サシャ「隠し味なんてどうでしょう?」(233)


・サシャ「それが醍醐味なんですよ」の続きです


―― 深夜 女子寮 ユミルたちの部屋

サシャ「……」ジーッ...

ユミル「おいサシャ」

サシャ「はーい、なんですかー?」

ユミル「いや『なんですかー?』じゃなくてさ。さっき部屋に帰ってきてからず――――――っと外見てるけどよ、それって楽しいのか?」

サシャ「楽しいですよ?」

ユミル「雪降ってるだけだろ」

サシャ「雪って、少し風が吹けば落ちる方向が変わるじゃないですか。雨と違って降り方が一定じゃないので、見てて楽しいんですよね」

ユミル「ふーん……それは、毛布にくるまって、机の上に座って、窓に張りついてまでして見るものなのか?」

サシャ「そうでーす」パタパタ

ユミル「クリスタなんかとっくに寝たぞ? 寝ないと身長伸びないぞ?」

サシャ「私も寝たいことは寝たいんですけど、どうも空腹で眠れそうにないんですよね。何か持ってません?」グー キュルルルルルル...

ユミル「ない」

サシャ「そうですか。残念です」


ユミル「取り敢えず机の上から降りたらどうだ? はしたないぞ」

サシャ「だって、ここが一番見やすいんですもん。ベッドの上からだと、窓の外なんて全然見えませんし」

ユミル「だったらせめて椅子に座れよ。落ちたら痛いぞ」

サシャ「落ちませんよ。子どもじゃないんですから」

ユミル「……」

サシャ「……」ジーッ...

ユミル「なあサシャ」

サシャ「はーい、なんですかー?」





ユミル「お前、いつになったらあいつとくっつくんだ?」

サシャ「」ズルッ ボタッ


ユミル「よし、落ちたな」

サシャ「……………………え、あの、くっつくってどういう……?」ヒリヒリ

ユミル「んなこと今更言わなくてもわかるだろ。――で、どうなんだ? その気はあるのか?」

サシャ「そりゃあ、ないわけじゃない、です、けど…………」

ユミル「そうかそうか、そりゃあよかった。――それで? 細かい日時はお決まりですか?」

サシャ「えーっと……もうちょっとしたら、です」

ユミル「だからそれはいつだよ」イライラ

サシャ「……えと、卒団する時とか」

ユミル「……」

サシャ「……」

ユミル「遅ぉいっ!! 遅すぎるっ!!」バンッ!!

サシャ「ユミル静かに! クリスタはもう寝てるんですから!」シーッ


ユミル「もし仮にだぞ? お前、十番内に入れなかったらどうするつもりだ? 憲兵団に入ったあいつと遠距離恋愛でもすんのか? あ?」

サシャ「え? えーっと、そうなるんでしょうか……?」

ユミル「なるんでしょうかじゃねえよ私が知るか。――第一、お前はあいつとどうなりたいんだ? はっきり言えはっきり」

サシャ「そりゃあ……隣にいたい、とは思ってますけど」

ユミル「だからぁ、お前がどうなりたいのかじゃなくて、あいつとどうなりたいのか私は聞いてるんだよ」

サシャ「そんなこと言われても……」


ユミル「お前まさか、あいつから言ってくれるのを待ってんじゃないだろうな?」

サシャ「ちっ……! 違いますよ、そういうわけじゃないです! ……ちゃんと、自分で言います」グー

ユミル「ああそうかい。――今のうちに忠告しておくけどな、ライナーからお前に伝えることはまずありえないぞ。絶対とは言わねえが」

サシャ「……なんでユミルにそんなことがわかるんですか?」グーググー

ユミル「悪いが、情報の出処はまだ明かせない。だがまあ……女の勘みたいなもんだな」

ユミル「それで、どうするんだ? このまま手遅れになるまで待つのか?」

サシャ「それは、その……」グーグー

ユミル「……」

サシャ「……」グーグー

ユミル「その緊張感をガンガン削る腹の音をなんとかしろぉっ!! うるっせえ!!」ダンッ!!

サシャ「じゃあ何か食べるものをくださいよぅ!!」グーグーグーグー


ユミル「取り敢えずだな、お前はもうちょい女らしくしろ」ペシッ

サシャ「あうっ。……一応これでも気にしてるつもりなんですが」

ユミル「手鏡で身だしなみを気にするようになったのはいい傾向ではあるけどな。もうちょい危機感持ったほうがいいぞ。どうせお前なんか飼い犬くらいにしか思われてないだろうし」

サシャ「いっ、いぬぅっ!?」

ユミル「ああ。スキンシップ過多の食い意地の張った犬な」

サシャ「私が……いぬ…………? 人ですらないなんて……――でっ、でもかわいいって前に言ってくれましたよ!?」

ユミル「飼い犬を褒めない飼い主がどこにいる?」

サシャ「」


サシャ「……」

ユミル「おい大丈夫か? 座ったまま気絶してるんじゃないだろうな?」

サシャ「……ユミル、決めました」

ユミル「? 何を?」



サシャ「私、明日からおしとやかに生きます……!」グッ



ユミル「おう、無理だろうけど頑張れー」

ユミル(……ま、これくらい発破かけときゃ、サシャも多少は焦るだろ)


―― 深夜 女子寮 ユミルたちの部屋



                          \グーグー キュルルルルル.../



ユミル(……ああもう、うるさいな。いつまで腹鳴らしてんだサシャの奴)

ユミル「……」

ユミル(お菓子、あったかな)ガサゴソ

クリスタ「――ユミル、ユミル。起きてる?」ヒソヒソ ツンツン

ユミル「なんだよクリスタ。夜這いか?」ゴロン

クリスタ「そうだよ。だから一緒に寝よう?」

ユミル「……珍しいな、クリスタから来るなんて」

クリスタ「ちょっとね。入るよ……よいしょっと」ゴソゴソ


ユミル「ほら、寒いからちゃんと肩まで毛布かけろ」バサッ

クリスタ「うん。ありがと、ユミル」モゾモゾ

ユミル「こうしてわざわざ来たってことは……さっきの話聞いてたな?」

クリスタ「サシャが机から落ちた音で起きちゃったんだよね。それに、もし喧嘩になるようだったら止めに入ろうと思ってたから」

ユミル「……心配かけて悪いな」

クリスタ「いいよ、かけても。――私たち、友だちでしょう?」

ユミル「……ん」


クリスタ「ねえ、さっき話してた『女の勘』っていうのは、私にも教えてもらえないの?」

ユミル「ああ。……ごめんな」

クリスタ「ううん、いいよ。隠し事は誰にだってあるもんね」

ユミル「……まだあいつには早かったかなー。こういう話」ゴロン

クリスタ「そうだなぁ……サシャにはサシャのやりかたとかペースがあるからね」

クリスタ「でも、ユミルの言い分も私にはわかるし、サシャだってちゃんとわかってると思うよ?」

ユミル「わかってるかぁ? ずっと腹鳴らしてたあいつがぁ?」ゴロゴロ

クリスタ「わかってるよ。ユミルがいじわるで言ってるわけじゃないってことも、ユミルがサシャのことを心配してるってことも、ちゃんと通じてるよ。一緒に生活して、もう三年にもなるんだもん」

ユミル「ああそっか……お前らとも、結構長い付き合いになるんだな」


クリスタ「……実はね。さっきの話聞いてて、ちょっと羨ましかったんだ。サシャとユミルのこと」

ユミル「羨ましい? なんで」

クリスタ「ユミルはさ、私やミカサと言い争いするサシャを見たことある?」

ユミル「……そういやないな」

クリスタ「だよね」ニヤニヤ

ユミル「なんだよ、変な笑い方して」

クリスタ「ふふふっ、なんだか嬉しいなーって」

ユミル「嬉しい?」

クリスタ「ユミルに、私以外のお友達ができたんだなって思ってさ」

ユミル「……生意気だぞ、クリスタ」グニッ

クリスタ「いひゃいよ、ゆみうー」

ユミル「さっさと寝ろ。お肌に悪い」ペチンッ

クリスタ「あうっ……もう、照れ屋さんなんだから」ボソッ


―― 数時間前 男子寮 エレンたちの部屋

ライナー「ただいま……なんだ、みかん臭いな。この部屋」ガチャッ

マルコ「やあライナー、おかえり」ムキムキ

ジャン「邪魔してるぞー」モグモグ

エレン「ライナーも食べるか? みかん」シュッ

ライナー「おっと。――投げるなよ、危ないぞ」パシッ

アルミン「そうだよエレン。衝撃を加えたらおいしくなるって言ったけど、落としたら元も子もないよ?」

エレン「ライナーはそんなヘマしねえから大丈夫だよ。――しっかし、不思議だよな-。投げたり揉んだりすりゃ甘くなるなんてさ」モグモグ

アルミン「……調べてこようかな。仕組み」スクッ

エレン「やめとけって。第一、とっくの昔に資料室は閉まってるぞ」ガシッ


ライナー「このみかんはコニーのだよな? ……で、コニーとベルトルトは机に向かって何やってるんだ?」

アルミン「お勉強」モグモグ

コニー「おうライナー、机借りてるぞ!」フリフリ

ライナー「別に構わんが……教えてるのはベルトルトなのか?」

マルコ「僕やアルミンが代わるって言ったんだけどね、なんだかベルトルトに変なスイッチ入っちゃったみたいで」

アルミン「ベルトルトは怖い話の時も熱心だったからね、ハマるとすごいのかも」

エレン「普段おとなしい奴ほど何をやらかすかわからないって言葉があるからなー」

ジャン「……そりゃちょっと意味が違うだろ」モグモグ


ライナー「……」ジーッ...

マルコ「……? ライナー、みかん食べないの? みんなで投げて遊んだ後だから結構甘くなってると思うよ?」

ライナー「投げて遊んだ後のみかんだったのか、これ。……食いたいのは山々だが、夕飯なしの奴に悪いと思ってな」

アルミン「それなら大丈夫だよ。明日、女子にもちゃんと配るってさ」

コニー「おう! その通りだ!」

ジャン「集中しろよ、コニー。ベルトルトがキレるぞ」

コニー「そうだった、悪いなベルトルト」カキカキ

エレン「ミカサとユミルの部屋の奴らに、それぞれ分けてやるってよ」

ライナー「そうか。なら食っちまうか……お、うまいなこれ」モグモグ


エレン「なあライナー。食堂の後始末してたにしちゃ帰りが遅かったよな。何してたんだ?」

ライナー「! ――そうだみんな、喜べ。調べてきたぞ」ドヤァ

マルコ「調べてきたって……何を?」

ライナー「おいおいお前ら、もう忘れたのか? 昼間にあんなに熱く語ってたじゃないか」

アルミン「ああー……胸の話、ね」チラッ

ジャン「……あれなぁ。あったなそんな話」チラッ

マルコ「あれ……あれの話か、うん」チラッ

アルミン「……」

ジャン「……」

マルコ「……」

アルミン「……エレンとライナー以外集合」クイッ

ジャン「おう」

マルコ「うん」


―― 部屋の隅っこ

マルコ「……まさかこんなに早いとは」

アルミン「その日のうちに調べてきちゃったね……」

ジャン「ああ。……即日とは恐れ入ったぜ」

マルコ「……で、聞く?」

ジャン「? なんだよ、せっかく調べてきてもらったのに聞かないのか?」

アルミン「だってさ、調べてきたってことは――」


エレン「……なあ、あいつらに教えるのはやめといたほうがいいんじゃねえか? ライナー」

ライナー「お前だって昼間のあいつらを見ただろ? ――ここで退いたら男じゃない」キリッ

エレン「いや……あのさ、ライナーがどうやって調べてきたのかは聞かねえけどよ」



エレン「お前が喋っちまったら、俺らの胸の柔らかさの共通認識が、さ、サシャの胸ってことに、なるんじゃないのか……?」



ライナー「……」


アルミン「あのさライナー、せっかく調べてきてもらったところ悪いんだけど――」

ライナー「アルミン」

アルミン「なっ、何?」ビクッ

ライナー「……この話はこれっきりでいいな」

マルコ「いい、いいよ、うん、なんかごめん」ブンブン

アルミン「知らない方が幸せって言うか、知ったら楽しみが半減しちゃうからさ。大人になるまで取っておくよ」ブンブン

ジャン「そうだな、隠しておいた方が幸せってこともあるもんな」ブンブン


コニー「なあ、さっきからお前ら何の話してるんだー?」ギーコギーコ

ベルトルト「コニー! 集中して! ちゃんと椅子に座って!!」ユサユサ

エレン「胸の話だよ。……いいからお前は課題片付けちまえよ。ベルトルト涙目になってるじゃねえか」



コニー「胸……? ――ああ、乳の話な!」ニカッ



アルミン「」

マルコ「」

ジャン「」

ライナー「」

エレン「」

ベルトルト「コニー、前を見て! お願い!! 時間がなくなっちゃうよ!」ユサユサユサユサ


ジャン「おっ、おまっ、お前ぇぇええ……っ!!」プルプルプルプル

アルミン「ち、ち、ち……っ!?///」カアアアアアッ

マルコ「こっ、コニー……コニー! もうちょっと遠回しな表現でお願い!」

コニー「はぁ? 乳は乳だろ」ギーコギーコ

アルミン「僕たちが悪かったから! ごめん! 本当にごめん!!」

コニー「そんなに慌てることか? 乳くらい誰だって揉んだことあるだろ」

ジャン「!? ちっ、ちちち、乳を……だとぉ……っ!?」

マルコ「まさかコニーが……!?」

ライナー「おい相手は誰だ」


コニー「ついでに言うとだな。――出産にも何度か立ちあったことがある」キリッ

アルミン「えっ」

マルコ「ごめんそれは重い」

ジャン「……ちょっと待て。そりゃ人間の話か?」

コニー「んなわけねえだろ。隣村のおじさんが育ててるヤギの話だよ」

マルコ「……ヤギ?」

アルミン「なーんだぁ……ヤギかぁ」ホッ

ジャン「だよなーそういうオチだよな!! あーよかったびっくりしたー!」

ライナー「……」ホッ


コニー「たまたま隣村のおじさんのところに行ったらさ、ちょうどヤギのお産がはじまってて――」

マルコ「いいかいみんな、この話は金輪際しないことにしよう! わかった人は手をあげて!!」バンザーイ

アルミン「はーいっ!!」バンザーイ

ジャン「はーいっ!!」バンザーイ

マルコ「はい、賛成多数で可決されました! この話は終わり!!」パンッ

コニー「なんだよ、もういいのか? 一日がかりの死闘の話はいらねえのか?」

マルコ「勘弁してください」ペコペコ

ジャン「許してください」ペコペコ

アルミン「お腹いっぱいです」ペコペコ


―― 翌日 朝 女子寮 ユミルたちの部屋

ユミル「……」ウロウロ

クリスタ「ユミル? どうして部屋の中でウロウロしてるの? 何か探し物?」

ユミル「サシャがいない」ウロウロ

クリスタ「……? 走りに行ったとかじゃなくて?」

ユミル「昨日のはあくまで例外だろ? それに、晩飯抜きだったのに朝から走るわけねえし。どっちみち営庭には雪が積もっちまったからまともに使えねえけどな」

クリスタ「雪かぁ……積もったよね」

ユミル「なーんか忘れてる気がするんだよなー……雪が降ってて、ミカサが猫で、サシャが犬で……」

クリスタ「……サシャは喜び庭駆け回り?」

ユミル「ミカサは部屋で丸くなる……」



ユミル・クリスタ「……」


―― 同刻 とある廊下

ベルトルト「ああ、ちゃんと課題仕上げられたのかな。コニー……」ソワソワ

ライナー「心配しすぎじゃないか? 今日提出できなくても罰則があるわけじゃないんだろ?」

ベルトルト「そうなんだけどね、あそこまで面倒見たらやっぱり気になるよ。君がサシャのことをほっとけないって意味を、僕は身をもって体験してるよ……どうしよう、部屋まで見に行こうかな……」ソワソワソワソワ

ライナー「もう少しコニーを信じてやれよ。あいつだって頑張ってるんだぞ?」

ベルトルト「頑張ってるのは認めるんだけどね……」ハァ

サシャ「あっ、おはようございまーす」タッタッタッ

コニー「はよーっす」タッタッタッ

ライナー「おう、おはよう」

ベルトルト「おはよう」


ライナー「……」

ベルトルト「……」

ライナー「ベルトルト」

ベルトルト「何?」

ライナー「俺はどうも目が悪くなったらしい」

ベルトルト「疲れ目じゃないかな。もしくは寝ぼけてるとか」

ライナー「今、コニーとサシャが通ったような気がするんだが」

ベルトルト「気のせいだって。考えすぎだ」

ライナー「だよな。こんな寒いのに半袖半ズボンなわけがないよな」

ベルトルト「お互い疲れてるんだよ。昨日は身体も頭も動かしっぱなしだったし」アハハ

ライナー「そうだな。お前も慣れないことしたもんなぁ」ハハハ


ジャン「おーいライナー、ベルトルト!」タタタッ

クリスタ「サシャとコニーを見なかった!?」タタタッ

ユミル「だからクリスタ!! 寝癖は直してから行けよ! あと顔はせめてタオルで拭いてくれ!!」ゴッシゴッシ

クリスタ「んんー……っ! ……ぷはっ」ブンブン

ベルトルト「あ、ジャンとクリスタとユミルだ。おはよう」

ライナー「廊下を走るなよ、危ないぞ」

ジャン「そんなことはどうでもいいんだよ! サシャとコニーは見てねえか!?」

ベルトルト「見てないよ。全然見てない」

ライナー「ああ。全く見てないな」

ジャン「あれー? ……っかしいな、絶対こっちだと思ったんだが」ブツブツ

クリスタ「営庭にはいなかったから別のところにいるのかな……でも、他に心当たりないし……」ウーン...

