雪歩「不届」 (31)
書き溜めありです。
クッソ短いですがのんびり投下していきます。
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今日は日曜日。
お仕事もお休みなので出かけてみようと街に出てみました。
お気に入りの白いコートを着て白いベレー帽を被る。
今日は雲もなくて真っ青なお空が気持ちいいです。
雪歩「ふぅ、いい買い物しちゃいましたぁ~。ふふふ。」
お茶のお店で良い茶葉が安く手に入りました、明日事務所に持って行って早速淹れてみましょう。
雪歩「ん?あれは…。」
車道を挟んで反対側にプロデューサーの姿を見かけました。
隣には知らない女性。
私の知らない笑顔を、その人に向けているのが無性に悔しくて走ってその場を離れました。
プロデューサーに恋人がいるらしいというのはずいぶん前から事務所内では知られていました。
美希ちゃんはや春香ちゃんなんかは目に見えてスッゴク落ち込んでいたけど、最近では元気です。
表面的にはそう見えるだけかもしれませんが。
落ち込んでいたのは二人だけじゃありません、あずささんも、響ちゃんも、そして、私も…。
どうして、あの人なんだろう?
どうして、プロデューサーを好きになってしまったんだろう?
私の想いは届かない。
だからこの想いは、私の胸に閉しまっておこう。
プロデューサーに恋人がいると知ったその日に、そう決めました。
それは、息ができなくなるくらい苦しくて、あなたを好きという気持ちそのものが私の胸を蝕んでいく。
家に帰るとお父さんに心配されちゃいました。
それだけ暗い顔をしていたんですね…。
部屋に戻って落ち込んでいると呼び鈴が鳴りました。
雪歩母「雪歩~、お友達よ~。」
雪歩「…はぁ~い。」
呼ばれて玄関に行くとそこには、サイドテールがチャームポイントの真美ちゃんが立っていました。
真美「やっほ~ゆきぴょん!遊びに来たよ~!」
雪歩「真美ちゃん…。いらっしゃい。」
真美「急に来ちゃったけど、大丈夫かな?」
雪歩「うん、大丈夫だよ。」
玄関で立ち話をするのもなんなので部屋に案内します。
真美「わぁ~、ゆきぴょんの部屋可愛いね!」
雪歩「そ、そうかな…?ありがとう、真美ちゃん。」
真美「さっそくゆきぴょんのベッドにダ~イブ!」
雪歩「へ?」
真美「と~う!」
私のベッドに思い切り飛び込む真美ちゃん。
ぼふっという音と共に布団に埋もれる。
真美「ん~、ふかふかだぁ。」
雪歩「あ、あはは。喜んでもらえてよかった…のかな?」
ふと今日買ってきたお茶の事を思い出した。
雪歩「真美ちゃん、私今日新しいお茶を買ってきたんだ。良かったら飲んでいかない?」
真美「お!ゆきぴょん新作のお茶ですな!これは飲まない訳にはいきませんな~。」
雪歩「本当は明日事務所に持っていこうと思ったけど、せっかく真美ちゃんが来てくれたからね。」
真美「わ~い!やった~!」
雪歩「ふふふ、淹れてくるから待っててね。」
茶葉を持ってキッチンに向かう。
今日買ったのは茎の部分のお茶で茎茶、または雁金茶なんて呼ばれたりするものです。
お湯を沸かしてまずは湯呑に注ぎ、軽く冷まします。
急須に茶葉を入れそこに冷ましたお湯を注ぎ1分半程待ってから均等に湯呑にお茶を注ぐ。
こうすることによってお茶本来の味が引き立つんです。
お茶請けも持ってお部屋に戻ると真美ちゃんは携帯電話をいじっていました。
雪歩「お待たせ~。」
真美「お、おかえりゆきぴょん!」
雪歩「お茶とお菓子持ってきたよ。」
真美「わ~い!お菓子だぁ!さっすがゆきぴょん!」
ソファーに座ってお茶をしながら他愛も無いことを話します。
学校や事務所のみんなとのエピソード等々。
すっかり話し込んで外が少し薄暗くなった頃、少しだけ表情を曇らせた真美ちゃんが言いました。
真美「ゆきぴょん、今日街にいたでしょ?」
雪歩「え?う、うん。」
どうして真美ちゃんがそのことを知っているのか不思議でした。
でも、その答えはあまりにも単純でした。
真美「真美もいたんだ、それでゆきぴょんを見かけたんだよ。」
雪歩「そうだったんだ、声かけてくれても良かったのに。」
真美「ん~、真美もそうしようと思ったんだけどさ、ゆきぴょん走って帰っちゃったから。」
そうか、真美ちゃんはあの時に…。
雪歩「そ、そっか。ごめんね、真美ちゃん。」
真美「何でゆきぴょんが謝るのさ?」
雪歩「あ、いや、何となく。」
真美「ゆきぴょんも、見た…んだよね。だから走って帰っちゃったんでしょ?」
雪歩「そ…れは。」
真美「隠さなくてもいいよ。」
雪歩「…うん。そう…だね。」
真美「そっか。」
重たい沈黙が私の部屋に流れる。
しかしすぐに真美ちゃんがそれを破った。
