値観に気が付いたのだった。



「葉隠、探したんだからね!ご飯できてるよ。みんなで食べよー!!ドーナツっドーナツっ」


「葉隠……貴様は馬鹿な癖に隠れることだけは一流だな。あぁ、影が薄いと言うべきか」


「葉隠くんは結構な逃走生活を送ってたらしいからね。ていうか十神くん、お腹すいてイライラしてる?」


「白夜様に褒められるだなんて……羨ましいし妬ましいわ!!」


「腐川さん、落ち着いて。十神くんの言葉はただの嫌味よ」



そんなものの存在を認めるようになってしまったオレは、だけど本質をそうそう変えられる訳もなかった。


ただ、そいつらを本気で悲しませることはやめとこう、くらいのことを、たまに気に留めるようになったかもしれない。




そして、もしかしたらオレだってまともな道を歩めるのかもしれない、だなんて、少しはーーー



悲鳴と、怒号と、咽び。


嗚呼、これは……。



大切な場所で、大切な人達の叫びが飛び交っている。


これはオレの悪事に対する罰なのかもしれなかった。


人の気持ちを理解した上で、人を泣かせ続けた、そんな罪に対する罰なのかもしれなかった。





そうだ、大切だった、気がする。



ぼんやりと靄がかかり、はっきりとその正体を見ることができない。


だけど、自分の心が誤魔化しようのないくらい、割り切れないくらいに、この上なく痛んでいることだけは、はっきりと認識ができた。









そして、その心地をまさに、絶望というのだろうと理解したのだった。



朝日奈「葉隠!葉隠ったら!」



ゆっさゆっさと体が揺れるのを感じ、意識が覚醒していった。




朝日奈「食堂で寝ないで部屋に戻りなよ!」


葉隠「……あぁ、そうだな」




何故だか、頭が痛い。


そして凄く虚しい夢を見ていた気がする。


だけど、大切なことだったような気がする。


そうだ、大切だった……何かが…




葉隠「いっつつ」



朝日奈「……どーしたの?頭痛いの?てか顔が真っ青じゃん!」


葉隠「……いや、平気だべ」


朝日奈「馬鹿なくせに変なときだけ気使わなくていいから!」




そうやって、貶してるんだか心配しているんだかの(多分どっちもだ)言葉を残して、朝日奈っちは厨房へと駆けていった。


お菓子でも持ってきてくれるのだろうか。



ふと時計を見ると、12時を過ぎた時間だった。


そういえば、夕食の後ココに来て眠ってしまったのだった。


今は深夜12時すぎなのだろう。



朝日奈「ほら!スポーツドリンクでも飲みなよ!頭痛って水分が足りないときに起きたりするらしいし……」


葉隠「へー、そうなんか。ありがとな」


朝日奈「全く……こんなとこで寝るからだよ」


葉隠「なーんか、子どもに看病されてるような変な心地がするべ」


朝日奈「なっ……子どもって!あんただけには子ども扱いされたくないんですけど!」


葉隠「ハハッ!朝日奈っちはそういうとこが子どもなんだべ!……ぁ」


朝日奈「そんなこと……!って、葉隠……どうしたの?本当に大丈夫?」




強烈な既視感に、激しい頭痛。


目の前の天真爛漫な少女が自分を覗き込む姿に、猛烈に込み上がってくる何かを感じた。



そして、この少女のことをもっとずっと前から知っているような気がした。



更に、それを思い出してしまってはいけないような気がする。



だって、思い出してしまえば、オレも、この少女も、本当はーーー




朝日奈「あんた、汗凄いよ!呼吸も荒いし、保健室行こうよ!」


葉隠「おう……」




そんなわけない。


知っているわけがないのだ。



だって、自分のような小悪党な人間が、こんな闇を全く知らないような純然な少女と親密であったはずがないのだから。



以上です。
次の更新は三月に入ってからになると思います……すみません。


十神のお頭が足りないと言っているのにその十神に殺られてる霧切さん・・・

>>209
すみません……
霧切さんは学園が安全だと仮説を立てていて油断してたとか、男女の体力差とか、武器持ちの方が有利だとか、そういうことでここは一つ多めに見てください……



次は3月だと言ったのに、忙しいときほど文書が出てくる不思議。
予告しといて申し訳ないですが、今から更新します。



朝日奈「ええっと、どうすればいいんだろう」



保健室に来たものの、保険医がいるわけでもない。


その部屋にあるのは何の変哲もないベッドと、各種消毒液等の救急道具、それから血液パックや点滴だ。


点滴を打つのが一番いいのだろうが、朝日奈っちにそんなことが出来る知識があるとは思えない。



葉隠「朝日奈っちがチューしてくれたら治るべ!なんつってな!」


朝日奈「な、な、な……ななな、そういうの止めてよ!!」



顔を真っ赤にして怒っている。


高校生にしても純粋すぎる。


今時中学生だってこのくらいの冗談は軽く受け流せるだろうに。


やはり、さっきの既視感は何かの間違いだ。



葉隠「冗談だべ。んじゃあオレはこの部屋でもう一眠りするべ!おやすみんみんぜみ~」


朝日奈「あ、あのさぁ、葉隠……」


葉隠「ん?」



朝日奈っちは俯いて、オレの服の裾をキュっと摘まんでいた。


心なしかその声は切ないものに聞こえる。


なんだ、この青春ドラマのようなシチュエーションは!


しかもここは保健室。


なんとも背徳的だ。


いやいや、いくらオレでもこんな純粋な子を引っ掛けようだなんて……でも実際、朝日奈っちは可愛い。


待て待て、もしそんなことになったらオーガに殺されるんじゃねーか!?



売春駄目、絶対。



葉隠「朝日奈っち……穢れた道に足を踏み入れちゃ駄目だべ」


朝日奈「は?」


葉隠「あ、いえ、なんでもないです」




珍しく格好つけてみたが、どうやら間違ったらしい。


慣れないことをするもんじゃない、恥ずかしすぎる。




朝日奈「あのさぁ……あんたの占いって3割当たるんだよね?」


葉隠「おう!なんだ、占ってほしいんか?」


朝日奈「……最近ね、変な夢を見るんだ」


葉隠「……へんな、ゆめ」



『変な夢』。


なんだろう、物凄く嫌な感じがする。


咄嗟にさっき夢を見ていた感覚が頭をよぎるが、やはり上手く思い出せない。



朝日奈「なんか、いつもぼんやりとしちゃって思い出せないんだけどね。どうしても、ただの夢だとは思えなくって……」


葉隠「でも実際、ただの夢だべ?」


朝日奈「そう、なんだけどさ……。ねぇ、葉隠」


葉隠「……なんだべ」





朝日奈「この学園、なんかおかしくないかな」


葉隠「いや、そりゃ誰がどう考えてもおかしいべ。閉じ込められてるしな」


朝日奈「そうじゃなくって、なんか、こう……たまに思うの。ここって危険な場所なんじゃないかって。だけど、ここから出ちゃいけないんじゃないかって……」


葉隠「は?なんでだ?」


朝日奈「分かんないよ!ただ、変な夢を見た後はいっつもそう思っちゃうの!夢の内容も覚えてないけど、なんか不安になっちゃうし……!」



朝日奈っちは小さな肩をふるふると震わせていた。


ここは抱きしめるべきなのだろうか。


そうだとしても犯罪者にされそうなので御免被る。




葉隠「なんつーか、朝日奈っちは多分、閉じ込められてるっていう環境に不安になってるだけだべ。占うまでもないべ!」


朝日奈「そう……なのかな」


葉隠「おうよ!」



とりあえず適当に元気付けてみたが、なんとなく朝日奈っちの言い分が気にかかった。


『この学園は危険なのではないか』

『しかし、ここから出てはいけないのではないか』



そもそも出られないのに、なんだって出られることが前提の考えなのだ。


正直オレとしては、飽きるまではここで暮らしてもいいかーくらいに思える。(追ってから逃げることもなくなるわけだし)


それに、この学園が危険だとして出てはいけない理由なんて無いじゃないか。


これではポジティブなのかネガティブなのかも分からない。



……にも関わらず、何故か耳に残る。



朝日奈「うん、そうだよね。ありがと……おやすみ」



まだどこか考えにシコリが残っているようだったが、朝日奈っちは就寝の挨拶をして保健室を後にした。


オレは、ふぅ、と一息ついて真っ白なベッドに体を倒した。


この学園に閉じ込められてからどれくらい経ったのだろう。


面倒だったため日付を数えていなかった。


明日十神っち辺りに聞いてみようか。







……そういえば、自分は頭痛のために保健室に来たが、保険医どころか看病してくれる人もいないこの状況では自室で寝るのと同じではないか。



なんだか広くて落ち着かないし、保健室だなんて、幽霊的な何かがでる鉄板ではないか……!


いや、オカルトは信じていないけども。

オカルトは信じていないけども。




葉隠「まぁいいや……眠いべ」



頭痛はいつの間にか綺麗さっぱりなくなっているし、ベッドは暖かい。


さっきまで寝ていたためか、睡魔はすぐに襲ってきて恐怖を食い尽くした。




……そうして、眠気に身を落とそうとした瞬間に、保健室のドアが勢い良く開く音がした。





朝日奈「葉隠……!葉隠、葉隠、葉隠ぇぇえ!!聞いて!分かったの!分かっちゃったの!思い出したの!!うぁ、……うわああああああああああん!!」



折角眠ろうとしたのに、またゆっさゆっさという揺れと、訳も分からない唐突な泣き声に起こされてしまったのだった。



朝食会……だなんていうこの会合も、今となっては皮肉に感じてしまう。


オレは珍しく遅刻もせずに、この会に出席を果たしていた。



ちらりと朝日奈っちの様子を見ると、あからさまな隈が出来ている。


人の顔とは一晩でこれほどまで変わってしまうのだろうか、と思わせるほどだ。


かくいうオレも、あれから一睡も出来なかった訳だが、あんな酷い顔にはなってはいないと思う。







石丸「むっ!十神くんと江ノ島くんがまだ来ていないな!」



舞園「あの、十神くんは今、部屋に閉じこもって作戦を練っているんです」


石丸「作戦……?」


舞園「はい。ここから脱出するための作戦です。江ノ島さんはそのお手伝いをしているようなので、後で私が二人の朝食を持っていきますね」



おぉー、と一部から関心の声だか歓声だかがあがった。


脱出の目処がたったのか!とか、

さすがは超高校級の御曹司!とか、

そんな声も聞こえてきた。




全てを思い出したオレとしては、演技力に自信もないことだし、どんな反応をすればいいのか分からず結局舞園っちをチラリと見るだけの反応になってしまった。



そしてタイミングよく、舞園っちとカチリと目が合う。


あ、バレた、と思った。



石丸「ハッ……ま、待ちたまえ!男女が一室で長時間共に過ごすなど……不健全ではないか!」


桑田「いや、そんなこと言ってる場合じゃねーだろ……」


石丸「それに、あまり根を詰めすぎるのもよくないぞ!僕が二人を呼んでこよう!」


苗木「石丸くん!実は僕がさっき呼びに行ったんだけど、今いいところだから出れないって言われたんだ!」



……この様子だと、苗木っちも全部思い出している。


他のみんなはどうなのだろう。


江ノ島っちのことも気にかかる。


……ここでの江ノ島っちは戦刄っちだよな。


朝食会に姿を現さないということは、協力関係になったということだろう。


しかし、何故戦刄っちが?


