クリスタ「ピアノの先生続けてます」(427)
※10巻までネタバレあり
※捏造あり
※進撃世界観無視
クリスタ「ピアノの先生はじめました」
クリスタ「ピアノの先生おわりました」の続き
前回、エピローグまで書ききれなかったので新たにスレたてました
レス下さったみなさんに感謝。亀進行で続き書きます
※ ※ 解散式の夜 送別会 ※ ※
ザワザワ ガヤガヤ
サシャ「うわっ、すごいご馳走ですね」
コニー「今までロクな食事が出なかったからな」
サシャ「それでもみんなで食べるご飯はおいしかったですよ。楽しい顔で食べればお皿一つでも宴会です」
アルミン「ははっ、サシャはどんな場所でも人生を楽しめそうだね」
エレン「まぁ腹減ってたら何食ってもうめぇよな」
コニー「そうか?俺はサシャがいねぇと何を食ってもまじぃ」
サシャ「そうですね。私もコニーがいればもっとおいしく感じますよ」
アルミン「…素直な性格で照れが無いと、平気でああいうことが言えるんだね」
ミカサ「エレンも見習って」
エレン「馬鹿になれってのか」
コニー「けどよぉ、結局、俺もサシャも10番内に入っちまったな」
サシャ「はい。最終試験はかなり手を抜いたんですけどね」
アルミン「そっか…、二人は調査兵団へ行くつもりだから、憲兵団入りの権利を他の人に譲る気だったんだね」
エレン「のわりに、立体機動の試験とか割と本気だったじゃん」
サシャ「…すみません。獲物が目の前にあるとつい…」
コニー「勝手に体が動いちまうんだ。狩猟民族の血だな」
ミカサ「…私たちも譲ったほうが良かったのかしら」
エレン「俺らも調査兵団へ行くって決めてるしな。けど、試験で手を抜くとか器用なまねは俺にはできねぇ」
アルミン「気にすることはないよ、ミカサ。最終試験で全科目ボイコットしたところで、君の順位は変わらないから」
サシャ「そうですよ。ミカサは今までの貯金が半端ないです」
コニー「どうあがいてもミカサの首位は不動だな」
エレン「なぁアルミン、最終順位って調査兵団入団後に何か影響するのか?」
コニー「あっ、それ俺も気になる。こんだけ頑張ったんだ。10番内で卒業した奴は基本給が高ぇとか…」
サシャ「普段の食事に特別にデザートがつくとか…」
ミカサ「何らかの優遇措置があるのかしら…」
アルミン「ははっ、そんな措置はないよ。ただ期待はされるだろうね。次代を担うホープとしてさ」
コニー「うわっ、やめてくれ。がっかりされるのが目に見えてるぜ」
サシャ「何としてでも10位以下になるべきでした…」
エレン「けどさ、あいつ何とか10番に入ったな」
ミカサ「当然。私とエレンが特訓したのだから」
アルミン「うん。苦手な技巧術も克服できてたし。喜んでるだろうね、クリスタ」
※ ※ ※ ※
アニ「…ねぇ、何でとなりに座るのさ」
ベルトルト「どこに座ろうと僕の自由だよ」
アニ「…監視するんだ」
ベルトルト「アニが不安定すぎるから」
アニ「…今さら何かしようって気はないよ。何をそんなに恐れてるのさ」
ベルトルト「…君の裏切り」
アニ「…信用ないね」
ベルトルト「失くしたのはアニだよ」
アニ「…まさか決行の時までずっと付き纏う気?」
ベルトルト「…うん。今の君から目を離すのは危険すぎる」
アニ「…ライナーは放っといていいのかい?あいつも大概おかしいでしょ」
ベルトルト「…ライナーはいつもの集団と一緒に騒いでるから。僕はあの雰囲気が苦手なんだ」
アニ「…でもあんた、あいつらの伴奏するんでしょ?ライナーが嬉しそうに話してた」
ベルトルト「はぁ…、断り切れなかったんだ。…本当にこの会場にピアノが用意されてるし。今から嫌で仕方がないよ」
アニ「…そういえばライナー、調査兵団にするって言ってたね」
ベルトルト「あの集団を引き連れて入団するんだって…」
アニ「…あんたはどうすんのさ」
ベルトルト「…そんなの決める必要はないよ。分かってるよね?」
アニ「……冷たい目」
ベルトルト「僕たちに必要なのは理性だ。感情なんていらない」
アニ「…あんたはもう人間じゃないんだね」
ベルトルト「…僕は怒ってるんだよ、アニ。どうしてみんなにあんな質問をしたの?」
アニ「…別にいいでしょ」
ベルトルト「なんで僕を頼らないんだ。…アニは彼らの方が信頼できるの?」
アニ「…じゃあ、あんたにも同じ質問してあげるよ。…大切なものが二つある。私はどっちを捨てればいいの?」
ベルトルト「アニ…」
アニ「あんたがどう答えるかなんて分かってるんだよ。だから他のやつに聞いたんだ」
ベルトルト「大切なものは一つしかない。それが僕らの現実だ。もう幸せな夢は終わったんだよ」
アニ「…」
※ ※ ※ ※
マルコ「おめでとう!!クリスタ。10位に滑り込んだね」
ジャン「ホント、ギリギリじゃねぇか。なかなかクリスタの名前が呼ばれねぇから俺まで焦ったぞ」
ユミル「クリスタを10番内にするって私が決めたんだ。外れるわけが無いだろう?」
クリスタ「…でも、ユミルが…」
ユミル「いいんだよ。前にも言ったろ?私は憲兵なんて柄じゃないって」
クリスタ「…本当にいいのかな。私なんかが10位になって。実力が無いの自分でも分かってるのに…」
ジャン「今さら何言ってんだよ。マルコと一緒に憲兵になりたいって言ったのはお前だろ?だから協力してやったのによ」
マルコ「ジャン!そんな言い方するなよ。最終試験はクリスタの実力だ。彼女は頑張った」
ジャン「はっ、何にも知らねぇから、んなことが言えんだよ」
ユミル「ジャンよしな。それ以上口を開いたら、今度こそ本当に蹴り潰すからね」
ジャン「うっ…」ヒュン
クリスタ「…やっぱりユミルが裏で何かしてたんだね。今までの試験、考えてみたらおかしな事だらけだよ…」
ユミル「気にするな。私がやりたくてやったことなんだから」
ジャン「けどよ、ユミルが本気を出せば二人揃って10番内も可能だったはずだ。お前はクリスタと離れたくねぇんだろ?」
ユミル「だから、私は憲兵になる気はこれっぽっちもないんだよ」
マルコ「正直に言ったら?自分も10番内に残れば上位9名の誰かを追い落とすことになるから遠慮したんだって」
ユミル「は?そんなんじゃないし」
マルコ「何だかんだ言って優しいよね、ユミルは」
ユミル「チッ…ピンポイントでマルコだけ順位を下げる方法が思いつかなかっただけだ」
クリスタ「…ありがとう、ユミル。でも、私もユミルと離れるのは寂しいよ」
ジャン「お前この先どうする気だ。所属兵団、決めてなかっただろ?」
ユミル「ん?私はどこにも属す気なんてないよ」
ジャン「はぁ?」
クリスタ「で、でも、どこか決めないと。配属兵科の希望を書いて提出するように言われてるし…」
マルコ「まさか…、兵士を辞める気かい?」
ユミル「そ、正解。三年やってみてさ、兵士なんてとことん私には向いてないことが分かったし」
クリスタ「そんな…!?辞めてどうするの?行く当てはあるの?」
ユミル「…内地に行く。クリスタの姿が見えるところにいないと私は安心できない」
クリスタ「ユミル…」
ジャン「お前さぁ簡単に言うけど、この不景気、職を探したってまともな仕事なんかほとんどねぇぞ」
ユミル「余計なお世話だよ。…自分一人が生きていくぐらいどうにだってなるさ」
ジャン「…また元のひでぇ生活に戻る気かよ」ギリッ
ユミル「さぁ、どうだろう。人間食べないことには生きていけないからね」
ジャン「……くそっ、……マルコ!!!」ガタッ!!
マルコ「な、何だよ?急に大声出して立ち上がって」
ジャン「アレやるぞ」クイッ
マルコ「もうやるの?まだ食事の途中なのにさ…」
ジャン「んなもん後で食えばいいだろ?ほら、行くぞ」スタスタ
マルコ「はぁ…、せっかちだね」ガタッ
クリスタ「二人ともどこへ行くの?」
マルコ「ちょっとした余興だよ。そこで見ててね、クリスタ」ニコ
ザワザワ ガヤガヤ
エレン「おっ、ジャンとマルコが何かするみたいだぜ」
サシャ「本当ですね。ピアノの用意してます」モグモグ
ミカサ「…ヴァイオリン。本当に完成させたのね」
アルミン「ユミルもジャンもすごいよね。自分で楽器作っちゃうんだから。大したもんだよ」
コニー「つーか、本当に弾けるのか?あいつピアノも口だけだったしよ」
サシャ「そうですか?ピアノはそこそこ上手だった気がしますよ。周りと比べるから下手に聴こえるだけで…」
ミカサ「そう。エレンと比べたら可哀想」
エレン「けどよ、ジャンってミカサに聴かせたいからってヴァイオリン作ってたよな?」
アルミン「……今となってはジャンがすごく気の毒だね」
サシャ「そんなことないですよ。目的が変わってますから、多分」モグモグ
コニー「どういうことだ?」
サシャ「まぁ、見てれば分かりますよ」モグモグ
ミカサ「…ジャンがもっと気の毒なことになりそう」
サシャ「なぜかジャンは自ら進んで茨の道を選びますよね。Mっ気があるんでしょうか」モグモグ
※ ※ ※ ※
マルコ「こっちは準備できたよ。チューニングするでしょ?」ポーン♪
ジャン「おっ、サンキュ」ギュィィィン♪
ザワザワ ザワザワ ナンダナンダ?
ジャン「やっべ、音出したからみんなこっち見てるしよ」
マルコ「それぐらいでびびるなよ。今からヴァイオリンを泣かせるんだろ?」
ジャン「そうそう、俺のテクニックでひぃひぃ言わせてやるぜ」
マルコ「まっ、演奏よりもその後のほうが僕は楽しみだけど」ニッ
ジャン「嫌な奴だな、お前」
マルコ「ちゃんと何を言うか考えてきたのかい?」
ジャン「いいや。出たとこ勝負だ」
マルコ「はは、ジャンらしいね。では健闘を祈るよ」スッ
ジャン「じゃ、いつでも始めてくれていいぜ」ヨイショ
♪♪♪♪♪♪~♪♪♪♪♪~
――ピアソラ『リベルタンゴ』
ピアノが奏でるタンゴ特有の前のめりの4ビートリズム。
力強くリズムを刻む前奏に、騒いでいた兵士たちも思わず耳を傾ける。
そこに流れ始める野生的で攻撃的なヴァイオリンの響き。
躍動感溢れる軽快な伴奏にのせて疾走する叙情的メロディーは求心力を持って聴く者を引き込んでいく。
※ ※ ※ ※
ミーナ「…ちょっと、何あれ。ジャンが格好よく見えるんだけど」ゴシゴシ
トーマス「元々カッコいい奴だよ、ジャンは。女の子たちからの評価は低いみたいだけどさ」
フランツ「性格で損してるよね。女子にも遠慮なくズバズバ言うし」
ハンナ「分かりやすくていいと思うよ。好きな子以外には興味ないって」
ミーナ「…あれ?ジャンってミカサのこと諦めたんじゃなかったっけ?」
トーマス「そうだよ。ミカサはエレンとくっついちゃったからね」
ミーナ「…じゃあ、誰のために弾いてるのよ。あんなに男の色気ぷんぷん漂わせてさぁ」
ハンナ「ヴァイオリン弾いたからって、誰かのためとは限らないでしょ?」
ミーナ「そうかなあ。ただ目立ちたいだけで、あんなに真剣に弾くかな…」
フランツ「ミーナのためだったりして」
ミーナ「うそっ!………いや、それはないよ」
トーマス「うん。ないだろうなぁ。ジャンはスレンダーなキレイ系がタイプだから」
ミーナ「はいはい、どうせ私は正反対ですよ」
トーマス「ちなみに俺のタイプは少しぽっちゃりした可愛い系」ニコ
ミーナ「あっそ。でも、マルコは相変わらずピアノ上手だね。今日は何だか大人の雰囲気だし」
トーマス「…」ショボン
ハンナ「…ミーナ、気付いてあげようよ」
フランツ「…頑張れ、トーマス」
※ ※ ※ ※
コニー「うひょー、ノリノリだな。なんだか血が騒ぐぜ」
サシャ「情熱的な曲ですよね。でもジャンのヴァイオリンはクールでドライで。丁度良い塩梅だと思います」モグモグ
エレン「マルコのやつ、俺に散々鍵盤をぶっ叩くなって注意してたくせに、めちゃくちゃ叩きつけてるじゃねぇか」
アルミン「今日はピアノを弦楽器としてではなく打楽器として扱ってるんだよ。タンゴだからね。リズムが重要」
ライナー「スタイリッシュでソフィスティケイトなサウンドだな」
エレン「よう、ライナー。いつの間に席移動してきたんだ?」
ライナー「今きたところだ。それよりなんだ?あいつらの表情。まるで恍惚の人じゃねぇか」
アルミン「…それ痴呆老人のことだよ」
サシャ「コンクールの時にエレンが見せた表情と通じるものがありますね」モグモグ
エレン「げっ、俺あんな顔して弾いてたのか?うそだろ?」
ミカサ「本当。私だけが知っている表情だったはずなのに、みんなに見られてしまった。…残念」
ライナー「なるほど…。‘音楽は背徳を伴わない唯一の官能的な愉しみである’って聞いたが、その通りだな」
コニー「ライナー、そりゃ何語だ?俺に分かる言葉でしゃべってくれ」
ライナー「つまりだな、女の代わりに音楽を抱いてすっきり爽快ってわけだ」
アルミン「ライナー、女の子の前だよ。まったく、そんな話を誰に聞いたんだよ」
ライナー「マルコだが」
アルミン「マルコ…」
ライナー「普段のマルコが油抜きされたみてぇに涼しい顔してんのは、音楽で発散しまくってるからだろ」
サシャ「ライナーだって毎日のように歌ってるじゃないですか。でも日常的にギラついてますよね」モグモグ
エレン「ライナーは油っぽいからな」
コニー「おう。夏場は特にベタベタしててきめぇ」
ミカサ「元々の油の種類が違うんだと思う」
アルミン「僕らは食用油。ライナーは機械油って感じかな」
ライナー「はっ、食えない男ってことか?」ニヤリ
サシャ「おあとがよろしいようで」モグモグ
※ ※ ※ ※
クリスタ「うわぁ、二人とも格好いいねー」
ユミル「そう?くねくねしすぎて気持ち悪い」
クリスタ「ジャンはすごく練習したんだろうね。ちゃんと聴ける音になってるもん」
ユミル「ぷっ、聴ける音って。音楽に関しては辛口だね、クリスタは」
クリスタ「だって私はユミルの音を知ってるから。それに比べたらまだまだだよ」
ユミル「嬉しいことを言ってくれるね。…けど、不器用なあいつにしては頑張ったほうかな」
クリスタ「珍しいね。ユミルがジャンを褒めるのって」
ユミル「今まで褒めるような所が一つも無かったからね。しかし、派手なだけで荒っぽい演奏しちゃってさ」
クリスタ「確かに、ピアノとヴァイオリンが競い合ってるみたい。男の子同士の演奏って感じだね」
ユミル「あれじゃ、ソロイスティックというよりナルシスティックだよ。自己陶酔しすぎ」
クリスタ「でも、ジャンって何のためにヴァイオリンを弾いてるのかな…?」
ユミル「さぁ…、ただの自己満足じゃないか?折角完成させたから見せびらかしたいんだろうさ」
クリスタ「ふーん。けどこの曲って、セクシーな大人の女の人を連想させるよね。誰かを思ってるのかな…」
ユミル「確かに妖しくて危険な雰囲気を感じるね。けどそんな女はここにいないし、やっぱりただの自己満だよ」
パチパチパチパチパチ…
ヒュー♪ ヒュー♪
クリスタ「あっ、演奏が終わったね」パチパチ
ユミル「まぁ、余興としては合格点なんじゃないの?」パチパチ
ジャン「ユミル!!!!」
ザワザワ ザワザワ
クリスタ「…なぜか大声で呼ばれてるよ、ユミル」
ユミル「知らん。放っとけ」プイッ
ジャン「おい、こら!!ユミル!!聞こえてんだろ!!!こっち向きやがれ!!!」
ナンダナンダ? ケンカ?
クリスタ「ジャンが必死の形相してるよ…。向いてあげたら?」
ユミル「馬鹿に付き合う気はないよ」ゴクゴク
ジャン「くっそ…。じゃあ、そのままでいいからよ!!耳の穴かっぽじってよく聞けよ!!!」
オイオイ マサカ? ウソダロ? ザワザワ…
クリスタ「…なんだか微妙な空気が漂ってるよ?」キョロキョロ
ユミル「…クリスタ、今から抜け出そうぜ」ガタッ
クリスタ「こら、逃げたらジャンが可哀想だよ。座ってよ」グイッ
ユミル「はぁ…、こんな茶番に巻き込まれてる私のほうがよっぽど可哀想だよ」ドスン
ジャン「ユミル!!お前は俺に貸しが一つある!!それを返してもらうことにした!!」
ジャン「兵士やめるなんてアホなこと抜かしてねぇで、お前は駐屯兵団に入れ!!それでチャラにしてやるよ!!」
ザワザワ ザワザワ
クリスタ「…ジャンに貸しがあるの?」
ユミル「…さぁ、何のことだろうね」ゴクゴク
クリスタ「駐屯兵団に入れって言ってるよ」
ユミル「勝手に言わせとけばいいさ」
ジャン「ユミル、お前は腹が立つぐれぇイイ女だ!!頭もキレる、要領もいい!!」
ジャン「駐屯兵団で手ぇ抜いてても、お前なら何年かしたら憲兵団へ来れるはずだ!!いや、絶対に来い!!!」
ジャン「それまでに俺はお前にクソガキ扱いされねぇぐらいのイイ男になっとくからよ!!必ず惚れさせてやる!!」
シーン…
クリスタ「ユ、ユミル…。みんなこっち見てるよ…」アワアワ
ユミル「気にするな。私たちは関係無い。ったく、あいつは最悪だね」ゴクゴク
クリスタ「でも、返事してあげないの?」
ユミル「は?返事って…。あいつが一方的に喚いてるだけで何も答えは求められてないよ」
クリスタ「確かにそうだけど…。このまま放っとくのは可哀想だよ」
ジャン「ユミル!!俺は知ってんだよ!!お前が超律儀な女だって!!お前は必ず駐屯兵団に入る!!」
ジャン「だから勝手に何年でも待たせてもらうぜ!!待たれるのが嫌だったらさっさと振りに内地までこい!!」
ミカサ「…何て身勝手な言い分」
サシャ「男を振るだけのためにわざわざ内地に行く人はいませんよ」モグモグ
コニー「けどよ、振るにしても振らないにしても内地に来いってことだろ?ずるくねぇか?」
ライナー「だな。…しかし、ユミルにそんなことを言っちまうと…」
オォォォォ!! ユミルガウゴイタ
ユミル「…」スタスタ…
ライナー「間違いなくこの場で振るよな…」ハァ…
アルミン「やっぱり気の毒なことになる運命なんだね…」
ミカサ「…振るもなにもジャンは何も言ってない」
エレン「はぁ?大声で叫びまくってるじゃねぇか」
ミカサ「ユミルのことを好きだなんて一言も言ってない。付き合って欲しいとも言ってない」
サシャ「あっ、確かに。未来の話しかしてませんね」
ライナー「ジャンのやつ、振られるのが恐ぇからって言葉を選びやがったな。チキン野郎め」
コニー「究極のチキンだな」
エレン「うまそうだな、それ」
ジャン「よしっ、釣れた。ユミルがこっちに歩いてくる」
マルコ「良かったね。完全に無視されなくて。けど、この後どう展開するつもり?」
ジャン「振られないよう努めるしかねぇだろ」
マルコ「ははっ、頑張れよ」♪♪♪~
ジャン「…お前なんでピアノ弾き始めるんだよ」
マルコ「音楽が流れてたほうが雰囲気でるだろ?」♪♪♪~
ジャン「なんなんだよ。その明るく朗らかな曲はよ」
マルコ「暗くなるよりマシだよ」♪♪♪~
ジャン「ちっ、勝手に弾いてろ」
ユミル「…」ツカツカ ピタッ
ジャン「よう、ユミル。どうだった?俺のヴァイオリン」
ユミル「クソだね。音程悪いわ、雑音だらけだわ、がさついてるわ、聴くに耐えない」
ジャン「相変わらず手厳しいねぇ。これでも必死こいてみたんだぜ?」
ユミル「…とりあえず声のトーンを落としな。大声で喚いてみっともないったらありゃしない」
ジャン「分かったよ。わざわざ話をしに来たってことは、少しは俺にも希望があるのか?」
ユミル「バーカ。クリスタが話をしてやれってうるさいから来ただけだ」
ジャン「ふーん。で、どんな話だ?」
ユミル「…勝手に待つな。ウザい」
ジャン「だろうな。好きでもねぇ男に待たれたら迷惑なだけだろうし」
ユミル「ああ、お前のことは嫌いだよ。分かってるなら嫌がらせはやめな」
ジャン「ユミルが嫌いなのは今の俺だろ?俺だって今の自分がお前とつり合うなんてこれっぽっちも思っちゃいねぇ」
ユミル「何年経とうと私とお前の差は縮まらないから」
ジャン「そんなこと分からねぇだろ?俺は必ずクソガキ呼ばわりされねぇ男になる。だからしばらく待ってくれ」
ユミル「お前は馬鹿か。なんでどうでもいい男を待ったり待たせたりしなきゃならないんだよ」
ジャン「ユミルにとっちゃ俺はどうでもいい男なんだろうけどよ、俺にとっちゃお前は最高の女だ」
ユミル「チッ、はっきり言ってやるよ。お前の思いは錯覚だね。初めての女に情がうつっただけだ」
ユミル「もっとまともな女を好きになって抱いてみな。そしたら私のことなんか一瞬で頭から消えるからさ」
ジャン「…‘なんか’って言うなよ…」
ユミル「ん?」
ジャン「俺はお前が‘私なんか’って言うのを聞く度に悲しくなるんだよ!」
ユミル「はっ、同情かい?汚い売女を憐れんでるのか?…馬鹿にするな!」
ジャン「ちげぇ!!俺はお前のことを汚ぇって思ったことはない。…ユミルは綺麗なんだぜ?自分で思ってる以上にな」
ユミル「そりゃ見た目の話だろう?」
ジャン「確かにビビるくれぇスタイルいいけどさ。そうじゃねぇよ。…お前は切ねぇほど心が綺麗なんだよ」
ユミル「…私のことを何も知らないくせにさ。適当なことを言うんじゃないよ!」
ジャン「もちろん過去のお前は知らねぇ。けど、俺が見てきたユミルは誰よりも自分を犠牲にしてた」
ユミル「…クリスタ以外はどうでもいい扱いしてたけどね」
ジャン「お前がクリスタにこだわってる理由は知らねぇ。けど自分を悪者にしてでもあいつを幸せにしようと必死だった」
ジャン「なんの報いも見返りもねぇのにさ。自分を傷つけてまで尽くすお前の姿は悲しくて滑稽で…優しい女だと思った」
ユミル「ハァ…、騙されちまって馬鹿な男だね。私はしたいようにしてるだけ。犠牲になったつもりはないよ」
ジャン「それでも俺の目から見れば、クリスタが女神ならユミルは聖母ってところだ」
ユミル「冗談はやめな。私のどこが慈悲深いのさ?」
ジャン「だってよ、数年経ったら憲兵になってくれるだろ?さ迷える憐れな俺に救いの手を差し伸べにさ」
ユミル「…お前さぁ、人の話聞いてた?憲兵になる気はまったく無いんだよ」
ジャン「今は、だろ?そのうち超イイ男になった俺の噂を耳にして、ユミルは憲兵になりたいって思うはずだ」
ユミル「…相変わらず自惚れがひどいね」
ジャン「自惚れてないとお前みたいなイイ女に声をかけることすらできねぇよ」
ユミル「そんな口説き文句、お前には10年早いよ」
ジャン「10年は長ぇな。5年にしてくれよ。5年後、俺はユミルをもう一度今の言葉で口説くからよ」
ジャン「だからその時には俺の声が届く場所にいてほしいんだ」
※ ※ ※ ※
サシャ「小声になっちゃって、何言ってるか全然聞こえませんね」
コニー「ったく、さっきの勢いはどこいっちまったんだよ」
アルミン「けどさ、ユミルって本当に嫌いな相手だったら話すら聞いてあげないと思うんだ」
ミカサ「そうね。徹底的に無視するでしょうね」
ライナー「少しは脈があるのか…?」
サシャ「どうなんでしょう?ユミルがクリスタ以外に興味を持っているところを見たことがありませんから」
エレン「つーか、ジャンってユミルが好きだったのか?そんな話全然知らねぇし」
コニー「俺もだ。意外すぎて頭がついていかねぇ」
アルミン「ジャンって自分の気持ちを隠すのが下手だから、ミカサの時は周りに駄々漏れだったのにさ」
ライナー「ユミルのことはひた隠しにしてたよな。……何か後ろめたいことでもあるんじゃねぇか?」
サシャ「そうやって疑ってかかっちゃ駄目ですよ。きっとジャンは真剣なんです。周りに茶化されたくなかったんですよ」
コニー「まぁ、知ってたら俺は間違いなくおちょくってたな」
アルミン「なるほどね。ジャンが隠したかった気持も分かるよ」
サシャ「でも話してる二人の緊張感とは対照的に、後ろでのどかな曲が流れてますねー。ものすごく違和感があります」
コニー「サシャもそう思うだろ?俺もさっきから気になってよ。なんでこんな合わねぇ曲をマルコは弾いてるんだよ」
ライナー「確かにシュールだな。マルコのやつ、他人事だと思って手を抜いてるんだろう」
アルミン「はは、でも気楽な気分で見ていられるよね」
ライナー「しかし、この寸劇は悲惨な結末を迎えるものだとばかり思っていたんだが…」
アルミン「少しずつユミルの表情が柔らかくなってきたね。けどしばらくは時間がかかりそうだよ。二人とも頑固だから」
コニー「あー、もう!!長ぇんだよ。さっさと結論出してくれねぇと、気になって騒げねぇじゃん」
ライナー「しょうがねぇ。俺たちもジャンに協力してやるか」
サシャ「そうですね。ジャンもたまには報われてもいいはずです」
エレン「協力って…何するんだよ?」
ライナー「なーに、ちょっと声をかけるだけだ」
※ ※ ※ ※
ユミル「あのさぁ、ジャンの話は私が駐屯兵団へ入るってことが前提になってるし」
ジャン「ああ、そうだ」
ユミル「私がお前の言うことを素直に聞くと思うのかい?」
ジャン「聞くんじゃねぇの?ユミルは貸しはきっちり返すやつだからよ」
ユミル「それは他の事で返してやるよ。悪いけど私は兵士をやめるってもう決めてるから」
ジャン「決めたのはユミルだろ?そんなもんいくらでも変更できるじゃねぇか」
ユミル「じゃあ、お前は憲兵団に行くなって人に言われたら諦めるのか?」
ジャン「ぐっ…」
ユミル「そういうことだ。私の人生に余計な口出しするんじゃないよ」
ジャン「……くそっ」
ライナー「おーい!!ユミル!!兵士やめんなー!!!」
ザワザワ ザワザワ
ジャン「…ライナー」
ユミル「…チッ、外野は黙ってろっつーの」
コニー「こらブス!!ひとりだけ逃げ出すとか卑怯だぞ!!!」
サシャ「兵士やめるとか悲しいこと言わないで下さい!!ユミルがいないと寂しいですよーー!!!」
ジャン「…コニーとサシャまで…」
ユミル「うるさいねぇ、ほんと」
アルミン「僕達はともに過ごした仲間じゃないか!!一人も欠けてほしくないんだよ!!!」
ミカサ「クリスタのことを本当に大切に思っているなら、兵士をやめるべきではない!!」
エレン「ユミルー!!駐屯兵団がイヤなら調査兵団へ来いよー!!!」
ジャン「あのバカッ。調査兵団へ入ったら意味ねぇだろうが」
ユミル「ったく、あいつら他人事に首を突っ込みすぎだよ」
クリスタ「ユミル!!私はユミルと一緒にいたい!!離れるのは寂しい!!」
ユミル「…クリスタ」
クリスタ「でも…私の幸せばかりを願わないで!!私はユミルにも幸せになってほしいの!!」
クリスタ「もう私に縛られないで!!自由に生きてよ!!本当に自分のためだけに生きて!!」
クリスタ「ユミルが兵士を辞めたいんだったら辞めればいい!!好きな道を歩めばいいよ!!」
クリスタ「だけど…これだけは忘れないで!!私はユミルが大好きだよ!!」
ジャン「…だとよ。女神が涙目でお前の幸せを願ってるぜ」
ユミル「…言っとくけど、私の幸せはお前じゃない。クリスタだから」
ジャン「んなことは分かってる。…で、どうすんだ?」
ユミル「……」
マルコ「とりあえずさ、駐屯兵団へ入ってみれば?嫌だったらすぐ辞めればいいんだからさ」♪♪♪~
ユミル「…相変わらず能天気だね。あと、その曲イラッとくるからもうやめな」
マルコ「はいはい。分かったよ。……少し前にクリスタが言ってたんだけどさ」
ユミル「…なにを?」
マルコ「ユミルと一緒にお仕事できたら楽しいだろうなぁって。クリスタはユミルと一緒に憲兵になりたかったんだよ」
ジャン「けどさっき兵士やめてもいいって…」
マルコ「精一杯強がってるんだよ。彼女なりにユミルの重荷にならないよう気を遣ってさ。だから涙目」
ユミル「はっ、クリスタのことは何でも知ってるっていうような口ぶりだね」
マルコ「僕はまだまだユミルには及ばないよ。…僕さ、馬鹿なことをクリスタに聞いちゃったんだ」
ジャン「馬鹿なことって?」
マルコ「僕とユミルとどっちのほうが好き?って」
ユミル「…そんなの答えは決まってるだろう?」
マルコ「うん。やっぱりユミルだった。少しでも考えてくれないかなって期待したけど、迷うことなく即答されたよ」
ジャン「まぁ、友達と恋人っつーのは次元が違うんじゃねぇの?」
マルコ「けど僕はジャンとクリスタどっちが好きって聞かれたら、迷わずクリスタを選ぶし」
ジャン「俺が選ばれても困るし」
マルコ「それでさ、僕は思ったんだ。クリスタはユミルと一緒にいられるのが一番幸せなのかなって」
ユミル「はっ、そんなの今さらだよ。お前より私のほうがクリスタを幸せにできるに決まってるだろ?」
マルコ「…だから、クリスタと一緒に駐屯兵団へ行ってくれないか?」
ジャン「はぁ?お前なに言ってんだよ。何のために頑張ってクリスタを10番にしたんだよ」
マルコ「勝手なのは分かってる。…けど、クリスタのことを考えたらさ。…それが一番いいんだよ」
ユミル「なんだ。クリスタとやっと別れる気になったのかい?」
マルコ「別れる気なんてない。しばらくは会えないけだろうけど」
ジャン「マルコ、お前…」
マルコ「ユミル、お願いだ。クリスタと二人で駐屯兵団から憲兵団へ異動できるよう努めてくれないか?」
マルコ「僕は何年でも待つから。…いつか必ず二人で内地に来るって約束してほしい」
ユミル「……やだね」
ジャン「ユミル!!てめぇ、ひどくねぇか?マルコがここまでお前らのこと考えて頭下げてんのによ」
ユミル「ちがう!…クリスタと一緒に駐屯兵になるのがイヤだっつってんだよ」
マルコ「ユミル…」
ユミル「…駐屯兵団へは私一人で入る。…クリスタには安全な内地で暮らして欲しい…」
ジャン「…いいのかよ。お前、クリスタと離れたくねぇんだろ?」
ユミル「…今さ、クリスタをマルコから引き離したら、私はあいつから完全に悪者扱いされちまうよ」
ユミル「恐いんだよ。クリスタに嫌われることが何よりも。…だから、しばらくはクリスタのこと頼んだよ」
マルコ「もちろんだよ。…ありがとう、ユミル」
ジャン「しばらく…ってことは、ユミル、お前、憲兵目指す気になったのか?」
ユミル「ばーか、お前のためじゃないからね。クリスタのためだ」
ジャン「誰のためだっていいんだよ!よしっ、俺にもまだチャンスはある」
コニー「おい!!いつまで話してんだよ!!どうなったか早く教えろよー!!!」
ジャン「ユミル、兵士やめねぇって!!駐屯兵になって、そんで憲兵団に来るってよ!!!」
オォォォォォ… ザワザワ ザワザワ
マジデ? ジャンガ オトシタノカ?
ユミル「ジャン…、間違っちゃいないんだけどさ…」
ジャン「嘘は言ってねぇだろ?」
ユミル「…とりあえず、ひとりひとり誤解を解いて来な!!」
ジャン「やだね、面倒くせぇ。いいじゃん、どうせそのうち誤解じゃなくなるんだしよ」
ユミル「……はぁ…もういい。クリスタのところへ戻る」スタスタ
マルコ「あらら、怒って行っちゃったね」
ジャン「…マルコ、悪かったな。現実にはならなかったとはいえ、お前にあんな辛い決断をさせちまってよ…」
マルコ「ん?」
ジャン「クリスタと一緒ならユミルも憲兵を目指すって踏んだんだろ?…俺のために無理しやがって。お前はやっぱ最高だ」
マルコ「あー、さっきの話?あれは全部ウソ」
ジャン「…は?」
マルコ「僕がクリスタと離れるわけないじゃないか。意地でも内地へ連れて行くよ」
ジャン「ちょっ、お前…、どっからウソなんだよ」
マルコ「えっと、…僕とユミルとどっちの方が好きかクリスタに聞いたってところから」
ジャン「そっからかよ!」
マルコ「僕がそんな愚かな質問するわけないだろ?けど、ユミルがうまくのってくれて助かったよ」
ジャン「…お前そんな腹黒いやつだったか?」
マルコ「ジャンがもたついてるのが悪いんだよ。僕は早く結論を出して欲しかったから」スクッ スタスタ
ジャン「あっ、おい、どこ行くんだよ」
マルコ「んー、ちょっとね。…今日が最後なんだしさ。ジャンも色んな人と話をしなよ」スタスタ
>>1です 今日はここまでです。続きは後日
新スレ立ててたのね乙
私の記憶違いで勘違いかも知れませんが
このミカサはジャンさんの以前から現在までの気持ちを知った上で
あざ笑って上から目線で嘲笑している。合ってますか?
※ ※ ※ ※
ザワザワ ガヤガヤ
ジャン「よう、元気ねぇな。相変わらず暗ぇ顔してさ。ここ座るぜ」ガタッ
ベルトルト「…ジャン」
ジャン「こんな端っこのテーブルに二人で黙って座ってよ。最後ぐらい他の連中と絡もうぜ」
アニ「…あんたみたいにウルサイのが寄ってこないように端にいるんだ。あっちへ行きな」
ジャン「まぁ、そう嫌うなよ」
ベルトルト「…ユミルのところへ行かないの?」
ジャン「行かねぇよ。言いたいことは言ったしな。これ以上しつこく迫ったら、本気で嫌われちまう」
アニ「…さっき、あんたが喚いてたことだけど…」
ジャン「なんだよ。興味なさそうな顔して聞いてんじゃねぇか」
アニ「あんたの声がでかすぎるから勝手に耳に入ってきたんだ。いい迷惑だよ、まったく」
ジャン「悪ぃな。必死こいてたから。で、俺の名演説がどうかしたか?」
アニ「…あんたは未来しか語らないんだね。現実を見るのはやめたのかい?」
ジャン「まぁ、クソつまらねぇ現実を直視するより、夢見てたほうが楽しいからな」
ジャン「それに、以前ライナーがドヤ顔で垂れてた人生哲学を参考にしたんだ」
ベルトルト「ライナーが?」
ジャン「‘男は悲しい過去を語る女に弱く、女は未来の夢を語る男に弱い’ってな」
アニ「はぁ…、馬鹿だね、あいつ」
ジャン「なんだよ。アニは過去を引き摺ってる男のほうがいいのか?」
アニ「…過去も未来もここには無いよ。あるのは現実だけ」
ジャン「ったく、シケた面しやがって。現実がつまんねぇからそんな顔してんだろ?たまには楽しい夢をみろよ」
アニ「夢なんて見るだけ無駄ね。明日が来れば明日が現実になる。現実が繋がっているだけで未来は永遠に来ない…」
ジャン「お前さ、結構小難しいこと考えてんだな。けどよ、明日を楽しく生きるために今日頑張るんじゃねぇの?」
アニ「……明日を楽しく、ね……。……ねぇ、ジャン」
ジャン「なんだ?」
アニ「あんたは明日、笑っていたいかい?」
ジャン「は?」
ベルトルト「……アニ、もう黙って……」
ジャン「そりゃあ、誰だって笑える明日のほうがいいだろう…?」
アニ「…そうね………私も明日笑っていたい……」
ベルトルト「アニ!!」ダンッ!! ガチャン!!