真美「あれ見せられたらキツいよね。にーちゃん超デレデレしてたし。」
雪歩「あ、あはは…。」
真美「ゆきぴょんはさ、まだにーちゃんの事…?」
今更隠しても無駄だと思い胸の内を話すことにしました。
雪歩「……本当は、何度も諦めようと思ったんだ。ううん、いっそ嫌いになっちゃおうって。」
言いながら天井を仰ぐ。
雪歩「でも、どうしてかなぁ。できなかったんだよね…。」
空になった湯呑に視線を落とす。
真美「どうして?」
雪歩「ん…わかんないや。あはは。」
真美「…どうして笑ってられるのさ?」
雪歩「真美…ちゃん?」
真美「何でゆきぴょんはそんな時に笑ってられるのさ!」
座っていた真美ちゃんが立ち上がり声を荒らげます。
突然の出来事に驚いてしまいました。
真美「辛いんでしょ!?苦しいんでしょ!?だったら泣けばいいじゃん!悲しめばいいじゃん!」
「なのにどうして笑ってられるのさ!」
雪歩「だって…もう、どうしようもないから…。」
真美「そうだけど…!」
雪歩「真美ちゃんには分かんないよ!」
「告白もしないで振られて、でもその思いをずっと胸に隠して。」
「苦しいのに、何もできなくて。それでも、好きで好きでたまらない気持ちが!」
「ずっと笑顔でいられた真美ちゃんにわかるの!?」
自分でも驚く程大きな声で反論していました。
真美「分かるよ!真美だって…真美だってにーちゃんの事…!」
大きな瞳でキッとこちらを見据える真美ちゃん。
そっか、真美ちゃんもプロデューサーを…。
真美「真美、まだ子供だけどその気持ちは痛いほど分かるよ。」
「分かるから、だからゆきぴょんが笑ってるのが辛いんだよ。」
私が笑ってるのが辛い?
雪歩「どういう…こと?」
真美「みんなの間でにーちゃんに彼女がいるって噂になってから、はるるんとかミキミキとか元気なかったのに」
「ゆきぴょんだけはずっと笑顔だった。」
「にーちゃんの近くにいる時は余計に。」
だって、笑顔でいなくちゃって。
この想いを悟られちゃいけないって。
真美「でも、真美見ちゃったんだ。」
「ゆきぴょんがにーちゃんのお茶を入れる時、とっても悲しそうな顔してるの。」
自分のお茶を美味しいと、嬉しそうに飲んでくれるあの人を見るのが好きだったのに。
今ではそれが辛くなってしまったから。
それを、真美ちゃんに見られてたんだ…。
真美「ねぇゆきぴょん、辛かったら、悲しかったら我慢しなくていいんだよ?」
雪歩「だけど…。」
真美「ゆきぴょん!」
雪歩「…本当は、泣きたいくらい、叫びたいくらいに悲しいの…。」
「隣に立ってるのが私じゃないのが、辛いの…。」
「もしもプロデューサーと顔も性格も全く瓜二つの人がいたらって考えたりとか」
「苦手だけど、真似してコーヒー飲んでみたりとか。」
真美「うん、分かるよ、真美もそうだったから…。」
雪歩「真美ちゃん…。ねぇ、真美ちゃんどうして笑っていられたの?」
真美「ん~、真美はお姉ちゃんだから。真美が元気ないと亜美が心配しちゃうでしょ?」
「亜美だって元気ないのに、真美の心配なんてさせられないよ…。」
雪歩「真美ちゃんも我慢してたんだね…。」
真美「…えへへ、お揃いだね、ゆきぴょん!」
雪歩「…うん…そうだね。えへへ。」
真美「大体さ、にーちゃんも酷いよね。こーんな美少女たちに囲まれてるのにさ!」
雪歩「うんうん!そうだねぇ!」
プロデューサーに苦言を呈しながらも、真美ちゃんの目は涙に滲んでいた。
真美「真美たちだってさ…っく…美たち…って…ひぅ…。」
雪歩「うん…うん…。」
真美ちゃんに釣られて私の視界も滲んでいく。
真美「うぁぁ…うあああああああん!!」
雪歩「真美…ちゃぁん…ひっく…。」
そして、私たちは大声で泣きました。
泣いて、泣いて、涙も出なくなったらスッキリしました。
プロデューサーへの想いは、まだ諦められてないけれど。
少しだけ、前を向けたような気がします。
ありがとう、真美ちゃん…。
いつか、いつの日か私の事を好きになってくれる人と想い合えたらいいなぁ。
Fin
終わりです。
雪歩の「恋」のカバーを聞いてたら書きたくなってやってしまいました。
勢いだけで深く考えずに書いたので色々粗が目立つかもしれません。
ゆきまみになったのはその場のノリですが、好きな方がおられて一安心です。
あ、タイトルは「ふとどき」ではなく「とどかず」と読んでいただけると嬉しいかな~って。
不殺で「ころさず」的な感じで。
完全に造語ですいません。
それではこの辺で。
少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
お目汚し失礼いたしました。
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