何が起こってんだ……と、疑問がつきない。



ふと朝日奈っちを見ると、さっきよりも青い顔をしているような気がした。


その近くにいるオーガが気にかけているようだが、逆効果だ。


こっちもどうにかしねーとな。






……と、色々と考えなきゃいけないことがどんどんと浮かんできて、ただでさえ頭を使うことは苦手なため、脳みそが筋肉痛になりそうだ。



早いとこ舞園っちと接触しねーと……と、オレは溜息を一つ吐き出した。



朝食会が終わってすぐのことだ。


舞園っちが図書室で一人になったところを見計らい、声をかけた。




葉隠「よーっす、舞園っち!ちょっくらオレの部屋で、お家デートでもしねーか?」



舞園っちはそれだけで悟ってくれた。


はい、分かりました、と二つ返事で了承されたのがその証拠だ。


そうでなければ尻軽すぎんぞ舞園っち!









葉隠「えぇーっと、ズバリ今、誰がどうしてて、何がどうなってるんだべ?オレでも分かるように説明してくれや」



舞園「……大神さんと戦刄さんは、受け入れてくれると判断しました。だからお二人には本当のことを告げて、協力してもらっています」


葉隠「オーガはともかく……戦刄っちもか!?戦刄っちの演技じゃなくて!?」



舞園「葉隠くん、戦刄さんが演技ができるような器用な人だと思いますか?」


葉隠「いや、でも江ノ島っちになりきるくらいの演技力はあるべ……?」



舞園「そうですが、あれは例外ですよ。恐らく何ヶ月も練習したんだと思いますよ、彼女のことですし」


葉隠「まぁ、確かに戦刄っちはかなり残念な奴だかんな……」




舞園「えぇ、そんな彼女が納得するように、説得したまでです」




そう言って目の前の美少女はにっこりと微笑んだ。


その笑みにうっすらと寒気を感じる。



あー……なんだかこの美少女に説得されてしまう残念な軍人が目に浮かぶようである。


これを小悪魔の笑みと呼ぶのだろうが、如何せんこの小悪魔は悪魔力が高すぎる。


恐ろしい。




葉隠「……お、おう、なんとなく分かったべ」


舞園「それから、冬子ちゃんと霧切さん、苗木くんは記憶を取り戻しています」




おうふ、なんだか仲間外れにされていた気分だ。


とか、そんなことを口にして拗ねている場合ではないことくらい、分かっている。




葉隠「そっか。実は朝日奈っちも戻ってんだべ。んで、十神っちは?」


舞園「いいえ。まともにお話ができるような状態ではありませんし……。だから、彼には縄で縛られてもらってます」


葉隠「……そうかい」



舞園「葉隠くんは、冷静なんですね」


葉隠「……まーな。オレはもともと、希望もって生きてるような人間じゃなかったし、ちょっとキツイ状態くらいなら比較的まともでいられる自信はあるべ」


舞園「葉隠くん……」



葉隠「まぁ、我が身が安全ってことが前提だけどな!」



目の前の美少女から、さっきまでの少しばかりの尊敬を返してください、というような視線を感じた。


それに気づかないフリをして会話を続ける。




葉隠「その様子だと、腐川っちも霧切っちも苗木っちも、ヤバい感じか?」



舞園「……はい。冬子ちゃんは、まだ軽症です。十神くんへの愛で自我を保っているような状態ですけど」


葉隠「なんつーか、歪みねぇべ」



舞園「それに冬子ちゃんは、負の感情がキャパシティを超えるとジェノサイダーさんの方へ行くようになっているんだと思います。もともと解離性同一性障害って、そういうものですし……」


葉隠「そうなんか、いいのか悪いのか微妙なとこだべ……」




もしそうなっているのだとしたら、ジェノサイダーがいないと腐川っちはどれほど卑屈になっていたのだろうか。


あのままでも、ものすっごく卑屈でネガティブなのに、と考えて、少しだけ殺人鬼に感謝することにした。



舞園「それから、霧切さんは一見冷静に見えますが、その実ものすごく不安定になっています」


葉隠「霧切っちは責任感強いからなー」



舞園「はい、十神くんがあんな風になってしまった今、自分がしっかりしないといけない、と考えているんだと思います。そのおかげで、表面上は冷静ですし、洞察力や推理力なんかは健在ですが、気をつけるにこしたことはないと思います」


葉隠「了解だべ」




舞園「それで……朝日奈さんは大丈夫ですか?」


葉隠「いんや、参ってんべ。でも腐川っちや霧切っちと話せばちょっとは落ち着くんじゃねーか?基本的に単純だからな。朝日奈っちには、オレが諸々お伝えしておくべ」




舞園「……お願いします」



舞園っちは憂いを隠そうともせずに、目を伏せていた。



舞園っちも本来、オレみたいな適当に生きているような人間ではない。


むしろ真逆で、真面目で堅実な奴だった。


この事態に参っていない訳がないのだ。


ここまで話させたことも、無理をさせたと思う。


しかし、まだ色々と確認しなければならない。




葉隠「んで、苗木っちは?」


舞園「苗木くんは……」




葉隠「……」



舞園「私には……どうにもできないんです。だって、私が原因の一端を担っているんですから」


葉隠「……オメーが責任を感じる必要は全然無いと思うべ、オレはな」


舞園「……ありがとうございます、葉隠くん」





舞園「葉隠くん、お願いします。みんなを、苗木くんをどうか、どうかお願いします」



誠実な美少女は屑に向かって深々と頭を下げた。


震える声を絞り出すその様子に鬼気迫るものを感じる。



オレはただ、今までよく頑張ったな、と言って、そいつの頭を軽く撫でた。



舞園「あの……ありがとうございます、葉隠くん。意外な包容力に驚いてます」


葉隠「……それは褒めてんのか?」


舞園「もちろんです!」



うふふっ、といつものように笑う彼女の声は、既に震えていなかった。


どうやら少しは落ち着いたらしい。




舞園「それで、今私達が何をしているのか、何が分かっているのかを説明しますね」


葉隠「おう!出来るだけ分かりやすく頼むべ!」



舞園「私、冬子ちゃんの護衛をしなきゃならないこともあって、親睦を深めようと一緒にお風呂に入ったことがあるんです」


葉隠「お、おう、その話本当に必要か?」




舞園「……必要なんですぅ!そのときに、ふとした拍子に冬子ちゃんが転んでしまって、ジェノサイダーさんに入れ替わったんです」



~jenosaida~


ーーーーーー


目覚めると、そこは大きな風呂場だった。


裸の自分の目の前に、やはり裸の女がいる。


根暗が進んで風呂に入るだなんて、珍しいこともあるもんだ、とちょっと驚く。



そんでもって、取り急いでの問題があったので、とりあえず声に出してみた。



ジェノ「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!なーんか知らねーけど、猛烈に頭が痛いんですがー!」


舞園「あ、あの……ジェノサイダーさんですか?」



ジェノ「あんるぇー?見覚えない女と根暗が百合百合してるとこだったのかしらぁーん?」



舞園「冬子ちゃんと洗いっこしようと思ってたんですけど、冬子ちゃん滑っちゃって、頭を打って気絶しちゃったみたいなんです」


ジェノ「なぁーるほどなるほどなるほどねぇ~ん」



この頭の痛みはこれが原因ってわけか、と一人納得してウンウンと頷いた。



舞園「あの、ジェノサイダーさん」



裸の少女はキリッと眉をあげてこっちに向き直った。



えぇー、何かしら何かしらこの展開!


本当に百合百合ってわけ?



ジェノ「最初に言っとくが、あたしは萌える男子にしか興味ねーからなぁ!!ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!」


舞園「あ、いえ、あの……教えてほしいことがあるんです」



ジェノ「あぁーん?」


舞園「あの、十神くんについてなんですけど……」


ジェノ「あらまぁー!あたしと白夜様とのラブリィィな関係を知りたいって訳ねぇ!?」




ああん、そうよそうよそうよね!


あたしと白夜様の、ああああ、あの時のこと、忘れもしないわああ!




ジェノ「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!」



舞園「やはり、あなたは記憶を保持できていましたか……」


ジェノ「最高……最高なのよぉ白夜様はぁ……白夜様なら殺さなくてもいいって思ってたほどなのよぉ~!さいっこーに萌えるのにぃ……!アラ不思議!なんつって!ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!あああん、白夜様ぁ!」



舞園「……彼についての最後の記憶はどの様なものか、教えてください」




あたしと白夜様の愛の物語を結末だけ御所望だなんて、とんだせっかちさん!


まぁいい、まぁいい、話してやろう、最後に見た愛しくて狂おしい白夜様のお・す・が・た・を!



忘れもしない!!


あの時のあたしはさいっこーに高ぶってたわぁ~。


え、なんでかって、そんなの知るわきゃねーだろーが!


目覚めた瞬間から滾ってたんだよぉ!


ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!




なんだか分からないけど、とにかくとにかく萌える男子を切り刻みたい衝動がやばかったんだっつーの。


そんでそんでぇ~、目の前に麗しの白夜様がいたの~っっ、キャッハー!



もっと詳細に?


んなこたぁどうだっていいっしょー!


実際覚えてナッシング!てへぺろ~。


つーか気持ちよく語ってんだから口挟むなっつーの!




あぁ~~そう、そうそうそうだわぁ、あのとき、麗しの白夜様が、あたしを抱きかかえてたの!


ダーリン!!ムッハー!



そんなの我慢できるわきゃねーし!


我慢する必要もないしょ?



ハァ?だから知らねーっつーの!


確かに白夜様は殺さなくてもいっかーって思ってたけど、そんときは殺りたくて殺りたくてたまんなかったんだから仕方ないっしょ。



ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!



