マルコ「美しき君」(136)


*捏造・妄想・地の文多め、その他色々あり、sage&ゆっくり更新、転載禁止。
 マル→アニ?マルアニ?。あわない方はそっ閉じ推奨。


憲兵団に入り、王にこの身を捧げるため――

あの時、通過儀礼でそう述べた心に、嘘はなかった。

王の近くで仕事をする、これほどに光栄なことはない。

ずっとそう思って生きてきた。

彼女に、出会うまでは。


…きっかけは、なんだったかな。

2年目も終わった頃、僕は上位組に食い込んでいた。
正直、ここまで頑張れたのはひとえにジャンのおかげだと思う。

正直者の彼は、確かに人と軋轢を生みやすい。
けれど…だからこそ、何も隠さずに物を言い合える仲になれたのも事実。

上位10人しか憲兵団に入れることの出来ない、この殺伐とした雰囲気の中で
彼はただ純粋に上を目指そうとしていた。

…口は悪いけどね。


醜い足の引っ張り合いが日々行われる中、
その中でも着々と成果を上げていく僕らと同じく
…いや、彼女は僕らよりもさらに高みにいた。

素直に、すごいと思った。

稀代の逸材と言われるミカサの陰に隠れてしまっているけれど
今期の上位は、本当に逸材が揃っていると思う。

彼女は…アニ・レオンハートは、小さな体ながらも
僕よりもさらに高みに存在した。


あれは立体機動訓練の時だったかな。

3年目に入り、団体行動で討伐する訓練の際に
一人だった彼女に声をかけたんだ。

当時から斬撃に定評のあった彼女とは一度組んでみたかったのもあるし
こちらも人数が足らなかったしね。


ただただ、目を丸くするばかりだったよ。

斬撃だけじゃない、アンカーを刺す正確さも、その素早さも
流れるような立体機動術に、僕は目を奪われたんだ。

隣にいたジャンも、目を見張っていたかな。けど彼は、
対抗心を燃やして後に続いていったっけ。

僕はただ、二人の後をついていくだけで精一杯だった。


訓練後に、声をかけた。本当にすごいね、どうやってるの?って。
彼女から返ってきたのは「どうも」の一言だけだった。

たった一言。
それ以外は何も語らず、背を向けて兵舎に帰っていく。

愛想のないやつだと隣でジャンはごちる。

でも…そのくらいしないと、あの高さまでは登れないのかもしれない。
特に、女子はその辺の争いが醜いと言われている。
そんな中でも、ミカサとアニは、他の女子よりも群を抜いて強かった。


二人に共通しているのは、とても冷静だということ。
共通していないのは、ミカサにはエレンやアルミンといった幼馴染がいて
彼らの周りには常に人がいたのに対し、彼女は独りだったということ。

もちろん、彼女に声をかける人はいた。代表的なのはミーナだろう。
でも…彼女は、常に独りだった。僕の見る限りでは。

どうして、独りでそんなに強くあれるのか。

それが気になって、僕は声をかけたんだ。


マルコ「隣、いい?」

アニ「…どうぞ」

技巧術の時間、立体機動装置を解体、点検、
そして組み立てる作業をする彼女の隣に座る。
自分も装置を解体しながら、隣の作業を横目で確認する。

小さく細い指で組み立てていくその手順は、間違ってはいないけれど…

マルコ「待って、そこ」

アニ「え…」

マルコ「こっちの部品を先に組み立てた方が、早いんだ」


部品を手に取り、組み立てて彼女に渡す。

マルコ「ね?」

アニ「……」

教本通りにやるのもいいが、
こうした応用を見つけるのはジャンの得意分野だ。
彼は立体機動については、努力を惜しまない人だから。

アニ「…どうも」

そういって部品をはめ込む姿は、この前の訓練後を思い出す。


マルコ「アニも、憲兵団を目指してるんだよね?」

なんとなく会話を続けたくなって、聞いてみた。
上位10位内が確実と言われはじめた同期は、少なくとも4名。
その中に、彼女はいる。僕は…まだ、上位陣というだけにすぎない。

返事はない。黙々と作業を続ける彼女だったが、
嫌な顔はしていない…と、思う。

マルコ「僕はずっと、王の近くで仕事をするのが夢なんだけど…
 ねえ、君はどうして憲兵団になりたいの?」

ピタリと彼女の手が止まる。聞いてはいてくれていたようだ。


アニ「…あんたは」

マルコ「うん」

アニ「あんたは、どうして王の近くで仕事がしたいの」

深くて、碧い瞳が僕を見つめる。

アニ「王の近くで、何がしたいの」

全てを見透かすような瞳で、僕を見つめる。

…答えが、出てこない。

彼女は目を細め、装置に視線を戻すと、また作業に戻った。


始まったよマルアニ。
構想数日、決めたのはケツとタイトルと書き出しだけだ。
ここからどうなるかは俺も知らん…まぁゆっくり書く。毎日更新はしない。
…4巻の表紙、マルコとアニがいい感じに並んでいるのを発見。さぁ、妄想の始まりだ。

うわー嬉しい!
書いてくれてありがとう!
楽しみ

>>16 お題をくれたのは君かね?楽しんでもらえたら幸いだ。
では、妄想を少しだけ広げよう。


何ボサっとしてるんだとジャンに突っ込まれる。

あれから、彼女の言葉が頭から離れない。

物心ついた頃から王は偉大な存在で、
仕えることは光栄なことだと周りから教えられてきた。
だから憲兵になるために訓練兵になりたいと申し出たら、
親は両手を広げて喜んでくれた。