ジャン「うわっ!急になんだよ、ベルトルト。ジョッキが倒れちまったじゃねぇか」
ベルトルト「……」
アニ「…はい、台拭き」ポイッ
ジャン「おっ、サンキュ。あんまり中身入ってなくて助かったぜ」フキフキ
ベルトルト「…」
ライナー「おーい、ベルトルト!!俺たちの出番だぞ!!」
サシャ「伴奏、お願いしまーす!!」
ジャン「おっ、ライナー軍団が歌うのか。あいつらの野太い歌声とも今日でお別れだな」
アニ「…呼ばれてるよ。早く行きなよ」
ベルトルト「…」
ライナー「ベルトルト!!聞こえてるんだろう?早く来いよ!!」
ジャン「ほらっ、ライナーが待ってるぜ。行ってやれよ」
ベルトルト「……ジャン、お願いがある」
ジャン「んっ、どうした?」
ベルトルト「…僕がこの席に戻ってくるまで、アニをどこにも行かせないでほしいんだ」
アニ「…」
ジャン「なんだそりゃ?」
ベルトルト「無茶苦茶なお願いで悪いんだけどさ…。頼むよ、ジャン」
ジャン「あ、ああ。そんな真剣な顔して頼まれたら断れねぇし…」
ベルトルト「良かった。じゃあ、すぐ戻ってくるから…」ガタッ スクッ スタスタ
アニ「…」
ジャン「…どこにも行かせるなってよ」
アニ「…」
ジャン「…今日は囚われの姫君ごっこでもしてんのか?」
アニ「…そう」
ジャン「ったく、俺まで巻き込むなよ。牢番役なんてごめんだぜ」
アニ「……そこの優しい牢番さん」
ジャン「あん?」
アニ「…私を逃がしてくれないかい?」
※ ※ ※ ※
ザワザワ ガヤガヤ
サシャ「みなさーん!デス・クリーガーズの最終公演が始まりますよー!!」
ナンダナンダ? アア ライナータチネ
サシャ「本日はなんとベルトルト・フーバー氏が友情出演してくれました。はい、みなさんフーバー氏に拍手を!!」
パチパチパチパチ…
キャー キャー ベルトルト カッコイイー
サシャ「皆様に今宵お届けするのは、ヴェルディの歌劇『椿姫』より『乾杯の歌』です!」
サシャ「みなさんの前で歌わせてもらうのも今日で最後だと思うとすごく寂しいです…」
サシャ「けれど私は歌うことをやめません。生きる限りは歌いながら進みます!」
サシャ「どんな道でも歌いながら歩けば楽しい道になりますから!!」
サシャ「さぁ、みなさんも一緒に盛り上がって下さいね!!」
パチパチパチパチ…
ライナー「よし、野郎ども準備はいいか?」
「「オーケェイ、兄貴ぃ」」
ライナー「聞こえねぇぞぅ?」
「「オーケェイ!!兄貴ぃ!!」」
ライナー「解散にあたって、俺からお前らに贈る言葉はたった三つだ。すなわち、戦え、もっと戦え、あくまで戦え!」
ライナー「なぜなら俺たち」
「「デス・クリーガーズ!!!」」
ライナー「よし!ベルトルト、いかしたナンバーを一曲頼むぜ!」
ベルトルト「う、うん…」
♪ ♪ ♪~♪ ♪ ♪~
Libiamo, libiamo, ne' lieti calici♪ さあ友よ、飲み明かそうぜ
che la bellezza infiora,♪ 喜びの酒を乾杯だ
e la fuggevol, fuggevol, ora♪ 青春はあっという間に過ぎていく
s'inebrii a voluttà!♪ だから今日は楽しく酔っちまおう
クリスタ「ふふ、ライナーってば相変わらずすごい声量だね。会場中が振動で震えてるよ」
ユミル「…クリスタ、お前さぁ…」
クリスタ「なぁに、ユミル」
ユミル「…もしだよ。もし私が、お前も駐屯兵になって欲しいって言ったらどうする?」
クリスタ「…なるよ。それがユミルの望みなら」
ユミル「あっさり答えるんだね。マルコはいいのかい?」
クリスタ「…頭の中から好きとか嫌いとか、そういう気持を全部取り除いてね、真っ白な状態にして静かに目を閉じると」
クリスタ「一番に浮かんでくるのがユミルの顔なんだ。だから私にとってユミルは特別な存在なんだと思う」
ユミル「…私もだよ、クリスタ。目を閉じていつも浮かぶのはお前の顔だ」
クリスタ「友情とか恋愛感情とかじゃ説明できない、もっと深いところでユミルと私は繋がってる気がするよ」
ユミル「そうだね。だからお互いの幸せを願わずにはいられないんだ。……クリスタ、お前は憲兵団へ行きな」
クリスタ「ユミル…」
Libiam ne' dolci fremiti♪ さあ飲もう 俺たちの胸にあるのは
che suscita l'amore,♪ 甘いときめきと燃える恋心
poichè quell'occhio al core♪ やさしい瞳が愛をささやき
onnipotente va!♪ 俺たちを誘っているぜ
ユミル「そんなに悲しそうな顔をするんじゃないよ。心配しなくても、ちゃんとお前を追いかけるからさ」
クリスタ「…ありがとう。ユミルを信じて待ってるから。…………ジャンと一緒に」ニコ
ユミル「クリスタ…、最近性格悪くなったよね?マルコのせいだろ?あの腹黒男に影響されすぎだよ」
クリスタ「マルコは腹黒じゃないもん。誠実で純粋で優しくて………たまにエッチなこと言うけど」カァァ
ユミル「は!?小声で今なんて言った?」
クリスタ「何でもない。…ちょっとお手洗いに行ってくるね」ガタッ スクッ
ユミル「こら、待ちな」ガシッ
クリスタ「…なに?」
ユミル「嘘つくな。…マルコと抜け出す気なんだろう?」
クリスタ「……バレてた…?」
ユミル「チッ…やっぱり意図的にあんなふざけた曲を弾いてたんだね。油断も隙もあったもんじゃない」
クリスタ「…嘘をついてごめんなさい。…お願い、手を離して。マルコが外で待ってるから…」
ユミル「…」
クリスタ「お願い、ユミル」
ユミル「…私とマルコ、どっちが好き?」
クリスタ「ユミルだよ」
ユミル「くくっ…、ははっ、いいよ、行ってきなよ」クスクス
クリスタ「どうして笑うの?」
ユミル「ん?本当に間髪いれずに答えるんだと思ってね」ナデナデ
クリスタ「???」
ユミル「そうだ。行く前にさ、乾杯しようじゃないの。ほら、ジョッキを持ちなよ」
クリスタ「でも…私お酒に弱いから…」
ユミル「いいから、いいから。…ちょっとぐらい酔ってたほうが痛くないって」
クリスタ「…痛くない?」
ユミル「だってさ、そういうつもりで抜け出すんだろう?」
クリスタ「んー………?ハッ、ち、ちがうよ。私はマルコに呼ばれてるだけで…」カァァ
ユミル「お前にその気が無くても、向こうはやる気満々だっつーの。あー、腹立つ」
クリスタ「…それでも、行っていいの?」
ユミル「ああ、行っちまえ、バカ娘」
クリスタ「…今まで散々邪魔してたくせに」
ユミル「まぁね。でも気付いたんだよ。体の繋がりなんかより、私とクリスタとの絆のほうがずっと強いって」
クリスタ「うん、そうなんだけど……そういう言い方をされると恥ずかしいというか、照れるというか…ゴニョゴニョ」
ユミル「はいはい。どうせこの後死ぬほど恥ずかしがるんだろうから気にするな」
クリスタ「もう!ユミルっ…」カァァ
ユミル「真っ赤になって、まったく可愛いもんだね。じゃ、クリスタの健闘に乾杯」カタッ
クリスタ「け、健闘って…。…乾杯」カチンッ!
ユミル「明日遅刻しても適当にごまかしといてやるからさ」ゴクゴク
クリスタ「…あの、ちゃんと寮には帰るつもりだからね…///」ゴクッ
ユミル「ばーか、絶対に朝帰りだよ。ほら、行きな。外は寒いから上着を忘れずに持ってくんだよ」
クリスタ「うん…。ありがとう、ユミル」
Libiamo, amore, amor fra i calici♪ グラスに愛を注いで乾杯しよう
più caldi baci avrà♪ そして熱く燃えるキスをしようぜ
コニー「ぎゃはははは、ライナーのやつ、テーブルの間歩きながら歌ってるぜ」ゲラゲラ
エレン「くくっ、すげぇな。片っ端から、視線の合った女子の手を握って熱唱してるしよ」ゲラゲラ
ミカサ「手を握られた女の子はすごく迷惑そうにしてる…」
アルミン「…あっ!……ついに張られた。パチン!ってかなり大きな音だったよね。痛そうだなぁ」
コニー「それでも、かまわず歌い続けてるぜ」ゲラゲラ
エレン「けどよ、ベルトルトがよく伴奏引き受けたよな。すげぇ恥ずかしがり屋なのに」
ミカサ「…今日で最後だから?」
アルミン「そうだね。ベルトルトもきっと別れが惜しいんだよ。さよならの挨拶代わりなのかもしれないね」
コニー「俺もみんなと別れるのはちょー寂しいぜ」
アルミン「うん。でも僕たちは同じ道を進むんだ。君たちが一緒だと思うとすごく心強いよ」
ミカサ「ふふ、まだまだ賑やかな生活は続きそうね」
エレン「じゃ、みんなで乾杯しようぜ。これからもよろしくな」カタッ
「「かんぱーい!!」」カチャッ! カチャンッ!
Ah! Libiam, amor, fra' calici♪ 愛で満たしたグラスで乾杯だ
più caldi baci avrà♪ そして熱いキスを交わそうぜ
ミーナ「うっ、耳がキーンとしたよ。やっぱり男だらけの合唱団の迫力は半端ないね」イテテ
トーマス「楽器を使わないで声だけであれほど大きな音を出されたら、俺たち軍楽隊は立つ瀬がないね」
フランツ「じゃあ、駐屯兵団でさ、もっと大規模な軍楽隊を作らないか?」
ハンナ「いいわね、それ。…でもアルミンはいない。私たちだけで軍楽隊を立ち上げられるかしら?」
トーマス「大丈夫。やろうと思えば何でもできるさ。戦え、それが自由への道、だろ?」
ミーナ「ふふっ、毎朝歌ったね。訓練兵団の歌。…もう歌うことも無いんだね。…グスッ、ごめん、勝手に涙が…」ポロポロ
トーマス「…ゴソゴソ…ほら、ハンカチ」スッ
ミーナ「…ありがとう…グスッ…うぅぅ…」ポロポロ
トーマス「…これからも俺が毎朝一緒に歌ってやるよ。だから泣くな」ヨシヨシ
ミーナ「…ヒック、いやだよ、グスッ、二人だけで歌ってたら、ヒック、なんか格好悪いでしょ、ズビィィ…」ポロポロ
トーマス「あぁ…、俺のハンカチ…」
ハンナ「…ミーナに彼氏ができない理由がよく分かるでしょ?」
フランツ「うん。鈍感でガサツなんだね」
ハンナ「ほら、ミーナ、泣いてないで乾杯しましょう」カタッ
フランツ「うん。トーマスとミーナに祝福あれ」カタッ
ミーナ「は?なんでよ、グスッ」カタッ
トーマス「いいから、いいから」カタッ
「「かんぱーい!!」」カチャッ! カチンッ!
トーマス「…これからも俺が毎朝一緒に歌ってやるよ。だから泣くな」ヨシヨシ
ミーナ「…ヒック、いやだよ、グスッ、二人だけで歌ってたら、ヒック、なんか格好悪いでしょ、ズビィィ…」ポロポロ
トーマス「あぁ…、俺のハンカチ…」
ハンナ「…ミーナに彼氏ができない理由がよく分かるでしょ?」
フランツ「うん。鈍感でガサツなんだね」
ハンナ「ほら、ミーナ、泣いてないで乾杯しましょう」カタッ
フランツ「うん。トーマスとミーナに祝福あれ」カタッ
ミーナ「は?なんでよ、グスッ」カタッ
トーマス「いいから、いいから」カタッ
「「かんぱーい!!」」カチャッ! カチンッ!
すまんミス。>>63無しで
Tra voi, tra voi saprò dividere♪ みなさんと一緒なら
il tempo mio giocondo;♪ いつでも楽しい時間が過ごせます
tutto è follia, follia nel mondo,♪ つまらないことが多い世の中ですが
ciò che non è piacer!♪ 今だけは全部忘れて騒ぎましょう
ジャン「おっ、今度はサシャの独唱か。相変わらず楽しそうに歌いやがる」
アニ「…もう行っていいかい?」
ジャン「ああ、デスクリの連中が動き回ってるおかげで、今ならベルトルトからこっちは見えねぇだろう」
アニ「悪いね。…あいつとの約束破らせて」
ジャン「約束っつてもな。お前らのくだらねぇ遊びに付き合う気はハナからねぇし。それに…」
アニ「それに?」
ジャン「大男の真剣な眼差しより囚われの姫君の潤んだ瞳のほうが、牢番には効果的なんだ。ったく、ずりぃぞ、お前」
アニ「…ありがとう、ジャン」ガタッ スクッ
ジャン「そういやお前、飲めねぇんだよな。…乾杯できねぇ。くっそ、周りはカチャカチャ言わせてんのによ」ガックリ
アニ「…片手を上げなよ」
ジャン「ん?…こうか?」スッ
アニ「…憲兵団でもよろしく」パチンッ! スタスタ
ジャン「おう!いつでも俺様を頼りやがれ」
Godiam, fugace e rapido♪ さぁ恋をしましょう
è il gaudio dell'amore,♪ 青春はあっという間に過ぎちゃいますよ
è un fior che nasce e muore,♪ 咲いては散る花のように
nè più si può goder! ♪ この楽しい時間は二度と戻ってきませんよ
アニ「ユミル、外に出て話をしたい」スタスタ ピタッ
ユミル「…今頃になってやっと私のところへ来たのかい?ギリギリじゃないか」
アニ「…まだ間に合う」
ユミル「……どうやら答えが見つかったようだね」
アニ「…あんたに少し手伝ってもらいたいんだ」
ユミル「見返りはあるのかい?」
アニ「…ここにいる連中の未来」
ユミル「いいぜ、その話のった」ガタッ スクッ
Godiam, c'invita, c'invita, un fervido♪ さぁ恋を楽しみましょう
accento lusinghier♪ 熱く甘い囁きが私たちを誘っていますよ
>>1です 今日はここまで。続きは後日
※ ※ 屋外 ※ ※
――時間を遡ること少々
クリスタ「えっと……どこかな……」キョロキョロ
マルコ「捕まえたっ」ガバッ
クリスタ「きゃっ!…もう、びっくりさせないでよ。急に後ろから抱きつくとか…、うっかり大声出すところだったよ」
マルコ「はは、ごめんごめん。あー、クリスタはあったかい」ギュウッ
クリスタ「冷たい手。かなり待たせちゃったかな」
マルコ「うん。凍え死ぬかと思った」
クリスタ「大袈裟だよ」クスクス
マルコ「とりあえずここを離れようか。誰かに見つかると面倒だし。さぁ、お嬢様、お手をどうぞ」スッ
クリスタ「ふふ、マルコ何だか楽しそうだね」ニギッ
マルコ「兵団の行事を勝手に抜け出すのは初めてだから。ちょっとわくわくしてる」スタスタ…
クリスタ「そうだね。いつもマルコは後片付けが終わるまで残ってた」スタスタ…
マルコ「そ、クリスタと一緒にね。最後ぐらい片付け役を誰かに押し付けても文句は言われないはずだよ」
クリスタ「けど、あんなふうに誘われるとは思わなかったよ。相変わらずマルコはピアノにばっかりおしゃべりさせるのね」
マルコ「クリスタに直接声を掛けようとしたんだけど、ユミルがべったりだったから。でも気付いてくれて良かったよ」
クリスタ「モーツァルトの歌劇『ドン・ジョヴァンニ』のセレナーデ」
マルコ「正解。ジョヴァンニ氏が女の子を家の外へ誘い出すときに歌う『窓辺へおいで』だよ」
クリスタ「まんまとつられて外に出てきちゃったけど、…歌劇の内容からすると私は遊ばれてるだけなのかしら?」
マルコ「はは、お話のモデルは伝説の色男ドン・ファンだからね。確か1003人もの女性を泣かせたんだっけ?」
マルコ「でも彼のようにたくさんの女の子に同時に良い顔できる程、僕は器用じゃないよ」
クリスタ「そう?マルコは器用だよ。スルスルっと何でもこなすし」
マルコ「クリスタに関しては不器用だよ。君を前にすると言いたい事もなかなか言えない」
クリスタ「まだ私に遠慮してるの?」
マルコ「遠慮じゃないよ。君に嫌われるのが恐いんだ」
クリスタ「嫌われるようなことを言うつもり?」
マルコ「言うつもりというか………するつもり」ポリポリ
クリスタ「っ…」カァァ
マルコ「はぁ…格好悪いよね。もっとスマートな誘い方ができればいいんだろうけど、頭がうまく回らない」
クリスタ「ふふ、今日はお得意のあまーいセリフが出てこないんだ」
マルコ「出てこないよ。余裕が無いから」
クリスタ「少しぐらいお酒飲んでくれば良かったのに。ジャンが言ってたよ。マルコは酔うと陽気になるって」
マルコ「ダメだよ。饒舌になりすぎてクリスタの前でエロ親父発言を連発するに決まってる」
クリスタ「ふふっ、そんなマルコも見てみたい」クスクス
マルコ「幻滅するよ?」
クリスタ「そうかな。好きな人の欠点は、欠点に思えないから。親父マルコをかわいいって思っちゃいそう」
マルコ「まぁ、僕もクリスタだったら何をしても許せる気がするけど…」ジッ
クリスタ「なぁに?急に顔を覗き込んで」
マルコ「少しずつ顔が赤くなってきてるよ。…お酒飲んだでしょ」メッ
クリスタ「うん、ちょっとだけ。でも許してくれるんだよね?」ニコ
マルコ「はいはい、許しますよ。けどさ、見るからにお酒に弱そうなんだから飲まないほうがいいって」
クリスタ「分かってるよ。出てくる前にユミルと乾杯しただけだから」
マルコ「ユミルか…。クリスタは知ってるの?ユミルがジャンのことをどう思ってるのか」
クリスタ「まったく知らないよ。ユミル、自分のことを全然話してくれないし」
マルコ「そっか」
クリスタ「だから、すごく驚いたよ。まさかジャンがユミルのことを好きだなんて…」
マルコ「ジャンは半年ぐらい前から気にはなってたみたいだよ。うまくいけばいいけど、難しいだろうね…」
クリスタ「大丈夫。ユミルは優しいから。ジャンみたいに真っ直にぶつかってくる人を放っとかないと思うよ」
マルコ「オトナだしね。振るにしてもジャンが傷つかないよう、上手にあしらってくれそう」
クリスタ「でもユミル、約束してくれたよ。駐屯兵団から憲兵団を目指すって」
マルコ「それはクリスタがいるからだよね」
クリスタ「まぁ、そうなんだけど…。でも、まだジャンにもチャンスがあると思うよ…」
マルコ「…ねぇ、クリスタ」
クリスタ「なぁに?」
マルコ「…君は本心ではユミルと一緒に駐屯兵になりたいって思ってない?」
クリスタ「…そんなことないよ」
マルコ「隠さなくてもいいんだよ。君はそもそも内地が苦手だし…、それに…、僕はユミルに勝てる気がしない」
クリスタ「マルコ…」
マルコ「僕はずるいから、今日、君を僕のものにして有無を言わさず内地に連れて行こうって考えたんだけどさ…」
マルコ「やっぱり…クリスタの幸せを考えると…、僕のわがままは通せないよ…」
クリスタ「…どうして決めつけるの?自分の人生ぐらい、これからは自分で決めさせてよ」
マルコ「けど…」
クリスタ「残念ながら、私はマルコといると幸せなんだ。…だから一緒に内地へ行くよ」ニコ
(…これでいいんだよね。…ユミル)
マルコ「…っ、クリスタ」グイッ
クリスタ「あっ…!」
抱き寄せられ唇を塞がれる。
優しく甘い口付けを名残惜しむかのようにゆっくりと顔を離し、耳元で吐息まじりに囁かれる。
マルコ「…Je te veux(あなたが欲しい)」
クリスタ「!」ボッ
マルコ「…いいよね」
哀願まじりの少し情けない表情で問われれば、断ることなんてできるはずもなく…
クリスタ「///」コクン
黙って小さく頷くことしかできなかった。
※ ※ 送別会 会場 ※ ※
ベルトルト「ジャンっ!!アニはどこへ行ったの?」
ジャン「知らねぇ」
ベルトルト「ちゃんと見張っといてって言ったよね!?」
ジャン「ったく、何をそんなにムキになってんだよ。何プレイだか知らねぇけど、たかがお遊びだろ?」
ベルトルト「くっ…。他人に頼るんじゃなかった…。ああ、僕のせいだ…僕の…」ワナワナ
ジャン「おい…ベルトルト?大丈夫か?すげぇ震えてるしよ…」
ライナー「よう!ジャン。クリスタを見なかったか?」スタスタ
ジャン「おっ、丁度いいところに来たぜ。ベルトルトの様子がおかしいんだ」
ライナー「ベルトルトが…?どうした?何かあったのか?」
ベルトルト「…ライナー。アニが消えた…」ブルブル
ライナー「…それがどうした」
ベルトルト「っ!!どうしたって……ライナー分かってるのか!?」ガシッ!!
ジャン「おいっ、ベルトルト落ち着けよ。どうしたんだよ、温厚なお前らしくもねぇ」
ライナー「…とりあえず手を離せベルトルト。これでは話ができんだろう」
ベルトルト「…うぅ…」スルッ
ライナー「ジャン、悪いが席を外してくれないか。今後の身の振り方についてコイツと腹を割って話し合うからよ」
ジャン「あ、ああ。分かった。けど、くれぐれも喧嘩すんなよ。巨漢二人に暴れられたら大惨事だ」スタスタ
ライナー「行ったな。…とりあえず座れ」ガタッ ストン
ベルトルト「…」ガタッ ストン
ライナー「…お前、アニとさっきまで一緒にいただろう?あいつ何か言ってたか?」
ベルトルト「…明日笑っていたいって…」
ライナー「ほう。そりゃ結構じゃねぇか」
ベルトルト「…何が結構なんだよ」
ライナー「あいつは俺たちを裏切ったりはしねぇよ。人のことを裏切って笑えるような女じゃねぇだろ?アニは」
ベルトルト「…そうだけど」
ライナー「ただ…、逃げたんだろう。始めから明日の作戦には乗り気じゃなかったしな」
ベルトルト「…ライナーはなんでそんなに落ち着いていられるんだ?たった3人しかいない仲間が1人欠けたんだよ?」
ライナー「大袈裟だな。明日欠席するってだけだろう」
ベルトルト「そんな…軽く済まされることじゃないよ」
ライナー「俺たちが事を重大に受け取っちまったら、あいつの戻ってくる場所がなくなるだろう?気楽に考えるんだ」
ベルトルト「ライナー…」
ライナー「…明日は俺とお前の二人で決行する。アニの代わりぐらい俺でも十分やれるさ」
ベルトルト「…じゃあ、当初の予定通り調査兵団が壁外へ進軍した後…」
ライナー「…ああ。…早く故郷に帰ろう、ベルトルト」
※ ※ ※ ※
ジャン「よっ!俺もまぜてくれ」ガタッ
エレン「げっ、ジャンかよ。こっち来んな」
ミカサ「そんな言い方をしてはダメ。喧嘩になる」
サシャ「色男の登場ですね。さっきはカッコ良かったですよ」
ジャン「そ、そうか?」
コニー「ああ、俺にはとてもマネできねぇ。……みっともなさすぎてな。お前、マジ恥ずかしい野郎だな」ゲラゲラ
ジャン「うっせぇ!ったく、馬鹿みてぇなのは自分でも分かってるからいいんだよ」
アルミン「はは、恋をすると馬鹿になるって本当なんだね」
ミカサ「…では私は6年前から馬鹿ということ…」ブツブツ
エレン「ミカサどうした?小声でなに呟いてんだよ」
ミカサ「エレンはいつから馬鹿なの?」
エレン「はぁ?」
サシャ「けど、ジャンはユミルに‘大好きだー’って伝えなくてよかったんですか?」
ジャン「いや、十分伝わってるだろ」
サシャ「それでもちゃんとした言葉が欲しいものですよ、女の子は」
ジャン「女の子は、だろ?あいつはそんな可愛いもんじゃねぇよ」
サシャ「そうですか?ユミルは可愛いですよ。そりゃあ口は悪いですけど…」
ジャン「俺だって最初の予定では送別会場の中心で愛を叫ぶつもりだったんだがよ…」ガシガシ
エレン「…引くわー」ゾワワ
ジャン「うっせ。…あいつ兵士辞めるとか言い出すし、伝えたいことがぐちゃぐちゃになっちまった」
ミカサ「…けど、今すぐ勝負に出なかったのは正しい判断だと思う」
ジャン「勝ち目がないって?」
ミカサ「ジャンには悪いけど」
ジャン「はっ、んなことは言われなくても分かってるさ」
ミカサ「私がエレンと出会って、身をもって学んだ教訓をジャンに教えよう」
ジャン「なんだ?」
ミカサ「片思いをしている限り、永遠に恋はしていられる」
ジャン「なるほどな。勝手に思うのは自由だからな。けど、その教訓はとっくにお前から学んでるぜ、ミカサ」
ミカサ「…そう。ならいい。諦めない限り奇跡がジャンにも起こるかもしれない」
ジャン「奇跡ねぇ。まぁ、確かにそれぐらい望みはねぇかもな」
アルミン「そういえばマルコの姿がないけど…?」キョロキョロ
サシャ「クリスタとユミルもいませんよ」キョロキョロ
ジャン「ああ、アニも消えたらしいぜ」
コニー「んん?さては4人で抜け出したのか?」
サシャ「うーん…、それは無いと思いますけど」
ジャン「どうせマルコはクリスタ連れてどっかしけ込んでんだろうよ。あいつ妙にソワソワしてたから」
エレン「じゃ、アニとユミルは?」
ジャン「知らね」
ミカサ「…寮に帰ったのかしら?」
サシャ「ありえますね。二人ともこういうイベントはあまり好きではないですから」
アルミン「残念だなぁ。最後ぐらいみんなで騒ぎたかったよ」
ジャン「まっ、いいじゃねぇか。俺たちは自由だ。やりてぇようにやればいいんだよ。とりあえず乾杯しようぜ」
エレン「えー、俺らさっきしたしー」
ジャン「うだうだ抜かすな。もっかいぐらい付き合えよ。…てめぇとは喧嘩ばっかしてたけど、それなりに楽しかったぜ」
エレン「おう。俺もだ、ジャン・マロニエ」ニッ
ジャン「ってめぇ!!人が下手に出てやってんのによぉ///」ガタッ!! ガシッ!!
エレン「へへっ、やっぱ俺たちはこうだろ?さよならの挨拶は乾杯よりも拳だってぇの」ガタッ!!
ジャン「はっ、言うじゃねぇか。だったら最後に派手に喧嘩しようぜ」シュッ
ドガッ!! バギッ!! ドガッ!!
ザワザワ キャー キャー ケンカガハジマッタゾー
アルミン「ミ、ミカサ、今日は止めないの?」
ミカサ「止めない。…だってエレン、すごく楽しそうだから。邪魔をしたら可哀想」
アルミン「うん…、だけどね、ジャンの顔が徐々に可哀想なことになってきてるよ?」
ミカサ「…マルコが止めればいい」
アルミン「だからマルコがいないんだって」
ミカサ「こんな時に何をしてるのかしら、あの班長さん」フゥー
アルミン「ため息ついてないで、止めてあげてよ、ミカサ」
※ ※ 宿屋 ※ ※
――『戦況報告』 104期訓練兵団所属 19班 班長マルコ・ボット
○時×分 初めて入る安宿に挙動不審になりつつも部屋への潜入に成功
○時×分 激しい論争の末、絶対にシーツを剥がないという条件のもと、ランプの点灯権を確保
○時×分 羞恥に染まるターゲットをなだめすかしシーツの中で衣服を剥ぎ取る。残すところ下穿き一枚のみ
そして現在―――体を捩って笑い転げるターゲットの奇行に大苦戦中…
クリスタ「ひゃっ、はははははっ、やだっ、もう、くすぐったいよぅ」クスクス
マルコ「まったく笑いすぎだよ。じゃあ、くすぐったくない所ってどこ?」
クリスタ「うーん…、無い」
マルコ「……何もできないよ」
クリスタ「ふふっ、何もしないで」
マルコ「…」コチョコチョコチョ…
クリスタ「ひっ、あははっ、やっ、やめてっ…きゃははははは、く、苦しいよ、ひーっっ」ジタバタ
マルコ「ぷっ、あはははは、敏感すぎだよ」
クリスタ「ゼェゼェ…、ひどいよマルコ。こちょこちょして遊ばないで」
マルコ「この前は平気だったよね?」
クリスタ「この前…?」
マルコ「えっと…、未遂に終わった時…」
クリスタ「うっ……、あの時は本当にごめんなさいでした」
マルコ「いや、謝らなくてもいいんだけどさ。…あの時は普通に触れても大丈夫だったはず」
クリスタ「あのね、今はちょっとだけ酔いが回ってて何されても笑っちゃう、ひゃっ、もうっ、やだぁ」ジタバタ
マルコ「こんなに笑い上戸だなんて聞いてないよ」コチョコチョ…
クリスタ「ひっ、ひーっ、ダメェ、きゃはははっ、し、死んじゃうよぅ、くくくっ、ほ、ホントにやめてっ」ジタバタ
マルコ「はぁ…ムードも何もあったもんじゃない」
クリスタ「ゼェゼェ…、ごめんなさい」ヨロヨロ
マルコ「でもクリスタが楽しそうだからいいや」
クリスタ「もうっ、楽しくて笑ってるわけじゃないよ」ブゥ
マルコ「僕は楽しいよ。クリスタとじゃれ合ってるだけでも」
クリスタ「えっと、じゃあ今日はこれぐらいで…」
マルコ「いいよ。クリスタが嫌なら」
クリスタ「…あっさり」
マルコ「だって無理強いしたくないし」
クリスタ「…でも、マルコとの約束がいつまでたっても果たせないよ…」
マルコ「ああ、コンクールで勝ったらってやつ?あれはもう無効でいいよ」
クリスタ「そうなの?」
マルコ「うん。約束だから仕方なくっていうのは悲しいから」
クリスタ「あのね、仕方なくとか、…す、するのが嫌とか…そうじゃなくてね……」
マルコ「いいよ、無理しなくて」
クリスタ「ちがうの。…こういうことって初めてだからすごく恥ずかしいし、ちょっと恐いし…」
マルコ「うん…」
クリスタ「その…、マルコはどうしてこんなことをしたがるのかなって…」
マルコ「…それを聞くの?」
クリスタ「だって普段のマルコは私の嫌がることは絶対にしないのに、……今日はイジワルするんだもん」
マルコ「はぁ…、分かったよ。クリスタの質問に答えてあげるよ。意地悪してるわけじゃないからさ」
クリスタ「うん」
マルコ「えっと、僕がクリスタとなんでセック、モガッ!!」バシッ!!
クリスタ「ストレートに言わないで!!///」
マルコ「モガモガ…(ごめん)」
クリスタ「あの、できるだけ恥ずかしくない言い方で…」
マルコ「分かったよ。んーと、僕がクリスタとなんでしたいかっていったら…」
クリスタ「うん」
マルコ「生物学的に言えば種の存続のため。社会学的に言えば労働力の確保のため」
クリスタ「そういうことを聞きたいんじゃなくて…」
マルコ「分かってるよ。…僕的に言えばクリスタのことが好きだから」
クリスタ「…答えになってないよ」
マルコ「なってるよ。人間はお腹が空けば食べたいって思うし、眠くなれば寝たいって思う」
クリスタ「うん」
マルコ「で、好きだと抱きたいって思うわけで…」ポリポリ
クリスタ「…うん」
マルコ「僕が一方的に思ってるだけじゃ無理だから」
クリスタ「…うん」
マルコ「クリスタをそういう気分にさせなきゃいけないんだけど」
クリスタ「…うん」
マルコ「君は触れると笑い転げるばかりで」
クリスタ「…うん」
マルコ「僕は途方に暮れている」
クリスタ「…続きは?」
マルコ「無いよ。…あーもうっ、自分で言ってて恥ずかしくなった」ガシガシ
クリスタ「ふふ、マルコがかわいい」
マルコ「かわいい?初めて言われたよ、そんなこと」
クリスタ「うん。普段は格好いいけど、今日はかわいい」
マルコ「いつもは頑張ってオトナぶってるから。でも今はそんな余裕が無いんだよ。ごめんね」
クリスタ「ううん。無理して背伸びしなくていいよ。…私はかわいいマルコも好きだよ」ヨイショ
マルコ「っ、ク、クリスタ?」
シーツの中、仰向けに寝そべるマルコの上に乗り、両肘を顔の横についた。
鼻先がぶつかりそうな距離まで顔を近づけ、軽く微笑む。
クリスタ「重くない?」
マルコ「ぜんぜん平気。むしろ軽すぎるよ。ちゃんとご飯食べてる?」
クリスタ「食べてるよ。ふふっ、マルコの頬っぺた柔らかい」フニフニ
マルコ「えっと、どういうつもりかな、この体勢は…」
クリスタ「触られるとくすぐったいけど、触るのは平気だから」
マルコ「…僕なんか触っても面白くないよ?」
クリスタ「いいの。……私がそういう気分になればいいんだよね?」
マルコ「う、うん…」
クリスタ「…キスしていい?」
マルコ「いいけど…。分かってるの?自分で言ってること…」
クリスタ「大丈夫。ジャンの本で少しだけ学んだから」
マルコ「は?…ジャン?」
クリスタ「…あのね…以前、夜中に講義棟の裏でキスしたことがあったでしょ…?」
マルコ「あ…、うん」
クリスタ「…あの時、私…多分そういう気分になってたんだと思う…」
マルコ「まぁ…、目が潤んでたしね…」
クリスタ「…うん、…それにね…」
真っ赤になりながらマルコの耳元に唇を寄せ、小さく囁いた。
クリスタ「…すごく…濡れてたんだ…」
マルコ「っっ~~~~!?」ボッ
普段のクリスタからは想像もできない艶かしい言葉に、熱さを感じるほど顔面に一気に血が上る。
Hallelujah! Hallelujah! Hallelujah! ~♪
頭の中では、教会のカリヨンが打ち鳴らされ、ヘンデルの『メサイア』が大音声で合唱される。
軽い混乱状態の中、仲良く散歩に出ようとした理性と自制心を引き止めたのは、羞恥に打ち震えるクリスタの姿だった。
あまりの恥ずかしさにマルコの肩口に顔を埋めたまま動けないでいるクリスタに、苦笑しながら髪を優しくなでる。
マルコ「あのさ、無理してそういうこと言わなくていいから。心臓に悪いよ」
クリスタ「…けどマルコにちゃんと伝えたかったの…」
マルコ「何を?」
クリスタ「…私だってマルコが好きだから…抱かれたいって思うわけで…」
マルコ「…でも恐いんだよね…?」
クリスタ「うん。…だから…優しくして…」
マルコ「もちろんだよ」
クリスタ「それと…二度とくすぐらないで」
マルコ「了解。さっきはふざけ過ぎたね。ごめん」
クリスタ「…あと、ランプ消して」
マルコ「そこは譲れない」
クリスタ「…いじわる」
マルコ「もう口を閉じて。…キスできないよ」
クリスタの頭にそっと手をやり引き寄せる。
最初は軽く触れるだけ。ついばむような口付けを繰り返しながら徐々に唇は開き赤い舌を覗かせる。
柔らかなブロンドに指を差し入れ梳くように後頭部を弄り、もう片方の手で恐る恐る背中をさする。
どうやら背面は触れても平気なようで、クリスタから背中に回した手を咎める様子は窺えなかった。
ただ時折、指がわき腹当たりを掠めると体は魚のようにビクッと跳ね、数回舌を甘噛みされた。
何もかもが細く華奢で、強く抱きしめれば壊れてしまいそうな体が愛おしくて。
慈しむように、滑らかな背中を撫で回した。
しばらくするとクリスタの吐息に微かに甘い声が混じり出す。頬は上気し潤んだ瞳で切なげにマルコを見やる。
そして何よりマルコの下腹の上で、無意識に小さくもぞもぞと動くお尻が、欲情していることを示していた。
マルコ「…クリスタ、ちょっと降りてくれるかな?僕も脱ぐから」
クリスタ「…うん」
シーツから抜け出し、二枚重ねのシャツをまとめて脱ぐ。
クリスタが横目で見てるのに気付き、慌てて背中を向け、ズボンを抜き取った。
下穿き一枚の姿になると、膨らみきった下半身を隠すように急いでシーツにもぐりこむ。
クリスタの首の下に手を差し込み、向き合って抱きしめる。
素肌が触れ合った部分はほんのりと熱を持ち、優しい温もりに包まれる。
クリスタ「男の人の裸って初めて見たよ」
マルコ「あー…、うん、クリスタはそうかもね。でも巨人と変わらないでしょ」
クリスタ「本物の巨人も見たことがないよ」
マルコ「良かったね。先に僕の裸を見といて。巨人と遭遇して赤面してたら、みんなに笑われるよ」
クリスタ「もうっ、巨人で赤くなったりしないもん」
マルコ「…だいぶ酔いも醒めてきたんじゃない?首の辺りの赤みが引いてきたし」
クリスタ「そう?」
マルコ「うん。まだくすぐったいかな…。ちょっと触っていい?」
クリスタ「もうっ、その言い方変態っぽいよ」
マルコ「男はみんな変態だよ」
クリスタ「ひゃっ…、やめてっ。…あのね、胸は触らないでほしいの…」
マルコ「やっぱりくすぐったい?」
クリスタ「…そうじゃなくて、………ちっちゃいから。マルコ、絶対にがっかりするもん」シュン
マルコ「別に大きさとか気にしないけど。可憐で慎み深くて可愛らしいと思うよ」
クリスタ「…っ!!絶対に触らないで!」
マルコ「…何で怒るの?」
クリスタ「…マルコってば本当に慎み深いって言うし…最悪だよもう…ブツブツ」
マルコ「気に障る言い方だった?悪かったよ。謝るから機嫌直して」チュッ
クリスタ「…もう嫌がることはしない?」
マルコ「うん。しない」
乳房への接触禁止を多少残念に思いつつ、気を取り直し首筋に唇を落とす。
生暖かい舌の這う感触に思わず声が漏れる。
わざと水音をたてて吸い付きながら、背中を滑る手は下に向かって伸びていく。
そっと下穿きの中へ手を差し入れると抗議の言葉が小さく発せられたが、聞こえない振りをした。
柔らかなお尻を丸く撫で、そのまま手を前に回し未開の地への探索を試みる。
薄っすら生えた茂みを通り越し、さらに奥地へ指を進めた途端、マルコは思わず手を引き抜いた。
クリスタ「やだっ、わざわざ触った指を確認しないでよっ」
シーツから出した手を、クリスタに引っ張られまた中に戻される。
マルコ「ごめん。いや…あの…、また生理かなって…」
クリスタ「…っ」カァァ
マルコ「違ったね。はは……、うん。………ごめん」
マルコ(…あー、驚いた。……びちゃびちゃ)
クリスタの下着に手をかけ膝の辺りまでずり下げると、あとは足を使って器用に脱がせる。
もっと早く脱がせてあげれば良かった、そう思える程ぐっしょりと湿った下着をベッドから放り投げた。
長椅子に引っかかった白い布地を眺めながら、後で洗って薪ストーブで乾かしてあげようとぼんやり考える。
そんなマルコの様子に恥じ入り、震える声で小さく呟く。
クリスタ「…はしたなくてごめんなさい…」
マルコ「気にしなくていいよ。僕には分からないけど、多分女の子はみんなああなるんだろうし」
クリスタ「…でも…」
マルコ「正直に言うと嬉しいよ。この状況に気持が高ぶってるのが僕だけじゃないってことだから」
クリスタ「…マルコも?」
マルコ「うん。この部屋に入った時からずっと興奮状態だよ」
少し躊躇ったあと、クリスタの手をとり自身へと導いた。
下穿きの上からでも分かる熱く脈打つ昂りに驚き、頬を赤く染め思わず手を引っこめる。
マルコ「恥知らずでごめん」
クリスタの両足を開かせ、間に体を割り込ませる。
耳朶を唇で弄びながら、片手は秘所を暴いていく。
ぬるぬると潤うそこはとても熱く、まるで口腔内のように滑り、ここが粘膜だということを実感する。
傷つけないよう優しく指の腹を割れ目に沿って撫で付けると、面白いようにクリスタの体は跳ねた。
官能本の知識でしか知らない小さな突起を見つけ、指先で軽く円を描くように触れると
喉の奥からわき上がる嬌声を押さえきれずに吐息とともに甘やかな声を漏らす。
クリスタ「あっ…、んんっ…ふっ、あんっ…」
眉根を寄せ、初めて感じる淫靡な快楽に耐えきれずマルコの首にしがみつく。
執拗な愛撫に太もも周辺がじっとり汗ばみ、足先がベッドを突っ張る。
無粋だと分かってはいても、マルコは尋ねずにはいられなかった。
マルコ「…気持ちいい?」
クリスタ「あんっ…、そんなの…んっ、わかん…ないよ…」
マルコ「じゃあもう少し続けてみようか」
クリスタ「んんっ…、やだっ…、体が熱くて…ハァ…つらいから…」
まだ幼さの残る身体は高みに上る術を知らず、蓄積された快感が疼きをもたらすばかりで。
止めどなく溢れる愛液は、割れ目を伝いシーツに染みを作っていく。
マルコ「…ちょっとだけ見てもいいかな」
クリスタ「絶対ダメ、んっ…」
マルコ「情けなくて申し訳ないんだけどさ……手探りじゃどこが入口なのか分からない……」
クリスタ「私も分からないっ…」カァァ
マルコ「うん。だから見せて」
クリスタ「…見たら分かるの?」
マルコ「いや…、多分、分からない」
クリスタ「……」
マルコ「…ごめん。そんな目で見ないで」
目視を諦め、指で探る。
親指の腹で突起を弄りながら、中指でクレバスを上下させれば、それらしき窪みに到達する。
ここがキエフの大門か、はたまた山の魔王の宮殿か。
魔法使いの弟子たる彼に分かろうはずもなく、夜のガスパールに誘われるまま、意を決して指の進入を試みる。
入口付近の柔らかき媚肉の抵抗を掻い潜れば、後は意外なほどすんなりと付け根まで指が収まった。
クリスタ「んっ…」
マルコ「痛い?」
クリスタ「…少し」
マルコ「ごめん……やめようか?」
クリスタ「…大丈夫。我慢するから」
マルコ「無理しなくていいよ」
クリスタ「…私がしたいの。…だからやめないで」
マルコ「…ありがとう。君は本当に優しいね。…愛してるよ」
痛みと不安のために涙の滲んだ瞳。その瞼にそっと唇を落とす。
体内にある指を前後させる。この後が少しでも楽になればと、少しづつ身体を開いていく。
ツァラトゥストラはかく語りき――多くのことを中途半端に知るよりは何も知らないほうがいい。
ここでやめるぐらいだったら、始めから何もしないほうがマシだ。
堪えきれず固く結んだ唇から漏れる苦しげな呻きに、折れそうになる心を叱咤する。
それでも未だに狭い入口に指の数を増やそうかと思案するも、指で膜を破ってしまうのは不本意で…。
シーツの中で下着を脱ぎ、完全に解しきったとは言えないそこに、張りつめた自身を押し当てた。
クリスタ「っっ!!あぁっ…!!」
引き裂かれる衝撃に、悲鳴に近い声が上がる。
――アメイジング・グレイス!!