あぁぁあぁ~……思い出すだけでたまんないわぁ~……頬の傷口からチロチロと血を流す白夜様ぁあん。


怯えが隠せてない瞳も、一生懸命歯を食いしばってたとこも、満身創痍なお身体の全部ぜーんぶが萌・え・要・素!


満身創痍?あたしが目覚めたときにはすでに白夜様はボロボロだったんだって!


ハァ~ん、そんな姿もす・て・き。



そうそうそうそう!!


ボロボロの身体なのに、あたしを必死に抱きかかえて走る白夜様ぁ~ん……たまらなく扇情的だったんですっっ!


ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!



もーぅ、一思いに殺っちゃおうってなって、白夜様の足にハサミをぶっ差しちゃいました!


なんかそっから白夜様はブチ切れモードに入っちゃってぇー、ハサミを取り上げられちゃったあたしは揉みくちゃにされてぇ~


白夜様はあたしの首を鬼みたいな顔して締めてきてぇー……


まるで別人みたいにブッチブッチブッチ切れちゃう白夜様も麗しかったわぁ~、新・境・地っっ!!



ハァァァン!!素敵よねぇ~!


あんな萌えるシチュエーション始めてでぇ、今にも絶頂しちゃいそうだったぁ~!
!!!


まーぁ、そっからは気絶しちゃってわかんねーんですけどぉー!


あんだけ強く首締められて、もう死んじゃうぅぅん、って思ったしぃー、そっから白夜様がどうなったかって多分根暗も知らねーと思いまーす!



ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!!


ーーーーーー



~hagakure~


舞園「その証言と、霧切さんの推理から、ある仮説を立てることができました」


葉隠「……相変わらず無茶苦茶な奴だべ」



舞園「ジェノサイダーさんが急に十神くんを襲った理由は分かりません。冬子ちゃんの負の感情が爆発して、暴走した……とか、そんなとこだとは思います」


葉隠「……んで?」



舞園「十神くんは仕事中に敵に見つかり、追い詰められ、逃走していました。それも気絶した冬子ちゃんを抱きかかえて、自身も怪我をしながら」


葉隠「それだけ聞くと十神っちが熱血漢ヒーローみたいだべ」



いつもならハハハーと笑い飛ばす場面だが、流石にそのへんの空気を読むことはできる。





舞園「そんなときに、ジェノサイダーさんに襲われて、敵からも味方からも狙われる状況に……。十神くんは命の危機に陥り、そのショックで冬子ちゃんのように別人格を作り出してしまったんです」


葉隠「………はぁぁぁあ!?」



急な展開にオーバーすぎるリアクションをとってしまったかもしれない。


いや、これは自分でなくとも驚く。


あの不敵な十神っちが、二重人格……?



葉隠「それはいくらなんでもありえねーって!」


舞園「確かに、突拍子もない話ですが、今のところこれしか考えられないんです。……恐らく十神くんは、ジェノサイダーさんに襲われてから、ずっと人格が入れ替わったままなんですよ!」



葉隠「ハァァァ!?今でもか!?でも、腐川っちとジェノサイダーに比べて、十神っちは……なんつーか、十神っちのままだべ!」


舞園「えぇ、振る舞いはそっくりですね。しかし、その行動は不自然極まりないんです。葉隠くんに言っても理解できないと思うので割愛しますが、私も霧切さんも冬子ちゃんも十神くんの不自然さに違和感を覚えています」



