澪「ねかふぇ!」(132)


澪「また今日もネットカフェか…」

財布の中身を眺めつつ、澪はポツリとそう呟いた
どうしてなんだよ、今日こそは、久しぶりに宿屋で眠れると思っていたのに!
日雇いの仕事もちゃんとあったし、食費も極力抑えたはずだ
それなのにどうして、たかだか一晩3000円が出せずにいるのだ?
もう3日も連続でまともに横になって寝ていない
毎度のこととは言え、もう我慢の限界だ

澪「ちくしょう…!」ガッ

そばにあった簡易旅館の看板に、思い切り悪態を付いた
しかし、そうしたところで何かが変わるわけではない
足取りは自然と、常連となったいつものネットカフェに向かっていた

ネオンがきらびやかな繁華街を一人歩く
時間は九時を回っていて、本来なら世界はもう真っ暗なハズだが
奇妙なまでに明るい電飾がいたるところにあるお陰で
この辺りはまるで昼間のように光に包まれている

澪「嫌いだな、この道」

いや、嫌いと言うよりか、怖いのかもしれない
もちろん、人がたくさん居るからだとか
キラキラ輝く看板がうっとおしいからとか言う理由ではない

むしろ、そのような光の世界は好きな方だ
怖いのは、光からそう遠くないところにある、陰の世界…

路地裏に目をやると、行き場を失ったホームレス達が
段ボールにくるまり、まだまだ寒い外の空気に耐えている

それはまるで、明日の自分を見ているように思えるのだ

何分歩いただろうか、やっとネットカフェにたどり着いた
しかし、気分は決して良くならない。むしろ、さらに悪くなった

これは私の自論だが、ネットカフェというところは
およそ人間が眠ることのできる場所では無い

理由は2つある。1つは、基本的にすべてが不衛生なのだ
アリ、ゴキブリの出没は日常茶飯事
畳のあるスペースで横になったら、翌朝にはダニに食われていたこともあった
最近建った場所や質のよい店舗に泊まればそういうことは無いが
なにぶん料金が高くなってしまうのでやめておく

          / ̄ ̄\
         l(itノヽヽヽl

      三  ノリ(l| ^ q^ ノi <あうあうあ~(^q^)/
     三  ./  つ  つ
     三  (  -.、  .イ
      ● `ー;_,/ `;_/

●●●●  ブブブー

そして二つ目の理由、
部屋と部屋との仕切板が薄く、隣の音が筒抜けなのだ

大したことないじゃないか、と思われるかもしれないが
実は、これはネカフェで宿泊する上で最も厄介な問題であったりする

例えば隣がナリの良いサラリーマンなら、なんの問題もないだろう
普通に眠れるし、普通に目覚めることが出来る
しかし、大抵やってくるのは汚いおじさん、さもなければカップルだ
こうなると、まったくもって安眠など出来ない
前者なら歯ぎしりや酷いイビキ、後者なら喘ぎ声に愛の言葉
どちらにせよ、究極的に眠りの障害になるわけだ
まあ、一晩、二晩泊まるだけなら我慢できるが
頻繁にとなるとノイローゼになってしまう

そういうことで、私はネカフェが大嫌いなのである

しかし、そう不満ばかりも言って居られない
時計の針はもう11時を示している

澪「今ナイトパックで入れば、七時までは大丈夫だな」

などと哀しい計算をした後で、渋々と店内に入る
ふと、店員と目があった。女子高生のような幼い顔立ちだ
黒髪にツインテールという髪型は、どことなく、高校時代の後輩に似ている
その店員自体は初めて見る顔だったが、私は妙に親近感を覚えた

店員「ナイトパックをご使用ですね?」ニコッ

微笑みながら、そう訪ねられた
ほう、声も少し似ているな


澪「お、お願いします」

店員「はい、少々お待ち下さいね」

ますます、似ている。
自然に、高校時代の思い出がすっと、頭をよぎった
あぁ、あの頃は、すっごく楽しかったなあ…

しかし、私はそこで小さな違和感を覚えた

澪(…なぜ、コイツは私が一泊すると分かったのだろう?)