期待にこたえられるよう、一心不乱に訓練をしてきた。
たとえ王は僕の体を欲しくなくても
仕えることは僕の使命なのだと、思っていた。


マルコ「ごめん、考え事してたよ」

ジャン「次は立体機動なんだぞ。気ぃ抜くなよ」

嬉々として装置を点検する様は、
まるでおもちゃを買い与えられた子供のようだ。

彼にとって立体機動は遊びの一環と言えるかもしれない。
大空を翔る喜びは、本来鳥だけに許された感情だろうが
立体機動装置を使えば、人類もわずかながら感じることができる。

巨人という天敵が現れなければ、生み出されることのなかった兵器。
巨人がいなければ、生まれることのなかった感情。

そして、それをうまく扱えるようになることが
王へと近づく一番の近道だった。


一つ、また一つと成績が上がるにつれ、自らの夢にまた近づく。

『何がしたいの』

成績が発表されるたび、僕はその言葉が頭に浮かんだ。


あれ以来、立体機動訓練で彼女と僕らは度々組んだ。

成績上位と行動を共にした方が、変な争いに巻き込まれなくて済むし
何よりジャンが、彼女の装置の扱い方を研究したがってたからね。

本当に、君たちは立体機動の申し子だよ。


3年目に入ってからは、実践を想定した訓練が行われはじめた。
声をかけあって、模型を討伐していくというもの。

いつもの模型とは違い、うなじ以外にも脊椎や腱といった、
そこを攻撃することで足止めができる場所にもマットが重ねられる。

確実に息の根を止められるよう、立体機動の扱いのうまいジャンと
斬撃の深い彼女がうなじを担当し、僕は発見次第声をかけ、脊椎を浅く狙う。

息の合った連携は、二人の腕が良いからできること。
僕は二人を援護することが主になっていったが
それでも評価は上がっていった。


実践を考えると、援護ができるのも大切ということらしい。
元調査兵団団長のキース教官は、ありがたいことにその辺りも含めて
採点をしてくださっているようだった。

彼らが確実に削いでくれることを信じていたから
僕も声を出して、足止めを担当する。

大切なのは生き残ること。その為に訓練を死ぬ気でやること。

キース教官は、常々そう教えてくださった。


…本日ココまで。なんとなく俺の中では話が見えてきた。


いつものように立体機動の訓練を終えた後、
疲れた体を休めようと、我先にと兵舎に戻る馬車に乗り込む皆だったが
次の便にしようと思ったのか、彼女は木を背にもたれかかっていた。