流石に馬鹿にされていることは分かった。


しかし実際、自分は馬鹿なのだから仕方が無いか、と思う。


それに舞園っちや霧切っちがそういう結論に達したということは、十中八九当たっているとも思う。




葉隠「……急激な展開についてけないべ」



舞園「これで最後なので、頑張ってください」


葉隠「……はい」



舞園「今は十神くんの本来の人格を呼び覚まそうと、色々試行錯誤をしています。葉隠くんも手伝ってくださいね」



色々と不安要素はたくさんあったが、とりあえず、首脳陣の言うことを聞いとけばなんとかなるかー、と気を持ち直した。


それからのことは、十神っちが戻ってから考えればいい。


十神っちが戻れば……あるいは、全員また元気になるかもしれないし。


一抹の不安が残るが、今はそうやって取り急ぎの問題解決に取り組むことが一番だ、とソレを心に押し込めることにした。


今日は以上です。

途中何故か書き込めなくなって放置しちゃってすみません……。


生存報告、生存報告。
生きててすみません。

ひっそりと少し投下します。



~asahina~


思い出してしまった。


楽しかった二年間のことも、豹変した世界のことも、異常な学園生活のことも、絶望のことも……


私達がここにいる理由も。



私は一体どうすればよかったのだろう。

それにこれからどうすればいいんだろう。

そんなこと、分かる訳もない。



自分は肉体労働には自信があるけれど、考えることは苦手なのだ。


だけど、馬鹿にしていた葉隠は、舞園ちゃんと接触したり、私に情報を伝えてくれたりと、自分の役割を弁えている。



それに比べて、私はどうだ。


馬鹿にしていた葉隠以下だ。



何もすることができない。

みんなを励ますことなんて、私にできっこない。

十神に会うのだって怖い。


それどこか、誰かとただ話すことすら私を追い込んでいくのだ。




何もしたくなかった。


また忘れたかった。


本当に、どうして思い出してしまったのだろう。



自室のベッドで耳を塞いで蹲る。


ずっとこうしていれば、そのうち何も感じなくなるのではないかと思った。


この悲しみも、虚しさも、絶望の全てを感じないように、全ての感覚を遮断したかった。




ーーーピンポーン


インターホンが唐突になり、

耳を塞いだところで、聴覚さえ遮断できない事実に軽く打ちひしがれた。



ーーーピンポーン


もう一度鳴る。


……もしかしたら、葉隠かもしれない、とふと思った。


誰とも話したくはないけれど、あの葉隠なら、葉隠になら少しくらい愚痴ってもいいかもしれない。


葉隠ならきっと、私を励ましたりなんかしないから。




ーーーピンポーン


また……。


もしかしたら、苗木や霧切ちゃんかもしれない、と今度は思った。


そもそも、葉隠がこんなにしつこく私を訪ねる理由なんてない。


苗木か霧切ちゃんなら、いい加減、出なくてはいけない。


心配をかけちゃいけない。

これ以上、被害を広げる訳にはいかない。



私はその一心で、フラつきを感じながらもドアまで歩いた。



朝日奈「だれ……?」


大神「すまぬ。我だ」



その顔をみて、さぁーっと血が下がっていくのをかんじた。


今の私はあからさまに青い顔をしているだろうと思う。




大神「邪魔するぞ」



大神「朝日奈よ。具合が悪そうだが」



心配して、来てくれた、ということなのだろう。


そういうことに、なっているのだろう。



そんな行動が私の心に氷柱を突き刺して行く。



やめてほしい、と心底願った。


もう放っておいてほしい、と相手の目を見るのを拒んだ。



朝日奈「葉隠に教えてもらったんだけど……舞園ちゃんから本当のこと、全部聞いてるんだよね?」


大神「……うむ」



朝日奈「……どうして平気でいられるの?」



大神「朝日奈よ」


朝日奈「呼ばないで」


大神「……」


朝日奈「その姿で、その声で、私を呼ばないでよ!!」


大神「……落ち着け」




朝日奈「うるさい!!あんたはなんで平気でいられんの!?そんなの簡単だよね、だって、あんたは」



私は、相手が何を考えているのか、それを慮る余裕なんてとっくに失せていた。


いや、いいのだ。


そもそも、今はそんなことをする必要なんてないのだ。



だって、だって相手は……









朝日奈「あんたは人間じゃないんだから!!」


短くて申し訳ないですが、今日はここまでで。


地の文下手すぎワロタ。


相変わらず短いですが
今から投下します。



この偽物の学園に存在するのは6人の人間と、9つの人工知能。


しかも、その人工知能達は、あの絶望的な学園でコロシアイによって命を落とした旧友の姿をしている。



石丸、大和田、桑田、セレスちゃん、不二咲ちゃん、山田、

それに、舞園ちゃん、戦刃むくろ……さくらちゃん……。


みんな、私の記憶のままの姿で、違和感のない行動をとっている。


本当に、思い出さなければよかった。



朝日奈「さくらちゃん……」



ただ悲観して、涙を流すことしかできない自分に絶望した。


前に進むことを放棄して、全てを仲間に投げ出した自分に絶望した。


親友を象ったプログラムに八つ当たりした心の弱さに絶望した。


思い出に囚われ、割り切れない自分に、絶望した。



そして、この囚われの世界での生活を強いられることに、心底絶望した。


>>261の前にこれが入ります。すみません。



止まらなかった。


喉の奥から出てくる叫びは、どうしても止まりそうになかった。


だけど、もし理性でこの言葉を止められたとしても、全て言ってしまっていたと思う。


それくらい許せなかった。


友達を冒涜するような、目の前の存在を許すことができなかった。



朝日奈「あんたは人間じゃないから、人の気持ちなんて分かりっこない!!私の気持ちなんて分かりっこない……!」


朝日奈「私を慰めにきたのだって、そういう風にプログラミングされてるからでしょ!?さくらちゃんの真似するように設定されてるからなんでしょ!!」


大神「……否定はできぬ。だが、」


朝日奈「うるさい!出て行ってよ!あんたはさくらちゃんじゃない!さくらちゃんは……さくらちゃんは死んだんだよ!!」


大神「朝日奈……」



朝日奈「さくらちゃんは、あの学園生活で死んじゃったの……もう、会えないの……」











朝日奈「出て行って」


それは自分でも驚くくらいの、冷たくて、無機質な声だった。



この偽物の学園に存在するのは6人の人間と、9つの人工知能。


しかも、その人工知能達は、あの絶望的な学園でコロシアイによって命を落とした旧友の姿をしている。



石丸、大和田、桑田、セレスちゃん、不二咲ちゃん、山田、

それに、舞園ちゃん、戦刃むくろ……さくらちゃん……。


みんな、私の記憶のままの姿で、違和感のない行動をとっている。


本当に、思い出さなければよかった。



朝日奈「さくらちゃん……」



ただ悲観して、涙を流すことしかできない自分に絶望した。


前に進むことを放棄して、全てを仲間に投げ出した自分に絶望した。


親友を象ったプログラムに八つ当たりした心の弱さに絶望した。


思い出に囚われ、割り切れない自分に、絶望した。



そして、この囚われの世界での生活を強いられることに、心底絶望した。



~naegi~


今は僕が見張りの時間だった。


十神クンの、見張りだ。





十神クンを監禁してから四日が経つ。


舞園さん達からは、朝日奈さんと葉隠クンが記憶を取り戻したと聞いたけれど、見張りは相変わらず僕と舞園さん、大神さん、戦刃さんの四人で行っている。



何故なら、葉隠クンは、話しかけて早々に、例によって軽犯罪臭のする話を持ちかけられたのであまり深く話していないし、


朝日奈さんは疲れているらしく、大神さんに今はそっとしておいたほうがいい、と言われたからだ。



しかしなんにせよ、二人もの記憶が戻ったことが収穫であるのは確かなのだ。


そして、十神クンは多重人格である可能性が高いことも分かった。


確実に進展している。それもいい方向に。


しかし、状況的には追い詰められているも言ってもいい。


……十神クンの記憶がそろそろもどらないとまずい。


みんなは、十神クンが姿を見せないことを怪訝に思いはじめている。


今朝も、なんとかギリギリ誤魔化せたものの、石丸クンは全く姿を見せない十神クンに軽く不満を覚えているようだった。


不二咲さんやセレスさん辺りは確実に何かがおかしいことを感じとっている。


いつ特攻されてもおかしくない。


故に、今日明日中に戻ってもらわなければならないが……。


どうにも手詰まりだった。



苗木「十神クン、あのね」


十神「……オレは……完璧なんだ……超高校級の御曹司なんだ……」


苗木「……」


試せることは試した。


ジェノサイダーよろしく、胡椒を振りかけてクシャミをさせた。


十神クンの好きなものを並べた。


僕達の楽しかった記憶を話した。



……そして、「君は十神クンじゃないよね?」と確信をついてみたりもした。


しかし、彼は自分が十神白夜だと言って聞かなかった。


多重人格であることと、その根拠を指摘してからというもの、情緒不安定さは更に増していた。


特に、『十神くんにしては、行動も思考も論理的じゃない』という指摘に対し、彼は酷く狼狽した。



どうやら、彼が十神クン自身にしろ、別人格にしろ、自分を十神白夜だと認識しているのは間違いない。



いい手が思いつかず、ハァ、とためいきをついたとき、

ーーーピンポーン

チャイムの音がした。



ヤバい、石丸くんやセレスさんだろうか、と一瞬血の気が下がる。




しかし、


葉隠「よーっす、苗木っち!十神っちと話させてくれぇ」


それは軽快で陽気な声だった。



彼は本当に、今の追い詰められている現状を理解しているのか、と思うくらいに、いつもすぎる飄々とした彼だった。


ドアをそっと開けると、能天気な笑みを浮かべて、ズカズカと部屋に入ってくる。



そして壊れたのようにブツブツと何かを呟き続ける十神くんにむかって、

「よぉーっす、十神っち!風呂入ってねーのか?髪がベタベタたべ!」

などと声をかけていた。



その仕草が、まるで自然なものであることに戸惑いを覚える。


彼は人一倍臆病であったはずだが、縛られているとはいえ、今の状態の十神くんが怖くないのだろうか、と。



葉隠「男同士の濃密な話をしなくちゃなんねーんだべ……苗木っちよ、ちょいと席を外してくれや」


僕も男だよ、と突っ込むのも面倒だし、葉隠クンはまだ十神クンと話をしていないため、大人しく席を外すことにした。




はぁ、と溜息をつく。


正直、葉隠クンの働きには全く期待できない。


……だなんて、葉隠クンには直接言えないけれど、彼に期待したことなど本当にないのだから仕方が無い。


何せ、彼に任せた仕事はだいたいが周囲の仕事となる。


そうでなければ7割が失敗する。


経験論だ。




苗木「ホント、どうしよう……」



腐川さんとジェノサイダーのように、クシャミ一つで人格が入れ替わったのならばどれだけ楽だろう。


そもそも、本当に十神クンが多重人格者なのかすら分かっていないのだ。


霧切さんの推論でしかない。


彼女を信じられない訳ではないが、やはり決定的とは言い難い。


この状況はまさに、絶望的だ。


心に黒い靄が、ゆっくりと広がっていくのを感じてしまう。






『どーしたの、苗木?悩みがあるときはドーナツが一番だよ!』


そのときふと、過去の一場面が蘇った。



あの頃の僕達は、重いものを背負ってはいたけれど希望に溢れていた。


どんなに暗くても、先が見えなくても、彼女は明るく振舞って周囲を元気付けていた。


その記憶が蘇り、フッ、と自然に口の端が持ち上がるのを感じる。



苗木「大丈夫。僕達はまだ戦える」



自然と呟いていた。


大丈夫、十神クンだって、この記憶を忘れたりなんてしないはずだ。


思い出せないだけで、きっかけがありさえすればいいのだ。


とりあえず、食堂に行ってドーナツでも食べよう。



『考え事をしているときは、ドーナツが一番』

底抜けに明るい彼女が、そう言ったのだから。



寄宿舎を歩いていると、目的地である食堂の方から、石丸クンと朝日奈さんの声が聞こえた。


何か叫び合っているようだ。


言い合いでもしているのだろうか、と僕は苦笑しながら食堂へと向かう。




しかし、食堂へと近づく度に、その叫び声に不安感がましていった。


どうも様子がおかしい。




ーーーガシャーンッ!!

明らかに、質量のある何かが、なぎ倒されたような音だった。


ただの口喧嘩というだけでは説明の出来ない、激しい音だった。



ドクッドクッ、と心臓がなり、いつの間にか嫌な汗をかいていた。


気が付けば早足になっている。


嫌な予感を飲み込んで、僕は食堂へと走った。



石丸「やめためえ、朝日奈くん!一体どうしたというのだね!!」


朝日奈「うるさあああい!!もう来ないでよおおお!私に、もう、もう構わないでよおおおおお!!」


石丸「落ち着きたまえ!そんなものを振り回しては危ないだろう!!」


朝日奈「いやああああああああ!!」




苗木「朝日奈さん!?何を……」


朝日奈「あぁぁあぁ……」



彼女は振り回していた包丁をカランッと力なく落とし、その場に泣き崩れた。



周囲の椅子はなぎ倒され、机には彼女が包丁で付けただろう、切傷があちこちについている。


そして彼女の身体には、今まさに暴れましたと言わんばかりの青アザが点々と見て取れた。




僕はというと、何が起こっているのかが全く分からず、呆然と立ち尽くすことしかできない。


呼吸すら止めていた。



隣では青い顔をして呆然と立ち尽くす石丸クンの唇が震えている。


その顔には困惑と恐怖が張り付いていた。



『どーしたの、苗木?悩みがあるときはドーナツが一番だよ!』



あの頃の、明るい声も笑顔も、一体どこへいったというのだろう。


彼女には記憶が戻ったと聞いている。


じゃあどうして暴れていたというのだ。




それを考えて、ドクドクと血液の流れが更に早くなるのを感じた。


心臓の音が胸を動かしている感覚を受け止め、その音に意識がいく。


途端、呼吸が荒くなり、嫌な汗は更にブワァッと全身を覆った。。



そんなはずない。


朝日奈さんは、優しくて、明るくて、いつも元気いっぱいで……


僕の知ってる朝日奈さんは……!




石丸「あ、朝日奈くん、疲れているのだろう。部屋で休みたまえ」


その声色は優しいものだった。

恐怖を押し込め、相手のことを思いやる、そういう言葉だった。



朝日奈「もうやめてぇ……もうやめてよぉ……」


しかし僕は、彼のそういった言動が彼女を更に苦しめるであろうことが、何となく分かっていた。

けれど、彼の言葉を止めることができない。

僕の喉はカラカラに乾いていた。



石丸「朝日奈くん、立てるかね?部屋まで送ろう。大丈夫だ。十神クンが今、ここから出る方法を考えているから」



朝日奈「う、うぅううゔぅ」



石丸「何か不安があるなら僕が聞こう。何でも言ってくれ」


だから、彼らしい責任感のある言葉、

それがトドメを指してしまうことも、僕はなんとなく分かっていた。


それでも止めることはできなかった。



その結果の

絶叫、である。














朝日奈「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



ツカツカ、と足音がした。


僕の背後からその人は現れた。


その姿を目視した僕は、目を見開き、息を飲む。



苗木「うそ、だろ」


やっと出た声は掠れたものだった。


僕はもう動く気力さえなかった。


止められるのが僕しかいないことは分かっていたけれど、僕がどうこうできる範囲をとうに超えてしまっていた。


全てがガランガランと崩れ去っていく音が聞こえる。


苗木「はぁっ……はぁ、ゔえぇぇ……」



その人物は、狂ったように……いや、狂ってしまい、叫び続ける朝日奈さんのもとへと、スタスタと歩いた。


思わず、あぁぁ……と声が漏れる。

僕にはもう、そうやって嘆くことしか許されていないようだった。


そして、その人は朝日奈さんの足元に落ちている包丁を拾い上げ、凄惨に笑った。




「フッハハハ……ククッ……ハハハハハハハハハハハハ!!」



「やってくれた……よくもやってくれたな、苗木誠ぉぉお!!」



「見ろ!!勝つのは、いつでもオレなんだよぉぉおお、愚民めがぁぁあ!!」






十神白夜は包丁を持ち、彼らしからぬ大声で笑っていた。


朝日奈さんの悲痛な絶叫と対象的なそれは、お互いの異常さを際立たせている。



苗木「あぁぁあぁ……」


力の入らなくなった足。

僕はとっくに尻餅をついていた。



しかし、その足に力が入ったからといって、僕に出来ることなんて何もないことは、明白なのであった。


以上です。
十神くんごめんなさい……>>1は十神くんのこと大好きです。



すみません、地の文下手すぎて訳わかんなくなってる人が多いと思うので、今のところのあらすじをまとめてみました。



希望ヶ峰学園の新入生15人が体育館に集まる。

何故か閉じ込められていることに気づき、学園で共同生活を送ることになるが、日に日に人が消えていく。

実は十神が一人一人殺し、各々の部屋に鍵をかけて死体をそこに放置していた。

十神が14人全員を殺害すると、何事もなかったかのように全員が復活し、十神以外の全員の記憶が最初に戻ってしまう。
(十神はコレを知っても何度も殺戮を繰り返していた)

しかし、舞園は何故か殺されても記憶を引き継げる。
(このことは十神に知られないように気をつけている)