ユミル「クリスタ、髪がはねてるぞ。スプレーかけるから動くなよ」シュッシュッ


ベルトルト「ところで、なんでジャンとクリスタは毛布とタオルを持ってるの?」

ジャン「これか? 馬鹿二人を捕まえるためだよ」

クリスタ「毎年だったのにすっかり忘れてたんだよね」

ジャン「ある意味この季節の風物詩なんだけどな。油断してたぜ」

ベルトルト「毎年?」

ライナー「風物詩?」

ユミル「そっか、お前らは知らないのか。……ま、部屋も違うから当然っちゃあ当然だけどよ」


マルコ「ジャン! 兵舎裏にコニーがいたよ! サシャも一緒だ!」

ジャン「よっしゃ確保ぉっ!」ダッ

クリスタ「今年こそ自力で捕まえてみせるんだから!」ダッ

ユミル「だああああクリスタ! まだ寝癖直ってないって!」ダッ



ライナー「……行っちまったな」

ベルトルト「そうだね」

ライナー「見に行ってみるか?」

ベルトルト「朝ごはんまでまだ時間あるし、そうしようか」


―― 兵舎裏手

ライナー「……」

ベルトルト「……」

ライナー「……マルコ」

マルコ「何?」

ベルトルト「あれは……あそこにいる二人組は、誰……?」

マルコ「コニーとサシャだよ」

ライナー「半袖半ズボンに見えるんだが」

マルコ「うん。間違ってないよ」

ベルトルト「あの二人、何してるの……?」

マルコ「雪原ダイブ」

ライナー「……」

ベルトルト「……」

マルコ「第104期訓練兵団・冬の風物詩だよ。はじめて雪が降った次の日の朝、できるだけ薄着で雪の中に飛び込んで、冬の到来を祝うんだ。まあコニーとサシャしかやってないんだけどね」


ジャン「くっそ、足の速さじゃ敵わねえ……!」ゼエハア

クリスタ「去年はお菓子準備してたから楽だったけど、今年はすっかり忘れてたよ……ユミル、何か食べるものない?」ゼエハア

ユミル「年代不明のこんぺい糖一粒ならベッド下から見つけたんだけどな。ばっちいから捨てたぞ。……クリスタ、アホ毛が飛び出してる。直すぞ」サササッ

クリスタ「そっか、年代不明じゃ仕方ないね……」

ジャン「くそったれ、なんで俺は野郎とこんな朝早くから追いかけっこしてるんだ……? しかも三年連続なんて、せめて相手がミカサならよかったのに……!!」ブツブツ

ユミル「いや、いくらなんでもミカサは無理だろ……おっ、ライナーにベルトルさん、冷やかしに来たのか?」

ライナー「いいや。――交替しにきた」バサッ

ベルトルト「三人とも、お疲れさま。後は僕たちが引き受けるよ」ポン


ジャン「……おー、四人とも走ってる走ってる」

クリスタ「ねえねえユミル! あれって、川辺でよく見かける『私を捕まえてごらんなさーい』だよねっ?」キラキラキラキラ

ユミル「いいや違うな。あれは『お風呂から上がった後は身体を拭きなさい! 冷えるでしょ!』だ」

マルコ「……なんで寒いのに脱ぐのかな。あの二人」

ジャン「さあなー、狩猟で食ってきた奴の理屈はわからん」

マルコ「狩猟、関係ある?」

クリスタ「そういえば、去年聞いた時は『こうすることで自然と一体になるんですよ』ってサシャが言ってたよ。雪の上に大の字になって」

マルコ「自然と一体っていうか……犬っぽいよね」

クリスタ「うん。犬だね」

ジャン「犬だな」

ユミル「ああ、そうだ、そうだった……私はアレを見て、あいつが犬だと確信したんだった…………おい見ろ、ベルトルさんたちが捕まえたみたいだぞ」


コニー「今年はライナーとベルトルトかぁ……」

サシャ「掴まっちゃいましたねー……」

ベルトルト「全く、手こずらせてくれたね……」ハァ

ライナー「何か言いたいことはあるか? 二人とも」

コニー「今年の雪は」

サシャ「しっとりしてます」

ベルトルト「誰も感想は聞いてないよ」

コニー「楽しいのになー」

サシャ「ですよねー」

ライナー「こんな朝っぱらから二人揃って大騒ぎとはな。狩猟民族にはそういう風習でもあるのか?」

サシャ「えっ、コニーの村にはそんなものがあるんですか?」

コニー「俺の村にはねえなぁ。サシャの村にはあるんじゃねえの?」

サシャ「いいえ、初耳ですね……ライナーはいつの間に調べたんです?」

ライナー「……」

ベルトルト「ライナー、気をしっかり持って! 頑張って!」ユサユサ


ベルトルト「ねえコニー。課題は? 終わったの?」

コニー「雪が俺に遊べと囁いている」キリッ

ベルトルト「囁いてないよ。何言ってるの君」

サシャ「お天道様は言いました。――自然に還り、存分に遊びなさいと」ドヤァ

ライナー「それはただの幻聴だ。大体コニーはともかくだ、お前は女なんだから少し慎みを持て!」ガミガミ

サシャ「慎み……」ハッ

ライナー「年頃の女がそんな冷える格好するもんじゃないぞ? 寝る時もそんな格好してるのか? 風邪を引いたらどうするんだ?」ブツブツ クドクド


マルコ「始まったね。ベルトルトママとライナーパパのお説教だ」

ユミル「悪い遊びを覚えた娘と息子を、お父さんとお母さんが叱っているようにしか見えないな」

ジャン「でかい家族だなー」

クリスタ「なんだか見てて微笑ましいねえ」

マルコ「とことん緊張感がないよね、あそこ」

ジャン「色気もないな」

ユミル「サシャは元々、色気より食い気だしなー」

マルコ「……あれ? 何か様子がおかしいよ?」

ジャン「サシャが苦しみだしたぞ。なんか悪いモンでも食ったのか?」

クリスタ「むしろ何も食べてないから苦しいのかも……大変!」

ユミル(あの悶え方は……さては、私が昨日言ったことを思いだしたか)


サシャ「ぐあああ……っ!!」ジタバタジタバタ

コニー「お、おいどうしたサシャ。腹でも痛いのか?」オロオロ

サシャ「私は……なんてことを……!」ガクッ

ライナー「すまん、そこまで強く責めるつもりはなかったんだ。反省してるならいいんだぞ?」オロオロ

ベルトルト「大丈夫? 背中さする?」オロオロ

サシャ(初雪で浮かれていたとはいえ、昨日の晩に言われたことすら忘れていたなんて……!)

サシャ「……みなさん、折り入ってお伝えしたいことがあります」





サシャ「私は……馬鹿です……」ギリッ...





ライナー・ベルトルト・コニー「知ってる」


コニー「まあ、サシャのことだからメシでも食ったら気が晴れるだろ」

ライナー「そうだな。……サシャ、今日の朝はパンを分けてやってもいいぞ」

サシャ「えっ、本当ですか?」パァッ!

ライナー「ああ。昨日頑張ったからな」

サシャ「やったーありがとうございます!」ワーイ

ベルトルト(サシャ、切り替え早いなぁ……さっきの苦しみ方はなんだったんだろう……?)

サシャ「今日はたっぷり運動しましたし、朝ごはんはおいしく食べられそうですね!」

コニー「そうだな、早く食堂に戻って温かいスープでも頂こうぜ!」



ミーナ「――おーい、ライナー!」タタタッ


ミーナ「ふぅ、探したよ。こんなところにいるんだから」

ライナー「ミーナか。どうした?」

ミーナ「あのね、これから第二会議室で室長会議だって。マルコとユミルとミカサはもう行ったよ」

ライナー「会議? こんな朝っぱらからか?」

ミーナ「うん、私が知らせて回ってるの。昨日の大雪でトロスト区中の流通がストップしちゃってね。今日の午前中は駐屯兵団と協力して除雪作業をするんだって」

ライナー「わかった、第二会議室だな? 行ってくる」ダッ

サシャ「いってらっしゃいませー」

ベルトルト「がんばってねー」

コニー「いってらー」

ミーナ「行ってらっしゃーい。――あとね、室長以外の訓練兵は食堂で待機だから。サシャたちもこのまま向かってくれる?」


ベルトルト「食堂で……待機?」

ミーナ「そう。訓練兵は朝食抜きだよ」

サシャ「ないんですか!?」ズイッ

コニー「マジかよ!?」ズイッ

ミーナ「わっ! ――う、うん。大きな道路がいくつか塞がっちゃったみたいだから、今日届くはずの物資がまだ来てないの。あらかじめ備蓄してある食料は一般の人に分配するって話だし」

サシャ「そ、そんなぁ……ごはん……」ガクッ

ミーナ「サシャ、お腹が空いてるの?」

サシャ「昨日晩ごはん抜きだったんです……ミーナ、何か食べるもの持ってませんか?」ガジガジ

ミーナ「私は持ってないけど、アニならハチミツ持ってるんじゃないかな。昨日二人で食べたから」

サシャ「おおっ、なるほど! じゃあ後でアニに聞いてみます!」


―― 午前 営庭端

クリスタ「おおーっ……」ツンツン

クリスタ(雪って、ふわふわしててわたあめみたい……)ジーッ...

ユミル「サシャ、いい加減その辛気くさい顔をやめろ。こっちまで気が滅入る」ザクザク

サシャ「食べ物」

ユミル「ない」ザクザク

サシャ「……朝食抜きだなんてあんまりです」ザクザク

ユミル「へいへい、みんな抜きだっつの。我慢しろ」ザクザク

サシャ「私は晩ごはんも抜きだったんですよぅ……? うふふふ……」グーググー


ユミル「お前さぁ、昨日の晩に私が言ったこともう忘れたのか?」

サシャ「うぐっ……ちゃんと覚えてますよ」

ユミル「今は、な。……寝て起きたら忘れてるってどんな幸せな思考回路してやがるんだ」

サシャ「ううっ、言わないでくださいよ……自分の情けなさは自覚してるんですから……」

ユミル「そう思うなら今からでも心がけとけ。女らしくしろ」

サシャ「わかりました。――私、今日はもうお腹の音は鳴らしません!」グー

サシャ「……」グーキュルルルル...

ユミル「腹の音がなんだって?」

クリスタ「今のサシャにはハードルが高いから、『ライナーの前で』っていう一言を付け足したほうがいいと思うなぁ」

サシャ「……そうですね」キュー...

サシャ(お昼ごはん食べるまでは、あまり近づかないようにしましょう……)


ユミル「腹が減ったからって雪は食うなよ。サシャ」

サシャ「土臭いですし食べませんよ。雪なんて口に入れたらただの氷の塊ですからね。かえって喉が渇くので食べても得がないです」キリッ

ユミル「なんでそういうところだけしっかりしてんだ……おいクリスタ、お前も食うなよ?」

クリスタ「!? ――たっ、食べないよ! 食べないもん!」ブンブン

ユミル「必死になって否定するところが怪しい」

サシャ「やめといたほうがいいですよ、お腹壊しますからね」

クリスタ「……砂糖かけてもダメ?」

サシャ「ダメです」

クリスタ「そっかぁ……」ショボーン...


クリスタ「ところで、ユミルは会議には行かなくてよかったの? 室長会議の後に班長会議もあったんでしょう?」

ユミル「マルコがまとめて聞いてきてくれるって言ったから任せてきたんだよ。まあ、班割りは夏の大掃除と同じだから何も考えなくていいのは気楽だよな」

ユミル「しっかし、こんなちゃちいスコップで営庭の雪かきなんてなー。上官方ももうちょっと色々考えてほしいもんだよ」ザクザク

クリスタ「スコップ? シャベルじゃないの?」

ユミル「どっちでもいいだろ。しかも全然整備されてねえしよ。サシャの持ってるスコップなんかキノコが生えてきそうじゃねえか」

サシャ「……木って食べられますかね」

ユミル「やめろ。人間は捨てるな」ガシッ

サシャ「味とかしませんかね」

クリスタ「身体によくない薬品が塗ってあるかもしれないからダメだよ」

サシャ「拭いたらどうでしょう」

ユミル「とっくの昔に中に染み込んじまってるだろうから、今更拭いても取れねえよ。……ん?」ザクザク


ユミル(スコップの柄と、手袋に雪がついちまったな……まあいいか)ザクザク

ユミル「……」ザクザク

ユミル(あーダメだ。コブになって邪魔だな。手袋についた雪だけでも取るか)

ユミル「……」ブンッ

ユミル(……取れん)

ユミル「……」ブンブン

ユミル「……」

ユミル「……」ブンブンブンブンブンブンブンブン ...ポロッ

ユミル「と、取れた」ゼエハア

サシャ「木製のスコップと毛糸の手袋だとどうしても雪のコブができるんですよねー」ザクザク

クリスタ「だからサシャは素手でやってるの? 寒くない?」

サシャ「これくらいの寒さならへっちゃらです。お腹は空きましたけど」ザクザク グー


サシャ「……お昼ごはんも抜きだったらどうしたらいいんでしょう」

ユミル「馬鹿よせ、余計なこと考えるんじゃねえよ」

サシャ「今日の晩ごはんも抜きだったら……私……私……」ガタガタガタガタ

ユミル「おいサシャ目を覚ませ。どうせメシって言ったってしょぼいスープと固いパンだぞ?」

サシャ「例えかみ砕けないほど固く引き締まったパンや! 野菜クズしか浮いていないうっすい冷めたスープであろうとも! 今日の私にとってはご馳走だったんですよぉっ!!」ダンッ!!

サシャ「今朝は遊ばなきゃよかったです……失敗しました……」

クリスタ「サシャ、目が虚ろだよ? 大丈夫?」

ユミル「お前、そのテンションの落差なんとかしろよ……見てるこっちが疲れるぞ」

サシャ「私だってなんとかしたいと思ってますけど、お腹が空いて歯止めが効かないんですよ……ああっ、おしとやかが遠ざかる……」

ユミル「そんなに腹減ったんなら他の奴らに何か持ってないか聞いて来いよ。水汲みと引き替えならなんかもらえるだろ」

サシャ「! そういえば、アニがハチミツ持ってるってミーナが言ってたんですよね……ちょっと行ってきます!」ダッ

クリスタ「行ってらっしゃい。転ばないでねー」フリフリ

ユミル「アニがハチミツぅ? ……ふーん」ニヤリ


―― ユミル・クリスタ地点から少し離れたところ 営庭中央部

ミーナ「よーいしょっと!」ブンッ

アニ「……ミーナ、声出しながら雪を飛ばすのって年寄り臭いよ」

ミーナ「だ、だってこっちのほうがよく飛ぶ気がするんだもん!! アルミンもそう思うよね?」

アルミン「えっ? ……うーん、そうだね。立体機動で模型のうなじを削ぐ時も、大きな声を出してる人って結構いるし、あながち間違ってはないかも」

ミーナ「でしょでしょ? ほらアニ、アルミンがこうやって言うんだから声を出した方が飛ぶんだよ! ――というわけでほいっ!」ブンッ

アニ「……」ブンッ

アルミン「……」ブンッ

アルミン(……僕がこの三人の中で一番飛んでないや)ショボン...


ミーナ「でも、楽なところを割り振られてよかったよね」ザクザク

アルミン「……楽?」ピクッ

アニ「そうだね。ほとんどの班はトロスト区の街中に割り振られてるんだっけ」ザクザク

ミーナ「そうそう。雪かきした後に邪魔な雪をここまで運んでこなくちゃいけないんだよ? その点、私たちは訓練所の外から営庭までの道を作るだけだからすっごい楽――」

アルミン「いや、大変になるのはこれからだよ。何せトロスト区中の雪がここに運ばれてくるんだからね。道を作るのもそうだけど、考えて積んでいかなきゃ後で困るよ」


ミーナ「そうなの? ……じゃあ、適当に雪を飛ばしててもダメかぁ」ウーン...

アニ「そもそもなんでここに運んでくるわけ? 川に捨てればいい話じゃない?」

アルミン「ここの営庭に運んでくるのは、雪を捨てる土地が他にないからだよ。元々トロスト区にはそんなに雪が降らないし、雪を捨てるためだけの土地なんて無駄すぎるからね」ペラペラ

ミーナ「う、うん。そうなんだ」

アルミン「川に捨てないのは、捨てた雪のせいで川がせき止められて氾濫する可能性があるからだよ。今の時期は雪を溶かせるほど水温が高いわけじゃないし」ペラペラ

アニ「……アルミン、もういいよ。わかった。ありがとう」

アルミン「土地はそれでいいとして、今度は輸送の問題になるんだよね。長期輸送の手段としては馬車は有効だけど、短距離で少ない量を運ぶ方法としてはやはり人力のほうが効率的に――」ペラペラペラペラ

ミーナ「あ、アルミン? 聞いてる? もういいよ?」

アニ(……ダメだこりゃ)



ライナー「……始まったな」

ジャン「ああ。この前も引っかかってたよな、ミーナ」

エレン「今回はアニもか。……俺、止めてくるわ」スタスタ...


ミーナ「……エレンがアルミン連れて行っちゃった」

アニ「もう一人連れてってくれたらよかったのに」チラッ

ミカサ「……」ホカホカ

アニ「ねえミカサ。いい加減私の背中にぴったりつくのはやめてくれない? フード被りたいんだけど」

ミカサ「ふむ。なるほど……ならば、私が頭の上に登ればいい?」

アニ「なんでそういう発想になるの。邪魔だからどこか行ってよ」

ミカサ「嫌」

アニ「……今、エレンがアルミンを連れてったんだから一緒に行けばよかったのに」

ミカサ「エレンは仕事中。邪魔をしてはダメ」

アニ「私も仕事中だよ。ついでに言えばあんたも仕事中だ」

ミカサ「私は仕事をしている」

アニ「そうは見えないけど」

ミカサ「アニを暖めている」

アニ「……」イライラ


ミーナ「ちょっとミカサ、アニを暖めるのは私の仕事だよ?」

ミカサ「アニのマフラーは私で充分。ミーナの入る余地は……ない!!」

アニ「あんたそれでマフラーのつもりだったんだ」

ミーナ「じゃあ私はアニの手袋になる!」ガシッ

アニ「……」

ミカサ「ああっ、寒空の下のフードがこんなにあたたかいなんて……」ホクホク

ミーナ「アニ、雪かきしてた割に手が温かいねー」ムギューッ

アニ「……雪かきできない」

ミカサ「それは大変」

ミーナ「そうだねぇ。困った困った」

アニ「……ねえミーナ。今度のお休みの日、二人で町に行こうか」

ミーナ「わぁっ、アニから誘ってくるなんて珍しいね? 嬉しいけどさ!」

アニ「早いうちにマフラーと手袋を買わないとね」

ミカサ「アニのマフラーは私。だから必要ない」

アニ「私は私の言うことを聞く防寒具が欲しいんだよ。あんたは失格」


サシャ「アニ! ちょっとお願いしたいことが――って、三人で何してるんですか?」タタタッ

アニ「……雪かき」ムスッ

ミーナ「サシャもやる? 今なら耳当ての位置が空いてるよ!」

サシャ「いえ、今の私だとアニの耳を食べちゃいそうなのでやめときます。――というわけでアニ、何か食べ物持ってませんか? 具体的に言うとハチミツとかハチミツとかハチミツとか」

アニ「ハチミツなら昨日ミーナと二人でお茶に入れて飲んじゃったからもうないよ。ごめん」

サシャ「そうですか……」ショボーン...