固く閉じた門を押し開くと、そこに広がる豊穣の大地。ああ、神の恵みに感謝を。
クリスタ「…あの…、できたの…かな…」
感慨に耽っていたマルコを現実に引き戻す、痛みに震えるか細い囁き。
マルコ「…うん」
クリスタ「…良かった」
苦痛に歪んだ顔に無理やり笑顔を浮かべ、マルコに向ける。
その切なげな表情に、愛おしさが溢れてきた。
グラツィオーソ、アッパッショナート、ドルチェ、コン・フォーコ…
優雅に、情熱的に、甘く、激しく、純朴な紳士と可憐な淑女の夜は更けゆく。
※ ※ ウォールローゼ内 平原 ※ ※
暗闇の中、二頭の馬が駆けていく
ユミル「ったく、なんでわざわざ南東部を目指すんだい。駐屯地からは南西部のほうが近いだろう?」パカラッ…
アニ「…南西部はサシャとコニーの故郷があるから」パカラッ…
ユミル「なるほどね。…けど人殺しをするつもりはないよ」
アニ「万が一ってこともあるでしょ」
ユミル「しっかし、連中の未来をかけるって大きく出た割にはその場しのぎの作戦だね」
アニ「…その場しのぎでも、運命の歯車を少し狂わせることができる…」
ユミル「ふーん。やっと運命とやらに逆らう気になったんだね」
アニ「…予定調和の未来図に唾を吐きたくなっただけよ」
ユミル「あははっ、いいね、それ」クスクス
アニ「世界は複雑に絡み合ってるから、少しの歪みでも未来に大きな変化をもたらすかもしれない…」
ユミル「逆を言えば、私たちのしようとしていることは、まったく意味の無い行動になるってことだね」
アニ「…だったらまた歪めるまで」
ユミル「…気が向いたらまた手伝ってやるよ」
アニ「…ありがとう」
ユミル「調査兵団が出発するのって何時?」
アニ「予定では午前8時」
ユミル「朝っぱらからご苦労さんだね」
アニ「トロスト区まで伝令が3時間程度で着くポイントを目指すから。…急いで」
ユミル「…んー、それって、まずくない?奴らが全員こっちに向かって出払ったら…」
アニ「…大丈夫。他にも手は打ってあるから」
ユミル「どんな手?」
アニ「…不幸の手紙、第二弾」
ユミル「…それ、駄目なヤツじゃん」
※ ※ 宿屋 ※ ※
室内に小さく響く薪ストーブのはぜる音。その前にマルコは座っていた。
クリスタ「…あの、自分でするから…」
マルコ「いいよいいよ。クリスタは寝ときなって。もうすぐ乾くから」
クリスタ「…恋人に下着を洗われる日が来るとは思わなかった///」
マルコ「ははっ、僕も彼女の下着を洗う日が来るなんて想像したこともなかったよ」
クリスタ「…ごめん」
マルコ「気にしないで。これからは僕が毎日クリスタの下着を洗濯してもいいよ」
クリスタ「なにそれ」クスクス
マルコ「プロポーズ」
クリスタ「…却下。そんなプロポーズ、人に聞かれても恥ずかしくて話せないよ」
マルコ「残念。断られた」
クリスタ「もっと素敵な言葉を期待してるから」
マルコ「また、リベンジしろって言うの?」
クリスタ「うん」
マルコ「しょうがない。クリスタがわがままを言えるのは僕だけだから。とっておきの言葉を考えとくよ」
クリスタ「ふふっ、楽しみにしてるね」
マルコ「…クリスタは今、幸せ?」
クリスタ「うん。幸せだよ。マルコは?」
マルコ「僕はさ、幸せすぎて恐いんだ。何もかもがトントン拍子でうまく行ってて。こういう時って足元を掬われるんだよね」
クリスタ「マルコ…?」
マルコ「ここに来る前に『ドン・ジョヴァンニ』の話を少ししたよね?」
クリスタ「うん」
マルコ「物語の最後って知ってる?」
クリスタ「んーと……ジョヴァンニさんは地獄に堕ちるんだっけ?」
マルコ「正解。貴族の令嬢に手を出したのが原因でね。……僕も地獄に堕ちるのかな?」
クリスタ「私はもう貴族じゃないから大丈夫。どうしたの?急にそんなこと言い出して」
マルコ「すごく満ち足りて幸せなはずなのに、何だろう、漠然とした不安感に襲われるんだ」
クリスタ「人間って欲張りだから、幸せを手にすると、今度はそれを失うのが恐くなる」
マルコ「うん。そうかも。僕はクリスタを失うのが恐いんだろうね。……あー、もうっ」ブンブン
クリスタ「突然頭を振ってどうかしたの?」
マルコ「いや、さっきから頭の中で『トスカ』の『星は光りぬ』がぐるぐる回ってて…」
クリスタ「プッチーニの歌劇?」
マルコ「そう。そのせいで、少し神経質になってるのかも」
クリスタ「処刑を控えた男性が恋人に最後の別れの手紙を書きながら歌う曲…」
L'ora é fuggita, e muoio disperato,♪ 消え去った愛の夢。絶望の中で僕は死んでいく
e non ho amato mai tanto la vita♪ これほど命を惜しんだことはない
クリスタ「ふふっ、歌も上手だね」パチパチ…
マルコ「ありがとう。…じゃなくて、やっと君と一つになれたのに、こんな不吉な曲が頭の中で流れるのが嫌なんだ」
クリスタ「大丈夫。マルコは処刑されないよ。…ねぇ、こっちにきて」
マルコ「……もう一回いいの?」
クリスタ「もうっ、ちがうよ。…マルコが不安そうだからヨシヨシしてあげようと思っただけだよ」
マルコ「はは、子ども扱いだね」ガタッ スタスタ
クリスタ「うん。今日のマルコは一生懸命で可愛かったから」
マルコ「可愛いって言われても複雑な気分だよ」ギシッ
クリスタ「…いい子いい子、マルコも私も死んだりしない。…絶望の後には救いがあるんでしょ?」ギュッ ヨシヨシ
マルコ「懐かしいな…。ショパンの『雨だれ』について話した時…」
クリスタ「うん。幸せな日常を脅かす不吉な影が突然襲い掛かって、なす術も無く絶望するんだけど…」
マルコ「確かに、僕は絶望の後には救いがあるって言ったね。クリスタは天国に召されるって言ってたけどさ」クスクス
クリスタ「もうっ、笑わないでよ」
マルコ「ありがとう。…僕は君を残しては死ねないよ」
クリスタ「約束だよ」
マルコ「ああ、必ず守る」
クリスタ「ふふ。…それより、私の下着は?」
マルコ「乾いたよ。長椅子に置いてる」
クリスタ「…持ってきてよ」
マルコ「履くの?」
クリスタ「履くよ」
マルコ「すぐ脱ぐよ?」
クリスタ「脱がないよ」
―――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
―――――――――――
――――――
舞い上がる土埃
あちこちから立ち上る噴煙
道端に転がる欠損した遺体
鼻をつく生々しい血の匂い
あらゆる方向から迫り来る地響きに似た足音
崩壊しかけた建造物の間をひたすら走る
ハァハァハァハァ…
早く逃げよう…
どうして…どうして…、こんなことに…
耳の奥に静かに流れるショパンの『雨だれ』
ああ、なんでこんな時に…
昨日クリスタと話したからか…
そうだ、クリスタは……彼女は無事なんだろうか……
きっとユミルが守ってくれてるはずだ……信じよう……
鼓膜を震わせる地響きとともに大地が揺れる
ああ…、すぐ後ろにヤツがいる
逃げなきゃ…逃げなきゃ…逃げなきゃ…
死なないって約束したんだ!!昨日、約束したばかりなんだ!!
圧倒的な力で掴まれ身体が宙に浮く
全身がバキバキと音をたてて軋む
頭上に感じる生臭い息
抵抗する間もなく世界が暗転する
―――クリスタ 絶望ノアトニ 救イハ無カッタヨ
―――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
―――――――――――
――――――
ガバッ!!
マルコ「ハァ…ハァ…ハァ…、夢…?」
マルコ(…えっと、ここは…、そうだ、宿の部屋だ…)
隣を見ると静かに寝息をたてるクリスタがいる。
マルコ(…かわいいなぁ、もう)ツンツン
マルコ(それにしても酷い夢だった…。汗びっちょりだよ。着替えなきゃ…って着替えは寮に…)
マルコ「クリスタ!起きて!」ユサユサ
クリスタ「…んー……まだねむたいよぅ……」ムニャムニャ
マルコ「もう外が明るいんだよ!早く駐屯地に戻らないとまずいって」ユサユサ
クリスタ「………うわぁっ!!」ガバッ!!
マルコ「目が覚めた?」
クリスタ「…あっ…マルコ…」
マルコ「おはよう、クリスタ」チュッ
クリスタ「ふふ、おはよう」
マルコ「って、こんなことしてる場合じゃないんだよ。早く用意して。すぐに帰るよ」
クリスタ「う、うん」ゴソゴソ
マルコ「今日はトロスト区で任務の予定だったよね。集合に遅れると置いてかれるよ」ゴソゴソ
クリスタ「班長さんは遅刻できないもんね」ゴソゴソ
マルコ「ほら、行くよ…。えっと、ごめん。今日の任務に支障はないかな…」
クリスタ「大丈夫。…まだ少しだけじんじんするけど///」
マルコ「じゃあ、無理しないでゆっくり急ごう」スタスタ
クリスタ「…難しいよ、それ」スタスタ
>>1です。ずいぶんご無沙汰しててすみません。レスありがとうございました。
実生活が立て込んでまして、またちょっと間が空くかもしれないです。すまぬ
マルクリの不必要な絡みは自分用です。
他でマルクリのHを見たことがなかったもので。需要が無いのは分かってる。自己満万歳
※ ※ 駐屯地 演習場 ※ ※
――AM 8:00
ザワザワ ガヤガヤ
ジャン「やっと来たか色男。朝帰りとか、優等生のやることじゃねぇなぁ」ヒュ~♪
マルコ「…ジャンもまた随分と男前になったね」
ジャン「あぁ、これか?昨日は止める奴がいなかったからな。…気持いいくらいボコられたぜ」
マルコ「ごめん。僕がいれば…」
ジャン「いいんだ。暴れて、怒鳴って、殴られて、この三年間で心の奥底に溜まってた後悔とかわだかまりとかさ…」
ジャン「そういう重たいもんが全部ふっとんだ。体は痛ぇけど、すげぇすっきりした気分だぜ」
マルコ「そっか」
ジャン「…で、お前もすっきりしてきたのか?」ニヤニヤ
マルコ「ゴホンッ…、そういういことは尋ねるもんじゃないだろう?恥を知れよ」ニコ
ジャン「あー、はいはい。ったく、良い笑顔しやがって。この幸せもんが」
マルコ「はは、ありがとう」
ジャン「マルコ、良かったな。おめでとう。俺はお前らがうまくいって心から嬉しい。本当に喜んでんだ」
マルコ「急に何だよ?」
ジャン「んー…、覚えてるか?マルコが俺にクリスタと付き合うことになったって報告してくれた時のこと」
マルコ「覚えてるよ。ジャンは布団被ってた」
ジャン「そ。…あん時さ、俺は最高にヘコんでて……お前のことを素直に祝ってやれなかった」
マルコ「ジャン…」
ジャン「まぁ、今さらだが祝福させてくれ。…お前は本当にいい奴だ。幸せになれ、こんちくしょう」ガバッ バシッ!バシッ!
マルコ「ちょっ、痛いって。そんなに背中叩くなよ。……ありがとう、ジャン」
ジャン「じゃ、そろそろ仕事に行くとするか」スタスタ…
マルコ「あれ?全員揃って行くんじゃないの?」スタスタ…
ジャン「お前が来る少し前になキース教官が来て、もう一人前の兵士なんだから自分の判断で動けって」
マルコ「あっ、それで無断外泊しても咎められなかったのか…」
ジャン「お前一回も罰則受けたことねぇだろ?最後に死ぬまで走らされるマルコの姿が拝めると思ったのによ」
マルコ「ははっ、残念だったね。とりあえずトロスト区へ行って、駐屯兵団の人に指示を仰げばいいのかな?」
ジャン「らしいぜ。本部に行けば仕事を割り振ってくれるんだと」
タッタッタッ…
クリスタ「ハァハァ…マルコ待って。私も一緒に行くから」
マルコ「あれ?ユミルは?」
クリスタ「それが…、どこにもいないの。人に聞いても昨晩から姿を見てないって…」
ジャン「そういや、あいつ送別会の途中で消えてたな。どうぜ1人で飲んだくれて今頃どっかで潰れてんじゃねぇか?」
クリスタ「ユミルはそんなだらしなくないもん。いい加減なようでいて時間はきっちり守るし…」
マルコ「先にトロスト区へ行ってるんじゃないかな?」
クリスタ「…置いてけぼり」ズーン
ジャン「まっ、とにかく急ごうぜ。他の奴らよりだいぶ遅れちまったから、ろくな仕事は残ってねぇだろうけどよ」
クリスタ「そういえば、憲兵団の志願者は今日の夕方面接するんだよね?」
ジャン「ああ。問題がなければ明日、内地へ移動だ」
マルコ「夢が叶って嬉しいけどさ…、ここを離れるのは寂しいね」
ジャン「なに言ってやがる。La Vie en Rose, 内地へ行けばバラ色の人生が俺たちを待ってんだぜ」
クリスタ「ふふっ、バラ色になるといいね、ジャン」
ジャン「おう」
マルコ「そういえば黒いバラもあるよね。何色のバラなんだろうなぁ」
ジャン「お前…」
※ ※ トロスト区 ※ ※
――AM 8:00
ザワザワ ガヤガヤ
「来たぞ!!調査兵団の主力部隊だ!!」
ワァァァァ…
「エルヴィン団長!!巨人共を蹴散らして下さい!!」
オォォォォ…
エレン「オイ…見ろ!人類最強の兵士、リヴァイ兵士長だ!!1人で一個旅団並みの戦力があるってよ!!」
リヴァイ「うるせぇガキ共め…」
ハンジ「あの子達の羨望の眼差しも…あなたの潔癖すぎる性格を知れば幻滅するだろうね…」
リヴァイ「勝手に幻滅しやがれ。…それよりまだ開門しねぇのか」
ハンジ「そう急ぎなさんなって。人類の希望らしく民衆に手でも振ってあげれば」
リヴァイ「チッ、誰が」
パカラッ パカラッ パカラッ…
ザワザワ ザワザワ…
エレン「何だ?すげぇ勢いで馬が走ってきたぞ?」
アルミン「騎手は……駐屯兵だね」
ミカサ「…急用かしら?」
伝令「ゼェゼェ…エルヴィン団長ー!!!」パカラッ
エルヴィン「どうした?」
伝令「きょ、巨人が現れましたっ!!!」
エルヴィン「なにっ!?」
伝令「ウォールローゼ南東部にて、14メートル級と7メートル級の二体の巨人を発見しました!!!」
ハンジ「…うそ」
リヴァイ「おいっ!壁が突破されたのか!?」
伝令「壁の確認はしていません!しかし南東部の村を襲う巨人をこの目ではっきりと見ましたっ!」
リヴァイ「…エルヴィン、どうする?」
エルヴィン「壁外調査は中止だ!!全軍、ただちに南東部へ向かう!!」
ハンジ「待って!!」
エルヴィン「なんだ?急ぎでないなら後にしてくれ」
ハンジ「お願い!主力部隊はここに残して!!」
エルヴィン「なぜだ?壁が突破された可能性が高い状況だ。我々がなすべきことは決まっている」
ハンジ「壁内に巨人現れし時、城門は破られる…」
リヴァイ「…突然、何を言ってやがる」
ハンジ「また届いたの!不幸の手紙が!エルヴィンは知ってるでしょ?」
エルヴィン「あぁ、以前そんな話をしていたな」
ハンジ「昨日、久しぶりに一通だけ届いてさ。‘壁内に巨人現れし時、城門は破られる’とだけ書いてあって…」
リヴァイ「はっ、偶然だろ」
ハンジ「偶然にしても出来すぎてる。昨日の今日だよ?考えにくいけど…、巨人の動きを察知している人間がいるのかも…」
リヴァイ「予言者か?占い師か?馬鹿馬鹿しい。そんなもん信用できるか。…エルヴィン、時間の無駄だ。急ごう」
エルヴィン「…巨人出現地点まで、どれくらい時間がかかる?」
伝令「はっ、早馬でおよそ3時間」
エルヴィン「…往復していたら間に合わないかもしれんな。…主力部隊はここに待機!!残りは南東部へ向かえ!!」
エルヴィン「別動隊の指揮はミケに任せる。壁内に進入した巨人の掃討ならび破壊箇所の特定を急いでくれ」
ミケ「了解した」クルッ パカラッ
ドドドドドドドド……
リヴァイ「…どうせガセネタだろ。そんなもん信用するのか?」
エルヴィン「だが本当なら超大型巨人を仕留める絶好のチャンスだ」
ハンジ「ヤツさえ仕留めれば、人類は壁を破壊される恐怖から逃れることができる。…ぜひお目にかかってみたいしね」
エルヴィン「リヴァイ、頼んだ。お前ならヤツの項を削げるはずだ」クルッ パカラッ
リヴァイ「おい、どこへ行く気だ?」
エルヴィン「駐屯兵団本部だ。ピクシス司令に協力を要請してくる。私が戻るまでここは任せたぞ」パカラッ…
※ ※ トロスト区 壁上 ※ ※
ヒュゥゥゥゥゥゥ…
ライナー「…おいおい、あいつら戻って行くぜ?」
ベルトルト「…中止?」
ライナー「のようだな。扉が開く気配がまったく無い」
ベルトルト「けど、おかしいね。全軍撤退しない。一部壁門前広場に残ったままだ」
ライナー「…あれは…主力部隊か…。厄介だな。兵士長は相当の実力者だと聞く」
ベルトルト「…それでも、僕はやるよ」
ライナー「ベルトルト…」
ベルトルト「…アニを連れて故郷に帰るんだ。…早くしないとアニは故郷よりこの場所の方が大切になってしまう…」
ライナー「…」
ベルトルト「…僕がもし失敗したら…、アニのことは頼んだよ、ライナー」
ライナー「……馬鹿野郎!!」ガシッ
ベルトルト「ライナー…」
ライナー「何がアニのことは頼んだよだ!ふざけるなっ!」
ベルトルト「…苦しいよ、手を離して」ギリギリ
ライナー「惚れた女の一人や二人、最後まで面倒みろっ!!」バッ ドサッ!!
ベルトルト「っつ…。…けど…、僕にしかできない役目なんだ…。僕がやらないと…」
ライナー「…今日じゃなくていい」
ベルトルト「そんなっ…」
ライナー「見ろ。主力部隊が城壁を登ってきた。扉の上に陣取る気だろう」
ベルトルト「まさか…!?」
ライナー「ああ。アニがリークしたに違いない。…作戦は中止だ」
ベルトルト「っ…、やっぱり裏切られたんだね…」ジワッ
ライナー「泣くな。…そして許してやれ」ポンポン
ベルトルト「…許せるわけないだろ…?」グスッ
ライナー「わがままは女の罪、それを許せないのは男の罪だ。……逆だったか?」
ベルトルト「…ライナー、こんな時までふざけないでくれ」
ライナー「ふざけてなんかいないさ。俺はお前らを家族だと思ってる。だから三人揃って故郷に帰らないと意味がない」
ライナー「だがお前はアニのことを女として見ている。だから許せない。違うか?」
ベルトルト「…」
ライナー「思い出して見ろ。山奥の寒村で過ごしたガキの頃をよ。アニはよく笑うお転婆娘だったろう?」
ライナー「俺達の予想を上回るいたずらをいつも仕掛けてきて…。まるで今みたいにな…」
ベルトルト「…アニはありのままの自分を取り戻したいって、子どもの頃に戻りたいって…そう言って泣いてたんだ…」
ライナー「そうか…。あいつだけでも自由にしてやりたいもんだな」
ベルトルト「…ライナーは甘いよ」
ライナー「分かってるさ。だが馬鹿やっちまった妹を、それでも兄貴として愛してやろうぜ。それが家族ってもんだろう」
ベルトルト「…」
ライナー「あぁ、お前にとっちゃ家族じゃなかったな。ったく、俺の知らない間に弟と妹がおかしな事になっててよ」
ベルトルト「…ごめん。…でもアニはもう僕らのところへ戻ってくる気は無いのかもしれない…」
ライナー「故郷に帰れる算段がついたら、無理やりにでも攫って来りゃいい」
ベルトルト「けど…そんなにのんびり構えていられないよ…」
ライナー「なぁに。チャンスはまた来るさ。しばらくは様子見しながら兵士生活を楽しもうぜ」
ベルトルト「…こんな事態になったのに随分と軽いんだね。…実はライナーも内心ほっとしてるんじゃないか?」
ライナー「馬鹿言え。おれは落胆するよりも次の策を考えるほうの人間なんだ。お前もウジウジするな」
ベルトルト「…うん」
ライナー「…そろそろ降りるぞ。離れているとは言え、調査兵に見つかるかもしれない」ヨイショ
ベルトルト「そうだね。…アニはもう計画から外そうよ、ライナー…」
ライナー「…ああ。か弱い乙女には荷が重すぎるな…」
※ ※ トロスト区 ※ ※
――AM 9:00
ザワザワ ザワザワ…
エレン「しっかし最前線の町だっていうのに人が増えたよな…」
ハンナ「もう5年も何も無いんだもん。数年前の雰囲気のままとはいかないでしょ」
フランツ「この5年間で壁も随分強固になったしね!」
ハンナ「もう大型巨人なんて来ないんじゃないかな」
エレン「何腑抜けたこと言ってんだ!!バカ夫婦!!そんなことじゃ――」
ハンナ「そ、そんな…夫婦だなんて…///」
フランツ「お似合い夫婦だなんて…気が早いよエレン!///」
エレン「…」イラッ
ハンナ「でもね、大型巨人はもう来ないって信じたいけど…、昨夜はすごく恐い夢を見たんだ…」
フランツ「あっ、僕もだよ。妙にリアルな夢でさ。…初めて自分の叫び声で目が覚めたよ」
エレン「どんな夢だ?」
フランツ&ハンナ「「巨人に食べられる夢」」
エレン「ぷっ、お前ら夢までお揃いなのか」ククッ
ハンナ「もうっ、からかわないでよ。本当に笑えない夢だったんだから」
フランツ「けどさ夢で見た風景が何となくこの街に似てるんだよなぁ…」キョロキョロ
※ ※ トロスト区壁上 ※ ※
――AM 10:00
ヒュゥゥゥゥゥ…
エレン「…壁外調査は中止になったのに…なんで調査兵が壁上にうようよいるんだ?」
コニー「知らん」
トーマス「まぁ、考えても仕方がない。俺たちは固定砲の整備をさっさと終わらせようぜ」
ミーナ「そうだね」
サシャ「あのぅ、みなさん…」スッ
エレン「ん?」
サシャ「上官の食糧庫からお肉盗ってきました」
「「……!!」」
エレン「サシャ…お前独房にぶち込まれたいのか…?」
コニー「お前…本当にバカなんだな」
サシャ「後で…みなさんで分けましょう。スライスしてパンに挟んで…むふふ…」
コニー「戻してこい」
トーマス「まっ、いいんじゃねぇの?みんなで食おうぜ」
エレン「え?トーマス…?」
トーマス「うまいもん食えるのも生きてる間だけだ」
サシャ「さすがトーマス!その通りです。…けどそんなにあっさり同意してもらえるとは思いませんでした」
トーマス「いや…実は昨晩すごく嫌な夢をみて…。な、ミーナ」
ミーナ「うん。なぜかトーマスと同じような夢みてて…。二人そろって飛び起きちゃった」
エレン「…ちょっと待て。色々とおかしいぞ」
コニー「突っ込みたいのは俺がバカだからじゃねぇよな?」
サシャ「詳しくは後ほど伺うとして…、一体どんな夢を見たんですか?」
トーマス&ミーナ「「巨人に食べられる夢」」
コニー「うわっ、その夢だけは絶対見たくねぇな。小便ちびりそうだ」
エレン「…お前らもか」
サシャ「エレンも同じ夢をみたんですか?」
エレン「俺じゃなくて、フランツとハンナも見たってよ。流行ってんのか?巨人に食われる夢が」
コニー「んなもん流行るか」
サシャ「ははーん。分かりました」
ミーナ「分かったって…なにが?」
サシャ「きっとその夢はバカップルだけが見る夢なんですよ。お二人とも末永くお幸せに、です」
ミーナ「や、やだっ、サシャったら…///」
トーマス「はは、なんだか照れるね…///」
※ ※ ウォールローゼ内 平原 ※ ※
――AM 10:00
パカラッパカラッパカラッパカラッ…
アニ「あははははは…、うまく行き過ぎて笑えてくるよ」パカラッ…
ユミル「くくっ…大慌てで調査兵部隊が駆けて行ってるし。悪いね、無駄な仕事を増やしてさ」パカラッ…
アニ「…壁外調査は阻止できたみたいね」
ユミル「だね。…トロスト区方面も静かなもんだ。どうやら壁も蹴破られていない」
アニ「作戦成功。…感謝するよ、ユミル」
ユミル「成功ねぇ…。目の前の危機が去っただけで、根本的解決にはなってない」
アニ「…これでいいんだ。今日起こるはずの出来事を防いだことで、助かった命は少なくないはず」
アニ「彼らは不確定要素。存在しないはずの彼らが未来に存在することで、世界の結末は違ったものになるかもしれない」
ユミル「確かに、結末に向かう道筋が多少歪んだかもしれないけどさ。それほど大きく影響するとは思えないんだけど」
アニ「…運命は予測不可能。思わぬきっかけから、あらぬ方向へどんどん転がっていくものよ」
ユミル「まぁ、アニと私がこうやって手を組む日が来るなんて、誰にも予測できなかったろうね」
アニ「でしょ?…自分でも何でこうなったか不思議でさ。きっかけは何だったか、思い返してみたんだ」
ユミル「ふーん、で、分かったのかい?」
アニ「ええ。私があんた達に肩入れしたのも、ユミルと親しくなったのも、同胞を怒らせるようなことをしたのも」
アニ「元をたどればクリスタがピアノの先生なんて始めたから」
ユミル「あはは、なるほどね。クリスタがピアノ教室なんて開かなかったら、私とアニはロクに話もしなかったろうね」
アニ「そ。あんたとは赤の他人で、私は今頃、巨人を引きつれてシーナの壁門目指して走ってた」
ユミル「…今日、一気に方を付ける気だったのかい?」
アニ「問題が無ければね。…でも、自分自身が一番大きな障害になるとかさ。くくっ…あはははははっ」
ユミル「…どうしたのさ?今日は気味が悪いくらいよく笑うね」
アニ「ふふっ、私は元々よく笑うの」
ユミル「まっ、しかめっ面してるよりはマシかもね。けどさ、いいのかい?同胞とやらを裏切って」
アニ「裏切ったつもりはないよ。虫がいいことを言うようだけど…、やっぱり私は向こう側の人間なんだ」
ユミル「じゃあ、いずれは帰るんだね」
アニ「そのつもり」
ユミル「…いつかは壁を壊すのかい?」
アニ「壁を壊さないで故郷に帰れる道を探すよ。そんな道があるかどうか分からないけどさ」
ユミル「はは、欲張りになったね、お前も」
アニ「大切なものは何も捨てる必要はないんだ。両手に抱えたもの全部、守ってあげればいいだけよ」ニコッ
ユミル「…ふーん。アニって結構可愛いかったんだね。クリスタの次にだけど」
アニ「…言っとくけど、私はノーマルだから」
ユミル「はっ、私だってアニは対象外だっつーの」
アニ「ならいいわ」
ユミル「それにベルトルさんと争う気もないしー。今頃アニに騙されたって、でっかい図体丸めて泣いてるかもね」
アニ「…ハイヒール履いて慰めてあげれば、すぐに機嫌が直るから問題ない」
ユミル「ぶっ、くくくっ…なにそれ?ガチじゃん。ベルトルさんってそういう感じなんだ」ゲラゲラ
アニ「…秘密にしといてね」
ユミル「もちろん。その代わりもっと詳細を教えなよ」クスクス
アニ「お断りだね」
>>1です レスありがとうございました
次回でやっと終われそうです
続きはまた後日
※ ※ 翌日 駐屯地 入口付近 ※ ※
ザワザワ ザワザワ
アルミン「僕たちには知らされなかったけど、昨日は巨人出現騒動があって上の人達は大変だったらしいよ」
エレン「なにっ!?巨人が出たのか?」
アルミン「ううん。調査兵団が現場に急行したけど、巨人の姿はどこにも無かったって。壁に穴も無かったらしいし」
ミカサ「それで壁外調査が中止になってたのね…」
エレン「つーか、俺たちに知らせろよな。これでも兵士の端くれなんだからよ」
アルミン「混乱を避けたかったんじゃないかな。避難指示も出なかったし。正確な情報を掴むまで内密にしときたかったんだよ」
ミカサ「住民に被害は?」
アルミン「犠牲者は一人も出なかったらしいよ。建物も破壊されてないって」
ミカサ「そう…ならいい」
エレン「そうなると目撃情報自体が疑わしいよな。人間を襲わない巨人なんていないだろ?」
ミカサ「壁に穴も開いてないし」
アルミン「うん。僕も酔っ払いが見間違えたのかなって思ってる」
エレン「ははっ、ハンネスさんみたいな駐屯兵が最近また増えてきたしな」
ミカサ「たった5年で緊張感が失せるなんて…。人の忘却力は驚異的ね」フゥ…
エレン「けどさ、内地へ行くやつらの見送りにすげぇ人が集まったな」キョロキョロ
アルミン「マルコは人望があるから。クリスタは彼氏ができた今でも、相変わらず男子に根強い人気があるし」
ミカサ「…アニも無愛想なだけで悪い子じゃなかった」
エレン「ジャンは嫌ぇだけど、あの馬面を当分見れないって思うと……なんか寂しいよな」
アルミン「あっ、マルコたちが来た」
ワァァァァ…
ガンバレヨー ゲンキデナー マタアオウゼー
マルコ「すごいや。こんなに盛大に見送ってもらえるなんて…。嬉しいよ…」
アルミン「ストヘス区までかなり距離があるから、道中くれぐれも気をつけてね」
マルコ「ありがとう、アルミン」
ジャン「お前らは午後から調査兵団の新兵勧誘式があるんだっけ?」
エレン「そうだ。これでやっと調査兵団の一員になれる。俺の夢が叶うんだ」
ジャン「おめでとさん」スッ
エレン「へへっ、お前もな」パチンッ!!
マルコ「コニー、サシャ、二人には改めて礼を言わせ欲しい。本当にありがとう」ペコリ
コニー「もういい加減気にすんのやめろって。頭下げられ過ぎて、マルコのつむじの場所覚えちまったじゃねぇか」
マルコ「けど…、いくら感謝してもしきれないよ」
サシャ「じゃあ、いつか内地に遊びに行きますから、その時は最高級レストランでご馳走して下さい」
マルコ「はは、分かったよ。良いお店探しとくからさ、必ず二人で遊びに来てよ」
ミーナ「もう、行っちゃうの?早すぎるよ…」グスッ
アニ「…ミーナには世話になったね。ありがとう」
ミーナ「私、いっぱい手紙書くからね。…多分アニは返事をくれないだろうけど…」
アニ「……書くよ。こう見えて手紙は得意だから」
ミーナ「…っ!アニっ!!」ガバッ!