いくら深夜の時間帯とは言え普通なら、何時間利用するか聞くはずだ
馴染みなら、聞かなくても分かるのが普通なのかもしれないが
この店員に接客してもらったのは今日が初めてなのに…
そこで、ふとヤツの顔を見て気づいてしまった

澪(こいつ、鼻を…鼻を、抑えてやがる!!)

澪ちゃん見てるといつもちんぽ勃起勃起~
揺れるおっぱい揉みしだきたいよ澪ちゃん~
いつもセックス~(いつもセックス)いつもオナニー(いつもオナニー)しててもきづかないよね~
夢の中なら~(夢の中なら~)2人の距離縮められるのにな~
ああ神様お願い~澪ちゃんとのパコパコタイム下さい~
お気に入りのラブホ見つけて今夜も中出し~
パコパコタイム~パコパコタイム~パコパコタイム~パコパコタイム~パコパコタイム~

そう言えば、昨日は疲れていてシャワーを浴びなかった
いや、もしかしたら、一昨日も、その前も…

澪「わ、わわ私、もしかして…」

目の前が真っ暗になり、ハンマーで殴られた気がした
急に、自分と、自分の置かれている状況が怖くなってきた
ぶつぶつ文句を言っている暇はない。早く、状況を改善しないと!

澪(このままじゃ、本当にヤバいかもしれないぞ…)

とりあえず、入ってすぐにシャワーを浴びよう
そして明日、明日こそは住所と定職を見つけないと…!

まさか、まさかの展開だった
今までにも何度か疑ってはいたが
今日ほど神様の存在を否定したくなった日はない

澪「部屋が…満席だ、と?」

夜空を見上げながら、またしてもポソリと呟く

これからどうすればいいのだ
近くのネカフェはみんな当たったが、どこも満席で使えない
不思議になって尋ねてみるとどうやら、電車事故が起きたらしい
おおかた、タクシー代をケチりたいがために
サラリーマンとかOLが一斉に宿泊しているのだろう

澪「この分だと、どこへ行っても無駄、となると…」

野宿の他に選択肢はない

二時間ほど公園のベンチに横たわって、気づいたことがある
外で眠ることを思えば、ネカフェは天国のような場所だということだ
ゴキブリが不衛生とか歯ぎしりがうるさいとか
もはやそんな次元ではない、最低最悪の寝心地だ

澪「これは、無理だな」ガタガタ

おそらくこのまま寝ていては死んでしまう
震える体で、近くのマクドナルドへ逃げ込んだ

ネットカフェ難民とホームレスの間くらいの階級に
"マクドナルド難民" というものがあるのをふと思い出した
なんでも、ネカフェに泊まる金は無いが野宿は嫌だという人が
マクドナルドで100円コーヒーを頼んで、朝まで過ごすのだそうだ
机につっぷしてしまっては追い出されるかもしれないが
背もたれによりかかる分にはセーフとか、いろいろ決まりがあるらしい

澪「まさか、私がそうなるとは思いもしなかったけど…」

ホットコーヒーを片手にそんな愚痴を言ってみたが
そんな中で、すごく安心している自分があった

寝転ぶことも、シャワーを浴びることも出来ないけれど
屋根がある、他に人がいる、それだけで
外とはまったく違うんだなあと、これもまた新たな発見だった

>>1の経験談だったりしてな

コーヒーを飲みほしてしまった
こうなると追い出されかねないので、新しく何か注文しに行く
お腹が空いたなあと思い、ハンバーガーを頼んだ
そう言えば、夕ご飯もろくに食べていなかった

店員「ご一緒に、ポテトもいかがですか?」

マニュアル通りの無機質なセリフがやけに脳内に響く
ふと、高校時代の思い出がフラッシュバックする。本日2度目だ

そうだ、この言葉、この何気ない言葉に
憧れを抱いていた友達が居たっけ。綺麗なブロンドの…

気がつくと、ハンバーガーと
頼むつもりの無かったポテトを机の上にのせていた

今日はヤケに、過去の思い出が甦る日だ
それこそ、誰かが仕組んだみたいに…
もちろん、本当のところはただの偶然なんだろうけど

澪(ムギと、梓か。今ごろ何をしてるんだろうな…)

ムギはお嬢様だから、良いところのボンボンと結婚して
今は優しい奥さんになっているんじゃないか?