ミーナ「あれ? 昨日ので最後だったの? 瓶にちょこっとだけ残ってたよね?」

アニ「ティーセットを洗った時に、ついでだから一緒に洗ったんだよ。残ってたのはヘラで掬って食べた」

ミカサ「後ろにいたので私ももらった」

サシャ「そんな……ずるいですよ! 私にはないんですか!?」

アニ「ないよ」

サシャ「もう瓶の中には残ってないんですか!?」

ミカサ「ない」

サシャ「うううっ、そうですか……」ショボーン...


ライナー(サシャの奴、腹が減ったからって手当たり次第に声をかけてるんじゃないだろうな……?)

ライナー「……」チラチラ

ベルトルト「見過ぎだよ、ライナー」ハァ

ライナー「なっ、何のことだ? 心当たりがないな」ギクシャク

ベルトルト「僕じゃなくたってわかるくらいだよ」

ライナー「……ならお前だってそうだろ」

ベルトルト「えっ? さっ、さあ、何のことやら」ギクッ

ライナー「なあベルトルト。……女子って密着度が高いよな」

ベルトルト「そうだね。男子が同じことしたらすぐ気持ち悪いとか言われるのにね」

ライナー「理不尽だよな。男のほうが脂肪の量が少ないんだから、ずっと寒いはずなのによ」

ベルトルト「えっ、ライナーは男同士でくっつきたいの……?」ササッ

ライナー「本気に取るな」


ベルトルト「……」ゼエハア

ライナー「……」ゼエハア

ベルトルト「あのさ。こんな遠くから見てないで、近くに行ってきたら?」

ライナー「……そうだな、そうする」スタスタ...

ベルトルト「はいはい、行ってらっしゃい」フリフリ

ベルトルト(……全く、身体は大きいのに妙なところで奥手なんだから)

アルミン「やあベルトルト、進んでる? ――あれ? ライナーは?」キョロキョロ

ベルトルト「ちょっとね。……アルミンこそ、エレンはどうしたの? さっき連行されていったよね?」

アルミン「エレンはあっちで作業してるよ。……軽くお説教されちゃった」ショボン...

ベルトルト「……雪かきしながらでよかったら、僕がさっきの話の続き聞いてあげるよ」

アルミン「本当にっ?」


アルミン「――でね、シャベルみたいに雪を崩すことができて、それでいて人の力だけで大量の雪を一気に運べる器具があったらいいなって思うんだよね」ブンッ

ベルトルト「うんうん、それでそれで?」ブォンッ

アルミン「雪を運ぶだけならソリがあればいいんだろうけどね。それにどうやってシャベルみたいな刃先を付けて、なおかつ柄を取り付けるのかってのが――」ブンッ

ベルトルト「……」ブォンッ

アルミン「……」

ベルトルト「……? アルミン、どうかした?」

アルミン「ベルトルトはかなり雪を遠くに飛ばしてるよね。やっぱり腕の長さと力の差なのかな」


ベルトルト「腕? ……ああ、それだけじゃなくてさ、放り投げる時に捻りを加えたらいいよ。さっきよりも飛ぶはずだ」

アルミン「捻り……??」

ベルトルト「えっとね……まず、柄の部分を広めに持つ」グッ

アルミン「うんうん」ガシッ

ベルトルト「それで雪を掬って……腰に捻りを加えて、遠心力を利用して飛ばすんだ」ブォンッ

アルミン「よーし……えいやぁっ!」ブォンッ

アルミン「!! ――飛んだ! 飛んだよベルトルト!! 見た? 見た!?」パアッ!!

ベルトルト「見てたよ。よかったね、アルミン」

アルミン「うん、ありがとうベルトルト!! ――よし、この調子でもっとやるぞー!」エイエイオー


アルミン「えいやっ!」ブォンッ

ベルトルト「……」

アルミン「とうっ!」ブォンッ

ベルトルト「……アルミン、声は出さなくても大丈夫だよ」

アルミン「えっ? ……声出てた?」

ベルトルト「思いっきり出てたよ」

アルミン「ごめん、声を出したほうが遠くに飛ぶ気がして……」テレッ

ベルトルト「アルミンがやりやすいようにやればいいよ」

アルミン「……声出してても、気にしないでね」ボソッ

ベルトルト「うん。気にしない気にしない」

アルミン「………………っしょっ」ブォンッ

ベルトルト(あ、なるべく声出さないようにしてる……気にしないって言ったのにな。やっぱり恥ずかしいのかな)


ユミル「よお、アーニちゃんっ」ニヤニヤ

アニ「……ユミルか。あんたは何の用?」

ユミル「なあ、クリスタに聞いたんだけどよ。お前がハチミツ持ってたって本当か?」

ミーナ「本当だよー」

ミカサ「本当。私も昨日分けてもらった。おいしかった」

アニ「何? なんか文句ある?」

ユミル「……アニちゃんはヘラをぺろりんちょと舐めてこう言いました」

アニ「……」

ユミル「『わぁい、このはちみつおいちい』――おっと危ねえ」ヒョイッ

アニ「ユミル、知ってるかい? 美容雑誌によるとさ、とあるツボを一定の強さで刺激すると、そばかすが消えてなくなるらしいよ」

ユミル「へえ、そいつはすげえや。ぜひそのツボとやらを教えてくれよ」

アニ「私が直接身体に教えてあげるよ」ジリジリ...

ユミル「ひゅーっ、アニちゃんやっさしーい」ジリジリ...


ミーナ「ちょっと二人とも、喧嘩はやめようよ……ミカサ、二人を止めて!」

ミカサ「アニ、喧嘩はよくない。私とミーナが振り解かれてしまう」

アニ「そんなの知らないよ」ゴゴゴゴ...

ミカサ「ごめんミーナ。無理だった」

ミーナ「諦めるの早いよ!?」

ミカサ「寒いので、これ以上は無理」

ミーナ「ええーっ……? ――あっ、ベルトルト! アルミン! こっち来てこっち!」チョイチョイ

ベルトルト「何? どうしたの?」スタスタ...

アルミン「何の騒ぎ?」スタスタ...

ミーナ「アニとユミルが大変なの!」


アニ「あんたは手を出すんじゃないよ、ベルトルト……」ジリジリ...

ユミル「そうそう、これは女の戦いだからな」ジリジリ...

ベルトルト(……何この修羅場)

アルミン(アニとユミルが喧嘩なんて珍しいなぁ。あまり一緒にいる印象もないのに)

ミーナ「全くもう、ユミルもアニと仲良くなりたいなら素直にそう言えばいいのに……」ボソッ

ユミル「なんか言ったかミーナ」ギロッ

ミーナ「なんでもありません。……それで、なんとかできそう? ベルトルト、アルミン」

ベルトルト「えっ、僕たちがなんとかするの?」

ミーナ「うん、お願い!」

ベルトルト(お願いって言われても、流石にあの二人を相手にするのは骨が折れるな。かといってアルミンをアテには――)

アルミン「わかった。僕に任せて」スタスタ...

ベルトルト「!? ちょっ、アルミン!?」


アルミン「ねえ二人とも、殴り合いはやめなよ」

アニ「悪いけど聞けないね。先に売ってきたのはユミルのほうだよ。ここで退いたら女が廃る」

ユミル「そうそう。軽い冗談も受け流せないのはアニのほうだしな。平和主義者の優等生はさがってな、怪我するぞ」

アルミン「勘違いしないでくれるかな。――僕は、殴り合いはやめてって言ったんだ。喧嘩をすることは止めないよ」

ユミル「……何?」

アニ「どういうこと?」

アルミン「見ててよ、二人とも。――やぁっ!」ブォンッ

ユミル(……雪が飛んだ)

アニ(あ、さっきよりも遠くに飛んでる)

アルミン「どう? アニ、ユミル。――僕よりも、それにお互いよりも遠く雪を飛ばせる?」フフンッ

アニ「……」チラッ

ユミル「……」チラッ


―― 営庭端 兵舎付近

エレン「飛んでるなー。雪」

サシャ「飛んでますねー。雪」

エレン「一番はりきってるのは……アニとユミルか。あいつらこういうこと面倒くさがりそうなのに珍しいな」

サシャ「何か心境の変化でもあったんじゃないですか?」

サシャ(中心にいるのは……ベルトルトとアルミンですかね)

サシャ(……あれ? ライナーはベルトルトと一緒じゃないんでしょうか)キョロキョロ

サシャ「……」

サシャ(ぐああああ……朝のこと思い出しちゃいましたよ!! はしゃいでたとはいえ、なんで朝からあんな姿見せちゃったんでしょうかね私は……!)ガクッ

エレン「? ……おいどうしたサシャ、ついに燃料切れか?」

サシャ「……少し自己嫌悪中です。気にしないでください」

エレン「そうか。じゃあ気にしねえわ」ザクザク


サシャ(そうですよ、『隣にいたい』とかのんきに言ってる場合じゃないですよ……! せめてさっき立てた目標ぐらいは達成しないと!)グッ

サシャ(腹の虫も今のところ治まってますし、あまり食べ物のことを考えないように――)

サシャ「……この雪全てが砂糖だったらいいのに、神様は気が利きませんよね」ボーッ...

エレン「食糧難も一気に解決……は、無理かぁ」ザクザク

サシャ「満杯の雪……満杯の砂糖……たくさんの飴玉……降り注ぐ飴玉……雨……」ブツブツブツブツ

サシャ(空から、食べ物降ってきませんかねー……)ボンヤリ

サシャ(ああ、空が青い……)グラッ ――ポスッ

サシャ(……ん? 後ろに壁?)



ライナー「おい、大丈夫か?」

サシャ「……」


サシャ「まっ、前から、突然……た、大変……失礼、しました……」ボソボソ

ライナー「おう。気にするな」

サシャ「あ……あの、ライナー……いつの間に……?」

エレン「『この雪全てが砂糖だったらいいのに』ぐらいからいたぞ」

サシャ「教えてくださいよぉっ!!」クワッ!!

エレン「えっ? わ、悪い……」ビクッ

サシャ(ああもう、近くに行くどころかこっちに来てるじゃないですか!! ――とにかく、お腹の音は聞かれないようにしないと……)ドキドキ


ライナー「……? サシャ、お前顔赤いんじゃないか? やっぱり朝のアレで風邪引いたんだろ」

サシャ「へっ? ――いえっ、引いてません、全然引いてませんからっ」ブンブン

ライナー「……本当かぁ?」ジーッ...

サシャ「あ、あの、なんですか? 顔が近いですよ?」ススッ

ライナー「……」ピトッ

サシャ「ひゃっ……」

サシャ(て、て、手……っ!! 手が額に……っ!!)

ライナー「……作業で手が冷えちまったからな、わかりにくいな」ウーン...

エレン「なら、額と額をくっつけてみたらどうだ? 俺もたまにミカサにやってるし」

ライナー「そうだな。――どれ」ゴツンッ

サシャ「」


サシャ「……あ、あの」カチンコチン

ライナー「少し熱いな。やっぱり風邪ひいたんじゃないのか?」

サシャ「ちがっ、違うんです、これは、あううう」オロオロ





ジャン「……口から砂糖が出そうだ」ギリッ...

コニー「えっ、マジかよジャン……!? 売れば儲かりそうだな! 塩とか胡椒は出ないのか?」

ジャン「そうだな……そろそろ目から塩水が出るかもな」

コニー「塩だって!? 塩って確か黄金と同じ価値があるんだろ? 高く売れるな……!!」

ジャン「ちきしょう、なんで俺は朝も昼もこんな小坊主とセットで作業しなきゃなんねえんだ……! なんでお前はミカサじゃねえんだよコニー!!」

コニー「モノマネでもやるか?」

ジャン「やめてくれ」


エレン「ライナー、脈を測ってみろよ」

ライナー「脈?」

エレン「ああ。昔親父から聞いたことがあるんだけどさ、運動した後じゃなくても熱があれば心拍数があがるらしいんだ。心拍数ならちょうどこの前の訓練で測ったばかりだろ? あれより高かったら熱があるって証拠だ」

ライナー「なるほどな……よしサシャ、腕を出せ」スッ

サシャ「……いっ、嫌です」ブンブン

ライナー「出せ」

サシャ「やっ、やだ……嫌ですってば……」

ライナー「風邪を引いてたら午後の訓練もできなくなるだろ」

エレン「そうだぞサシャ。風邪は初期対応が肝心なんだからな」

サシャ「だ、だって……」

サシャ(今測ったら、絶対に風邪にされちゃいますし……)


エレン「よく見たら、足元もふらついてるし顔も真っ赤だ」

ライナー「……重症だな」

サシャ「足がふらついてるのはごはんが二回抜きだったせいですよ、食べれば治りますから!」

エレン「……」

ライナー「……」

サシャ「………………すいませんでしたぁっ!!」ダッ

ライナー「あっ! ――こら逃げるな!」ダッ

エレン「風邪引いてるのに走るなよ!」ダッ

サシャ「引いてませんってばぁっ! なんで二人で追ってくるんですかお腹空いてるのにぃっ!!」ダダダッ


サシャ(エレンもライナーもどうして私を風邪に仕立てあげようとするんですかもう!! お腹空いてるだけなのに!! ――あっ、あそこにいるのは……!)ゼエハア

サシャ「マルコー!! 助けてください!」

マルコ「サシャ? 何かあったの?」

サシャ「何か食べるものください!」

マルコ「ないよ?」

サシャ「じゃあ私をここ以外の場所に連れてってください! 今すぐ!!」

マルコ「なら、屋根の上にあがってくれる? 男子寮の雪下ろしを頼まれてるんだ」

サシャ「だっ、男子寮!? 女子でも大丈夫なんですか!?」

マルコ「中に入るんじゃなくて屋根の上に登るからね、女子でも問題ないよ」

サシャ「じゃあ行きます!! 先に行きますね!」ダッ

マルコ「後で他の人も行かせるから、はしごで登るのはちょっと待っててねー」


ライナー「おいマルコ、今ここにサシャが来なかったか!?」ゼエハア

マルコ「サシャなら男子寮の屋根の雪下ろしに行ったよ」

エレン「ゆ、雪下ろし……? なんだその楽しそうな響きは!」ワクワク

マルコ「エレンも行く?」

エレン「行きたい!」キラキラキラキラ

マルコ「はい、了解。――先に行ってるサシャと合流して」

エレン「わかった!」ダッ

ライナー「あっ、おいエレン! ――マルコ、俺も行くぞ!」

マルコ「いや、ライナーとベルトルトとミカサはダメだよ。僕もだけどね。――おーいみんなー、屋根の雪下ろしやりたい人いるー?」スタスタ...


コニー「雪下ろし!? 俺! 俺行く!」ハイッ

アルミン「僕はパスかな……流石に体力が保たないや」

ベルトルト「僕もやめとくよ。他に行きたい人がいるみたいだし」チラッ

ミカサ「さっきエレンが雪下ろしに向かうのを見た。ので、私は行く。もちろん本体であるアニも一緒」スッ

アニ「本体じゃないし行かないよ。あんた一人で行きな」

ジャン「(ミカサが行くなら)俺も行く!」ハイッ

マルコ「えーっと……アニは行きたくないんだよね?」

アニ「うん。面倒くさい」

ミカサ「アニはツンデレだから大丈夫。私と一緒ならアニだって満足する」

アニ「しないよ」

アルミン「無理強いさせちゃダメだよ、ミカサ」


マルコ「アニが行かないから、えっと……コニーとジャンは行っていいよ。ミカサはダメ」

ミカサ「……なんと」

ジャン「えっ? ミカサは行かねえのか? おいマルコ、やっぱり俺もパス――」

コニー「よーし行くぞジャン! 雪下ろしだー!」ガシッ

ジャン「引っ張るんじゃねえよ服が伸びるだろうが! おい! 放せえええええええええ!!」ズルズル...

ミカサ「マルコ。どうして私は行ってはダメなの? アニがいないから?」

アニ「さりげなく私のせいにしないで」

マルコ「違うよ。アニがいてもミカサは登れないんだ」

ミカサ「ちゃんと説明してほしい。このままでは納得できない」

ライナー「女子が行っちゃいけないなら、サシャだって行けないはずだろ。何か理由があるんだよな?」


マルコ「……」

アルミン「? マルコ? どうしたの?」

ベルトルト「もしかして、言いづらいこと?」

マルコ「……男子寮は、古いんだ。もう随分と手が入ってない」

アニ「いきなり何の話?」

マルコ「隙間風は入るし雨漏りはするし、寮の至る所で軋む音が聞こえるけど、寝るには不都合がないんだから別にいいじゃないかって、予算はいつも駆逐されてきた」

ライナー「なんだマルコ、はっきり言え」

マルコ「僕が言ったんじゃないんだ。僕のせいじゃないんだ、全部教官のせいなんだ。それをわかった上で聞いてほしい」

ミカサ「マルコ。言って」





マルコ「……重量制限だ」ボソッ


ミカサ「……」

ミカサ「……」ジワッ...

ライナー「おっ、おいミカサ? どうした?」オロオロ

アニ「ちょっと大丈夫?」オロオロ

ミカサ「……平気。気にしてない。これは魂の汗。大丈夫」

ベルトルト「魂の汗っていうか……なんていうか……」

アルミン「みっ、ミカサ、ちょっとあっち行こうか。あったかいし」

ミカサ「気にしてない……ので、平気…………………………」グスッ

アルミン「ほ、ほら、あっちでクリスタとミーナが火をおこしてるからさ、行こうよ。ねっ? あったまりに行こう? 僕が右手繋いであげるから」グイッ

アニ「そうだよ、私もついてってあげるから。ほら行こう? 私は左ね?」グイッ

ミカサ「……うん」ズルズル...


