見崎「今年もよろしくね、榊原君」(293)

代行

>>1どうもです

【4月25日】

病室

榊原「君は……誰?」

見崎「榊原君。もしかして私の事、覚えていない?」

榊原「ごめん、前にどこかで会ったことある?」

見崎「いいえ、覚えていないならそれでいいの」

見崎(去年の記憶は全てない……?)

見崎「夜見山に来たのは初めて?」

榊原「いや、生まれたのはここらしいけど……自分の覚えてる範囲では……。それより君は誰なんだい?」

見崎(なるほど……ということは他の『死者』は今どうなっている?)

見崎「あなたの同級生になる予定の者、とだけ言っておくわ」

榊原「そ、そうなんだ。わざわざお見舞いに来てくれたの?ありがとう」

見崎「それはいいの。後から他にも来ると思うから驚かないでね」

榊原「え?」

見崎「『現象』や『災厄』という単語に聞き覚えはある?」

榊原(この立て続けにされる質問には何の意味が?)

榊原「いや、ないけど」

見崎「そう」

見崎(まあ、この方が都合がいいのかな。計画を進める上では)

見崎「ごめんなさい。あなたにとっては訳のわからないことを質問してると思うけど、今は答えられないの」

榊原「え?え……ああ、うん」

見崎「じゃあね」テクテク ガラッ

榊原「君!名前は……(って…もう行っちゃった……)」

榊原「何だったんだろう。今の子は」


……

風見「僕たち、夜見山北中学の3年3組の生徒です」

榊原「はい…」

風見「僕は風見といいます、風見智彦。こっちは桜木さん」

桜木「…はじめまして。桜木ゆかりです」

風見「こっちは」赤沢「赤沢泉美」

榊原「あの、何か」

……

見崎(ここで『対策』の説明をしなかったのね……)

見崎(病院内を見てああなっているってことは……おそらく……)


【4月26日】

榊原(……っとエレベータが)スタスタ

榊原(!……この子は)

見崎「……」

榊原「……また会ったね。今日はお見舞いか何か?」

見崎「まあ」

榊原「…その人形は?」

見崎「…届け物。眠っているから。可哀想な私の半身が」

榊原(え?)
ガラッ

スタスタ

榊原「ねえ君!…前も訊こうと思ったんだけど、名前はなんていうの?」

見崎「メイ。…ミサキ……メイ」
スタスタ
榊原「……」

【9月某日】

【教室】
勅使河原「一時はどうなることかと思ったけど、今年は『ない』年で良かったよな」

望月「ほんとそうだよ」

赤沢「…もともと現象は『ある』年と『ない』年があるようだけど…どういう理屈なのかしら」

杉浦「あまりそういう事を考えても仕方ないと思う」

中尾「そうだって!被害が出てないんだから結果オーライでいいだろ?」

榊原(本当に……本当にこれでいいのか?)

見崎(……)
ガラッ
千曳「HR始めるから、席に着け―」

「はーい」

千曳(またこの話をしているのか……)

千曳(しかし……私にはどうこう言う権利はない……)

…………

【第二図書室】
ガラッ

榊原「千曳先生」

千曳「……そろそろ来るころだとは思っていたよ」

榊原「先生は……止める気はないんですか?あれを」

千曳「……教師という立場から言わせてもらえば、この状況では学校に来てくれるだけでもありがたい」

千曳「……それ以上のことは望むべくもない。あれで気持ちが落ち着くというのであれば」

榊原「でも……」

千曳「……それにもう『終わった』話なんだ。君の説明によれば。違うかい?」

榊原「それはそうですが……」

【10月某日】

榊原(今日も相変わらず全員元気にしている、か……)

榊原(この状況を逆手に取ったりできないのだろうか)

榊原(それに『現象』についてもまだまだ不明な点は多い)

榊原(やはり相談した方がいいのか?自分の考えにしろ、今後の方針にしろ……)

…………

見崎「どうしたの?改まって二人だけで話なんて」

榊原「うん。ちょっと今後の方針についてね」

見崎「今後の方針?」

榊原「見崎は、地元の高校に進学するんだよね?」

見崎「そう。榊原君は東京に戻るんだったかしら」

榊原「見崎は……どうするつもりなの?来年度以降については」

見崎「……私が一人でやれば済む話。始業式に顔を出して確認すればいいってだけ」

榊原「もし来年度が『ある年』だったら……」

見崎「死者を死に還すわ」

榊原「……やはりそうするつもりなのか。僕は……君にそんな事をして欲しくない」

見崎「それなら従来通り『いない者』対策をするしかない……」

榊原「…それもうまくいくかどうかは五分五分……」

見崎「榊原君が気にする問題ではないと思う」

見崎「少なくとも今年については私に責任の一端があったことには間違いがない。だから……」

榊原「だから死者を殺す、と?」

見崎「そうよ」

榊原「……仮に来年度がそれでいいとしても、それ以降は」

見崎「同じ事を繰り返すだけ」

榊原「見崎!」ダンッ 見崎 ビクッ

榊原「僕は……僕は自分と同じ苦しみを見崎に背負わせたくない」

見崎「同じ所で見ていた時点で同罪よ」

榊原「……何も見崎が手を下す必要はないだろう」

見崎「でもそれが一番確実。他の人間が私の話を信用するかは怪しいし」

見崎「……榊原君。まさかあなた……」

榊原「見崎にやらせるくらいなら、僕がやるよ」

見崎「榊原君は、東京に戻らなきゃいけないんじゃなかったの?」

榊原「そうだよ」

見崎「ずっとここに留まり続けて……あなたが死者を死に還す、と?」

榊原「できればそうしたい。……とりあえず、1年だけは夜見山にいることを父さんも許してくれた」

榊原「詳しい事情は知らないけどね」

見崎「そんな……」

榊原「これ以上、災厄によって人が死ぬのは見たくないんだ」

榊原「今の3年3組の状態だって異常だという他ないだろう?」

見崎「それはそうだけど…………いいの?自分のことは」

榊原「見崎が『いない者』を引き受けた時と同じだよ」

榊原「自分がやらなきゃ他の人がやらなきゃいけない。それなら……」

見崎「私も……榊原君にこんな事させたくないんだけど……」

榊原「まあ、とはいってもずっとここに留まる必要があるかどうかはまだ分からない」

見崎「……」

榊原「僕に考えがある」

榊原「一時的に現象を止める方法についてだ」

見崎「!……」


―――――


榊原「見崎は、どう思った?僕の考えについて」

見崎「…面白い考えだと思ったわ。実際のところどれくらいの期間現象を止められるかは未知数だけど」

榊原「……見崎は……その……協力してくれる気は…ある?」

見崎「まあ……紙の上のことだけみたいだし……いいよ」

榊原「…よかった。……とはいえこの計画にはクラスメイト全員の協力が必要だけど」

見崎「それは多分……大丈夫」

榊原「…どうして分かるの?」

見崎「それは………………………今の榊原君の言うことだったら多分みんな信用してくれると思うから」

榊原「確かに、実際に1か月以上経って誰も死んでないっていう現実を見たから…」

榊原「僕たちの言ったことは本当だと思ってくれてはいるようだけど…」

見崎「……大丈夫だから」

榊原「まあ……見崎がそういうのなら…」

見崎「あとさっきの話に戻るけど……」

榊原「?」

見崎「…協力するとは言ったけど……私からその……条件を出してもいい?」

榊原「…何?」

見崎「私が協力するのは、榊原君の言ったことがおそらく本当であると私が確信できている時だけ」

榊原「……どういうこと?」

見崎「……私はまだ……完全には……安心できないから」

榊原「わかった。……とりあえず、今のところはどうなの?」

見崎「今のところは協力するつもりだから、心配しないで」

榊原「そっか」

見崎「あと、もう一つ」

榊原「えっ、まだあるの?」

見崎「これは榊原君の計画とは直接関係なくてね」

見崎「…………単に私の願望を実現するために交換条件にしたいだけ」

榊原「?」

見崎「その……私と………つきあってくれる?」

榊原「えっ!?そ、それは……つまり」

見崎「こ……恋人になって欲しいってこと」

榊原(……耳まで赤くなってる……)