梓は、分からないな…多分、キャリアウーマンだな
結婚とか恋愛とか、あまり興味なさそうだったし

そんな風にいろんなことを考えているうちに
外にはもう日が昇っていた

一睡も出来なかったにしては、とても体調が良い
今日ならどんな仕事でも出来るんじゃないかとさえ思う
唯一の仕事道具である携帯を開き、メールを確認する

新着メール:1件

登録している日雇い派遣会社からのメールだった
どうやら運良く、今日も一日仕事にありつけるらしい

澪「なんにせよ、取りあえず給料が貰えないと生きていけないからな」

いつものように業種や詳細は書かれていない
持ち物と場所、日給のみが記載されているだけだ

明らかに手抜きの対応だが、文句も言っていられない
幸いにも場所はここからすぐ近くだ。歩いて行こう


澪(しまった、今日のはハズレだ)

集合場所に着いた途端、顔から血の気が引いていくのが分かった
持ち物に耳栓とマスクを2枚以上なんて言うから
これは絶対おかしいとは思っていたけど、ここまでとは…

作業長「それでは各自にハンマーを支給しますから…」

ハンマーを支給って、なんだそれはコントか!
いや違う、これは決して笑いごとではない
ビルの解体作業なんて未経験もいいとこだが
とてつもなくヤバい、ということだけは分かる

澪(もう…帰りたい)

もうちょっと早く頼むよ…

解体の対象となるビルは、かなり昔に建てられたものらしかった
なんでも、去年までそこに本拠地を構えていた大会社が
不況の煽りを受けて倒産したがために、必要でなくなったらしい
当時は大ニュースとして国中を騒がせたらしいが
なにぶんテレビを見ていない、と言うか見られないので知らなかった

作業長「解体時にでる粉塵は絶対に吸い込まないで下さい」

作業員A「規定に従わなかった場合、命の保証はありません!」

ほらきた、絶対に危ない仕事だと思っていた
それにしても、命に関わる作業なのに市販のマスクで大丈夫なのか?
正規の作業員はちゃっかりガスマスクとか装着してますけど…

気にはなったが、考えると怖くなってくるので
なるべくこの件には触れないでおこうと誓った

澪(要は、吸い込まなければ大丈夫なんだから…)


作業長「それでは、作業を始めます!まずはこの鉄筋を…」

来たか!マスクを二重にセットし、死の粉塵に備える
背中には早くも冷や汗をかいていた

澪(うぅどうして私がこんなこと…)

あの作業員の言葉が、脳内で何度もリピートされる
死ぬかもしれないと考えると、今にも逃げ出したいのが本音だ

澪(…途中でこっそり、抜けてしまうかなぁ)

確かに仕事は大切だが、命には変えられない


作業員B「おらぁ!そこぉ!」

澪「ひいっ!す、すすすいませぇっん!」

ヤバい、逃げようとしていたのがバレたかな…?
やっぱり途中で抜け出すのは無理がありそうだ

そうなるとなにか、仮病でも使うしかない
とにかく、この仕事はしたくない、しちゃいけない、とにかく!