ライナー「……」

ベルトルト「……」

マルコ「……」

ライナー「マルコォッ!! お前頭がいいんだからもうちょっと言い様があっただろう!?」

ベルトルト「そうだよ!! いくらミカサでも傷つくよ!!」

マルコ「そんなこと言われたって、他になんて言えばよかったんだ!!」

ライナー「身長制限とかもう少し他のぼかし方があるだろうが!」

マルコ「ダメだよ、それだとジャンも行けなくなっちゃうだろ!?」

ベルトルト「ジャンはミカサが行けないって知ったら嫌がってたじゃないか! どうして無理矢理行かせたの!?」

マルコ「じゃあ逆に聞くけどさ。――ジャンがいないと、屋根の上はどうなると思う?」

ライナー「……あー、なるほど」

ベルトルト「そういうことね」


―― 男子寮 屋根の上

エレン「うっ、うおおおおおお……!」ワクワクワクワク

コニー「屋根の上って見晴らしいいなー! すげー!」

ジャン「これくらいの高さなら、いつも立体機動で飛んでんだろうが」

サシャ「ジャンはわかってませんねえ、この視点で訓練所を見下ろすっていうのがまた新鮮でいいんですよ!」

ジャン「ああそうかよ。――それよりお前ら命綱結んだか? 今のうちに確認しとけよ」ゴソゴソ

コニー「結んだ!」

サシャ「結びました!」

エレン「準備万端だぜ! ――よしっ、下ろすか!」

コニー「おうっ!」

サシャ「やりましょう!」

ジャン「ちょっと待て。……この中で雪下ろしやったことある奴はいるか?」


サシャ「……」チラッ

コニー「……」チラッ

エレン「……」チラッ

ジャン「おいおい……エレンもねえのかよ」ハァ

エレン「シガンシナ区じゃそんなに雪降らなかったからな。開拓地は屋根の高い建物なんてなかったしよ」

ジャン「トロスト区だって滅多にここまで降らねえよ。……仕方ねえな、俺も見よう見まねで覚えたからあまり詳しくねえが――」

サシャ「積もりましたもんねー」ヒョイ

コニー「だよなー。山の中みてえ」ヒョイ

ジャン「だあああああっ!! 馬鹿二人危ねえよ、端に行き過ぎだ!」グイッ


ジャン「ったく、いいか? まず雪下ろしをする時は『上から下に』が基本だ。必要以上に軒先に近づくな」

コニー「どこから下ろしても同じじゃねえの?」

ジャン「低い場所から始めたら、万が一落ちた時地面に叩きつけられることになるだろ。上からやればそれまで下ろした雪がクッションになる。最悪滑って落ちても骨折くらいで済むかもな」

エレン「おおー……頭いいな、ジャン」

ジャン「……馬鹿にしてんのか?」

エレン「いや、普通に感動した」

ジャン「……今日は晴れてるからな。午前中とはいえ雪が緩んでるかもしれねえ。ちゃんと足元の音を聞け。特にそこの馬鹿二人は耳はいいんだからよ」

サシャ「はーい」

コニー「おう、聞く聞く」

ジャン「それと、全部下ろすんじゃなくて少しだけ残して足場にしろ。そのほうが滑りにくいからな」

サシャ「少しってどれくらいですか?」

ジャン「今やってやるからちゃんと見てろ」ザクザク


―― たき火近く

クリスタ「……ジャンが何か説明してる」

ユミル「キルシュタイン先生の青空教室だなー」ケケケ

アニ「女子でもう一人くらい登ったほうがよかったかもね。……私は嫌だけど」

ミーナ「うーん……私はどちらかと言えば行きたかったんだけど、他の人たちの足引っ張っちゃいそうなんだよねー」

ユミル「私はパス。下手に登って怪我したくねえし。クリスタは保護者権限で拒否権発動だ」

クリスタ「私は行きたいって言ったのに、ユミルってば」ブーブー

ミカサ「――私は、行きたかった」

一同「……」

ミカサ「とても、行きたかった……」グスッ

アルミン「ほらミカサ、一緒にエレンを応援しよ? ね?」ナデナデ


―― 男子寮 屋根の上

エレン「教官の闇討ちがないから気楽にできていいよな。雪下ろしって」ザクザク

ジャン「教官が『やれ』って言ったのに邪魔してきたら理不尽すぎるだろ」ザクザク

サシャ「でも、なんで雪かきとか雪下ろしって必要なんですかねー」ザクザク

コニー「だよなー。俺の村じゃやらなかったぞ」ザクザク

ジャン「山の中だって多少はやるだろうが。雪で道が塞がって、近くの村や町と連絡が取れなくなったらまずいだろ?」

サシャ「確かに冬の備蓄の燻製だけじゃ口が寂しいですもんね。パンは定期的に買いに行かないと手に入りませんし」グー...

ジャン「そうだな。お前の腹もそう言ってるしな」

サシャ「……あっ」

サシャ(あああああ、また食べ物の話題……! しかもお腹の音とセットだなんて、恥ずかしい……!)ザクザクザクザク

コニー「おーっ、サシャ早いなー。よーし俺も負けねえぞ!」ザクザク

エレン「俺もだ! やるぞぉー!」ザクザク


―― たき火近く

ミカサ「ああっ、エレン……! そんなに軒先に近づいては危ない……!」ドキドキ

ベルトルト「コニー、本当に大丈夫かな……」ハラハラ

ライナー「そんな端に立つんじゃない、サシャ……!」アセアセ

マルコ「ジャン、頑張って……!」グッ

ユミル「子どもを心配する親かお前らは」

ライナー「ならユミル。……あそこにクリスタが登ってると考えてみろ」

ユミル「クリスタが……?」

ユミル「……」

ユミル「クリスタぁっ! 今行くぞ待ってろぉっ!!」ダッ

クリスタ「ユミル!? 私ここだよ!?」ダッ



ミーナ「あったかいねー」ホカホカ

アニ「……ね」ホカホカ


―― しばらく後 男子寮 屋根の上

ジャン「よーし、こんなもんだろ」

エレン「結構時間かかったな。そろそろ昼だ」

コニー「思ったより範囲広かったからなー。……あー、腹減った」

ジャン「そろそろ下に降りるか。お前ら先に行っていいぞ」

コニー「おう! じゃあ俺いっちばーん!」

エレン「じゃあ次は俺が降りるな。……今日は色々教えてくれてありがとな、ジャン」

ジャン「……」

エレン「? なんだよ、変な顔して」

ジャン「……お前からそんなこと言われると気持ち悪いな」

エレン「あぁっ? んだよ、人がせっかく礼言ってるのに!」イラッ

ジャン「第一お前のためなんかじゃねえよ、全部ミカサのためだからな! ――訓練ならともかく、雪下ろしで死んだら馬鹿らしいしよ」


コニー「そうだサシャ、降りたら寮からみかん取ってきてやるよ。本当は夜の自由時間に持ってこうと思ってたんだけど、ちょうど今全員いるしな」

サシャ「……どうも」

ジャン「なんだ、嬉しくねえのか? ていうか座り込んでないでとっとと降りろよ」

サシャ「お腹が空いて動けません……」グッタリ

ジャン「……お前さっきまで走り回ってただろうが」

エレン「ジャン、サシャは風邪引いてるんだ。無理させちゃいけねえよ」

ジャン「風邪っぴきなら雪下ろしなんて重労働に志願してんじゃねえよ。それこそ一番に降りろ」

サシャ「……私、最後に降ります」

ジャン「ああ?」

サシャ「今……ちょっと、下に行きづらいので」

ジャン「……コニー、エレン。先行ってていいぞ」

エレン「おう、じゃあまた後でな」


―― たき火近く

コニー「あっちー、疲れた疲れた!」バッサバッサ

ベルトルト「コニー、ほらタオルだよ。上着は預かっててあげるから、これで身体拭いて」

コニー「おう、ありがとなー。……ん? クリスタとユミルは?」フキフキ

マルコ「そういえば、まだ戻ってきてないな……コニーは二人とすれ違ったりしなかった?」

コニー「いいや、見てないぜ。……あっ、そうだアルミン、黄金って売りさばくにはどうしたらいいんだ? 市場にそのまま持っていけばいいのか?」

アルミン「市場にそのまま持って行っちゃえば混乱すると思うけど……なんでクリスタたちの話から突然黄金の話になったの?」

コニー「それはな――ジャンの目から黄金が出るからだ!」キリッ

ミカサ「……それは病気なのでは?」

アルミン「コニー、脈絡って言葉を知ってる?」

アルミン(目から黄金かぁ……いったい何の話を勘違いしたのかな……)


エレン「おーっす、みんなお疲れー」パタパタ

ミーナ「お疲れさまー」

ミカサ「エレン、まずは上着を脱いで汗を拭いて。そしてこの白湯を飲むといい。少し冷ましておいたからすぐ飲めると思う」テキパキテキパキ

エレン「いいって、自分でやるよ。タオル寄こせ」

アニ「……ねえ、ジャンとサシャは? いないみたいだけど」キョロキョロ

エレン「あいつらならまだ上で何か話してるぞ。二人きりで」

ライナー「……ほう」

コニー「あっ、そうだ! 俺みかん取ってこないと」ダッ

ベルトルト「コニー! タオルは上着と交換するために渡したんじゃないよ! 上着は着てよ! ねえ!!」ダッ


―― 同刻 男子寮 屋根の上

ジャン「……」

サシャ「……」

ジャン「降りろ」

サシャ「嫌です。ジャンがお先にどうぞ」

ジャン「断る。お前を置いて俺が先に降りたら、俺がお前の保護者連中に袋叩きにされちまうからな」

サシャ「それは……かわいそうですね。ジャンが」

ジャン「そう思うなら下に行けよ」

サシャ「それは……その……」モジモジ

ジャン「……あのなぁ、そうやって先延ばしにしておいてもいいことなんかねえぞ。本当に降りられなくなっちまう前にさっさと行けって」

サシャ「……でも」

ジャン「でもじゃねえよ。うだうだしてるとタイミングを逃しちまうぞ。……いっそ言っとけばよかったって、俺は今まで何度思ったことか」

サシャ「……ジャンだって、タイミング逃してばっかりじゃないですか」


ジャン「俺のことは別にいいんだよ。どうせ無理だってとっくの昔にわかっちまったし……高望みはしてねえよ」

ジャン「俺はミカサの笑う顔が見られるなら、それで充分だ。……本当は俺が笑わせられたら一番なんだけどな」

サシャ「……ミカサは幸せ者ですね」

ジャン「お前もある意味幸せ者だろ。なんでもかんでも食い物に繋げちまう思考はお花畑そのものだよな」

サシャ「……それを直したいんですよ」ボソッ

ジャン「らしくねえことはやめとけよ。……ほら、コニーがみかん引っ提げて下で待ってるぞ」

サシャ「そうでした!! みかん!!」スクッ

ジャン「やっぱり直す気ねえだろ、お前」

サシャ「……ああーっ!」ジタバタジタバタ

ジャン「……面倒くせえな。俺は先に降りるから、気が済んだら戻って来いよー」スタスタ...


―― 男子寮 屋根の下

ジャン「あーあ、いらねえ世話焼いちまったなー……」ブツブツ

ミカサ「……ジャン。ちょっといい?」タタタッ

ジャン「! ……ミカサか。どうした?」

ミカサ「エレンに雪下ろしのやり方を教えてくれてありがとう。タオルと白湯を用意しておいたので、よかったらどうぞ」スッ

ジャン「……お、おお、おう、ありがとよ」

ジャン(手渡し……!! ミカサが、俺のためだけに用意してくれたタオルを、手渡し……!!)ドキドキ

ミカサ「……」ジッ...

ジャン「……? なんだミカサ、何か他に用でも――」

ミカサ「東洋には、『病は気から』ということわざがある。どんな病でも、気の持ちようで改善することがある」

ジャン「? それがどうした?」

ミカサ「私は心配しかできないけれど……お大事に。それだけ」

ジャン「?? おう、どうも……?」


ライナー「お疲れ、ジャン。――サシャは?」

ジャン「ライナーか。……まだ上にいるぞ。降りたくねえんだと」

ライナー「……連れ戻してくるか」ハァ

コニー「おーい、みかん持ってきたぞー! ――ん? サシャはどこ行った?」キョロキョロ

ミカサ「まだ上にいる。……らしい」

コニー「なんだよ、せっかくみかん持ってきたのによー」ブーブー

ライナー「コニー、よかったら一つもらってもいいか? サシャに渡してくる」

コニー「あいよ。――ほれっ」シュッ

ライナー「よっと。……ん? コニー、俺は一つって言ったんだが」パシッ

コニー「ああ、間違ってねえよ。一人一つだろ?」

ライナー「……なるほどな。ありがたくもらっとく」

コニー「おう! サシャが降りてきたら後で宝探しやろうぜ! ここで待ってるからよ!」フリフリ


―― 男子寮 屋根の上

サシャ「……」グ-

サシャ(お腹空いた……)ガジガジ

ライナー「――おい、シャベルは食うなよ」

サシャ「! ……ライナー」

ライナー「よお。屋根の上は風が強いな」スタスタ...

サシャ「……」

ライナー「膝抱えてどうした? 動けないのか?」

サシャ「……もうちょっと、立ち直るまで時間ください」

ライナー「そうか、わかった。……隣いいか?」

サシャ「……どうぞ」

ライナー「どうも」スッ


ライナー「お前、よくこんな寒いところに黙っていられるな」ブルッ

サシャ「……寒いの、得意なので」

ライナー「得意なのはわかった。だが、汗も拭かないでこんなところにいるのは感心しないな」

サシャ「……ごめんなさい」

ライナー「いや、俺もタオル持ってきてやるの忘れたからな。おあいこって言えばそうなんだが――」チラッ

サシャ「……」

ライナー「……あー、まあなんだ。冷える前に下に降りないか?」

サシャ「……」

ライナー「……」ボリボリ

サシャ「……ライナーは、自分がなんなのかわからなくなる時ってありますか?」

ライナー「……たまにあるな」

サシャ「私、今はそういう状態です」


サシャ「……私は、犬じゃありません」

ライナー「そうだな、そりゃそうだ。見ればわかるぞ」

サシャ「さっきまで、私も思ってました。でも今は自信がないです」

ライナー「なんだそりゃ。誰かにそうやって言われたのか?」

サシャ「……私、口を開けば食べ物の話ばかりだって、最近気がつきました」

ライナー「それくらい、腹が減ってたら当たり前だろ」

サシャ「人間誰しもお腹が空くんです。でもそういうの、我慢できる人は世の中にたくさんいます。我慢できないのは人じゃなくて獣です」

ライナー「そうか、犬なのか……」

サシャ「私、なんでいつもこうなんでしょう……」

ライナー「……」

サシャ「……」

ライナー「お手」スッ

サシャ「……わん」ポン

ライナー「よしよし、いい子だな」ナデナデ


ライナー「いい子には褒美をやらんとな。ちょっと待ってろ」ゴソゴソ

サシャ「……ライナー。私の話、ちゃんと聞いてました?」

ライナー「聞いてたぞ。犬なんだよな?」

サシャ「私は、犬なのが嫌だって言ったんです。なんでそんな話をした矢先に犬扱いするんですか。私だって傷つきますよ」

ライナー「そうか、そりゃ悪かった。――ほら、やるよ」スッ

サシャ「!! み、みかん……!? どうしたんですか? コニーからもらってきたんですか!?」

ライナー「ああ。ここに登ってくる前に下で会ったんだ。……食べたいか?」

サシャ「食べたいです!!」

ライナー「よし、じゃあちょっと待ってろ」ムキムキ

サシャ「えっ、剥いてくれるんですか?」

ライナー「飼い犬のごはんは飼い主が用意しないとな」

サシャ「だから犬じゃないって――ああっ、スジは取っちゃダメですよ栄養があるんですから!」

ライナー「おっと、すまん」


ライナー「よーし、剥けたぞ」ヒョイッ

サシャ「……一房ずつ?」

ライナー「長く楽しめるほうがいいだろ。――ほれ、食べるか?」スッ

サシャ「ください!」カパッ

ライナー「……」

サシャ「……」アーン

ライナー(右……)ササッ

サシャ「あー……あーっ、あー……」

ライナー(左、っと……)サササッ

サシャ「……あー……ああーっ……」

ライナー(……面白いな)ニヤニヤ

サシャ「……」ジロッ...

ライナー(……あっ、やべっ)

サシャ「…………………………………………手ごと食べますよ?」

ライナー「さあ、たんとお食べ」サッ


サシャ「ああっ、甘くておいしいぃ……!」モッキュモッキュ

ライナー「顔、緩みまくってるぞ。そんなにおいしいか?」

サシャ「はい! 空腹と運動は極上のスパイスです」キリッ

ライナー「……そういうのが、お前らしくていいと思うけどな」

サシャ「私らしい……?」

ライナー「何か食ってる時とか、食い物の話をする時に、楽しそうに笑うだろ。そういうところが好――」

サシャ「……す?」

ライナー「す………………素直でいいと、思うぞ。俺は」

サシャ「そうですか、いいんですか…………へへっ」ニヘラ

楽しみに待ってました!
わくわく


サシャ「……なんかもう、犬でもいい気がしてきました」

ライナー「なんだ、随分簡単に解決したな」

サシャ「まあ、ちょっとは人間扱いに未練もありますけどね。元々向いてなかったんですよこういうの。だからこのままでいいです」

ライナー「――してほしいのか? 女の子扱い」

サシャ「……え?」

サシャ(あれ? ライナーって、こんな近くに座ってましたっけ……?)

ライナー「あれだけ色々してやってるのに、まだ足りねえのか」ジリッ...

サシャ「……え、あの、ちょっとライナー近くないですか? もう少し離れません?」ササッ

ライナー「おい、逃げるなって」ガシッ

サシャ「ひゃっ」ビクッ



ライナー「……お前な。この逃げ場のない状況で『女の子扱いしろ』って言葉の意味、わかってるのか?」


ライナー「――なんてな。冗談だ」パッ

サシャ「……」

ライナー「……お手」スッ

サシャ「……わん」ポン

ライナー「よっと」グイッ

サシャ「わわ……っと!」ヨロッ

ライナー「よし、ようやく立ったな。下に降りるぞ」

サシャ「……やられました」

サシャ(ほっぺたと耳、熱い……)パタパタ



ライナー「そういや、コニーからもう一つみかんもらってあるからな。下に戻ったらそれもやるよ」

サシャ「降りましょう! 今すぐに!!」ダッ

ライナー「おい屋根の上で走るな!! 危ないだろ!!」


―― 男子寮 屋根の下

コニー「おかえりー」モグモグ

ミカサ「おかえりー」モグモグ

ジャン「おかえり」モグモグ

ライナー「なんだお前ら、三人で待ってたのか?」

コニー「俺が待ってるって言ったら、ミカサも待つって言い出してさ」

ミカサ「アニが先に食堂に行ってしまったので、サシャを湯たんぽにして帰る。ので、待っていた」

ジャン「俺が残った理由はわかるだろ?」キリッ

ライナー「……ジャンが一番わかりやすいと言えばわかりやすいな」


ミカサ「サシャ、みかんは食べたの? 満足した?」

サシャ「はい、とっても!」フーッ

ライナー「おっとそうだ。もう一つやらないとな。約束だ」スッ

サシャ「そうですよ、みかん! 約束してたんですからください!」グルンッ

コニー「まあ待てよサシャ。せっかくだからそのみかん使って宝探ししようぜ」

サシャ「宝探し?」

コニー「ああ。俺の村に伝わる伝統的な遊びだ。――というわけでライナー、それ貸してくれ」

ライナー「宝探し……ってことは、このみかんを探すんだよな? 今から埋めてくるのか?」

コニー「違う違う。こうやってやるんだよ。――そーれ取ってこーい!」ブンッ

サシャ「へっ?」


ミカサ「……飛んだ」

ジャン「飛んだなぁ」

サシャ「…………コニー?」

コニー「ほいサシャ、行ってこいよ。制限時間とかはないからさ、気楽に探して――」

サシャ「なんってことするんですかぁぁああっ! みかああああぁぁん!!」ダッ

ライナー「!? 待てサシャ、お前みかん一個しか食べてないんだぞ! その状態で営庭探すのは無茶だ! おい!」ダッ

コニー「昔よく父ちゃんにやられたんだよなー。あー懐かしい」

ジャン「お前……結構ひどいことするのな。コニー」

コニー「何言ってんだ、俺なんかこの三倍広いとこ探し回ったことあるんだぞ」

ミカサ「でも、そろそろお昼ごはん。もしかしたら、サシャはもう一回くらい食いっぱぐれるかも」

コニー「……やべっ、忘れてた。――で、でもよ、ライナーがついてるから大丈夫だろ? たぶん」

ジャン「……俺、ライナーのメシ確保しとく」スタスタ...