榊原「…残念だなあ」

見崎「えっ」

榊原「あっ……いや…僕のほうから言いたかったのに、それ」

見崎「もう……ビックリさせないで」

榊原「……僕も見崎のことが好きだよ。僕でよければ……」

見崎「…『僕でよければ』なんて言わないで。私がいいのは……榊原君だけだから」

榊原「うん……ありがとう」

見崎「私も…ありがとう。残りの時間……短いのに……半年しかないのに…OKしてくれて」

榊原「半年?……計画がうまくいけば1年半だけど」

見崎「え?…ああ、そうね……」

榊原(なんだろう?一瞬表情が陰ったような気が…)

見崎「えっと……その…せっかく恋人同士になったんだし」

榊原「ん?」

見崎「……名前で呼んでもいい?」

榊原「いいよ。僕も…名前で呼ぶことにするよ、鳴」

見崎「私がいいって言う前に呼ばれちゃった」

榊原「えっ!?ダメだった?」

見崎「ダメじゃないけど……名前で呼ぶのは二人きりだけの時にして…恥ずかしいから…その…恒一くん」

榊原「…そういうことか。わかった」

見崎「……結構話し込んじゃったし……そろそろ帰ろうか」

榊原「そうだね、最近は日も短くなってきたし」

帰り道

榊原「……いつも一緒に帰ってるけど、……今日から恋人同士だし…」

見崎「?」

榊原「手、つないでもいい?」

見崎「……いいよ」スッ

ギュッ

見崎「恒一くんの手は……温かいね」

榊原「見崎、じゃなかった…鳴……なんか前より手、冷たくない?」

見崎「そう?……気温が低いからかな」

榊原(そういうものなのか?…………)

見崎「恒一くんもそう思うんなら…………温めてくれる?私の手」

榊原「!…うん、もちろんだよ。でも……いいの?」

見崎「何が?」

榊原「いや、だって前は……つながってない方が安心って言ってたから」

見崎「そんなこと、言ったかも」

榊原「僕としては、できれば鳴を安心させたいから……」

見崎「!……確かに、今も……つながってない方が安心…なのかもしれない」

見崎「でもね……今はそういう安心とか不安とか関係なく、ただ恒一くんと一緒にいたい、つながっていたい」

榊原「僕はまだ……鳴を安心させられるだけの存在にはなってないってこと?」

見崎「ううん、そうじゃない、そうじゃないの……これは……私自身の問題だから…」

榊原(鳴は……一体何が不安なんだろうか)