澪(気分が悪いとかが、妥当かな…)


澪「すいません、すいません」

防護服とヘルメットにガスマスクを装着した正社員に話しかける
こっちは市販のマスクとワケの分からない制服なんだから、大した待遇だ

作業員C「なんだ?派遣の人?」

明らかに派遣を見下した態度が尺に触るが
これから仮病を使って逃げるのだから、文句は言っていられない
まあ、女だと言うことをアピールすれば、そう難しくも無いだろう

澪「気分が悪くなってしまって…早退したいんです」

作業員C「あ~、気分?そんなもので決められても困るわ」

ううむ、そう甘くは無いんだな…
こうなれば、マスクをとって女ということを知らせるしかない


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        イ :.  "'''''''"';;;;:ミ .!
    r:::'::::::l  :..      `/
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     ホッシュ [Sred Hossu]
     (1875~1934 イギリス)


澪「あの…、すいません、でも…」スッ

マスクを取って、猫撫で声で訴えた
これでもダメなら、もう走って逃げるしかない

作業員C「………」

作業員はにわかに驚いた顔に変わった
いや、正確には、ガスマスクを着けているので表情は伺えないが
それでもなんとなく、驚いているんだと言うことは分かった

作業員C「お前……………」

騒音とガスマスクのせいで、相手の声が良く聞こえない
でも取りあえず、いけないと言っているわけではなさそうだ

私はぺこりと頭を下げ、早々にその場を後にした

作業員Cがりっちゃんだったら俺は爆死する

その時だった
全く予想もしていなかった出来事が起こった

作業員C「待て!」ガシッ

澪「!!!?」

心臓が止まるかのような衝撃だった
昔の私なら、確実に気絶していただろう

澪(なにか、気に障ることでも言ったのか…?)

作業員C「……澪、秋山澪、だよなっ?」

またも心臓が止まりかけた
どうして私の名前を知ってるんだコイツは!?
派遣先では番号で呼ばれるから、名前なんて伝えてないのに…

おそるおそる後ろを振り向くと、なおも予想外のことが起きた

澪「律…?」

                               ヽ`
                              ´
                               ´.

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気がつくと、私はまたマクドナルドに居た

澪(夢だったのか…?)

一瞬そう疑ったが、そうでは無いことはすぐに分かった
懐かしい顔が隣で座って笑っていたから

律「やっと目が覚めたかあ」

律がまだ作業服であることから察するに
おそらく、私はあの場で気絶してしまったのだろう

まあ、自分のことながら、無理もないと思う
…きっと、律がここまで運んできてくれたのだろう

澪「…すごく、驚いた、から、、、」

私はようやく言葉を発した

律「変わらないな、澪は」


澪「…律は、最近、どんな感じなんだ?」

聞かれる前に、聞いた

律「私か? どんな感じも何も、あんな感じさ」

はぐらかすような言動から見るに、多分言い辛いんだろう
でも、これで最後になるかもしれないんだ。聞いておきたい

澪「大学出てから、どんな風に進んだのかなっ、て」

律「うん、まあ、そうさな…」

律は恥ずかしそうに眉の上を掻いた
学生時代から自慢のおデコは、今でも健在だ

やがて、決心したように真剣な顔つきになる

律「…なあ、澪、甘い言葉で誘う男には、ロクな奴が居ないな」

>>71
ヤり逃げされた挙げ句シングルマザーか

カオスは好きだけど
好きなキャラが中古になってしまったとあっちゃ
1を潰すしかないな
お前等全力で行くぞ

>>72
おい予想するのやめろよ。
書き溜めしてないみたいだし、書きづらくなるだろ!