舞園は、一人で十神を止めようと奮闘していたが、限界を感じて苗木に助けを求める。

苗木は最初は信じなかったものの、舞園の予言(腐川と霧切が消える)が当たったことにより、聞く耳を持つ。

苗木は舞園に、十神が全員を殺すとリセットされることと、生き残りが一人になるとリセットされるのではないか、という仮説を告げられる。



そして舞園にある作戦を持ちかけられる。

その作戦とは、

①不二咲の部屋の鍵を壊す。
②不二咲が殺された後、その死体を苗木のものに見立てて苗木の部屋に放置する。
③上記によって、苗木が死んだと十神に錯覚させる。
④苗木は教室に隠れ、機会を待つ。
⑤隙をついて、苗木が十神を殺す。

こうすることにより、苗木を生き残らせ、十神の記憶をリセットしようというものだ。
(ちなみに、不二咲が殺されるまで、苗木に手を出させないために、苗木に幼児退行のフリをさせ、舞園が付きっ切りでもおかしくない演出をしていた《黒歴史》)

しかし、実際問題、⑤については成功率は0%といえる。

それでも舞園はこの作戦を持ちかけ、苗木は何故か断りきれなかった。

そして作戦を実行すると、⑤を実行していないにも関わらず、全員が生き返り、リセットされた。

つまり、十神と舞園と苗木の三人が記憶を引き継ぐことができた。



苗木と舞園は話し合い、主な疑問点三つを挙げる。

①何故二人生き残っていたのにリセットされたのか。
②何故舞園は殺されても記憶を引き継げるのか。
③何故十神は繰り返されると知って尚、殺戮を繰り返すのか。

その次に、舞園が十神の性格に言及したことにより、苗木の失われていた記憶が戻った。

その後、いつも最初に殺される腐川を守るために、舞園は腐川にベッタリとくっつく。

苗木は十神にベッタリとくっつく。

舞園は腐川との仲を深めようと風呂に誘う。

しかし風呂で腐川が気絶し、ジェノサイダーに変わってしまった。

ジェノサイダーは記憶を保持しており、最後の十神との記憶を語った。

十神を殺そうとしたら、急にブチ切れて逆に殺されそうになったらしい。



その後、苗木と舞園は、腐川と大神と戦刃の協力によって十神を捕獲することに成功する。

十神を監禁することにし、確実に怪しまれるため霧切に全て真実を話すことになる。

真実を話すと、霧切は記憶を取り戻した。

霧切によると、十神は多重人格者の可能性が高い。
(十神にしては犯行が雑すぎるため)


その夜、葉隠は夢を見ていた。

しかし、朝日奈に起こされたことにより、心を痛めるような内容だったこと以外は忘れてしまった。

その後、朝日奈と少し話し、就寝しようとするも、朝日奈が記憶を取り戻して寝れなくなる。そして葉隠も記憶を取り戻した。

葉隠は翌日、舞園と接触し、お互いの情報交換をした。
(腐川の記憶も戻っている)

一方、朝日奈は塞ぎ込んでいた。

大神が心配して部屋にやってくるも、それが友人を象った人工知能であることを思い出してしまっていたため、追い返す。



十神を監禁して四日たったころ、苗木は十神を元に戻すにはどうしたらいいのか頭を捻っていた。

みんなに怪しまれているため、今日明日中に戻さないとマズイからだ。

すると、葉隠がやってきて、十神と二人きりにしてくれと頼まれたため、部屋をでる。

朝日奈の言葉(悩み事があるときはドーナツ)を思い出し、食堂へ行く。

そこには包丁を振り回す朝日奈と、宥めようとしている石丸がいた。

朝日奈は石丸に言葉をかけられたことにより絶叫。

そこに、監禁していたはずの十神があらわれ、朝日奈が落とした包丁を拾い上げて高笑い。






現在ここまでです。何か、おかしい点がありましたら教えて下さい。

何で戦刃が協力したとかは後で語られたりする?

>>292
そのつもりです。

申し訳ないですが、質問とかは答えないことにしました……。
完結時には疑問とかがなるべくなくなるように努力します。

今から少しだけですが、きりがいいので投下します。



十神白夜が、こっちに歩いてくる。


右手に包丁を持ち、笑ながら。


脳裏に浮かんだ言葉は、


『 コ ロ サ レ ル 』



苗木「あぁぁあぁぁ、ぁ……」


僕は相変わらず、呻くことしかできない。


逃げようと足をバタつかせるも、立つことにすら失敗していた。


ここから動かなければ、死ぬ。


死。







そして彼は緩やかに、その包丁を持った右手を、僕へと突き出した。



そう、緩やかに。


緩やかに突き出されたその手は、僕の前でピタリと止まる。



苗木「え……」


十神「何をしている。早く受け取れ」


苗木「え、ぇ、ぁ、」


十神「……愚図が。もういい。石丸
、お前が片付けてこい」



十神クンは傲慢な仕草で、石丸クンに包丁を渡し、アゴで厨房を指した。


誰がどう見ても『厨房にこの包丁を片付けてこい』という仕草だ。



石丸「あ、あぁ……承知したが、朝日奈くんは……一体どうしてしまったというのだ」


十神「どうもしていない。ハッ、気に食わんな。メソメソと」


石丸「……あと、さっきの高笑いはなんなのだね」


十神「勝利宣言だ。お前には関係ない」


石丸「それと……こんなことを言うのもなんだが、君は入浴を怠りすぎている。髪の毛がテカテカしているぞ」


十神「……黙れ。オレとしても不本意だ」



朝日奈さんの絶叫はいつの間にか嗚咽に変わっている。


そんなことにも気づかなかったほど、僕は混乱していた。




石丸「では、僕はこれを片付けてくる。十神くんは彼女を。僕では、駄目なようだ……」


朝日奈さんを追い込んでしまったのが自分であることを、さすがの石丸クンでも感じとってしまったようだった。


眉間のシワがいつになく濃い。


彼は、よろしく頼む、とお辞儀をして厨房へと入っていった。





苗木「とがみ、くん……?」



十神「フン、貴様はいつまでそんなところに座っているつもりだ。……まぁいい。今は朝日奈だ」



彼はスタスタと、床に這いつくばる朝日奈さんへ近づき、朝日奈さんの肩を乱暴に掴み、


そして、





十神「いい加減にしろ!!」



右手でグーの形を作って、それを彼女の顔に思いっきりメリ込ませた。


早い話が、殴った。



朝日奈「うあ……あぁぁあ、うっ、うぅ」


十神「うるさいと言っているだろ!」



十神クンは朝日奈さんを、2発3発と殴り続けた。


手加減しているとは思えない。



苗木「え……」


石丸「十神くん!一体何をしているのだね!」


戻ってきた石丸クンが、十神クンを取り押さえる。


ずっと監禁されていた十神クンは、筋肉が衰えているらしく、簡単に動けなくなったが、まだ朝日奈さんに殴りかかろうとしているのが表情でみてとれた。


僕は相変わらずそれをただ座って見ている。



石丸「女性に手をあげるだなんて、言語道断だぞ!」


十神「女性……?ハッ、オレはこいつを女だと思って接したことなど、一度もない」


石丸「何!?彼女はどこからどうみても女性ではないか!」


十神「どこをどう見たら女なんだ。具体的に言ってみろ」


石丸「だから、その……体つき、というか……一際、胸囲が目立っている、な」


十神「……」


石丸「何故黙るのだね!いや、違うのだ。僕が彼女を破廉恥な目で見ている訳ではない!ただ、その、視界に入るものは仕方が無いではないか!」


十神「……フン、まぁそうだな。体型だけは女らしいと認めてやらんでもない。だが、それだけだ」


石丸「それだけ?それで充分だろう!」


十神「では石丸。そもそもお前は何故『女性に手をあげるなんて、言語道断』だと思う?」


石丸「非力な存在を守る!当たり前のことだ!」



十神「非力?こいつのどこが非力なんだ。スポーツ万能だという触れ込みだろ」


石丸「いや、しかし、生物学的に男女差をみるとやはり、女性の筋力は男性より発達しにくくてだな」


十神「では、持って生まれた体は男だが、意識は女……というような性同一性障害の人間は殴ってもいいということだな。筋力に何の問題もないぞ」


石丸「そ、そういうことではない!」


十神「貴様が生物学的な話をはじめたんだ」


石丸「そ、そもそも、暴力を振るうという行為自体がだな、」


十神「待て。論点をすり替えるな。貴様は最初に、女だから手をあげるな、と言ったんだ」



僕はまだ、相変わらず床にお尻をつけたまま、その言い争いを眺めていた。


こんな光景を、過去にも見たことがある。


こんなとき、僕はいつも苦笑しながら、まぁまぁ、と間に入っていたのだ。


そんな懐かしい光景を思い出すほどに、今の彼は、



朝日奈「……と、がみ?」



十神「……正気に、戻ったか」



朝日奈「とがみ、なの?」


十神「どこからどうみてもそうだろ」




彼の朝日奈さんを見下すような態度は不遜であったが、それはどこかバツの悪さを誤魔化しているようにも見えた。



葉隠「よぉーっす!って、うわ、なんだこの惨状……机がボロボロだべ」


苗木「葉隠、くん」


葉隠「どしたんだべ苗木っち。そんなとこに座って」


苗木「十神くんを、戻せたの?」


葉隠「おうよ!これがオレの実力だべ!」



褒めて褒めて、と言わんばかりの笑顔で、葉隠クンはウインクをしてみせ、親指をグイッとあげた。


短いですが、以上です。

今更ながら、章に分ければよかったと後悔してます。

もし章があったとしたなら、次の投下時には最終章に突入出来るかと思います。

更新します。

誰視点でもないところは、アスタリスクさんが入ります。

~**~
↑こんな感じに



~**~


十神っちは十神っちじゃねーか、と葉隠康比呂は拗ねたような思考を持っていた。


人格が違うだなんだと言われても、葉隠は十神白夜が自分の知っている『十神っち』と何が違うのかが、てんで理解できなかったからだ。


例え別人格と呼ばれるものであったとしても、やはり彼は彼であろう、と確信していた。



ジェノサイダー翔が腐川冬子の一部であるように。


表でも裏でも、彼女が十神だけを愛しているように。



葉隠には、難しいことはよく分かっていない。

多重人格の仕組みも、治療法も知らない。


しかし、その脳味噌と体が同じなのだから、人格が変わろうと、『人間』が変わるわけではないんじゃないか、とぼんやりそんなことを考えていた。


だから、『十神を戻すのを手伝え』と言われたところでピンと来なかった。


それに霧切や舞園の持っている知識で解決方法がないのなら、自分にはやることはない、と思っていたし、

首脳陣からの指示がなかった。
(これは葉隠が全く戦力に入れられておらず、また動いている全員が切羽詰まっており、視野が狭くなっているためであった)