ミカサ「私も。寒いけれど、先にサシャのごはんを取っておこう」スタスタ...

コニー「……俺も手伝うわ」スタスタ...


―― 昼 食堂

アルミン「ミカサ、ジャンと一緒だなんて珍しいね。どうしたの?」

ミカサ「……ちょっと深い事情がある。アルミン、悪いけどエレンと二人で食べていて」

アルミン「それは別に構わないけど……コニーが沈んでるのはなんで?」

ジャン「食堂でメシの匂い嗅いで、やっと罪の重大さに気づいたんだと」

アルミン「罪? コニーは何をやったの?」

ミカサ「触れないであげて、アルミン」

ジャン「!! ミカサ、ライナーたちが来たぞ!」ガタッ



サシャ「……」ドヨーン...

ライナー「そう気を落とすな。な? パンとスープ分けてやるから――」


ジャン「おいライナー、こっちだこっち! メシは取っといたぞ!」

ライナー「……ジャンか。すまないな」

ミカサ「サシャ、みかんは……」

サシャ「……見つかりませんでした」フルフル

ミカサ「……そう」

サシャ「……私のみかん」

コニー「すまん、サシャ。……お前の体力と腹具合をすっかり忘れてた」

サシャ「……みかん」

コニー「俺は、化石作りさせるつもりはなかったんだ……悪い」


サシャ「いいですよ。今日の訓練終わったらまた探しに行きますから……

コニー「そうか……そうだな、俺も手伝う!」ガタッ

ライナー「当然俺も行くぞ!」ガタッ

アルミン「ライナーは無理だよ。今日の訓練の後、臨時の室長会議があるらしいから」

ライナー「……すまん、サシャ」

サシャ「いいですよ。一人でも……やりますから…………」

コニー「いいや、お前は一人じゃない! 俺も手伝うぞ!」

サシャ「こ、コニー……!」ジーン...

アルミン「あのねサシャ。――言いにくいんだけどね、午後はトロスト区中の雪が運び込まれるらしいから、みかんはきっと埋もれちゃうと思うよ……」

サシャ「……」

ジャン「詰んだな。ご愁傷さん」モグモグ


サシャ「……」

ミカサ「サシャ、元気を出して」ナデナデ

サシャ「みかん……私のみかん……」ブツブツ

ミカサ「料理には、隠し味はつきもの」





ミカサ「ひと冬隠れ続けたら、おいしくなると思う」

サシャ「……隠し味ってそういうのじゃないです」







おわり

そんなわけで雪かき&雪下ろしの話でした 
>>95さん並びに前スレでレスしてくださった方、お待たせしてすみません ポケモンで遅くなりましたごめんなさい

というわけでまた次回 まだチャンピオンロードにすら辿り着いてないのでまた遅れる……かも




   番外編:ライナー「ポッキーゲーム?」



・時系列的にはたぶん祭と初雪の間

・本筋とはあまり関係ないので気軽にどうぞ


―― 夜 消灯時間前 とある空き倉庫

ライナー「なんだそりゃ。聞いたことないな、そもそもポッキーってなんだ?」

サシャ「私もポッキーが何かは説明されてもよくわからなかったんですけどね、とにかくそういう遊びがあるらしいんですよ」

ライナー「それで、そのゲームに使うのが――」

サシャ「はい、このさつまいもスティックです!」ミョローン

ライナー「やけに長いな」

サシャ「ながーく焼いてあるので、ながーく楽しめるそうですよ。これでお値段据え置きなんですからお得ですよねー」

ライナー「そんなに長いんならお前が食ったほうがいいんじゃないか? 何もゲームに使わなくても――」

サシャ「実は私もそうしようと思ってました」ジュルリ

ライナー「思ったのか」

サシャ「というかもう既に一本つまみ食いしてきました。おいしかったです」ペロリンチョ

ライナー「よかったな」

サシャ「でもこのゲームをやると、普通に食べるよりおいしく感じられるらしいんです」


ライナー「……で、やりたいと」

サシャ「はい!」コクコク

ライナー「なんで相手が俺なんだ? ミカサやクリスタでもいいだろ?」

サシャ「私もそう言ったんですけどね、なんでも異性の人とやるともーっとおいしく感じられるそうなんです」

ライナー「そのゲームをお前に教えたのは誰だ?」

サシャ「ユミルです」

ライナー「……」

サシャ「眉間に皺寄せてどうしました? 頭痛いんですか? 撫でましょうか?」

ライナー「撫でなくていい。……なんだかあいつの手のひらで踊らされてる気がしてな。どうも気が進まん」

サシャ「そうですか、残念です。……ライナーが嫌なら仕方がありませんね、コニーに頼むことにします」

ライナー「よしやるぞ」

サシャ「えっ? いいんですか?」


ライナー「ユミルから教わったってのが気になるが、たかがゲームだしな。警戒する必要もないだろ」

サシャ「そうですか。まあ私としてはゲームができれば別になんでもいいんですけどね。というわけで三本ありますから三回勝負にしましょう。いいですか? 途中で無理に折ったり、先に口を離したほうが負けですよ?」

ライナー「おう、望むところだ。――そう簡単に勝たせてやらないからな」

サシャ「ふふふ、食べ物がかかった勝負で私が負けるとでも? ――というわけで、はいじゃあこっち咥えてください」スッ

ライナー「? ……食えばいいのか?」

サシャ「いえ、咥えるだけです。ゲームが始まったら食べてもいいですよ」

ライナー「変なゲームだな。……まあいいか」パクッ

サシャ「んー……立ったままだとちょっと位置が高すぎますね。こっちの椅子に座ってくれますか?」

ライナー「おう。これでいいか?」ドスッ

サシャ「はい、いいですよ。――じゃあいきますよー」パクッ

ライナー「!?」ビクッ


サシャ「」サクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサクサク

ライナー「ちょっ、ちょっと待った!」パッ

サシャ「あっ、ライナー離しましたね。私の勝ちです! ――というわけで残りは私がおいしくいただいちゃいますねー」サクサクサクサク

ライナー「…………今のは一体なんだ? 何しようとした?」

サシャ「だから、ポッキーゲームですよ。こういう長くて棒状の食べ物を、お互い両端から食べ進めていく遊びです。……ふぅ、ごちそうさまでした」フキフキ

ライナー「……」

サシャ「ライナー? やっぱり頭が痛いんですか? 私も手で頭押さえてあげましょうか?」

ライナー「押さえなくていい。……ユミルから聞いたって言ったな? ったく、あいつは」ハァ

サシャ「……あの、ライナーが嫌ならやめますか? やっぱり他の人に」

ライナー「他の奴はダメだ!」バンッ!

サシャ「ライナー、静かに! 見回りの人来ちゃいますよ!」シーッ!

ライナー「……悪い」


ライナー「……なあ、もしここで俺がやらないって言ったら」

サシャ「明日コニーに頼みます」

ライナー「よし続けるぞ」

サシャ「それは……私としてはありがたいですけど、大丈夫なんですか?」

ライナー「今のは驚いただけだ。事前にルールの確認をしなかった俺が悪い。――それに、勝負からは逃げん」

サシャ「おおーっ、男らしいですね!」パチパチ

ライナー「さつまいもスティックはあと二本だったな? 今からでも充分逆転できる」

サシャ「ライナーったら勝つ気満々ですね。――まあ、私が勝つんですけど」フーッ

ライナー「言ってろ。――ほら、今度はお前が先に咥えろ」

サシャ「はーい。じゃあいきますね!」パクッ

ライナー「よし。――はじめるぞ」パクッ


サシャ(さっきは時間が短すぎて、普通に食べた時との違いがわからなかったんですよね。ライナーが続けるって言ってくれて助かりました)

サシャ(さーて、次も私が勝っちゃいますよ!)サクサクサクサク

ライナー「……」

サシャ「……?」サクサクサクサク

サシャ(あれ? ライナーは食べないんでしょうか。……ライナーが食べない分、私の取り分が増えるので別にいいんですけどね)

ライナー「……」

サシャ「……」サクサクサクサク

サシャ(待ちの一手だけじゃ勝てませんよ、ライナー!)サクサクサクサク

ライナー「……」

サシャ「……」サクサク


サシャ(なんだかおかしいですね。もう半分も残ってないのに動かないなんて……もしかして、さつまいもスティック苦手だったんでしょうか?)サクサク

サシャ(でも、みんなで焼き芋した時は普通に食べてましたし、苦手ってことはないと思うんですけど――ん?)ピタッ

ライナー「……」

サシャ「……」...サクッ

サシャ(……さっきより顔が近いような)ススッ

ライナー「……腰、引けてるぞ」

サシャ「え、でも、これ……」

ライナー「なんだ、いらないなら俺が食っちまうぞ」サクッ

サシャ「!? そっ、それはダメです!」サクサク


サシャ「……」サクサク

ライナー「顔赤いぞ。どうした?」サクサク

サシャ「だ、だってこれ……顔、近すぎません? それに、このままだと――」

ライナー「このままだと?」

サシャ「……………………き、キス、することになっちゃいますけど」

ライナー「そうだな。……それで?」

サシャ「そ、それでって――」

ライナー「気づいてなかったのか? それに、キスくらいいつもしてるだろ?」

サシャ「そりゃそう……ですけど。いつものは、こんな風にゆっくりじゃないですし、顔が少しずつ近づいてきて、その…………恥ずかしい、っていうか」ボソボソ

ライナー「ああ悪い。声が小さくて聞き取れなかった」サクサクサクサクサクサクサクサク

サシャ「ひゃあっ!?」パッ


サシャ(は、鼻が……鼻のてっぺんが、当たった……!)ドキドキドキドキ

ライナー「離したな?」ニヤッ

サシャ「……あっ」

ライナー「俺の勝ちだな。というわけで残りは俺のもんだ」サクサクサクサク

サシャ「ああっ、ああー……」ガクッ

サシャ(そんな、食べ物がかかった勝負で私が負けるなんて……!)ギリッ...

サシャ「……ライナー、最初から気づいてたんですね?」

ライナー「むしろお前が気づかなかったのかと俺は聞きたい。――あーおいしかった。ごちそうさん」

サシャ「うぐぐ……卑怯ですよライナー! 知ってるなら教えてくれればよかったのにぃっ!」

ライナー「勝負事は駆け引きが重要だろ? 今回は俺が上だったってだけだ。それに知ってる情報を明かさなかったのはお前も同じだ。――さあ、続けるぞ」

サシャ「まっ、まだやるんですか!?」

ライナー「お前がやりたいって言ったんだろ? 俺は付き合ってやってるだけだ」ニヤニヤ

サシャ「うっ……」


サシャ(食べ物がかかってるのに勝てる気がしません……こうなったら!)

サシャ「ダメです!残りの一本は私が食べます!」ササッ

ライナー「あっ、こら! 食べたらお前の負けだぞ!?」

サシャ「えっ、ええっ!? ずるいですよライナー!!」

ライナー「当然だろ、するくないっ! これは俺が没収する!」ヒョイッ

サシャ「あーっ! ダメですよ返してくださいっ! もうっ!!」ピョンピョン

ライナー「こうでもしないとお前食っちまうだろ! こらっ、シャツを引っ張るな、伸びるっ!」ジタバタジタバタ

サシャ「私のさつまいもー!」グイグイ



ジャン「やっぱこれだねー♪ ……っと」ガチャッ



ライナー「」ピタッ

サシャ「」ピタッ


ジャン「……こんばんは」ペコッ

ライナー「……おう」ペコッ

サシャ「……どうも」ペコッ

ジャン「……」

ライナー「……あのな、ジャン。これには深い理由があってだな――」

ジャン「慌てるな、ライナー。俺は同期の中でも取り分け現状を認識する能力が高いんだ。今がどういう状況かもわかってる」

ライナー「お、おお……そうか」

サシャ「……」

ジャン「……ライナーがサシャからお菓子を取り上げた!」ビシッ!

ライナー「ちがうっ!」

サシャ「そうですっ!」

ジャン「よし、たぶんライナーが正しい」

ライナー「っしゃあっ!」グッ

サシャ「なんでそうなるんですか!?」


ジャン「いいかサシャ。お前の足りない頭でよーく考えろ……この状況、どう見てもお前がライナーに菓子を取り上げられたと考えるほうが自然だ」

サシャ「だったら――」

ジャン「だが、あのライナーが否定してるんだからそんなことはありえない」

サシャ「なっ……! で、でも、ライナーが嘘を吐いてる可能性だってあるはずです!」

ジャン「ていうかぶっちゃけお前よりライナーのほうが信用できる」キリッ

サシャ「ぐうっ、こんなところでも日頃の行いの差が出るなんて……っ!」ダンッ!!

ライナー「はっはっは、俺の勝ちだな!」

ジャン「テンション上げてるところ悪いんだけどよ、ライナー。誰か他にここに来なかったか?」

ライナー「いいや? 今の時間は見回りも来ないしな。誰も見てないぞ」

ジャン「そうか。っかしいなー……」ボリボリ

サシャ「何かあったんですか?」


ジャン「俺もよくわかんねえんだけどよ、手紙でここに呼び出されたんだ。なんでも、日頃のお礼にポッキーゲームしたいんだとさ。よくわかんねえんだけど」ピラッ

ライナー「……相手はミカサか?」

ジャン「はぁ? なんでミカサが出てくるんだ? 違ぇよ」

サシャ「では、全く知らない相手なんですか?」

ジャン「相手は……確か、この前の立体機動訓練で同じ組になった奴だな。知らない奴ってわけじゃないけど、話はほとんどしたことねえ」

ライナー「帰ったほうがいい」

サシャ「出口はあちらです」

ジャン「なんで俺を帰そうとする」

ライナー「年上の忠告はありがたく聞いとくもんだ!!」

サシャ「いくら叶わない恋だとしても、はじめては好きな人じゃないとダメですよ!!」


ジャン「な、なんだよその反応…………あっ、お前らもしかしてポッキーゲームが何か知ってるのか?」

ライナー「いやー知らないなー」

サシャ「全く身に覚えがありませんねー」ピーヒョロロ

ジャン「おいおいお二人さん。さっきも言ったが、俺は現状を認識する能力が高いんだぜ? ――知ってんだろてめえら二人」ギロッ

サシャ「……はい、知ってます」

ジャン「それならちょうどいい。どういうゲームか教えてくれよ。それさえ聞いたら、お前らの忠告通り帰るからさ」

ライナー「……まあ、教えてやるくらいなら構わんが」



ジャン「ちょっと待った。――ただ教えてもらうってのもわかりにくいから、どうせなら実演してくれ」



ライナー「」

サシャ「」


ライナー「……実演?」

サシャ「……私とライナーで?」

ジャン「おう」

ライナー「……」チラッ

サシャ「……」チラッ

ライナー(さっきまでのアレを、ジャンに見せるのか……?)

サシャ(誰もいないならともかく、ほ、他の人の前でキスをするのは……)モジモジ

ジャン「ほら、早くしてくれよ。相手が来ちまうだろ?」


サシャ「ら、ライナー……本当にやるんですか? 私、わたし……」クイクイ

ライナー「大丈夫だサシャ。――俺を信じろ」

サシャ「……はい」

ライナー「いいかジャン。ここに一本のさつまいもスティックがある。……ポッキーゲームというのはだな、こいつを使うんだ」

ジャン「おお! ――やっぱりな、さっきから意味ありげに持ってるから何か関係あると思ってたんだ」ポンッ

ライナー「まずはこれを二本に折る」ポキッ

サシャ「……ん? 折る?」

ジャン「おおっ! 今ポキッって音がしたぜ!? ――なるほどな、ポッキーゲームの『ポッキー』はそこからきてるのか!」ワクワク


ライナー「そうだ。こういう長い棒状の物が折れた時の、『ポキッ』という擬音がこのゲームの名前の由来だ。――さあサシャ、こっちの短いほうを持て」

サシャ「はーい」スッ

ライナー「そして、互いに持った棒を打ちあう」ペシッ

サシャ「……」ペシッ

ジャン「……チャンバラか」

ライナー「そんな感じだ。この時、あくまで棒の端を持つのが重要だな。――こうすることで、身持ちの堅い昔の人は口づけの代わりとしたんだ」

ジャン「!? ……いきなり話が飛んだな」

ライナー「昔から伝わる伝統や風習ってのはそんなもんだ。何気ない行動がとんでもないことに繋がっていたりする」

ジャン「へー……ライナー、物知りなんだな」

ライナー「というわけでだ。――ジャン、お前がポッキーゲームをすれば、その相手とキスしていることになる」

ジャン「」


ジャン「……俺、帰るわ」クルッ

ライナー「ああ、そうしたほうがいい」

サシャ「そうですね。相手の子には私から話しておきますよ」

ジャン「やっぱりファーストキッスは好きな女子としないとな。――じゃあ二人とも、おやすみ!」ガチャッ バタンッ ダダダ...