急いだところで早めに夕食が食べられるというだけということもあり
僕も次にしようと、彼女に声をかけた。

マルコ「相変わらず、すごい斬撃だね」

アニ「…どうも」

マルコ「迷いもなく削いでくれるから、こっちもやりやすいよ。
    ほんと、君は前衛に向いてる」

アニ「それを言うのなら、あんたは指揮官なんだろう」

マルコ「指揮官?」

アニ「私が言っているわけじゃない。他が言ってたのを聞いただけさ」

マルコ「そっか…でもありがたいね。君も少しはそう思ってくれたんだろ?」


アニ「どっちでもいい。誰がどう向いているかなんて」

マルコ「そうかな?考えておかないと、いざ実践で
    腕もないのにうなじを狙って、皆に迷惑をかけることにもなりかねない」

アニ「…あんた、憲兵団志望だったよね」

マルコ「うん、そうだけど…」

何がしたくて、憲兵団に入りたいのか…
それはまだ、見えてこない。


アニ「憲兵団が、巨人と戦う場面でもあるってのかい」

マルコ「……」

アニ「あんたのその考えは、調査兵団にこそ相応しい。
   もっとも、その程度の腕じゃすぐに死ぬだろうけど」

マルコ「…厳しいね」

アニ「事実を言ったまでさ。死にたくなけりゃ上位を目指すんだね」

マルコ「憲兵団志望でも、考えるのはダメなことなのかな…」


そう漏らした後、一体何を言っているんだと後悔した。
彼女に聞いたところで、答えをくれるはずなんてないのに。

アニ「人に聞いてないで、自分で考えたらどうなんだい」

…ほらね。彼女は、人に意見を求められるのをひどく嫌う。

でも、何故だろう。
彼女なら、僕の答えを知っている気がして…。

アニ「…悪いとは言わない。でも、不必要なだけさ」

マルコ「不必要?」


アニ「巨人に対抗する力を高めたところで、内地では何の役にも立たない。
   それはあんたも知っているだろう」

マルコ「うん…」

アニ「内地にあるのは、理想という幻影だけさ。そんなもの、意味がない」

マルコ「…アニ、君は」


マルコ「君は、何の為に、憲兵団に…」

アニ「…自分が助かりたいだけさ。教官も言っていただろう。
   大切なのは、生き残ることだってね」

マルコ「……」

アニ「さて、馬車が来た。私は先に帰らせてもらうよ」


小さな体だというのに、その身には僕なんかが及ばないくらい
とても大きなものを抱えている、そんな気がした。

一体、彼女は何を考えているのだろう。何を抱えれば
あのような強い瞳をすることができるのだろう。

僕は、何がしたいのだろう。何を抱えればいいのだろう。

彼女の背中を見つめながら、自問自答を繰り返していた。


ついに自分の名前が上位10位内に届いた時、
僕は焦りを感じていた。
答えの見つからないまま、時だけが過ぎていく。

焦りと共に、ある一件から苛立ちも感じていた。

数ヶ月後に卒業を控え、別れが近づくと
そういった感情に陥るのも、分からなくもない。けれど…

特に話したこともない人から告白されるのは、
苛立ちと呆れでため息すら出る。


もちろん、そんなことは表には出さない。
今は大切な時期で、そんなことは考えられないと
丁寧に断りをいれてその場から立ち去るのだが…。

彼女達の目的は、憲兵という立場にいる男の恋人だ。
内地で暮らす権限を持つ憲兵団は、言うまでもなく眺望の的。

その憲兵の恋人とあれば、いつかは内地で暮らすことも夢見よう。

生き抜く為ならなんだってする、それが悪いこととは言わない。

けれど…

彼女はそんなことしない。

する必要がないと言えばそこまでだが、
僕も含め、訓練兵は皆同じ条件で生活をはじめたはずだ。


体が小さいことを苦にせず、人に頼ろうともせず…
それでもなお、彼女は高みにいる。

助かりたいというのが本心なのか
他に目的があるのかは分からない。

でも彼女は常に高く、なお上を向いている。

…いつの間にか、僕は彼女から目を離せないでいた。

…本日ココまで。ゆっくり更新だ。
ケツは決まってても、どう向かわせようか悩むんだが頑張って書く。


ある時は高台の上で、ある時は兵舎裏の木陰で
本を読んでいたり、昼寝をしていたり
ただどこかを眺めていたり…

声をかけることはしなかった。
人に何かを聞かれることを嫌うのなら
「何をしてるの?」だなんて聞けるわけがない。

それに、彼女は一人を好んでいるようだったから、
その時間を奪うわけにもいかない。


ジャン「で、断ったのか?」

マルコ「うん。気持ちはうれしいけど、今はそんなことしてる場合じゃないから」

自分がその辺の情報に疎いとはいえ、
君はどこからそんな情報を得てくるのか。

ジャン「だよな。つうかアイツ、こないだは別の奴に告ってたんだよ」

そんな奴にお前がOK出すとは思えなかったけど、と彼は笑う。


別の人…なんとなく想像がつく。
僕らより確実に憲兵団に近く、好意の対象が不明な人物。

つまり、彼も断ったということか。

ジャン「…普段から何考えてるかわかんねぇ奴だけどよ」

マルコ「はは…でもまぁ、彼に相応しい人なんてそうそういないんじゃないかな」

ジャン「ま、オレは相応しい男になってみせるがな」

入団から一途に一人の女性を想い続けている彼だが
哀しいことに、対象は稀代の逸材。さらに彼女は幼馴染に好意を寄せているときたものだ。
それでもなお諦めない彼に、僕は敬意を表する。


マルコ「そういえば…君は、憲兵団に入ったら何かしたいことあるの?」

ジャン「はぁ?」

マルコ「視野に入ってきたことだし、何かあるのかなって」

ジャン「ねぇに決まってるだろ。安全な内地で暮らす!これだけだ」

マルコ「そっか…」

ジャン「そういうお前はどうなんだ。相変わらず王の近くで、か?」


マルコ「まぁね…ただ、最近よく分からなくなってきてさ」

ジャン「珍しいな、お前が悩むなんてよ」

マルコ「そうかな?」

ジャン「やりたいことなんて、今考える必要ないんじゃないか。
    内地のことなんてわかんねぇし、入ってからでもいいだろ」

マルコ「…そう、かもね」

そんなことより今は追いつくことだと息巻く彼は
素直に純粋で、微笑ましい。
君が友人で本当に良かったと思う。


ちらりと横目で窓の外を眺める。

…今日は天気がいいから高台の方にいるのかな。

そんなことを考えながら、僕はコロコロと表情を変える
友人の話に耳を傾けていた。

修羅場は作るつもりはないけど、彼のことは忘れない。
ついでにジャンはいい奴。…気まぐれにちょこちょこ更新するんだ。


マルコ「立体機動術の衰退を防ぐ為に上位だけが内地に
    行けるようになっている仕組みは…昨今の事情や
    エレンを見ているとそこまで必要じゃない気もしてくるんだ。
    …君は、どう思う?」

アニ「エレンが特殊ってだけだろうさ。普通は調査兵団に行こうだなんて思わない」

立体機動訓練後、馬車が来るまで彼女と話すのが最近の僕の楽しみだ。

憲兵団を狙うには、僕の実力だと無理じゃないかと苦しんだ1年目。
試行錯誤をしながら、なんとか上位陣に食い込めたのは2年目の終わり。
だから…楽しいだなんて思えたことはほとんどなかった。

この楽しさがどういったものかは、さすがの自分も分かっている。
友人のように、もっと自分の気持ちに素直に生きれば楽かもしれない。
でも、僕には僕の配分があるわけで。