どういうことかは、聞かずとも、なんとなく、分かった

澪「…騙されたりしたとか?」

律「騙されたって言うか、…要はアレさ」

澪「アレ?」

律「…逃げられた、かな」

なるほど、それであんな仕事をしていたのか
いくら正規雇用だからと言って、あれをやりたくてやってる人は居ない

澪「でも、律は偉いよ、私なんて仕事すら…」

ここまで来たら、見栄を張らずに話してやろうと思った

しかし、それを制止したのは、他ならぬ律だった

律「止めろよ、辛気くさいのは面白くないってぇ!」

律は私に気を使ってくれたのだろうか
詮索しないどころか、話を遮るなんてよっぽど…

澪(でも、そういうところが律の良いところなんだよな…)

さらに、律が話を続ける

律「そう言えば澪、最近さ、楽器、触ってないだろ?」

澪「…う、うん、社会に出てからはいろいろ忙しくてな」

本当は、お金に困ってすぐ売っちゃったんだけど
そんなところで無駄に話を長くする必要はない

律「んっじゃちょっと付いてきてん♪」

律が連れて行ってくれたのは、小さな楽器店のようなところだった

澪「…ここ、楽器店だよな?」

律「ご名答!でも、ただの楽器店じゃあないんだぜー」

澪「…?どういうことだ?」

律「まあ、中に入れば分かるって」

澪(…律が経営してるのか?)

律が中に入れば分かると豪語していた割には
入っても大して変わったものは無かった
店員さんも普通だし、店内もいたって普通だ

強いて言うなら、店内にあるポスターや置物、サインなんかが
私が昔好きだったロックアーティストのものが多い気がした
あとは、規模の割にレフティ仕様の楽器が多く販売されていた

澪(でも、別にそこまで変わっているものは無いよなあ…)

律「…どうだ?ビックリして声もでないか?」

まったく分からない
なぜ律はこんなにニヤニヤしているんだろう?

いくらなんでも投下遅くないか
質が下がってもいいから5分おきぐらいにしてくれ


澪「…なあ、律」

律「なんだ?」

澪「…この店の、どこがどう凄いんだ?」

聞いてしまうのは恥ずかしい気もしたが
まったく分からないのだから仕方無い

律「え~、分かんないのかよぉ」

澪「分かんないから聞いてるんだろ?」

律「ヒントは店員さん」

澪「店員さん?」


澪「店員さんならさっきも見たよ、普通の人だったろ?」

律「そうじゃないんだって、これは」

律はやれやれと首を振った

律「もう一度、きちんと見て見ろよ」

ワケが分からなかったが、言われた通りにやってみた

栗毛のゆるいパーマのロング、茶色い瞳、落ち着いた身のこなし
背は高くも低くもないけれど、すっきりした顔立ちで大人らしい…

確かに美人だが、絶世の美女と言うほどでもないし…

澪「やっぱり普通の女の人じゃないか?」


律「んだよぉ、分かんないのか…」

「分かるもなにも、変なところなんてどこにも無いだろ?」
そう言おうとして、ハッと気づいた
店員さんのことではない、レジの後ろの棚を見たのだ

澪「…写真、、、」

そこには、高校の軽音部で一番初めに撮った写真が置かれていた

律「…写真? あ、本当だ」

気づいてなかったのかお前は

      たくあん            ヒソヒソ・・・      「明日もちゃんとお菓子持ってきてね」
「ムギちゃん、ここの支払いよろしくね♪」      たくあん

    でぶたそ                                     たくあん
た            私○○するのが夢だったの~(笑)                
く    ゲル状がいいの(笑)                           1人浮いてる
あ        たくあん             人数合わせ

ん                                    「お菓子忘れた?家帰って取ってこいよ!」
     焼きそば~(笑)  焼きそば~(笑)                
                           / ̄ ̄ ̄\                 ムギビジョン(笑)
 大した怪力だ                ./ △    △ \        たくあん
                        /  <○>  <○>  \               たくあん
       人気最下位         |    (__人__)    |   財布女(笑)  
              たくあん     \    ` ⌒´    /
軽音部のATM               /             \    「先輩!紅茶早く淹れてください!」