ライナー「……走って逃げたな」

サシャ「そうですね」

ライナー「聞き分けがよくて助かった」ハァ

サシャ「よくもまあ、あんな嘘すらすら出て来ましたね」

ライナー「嘘は言ってないぞ。……結果論だが」

サシャ「確かに嘘ではありませんでしたね。キスすることには変わりありませんし」

ライナー「ああ。それにあんなゲーム、他人の前でやれるもんでもないだろ」

サシャ「……そうですね」

ライナー「それともなんだ。――お前、ジャンに見せつけたかったのか?」

サシャ「………………ライナーのいじわる」プイッ


サシャ「まあ、それはそれとして。ポッキーゲーム、もうできませんね」サクサクサクサク

ライナー「あっ! ……いや、まだ俺が持ってるさつまいもスティックがある!」

サシャ「隙あり!」ピョンッ

ライナー「そう簡単にやるか! ――さあ、勝負の続きだ。次も俺が勝つ!」

サシャ「……」ジーッ

ライナー「なんだ? そんな目で見たってやらんぞ?」

サシャ「……」

ライナー「……」

サシャ「……」

ライナー「……」

サシャ「……」

ライナー「……負けた。やる」スッ

サシャ「へへへ、ありがとうございます」パクッ


サシャ「……♪」サクサクサクサク

ライナー「……捨てられた子犬みたいな目しやがって」ブツブツ

サシャ「言葉じゃ勝てなさそうでしたからね。私なりに頭を使った結果です。――というわけで、ごちそうさまでした!」フーッ

ライナー「おう。よかったな」ムスッ...

サシャ「ああっ、拗ねないでくださいよー。ほらほら、ジャンも事実を知らずに帰れたんですから、それでいいじゃないですか。ね?」ナデナデ

ライナー「……お前は俺でよかったのか?」

サシャ「? 何がですか?」

ライナー「最初の相手だよ。キスは好きな人とじゃないとダメなんだろ?」

サシャ「それは、その………………………………ないしょです。教えてあげません」

ライナー「……生意気な奴め」ワッシャワッシャ

サシャ「ああっ! クリスタにお手入れしてもらったばかりなのに!」ジタバタジタバタ


サシャ「仕方ありませんね……じゃあ今度、もう一回さつまいもスティック買いに行って、また勝負しましょうか」

ライナー「は? まだやるのか?」

サシャ「だって結局、味の違いがわからなかったんですもん。――私に勝ったら、さっきの質問の答えを教えてあげてもいいですよ」

ライナー「よし、乗った。……絶対勝つからな」

サシャ「私だって、今度はそう簡単に負けませんからね!」



おわり

(本編を書きためしないと)やばいと思ったが衝動が抑えきれなかった&次回に組み込もうと思ったけれど無理そう&スレ立てするには短すぎる&次回更新の時に投下じゃ時期的に遅すぎる ので、ここに番外編として投下しました
というわけで書きために戻ります あと>>1はトッポのほうが好きです

感想ありがとうございましたー
じゃがりこ&プリッツ&芋けんぴのキーワードで更に妄想が降りてきたので、取り敢えずじゃがりこ編を投下します

(投下は来週になりそうですが)本編もちゃんと書き溜め進んでますのでご心配なく


―― 数日後 消灯時間前 とある倉庫

サシャ「じゃがりこしましょう」

ライナー「意味がわからん」

サシャ「今朝、私宛にお菓子の詰め合わせが届いたんです」

ライナー「へえ……実家からか?」

サシャ「いいえ、知らない人からです」

ライナー「危ねえな」

サシャ「お菓子に罪はありません。それに、誰から届いたとかどうやって調達したとかそういう細かいことはいいんですよ」

ライナー「そういうもんか?」

サシャ「そういうものです。一番大事なのは、私たちの目の前にこうしてお菓子の詰め合わせがあるということです。タダですよ、タダ! ひゃっほう!」バンザーイ

ライナー「現金な奴だなぁ」

サシャ「なんとでも言ってください。――というわけで、じゃがりこしましょう」

ライナー「振り出しに戻った」


ライナー「で、じゃがりこってなんだ?」

サシャ「お菓子の名前です。ここにそう書いてあります」

ライナー「何故読める」

サシャ「食べ物への愛があればこんなの簡単です。――ほら、長年家畜を世話してると考えていることが大体わかるっていうでしょう? あれと同じです」

ライナー「すげぇな」

サシャ「ちなみに味はサラダ味だそうですよ。ここに書いてます」

ライナー「サラダ味? 野菜でも入ってんのか?」

サシャ「いいえ、サラダ油のサラダらしいですよ。――まあとにかく食べましょうよ。開けますね」ペリペリ

ライナー「!?」


サシャ「うーん……さつまいもスティックよりは短いですね。でも量はたくさん入ってるので長く楽しめそうです。取り敢えず一本食べてみます?」

ライナー「サシャ、お前……」

サシャ「? なんですか?」

ライナー「その箱……箱? いや筒か? どうやって開けた?」

サシャ「え? ええっと、ここの『あけくち』って書いてある部分を摘んでですね、ひょいっと上に」クイ

ライナー「ちょっとその筒、見せてくれ。頼む」

サシャ「いいですよー。どうぞ」スッ

ライナー「どうも。――なんだこれ、箱なのか……? いや、それ以前にこれは紙か? なんだこれ……」ジーッ

サシャ「早く食べましょうよー」クイクイ

ライナー「中身出していいか?」ソワソワ

サシャ「いいですよ。ハンカチ持ってきましたから、その上にどうぞ」ファサッ

ライナー「よーし」ザラザラ

サシャ「わぁっ、こうやって並べたらいっぱい入ってますね! どれから食べましょうか?」ワクワク

ライナー「ちょっと待ってろ、この箱分解するから」ベリベリ

サシャ「えっ」


―― 五分後

サシャ「……」

ライナー「見たことない材質だな……この蓋も、一度糊付けしたのにどうやって剥がしたんだ……? こんな細工、どうやって……」ブツブツ

サシャ「…………」

ライナー「蓋と箱も、微妙に紙の厚さが違う……どういうわけだこれは……」ブツブツ

サシャ「……………………」

ライナー「サシャ、他にこれと同じような箱はあるか? 比べて見てみたいんだが――」クルッ





サシャ「……」プクーッ...





ライナー(……あっ。やべっ)


ライナー「サシャ、どうした? 腹が減ったのか?」アタフタアタフタ

サシャ「……それもあります」

ライナー「だったら先に摘んでてもよかったんだぞ? 俺を待ってなくても――」

サシャ「私は、このお菓子はライナーと一緒に食べようと思って持ってきたんです」

ライナー「……」

サシャ「だから、ライナーが一人で遊んでる間、ず――――――――――――っと待ってました。じゃがりこを長さ順に並べながら、ずっと待ってました」

ライナー「……ああ、そういや綺麗に階段状に並んでるな」

サシャ「…………さみしかったです」クスン

ライナー「すまん」


サシャ「ライナーばっかり、一人で楽しんでぇ……」イジイジ

ライナー「悪かった悪かった、待たせてごめんな。サシャ」

サシャ「私もお楽しみしたいです」

ライナー「そうだな、そろそろ食うか。――ほら、これなんか折れてないからうまそうじゃないか? 食ってみろ」

サシャ「……ライナー、本当に反省してます? 食べ物で誤魔化そうなんて思ってません?」

ライナー「なんだ、疑ってるのか?」

サシャ「そりゃそうですよ。――というわけで、口開けてください。私もお楽しみしますから、ちょっと付き合ってくださいよ」

ライナー「口? ……まさか、満杯に菓子詰めたりしないよな」ススッ

サシャ「そんなもったいないことしませんよ。いいから口開けてください」

ライナー「わかった。――これでいいか?」パカッ

サシャ「はい、ばっちりです。――ふっふっふ、それでは行きますよ!」クワッ!!


サシャ「さあっ、このじゃがりこをじっと見ててくださいね? まずは右です! ――とうっ!」ササッ

ライナー「……」

サシャ「次は左ですよ! ――ほらほらライナー、食べたくなってきたでしょう?」スススッ

ライナー「…………」

サシャ「どうです? 目の前でお菓子がちらつくと悔しいでしょう? 悔しいでしょう!?」ササッ

ライナー「いや全然」

サシャ「そんな!?」ガーン!

ライナー「お前、何をしたいんだ」

サシャ「ライナーを悔しがらせたいんですよ! もうっ、なんで悔しがってくれないんですかぁっ! 私が馬鹿みたいじゃないですか!!」ジタバタジタバタ

ライナー(馬鹿かわいいなこいつ)


サシャ「……もういいです。気を取り直して食べましょう」

ライナー「そうだな。野ざらしにされて菓子がかわいそうだしな」

サシャ「流石にこれ全部でポッキーゲームをするのは無茶なので、そのまま何本か食べましょう。……あっ、短いのから順に食べてくださいね」

ライナー「おう、わかった。……ん? 固いな、これ」ポリポリ

サシャ「さつまいもスティックよりかなり固いですよね。――そういえば、このお菓子って伝統的な食べ方があるらしいんですよ。よく見ててくださいね」ヒョイッ

ライナー「食べ方?」

サシャ「はい、箱に書いてたんです。じゃあ食べますよ? ――じゃーがーりーこー」ポリポリ

ライナー「……」

サシャ「じゃがりこじゃがりこじゃがりこ」ポリポリポリポリ

ライナー「……」

サシャ「どうです? なかなか上手でしょう?」フーッ

ライナー「……一回見ただけじゃよくわからなかったな。もう一回やってくれ」

サシャ「いいですよ! ――じゃーがーりーこー」ポリポリ


サシャ「じゃがりこじゃがりこじゃ――」ポリポリ

ライナー「……」ジーッ...

サシャ「じゃ、じゃがりこ……」ポリッ

ライナー「……」ジーッ...

サシャ「……なんで黙って見てるんですか」

ライナー「どうやって食べればいいのか観察してるんだ。続けてくれ」

サシャ「で、でも」

ライナー「いいから」

サシャ「はぁ……」ポリポリ


ライナー「……」ジーッ...

サシャ「……あの、前から見られてると食べにくいんですけど」

ライナー「頑張れ」グッ

サシャ「いや応援とかそういう問題じゃなくてですね」

ライナー「ほら、手が止まってるぞ。早く早く」ヘイヘーイ

サシャ「ううっ……わかりましたよ、食べますよ、食べればいいんでしょう?」ポリポリ

サシャ「……」ポリポリ

ライナー「……」ジーッ...

サシャ(なんだかこれ、結局ライナーが得してる気が……)ポリポリ

ライナー(……かわいい(確信))


―― 五分後

サシャ「ふぅ。やっとここまで減りましたね」

ライナー「三本ならちょうどいいな」

サシャ「そうですね。――三本勝負で、二本先取した方が勝ちでいいですね?」

ライナー「ああ。それでいい」

サシャ「じゃあ、先にライナーが咥えてください」スッ

ライナー「おう、わかった。――よし、来い!」パクッ

サシャ「いきますよ! 絶対負けませんからね!」ポリッ

ライナー「言ってろ。今日は俺も責めるからな」ボリッ

サシャ「……」ポリッ

ライナー「……」ポリッ





ライナー・サシャ(………………固い)ポリッ...


ライナー(さっきまでは手で持ってたから気にならなかったが……この菓子、かなり固いな)ポリッ

サシャ(す、進まない……! さっさと食べて終わらせようと思ったのに、全然進まない……っ!)ポリッ

ライナー「……サシャ」ポリッ

サシャ「なっ、なんですか」ポリッ

ライナー「……そんな露骨に顔を真っ赤にされると、こっちも恥ずかしくなるからやめろ」

サシャ「だ、だって……こ、こんなに近くなのって、恥ずかしくて……」

ライナー「これくらい割り切れよ」

サシャ「そんな、割り切れって言われても…………ん?」

ライナー「なんだ?」ポリポリ

サシャ「えーっと、あのですね…………眉毛、こんな近くで見たことなかったなぁと思いまして」ジーッ...

ライナー「!!」パッ


サシャ「あっ、やった! 離しましたね、私の勝ちです!」ポリポリポリポリ

ライナー「……どこ見てんだお前」

サシャ「どこって、眉毛ですよ眉毛。そんな形してたんですね、近くでゆっくり見る機会ってないのでなんだか新鮮です」

ライナー「……」ササッ

サシャ「……? なんで手で隠してるんですか?」

ライナー「……いいだろ別に。続きやるぞ」

サシャ「でも、それだとライナーの手が邪魔になってゲームができませんが」

ライナー「……」

サシャ「……もしかして」

ライナー「……」ビクッ



サシャ「眉毛見られるの、恥ずかしい、とか……?」

ライナー「……」ダラダラダラダラ


サシャ「なるほど。眉毛ですか」

ライナー「……おいおいサシャ。俺がたかが眉毛なんか気にするわけないだろ?」フッ

サシャ「じゃあ、その手取ってください」

ライナー「断る」

サシャ「確定ですね」

ライナー「……くそ、やられた」

サシャ「むふふ、一瞬の油断が命取りですよ? ――さて、続きやりましょうか」ニッコリ

ライナー「いや、待った。ここはお前の勝ちでいい」

サシャ「えっ、いいんですか? ――じゃあ、残りの二本ももらっちゃいますね!」ジャガリコジャガリコ


サシャ(ライナーの弱点は眉毛だったんですね。これはいい情報を掴みました)ニマニマ

ライナー(こんな形でバレるとは予想外だったな……俺も油断してたってことか)ギリッ

サシャ(これで状況はイーブンですね。例え私が『見ない』って宣言したとしても、一度意識したら気になるはずです)

ライナー(……次の菓子がじゃがりこより固いってことはないだろう。サシャがやっていた伝統的な食べ方を考えれば、あの食感がこの菓子の魅力の一つであることは間違いない)

サシャ(お互い条件が同じなら、私が逆転できる可能性も充分あります。ここは当初の予定通り――)

ライナー(バレちまったからには仕方がない。次からは予定を変更して――)





ライナー・サシャ(――短期決戦に賭ける!)

じゃがりこが手元にないので蓋に書いてたのが「あけくち」だったか「OPEN」だったか自信がないんですがまあ適当に補完しておいてください
というわけで予定は未定ですが明日か明後日はプリッツ編です
ちなみに、TVアニメの公式サイトのライナーの人物紹介に「眉毛が特徴的」って本当に書いてあるので暇だったら確認してみてくださいね

ググったら「あけくち」じゃなくて「OPEN」でした 投下する前に確認するべきだった…… orz

こんばんはー 今日は短いですがプリッツ編・前半を投下です


サシャ「さて、お次はプリッツですよ。これもサラダ味です」ガサゴソ ドン!

ライナー「サラダっつうか、さっきのじゃがりこも結構塩気があったよな。サラダ味じゃなくて塩味じゃないのか?」

サシャ「そういうツッコミを想定しているのかどうかはわかりませんが、プリッツのパッケージには『サラダ あっさり塩味』って書いてありますね」

ライナー「あっさりか……じゃがりこもプリッツも、色は緑なんだな」

サシャ「サラダ味で緑色だとキャベツとかキュウリ想像しちゃいますよね。……まあそういう細かいことは置いといていただきましょう!」サッ

ライナー「ちょっと待った。……その箱、俺に開けさせてくれないか?」ソワソワソワソワ

サシャ「……私のこと蔑ろにしないって約束できます?」

ライナー「するする」コクコク

サシャ「それならどうぞ」スッ


ライナー「どうも。……さっきのじゃがりこもそうだったが、随分と上等な紙を使ってるんだな。内地にはこんなものがあるのか?」ジーッ...

サシャ「内地の高いお菓子でもここまで手の込んだ包装はしてないと思いますよ。少なくとも私は見たことないですね」

ライナー「不思議なものもあったもんだなぁ」シミジミ

サシャ「ああもうっ、そういうのはいいから早く開けてくださいよ! そんなに気になるなら空箱あげますから」クイクイ

ライナー「もらっていいのか!?」

サシャ「……むしろなんで欲しいのか私にはわかりかねます」

ライナー「まあ、食い物にしか興味がないサシャにはわからんだろうな」

サシャ「……最近は、食べ物だけじゃないですもん」ボソッ

ライナー「ほー……お前が食べ物以外に興味を持つなんてな。何か面白いもんでも見つけたのか?」

サシャ「……ライナーには教えません」プイ

ライナー「なんだ、この前からちょくちょく生意気だな。反抗期か?」

サシャ「なんと言われようがだめなものはだめです。――さあ、早くお菓子食べましょうよ。どれだけ待たせるんですか」ムー...


ライナー「そうだな。消灯まで時間もないことだし、さっさと開けるか」

サシャ「そうですよ、そうしてください。もう私お腹ぺこぺこですよ」グー...

ライナー「えーっと……まずは…………」ジーッ...

サシャ「……」

ライナー「…………」クルクルクルクル

サシャ「…………ああああああああああああああもうっ、じれったい!! すぐ近くに開けかた書いてるでしょう!? ここですよここ!!」ビシッ!

ライナー「こ、これか。……よし」グッ

サシャ「……」

ライナー「……」

サシャ「何してるんですか」

ライナー「いや……図を見ればどうすりゃいいのかはわかったんだが、下に書いてある文字が読めん」

サシャ「……『指を押し入れて引き上げます』」

ライナー「押す……?」メキメキッ


サシャ「ちょっ、それじゃ中身潰れちゃいますって! もっと丁寧に扱って下さいよ!」ガルルルルル

ライナー「くっ…………これ、開けるの難しいな」チッ

サシャ「ライナーが堅苦しく考えすぎなんですよ」

ライナー「……で、次は?」

サシャ「へ? ……あっ、私が指示する係なんですね」

ライナー「そうだ。早くしろ」

サシャ「なんで私が急かされなきゃダメなんですか、もう……えーっと、まずはその赤い部分を中に押し入れてください。中身は潰さないでくださいよ?」

ライナー「わかってる。……こんな感じか?」グイッ ――パコッ


ライナー「……おお」ジーン...