アニ「目的がズレてしまうのも不思議ではないよ。待遇が良すぎるんだ。
   私を含め、あんたの友人だってそうだろ」

マルコ「内地に権限がありすぎるんだよね…」

一方的な質問は嫌がるけれど、自分の意見を述べた上で
どう思うかを問うと、きちんとした返事がくるようになった。

彼女の意見はどこか視点が違う。そう気づいたのは最近の話だ。


井の中の蛙とはよく言ったものだ。
交流は多い方だと思っていたけれど、自分に都合のいい仲間と
話していただけだと、今更になって気づく。

人によっては、彼女の見方は全てを見下していると言うだろう。
でもそういった意見があることを認め、その中から
自分の考えを作り上げていくことが
最近の、僕の楽しみなんだ。


マルコ「もし調査兵団の方が待遇が良くなったらどうだろう。
    土地を奪還すれば領土が増えて、税金も増えると思うんだけど」

アニ「投資するからには結果を求める。立体機動術が編み出されてから
   人類は一度たりとも勝利したことがないんだ」

マルコ「でも最近は期待も大きいよね」

アニ「…民衆が調査兵団よりになれば、貴族は黙ってないだろうがね」

マルコ「それでより憲兵団の待遇を良くしてしまっては
    その…そういう声も、上がったりしてしまう」

アニ「だろうね。でもそれが100年続いていて下手に変えようがない」

マルコ「うーん…」


マルコ「組織に問題がある、ってことなんだよね…。
    君は、以前からこの問題に気づいて…?」

アニ「…さぁね。馬車が来たから私は行くよ」

マルコ「あっ…ま、また明日!」

アニ「明日、立体機動訓練ないんだけど」

マルコ「う、来週か…」

アニ「…立体機動、だいぶうまくなったよ。斬撃は全然だけどね」

マルコ「あ、ありがと」


心が温かい。少しでも認められたことが、こんなにうれしいだなんて。

人の集まりから少し外れた場所で二人で話していても
皆からは"指揮官"と呼ばれる僕なので、
立体機動の打ち合わせという名目があるから誰も疑わない。

少しでも疑われたら、この温かい関係は終わってしまうだろう。
彼女は、そういったことが嫌いだろうから。


…翌日も天気は良かった。

休日は各々好きなことをして過ごしているが
僕は本を読むことが多かった。

今日も彼女は高台にいるんだろうと考えながら
借りた本をどこで読もうかとお気に入りの場所を巡っていると
先客がいたので声をかける。


マルコ「今日は何を読んでるの?」

彼もまた読書を好んだ。普段あまり多くを語らない彼であったが
本好き仲間として、僕らは時々こうして話をする。

ベルトルト「酵母とパンとアルコールについて。なかなかおもしろいよ」

マルコ「…また、難しいもの読んでるね」

ベルトルト「アルミンに勧められたんだ」


もう一人の本好き仲間、アルミンは同期の中でも一目置かれる存在だ。
座学の時間での彼は非凡な発想を展開し、教官の説をも覆したことすらある。

僕らは互いに読んだ本を薦めあい、感想を述べ合った。

マルコ「二人がおもしろいって言うなら、今度借りてみようかな」

ベルトルト「じゃぁ終わったら回すよ。
      貸し出し履歴、この1年でアルミンの後は僕しかないんだ」

マルコ「ありがと。ところで、聞いてもいいかな」

ベルトルト「なに?」


マルコ「君は憲兵団志望だったけど、何か他に目的でも…?」

ベルトルト「…何も。自分の命が大事なだけだよ」

マルコ「そっか…。ごめん、変なこと聞いたかな」

ベルトルト「いや…」


『自分が助かりたいだけ』

そう言った彼女を思い出す。そういえば彼も彼女もマリア出身者で、
悪夢を見てきた人たちだ。そう思っても不思議はない。

憲兵団に入って、何かを成し遂げたいと思う自分は甘いのだろうか。
いや…彼もまた、彼女と同じく何かを考えていたりするのだろうか。

変に思われるかもしれないけど聞いてみよう…
そう思って彼に再度声をかけようとした時だった。

…どこを、見つめているの?

彼の視線の先、そこにあるのは…


マルコ「ベルトルト…」

ベルトルト「ん…ごめん、どうかした?」

マルコ「いや…何かあったのかなって」

何もないよと答える彼は、少し微笑んでいた。

彼の視線の先には、天気の良い日には風が気持ちよく
見晴らしのいい高台しかなかったのに。


マルコ「…そろそろ行くね。やっぱりこれ読むの時間かかりそうだから、
    終わったらその本、返しておいてもらってもいいかな」

ベルトルト「そう?借りる人いないと思うけど」

マルコ「あまり積み重ねたくないんだ」

作り笑顔でその場を後にする。


心がざわりとする。

多分…彼が見ていたものは、僕と同じだったから。

本当にそうだとしたら…

僕は、どうしたら良いのだろう。

…本日ココまで。今回黒くならないからな?
ものすごくケツバレしたい衝動に駆られるが耐える。
つまり全体の妄想が完了したわけだが…はよ書こう、頑張れ俺。


考えたくない時にこそ、追いかけるように何かが起こるものだ。

あれから寮に戻ってベッドの上で本を開けるも、頭に全く入ってこず
いつの間にか眠ってしまったようだ。
夕方にジャンに起こされて食堂についたところで
いつもとは違う内部の雰囲気に、眉をひそめる。

渦中にいる人物が彼女でなかったら、今日は見向きしなかっただろうに。

彼女と言い争っているのは…先日呼び出された女性、デリアだ。


デリア「そんな態度だからいつも一人なのよ」

アニ「気を遣ってもらって悪いけど、一人のが気が楽なんだ」

デリア「せっかく気を遣ってるんだから、残り少ない訓練兵生活くらいいいでしょう?」

アニ「媚び売る相手がいなくなって、とうとう女にまで手を出すってのかい」

デリア「こ、このアマッ…!」


パンッ!!