榊原「鳴が今感じてる不安っていうのは……その…漠然としたもの?それとも何か具体的な…」

見崎「ごめんなさい……今はまだ…」

榊原「…わかった。じゃあ……いつか」

見崎「いつか、ね。……とりあえず、その時が来ればちゃんと話すから。約束する」

榊原「そっか。…何か他に僕にできることがあれば……いつでも言ってね」

見崎「ありがとう。今は……なるべく恒一くんと一緒に時間を過ごしたい」

榊原「…うん」

【11月某日】

教室

榊原「ねえ、見崎のことについてなんだけど」

勅使河原「なんだ?またのろけか?勘弁してくれよ、もうそういう話は」

榊原「違うって」

望月「じゃあ、何?」

榊原「勅使河原や望月は、どう思う?最近の見崎を見ていて」

勅使河原「う~ん、前よりいいんじゃないか?」

望月「表情もやわらかくなったというか」

榊原「そう?そうか……」

勅使河原「どうした?まさかサカキにだけ冷たいとか」

榊原「違うよ。そんなんじゃない」

望月「恋人にだけ見せる顔っていうのもあるんじゃない?」

榊原「……そうなのかな。でもなあ……」

勅使河原「何だ、サカキ。男ならハッキリ言え!ハッキリと!」

榊原「表情豊かになったっていうのは確かにそうなんだ」

榊原「それが悪いとはいわないし……むしろいいことだよね」

榊原「その分なんというか……マイナス方向の感情もすぐに分かるようになってしまったというか」

勅使河原「なんだ?怒ったり泣いたりでもしてんのか?」

榊原「いや、基本僕といるときは嬉しそうだよ」

望月「榊原君……それを自分で言っちゃうんだね。まあいいけど」

榊原「でも、ふと視線が外れた時に……時々すごく悲しそうな顔をするんだよ」

勅使河原「悲しそう?なんでだ?」

榊原「それが分かってたらこんな相談してないよ」

望月「う~ん……幸福すぎて不安になる……とか?」

勅使河原「幸福すぎて不安?なんじゃそれは」

望月「見崎さんは……姉妹のこともあったし、たとえ今が幸せでもそれが続くとは思えないんじゃないかな」

榊原「……今が幸福ってことは、いずれ不幸になると考えてるわけか」

勅使河原「でもなあ、そんなこと考えてたら一生幸福なんて思えないぞきっと」

望月「…だよね。榊原君はどう思う?」

榊原「……そういうこと、考えそうな気もする。!……そういえば」

勅使河原「何か心当たりでもあったか?」

榊原「『つながってると不安なのは今でもそうだけど、それでも一緒にいたい』って言ってた」

勅使河原「それ露骨にそういうことなんじゃないか?」

望月「…見崎さんにそれとなく訊いてみたら?」

榊原「どうやって?」

望月「単純に今僕たちが喋ったことを一般論的に言って、同意するか尋ねてみればいいんだよ」

榊原「なるほど」

勅使河原「否定しなきゃ、まず当たってるってことか?」

望月「そうなるかな」

榊原「ありがとう望月、勅使河原。今日ちょっと帰るときにでも話してみるよ」

榊原「そうだ、帰るときといえば」

勅使河原「…といえば?」

榊原「なんかいつも別れ方が大げさというか」

望月「ふ~ん?どんな風に?」

榊原「何度もキスをせがまれて」

勅使河原「やっぱのろけじゃねえか!いい加減にしろサカキ!少しは俺の気持ちも」

望月「て、勅使河原君、落ち着いて。……それで?」

榊原「その……一期一会といったら大げさかもしれないけど、でもまるでもう会えないかのような振る舞いをするんだ」

勅使河原「俺には単なるバカップルの話としか思えん!」

望月「榊原君はなんでそれがそんなに気になるの?」

榊原「なんでだろう?……やっぱりその時も……悲しそうだからかな」

勅使河原「そりゃ恋人と別れるときは誰でも悲しいぜ」

望月「見崎さんは……あまり自分のことを話したがらないからね」

望月「それは恋人である榊原君に対しても変わらない。だからこそ……気になるんじゃないかな」

榊原「……そうだと思う。でも、あまり踏み込むわけにもいかないんだよなあ」

勅使河原「なんでだ?」

榊原「以前、自分のどこが好きか訊いたとき『私が秘密を持つことを許してくれるところ』って言ってたから」

望月「しっかり先にくぎを刺されてるね」

勅使河原「だいたいサカキ、そもそもお前はそういうところが好きになったきっかけじゃないのか?愛しの鳴ちゃんをさ」

榊原「…否定できない……」

勅使河原「だったらある程度は諦めるしかないんじゃないか?結局はお互いがそれでいいって思ってるってことだろ?」

榊原「う~ん……そうだね」

望月「やっぱり半分くらいはのろけだったね」

榊原「…ごめん」

勅使河原「まあ、いいっていいって!仲がいいことに越したことはないしよ!」

榊原「ありがとう勅使河原、望月。ところで話は変わるけど、この前話した計画について…」

勅使河原「俺は協力するぜ」

望月「僕もいいよ」

榊原「ほんと?」

勅使河原「…正直言って、俺も今のクラスの状況は良いとは思ってなかったからな」

勅使河原「むしろ、これを利用して来年以降が良くなるのなら協力しない理由はねえ」

望月「僕も勅使河原君と同意見だよ。まあ、それに紙の上だけの話だしね」

榊原「まあ計画自体うまくいくかどうかは分からないけどね」

勅使河原「…多分うまくいくさ」

榊原「どうしてそう思う?」

勅使河原「男のカンってやつ?」

望月「それを言うなら女のカンでしょ」

勅使河原「まあ細かいことはいいのいいの」

勅使河原「とりあえず俺からも他のクラスメイトに話つけてみるよ。全員分必要なんだろ?」

榊原「そうだよ」

望月「まあ協力してくれると思うけどね。計画が成功したらもしかしたらもう一度……」

榊原「望月」

望月「…ごめん」

榊原「…あくまで現象を止める方法だからね、これは。他の人に説明する時もこれは忘れないでほしい」

望月「…わかってる」

榊原(とは言ったものの、実際には難しいよなあ……期待するなっていう方が無理だ)

榊原「僕からも話してみるけど、いちおう頼めるなら頼んだ」

望月「うん!」

勅使河原「おう!まかせとけ!」

帰り道

榊原「そういうわけで、とりあえず勅使河原と望月は協力してくれるみたい」

見崎「そう、良かったわね」

榊原(あれ……なんだかあまり嬉しそうに見えない…もしかして……)

榊原「あのさ……もし鳴が嫌なら……計画のこと、断ってもいいんだよ」

見崎「…?どうして急にそんなこと言うの?」

榊原「いや……今勅使河原と望月が協力するって言ったとき……その……」

見崎「ごめんなさい、私……顔に出てた?」

榊原「うん……」

見崎「もしかして……それって今だけじゃなくて……前から?」

榊原「…そうだね」

見崎(ハァ~……マズいなあ……私、完全に油断してる……恒一くんに余計な心配させたくないのに)

榊原「ねえ、今日望月や勅使河原とこういう話をしたんだ」

見崎「何?」

榊原「人って幸せすぎても不安になるもんなのかなって」

見崎(!…これって明らかに最近の私の様子から類推した話よね……)

榊原「鳴はどう思う?そういうことってやっぱりあると思う?」

見崎「…あると思うよ。……というより、それって私の話でしょ?」

榊原「ハハ……バレてた?」

見崎「バレバレ」

榊原「つまり鳴も……そういうことでいいの?」

見崎「……そういうことでいい」

見崎(まあ間違ってるわけじゃないし、今はそういうことにしておこう)

榊原「わかった……なんか余計な心配だったみたいだね」

見崎「いえ、私が余計な心配をさせてるだけだと思う。ごめんなさい」

榊原「!…いや、いいんだ。理由が分かったから安心したよ」

見崎「そう……良かった。恒一くんもその……一緒にいるときに私がそういう顔をしても…心配しないでね」

見崎「私は……恒一くんと一緒にいるときすごく幸せだから。それは忘れないで」

榊原「わかった。たださ……」

見崎「ただ?」

榊原「さっきの計画の話なんだけど……もしかして藤岡未咲さんのこと…気にしてる?」

見崎「いえ、そのことはもう大丈夫。そもそも彼女の場合、実際に計画が始まらないとなんともいえないし」

榊原「……?…そうだったね。じゃあ何で?」

見崎「恒一くんは本当にそれでいいのかな……と思って。これも実際のところ記憶がどうなるかわからないし」

榊原「言いだしっぺのことを心配する必要はないよ。君に話した時点で覚悟はできているさ」

見崎「そうなの?……恒一くんももし気が変わったらすぐに言った方がいいよ」

榊原「…わかった」

……

見崎の家

見崎「……着いちゃったね。いつもの……」

榊原「うん…」

チュッ

見崎「………もう一回」

榊原「あ、あのさ」

見崎「何?」

榊原「あ、あんまりやり過ぎるのも……新鮮味がなくなるというか」

見崎「私にとってはいつも新鮮。私とキスするの……嫌だった?」

榊原「い、嫌なわけないよ。ただ……」

見崎(…恒一くんが戸惑うのも仕方ない……か)

見崎「わかった。今日は1回でいいよ。それより……」

榊原「?」

見崎「明日、学校半日だからそのあと、『勉強教えて』もらっていい?」

榊原「え?」

榊原(見崎の勉強を僕が見るっていう名目でよく僕の家に来るのはいいけど)

榊原(いや勉強自体はしてるからそれはそれでいいんだが)

榊原(最近は3~4日に一度くらい……いくらなんでも頻繁過ぎる)

榊原(………泊まりに来ることもあるし)

榊原(だいたいいいのか?離れをあんなことに使ってて……)

榊原(おまけに…………いやこれ以上は)…いちくん!」

見崎「恒一くん!」

榊原「え?あ、ごめん。考え事してた」

見崎「ふ~ん………妄想でもしてた?まあいいけど」

榊原「し、してないよ」カァァ

見崎「顔、赤いよ」

榊原「え!?」

見崎「…で、返事は?」

榊原「い、いいですよ」

見崎「そう……良かった」

翌日

ガチャリ
見崎「…ただいま」

霧果「…おかえりなさい。……榊原君とは、うまくいっているの?」

見崎「はい。おかげさまで。最近は勉強も教えてもらっています」

霧果「そのようね。成績も良くなっているみたいだし」

見崎「榊原君には……感謝してもし切れません……それと……」

霧果「?」

見崎「お母さんにも……今まで私を育ててくれてありがとうございます」

霧果「!……どうしたの?藪から棒に」

見崎「いえ………榊原君と…その……家族の話をしていて」

見崎「榊原君には……お母さんがいないから……」

霧果「…ごめんなさいね……今まで…あまり母親らしいこと…できなくて」

見崎「!そんなことない……これでも一応娘だから、お母さんのことは誰よりも分かってるつもりです」

霧果「そう言ってもらえると……私も嬉しいわ」

霧果「私も……榊原君に感謝ね」

見崎「え?何故ですか?」

霧果「娘が素直になってくれたから」

見崎「!…もう……知りません」
ガチャッ パタパタ…

自室

見崎(あ~あ……柄にもないことを言ってしまった……)

見崎(……どうせさっき言ったこともいずれは……)

見崎(いつかまた、同じような事を言える日は来るのかな)

見崎(『いつか』か…………恒一くんの質問に何度かそうやってはぐらかしてたっけ)

見崎(……そのツケが今、回ってきてるのかな……)