サシャ「やればできるじゃないですか! おめでとうございます!」パチパチ

ライナー「……つ、次は? 次はどうしたらいいんだ?」ソワソワ

サシャ「はいはい、ここにちゃんと書いてますよ。そのまま上に引き上げてくださいね」

ライナー「上……」ペリペリ

サシャ「もっと早く」

ライナー「急かすなって。――できた、ほら見ろ!! 開いたぞ!! どうだ!!」ヒャッホウ

サシャ「はーい、お疲れさまでした。えっと、箱の中身は……」ガサガサ

ライナー「よし、食うか!!」

サシャ「まだですよ。袋が二つ入ってますからこれも開けないと」

ライナー「」


ライナー「……また容れ物か」チッ

サシャ「残念でしたね。――ほら、これも開けかた書いてますよ。やります?」

ライナー「やる」

サシャ「はいはい。どうぞどうぞ」スッ

ライナー「……」ドキドキ

サシャ「……『切れ込みの両側を持って上下に引いてあけてください』」

ライナー「……中身が、飛び散ったりしないだろうか」

サシャ「わかりましたわかりました、飛び散ったら私が食べますから」

ライナー「……」スーハースーハー

サシャ「深呼吸もいいですけど力入れすぎないでくださいね」

ライナー「わ、わかってる」ギクシャク


ライナー「……この袋って布か? それとも紙か? 別の物質なのか?」

サシャ「知りませんよ早く開けてくださいよいつまでやってんですかもう!!」ペチペチ

ライナー「叩くな叩くな!! ……よっと」グイッ ――バリッ

サシャ「おっ……おおっ! やっとご対面ですね!! やったぁ、会いたかったです!! プリッツさんおはようございます! 朝ですよー!!」バンザーイ

ライナー「今は夜だけどな。――それにしても、厳しい戦いだった」キリッ

サシャ「主にライナーが一人で盛り上がってただけですけどね。中身、ハンカチの上にあけますよ」ザラザラ

ライナー「二枚目か。用意がいいな」

サシャ「お菓子にハンカチはつきものです。手を拭いたりお菓子をのせたり色々使えますから」

ライナー「こっちも結構量が多いな」

サシャ「じゃがりこと同じ本数くらいでしょうか……あちゃー、何本か折れちゃってますね、これ」

ライナー「……もったいないことしたな」ションボリ

サシャ「いえいえ。味は変わりませんから、気にしなくてもいいですよ」

取り敢えずここまで 明日たぶん後半投下です

このスレのせいでプリッツ買っちゃったじゃないか
美味しかったです

>>173さん じゃがりこと芋けんぴも買おうぜ!
というわけでプリッツ編・後半+芋けんぴ編ちょこっと投下します


ライナー「じゃがりこより塩っ気が多いなー」サクサク

サシャ「飲み物が欲しいですね。持ってくればよかったです」サクサク

ライナー「本数は……さっきと同じ三本残せばいいか」サクサク

サシャ「あんなにあったのに、もう少ししか残ってませんね。二人で食べたらすぐなくなっちゃいますねー」サクサク

ライナー「もう一袋開けるか?」

サシャ「何言ってるんですか私の非常食にするのでダメですよ!!」クワッ!!

ライナー「非常食って……もうちょい上等なもん食えよ。菓子ばかりだと太るぞ」

サシャ「ふっ、ふとっ!? ――言われてみれば、最近太ももにお肉が増えたかも……」モニュモニュ

ライナー「!? おいこらやめろ! こんなところで揉む奴があるか!!」ガシッ

サシャ「だってライナーが言ったんじゃないですか私の太ももむちむちしてきたってぇっ!!」ジタバタジタバタ

ライナー「言ってねえよ!! なんでそうなる!?」グイグイ


ライナー「……」ゼエハア

サシャ「……」ゼエハア

ライナー「残り三本になったし、もういいだろ。そろそろはじめるか?」

サシャ「……」ジーッ...

ライナー「……? サシャ、指に何かついてるのか? どうした?」

サシャ「……この指についた塩はどうしたら」

ライナー「拭けばいいだろ? ハンカチあるんだしよ」フキフキ

サシャ「……舐めたら、ダメでしょうか」

ライナー「別に止めないが」

サシャ「……うぐぐ」


サシャ(なっ、舐めたい……! 塩なんて滅多に食べられないのに、拭くなんてもったいなさすぎる……! 一人だったらペロペロするのに……!!)ギリッ...

サシャ「……ライナー、ちょっとあっち向いててください」

ライナー「舐めたいなら舐めりゃいいだろ」

サシャ「そっ、そんなことしませんよー?」ピーヒョロロ

ライナー「今更見栄なんか張らなくていいんだぞ? ――ほら、やりたいようにやれ」

サシャ「……後ろ、向いてくれません?」

ライナー「お前、俺が見てないうちにその三本も食っちまうだろうが。却下だ」

サシャ「なっ……!? そこまで読まれてるなんて……!」ガーン

ライナー「長い付き合いだからな、それくらいはわかるぞ」フフン

サシャ「くぅ……っ!」プルプルプルプル

ライナー「我慢できないんだろ? 舐めちまえって……――!?」


サシャ「うぐぐぐぐぐぐ」フキフキゴシゴシ

ライナー「……サシャ、お前」

サシャ(あああああ、お塩が……お塩がハンカチに……もったいないぃ……! でも、ライナーの前でペロペロ舐めるのは……!)フキフキゴシゴシ

ライナー「お前、まさか……慣れないもん食ったから腹でも壊したんじゃないだろうな!?」

サシャ「……」

ライナー「大丈夫か? 背中さすってやるか? それとも医務室に行くか?」オロオロ

サシャ「……そんなのいいです。いりません」クスン

ライナー「いいわけあるか! ――いや待てよ。今の時間、医務室は閉まってたよな……医者が必要なら町に行かないと」ブツブツ

サシャ「もうっ、別にお腹が痛いわけじゃないですよ! いいから始めましょう! ――はいじゃあさっきはライナーからだったので、今度は私が咥えますね!」パクッ

ライナー「……俺はお前を心配してだな」

サシャ「私としてはあるわけがない腹痛よりも、今発生してる空腹のほうが大問題です。――ほら、早く咥えてくださいよ」クイクイ

ライナー「……何か異常があったら、担いででも医者に連れて行くからな」

サシャ「どうして私が重病人になってるんですか……ほら、早く早くー」クイクイ

ライナー「舌で動かすなよ、咥えづらい」パクッ


ライナー「……」

サシャ「……」

ライナー「食わないのか?」

サシャ「ライナーこそ。黙って見てるだけじゃ進みませんよ」

ライナー「……」

サシャ「……」

ライナー「やっぱりどこか具合が悪いんじゃないか?」

サシャ「悪くないですってば」

ライナー「……」

サシャ「……」

ライナー「食えって」

サシャ「食べますよ。私のタイミングで」


ライナー(サシャの奴、なんで動かないんだ? ……やっぱり腹が悪いんだろうか)

サシャ(さっきの眉毛の件があったから、焦って突っ込んでくると思ったのに来ませんね)

ライナー(短期決戦で仕掛けようと思ってたのが、なんだか気が削がれちまったんだよな。……それに、本当に腹が減ってるんだとしたら、少しは多く食わせてやりたいんだが)

サシャ(ライナーにも食べてもらわないと、早く終わらないじゃないですか。いったい何してるんでしょう)

ライナー(俺の気も知らないで……)

サシャ(私の気も知らないで……)



ライナー「……」

サシャ「……」





ライナー「隙あり!」サクサクサクサクサクサクサクサク

サシャ「なんの!」サクサクサクサクサクサクサクサク




―― ポキポキッ ポトッ



ライナー「あっ」

サシャ「あーあ、折れちゃいましたね」ヒョイパク

ライナー「……今、床に落ちた欠片拾って食ったろ」

サシャ「はて? なんのことやらさっぱりです。――今のはどっちが先に折ったのかわかりにくかったですね。もう一回やりましょっか」パクッ

ライナー「次は俺も一気に行くぞ」

サシャ「ふぁーい、どうぞー」クイクイ

ライナー「――よし」パクッ





サシャ「先手必勝!」サクサクサクサクサクサクサクサク

ライナー「負けてたまるか!」サクサクサクサクサクサクサクサク




―― ポキポキッ ポトッ



サシャ「あれっ!?」ヒョイパク

ライナー「おい、また折れたぞ? しかも食べたよな?」

サシャ「食べてませんけど三秒ルールなので問題ありません」モグモグ

ライナー「食ってるだろうが」

サシャ「知りません。……プリッツって、じゃがりこみたいに固くないからすぐ折れちゃいますね」

ライナー「二人でがっついたからな……二回とも引き分けか」

サシャ「たぶん次も引き分けになりそうですよね」

ライナー「お前もうちょっと遠慮しろよ」

サシャ「ええー……私のせいですか? ライナーが我慢すればいいだけの話でしょう?」


ライナー「……で、続けるか?」

サシャ「このまま続けても、またバラバラになるのがオチですよね。だったらこうしましょう」ポキッ

ライナー「……? そこからどうするんだ?」

サシャ「どうもしません。半分こです。はいどうぞ」スッ

ライナー「……食っていいのか? ゲームはどうした?」

サシャ「だって、三本目もきっちりした決着つきそうにないんですもん。というかもう落ちたの拾って食べたくないですし」

ライナー「やっぱり食ったんじゃねえか」

サシャ「食べちゃいました」エヘヘ

ライナー「腹壊しても知らないぞ」

サシャ「私、お腹は結構丈夫なほうなので心配しなくても大丈夫ですよ。……ほらほら、さっさと食べちゃいましょうよ!」サクサク

ライナー「そうだな。……じゃあ、ありがたくもらうな」サクッ





ライナー「……ところで、俺のほうが短くないか?」

サシャ「そんなわけないじゃないですかきっちり半分こしましたから気のせいですよ気のせい」サクサクサクサク


サシャ「しょっぱいものが続いたので、今度は甘いものにしましょうか。というわけでお次は芋けんぴです!」ジャーン!!

ライナー「……普通の包装だな」ションボリ

サシャ「共通パッケージが思い浮かばなかったそうです」

ライナー「何の話だ」

サシャ「なんでもありません。というわけで開けますねー」ガサゴソガサゴソ

ライナー「……」

サシャ「……」





サシャ「……ちっちゃいですね」チンマリ

ライナー「ちっちゃいってか短けえな」チンマリ


ライナー「じゃがりこの太さとプリッツの長さを見た後だと、ちょっと物足りんな」ウーン...

サシャ「でも、食べ物は見かけによらないって言いますし」

ライナー「人と食べ物を一緒にするんじゃ――いや、お前はそういう奴だった」ハァ

サシャ「なんだかんだ言って、じゃがりこもプリッツもおいしかったんですから。この芋けんぴも絶対おいしいに決まってますよ!」

ライナー「こんなうまいもん送りつけてくるなんて、よっぽど太っ腹な奴なんだな」

サシャ「……太っ腹の人って、お腹に脂肪がたくさん入ってるんですよね」ジュルリ

ライナー「そうだな、お前は想像上の肉でも食ってろ。俺は菓子を食う」ヒョイ

サシャ「ああっ! だめですだめです、私も食べます!」パッ


サシャ「それじゃあ、芋けんぴさんいっただっきまーす!」パクッ

ライナー「はいはい。いただきます」パクッ

サシャ「……」

ライナー「……」

サシャ「……甘い」ガリッ

ライナー「ちょっと甘すぎないか? これ」ゴリッ

サシャ「しかも固いですね」ガリッゴリッ

ライナー「じゃがりこより固いな」ガリゴリ

サシャ「……」ガリゴリ

ライナー「……」ガリゴリ


ライナー「この前食べたのは……さつまいもスティックだったか」

サシャ「そうですよー。ちなみに期間限定品らしいので、今はいつもの長さに戻ってるそうです」

ライナー「あれと食感が違うのはどういうわけだ? 味もこっちのほうが濃いよな」

サシャ「うーん、そうですね……使ってる材料とか作り方が違うんじゃないですかね? さつまいもを焼くのと揚げるのと蒸すのじゃ、食感が全然違ってきますし」

ライナー「そういうもんか」

サシャ「そういうもんですよ。この前のさつまいもスティックは少し生の食感が残ってましたけど、このお菓子はそういうところが全然ないですね」

ライナー「原型もないし、なんか別の食い物みたいだよなぁ」

サシャ「そうですか? 私は口いっぱいに芋の風味が広がってるのを感じて幸せですが」ニンマリ

ライナー「俺は甘ったるくてそれどころじゃない」ガリゴリ

サシャ「こんなにたくさん砂糖がかかってたら、長く保存しても問題なさそうですね。なのでこっちに寄せた分は取っておきましょう」ゴソゴソ

ライナー「……ちゃっかりしやがって」

サシャ「何を言うんです。これは元々私のですよ」

今日はここまで 続きはたぶん明後日
もしかしたら突如降って湧いたトッポ編も追加するかも 予定は未定!

最近二人がキスしてくれない…

>>190さん まだ慌てるような時間じゃない! そのうち出るからじっくり待つんだ!
というわけで芋けんぴ編中盤投下です


サシャ「これだけ甘いなら、勉強中のおやつにしてもよさそうですね……むふふ」ニマニマ

ライナー「頬が緩みまくってるぞ。……お前は本当うまそうに食うよなぁ」

サシャ「だって、甘いもの食べると幸せな気持ちになりません?」ニンマリ

ライナー「幸せな気持ちって言われても、ここまで甘いのはちょっとな」

サシャ「いらないなら残りください!」チョーダイ!

ライナー「食うけどよ」ボリボリ

サシャ「むぅ……」

ライナー「人のを狙うほど気に入ったのか? このお菓子」

サシャ「ええ、そうです。この固さと甘さに私は心を奪われました。――この気持ち、まさしく愛です!」キリッ

ライナー「誰か乗り移ってるぞ。……俺はじゃがりこやプリッツのほうが好きだな。甘いもんはたまにでいい」

サシャ「こっちに寄せた分はあげませんよ!?」ガサガサ

ライナー「誰も取らん。――女は甘いもんが好きって言うけど、お前はその辺こだわりなさそうだよな。好き嫌いとかないのか?」

サシャ「ふぁんふぉふぁふぁふぃふぇふふぁ?」バリボリバリボリ

ライナー「……食い終わってから喋ろうな」

サシャ「ふぁーい」モグモグ


サシャ「えーっと……味にこだわりはないですけど、食べるタイミングは気にしますよ、私」

ライナー「ああ、わかるわかる。腹減った時な」

サシャ「真面目に聞いてくださいよ! ――そうじゃなくてですね、食べ物の味ってかなり重要だと思うんですよ」

サシャ「しょっぱいものを食べたらなんとなーく元気が出ますし、甘いものを食べたら幸せな気分になれますからね。何か食べる時は、そういう気分に合わせて選ぶことが多いです」

ライナー「ほー……気分か。考えたことなかったな」

サシャ「男の人が塩っ気のあるもの好きなのは、ご飯を食べた時に手っ取り早く元気を出したいからだと思うんですよね。だから、女の子だって元気になりたい時は甘いものじゃなくて肉を選ぶと思いますよ。つまり、決して私が食い意地張ってるわけじゃないんです」

ライナー「最後以外はその通りなんだろうな」

サシャ「張ってません」ブンブン

ライナー「じゃあそっちに隠した菓子寄こせ」

サシャ「何言ってるんですか嫌ですよ」ガサゴソガサゴソ


サシャ「なんだかんだで結構食べちゃいましたねー。まだありますけど、取り敢えずはごちそうさまでした!」

ライナー「結局、今までまともにゲームしてないな」

サシャ「ええー……じゃがりこはライナーが自分から試合放棄したんじゃないですか。というか、芋けんぴで勝たないとライナーの負けになっちゃいますよ?」

ライナー「……ところで、俺たちなんで勝負してるんだ?」

サシャ「……あれ? なんででしたっけ?」

ライナー「最初は確か、『普通に食うよりうまいらしいから味を比べたい』って言ってたよな」

サシャ「そういえばそうでしたね。なんで勝敗のかかったゲームになってるんでしょう」

ライナー「……」

サシャ「……」

ライナー「まあいいか。うまいもん食えたし」

サシャ「そうですね。結局お菓子はどうやって食べてもおいしいってことでいいですよね」


ライナー「ということは、最後はやらなくてもいいんじゃないか? サシャが残り三本食えばいいだけの話だろ? な?」スッ

サシャ「いやいや、ここまでやったんだから最後までやりましょうよ。もしかしたら、芋けんぴが二人で食べてるうちにしょっぱくなってくるかもしれませんよ?」

ライナー「いいっていいって、気にするなよ。お前が食べろ」ニッコリ

サシャ「……なんだか怪しいですね。何か企んでます?」ジーッ...

ライナー「企むだなんてそんな人聞きが悪い」ハッハッハ

サシャ「そうですか。じゃあ不都合ないですよね。――次の勝負、ライナーが負けるかお互い引き分けるかしたら、私の言うこと聞いてもらいます」

ライナー「んなっ……!」

サシャ「ちなみにライナーが勝っても一勝一敗なので延長戦突入ですね」


ライナー「待てよ、今更ルール追加するなんて卑怯だろ!?」

サシャ「そう思うなら帰ってもいいですよ。お疲れさまでした」

ライナー「……いや、俺は勝負からは逃げん!」ブンブン

サシャ「流石はライナー、男前ですね!」パチパチ

ライナー「見てろよ。ここから逆転してやるからな!」

サシャ「私だって、食べ物がかかった勝負ならそう簡単に負けませんよ!」

ライナー「そんなこと言っておいて、何度か俺に負けてるのはどこのどいつだったっけなぁ……?」ゴゴゴゴ...

サシャ「おやおや、ゲームを回避するために勝負から逃げようとしたのは、いったいどなたでしたっけねぇ……?」ゴゴゴゴ...

ライナー「ふははははははは」ゴゴゴゴ...

サシャ「うふふふふふふふ」ゴゴゴゴ...





ライナー(……あれ? なんか俺騙されてねえか?)

サシャ(ライナーって意外とちょろいんですね)


ライナー「……まあいい。とっとと始めるぞ」

サシャ「それじゃあ、まずは私が咥えますね」パクッ

サシャ(むふふ……ライナーったら迂闊ですね。先に私に咥えさせるなんて)

サシャ(さっき私が指摘した眉毛の件は、態度には出していなくてもまだ気になってるはずです)フーッ

サシャ(ねえライナー……? 自分から弱点を曝けだして相手に接近していくのは、緊張しますよねぇ……?)ドヤァ

サシャ(動揺したライナーが芋けんぴにがっついて、自ら折ってくれればそれでよし。仮に一口目が成功しても、短期決戦を狙っているライナーは食べ方にも荒さが出るはず……)ニヤニヤ

サシャ(つまり、私の勝利は目の前です。―― 一戦目はもらいましたよ!)クイクイ

ライナー(――とか色々考えて、百面相してるんだろうがな……サシャ、そりゃあ悪手だぞ)

ライナー(本当に勝ちたいんだったら、最初に俺に咥えさせるべきだったな。そして、最初の一口を焦らして俺の動揺を誘うほうがまだマシな手とも言える)

ライナー(……甘い、甘いぞサシャ。芋けんぴよりも甘すぎる)


ライナー「――行くぞ、サシャ」

サシャ「……いつでも」

ライナー「……」スッ

サシャ「!?」ビクッ

サシャ(おかしい……手で眉毛を隠さないで近づいてくるなんて、いったいどういうつもりなんでしょう……?)