高く乾いた音が辺りに響く。

顔を伏した彼女が下からデリアを見上げる。

アニ「…満足した?」

デリア「くっ…」

ユミル「おっと、そこまでにしときな」

デリア「ちょ、あなた関係ないでしょ!」

ユミル「やるなら他所でやりな。ここは目立つんだよ。
    女の醜い喧嘩を見せつける程、お前も馬鹿じゃないだろ」


周りの視線を浴びていたことに気づいたデリアは
舌打ちをしてユミルの手を振りほどき、仲間が確保していただろう
席に座って食事をとりはじめる。

…あいつが悪いんだ、せっかく誘ってやったのに。

周りに聞こえるように、仲間と話をする。

クリスタ「大丈夫?痛くない?」

アニ「…別に。食欲が失せた。サシャ、あんたにやる」

サシャ「え?でも、」


振り返って出口…こちらに向かう彼女の左頬は、赤みがさしていた。

アニ「どいて」

俯き加減で僕の横を通り過ぎ、扉を開ける。

マルコ「アニ」

声をかけるが、何も聞こえていないかのように振舞う彼女の手を取る。

アニ「…どいて」

小さなその声は、少し震えていた。
それ以上何も言えなくて、手を離すと彼女は扉をくぐって外に出る。
パタンと閉まる扉が、それ以上追うなと言うかのよう。


ユミル「ったく…あいつももう少し可愛げがありゃいいんだが」

クリスタ「…アニは、優しいよ。後で冷やしたタオル持っていこう?」

ユミル「はいはい、流石はクリスタ様だ。お優しいことで」

クリスタ「もう…って、サシャ、本当に食べないの!」

サシャ「ふへっ!?」


ジャン「…ま、あいつらに任せときゃ大丈夫だろうよ。飯食おうぜ」

そういって、いつもの指定席とでもいうか
想い人に少しでも近い席を狙おうとする。

深いため息を一つついてジャンの後に続くと、
エレンとライナー…その隣にいる彼が視界に入った。

右手のスプーンでスープを口に運ぶ仕草はいたって普通だし
周りの話に耳を傾けているのも、いつもの光景。

ただ、テーブルの下に隠された左手は握り締める力が強すぎて
小刻みに震えているのが見て取れる。


…ねぇ、どうして怒っているの。
どうして彼女を庇わなかったの。引きとめなかったの。

庇うと余計に、自分を追い込もうとするから?
引きとめると余計に、悲しませると知っていたから?


思い返せば、そう取れる行動を見てきた気がする。

特に立体機動訓練の時だ。

いつだったか、エレンにライナーが奪われて困っていた彼を
僕が誘ったんだ。そして4人で連携しながら討伐していた時、
僕は彼のすばらしい機動術を見た。

いつもは僕が援護していたが、僕は指示に徹して彼に援護を任せた。
その時、彼は…まるで初めて組んだとは思えないような
正確で息のあった連携を見せた。


何でもそつなくこなすというのは噂通りだと舌を巻いた。
でも違う…2人が組んだのは、あれが初めてではなかったんだ。

僕らが彼女に声をかけたのは3年目に入ってから。
でもあの2人は…常に上位にいた。
だから、それまでに組んでいても何もおかしくはない。

何をどうすれば彼女が動きやすいか、彼は知っていて
それを実行できる腕が彼にはある。

僕は…指示を出すことはできても、それができない。


きっと彼は、僕よりもずっと前から彼女を見てる。
指示なんか出さなくても、彼女を援護できる。

相応しい男になってみせる、だなんて
彼女にはより相応しい男が近くにいるのに、僕は何をしようとしてたのだろう。

つい、隣で陽気に話すジャンまで滑稽に見えてしまったが
僕は必死に作り笑顔で受け答えをしていた。

…本日ココまで。ドロドロした話大好きです。
これまで男女シリーズで書いてたけど、先にある程度キャラ設定あるのもおもしろいね。
デリアはドイツの女性名一覧から適当に。
そして、パンッ!がサシャのせいでビンタに見えない…もういい、飯風呂る。


翌日は少し雲が出て、風はいつもより強かった。

何故ここにたどり着いたのかは分からない。
何も考えたくなくて、誰にも会いたくなくて
気がついたらこの場所に来ていたのに。

マルコ「…隣、いい?」

アニ「…どうぞ」


マルコ「気持ちいいね」

アニ「……」

今僕がいる場所は、訓練所で一番高い。
高いと言っても、はるか先にある壁よりはどう見ても低いのだけれども。
こうして上から眺めてみると、訓練所はものすごく小さなものに思えてくる。