澪「あ、あれが飾ってあるってことは、このお店ってもしかして…」

律「そうだぜ~」

澪「じゃ、じゃあ、あの店員さんはもしかしてムギ…」

律「唯な」

澪「!!?」

なんともまあ、人は変わると言うけれど
ここまで劇的に変わるもんだなんて、信じられない

参考画像

その晩は、三人で飲み明かした
近くのスタジオを借り、お店の楽器でセッションしたり
高校・大学時代の思い出話に花を咲かせたりした

久しぶりにシャワー浴びたり
きちんと横になって眠ることも出来たので
文句無しに楽しいひとときだった

そんな中で、唯が時折寂しそうな目で遠くを見つめているのを
私と律はまったく気づいていなかった

ああ、憂が死んだもんな

翌朝は、前日にも増して体調が良かった
この調子だと、ビルの解体工事もいけそうな気がしたが
日雇いだし、今日も同じところへ派遣されることは無いだろう
私は二人に別れを告げ、携帯を見ずにハローワークへ向かうことにした

それにしても、どうしてこんなに立て続けに
高校時代の思い出が甦るような出来事ばかり起こるのだろう

澪(ここまで来ると、もう偶然では済まされないよな)

なにか、これは運命のような気がする
何が起こるかは分からないけど、きっとなにかが起こる

そんな気がして、ならなかった

常に同じメンバーと絡む苦痛を味あわずにすむだろ
むしろ治験とかすればいいのに

ハローワークに着くと、そこは既に超満員だった

澪「平日の昼間なのに…さすがだな」

見渡す限り、誰もが職を探していた
定年間近のおじさんから、高校生まで
男も女も、ホームレスのような人も、高学歴そうな人も
まさに老若男女が集っている感じだ

澪(私も、負けているわけには行かない)

唯「一言もしゃべれないだと……」

しかし、超氷河期の大寒波は、私の想像を遙かに越えて厳しかった
新卒以外が企業に採用されようと思うと、資格や経験が必要になるのだ

澪(資格も経験も、そんなに大したものは持ってないなからな…)

今日は無理かもしれないな…
やはりまだ当分はバイトと日雇いで食いつなぐか

ふと立ち上がって周りを見渡してみると
やってくる人は多いのに、帰る人はほとんど居ない

澪(…やっぱり、もう少し頑張ろう)

席にもう一度腰掛け直し、またも画面とニラメッコを続ける

    ,. : ⌒': く⌒Y´: : : : : : : : : : `ヽ、

   ∠ィ: :>‐‐(⌒! : : : : : : : : :  : : : :.\
     |/: : : : /`7: : : : :! : : : : :! : :ヽ : : :ヽ
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.   厶イ/: : :,': :./ \ \/ / V!: | : : : : :\__

     /: :: : :厶イ           V : : : : ヽー '´
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    , : : : |.: : : :.! /んィi     んィi 〉!: : :.!: : : |
    !:! : : |: : : : |ヽ Vツ    Vツ i: : : |: : : {

    |ハ: :.ハ : : : i  ' ' '    '  ' ' |: : : ト、: : :>
      ', : :V: : :!ヘ    (  ァ   ハ : : | \| ___n そろそろまぜろよ
.      乂: :\:.|W> 、    ,. <  V从  /       })
        ` ー え::::::::∧`二´V`T::¨:>'" ̄     / }
        /:.:.:.:\:::::∧__∧:::|/        /x-く
       /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.',::::∧  /          / /:::::::ハ
      ∠n:.:.:.:.::.:.:.:.::.:.V:::::!./          /  ∧::::::::ノ
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\}:://⌒'⌒'⌒ヽ /    /.:.:>'´
  /(| .........       \/       /   |/:.:.:/
  |:.:.:.:\   \      \____,/    |:.:.:/

隣の人が席を立ち、画面から離れた
表情や態度を見ると、どうも良い結果では無かったようだ

澪(みんな、大変なんだな…)

周りの空気はとても殺伐としている
なんだか、ただ座っているだけで自然に
ストレスが溜まってしまう、恐ろしい環境だ

隣の席に、また違う人が腰を下ろした。その間、たった数秒程度だ

澪(職を探す人は、本当にたくさんいるんだな)

何とはなしに隣をチラリと見る、その瞬間、席の人とふと目が合った

それは、見覚えのある顔だった
かつての軽音部のメンバーだった、最後の一人だ

澪「ムギ…!」

紬「澪…ちゃん?」

澪「久しぶりだな~!」

会いたいとは思っていたが
まさかこんな場で会うとは思ってもみなかった

紬「澪ちゃん、なぜ、こんなところに…?」

それはこっちのセリフだろう
校内一のお嬢様だったムギが、なぜハローワークに?