ライナー「なんだ、びびってんのか? サシャ」

サシャ「ライナー……いったい何を企んでるんです? 何のつもりですか?」





ライナー「――こういうつもりだ」





―― ガリッ


サシャ「!?」パッ

ライナー「よーし、離したな。――俺の勝ちだ」バリボリバリボリ

サシャ「あああああっ!? うああああ……」ガクッ

ライナー「俺の自滅を期待したみたいだが、残念だったな」バリボリバリボリ

サシャ「うぐぐ……許しませんよ、ライナー! 一口で七割も持って行くなんて!」バンバン

ライナー「最初の一口で半分以上食っちゃいけねえなんてルールはなかっただろ?」

サシャ「私の取り分が減ったじゃないですかぁっ!」

ライナー「負けがこんでるからな、俺も必死なんだよ」

サシャ「……ぐぬぬ」

ライナー「お前こそ、食に対する執念が薄れてるんじゃないか? あっさり食い物を手放すなんてよ」

サシャ「……だ、だって」



サシャ(……いきなりライナーの顔が迫ってきたから、びっくりしたんですもん)ドキドキ

今日はここまで 芋けんぴ二戦目以降は明後日以降
なんかバトルもどきしてますけどこの二人はただ単にお菓子食べながらイチャイチャしてるだけです


ライナー「さあ、さっさと進めるぞ」パクッ

サシャ「……あの、ちょっと休憩しません?」

ライナー「ダメだ。――ほら、早くしろ」

サシャ「…………でも、今まで色んなものずーっとかじってましたから、顎が疲れてませんか? 少し口を休めたほうがいいですよ。ねっ?」ニッコリ

ライナー「こっちのペースを崩そうとしても無駄だぞ」

サシャ「むぅ……読まれてましたか」

サシャ(ライナーってば、勢いで押し切るつもりですね。――さて、ここからどうやって攻めましょうか)

サシャ(でも、そもそも私って頭使うの向いてないんですよね。私がライナーの優位に立てるものと言ったら、食欲ぐらいしか――)ウーン...

ライナー「あんまり待たせると食っちまうぞ」ガリッ

サシャ「!! だめだめだめだめです!! 何かじってるんですかルール違反ですよ!」ガバッ



  ―― ガチンッ!!



ライナー「うおっ!?」パッ!!


ライナー「あっぶねえ、お前今俺の口ごと食おうとしたろ!?」ドキドキ

サシャ「ふぉんふぁふぉふぉふぃふぁふぇふぁっふぇ」バリボリバリボリバリボリバリボリ

ライナー「そんなこともどんなこともあるか! ……ルール追加だ。一度に食べるの禁止な。あと食い終わってから喋れってさっきも言ったろ」

サシャ「ふぁーい」モグモグ

ライナー「一口かじっただけだってのに、飛びついてくるのはないだろ。……あーびっくりした」ドキドキ

サシャ「というか、禁止も何もライナーが先にやったんじゃないですか……でも、これで一勝一敗ですね。なんとかこっちの首の皮が繋がりました」フーッ

ライナー「安心するのはまだ早いぞ。ここにあと一本あるからな」

サシャ「泣いても笑ってもこれが最後、ですね」

ライナー「ルールの確認をするぞ。一口で一度に食べるのは禁止。先に口を離したり、芋けんぴを折ったりしたほうが負けだ。――先手は譲る」スッ

サシャ「おやおや? 随分余裕なんですね」

ライナー「負ける気がしないからな」

サシャ「私はライナーに何をさせようか、今から楽しみで楽しみでたまりませんよ。――さあ、勝負開始です!」パクッ

ライナー「よし、負けないからな!」パクッ


ライナー「……」

サシャ「……」

ライナー「食わないのか?」

サシャ「いや、かじってるんですけど……固くて」ググググ...

ライナー「ああ、やっぱりな。俺もそうだ」ググググ...

サシャ「歯が、歯が通りません……さっきは簡単だったのに、どうして……」ググググ...

ライナー「前歯だけじゃ厳しいな、これ……おっ、食えた」ガリッ...

サシャ「ええーっ……無理ですよ、どうやってやるんですか?」

ライナー「端さえ砕ければ後は結構楽だぞ。意外と脆い」ガリッ

サシャ「まあ、砂糖菓子は固くて脆いのが特徴ですしね。……あっ、できました」ガリッ...


ライナー「……」ガリッ...

サシャ「……」ゴリッ...

ライナー「……進まないな」

サシャ「そうですね。もどかしいです」

サシャ(この調子だと、いつまでかかるんでしょうか。消灯時間前には終わらせて、寮に戻らないと…………ん? 終わる??)

サシャ「……あの」

ライナー「なんだ」

サシャ「これ、このまま食べ進めると……キス、することになりますよね」

ライナー「ああ……そういやそうだったな」

サシャ「そうなったら、どっちが勝ちになるんですか?」


ライナー「そりゃあ……先に離したほうなんじゃないか?」

サシャ「……どっちも離さなかったら?」

ライナー「さあな。ユミルにその辺りは聞いて…………るわけないな」

サシャ「すみません、聞いてきませんでした。――今聞いてきます?」

ライナー「このままの状態で?」

サシャ「……」

ライナー「……」

ライナー(……食うの止まったな)

ライナー「おい。このままじゃ終わんねえぞ」ガリッ

サシャ「わっ、わかってますよ、急かさないでくださいっ」プイッ

ライナー「こら、咥えたまま横向くなよ。――勝負もいいけどな、ちゃんと味も比べてるのか? 元々それが目的なんだろ?」

サシャ「……芋けんぴって、どんな味でしたっけ」

ライナー「はぁ? ……おいおい、本末転倒じゃねえか。そもそもついさっきまで食ってたろうが」

サシャ「それはそうなんですけど……なんだか食べてるうちに訳がわかんなくなっちゃいまして」エヘヘ


ライナー「なら、この勝負が終わったら寄せてあるのを一本食えばいいんじゃないか? それで比べられるだろ」

サシャ「えっ? ……それはちょっと嫌です」

ライナー「嫌って……お前なぁ、何のために俺が付き合ってやってると思ってんだ?」

サシャ「そりゃあもちろん、ユミルの言ってたことが本当なのか知りたい気持ちはあるんですけど……その」モジモジ

ライナー「なんだ、はっきり言えはっきり」

サシャ「だって、お菓子食べたら――キスの味、上書きされちゃうじゃないですか」

ライナー「上書き? ……いいだろ別に。それくらい」

サシャ「よくないですよ! ――いいですか? キスの味とお菓子の味が一緒になったら、絶対もっとおいしいに決まってるんです!」クワッ!!

ライナー「目の前で叫ぶなよ。ちゃんと聞こえてるから少し落ち着け」

サシャ「まだ確かめてませんけど、ユミルが言ってたことはきっと正しいんです。だっておいしいものとおいしいものを一緒に食べればもっとおいしいのは当たり前なんです。間違いありません!」グッ


ライナー「……それで、上書きするのは嫌だ、と」

サシャ「そうです!」

ライナー「……馬鹿正直なのも考えものだな」

サシャ「へっ? えーっと……馬鹿ですみません」シュン

ライナー「……」

サシャ(ライナーってば、黙りこんじゃいましたね。……やっぱり、私の話はわかりにくかったんでしょうか)

サシャ(……人に何かを伝えるのって、難しいですね)

ライナー「なあ」

サシャ「なっ、なんでしょう?」ビクッ

ライナー「よくよく考えたら、いつもお前ばっかり味わってずるいよな」

サシャ「え? ……ああ、そういえば、そういうことになるんでしょうかね」





ライナー「というわけで、だ。――今日は俺がもらう。逃げるなよ?」ガリッ

サシャ「!?」ビクッ


サシャ「……」

サシャ(――く、くち……くちが、くっついちゃいました)ドキドキ

サシャ(ここから何を、どうしたらいいんでしょう……? 離れたら私の負けになっちゃいますし……)

ライナー(……うーん、普通にキスしちまったな。どうするか)

ライナー(サシャから離れてくれないと、俺が勝ったことにならないんだよな)

ライナー(……どうせだから楽しむか)グイッ

サシャ「!?」

サシャ(なんで……なんで、ポッキーゲームしてたのに、ほっぺた触られてるんでしょう)

サシャ(こんなの味どころじゃないですよ一体何を考えてるんですかライナーは全く第一手が大きすぎるしなんだか温かいし気が散るっていうか)

ライナー(髪の毛伸びたなー)サラッ

サシャ「」


サシャ「……」ペチペチ

ライナー「……」

サシャ「……」ペチペチペチペチペチペチペチペチ

ライナー「……いてて、わかったわかった」パッ

サシャ「……」ササッ

ライナー「腕叩くなよ。地味に痛ぇぞ」サスサス

サシャ「――なっ、なっ、なに、なにを……っ!」プルプルプルプル...

ライナー「今日は特別甘かったな。――ごちそうさん。うまかったぞ」

サシャ「かっ、顔……っ!」

ライナー「顔? 何かついてるか?」ゴシゴシ

サシャ「違いますよ! 顔、っていうか……み、耳を」

ライナー「耳?」


サシャ「私の……私の耳! ……触った! 触った!!」

ライナー「片言になってるぞ」

サシャ「……触りましたね」

ライナー「髪が邪魔だったんでな。耳にかけただけだ」

サシャ「だからって…………耳のふち、なぞられたらくすぐったいんですけど」

ライナー「お前、耳弱いもんなぁ」

サシャ「……反則ですよ」

ライナー「ルールになかっただろ?」

サシャ「……ありませんでしたけど」

ライナー「反則だけど、お前が放せって言ったんだから俺の勝ちだな。――延長戦、やるか?」

サシャ「……次で最後ですからね」

ライナー「はいはい、わかったわかった」


サシャ(……さっきから私ばっかり振り回されてる気がして不公平です)ムスッ...

サシャ(選ぶのは私なんですから、ライナーに嫌がらせしてやりましょう。どうせだから甘そうなものを……あっ、これなんかいいかもしれませんね)ガサゴソ

サシャ「最後はこれです! トッポ! チョコレート菓子ですよ!」ジャーン!!

ライナー「おお……っ! 面白そうな箱だな!」キラキラキラキラ

サシャ(あっ、逆効果)

サシャ「……」

ライナー「……」ソワソワ

サシャ「……開けます?」スッ

ライナー「やるやる」ワクワク


ライナー「この箱は……開け方書いてないんだな。どうやって開けるんだ?」クルクル

サシャ「切り込みが色んなところに入ってますから、適当に爪でも引っかければいいんじゃないですか」

ライナー「なるほど」カリカリカリカリ

サシャ「……手が大きいと、細かい作業難しそうですよね。技巧の時間とか大変じゃありません?」

ライナー「そうでもないぞ。こういうコツコツした作業は嫌いじゃないからな」カリカリカリカリ

サシャ「その割には開かないようですが」

ライナー「昨日爪切ったばかりなんだ」カリカリカリカリ

サシャ「爪? ……あ、そろそろ私も切らないと」

ライナー「サシャ。爪貸してくれ」

サシャ「何を言ってるんですか。第一、切る道具なんてありませんよ」

ライナー「手ごとでいいぞ」ガシッ

サシャ「え、や、ちょっと!?」


サシャ「や、やぁっ、何してるんですかぁっ!」ジタバタジタバタ

ライナー「こら、動くなよ。使いづらいだろ」ガシッ

サシャ「そんなこと言われても……って、押さえつけるのやめてくださいよ! 腕、腕が抜けちゃいます!」ジタバタジタバタ

ライナー「暴れるともっと痛いぞー」クニクニ

サシャ「ひゃっ!?」ビクッ!!

ライナー「ここでもないか……こっちはどうだ?」カリカリ

サシャ「やっ……、もっ、もういいですよ私が開けます! 開けますからぁっ!」バシバシ

ライナー「うーん、どうやって開けるんだ……?」カリカリ

サシャ「人の話無視しないでください!! やだやだ、放してくださいってば!!」ジタバタジタバタ


―― 五分後

ライナー「おっ……おおっ! 開いた! 開いたぞ!!」ペリペリ

ライナー「なるほど……こういう時は爪より指の腹を使ったほうがいいんだな。勉強になった」

ライナー「この隙間からトッポが出てくるわけじゃないよな。ということはさっきの応用で……よし、開いた」パコッ

ライナー「袋は……二つか。開け方もプリッツに似てるんだな。なんだ、悩んで損したなー」ハッハッハ

ライナー「おいサシャ、やっと食えるぞ。嬉しいからって背中丸めて泣かなくても…………ん? 泣いて??」





サシャ「…………」グスッ

ライナー「」


サシャ「……正座」

ライナー「はい」

サシャ「………………私は、道具じゃないです」

ライナー「すまん」

サシャ「私は! 道具じゃないんです!!」

ライナー「すみません」

サシャ「わ、私……やだって、やだって言ってるのに、むりっ、むりやりっ、押さえつけて、何回も何回も……」(※爪の話です)

ライナー「ごめんなさい」

サシャ「人を羽交い締めにしておいてぇっ……ライナーは私の身体(※爪)だけが目当てだったんですね……」グスッ

ライナー「!? 違う違う! そういうわけじゃない!」ブンブン

サシャ「……あれだけ私の身体(※爪)を弄んでおいて、よくもそんなこと言えますね」ジトッ...

ライナー「すみません」


サシャ「……ふんだ」プイッ

ライナー「ほらサシャ、トッポやるから元気出せ。なっ?」フリフリ

サシャ「……食べ物で懐柔しようとしてません?」ジトッ...

ライナー「……はい、してます」

サシャ「…………ふーんだ」ツーン

ライナー「せっかく開けたのにいらないのか?」フリフリ

サシャ「……食べたいに決まってるじゃないですか」グスッ

ライナー「膝抱えて下向いてちゃ食えねえぞ?」

サシャ「……誰のせいだと思ってるんですか」グスグス

ライナー「すみませんでした」ヘコヘコ


サシャ「…………決めました。ライナーは今から私の道具です。いいですね」

ライナー「道具? ……まあ、それで気が済むのなら構わんが」

サシャ「それはもう馬車馬のようにこき使ってやります。覚悟してください」

ライナー「食料庫から肉盗んでこいとか、そういうのはなしだからな」

サシャ「流石にそんなことはさせませんよ。……というわけで、足崩して胡座かいてください。ほら早く」

ライナー「胡座な、わかった」スッ

サシャ「えーっと、それで……トッポの袋開けてください」

ライナー「おう。……よし、開けたぞ」バリッ

サシャ「袋を利き手じゃないほうの手で持ってください」

ライナー「持った」スッ

サシャ「準備できましたね。――よいしょっと」ポスッ

ライナー「」


ライナー「は? ……は!?」

サシャ「耳元でうるさいですよ」ムスッ...

ライナー「いや、でもお前…………これは」

サシャ「ライナーは私の椅子です。椅子は文句言っちゃダメなんです。言うこと聞いてください」

ライナー「……はい」

サシャ「ほら、椅子なんですからご主人様に甲斐甲斐しく尽くしてくださいよ。――トッポくださいトッポ」パカッ

ライナー「ああ、それで先に袋を開けさせたのか……ほらよ」スッ

サシャ「ふむふむ、はじめてにしては物わかりがいいじゃないですか」ガジガジ


サシャ「どうです? 私を膝の上に座らせた感想は!! 道具扱いされるっていうのは悔しいでしょう? 悔しいでしょう!?」ドヤッ

ライナー「いや、これだと…………おしおきっていうよりはご褒美なんじゃ」ボソッ

サシャ「えっ、これご褒美になるんですか? じゃあ考え直さないと――」

ライナー「あーきついおしおきだなー! 困ったなー!」

サシャ「そうでしょうそうでしょう! やせ我慢はよくないですよ、せいぜい私の悔しかった気持ちを味わってください」フフン

サシャ「……あ、ほらほらトッポなくなっちゃいましたよ。次ください次」パカッ

ライナー「わかった、やるやる。――ほら、食え食え」ヒョイ

サシャ「ふんふんふーん♪」サクサク

ライナー(……まるで餌付けしてるみたいだな。もしくは子どもに菓子やってる気分だ)ウーン...

ライナー「……お前、もうちょっと懐く相手選んだ方がいいぞ」

サシャ「……? 椅子のくせに口答えですか? 生意気ですね」

ライナー「なんでもございません」ヘコヘコ


サシャ「だいたい、ライナーは人のこと蔑ろにしすぎなんですよ。箱だの袋だのそういうものばっかり構って、挙げ句の果てに私を道具扱いして」ブツブツ

ライナー「……最後のは本当に悪かった。すまん」

サシャ「私は、ライナーを遊ばせるためにお菓子持ってきたんじゃないんです。一緒に食べるの、すっごく楽しみにしてたんです。それなのに、お菓子を食べるのは二の次で」ブツブツ

サシャ「おいしいものが目の前にあるのに、ずーっとお預けされる人の気持ちわかります? これを機に、ちゃんと反省してくださいよ?」

ライナー「……ん? お預けされたのが嫌で怒ってるのか?」

サシャ「……? そうですよ。当たり前じゃないですか」



ライナー「だってよ、今の言い方だと……ほっとかれたのが嫌で、拗ねてるように聞こえるんだが」

サシャ「…………」


サシャ「……」

ライナー「……」

サシャ「ば、ばかですかライナーは。ちょっと自意識過剰なんじゃないですかっ」

ライナー「だよな。……お前の耳が赤いのも、俺の思い過ごしだよな」

サシャ「…………知りません」プイッ

ライナー「今度どっかにメシ食いに行こうな、サシャ」ナデナデ

サシャ「だったら…………とびっきり、甘いのがいいです」





おしまい

というわけで芋けんぴ編後半+トッポ編終了 そしてもう追加はしません これにて番外編はおしまい!
書きながらお話考えたので、辻褄合ってないところとか誤字脱字とかは見なかったことにしといてください
っていうか息抜きで始めたはずなのにいつもと同じ量書いてるっていうね

取り敢えず本編の妄想自体は絶好調なので、お姫様抱っこや本編はもう少し待っててください
流れ自体はできてるのできっと月曜日前後には投下できる……はず たぶん

あと台詞だけじゃたぶんわかりにくいと思うので補足しておくと
>>214は「頬に手を当てて顔を引き寄せた後、人差し指で髪を耳にかけてやる」という行為をしました
というわけで>>1は書きためとポケパルレに戻ります 乙ありがとうございました&番外編までお付き合い頂きありがとうございました

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