アニ「今日は質問しないんだね」

マルコ「そういう気分じゃないかな…」

アニ「…そう」

通り抜ける風に少し寒さも感じるが、頭が少しすっきりする。
水に流すとはいうけれど、風でもそれができるのだろうか。


マルコ「…やっぱり、聞いてもいい?」

アニ「……」

マルコ「あの時、どうして泣いてたの」

無理に答えなくてもいいけどと続けようとしたが

アニ「…優しいから」

彼女は小さな声でぽつりと漏らした。


アニ「皆、優しいから。私には、そうされる資格なんてないのに」

マルコ「…どういうこと?」

アニ「何度か聞かれたよね。何か目的があるんじゃないかって」

マルコ「うん…」


アニ「あるよ。とても大切な目的が。その為なら、
   どんな犠牲を払ったって構わないと思ってる」

マルコ「……」

アニ「皆の優しさが、その時の私の判断をきっと鈍らせる。
   だから関わりを持ってこなかった。けど……」

膝を抱え、頭を伏せて、彼女は絞るように声を漏らす。

アニ「あんたらは、どうして放っておいてくれないんだ」

マルコ「アニ…」

アニ「触らないで。…一人に、して」


触れようとしたのを見透かされ、やり場のない手を握り締める。

3年…いや、もっと以前からの彼女の強い覚悟。
それを受け入れる覚悟が、僕にはなくて…。

悔しくてそれ以上声をかけることもできず、留まることもできず
彼女に背を向け、重い足取りで地上への階段を下るしかなかった。

…日付が変わって、本日ココまで。次回、話が動く。

年末が近づいて平日に書く時間が取れなくなってきた。困った。
では投下。


アルミン「うーん、また装置に傷が増えちゃったや…」

マルコ「えっ、怪我は?」

アルミン「怪我はないんだけど…最後の着地で失敗したんだ。
     この調子じゃ、卒業模試戦闘試験で合格なんて…」

座学ではトップだが、体力面に不安のあるアルミンは
当然ながら立体機動術も得意とは言えない。

僕は立体機動術のコツを教えながら、
彼からは座学の知識を分けてもらいながら装置を整備するのは
お互いに良い関係だと思う。

マルコ「…君なら大丈夫さ。本番に強いからね」

アルミン「でも緊張するよ」


マルコ「僕も少し前までは失敗したもんだよ。
    ほら、この傷とか…この時は危なかったなぁ」

アルミン「このくらいの傷なら直せるんじゃ?」

マルコ「初心忘れるべからず、だよ。この装置の傷を見るたび
    点検を怠らないように心がけてるんだ」

アルミン「そっか…」


会話を続けながらもずっと動かしてきたその手が止まって
装置をじっと見つめはじめた彼に、声をかける。

マルコ「どうかしたの?」

アルミン「…マルコは、憲兵団なんだよね?」

マルコ「う…ん、そのつもり、だけど」

アルミン「僕…迷ってるんだ」


アルミン「調査兵団に入って、誰よりも先に外の世界を知りたい。
     でも、僕の実力だとすぐに死んでしまうだろう」

マルコ「……」

アルミン「教官の薦めるように、技巧に進むのも悪くないとは思う。でも…
     叶うことなら、技巧に行くなら憲兵団に行きたいんだ」

マルコ「憲兵団?」

アルミン「憲兵団志望者の前でこんなこと言うのは気が引けるんだけど…
     あんなめちゃくちゃな奪還作戦を強行した王政を許すことはできない」


部品をきつく握り締める彼の手が震える。

王政に対する批判は死罪とはいかないまでも
独房へ入れられるか、より厳しい開拓地へ流されるかのどちらかだ。

マルコ「…君の言っていることは間違いではないよ。実際、あれはひどい作戦だった」

訓練兵団に入団した当初は、必要な処置であったと思っていた。
罪悪感なんてこれっぽっちも感じてなかった。

実際に家族を失った彼らと出会い、僕の考えに間違いがあったと気づき
また…こうなる恐れがあるのなら、対応策を何も考えていなかった
仕組みにこそ問題があると知ったのは最近の話なのだから。


マルコ「もっと何か、他の方法があったはずなんだ。100年も、あったのだから…」

アルミン「うん…」

マルコ「…憲兵団に入れたら、どうするつもりだったの?」

アルミン「具体的対策は、まだ何も思いつかないんだ。
     ただ、中に入れたら少しずつでも変えていけるんじゃないかって」

マルコ「変える…?」

アルミン「調査兵団に行くだろう、エレンとミカサを援護できる体制作りや
     訓練兵団のあり方や…憲兵団の内部組織の改善、そこから王政への意見なんかも」


開いた口が塞がらない。

一体、君はなんて大きなことを考えているんだろう。
誰かに教わったわけでもなく、一人でそこまでの考えに至った。

きっと…彼らと僕では、経験と覚悟が違う。でも…


…ああ、そうか。


自然と漏れ出した笑みに、彼は不信に思ったのか眉をひそめた。


アルミン「マルコ…?」

マルコ「ごめんごめん。ほんと、君達ってすごいや」

アルミン「僕ら?」

くくっと今度は声に出した。隣にいる彼に失礼と思いつつ、笑いが堪えきれない。

マルコ「そうだよ。巨人の恐怖に打ち勝つ強い心もだけど
    その聡明さがあれば君達は世界を本当に変えてしまうかもしれない」

…そうだ、そうなんだ。


マルコ「ある人に言われたんだ。『あんたは何がしたいの』って」

アルミン「ある人…」

マルコ「うん。憲兵団に入って、王の近くで何がしたいのってね」


ずっと見つからなかった答え。見えかかっていた答え。

うっすらと曇った空から、眩いばかりの碧い空が広がっていく。

碧い、碧い空が…全てを見下ろす、あの碧い空が。


マルコ「その人は大切な目的があると言った。その為なら犠牲を払っても構わないって」

アルミン「……」

マルコ「僕はただ憧れていただけで、自分のすべきことが分からなかった。
    言われてからずっと迷ってたんだ、大した覚悟もないのに憲兵団に…
    王の近くに仕えてもいいのかって」