見崎(恒一くん…………お母さん……)ポロポロ

見崎「うっ……うう……」

見崎「……ごめんなさい…………」シクシク

……

【12月某日】

千曳「榊原君、今日の放課後話があるから私のところに来なさい」

榊原「あ、はい」

見崎「……」

放課後

千曳「君の計画、学校側からも受理されたよ」

榊原「本当ですか!ありがとうございます」

榊原「前言っていた、人数的な問題は……」

千曳「それも大丈夫とのことだ。決められている人数を越えなければ問題はない」

千曳「…それはいいんだが……」

榊原「?」

千曳「本当に……君はこの計画を実行するつもりかね?」

榊原「千曳先生、いまさら何を言ってるんですか」

千曳「下手をすれば、再び君たちを辛い目に合わせてしまうかもしれない」

榊原「いいんですよ。それで災厄が止まる可能性があるのなら」

千曳「そうかい?」

榊原「……それに、実際にその時にならないと実行可能か分からないですし、その前に頓挫する可能性もあります」

千曳「そうだったね。君も……仮に計画が先に頓挫したとしても……」

榊原「わかってます。年度が終わる前に一人でも拒否する人が出れば、計画は中止……そうでしたよね?」

千曳「……わかっているならそれでいい。私から言いたかったのはそんなところだ」

榊原「…失礼します」

ガラッ
「「!」」

榊原「見崎!いたの?」

見崎 コクリ

榊原「教室で待っててって言ったのに……まあいいや」

見崎「……待ち切れなかったから」

榊原「学校のある間はいつも一緒にいられるじゃないか。それに」

見崎「…上手くいけばあと1年は…ってこと?」

榊原「そうそう」

見崎「それはそうかもしれないけど……年が明けたら一度、東京に戻るんでしょ?」

榊原「え?あれ見崎にそのこと言ったっけ」

見崎「あ……うん、まあね。直接訊いたじゃないから恒一くんに……」

榊原「ああ、そういうことか」

見崎(危ないところだった……)

榊原「それに2~3日で戻るから、すぐだよ。進級試験といっても形式的なものだし」

見崎「私も東京…………行きたいな」

榊原「!……前言ってた美術館巡りの事?1月だとまだ君の受験が終わってないからなあ……」

見崎「そうだよね……ごめんなさい。急にそんなこと言って」

榊原「…春休みになったら行こうか」

見崎「3月中にして欲しいんだけど、いい?」

榊原「…いいよ」

榊原「何か……変な感じ……」

見崎「何が?」

榊原「いや、前までは僕の方から誘う事の方が多かったのに……いつの間にか逆転してるから」

見崎「……出来るだけ……一緒にいたいから…恒一くんと」

榊原「そ、それは…ありがとう。僕も……出来ればずっと……一緒にいたい」

見崎「ありがとう……その……年明けの話はダメになったけど」

榊原「?」

見崎「クリスマスの時は……一緒にいられる…よね?」

榊原「うん」

見崎「最近はこっちが訪ねる事が多かったから、私の家に来てもらっても……いい?」

榊原「いいよ」

見崎「…渡したいものもあるしね」

榊原「あっ……そうか……ごめん、こっちはまだ考えてなくて」

見崎「いいよ、最近まで計画の事で結構忙しかったしね……それに」

榊原「?」

見崎「私、恒一くんと一緒にいられれば………他には何も……」

榊原「やっぱり………なんか……性格がちょっと変わってない?前はそんな感傷的な…」

見崎「!……私は……私自身は変わってないよ。変わったのは…………状況」

榊原「状況?」

見崎「……まあ、今は家族含めて一応人間関係は順調だし」

榊原「そうなの?」

見崎「うん…だからあまり気にしないで」

榊原「…わかった……」

代行までしてもらっててほんとに申し訳ないがちょっと中座する。3時間後位には戻る

書き溜めが尽きつつあるのでスピード落ちるが再開する

【クリスマスイブ】

榊原「じゃあ、いってきます、おばあちゃん」

祖母「いってらっしゃい。あまり遅くなるようなら連絡するんだよ」

榊原「とりあえず、今日は大丈夫だから」

祖父「恒一、今日も病院かね」

祖母「お爺さん、もう恒一ちゃんの気胸は治ってますよ」

祖父「そうなると……お見舞いか。気をつけて行ってきなさい」

榊原「そもそも病院に行くわけじゃないんだけど……お爺ちゃん」

祖父「健康が一番、健康が一番だな」

榊原「い…いってきます…」
ガラガラッ

榊原(何でお爺ちゃんは僕が病院に……?)

榊原(確かに手術後は何度か通っていたけど……)

榊原(最後に行ったのももう1カ月以上前の事だし……)

見崎の家

ガチャリ
見崎「どうぞ」

榊原「…おじゃまします」

榊原「ごめんね、今日はたぶんあまり長居はできないと…」

見崎「わかってる。……ちょっと雪も降り始めちゃってるしね」

榊原「…あれ?他の家族の人は?」

見崎「出払ってるよ」

榊原「?」

見崎「今は東京に戻ってるお父さんの所に行ってる。まあ……一応私は受験が近いという名目で…」

榊原「留守番というわけか。……さすがにここに並んでるご馳走は……」

見崎「多少は私が作ったのもあるけどね。なかなか急にうまくなるものでもないし」

見崎「先に食べちゃおうか。……渡すものはその後でってことで」

榊原「そうだね」

……
「いただきます」

パクパク

榊原「……これ、買って来たにしても鳴が全部、というわけではないよね?」

見崎「そう。おばあちゃんとかもね……私じゃさすがに七面鳥とか買おうとは思わない」

榊原「でも、いいの?二人しかいないのにこんな豪勢な……」

見崎「見崎家から恒一君へのプレゼントとでも思って……だって。お母さんとおばあちゃんが」

榊原「……一度ちゃんとお礼を言っておかないといけないな」

見崎「私も含めてだけどね……恒一くんには本当に感謝してる。あなたのおかげでその……」

榊原「?」

見崎「…私と家族の関係も良くなったと思うから」

榊原「え?でも僕は鳴以外に直接何かをした覚えは……」

見崎「それはそうかもしれないけど、でもそれで私が変化して周りに対する態度も軟化したところはあるから」

榊原「…そうか……それは良かった」

榊原「正直言って……少し心配なところはあったんだよね」

見崎「何が?」

榊原「君と……その周りの身近な人との関係の事で」

見崎「それは……ずっとあなたと一緒にいられるかはわからない……から?」

榊原「……そうだね。でも今の話を聴いて少し安心したよ」

見崎「そう?まあ……もともと無用な心配だったのかもしれない……」

榊原「え?それはどういう……」

見崎「ごめんなさい、何でもないから。気にしないで」

榊原「ふ~ん……?」

見崎「と…とりあえず冷めちゃう前に食べましょ」

榊原「う、うん」

……

榊原「ふ~、色んなご馳走にケーキまで……こんなに食べたのは久しぶりかも」

見崎「私も……」

榊原「ごちそうさま。ありがとう」

見崎「こちらこそ……お粗末さま」

……

見崎「今日はこっちが招いてるのに……片付けとか手伝ってくれて……」

榊原「いいよ、別に。家事の類は慣れてるから。それに……」

見崎「?」

榊原「鳴一人に任せておくと……なんだか危なっかしい気もしたしね」

見崎「そ…そんなことない。私は大丈夫」

榊原「君の言う『大丈夫』はどうもあてにならない気が前からしてた」

見崎「なんだか今日の恒一くんは……意地悪ね」

榊原「あ!いや……鳴を困らせるつもりで言ったんじゃなくてさ」

見崎「…じゃあ何?」

榊原「こっちとしてはもうちょっと……頼って欲しいというか」

見崎「私としては充分頼ってるつもりだったけど」

榊原「頻度的なものじゃなくて……なんだろうな」

見崎「?」

榊原「心理的な距離、とでも言えばいいのか」

見崎「たぶん今の私から一番近いのが恒一くんだよ」

榊原「それはなんとなく分かってる。ただ……」

見崎「ただ?」

榊原「僕は君ともっと……近づきたいのかもしれない。心理的に」

見崎「あまり近づき過ぎると……私は……別れの時が辛くなると思うから……」

榊原「!………ごめん…」

見崎「いいよ。恒一くんがそう思うのも無理ないって私も……わかる」

榊原「でも……僕は今の事しか考えてなくて君に負担をかけてしまったのかも」

見崎「負担のかからない人間関係なんて存在しないわ」

榊原「その……あまり無理しないでよ……色々と」

見崎「色々……まあ、確かに恒一くんの言う事は当たっているのかもね」

見崎「『負担をかける』か…そうそう思い出した」

榊原「?」

見崎「恒一くんに……あげるものがあるんだった」

榊原「!あ、そういえばプレゼントのこと話しこんでてすっかり忘れてたよ」

榊原「…僕から渡した方がいいのかな。喜んでくれるかどうかわからないけど」
スッ

見崎「開けてもいい?」

榊原「いいよ」
ビリッ
ガシャガシャ

榊原(意外とこういうところ雑なんだよなあ……見てて面白いからいいけど)