アニ「ほら、泣かないで。…笑ってさよならしようじゃないか」ポンポン
ミーナ「ヒック…うん…グスッ…また…会えるよね…?絶対に、グスッ、また会おうね…」ポロポロ
アニ「…ええ。生きてさえいればきっと会える」
ミーナ「…うん、グスッ、約束だからね」
アニ「それじゃ。駅馬車の時間があるから……またね」クルッ スタスタ
ミーナ「アニ、最後に教えて!……私はアニの友達だよね?」
アニ「……ちがうよ」
ミーナ「…そっか。やっぱり…。ごめんね、何度もしつこく聞いて…」シュン
アニ「…私はミーナの親友だよ」スタスタ
ミーナ「…うんっ!!」パァァ
ベルトルト「アニ、ちょっと待って」
アニ「なにか用?」
ベルトルト「…昨晩話したとおり僕は調査兵団に入る」
アニ「…ええ、私を蚊帳の外にして、壁を破壊する機会をじっくりと窺えばいいわ。……また邪魔はさせてもらうけど」
ベルトルト「もう邪魔はさせないよ。…けど故郷へ帰る目処が立ったら、アニを迎えに行くから…」
アニ「…」
ベルトルト「その時はおとなしく僕に付いて来てほしいんだ。…駄目かい?」
アニ「…情けない顔ね」
ベルトルト「…不安なんだよ。アニが何を考えてるかわからなくて…」
アニ「…大丈夫だよ、ベルトルト。期待しないで、待っとくからさ」ニコッ
ベルトルト「…うん、ありがとう、アニ」
ユミル「腹出して寝るなよ。歯はちゃんと磨けよ。好き嫌いせず食べろよ。あんまりイイ子ぶるなよ。それから、ええと…」
クリスタ「大丈夫だよ、ユミル。もう子どもじゃないんだから…」
ユミル「…子どもじゃなくなっちまってさ…、やっぱりあの時、止めれば良かった…」ズーン
クリスタ「そういうことは言わないで///」
ユミル「とにかく、無理はしないこと。嫌なことははっきりと嫌と言うこと」
クリスタ「うん」
ユミル「あと、いつも笑っていろ。離れていてもクリスタが同じ空の下で笑ってるって思えば、私は頑張れるからさ」
クリスタ「ユミル…」ウルッ
ユミル「すぐ泣くし。…何年かかるか分からないけど、必ずクリスタを追いかけるから」ポンポン
クリスタ「うん…グスッ」ポロポロ
ユミル「ちゃんと笑顔で出迎えとくれよ」ニッ
クリスタ「…うん、ヒック…うん…」ニコ
マルコ「クリスタ、そろそろ行こう。アニが一人で先に行っちゃったし…」
ユミル「なんだよ、アニのやつ。相変わらず勝手だね。一言ぐらい声かけて行けばいいのにさ」
クリスタ「きっと…みんなと別れるのが悲しいんだよ、グスッ」
マルコ「アニは素直じゃないから…。きっと涙を見られたくないんだろうね」
ジャン「おい、ユミル」
ユミル「ん?」
ジャン「お前が待つなっていうから、俺はお前を待たねぇ。内地で派手に遊んでやる」
ユミル「そうしてくれると助かるね」
ジャン「けど、俺は…お前のことが好きだし、…お前以上に惚れる女もいねぇと思う」
ユミル「それは他の女と付き合ってから言いな」
ジャン「ああ。ユミルが内地に来たら言ってやるよ」
ユミル「ふぅん。じゃ、せいぜい経験を積んで男を磨いとくんだね。私はガキは嫌いだから」
ジャン「んなことは知ってる。……ちょい耳かせよ」スッ
ユミル「なに」
ジャン「…次はちゃんとお前をイカせてやるから」ヒソヒソ
ユミル「…10年早い」
ジャン「チッ、少しは赤くなるとかしろよ」
ユミル「ばーか、くだらねぇこと言ってないでとっとと行きやがれ」
ジャン「はいはい。…じゃあな」スタスタ
クリスタ「またね、ユミル」クルッ スタスタ
マルコ「クリスタのことは必ず守るよ。だから心配しないで、お義母さん」ニコ スタスタ
ユミル「…その呼び方やめろって何度言わせる気?」
ライナー「よし!デス・クリーガーズ、配置につけ!」
オー!! ザッザッザッザッ…
ライナー「旅立つ者へ、歌を捧げよ!!……ワン、ツー、スリー」
♪♪♪♪~ ♪♪~
クリスタ「あっ、訓練兵団の歌…」ピタッ
マルコ「おーい!みんな元気でねー!」ブンブン
ジャン「また会おうぜ!!」ブンブン
クリスタ「みんなのこと一生忘れないよー!!みんな大好きだよー!!」ブンブン
――我らは 気高き訓練兵団♪ 戦え それが自由への道♪
※ ※ ストヘス区 憲兵団支部 ※ ※
ザワザワ ガヤガヤ
マルロ「やっと来たか!!待ってたぞ!!」
マルコ「やぁ、久しぶりだね」
ジャン「…誰だ、こいつ?」
クリスタ「えっと…フロイデンベルクさん。コンクールの時、お世話になったの」
ジャン「あっ、そういや出場してたな。この変な髪型、見覚えがあるぜ。アニも記憶に無いか?」
アニ「さぁ…。熟睡してたから、知らない」
マルロ「変な髪形とは失礼だな。俺はマルロ・フロイデンベルク。シーナ東方面駐屯地から来た。よろしくな」スッ
ジャン「ああ、俺はジャン・キルシュタイン」ギュッ
マルロ「…君は?」スッ
アニ「…アニ・レオンハート」プイッ
マルロ「アニ、手を差し出されたら握手するのが礼儀だろう?」
アニ「…悪いけど田舎者なんで。礼儀作法なんて知らない」
クリスタ「ごめんなさい。フロイデンベルクさん。アニは人見知りが激しくて…。でもいい子だから」
ヒッチ「あら、新しい顔、はっけ~ん♪」スタスタ
マルロ「…まだ新兵を物色して回ってるのか。品の無い女だ」
ヒッチ「うっさい、マルロ。……ふぅ~ん、見た目はまぁ悪く無いんじゃない?」ジロジロ
ジャン「…なんだこいつ…?」
ヒッチ「ねぇ、あんたどこの駐屯地から来たの?」
ジャン「ローゼ南だが?」
ヒッチ「チッ、なぁんだ。僻地の一般人じゃない。早くそう言いなさいよ」
ジャン「はぁ?」イラッ
ヒッチ「お金持ちのイケメン新兵は入団してこないのかしら」
マルコ「あの…、彼女は?」
マルロ「すまない。俺と同じ駐屯地から来たヒッチだ。見ての通りのバカ女だ」
アニ「…頭のネジが緩そうね」
ジャン「…ついでに股もな」
ヒッチ「ヒドイ言われようね。…けど、あんたと、そこのあんたも同じでしょ?」ビシッ
クリスタ「えっ!?わたし?な、なにが、同じなのかな…」
アニ「…」
ヒッチ「可愛いから憲兵団に入れた。人のことバカにできる立場じゃないでしょ?」
クリスタ「あの…よく意味が分からないんだけど…」
ヒッチ「あー、やだ。カマトトぶっちゃって。ちょっと顔がいいからって調子にのってんじゃない?」
アニ「…投げていい?」
マルコ&ジャン「「ぜひ」」
スパーンッ!! ドシン!!
ヒッチ「っ!?いったーぁい!!急になにすんのよっ!!」イテテ
マルロ「初対面の相手に失礼な態度をとったお前が悪い。少しは反省しろ」
マルコ「…なんだかすごい子がいるね」
ジャン「…こんなの入団させて大丈夫なのか?憲兵団」
アニ「…腐った憲兵団には丁度いいんじゃない?」
クリスタ「…仲良くなれるかな…」ドキドキ
※ ※ 6年後 ストヘス区 住宅街 ※ ※
♪♪♪♪~ ♪♪♪♪~
クリスタ「はい、今日のレッスンはおしまい。よく頑張りました」ニコ
子ども「へへっ、クリスタ先生ありがとうございました」ペコリ
クリスタ「さっき注意した所、ちゃんと直してくるんだよ」スタスタ ガチャッ
子ども「はーい。それじゃ、先生バイバーイ」テッテッテッ…
クリスタ「走ると危ないよー。馬車に気をつけて帰ってねー」バイバイ
訓練兵を卒業してから6年が経ちました。
クリスタ「今の子で今日は最後だよね。やっぱり子ども相手のレッスンが一番楽しいな」バタンッ
私はまだ、ピアノの先生を続けてます。
クリスタ「帰ってくるまでまだ時間はあるし…。夕飯の支度前に、ちょっとだけ弾こうかな…」スタスタ ストン
というか、最近ピアノの先生に戻りました。
クリスタ「ふふっ、調律したてのピアノは気持ちいいな」ポーン♪
中古だけど状態の良いグランドピアノを探してくれて大満足です。もちろん彼は自分で調律してました。
クリスタ「…夢のあとには、もっと素敵な夢が続いてたよ、ユミル」
♪~♪~♪~♪~♪♪~
ガチャッ! バタン!
マルコ「ただいま。あっ、そのまま弾いてて」ヨイショ スタスタ
クリスタ「お帰りなさい。早かったね」♪~
マルコ「予定されてた会議が延期になってさ。時間ができたから市場に寄って買い物してきたよ」ドサッ
クリスタ「ありがとう。すごく助かる」♪~
マルコ「…チャイコフスキーの『甘い夢』か。かわいい曲だよね」
クリスタ「うん。…私が初めてマルコの前で弾いた曲、覚えてる?」
マルコ「もちろん。リストの『愛の夢』だったよね」
クリスタ「そう。愛の夢が叶って、今は甘い夢の中にいるのです」♪~
マルコ「はは、じゃあ、起こさないほうがいいのかな」
クリスタ「起こしていいよ。夢も現実も同じくらい甘いから」♪~
――チュッ
3ヵ月前に憲兵団を除隊しました。現在の職業はピアノの先生兼マルコの奥さん。
ガチャッ!!
ユミル「まーた、イチャついてるし。お前の部下にそのデレデレっぷりを見せてやりたいね」バタンッ!
マルコ「ノックもせず勝手に人の家に入って来ないでよ」
ユミル「現在、私の家でもある」スタスタ
マルコ「新婚家庭に転がり込んでくるとかさ。ユミルの神経を疑うよ」
ユミル「固いこと言うなって。こんな無駄に広い家借りて、どうせ部屋が余ってんだから」
マルコ「はぁ…、結婚早々、お義母さんと同居することになるとはね」
ユミル「冷たいねぇ。面倒見てくれよ、孝行息子」
一年ほど前にユミルは約束どおり、駐屯兵団から憲兵団へ異動してきました。
運よく同じ支部に配属され、私も少しの間だったけどユミルと一緒に働いてました。
ユミル「お腹空いた。ご飯まだー?」
クリスタ「あっ、まだ用意してないんだ。ごめんね、今から急いで作るから」ガタッ
マルコ「いいよ、クリスタは座ってて。僕が作るよ。今日は珍しく早く帰れたからさ」スタスタ
クリスタ「えっ、でも…お仕事で疲れてるのに悪いよ」
マルコ「いいのいいの。クリスタだってピアノの先生してるでしょ?たまには奥さんにサービスしないとね」ガサガサ
ユミル「ジャガイモのニョッキ希望」
マルコ「じゃ、ユミルは芋剥いて」
ユミル「えー、手伝わせる気?」
マルコ「当然だよ。家賃も生活費ももらってないんだからさ、少しぐらい労働で返してよ」
ユミル「まっ、しょうがないね。タダ飯食べさせてもらってるし」ガタッ
マルコ「クリスタ、ソースはトマト系がいい?クリーム系がいい?」バタンッ カタッ
クリスタ「んー…、どっちも捨てがたいけど……今日はトマト系で」
マルコ「了解」
結婚して分かったこと。マルコは私より料理が上手。…複雑な気分です。
クリスタ「そうそう、ミカサから小包が届いたの」
マルコ「ミカサから?何が入ってたの?」クルッ
クリスタ「ふふ、これだよ。遅くなったけど結婚祝いにって」ジャーン♪
マルコ「……小さな靴下と帽子?」
ユミル「ぷっ、それ結婚祝いっていうより、むしろ出産祝いだね」クスクス
クリスタ「そう。赤ちゃん用の靴下と帽子。手編みなんだよ。とっても可愛いし。すごいよね、ミカサ」
マルコ「彼女も忙しいだろうに。わざわざ時間を割いて編んでくれたんだね。ありがたいことだよ」
ユミル「ミカサって、スピード出世して今じゃ分隊長だしね」
マルコ「うん。まだ若いけど実力も実績も見合ってるから。調査兵団を支える重要な柱の一人だよ」
クリスタ「でも立場的になかなかエレンと結婚できないって、三ヶ月前に会った時に嘆いてたよ」
ユミル「そうそう、お前らの結婚式の時にさんざんぼやいてたね」
マルコ「ははっ、結婚式は楽しかったね。まるで同窓会みたいでさ」
ユミル「わざわざローゼ南の訓練所の食堂を借りて式をするとは思わなかったよ」
クリスタ「あの場所が私たちに一番ふさわしいかなって思ったの。懐かしかったな…。壁画もそのまま残ってて」
マルコ「軍楽隊がお祝いに演奏してくれたしね。訓練所に軍楽隊が根付いてて、アルミンすごく感動してたよ」
ユミル「キースさんも安定してハゲてたし。…あそこに行くとさ、あの頃に戻った気分になる」
マルコ「うん。…けど、彼らにはやっぱり会えなかった」
クリスタ「…アニとライナーとベルトルトね。…今頃どうしてるのかな…」スクッ スタスタ
ユミル「…」
クリスタ「…あの場所でみんな一緒に過ごしたんだよね…」ジッ
我が家の壁には一枚の絵が掛けてあります。トムが描いてくれた12人の仲間が集合している絵です。
マルコ「…その絵のように今頃どこかでライナーはニヒルに笑って、ベルトルトは困って、アニは怒ってるはずだよ」
クリスタ「…うん。そうだよね…」
憲兵団に配属されてからおよそ3ヵ月後、アニは突然私たちの前から姿を消しました。
同時期にライナーとベルトルトも行方が分からなくなったそうです。
彼らがいなくなる直前、獣の巨人騒動があって…。
軍部が混乱している中、3人は神隠しにあったように忽然と消えました。
ユミル「きっと元気にしてるさ。クリスタも見たよね?壁画の落書きが増えてるの」
クリスタ「うん。ライオンと戦うアニの横にメッセージが書いてあった。‘ミーナ、約束守れなくてごめんね’って」
マルコ「ミーナ、それ見て大号泣してたね…」
クリスタ「また会おうねってアニと約束してたらしいから…」
ユミル「いなくなるにしてもさ、一言ぐらい挨拶すればいいのにね。最後まで勝手なやつだよ、本当に」
マルコ「アニは素直じゃないから。涙は見せたくないんだよ。……あれ?昔、同じような会話をした気がする」
ユミル「ははっ、したした。お前らが駐屯地から内地へ出発する時に」
ガチャッ!!
ジャン「あー、疲れた。ったく、最悪だぜ、ヒッチの野郎」バタンッ スタスタ
クリスタ「あっ、お疲れ様」
ジャン「おう、ただいま」ガサッ
マルコ「…ただいまじゃないよ。なんでジャンまで普通に僕の家に帰ってくるんだよっ」
ジャン「ケチケチすんなよ、隊長さん。ワイン大量に仕入れてきてやったからよ」カチャカチャ
マルコ「今日も泊ってくつもり?」
ジャン「当然。なんせ俺のハニーが住んでるからな」ツカツカ
ユミル「あれ?早かったんだね」
ジャン「おっ、いい女がいると思ったらユミルだった」
ユミル「ばーか」クスクス
ジャン「愛してるぜ」ギュッ
ユミル「知ってる」
――チュッ
マルコ「あのさ…、頼むから人の家でイチャイチャしないでくれよ」ゲンナリ
クリスタ「せめて見えないところでしてよ…」
ジャンはユミルが内地に来るまで相当遊んでました。
現代に生きるドン・ファンだねってマルコが苦笑いするほど、いつも違う女の子を連れてました。
憲兵の肩書き+ヴァイオリンで、大抵の女の子は落ちると豪語してました。最低です。
でもユミルが異動してきた途端、ピタッと女遊びをやめユミルに猛アプローチをかけて……、今に至ってます。
マルコ「ご飯できたよー。お皿テーブルに運んでくれるかな」カチャッ
クリスタ「いいよ」スタスタ
ユミル「ワインはどっち?」
ジャン「赤」
ユミル「だったら冷やさなくてもいいね。グラス出して、そこの戸棚に入ってるから」
ジャン「…勝手知ったる他人の家だな」パタン カチャカチャ
マルコ「ジャンもさ、憲兵宿舎を出て自分で家を借りなよ」カタッ
ジャン「お前と違って下っ端兵士は給料が安いんだよ」カチャッ
マルコ「僕だってそんなにもらってないよ。責任ばっかり増えてさ。まるで損してる気分だよ」カチャ
ジャン「けど、出世街道まっしぐらじゃねぇか。お前は昔っから上官に可愛がられるよな。俺と違ってさ」スタスタ
マルコ「素行だけはいいからね。ジャンと違って」スタスタ ガタッ
ユミル「クリスタも今日は飲むかい?」
クリスタ「ううん、やめとく。…マルコが途方に暮れるから」
ジャン「なんだそりゃ?」ガタッ ストン
マルコ「ははっ、いいよ、今日は飲んでも」
クリスタ「本当?」
マルコ「まぁ…、たまにはゆっくり休まないとね…」ポリポリ
クリスタ「…う、うん///」
ユミル「じゃ、乾杯」
「「かんぱーい」」カチッ カチッ
ジャン「ヒュー♪うっまそぅ。マルコ、料理が上手すぎると女に逃げられんだぜ」
マルコ「じゃあ、作るのやめようかな」
クリスタ「絶対に逃げないから、どんどん作っていいよ」
ユミル「そういえば、さっきヒッチがどうとか言ってなかったかい?」
ジャン「ああ、聞いてくれよ。あいつ、俺がエレンと同じ駐屯地出身で顔見知りだって、新兵の女どもにバラしやがってよ」
マルコ「ははっ、それは大変だね」
クリスタ「今やエレンは大スターだもんね。調査兵団が誇る新進気鋭のイケメン天才ピアニスト」
ユミル「本人は不満タラタラだったけど。まっ、調査兵団の広告塔として十分役目を果たしてるからいいんじゃない?」
マルコ「彼のおかげで資金と人材が調査兵団に集まってるからね。人類の進撃に大いに貢献してるよ」
ジャン「ったく、エレンが無駄に人気が出たせいで、俺は若いねぇちゃんに囲まれて質問攻めにあっちまった」
クリスタ「女の子が憧れる気持も分かるな。リサイタル見に行ったけど、本当にかっこよかったもん」
ユミル「あと、ポスター効果も大きいね。エレンの版画ポスター、飛ぶように売れてるんだって?」
マルコ「そうそう。巷で話題の若手芸術家トムの作品だからね。エレンの売り出し方が本当に上手いと思う」
ジャン「広報担当はやっぱり…」
マルコ「うん、アルミン。彼は何をやらせてもちゃんと結果を出すからすごいよね」
ユミル「まっ、訓練兵時代に色々とくだらないことしたけどさ、その経験は無駄じゃなかったようだね」
ジャン「だな。俺もヴァイオリンのおかげでお偉いさんからの評判は良いみてぇだし」
クリスタ「ふふっ、憲兵団所属の室内楽団の主席ヴァイオリニストだもんね」
ジャン「まだまだ少人数の楽団だけどな。あとユミルがチェロに転向してくれたおかげだ」
ユミル「私が楽団に入った時には、なぜかチェロだけが空席だったからね」
マルコ「わざと空けてたんだよ。ユミルは必ず内地に来るって信じてたから」
ジャン「そうそう。マルロがチェロやりてぇっつったけど、無理やりコンバス押し付けてやった」
マルコ「僕も相当ビオラには手こずったけど、何とか人前で演奏できるレベルになったよ」
クリスタ「ヒッチはヴァイオリン弾けるようになったの?」
マルコ「…難しそうだね」
ジャン「ああ、あいつには音楽的センスが皆無だ」
ユミル「音楽に限らずすべてにおいてセンスが無いね。まぁ、見てて楽しいけど」
マルコ「あっ、今度、サロンで演奏することになってさ。クリスタちょっと聴いてくれない?」ガタッ
ジャン「げっ、今から練習させる気か?」
ユミル「勘弁してよ。もう飲み始めてんだから」
マルコ「…食費取るよ?」
ジャン「しょうがねぇな。一回だけ弾いてやるか」ガタッ
ユミル「はぁ…、音楽バカはこれだから…」ガタッ
クリスタ「嬉しい。何を演奏してくれるの?」
マルコ「ボロディンの弦楽四重奏曲第2番 第3楽章『ノットゥルノ』。…二人とも椅子はピアノの前の辺りに運んでね」ヨイショ
クリスタ「それって…もしかして私のために…?」
マルコ「そ。ボロディンさんが奥さんに捧げた愛の曲。今の僕にはぴったりでしょ?」
クリスタ「ふふっ、楽団で演奏する曲をマルコの主観で決めていいの?」
マルコ「いいのいいの」
ジャン「いくねぇよ。強引にこんな甘ったるい曲に決定しやがって。スローテンポは粗が目立つから嫌なんだよ」ストン
ユミル「速い曲でも粗いよね?私はこの曲かなり好きだけど。珍しくチェロで高音出せるから」ガタッ
マルコ「マルロがいないから三重奏になっちゃうけどね。…はい、A音」ポーン♪
ギュィィィィン…♪
マルコ「では、クリスタのために…」ガタッ ストン
♪~~♪♪♪♪~~♪♪~
限りない優雅さに溢れた旋律が流れ出す。
ため息が出るような美しいメロディーを、ヴァイオリン、ビオラ、チェロで繰り返しながら重なりあい響きあう。
それぞれのパートが一本の糸を手繰り寄せるように複雑に絡み合い一つの音の世界を作り上げていく。
――音楽は世界そのもの
――演奏者次第で表情を変える
――今、この世界が穏やかなのは、みんなの優しさのおかげかな…
楽しそうに演奏する3人を眺めながら、クリスタはこの幸福に満ちた世界がいつまでも続くことを願った。
~おわり~
>>1です
やっとおわったー!!レス下さったみなさん、読んで下さったみなさんありがとう!!
お目にかかったことのないジャンユミを書こうとしたら、こんなに長く…。すまぬ
強引だけどマルコ生存ルートに持ってけたし、やりたいことやれたし。悔いは無い
>>1です レスありがとう
進撃の最新話を読んで、自分のSSはなんて遠くへ来てしまったんだろう、としばらく空を眺めました
山にこもりたい気分ですが、開き直って小ネタ書くよ
すでに原作との共通点が登場人物の名前だけっていうヒドイ状況だけどね。…すまない
「くるみ割り人形とねずみの王様」
※ ※ ストヘス区 憲兵団支部 ※ ※
――人事部
ザワザワ ガヤガヤ
ヒッチ「…あー、頭痛い」ズキズキ
クリスタ「ふふ、また二日酔い?」サラサラ…
ヒッチ「…きのう友達が区議会の若手エリートを紹介してくれるって言うから喜んで行ったんだけどさ…」
クリスタ「またハズレたのね…」サラサラ…
ヒッチ「そう。えらい脂ぎったオジサンでさ。どこが若手だっつーの。高級ワインを飲めるだけ飲んで帰ってやった」
クリスタ「ヒッチは理想が高すぎるのよ」サラサラ…
ヒッチ「あら、これでも最近は許容範囲は広がったのよ?もう10代の頃みたく、笑ってるだけじゃちやほやされないし」
クリスタ「そうね、いい大人なんだから仕事して」パラッパラッ
ヒッチ「はぁ…相変わらず真面目ねぇ。そんなお堅い性格してるから、顔が良くても彼氏ができないのよ」
クリスタ「…口じゃなくて手を動かす。そろそろ来期のシーナ東訓練所の新兵募集の準備を始めないと…」
ヒッチ「やっばい、それ私の担当じゃん。年内中だよね?新聞に新兵募集の告知出すの」ガサガサッ…
クリスタ「うん。もう12月だよ。急がなきゃ」
内地に来て5回目の冬を迎えました。
人事部に配属されて早いものでもう3年。すっかり仕事にも慣れ、お気楽な内勤生活を送ってます。
ヒッチ「12月かー。内地にはクリスマスっていう謎の習慣が残ってるけどさ、ローゼでもやってた?クリスマス」
クリスタ「ううん。私の知っている限りではクリスマスらしいことをしている人は見なかったよ」
ヒッチ「…じゃあ年末に向けて焦って男を捕まえる必要もないんだ。そこだけはローゼが羨ましいかも」
クリスタ「クリスマスって本来はそういうイベントじゃないよ」
ヒッチ「そうかもしれないけどさー、周りがカップルだらけの中、自分だけぼっちなのもイヤじゃん」
クリスタ「家族と過ごすとか、友達と過ごすとか、他にも選択肢はあるし」
ヒッチ「クリスタはどうすんの?24日。まぁ、いつもどおりユミルと一緒なんだろうけど」
クリスタ「…うん。多分、そうかな」
私とマルコが付き合っていることは、憲兵内ではユミルとジャンとマルロしか知りません。
入団する時に、他の人には内緒にしとこうねってマルコに言われました。
‘僕はいつか上官と対立するかもしれないから。団内では他人のふりをしておいたほうがいい’
私に迷惑をかけたくない気持ちは分かるんだけど…、少し寂しいかな…。
ヒッチ「そうそう、聞いた?マルコが儀仗隊の隊長に推薦されてるって話?」
クリスタ「えっ?……知らない」
ヒッチ「なんでも、ウチに武器卸してるでっかい商会のマダムが後押ししてんだって」
クリスタ「…マダム」
ヒッチ「区長の娘で歳の割には結構きれいなオバサンらしいよ。あんな純朴そうな顔してさ、マルコもやるよねぇ」クスクス
クリスタ「コホンッ…、憶測だけで話さないの。マルコに失礼だよ」
ヒッチ「そう?面白いネタなのに。けどさ、儀仗隊ってVIP専任の警護部隊でしょ?ヒマそうでいいよね」
クリスタ「この地区には王政府の高官はたまにしか来ないしね。だから普段は一般兵と同じ任務をしてるみたい」
ヒッチ「じゃあこの寒空の中、外回りに励んでるんだ」
クリスタ「多分ね。彼は真面目だから、後輩に仕事を押し付けて部屋にこもってトランプしたりしないし」
ヒッチ「あははっ、私らの同期でもサボる奴増えてきたよね」
クリスタ「そうだよ。入団当初は絶対あんな上官にはなりたくないってみんな言ってたくせに」
ヒッチ「まぁ、イヤって言うほど腐った現実見せられて、数ヶ月で憲兵への憧れも希望もぜんぶ崩れちゃったしー」
クリスタ「…でも少しだけど憲兵団を良くしようと頑張っている人たちはいるから。私は彼らを応援したい」
※ ※ ストヘス区 貧民街 ※ ※
ヒュゥゥゥゥ… ヒュゥゥゥゥ…
ジャン「さっぶいな、ちくしょう。風が冷てぇしよ。雪でも降ってきそうな天気だぜ」ブルブル
マルコ「…うん」スタスタ
ジャン「なんだ、暗ぇな」スタスタ
マルコ「5本の指に入るイヤな仕事だ…」スタスタ
ジャン「はっ、だから俺は若い連中に任せようぜって言ったんだよ。なのにお前は…」スタスタ
マルコ「分かってる。…ごめん」スタスタ
ジャン「この地区は何とかならないのか?今にも倒れそうなバラック小屋がひしめき合っててさ…」スタスタ
マルコ「…行き場の無い生活困窮者の流入が続いてるから。日々この地区は拡大していってるよ」スタスタ
ジャン「はぁ…そんなやつらからも税金取立てるとか、この国はどうかしてるぜ」スタスタ
税務官「口が過ぎるぞ。王のために働くのが貴様ら憲兵の仕事だろうが」スタスタ
マルコ「はっ、申し訳ありません」スタスタ
ジャン「…チッ」スタスタ
税務官「着いたぞ。ここだ」ピタッ
マルコ「…」ピタッ
ジャン「…こりゃまた立派なお宅で」ピタッ
税務官「何をしている。早く入らないか」
マルコ「あの、税務官殿は…」
税務官「こんな汚い家に足を踏み入れろと言うのか?私はここで待っている。貴様らだけで、いつも通りの対応をしてこい」
マルコ「…了解しました。…ジャン、行こう」スタスタ
ジャン「…へいへい」スタスタ
マルコ「すいませーん」コンコン
ジャン「…」
マルコ「…」
ジャン「おーい、だれかいねぇのかー」ドンドン!
マルコ「やめろよ、ジャン。そんなに力強くドアを叩いたら家が崩れそうだ」
ジャン「あっ、悪ぃ。……返事がねぇな。誰もいねぇのか?」
マルコ「外出中?それとも居留守か…。開けてみるよ」スッ
ガチャッ
マルコ「…開いちゃった。カギかかってないし」
ジャン「邪魔するぜ。…ほら、マルコもさっさと来いよ。こんな仕事は早く終わらせるに限るぜ」スタスタ
マルコ「う、うん…」スタスタ
※ ※ ※ ※
少女「な、何のご用ですか?」
少年「うわっ、憲兵だ。帰れ!入ってくるんじゃねぇ!」
マルコ「勝手に入ってごめんね。お家の人はどこかな?」ニコ
(…痩せこけた姉弟。衣服もボロボロだ。10歳前後ってところか…)
ジャン「…ベッドで寝てるの、お前らの母親か?」テクテク
少年「おいっ!母ちゃんに近寄るな!」ダダッ ガシッ
少女「お母さん病気なの。一日中咳き込んで、熱も高くて…、もう起き上がれないの…」
ジャン「坊主、手を離せ。お前の母ちゃんに何もしねぇから。ちょっと様子を見るだけだ」ポンポン
少年「本当だな?」スッ
ジャン「ああ。……奥さん、聞こえますか?意識はありますか?」
母親「…ゲホッ、ゼェ…、ゼェ…、憲兵さん…?」ゴホッゴホッ
マルコ「…ジャン、自分の鼻と口をハンカチで覆って。…おそらく結核だ」シュルッ キュッ
ジャン「はっ…、そんなことしたらご婦人に対して失礼だろ?」
マルコ「バカ、うつるぞ」モガモガ
ジャン「奥さん、一応聞くけどさ、貯蓄ある?申し訳ないんだけど、俺たち税金を取り立てにきたんだ」
母親「…ゼェ…、ゼェ…、ここには、ゲホゲホッ、一銭も、ゴホッ、ありません…」ゼェゼェ
マルコ「…ねぇ、君たちのお父さんは?」
少女「…いない」
少年「…お前らが、…お前らが殺したんだよっ。10年前の奪還作戦ってやつに駆り出されてっ…」グッ
マルコ「…ウォールマリアからの移住者か…」
少年「お前らのせいでオレは父ちゃんの顔すら見たことがねぇんだっ!」
マルコ「…ごめんね。…本当に悪いことをした。…謝るよ」
少女「お母さんはたった一人で一生懸命働いて私たちを育ててくれたの。…けど数年前から病気になって…」
ジャン「この状態じゃ、働くのは無理だよな。……マルコ、どうする?」
マルコ「…僕らに決定権は無い。…いつもどおりだ」
ジャン「…奥さん、ごめん。…子ども達は開拓地へ連れて行くことになった。許してくれ」
母親「ゴホッ、そんなっ、ゼェゼェ…、やめて、ゲホゲホッ、連れてかないで…」ゴホゴホ
マルコ「奥さんは救護院で治療を受けましょう。…病気が治れば子どもたちにまた会えますよ」
少女「いやだ!わたし、どこにも行かない!お母さんと一緒にいたいの!」
少年「オレも母ちゃんと離れたくねぇっ!!やめてくれよっ!どこにも連れてかないでくれよっ!」
マルコ「…開拓地行きの馬車と母親を運ぶ荷車の手配をしてくる」スタスタ
ジャン「…分かった」
――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――
――町外れ 馬車停留所
少女「うぅ…、ヒック…ヒック…、お母さん…」グスッ
少年「…くそぉ、ヒック、お前ら、グスッ、父ちゃんだけでなくオレ、ヒック、から母ちゃんまで、グスッ、奪いやがって」グスッ
ジャン「……もう、出発してくれ」
御者「へい」
マルコ「あっ、待って…」ゴソゴソ
ジャン「マルコ…?」
マルコ「…あった。…君たちを救えなくて本当にごめんね。これ、よかったら馬車の中で食べて」スッ
ジャン「おっ、飴玉じゃん。高級品だぜ?坊主たち、もらっとけよ」
少年「…っ、こんなもんっ、こんなもんっ…、いらねぇんだよっ!!」ビュンッ!!
ジャン「おいこら、食いもんを粗末にすんな。…開拓地へ行ったら当分飴なんざ食えねぇんだから」
少女「…わたしもいらない。飴なんかより……お母さんを返してよっ…うぅぅ…うあぁぁぁぁん」
マルコ「…うん。そうだよね。…ごめんね。本当にごめんね。僕に力が無くて…、何もしてあげれなくて…」
ジャン「…悪い。今度こそ出発してくれ」
御者「へい。……はっ」パシンッ
パカラッ パカラッ ガラガラガラ…
マルコ「……」グスッ
ジャン「…泣くぐらいなら、最初からこの仕事を受けんなよ」
マルコ「…悪い。…でも僕はこの国の現状から目を逸らしたくないんだ…」グスッ
ジャン「…母親は救護院、か。…貧民のための無料救護施設ができただけでも随分とマシになったじゃねぇか」
ジャン「俺らが新兵の頃は金を持ってない病人はその場に見捨てるしか無かったからな。お前のおかげだ、マルコ」
マルコ「…僕の力じゃないよ。A商会のマダムが話が分かる人でさ。区長に掛け合ってくれて…」
ジャン「ああ、例のマダムね。区長の娘さんだっけ?そりゃあ、話が早いよな」
マルコ「けど、孤児院の設立は認められなかった。中央の許可が降りなかったって」
ジャン「孤児は今や開拓地の貴重な働き手だからな。人件費のいらない労働力を逃すわけにはいかねぇんだろう」
マルコ「ひどい世の中だよ。…そのひどい世の中で平気でひどいことをしている僕は最低の人間だ」
ジャン「バーカ、ぜんぜん平気じゃねぇじゃん」
マルコ「…感情の無いただの人形になれたらどんなに楽なんだろう」
ジャン「俺たちはすでに言われた通りに動く人形みてぇなもんだ。…今日は飲もうぜ。嫌なことはさっさと忘れるに限る」
※ ※ 酒場 ※ ※
ワイワイ ガヤガヤ
「「おつかれー」」カチャッ カチッ
ジャン「くぅー…、うっめぇー。やっぱビールは一口目が最高」ゴクッ
マルロ「お前たち今日は税務官の付き添い任務だって?それは…またご苦労だったな」コトッ
マルコ「まぁね。…心が擦り減っていく思いだよ」ゴクゴク
ジャン「マルロはいいよな。希望が通って検査局に配属されてよ。クソみてぇな任務とは無縁の生活だろ?」
マルロ「クソみたいな野郎は相手にしないといけないけどな。ジャンだって配属希望出せばいいだろう?」
ジャン「俺はただの機動憲兵隊でいいんだよ。犯罪捜査ができる部署じゃなきゃ憲兵団に来た意味がねぇんだ」
マルロ「なんだ、お前もちゃんと志があって憲兵団になったのか」ゴクゴク
マルコ「あれ?内地で安全で快適な生活を送りたいんじゃなかったの?」
ジャン「いや、もちろんそれもあるんだが、それだけじゃねぇっつーか…」コトッ
マルコ「なに。もったいぶらずに教えてよ」
ジャン「…笑うなよ?」
マルロ「大丈夫だ。笑わない」
ジャン「…俺は地下街を潰したいんだ。犯罪の温床を野放しにしときたくねぇ」
マルロ「おおー」パチパチパチ…
マルコ「さすがジャンだ。かっこいいー」ヒューヒュー♪
ジャン「…バカにしてねぇか?」
マルロ「そんなことはない。立派な目標だと思うぞ。だが、地下街の存在は王政府が黙認してるからな…」
マルコ「あそこには憲兵隊は介入できない、というかしないのが現状だ。けど、どうして地下街を潰そうなんて思ったの?」
ジャン「…訓練兵時代によ、ミカサに言われたんだ。…地下街なんかなければ両親は殺されずに済んだかもってな」
マルコ「そっか…。ミカサの両親って犯罪に巻き込まれて亡くなったんだ。知らなかったよ」ゴクッ
マルロ「ミカサって、あのミカサ・アッカーマン?調査兵団で異例の速さで分隊長になったっていう…」
ジャン「そうだ。めっちゃイイ女。もう何年も会ってねぇけどよ」
マルロ「ふぅーん。……元カノとか?」ゴクゴク
ジャン「………そうだ」ゴクゴク
マルコ「こら、嘘つくなよ。全然相手にされてなかったくせに」
ジャン「全然ってことはねぇし。優しくしてくれた時もあったんだぜ?……ミクロ単位で」
マルロ「けど、マルコも儀仗隊になんか入って…。やはり王の側に仕える夢は捨ててないのか?」
マルコ「儀仗隊から近衛兵が選出されやすいって話だから…」
ジャン「お前、これだけ腐った現実を目の当たりにして、まだ王政に希望を持ってんのか?信じらんねぇ」
マルコ「とっくに夢も希望も消えてるよ。僕が王の近くに行きたいのは、この国の真の姿を見たいから」
マルロ「ほう…、真の姿か。確かに行政府は謎だらけだ」
マルコ「根強い身分格差、広がる貧富の差、住民の不満は募るいっぽうなのに根本的対策は何も為されない」
マルコ「それに巨人に対しても無関心の姿勢を貫いている。王はいったい何を考えているのか…。僕はそれを知りたいんだ」
ジャン「…そもそもだ。…王って実在するのか?」
マルロ「…それ以上はやめろ。こんな酒場じゃ誰が聞いてるか分からない。不敬罪で処分されるぞ」
ジャン「けどよ、実際に王に謁見したって奴に、俺は今まで一度も会ったことがねぇんだよ」
マルコ「僕もだ…」
マルロ「…その答えはきっとマルコが出してくれるさ。何年先かは分からないがな。……はい、この話は終了」
ジャン「だな、いくら考えたって分かんねぇよな。よし、ガンガン飲もうぜ」
――数時間後
ジャン「つーかマルロ、お前なんで勝手に室内楽団の演奏スケジュールきっつきつに詰めてんだよ」ダンッ!
マルロ「12月はな、浮かれポンチなお偉いさん方がやたらパーティーを開くんだよ」
マルコ「あはは、クリスマスだねー」ゴクゴク
ジャン「そもそもあれだ。…えっと、そう、クリスマスってなに?」
マルロ「壁の外に神が生まれた日だ。しかし神は壁内に侵入した形跡がない。よって俺たちにはまったく関係無い」
マルコ「神様って歩いてくるの?」ゴクゴク
ジャン「あれ?なんでその神とやらが生まれた日に、みんなHすんだ?」ゴクゴク
マルロ「安心しろ。俺はしない」ゴクゴク
マルコ「くくっ…、あはははははっ。僕はしよっと」ゲラゲラ
マルロ「…お前、酒が入ると本当にイヤな奴になるな」ゴクゴク
ジャン「昔っからマルコは酔うと頭のネジが一本外れるんだ」ゴクゴク
マルコ「けどさ、マルロが選んだパーティーで演奏する曲、…堅すぎでしょ?」
ジャン「そうだぜ。なんであんな盛り上がりにかけるつまらねぇ曲弾かなきゃなんねぇんだよ」
マルロ「だから、クリスマスの趣旨をお前たちは履き違えてるんだ。本来は厳粛で神聖な気持で神に祈りを捧げる日だ」
マルコ「でも僕、無宗教だしー」ゴクゴク
マルロ「だったら、なおさら便乗してHしようとするな」ゴクゴク
ジャン「えっと、なんつったっけ、曲の題名」ガシガシ
マルロ「コレッリ作曲 合奏協奏曲op.6-8『クリスマス協奏曲』だ。まさにクリスマスじゃないか」ゴクゴク
マルロ「俺はクリスマスを本来の正しい姿に戻してやる」ダンッ!