アルミン「マルコ…」

マルコ「君のその考えこそ、僕のやりたいこと…やるべきことなんだよ!」

彼の肩を両手で押さえる。困惑するのは当たり前だろうけど
僕はこの気持ちを抑えられない。


アルミン「え、え…?」

マルコ「ありがとうアルミン。おかげで、答えが見つかったんだ」

アルミン「そ、そう?」

マルコ「ねぇアルミン、君はどうすればいいと思う?
    どうすれば世界をより良いものに変えていけるだろう?
    傷ついた人々に払える対価は?
    ちっぽけな僕らにできることは、なんだろう?」

心が躍る。初めて装置を身につけ、空を飛ぶことを知った時のように。

マルコ「何ができるんだろう、何をすればいいのだろう?
    ねぇアルミン、聞かせておくれよ。君のやりたいことを!」


僕らは語り合った。読み終わった本の感想を語るより熱く。

まさか自分が秘めてた思いが認められるとは思ってもみなかったのか
彼は僕に話してくれた。何がしたいか、何をすべきか。

彼にとっては、諦めていた想いを僕に託すという形に。
僕にとっては、僕のやりたいことを確立させるために。


アルミン「でもさ…」

マルコ「ん?」

アルミン「マルコのことを『あんた』って呼ぶ人、限られてると思うけど」

マルコ「………………」

…本当、君は油断ならない男だよ。

苦笑する僕に、彼は笑顔で語りかけていた。

『あんた』を使うのは、俺の調査だと原作でも1人しか使わんのやで。
…続きは書けたら夜にでも。

書く時間が、ねぇ!…地道に頑張る。


部屋に戻った僕を待っていたのは、例によって
今日も戦果をあげられなかった彼の愚痴だった。

マルコ「君ってば、諦めが悪いというか単なる馬鹿というか…」

ジャン「馬鹿とはなんだ、あいつらの専売特許を奪ってやるなよ」

不貞腐れて枕に顔を埋める様は、どう見ても子供のソレである。


マルコ「実は、本気で勝とうなんて思ってないんでしょ?」

前々から疑問にしていたことを口に出す。
勝てる見込みのない戦いに意地になるほど、馬鹿じゃない筈だ。

マルコ「…相応しい男に、なって欲しいんじゃない?」

誰がとは言わない。言葉にすると否定するだろうから。
ただ、なんとなく最近はそう思う。


ジャン「…何を勘違いしてるのかしらねぇが」

顔を上げ、座りなおして彼は続ける。

ジャン「オレはな…命を粗末にして欲しくねぇんだ。
    今のアイツに付き添ってると、いつか一緒に死んじまう」

マルコ「…だったら、素直に言えばいいじゃないか」


ジャン「言ってどうにかなると思うか?」

…思わない。それほどまでに彼女の想いは強い。
過去に何があったかは知らないが、彼への想いは
もしかしたら血の繋がりのある家族以上かもしれない。

ジャン「人を守れる程強くもねぇくせに、吼えるだけ吼える。嫌いなんだよ、そんな奴。
    そんでもって周りを巻き込む奴は、大嫌いだ。何もしない奴は、もっと嫌いだがな」


ジャン「オレは憲兵団に入る。誰からも認められる存在になって、
    その時アイツがあのままだったら、文句は言わせねえ」

それまでは仕方ねぇけど、とため息づきながらごちる彼は
本当に…自分に正直で、嘘がない。
自分のことしか考えていないと言われる彼だけれども、
彼女に関しては無償だ。