見崎「!これって……」

榊原「……見るの好きって言ってたから」

見崎「でも、この辺りじゃ買えないんじゃない?この画集……」

榊原「すぐ手に入る物をあげてもしょうがないしね」

榊原「ちょっと東京の友達におつかいを頼んで、送ってもらった」

見崎「…わざわざありがとう。私の好きな画家さんの画集だし……前から欲しかったの」

榊原「喜んでもらえたみたいで、何よりだよ」

見崎「……どうしよう……」

榊原「何が?」

見崎「私のプレゼントは……ちょっと……恒一くんが喜んでもらえると……確実にはいえないから」

榊原「どういうこと?」

見崎「どちらかといえばこれは私の自己満足という面が強いというか……もしかしたら気分を害するかもしれない」

見崎「だから……受け取りたくなかったら、返してもいいよ」スッ

榊原「(意味がよく分からないな…)…とりあえず、開けるね」

見崎 コクリ

ビリビリ…ガサッ

榊原「!」

榊原(怜子さんと僕が描いてある……)

榊原「……どうして……これが僕の気分を害するかもって…思ったの?」

見崎「……嫌なことも……思い出させてしまうと思ったから」

榊原「…なるほどね………ねえ……もっと近くに寄っていい?」

見崎「え?あ…はい……(…って私を抱きしめてる!?)」

榊原「確かにいいことばかりじゃなかったけど……これは僕のかけがえのない思い出だから」

見崎「…うん」

榊原「忘れたくなんかないよ。だから……ありがとう鳴、僕の大切な人の事を描いてくれて」

見崎 コクリ

榊原「…この絵は……君にしか描けないものだし……」ポロポロ

見崎「……泣いてるの?…やっぱり私…」

榊原「!あ、いや…これは悲しくて泣いてるわけじゃなくて、色々こみあげてきて……」

見崎「うん……」

榊原「……」

見崎「……」

榊原「……」

見崎「……少し、落ち着いた?」

榊原「…ああ、ありがとう」

榊原「やっぱり、ダメだよね……もう、こんなこと……」

見崎「え?」

榊原「止められるのなら……」

見崎「恒一くん!」

榊原「は、はい」

見崎「恒一くんも………無理しちゃダメ」

榊原「そうでしたね……ハハハ」

見崎(余計な事しちゃったかな……そろそろ……)