マルコ「まぁ、どうでもいいけど、24日の夜だけは仕事を請けないでね」
マルロ「はぁ?その日が一番依頼が多いっていうのに…」
マルコ「頼むよ。もう予定が決まってんの」
ジャン「ふーん、お前のデートプラン聞かせろよ。鼻で笑ってやるから」
マルコ「嫌だね。ジャンに話すとユミルに伝わって、ユミルがクリスタにばらすじゃないか。内緒にしといて驚かせたいの」
マルロ「…来週A商会のパーティーに呼ばれてるが、…様子はどうだ?」ゴクゴク
マルコ「…んー、酔ってる時に真面目な話は無理」
ジャン「おい、マルコ。お前があそこのマダムと懇ろだって噂になってるけどよ。…実際のところどうなんだ?」
マルコ「ああ、マダムは良い人だよ。お金持ちで良識のある人ってなかなかいないからさ。僕はあの人結構好きだよ」
ジャン「いや、そうじゃなくてな。……寝たのか?」
マルコ「はぁ?そんなことするわけないじゃん。僕は生涯クリスタだけって決めてるんだよ」ゴクゴク
マルロ「まぁ…、あまりマダムと親しくならないことだ。…もうすぐ裏切ることになるんだからな」
今日はここまでです
クリスマスまでには終わらせる……予定
※ ※ 憲兵団男子宿舎前 ※ ※
ジャン「ふぅー、ひさびさにすっげぇ飲んじまった」テクテク
マルコ「やっと宿舎に着いたね。ところで今何時?」テクテク
マルロ「えっと……12時過ぎだ」カパッ
ジャン「明日って休みだっけ?」
マルコ「そうそう、休み」
マルロ「ちがう」
ジャン「あー、やっべ、すっげぇユミルに会いたくなってきた」
マルコ「ジャンは同じ部署だからさ、毎日会ってるだろ?僕なんか、ここ二週間ぐらいまともに顔すら見てないよ」
マルロ「お前たちは外出てることが多いからな」
マルコ「そ、支部にやっと戻っても、クリスタはさっさと定時に上がってて、ぜんぜん会えないんだよ」
ジャン「クリスタに定時になったらまっすぐ女子寮に帰れって言ったのお前じゃん」
マルコ「だってクリスタの吸引力半端ないから。僕を待ってる間に悪い虫が寄ってくるだろ?」
マルロ「まぁ、確かに彼女キレイになったよな。最初見たときは可愛いって感じだったけど」
マルコ「でしょでしょ?…あーもう、顔が見たい、声が聞きたい、抱きしめたい」ガシガシ
ジャン「じゃ、会いに行っちまうか」
マルコ「だね。女子宿舎へレッツゴー。あ、ジャンはヴァイオリン持ってきて」
ジャン「はぁ?なんでだよ」
マルロ「俺は寝る。くれぐれも近隣住民の迷惑にならんようにな」スタスタ
※ ※ 憲兵団女子宿舎 ※ ※
――ユミルとクリスタの部屋
クリスタ「ねぇユミル、今日マルコに会った?」
ユミル「ああ、出勤した時ちょろっと見かけたね」
クリスタ「元気そうだった?」
ユミル「んー、いつもどおり普通な感じ」
クリスタ「そっか。良かった」
ユミル「気になるなら、私たちの部署に顔出せばいいのにさ」
クリスタ「だって用も無いのに人事部の人間が行ったら変に思われるよ」
ユミル「いやいや、男連中は大喜びするぜ。鉄壁のヴィーナスが不毛の大地に降臨したって」
クリスタ「…なにそれ?」
ユミル「うちの部署でのお前のあだ名だよ。男の誘いを断り続けてるから、最近はレズ疑惑まで浮上してる」
クリスタ「そこは否定してよ…」
ユミル「まっ、朝イチならマルコもいるし、覗いてみなよ。陰鬱で草も生えない寒々しい雰囲気だけどね」
クリスタ「そんなふうに言われたら余計に行きにくいし」
ユミル「もう、寝るよ。明日も仕事なんだから」ヨイショ
クリスタ「そうね。もう1時が来るし…」スクッ
♪♪♪♪~~♪♪♪♪~~
クリスタ「あれ…?ヴァイオリンの音がする…。この曲って『窓辺においで』だ…」
ユミル「……あの、バカっ。今何時だと思ってんのさ」ツカツカ
シャッ カチッ ガラッ
ユミル「……そこのお二人さん。深夜の騒音は軽犯罪だよ」
クリスタ「…あっ、マルコまでいる」ヒョコッ
ジャン「よっ、美人憲兵さん、俺を現行犯逮捕してくれよ」
マルコ「おーい、クリスター。会いたかったよー!」ブンブン
ユミル「ぷっ、あいつら酔っ払ってるね」クスクス
クリスタ「ふふっ、宿舎の敷地には入ってないから不法侵入罪にはならないね」クスクス
ジャン「なんでお前らの部屋は3階なんだよ。窓から侵入できねぇじゃん」
マルコ「立体機動装置持って来れば良かったねー。でも最近ぜんぜん使ってないから扱い方忘れちゃった」アハハ
ユミル「ばーか、こんなことに装置使おうとするな」
クリスタ「もう夜も遅いし…、風邪引くといけないから帰ったほうがいいよ」
ジャン「おう。顔が見れただけで満足した」
マルコ「ロミオとジュリエットみたいで楽しかったよー」
ガラッ!!
ヒッチ「ちょっとダレ!?何時だと思ってんのよっ!!」
ジャン「やべっ、ヒッチだ。逃げろ!」ダダダッ
マルコ「ヒッチこわーい」ダダダッ
ユミル「あはははっ、もう10代のガキじゃないのに、やることは相変わらずバカだねぇ」ゲラゲラ
クリスタ「でも嬉しかったな。わざわざ会いにきてくれて」ウフフ
※ ※ 翌日 ストヘス区 憲兵団支部 ※ ※
――検査局
ガヤガヤ ザワザワ
マルロ「わざわざ来てもらって悪いな、ユミル」
ユミル「かまわないよ。で、仕事って?」
マルロ「…ちょっと場所を変えよう」
――休憩所
マルロ「A商会。工業都市から直接武器、弾薬類を仕入れ、この支部に納入しているウチの最大のお得意様。知ってるだろ?」
ユミル「確か、少し前に創業記念パーティーだっけ?それに室内楽団として呼ばれて行ったよね」
マルロ「そうだ。…A商会とウチの上官方が癒着してる」
ユミル「はっ、そんなの今さらでしょ」
マルロ「小遣い程度の賄賂の受け渡しなら、はらわたが煮えくり返る思いを押さえて、なんとか目をつぶってきたが…」
ユミル「洒落にならない金額が動いたとか?」
マルロ「ああ。3年ほど前から目を付けて、仕入・納品伝票、備品の棚卸し数、財務諸表、これらの調査を進めた結果」
マルロ「A商会との取引の大半が空伝票で処理されていた」
ユミル「…現物の納品無しで、伝票だけ切ったってこと?」
マルロ「そうだ。おそらくA商会側も空伝票で売上を立ててるはずだ」
ユミル「…物は動いてないのに、お金だけが動く、と」
マルロ「宙に浮いた金は、この件に関与している上官方とA商会の懐へ消えている」
ユミル「ったく、市民の税金を何だと思ってんだろうね。今日を生きることで精一杯の人間もたくさんいるってのに」
マルロ「何年前から行われているのかは分からないが、俺が調べただけでもこの支部の年間予算以上の着服額だ」
ユミル「…甘い汁を吸ってるのはどこのどいつだい?」
マルロ「個人的制裁は無しだ。憲兵側で関与している人物はマルコが調査してくれた。ほぼ間違いないだろう」
ユミル「…あいつ、それでA商会に頻繁に出入りしてたのか」
マルロ「マダムのお気に入りっていう理由もあるがな」
ユミル「…で、私に何をしろって言うの?」
マルロ「こちらの証拠は揃えた。あとはA商会側の物証が欲しい」
ユミル「何が必要?」
マルロ「A商会の帳簿。おそらく表向きの帳簿とは別に裏帳簿があるはずだ。できれば両方欲しい」
ユミル「……つーか、何で私に依頼するのさ。ジャンから何か聞いた?」
マルロ「ああ。‘俺の女は世界一の大泥棒。俺のハートを盗んでいったんだぜ’って昨晩さんざん騒いでた」
ユミル「……なんか…悪かったね。かわいそうな奴でごめん…」
マルロ「いたたまれない気分になるよな」
ユミル「ええ。病気だと思ってあげて」
マルロ「まぁ、それは冗談として、困った時はユミルに頼れば何とかしてくれるってマルコが言ってたんでな」
ユミル「ふーん。…あいつが言ったのそれだけじゃないでしょ?」
マルロ「報酬次第だ、とも言ってたな」
ユミル「通常業務外だし、深夜手当も付けてもらわないとね。…高くつくよ?」
マルロ「いくら欲しい?」
ユミル「んー…お金はいらない。代わりにマルロにやってもらいたいことがあるんだけど」
マルロ「…何をしろって言うんだ?」
ユミル「髪型変えて」
マルロ「へっ?」
ユミル「あのさ、今まで我慢してたけどこの際はっきり言わせてもらうよ。そのヘアスタイルありえないから」
マルロ「あ、ありえないって…、いたって普通じゃないか。どこがおかしいんだっ」
ユミル「ぜんぶ。キノコみたいだし。そのダサイ頭と一緒に人前で演奏するのが苦痛でならないんだよ」
マルロ「くっ…、分かった。帳簿を入手してきたら髪型を変えてやろう」
ユミル「交渉成立だね。期待してるよ、ニューマルロ」ククッ
マルロ「…くそっ。…商会の建物内部の見取り図が欲しかったらマルコに言えば書いてくれるはずだ」
ユミル「そうね、かなり大きな建物だから必要かも」
マルロ「来週、A商会で開かれるパーティーの会場で一斉検挙する予定だ。急で悪いんだがそれまでに入手してほしい」
ユミル「はいはい。やれるだけやってみるよ。…この件はジャンも噛んでるのかい?」
マルロ「ああ。彼にはパーティー会場に潜入させる兵員を選んでもらってる。信頼のおける人間だけでやりたいからな」
ユミル「決行前に上官にチクられたらすべてが台無しになるからね」
マルロ「この計画が成功すれば、腐った上官を一網打尽にできる。…ふふふ、あいつら今に見てろよ」
ユミル「悪い顔してさぁ、なんか恨みでもあるわけ?」
マルロ「あぁ、色々と世話になったな。だが恨んだりはしていない」
ユミル「かわいそうにねぇ。こんな厄介な男が同じ支部にいてさ」
マルロ「…恨んでないけどやり返す。やられる前に倍返しだ!」
※ ※ A商会 ※ ※
――サロン
マダム「急に呼びたてて悪いわね」
マルコ「いえ、今日はどのような御用でしょうか?」
マダム「最近うちの主人ったら地下街に入り浸ってるみたいで。あなたの上官さん方と派手に遊んでるらしいの」
マルコ「申し訳ありません、マダム。素行調査は護衛任務に含まれませんので…」
マダム「ふふ、それは知ってるわ。それに私は主人が何をしてるかなんて知りたくないの。興味がないもの」
マルコ「ははっ、ではマダムは何に興味がおありですか?」
マダム「…聞きたい?」ニコ
マルコ「…やめときます」ニコ
マダム「あら、つまらない。今日はね、あなたにピアノを弾いてもらいたくて来てもらったの」
マルコ「ピアノ…ですか?」
マダム「ええ。噂で聞いたのよ。あなたが訓練兵時代に中央の歌劇場でピアノを演奏したって」
マルコ「ああ、コンクールがあったんですよ。でもご期待に添えるような腕前ではありませんので」
マダム「上手じゃなくてもいいの。私はあなたのピアノが聴きたいだけだから。何か一曲弾いて下さいません?」
マルコ「すみません、マダム。それだけは申し受けかねます」
マダム「まぁ、どうして?ビオラは先日聴かせて下さったのに」
マルコ「ピアノは…特別なんです。ご容赦下さい」
マダム「うふふ、いい子でもいるのかしら?」
マルコ「はい。僕はその子のためにしか弾かない主義なんです」
マダム「正直ね。私が機嫌を損ねてもいいの?儀仗隊の隊長の推薦、取り下げようかしら」
マルコ「マダムはこれぐらいでご立腹されるような心の狭い方ではないと存じ上げておりますので」
マダム「それはどうかしら?」スタスタ
マルコに近寄り首に両腕を回す。
マダム「こんなに懇意にしてあげてるのに、あなたはちっともなびかないから面白くない」
マルコ「マダムには心から感謝していますよ」
マダム「そろそろ言葉以外で感謝して欲しいものだわ」ニコ
妖艶に微笑んで指先でマルコの唇をなぞる。
マルコ「魅力的なお話ですね」
マダム「ふふっ、少しは揺らいでる?」
マルコ「ええ。けど僕の迷った時の行動基準は人として美しいかどうかだけなんです」
マダム「美しくない?」
マルコ「はい。不倫は美しくありません。あなたらしくないですよ、マダム」ニコ
マダム「もうっ、しょうがないわね。じゃあ、お買い物に出かけるから付き合って下さる?」
マルコ「ウイ、マダム。仰せの通りに」
>>1です レスありがとうございました
今日はここまで。続きは後日です
お疲れ様です。
続き楽しみ
アルミンに春は来てるのか気になる
※ ※ ストヘス区 大通り ※ ※
ザワザワ ガヤガヤ
ヒッチ「あー、めんどくさっ。新兵募集の原稿って郵送じゃダメなの?」スタスタ
クリスタ「仕方ないよ。期限が迫ってるんだから。直接持ち込んだ方が早いし、確実だよ」スタスタ
ヒッチ「まぁ、郵便物が行方不明になることは度々あるけどさ。あれって配送業者が盗んでたりして」スタスタ
クリスタ「一生懸命働いている人を疑っちゃ悪いよ。きっと手違いとか、色々事情があるんだよ」スタスタ
ヒッチ「またお利口さんな発言して。私の前でいい子ぶってなんの得があるのよ」スタスタ
クリスタ「得もしないけど損もしないよ」スタスタ
ヒッチ「あっそ。でも久しぶりに平日の明るい時間に街に出れたんだしさぁ。買い物しちゃう?」スタスタ
クリスタ「だーめ。勤務時間中だよ」スタスタ
ヒッチ「なによケチ。少しぐらいよくない?今日の夜、飲み会に誘われててさ。新しい香水を買いたいの」スタスタ
クリスタ「…いつもと違う香水つけたからって、それほど効果があるとは思えないよ?」スタスタ
ヒッチ「いいの。今晩の飲み会で男が捕まらなかったら、その香水のせいにできるじゃん」スタスタ
クリスタ「ふふっ、ヒッチってやっぱり面白いね」クスクス
ヒッチ「あんたも買ってみたら?私が選んであげるよ」スタスタ
クリスタ「んー、でも香水とか付けた事ないから…」スタスタ
ヒッチ「マジ?あんたもう20歳じゃん。いまだに化粧っ気も無いしさ。オトナの女としてそれはどうかと思うわー」
クリスタ「…私はこれでいいの」(…だってお化粧しないほうがかわいいよって言ってたから)
ヒッチ「ふぅーん。まぁ、あんたにこれ以上キレイになられても迷惑……あれっ?ねぇねぇ、あそこ見て」グイッ
クリスタ「ん、どうしたの?……………あっ」
ヒッチ「あれ、マルコじゃん。……うわっ、ゴージャスなオバサンと腕組んでるし。プッ、クククッ、なにアレ?」ゲラゲラ
クリスタ「…」
ヒッチ「もしかして、あれが例のマダムじゃない?やっぱ噂は本当だったんだ。マルコも結構やるじゃん」クスクス
クリスタ「…」
ヒッチ「二人で宝飾店に入って行った。あの店って高級ジュエリーしか扱ってないんだよ。さすがマダム。お金持ちー」
クリスタ「……行こう、ヒッチ。私たちも仕事の途中だよ」スタスタ
ヒッチ「あっ、待って。せっかく面白い現場に遭遇したんだから、もう少し見ていこうよ」
クリスタ「…早く用事を済ませて私たちも買い物するんでしょ?」スタスタ
ヒッチ「そうだった。香水買わなきゃ………っていいの?買い物しても」スタスタ
クリスタ「ええ。私も香水買うことにした。どれがいいか一緒に選んでくれる?」スタスタ
ヒッチ「任せといて。品揃えの豊富なお店知ってるから連れてってあげるよ」スタスタ
※ ※ 憲兵団支部 ※ ※
――廊下
マルコ(…今日もさんざん連れ回された。マダムは元気だね。僕は気を使いすぎて疲れたよ…)トボトボ
マルコ(もう定時過ぎてるし…。クリスタは寮に帰ってるだろうね…。はぁ…今日も会えなかった)トボトボ
マルコ(けどマダムの顔利きでかなり割り引いてもらえた。明日にでも代金持って引き取りに行こう)トボトボ
マルコ(…資金的に余裕ができたから当初の予定より早くなんとかできそうだ。来年の春頃には…)トボトボ
グイッ
マルコ「わっ!………って、クリスタ。びっくりさせないでよ。お疲れ様、まだ残ってたんだ」ニコ
クリスタ「…」グイグイッ ズンズン
マルコ「えっ、ちょっとどこに引っ張って行くんだい?」ドタドタ
ガチャッ
クリスタ「…」グイグイ ズンズン
マルコ「…ここは…医務室だね」ドタドタ
バタンッ!!
マルコ「…どうしたの?暗い顔して。何か嫌なことでもあった?」
クリスタ「…」ツカツカ… クンクンッ…
マルコ「なっ、なに?突然僕の服の匂い嗅ぎだして…。あっ、もしかして汗臭い?ごめん、上着は2週間ほど洗ってない」
クリスタ「…」クンクンッ
マルコ「冬だし、そんなに汗かいてないし、上着だし平気かなーって思ったんだけど…」
クリスタ「…匂うよ」
マルコ「やっぱり汗臭かった?」
クリスタ「…ううん。女の人の匂いがする」
マルコ「へっ?………そうかな。僕には分からないけど」クンッ クンッ
クリスタ「もうその匂いに慣れてるんだ…」ジワッ
マルコ「ま、待ってよ。泣かないで。…多分、今日護衛したご婦人の香水の匂いだよ。やましいことは何もないから」
クリスタ「…護衛任務ってプライベートのショッピングに腕を組んで付き添うことだっけ?」グスッ
マルコ「…見られちゃった?」
クリスタ「ええ、ばっちり」
マルコ「そっか…。けどクリスタが自分の目で見たのなら、分かるよね?」
クリスタ「もちろん分かるよ。腕を組んでたのは、女性をエスコートする時のマナーだって…」
マルコ「うん。あくまで儀礼的なもので他意は無いよ」
クリスタ「…分かってるけど…、仕事だから仕方ないって分かってるけど……やっぱり嫌なの……」
マルコ「クリスタ…」
クリスタ「マルコが他の女の人と話すのも嫌だし、仲良く歩いてるのなんて見たくもないし、匂いをさせてるなんて論外」
マルコ「うん…、ごめん」
クリスタ「…自分が嫌いになりそうなぐらい嫉妬しちゃったよ」
マルコ「……ちょっと嬉しいな」ニコニコ
クリスタ「もうっ、笑い事じゃないし。浮気者のマルコにはお仕置きだよ」ゴソゴソ キュポン
シュッ シュッ シュッ…
マルコ「うわっ、突然なに?……って、すごい香り……」クンッ クンッ
クリスタ「香水。今日買ったの。…それが私の香りだから。他の匂いをつけないでね」
マルコ「ははっ、マーキングされたみたい」
クリスタ「そう。マルコは私のものでしょ?」ニコ
マルコ「うん。君のものだよ」ニコ
突然クリスタを横抱きに持ち上げ歩き出す。
クリスタ「きゃっ!突然なにするの?」
マルコ「まあまあ」スタスタ シャッ!
室内を仕切っているカーテンを開くと、数床のベッドが現れる。
クリスタ「マ、マルコ…なにを考えてるのかな…?」ヒクッ…
マルコ「もちろんクリスタのこと」ドサッ
ベッドにクリスタを降ろし、後ろ手でカーテンを閉める。
クリスタ「…えっと…ここは神聖な職場だから…、こういうのは良くないと思う…よ?」アセアセ
マルコ「はは、ベッドに座ってゆっくり話しをしようと思っただけなんだけど。……期待に応えたほうがいい?」
クリスタ「き、期待なんてしてないからっ」カァァ
マルコ「……。大体さ、なんで医務室に引っ張り込むかな。……よっと」ジー スポッ
クリスタ「だって人目に付かない場所が他に思いつかなかったんだもん。……なんでブーツ脱いでるの?」
マルコ「確かにこの時間なら医務官も帰ってるし、怪我して来る人も少ないけどさ。……歩きすぎて足が蒸れたから」スポッ
クリスタ「まだ仕事残ってるの?……もうやだっ、臭そう」クスクス
マルコ「日報といくつか書類書かなきゃ。…ブーツ自体がもう手の施しようが無いくらい絶望的な状態だよ」クンクンッ…ウェッ
クリスタ「待ってていい?……靴下まで脱がないでよ」
マルコ「かなり時間かかると思うから待たせたら悪いしさ…。…水虫予防に乾燥させないとね。あー、裸足が気持イイ」
クリスタ「…また先に帰れって言うんだ…。………ちょっと、私のブーツまで脱がせないで」バタバタ
マルコ「ごめん。…けど今日は仕事は後回し。……ブーツ脱がないとベッドに上がれないよ。大人しくして」ジー スポッ
クリスタ「…ゆっくりお話するだけって言ったよね?」
マルコ「そうだよ。最近忙しくてまともに話してなかったから。ベッドの上で寛ぎながら近況報告」ヨイショ ギシッ
ヘッドボードに枕を立てかけ、それにもたれてマルコは軽く膝を曲げて座る。
マルコ「こっちにおいで」グイッ
クリスタ「あっ…」
腕を引っ張られ、マルコに背を預ける形で膝の間に収まった。後ろから優しく腕が回される。
マルコ「あー、すっごく落ち着く」スーッ
クリスタ「やだっ、くすぐったいよ。首筋で深呼吸しないで」クスクス
マルコ「僕はクリスタの匂いが一番好き。香水なんか付けなくったっていい匂いがするよ」スンッ スンッ
クリスタ「もうっ、仕事終わりでキレイじゃないんだから、そんなに嗅いじゃやだ」
マルコ「ごめん。けどちょっとだけこのままでいさせて」ギュッ
クリスタ「いいよ。…辛い仕事でもあった?」
マルコ「…まぁ、ね」
クリスタ「…そう」
マルコ「…」
クリスタ「…マルコはお仕事の話、全然してくれないね」
マルコ「口を開けば愚痴しか出てこないから。黙ってるのが一番だよ」
クリスタ「そっか…。でもストレス溜まらない?無理してない?」
マルコ「大丈夫。今クリスタに癒されてるから。…こうやって君に触れるのは久しぶりな気がする」
クリスタ「…そうだね。前回デートしたのっていつだっけ?」
マルコ「…2ヶ月以上前。…ごめん」
クリスタ「最近どんどん疎遠になってくし。マルコは釣った魚には餌をあげないタイプなの?」
マルコ「とんでもない。僕は釣った魚は育てたい」
クリスタ「私は育てられてるんだ」クスクス
マルコ「花のように美しい淑女に成長してくれて僕はとても嬉しいよ」
クリスタ「ふふ。背は伸びなかったけどね。でも、どうして休み無く働くかなぁ…。たまには息抜きも必要だよ?」
マルコ「残業手当は付かないけど、休日出勤は手当が付くから…」
クリスタ「…そんなにお金が必要?」
マルコ「うん。必要なんだ」
クリスタ「ふーん…ちょっと意外だよ。マルコって普段ぜんぜん金銭欲無いのに。何か買いたいものでもあるの?」
マルコ「内緒」
クリスタ「えー、教えてよ」
マルコ「だーめ。そのうち分かるから」
クリスタ「むぅ…。つまらないな。マルコは隠し事だらけだし、仕事ばっかりでちっとも構ってくれないし…」
マルコ「そんなに隠してることは無いと思うよ…多分」
クリスタ「せっかく一緒に憲兵になれたのに…、訓練兵の頃のほうがマルコの近くに居れて楽しかった…」
マルコ「…ごめん」
クリスタ「部署だって私はマルコと同じ配属先が良かったのに…、人事部希望しろって言うし…」
マルコ「それはクリスタに危険な仕事をしてもらいたくないからだって前に説明したよね?」
クリスタ「けど…今日みたいな現場を目撃しちゃったら、私ってわざと遠ざけられてるんじゃないかって疑いたくなるよ」
マルコ「だからそんなんじゃ無いって言ってるし…」
クリスタ「…でも綺麗な人だった。私と違って華やかで色っぽくて…」
マルコ「はぁ…、仕方ない。来週マダムに会わせてあげるよ。直接会えば僕の疑いも晴れるだろうし」
クリスタ「えっ?会うの?」
マルコ「うん。来週、室内楽団がマダムの商会のパーティーで演奏することになってるんだ。クリスタもおいでよ」
クリスタ「でも…いいのかな…。私なんかが行って…。楽団のメンバーじゃないのに…」
マルコ「今度演奏する曲、チェンバロのパートがあるんだよ。チェンバロ無しで普段はやってるんだけどさ…」
マルコ「クリスタが弾いてくれたらすごく助かるな」
クリスタ「えっ、本当に?私も室内楽団で演奏していいの?」
マルコ「うん。もちろん」
クリスタ「けどサロンやパーティーで演奏すると目立つから私は行かないほうがいいって…、マルコそう言ってたよね?」
マルコ「まぁね。君みたいな美人がピアノを弾いたら、札束持ったおじさんが間違いなく群ってくるからね…」
マルコ「憲兵を自分のペットか何かと勘違いしているお偉いさんもいるから。君には人前に出て欲しく無かったんだ」
クリスタ「…それでも出ていいの?」
マルコ「うん。今回だけは特別。…パーティー会場はクリスタに声を掛けるどころじゃなくなるだろうから」
クリスタ「?」
マルコ「とにかく、お願いするよ。練習にも参加してね」
クリスタ「うん。嬉しい!私一度でいいからみんなと一緒に演奏してみたかったんだ」ニコ
マルコ「良かった。機嫌が直って。…あっ、そうそう、24日って仕事忙しい?」
クリスタ「ううん。通常業務だけだよ」
マルコ「午後半休取れそうかな?一緒に出かけようよ」
クリスタ「どうかなぁ。クリスマスだよね…。ヒッチが先に有休申請してたら無理かも…」
マルコ「あれ?ヒッチ、新しい彼氏ができたの?」
クリスタ「ううん。…ヒッチは恋人がいてもいなくても見栄っ張りだから、毎年24,25日は連続で有休とるの」
マルコ「参ったね…」
クリスタ「マルコはお休みが取れたの?」
マルコ「うん。24日の午後はね。ついでに25日も休もうとしたんだけど、さすがに却下されたよ」
クリスタ「ふふ、初めて。クリスマスにデートに誘われたの」
マルコ「そうだね。毎年クリスマスの日に限ってなぜか宿直当番だったから。運が無いのか、嫌がらせされてたのか…」
クリスタ「マルコは嫌な顔をしないで引き受けるから上官も頼みやすいんだと思うよ」
マルコ「だったらいいけどね」
クリスタ「じゃあ明日早速、半休を申請してみるね」
マルコ「毎年ヒッチが連休を取ってるんだよね。…クリスタも半休と言わず、2日間休めばいいよ」
クリスタ「…えっ、でもそんなことしたらヒッチに悪いよ」
マルコ「いいのいいの。……だってお泊りだから」ヒソヒソ
耳元で囁き、そのまま軽く耳朶を噛んだ。
クリスタ「んっ…、でもマルコは次の日お仕事なんだよね?」
マルコ「そう。だから僕は早起きするけど…。クリスタは朝が苦手だからゆっくり寝ときたいでしょ?」
クリスタ「そうだけど…あんっ…、や……、ダメだよ、マルコ。お話するだけって…」
マルコ「うん。でも、一応クリスタの期待にも応えようかと思ってさ」
後ろから回した手でクリスタのシャツボタンを外していく。ある程度胸元が開いたところで手を差し入れた。
クリスタ「だから…んんっ…期待なんて…してないからっ…んっ…」
マルコ「遠慮しなくていいよ」
クリスタ「ばかぁ……あっ…」
ガラッ!!
マルクリ「!?」
マルコ「…毛布の中に隠れて」ヒソヒソ
クリスタ「う、うん」アセアセ
マルコは自分とクリスタに毛布を掛ける。クリスタは体を縮め毛布の中で息を殺した。
シャッ!!
ジャン「…あれ?マルコ。珍しいな、サボりか?」
マルコ「ま、まぁ、そんなとこ。ジャンもかい?」(…ほっ、ジャンで良かった)
ジャン「俺は今日宿直だから、今の内に仮眠しようと思ってな」
マルコ「…それなら仮眠室に行ったらどうかな?」
ジャン「あそこのベッド硬ぇじゃん。ここのベッドのほうがふかふかで気持ち良く寝れる」
マルコ「えっと…、ここだと熟睡しすぎて起きれなくなっちゃうよ?…うん、絶対に仮眠室のほうがいいよ」
ジャン「………ふーん。確かにそーかもなー」
マルコ「そうそう」
ジャン「…じゃあ俺は仮眠室で寝るわ」スタスタ
マルコ「……ホッ」
ジャン「あっ、そうだ。……お前いつから足が4本に増えたんだ?」
マルコ「へっ?………あっ」(…しまった。ブーツそのまんま床に投げてた)
ジャン「マルコ」
マルコ「な、なに?」
ジャン「恥を知れよ」ニヤリ
シャッ!! ツカツカ バタンッ!!
マルコ「……はい、仰るとおりです」
モゾモゾ ヒョコッ
クリスタ「…バレちゃったね」
マルコ「うん。でもジャンだからセーフ」
クリスタ「私、帰るね」バサッ
マルコ「うそ、帰るの?」
クリスタ「だってマルコはお仕事あるし」
マルコ「…もうちょっとだけ。…今日はすぐ終わるから」
クリスタ「お仕事が?」
マルコ「いや、…コッチが」テヘッ
クリスタ「…」
マルコ「ダメ?」
クリスタ「…そんなマルコはアウトだと思うよ」
※ ※ 数日後 憲兵団支部 ※ ※
――人事部
ヒッチ「ちょっと、クリスタ!なんであんたまで有休申請してんのよ」
クリスタ「だ、だめかな?」
ヒッチ「当然でしょ?あんたが先に申請してたせいで私は上官に却下されちゃったじゃない。取り下げてきなさいよ」
クリスタ「けど…ヒッチはお休みを取って、何か用事はあるのかな…?」
ヒッチ「きぃぃぃぃっ!あんた分かっててそれ聞くの?どうせ、寮にこもって一人でケーキ食べるだけよ」
クリスタ「だったらお仕事してたほうが寂しくないと思うよ?」
ヒッチ「つーか、あんたは用事あるわけ?あんただって彼氏いないじゃない」
クリスタ「…う、うん」
ツカツカ…
マルロ「ヒッチ。ちょっと頼みたいことがあるんだが…。今、いいか?」
ヒッチ「……えっ?……あんた、マルロだよね…?」
マルロ「そうだ」
クリスタ「わぁ、髪型が違うだけで全然印象が違うね。でも、すごく似合ってるよ」ニコ
マルロ「それはどうも」コホン
ヒッチ「…なんなのよ。そのおしゃれ七三は。まさか……彼女ができたとか?」
マルロ「ハァ…、相変わらず口を開けば男だの女だの…。そんなことしか考えてないのか」
ヒッチ「うっさい。前の彼女に振られてピーピー泣いてたあんたを、一晩中優しく慰めてあげたのは誰だっけ?」
クリスタ「…な、慰めたの?」ドキドキ
マルロ「誤解を生むような言い方はよせ。朝まで飲んだだけだ。しかも勝手について来た分際で奢らせやがって」
ヒッチ「あの時はご馳走様。…で、女はできたのかって聞いてんの」
マルロ「答える義理は無い」
ヒッチ「あっそ。別にマルロのことなんか興味無いけどさ、…あんたまでクリスマスに有休取ったりしないよね?」
マルロ「当然だ。クリスマスのなんたるかを知らないのに、お祭り気分で浮かれて騒ぐ軽薄な人間と一緒にしないでくれ」
クリスタ「…ご、ごめんなさい」
マルロ「なぜ謝る…?」
ヒッチ「クリスタってば、クリスマスに有休取ってんの。しかも二日間」
マルロ「そうか。…たとえ有休を取っても、クリスタは軽薄な人間には含まれないから安心しろ」
クリスタ「うん、ありがとう」
ヒッチ「なにそれ?矛盾しすぎ。つーか、クリスタは彼氏もいないのにわざわざ休みを取って何をするのって話」
クリスタ「えっと……、その、まぁ……いろいろありまして……」
マルロ「…」
ヒッチ「はぁ?はっきりしないなぁ。いろいろって何よ?」
クリスタ「ほら、年末だから…、部屋の大掃除したり…ね。…うん、やることいっぱいだよー」
ヒッチ「わざわざクリスマスに掃除しなくていいじゃん。そんなどうでもいい用事なら私に有休譲りなって」
クリスタ「…ど、どうでもよくない、かな…」タジタジ
マルロ「おい、ヒッチ。お前こそ大した用事も無いのに休む必要はないだろう」
ヒッチ「マルロは黙ってろよ」
マルロ「あのな、24、25日はいつも通り職場に来てると奇跡が起きる可能性があるんだぞ」
ヒッチ「は?奇跡?」
マルロ「周りがカップルだらけで、独り身の奴らは妙に寂しい気分になるからな…」
マルロ「平常心なら絶対に声を掛けない相手を気の迷いでうっかり誘ってしまった、などという話をよく耳にする」
ヒッチ「あんたさぁ、最高に失礼なことを言ってるっていう自覚はあんの?」フルフル
マルロ「事実を述べているまでだ。とにかく、職場に一人で寂しく居れば、寂しい男が声を掛けに来るだろう」
ヒッチ「そんな男はヤダ。寂しさが倍になるだけじゃん」
マルロ「いや、そうとは限らない。マイナス同士を掛け合わせればプラスになるからな」
クリスタ「うん。お仕事してたらきっと素敵な男性からデートのお誘いがあるよ」
ヒッチ「…そお?…確かに一人で寮にいても何も起こらないのは明白だね…」ブツブツ
クリスタ「有休はどうする?」
ヒッチ「んー、今年は出勤しよっか。毎年私ばっかり休むのも悪いしー」
クリスタ「ありがとう、ヒッチ」ニコッ
マルロ「…で、仕事の話をしていいか?」
ヒッチ「あ、それで来たんだっけ?すっかり忘れてた」
マルロ「ヒッチは新聞発行所に出入りしたことがあるんだよな?」
ヒッチ「広告の掲載を依頼しに行ってるだけだけど」
マルロ「発行所の方でも持ち込んだ原稿は検閲を受けるのか?」
ヒッチ「いいや。憲兵が持ち込んだ原稿は検閲済み扱いになる。もちろん校正はされるけど」
マルロ「…そうか。発行所に信頼できる知り合いはいないか?」
ヒッチ「はぁ?そんなのいないし。憲兵を嫌ってるヤツはたくさんいるけどね」
マルロ「それでいい。その憲兵を嫌っている発行所の人間を紹介してくれないか」
ヒッチ「えー、なんで。めんどうだし」
マルロ「頼む。昼飯奢ってやるから」
ヒッチ「…どのお店でもいいの?」
マルロ「ああ、どこでもいい」
ヒッチ「オッケー。じゃ、今度紹介してやるよ」
マルロ「何を言ってる、今からだ。行くぞ」スタスタ
ヒッチ「えっ?今からって…。突然すぎじゃね?」
マルロ「今日しか昼飯は奢らない」スタスタ
ヒッチ「…チッ、分かったから。ちょっと待って……えっと外套と、手袋と……」ゴソゴソ
ヒッチ「じゃ、ちょっと行って来る。クリスタ、後の仕事はお願いねー」スタスタ
クリスタ「うん。気をつけて」
※ ※ 憲兵支部 ※ ※
――室内楽団練習室
♪♪♪~ ♪♪♪~
ジャン「マルロの髪型変えさせたのって……やっぱユミル?」
ユミル「そうだ。ちなみにカットも私がしてやったから。なかなか男前になっただろう?」
ジャン「お前…何でもできるんだな。ホント兵士辞めても食うに困らないぜ」
ユミル「でしょ?そのうちさ、兵士なんていらない時代が来るかもしれないんだから、ジャンも何か技術を身につければ?」
ジャン「俺にはヴァイオリンがあるからいいんだよ。それに何年生きればそんな平和な時代が見れるんだよ」
ユミル「さぁ…、2000年ぐらい?」
ジャン「2000年後ねぇ。世界はどうなってんだろうな」
ユミル「さぁ、人類がいるかどうかも怪しいけどね」
ジャン「俺の子孫は元気に暮らしてるといいが…」
ユミル「ははっ、キルシュタイン家はジャンの代で終わりだろ?」クスクス
ジャン「なんでだよ。俺の子産んでくれよ、ユミル」
ユミル「やだね。私はガキは嫌いなの。育てる気なんて無いから」
ジャン「んなこと言って、赤ん坊産んだら溺愛しそうだけどな」
ユミル「しない」
ジャン「じゃあさ、俺が子どもの面倒はみるから。産むだけ産んで。俺、産めないから」
ユミル「そんなにガキが欲しいなら、他の女に頼めば」
ジャン「それじゃあ意味ねぇじゃん。俺はユミルの子が欲しいんだよ」
ユミル「私はジャンの子はいらない」
ガチャッ!!