だから彼は手伝わなかったし、少し拗ねていた。



何より彼は、十神が多重人格ではないんじゃないか、とすら思っていた。


『殺人鬼の人格』らしいが、それは実に十神らしいではないか、本人そのものではないか、と。


何故なら、あのコロシアイ学園生活において、結局は殺人を犯さなかったものの、十神は『このゲームで必ず勝つ』と豪語していたからだ。


それは『俺は人を殺してここを出る』という宣言そのものである。


だから、臆病者の葉隠にとっては『殺人鬼の人格』と言われたところで、十神は十神のままとしか思えなかった。


もともと、葉隠は十神に怯えていたのだ。



しかし、あの学園を脱出した時点では、十神は確かに葉隠にとってのリーダー的存在となっていた。


(苗木や霧切も仕切り役はしていたが、どんなに葉隠がお荷物な状況であったとしても、必ず指示を出してやっていたのは十神だけだった。

例えそれが、『黙っていろ』や『何もするな』であったとしても)



十神に対して、もう殺されたりしない、だって仲間だから、と思っていたことも確かだった。



では『殺人鬼の十神』と『リーダーの十神』との違いは何か。


それは大神さくらの命をかけた行動が与えた、価値観の変化に他ならない。




そして、だとしたら『人格を戻す』よりも『記憶を戻す』ことを優先したほうが、人殺しをやめてくれるのではないか、と考えたのだった。


とりわけ、コロシアイ学園生活の記憶を。





葉隠がそこに思い至ったときには、十神が監禁されてからもう四日が経っていた。



彼は霧切達を盲信しなかった。

できなかった。


何故なら彼は物事を深く考えることができない故に、この場においては誰よりも冷静であった。


そして臆病な性格のこともあり、任せておけば何とかなる、と思いたい一方で、『今のこいつらには任せられない』という思考が付きまとっていた。


そんな、馬鹿で臆病な彼だからこそ、苗木達とは違った道を導き出せたのだった。







しかし、その『十神の記憶を戻そう』という試みは、結局のところ完全に無駄であった。



葉隠がその頭で四日間考えたその試みは、完全に無駄であった。


何故ならそれは、彼が知らないうちにとっくに苗木達が『人格を戻す』ことの手段として試していたし、それでも十神は塞ぎ込んだままであったからだ。



苗木達は十神に、思い出を語って聞かせていた。

平和に過ごした二年間に、どんな人間がいたかを説明していた。



しかし、そうしたところで十神は精神を病む一方であった。


葉隠はそれを知らなかった。


だからこそ葉隠は動くことができた。



葉隠「なぁーなぁー、十神っち。オレ達のこと、本当に忘れちまったんか?」


十神「……オレは……十神……なんだ……オレは、」


葉隠「ん?なに当たり前なこと言ってんだ?」


十神「は……」


葉隠「あー……、お前は十神っちじゃない!偽物だ!とか言われたんか?ひっでぇこと言うべ。十神っちは十神っちだよな?」


十神「はが、くれ」



十神のそれは、縋るような声だった。



十神白夜はようやく話しかけてくる相手に視線を向けた。

ずっと下を向き、ぶつぶつと独り言を呟く機械だった彼が、ようやくコミュニケーションをとる体制に入ったのだ。


葉隠「十神っち、オレのこと知ってるか?」


十神「葉隠、だ」


葉隠「まぁ、そりゃ知ってるよなぁ……。んじゃ、オレも最近思い出したことなんだけど、オレ達が同級生だった記憶あるか?」


十神「……っ、はっ……ぁ」


途端、十神は目に見えて苦しみはじめた。



葉隠はどの言葉が地雷だったのかが分からず困惑する。


急に目を見開き、荒い息を吐く彼をとにかく落ち着かせようと、背中を軽く撫でた。



葉隠「十神っち。オレも最近思い出したんだって。だから大丈夫だし、覚えてないなら覚えてないって言ってくれれば充分だべ」


十神「そう、じゃない……」


葉隠「ん?」


十神「コロシアイ、黒幕、江ノ島、外の状況、未来機関、ジャバウォック島、全部、知っている……」




『十神の記憶を戻そう』という試みは、結局のところ、それ自体は完全に無駄であった。


何故ならそれは、葉隠が知らないうちにとっくに苗木達が『人格を戻す』ことの手段として試していたから。



そしてその結果、苗木達が気付くことはなかったが、十神の記憶はとっくに戻っていたから、だ。





十神「オレは分かってる……十神白夜で、お前らは同僚、で、……あ、ぁ……でも、オレは、何度も、コロ、し、た……苗木も、お前も、腐川も、あいつらも、オレが、オレが何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も」



肩で息をしながら、ブツブツと早口で呟く彼に、葉隠は目を見開いて困惑していた。


記憶があることにも驚いたが、それ以上にこんな弱々しい十神を見たことがなかったからだ。



葉隠が知る由もないが、結局のところ、霧切の目測は当たっていたのだ。

彼は命の危機に瀕し、人格が分裂していまっていた。


そして今の十神は、『本来の記憶』と『殺人鬼の記憶』が混同していた。


人格の統合。

分離された人格を一つにまとめることを表すこれは、解離性同一性障害(多重人格)が治癒されている証拠である。


十神は何かの拍子に、人知れず、人格の統合を果たしていた。


『お前は十神じゃない』と言われ、無意識に十神自身の記憶を取り込もうとした結果なのかもしれない。


しかし、この場合においての人格の統合は決して喜べるものではなかった。



『この手で無意味な殺戮を繰り返し、何度も仲間に手をかけた』


その事実が、十神の精神を痛めつけていたからだ。



それを人は『罪悪感』と呼び、小さなこれを積み重ねることにより、心を整理する術を身につけていく。


しかし、十神は罪悪感というものを感じたことがほとんどなかった。



何故なら、彼はコミュニケーションに興味がなかったからだ。


十神自身が人を傷つけてしまったとしても、十神にとってそれはとるに足らない出来事であった。



一応は仲間と認めている苗木達に対しても、彼は雑な態度を取り続けたが、彼らは十神の性質を充分に理解していた。


腐川は言わずもがな、苗木や霧切、葉隠は、十神の言葉を鵜呑みにして傷付くことなどなかったし、朝日奈は傷付くよりも言い返すような人間である。


よって、やはり十神は『罪悪感』をほとんど知らないのだ。


故に、彼は今、その感覚が強く胸を締め付けることに、酷く困惑していた。



十神「泣きわめく腐川を刺して、油断した霧切を刺して、命乞いする葉隠を刺して、抵抗する苗木を刺して、暴れる朝日奈を」


葉隠「十神っち……」


十神「何度もだ。何度も何度も何度も何度も何度も」






葉隠「んー……てかよ、なかったことにすりゃいいんじゃね?」



しかしこの小悪党、葉隠安比呂は、罪悪感からの逃れ方を誰よりも心得ていた。

そしてクズだった。



錯乱しかけた十神が、言葉を失うくらいには。



葉隠「幸い、苗木っち達は十神っちのこと二重人格って思ってるから、腐川っちとジェノサイダーみたいに記憶を共有してないから関係ありません!みたいな顔しとけばいいんでねーの?
実際、殺しまくってたときは記憶なかったんだろ?関係ねーって!」