……

【1月某日】
榊原「じゃあ、行ってくるね」

見崎「行ってらっしゃい。2~3日で戻るんだよね?」

榊原「その予定だよ」

見崎「私も東京……行きたかったな」

榊原「もう少しの辛抱だよ」

見崎「……こんな事になるなら、最初から推薦狙いにすればよかった」

さるさん食らったが、その程度のペースにしたらいいのかよく分からん

榊原「それは…『いない者』だったとはいえ学校サボりまくりだった時点でムリでしょ」

見崎「…だよね」

榊原「……1学期の成績は……お世辞にも良いものとは言えなかったし」

見崎「結構ズバズバ言うのね」

榊原「今の成績が良いからこそ言えるんだよ」

見崎「榊原先生のお教えの賜物でございます」

榊原「まあ……鳴はやればできる子だから」

見崎「もうなんとでも言って下さい」

榊原「珍しいね。そんなに下手に出るなんて」

見崎「…帰ってきたらわかると思うよ」

榊原「何かサプライズでもあるの?」

見崎「さあ」

榊原「まあ、いいや。そろそろ電車の時間だから……」

見崎「うん」

……

【数日後】

見崎「どうだったの?進級試験は」

榊原「特に問題はなかったよ」

見崎「そう……それは良かった。これで東京に戻ったとしても大丈夫ってことね」

榊原「一応そうなるかな」

見崎「いいえ……そうなるのよ」

榊原「?」

見崎「榊原君はあと2カ月足らずで東京に戻る事になる」

榊原「え?何故?今のところ計画が頓挫したという話は」


見崎「計画は私が破棄させた」



榊原「え……………………え!?」

────
────────
────────────────

榊原「僕に考えがある」

榊原「一時的に『現象』を止める方法についてだ」

見崎「!……」

榊原「これはまだ推測の域を出ていない話だけど……」

榊原「見崎、『現象』がある年とない年があるのは何故だと思う?」

見崎「さあ。超自然的な自然現象にどの程度理屈が通るのかはわからないし」

榊原「そうだね。ただ一応、これまでに原因は分からなくとも対策方法についてはわかっているわけだ」

榊原「それらしい理屈がないともいえない」

見崎「『いない者』をつくることによってクラスの人数を合わせるってことが?」

榊原「そう。とりあえずこの『現象』についてはクラスの人数を合わせることは重要なことのようだ」

見崎「それはそうね」

榊原「そして、『現象』によって増える人数は一人と決まっているみたいだ」

榊原「増えた人間は、これまでの『災厄』によって命を落とした者」

榊原「増えたのが分かるのは、始業式の日に机が足りなくなるから。そうだったね」

見崎「そう。まだ榊原君の話がよく分からない……」

榊原「……こう考えてみたんだ。『現象』は実は毎年起こっている」

見崎「え?」

榊原「にも関わらず、『ある年』と『ない年』がある」

榊原「もしかして、これは僕たちが感知できていないだけなのかもしれない」

榊原「『ある年』だとわかるのは始業式以降。ということはそれより前に……」

見崎「……」

榊原「『災厄』によって死者本人が死に還った」

榊原「だから『災厄』は起きないし、誰にも『現象』が起こったことがわからない」

見崎「『現象』のない年というのは、始業式前に死者が『災厄』によって死に還った年、と言いたいの?」

榊原「その通り」

見崎「なんだか自作自演みたいな話ね」

榊原「そうだね。それにこれがもし本当だと確認できれば、さらにもう一歩踏み込んだことができるかもしれない」

見崎「?」

見崎「『現象』のない年というのは、始業式前に死者が『災厄』によって死に還った年、と言いたいの?」

榊原「その通り」

見崎「なんだか自作自演みたいな話ね」

榊原「そうだね。それにこれがもし本当だと確認できれば、さらにもう一歩踏み込んだことができるかもしれない」

見崎「?」

榊原「『いない者』対策や『死者』を殺す必要もなくなるかもしれない」

見崎「榊原君。あなたの考えていることって……」

榊原「わざと『現象』を起こして死者を蘇らせ、『現象』の力によってその死者を死に還す」

榊原「もしこれができれば、実質的な『災厄』の被害は発生しない」

見崎「……榊原君は……本当にそんなことが可能だと思っているの?」

榊原「いや、正直なところ全く分からない」

見崎「じゃあ、どうして……?」

榊原「今のクラスの状況をどう思う?」

見崎「異常ね」

榊原「……最初は自分もそう思って、どうにかしてみんなにやめてもらえないか、とも考えた」

見崎「それが普通に考えることだと私も思う」

榊原「肝心の千曳先生も止める気はないようだし」

榊原「まあ、過去の当事者だから自分にはその権利がないと考えるのも無理はない話だけど」

見崎「………じゃあ逆にこの状況を何かにつかえないか」

榊原「…そういうこと。こんな事をしていたら、また死者が蘇るかもしれない。そう考えるのが当然だ」

榊原「もしかしたら、来年度は今年度の死者が蘇る可能性もある」

榊原「今年度の死者のうち、クラスの関係者はX人だった」

榊原「増える死者は毎年ひとり。……でも、もし意図的に特定の死者を蘇らせることが出来たとしたら?」

榊原「そして、その死者を『災厄』によって再び死に還すことができたとすれば?」

見崎「もう私たちが直接介入しなくても済む、と?」

榊原「そうだよ。しかも、蘇らせるのは一人じゃない」

見崎「?」

榊原「来年度は今年度の再現をするんだ。今年度生き残った3年3組が、来年度も3年3組のメンバー」

榊原「そうすることによって蘇らせることの可能な人数も把握できる」

榊原「仮に記憶や記録が改竄されたとしても、それは死者に関することだけ」

またさるさん食らってしまった……1時間以内には戻る

榊原「『現象』そのものに関することは改竄しきれない。千曳先生の情報や松永さんのテープがその証拠だ」

榊原「『現象』は『現象』そのものが検証、解明されるところまでは踏み込んでいない」

榊原「そうだったとしたら、『いない者』対策なんていうのも無理だった」

榊原「念のため、今の自分の考えも複数の記録媒体に保存してあるよ」

榊原「まあ、メンバーをそのままにするといっても名簿に載せておくだけでいいのかもしれないけどね」

榊原「実際に『現象』が始まったら今年度の記憶は改竄されるだろうし」

見崎「それで……それでとりあえず1年といったのね」

榊原「もし複数の人間を蘇らせることができたら、逆に次年度以降の『現象』を本当に止められるかもしれない」

榊原「2人だったら次の年、3人だったら次の2年間という風に」

見崎「1年に1人死者が現れるのをまとめて蘇らせる事で、逆に次年度以降の死者の人数あわせをするのね」

榊原「そういうこと。今年度のクラスの死者はX人」

榊原「仮にクラスの構成員全員を蘇らせる事が出来たら、次の年からX-1年間は『現象』が止まるかもしれない」

榊原「そうなれば、僕が教師として夜見山に戻って来るまでには間に合う計算だ」

榊原「うまくいかなかったら、その時はここに留まるほかないけどね」

榊原「…僕の考えはこんな所だよ。千曳先生にはこのことは先に話してある」

榊原「クラスメイトの了承が得られれば、出来る限り協力してくれるみたい」

見崎「…そう」

榊原「見崎は……僕の考えに賛同してくれる?」

見崎「…………考えさせて」


────────────────
────────
────


榊原「鳴は計画に協力すると言ってたけど……何故今頃になって?」

見崎「破棄というのは正確じゃなかった。正しくは計画は………現在実行中なの」

榊原「!?」

見崎「よく考えてみて、榊原君。今年は……何年?」

榊原「え?2000年…………………あれ?」

見崎「私たちは98年度の3年生だから、本来は1月なら99年じゃないとおかしい」

見崎「でも、誰も気づいてない。いえ……それどころか昨年度1年分の記憶がみんな丸々なくなってる」

榊原「そ……そんなはずは……いくら『現象』と言ったって」

見崎「もちろん限界はある。3年3組の今年度1年が昨年と全く一緒だったわけじゃない」

見崎「特に物理的な事はね。例えば、8月にやった合宿の場所は違っているし。全焼してしまったから」

見崎「まあ直せる範囲の物はそのままだったようだけど。水野君のお姉さんの乗ったエレベータとか」

榊原「!…あ……『現象』ってそんなことも可能なのか」

見崎「気付いた?今年度蘇ったのはクラスの構成員だけじゃない」

榊原「家族も蘇った者に含まれていたから……誰も気づかないのか……」

見崎「それだけじゃないけど……まあそういう理由もある」

榊原「でも……何故鳴……君だけは……」

見崎「去年の記憶を維持しているのかって?…それは私も分からない。ただ……」

榊原「ただ……?」

見崎「私の場合、仮に去年の記憶がなかったとしても……さすがに10月に榊原君の計画を聴けば状況は判断できたと思う」

榊原「……!そうか……君の左目で……死者が何人もいるとわかるから…記憶を改竄されても、いずれ気付くのか」

見崎「そう。それに誰も気づかないままだったら、永遠にループしちゃうでしょ?この3年3組を」

榊原「……そうだね……(今サラっと恐ろしいこと言わなかったか?)」

榊原「とりあえず今の状況は理解したよ。結論から先に訊いてもいいかな?計画はうまくいったの?」

見崎「……………………うまく……いったよ……」

見崎「去年と同じことが起きていった……それで……死者は災厄によって死に還っていった……」

榊原「……!……鳴は去年の記憶があるってことは…………ごめん」

見崎「!……いいよ。昨年度にこの話が出てから……覚悟してた事だから」

榊原「しかし、結果的に……二度も……君の姉妹を……」

見崎「……最初から分かっていた事だった。それに……他のクラスメイトが計画に協力したのも……」

榊原「『もう一度逢いたかった』か……」

見崎「榊原君も……そういうところ、あったんじゃない?たとえ結末が決まっていたとしても……」

榊原「そうかもしれない。災厄を止めるという大義名分はあったにしろ……僕はもう一度怜子さんに…」

見崎「でも……だからこそね……この方法はもう……使うべきじゃない」

榊原「死者をむやみやたらに蘇らせるもんじゃないよね……」

見崎「うん……それもそうだしね……私、約束させられちゃった」

榊原「約束?」

見崎「私は記憶を持ったままだったから……どうしても我慢できなくて……その……未咲に話してしまったの」

見崎「もちろん最初は驚いていたけど……」

見崎「でもね、やっぱり双子だから……言っている事が本当かどうかくらいはわかるんだよね」

見崎「それで……怒られちゃった……」

榊原「怒られた?」

見崎「『こんな……偽りの生をもらっても嬉しくない』」

見崎「『鳴はいつまでも死んだ私にとらわれていないで、今本当に生きている人を大切にしてあげて』って」

見崎「私……何も言い返せなかった……彼女の言ってる事…それ以上に正しい事なんてないように思えた」

見崎「だから……もう二度とこんなことしないようにって……未咲と約束したの」

榊原「そうだったのか……こうなる事は予測できていたのに……僕は鳴に辛い目を」

見崎「!……私のことはいいから。それよりも……」

榊原「……僕ももうこんな方法を使おうとは……思わないよ」

見崎「良かった……」

榊原「ただ……これで本当に来年度以降の現象が止まるかどうかは……」

見崎「大丈夫……だと思う」

榊原「それは何か根拠とかは……」

見崎「ない……けど…少なくとも今までの榊原君の仮説は正しかったからこれもたぶん……」

榊原「そうかな……どっちにしろこれも来年度にならないと分からないか」

榊原「あ!……でも、計画がなくなったから僕は帰らなきゃいけないんだった……」

見崎「その時は……」

榊原「…ごめん、鳴。結局自分って嫌な役回りを押し付けてるだけのような気が……」

見崎「大丈夫。きっと……止まると思うから……」

見崎(止まらないと……私も困る……)

榊原「今は……鳴の言う事を信じて待つしかないか……」

見崎 コクリ

榊原(……最近感じていた鳴への違和感はこれでだいたい……説明できるのか?)