マルコ「あっ、いたいた。二人ともすごいお客さんが来たよ」
ジャン「客って……誰?」
アルミン「こんにちは」ヒョコッ
エレン「よっ」ヒョコッ
ジャン「うわっ!お前ら……久しぶりすぎるだろっ!!」
ユミル「あっ…、今日って確かエレンのピアノリサイタル…」
アルミン「うん。今日はストヘス区でやるんだよ。まだ開始時間まで余裕があるから、みんなに会いに来た」スタスタ
エレン「ジャン、お前ますます悪人面になったな」ニシシ スタスタ
ジャン「うっせ。けど、お前ら背が伸びたな。特にアルミン。声変わりまでしやがって…やっぱり男だったんだな」
ユミル「ははっ、訓練兵の頃は黙ってれば美少女に見えたからね」
エレン「けど、アルミンは未だに調査兵団のおばちゃん達に根強い人気だぜ」
アルミン「おばちゃんなんて言ったら失礼だよ。みんな親切で良い人ばっかりなんだから」
エレン「そうか?まぁ、アルミンは調査兵団一の変人と一緒に暮らしてるしな。あの人に比べたらみんなまともだ」
マルコ「へぇー、アルミンやるねぇ。彼女と同棲してんだ」
アルミン「違うよ。上司と同居してるだけ。今日はエレンのマネージャーだけど、普段は巨人の研究チームに入ってて…」
エレン「お前らも見たことあるだろ?コンクールの審査員してた巨人好きの変なおばさん」
マルコ「あー、あのメガネの…」
ユミル「やたら声のでかい…」
ジャン「えっ?あの人、女だったのか?」
エレン「くくくっ、やっぱそう思うよな。俺も最初、どっちか分かんなかったし」ゲラゲラ
アルミン「もう、エレン失礼だって。ハンジさんはすごく優秀なくせに、おっちょこちょいでカワイイ人なんだから」
ジャン「で、そのハンジさん?となんで同居してんだよ」
アルミン「研究の話を二人でしてたら止まらなくてさ。研究室に二人で泊り込む生活をしてたんだけど…」
アルミン「家に帰らないから、どんどん不潔になってって…。あまりの汚さに兵士長から一緒に住めって命令されたんだ」
ユミル「ふーん。…けどさ、一つ屋根の下に暮らしてたら、間違いの一つや二つ起こるだろう?」ニヤニヤ
アルミン「それが自分でもびっくりするぐらい何も起こらないんだ。明けても暮れても巨人の話ばっかりで」
ジャン「そんな女とよく一緒に暮らせるな」
アルミン「今、重要な研究をしてるから。ハンジさんの豊富な知識と突飛な発想には随分お世話になってるよ」
マルコ「どんな研究?」
アルミン「巨人の嫌いな音を発生させる研究。数年前にサシャが犬笛を持ってきてくれて、それをヒントに研究してるんだ」
ジャン「ああ、犬笛って人間には聞き取れない音が出るんだっけ?」
アルミン「そうそう。巨人って聴力はあるみたいだから、もしかしたら嫌いな周波数があるんじゃないかと思ってさ」
マルコ「すごいね、アルミン。その周波数が特定できたら、戦わずして人類は壁の外に出られるじゃないか」
アルミン「けど…なかなか上手くいかなくて…」
エレン「前回の壁外調査では、試作品の巨人笛をコニーが吹いたら、わんさか巨人が寄ってきたもんな」
アルミン「あれは本当に悪いことをしたよ…。久々に死に物狂いで全軍撤退したね…」
ユミル「…どうせ高周波で試してんだろ?たまには低周波で試してみれば?」
アルミン「あっ、…盲点。さすがユミル。相変わらず冴えてるね」
エレン「そうそう、コニーとサシャが同窓会?とかっていうのを開きてぇってウルサイんだよ」
アルミン「僕もそろそろ同窓会やってもいいかなって思ってる。来年の春ぐらいにやろうと思ってるんだけど。どうかな?」
ジャン「いいんじゃね?俺も他の連中に会いてぇし。フランツのとこの最近生まれたっていう赤ん坊も見たいしな」
ユミル「へぇー、2人目がもう産まれたんだ。最初の子は見たけどさ、ハンナ似の優しい顔した女の子だったよ」
ジャン「なっ、赤ん坊欲しいだろ?」
ユミル「…お前、それで子ども、子ども言ってるんだ。単純っつーか、バカっつーか…」
アルミン「マルコはどう?同窓会」
マルコ「…来年の春頃か」ウーン…
エレン「都合が悪いのか?」
マルコ「いや、タイミングが良すぎて……アルミンちょっと耳かして」
アルミン「いいよ」
マルコ「―――――――――――――――――」ヒソヒソ
アルミン「それ、いい!!僕は大賛成!!」
エレン「なんだよ、内緒話なんかしてさ」
マルコ「ごめん。けどまだ確定してないから……その、内緒でお願い」
アルミン「分かったよ。確定したらなるべく早く連絡してね。案内状の文面が変わっちゃうから」
マルコ「うん、今月中には連絡できると思う」
ユミル「ふーん………自信あるんだ」
マルコ「ユミル…頼むから今回だけは邪魔しないでほしい」
ユミル「どうしよっかなー」
エレン「なあなあ、いったい何の話してんだよ」
ジャン「彼女に先に出世されたらどんな気分なんだろうなって話」
エレン「…ジャン、相変わらず人の神経を逆撫でするのがうめぇな」
ジャン「おやおや、調査兵団のスターはそんなこと気にしてねぇと踏んだんだが…。相変わらずケツの穴が小せぇなぁ」
エレン「…俺だってなぁ…好きで見世物になってんじゃねぇんだよっ!!」ガシッ
ジャン「あん?壁の外より内側で大活躍しやがって。…てめぇの夢はどこへ消えちまったんだよっ!!」ガシッ
エレン「…俺の…夢…」
ジャン「そうだ。別にピアノ弾いて回っててもいいがよ、少しは兵士として戦果を上げやがれ」
エレン「…うっせぇ、てめぇに何が分かるんだ。壁外に出たこともねぇ甘ちゃんがよっ!!」ギリッ
マルコ「ほら、二人ともやめるんだ。エレンはこの後、演奏会なんだし…、怪我したらまずいよ」
アルミン「そうだよ。もういい大人なんだから喧嘩するなよ」
ガチャッ
クリスタ「あっ!!本当にエレンとアルミンがいる!!」タッタッタッ…
アルミン「久しぶり、クリスタ」
エレン「よう!ますます縮んだんじゃねぇか?」
クリスタ「もうっ、二人が大きくなったんだよ」
エレン「そうそう。クリスタ先生にプレゼント」ゴソゴソ スッ…
クリスタ「私に?………なんだろう……あっ、チケットだ」
エレン「今日やるリサイタルの特等席のチケット。聴きにきてくれよ。そんで公演後に楽屋でダメ出ししてくれ」
クリスタ「ダメ出しなんかしないよ。でも嬉しいな。私がチケット買いに行った時にはもう売り切れてたんだ」
アルミン「エレンの公演はどこも大盛況だからね」
ジャン「おかげさまでダフ屋の取り締まりっつー余計な仕事が増えたぜ」
マルコ「ジャン、いちいち突っかかるなよ」
ユミル「なぁ、エレン。私らの分はチケット無いのかよ」
エレン「ああ、クリスタの分しか確保してねぇよ」
アルミン「ごめん、ユミル。少しでも多く収益を上げて、早く資金稼ぎ活動から解放されたいんだ」
エレン「エルヴィン団長が立てた無茶苦茶な目標金額を達成するまで、俺はろくに巨人と戦わせてもらえねぇんだ」
ジャン「…そうなのか?」
エレン「大事な手を怪我されたら困るんだとよ。いっつも索敵陣形の中央に置かれてさ。…情けねぇだろ?」
ジャン「……そうとは知らず悪かったな、さっきは」
エレン「いいんだ。訓練兵時代は巨人を駆逐するとか大口叩いといて、この有り様だもんな。バカにされても仕方ねぇ」
クリスタ「誰もバカになんてしないよ。巨人は他の兵士でも倒せるけど、兵団のためにお金を稼げるのはエレンだけだよ」
マルコ「うん。調査兵団の慢性的な資金不足を救ったんだ。これは立派な戦果だよ」
ユミル「…ところでクリスタ。どうしてここにエレンとアルミンが来てるって分かったんだ?」
クリスタ「だって女性兵士がみんなで大騒ぎしてたから。エレンがこの支部に来てるって」
マルコ「ははっ、有名人は大変だね」
エレン「…アルミン、窓から脱出するぞ」スタスタ
アルミン「うん。一階だしね。囲まれたら面倒だよ」スタスタ
ジャン「じゃあな。しっかり金稼げよ」
エレン「ああ。ジャンも快適な生活を心ゆくまで楽しめよ。じゃあまたな」ヒョイッ
アルミン「クリスタ、後でね」
クリスタ「うん。必ず行くから」
アルミン「…マルコ、良い報告を待ってるよ」ニコッ
マルコ「プレッシャーだね。まぁ、頑張ってみるよ」
アルミン「じゃあみんな元気で。年明けには案内状送るから。よろしくね」ヒョイッ
クリスタ「…案内状?」
マルコ「同窓会やるんだって」
クリスタ「本当?嬉しいな。ずっとみんなに会えてないから」
ジャン「…マルコお前…アルミンに式の案内状出させる気かよ。……本当にずるい奴だな」ボソッ
ユミル「同窓会に乗っかって式あげようとかさ、……手抜きすぎるだろ」ボソッ
※ ※ ストヘス区 酒場 ※ ※
ワイワイ ガヤガヤ
アルミン「ごめんね。わざわざ来てもらって。仕事、忙しくなかった?」
マルコ「大丈夫。アルミンのほうこそ公演ご苦労様。無事に終わって良かったね。疲れてない?」
アルミン「僕は裏方だから全然平気。エレンは全精力使い果たして、宿に入るなりすぐに寝ちゃったけどさ」
マルコ「一泊して明日の朝帰るんだ」
アルミン「うん。その前にどうしてもゆっくりマルコと話がしたくて…」
マルコ「わざわざ外で会う約束をしたってことは…、他の憲兵には聞かれたくない話なんだね」
アルミン「そう。でも大した話じゃないよ。ただ王政の悪口を言いたいだけだから」
マルコ「はは、アルミンは昔から王政に批判的だからね」
アルミン「うん。…覚えてるかな?昔、マルコと話したこと…」
マルコ「どんな話?」
アルミン「世の中を良くするためには、どうすべきかって話」
マルコ「…ああ。アルミンは現在の体制を壊さないと良い世の中にはならないって言ってたね…」
アルミン「マルコは既存の枠組みの中でできることをやれば、少しは現状は改善されるだろうって言ってた」
マルコ「アルミンは今でも考えは変わってないのかな」
アルミン「…うん。けど…僕は目の前で人が死んでいくのをたくさん見てしまった…」
アルミン「…僕をかばって死んでいった先輩がいる。…助けられなかった新兵もたくさんいる」
アルミン「どんどん、どんどん僕の中で命の価値が薄れていくんだ。人の死に対して冷淡になっていく自分がいるんだ」
マルコ「アルミン…」
アルミン「あの頃のように純粋に命の尊さや重みを感じれない僕には、偉そうなことをいう資格はないよ」
マルコ「…僕だって同じだよ。訓練兵時代、僕は青かったってつくづく思うよ。世間をまったく分かってなかった」
マルコ「努力すれば、僕一人だけでも頑張れば何かが変わるんじゃないかって、…本気でそう信じてたんだ」
マルコ「けど実際に社会に出て組織に入ってみると、自分なんて本当にちっぽけな存在でさ…」
マルコ「上から押さえつけられて言いたいことも言えず、やりたいこともやれず、ただ命令に従って…」
マルコ「貧困にあえぐ子どもを数え切れないほど開拓地へ送った。…あの子たちには何の罪もないのにね」
アルミン「開拓地…か…。あまりいい思い出はないな…」
マルコ「…最近はこの地区も貧困層が増えてさ、王政府に対する暴動が時々起こるんだ」
マルコ「暴動を初期段階で鎮圧するために…発砲命令が出るんだよ。話し合いで解決する気なんてハナからないんだ」
マルコ「僕は命令に従って撃った。…何発も撃ったんだ」ブルブル…
アルミン「…」
マルコ「わざと狙いは外したけど……暴動の後には複数の死体が残った…」ブルブル…
マルコ「僕の弾が当たってないとしても……僕が殺したのと同じだ。僕は罪も無い人間を殺したんだ…」ブルブル…
アルミン「マルコ…」
マルコ「…軽蔑してくれよ。僕はこうやって他人を不幸にしてるくせに、自分の幸せだけは守ろうとしてるんだ」
アルミン「…マルコが望んでやってることじゃないだろ。…仕方ないよ」
マルコ「市民から見ればみんな同じ憲兵だ。僕が心の中で何を思っていようと、王の命令に従うただの人形でしかないんだ」
マルコ「…ここにいると、人として正しくありたいのに正しくいられない」
マルコ「こうありたいと願う自分の理想像からどんどん現実の自分が離れていってしまうんだ…」
アルミン「…あんなに憲兵団に憧れてたのにね」
マルコ「うん…。僕は…なんで憲兵なんかになりたかったんだろう…。もう思い出せないよ…」
アルミン「…僕と一緒にクーデターでも起こしてみる?」
マルコ「それはいい考えだね」
アルミン「冗談だろ?ってもう止めないんだ」
マルコ「うん。…王は僕にとってかつては憧れのヒーローだったけど、今じゃ幻滅の対象でしかない」
アルミン「同じ山でも遠くから眺めるのと実際に登ってみるのとでは全然印象が違うからね」
マルコ「それでも僕は頂上まで登るつもりだ。頂上にいる王に直接会って、本当の姿をこの目で確かめたい」
アルミン「…確かめて、予想通りの暗愚な王だったらマルコはどうするの?」
マルコ「んー…、その時はその時だよ。頂上まで登れるかどうかも怪しいし。途中で遭難するかもしれない」
アルミン「ははっ、そうだね。道は険しそうだ」
マルコ「…こんなに人が簡単に死んでしまう時代の中で、僕は運よく生きている」
マルコ「神の存在なんて信じてないけど、きっと何か意味があって生かされてるんじゃないかって時々思うんだ」
アルミン「マルコの生きる意味は、王の正体を暴くことだっていうの?」
マルコ「勝手にそう決めてる。それがみんなの力で憲兵団に入れてもらった僕の使命かなって」
アルミン「うん。僕も王の真の姿を知りたいな。…マルコが頂上まで登ったらさ、トムに王の肖像画を描いてもらってよ」
マルコ「はは、いいねそれ」
アルミン「…今日はマルコと会えて良かった」
マルコ「僕もだよ。…アルミンに正直に話せてさ…僕の罪は消えることは無いけど、少しだけ気が楽になった」
アルミン「クリスタにはこういう話はしないの?」
マルコ「…彼女には言えないよ。僕がこんな酷い人間だなんて思ってないだろうから。…きっと軽蔑される」
アルミン「バカだなぁ。クリスタは女神だよ?正直に話せばすべて受け入れてくれるよ」
マルコ「クリスタに跪いて懺悔するの?」
アルミン「そうそう。女神の許しを乞いなさい。さすれば道は開かれんってね」
マルコ「なんだい、それ?」
アルミン「ほら、もうすぐクリスマスでしょ?僕には馴染みの無い風習だったから、古い文献を調べたんだ」
アルミン「そしたら今みたいなことがいっぱい書いてある本があってさ。クリスマスって神様の誕生日なんだよね?」
マルコ「ああ、そうらしいね。神に祈りを捧げる日って聞いたけど…」
アルミン「丁度いい機会じゃないか。クリスマスはクリスタに懺悔して許しをこいなよ」
マルコ「はは、そうだね。僕の信じる神はクリスタだけだった。ついでに祈りも捧げとこうか」
アルミン「けど、さっき楽屋に来た女神はマルコがあまり構ってくれないって寂しそうにしてたよ」
マルコ「…後ろめたくてさ。酷い任務の後は、顔が見たくても……見れなかったんだ」
アルミン「ほらー、やっぱり隠し事してるからだよ」
マルコ「うん。…ちゃんと全部話してからだね。男としてケジメをつけるのは」
アルミン「頑張ってね。多分、断られることは無いんだろうけどさ」
マルコ「ありがとう。…アルミンもハンジさんと仲良くね」
アルミン「だから、そんなんじゃないって」
マルコ「そんなにじっくり見たわけじゃないけど、ハンジさんってキレイな人だったよね。スタイルも良かったし」
アルミン「うん…、まぁ、眼鏡を外したらびっくりするぐらい美人だった…」テレッ
マルコ「きっと性格も良いんだろうね。コンクールの時に僕らを助けてくれたぐらいだから」
アルミン「そう…かも。巨人が絡まなければ常識人だし、おおらかで優しい人だよ」テレッ
マルコ「良かったね。アルミンにも春が来そうだ」
アルミン「よしてよ、本当にそんなんじゃないんだから」アセアセ
マルコ「でもハンジさんのことを話すアルミンは嬉しそうだった」
アルミン「うー…///」
マルコ「ところでハンジさんって今いくつなの?」
アルミン「えーっと…、ピーー歳」
マルコ「うそっ!?」ガタッ
アルミン「僕の母親でもおかしくない年齢なんだよ。だからさ、お互い尻込みしちゃうよね」
マルコ「いや…、だったら尚更急がないと…」
アルミン「どうして?」
マルコ「…その…アルミンもやっぱり自分の子ども欲しいよね?」
アルミン「もうっ、何の心配してんだよ///」
※ ※ 翌日 室内楽団練習室 ※ ※
マルロ「ついに明日、A商会のパーティーへ向かうわけだが。…ジャン、人手は集まったのか?」
ジャン「おう。上官を嫌ってる奴らを片っ端から集めてみたぜ。ざっと20人はいる」
マルロ「十分だ。これが明日、身柄を確保する人物のリストだ。潜入班に渡しておいてくれ」ピラッ
ジャン「了解。…けど名前だけじゃな。ウチの上官は分かっても、A商会の連中は誰が誰だか…」
マルロ「それは当日パーティー会場でマルコに確認してくれ」
マルコ「いいよ。A商会の人間は大体把握してるから。……ちょっとリスト見せてもらってもいい?」
ジャン「ほらよ」ピラッ
マルコ「……ねぇ、マダムの名前もリストにあるんだけど」
マルロ「当然だろう。元々、彼女が商会と憲兵団のパイプ役だったんだ。参考人として事情聴取はしておかないと」
マルコ「彼女は不正取引には関与してない。叩いても何も出てこないよ。…だからリストから名前を外してほしい」
マルロ「なぜそんなことが言い切れる。お前はお人好しだから騙されているのかもしれん」
マルコ「…マダムは良識のある人だ。それに救護院の設立の件でも世話になったんだ。彼女は捕まえないでくれ」
マルロ「はぁ…、情が移ったか。だが個人の感情を優先させて逮捕者を選定するのは不公平だろう、ちがうか?」
マルコ「…そうだけど…」
マルロ「支部にお越し頂いて話を聞くだけだ。まっ、区長からの圧力ですぐに釈放されるだろうがな」
マルコ「…」
ジャン「お前随分とマダムに良くしてもらってたもんな。ビンタの一発や二発は覚悟しとけよ」
マルコ「…それでお詫びになるなら何発でも張られるよ」
ガチャッ
ユミル「よっ。遅れて悪いね」スタスタ
クリスタ「お邪魔しまーす」スタスタ
ヒッチ「どうも~♪」スタスタ
ジャン「…おい、ヒッチは呼んでねぇぞ」
ヒッチ「あら、来ちゃ悪いの?マルロがぜひとも私の力を借りたいっていうから来てやったのにさ」
マルロ「誰がそんなことを言った。お前がどうしてもパーティーに行きたいってうるさいから仕方なくだな…」
ヒッチ「ジャン、私も潜入班に加えなさいよ」
ジャン「はぁ?冗談じゃねぇ。お前みたいな使えねぇ女いらねぇし」
ヒッチ「こっちだってあんたに使われる気なんてさらさら無いから。パーティー会場に潜り込みたいだけだしぃ」
マルロ「ジャン、悪い。新聞記事の件でヒッチに借りができてしまってな…。連れてくだけ連れてってやってくれ」
ヒッチ「邪魔はしないからさ、頼むよ」
ジャン「…チッ、絶対に妙な動きすんなよ。あと、勝手に男連れて抜け出すのも禁止だ。被疑者かもしれねぇからな」
ヒッチ「はいはい、んなこと分かってるっつーの」
クリスタ「??? パーティーで何か事件が起こるの?」
ユミル「ああ、クリスタには何も言ってなかったね。こいつら下克上を企んでんだよ」
マルロ「下克上ではない。汚職まみれの上官に制裁を下すだけだ」
マルコ「僕らの演奏の後に大捕物をやるから。クリスタは危ないからチェンバロの後に隠れててね」
クリスタ「えっ、そうなの?全然知らなかったよ。……あの、私も手伝えることがあったら…」
マル&ユミ「「おとなしく隠れてて!」」
クリスタ「は、はい。…隠れときます」
ジャン「新聞には記事が出るのか?」
マルロ「ああ。軍内部で処理されて無罪放免になる可能性があるからな。そうならないためにも世間に事件を暴露する」
マルコ「いつ記事は出る予定?」
マルロ「明後日の朝刊だ。トップニュースで掲載されるはずだ」
ユミル「ブン屋が上官へリークする危険性は?」
マルロ「その点は心配ない。私腹を肥やす憲兵を叩きたくてウズウズしてる連中だ」
クリスタ「でも…勝手に上官を捕まえたりして大丈夫なの?」
マルコ「さすがに僕らの独断では決行できないよ。もっと上に許可は取ってある」
ヒッチ「もっと上って?」
マルコ「ザックレー総統とナイル師団長」
ヒッチ「ヒュー♪ビッグネームが出てきたし。師団長はともかくあんた総統とも面識があるの?」
マルコ「面識というか…、書簡でやりとりしてるだけ。証拠があるなら逮捕しても構わないってさ」
マルロ「軍の資金の横領には上層部も頭を抱えているからな。まさに渡りに船なんだろう」
ヒッチ「…ねぇ、マルコ」クンクンッ
マルコ「なに?…人の上着を嗅がないでよ」
ヒッチ「あんたさぁ、すっごい香水くさいんだけど」
クリスタ「」ギクッ
マルコ「ああ、色んな所へ出入りするからね。どっかで匂いが移ったんじゃないかな」
ヒッチ「…でもこの香り、クリスタの香水と一緒じゃない?」クンクンッ
クリスタ「」ギクギクッ
マルコ「そうなの?じゃあクリスタと一緒の香りなんだ。ちょっと嬉しいな」ニコ
ヒッチ「……まぁ、さすがにあんたみたいな地味な男が、クリスタとどうにかなってるわけないか。あーつまんねぇの」
ジャン「…プッ」プルプル
ヒッチ「なに笑ってんだよ」
ジャン「ククッ…悪ぃ、何でもねぇ。ふぅー…、香水なんて同じヤツつけてる女はゴロゴロしてるだろ」
ヒッチ「そうだけどさ。でもクリスタの香水は、専門店で調香師が注文に合わせて調合した一点ものなんだぜ?」
ユミル「へぇーそんな店あるんだ。注文に合わせるって…例えばどんな?」
ヒッチ「んー、清純そうに見られたいとか、小悪魔的に誘惑したいとか、疲れてるから癒されたいとか、何でもあり」
ユミル「ふぅーん。言った通りの香りを作ってくれるんだ」
ヒッチ「そうそう。ちゃんと香水に名前まで付けてくれてさ。…今んとこ私はまったく効果が無いけどね」
マルコ「クリスタはどういう注文で香水を作ってもらったのかな?」
クリスタ「な、内緒だよっ」
ヒッチ「さぁ?絶対に聞くなって店から追い出されたし。けど瓶に貼ってあった香水の名前だけは見ちゃった」フフン
ユミル「なになに?教えなよ」
クリスタ「やだっ、言わないで」アセアセ
ヒッチ「いいじゃん別に。‘Eyes on Me’だってさ。一体誰に見てもらいたいんだよ。いい加減白状しなって」
ユミル「なんだ、つまらん」
マルコ「へぇー」ニコニコ
クリスタ「もうっ、ヒッチのバカ///」
マルロ「ちなみにお前がつけてる強烈な香水は何ていう名前なんだ」
ヒッチ「は?何でマルロに教えなきゃいけないんだよ」
ユミル「クリスタは知ってるのか?ヒッチの香水の名前」
クリスタ「知ってるけど…、バラしたいけど…、私の口からはとても言えない…///」
※ ※ 翌日 A商会 パーティー会場 ※ ※
ザワザワ ガヤガヤ
マルコ「大盛況ですね、マダム」スタスタ
マダム「遅かったじゃない、マルコ。あなたが来るのを待ってたのよ」
マルコ「申し訳ありません。楽器の運搬に少々時間が掛かりまして」
マダム「…あら、可愛らしい憲兵さんね。こちらは?」
クリスタ「お初にお目にかかります。私はクリスタ・レンズと申します」バッ
マルコ「僕のいい子です」ニコ
クリスタ「」カァァ
マダム「うふふ、綺麗なお嬢さん。あなたが無理してあんな高級品を買おうとしてたのも納得できたわ」
マルコ「マダム、内緒ですよ」シー
マダム「分かってる。けど少し妬いちゃうわ」スッ
クリスタ(ちょ、ちょっと、何でマルコの首に腕を回すの。近いっ!顔の距離が近すぎだよっ!)
マダム「こんな子連れて来られたら、負けを認めるしかないじゃない」
マルコ「ご冗談を。最初から勝負なんてなさってないのに」
マダム「ええ。真面目な好青年と恋の駆け引きがしたかっただけよ」
マルコ「楽しんで頂けましたでしょうか?」
マダム「そうね、あなたは思った以上に機転が利いて……毎回上手く逃げられちゃったわ」
マルコ「簡単に捕まっては駆け引きになりませんので」
マダム「今日でおしまい?鬼ごっこは」
マルコ「はい。…今度は僕がマダムを捕まえる番です。…今の内にお逃げ下さい」ヒソヒソ
マダム「…どういうことかしら?」
マルコ「…ご主人に公費横領容疑がかかってます。マダムも参考人として連行しなければなりません」ヒソヒソ
マダム「そう…」
マルコ「申し訳ありません。あなたのことを疑ってはいませんが、立場上仕方なく…」
マダム「ふふっ…、あなたやっぱりどこか抜けてるのね。今すぐ私が主人に告げ口したらどうするの?」
マルコ「それは困りますね。…けど僕はマダムの良心を信じています。あなたは悪事を黙認するような方ではない」
マダム「その通りね。…だから逃げも隠れもしないわ」
マルコ「マダム…」
マダム「そろそろ主人とも別れたいと思ってたし。丁度良い機会だわ。…それで捕縛劇はいつ始まるのかしら?」
マルコ「…室内楽団の演奏終了後です」
マダム「良かった。あなたたちの演奏は聴けるのね。楽しみにしてたんだから」
マルコ「…すみません」
マダム「謝らないで。あなたに捕まるなら仕方ないわ。どうせ父の力で私はすぐに釈放されるでしょうし」
マルコ「はい、早急に区長に連絡が入る手筈となっております」
マダム「お願いね。じゃあ、私は他のお客様にご挨拶してくるから。ゆっくりパーティーを楽しんでね」スッ スタスタ
マルコ「…はっ」バッ
クリスタ「……ねぇ」ツンツン
マルコ「…ん?」
クリスタ「…私の存在、完全に忘れてたよね?」
マルコ「…そ、そんなことは無いよ」
クリスタ「普通に抱きつかれてるし」
マルコ「抱きつかれたね」
クリスタ「顔近いし」
マルコ「近かったね」
クリスタ「…キスするのかと思っちゃった」
マルコ「…キスされそうになったらどうやって逃げようかって必死で考えてた」
クリスタ「…あの人とは何でも無いんだよね?」
マルコ「もちろん」
クリスタ「…本当?」
マルコ「本当だよ。じゃないとクリスタのこと紹介できるわけないだろう?」
クリスタ「確かに…、うん、そうかも」ポンッ
マルコ「じゃ、みんなの所へ戻ろうか」
クリスタ「うん」
※ ※ ※ ※
――1時間後
ザワザワ ガヤガヤ
ジャン「すげぇ人だな。飲み物取りに行くだけでも一苦労だ」
マルロ「人が集まるってことは、それだけ力のある商会だってことだ。政財界のお偉いさんがうようよしてる」
マルコ「これだけ盛況なら潜入班も浮かずに済むね」
ジャン「ウチの上官方に気付かれないよう隅っこで大人しくしていれば問題ねぇな」
マルコ「彼らには伝えた?商会側の拘束者」
ジャン「ああ。目を離さないよう言ってある。俺たちの演奏終了が決行の合図だ」
ヒッチ「じゃーん、見て見て。新作のドレス。なかなかいけてるでしょ?」スタスタ
マルロ「…お前、どこの街娼だ」ゲンナリ
マルコ「うわぁ、真っ赤だね。牛が突撃しそうなぐらいセクシーだよ」アハハ
ジャン「布面積少なっ」ワーオ
ユミル「なにその化粧。これから大道芸でも始めるのか?」クスクス
クリスタ「み、みんな失礼だよ。…ヒッチ素敵だよ。期待を裏切らないというか…予想通りっていうか…、とにかくすごい」
ヒッチ「チッ…べっつにー、あんたらの評価なんてどうでもいいし。つーか、楽団員は制服なんだ」
マルロ「憲兵団所属の室内楽団だからな。当然だ」
ヒッチ「つまんねぇの。礼服姿を笑ってやろうと思ったのにさ」
ジャン「ヒッチ、お前目立つなっつったのに、なんだその格好は。半分乳出てるじゃねぇか」
ヒッチ「どこ見てんだよっ!」
ジャン「見たくなくても目に入んだよっ!しまえ。今すぐそんな乳しまっちまえ」
ヒッチ「はぁ?いいじゃん、別に。誰にも迷惑かけてないんだしさ」
マルロ「おっ、そろそろ俺たちの出番だな」
マルコ「じゃあ行こうか」スタスタ
クリスタ「うん」スタスタ
ユミル「はぁー、かったるいねぇ」スタスタ
ジャン「壁際でじっとしてろよ。それ以上目立つな」スタスタ
ヒッチ「うっせ、放っとけよ」
マルロ「…栄養がすべて胸に持っていかれたって事はよく分かった」ヌギヌギ…
ヒッチ「…むっつり野郎、ぶっ!?」バサッ
ヒッチ「何よこれ………ってあんたの上着じゃん」バサバサ
マルロ「自分を安売りするな。とりあえずそれを羽織っていろ。風邪ひくぞ」スタスタ
ヒッチ「ちょっ、ジャケット着なくていいのかよ?楽団員は制服っつってたじゃん………無視って行ったし…」
ヒッチ「……手に持っとくのも邪魔だし……しょうがない、肩に掛けといてやるか」バサッ
>>1です レスありがとうございます
クリスマスまであと少し。急がないとネタが賞味期限切れになるっ
続きは後日です
いつの間にかに新しい話が出来てた!!もう進撃の巨人本編とはかけ離れてしまったけれど
ここまで来たらこういう小説として楽しむことにしました。クリスマスまでには完成ですか・・・
このお話の続きをクリスマスプレゼントみたいに楽しみにして待ってます!!
乙
ここまで来たらマルコが上り詰めるまでも気になるが、流石にそこまでやるのはキツいか
続きが楽しみ
アルミンも二十歳だから男前になってるだろうな
頑張れアルミン
※ ※ ※ ※
♪♪♪~♪♪~ ♪♪~♪♪~
ヒッチ(おっ、演奏が始まったし)
ヒッチ(…なんか重たくて堅苦しくて、お行儀良くしてなきゃいけない感じ。…まるでマルロみてぇ。私には合わない)
ヒッチ(『クリスマス協奏曲』って言ってたっけ。…のわりに全然楽しくないんですけどぉ。早く終わんねぇかな)
ヒッチ(……けど楽器弾いてる男って……なかなか色っぽいかも……)
ヒッチ(……うん……悪くない……)
ヒッチ(…それにしてもこのジャケット重いんだけど…。何が入ってんのよ…)ゴソゴソ
※ ※ ※ ※
♪♪♪~♪♪~ ♪♪~♪♪~
クリスタ(…人前で演奏するの久しぶり。…しかも今回はみんなと合奏。すごく楽しい)
クリスタ(みんなそれぞれ演奏に個性があって、でも合わさると不思議と調和する。すごく心地よい音楽が生まれる)
クリスタ(コンバスでしっかりと土台を支えるマルロ、主旋律を歌うジャンのヴァイオリンは鮮烈に主張する)
クリスタ(ジャンをなだめるようにマルコの穏やかなビオラが付き従い、ユミルのチェロは対旋律を繊細に奏でる)
クリスタ(…私のチェンバロはみんなを繋ぐ役。バラバラにならないように…、音が迷子にならないように…)
クリスタ(ふふっ、マルコと目が合った。時々、私を気にかけて目配せしてくれる。やっぱり優しいね…)
クリスタ(…ああ、もう終楽章のパストラーレ。寂しいな…。もっと弾いていたいよ…)
マルコ(…クリスタは楽しんで演奏してるね。良かった。…チェンバロのおかげで普段より一体感がある。助かるよ)
マルコ(終楽章だけは、これまでの厳粛で重厚な旋律とは打って変わって、牧歌的な田園風の曲想になっている)
マルコ(…神が生まれた時に羊飼いが笛を吹いてたって伝承から、こんな曲調になったってマルロが言ってたね)
マルコ(明るくのびのびと……気持いいな。隣のジャンはのびのびしすぎだけどさ…。自由すぎるだろ、お前)
マルコ(さて…そろそろ終わりだね)
マルコ(…静かに演奏が終わった後は…)
マルコ(…逮捕劇の始まりだ)
オトナシクシロ!! ウワッ!ナンダ!
ザワザワ ザワザワ ナニナニ ドウシタ?
和やかな雰囲気の会場が一転してざわつき始める。
事前に確認していたターゲットに潜入班は飛び掛り手際よく拘束していった。
被疑者たちは突然の出来事に驚くばかりで、冷静さを取り戻し抵抗を試みた時にはすでに手枷がはめられていた。
マルロ「お騒がせしてすみません!その場から一歩も動かないで下さい!動かなければすぐに終わります!」
――数分後
ザワザワ ザワザワ
ユミル「あんたがA商会のボスだね」ツカツカ…
ボス「ひっ…!?わ、わしが何をしたって言うんだ…?」
ユミル「公金横領。……他にも何かしてるのかい?」
ボス「…知らん。何のことだかさっぱり分からん」
ユミル「善良な市民のなけなしの金を掠め取ってさ、よくもまぁ、ここまで肥えたもんだ。この豚野郎が!!」グイッ!!
ボス「ゲホッ…、貴様……わしにこんな事をしたら、貴様の上官は黙っちゃいないぞ!!」
ユミル「はっ、陳腐なセリフだねぇ。悪人として三流なら言うこともやっぱり三流。……連れてって」
潜入班「はっ!!」ガシッ
ボス「やめろっ!!離せっ!!…貴様らあとで絶対に思い知らせてやるからなっ!!」ジタバタ
ユミル「そりゃあ楽しみだね」バイバイ
※ ※ ※ ※
ザワザワ ザワザワ
ジャン「さすが俺の選んだ精鋭班だ。手際が良すぎて俺の出番が無かったじゃねぇか」
潜入班「ジャンさんの指示通りに動いただけです」
ジャン「作戦成功を祝って今度みんなで飲みに行くぞ」
潜入班「いいですね。もちろん、奢ってくれるんですよね?」
ジャン「当たり前だろ?マルロの奢りに決まってる」ニッ
上官A「おい、貴様っ!こんなことをして許されると思ってるのか!?」ガチャガチャ
ジャン「うっせぇ、ハゲ。俺はてめぇが大嫌いなんだよ。口を開くな、ハゲがうつる」
上官A「くっ…」ワナワナ
潜入班(さすがジャンさん。子どもみたいな悪口だ)
ジャン「補給管理部のトップがてめぇみてぇなクズのせいで、配下も官給品を横流しし放題だ」
上官A「…」
ジャン「てめぇ一人お縄になるのも癪だろ?知ってること全部ゲロって配下も巻き添えにしちまえよ」
上官A「…」
ジャン「まっ、補給管理部に誰もいなくなるかもしんねぇけどな」
上官A「…」
ジャン「おい、何とか言ったらどうだ?ああ?」グイッ!!