十神「……」


葉隠「つーか、仲間を殺して後悔する十神っちなんてらしくねーべ!腐川っちなんか、好きな人何人も殺してっけどあんな感じなんだぞ!?」


十神「……」


葉隠「大丈夫だって、オレだけは知っちまってるけど、バラさねーべ!散々十神っちには世話になったし文句言えないべ」


十神「……」


葉隠「なぁ~~頼むってぇ!今マジで十神っちが必要なんだって!みんな正気じゃねーし……なんとかしてくれよぉ~」


十神「……」


葉隠「お願い!トガえもん~~!」



十神「誰がトガえもんだ」



葉隠「えっ……十神っち……十神っちぃ~~うわぁぁーん!オレの十神っちが戻ってきたよぉぉ~~!十神様~~!」


十神「ええい、やめろ、気持ち悪い抱きつくな!いい加減にその汚い口を閉じろ!そしてこの縄をほどけ」


葉隠「その蔑むような目が見たかったんだべぇ~~ううぅぅ十神っちぃぃーー!」


十神「貴様本気で気持ち悪いぞ。やめろ、鼻水を垂らすな!」




十神白夜は責任という言葉を重んじていた。

帝王学を叩き込まれ、いつも人の上に立ってきた彼は、それが重いものであることを知っていた。


一方の葉隠安比呂は、ただただ軽かった。



十神は呆れ、葉隠に対して半ば諦めにも似た心地を抱く。


こんなに馬鹿でいい加減で無責任な人間が、オレの仲間なのか、と。


しかし紛れもなく、その心地が今の十神を冷静にさせていた。

その適当さが、十神には必要であった。



十神「……勘違いするなよ。お前なんかに教えを請うべき物事などこの世に一つたりともあり得ない」


葉隠「酷いべ!それでこそ十神っち!」


十神「オレはただ、腐川にできることがオレにできない、と思われることが癪なだけだ」


葉隠「十神っちぃぃ~~今腐川っちとキャラ被ってるべ!風呂も入ってねーしな!」


十神「くっ……黙れ!……、一つだけ言っておいてやる。光栄に思え」


葉隠「ん?」








十神「……ありがとう」


そこには、悔しそうに視線を逸らす男と、目を見開いて鼻水を垂らした男がいた。



葉隠「あ、そうだ。なぁ、十神っち。一個だけ聞きたいことがあんだ」


唐突に、葉隠は低くて大人しい声を出した。


十神「……どうした」


葉隠「十神っちは、結構何回も繰り返してんだよな?……こんなこと聞くのもなんなんだけどよぉ」


十神「……」


葉隠「オレ……誰か殺した?」



葉隠は、誰かを殺していない自信がなかった。


そして、それは非情にも、ものの見事に当たっていた。


それを十神は知っている。


葉隠は、過去の周回で山田を殺している。




しかしその事実を、十神は葉隠に伝えたくなかった。


彼は、その犯行は半ば自分にきっかけがあったと考えていたからだ。


葉隠が山田を殺した理由は、腐川が死体で発見されたことによる疑心暗鬼にあり、十神が腐川を殺さなければ葉隠は殺人を犯すことなどなかった、と。


しかし、何と答えようとも、察せられてしまうだろう、とも考えていた。






十神「……お前にそんな度胸はない」




だから、彼はそう答えることにした。

本心で、けれど核心はつかずに。





葉隠「……そっか」


それを受けた葉隠は、少し悲哀したように、曖昧に笑ってみせた。



~**~


無機質で生活感の無い空間に、立っている二人は驚愕、そして感嘆していた。


その部屋の壁の一面、その大きなモニターには、学園のありとあらゆる場所が映し出されている。




「葉隠!?確かあいつは……」


「アッハハ、流石、超高校級の占い師だよね!憧れちゃうよ」


「……不思議なこともあるもんだな。あいつは、一番最後だと思ってたのに」


「君の勘って驚くほど当たらないよね。ほら、葉隠クンを見習いなよ」


「……」


「拗ねてる?」


「別に」



スーツをピッチリと着こなした二人は、ただその部屋でモニターを眺め、時折会話をしていた。


頻度こそ少ないが、お互いにお互いと会話することは嫌いではなかった。


こうやって、からかってみせるのもお互いのキャラクターを考慮した、会話上のパフォーマンスであることも理解しあっていた。


そうやって二人はお互いに対して、共通の認識をもっていた。



「で……これからどうするつもり?」


「……」


その瞬間に、雑談から、会議へと切り替えられる。


「もうちょっとで介入できそうだし、リセットしたほうがいいんじゃない?ボク達が直接殺めることになるけどさ、また戻るわけだし。そうすれば、最悪の事態は防げるよ」


「……そんな事態にはならない」


「フフッ……笑っちゃうよ。どうしてそう言い切れるのかなぁ?キミのそういう軽率な判断が、そもそもこんな現状を引き起こしちゃったんだよ?」


「……ならないさ。時間もないし……それに、これで駄目ならもう、何したって無駄だ」


「それもまた、キミの勘?当たらないのによくやるね」



呆れたような溜息が、その場に流れた。


つくづく意見が合わない。


それもまた、お互いの共通認識だった。

今日は以上です。

今から更新します。



~togami~


十神「はぁ……」



霧切達への説明を葉隠に任せ、俺は一先ず水分を補給し、胃に甘味を少し詰め血液を回した。


その際、作戦がどうの脱出がどうのと、しつこく問いただしてくる石丸は完全に無視した。


ついでに石丸のあしらいも葉隠に任せた。



葉隠に充分な説明ができるとは思っていないが、この際どうでもいい。


それよりも一先ず、腹を満たし、そして風呂に入りたかった。



久々の風呂は大浴場で……という気分ではなかったため、個室のシャワーで済ますことにした。


出しっぱなしにされているシャワーを体にかけると、湯が少しぬるい。


これも葉隠に頼んでいた。


しかし奴は、湯の温度を調節する仕事さえ満足にできないらしい。


後で文句を言ってやろうか、と思ったが、そもそも奴に期待などしていなかったのだからやめようと思い直した。



十神「絶望、か」



俺は肉の感触を思い出していた。

包丁で人肉を切り裂く感触を。


そして、ぬめる生暖かい血の感触も。




何周にも渡り、何度も全員を殺した。

死体を何度もこの目で見た。

この感触も、この光景も、死ぬまで忘れられそうになかった。



そして僅かに身震いする。


十神「本当に……やってくれたな、苗木誠」



ふと、江ノ島盾子の言葉を思い出す。


『絶望は伝染するんだ。誰もが絶望するんだよ』



そしてある時に、苗木が漏らした言葉を思い出す。


『江ノ島はあんなことを言ったけど、希望だって伝染するよ。誰でも希望を持てるんだ』


俺がそのとき聞き流していた言葉は、どちらも全くその通りだったのだ。



そんなことを今更思い知った。



そして結局のところ、俺はあの馬鹿で情けなくてドレッドの薄汚い男に救われたということなのだろう。


意地でも口に出すことは無いが、認めざるを得ない、と思う。




俺は、自身が『十神白夜ではない』と断定されることに恐怖していたのだ。


それは、俺自身が『俺は十神白夜ではない』と心のどこかで思ってしまっていたからだろう。


①俺は何度も苗木達を殺した。
②しかし結局、それは無意味な行動だった。
③十神白夜が無意味な行動をとるわけがない。
④つまり俺は十神白夜ではない。



そんな思考がグルグルと頭から離れなかった。


それに加え、苗木達を殺したことに対して、表現できないような激情を感じていた。


それは罪の意識なのだと、冷静になった今でこそ分かるが、そのときの俺はただ己の感情に困惑するばかりだった。


そうして俺は塞ぎ込んでいたのだ。



『十神っちは十神っちだよな?』


『なぁ~~頼むってぇ!今マジで十神っちが必要なんだって!みんな正気じゃねーし……なんとかしてくれよぉ~』




こんな言葉だけで冷静になれた自分は、自分が考えていたよりも単純な人間らしかった。


俺は葉隠に頼られるということが嫌いではないらしい。


嫌いではないどころか、むしろ、どうにかしなければ、という感覚が湧いてしまっていた。


持って生まれた帝王としての性質なのか、どうも頼られることは俺にとっての行動動機になりえるようだ。



十神「愚民め……」



そしてやはり俺は、誰に何を言われようが十神白夜だ、と今では確信していた。


あれだけ怯えていたことが馬鹿馬鹿しく感じるほどに。




俺には、あいつらと共に学生生活を過ごした記憶も、あいつらを殺した記憶もある。


恐らくは、命の危機に瀕したことによって人格が分裂したのだろう。


そして、何らかのきっかけによって人格の統合を果たし、自分自身と分裂した人格とのギャップに混乱していたのだ。





この俺にしてみれば簡単に導きだされる事実だ。


何故今まで思いつきもしなかったのか、と不思議なほどだった。





「只今より、学級裁判を開始します」




唐突に、懐かしくて忌々しいダミ声のアナウンスが響いた。

そうか……と、また溜息をつく。



湯がややぬるいとはいえ、体は充分に温まっていた。



しかし俺の体はまだ僅かに震えていて、


十神「学級裁判……か。久しいな」


なんて、不謹慎な言葉を呟いてから、そんな自分を少し嗤った。



赤い扉の中へと入ると、そこには既に俺以外の全員が集まっていた。



不二咲「どういう……ことぉ……?今までこんな部屋、なかったよねぇ?」


山田「そうですな、確かに」


大和田「それに、さっきのアナウンス……一体なんなんだよ。誰か説明しやがれ!」


石丸「十神くん!君が部屋から出て来たことと関係あるのかね!?」


事情を知らない、舞園、大神、戦刄(江ノ島の格好をしているが、あれは戦刄だ)以外のAI達が混乱しているようだった。



葉隠「と、十神っちぃ!どうにかしてくれってぇ!オレに説明役とか無理だべぇ!」


十神「フン、そんなことは分かっている」


葉隠「じゃあなんでやらせたんだべ!舞園っちにも霧切っちにも腐川っちにも石丸っちにも詰め寄られて大変だったんだぞぉ!?」


十神「貴様は俺が入浴している間の時間稼ぎだ」


葉隠「ひでーぞぉ!?」





腐川「白夜様……、白夜様ぁあああああ、嗚呼、びゃくやさま、びゃくやさまぁぁ、あたし、
あたし、ごめんなさぁぁあああい、白夜様あああああ」


十神「ぐふっ!?」



不意にタックルを喰らい、変な声をだしてしまう。

いや、タックルのような衝撃だが、正確には抱きつかれただけだ。



十神「腐川……」


霧切「お取り込み中のところ申し訳ないのだけれど、十神くん、あなた元に戻ったって本当なの?」


十神「あぁ、そうだ」


霧切「証明できる?」


朝日奈「霧切ちゃん……今の十神は、あの十神だよ。
こんな嫌な奴、十神しかあり得ないよ!私の顔、グーで殴ったんだよ!?」


霧切「……」


腐川「白夜さまぁぁああああ!うわあああああああんっ!
びゃくやさま、びゃくやさまぁぁあああ」


石丸「十神くん!何故腐川くんは泣いているのだ!
そしてこの状況は何なのだ!いい加減に説明したまえ!!」





十神「貴様らぁ……いい、加減……うるさいぞ!!全員黙れぇ!!」



気が付けば叫んでいた。


途端、場は静まり返り、全員の視線が俺に向く。





十神「説明は全てこいつがする。……そうだろ、苗木?」


苗木「フフッ、そうだね。ごめん、みんな。混乱させちゃったよね。
僕が全部説明するね」


苗木「そして始めよう。全てを、終わらせるために」






苗木「最後の学級裁判を」



エレベーターを降りると、そこは記憶の通りの場所、裁判所だった。



「やぁ、待ってたよ」


「久しぶりだな」



そして、スーツを着た二人の男。

ずっと俺達を視ていただろう二人。






苗木「久しぶりだね、狛枝クン、日向クン」


そいつらが、待ち構えていた。



不二咲「苗木くん……この人達は?」


セレス「状況的に、わたくし達を幽閉している犯人の方々、とみるべきでしょうが……
苗木くん、あなたの知り合いなのですか?」



苗木「うん、そうだよ。みんな、怖い思いさせてごめん。
でも悪いようにはしないって約束するよ。とりあえず席について」




狛枝「ハハハッ、悪いようにはしない……か。面白いことを言うよね」


日向「苗木……」



俺達は苗木の指示どおりに席についた。


コロシアイ学園生活のときの学級裁判と同じ席順。


一つ違うのは、いつもモノクマが座っていた椅子が二つ並べられていて、そこに狛枝と日向が座っていることだ。





石丸「何度も言うが、いい加減に説明してほしい」


狛枝「その必要はないんじゃない?ねぇ、日向クン?」


日向「……」



狛枝「君達への説明義務はないんだよ。だからほら、目の前のボタンを押してごらん?
脱出って書かれてるボタンだよ」


山田「あのー……まさかとは思いますが、この脱出ボタンを押せば、ここから脱出できる、みたいなことですか?
いくらなんでも雑じゃーないかと……」


狛枝「アッハハハ!確かに、超高校級の同人作家の思考からすると、一つの物語の結末として、これはあんまりにも雑だよねー……。
でも、現実なんてこんなものってことなんだよ」