榊原(鳴は最初からあと半年しかないと分かっていたから……?)

榊原(本当にそれだけなのか……何か……見落としているような……)

【2月某日】

見崎「あ~あ、やっと受験も終わったし、後は自由の身ね」

榊原「はは……そうだね」

榊原(鳴が予定を年度末までにこだわる理由……)

榊原(ちょっと鎌をかけてみるか)

榊原「あのさあ、春休みの予定の事なんだけど」

見崎「え?うん……」

榊原「美術館巡り……4月になってからじゃダメかな?」

見崎「え!?なんで!?」

榊原「え……」

見崎「あ……ごめんなさい…少し驚いて…」

榊原「う、うん…(…何故そんなに驚く?)」

見崎「前から3月って言ってたのに……どうして?」

榊原「その……いざ東京に戻るとなると…色々やらなくちゃいけない事が増えちゃって」

見崎「……そうなの……」

榊原「……だから、その用事を済ませてからにしたいんだ。…ダメかな?」

見崎「…ダメ……」

榊原「ダメ?鳴は4月頭は予定入ってる?」

見崎「入ってないけど……」

榊原「…前から訊こうと思ってたんだけど……鳴は……何をそんなに焦っているの?」

見崎「!…………榊原君の気のせいだと思う」

榊原「そう?……じゃあ美術館巡りは4月に入ってからにするけど、いい?」

見崎「それは……(これ以上理由を言わずに食い下がっても…)…わかった」

榊原「楽しみは後に取っておいた方がいいと思わない?」

見崎「私は…そうは思わない」

榊原「まあ、ただとりあえず今回のことについてはさ……」

見崎「いいよ。榊原君の好きにすればいい」

榊原(なんか怖い……表情が……)

見崎「それで……3月末に先に榊原君が東京に行って……私が後から合流するのね」

榊原「……そういうことになるかな」

見崎「……そう」

見崎「榊原君」

榊原「?」

見崎「その日……榊原君に伝えなきゃいけない事があるの。だから……」

見崎「必ず携帯電話を忘れないように」

榊原「え?直接言うのはダメなの?」

見崎「……ダメ」

榊原「?……わかった」

【卒業式】
3年3組は、あの出来事のせいで生徒が幾人か少なくなっていた。

だが同級生がその生徒達を『いる者』と扱って、また校長の配慮もあり全員が卒業した事になった。

千曳先生と、僕、見崎鳴以外はまだ計画の破棄を知らない。わざわざ言う必要もないからだ。

新年度になればみんな高校1年生になる運びだ。形式上、来年の3年3組の名簿に今年度の

生徒を載せる計画など破棄された所で誰も知りようがない。

見崎鳴の予測、いや願望にも近いが……来年度は『ない年』であると……信じたい。

とにかく来年度にならない限りは……この時はそう思っていた――――

【3月末】
夜見山の駅

榊原「わざわざお見送りなんてしなくても……数日経てばまた会えるんだし」

見崎「私は数日間会えないだけでも……寂しいから」

榊原「そ……それはどうも……ありがとう」

見崎「さっきも言ったけど……」

榊原「携帯の電源でしょ?入ってるよ、ちゃんと」

見崎「必ず……出てよ……」

榊原「そんなに重要な事なら直接言えばいいのに」

見崎「重要な事だからこそ……言えない事も…ある」

榊原「それに電車に乗ってる時は……トンネル入ってたりしたら電波届かないし」

見崎「そこは頃合いを見計らって……ね」

榊原(確かに鳴には予め電車の時間を伝えてあるからそういうことは可能ではある)

榊原(何か特定の時間帯に伝えたい……ということか?)

見崎「榊原君?どうしたの」

榊原「ん?…いやなんでもない」

榊原(どうにも気になる……鳴がそういう考えなら、こっちにも考えがある)

榊原「…そろそろ時間だから」

見崎「いつものやつね」

榊原「え?ここでやるの!?」

見崎「大丈夫。今は周りに人いないから」

榊原(まあ……こんなこと頻繁にできるのもあと数日だし仕方ないか…)

チュッ

見崎「……ありがとう」

ポロポロ

榊原「!……鳴…涙が……」

見崎「え?……ほんとだ……どうしてだろ……ちょっとしたらすぐ会えるのに…」

榊原(何かある……よな……)

榊原「……言いたい事…あったらさ……いつでも…聴くから…」

見崎「うん……」

榊原「…じゃあ、僕はもう行くから」

見崎「また、会えるよね?」

榊原「そんなの当たり前でしょ」

見崎「…そうだよね……」

……

【約2時間後……】
ヴィーッヴィーッ

榊原(鳴からだ……このタイミングで来るという事は)