澪「ムギこそ、どうして居るだ!?」

ムギは、一瞬すごく驚いたような顔をした
そして、少し疑うような、確認するような目で、こちらを見る

紬「み、澪ちゃん…、本当に知らないの?」

澪「…知らない?」

もちろん、知らないから聞いているんだろう

紬「…ニュースとか、見ないの?」

澪「最近は、全然見てないな」

紬「そう……」

お金が無くなったムギに価値は

なにをするだ……

>>109
ミスった
一行目 >澪「どうして居るだ!?」

訂正 澪「どうして居るんだ!?」

澪「ごくうさ!いい加減にしてけろ」とかいいそう

話を聞いてみると、ムギの家の会社は半年も前に倒産していたらしい
あの解体作業のビルも、元はおそらく琴吹家のオフィスだったのだろう

紬「少し前まではお金があるせいで何も出来ずに悩んでいたけど…」

紬「お金が無い方が、よっぽど何も出来なくなるんだって分かったわ」

これまでの自分のことを話している間
ムギは終始悲しそうな表情を浮かべていた

澪「ムギ…一緒に頑張ろうよ」

紬「どうもありがとう、澪ちゃん…」

その晩は、ムギと簡易旅館に泊まることになった
結局、ハローワークで採ってきた仕事は一つも無かったが
それ以上に、今日の行動は意味があった気がした

澪「ムギ、実は私にはアイディアがあるんだ」

紬「アイディア?どんな?」

澪「生活を再建するためのアイディアだな、それも明確な…」

紬「聞かせて聞かせて!」

澪「名付けて、放課後ティータイムネットカフェ作戦」

紬「まあ!」


根拠こそ無かったが、春はすぐそこだ、そう感じた
厳しい寒さの果てに訪れる春の音色を、私は、聞いていたのだ


眠てええ

             _ ,,,   ,, _
         ,  ´         `  、

         '       i .     、     \
      ./     /       :..    ヽ .    、\       -、
      /     /  /  ∧ ::::..    'i  :::.  ヽ ` ー- ._,ノ
     ,'     /   l  /  ヽ :l\    l  ::::.   ', ',
.     l     r 、  | ./`ヽ〟\  ヽ_、 .A ::::::.   l i
    |  :: l {`ヽY! l      `   ヽ! \;:::::.  ! |
.    l/ ::..:| iドヽl `γ=く       γ=く   l:::: ∥ ハ
    /  :::.:| |:i ハ. |{、 ,}}       {{、,}}  ハ ハ ハ
    // ::::::l .い,ハ  ゙ー'’       ゛ー'’ f::::レヘ l/  ',      冗談だろ!?
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  {ハ :::! ::::::l .ハ ::. ',.    |__|     ,ノ:::::: l  l: !
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  .l! ゝ ', ',   ::\ ハ. 「 ー ァ、::::::::´ノ::::::::ト::::::::: ! /./
   `  `ー、ヽ、 ::| \', |\ / | V/、::::;ィハ::::::: / /ノ′
    /´ `ミ ヽ}   l/、 /:.ヽ| ',  \′ リ: /ノ

   /     \l |    ∨|f'l N  〉 i  \ l/

ていうか本当は野宿する場面で軽音部のこと思い出すときに
実はそれが走馬燈で翌朝には澪は死んでいて終わりだったんだ
かわいそうになって生存させたらオチが着かないのなんの
結局大したことない締めくくりで徹夜だからやりきれないよ

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