上官A「く、口を開くなと…」
ジャン「そうだ、しゃべんじゃねぇ」
潜入班(さすがジャンさん。滅茶苦茶だ)
※ ※ ※ ※
ザワザワ ザワザワ
上官B「…貴様、正気か?上官を拘束するなど。抗命罪で今すぐ銃殺刑にされても文句は言えんぞ」
マルロ「自分のことを棚に上げてよく言えるな。軍の規律を破り犯罪に手を染めているのは誰だ」
上官B「なんのことだ」
マルロ「支部の予算管理を一任されているのをいいことに長年に渡って軍費を騙し取ってきた。その代償はデカいぞ」
上官B「確たる証拠も無いのに人を疑うとはいい度胸だな。貴様のような人間は憲兵団に必要ない」
マルロ「それを決めるのはお前ではない。残念ながら証拠も揃っているしな。もう逃げられない」
上官B「…チッ」
ヒッチ「ねぇ、そいつ殺していい?」ツカツカ
マルロ「は?」
ヒッチ「殺してもいいよね?」スッ
上官B「何をするっ!銃を降ろせっ!」ジタバタ
マルロ「殺していいわけないだろう。…俺の銃だ。返せ」
ヒッチ「…あんた、私のこと覚えてる?」
上官B「…知らん」
ヒッチ「…ふーん。じゃあ死ねよ」チャキッ
マルロ「おいっ!!何を考えてるんだ。やめろ」ガシッ
ヒッチ「離せよ!…こいつだけは許せない」ジワッ
マルロ「…ヒッチ?」
上官B「…あぁ、思い出した。貴様あのバカ女か。…あの時はみっともなく泣いて喚いてたな」
ヒッチ「…殺してやる。マルロ離せよっ!」ググッ
上官B「単なるコケ脅しだな。貴様は虚勢を張るのが得意なようだから」
ヒッチ「うっさい」ググッ
上官B「新兵に遊び慣れた女がいるからって、上官室に連れてこられたものの…、まったく無様なもんだった」
ヒッチ「…黙れよっ!てめぇなんか死んじまえっ!!」ググッ
マルロ「……ヒッチ、好きなだけ殴れ」パッ
ヒッチ「…法による制裁以外は認めない主義だろ?」
マルロ「お前には殴る権利があると俺が判断した」
ヒッチ「あっそ。じゃ遠慮無く。……フンッ!!」ドゴッ!!
上官B「~~~~~~~ッッ!!!!」グラッ バタッ!!
マルロ「…俺は殴れと言ったんだ」
ヒッチ「あっ、ごめーん。うっかり蹴っちゃったー。あはははは、無様な姿だね。……ざまぁみろ」グスッ
マルロ「…余罪を追及すればいくらでも出てきそうだな」
上官B「~~~~~~~ッッ!!」ピクピク
マルロ「しかしこれでは当分連行できそうにないな…」ウーム
ヒッチ「それより銃とかナイフとか……危ないもんがたくさん上着に入ってたんですけどー」
マルロ「だからヒッチに預けた」
ヒッチ「はぁ?」
マルロ「暴漢対策だ」
ヒッチ「なにそれ」
マルロ「…入団してすぐに対策を講じてやるべきだったな。すまない」
ヒッチ「…あんたが謝る意味が分かんないし」
マルロ「それもそうだな」
ヒッチ「うん、そう」
マルロ「…」
ヒッチ「…」
マルロ「…だが、すまない」
ヒッチ「…しつけぇ」
※ ※ ※ ※
ザワザワ ザワザワ
マルコ「マダム、あなたで最後です。…ご同行願えますか?」
マダム「ええ、もちろん」フフッ
マルコ「これから検挙されるのに、随分と楽しそうですね」
マダム「あなたに初めて誘われたから」
マルコ「行き先が取調室で申し訳ありません」
マダム「ねぇ、やっぱりマルコはこの商会を調査するために私に近づいたのかしら?」
マルコ「…はい」
マダム「酷い人ね」
マルコ「…お詫びのしようがありません」
マダム「一発ぐらい叩いてもいいかしら?」
マルコ「…お気の済むまでどうぞ」ギュッ
ビンタを覚悟し目を閉じ歯を食いしばった。
しかし殴打の衝撃は無く、代わりに腕を首に回される。
マルコ(…まずい)
そう思って目を見開いた時にはすでに遅く、柔らかい感触が唇に押し当てられていた。
――チュッ
マルコ「…マダム、不意打ちは卑怯です」
マダム「ふふっ、あなたは叩かれるよりこっちの方がダメージを受けるでしょ?」クスクス
マルコ「適いませんね、マダムには。では、参りましょうか」スタスタ
マダム「ええ」スタスタ
歩きかけ、ただならぬ視線を感じ後方を振り返った。
マルコ(……最悪だ。ばっちり見られてる)ズーン
視界に映ったのは、怒りとも悲しみともとれる表情で目に涙を湛え、チェンバロの陰からこちらを見つめるクリスタの姿。
マルコ(はぁ…、なんて謝れば許してもらえるかな…。気が重いよ…)トボトボ
※ ※ 女子宿舎 ※ ※
――クリスタとユミルの部屋
ユミル「クリスタ…、帰ってくるなり布団被ってさ」ユサユサ
クリスタ「…」
ユミル「マルコが話しかけても完全に無視してたし。…喧嘩したのか?珍しい」ユサユサ
クリスタ「…喧嘩なんかしてないよ」
ユミル「じゃあ何だ?」ユサユサ
クリスタ「…浮気してたの」グスッ
ユミル「は?…だれが?」
クリスタ「…マルコが」
ユミル「…いつ?」
クリスタ「…さっき」
ユミル「…誰と?」
クリスタ「…マダムと」グスッ
ユミル「よし、分かった。今からあいつに制裁を下してきてやる」スクッ
クリスタ「制裁って?」
ユミル「この世から葬り去る」
クリスタ「ちょ、ちょっと待ってよ」ガバッ
ユミル「大丈夫。私が犯人だってバレないように始末してくる」
クリスタ「違うよ!そうじゃなくって。殺して欲しいとかぜんぜん思ってないからっ」アセアセ
ユミル「じゃあ、どうしたいんだ?」
クリスタ「どうって…。ただ悲しくて…。マルコに嘘を吐かれてたのが…許せなくて…」グスッ
ユミル「丁度良い機会だ。別れちまいな」
クリスタ「…っ、…やだ。私はマルコと一緒にいたいの」
ユミル「お前を裏切ったんだぞ?」
クリスタ「…それでも…グスッ、悲しいばっかりで…ぜんぜん嫌いになれないの…」グスッ
ユミル「クリスタ…」
クリスタ「…ヒック、こんなに好きなのに、グスッ、辛いよぅ…」ポロポロ
ユミル「はぁ…、馬鹿な子だね。あんな男のどこがそんなにいいんだか」ヨシヨシ
クリスタ「…ぜんぶ。…ぜんぶ好き」ポロポロ
ユミル「ふーん。…なぁ、クリスタ。私とマルコ、どっちが好き?」
クリスタ「グスッ、ユミルだよ」
ユミル「ははっ、今でも即答すんだ」ナデナデ
クリスタ「だってユミルは特別だから…」
ユミル「じゃあ私のこともぜんぶ好き?」
クリスタ「うん。ぜーんぶ好き」
ユミル「だったら、クリスタも浮気しよっか」ギシッ
クリスタ「ユ、ユミル?」
ユミル「それでおあいこ」ヨイショ
ベッドに横たわるクリスタと顔を合わせる形でユミルも寝転がった。
右手でクリスタの柔らかな髪に指を通す。
クリスタ「…浮気って…ユミルと?」
ユミル「そ。本気になってくれてもいいけど」
クリスタ「そんなことしたらジャンが悲しむよ」
ユミル「どうだろ。クリスタが相手だったら悲しむどころか興奮しそう」
クリスタ「やだ、もう」クスクス
ユミル「笑ったりして、余裕だね。訓練兵の頃は押し倒しただけで真っ赤になってたのにさ」
クリスタ「がっかりした?」ウフフ
ユミル「まぁね。あいつに慣らされたのかと思うと腹が立つ」
クリスタ「もう20歳だし。いつまでも初心な小娘じゃないんだよ」
ユミル「はぁ…悲しいね。クリスタには死ぬまで純真でいてほしかったよ」
クリスタ「こんな私は嫌い?」
ユミル「どんなクリスタでも私は好きだよ」
クリスタ「良かった」ニコ
ユミル「ねぇ、浮気って…、マルコは何をしたんだ?」
クリスタ「…キスしてた。マダムと」
ユミル「へぇ…」
クリスタ「…」
ユミル「で?」
クリスタ「…で、って?」
ユミル「続きは?」
クリスタ「ないよ」
ユミル「ふーん。それだけであんなピーピー泣いてたのかよ。可愛いもんだ」
クリスタ「キスだって十分浮気だよっ。それに目撃したのがキスだけで本当はもっとスゴイ事してるのかもしれないし…」
ユミル「クソ真面目なあいつに限ってそんなことしないと思うけどね」
クリスタ「…ユミルはマルコを貶めたいのか持ち上げたいのか、よく分からないよ」
ユミル「客観的に見ればあいつは仕事のできる誠実な優男。主観を言わせてもらえばクリスタを奪ったゲス野郎」
クリスタ「今でも嫌い?マルコのこと」
ユミル「ああ、嫌いだね。救いようのないぐらいイイ奴だけど」
クリスタ「ふふっ、変なの」クスクス
ユミル「とりあえずキスしとく?腹いせに」
クリスタ「だーめ。私までそんなことしたら…マルコのこと怒れないよ」
ユミル「クリスタは怒りたいんだ?」
クリスタ「怒りたくなんてないよ」
ユミル「じゃ、キスしよ」
クリスタ「…その理屈、おかしくない?」
ユミル「ぜんぜん。目には目を歯には歯を。貸し借りはその場ですぐ清算。それがストレスの溜まらない生き方だよ」
クリスタ「そういうものかな…?」
ユミル「そうそう。だからクリスタも私とキスして、ぜんぶ水に流してやりな」
クリスタ「…そうだね。…ユミルとキスするの嫌じゃない…から」
ユミル「嬉しいね」
クリスタ「でも…絶対に秘密だよ」
ユミル「わかった」
そっと目を閉じるクリスタ。
ユミル(やっぱり綺麗な顔してるね。……あー、こんなにドキドキするのいつ振りだろ)
ユミル(見返りなんて求める気は無いけどさ。8年間も思い続けてるんだ。少しぐらいご褒美貰ってもいいよね)
ユミル(では…いただきます)
両手で軽く頬を挟み、唇を重ねる。
ユミル(柔らけぇー。やっば、まじでプルップルの唇なんだけど)
ユミル(…ごめんよ、私の唇カサついてて。…空気が乾燥してんだよ。冬だから)
顔を離すと、クリスタと目が合う。
クリスタ「なんか照れちゃうね」エヘヘ
ユミル「そうだね」フフ
クリスタ「ユミルあったかーい」ギュッ
ユミル「寒い?」
クリスタ「大丈夫。ユミルとくっついてるとぬくぬくだよ」
ユミル「…もっかいしてもいい?」
クリスタ「…うん……いいよ」
クリスタの体を覆うように上に乗り、再度唇を合わせた。
ユミル(…クリスタが体をすり寄せてくるのも、体温が心地いいのも…)
ユミル(…舌を入れて咎められないのも、きっとぜんぶ冬のせい…)
ガチャッ!!
ユミクリ「!!」
ヒッチ「ユミルー、タバコちょーだ…」ピシッ
ヒッチ「ちょっ…、えーーー?うっそ、ホントにあんたらって…。プッ、マジ勘弁しろよぉ」ゲラゲラ
ユミル「あっちゃー…」
クリスタ「ど、どうしよう、ユミル。一番見られちゃいけない人に見られちゃったよ…」アセアセ
※ ※ 翌日 憲兵団支部 ※ ※
ザワザワ ガヤガヤ
キイタ? クリスタト ユミルガ デキテルッテハナシ マジラシイゼ
ジャン「朝からひでぇデマが飛び交ってるな」
マルコ「盛り上がる話のネタが他に無いんだろう。放っとけばいい」
ヒッチ「あら、お二人さん、おはよー」スタスタ
ジャン「よう。昨日はお疲れさん」
マルコ「おはよう。やっぱりいつものメイクのほうがいいね」
ヒッチ「そりゃどうも。それより、ジャン。噂はもう耳に入った?」
ジャン「ユミルがクリスタとできてるってヤツか?」
ヒッチ「そうそう」
ジャン「はっ、くだらねぇ。んなこと言ってる暇があったら仕事しろっての」
ヒッチ「信じてないんだ」
ジャン「たりめぇだろ」
ヒッチ「でも昨晩、この目ではっきり見ちゃったんだ」
ジャン「何を?」
ヒッチ「ユミルとクリスタがHしてるとこ」
ジャン「……悪ぃ。てめぇの言ってることが理解できねぇ」
ヒッチ「だーかーらー、ユミルがクリスタの上に乗っかって思いっきりキスしてたんだって」
マルコ「見間違いじゃない?」
ヒッチ「ホントだよ。マジで見たんだから。いや私には分かんない世界だしぃ?否定も肯定もしないけどさぁ」
ヒッチ「ジャンがちょーかわいそうで。彼女がレズに走るとか、どんだけよ」クククッ
ジャン「さっさと消えろ。嘘を吐く女は死ぬほど嫌ぇだ」
ヒッチ「チッ、自分に都合の悪いことはぜんぶ嘘かよ。私は冗談は言うけど、嘘は吐かねぇよ」
マルコ「けど他人のプライベートを噂にして広めるのは褒められた行動ではないよ」
ヒッチ「なんだよ。暇つぶしのネタ提供してやってるだけじゃん」
マルコ「今すぐやめるんだ。他人を貶めても、自分の価値は上がらない。むしろ下がる一方だよ」
ヒッチ「ったく、あんたはお利口さんすぎて、やっぱつまんねぇ。じゃあねー、私は仕事に戻るわ」スタスタ
ジャン「……なんなんだよ、あいつ」
マルコ「まっ、いつも通りといえばいつも通りだけど」
ジャン「…マルコ、場所を変えるぞ」クイッ
マルコ「…うん。ここは人が多いしね」ガタッ
※ ※ 休憩所 ※ ※
マルジャン「…」ズーン
ジャン「…彼女に浮気されちまったらしい」
マルコ「…僕もだよ」
ジャン「…相手は親友の彼女だと」
マルコ「…僕もだよ」
ジャン「…俺たち兄弟?」
マルコ「…いや、遠い親戚だね」
ジャン「…きっとお前がノーテクなのが原因だな」
マルコ「…その言葉そのまま返すよ」
ジャン「俺は毎回パラダイスに連れてってる」ドヤ
マルコ「僕はユートピアを見せてるよ」ドヤ
ジャン「…」
マルコ「…」
ジャン「悪ぃ、嘘。たまにユミルを地上に残したままだ」ハハハ…
マルコ「ごめん、僕も。楽園の門を気付けば一人でくぐってる」アハハ…
マルロ「おっ、いたいた。探したぞ」ツカツカ
ジャン「よう、マルロ」
マルコ「なにか用?」
マルロ「昨日の件の報告だ」ストン ギシッ
マルコ「ご苦労様。…そういえばマダムはどうしてる?」
マルロ「彼女は昨夜のうちにお帰りになった。そうそうマルコに彼女から伝言だ」
マルコ「なんだろう」
マルロ「‘儀仗隊の隊長の推薦は父にさせるから安心して’だとさ」
マルコ「マダム…」
ジャン「なるほどな。A商会は壊滅したも同然だから、マダムの推薦状は何の効力もねぇ」
マルロ「だが区長の推薦なら後ろ盾としては十分だろう。年明けの人事が楽しみだな、マルコ」
ジャン「お前…人妻を騙した挙句に逮捕しといて、何でまだ可愛がられてんだよ。意味分かんねぇ」
マルコ「んー…正直者は得をするんだよ」
ジャン「普通は損するだろうが」
マルコ「それより逮捕者は全員起訴できそう?」
マルロ「ああ。商会陣営5名、憲兵6名。ナイル師団長から軍事法廷でなく一般法廷で裁くよう指示があった」
ジャン「マジ?じゃあ裁くのは民間人ってことか」
マルロ「そうだ。軍の透明性を少しでもアピールしたいんだろう。今や憲兵団の評判は地に落ちているからな」
マルコ「厳しい量刑になりそうだね」
マルロ「当然だ」
ジャン「叩けばまだまだ芋づる式に逮捕者は増えそうだ」
マルロ「今まさにその作業の真っ最中だ。これを期に、この支部から膿を全部出してやる」
マルコ「はは、ひとまずマルロの目標は達成だね。正しい憲兵の姿に一歩近づける」
ジャン「いや、次に赴任してくる上官次第だろう。そう簡単に支部の体質が変わるとは思えねぇ」
マルロ「腐った人間が来たら潰すまでだ。その時はまた手を貸してくれ」
ジャン「いいぜ」
マルコ「もちろん」
マルロ「そういえば、今朝から妙な噂が流れてるな」
ジャン「なんだ、お前の耳にまで入ってるのか」
マルコ「もう全員に知れ渡ってそうだよ…」
マルロ「で、どうなんだ?事実なのか?」
ジャン「さあな。ヒッチのことだから大袈裟に話してるだけかもしんねぇし」
マルコ「まぁ、事実だとしてもなぜか腹が立たないんだよね。不思議なことに」
ジャン「そうそう。俺らが落ち込むだけ」
マルロ「よく分からんな」
ジャン「浮気相手がどっかの男だったらよ、間違いなく激怒すんだろうけど」
マルコ「クリスタとユミルだしね。あの二人は特別だから仕方ないかな」
マルロ「仕方ないって…。寛容すぎるだろう」
ジャン「むしろ俺はその現場を見てぇ。ベッドで戯れる二人をソファーに座って酒飲みながら鑑賞したいぐらいだぜ」
マルコ「ジャン、恥を知れよ」ギュッ ブンブン
マルロ「握手するな…」
ジャン「もう、あれだ。いっその事、4Pで」ゴンッ!!「イテッ!!……何すんだよ、ユミル」イテテ
ユミル「馬鹿言ってないで、さっさと仕事に戻れ」
マルコ「ユミル、…昨日、宿舎に戻ってからクリスタの様子はどうだった?」
ユミル「はっ、なんで浮気男に教えなきゃなんねぇんだよ」
ジャン「へ?…マルコ、お前も浮気してんのか」
マルコ「してない。けど、してると思われても仕方のない状況にある」
ユミル「言い訳は?」
マルコ「僕の落ち度だ。言い訳なんてしない」
ユミル「おやおや、男らしいことだね。けど、それじゃあクリスタに何も伝わらない」
マルコ「ユミルこそ僕に言うことがあるんじゃないの?」
ユミル「なにも。言い訳が必要かい?」
マルコ「いや、いらない」
ユミル「じゃ、この話はおしまい。ほらっ、さっさと仕事するよ」グイッ
ジャン「分かったから引っ張んなよっ」ドタドタ
ユミル「マルコは人事部行ってみろよ。クリスタ、もう怒ってないから」スタスタ
マルコ「…なんだかよく分からないけど、ありがとう、ユミル」
>>1です レス感謝です
>>298
そういう心持ちで読んでもらえたら助かります。ありがとう
クリスマスに間に合わなかったらすいません。でもできるだけがんばる
>>299
そこまで書いたらマルコがじいちゃんになってしまう
書きたい気持はあるけど、さすがにオリジナル色が強すぎるので、この掲示板で書くのは正直言って恐い
すでに手遅れなほど原作無視ってて、すまないです
>>300
アルミンは20歳を超えるとイケミンになると信じてる。身長もエレンを超えるといいさ
乙
オリジナル色強くたっていいじゃない。この話はもう高いレベルで完成されてる
長く書き続けてくれてこちとら嬉しいよ
※ ※ 人事部 ※ ※
ザワザワ ガヤガヤ
ヒッチ「ねぇねぇ、いつからユミルとああいう仲なの?」
クリスタ「…仕事中。おしゃべりは後にしようよ」サラサラ
ヒッチ「隠さなくったっていいじゃん。別に責めてるわけじゃないんだしー」
クリスタ「…」パラッ
ヒッチ「でもあんたが彼氏を作らない理由がやっと分かったし。まさか女のほうに興味があったとはね、ビックリだ」
クリスタ「…ユミルだから」サラサラ
ヒッチ「ん?」
クリスタ「ユミルは私にとって特別だから。男とか女とか、好きとか嫌いとか、そういう枠組みに当てはめないで」
ヒッチ「はぁ?意味分かんない」
クリスタ「…分かんないよね。…私だってユミルに対する気持ちをうまく説明できないから」
ヒッチ「キスしてたんだしぃ?好きなんじゃないの?」
クリスタ「もちろん好きだよ。…でも恋じゃない」
ヒッチ「じゃ、愛?」
クリスタ「もっと深くて大きくて温かくて……この感情を表す言葉を私はまだ知らないの」
ヒッチ「ふーん、やっぱり私には分かんない世界だわ。レズが自己肯定のために言い訳してるとしか思えない」
クリスタ「…一応言っとくけど、私はレズじゃないから」
ヒッチ「けど、やることはやってたじゃん」
クリスタ「そういうことはしてないから。…昨夜はたまたま話の流れで…」
ヒッチ「流れでキスすんだ。あんたって結構チョロいんだね」
クリスタ「…っ!ヒッチに言われたくないよ!」
ヒッチ「やだ、こわーい。レズが怒ったー」
クリスタ「だから違うって言ってるじゃない。それに同性愛者を馬鹿にするような発言はやめたほうがいいよ」
ヒッチ「ほら、擁護するし。やっぱガチでレズなんじゃん」
クリスタ「もう、しつこいっ!私はレズじゃないよ!!」ダンッ!! ガタッ!!
シーン…
クリスタ「あ…」カァッ
ヒッチ「あははははっ、あんたの大声で職場が静かになっちゃったじゃない」ゲラゲラ
マルコ「ヒッチ、クリスタをからかいすぎだよ」スタスタ
クリスタ「マルコ…」
ヒッチ「あれ?珍しいね。あんたがこの部署に来るの。なんか用?」
マルコ「クリスタに用事」
クリスタ「…あの、えっと…変な噂が流れてて…もう耳に入ったよね?」シュン
マルコ「いや、噂のことはどうでもいいんだ。僕は気にしてないから」
ヒッチ「なぁに?あんたは知ってたの?クリスタがレズだって」
マルコ「クリスタは違うよ」
ヒッチ「なんで言い切れるんだよ」
マルコ「だって僕の恋人だから」
クリスタ「え…」ドキッ
ヒッチ「………はぁ?」
マルコ「5年前から僕の大切な人だよ、クリスタは。だからあんまりいじめないでよ」
ヒッチ「…あんたどっかで頭打った?」
マルコ「至って正気」
クリスタ「マ、マルコ、…内緒なんだよね?」
マルコ「不正上官の件で僕らが責めを受けることは無さそうだし…それに、もう隠す必要はないから」
クリスタ「いいの…?」
マルコ「うん。いいんだ」
ヒッチ「ちょっ、えっ………えっ!?マジなの?冗談じゃなくて?」アタフタ
マルコ「本当だよ。僕は心からクリスタを愛してる。彼女に嫌われたら僕はもう生きていけない」ズイッ
ヒッチ「いや、私に向かってそんなことマジ顔で言われても。つーか、近ぇよ」ビクッ
マルコ「クリスタを何よりも大切にしたいのに、僕は昨日彼女を悲しませてしまったんだ。最低だよね」
ヒッチ「んなこと知らねーし。あっちいけよ。めっちゃキモイ」
クリスタ「マルコ…」
マルコ「そうだよ。僕はキモイぐらいクリスタが好きなんだ。それなのに…。いくら謝罪しても足りないよ」
ヒッチ「だから本人に謝れよっ」
マルコ「僕はクリスタがいるからどんな辛い任務でも耐えられるんだ。彼女がいるから僕はまともでいられるんだ」
ヒッチ「今のあんたはまともじゃないし。なんか怖いからどっか行って」
マルコ「うん。僕は昔からクリスタが絡むと正しい判断ができないんだ。彼女を最優先に考えてしまうから」
ヒッチ「もうなんなのよ、あんたは」
マルコ「クリスタが微笑んでくれるから、僕は正しい人間でありたいと思うんだ」
マルコ「クリスタが好きだと言ってくれるから、僕は自分の存在を肯定することができるんだ」
マルコ「もし彼女に嫌われたら、僕は僕で無くなってしまう」
ヒッチ「分かったからっ。ちょっとクリスタ、傍観してないで助けろよっ」
クリスタ「…マルコ、もういいよ。十分だよ」
マルコ「クリスタ…君を傷つけてしまって本当に悪かったよ。二度と悲しませないから、僕を許してくれるかな…」
クリスタ「うん。…私のほうこそごめんなさい。噂は…嘘じゃないから」
マルコ「けど原因は僕があんなことをしたから、だよね?」
クリスタ「そう…」
マルコ「すべて僕が悪いんだ。クリスタが謝る必要はないよ」
クリスタ「じゃあ…仲直りだね」
マルコ「うん。…キスしていい?」
ヒッチ「…あのさぁ、ここが職場だって気付いてる?しかも部屋中の視線がこっちを向いてんだけどぉ」
マルコ「そんな些細な事はどうでもいいよ」スッ
――チュッ
オォォォォ… ヒューヒュー♪
クリスタ「みんなに見られて恥ずかしいけど…………嬉しい///」ニコ
マルコ「僕もクリスタがやっと自分の彼女だって公言できて、心のもやもやが晴れたよ」ニコ
ヒッチ「…マルコ、あんたさぁ、わざわざ見せつけるためにこの部屋に来たわけ?」
マルコ「そ。ヒッチに見せれば、支部中にあっという間に噂は広まる」
ヒッチ「チッ…ムカツクから誰にも話さないしー」
マルコ「はは、どっちでもいいよ。…じゃあね、クリスタ。明日は14時ぐらいに宿舎へ迎えに行くから」スタスタ
クリスタ「うん。待ってるね」バイバイ
ヒッチ「明日?…あっ、24日じゃん。あんた最初からマルコと出掛ける気で有休取ってたの?」
クリスタ「ご、ごめんなさい」
ヒッチ「ありえないんだけど。5年間も一緒にいるのにさ、なんで私に内緒にしてるわけ?そこが許せない」
クリスタ「その…、ヒッチに知られると新聞に載るよりも世間に知れ渡るからって、マルコに固く口止めされてたの」
ヒッチ「そんな影響力ないっつーの。せいぜい憲兵団中に広まるだけだしー」
クリスタ「…やっぱり黙ってて正解だったね」
>>1です。短いけど今日はここまで
>>333
ありがとう。自己満足だからって割り切ってても、やっぱり読んでくれてる人に不快な思いはさせてくないので
時々不安になって弱音を吐いちまう。でもこのレスのおかげで頑張れる。感謝です
※ ※ クリスマス・イヴ 女子宿舎 ※ ※
――PM 2:00
マルコ「ごめん、待った?」タッタッタッ…
クリスタ「ううん。時間通りだよ」
マルコ「よかった」
クリスタ「ふふ、無遅刻記録更新だね」
マルコ「クリスタが貴重な時間を僕のために費やしてくれるんだ。遅刻するなんてもったいないことできないよ」
クリスタ「マルコもお仕事で忙しそうなのに、私のために時間を割いてくれてありがとう」
マルコ「ううん。僕の時間はぜんぶクリスタのものだから。会えない時も君のことばかり考えてる」
クリスタ「私もだよ。気がつけばマルコのことを考えてて。それでヒッチの話を聞いてなくてよく怒られてる」
マルコ「嬉しいな。ヒッチに怒られてるのは可哀想だけど」
クリスタ「マルコがあんまり構ってくれないせいだからね」
マルコ「ごめんね。今日はお詫びにクリスタの言うことは何でも聞くよ」
クリスタ「本当?」
マルコ「うん。今日はクリスタはお姫様。僕は君の家来だよ」
クリスタ「ふふ。じゃあ、楽しいデートに連れて行ってもらおうかな」
マルコ「かしこまりました、お姫様。では、お手をどうぞ」スッ
クリスタ「今日はどこへ連れてってくれるの?」ギュッ
マルコ「クリスタはバレエとか興味ある?」スタスタ…
クリスタ「うん、大好き。華やかで夢があって」スタスタ…
マルコ「良かった。チケットが無駄にならなくて」
クリスタ「何の公演?」
マルコ「『くるみ割り人形』」
クリスタ「チャイコフスキーね」
マルコ「正解。僕は音楽しか聞いたことなくってさ。一度でいいから本物のバレエの舞台を見たいなって思って」
クリスタ「私も『くるみ割り人形』は見るの初めて。楽しみだな」
マルコ「昔、壁外のある地域ではクリスマスが近くなると、盛んにこの公演が行われてたらしいよ」
クリスタ「そうなの?」
マルコ「うん。内地にはその習慣が残ってて、この時期になると毎年必ず公演するんだって」
クリスタ「そっか。『くるみ割り人形』ってクリスマスイヴが舞台のお話だから…」
マルコ「ね、今日のデートにぴったりでしょ?」
クリスタ「うん。素敵なデートになりそう。公演は何時から?」
マルコ「17時から。2時間ぐらいで終わるらしいよ」
クリスタ「その後は?」
マルコ「レストラン予約してる」
クリスタ「ふふ、さすがだね」
マルコ「もちろん、その後は期待に応えるから」
クリスタ「もうっ、期待なんてしてないよ」カァァ
※ ※ 憲兵支部 ※ ※
ザワザワ ガヤガヤ
ジャン「ユミルー、今晩ヒマ?」
ユミル「暇じゃないよ」
ジャン「なんか用事?」
ユミル「特に用もないけど」
ジャン「じゃあ飲みにいこうぜ」
ユミル「行かない」
ジャン「なんで。ヒマなんだろ?」
ユミル「暇じゃないよ」
ジャン「用事ないんだろ?」
ユミル「無いね」
ジャン「じゃあ行こうぜ」
ユミル「行かない」
ジャン「」
ユミル「」
ジャン「…俺、嫌われてる?」
ユミル「嫌ってない」
ジャン「じゃあ、行こうぜ」
ユミル「行かない」
ジャン「」
ユミル「」
ジャン「…俺、なんかした?」
ユミル「何も」
ジャン「じゃあ、行こうぜ」
ユミル「行かない」
ジャン「」
ユミル「」
ジャン「だーーー!もう、なんでだよ?なんで断るんだよ」
ユミル「わざわざ今日飲みに行く必要はないだろ?どの酒場も込んでるよ、きっと」
ジャン「分かった。込んでるのが嫌なんだな。じゃあ酒買って俺の部屋で飲もうぜ。どうせマルコは帰って来ねぇから」
ユミル「男子宿舎は女子禁制だろ?」
ジャン「俺らの部屋は一階だから窓から入りゃ問題ない」
ユミル「あっそ。けど……今日はしないよ」
ジャン「なんでだよっ。全然OKな日だよな」
ユミル「なに発情してんだよ。クリスマスだから?馬鹿馬鹿しい。私にはそんなもん関係ない」
ジャン「んなこと言ったら俺は年中クリスマスだ」
ユミル「なるほどね。ジャンの頭がおめでたい理由がよく分かった」
ジャン「別にさ、クリスマスだからってわけじゃねぇから、遊びに来いよ」
ユミル「何もしないならね」
ジャン「そんなに嫌?」
ユミル「わざわざ世間様に合わせる必要は無いだろ?お前のそういう所、ちょっと面倒くさい」
ジャン「はぁ…、分かったよ。飲むだけでいいから。今日はユミルと一緒に過ごしたい」
ユミル「それなら行くよ」
ジャン「…クリスマス、恋人いるのにHなし…」ガックリ
ユミル「そういう暴挙が私は好きだ」
※ ※ 劇場 ※ ※
♪♪♪♪~♪♪♪~
ステージ上で繰り広げられる夢溢れるファンタジーの世界。
舞台中央に配された巨大なクリスマスツリーは、楽しい気分を一層盛り上げる。
オーケストラビットでは専属楽団が華やかに演奏し、美しくしなやかな踊り子たちは優雅に物語を紡いでいく。
マルコ「…すごいね。想像してた以上の世界だ」ヒソヒソ
クリスタ「うん。すごく素敵。まるで夢の中にいるみたい…」ヒソヒソ
舞台の主役はクララちゃん。
クリスマスプレゼントに知り合いのおじさんからもらった醜いくるみ割り人形。
夜中の12時になるとクララの体は人形と同じ大きさになり、突然ねずみの軍団が襲い掛かってくる。
くるみ割り人形は、人形部隊を指揮しクララを守りながら必死にねずみ軍団に対抗する。
ねずみの王様を打ち倒すと、くるみ割り人形は凛々しい王子様に変貌し、クララと一緒にお菓子の世界へ旅立っていく。
クリスタ「不思議なお話。でも幸せな気分になる」ヒソヒソ
マルコ「はは、女の子は王子様に弱いからね」ヒソヒソ
クリスタ「…私の王子様は…マルコだよ?」ヒソヒソ
マルコ「…どうかな。僕はまだくるみ割り人形のままだ」ヒソヒソ
クリスタ「ふふっ、お人形のマルコはどうすれば王子様に変身するの?」ヒソヒソ
マルコ「んー、僕も王様倒してみようか」ヒソヒソ
クリスタ「ダメだよ。冗談でもそんな危ない発言しちゃ」ヒソヒソ
マルコ「…だよね」ヒソヒソ
お菓子の国の魔法の城では、お菓子の精たちによる歓迎の宴が開かれる。
不思議で可愛い『金平糖の精の踊り』に始まり、壮麗な『花のワルツ』で舞台はクライマックスを迎える。
幻想的な世界に魅了され、言葉を忘れて二人は見入った。
※ ※ 憲兵団支部 ※ ※
――人事部
ザワザワ ガヤガヤ
ヒッチ「チッ…、クリスマスイヴに仕事してやったのに、結局何もなかったじゃん」ブツブツ
ヒッチ「なにが奇跡が起こるかも、だよ。ふざけんな」ブツブツ
ヒッチ「もう定時過ぎたし……帰ろ。帰って自分をとことん甘やかしてやる」ガタッ
マルロ「おい、ヒッチ、もう少し仕事してろ」スタスタ
ヒッチ「はぁ?なんでだよ」
マルロ「あと一時間ぐらいで俺も上がれそうだから」
ヒッチ「…それって、誘ってんの?」
マルロ「たまには一緒に飯でもどうだ?」
ヒッチ「…しょぼい奇跡だね」
マルロ「嫌なら帰れ」
ヒッチ「…あんたの奢りなら行ってあげてもいいけど?」
マルロ「割り勘だ。ヒッチに奢る理由が無い」
ヒッチ「ちょっ、女誘っといて割り勘とかありえないから」
マルロ「同僚として誘ってるだけだ。あまりにもお前の背中が寂しそうだったからな。同情してやった」
ヒッチ「うわっ、ムカツク。あんただって一緒に過ごす相手がいないくせに」
マルロ「ああ。けど、俺は一人でも構わない」
ヒッチ「…私だって一人で結構」
マルロ「そうか。じゃあな」スタスタ
ヒッチ「えっ………えっ?ちょっと待ってよ、あっさり引き過ぎじゃね?」
マルロ「別にお前にこだわる必要はないからな。後輩にでも声をかけてみるさ」スタスタ
ヒッチ「それ、ダメ。パワハラだから。先輩に言われたら断り辛いから。その子がカワイソウ」ガシッ
マルロ「いや、実はさっき誘われたんだ。可愛い後輩ちゃんに」
ヒッチ「はぁ?誘われといて、なんでこっちきてんだよ」
マルロ「返事を保留にして、先にお前に声をかけてやったんだが…。お前が嫌だって言うんなら仕方ない」
ヒッチ「…べ、別にイヤとか言ってないし」
マルロ「じゃあ行くのか?」
ヒッチ「…」
マルロ「…」
ヒッチ「…しょうがないわね。…ご飯くらい付き合ってあげるわよ」
マルロ「分かった。一時間ぐらいしたら迎えに来るから。ここで待ってろ。…後輩にも断り入れないとな」
ヒッチ「ねぇ、あんたを誘う奇特な女はどこの誰よ」
マルロ「女なんて一言も言ってない。同じ部署の男の後輩だ。こいつがまた素直で可愛いヤツなんだ」スタスタ
ヒッチ「…」
ヒッチ「…くっそ、はめられた。あいつの性格がひねてんの知ってたのに。めっちゃ悔しいっ」
ヒッチ「…けど、まぁ、気にはかけてくれてんだね。同期のよしみってやつ?…そういうのもたまには悪くないか…」
※ ※ レストラン ※ ※
カチャ カチャ オホホ… ウフフ…
クリスタ「ここって…数年前にサシャとコニーにご馳走したお店だよね」
マルコ「そうそう。遠慮なく好きなもの頼んでって言ったら、本当に遠慮が無くて僕が真っ青になった店」
クリスタ「ふふ、容赦なかったね、あの時は」クスクス
マルコ「まぁ、お金では返せないような恩だけど、あれだけ散財すれば少しは報いることができたよね」
クリスタ「うん。二人ともすごく喜んでたし。…けどこのお店高いよね。バレエのチケットも高かっただろうし…大丈夫?」
マルコ「クリスタはそんなこと心配しなくていいよ」
クリスタ「でも…、公演開始までの時間潰しにお買い物した時も、私がいいなって言ったものは何でも買っちゃうし…」
マルコ「今日はクリスタの言う事は何でも聞くって約束したから。それにさ…」
クリスタ「それに?」
マルコ「2ヶ月分のデート費用を合わせると、これぐらい贅沢できちゃうんだな、これが」
クリスタ「もしかして今日のためにデートするの控えてたの?」
マルコ「いや、そういうわけじゃないんだけど…。まぁ、結果オーライということで」
クリスタ「そうだね。今日は本当にお姫様気分だよ。ありがとう、マルコ」
マルコ「どういたしまして」
クリスタ「それより、さっき観た『くるみ割り人形』だけど…」
マルコ「どうかした?」
クリスタ「やっぱり終わり方に納得がいかないの」
マルコ「はは、夢オチだからね」
クリスタ「折角くるみ割り人形が素敵な王子様になったのに、ぜんぶ夢でしたって…、期待を裏切られちゃった」
マルコ「目が覚めると真夜中の部屋で、クリスマスツリーの前で人形を抱えて倒れてましたとさ。めでたしめでたし」
クリスタ「ぜんぜん、めでたくないよ。やっぱり王子様とクララちゃんのハッピーエンドが見たいじゃない」
マルコ「ねぇ、クリスタ。『くるみ割り人形』の原作って知ってる?」
クリスタ「え…?知らない。原作があるの?」
マルコ「うん。ホフマンって人が書いた『くるみ割り人形とねずみの王様』っていう童話が元になってるんだ」
クリスタ「マルコは読んだことがあるの?その本」
マルコ「子どもの頃にね。でも童話のくせに難解すぎて、当時の僕にはよく理解できなかったよ」
クリスタ「今は分かるの?」
マルコ「なんとなくね。だって今の僕は醜いくるみ割り人形みたいなものだから」
クリスタ「マルコ…?」
マルコ「そうそう。クリスタにクリスマスプレゼントがあるんだ」ヨイショ
クリスタ「ふふ、プレゼント持ち歩くために大きなカバンを提げてたんだ」
マルコ「それもあるけど、明日は支部に直行しようと思って、制服とか着替えとか色々入ってる」ゴソゴソ
クリスタ「でも、ごめんなさい。…私なんにも用意してないよ」シュン
マルコ「気にしないで。今日僕に付き合ってくれたのが何よりのプレゼントだから。……はい、これ」ゴトッ
クリスタ「うわっ、大きいね。何だろう?袋から出してみてもいい?」
マルコ「もちろん」
クリスタ「…」ガサッ
クリスタ「これって…」
マルコ「そ、僕の分身のくるみ割り人形君。なかなか可愛いでしょ?」
クリスタ「あははっ、怖い顔した兵隊さんじゃない。ぜんぜん可愛くないよ」クスクス
マルコ「うん。…それが今の僕なんだ」
クリスタ「え…?」
マルコ「あのさ、クリスタに聞いてもらいたいことがあるんだ」
クリスタ「うん。改まって何かな」
マルコ「僕は今までクリスタに任務の話をほとんどしなかった」
クリスタ「そうだね。でもそれは愚痴を聞かせたくないからだって…」
マルコ「ごめん。クリスタに嫌われたくなくて…、隠してたんだ」
クリスタ「隠してたの?」
マルコ「うん。…僕は酷いことをしてる。僕の任務の大半は人々から幸せを奪うことなんだ」
クリスタ「マルコ…?」
マルコ「幸せだけじゃなく……命まで奪ってしまったんだ。…僕は罪の無い人々に発砲した。…僕は人殺しだ」
クリスタ「うそ…。やだ、やめてよ。マルコがそんなことするわけないよ」
マルコ「本当なんだ。クリスタも知ってるよね?ストヘス区内でたびたび暴動が起こってることは」
クリスタ「うん。でも暴動はいつもすぐに収まってる。新聞にも記事が出ないし。大した規模じゃないんだよね?」
マルコ「すぐに収まるのは武力で鎮圧してるから。新聞に載らないのは憲兵団が圧力をかけてるから」
マルコ「人々の話題に上らないのは、僕らの報復を恐れてるから。…僕は人々から恐れられ憎まれてるんだ」
クリスタ「そんなっ、支部内でもぜんぜんそんな話は聞かないよ?」
マルコ「暴動の鎮圧部隊には緘口令が敷かれるんだ。…黙っててごめん。…僕は君に嫌われるのが恐かった」
クリスタ「でも、マルコが黙ってそんな酷いことするとは思えないよ。絶対に止めるはずだよ」
マルコ「…僕は悪い人間だよ。いや任務を行ってる時の僕は人間じゃないんだよ」
クリスタ「マルコ…」
マルコ「…僕は心を殺して王の忠実な人形になりきって、命令されるがままにどんな酷い行いでもするんだ」
マルコ「…汚くて醜い人形だ。…僕は無力で…何もできなくて…誰一人助けることができないんだ」
クリスタ「…そんなことないよ」
マルコ「…クリスタ」
クリスタ「マルコは醜い人形なんかじゃない。…だって…人形は涙なんて流さないよ…」
マルコ「あ……、ごめん、自分でも気付かないうちに勝手に…」ゴシゴシ
クリスタ「私はなにがあってもマルコのことを嫌いになったりしないから。ううん、嫌いになんてなれないよ」
マルコ「けど…」
クリスタ「昨日、マルコは言ってたよ。私が好きだって言えばマルコは自分を肯定できるって」
マルコ「…君に甘えて現実から逃げてるんだろうね」
クリスタ「私も同じだよ。マルコが私を愛してくれて、自分が自分にとってどれほど価値のあるもになったか分かる?」
クリスタ「私ね、昔は自分なんてこの世から消えればいいって本気で思ってた。自分には生きる資格が無いって…」
マルコ「そんなっ。なんで…」
クリスタ「いろいろ事情があって…。私のほうこそマルコに隠してることがたくさんあるの…」
マルコ「生い立ちの事は話さなくていいって言ったのは僕だから…」
クリスタ「けど、マルコが私を必要としてくれて、たくさん愛をくれて…。私は自分の存在に意味を感じることができたの」
クリスタ「マルコは無力じゃない。少なくとも私はマルコに助けられてる。マルコに救われてるんだよ」
マルコ「…僕が…クリスタを救ってるの?」
クリスタ「うん。…だから今度は私がマルコを救ってあげる番。…マルコは醜い人形なんかじゃないよ」
マルコ「…うん」ジワッ
クリスタ「私はマルコが好きだよ。たとえ世界中の人々から憎まれたとしても…私はマルコの味方だから」
マルコ「…うん」グスッ
クリスタ「泣かないで。マルコが泣くと私まで悲しくなっちゃうから…」
マルコ「ごめん…。僕は自分のやったことが許せなくて、不幸にした人々に対して申し訳ない気持ちでいっぱいなのに…」
マルコ「クリスタに隠してたこと正直に話して…嫌われなくて…心底ほっとしたんだ…」
マルコ「僕はなんて身勝手な人間なんだろう…。こんな自分が嫌で嫌でしょうがない…」グスッ
クリスタ「大丈夫だよ。…マルコの辛さも苦しさも私がぜんぶ受けとめてあげるから…」
クリスタ「ぜんぶ受け止めて、私がマルコを許してあげる。私の前では強がる必要なんてないよ」
マルコ「うん……うん……」グスッ
※ ※ 酒場 ※ ※
ザワザワ ガヤガヤ
ヒッチ「ご飯だけっつってたじゃん」
マルロ「まぁ、折角だし一杯付き合え」
ヒッチ「…マルロ、…あんたまさか私のこと狙ってる?」
マルロ「帰っていいぞ」
ヒッチ「だよなー」
マルロ「…お前は強いな」
ヒッチ「どこが?」
マルロ「いや、入団早々ヒドイ目に合っときながら、そのことを誰にも言わず一人で耐えてた」
ヒッチ「耐えるも何も、訴えたところで取り合ってもらえないのは目に見えてたし」
マルロ「…だが殺意が湧くぐらい憎んでた」
ヒッチ「そりゃあね。誰だってレイプされりゃ殺してやりたいって思うだろ?」
マルロ「お前は訓練兵時代からロクな噂が無かったから…その、まさかとは思うが…あいつが初めてだったとか?」
ヒッチ「ぶっ、ぎゃははははっ、マジな顔して何を聞くのかと思ったらさぁ」ゲラゲラ
マルロ「いや…取り調べる上で、一応参考までに聞いておこうと思ってな…」ダラダラ
ヒッチ「教えてやんねーよ。それともナニ?被害者が処女だったら加害者の罪は重くなるとでも言うの?」
マルロ「それは無いが…」
ヒッチ「だったら聞くなよ。そんなこと」
マルロ「…悪い」
ヒッチ「そうそう、マルロ髪型変えてからどう?少しは女にモテるようになった?」
マルロ「言っとくが格好つけるために髪型を変えたんじゃないからな。取引上致し方なく、だ」
ヒッチ「理由なんてどうでもいいし。どうなの?モテてる?」
マルロ「…部署内で女に失笑される回数は減ったような気がするな」
ヒッチ「くくっ、あんた、かわいそうなヤツだね」バンバンッ!!