見崎『もしもし、榊原君』

榊原『もしもし』

見崎『もう……新幹線に乗り継いだ?』

榊原『う、うん…まあそんなところ』

見崎『そう……私、榊原君に謝らなきゃいけない事があるの』

榊原『え?それは……』

見崎『榊原君の考えた計画の本当の弊害……それを言ってなかったから』

榊原『本当の……弊害……』

見崎『あの方法はやっぱり……危険だった……』

見崎『一時的とはいえクラスをより死に近づけるやり方だから……』

見崎『それに災厄を起こすには新たに蘇った人間がいる事が重要だったみたい』

見崎『今年度の場合……そういう人間はいないはずでしょう?』

榊原『あ…ああ……(まさか……)』






見崎『私は……私が…………今年度、災厄によって新たに蘇った人間だった』

榊原「そ……そんなバカな……だって鳴、君は…死者が見えると…」

見崎「だからね、今の自分を左目で見ると……『見える』よ」

榊原「そ……そんなはずは……鳴……悪い冗談はやめてくれ」

見崎「ウソじゃない。……そもそも、何故あなたは去年の春に気胸が再発したの?」

榊原「え?そ、それは……その……転校して環境が変わったりしたからストレスとかで」

見崎「それは一昨年の話でしょう」

榊原「え?あ……ああ、そうか。僕には昨年度の記憶がないから……」

見崎『本当はね……本当は……榊原君と一緒に駅に向かう途中で……私が事故に遭ったから』

榊原『いや、そんなまさか』

見崎『急に脇の道路から車が飛び出してきて、私がはねられそうになったの。でも榊原君がとっさに私を突き飛ばした』

見崎『でも、その車は突き飛ばす前に避けようとして……私のほうにハンドルを切ってしまった』

見崎『……倒れた私からもあなたがうずくまる所が見えた』

見崎『すぐ二人とも救急車で病院に運ばれたんだけどね』

榊原『……』

見崎『そうか。私が『災厄によって蘇った人間』だから、榊原君の記憶にも改竄が起こったのね』

榊原『『今年度蘇った』って……おかしいだろう……それじゃあ去年の災厄は終わってなかったって事に』

見崎『終わってなかったというより……『イレギュラーな災厄』とでも呼んだ方がいいかもね』

見崎『死者を死に還した後に続けられた、複数の人間を対象とした『いる者ごっこ』』

見崎『同じ年度を再現する事で意図的に現象を起こすという『計画』』

見崎『現象が起こるには人数のズレが必要』

見崎『これらの条件が組み合わさって……たぶん今回のような事になったと思う』

榊原『君は……最初から……分かっていたの?』

見崎『私だけは去年の記憶を持ってたし……左目の事もあるしね……』

見崎『明らかにおかしかったもの。3月末に事故で重傷を負ってるのに4月になったらピンピンしてるって』

榊原『僕は……そんなことも知らずに……今年も暢気にそんな『計画』の話をしてたというのか……』

見崎『榊原君は悪くないよ。もともと災厄を止めようとやった事だし』

見崎『そもそもこの計画自体、2学期以降の3年3組の『いる者ごっこ』を良い方向に使おうとしただけ』

榊原『でも……深入りしなければ……もう災厄への対処法は分かってるのに……』

見崎『それも……私の事を心配してやったことだから……』

榊原『なんて馬鹿な事を……君が生きていなきゃこんな事しても何の意味もないのに』

見崎『でも……でもね、そういう榊原君が……私は好きだった』

見崎『私は未咲が死んでしまった後、自暴自棄になっていたのかもしれない』

見崎『クラスメイトの死に対してもどこか諦念の観があった』

見崎『『いない者』にされる自分に対しても特に残念と思うこともなかった。でも榊原君はそうじゃなかった』

見崎『『対策』とは言っても『いない者』にされる私の事を心配してくれたし、『災厄』を止める方法を本気で考えてた』

見崎『私が『死の見える目』を持ちながら、行動を起こさなかったのとは大違いね』

見崎『もともと好奇心旺盛っていう面が影響していたのも否定できないけど』

見崎『私はそういう榊原君にだんだん惹かれていった』

見崎『……だから、今回の『計画』を昨年度に知った時も私は「榊原君らしい」と思ったよ』

見崎『もちろん協力するつもりだった。でも、さすがに深入りし過ぎたようね』

見崎『あの事故であなたが死ぬ可能性がなかったともいえない』

見崎『『災厄』のことがこれ以上分からなくても『対策』はあるし、いざとなれば『死者』を死に還すという方法もある』

見崎『結局あなたにその仕事を押し付けるような形になって………本当にごめんなさい』

見崎『私の『目』は……榊原君が自由にして下さい』

榊原『…………』

見崎『……そんなに落ち込まないで。もし私が『災厄』によって死んだのなら、いずれあなたにまた会えるかもしれないし』

見崎『その時は、榊原君は先生ということになるけれど』

見崎『私は他の災厄による死者と同じように『還るべき場所』に還らなきゃいけない』

見崎『…ありがとう……最後まで話を聴いてくれて。榊原恒一くん…………さようなら』






榊原『僕は…………認めない、こんなこと。今からそっちへ行く』

ガタンゴトンガタンゴトン……

榊原(様子がおかしいから新幹線に乗る前でちょうど良かった。ここなら折り返して2時間あれば戻れる)

榊原(……わざわざ時間を指定したって事は事故に遭う時刻も……決まっているはず)

榊原(新幹線に乗ったのを確認させたという事は……逆に言えば乗る前なら間に合うということ)

榊原(駅から僕の家か鳴の家の経路のどこかか……)

榊原(携帯はあれから通じないか……)

榊原(どうか……間にあってくれ……)

【2時間後……】

タッタッタッタッ

榊原「見崎!……見崎!」

榊原(どこにいるんだ……)

榊原(そんなに長距離ではないから……探せば見つかるはず……)

ハァハァハァ……

榊原(河川敷には……いない)

榊原(公園にも……)

……

榊原(…結局彼女の家の前まで来てしまった……)

榊原(……根拠がない訳じゃない……彼女が言った事と……)

榊原(他の不可解な状況……まだ……決めつけるのは早い……)

榊原(しかしこれはもはや自分の力でどうこう出来る問題では……)

榊原(待つしかない……のか?)


榊原「!」

榊原「見崎!…見崎!」




見崎「………榊原君?どうして……」

榊原「…新幹線に乗る前に折り返してきただけだよ」

榊原(間にあった…………でも質問したいのはこっちだよ)

榊原「それより何だよあの電話。ウソ……とは言わないけど、でも……」

見崎「……!」

榊原「!見崎、危な 

キキィィィィィィィィ   ドガッ


……………………

【4月中旬】

病室

榊原(……ここは……)

榊原(……病院、か…………)

榊原(事故にあった……んじゃないなこれは)

榊原(さすがにもうこれで打ち止めにしてほしいよ、気胸は……)

榊原(……!)





見崎「目は……覚めた?」

榊原「…さすがに好きな子の姿見れば、目も覚めるよ」

見崎「あの………ごめんなさい。余計な心配をかけさせてしまって……」

榊原「いいよ……どっちにしろあの時点では判断するのは不可能だった…」

榊原「ウソは言ってないしね、ウソは……あの時鳴は自分の事を『災厄によって蘇った』と言ったが……」

見崎「『自分が死者だ』とは言っていない」

榊原「確かにな。ついでに死の色が見える、とも言ったが……」

見崎「どういう風に見えるかは言っていない」

榊原「死の色が見えるから……死んでいるわけじゃない」

見崎「ただ…………ずっと生死の境を彷徨っていたのは本当……らしいけど」

榊原「まったく……本当に『イレギュラーづくしの災厄』だったな」

見崎「私も……生きたまま別の形で蘇るなんて……想像できなかった……」

榊原「本当の鳴は去年の事故で1年間昏睡状態……」

見崎「だから、今の私も車椅子……」

榊原「僕が気胸が治った後も……なんで病院に通っていたのかやっと分かったよ」

見崎「その記憶は……本来、というか今の恒一くんにはない記憶のはずじゃ?」

榊原「おじいちゃんが時々言ってたんだよ……98年度の時も……改竄されてなかったことがあったし」

見崎「なるほどね……恒一くんは目を覚まさない私のお見舞いに来ていた、と」

榊原「どうやらそういうことらしい」

榊原「……よくよく考えてみたら……本当に鳴が死者だったら99年度も災厄が続いてもおかしくなかった」

見崎「このケースにどの程度通常の現象の話が通用するかはおいておいてもね」

榊原「ともあれ………本当に無事で良かった」

見崎「恒一くんも……ね」

榊原「あ……そういえば今日はもう…………」

見崎「……安心して。今年は『ない年』だから。私……確認してきたから」

榊原「そっか…………これで僕は安心して……東京に戻れる訳か」

見崎「そうね」

榊原「必ず…………戻って来るから。約束する」

見崎「……うん……私も恒一くんと一緒になれるように頑張るから」

榊原「……それまで少しの間、辛抱だね」

見崎「少しの間…ね」

……………………

約X年後

さすがに99年度があんなことになって……といっても事情を知る者はごくわずかしかいないが……

ともあれ予測通り、あれ以降X-1年間は現象は起こらなかった

ただし、また現象が起こったとしても対処方法はわかっている

『いない者』対策とは違って2人の共同作業だ

今年ももうすぐ新学期の時期

幸いにも今年も僕はこのセリフを聴く事が出来る―――――

鳴「今年もよろしくね、榊原君………………いいえ、榊原先生」

恒一「こちらこそ。……見崎先生」

おわり

>>274
作者じゃないので当たってるかは分かりませんが(上の方にも書いたけど)
98年度(アニメ)の災厄停止後に死んだ人を居る者として扱う→鳴事故→SSの最初~現在(99年度の2度目の3年生)
最初の恒一は改竄を受けているので鳴の事が分からない
鳴は生きているけど蘇っていて98年度の記憶がある(生霊的な?)
鳴自身が自分が災厄で死んで蘇ったか確証が持てないのでSS後半の様にこれでお別れみたいな状態になっているのかと

最終的に恒一くんと鳴ちゃんは生きててアニメで死んだ人達は死んでるって事でいいの?


綺麗に終わったな
>>277
98年3月末の事故で鳴が1年間昏睡状態(その後車イス)→99年の再現では鳴がケガ無しで甦る
→死に近いので自分に死の色が見える
これで合ってる?

分かりにくかったみたいですいません。全体的な話の流れは>>280>>284で合ってます

>>282
基本的にはそうです。死者の数を曖昧にしたのは各媒体で違ってるというのもありますが

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