ただ一途に、人を想って行動しようとする姿は
周りに影響を与えていることを君は理解しているのかな。

自分が強くないことを知っているから、強そうに見える人の弱さも
君は見抜くことができる。だから、今は何をすべきかを
君は自然とやってのけることができる。


頭で考えずに、心で動く。君は、それができる人だ。
それはきっと、これからも周りの人の心を動かしていく。
君の大嫌いな人と同じように。


今、何をすべきか。


…たとえそれが届かなくても
僕にはそれが今だと思うから。

本日ココまで。次回最終回…時間が取れて書け次第投下。
この話は俺なりのマルアニ、妄想話である。


解散式を終えて、無事に上位10位内に入れた僕は
友人が起こした騒動の始末をしながらも彼女の姿を追っていた。

やがて送別会もお開きになろうとした頃、
席を立った彼女に声をかける。後で少し時間を貰えないか、と。

少しだけならと答えた彼女に感謝の気持ちを述べ、
寮に戻る前に高台に来てくれと約束をとりつけた。


上空には満天の星空、目下には兵舎の明かりが小さく見え
辺り一面が星屑の世界に包まれているかのよう。

心地よい風が頬をくすぐり、髪を撫で、今か今かと
逸る気持ちをさらに加速させる。


小さな足音が聞こえる。
一段、また一段と段を上るその音が途切れたところで
振り返って彼女の姿を確認する。

月明かりが反射して銀色に映る髪、透き通るかのような白い肌、
薄い唇…そして、その碧い瞳は…やはり全てを見透かすかのように僕を見つめる。


マルコ「よかった。来てくれて」

アニ「あんたが来いって言ったんだろ」

目を落とし、手を腰に当てて彼女はため息づく。

解散式後、人気のない場所への呼び出し…
誰もがその時点で何のためかを察知するだろう。

勘の鋭い彼女なら、きっとそんなことは言わなくても分かるはず。
大きな賭けだったが、来てくれるはずだと妙な自信はあった。
彼女は、優しい人だから。


マルコ「…ようやく、見つけたんだ。君の質問に対する答えがね」

アニ「答え…?」

僕は、彼女の最初の質問に答えることができなかった。
その後も質問は僕からするだけで…彼女からの問いかけは、それ以外なかった。

マルコ「憲兵団に入って、王の近くで仕事をする。
    世界を…この世界を、変えていきたいんだ」

アニ「世界を、変える…」

マルコ「うん…」

考えが全てまとまったわけではない。

でも、自分に夢を託してくれた仲間や
背中を押してくれた友人のために、僕は答えなきゃいけない。


「時間が止まっているとでもいうのかな。この世界は」

「流れているはずの時間を、無理矢理止め続けている」

「なぜそうしなきゃいけないのか、僕は知らない。けど…」

「時は常に動いている。それを認めなければ、いつか僕らは滅びてしまう」


「こうなることは予測できたはずなんだ」

「見て見ぬフリをしてきただけなんだ」

「何をどうすればいいのか、今は分からない。でも」

「変えていかなければいけない。僕は、そう思う」


「僕なんかに出来る事は、何もないかもしれない」

「何も変えられないかもしれない」

「それでも、僕は…やりたいと思う。やらなきゃいけないと思う」


「君に聞かれて、自分がいかに無知で愚かだったかを知れたんだ」

「君の、おかげで」

「君は…僕に、生きる意味を与えてくれた」

「そんなつもりはなかったのかもしれない」

「でも、君の言葉は僕の心を動かした」

「だから…」


「心臓は、王と民に捧げてしまっているから」

「僕の剣を受け取って欲しい」


「君が何の為に、どんな大儀があるのかわからないけど」

「僕の夢の続きの延長線に、手伝えることがあるのなら」

「君の為に剣を振るいたい」


星空の下、彼女の瞳を見つめる。
まるで時が止まっているかのよう。でも、止まるはずはない。

風が僕らの間を通り抜ける。

髪を一度かきあげると、彼女は少し微笑んだ。

アニ「…あんた、相当な馬鹿だったんだね」

マルコ「自分でも、そう思うよ。帯剣してあるといいんだけど」

アニ「普段使ってるのだったらいらないよ。あんな名前だけの折れる剣」

マルコ「はは…でも、これは僕の答えだから」


彼女の細い手を取る。

片足を地につけ、彼女の瞳を見つめ、

「君に捧げる。僕の心を」

手の甲に軽く口付ける。


アニ「…受け取れないよ」

マルコ「うん」

アニ「…私は、罪びとだ」

マルコ「かもしれない」

アニ「…でも」


「あんたが、これから先も生き続けてくれるのなら」

「あんたが、私の行く先で光を灯してくれるのなら」

「…私も、その気持ちに応えよう」


マルコ「…ありがと。今は、その言葉だけで十分だよ」

アニ「ごめんなさい…」

マルコ「まだまだ、時間はたくさんあるからね」

アニ「…そう」

マルコ「これからたくさんのことを始めなきゃ。忙しそうだなぁ」

アニ「……」

マルコ「憲兵団でも…よろしく、ね?」

アニ「…ああ」











.


「そう…あれは…」











.


貴方の美しい心は

醜く冷えた心に灯火をともし

貴方の正しい心は

幾重にも重ねた私の嘘を暴く。


あの時の気持ちに嘘はなかった。

貴方が生きてくれたならと、真に願った。

けれど貴方は逝ってしまった。私を置いて。

あの時の誓いは嘘だったというのか。

私の剣になるという誓いは。


いや…剣、だったのだろう。

主君が道を外れると分かれば

その身をもって制止させる。

…それが、貴方の残した意思だったのだろうか。














「拾ったの」

オワリ。

マルコと言えば憲兵団に入って王に云々。王と言えば君主とか主君とか。
アニはハワイ語?で、美しい。レオンハート=獅子心=王。よって「美しき君」

「憲兵団にはなりたいのにな、ずっと憧れてたから」…4巻より。
そう思うようになったきっかけをアニとし、心臓は王と民に捧げるが
心は君のもの。騎士として剣…は手元にないので、誓いの口付けを。
そして8巻「拾ったの」の直前の間に、何か意味があったのなら…。
…そんな妄想設定で書き出した。色々設定が甘いのは仕様。

お題を出してくれた>>16はまだいるかな。こんな結末だが満足してくれただろうか。



さて残るお題はクッソ甘いベルアニ。
妄想してみたら俺は悶えた。投稿する勇気が持てたら開始する。

ということで今作も転載禁止なのです。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年07月31日 (木) 16:51:33   ID: XOofxCp8

マルアニを反対にすると………

『アニマル(animal)』キラーン

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