マルロ「放っとけ」
ヒッチ「けど、コンバスだっけ?楽器弾いてるあんたはまぁまぁイケてたよ」
マルロ「そりゃどうも」
ヒッチ「ねぇ…楽器弾く女ってどう?ちょっとトキめいたりする?」
マルロ「女によるだろう、それは」
ヒッチ「だーかーら、例えば私がヴァイオリンとか弾けちゃったら、ドキドキすんのかって聞いてんだよ」
マルロ「まったくしないな」
ヒッチ「マルロの意見はいらないし。一般的にはどう見られるんだろうって思ってね」
マルロ「さぁな。そこそこ良いところのお嬢様にでも見られるんじゃないか?黙ってれば」
ヒッチ「まじで?」
マルロ「あと化粧を五割カットすればな」
ヒッチ「だからあんたの好みは聞いてないから。そっかー、お嬢に見られたほうが得かもねー…」
マルロ「…ヴァイオリン弾くか?」
ヒッチ「ちょっとやってみよっかなー。あんたのへっぽこ楽団、常にメンバー募集してんでしょ?」
マルロ「ああ。やる気があるんだったら見学に来い。ヴァイオリンならユミルのやつが一本あるし」
ヒッチ「げぇー、ユミルかよ。金取られそう」
マルロ「金ならまだいい。面白がって無茶な要求をされないよう気をつけることだ」
ヒッチ「はいはい。…ところであんたは知ってたの?クリスタとマルコが付き合ってんの」
マルロ「当然だ。俺は信頼のおける人間だからな。口の堅さには定評がある。誰かさんと違ってな」
ヒッチ「チッ、面白くないね。知らなかったのが私だけとかさ…」
マルロ「ヒッチが鈍すぎなんだと思うぞ。5年もクリスタの近くに居てなんで気付かない」
ヒッチ「そりゃあ、マルコはクリスタの周りをよくチョロチョロしてたけどさ。…あのマルコだよ?」
マルロ「どのマルコだ?」
ヒッチ「は?どのって…、真面目でクソつまんないマルコ」
マルロ「そうか。俺の知ってるマルコは少なくとも5人いる」
ヒッチ「なにそれ」
マルロ「優等生マルコ、策士マルコ、人たらしマルコ、腹黒マルコ、エロマルコ」
ヒッチ「ぶっ…、くくくっ、エロマルコめっちゃ見たいんですけどー」ゲラゲラ
マルロ「今頃、大活躍中だろう。滅多に出番が無いらしいから」
ヒッチ「あ、あんたぜんぜん口堅くねぇじゃん。ひー、腹痛い」ゲラゲラ
マルロ「おっと、うっかり。マルコには内緒だぞ」
ヒッチ「あんたってやっぱりおかしなヤツ。入団した頃からちっとも変わってない」クスクス
マルロ「お前は相変わらずチャラい女だな」
ヒッチ「いいんだよ。好きでやってんだから。チャラくない私は私じゃない」
マルロ「妙なところで芯が通ってるな」
ヒッチ「誰にだって譲れないところはあるんだよ」
マルロ「そのキツイ香水もか」
ヒッチ「そ」
マルロ「至近距離だと鼻がバカになりそうだ。頭までクラクラしてくる」
ヒッチ「思考能力が削がれるでしょ?それが狙い。あんたにだけ特別に教えてあげるよ。私の香水の名前」
マルロ「…どうせロクな名前じゃないんだろう?知りたくもない」
ヒッチ「いいから聞けよ」
マルロ「あーはいはい。なんていう香水の名前なんだ?」
ヒッチ「『I'm HORNY』」
マルロ「どういう意味だ?」
ヒッチ「」スッ
マルロ「うぉっ、近いぞ」ビクッ
ヒッチ「‘ムラムラしてるの’」ヒソヒソ
マルロ「そうか…」
ヒッチ「そう」ニヤリ
マルロ「じゃあ、俺は帰る。金はここに置いとくから、お前も気の済むまで飲んだら帰れ」ガタッ
ヒッチ「はぁ?ちょっと待てよ。恥かかせる気?」ガシッ
マルロ「いや、分からん。まったく分からない。どこでお前のスイッチが入ったのか皆目検討がつかない」
ヒッチ「常にスイッチはオンしてるから、私」
マルロ「そんな女は俺はイヤだ。絶対無理」
※ ※ 宿屋 ※ ※
暖炉の炎だけが冬の夜の室内を柔らかく照らし出す。
時折薪のはぜる音をぼんやりと聞きながら、二人はけだるい身体をベッドに投げ出していた。
マルコ「ねぇ、クリスタ。さっきの『くるみ割り人形』の話なんだけどさ…」
クリスタ「ん…?」
マルコ「バレエで演じられたのは原作の途中までなんだよ」
クリスタ「本当のお話はまだ続いてるの?」
マルコ「うん。夢オチじゃないんだ」
クリスタ「へぇ…どういう結末?」
マルコ「醜いくるみ割り人形は、実は人間の少年が悪い魔法使いに呪いをかけられた姿だってことが分かって…」
クリスタ「うん」
マルコ「呪いを解けばくるみ割り人形は人間に戻れるんだけど。呪いを解くには条件があってさ…」
クリスタ「どんな条件?」
マルコ「それは明日、目が覚めたら教えてあげるよ」
クリスタ「えー、ずるい。ここまで話しといて。気になって眠れないよ」
マルコ「ごめんね。でも僕は明日話したいんだ。一晩だけ待ってほしいな」
クリスタを抱き寄せ、額に唇を落とす。
クリスタ「マルコがそういうなら…。でも明日になったらちゃんと教えてね」
マルコ「もちろんだよ」
クリスタ「うん。じゃあ、おやすみなさい」
マルコ「おやすみ、クリスタ。良い夢を」
>>1です。
レスありがとうございます。寒い夜はレスの優しさが身に染みます。感謝
続きは明日。クリスマス完結目指すよ
ぬぐ……パンツ抜いでたのにすっ飛ばされただと……乙
完結……だと?
売春婦とレズのコンビ見てると映画「モンスター」を思い出す
>>1です すみません。クリスマス完結できんかった。もう余計なことは言わないようにするよ
>>374
とりあえずクリスマス編完結ということで。続きは…あるかもしれない
>>375
ディープな共依存。その映画大好きです
>>373
パンツ脱いでくれたので書き直した。でも履いといてね
>>370>>371は無かったことにして下さい。抜けないエロに差し替えます
※ ※ 宿屋 ※ ※
暖炉の炎だけが冬の夜の室内を柔らかく照らし出す。
部屋の中央に配置されたダブルベッドに腰掛け、マルコはクリスタの衣服に手をかける。
マルコ「寒くない?」
クリスタ「…寒くないけど…シーツに入ってもいい?」
マルコ「まだ恥ずかしいんだ」
クリスタ「…恥ずかしいよ」
マルコ「もう5年だよ?」
クリスタ「…まだ5年だよ」
マルコ「まぁ、開けっぴろげになられるよりは、初々しくて僕は嬉しいけど」
クリスタ「…だって…月に1回するかしないかのペースじゃ全然慣れないよ…」
マルコ「ごめんね。なかなか休みが合わなくてさ…」
クリスタ「今日だって…2ヶ月以上間が空いてるし…」
マルコ「うん…空いちゃったね」
クリスタ「そうだよ。放っときすぎだよ」
マルコ「…」ポリポリ
マルコ「…あのさ、クリスタがこういう行為をあまり好きじゃないのかなって思って…」
マルコ「デートの度にするのも申し訳ないし、仕事終わりにご飯誘ってそのまま連れ込んだら悪いかなって…」
マルコ「僕はずっと遠慮してたんだけど…………本当は好きだった…の?」
クリスタ「…っ、ばかっ、もう知らない」カァァ ガサッ
マルコ「あ、潜っちゃった」
マルコは手早く自分の衣服を脱ぎ、シーツの中に身を滑らせる。
マルコ「僕はクリスタがエッチな子でも全然構わないのに」ゴソゴソ
クリスタ「そ、そんな子じゃないもん………やん…っ、マルコはどうしていつも下着から脱がせるの?」
マルコ「過去の学習から」ゴソゴソ
クリスタ「…」カァァ
マルコ「けど別にクリスタの下着を洗うのが嫌ってわけじゃないから。むしろ洗いたいぐらい」ゴソゴソ
クリスタ「…マルコは5年たったら立派な変態になったね」
マルコ「嬉しい?」ゴソゴソ
クリスタ「悲しい」
マルコ「これでもかなり抑えてるんだけどな…。はい、全部脱げた」ポイッ
クリスタ「…脱がせるの上手くなったよね」
マルコ「もともと手先は器用だから」
クリスタ「どこかで練習してるとか」
マルコ「主にジャンを使って」
クリスタ「うそ!?」
マルコ「うそ。僕は生まれてこの方、クリスタしか脱がせたことはないよ」
仰向けに寝ているクリスタに覆いかぶさり、額に口付ける。瞼、頬、鼻先、顔中にキスを落とし、最後に唇へ到達する。
少し開き気味の柔らかな唇は、躊躇うことなく舌を受け入れ、待ちわびていたかのように自らもそれに応える。
髪を弄っていたマルコの右手は、徐々に下方へ移動していき、小振りな胸のふくらみを手のひら全体で緩く揉んだ。
クリスタ「…ふっ……んん……」
マルコ「…ハァ…かわいい」
クリスタ「…あ…っん…、やだ、んっ、胸はあんまり触らないでって…」
マルコ「どうして?僕はクリスタのおっぱい大好きなのに」
クリスタ「…お、おっぱいって言わないでっ」カァァ
マルコ「まともに触らせてもらえるまで2年かかったんだ。触るなっていうほうが無理だよ」
クリスタ「けど……やっぱり…ちっちゃいから…」
マルコ「僕は他のを見たことないから、大きいか小さいかなんて分からない」
クリスタ「そんなことないよ。服の上からだって一目瞭然じゃない」
マルコ「どうかな。脱がせて見たら実際はたいしたこと無かったって話をよく聞くし」
クリスタ「そうなの?」
マルコ「そうらしいよ」
クリスタ「…男の人ってやっぱりそういう話をしてるんだね。女の子に失礼だよ」
マルコ「はは、ごめん。でも僕は彼女の自慢しかしないからウザいって言われる」
クリスタ「もうっ…」カァァ
唇で吸い付きクリスタの白い肌に軽い鬱血の後を残しながら、頭を乳房まで下げていく。
慎ましく存在を主張する薄紅色の乳首を一舐めし、息を吹きかける。
クリスタ「やん…っ、くすぐったいよ」
マルコ「…きれいだよ。僕は毎日聴くならベートーベンやブラームスよりドビュッシーやフォーレのほうがいい」
クリスタ「…え?」
マルコ「重厚感があるより軽くて可愛らしいほうが、心が癒されて優しい気持ちになれる」
クリスタ「…音楽の話だよね?」ニコ
マルコ「うん。僕の趣味の話……………笑顔が怖いよ、クリスタ」
ツンと尖った先端を唇で挟み、ざらつく舌で弾くように舐めまわせば、少し鼻にかかった甘えた声が溢れ出す。
もう片方は親指と人差し指で摘み、優しく捏ねるように指の腹でさすれば、堪らずマルコの頭に腕を回した。
クリスタ「…っ、はぁっ…ん……やっ、そんなに…いじらないで…あん…っ」
マルコ「んっ…チュパッ………嫌?」
クリスタ「い、イヤじゃないけど…あんっ、マルコがいじりすぎるから…ん…っ、ダメなのっ」
マルコ「…確かに…ちょっとだけ乳首が大きくなっちゃったね」キュッ
クリスタ「んん…っ!そ、そんなことないよっ」カァァ
マルコ「でも、すごく感じてくれるようになった」
クリスタ「バカ…っ、んっ…」
マルコ「最初の頃は胸を触るとくすぐったがって逃げるばかりだったから、僕は嬉しいよ」パクッ
クリスタ「やんっ…、もうっ、そこばっかり…やだっ…んん…っ」
抗議の声を無視し、ひたすら胸への愛撫に没頭する。
もどかしい刺激の蓄積に身体の芯が疼き出し、自然と腰が小さく揺れ始める。
もっと欲しいのに、それ以上を与えてくれなくて――
クリスタは焦れてマルコの耳を引っ張った。
マルコ「プハッ…、危ないよ。急に引っ張ったら噛んじゃうよ」
クリスタ「…もう…いいから…っ…」カァァ
マルコ「…もういいの?」
クリスタ「…」コクン
マルコ「…いや、よくない」ハムッ
クリスタ「あんっ…、マルコ、しつこいっ…よ…」ポカポカ
マルコ「チュパッ、痛いって。時間はあるんだし、そんなに急がなくてもさ…」
クリスタ「…やっぱりおかしい」
マルコ「なにが?」
クリスタ「なんでマルコはそんなに余裕があるの?2ヶ月ぶりだよ?すごく久しぶりなんだよ?」
マルコ「…まぁ、そうだけど」
クリスタ「やっぱり……どこかで浮気して……」ジワッ
マルコ「ちょ、ちょっと待ってよ。がっつかないからって浮気したって思われるの?」
クリスタ「だって……私ばっかりしたがってるみたいで……恥ずかしいよ…」
マルコ「いや、それは……ね。僕も男だし…、溜まったら一人で何とかしてるわけで…」ポリポリ
クリスタ「…一人で?」キョトン
マルコ「はい、この話はおしまい。変なことに興味を持たなくていいから」クチュッ
クリスタ「ひゃんっ!あっ…あぁっんっ…やぁ…っ」
マルコ「…クリスタ、濡れすぎだよ。もうびちゃびちゃ」ヒソヒソ
クリスタ「…っ、だって…あんっ…ずっと…寂しかったんだから…っ」
マルコ「ごめんね。…今日はいっぱいしてもいい?」
クリスタ「…うん。たくさん愛して…」
ぬるつく肉唇に指を差し入れれば、次から次へと蜜が零れだし、卑猥な水音を立て始める。
人差し指と中指を埋め込み緩く前後させながら、親指で花芯を軽く叩くと、それだけで太ももは震えだす。
お尻がベッドから離れ宙に浮く。眉間に皺を寄せ必死に肩に縋りつくクリスタの耳に顔を寄せ、耳朶を軽く噛んだ。
クリスタ「あっ、あっ、んん…っ!!」
マルコ「もうイキそう?」ヒソヒソ
クリスタ「うんっ…あっ、いや…っ、だめっ、だめっ…ふっ、あぁぁん…っ!!」
一瞬硬直した身体はすぐに弛緩し、乱れた呼吸の中、歓喜の余韻に浸る。
とりあえず満足させれたことに安堵し、マルコは汗ばむ額にそっと口付けた。
マルコ「ねぇ、クリスタ」
クリスタ「ハァ…ハァ…なぁに?」
マルコ「今日は……見てもいいかな?」
クリスタ「ハァ…絶対ダメ」
マルコ「…舐めたい」ヒソヒソ
クリスタ「…っ」カァァ
マルコ「ダメ?」ヒソヒソ
クリスタ「そ、そんなのダメだよっ。見せるのだって恥ずかしいのに、な、なな、舐めるとかっ///」プシュー
マルコ「クリスタは隠し事が多すぎだよ」
クリスタ「ごめんなさい、…いや、でもこれは、別の話でしょ?」アセアセ
マルコ「過去は秘密にしててもいいからさ。現在のクリスタのことはぜんぶ知りたい」
クリスタ「で、でもね…、私だって自分で見たことないから…、その…///」
マルコ「僕は5年間、正体不明の迷宮に触覚のみを頼りに果敢に挑んできたわけだけど…」
マルコ「そろそろ実態を把握させてくれてもいい頃じゃない?暗夜行路にも限界があるよ」
クリスタ「な、謎は謎のままにしといたほうが良いってことは世の中にたくさんあるから」
マルコ「謎の生物に食べられる僕の気持ちを少しは察して欲しい」
クリスタ「謎の生物!?ひどいよっ、私だって得体の知れない硬いモノを入れられて怖いんだから」
マルコ「うん。だから僕のは見ていいって」バサッ
クリスタ「きゃっ!ヤダ、そんなトコロ見たくないのっ」バッ
マルコ「手で顔を覆っちゃってさ…。そこまでイヤがんなくても…。なぁ、お前、けっこう可愛いのに」ヨシヨシ
クリスタ「ぷっ、話しかけたりしないでよ」クスクス
マルコ「クリスタも話しかけてごらん。ちゃんと返事するから、この子」クイッ クイッ
クリスタ「ばかっ///」
マルコ「はは、馬鹿みたいだね、本当に。けど、カッコつけずに馬鹿になったほうが何事も楽しめるんじゃない?」
クリスタ「…急にまともなこと言い出すし」
マルコ「人生も音楽も、Hだって同じだよ。馬鹿みたいに必死にならないと本当の素晴らしさは分からない」
クリスタ「…素っ裸で言うセリフじゃないと思う」
マルコ「やっぱり?」
クリスタ「ふふっ、変なマルコ」クスクス
マルコ「うん。僕は君の前では少し変になる」
足を開かせ、間に身体を割り入れる。昂りに手を添えて割れ目を上下させ、先端が程よく潤ったところで腰を進めた。
狭い肉壁をこじ開け突き入れる感覚は、それが何度目であろうと眩暈を起こしそうなほどの鮮烈な悦楽をもたらす。
クリスタ「あぁ…っ!!」
マルコ「…ん…っ、ハァ…ぜんぶ入った…。痛くない?」
クリスタ「…久しぶりだから…ちょっと痛いかも…」
マルコ「ごめんね。…慣れるまでゆっくりするから」
緩やかに腰を前後させ始める。
マルコ「…くっ……やばっ……ゆっくりだとすぐに出ちゃうかも…」
クリスタ「んっ…、いいよ、出して。今日は、あん…っ、いっぱいするんでしょ?」
マルコ「いや、でも…んっ…クリスタにも良くなってもらいたいし…」
クリスタ「…私も…すぐにイっちゃいそうだから…」カァァ
マルコ「…ホント?」
クリスタ「…うん。…すごく気持いいよぅ…」
マルコ「…ぐっ…」フルフル
クリスタ「マルコ…?」
マルコ「ふぅー、危ない。…あんまり嬉しくなるようなこと言わないで。本当に出るから」
クリスタ「大丈夫だよ。…今日は…その…中でも」ニコ
マルコ「」
マルコ「」ビクッ ビクッ
クリスタ「…あっ……うそっ、もう…?」
マルコ「…ごめん、今のリハーサルだから。…本番開始までしばらくお待ち下さい」グッタリ
クリスタ「ふふっ、いいよ、夜は長いから」ヨシヨシ
―――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――
――――――――――
濃密な時間は過ぎ、室内を漂う淫靡な空気は徐々に薄らいでいく。
時折、暖炉の薪がはぜる音をぼんやりと聞きながら、二人はけだるい身体をベッドに投げ出していた。
マルコ「ねぇ、クリスタ。さっきの『くるみ割り人形』の話なんだけどさ…」
クリスタ「ん…?」
マルコ「バレエで演じられたのは原作の途中までなんだよ」
クリスタ「本当のお話はまだ続いてるの?」
マルコ「うん。夢オチじゃないんだ」
クリスタ「へぇ…どういう結末?」
マルコ「醜いくるみ割り人形は、実は人間の少年が悪い魔法使いに呪いをかけられた姿だってことが分かって…」
クリスタ「うん」
マルコ「呪いを解けばくるみ割り人形は人間に戻れるんだけど。呪いを解くには条件があってさ…」
クリスタ「どんな条件?」
マルコ「それは明日、目が覚めたら教えてあげるよ」
クリスタ「えー、ずるい。ここまで話しといて。気になって眠れないよ」
マルコ「ごめんね。でも僕は明日話したいんだ。一晩だけ待ってほしいな」
クリスタを抱き寄せ、額に唇を落とす。
クリスタ「マルコがそういうなら…。でも明日になったらちゃんと教えてね」
マルコ「もちろんだよ」
クリスタ「うん。じゃあ、おやすみなさい」
マルコ「おやすみ、クリスタ。良い夢を」
――翌朝
薄暗い中起き出し身支度を整えた後、ベッドの上で寝息をたてるクリスタに口付ける。
クリスタ「ん…」モゾモゾ
マルコ「クリスタ、おはよう」
クリスタ「……もう……朝……?」ファ…
マルコ「ごめんね、起こして。僕もう仕事に出掛けるから」
クリスタ「……うん……いってらっしゃい……」ムニャムニニャ
マルコ「はは、まだ寝ぼけてるところ悪いんだけど、昨日約束したから。くるみ割り人形の結末を教えるって」
クリスタ「…今度でいいよぅ…ファ…」ゴロン
マルコ「寝ててもいいよ。僕が話したいだけだから」
クリスタ「…うん…」モゾモゾ
マルコ「くるみ割り人形の呪いを解くには、醜い自分を心から愛してくれる人が必要だったんだ」
マルコ「クララちゃんはそんな条件は知らないけれど、とても優しい女の子だったから…」
マルコ「『あなたが醜いからって私は蔑んだりしない。あなたは立派よ』って人形に言ってあげるんだ」
マルコ「翌日、目覚めるとくるみ割り人形は美しい少年に変わってて…、クララちゃんに求婚するんだよ」
クリスタ「…ふぁ…ハッピーエンドだね……よかった…」ムニャムニャ
マルコ「それはどうかな。物語ではクララちゃんが返事をするところまで書かれてなかったから」
クリスタ「…そうなんだ…」ファ…
マルコ「だから僕は物語をちゃんと完結させようと思う」
クリスタ「…そう……がんばってね……」ボー
マルコ「昨日クリスタは僕を醜い人形なんかじゃないって言ってくれたから…」
マルコ「僕は君にプロポーズすることにした」
クリスタ「……うん………んん?」パチッ
ベッド脇で片膝をつけて跪き、ベッドの中のクリスタの右手を引っ張り出し両手で優しく包んだ。
クリスタ「…ま、マルコ…?ちょ、ちょっと待って…。ほら、私寝起きでボサボサだし」アセアセ
マルコ「そのままでいいよ。僕はクリスタがどんな姿でも愛しているから」
クリスタ「で、でも…そのまま寝ちゃったから裸だし、…な、なんだかカピカピしてるし」アセアセ
マルコ「ありのままの君が好き」
クリスタ「けど…っ。一生に一度のことだしっ、せめて下着ぐらいつけさせてっ」アセアセ
マルコ「いいよ。僕がはかせてあげる」テーイ バサッ
クリスタ「きゃぁぁぁ!!やめてよっ!信じられないっ、足離して!!」ジタバタ
マルコ「君の下着を脱がせるのもはかせるのも僕だけの特権だよ」ヨイショ
クリスタ「違うからっ」ジタバタ
マルコ「これから毎日、君にパンツをはかせたい」
クリスタ「そ、それがプロポーズの言葉だったら、マルコとは一生口聞かないからっ」
マルコ「だよね」
クリスタ「だよ」
マルコ「じゃあ、今度は本番」
クリスタ「う、うん…」
マルコ「僕と結婚して下さい」
クリスタ「…っ」ドキッ
マルコ「生涯をかけて君を守ると誓うよ」
クリスタ「…ふ、普通だね。マルコのことだから斜め上あたりからくるかと思ってた」
マルコ「はは、物足りない?」
クリスタ「そんなことはないけど…」
マルコ「本当に伝えたい思いは飾る必要はないと思うんだ。言葉が邪魔をしてうまく伝わらないかもしれないから」
マルコ「僕は君と結婚したい。ずっと一緒にいたいんだ。これが率直な僕の気持ち。君にまっすぐ届くといいな」
クリスタ「…うん。届いたよ…」
マルコ「じゃあ…」
クリスタ「…私もマルコとずっと一緒にいたい。だから…マルコのお嫁さんにして下さい」ニコ
マルコ「っっ~~~~!!」プルプル
クリスタ「ちょ、ちょっと大丈夫?急にベッドにうずくまって…」
マルコ「やったぁぁぁぁぁ!!!」ガバッ ギュッ
クリスタ「きゃっ!」
マルコ「ありがとう、本当にありがとう!一生大切にするから!必ず幸せにするから!」ギュゥゥ
クリスタ「ま、マルコ、苦しいよ。強く抱きしめすぎ…」
マルコ「あっ、ごめんっ。嬉しすぎて、つい」パッ
クリスタ「ふふ、初めて見たよ。こんなにはしゃいでるマルコ」クスクス
マルコ「うん。僕も初めてだよ、こんな気分は。幸せすぎて、大声で叫びながら街中駆け回りたい気分だよ」
クリスタ「もうっ、大袈裟だよ」
マルコ「あっ、まずい、遅刻しちゃう」ギシッ
クリスタ「本当だ。もうこんな時間」
マルコ「じゃあ行ってくるね。クリスタはゆっくり寝てて」チュッ
クリスタ「無理だよ。完全に目が覚めちゃった」
マルコ「はは、ごめんごめん」スタスタ ガチャ
クリスタ「いってらっしゃい」
マルコ「うん。クリスタも気をつけて帰ってね」バタン
※ ※ 夜 女子宿舎 ※ ※
――ユミルとクリスタの部屋
ユミル「なぁ、クリスタ」
クリスタ「なに?」
ユミル「マルコのやつ、今日は一日中ニヤニヤしてて、すっげー気持悪かったんだけど…」
ヒッチ「そうそう。私も休憩所で見たし。一人で声を上げて笑っててさ。……クスリでもやってんじゃねぇの?」
クリスタ「く、クスリなんてやってないから」
ユミル「じゃあ、昨日のデートで何かあったのか?」
クリスタ「えっと…」(プロポーズされたこと話してもいいのかな…?)
ヒッチ「ねぇ、クリスタ…」スタスタ
クリスタ「ん?」
ヒッチ「あんたの机の上にある、このブサイクな人形…、これなに?」カタッ
クリスタ「ああ、それね。くるみ割り人形。マルコからのクリスマスプレゼント」
ヒッチ「ぷっ、くくくっ、センスないね、あいつ。こんな人形フツー彼女にプレゼントしねぇだろ」クスクス
クリスタ「いいの。じっと見てたら段々と可愛く見えてくるんだから」
ユミル「くるみ割り人形ねぇ…。知ってるか?なんでくるみ割り人形は怒り顔の兵隊の姿をしてるのか」
クリスタ「そういえば、くるみ割り人形ってみんな兵隊さんだね…」
ヒッチ「何か理由があんの?」
ユミル「昔っから兵隊ってのは庶民の嫌われ者なんだ。横暴で口やかましくて威張ってて。けど不満があっても逆らえない」
ユミル「そこで、くるみ割り人形を兵隊の姿で作って、その口をくるみで塞いじまおうっていう庶民のささやかな抵抗なのさ」
クリスタ「へぇー、知らなかった。ユミルって物知りだね」
ユミル「どう?惚れ直した?」ナデナデ
クリスタ「うん。ユミルはやっぱりすごいよ」ウフフ
ヒッチ「じゃ、この人形も口が開くの?」カタカタ
ユミル「多分。背中に取っ手があるだろ?」
ヒッチ「あっ、ホントにあった」クルッ
ユミル「それを上に引っ張ってみな。口が開くはずだよ」
ヒッチ「…ぐっ…結構固いし……えいっ!」カパッ
ユミル「それより、クリスタ。昨日はマルコと何かあったのか?」
マルコ「と、特に変わったことはないよ」(マルコが黙ってるってことは私も黙っといたほうがいいんだよね、きっと)
ヒッチ「!?」
ユミル「本当に?」
クリスタ「う、うん。いつもどおり」
ヒッチ「……」コソッ ゴソゴソ
ユミル「じゃあ、マルコはなんであんなに気持悪いんだよ」
クリスタ「気持悪くなんてないよっ。怒るよ、ユミル」
ヒッチ「…じゃ、自分の部屋に戻るわ」スタスタ
ユミル「おい、ヒッチ」ガシッ
ヒッチ「…なによ」ビクッ
ユミル「ポケットに隠したもの出してから戻れよ」
クリスタ「え?」
ヒッチ「チッ…、バレたか。けど、最初に見つけたのは私だしぃ。…私のモノでよくない?」
ユミル「いいわけあるか、ボケ。ほら、おとなしく出しな」
ヒッチ「あーあ、換金して豪遊してやろうと思ったのに。ほらよ」ゴソゴソ ポイッ
ユミル「投げるな」キャッチ
クリスタ「なにそれ?よく見えなかったよ」
ユミル「いいから。クリスタ、左手を出しなよ」
クリスタ「左手?」
ユミル「そうだ」
クリスタ「はい、どうぞ」スッ
ユミル「…ちょっとじっとしてろよ」スゥッ
ヒッチ「…やっぱりクリスタ用かよ。薬指にぴったりはまったし。あーつまんない」
クリスタ「!?…これって」
ユミル「クリスタ、一生大切にするからさ。私と結婚しようぜ」ニヤリ
ヒッチ「…他人の買ったエンゲージリングでプロポーズすんなよ」
クリスタ「ユ、ユミル…どうしよう…。すっごく大きなダイヤなんだけど…」アセアセ
ユミル「だね。1カラット近くありそうだ」
ヒッチ「給料一年分ってとこ?バカだね、あいつ。こんなでっかいダイヤついてたら普段使いできないっつーの」
クリスタ「困るよ…。こんな高価なもの貰っても…」
ヒッチ「じゃ、私が貰ってあげる」
クリスタ「それは絶対イヤ」
ユミル「素直にもらってやれば。あいつ考え方が古臭いからさ、生活保障かなんかのつもりなんじゃない?」
クリスタ「生活保障…?」
ユミル「万が一、あいつが死んでもその指輪を売れば、しばらくは生活に困らないだろ?」
ヒッチ「うわっ、超現実的。婚約指輪には夢とロマンが詰まってんじゃねぇのかよ」
ユミル「他人の夢とロマンを売り飛ばそうとしたのは誰だい?」
クリスタ「ふふっ、心配性のマルコらしいな」クスクス
ユミル「つーか、プロポーズされたんだ」
クリスタ「…う、うん」カァァ
ヒッチ「へぇー。で、なんて返事したの?まぁ、こんな指輪もらってんだからOKしたんだろうけどー」
クリスタ「…うん。OKしたよ。…けど、プロポーズされる前にくるみ割り人形はもらってた」
ヒッチ「チャレンジャーだね、あいつ。私だったらこんなボロい人形、貰った瞬間に投げ捨てるっつーの」
クリスタ「…だからヒッチには王子様が現れないんだよ」
ヒッチ「はぁ?どういう意味?」
クリスタ「秘密だよ」ウフフ
~おわり~
>>1です
これにてクリスマスプロポーズ編終了です
レス下さった方、読んでくれた皆様、感謝です
マルコが頂上を目指す話は、年が明けたら書きはじめる…つもり
では皆様、良いお年を
このSSまとめへのコメント
よかったー!!すげーよかったよー!!
細かいキャラにまでこんなに気を配った作品見たことないよ。進撃大好きなんだろうな。また書いてほしいなー。
次回作が楽しみでしょうがない
マルクリもっと増えろ!!