不二咲「と、とにかく、これをみんなが押せば、ここから出られるってことなんだね?」


狛枝「うん、その通り。ここに入った人間は、その脱出ボタンで、安全に脱出できるってわけ。
ただし、全員が押さなきゃ意味ないんだけどね」



狛枝は楽しそうに解説をしていた。


その性格は相変わらずのようだ。


ニコニコと笑っているが、このまま『全員が脱出ボタンを押してハッピーエンド』なんていう結末にならないだろうことは、分かっているはずだ。



苗木「それは違うよ!」



やはりか、と俺はコメカミを抑えた。



苗木「説明義務がなくたって、みんなには、知る権利がある。いや、知らなきゃ駄目なんだよ。
そして、脱出ボタンは押させない。押しちゃ駄目だ!」



その力強い言葉を冷やかすように、狛枝は肩をすくめた。


途端、常に薄く浮かべていた笑みが消える。



狛枝「あーぁ……ガッカリだよ……。
まさか、キミ達が……とりわけ超高校級の希望とまで言われたキミが」


そしてその特徴的な少し掠れた声で、一音一音を確認するかのように、



狛枝「絶望なんかに堕っこちるなんて、ね」


彼はその言葉だけで、落胆を表現していた。



そして、


狛枝「さぁ、苗木クン……ボクと勝負してくれるよね?」


それは最後の学級裁判が今、ここに始まる合図だった。

以上です。
次の更新は地の文があったり消えたりご都合主義だったりします。


作者よりも頭のいいキャラクターは書けない。つまりそういうことなのです。

投下しますが、全く進みません……退屈かもしれませんが、どうぞ。
会話ばっかりです。



苗木「……みんなには、僕が説明するって宣言したんだ。
これから全て話すよ。それでみんなに正しい判断をしてほしい」


日向「苗木、やめろ」


狛枝「日向クン、もうそんな言葉無意味なんだよ。
ボク達が苗木くんの演説を阻害したところで、みんなは納得してくれない。
そうなれば、脱出ボタンが押されることもない。
これはもう、心象勝負の学級裁判そのものなんだよ。……懐かしいね?」


日向「……」


苗木「それじゃ、まずはみんなと僕達の関係について、説明するね」




何も知らない大衆は話についていけず、黙ってそのやりとりを聞く他ない様子だった。

最も、俺も口を挟む気など失せていたが。



苗木「ボク達は、一緒に過ごした2年間の記憶を奪われていたんだよ。
みんな忘れてるだけで、ボク達はすでにクラスメートとして2年間を共に過ごしていたんだ!」


桑田「は、はぁ……?ちょっと待ってくれよ、さすがに……冗談だろ?信じられるわけねーだろ」


苗木「本当なんだ。ボクは記憶が戻ってる。
舞園さん、霧切さん、朝日奈さん、腐川さん、葉隠クン、十神クン、この6人も、ボクと同じ記憶があるんだよ」


セレス「にわかには信じがたいですが、どうなんですか?」


腐川「苗木……あんた、いい加減にしなさいよ」


セレス「それは、苗木クンの言葉は虚偽である、という意味でよろしいですか?」



腐川「……一応は、苗木の言った通りよ。でも、」


十神「腐川、ひとまずは苗木の言わせたい通りに言わせておけ。話が進まん」


腐川「は、はいぃ!」



苗木「そして次は、この学園の外の状況の説明をするね」


不二咲「外の、状況……やっぱり薄々気付いてたけど、僕達がここに幽閉されて助けがこないってことは、
僕達に構えないくらいの、何か大きな事件が、起こって、るって、こと、なのかな?」




不二咲の言葉はしりすぼみ気味であった。

今にも溢れ出しそうな涙が、目の淵に溜まっている。


すると苗木は、不二咲を励ますようににっこりと笑った。

あの人の良い笑顔だ。


しかし、今はただ気味が悪かった。



苗木「さすが不二咲クンだね、その通りなんだよ。そしてそれは事件であり、革命だった」


戦刃「人類史上最大最悪の絶望的事件……だね」



石丸「なんなのだ……全く話についていけない……現実味がなさすぎる!
人類史上最大最悪の絶望的事件!?」


苗木「分かりやすい言葉を使うとね、かなり極端になっちゃうけど『世界は終わった』んだよ」



そこで事情を知らない者達の目が見開かれる。

ヒィッ、と短い悲鳴がいくつかあがった。



苗木「絶望を心から望み、絶望に塗れた、とある人物が起こした絶望的な事件」


狛枝「事件、と言っていいのかは議論が分かれるところかなぁ。
うん、でも便宜上あの一連の流れは、そう呼ばれているね」


苗木「あれは無意味な暴動で、無差別的で、無秩序に行われていたんだ」


日向「そうして世界は終わった。それだけが事件の全貌だ」



桑田「終わったって……ハァ!?意味わかんねーよ!ちゃんと説明しろって!!」


狛枝「警察官が絶望して市民を殺し、教師が絶望して生徒を殺し、親が絶望して子を殺し、そんな状況に絶望した人々は無差別的に誰かを殺す。
それがどんどん広まって、結果、無法地帯になったんだよ。全世界がね」


大和田「なんなんだ……その、暴れてる奴らは何が目的なんだ!
そいつらは一体なんなんだ!?」


苗木「彼らには目的なんてないんだよ。しいていうのなら、絶望すること、絶望させることが目的なのかな」


狛枝「うん、そして暴れてる人達に組織意識なんてないよ。だって組織してないんだからね。
彼らの共通点はただ一つ、個々にそれぞれ絶望しているってだけさ」




石丸「嘘……だろ……」


桑田「信じねーぞ……なぁ、冗談なんだろ?おい、笑えねーぞ」



十神「『絶望は伝染する。誰でも絶望する』この事件の発端となった女の言葉だ」


この言葉はその通りだった。

それは身を持って知っている。


霧切「江ノ島盾子……」




山田「ええ、え、江ノ島盾子殿!?そこにいる、彼女のことですかぁ!?」


苗木「違うんだ。彼女の本名は『戦刃むくろ』。訳あって江ノ島盾子に変装しているんだよ」


戦刃「うん。そう、だった、はず。もうこのカツラも、とっていいかな?」


苗木「うん。ありがとう、戦刃さん」




セレス「ふむ……確かに、黒髪のあなたはギャルには見えませんわね。
まぁ、彼女のことは一先ず置いて、話を戻しましょう。
結局『世界は終わった』という話でしたわよね?で、わたくし達の記憶が消えているのは何故ですの?」



狛枝「アハハ……消えている、か。消えているもなにも、ねぇ、日向クン?」


苗木「狛枝クンは黙ってて。ボクが説明する」


狛枝「はぁ……」




苗木「希望ヶ峰学園の学園長は、ボク達を外の世界から守るために、この学園をシェルター化してボク達を隔離したんだよ。
……その中に、超高校級の絶望が紛れ込んでいるとは気付かずにね」


苗木「江ノ島盾子はこのシェルター化を利用して、クラスメイトを殺し合わせる計画を立てていたんだ。
そして、そのためにボク達の記憶を消した」


石丸「ぼ、僕達が、ころし、あい……そんな、ばかな話が……」



セレス「つまり、わたくし達は、その人類史上最大最悪の絶望的事件の発端となった女性とクラスメイトだった、と」


苗木「うん、そうなんだ。そして、その江ノ島盾子は、手先として戦刃さんを自分に変装させてボク達の中に紛れ込ませた」


山田「すると、そこの彼女はやはり僕達の敵ってことじゃないですかぁぁあ!!」


苗木「ちょっと待って!でもこれは今の状況の話じゃないんだよ!」


セレス「えぇ、そうですわよね。わたくし達は、殺し合いを強制された覚えなどございませんし」


苗木「ボク達は、一度コロシアイ学園生活を経験してるんだよ。そして、そのコロシアイの場から脱出できたのが……
ボク、霧切さん、朝日奈さん、葉隠クン、十神クン、腐川さんの六人だった」



苗木「そして、ボク達は学園に残してしまったキミ達のところへ戻り、キミ達のコロシアイ学園生活の記憶を消したんだよ。

あんな記憶……無いほうがいいんだからね。それが今の状況だよ」



大和田「苗木……テメェ、訳わかんねーことばっか、ぬかしてんじゃねーぞォ……」


不二咲「うぅ……うっ、うっ、世界が、終わってるって、クラスメートで殺し合いって……本当、なの?」



苗木「本当だよ。でも、もうここは安全になったんだ!だから、脱出ボタンを押しちゃ駄目だ!」


苗木「そして、この裁判所を二度と使えなくするために、その隣にある封鎖ボタンをみんなで押す必要があるんだよ!」


苗木「そのうち、みんなボク達みたいに、楽しかった頃の思い出もきっと思い出せる!
だから、希望を捨てちゃ駄目なんだ!みんな一緒にここで暮らせば、きっと、」



セレス「それで、江ノ島盾子はどうなったのです?」


苗木「……江ノ島盾子は、絶望を求めて死んでいったよ」


セレス「わたくし達を放置して、ですか?話を聞く限り、そのような人間とは思えませんが」


苗木「……」



狛枝「流石は、超高校級のギャンブラーだね。この緊急時にも冷静でいられるなんて。
アハハ!苗木クン、彼女の前じゃ、嘘をつくにも限界があるんじゃない?」


セレス「やはりそうですか」



まるでフィクションのような話を聞いたところで、セレスティア・ルーデンベルク、この女だけは毛ほども顔色を変えない。


皆言葉を失い、状況や気持ちの整理すらつかないこの場ですら、

セレスは淡々と嘘つきを包囲する。



セレス「苗木くん、貴方はわたくし達の味方なのですか?それとも敵なのですか?」


苗木「味方……だよ。これだけは信じてほしい。僕は君達を助けるために、ここに来たんだ!!」


セレス「でしたら、本当のことを言ってください。でなければ、信用に値しませんわ。
……わたくしの目を欺ける、などと思わない方がいいですわよ?」


苗木「……」

短いですが、ここまでで
学級裁判を意識して進めるの難しいですね……

生存報告だべぇ
すみません、忙しくてなかなか

ほとんど終盤ですし、全部書いてから載せようと思います。本当お待たせしてすみません。
あんまり予告はしないんですが、五月中には載せたいです。

地の文が難しいことを思い知ったので、これからに生かしたいと思います。


ストーリーはスレを立てた時点で決まってたのですが、如何せん国語力に乏しいのです。
しかし必ず完結させます。

ミステリを気取って始めたが、全然そんなことにはならなかったんだぜ\(^O^)/

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月17日 (月) 00:37:23   ID: AjzhT_2O

続きが読みたい

2 :  SS好きの774さん   2014年08月26日 (火) 01:56:57   ID: ngwR6NfQ

すごい面白いから未だにつづきを待ってしまう

3 :  SS好きの774さん   2015年04月09日 (木) 11:57:11   ID: 7yJO9EZ_

必ず完結させますって……もう、フラグにしか見えなくなってきたよ。

4 :  SS好きの774さん   2017年05月17日 (水) 12:15:00   ID: IibD_8Kg

何故帰って来ないんだ…

5 :  SS好きの774さん   2019年10月13日 (日) 16:03:05   ID: ALREFolj

すげー好きだけど、こういうよくできてる作品に限ってエタるの多いんだよなあ…。

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